(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20220420BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220420BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220420BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220420BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
H01M8/1004
B32B9/00 A
B32B27/00 L
H01M8/10 101
H01M4/88 K
(21)【出願番号】P 2017174611
(22)【出願日】2017-09-12
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2016181588
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 充晴
(72)【発明者】
【氏名】中村 元気
(72)【発明者】
【氏名】柏 充裕
【審査官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-312162(JP,A)
【文献】特開2009-259789(JP,A)
【文献】特開2011-076907(JP,A)
【文献】特開2012-021201(JP,A)
【文献】特開2016-072014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
B32B 9/00
B32B 27/00
H01M 8/10
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する離型フィルムであって、
前記離型層が無機薄膜層であり、
前記離型層表面の表面自由エネルギーが60mJ/m
2
以上であることを特徴とする
固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
【請求項2】
離型フィルムは、160℃で30分処理したときの収縮率が1.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
【請求項3】
無機薄膜層がシリカおよび/またはアルミナからなることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
【請求項4】
離型層表面の表面粗さ(Sa)が50nm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型フィルムに関し、更に詳しくは、電子部品、特に、固体高分子型燃料電池の構成部材である膜-電極接合体(MEA)を製造するために好適に使用される離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば固体高分子型燃料電池(PEFC)の構成部材である膜-電極接合体(MEA)は、高分子電解質膜の両面に触媒層が積層された構成になっている。高分子電解質膜は、プロトン伝導性樹脂が使用されており、側鎖にスルホニウム基を有したポリマーが使用されている。その例としては、強酸性であるパーフルオロカーボン(-CF2-)で構成されたスルホン酸系の樹脂が使用されている(例えば、DuPont社製Nafion(登録商標))。また触媒層は、白金担持カーボンをバインダー(プロトン伝導性樹脂)に分散させた構成になっている。
【0003】
これらMEAの製造方法の一例として、高分子電解質膜と、触媒層をそれぞれ別々の支持フィルムにキャスト法で成型し、150℃以上の高温で熱圧着して両者を接合する方法が提案されている。
【0004】
前記支持フィルムには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表されるフッ素系樹脂フィルムが従来よく用いられている。前記フッ素系樹脂フィルムは、シリコーンなどの汚染がなく、高い耐薬品性、耐熱性をもつため幅広く使用されている。しかし、かかる従来技術はロール ツー ロール方式で加工するとき、PTFEフィルムの貯蔵弾性率が室温においても低いため、腰感が弱く加工性が必ずしも十分ではないという問題点があった。さらに、フッ素系樹脂フィルムは高価なため、製造コストが高くなるという問題点もあった。
【0005】
上記事情から、前記支持フィルムとして、PETフィルムに離型層を設けたフィルムを用いた提案がなされている。PETフィルムに離型層を設けたフィルムは、フッ素系フィルムに比べ安価で加工性に優れ、転写性も有することが報告されている(例えば特許文献1~3参照)。
【0006】
しかし、報告されているPETフィルムに設けられた離型層には、シリコーン樹脂やオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂などの有機成分が用いられており、電子部品部材用の成型フィルムとして用いた場合には、離型層に用いられる樹脂に含有するオリゴマーなどの低分子量体や、高温処理時に発生する分解物などが成型した電子部品に混入し性能を低下させる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-119016号公報
【文献】特開2014-154273号公報
【文献】特開2003-285396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、従来技術の課題を背景になされたものであって、高温で使用されても転写性に優れ、高性能の電子部品の成型に適した離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の構成よりなる。
1. ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する離型フィルムであって、前記離型層が無機薄膜層であることを特徴とする固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
2. 離型層表面の表面自由エネルギーが40mJ/m2以上であることを特徴とする上記第1に記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
3. 無機薄膜層がシリカおよび/またはアルミナからなることを特徴とする上記第1または第2に記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
4. 離型層表面の表面粗さ(Sa)が50nm以下であることを特徴とする上記第1~第3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池部材成型用離型フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固体高分子燃料電池部材成型用途に代表される電子部品製造用途等に好適に使用される離型フィルムとして、高温処理後でも離型層中のオリゴマーや分解物の析出が少なく、転写性にも優れた離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の離型フィルムは、基材であるポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有しており、前記離型層が無機薄膜層からなる離型フィルムである。発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を離型層として設けたフィルムが上記課題を解決することを見出した。すなわち、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を積層することで高温処理後でも転写性に優れ、無機薄膜層と成型した電子部品との界面で剥離する離型フィルムを得ることができることを見出した。さらに、無機物はそれ自体の耐熱性が高いため、高温下でも分解しにくく成型した電子部品の性能が低下する可能性が低くなることを見出した。これらポリエステルフィルム上に無機物を積層したフィルムは多く知られているが、これらが離型フィルムとして使用できることを示唆した報告例は少ない(例えば、特開平9-19984号公報、特開2010-76405号公報)。特開平9-19984号公報には、プラスチックフィルムの片面に酸化珪素蒸着膜を積層しさらに金属蒸着層を設けた金属薄膜転写用シートが提案されているが、プラスチックフィルムと酸化珪素蒸着膜の界面で剥離するメカニズムであり本発明とはコンセプトが異なる。また、特開2010-76405号公報には、フィルムの少なくとも片面にシリカまたはアルミナを蒸着したフィルムの蒸着面にインキ層が形成された転写印刷シートが提案されているが、インキ層を蒸着面から剥離するためには、インキ層を延伸させインキ層を変形させることが必要であり、延伸なしでは、剥離することができない。そのため、これまでの知見からは本発明のように離型層として無機薄膜層を設けたポリエステルフィルムが固体高分子燃料電池部材成型用途に代表される電子部品製造用途の離型フィルムとして用いることができるとは想像もできなかった。それに対し本発明者らは無機物の耐薬品性、耐溶剤、耐熱性に着目し検討を重ねた結果、本発明に至ったものである。さらに、本発明の離型フィルムは、その特に好ましい態様として、表面自由エネルギーが高く、固体高分子型燃料電池成型部材のスラリーを塗工する際に、塗工性に優れることから均一な膜が形成でき、成型部材の厚み均一性が向上し、固体高分子型燃料電池の性能を向上させることができるものである。
【0013】
(ポリエステルフィルム)
本発明で基材として用いるポリエステルフィルムは、主としてポリエステル樹脂より構成されるフィルムである。ここで、「主としてポリエステル樹脂より構成されるフィルム」とは、ポリエステル樹脂を50質量%以上含有する樹脂組成物から形成されるフィルムであり、他のポリマーとブレンドする場合は、ポリエステル樹脂が50質量%以上含有していることを意味し、他のモノマーが共重合されている場合は、ポリエステルの繰り返し構造単位を50モル%以上含有することを意味する。好ましくは、ポリエステルフィルムは、フィルムを構成する樹脂組成物中において、ポリエステル樹脂を90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは100質量%含有する。
【0014】
ポリエステル樹脂としては、材料は特に限定されないが、ジカルボン酸成分とジオール成分とが重縮合して形成される共重合体、又は、そのブレンド樹脂を用いることができる。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3-ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等が挙げられる。
【0015】
ポリエステル樹脂を構成するジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0016】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分はそれぞれ1種又は2種以上を用いても良い。また、トリメリット酸などのその他の酸成分やトリメチロールプロパンなどのその他の水酸基成分を適宜添加しても良い。ジカルボン酸成分やジオール成分が複数共重合されている場合は、エチレンテレフタレートの繰り返し構造単位を50モル%以上含有していることが好ましい。
【0017】
ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられ、これらの中でも物性とコストのバランスからポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
ポリエステルフィルムの滑り性、巻き性などのハンドリング性を改善するために、フィルム中に不活性粒子を含有させてもよい。
【0019】
本発明においてポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、12~125μmの範囲であることが好ましい。12~75μmがより好ましく、16~50μmがさらに好ましい。12μm以上であると樹脂層の成型、転写時にシワが入るおそれがなく、125μm以下であるとコスト的に有利である。
【0020】
基材となるポリエステルフィルムは、単層であっても、2種以上の層が積層されたものであってもよい。また、本発明の効果を奏する範囲内であれば、必要に応じて、フィルム中に各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられる。フィルムが積層構成を有する場合は、必要に応じて各層の機能に応じて添加剤を含有させることも好ましい。
【0021】
ポリエステルフィルムは、例えば上記のポリエステル樹脂をフィルム状に溶融押出、キャスティングドラムで冷却固化させてフィルムを形成させる方法等によって得られる。本発明のポリエステルフィルムとしては、無延伸フィルム、延伸フィルムのいずれも用いることができるが、機械強度や耐薬品性といった耐久性の点からは延伸フィルムであることが好ましい。ポリエステルフィルムが延伸フィルムである場合、その延伸方法は特に限定されず、縦一軸延伸法、横一軸延伸法、縦横逐次二軸延伸法、縦横同時二軸延伸法等を採用することができる。
【0022】
ポリエステルフィルムの表層には、無機薄膜層の密着性を向上させるため、アンカーコート層、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などの表面処理を行うこともできる。アンカーコート層を設ける場合は、コストなどの観点からインラインコーティングで行うことが好ましい。
【0023】
(無機薄膜層)
本発明における無機薄膜層は特に限定されずに無機化合物であればどのようなものでも使用することができる。例えば、Al、Si、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、Tl、Pbなどの元素記号で表される遷移金属や典型金属、典型非金属などを使用することができ、各単体で用いても、それらの酸化物などを使用してもよい。特に透明性などの観点から主たる成分が酸化珪素、及び/又は酸化アルミニウムからなる薄膜層が好ましい。さらに、可撓性の向上から酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムを主たる成分とする薄膜層が好ましい。薄膜層の可撓性がよいと、走行中に離型フィルムが曲げられりしても薄膜層に膜割れが生じにくく転写性を維持できるため好ましい。酸化珪素系とはSi、SiO、SiO2等を指す。主たる成分が酸化珪素、及び酸化アルミニウムからなる場合、無機薄膜中の酸化アルミニウムの含有量は好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは25質量%以上70質量%以下である。20質量%以上の場合は密度が低くなり過ぎず、転写性が低下する恐れがなく好ましい。一方、80質量%以下であると、無機薄膜の可撓性が保持されて、薄膜層の割れが発生しにくく好ましい。また、本特性が失われない範囲で他成分が含まれてもよい。
【0024】
薄膜層の膜厚としては、特に限定するものではないが、転写性や生産性の点から、5~100nmが好ましく、更に好ましくは7~80nmである。5nm以上であると、膜が均一になりやすく、十分な転写性が得られて好ましい。また100nm以下であると製造コストを抑えることができ好ましい。
【0025】
無機薄膜層の形成には、本発明の目的を損なわない限り公知の製造方法が使える。例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンブレーティング法などのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などが挙げられる。特に生産の速度や安定性の面から真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法においては、蒸着源材料としてA12O3 とSiO2やA1とSiO2の混合物等が用いられ、また、加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いてもよい。また、基板にバイアス等を加えたり、基板温度を上昇、あるいは、冷却したり等、本発明の目的を損なわない限りにおいて、成膜条件を変更してもよい。
【0026】
本発明に用いる離型フィルムは、小さい熱収縮率を有していることが好ましい。例えば、後述の熱収縮率測定方法によって、160℃で30分処理したときの収縮率が、1.0%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.8%以下であり、さらに好ましくは0.4%以下であり、特に好ましくは0.3%以下である。熱収縮率が1.0%以下であると熱処理時に離型フィルムの変形が少なくなり成型した電子部品の変形が抑えられ性能低下を招く恐れがなく好ましい。そのため、固体高分子型燃料電池部材成型用の離型フィルムとして用いた場合に150℃以上の高温がかかる工程でも触媒層の割れを効果的に抑制することができ好適である。熱収縮率の下限については、若干のマイナスデータになる場合もあるが、ゼロ%が最も好ましく、0.1%以上でも構わない。
【0027】
本発明の離型フィルムの熱収縮率を抑制するためには、ポリエステルフィルムを製膜中に(即ち、インラインで)アニール処理を行ってもよいし、オフラインでアニール処理を行ってもよい。
【0028】
本発明に用いる離型フィルムの離型層表面の領域表面平均粗さ(Sa)は、50nm以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。離型フィルムの離型層表面の領域表面平均粗さ(Sa)は小さいほど良いといえるが、1nm以上でよく、2nm以上でも構わない。最大突起高さ(P)は、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5μm以下である。Saが50nm以下であり、Pが2μm以下であれば、離型フィルムを用いて得られた成型品にピンホールなどが発生しにくいため好適に使用できる。
【0029】
本発明に用いる離型フィルムの離型層の反対面の領域表面平均粗さ(Sa)は、特に限定されないが、1~50nmの範囲にあることが好ましい。
【0030】
本発明の離型フィルムは、透明性が高い方が好ましく、フィルムヘイズは15%以下であることが好ましい。さらに好ましくは10%以下であり、5%以下であるとなお好ましい。フィルムヘイズが15%以下であると電子部品など成型した時に欠点検知や外観検査などを精度よく行えるため好ましい。
【0031】
本発明の離型フィルムの離型層の表面自由エネルギーは、40mJ/m2以上であることが好ましい。より好ましくは、60mJ/m2以上である。表面自由エネルギーが40mJ/m2以上であると塗布成型時にスラリーの塗工性が良くなるため、成型した固体高分子型燃料電池部材の厚み均一性が向上するため好ましい。一般的な離型フィルムとしては、シリコーン系やオレフィンなどのノンシリコーン系の材料が使用されるが、それらを用いた離型フィルムの表面自由エネルギーは40mJ/m2よりも低いものが多く、スラリー塗工時に弾きやすいなどの課題があるが、本発明の離型フィルムではそのような課題を解決することができる。
【0032】
本発明の離型フィルムは、本発明の機能を有する限り、離型層以外に機能層を積層してもよい。積層する機能層としては、例えば、帯電防止層、ブロッキング防止層、易滑層、ハードコート層、紫外線吸収層、易接着層、粘着層などが挙げられる。機能層を積層する場合は、本発明の離型性を阻害させないようにする必要があり、積層する場所は、離型層とポリエステルフィルムの間、もしくは、ポリエステルフィルムの離型層が積層された反対面である。これらの層は、1層でも2層以上でも構わない。
【実施例】
【0033】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、もちろん本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明に用いた評価方法は以下の通りである。
【0034】
(無機薄膜の組成、膜厚)
無機化合物の組成膜厚は蛍光X線分析装置((株)リガク製「ZSX100e」)を用いて、予め作成した検量線により膜厚組成を測定した。なお、励起X線管の条件として50kV、70mAとした。検量線は以下の手順で求めたものである。
酸化アルミニウムと酸化ケイ素からなる無機薄膜の場合を例に説明する。酸化アルミニウムと酸化ケイ素とからなる無機化合物薄膜を持つフィルムを数種類作成し、誘導結合プラズマ発光法(ICP法)で酸化アルミニウムと酸化ケイ素それぞれの付着量を求める。次いで、付着量を求めた各フィルムを蛍光X線分析装置((株)リガク製「ZSX100e」、励起X線管の条件:50kv、70mA)で分析することにより各サンプルの酸化アルミニウムと酸化ケイ素との蛍光X線強度を求める。蛍光X線強度とICPで求めた付着量の関係を求めて検量線を作成する。ICPで求めた付着量は基本的に重量であるのでこれを膜厚組成とするため以下のように変換した。
膜厚は、無機酸化薄膜の密度がバルク密度の8割であるとし、かつ 酸化アルミニウムと酸化ケイ素とが混合された状態であってもそれぞれ体積を保つとして算出した。
酸化アルミニウムの膜中の含有率wa(質量%)、酸化ケイ素の膜中の含有量ws(質量%)は、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、酸化ケイ素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)とすると、各々下記式(1)、(2)で求められる。
wa=100×[Ma/(Ma+Ms)] (1)
ws=100-wa (2)
すなわち、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、そのバルクの密度をρa(3.97g/cm3)とし、酸化ケイ素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)、そのバルクの密度をρs(2.65g/cm3)とすると、膜厚t(nm)は下記式(3)で求められる。
t=((Ma/(ρa×0.8)+Ms/(ρs×0.8))×107・・・式(3)
蛍光X線で測定した膜厚の値は、TEMで実際に計測した膜厚と近いものであった。
【0035】
(表面粗さ)
非接触表面形状計測システム(VertScan R550H-M100)を用いて、下記の条件で測定した値である。領域表面平均粗さ(Sa)は、5回測定の平均値を採用し、最大突起高さ(P)は5回測定の最大値を採用した。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:10倍
・0.5×Tubeレンズ
・測定面積 936μm×702μm
(解析条件)
・面補正: 4次補正
・補間処理: 完全補間
なお、表1の(Sa)及び(P)は基材ポリエステルフィルムの離型層を積層する面のデータを示している。
【0036】
(熱収縮率の測定)
離型フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、熱風オーブンにて160℃30分熱処理を行った。熱処理後、試料フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記(1)式に従い熱収縮率を求めた。測定はn=5回行い、試料フィルムの縦方向及び横方向の熱収縮率データの各々の平均値のうち、大きい方の熱収縮率データを採用し、その離型フィルムの熱収縮率データとする。なお、熱処理前後の寸法を測定するときは、サンプルフィルムを25℃の部屋で12時間以上エージング後に測定を行った。
熱収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/ 収縮前の長さ}×100 (%) (1)式
【0037】
(表面自由エネルギー)
表面張力が既知の水(液滴量1.8μL)、ジヨードメタン(液適量0.9μL)、ブロモナフタレン(液適量0.9μL)の接触角を25℃、50%RHの条件下で接触角計(協和界面科学株式会社製: 全自動接触角計 DM-701)を用いて測定した。計算に用いた接触角は、各液を滴下後10秒後の接触角を採用した。
得られた接触角データを「北崎-畑」理論より計算し離型フィルムの表面自由エネルギーの分散成分γsd、極性成分γsp、水素結合成分γshを求め、各成分を合計したものを表面自由エネルギーγsとした。本計算には、本接触角計ソフトウェア(FAMAS)内の計算ソフトを用いて行った。
【0038】
(離型フィルムヘイズ)
本発明のフィルムヘイズはJIS K 7136に準拠し、濁度計(日本電色製、NDH2000)を用いて測定した。
【0039】
(転写性評価)
転写性については、以下の方法で行った。20%Nafion(登録商標)Dispersion Solution DE2021 CS type(和光純薬工業社製)の固形分とカーボンブラック(CABOT社製、VERCANX72R)を質量比で5/5になるように混合し、総固形分が10%になるようにイソプロパノール/水(質量比8/2)で調整後、遠心攪拌機にて30分間分散を行い擬似触媒層用スラリーを得た。得られた擬似触媒層スラリーをアプリケーターを用いて、乾燥後の膜厚が10μmになるように離型フィルムの上に塗工し、熱風オーブンで90℃2分乾燥を行った。その後、熱風オーブンで所定の温度で10分間熱処理後に室温に戻した後にメンディングテープを用いてメンディングテープが180°の角度で剥離した。転写性を以下の基準で評価した。前記所定温度として、120℃、140℃、160℃、180℃の4水準で行った。
○:離型フィルム上に擬似触媒層は残らなかった。
△:離型フィルム上に擬似触媒層はうっすらと残った。
(白色台紙上で観察すると擬似触媒層が残っていることがなんとか認識できるレベル)
×:離型フィルム上に擬似触媒層ははっきりと残った。
(白色台紙上で観察すると黒く残った擬似触媒層がはっきりと認識できるレベル)
【0040】
(塗工性の評価)
塗工性の評価は、以下のように行った。前記、転写性評価で用いたものと同様の疑似触媒層用スラリーをアプリケーターを用いて、乾燥後の膜厚が10μmになるように離型フィルムの上に塗工し室温で1分放置したのちの塗工面を観察し、以下の基準で評価した。
○:塗工面にハジキなどの発生は全くなかった。
△:塗工面の端部など極一部でハジキが観察された。
×:塗工面にハジキが多く観察された。
【0041】
(可撓性の評価)
無機薄膜層の可撓性については以下のように行った。無機薄膜層を積層した離型フィルムを無機薄膜層が外側になるように直径10mmの金属棒に沿って3回折り曲げた。折り曲げた離型フィルムを用いて前記転写性評価と同様にして転写性の評価を行った(熱処理の温度は180℃で比較)。得られた転写性の結果を用いて以下の基準で可撓性の評価を行った。
○:折り曲げた離型フィルムでも、離型フィルム上に擬似触媒層は残らなかった。
△:折り曲げた離型フィルムでは、離型フィルム上に疑似触媒層が少し残った。
×:折り曲げた離型フィルムでは、離型フィルム上に疑似触媒層がはっきりと残った。
【0042】
(触媒層の割れ性評価)
触媒層の割れなどの外観評価は以下のように行った。まず、20%Nafion(登録商標)Dispersion Solution DE2021 CS type(和光純薬工業社製)と、カーボンブラックを重量比で3/7になるように混合し、遠心攪拌機にて分散を行い擬似触媒層用スラリーを得た。得られた擬似触媒層スラリーをアプリケーターを用いて、乾燥後の膜厚が5μmになるように離型フィルムの上に塗工し、熱風オーブンで90℃1分乾燥を行った。作成した擬似触媒層付き離型フィルムを10cm×10cmの大きさに裁断し熱風オーブンで150℃で5分間熱処理し擬似触媒層の状態を以下の基準で評価した。
○:擬似触媒層にほとんどひび割れがなく良好
△:擬似触媒層の一部(全面積の10%未満)にひび割れなどの外観不良が見られた
×:擬似触媒層の大部分(全面積の10%以上)にひび割れなどの外観不良が見られた
【0043】
(実施例1)
下記のアニール条件でアニールした幅500mm、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(品番E5100、東洋紡社製を使用)の非コロナ処理面に、蒸着源として3~5mm程度の大きさの粒子状のAl2O3(純度99.5%)とSiO2(純度99.9%)を用いて、電子ビーム蒸着法で、酸化アルミニウム・酸化硅素系薄膜の形成を行った。蒸着材料は、混合せずに、ハース内をカーボン板で2つに仕切り、加熱源として一台の電子銃(以下EB銃と称する)を用い、Al2O3とSiO2のそれぞれを時分割で加熱した。その時のEB銃の加速電圧、エミッション電流、Al2O3とSiO2への加熱比、フィルム送り速度は表2に示した条件で10nm厚の膜を作った。チルロールの冷却温度は、-10℃で行った。
・アニール条件
乾燥炉内張力:40N/m(単位は幅1mあたりの張力(N))
乾燥温度:170℃
乾燥時間:9秒
【0044】
(実施例2~8)
無機薄膜層の形成方法を表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様に離型フィルムを作成した。
【0045】
(実施例9)
使用する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムをコスモシャイン(商標登録)品番A4300(東洋紡社製)に変更した以外は実施例1と同様にして離型フィルムを作成した。
コスモシャイン(登録商標)品番A4300は、両面に易接着層がコーティングされた平滑性の高いフィルムである。このフィルムを使用して作成した離型フィルムの離型面も平滑性は高くなり、触媒層などを成型してもピンホールなどの欠点が発生しにくくなる。
【0046】
(実施例10)
無機薄膜層を形成する前に、アニール加工しない以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを作成した。
【0047】
(実施例11)
無機薄膜層を形成する前に、以下の条件でアニール加工した以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを作成した。
・アニール条件
乾燥炉内張力:40N/m(単位は幅1mあたりの張力(N))
乾燥温度:130℃
乾燥時間:9秒
【0048】
(実施例12)
無機薄膜層を形成する前に、以下の条件でアニール加工した以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを作成した。
・アニール条件
乾燥炉内張力:40N/m(単位は幅1mあたりの張力(N))
乾燥温度:130℃
乾燥時間:5秒
【0049】
(実施例13)(特許5625245の実施例2参照)
無機薄膜層として、プラズマCVD方法を用いて膜厚10nmの酸化ケイ素膜を形成した以外は、実施例1と同様にして離型フィルムを作成した。
成膜条件
成膜圧力:3.0×10-2hPa
導入ガス:ヘキサメチルジシロキサン:アルゴン:酸素=0.9:0.9:2.7(単
位:slm)
印加電力:AC40kHz、8kW
巻き取り速度:150m/分
真空チャンバー内の真空度:2~6×10-6hPa
蒸着チャンバー内の真空度:2~5×10-3hPa
得られた離型フィルムは、油性ペンを弾くほどの撥水性を有しており、転写性は良好であったが、塗工性は疑似触媒層用スラリーにハジキが発生し少し悪かった。
【0050】
(比較例1)
無機薄膜層を設けていない厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名E5100、東洋紡社製)の非コロナ処理面を用いた。
【0051】
(比較例2)
環状ポリオレフィン系樹脂(TOPAS(登録商標)6017S ポリプラスチックス社製)2質量部をトルエン78質量部に溶解させ、さらにテトラヒドロフラン20質量部を加えて塗布液1を調整した。幅500mm、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名E5100、東洋紡社製)のコロナ処理面に、塗布液1を乾燥後の膜厚が100nmになるようにグラビアコーターで塗工し140℃で30秒間乾燥させて離型フィルムを作成した。
【0052】
(参考例1)
厚み50μmのPTFEシート(ニチアス社製 ナフロン(登録商標)PTFEシート TOMBO No.9000)を用いて評価を行った。
【0053】
実施例および比較例について評価を行い、表1にまとめた。実施例1~13は、高温処理後の剥離性が良好であり、参考例1のPTFEと同等の剥離性が得られたのに対し、比較例1,2では高温処理すると剥離性が得られなくなった。この結果より、本発明の離型フィルムを用いることでPTFE同等以上の剥離性を安価に達成することができる。
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、固体高分子燃料電池部材成型用途に代表される電子部品製造用途等に好適に使用される離型フィルムとして、高温処理後でも離型層中のオリゴマーや分解物の析出が少なく、転写性にも優れた離型フィルムを提供することができる。