(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ブロードライン眼底イメージングにおいて散乱光を低減するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
A61B3/14
(21)【出願番号】P 2021001534
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2017540162の分割
【原出願日】2016-02-03
【審査請求日】2021-01-20
(32)【優先日】2015-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303382
【氏名又は名称】カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】バブリッツ、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー、ローター
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー、アンドレア
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-522488(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0051847(US,A1)
【文献】国際公開第2014/140256(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0092376(US,A1)
【文献】特開平07-051230(JP,A)
【文献】特表2012-505729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0097573(US,A1)
【文献】特表2016-518889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0009473(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0081127(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の眼を撮像するための眼底イメージング装置であって、
前記眼の瞳孔を通過させて網膜を照射する光源と、
前記眼に入射する光の前記瞳孔における複数の照射領域と、
前記眼から出る光を戻すための前記瞳孔における単一の収集領域であって、前記複数の照射領域の幾つかによる戻り光は、前記単一の収集領域を通過して収集される、前記単一の収集領域と、
前記眼から戻る光を収集し、その光に応じて複数の信号を生成する検出器と、
前記複数の信号から前記網膜の画像を生成するプロセッサと、
前記複数の照射領域の各々を通過させて前記網膜を選択的に照射する手段であって、前記網膜上の幾つかの位置
に複数の瞳孔領域
からの光が同時に
照射され、前記網膜上の他の複数の位置
に前記複数の瞳孔領域
からの光が順番に
照射される、前記選択的に照射する手段と、を備え、
前記プロセッサは、異なる照射路に関連付けられた複数の信号の部分を選択的に合成して、アーチファクトが低減された単一の合成画像を生成する、眼底イメージング装置。
【請求項2】
前記選択的に照射する手段は、一度に前記複数の照射領域の1つを選択的に遮断するための切替可能な素子である、請求項1に記載の眼底イメージング装置。
【請求項3】
前記切替可能な素子は、
回転シャッタホイールである、請求項2に記載の眼底イメージング装置。
【請求項4】
前記切替可能な素子は、
ブレードである、請求項2に記載の眼底イメージング装置。
【請求項5】
前記切替可能な素子は、
LCDフィルタまたはDLPフィルタである、請求項
2に記載の眼底イメージング装置。
【請求項6】
前記眼に入射する光は、前記網膜全体にわたって走査される、請求項1に記載の眼底イメージング装置。
【請求項7】
前記眼に入射する光は、光線の手前にある可動スリットを用いて走査される、請求項
6に記載の眼底イメージング装置。
【請求項8】
前記眼に入射する光は、光線の横方向の動きを利用して走査される、請求項
6に記載の眼底イメージング装置。
【請求項9】
デスキャン方式である請求項
6に記載の眼底イメージング装置。
【請求項10】
前記選択的に照射する手段は、個別の選択的に動作可能な素子を備えた照射源である、請求項1に記載の眼底イメージング装置。
【請求項11】
ブロードライン眼底イメージング装置である請求項1に記載の眼底イメージング装置。
【請求項12】
照射路および検出光路を有する眼底イメージングシステムにおいて照射を制御する方法であって、
少なくとも3つのオーバラップしない光透過ゾーンを用いて、眼の瞳孔に共役な平面において、前記照射路と前記検出光路とを分離することであって、前記少なくとも3つのオーバラップしない光透過ゾーンのうちの第1のゾーンおよび第2のゾーンは光を前記眼の内部に伝達させるように前記眼の瞳孔における複数の照射領域を画定し、第3のゾーンは、前記眼の瞳孔における単一の収集領域を画定し、前記第1のゾーンおよび前記第2のゾーンによる前記眼から出る戻り光は、前記単一の収集領域を通過して収集される、前記照射路と前記検出光路とを分離すること、
網膜上の幾つかの位置について、前記第3のゾーンを通過させて光を収集している間に、前記第1のゾーンのみを通過させて、次に前記第2のゾーンのみを通過させて前記光を走査して前記網膜上の同じ位置の異なる2つの画像に対応する複数の信号を取得することであって、第1の画像は、前記第1のゾーンを介した照射に関連付けられ、第2の画像は、前記第2のゾーンを介した照射に関連付けられる、前記
複数の信号を取得すること、
前記網膜上の他の複数の位置について、前記第3のゾーンを通過させて光を収集する間に、前記第1のゾーン及び第2のゾーンを通過させて同時に前記光を走査して前記網膜の異なる位置の第3の画像を取得すること、
前記第1の画像、前記第2の画像および前記第3の画像に対応する複数の信号を選択的に合成することによって眼底の単一の合成画像を作成して、前記単一の合成画像におけるアーチファクトを低減すること、を備える方法。
【請求項13】
前記第1のゾーンまたは前記第2のゾーンのいずれかを
通過させて照射することをさらに備え、
前記第3のゾーンを
通過させて光を収集する時間は、前記照射に基づいて調整される、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
被検者の眼を撮像する方法であって、
前記眼の網膜における複数の位置にわたって照射光を走査することであって、前記照射光は、複数の照射領域を通過し、前記網膜上の幾つかの第1の位置
に瞳孔における複数の領域
からの光が同時に
照射され、前記網膜上の幾つかの第2の位置
に前記瞳孔の複数の個別領域
からの光が順番に
照射される、前記照射光を走査すること、
前記瞳孔における単一の収集領域を通過して前記眼から戻ってくる光を検出し、その光に応じて前記複数の照射領域によって
照明される前記眼の第1の網膜位置および第2の網膜位置について複数の信号を生成することであって、前記網膜上の複数の第2の位置について、前記複数の信号は前記眼の同じ位置の複数の画像に対応し、各画像は異なる照射領域に関連付けられる、前記複数の信号を生成すること、
前記複数の信号を組み合わせて前記眼の単一合成画像を生成することであって、異なる照射領域に関連する前記複数の信号の部分が選択的に合成されて、前記画像内のアーチファクトを低減する、前記眼の単一合成画像を生成すること、を備える方法。
【請求項15】
前記複数の第2の位置に関連付けられて検出された前記複数の信号の低減された強度を補償することをさらに備える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記照射光は、前記眼の網膜上のスリット状領域をカバーする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記眼に入射する光は、スキャナを用いて走査される、請求項6に記載の眼底イメージング装置。
【請求項18】
前記複数の瞳孔領域は、前記網膜の複数の中央位置で連続的に
照明され、前記網膜の他の複数の位置で同時に
照明される、請求項1に記載の眼底イメージング装置。
【請求項19】
前記網膜の複数の中央位置を撮像する場合、光は、前記第1のゾーンおよび前記第2のゾーンを通過して順番に走査され、前記網膜の他の複数の位置を撮像する場合、前記光は、前記第1のゾーンと前記第2のゾーンとを通過して同時に走査される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の第2の位置が前記網膜の複数の中央位置にあり、前記複数の第1の位置が網膜の他の複数の位置にある、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で提示する実施形態は、眼底撮像時の望ましくない反射の低減または除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(フラッド照射式および走査式の両方の)多くの眼底イメージング装置の基本構成は、照射光を被検者の眼の網膜(眼底)で散乱させ、その戻り光を収集して検出するという、1つの同じ概念に依拠している。従って、照射光および検出光の両方は、必ずしも共通の光路を通るわけではないが、眼の光学要素を通って進まなければならない。
【0003】
眼底イメージング装置の各種光学部品、ならびに角膜および水晶体の表面のような眼の光学要素からの、拡散反射および正反射が、望ましくない光の一因となる可能性がある。そのような散乱光は、眼底における低次の特徴を検出するのに必要なコントラストを低下させる可能性がある。例えば、入射光の約1%のみが画像に寄与するように網膜組織で散乱されて、そのうちの約1%のみが瞳孔から出射して集光可能な角度のものである。このような弱い信号は、装置の光学系からの後方散乱信号(~10-2)、さらには角膜からの望ましくない反射からの(~2×10-2)後方散乱信号によって容易に抑え込まれる。(走査レンズおよび対物レンズのような)光学系の構成部品が適切な反射防止コーティングを有する場合であっても、アーチファクトとしても知られる望ましくない反射への様々な寄与は、望ましい信号のものを容易に抑え込む。このため、これらの望ましくないアーチファクトを除去することに、眼用装置におけるかなりの設計努力が費やされている。いくつかの周知の実際的な方法は、瞳分割、反射防止点、および共焦点アパーチャである。
【0004】
ブロードライン眼底イメージング(Broad-line fundus imaging)(例えば、参照により本明細書に組み込まれる特許文献1を参照)は、反射アーチファクトによる影響を受ける走査式眼底イメージング技術の一種である。アーチファクトの影響を低減するために、瞳分割、および照射ゾーンと検出ゾーンとの間のデッドゾーン(ここで、「デッドゾーン」とは、照射または結像のいずれにも使用されないゾーンを指す)をこれらのシステムに適用して、ある程度の成果を挙げている。
図1は、ブロードライン眼底イメージング装置への2通りの可能な設計アプローチを示している。それぞれの設計は、照射と集光のための別々の光路を有する。光は、照射アパーチャを通り抜けてから網膜に向かって進む。網膜から戻る光は、集光路に沿って進んで、検出器に向かって集光アパーチャを通り抜ける。参照のために、走査レンズ(SL:scan lens)101および対物レンズ(OL:objective lens)102を示している。
図1aでは、集光アパーチャ103は固定されており、
図1bでは、集光アパーチャ104はガルバノスキャナの孔であるため、そのサイズはスキャナの位置に応じて変化する。集光アパーチャと検出器上の感応領域は協働して、検出される光の起点があるべき領域を収集光線間に規定している。なお、これらの図面では、照射光線と収集光線との間の距離は拡大されているということに留意すべきである。典型的には、瞳孔の大きさは数ミリメートルのオーダであるので、照射光線と収集光線の間隔はレンズにおいて約1ミリメートル離れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で記載する実施形態は、撮像時に瞳分割面において選択的照射パターンを実現可能とする特殊な照射制御を用いた、眼底イメージングのためのシステムおよび方法に関するものである。本出願の基本的実施形態による眼底イメージング装置は、レンズと、レンズを通して光を照射するための光源と、光源からレンズを通して眼に至る複数の照射路と、眼における位置を走査するように照射路を走査するための光学系と、眼からレンズを通した検出光路と、眼から検出光路を通って戻る光を収集し、その光に応じて信号を生成するための検出器と、それらの検出信号から画像を生成するためのプロセッサと、を備える。イメージング装置は、光学系で照射路を走査するときに光が照射路の一部分を通して眼に伝送される選択的照射を伴う。これは、光路を遮断することによって、または瞳面における個々の領域を照射することが可能な照射源を使用することによって、実現することができる。最も一般的なシステムでは単レンズが参照されるが、本概念は、光を透過させるが光の一部は反射するような任意の1つまたは複数の光学部品に適用される。例として、レンズ、プリズム、および回折光学素子が挙げられるが、これらに限定されない。このようなイメージング装置を使用することにより、反射、ヘイズ、散乱のような視認できるアーチファクトを低減した高解像度カラー眼底画像を記録することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1a】
図1は、照射光線と収集光線の重なりを避ける先行技術によるブロードライン眼底イメージング(BLFI)システムの光学模式図を示している。
図1aは、固定された集光アパーチャを有するシステムを示している。
【
図1b】
図1は、照射光線と収集光線の重なりを避ける先行技術によるブロードライン眼底イメージング(BLFI)システムの光学模式図を示している。
図1bは、ガルバノスキャナの孔によって実現される動的な集光アパーチャを有するシステムを示している。
【
図2a】
図2は、可能なBLFI眼底イメージング装置の光学系構成の先行技術の概略図を示している。
図2aは、デスキャンシステムの基本部品を示している。
【
図2b】
図2は、可能なBLFI眼底イメージング装置の光学系構成の先行技術の概略図を示している。
図2bは、ノンデスキャンまたは結像検出構成の基本部品を示している。
【
図3a】
図3は、走査式眼底イメージング装置のための瞳分割の一構成を示している。
図3aは、システムの瞳面付近に配置される矩形-O-矩形構造を示している。
【
図3b】
図3は、走査式眼底イメージング装置のための瞳分割の一構成を示している。
図3bは、結像構成に応じて被検者の瞳面に結像されるD-O-D形領域を示している。
【
図4a】
図4aは、レンズ面が反転像を生じさせる場合について、対物レンズ面から照射光が反射した結果としてのアーチファクトを示す、検出面内の眼底像の中央部分における4つのストライプのシミュレーションを示している。
【
図4b】
図4bは、1つのレンズ面が正立反射アーチファクトを発生させ、他のレンズ面が反転アーチファクトを形成する場合について、眼底像の同じ中央の4つのストライプのシミュレーションを示している。
【
図4c】
図4cは、
図3aに示す瞳分割構成の一方のアパーチャを用いて収集されたBLFI像の中央の2つのストライプのシミュレーションを示している。
【
図4d】
図4dは、
図3aからの他方の照射アパーチャを用いて、
図4cと同じ2つのストライプのシミュレーションを示している。
【
図5】5a)~5g)は、本出願の一態様による選択的照射シーケンスを示す一連の画像である。
【
図6】
図6は、立体眼底システムの可能な瞳分割構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図2は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2014/140256号に記載されているようなデスキャン(
図2a)および結像(
図2b)によるブロードラインまたはスリット走査眼底イメージング装置の基本部品を示している。両方の構成において、光源からの光は、照射アパーチャ(illumination aperture)(スリット)を通り抜けて、眼に向かって進みつつ一連のレンズを透過して進む。略語SLは走査レンズを指し、OLは眼用または対物レンズを指している。眼における複数の横方向位置にわたって光を走査するために、照射路内にスキャナが配置される。目から戻る光は、照射路の一部に沿って戻るように検出器に向かって進む。これらのシステムは両方とも、照射路と検出光路を明確に分離することを可能とする瞳分割ミラーを収容している。当業者であれば理解できるように、照射アパーチャおよび集光アパーチャを実現する様々な方法がある。
【0009】
図2aに示すようなデスキャン検出では、照射光と、眼底によって反射または後方散乱された光と、その両方をスキャナ(または場合によっては複数のスキャナ)で偏光させる。この構成では、照射スリットと検出器とは互いに固定的に位置合わせされて、眼底は、ストライプまたはストリップ形状(stripe or strip shaped)の像部分で、カメラの画素にわたって効果的に「走査(scanned)」される。次に、それらのストライプを合成して、所望の視野にわたるフル画像を生成する。
【0010】
図2bに示すようなノンデスキャン(non-descanned)また結像検出システムでは、網膜の全体画像がカメラ上にストライプで構築され、このとき、網膜の各位置はカメラ上の位置に一意にマッピングされており、逆も同様である。この種の構成では、照射光のみが走査され、眼から戻る光は、スキャナの前にある瞳分割ミラーで分割される。可動スリットまたはアパーチャを、カメラの前に配置して、スキャナと同期させて動かす。別のアプローチでは、スリットは、静的なものとすることが可能であり、スリットとカメラを一緒に動かして同じ効果を実現することができる。あるいは、カメラの何らかの電子アパーチャまたはシャッタを採用することができる。
【0011】
上述のスリット走査眼底イメージング装置のようなレーザ走査眼底イメージングシステムで使用される大部分の光学面からの反射は、照射光と検出光線または収集光線の光とを選択的に分離することによって、最小限に抑えることができる。これは、BLFIのようなラインおよびスリット走査眼底イメージング装置では、走査ラインの短次元である1つの次元における照射光および収集光のエタンデュ(etendue)を最小にし、そして、照射路を集光路から分離するために瞳のいくつかの部分を選択的に分けること(すなわち瞳分割)によって最適に実現される。望ましくない反射を排除することで、得られる最終画像は、より高い鮮鋭度、およびより高いコントラストを有するようになって、これにより、散乱光/望ましくない光によって不明瞭となる低コントラストの特徴をより容易に検出可能となる。
【0012】
この瞳分割法は、大部分の光学面に対して一次には機能するが、眼用/対物レンズからの望ましくない反射に対処するためには、照射光線と収集光線との間のより明確な分離が要求される。角膜レンズ反射抑制に特に有効な、このような照射と集光との間のより明確な分離を提供するための選択肢は、照射光または検出光のいずれによっても使用されることなく実際に照射路と検出光路のそれぞれにおける特別なアパーチャで遮断され得るデッドゾーンによって分離された、照射領域と検出領域を用いることである。つまり、瞳分割法は、瞳分割面に共役な反射面に対しては良好に機能する。一方、瞳分割面付近であらゆる反射を抑制するためには、デッドゾーンが必要となる。軸方向に、瞳分割面の周りに無反射ゾーンが形成される。これらのゾーンの大きさは、デッドゾーン幅に比例する。
【0013】
そのような瞳分割構成の一例は、
図3aに示すような矩形-O-矩形分割構造(rectangle-O-rectangle splitting structure)であり、この構造は、
図2に示す2通りのBLFI設計において、対物レンズ(OL)からの望ましくない反射に対処するとともに/または瞳分割面付近で反射を抑制するために、瞳分割ミラーとして機能し得る。瞳面における位置または瞳面付近の位置は、分離領域またはデッドゾーン302によって互いに分離された2つの矩形照射領域301および304を介して照射される。この構成では、システムにおいて2つの照射路および1つの検出光路が規定される。反射光は、この反射光が検出器に至る途中の光路において照射光から分離されるように、この場合はわずかに楕円形の領域であって完全に分離領域内にある領域303を通り抜ける。当該技術分野では他の分割構成が知られている。走査ミラーの形状および大きさは、システムにおいて、瞳面またはその付近に結像して特定のいくつかの走査位置に到達し得るアパーチャとして機能することができ、このとき、八角形走査ミラーと矩形アパーチャによる合成アパーチャは、そのパターンを瞳面で見たときに台形または他の多角形構造に類似して見える。また、走査ミラーと矩形アパーチャが互いに結像しない場合には、その両方を、瞳に共役な平面に厳密に配置することはできない。この場合、その両方を、その平面付近で異なる位置に配置し、さらに光軸に対して傾斜させることで、台形または多角形アパーチャが瞳面において明瞭とならないようにする。これが、
図3bに示すように、瞳面で見たときに台形または多角形アパーチャがD形領域と認識されることにつながり得る。
図3aと同様に、照射路301および304と検出光路303とは、デッドゾーン302によって分離されている。検出面における反射の形状は、瞳面の強度分布の画像である。
【0014】
散乱光分析によって、2通りの異なる種類の対物レンズ反射があることが明らかになっている。1つの種類は、対物レンズの後ろの網膜の中間像が対物レンズ面(特に、その前面、すなわち被検者の眼に近いほうの面)の曲率の中心に位置する場合に発生するものである。この反射は光軸上にあって、システム内で後方に反射されて、軸上に輝点を発生させる。このとき、光軸より上方の照射点は、光軸より下方に反射され、これにより、その反射全体は、光軸の周りの極めてわずかな領域でのみ視認できる。
【0015】
もう1種類の反射は、網膜の中間像が対物レンズの後面上、すなわち装置の内側に向いたレンズ面上に位置する場合に生じるものであり、これは、被検者の網膜で形成される実像により近い傾向がある。この反射は、逆反射であるが、光軸より上方の点は、その軸より上方に反射される。このため、反射は、光軸の周りのより広い領域で視認できる。このような反射を、デッドゾーンの助けによって効果的に抑制することは、暗いデッドゾーンが眼底画像に明瞭に現れるため不可能である。
【0016】
本明細書で提案する実施形態の基本的な考え方は、撮像時に用いる照射パターンを選択的に調整することである。これは、以下でさらに詳細に説明するように、いくつかの方法で実現することができる。
【0017】
図4は、
図3aに示す瞳分割アパーチャを採用したBLFIシステムで取得された、検出面における像の中央部分を含む4つの画像ストライプのシミュレーションを示している。一般的には、これらのストライプはオーバラップし得るが、ここでは明確にするために、オーバラップしないものとして示している。ストライプの幅は任意である。
図4aでは、対物レンズによる光反射402および403を、2つの画像ストライプ404および405において視認できる。上側ストライプおよび下側ストライプ401は、散乱光が全くない。レンズ面が反転像を生じさせる場合には、アパーチャ301を通り抜ける照射が、アーチファクト402の発生に関与しており、アパーチャ304を通り抜ける照射が、アーチファクト403の発生に関与している。
【0018】
ここで、この場合はストライプである画像のどの部分を収集中であるのかに応じて、2つの照射路の一方のみを通して選択的に照射することによって、これらのアーチファクトに対処するアプローチについて説明する。
図4aに示す例では、照射アパーチャに対して反転して反射が現れる場合に、ストライプ404の収集時に、光が照射アパーチャ304のみを通過するようにシステムを制御して、その結果、アーチファクトのない画像ストライプを得る。同様に、ストライプ405の収集のためには、アパーチャ301のみを照射する。反射が現れる中央の2つを除く他のすべてのストライプの場合は、両方の照射アパーチャを照射することができる。
【0019】
一般に、レンズ面がより多いほど、照射の反射をより多く発生させ、それらの反射は、レンズ面の位置および曲率に応じて、一部は正立した(upright)ものであり、一部は反転したものである。
図4bは、1つのレンズ面が照射路を反射することで、網膜画像に正立アーチファクト406および407が形成される一方で、位置および曲率が異なる他のレンズ面が照射路を反射することで、反転アーチファクト408および409が形成される状況を示している。レンズは、一般に、照射路の公称対称軸からわずかに傾斜しているので、反射は、一般に、図示のように水平方向にオフセットしている。
図4bに示す状況では、304からの照射が、アーチファクト407および408に関与しており、これらのアーチファクトは別々の画像ストライプ内に発生する。反転反射は、結果的に同じストライプ内に現れる可能性もある。同様に、301からの照射が、アーチファクト406および409に関与している。301を通過する照射に起因するアーチファクト(406および409)が、304を通過する照射に起因するアーチファクト(407および408)と交わりを持たないように、それらのレンズは傾斜していることが好ましい。
【0020】
それぞれの照射路で、全網膜画像上のいくつかの位置に反射が生じるような状況では、最初に301を通して照射することで、
図4cに示すように画像ストライプ410および411を取得し、次に光路304を通して照射することで、
図4dに示すように画像ストライプ412および413を取得することができる。それぞれの画像には、反射による欠陥が生じた領域が存在するが、これらの領域は交わりを持たないため、それらの欠陥部分を除外して、これら2つの画像の残り部分をプロセッサで合成することで、アーチファクトのない完全な画像を生成することができる。この同じ包括的アプローチを、全体画像の同じストライプまたは異なるストライプに反射が現れる場合に用いることができる。
【0021】
照射光と検出光の両方を走査して、同じ検出領域に集光させた像を、プロセッサで合成して完全な画像を得る場合のデスキャンイメージングシステム(例えば、
図2a)と、照射光のみを走査して、検出器上の様々な領域を用いてリアルタイムで完全な画像を構築する場合のノンデスキャンまたは結像システム(例えば、
図2b)と、その両方において、選択的照射シーケンスを用いることができる。この考え方は、任意の数の照射路に一般化することができる。
【0022】
選択的照射の結果として、1つのみの照射路を用いて撮像されたストライプは、より暗く見える。これには、中央領域の画像ストライプを2回カウントすることにより、後処理で容易に対処することができる。あるいは、眼底画像全体に対して同じ画像輝度を得るために、反射による影響を受けるストライプの取得時に輝度または積分時間を調整することができる。ストライプ404および405の大部分に対して全照射を実現する別の方法は、各々の照射路に交代で沿って、ストライプ404および405を順次照射することであり、各々の照射路で画像が取得されて、1つの画像はレンズ反射の影響を受けたものである。次に、アーチファクトのない部分が全照射輝度を有するように、それら2つの画像を合成し、1つの画像がアーチファクトを有する領域では、輝度合わせのために、アーチファクトのない画像からの画素の輝度を高める。
【0023】
いくつかの実施形態において、選択的照射は、瞳分割素子に可能な限り近接させて照射光路に配置された何らかの切替可能な光学素子を用いて実現することができ、この光学素子を時間制御することで、照射中の眼底の領域に応じて照射路の1つを遮断することができる。
図5は、時間制御によるシーケンス5a)~5g)の選択的照射遮断の場合の一連の画像を示している。状態5a)で、最も中央のものを除いて、光軸より上方の画像内のすべてのストライプを取得するべきであり、この場合、両方の弓形照射領域502および503は、開いている(
図5のアイテム501は、遮断素子を指している)。光軸の直上のストライプについての積分は、状態5b)で開始すべきであり、状態5c)で終了すべきである。光軸の直下のストライプについては、開始時は状態5e)であるべきであり、終了時は状態5f)であるべきである。画像の残り部分は、両方の弓形領域が再び開いている状態5g)で取得されるべきである。このアプローチは、5c)と5e)の間で、画像の中央において、積分が取得されてはならない何らかのデッドタイムが発生することを意味するものである。
【0024】
この特定の実施形態では、ブレード501の直線移動を示しているが、同等の効果を有する回転素子の実施形態も可能である。好ましい実施形態では、遮断は、検出装置に同期して連続回転するシャッタホイール(shutter wheel)を用いて、瞳の所望の部分を順次遮断することにより実施することができる。回転ホイール(rotating wheel)は、照射路のいくつかの部分をシャッタで繰り返し遮断するので、ライブ映像/イメージングの場合に使用することができる。加えて、さらに別の実施形態では、LCDフィルタまたはデジタルライトプロセッシング(digital light processing : DLP)素子によって、照射のいくつかの部分を、電子制御で選択的に遮断することができる。この場合、切替えは、2つの切替可能なLCD素子または高速シャッタの実装によって実現することができる。このアプローチの利点は、モータおよび関連した歯車装置を使用しないことである。さらに、瞳分割光学系と切替可能なシャッタの両方を、1つのLCDフィルタユニットに組み込むことができ、LCDフィルタの個々の区画の不透明度をゼロから1まで完全制御することができる。
【0025】
別の実施形態では、個別の選択的に操作可能な素子を備えた照射源を構築することによって、選択的照射を実現することができ、それらの素子は、
図5において、1つは領域502を照射し、1つは領域503を照射するものである。この構成によって、所望の領域を照射する素子のみに選択的に通電することで、機械的ではなく電子的に照射源を選択することが可能となる。
【0026】
より一般的には、眼用イメージング装置におけるいくつかのレンズは、例えば
図4の402および403に類似しているが
図4のストライプ404または405の外側に位置する反射が、画像の中央から離れた領域に現れるように、照射を検出光路へと反射するために傾斜した面を有することがある。画像における問題の領域の少なくとも1つのサブ画像を取得する際に、反射を発生させる照射部分を遮断することによって、そのような反射を除去するために、選択的照射を用いることができる。ホイール上の第2のシャッタ、または照射源の電子的選択によって、部分照射の必要なタイミングを与えることができる。
【0027】
ヒトの眼は、その角膜および前面から、いくらかの光を反射および散乱させる。通常、これらの反射がイメージセンサに到達することは回避されるが、眼の位置ずれが原因で、反射による欠陥が網膜画像に生じる場合には、照射光502および503からの反射によって、網膜画像の様々な位置に欠陥が生じる。欠陥が生じた領域が、それぞれの照射で別々に取得された画像上に位置し得る限りは、欠陥がない画像からの、それらの領域のデータを使用して、アーチファクトのない完全な画像を構築することができる。
【0028】
また、ヒトの眼からのヘイズ(Haze)、散乱、および蛍光も、選択的照射によって回避することができる。例えば、眼の水晶体は、網膜の蛍光イメージングに有用な青色の照明の下で蛍光を発する。スリット走査イメージングでは、水晶体蛍光は、通常、網膜の照射ストリップの上方および下方かつ焦点外に現れる。例えば、上側網膜を撮像しているときに、蛍光を発する網膜の像に照射502が重なることがあり、下側網膜の撮像に照射503が干渉することがある。選択的照射による装置は、水晶体蛍光との干渉がない網膜の像を収集するために、上側網膜を走査するときには、照射503のみを用いることができ、下側網膜を走査するときには、照射502のみを用いることができる。個々の照射源からの散乱によって、交わりのない網膜画像の領域に欠陥が発生するのであれば、ヘイズおよび散乱は同様に回避される。
【0029】
記載の方法を、瞳分割面における照射ゾーンと検出ゾーンとの間のデッドゾーンの適切な寸法設定と組み合わせることによって、結果的に、本明細書で上記したような望ましくない反射、散乱、およびヘイズのないシステムが得られる。照射によって欠陥が発生するであろう網膜の領域を走査するときに、欠陥を発生させる照射が遮断またはターンオフされる実施形態では、完全にアナログのシステムであっても、例えば、画像に、ヒトの肉眼で視認できる反射はないように、構築することが可能となる。
【0030】
立体顕微鏡のような特殊な眼底イメージング装置に対しては、
図6に提示するような反射抑制マスクを容易に実現可能となる。同図で、照射ゾーンを601として、検出ゾーンを602として示している。このパターンの、
図3のものとの違いは、第2の検出ゾーンの存在である。このように示すゾーンの間の領域は、光を通過させないデッドゾーン603である。
【0031】
本発明により、無散瞳で、暗順応していない場合、すなわち約2mm以上の瞳孔径の場合の眼について、少なくとも45度で眼底を撮像するための眼底イメージング装置が実現される。本発明の教示を導入した様々な応用および実施形態について、本明細書で詳細に提示および記載しているが、当業者であれば、これらの教示をやはり取り入れた他の様々な実施形態を容易に考案することができる。