(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ガスセンサのセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220419BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20220419BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20220419BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/41 325J
G01N27/419 327J
(21)【出願番号】P 2021511291
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009601
(87)【国際公開番号】W WO2020203029
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019066549
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆志
(72)【発明者】
【氏名】幸島 康英
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-169324(JP,A)
【文献】特開2012-189579(JP,A)
【文献】特開2020-34443(JP,A)
【文献】特開2020-20738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサのセンサ素子であって、
測定対象ガス成分の検知部を備えたセラミックス構造体である素子基体と、
前記素子基体のうち、前記検知部が備わる側の端部から所定範囲の外周部に設けられた多孔質層である先端保護層と、
を備え、
前記先端保護層が、
前記素子基体の2つの主面上に設けられてなる第1先端保護層と、
前記端部と、前記第1先端保護層が形成されてなる前記2つの主面を含む前記素子基体の4つの側面とを覆うように設けられてなる第2先端保護層と、
前記第2先端保護層を覆うように設けられてなり、前記第2先端保護層よりも気孔率が小さい第3先端保護層と、
からなり、
前記第1先端保護層が40%以上の気孔率を有してなり、
前記素子基体の長手方向における、前記素子基体の端面を起点とした前記第1先端保護層、前記第2先端保護層、および前記第3先端保護層の延在長さをそれぞれL1、L2、およびL3とするとき、
L1≧L2かつL1≧L3
である、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
L1≧L2≧L3
である、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【請求項3】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
L1≧L3≧L2
である、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記第2先端保護層の気孔率が40%~80%である、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記第1先端保護層の気孔率が40%~60%である、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のセンサ素子であって、
前記第3先端保護層が、前記センサ素子の素子基体のうち、あらかじめ特定された、駆動時に500℃以上となる範囲を少なくとも囲繞する、
ことを特徴とする、ガスセンサのセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサのセンサ素子に関し、特にその表面保護層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関からの排ガスなどの被測定ガス中に含まれる所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子を有するものが、広く知られている。係るセンサ素子として、長尺板状の素子形状を有し、かつ、被測定ガスを導入する部分が備わる側の端部に、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられるものが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
センサ素子の表面に保護層を設けるのは、ガスセンサの使用時におけるセンサ素子の耐被水性を確保するためである。具体的には、センサ素子の表面に付着した水滴からの熱(冷熱)に起因する熱衝撃がセンサ素子に作用して、センサ素子が割れてしまう、被水割れを防止するためである。
【0004】
しかしながら、耐熱衝撃性を向上させる目的でそのような保護層を設けた場合、センサ素子全体として熱容量が増大するとともに、センサ素子に対する拘束力が増加する。これらは、センサ素子の急速昇温性の悪化につながる。また、ガスセンサの使用環境によっては、当該環境において生じる振動が原因で、保護膜がセンサ素子から脱離する可能性があるため、保護層の密着性の担保も必要となる。
【0005】
さらには、ガスセンサの使用時に保護層に付着して凝縮した水が、使用後もそのまま保護層内に留まっていた場合、再度の使用開始時にセンサ素子が昇温されることに伴い水が蒸発し、これによって保護層内に体積膨張が生じることが原因で、保護層にはがれが生じてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、昇温時の水蒸気の蒸発に起因した保護層のはがれが好適に抑制された、ガスセンサのセンサ素子を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、ガスセンサのセンサ素子であって、測定対象ガス成分の検知部を備えたセラミックス構造体である素子基体と、前記素子基体のうち、前記検知部が備わる側の端部から所定範囲の外周部に設けられた多孔質層である先端保護層と、を備え、前記先端保護層が、前記素子基体の2つの主面上に設けられてなる第1先端保護層と、前記端部と、前記第1先端保護層が形成されてなる前記2つの主面を含む前記素子基体の4つの側面とを覆うように設けられてなる第2先端保護層と、前記第2先端保護層を覆うように設けられてなり、前記第2先端保護層よりも気孔率が小さい第3先端保護層と、からなり、前記第1先端保護層が40%以上の気孔率を有してなり、前記素子基体の長手方向における、前記素子基体の端面を起点とした前記第1先端保護層、前記第2先端保護層、および前記第3先端保護層の延在長さをそれぞれL1、L2、およびL3とするとき、L1≧L2かつL1≧L3である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、L1≧L2≧L3である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係るセンサ素子であって、L1≧L3≧L2である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記第2先端保護層の気孔率が40%~80%である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記第1先端保護層の気孔率が40%~60%である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の態様は、第1ないし第5の態様のいずれかに係るセンサ素子であって、前記第3先端保護層が、前記センサ素子の素子基体のうち、あらかじめ特定された、駆動時に500℃以上となる範囲を少なくとも囲繞する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第1ないし第6の態様によれば、先端保護層の内部に入り込んでしまった水が昇温に伴い蒸発することによって生じる先端保護層の蒸発時はがれが好適に抑制された、ガスセンサのセンサ素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】センサ素子10の概略的な外観斜視図である。
【
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【
図3】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【
図4】変形例に係るセンサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【
図5】変形例に係るセンサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、
図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知しその濃度を測定するガスセンサ100の、主たる構成要素であるセラミックス構造体である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。
【0017】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0018】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、多孔質の先端保護層2にて被覆された構成を有する。先端保護層2は、第1先端保護層21、第2先端保護層22、第3先端保護層23の3層で構成される。先端保護層2の詳細については後述する。
【0019】
素子基体1は概略、
図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170を備え、さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層2が設けられてなる。なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。
【0020】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、
図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0021】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層2を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係るガス流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0022】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0023】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には、測定対象ガス成分の直接の検知部である測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0024】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0025】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0026】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0027】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0028】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0029】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0030】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0031】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の
図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0032】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0033】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。センサ素子10を駆動する際のヒータ150の設定加熱温度を素子駆動温度とも称する。
【0034】
以降においては、セラミックス体101の2つの主面のうち、
図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面と称し、
図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面と称することがある。換言すれば、ポンプ面は、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面はガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0035】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0036】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面およびヒータ面に、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面およびヒータ面)や、ポンプ面側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0037】
なお、本実施の形態において、気孔率は、評価対象物のSEM(走査電子顕微鏡)像に対し公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで求めるものとする。
【0038】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面およびヒータ面の略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、
図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0039】
<先端保護層の詳細>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1から所定範囲の最外周部に、先端保護層2が設けられてなる。
【0040】
先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温(最高で700℃~800℃程度)となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を確保し、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることを、抑制するためである。
【0041】
加えて、先端保護層2は、センサ素子10の内部にMgなどの被毒物質が入り込むことを防ぐ、耐被毒性の確保のためにも、設けられてなる。
【0042】
一方で、先端保護層2を設けることは、センサ素子10の熱容量を増大させ、かつ、素子基体1に対する拘束力を高めることとなるため、一般論としては、急速昇温性という点からは必ずしも得策ではないことがある。本実施の形態では、係る急速昇温性の確保という点も踏まえ、先端保護層2の構成が定められてなる。
【0043】
具体的には、
図2に示すように、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、先端保護層2が、第1先端保護層21、第2先端保護層22、第3先端保護層23の3層で構成される。
【0044】
第1先端保護層21は、その上に形成される第2先端保護層22(さらには第3先端保護層23)と素子基体1の間における接着性(密着性)を確保するべく設けられる下地層である。第1先端保護層21は少なくとも、素子基体1のポンプ面側およびヒータ面側の2つの主面上に設けられてなる。すなわち、第1先端保護層21は、ポンプ面側の第1先端保護層21aとヒータ面側の第1先端保護層21bとを備える。
【0045】
ただし、第1先端保護層21は、セラミックス体101の(素子基体1の)先端面101eと側面には設けられない。これは、密着性を確保しつつも、素子基体1に対する拘束力を小さく、急速昇温性を損なわないようにするためである。
【0046】
第1先端保護層21は、アルミナにて、40%以上の気孔率を有しかつ20μm~60μmの厚みに形成されてなる。なお、第1先端保護層21は、後述するように、第2先端保護層22および第3先端保護層23とは異なり、素子基体1の作製の過程で素子基体1ともども形成される。好ましくは、第1先端保護層21の気孔率は40%以上60%以下とされる。
【0047】
第2先端保護層22と第3先端保護層23は、素子基体1の一先端部E1側の先端面101eと4つの側面とを覆うように(素子基体1の一先端部E1側の外周に)、内側から順に設けられてなる。第2先端保護層22のうち、先端面101e側の部分を特に先端部221と称し、ポンプ面側とヒータ面側の部分を特に主面部222と称する。同様に、第3先端保護層23のうち、先端面101e側の部分を特に先端部231と称し、ポンプ面側とヒータ面側の部分を特に主面部232と称する。
【0048】
第2先端保護層22は、アルミナにて、20%以上の気孔率を有しかつ200μm~800μmの厚みを有するように、設けられてなる。好ましくは、第2先端保護層22は40%~80%の気孔率を有する。また、第3先端保護層23は、アルミナにて、100μm~400μmの厚みを有し、かつ気孔率が10%~35%なる値であって第2先端保護層22の気孔率よりも小さい値となるように、設けられてなる。これにより、先端保護層2においては、3つの層のなかで最も熱伝導率の小さい第2先端保護層22が、最外側に設けられた、該第2先端保護層22よりも気孔率の小さい第3先端保護層23に、被覆された構成となっている。
【0049】
換言すれば、第2先端保護層22は低熱伝導率の層として設けられることで外部から素子基体1への熱伝導を抑制する機能(断熱効果)を有しており、第3先端保護層23は全体の強度を維持する機能と、内部への水の浸入を抑制する機能とを有してなる。係る構成を有することで、先端保護層2においては、高温状態にあるセンサ素子10の使用時、表面(第3先端保護層23の表面)に水が付着したとしても、内部への浸入は抑制され、付着に伴う急冷に起因した冷熱が、素子基体1へと伝わりにくくなっている。すなわち、先端保護層2は優れた耐熱衝撃性を有してなる。結果として、センサ素子10は、被水割れが起こりにくく、耐被水性に優れたものとなっている。
【0050】
加えて、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、第2先端保護層22と第3先端保護層23とを上述した厚みおよび気孔率の範囲をみたすように設けることで、駆動時の昇温性能(急速昇温性能)についても確保される。すなわち、本実施の形態に係るセンサ素子10は、耐熱衝撃性(耐被水性)の具備と昇温性能の確保という、相異なる2つの特徴が、両立したものとなっている。なお、本実施の形態においてセンサ素子10の昇温性能とは、ガスセンサ100の使用を開始するべくセンサ素子10の内部に備わるヒータ150によって先端保護層2を含むセンサ素子10全体の加熱を開始してから、センサ素子10が所定の温度に到達するまでの時間(例えばヒータ150が素子駆動温度に到達するまでの時間)によって評価が可能である。
【0051】
ただし、第2先端保護層22と第3先端保護層23の厚みを過度に大きくしすぎると、昇温時にヒータ150に加わる熱的負荷が大きくなり、その結果として、センサ素子10が割れてしまうおそれが生じるため、好ましくない。係る観点からは、第2先端保護層22の厚みは700μm以下とし、第3先端保護層23の厚みは300μm以下とするのが好ましい。
【0052】
また、第2先端保護層22と第3先端保護層23は、表面に第1先端保護層21が形成された素子基体1に対し、それぞれの構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)することで形成される。これは、素子基体1の作製とともにあらかじめ形成されてなる第1先端保護層21と第2先端保護層22の間にアンカー効果を発現させ、第1先端保護層21に対する(外側に形成される第3先端保護層23も含めた)第2先端保護層22の接着性(密着性)を、確保するためである。これは、換言すれば、第1先端保護層21が第2先端保護層22との間における接着性(密着性)を確保する機能を有しているということを意味する。係る態様にて接着性(密着性)が確保されてなることで、水滴の付着による熱衝撃に起因した、素子基体1からの先端保護層2の剥離が好適に抑制されてなる。
【0053】
以上に加えて、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、使用時に先端保護層2に付着して凝縮し、その内部に入り込んでしまった水が、再度の使用開始時にセンサ素子10が昇温されることに伴い蒸発することによって生じる、先端保護層2内部の圧力上昇を原因とした先端保護層2のはがれ(以下、蒸発時はがれ)が、好適に抑制されるようになっている。
【0054】
上述したように、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、第3先端保護層23がセンサ素子10の内部への水の浸入を抑制する機能を有してなるが、第3先端保護層23が多孔質層である以上、先端保護層2の内部に対する水の浸入を完全に遮断することは困難であり、多少の侵入は生じ得る。上述の蒸発時はがれは、このように先端保護層2の内部に侵入した水に起因して生じる現象である。
【0055】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、先端保護層2を構成する第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23の素子長手方向における配置範囲を好適に定めることで、係る蒸発時はがれが好適に抑制されるようになっている。
【0056】
具体的にはまず、
図2に示すように、第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23の、先端面101e(素子基体1の端面)を起点とした素子長手方向における延在長さをそれぞれ、第1層長さL1、第2層長さL2、第3層長さL3としたときに、
L1≧L2かつL1≧L3 ・・・・(1)
なる条件式を満たすように、第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23が設けられる。
【0057】
式(1)は、先端保護層2が少なくとも、第1先端保護層21のうちセンサ素子10の長手方向において一方端部E1側とは反対側の端面21eを露出させる態様にて、形成されることを意味する。
【0058】
さらには、第3先端保護層23については、素子基体1のうち、センサ素子10の駆動時に(ヒータ150が素子駆動温度にて加熱をしているときに)500℃以上となる範囲を少なくとも囲繞するように、設けられる。当該範囲は通常、センサ素子10の設計時にあらかじめ定められてなる。また当該範囲には少なくとも、素子長手方向においてセラミックス体101の先端面101eから第三の内部空室104の最奥部の位置までが含まれる。
【0059】
第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23がこれらの配置範囲をみたすことで、センサ素子10においては、先端保護層2のうち気孔率の高い部分が外部と直接に連通した構成が実現されてなる。これにより、たとえ加熱によって該先端保護層2の内部で水蒸気が発生したとしても、係る水蒸気は先端保護層2の内部に滞留することなく、比較的容易に、主に高気孔率の箇所から外部へと排出されることとなる。それゆえ、先端保護層2の内部においては、水蒸気圧力の上昇さらにはこれに起因した蒸発時はがれが、生じにくくなっている。
【0060】
なお、第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23は、
L1≧L2≧L3 ・・・・(2)
なる条件式を満たすように、設けられてもよい。
図2には、係る式(2)を充足する場合(より詳細にはL1>L2>L3の場合)が、例示されている。この場合、第1先端保護層21の端面21eに加えて第2先端保護層22の端面22eも露出することとなり、蒸発時はがれがさらに生じにくくなる。
【0061】
あるいは、第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23は、
L1≧L3≧L2 ・・・・(3)
なる条件式を満たすように、設けられてもよい。この場合、第1先端保護層21の端面21eは露出するものの、第2先端保護層22の端面22eは露出しないため、後者からの水の浸入が抑制され、かつ、蒸発時はがれが生じにくくなる。
【0062】
以上、説明したように、本実施の形態に係るセンサ素子10においては、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温となる部分を囲繞する先端保護層2を、第1先端保護層21と第2先端保護層22と第3先端保護層23の3層構造とし、かつ、それぞれを所定の気孔率および厚みにて設けるようにすることによって、第1先端保護層21と第2先端保護層22との接着性(密着性)を確保する機能を有し、第2先端保護層22が外部から素子基体1への熱伝導を抑制する機能を有し、第3先端保護層23が全体の強度を維持する機能と内部への水の浸入を抑制する機能とを有するようにする。これにより、センサ素子10においては、先端保護層の密着性を確保しつつ、耐熱衝撃性と昇温性能の確保との両立が実現される。
【0063】
加えて、先端保護層2の各層の素子長手方向における配置範囲を好適に定めることで、センサ素子10の内部に入り込んでしまった水が、センサ素子10の昇温に伴い蒸発することによって生じる先端保護層2の蒸発時はがれが、好適に抑制されるようになっている。
【0064】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。
図3は、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0065】
素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0066】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0067】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料(消失材)の塗布あるいは配置も併せてなされる。加えて、積層後に最上層および最下層となるブランクシートに対しては、第1先端保護層21(21a、21b)を形成するためのパターンの印刷もなされる(ステップS2a)。
【0068】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。例えば、第1先端保護層21の形成に際しては、最終的に得られるセンサ素子10において所望の気孔率および厚みの第1先端保護層21を形成可能なアルミナペーストが用いられる。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0069】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0070】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。なお、係る態様にて得られた積層体に対し第1先端保護層21を形成するためのパターンの形成がなされる態様であってもよい。
【0071】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体に切り出す(ステップS5)。
【0072】
続いて、得られた単位体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより、両主面に第1先端保護層21を備えた素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170とが、第1先端保護層21ともども一体焼成されることによって、生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0073】
以上の態様にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、第2先端保護層22と第3先端保護層23の形成が行われる。第2先端保護層22の形成は、あらかじめ用意した第2先端保護層形成用の粉末(アルミナ粉末)を素子基体1における第2先端保護層22の形成対象位置に対し狙いの形成厚みに応じて溶射(ステップS7)した後、係る態様にて塗布膜が形成された素子基体1を焼成する(ステップS8)ことによって行われる。第2先端保護層形成用のアルミナ粉末には、所定の粒度分布を有するアルミナ粉末と造孔材とが所望する気孔率に応じた割合にて含まれており、溶射後に素子基体1を焼成することによって係る造孔材を熱分解させることで、40%~80%という高い気孔率の第2先端保護層22が好適に形成されるようになっている。なお、溶射および焼成には公知の技術を適用可能である。
【0074】
第2先端保護層22が形成されると、続いて、同じくあらかじめ用意した、所定の粒度分布を有するアルミナ粉末が含まれる第3先端保護層形成用の粉末(アルミナ粉末)を、素子基体1における第3先端保護層23の形成対象位置に対し狙いの形成厚みに応じて溶射する(ステップS9)ことにより、所望の気孔率の第3先端保護層23を形成する。第3先端保護層形成用のアルミナ粉末には造孔材は含まれない。係る溶射についても、公知の技術を適用可能である。
【0075】
以上の手順によりセンサ素子10が得られる。得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0076】
<変形例>
上述したように、第1先端保護層21、第2先端保護層22、および第3先端保護層23は、式(1)あるいはさらに式(2)または式(3)を満たすように、設けられればよい。
図4および
図5は、これを踏まえた、変形例に係るセンサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
【0077】
具体的には、
図4においては、式(2)を充足する一態様であるL1=L2=L3なる関係が成り立つ場合の、センサ素子10を示している。係る構成のセンサ素子10においても、第1先端保護層21の端面21eと第2先端保護層22の端面22eは外部に対して露出しているので、仮に先端保護層2の内部に水が存在したまま、センサ素子10が昇温される場合であっても、蒸発時はがれの発生は好適に抑制される。
【0078】
また、
図5においては、式(2)および式(3)を充足する一態様であるL1>L2=L3なる関係が成り立つ場合の、センサ素子10を示している。係る構成のセンサ素子10においても、第1先端保護層21の端面21eは外部に対して露出しているので、仮に先端保護層2の内部に水が存在したまま、センサ素子10が昇温される場合であっても、蒸発時はがれの発生は好適に抑制される。
【0079】
また、上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、センサ素子が3室構造であることは必須ではない。すなわち、センサ素子が、内部空室を2つあるいは1つ備える態様であってもよい。
【0080】
また、上述の実施の形態においては、ステップS7における第2先端保護層形成用の粉末の溶射後、ステップS8における焼成を行ったうえで、ステップS9における第3先端保護層形成用の粉末の溶射を行っているが、ステップS8の焼成と、ステップS9の溶射の順序は、入れ替わってもよい。
【0081】
また、上述の実施の形態においては、第2先端保護層22および第3先端保護層23をアルミナにて設けることとし、両層を形成する際の溶射材として、アルミナ粉末を用いているが、これは必須の態様ではない。アルミナに代えて、ジルコニア(ZrO2)、スピネル(MgAl2O4)、ムライト(Al6O13Si2)などの金属酸化物を用いて、第2先端保護層22および第3先端保護層23を設ける態様であってもよい。係る場合は、それらの金属酸化物の粉末を溶射材として採用すればよい。
【実施例】
【0082】
第1先端保護層(以下、第1層)21、第2先端保護層(以下、第2層)22、および第3先端保護層(以下、第3層)23の形成条件を違えた8通りのセンサ素子10(試料No.1~8)を作製した。具体的には、いずれのセンサ素子10においても、第1層21、第2層22、および第3層23は全てアルミナにて構成しつつ、第1層21および第2層22の気孔率と、第1層長さL1、第2層長さL2、および第3層長さL3の組み合わせをそれぞれに違えた。なお、第3層23の気孔率は、25%とし、第1層21、第2層22、および第3層23の厚みはそれぞれ40μm、500μm、200μmとした。
【0083】
それぞれのセンサ素子10における第1層21および第2層22の気孔率と、第1層長さL1、第2層長さL2、および第3層長さL3とを、後掲する表1に一覧にして示す。係る場合において、No.1~No.4およびNo.6~No.8の試料は式(1)を充足している。また、No.1~No.4およびNo.6の試料は式(1)に加えて式(2)についても充足している。一方、No.7の試料は式(1)に加えて式(3)についても充足している。また、No.8の試料は
図4に示した構成を有している。
【0084】
また、いずれのセンサ素子10においても、第1層長さL1、第2層長さL2、および第3層長さL3の最小値は11mmとなっているが、その駆動時に500℃以上となる範囲が先端保護層2によって囲繞されているという点では共通している。
【0085】
作製したNo.1~No.8のセンサ素子10を対象に、昇温性能の評価を行った。昇温性能は、室温の状態にあるセンサ素子10の駆動を開始してから、該センサ素子10の温度が素子駆動温度として想定される850℃に到達するまでの時間(昇温時間)の長短にて評価した。なお、センサ素子10の温度は、素子内部の抵抗値から算出した。
【0086】
昇温時間が30秒以下であれば、昇温性能に問題はないと判断できるところ、いずれのセンサ素子10においても、昇温時間は30秒以下となった。すなわち、いずれのセンサ素子10も、必要な昇温性能を有していた。
【0087】
また、試料No.1~No.8のセンサ素子10を対象に、先端保護層2の密着性の評価を行った。密着性は、先端保護層2を固定した状態で素子基体1のみを長手方向に引っ張り、素子基体1を変位させるのに要する力の大きさにより評価した。
【0088】
素子基体1を変位させるのに要する力の大きさが100N以上であれば、密着性に問題はないと判定できるところ、いずれのセンサ素子10においても、係る力は100N以上であった。すなわち、いずれのセンサ素子10も、先端保護層2について必要な密着性を有していた。
【0089】
さらに、試料No.1~No.8のセンサ素子10を対象に、先端保護層2の蒸発時はがれの評価を行った。蒸発時はがれの評価は、水に十分な時間浸漬した常温のセンサ素子10を、水中から取り出したうえでヒータ150により加熱することで水を蒸発させた後、係る加熱後のセンサ素子10の断面をSEMにて観察することにより行った。なお、係る場合におけるセンサ素子10の水への浸漬は、ガスセンサ100の通常の使用時に比してはるかに、先端保護層2内への水の浸入が生じやすい処理である。
【0090】
そして、SEM像において先端保護層2の剥離が観察されたセンサ素子10については、蒸発時はがれが起きる(ある)と判定し、剥離が観察されなかったセンサ素子10については、蒸発時はがれは起きない(ない)と判定した。表1には、蒸発時はがれに係る判定の結果も併せて示している。表1においては、蒸発時はがれがないセンサ素子10について「〇」(丸印)を付し、蒸発時はがれがあるセンサ素子10について「×」(バツ印)を付している。
【0091】
【0092】
表1に示すように、第1層21の気孔率が40%であり、かつ、式(1)を充足するNo.3、No.4、およびNo.6~No.8のセンサ素子10については、蒸発時はがれ生じなかった。
【0093】
これに対し、第1層21の気孔率が40%を下回るNo.1およびNo.2のセンサ素子10においては、式(1)さらには式(2)を充足しているにもかかわらず、蒸発時はがれが生じた。
【0094】
また、式(1)および式(2)を充足しないNo.5のセンサ素子10においても、蒸発時はがれが生じた。
【0095】
以上の結果は、第1層21の気孔率が少なくとも40%であり、かつ、第1層長さL1と第2層長さL2と第3層長さL3とが少なくとも式(1)の関係をみたす場合に、蒸発時はがれの発生が好適に抑制されたセンサ素子10が実現されることを示している。