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特許7060831ジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、およびジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法
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  • 特許-ジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、およびジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法 図1
  • 特許-ジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、およびジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、およびジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/482 20060101AFI20220420BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C04B35/482
B22D11/10 330T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021124423
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2022-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】藤田 佳吾
(72)【発明者】
【氏名】松長 隆行
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-182049(JP,A)
【文献】特開平5-367(JP,A)
【文献】特開平5-361(JP,A)
【文献】特開平11-302073(JP,A)
【文献】特開平11-189467(JP,A)
【文献】特開2004-66251(JP,A)
【文献】特開2014-141381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10
C04B 35/482
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、
カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を含むジルコニア-カーボン質耐火材料であって、
前記ジルコニア原料は、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含み、
前記第一部分の、JIS Z 8801-1:2019に規定されるふるいを用いて特定される積算粒度分布曲線に基づいて決定されるメジアン径は、150μm以上500μm以下であり、
前記第二部分の、JIS Z 8825:2013に従って決定されるメジアン径は、1μm以上30μm以下であり、
前記第一部分の重量W1と前記第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下であるジルコニア-カーボン質耐火材料。
【請求項2】
少なくともスラグラインが請求項1に記載のジルコニア-カーボン質耐火材料からなる浸漬ノズル。
【請求項3】
ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を混合する混合工程を含み、
前記ジルコニア原料は、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含み、
前記第一部分の、JIS Z 8801-1:2019に規定されるふるいを用いて特定される積算粒度分布曲線に基づいて決定されるメジアン径は、150μm以上500μm以下であり、
前記第二部分の、JIS Z 8825:2013に従って決定されるメジアン径は、1μm以上30μm以下であり、
前記第一部分の重量W1と前記第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下であるジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程より前に、前記第二部分と、当該第二部分の重量の2.0倍以上6.0倍以下の前記第一部分と、を混合して調整ジルコニア原料を得る調整工程を含み、
前記混合工程におけるジルコニア原料として、前記調整工程で得られた前記調整ジルコニア原料を用いる請求項3に記載のジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法。
【請求項5】
前記調整工程より前に、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを用いて、ジルコニア原料の前記第一部分と前記第二部分とを分離する分離工程を含み、
前記調整工程における前記第一部分および前記第二部分として、前記分離工程で分離された前記第一部分および前記第二部分を用いる請求項4に記載のジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性の高いジルコニア-カーボン質耐火材料、および当該耐火材料を適用した浸漬ノズル、および当該耐火材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造工程において、溶鋼をタンディッシュからモールドへ安定的に導入するため、浸漬ノズルの耐火物が使用されている。浸漬ノズルの使用寿命は、鋼連続鋳造の生産性および鋼鋳片の品質に大きな影響を与える。
【0003】
モールド内において溶鋼が大気と接触して酸化することを防ぐため、鋳造中の溶鋼の湯面をカルシア―シリカ系のパウダースラグで覆う手法が汎用される。パウダースラグと接触する浸漬ノズルの部位(スラグライン)は、溶鋼と溶融スラグとの両方から浸食作用を受けるので、溶損が速い。したがって、スラグラインの耐食性が、ノズル全体の使用寿命を左右しうる。
【0004】
浸漬ノズル用材料として、通常、ノズルの本体および浸漬部にアルミナ-カーボン質の耐火物が使用されるが、スラグラインには耐食性が比較的高いジルコニア-カーボン質の耐火物が適用される場合がある。カーボンは自身の熱膨張率が低く、ノズルに十分な耐スポーリング性を付与する役割がある。
【0005】
特許文献1(特開平3-66462号公報)には、炭素7~25%、未安定化ジルコニア50~70%、安定化ジルコニア10~30%、炭化珪素1~20%、金属シリコン1~5%、合成樹脂6~20%からなり、未安定化ジルコニアは10~50%が微粉であり、このうち粒径44μm以下が20~40%で、かつ、粒径0.5μm以下が5~25%使用することを特徴とするジルコニア-炭素質連続鋳造用浸漬ノズルが提案されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平4-182049号公報)には、少なくとも溶融スラグと接触する部分が、ジルコニア70~90重量%、粒径500μm以下の鱗状黒鉛10~30重量%を含有し、前記ジルコニアの粒子は下記のa、bを満たすように分布されており、
a:ジルコニア粒子全体の粒度分布が、125μmを超える粒子が30~65重量%、125~45μmの粒子が20~55重量%、45μm未満の粒子が15~45重量%から構成される。
b:ジルコニア粒子全体に対し、JIS Z 8801で規定された標準ふるいの45~355μm間では、隣り合うふるい間である355~250μm、250~180μm、180~125μm、125~90μm、90~63μm、63~45μmのそれぞれにジルコニア粒子が少なくとも3重量%存在する。
かつ隣接する125μmを越えるジルコニア粒子間の80%以上には鱗状黒鉛が存在する組織構造を有する耐火物で構成されていることを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズルが提案されている。
【0007】
なお、特許文献3(特開平9-142927号公報)には、電融ジルコニアをジルコニア原料としたジルコニア-炭素系耐火物であって、前記電融ジルコニアの結晶粒のうち、40μm~300μmの粒子径範囲の粒子中、個数割合で20%以上が、亀裂がなくかつ低融物を含まない健全粒子であることを特徴とするジルコニア-炭素系耐火物が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献4(特開平11-302073号公報)には、ジルコニア原料70~95重量%および黒鉛5~30重量%からなり、前記ジルコニアの粒度構成が、45μm以下のジルコニア粒が70%以上であることを特徴とする耐食性に優れるジルコニア-黒鉛質耐火物およびそれを用いた連続鋳造用ノズルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平3-66462号公報
【文献】特開平4-182049号公報
【文献】特開平9-142927号公報
【文献】特開平11-302073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1~4に記載されているジルコニア-カーボン質耐火材料の耐食性は不十分であり、改善の余地があった。
【0011】
そこで、鋼連続鋳造の生産性および鋼鋳片の品質をより高めるため、ジルコニア-カーボン質耐火材料の耐食性を従来技術に比べて向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るジルコニア-カーボン質耐火材料は、ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を含むジルコニア-カーボン質耐火材料であって、前記ジルコニア原料は、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含み、前記第一部分の、JIS Z 8801-1:2019に規定されるふるいを用いて特定される積算粒度分布曲線に基づいて決定されるメジアン径は、150μm以上500μm以下であり、前記第二部分の、JIS Z 8825:2013に従って決定されるメジアン径は、1μm以上30μm以下であり、前記第一部分の重量W1と前記第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る浸漬ノズルは、少なくともスラグラインが上記のジルコニア-カーボン質耐火材料からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法は、ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を混合する混合工程を含み、前記ジルコニア原料は、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含み、前記第一部分の、JIS Z 8801-1:2019に規定されるふるいを用いて特定される積算粒度分布曲線に基づいて決定されるメジアン径は、150μm以上500μm以下であり、前記第二部分の、JIS Z 8825:2013に従って決定されるメジアン径は、1μm以上30μm以下であり、前記第一部分の重量W1と前記第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下であることを特徴とする。
【0015】
これらの構成によれば、ジルコニア-カーボン質耐火材料の耐食性を従来技術に比べて向上させることができる。また、耐食性が向上した耐火材料を使用することで、浸漬ノズルの耐久性が向上しうる。
【0016】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0017】
本発明に係るジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法は、一態様として、前記混合工程より前に、前記第二部分と、当該第二部分の重量の2.0倍以上6.0倍以下の前記第一部分と、を混合して調整ジルコニア原料を得る調整工程を含み、前記混合工程におけるジルコニア原料として、前記調整工程で得られた前記調整ジルコニア原料を用いることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、ジルコニア原料における第一部分と第二部分との重量比を任意に調整できるので、所望の性質を有する耐火材料が得られうる。
【0019】
本発明に係るジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法は、一態様として、前記調整工程より前に、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを用いて、ジルコニア原料の前記第一部分と前記第二部分とを分離する分離工程を含み、前記調整工程における前記第一部分および前記第二部分として、前記分離工程で分離された前記第一部分および前記第二部分を用いることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、ジルコニア原料を第一部分と第二部分とに分離してから第一部分と第二部分との重量比を調整できるので、調達されたジルコニア原料における第一部分と第二部分との重量比に関わらず、耐火材料における第一部分と第二部分との重量比を任意に調整できる。
【0021】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る浸漬ノズルの断面図である。
図2】実施形態に係る浸漬ノズルの使用状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、およびジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
〔耐火材料の構成〕
本実施形態に係るジルコニア-カーボン質耐火材料(以下、単に「耐火材料」と称する場合がある。)は、ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を含む。
【0025】
耐火材料がジルコニア原料を70重量%以上含むことで、耐食性が良好な耐火材料が得られうる。また、耐火材料がジルコニア原料を98重量%以下含むことで、カーボン原料などを2重量%以上使用でき、耐火材料に耐スポーリング性などの有利な性質を付与しうる。耐火材料は、ジルコニア原料を75重量%以上含むことが好ましい。また、耐火材料は、ジルコニア原料を95重量%以下含むことが好ましい。
【0026】
耐火材料がカーボン原料を2重量%以上含むことで、耐スポーリング性が良好な耐火材料が得られうる。また、耐火材料がカーボン原料を30重量%以下含むことで、ジルコニア原料を70重量%以上使用でき、耐食性が良好な耐火材料が得られうる。耐火材料は、カーボン原料を5重量%以上含むことが好ましい。また、耐火材料は、カーボン原料を25重量%以下含むことが好ましい。
【0027】
カーボン原料としては、各種黒鉛、カーボンブラック、ピッチ、および樹脂炭などの公知のカーボン原料の一種類または複数種類が含まれうる。なお、複数種類のカーボン原料が用いられる場合は、当該複数種類のカーボン原料の重量合計が耐火材料の2重量%以上30重量%以下である。カーボン原料の純度は95重量%以上であることが好ましく、97重量%以上であることがより好ましい。
【0028】
耐火材料は、ジルコニア原料およびカーボン原料の他の成分を添加物として含んでいてもよい。かかる添加物としては、ジルコニウム、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、クロム、チタン、およびボロンなどの、単体、合金、酸化物、炭化物、ホウ化物、および窒化物などが例示される。耐火材料が、添加物として上記に例示した物質の一種類または複数種類を含んでいると、耐火材料の耐酸化性や強度などが向上しうる。なお、耐火材料が添加物を含む場合、当該添加物の含有量の合計は、8重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。添加物の含有量の合計が上記の範囲にあると、添加剤を含まない場合と同等の耐食性を有し、かつ耐酸化性や強度などが向上した耐火材料が得られうる。
【0029】
(ジルコニア原料の構成)
本実施形態に係る耐火材料に含まれるジルコニア原料は、ジルコニア成分を90重量%以上含むことが好ましい。ジルコニア原料がジルコニア成分を90重量%以上含む場合、耐火材料の耐食性が良好になりやすい。ジルコニア原料中のジルコニア成分の含有量は、92重量%以上であることがより好ましい。
【0030】
ジルコニア原料中の、ジルコニア成分以外の残部として、ジルコニア安定剤や不可避の不純物などが含まれうる。ジルコニア安定剤としては、ジルコニア安定剤として公知の物質(たとえば、カルシア、マグネシア、イットリアなど。)の一種類または複数種類が用いられうる。また、不可避の不純物としては、シリカ、アルミナ、および酸化鉄などが含まれうる。
【0031】
ジルコニア原料は、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含む。すなわち、第一部分は、ジルコニア原料のうちの粒子径が大きい粒子であり、第二部分は、ジルコニア原料のうちの粒子径が小さい粒子である。
【0032】
第一部分のメジアン径は、150μm以上500μm以下である。第一部分のメジアン径が150μm以上であると、得られる耐火材料の気孔率が適切な水準になり、耐火材料の強度が良好になりやすい。また、第一部分のメジアン径が500μm以下であると、得られる耐火材料中の気孔の大きさが適切な水準になり、耐火材料の溶鋼および溶融スラグ流れに対する耐摩耗性が良好になりやすい。第一部分のメジアン径は、好ましくは200μm以上である。また、第一部分のメジアン径は、好ましくは450μm以下である。
【0033】
第一部分のメジアン径を決定するときは、まず、複数のふるいを用いてメジアン径を決定したい試料を分級する。次に、分級された各区分の重量を測定し、重量基準の積算粒度分布曲線を作成する。最後に、当該積算粒度分布曲線において積算重量が50%になる粒子径を、メジアン径として決定する。なお、ここで用いる複数のふるいは、いずれもJIS Z 8801-1:2019に規定される種々の公称目開きを有するふるいであり、たとえば、公称目開きがそれぞれ、106μm、125μm、180μm、250μm、355μm、500μm、および710μm、などのものを用いうる。
【0034】
第二部分のメジアン径は、1μm以上30μm以下である。第二部分のメジアン径が1μm以上であると、得られる耐火材料の気孔率が適切な水準になり、耐火材料の溶損を抑制しうる。また、第二部分のメジアン径が30μm以下であると、得られる耐火材料中の気孔の大きさが適切な水準になり、耐火材料の溶損を抑制しうる。第二部分のメジアン径は、好ましくは5μm以上である。また、第二部分のメジアン径は、好ましくは25μm以下である。
【0035】
第二部分のメジアン径は、JIS Z 8825:2013に従って決定される。
【0036】
第一部分の重量W1と第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下である。比W1/W2が2.0以上であると、得られる耐火材料の気孔率が適切な水準になり、耐火材料の耐食性が良好になりやすい。また、比W1/W2が6.0以下であると、得られる耐火材料中の気孔の大きさが適切な水準になり、耐火材料の溶鋼および溶融スラグ流れに対する耐摩耗性が良好になりやすく、かつ耐食性が良好になりやすい。比W1/W2は、2.5以上であることが好ましい。また、比W1/W2は、5.0以下であることが好ましい。
【0037】
〔浸漬ノズルの構成〕
次に、本発明に係る浸漬ノズルの実施形態について説明する。本実施形態に係る浸漬ノズル1は、略円筒状の本体部2と、本体部2の先端21側の側面に開口している吐出口3と、本体部2の基端22側に設けられた接続部4と、を有する(図1)。いずれの部位も、耐火材料によって構成されている。
【0038】
浸漬ノズル1は、使用状態において、接続部4がタンディッシュなどの上流工程の装置(不図示)に接続され、吐出口3がモールド(不図示)中の溶鋼Mに浸漬された状態で使用される(図2)。溶鋼Mは、上流工程から浸漬ノズルを経てモールドに流入する。
【0039】
本体部2は、長手方向の中央付近に、スラグライン23を有する(図1図2)。スラグライン23は、浸漬ノズル1の使用状態において溶鋼Mの液面付近に配置される部位であり、スラグSと頻繁に接触することになる部位である。スラグライン23は、上記の実施形態に係るジルコニア-カーボン質耐火材料により構成されている。
【0040】
本体部2のスラグライン23以外の部分は、上記の実施形態に係るジルコニア-カーボン質耐火材料により構成されていてもよいし、他の耐火材料により構成されていてもよい。かかる他の耐火材料としては、浸漬ノズルに用いられる耐火材料として公知の材料であってよく、たとえば、アルミナ原料45重量%以上65重量%以下およびカーボン原料10重量%以上35重量%以下を含むアルミナ-カーボン質耐火材料でありうる。なお、当該耐火材料の残部は、たとえばシリカなどを含みうる。当該耐火材料がシリカを含む場合、その含有量は耐火材料の30重量%以下でありうる。
【0041】
なお、上記のジルコニア原料に係る説明と同様に、アルミナ原料はアルミナ成分以外の成分を含みうる。また、カーボン原料の定義は上記の説明を参照されたい。
【0042】
スラグライン23と他の部分とで異なる耐火材料を用いる場合、上記の実施形態に係るジルコニア-カーボン質耐火材料により構成される部分(すなわち、スラグライン23)の幅および位置は、スラグSの幅および位置と厳密に一致していなくてもよく、浸漬ノズル1が使用されるプロセスにおける平均的なスラグSの幅および位置を考慮してスラグライン23の幅および位置が決定されればよい。なお、スラグSとの接触による浸漬ノズル1の損傷をより好適に防ぐ観点から、浸漬ノズル1が使用されるプロセスにおける平均的なスラグSの幅および位置を包含する幅および位置でスラグライン23が設けられることが好ましい。この場合、スラグライン23の幅は、当該プロセスにおけるスラグSの平均的な幅より広くなる。
【0043】
〔浸漬ノズル(耐火材料)の製造方法〕
最後に、本発明に係る浸漬ノズルの製造方法の実施形態について説明する。ここで浸漬ノズルは、本実施形態に係る耐火材料の一例でもある。本実施形態に係る浸漬ノズルの製造方法は、(1)分離工程、(2)調整工程、(3)混合工程、および(4)成形工程、を含む。
【0044】
(1)分離工程
分離工程は、ジルコニア原料の第一部分と第二部分とを分離する工程である。出発原料のジルコニア原料を、JIS Z 8801-1:2019に規定される公称目開き106μmのふるいを用いてふるい分けして、ふるい上に残るジルコニア原料を第一部分として取得し、ふるいを通過したジルコニア原料を第二部分として取得する。なお、出発原料の分級されていないジルコニア原料としては、市販品を使用できる。
【0045】
(2)調整工程
調整工程は、第一部分の重量W1と第二部分の重量W2との比W1/W2が2.0以上6.0以下に調整された調整ジルコニア原料を得る工程である。より具体的には、分離工程で得られた第一部分と第二部分とをそれぞれ秤量し、秤量された第一部分の重量W1が、秤量された第二部分の重量W2の2.0倍以上6.0倍以下になるようにしたのちに、両者を混合する。第一部分と第二部分とを混合する方法は、二種類の粉体を均一に混合しうる方法である限りにおいて特に限定されず、たとえば、両者をミキサーに入れて当該ミキサーの撹拌羽根を駆動して混ぜる方法などが例示される。
【0046】
(3)混合工程
混合工程は、ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を混合する工程である。ここで、ジルコニア原料として、調整工程で得られた調整ジルコニアを用いる。ジルコニア原料とカーボン原料とを混合する方法は、二種類の粉体を均一に混合しうる方法である限りにおいて特に限定されず、たとえば、両者をミキサーに入れて当該ミキサーの撹拌羽根を駆動して混ぜる方法などが例示される。なお、添加剤を含む耐火材料を製造する場合は、本工程においてジルコニア原料、カーボン原料、および添加剤を混合する。また、次の成形工程に用いるバインダーも併せて混合する。
【0047】
(4)成形工程
成形工程は、混合工程でえられた混合物を成形して、所望の形状の耐火材料を得る工程である。成形工程において耐火材料を得る方法としては公知の方法を適用でき、典型的には、混合物の秤量、混練、成形、乾燥、焼成、および加工などの手順を含みうる。当該方法は、概して、混合物を型に入れて所望の形状(本実施形態では浸漬ノズル)を形成する予備成形ステップ(秤量、混練、成形、乾燥)と、予備成形された混合物を焼成する焼成ステップ(焼成、加工)と、を含みうる。
【0048】
予備成形ステップにおいて用いるバインダーとしては、公知のものを使用できる。かかるバインダーとしては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ、およびタールなどの有機質バインダー、ならびに、リン酸塩およびケイ酸塩などの無機バインダー、を例示できる。
【0049】
また、予備成形ステップにおいて浸漬ノズルの形状を形成する際に用いられる成形方法としては、たとえば冷間静水等方圧プレス(CIP成形)などの成形方法を利用できる。
【0050】
なお、前述のように浸漬ノズルの部位によって使用する耐火材料の組成を変更する場合は、部位ごとに異なる混合物(ジルコニア原料等を予備混合したもの)を使用する。
【0051】
焼成ステップにおける焼成条件は、特に限定されない。たとえば、焼成雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気、還元雰囲気、および不活性雰囲気などから適宜選択されうる。また、焼成温度も特に限定されず、たとえば700℃以上1200℃以下でありうる。
【0052】
(他の製造方法)
上記では、本発明に係る浸漬ノズルの製造方法の実施形態として、(1)分離工程、(2)調整工程、(3)混合工程、および(4)成形工程、を含む方法を例として説明した。しかし、本発明に係る浸漬ノズルの製造方法に含まれる構成の組合せは、上記の組合せに限定されない。たとえば、メジアン径が150μm以上500μm以下のジルコニア原料と、メジアン径が1μm以上30μm以下のジルコニア原料とを、購入などの方法によりそれぞれ調達できる場合は、分離工程を実施せずとも調整工程および混合工程を実施できる。また、第一部分と第二部分との重量比W1/W2が2.0以上6.0以下のジルコニア原料を購入などの方法により調達できる場合は、分離工程および調整工程を実施せずとも混合工程を実施できる。
【0053】
なお、上記では、浸漬ノズルの製造方法を例として説明したが、本実施形態に係る耐火材料を浸漬ノズル以外の部材に使用する場合は、成形工程において当該部材の形状に対応した予備成形を行えばよい。
【0054】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0055】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0056】
〔試験1〕耐食性評価
以下の手順に従って、実施例および比較例の各例の試料を作成し、その耐食性を評価した。
【0057】
(試料の作成)
上記の「浸漬ノズル(耐火材料)の製造方法」の項で説明した分離工程、調整工程、および混合工程と同様の手順により、ジルコニア原料およびカーボン原料の含有量、第一部分および第二部分のメジアン径、ならびに第一部分と第二部分との重量の比W1/W2、を種々調整した混合物を得た。当該混合物を、公知の方法でブロック状に予備成形したのちに、還元酸化雰囲気中において1000℃で焼成した。焼成後のブロックの一部をダイヤモンドカッターで切り出し、表面を研磨して、20mm×20mm×200mmの試験片を得た。
【0058】
(浸食試験)
高周波電気炉において、20kgの鋼を溶融させ、溶鋼を1560℃に保持した。続いて試験片を溶鋼に浸漬し、さらに溶鋼の湯面にパウダースラグを投入した。その後、試験片を50rpmの回転速度で回転させた。2時間後、試験片を溶鋼から引き上げて、放冷により冷却した。試験片の温度が室温まで下がった後に、パウダースラグと接触していた部分における試験片の溶損厚さを測定した。
【0059】
(試験結果)
(1)第一部分のメジアン径による違い
実施例1~5および比較例1~3では、第一部分のメジアン径の違いによる耐食性の違いを評価した。なお、実施例1~5および比較例1~3において共通して、ジルコニア原料を88重量%とし、カーボン原料を12重量%とし、第二部分のメジアン径を15μmとし、比W1/W2を3.5とした。
【0060】
表1に示すように、第一部分のメジアン径が150~500μmのとき(実施例1~5)に、メジアン径が上記の範囲を逸脱するとき(比較例1~3)に比べて、溶損厚さが小さかった。
【0061】
表1:第一部分のメジアン径による違い
【表1】
【0062】
(2)第二部分のメジアン径による違い
実施例6~10ならびに比較例4および5では、第二部分のメジアン径の違いによる耐食性の違いを評価した。なお、実施例6~10ならびに比較例4および5において共通して、ジルコニア原料を90重量%とし、カーボン原料を9重量%とし、添加剤を1重量%とし、第一部分のメジアン径を300μmとし、比W1/W2を3.5とした。ここで、いずれの例においても、添加剤としてホウ化ジルコニウムを用いた。
【0063】
表2に示すように、第二部分のメジアン径が1~30μmのとき(実施例6~10)に、メジアン径が上記の範囲を逸脱するとき(比較例4および5)に比べて、溶損厚さが小さかった。
【0064】
表2:第二部分のメジアン径による違い
【表2】
【0065】
(3)比W1/W2による違い
実施例11~15ならびに比較例6および7では、比W1/W2の違いによる耐食性の違いを評価した。なお、実施例11~15ならびに比較例6および7において共通して、ジルコニア原料を86重量%とし、カーボン原料を12重量%とし、添加剤を2重量%とし、第一部分のメジアン径を280μmとし、第二部分のメジアン径を10μmとした。ここで、いずれの例においても、添加剤として炭化ホウ素と金属シリコンとの混合物(重量比1:1)を用いた。
【0066】
表3に示すように、比W1/W2が2.0~6.0のとき(実施例11~15)に、比W1/W2が上記の範囲を逸脱するとき(比較例6および7)に比べて、溶損厚さが小さかった。
【0067】
表3:比W1/W2による違い
【表3】
【0068】
(4)各原料の含有量による違い
実施例16~20ならびに比較例8および9では、ジルコニア原料およびカーボン原料の含有量の違いによる耐食性の違いを評価した。なお、実施例16~20ならびに比較例8および9において共通して、添加剤を5重量%とし、第一部分のメジアン径を420μmとし、第二部分のメジアン径を16μmとし、比W1/W2を4.2とした。ここで、いずれの例においても、添加剤として、ホウ化ジルコニウム、炭化ホウ素、および炭化チタンの混合物(重量比1:1:3)を用いた。
【0069】
表4に示すように、ジルコニア原料が70~93重量%であり、カーボン原料が2~25重量%であるとき(実施例16~20)に、ジルコニア原料の含有量が上記の範囲を逸脱するとき(比較例8)およびカーボン原料の含有量が上記の範囲を逸脱するとき(比較例8および9)に比べて、溶損厚さが小さかった。なお、比較例9では、浸漬後に試験片を溶鋼から引き上げたところ、試験片が割れていることが判明したため、溶損厚さを測定できなかった。
【0070】
表4:各原料の含有量による違い
【表4】
【0071】
〔試験2〕浸漬ノズル実機評価
上記の「浸漬ノズル(耐火材料)の製造方法」の項で説明した手順に従い、スラグライン部分が実施例3の耐火材料により構成された浸漬ノズル(以下、「実施例ノズル」と称する。)、および、スラグライン部分が比較例3の耐火材料により構成された浸漬ノズル(以下、「比較例ノズル」と称する。)を作成した。なお、実施例ノズルおよび比較例ノズルの双方において、スラグライン以外の部分には、アルミナ原料68重量%、シリカ15重量%、およびカーボン原料27重量%を含むアルミナ-カーボン質耐火材料を用いた。また、実施例ノズルおよび比較例ノズルの寸法を同一とした。すなわち、実施例ノズルと比較例ノズルとは、スラグラインの耐火材料のみが異なる。
【0072】
それぞれの浸漬ノズルを実際の鋼連続鋳造に使用し、連続使用可能な時間の長さを測定した。なお、鋳造した鋼の種類および使用したパウダースラグの種類は、実施例ノズルと比較例ノズルとで同一とした。
【0073】
3時間使用された実施例ノズルおよび比較例ノズルを切断し、ノズルのスラグラインの溶損厚さを測定した。実施例ノズルのほうの溶損厚さは、比較例ノズルの溶損厚さの3分の1だった。この結果から、実際の鋼連続鋳造の環境下においても、実施例3の耐火材料が、比較例3の耐火材料に比べて高い耐食性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、たとえば鋼連続鋳造に供されるジルコニア-カーボン質耐火材料、浸漬ノズル、および当該ジルコニア-カーボン質耐火材料の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 :浸漬ノズル
2 :本体部
21 :本体部の先端
22 :本体部の基端
23 :スラグライン
3 :吐出口
4 :接続部
M :溶鋼
S :スラグ
【要約】
【課題】ジルコニア-カーボン質耐火材料の耐食性を従来技術に比べて向上させる。
【解決手段】ジルコニア原料70重量%以上98重量%以下と、カーボン原料2重量%以上30重量%以下と、を含むジルコニア-カーボン質耐火材料であって、ジルコニア原料は、公称目開き106μmのふるいを通過できない第一部分と、当該ふるいを通過できる第二部分と、を含み、第一部分のメジアン径は、150μm以上500μm以下であり、第二部分のメジアン径は、1μm以上30μm以下であり、第一部分の重量W1と第二部分の重量W2との比W1/W2は、2.0以上6.0以下である。
【選択図】なし
図1
図2