(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】メトトレキサート含有フィルムコーティング錠
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20220420BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20220420BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/30
A61K47/02
A61P19/02
A61P29/00
A61P29/00 101
(21)【出願番号】P 2018530358
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2017027066
(87)【国際公開番号】W WO2018021416
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2016147700
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125427
【氏名又は名称】藤井 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 憲志
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-147819(JP,A)
【文献】特開2003-300872(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021660(WO,A1)
【文献】特開2013-035797(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054872(WO,A1)
【文献】特開2015-013857(JP,A)
【文献】葉酸代謝拮抗剤 メソトレキセート錠2.5mg 添付文書,第13版,2016年02月,pp. 1-3,p.1上欄, p.3 右欄
【文献】抗リウマチ剤 日本薬局方 メトトレキサートカプセル リウマトレックスカプセル2mg 添付文書,第19版,2016年02月,pp. 1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
A61K 9/30
A61K 47/02
A61P 19/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてメトトレキサートを含有し、素錠中及びフィルムコーティング層中に酸化鉄を含有するフィルムコーティング錠
であって、素錠中に含有される酸化鉄が素錠全量に対して0.075乃至1重量%の三二酸化鉄であり、フィルムコーティング層に含有される酸化鉄がフィルムコーティング層全量に対して0.1乃至20重量%の三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄及び黒酸化鉄から選ばれる1種以上の酸化鉄である該フィルムコーティング錠。
【請求項2】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が黄色三二酸化鉄
を含んでおり、その含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.005乃至10重量%である請求項1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項3】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が三二酸化鉄
を含んでおり、その含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至20重量%である請求項
1又は2に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項4】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が黒酸化鉄
を含んでおり、その含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至5重量%である請求項
1乃至
3のいずれか
一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項5】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄である請求項
1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項6】
フィルムコーティング層中
に含有される黄色三二酸化鉄がフィルムコーティング層全量に対して0.1~10重量%である請求項
5に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項7】
フィルムコーティング層中
に含有される三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~10重量%である請求項
5又は
6に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項8】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が黄色三二酸化鉄のみである請求項
1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項9】
フィルムコーティング層中
に含有される黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~10重量%である請求項
8に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項10】
フィルムコーティング層中
に含有される酸化鉄が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及び黒酸化鉄である請求項
1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項11】
フィルムコーティング層中
に含有される黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.005~1重量%である請求項
10に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項12】
フィルムコーティング層中
に含有される三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~20重量%である請求項
10又は
11に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項13】
フィルムコーティング層中
に含有される黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~5重量%である請求項
10乃至
12のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項14】
メトトレキサートの含有量が素錠100重量%中0.3乃至5重量%である請求項1乃至
13のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項15】
フィルムコーティング層の重量がフィルムコーティング錠の全重量に対して1乃至20重量%である請求項1乃至
14のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項16】
1錠中にメトトレキサートを1mg含有する請求項1乃至
15のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項17】
1錠中にメトトレキサートを2mg含有する請求項1乃至
15のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項18】
1錠中にメトトレキサートを4mg含有する請求項1乃至
15のいずれか一項に記載のフィルムコーティング錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメトトレキサートを含有する光安定性の向上したフィルムコーティング錠に関する。
【背景技術】
【0002】
抗リウマチ剤であるメトトレキサートは、充分な関節炎及び関節破壊抑制作用を持ちながらも重大な副作用が起こることが少ない性質から、リウマチ治療の第一選択薬となっている。しかし、メトトレキサートは曝光量が多い場合には分解を受け、有害な類縁物質が増加し、活性物質としての効力が低下することがある。このようなメトトレキサートの光不安定性のため、メトトレキサートを含有する経口固形製剤には、光に対する安定性を確保するための製剤化技術を施すか、又は遮光保存することが必要とされてきた。
【0003】
従来、光に対して不安定な薬物の製剤化に関しては、薬物の安定性向上のための種々の方法が知られている。例えば、特許文献1には、タール系色素やベンガラ等を含有する硬カプセルにより、活性型ビタミンD3類を安定化したカプセル製剤が開示されている。また、本邦で販売されているメトトレキサート含有カプセル剤も特に遮光保存を必要としないものである。そのために用いられている製剤化技術は、光に不安定な薬物を覆うカプセル皮膜中に着色剤を含有させるというものである。しかしながら、この技術の錠剤への適用は困難である。そのため、日本国内で販売されているメトトレキサートを有効成分とする錠剤には全て遮光保存が義務付けられている。このようなことから、服用のし易さと、医療現場や患者宅での保管のし易さの観点から、遮光保存を必要としない錠剤の開発が求められている。
【0004】
錠剤の光安定性技術として、特許文献2にはジヒドロピリジン誘導体を含有する錠剤に酸化鉄を配合したフィルムをコーティングすることにより、また、特許文献3にはアラニジピンを含有する錠剤に酸化チタン、三二酸化鉄及び黄色三二酸化鉄を配合したフィルムをコーティングすることにより、光に対して安定化された錠剤が、それぞれ開示されている。しかしながら、メトトレキサートについては、こういったフィルムコーティング技術のみで遮光保存が不要となるほど十分な光安定性を確保した錠剤を開示する先行技術文献は見当たらない。また、光安定性を担保できるようにフィルムコーティングの量を多くした場合は実生産で作業性が悪くなる。また、コーティング剤として効果の高い酸化鉄の配合量を増やしすぎると錠剤の色が黒色に近くなるため、外見上好ましくないという問題が生じる。従って、開発する上では、実生産での作業性も良好で、かつ淡色系であっても光安定性を担保した錠剤であることが望まれている。
【0005】
ところで、日本における関節リウマチ治療のためのメトトレキサート製剤の服用方法は、週6mgを1回又は2~3回に分けて服用することになっており、服用量は週16mgまでの増量が認められている。一方、欧米、アジアの国々では、必要があれば週25mgまで使用可能とされている。日本では2mg製剤1規格のみが販売されており、剤型はカプセルとカプレットである。カプセルは遮光保存の必要性はないが、嵩張るため服用しにくい欠点があり、特に1日の服用量が増えた場合はカプセル数が増えて患者の負担となる。一方、カプレットはカプセルより服用しやすい利点があるが、遮光保存しなければならない欠点がある。そこで、服用しやすい錠剤であり、且つ、遮光保存が必要でない製剤の開発が望まれている。さらに、服用負担軽減の観点から高含量の錠剤の開発ニーズも高いと考えられる。
【0006】
従来の含量(以下、適宜「含有量」ともいうが、意味は同じ)より低含量又は高含量の錠剤を開発する場合、医療現場での取り違えを防止し、さらに患者が服用量を間違えないようにするべく、含量規格ごとに異なる色の錠剤にすることがひとつの対策となる。その際、日本国内にて販売されているメトトレキサート製剤はいずれも黄色系の2mgカプセル又はカプレットである。そのため、新たに上市される2mgの規格の錠剤については、黄色又はこれに近い色であることが誤処方防止の観点から好ましい。しかしながら、前記の通り、メトトレキサート製剤は通常のフィルムコーティングのみでは光安定性の担保が難しい。かといって、フィルム層に遮光性の高い酸化鉄を多く配合すれば黒色系の外観となって見た目が悪くなるばかりでなく、それぞれの含量規格の錠剤ごとに明確に異なる色味にすることが困難になる。そのため、淡色系の錠剤であっても光安定性を担保できる技術も必要である。
【0007】
その他の光安定化方法としては、特許文献4に光に不安定な脂溶性薬物に黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質を配合してなる光安定性の向上した組成物が開示されているが、メトトレキサートを含有する光安定な錠剤に関しての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-46122号公報
【文献】特開2003-104888号公報
【文献】特開2003-104887号公報
【文献】特開2000-7583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、有効成分であるメトトレキサートの光による含量低下及び類縁物質の生成を防止した錠剤を提供することである。また、含量規格ごとに異なる色となることにより誤認防止可能な錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
メトトレキサートの化学名は、N-[4[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イルメチル)(メチル)アミノ]ベンゾイル]-L-グルタミン酸である。メトトレキサートは黄褐色の結晶性の粉末であり、光によって徐々に変化するため、保存する際は遮光して保存すべきことが定められている(第十七改正日本薬局方)。
【0011】
本発明者は、1mg、2mg、4mgのメトトレキサートを含有するフィルムコーティング錠を用いた光安定性試験において、フィルムコーティング層に酸化鉄を配合した場合、120万lx・hr以上の曝光量で、無包装状態での含量低下が「錠剤・カプセル剤の無包装状態での安定性試験」(日本病院薬剤師会答申)の「変化なし」の基準である3%未満(以下「日本病院薬剤師会の基準値」という)を満たすことを確認した。しかし、フィルムコーティング層に酸化鉄を配合せず、酸化チタンのみを配合した場合は、4mg錠でのメトトレキサートの含量低下が上記基準を上回るという結果であった。そのため、コーティング層中の酸化チタンを増量した4mg錠と、1mg錠及び2mg錠で最も遮光効果が認められた酸化鉄(三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄)をコーティング層に配合した4mg錠を再度、光安定性試験に供した。その結果、コーティング層中の酸化チタンを増量した製剤においては遮光効果の改善が認められなかった。一方、コーティング層中に酸化鉄を配合した製剤においては、含量低下が0.7%と良好な結果を示した。これらのことから、メトトレキサートの光分解抑制に酸化チタンは効果がなく、酸化鉄は効果があることが示唆された。
【0012】
120万lx・hr以上の曝光量で、無包装(裸錠)状態での含量低下が3%未満の基準を満たした上記の1mg錠、2mg錠及び4mg錠について、純度試験を行った。その結果、4mg錠については類縁物質の生成が抑制されていたが、1mg錠及び2mg錠では、USPの原薬の基準である0.3%(以下「USPの基準値」という)を超える類縁物質の増加が認められた。また、2mg錠では不純物ガイドラインに示される構造決定が必要な閾値である0.2%(以下「不純物ガイドラインの基準値」という)を超える未知ピークも認めた。そのため、3つの含量規格の錠剤全てで類縁物質の増加が抑えられるよう、製剤検討を行った。
【0013】
それまでの検討で、コーティング層中に酸化鉄を含有させるとメトトレキサートの光分解を抑制する効果があることが分かった。しかし、メトトレキサートの類縁物質の生成を抑制するためには、通常のコーティング量では不十分であり、コーティング層の酸化鉄の量を通常より多く配合し、錠剤の色を濃くして効果を高める必要があると考えられた。しかしながら、コーティング量を増量すると実生産では作業性が悪くなり、またコーティング剤中の酸化鉄の量が多くなると錠剤の色が黒色に近づくことから外観上好ましくないという問題が生じた。加えて、医療現場での取り違えを防止すべく3つの含量規格で全て異なる色とするためには、錠剤の色が黒色に近い色にならなくとも、光安定性を担保できるようにする必要があった。特に、先発医薬品と同じ規格である2mg錠においては、それと同系色である黄色から大きく外れないことが好ましいと考えられた。
【0014】
そこで、フィルムコーティング層中の酸化鉄の量は増量せずに、素錠中にも酸化鉄を含有するフィルムコーティング錠を作製し、光安定性試験に供した。その結果、驚くべきことに、淡色でありながら、実生産での作業効率に影響しない通常のコーティング量のままで、光曝露による類縁物質の発生を基準以下に抑えることができた。さらに、3つの含量規格の錠剤全てを異なる色彩のものにすることができ、2mg錠については先発と同様の淡黄色とすることもできた。上述の通り、本発明者は上記課題の解決のため鋭意研究を行った結果、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明は、次のような態様からなるものである。
(1)有効成分としてメトトレキサートを含有し、素錠中及びフィルムコーティング層中に酸化鉄を含有したフィルムコーティング錠。
(2)素錠中に含まれる酸化鉄が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄及び黒酸化鉄から選ばれる1種以上である上記(1)に記載のフィルムコーティング錠。
(3)素錠中に含まれる酸化鉄が三二酸化鉄である上記(2)に記載のフィルムコーティング錠。
(4)素錠中に含まれる酸化鉄の量が素錠全量に対して0.05乃至1・5重量%である上記(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(5)素錠中に含まれる酸化鉄の量が素錠全量に対して0.075乃至1重量%である上記(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(6)素錠中に含まれる酸化鉄の量が素錠全量に対して0.1乃至0.3重量%である上記(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(7)フィルムコーティング層中の酸化鉄が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄及び黒酸化鉄から選ばれる1種以上である上記(1)~(6)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(8)フィルムコーティング層中の酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1乃至20重量%である上記(1)~(7)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(9)フィルムコーティング層中の酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.5乃至15重量%である上記(1)~(7)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(10)フィルムコーティング層中の酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して1乃至10重量%である上記(1)~(7)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(11)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.005乃至10重量%である上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(12)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至5重量%である上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(13)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至4重量%である上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(14)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至20重量%である上記(11)~(13)のいずれかにに記載のフィルムコーティング錠。
(15)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.05乃至10重量%である上記(11)~(13)のいずれかにに記載のフィルムコーティング錠。
(16)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1乃至7重量%である上記(11)~(13)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(17)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01乃至5重量%である上記(11)~(16)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(18)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.05乃至3重量%である上記(11)~(16)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(19)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1乃至1重量%である上記(11)~(16)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(20)フィルムコーティング層中の酸化鉄が黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄である上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(21)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~10重量%である上記(20)に記載のフィルムコーティング錠。
(22)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.3~5重量%である上記(20)に記載のフィルムコーティング錠。
(23)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.5~3重量%である上記(20)に記載のフィルムコーティング錠。
(24)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~10重量%である上記(20)~(23)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(25)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.05~5重量%である上記(20)~(23)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(26)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~1重量%である上記(20)~(23)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(27)フィルムコーティング層中の酸化鉄が黄色三二酸化鉄のみである上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(28)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~10重量%である上記(27)に記載のフィルムコーティング錠。
(29)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.5~5重量%である上記(27)に記載のフィルムコーティング錠。
(30)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して1~4重量%である上記(27)に記載のフィルムコーティング錠。
(31)フィルムコーティング層中の酸化鉄が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及び黒酸化鉄である上記(7)に記載のフィルムコーティング錠。
(32)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.005~1重量%である上記(31)に記載のフィルムコーティング錠。
(33)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~0.5重量%である上記(31)に記載のフィルムコーティング錠。
(34)フィルムコーティング層中の黄色三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~0.1重量%である上記(31)に記載のフィルムコーティング錠。
(35)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~20重量%である上記(31)~(34)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(36)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して1~10重量%である上記(31)~(34)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(37)フィルムコーティング層中の三二酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して2~7重量%である上記(31)~(34)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(38)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.01~5重量%である上記(31)~(37)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(39)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.05~3重量%である上記(31)~(37)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(40)フィルムコーティング層中の黒酸化鉄の含有量がフィルムコーティング層全量に対して0.1~1重量%である上記(31)~(37)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(41)メトトレキサートの含有量が素錠100重量%中0.3乃至5重量%である上記(1)~(40)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(42)さらに賦形剤を含有してなる上記(1)~(41)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(43)フィルムコーティング層の重量がフィルムコーティング錠の全重量に対して1乃至20重量%である上記(1)~(42)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(44)フィルムコーティング層の重量がフィルムコーティング錠の全重量に対して2乃至10重量%である上記(1)~(42)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(45)フィルムコーティング層の重量がフィルムコーティング錠の全重量に対して4乃至8重量%である上記(1)~(42)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(46)1錠中にメトトレキサートを1mg含有する上記(1)~(45)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(47)1錠中にメトトレキサートを2mg含有する上記(1)~(45)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(48)1錠中にメトトレキサートを4mg含有する上記(1)~(45)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(49)直径が6.5mm~7.5mm及び厚さが3.0mm~4.0mmである上記(1)~(48)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
(50)重量が130~170mgである上記(1)~(49)のいずれかに記載のフィルムコーティング錠。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光の曝露を受けてもメトトレキサート含量の低下がほとんど起こらず、類縁物質の生成が少ないため、遮光保存の必要のないメトトレキサート含有フィルムコーティング錠を提供することが可能である。また、外観上好ましい淡色系の色彩にすることもでき、メトトレキサート含量の異なる錠剤を誤って処方あるいは服用するのを防止できるように、含量規格ごとに色彩の異なる錠剤とすることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のメトトレキサート含有フィルムコーティング錠( 以下、単に「本錠剤」と称する場合がある。) は、有効成分であるメトトレキサートと、酸化鉄を素錠部分に含み、さらに酸化鉄をフィルムコーティング層中に含むことを特徴とする。
【0018】
本錠剤の素錠部分に含有される酸化鉄としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等が使用できる。これらの酸化鉄は組み合わせることもできるが、特に好ましいのは三二酸化鉄である。三二酸化鉄とは示性式Fe2O3 によって表される化合物である。すなわち、本明細書において用語「三二酸化鉄」は、黄色三二酸化鉄( Fe2O3 ・H2O ) を含まない。
【0019】
素錠中の酸化鉄の含有量は特に制限されないが、素錠全量に対して、通常0.05~1.5重量% 、好ましくは0.075~1重量% 、特に好ましくは0.1~0.3 重量% の範囲とすることができる。素錠中の酸化鉄の含有量が上記範囲未満であると、メトトレキサートの光安定性が十分に得られない場合があり好ましくない。また、酸化鉄の含有量が上記範囲を超えると、錠剤の色が服用者に好ましくなくなる場合がある。
【0020】
フィルムコーティング層のフィルムコーティング錠全量に対する重量比は特に限定されないが、通常1~20重量%、好ましくは2~10重量%、特に好ましくは4~8重量%の範囲とすることができる。フィルムコーティング層の重量が上記範囲未満であると、メトトレキサートの光安定性改善効果が十分に得られない場合がある。また、フィルムコーティング層の重量が上記範囲を超えると、コーティング時間が長くなり、実生産では作業性が悪い。また、錠剤の色が服用者に好ましくなくなる場合がある。
【0021】
本錠剤のフィルムコーティング層中に含まれる酸化鉄としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等が使用でき、目的とする色彩に応じて単独で、あるいは組み合わせて使用することも可能である。酸化鉄を配合したプレミックスのフィルムコーティング剤等も市販品として用いることができる。
【0022】
フィルムコーティング層中の酸化鉄の含有量は特に制限されないが、フィルムコーティング層全量に対して、通常0.1~20重量%、好ましくは0.5~15重量%、特に好ましくは1~10重量%の範囲とすることができる。酸化鉄として黄色三二酸化鉄を単独あるいは他の酸化鉄と組み合わせて用いる場合の含有量は特に制限されないが、通常0.005~10重量%、好ましくは0.01~5重量%、特に好ましくは0.01~4重量%の範囲とすることができる。酸化鉄として三二酸化鉄を単独あるいは他の酸化鉄と組み合わせて用いる場合の含有量は特に制限されないが、通常0.01~20重量%、好ましくは0.05~10重量%、特に好ましくは0.1~7重量%の範囲とすることができる。酸化鉄として黒酸化鉄を単独あるいは他の酸化鉄と組み合わせて用いる場合の含有量は特に制限されないが、通常0.01~5重量%、好ましくは0.05~3重量%、特に好ましくは0.1~1重量%の範囲とすることができる。
【0023】
フィルムコーティング層に黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を組み合わせて用いた場合の含有量は特に制限されないが、フィルムコーティング層全量に対して、黄色三二酸化鉄は通常0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%、特に好ましくは0.5~3重量%の範囲に、三二酸化鉄は、通常0.01~10重量%、好ましくは0.05~5量%、特に好ましくは0.1~1重量%の範囲にそれぞれすることができる。
【0024】
フィルムコーティング層に黄色三二酸化鉄のみを用いた場合の含有量は特に制限されないが、フィルムコーティング層全量に対して、通常0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%、特に好ましくは1~4重量%の範囲とすることができる。
【0025】
フィルムコーティング層に黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及び黒酸化鉄を組み合わせて用いた場合の含有量は特に制限されないが、フィルムコーティング層全量に対して、黄色三二酸化鉄は通常0.005~1重量%、好ましくは0.01~0.5重量%、特に好ましくは0.01~0.1重量%の範囲に、三二酸化鉄は、通常0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%、特に好ましくは2~7重量%の範囲に、黒酸化鉄は通常0.01~5重量%、好ましくは0.05~3重量%、特に好ましくは0.1~1重量%の範囲にそれぞれすることができる。
【0026】
メトトレキサートは光曝露に起因して分解し類縁物質を生じる。その結果、薬物組成物中のメトトレキサート含量が低下する。しかしながら、メトトレキサートを含有するフィルムコーティング錠の素錠中及びフィルムコーティング層中の両方に酸化鉄が存在すると、光曝露に起因する類縁物質の生成が顕著に抑制される。特に、三二酸化鉄は、酸化鉄の中でもその効果が最も高い。フィルムコーティング層と素錠の両方に三二酸化鉄を含有させることで、メトトレキサートの十分な光安定性の向上効果が発揮される。
【0027】
本発明のフィルムコーティング錠は、本発明の効果を損なわない限り、素錠中に慣用の担体成分又は添加剤を含んでいてもよい。担体成分又は添加剤としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、保存剤、溶解補助剤、界面活性剤、流動化剤、可塑剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、甘味剤、着香剤、吸着剤、防腐剤、湿潤剤などが例示できる。これらの担体成分又は添加剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
賦形剤としては、例えば、糖アルコール(D-ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、粉末還元麦芽糖水飴など)、糖類(乳糖、ブドウ糖、果糖、白糖など)及びその水和物、結晶セルロース、粉末セルロース、デンプン類(バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプンなど)、デキストリン、βーシクロデキストリン、カルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降性炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、乳酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、タルク、カオリンなどが例示できる。
【0029】
崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース類(例えば、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース・カルメロースナトリウムなど)、カルボキシメチルスターチ類(例えば、カルボキシメチルスターチナトリウムなど)、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシメチルスターチナトリウム、デンプン類(トウモロコシでん粉など)、アルギン酸、ベントナイトなどが例示できる。好ましくは、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシメチルスターチナトリウムが例示できる。より好ましくは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムが例示できる。これらの崩壊剤は、一種を単独で使用してもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0030】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、ポリエチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、カルナウバロウ、ラウリル硫酸ナトリウム、ミツロウ、サラシミツロウなどが例示できる。これらの滑沢剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの滑沢剤のうち、ステアリン酸マグネシウムなどのステアリン酸塩が汎用される。
【0031】
流動化剤としては、軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素などが例示できる。
【0032】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
フィルムコーティング層中の酸化鉄の種類及び含有量と、得られた錠剤を光曝露した際の類縁物質の生成との関係を調べた。結果は表2~9の通りであった。以下、説明する。
表2に示した処方No.1~No.3に従い、2mg錠については、メトトレキサート0.2kg、結晶セルロース3.58kg、トウモロコシデンプン2.00kg、乳糖水和物7.47kg、クロスカルメロースナトリウム0.87kg及び三二酸化鉄0.03kgを量り取った。量り取った粉末を、高速撹拌造粒機(FG-GS-50、深江パウテック)に投入し、予備混合した。混合末に精製水2.00kgを加え、撹拌造粒し、流動層乾燥機(2011-141、Jeil Machine)を用いて乾燥した。オシレーター整粒機を用いて整粒し、14.15kgの顆粒を得た。得られた顆粒をダブルコーンミキサー(SY-M、BOSEONG machine)に投入し、軽質無水ケイ酸0.10kg、ステアリン酸マグネシウム0.25kgを加えて混合を行い、顆粒を得た。1mg錠については、上記2mg錠の製造法のうち、メトトレキサートの配合量を0.1kg、乳糖水和物の配合量を7.57kgとして同様に顆粒を得た。4mg錠については、上記2mg錠の製造法のうち、メトトレキサートの配合量を0.4kg、乳糖水和物の配合量を7.27kgとして同様に顆粒を得た。
【0034】
1mg錠、2mg錠及び4mg錠の素錠は径7.0mmの臼(ウス)・杵(キネ)を用いて、ロータリー打錠機(HT-P22-A-3、畑鉄工所)で14.50kgの素錠を製造した。
【0035】
表2の実施例の処方No.1~No.3に示す通り、フィルムコーティング液として、1mg錠には黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を配合したものを、2mg錠には黄色三二酸化鉄のみを配合したものを、4mg錠には黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及び黒酸化鉄を配合したものをそれぞれ用いた。素錠14.50kgをコーティング装置に投入し、処方量までコーティングした。乾燥後、1錠中メトトレキサートを1mg、2mg、4mg含有するフィルムコーティング錠(重量155mg、直径7.0mm、厚さ3.5mm)を得た。
【0036】
(比較例1~3)
表4、6及び8の比較例1~3(処方No.4~No.18)に示す通り、素錠部分に三二酸化鉄を配合せず、フィルムコーティング層中の酸化鉄の種類及び量をいろいろに変化させ、その他の添加物の配合量を微調整した以外は実施例と同様の操作を行い、メトトレキサートを含有したフィルムコーティング錠を得た。
【0037】
(光安定性試験)
実施例及び比較例で得られたフィルムコーティング錠の光安定性試験を以下の条件で行った。各フィルムコーティング錠をシャーレ上に均一に配置し、25℃、60%RHに保たれた恒温恒湿槽内で、3500lxで15日間、又は4000lxで13日間、積算照度が125万lx・hr以上となるように照射した。
【0038】
(定量試験)
上記光曝露後、日局の方法に準じて試料溶液を調製し、液体クロマトグラフィーにより、メトトレキサートのピーク面積を測定することにより、その含量を測定した。結果を表3、5、7及び9に示す。比較例1において、フィルムコーティング層中に酸化鉄を含有せず、酸化チタンのみを含有した処方No.6及び7においては、メトトレキサートの含量低下が日本病院薬剤師会の基準値である3%を上回った。一方、フィルムコーティング中に酸化鉄を配合したその他の処方(No.4、5、8~9及び11~18)については、含量低下が同基準値以下であった。試験条件は下記のとおりである。
〔試験条件〕
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:302nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする(例えば、和光純薬製Wakopak(登録商標)Wakosil-II5C18HG)。
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:無水リン酸二水素ナトリウム6.00gを水に溶かし、1000mLとした液に、水酸化ナトリウム試液を加えてpH6.0に調整する。この液890mLにアセトニトリル110mLを加える。
流量:毎分1.0mL
【0039】
(純度試験)
光曝露後、日局の方法に準じて、定量試験の試料原液を孔径0.45 μm以下のメンブランフィルターでろ過し、初めのろ液1mL以上を除き、次のろ液に、表示量に従い、1mL中にメトトレキサートを約0.2mgを含む液となるように定量法の移動相を加えて試料溶液とした。液体クロマトグラフィーにより、類縁物質B、C及びEの生成量を測定した。
類縁物質Bは、化学名(S)-2-〔4-〔(2、4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチルアミノ〕ベンズアミド〕ペンタンジオン酸であり、生殖毒性があり、発がん性も疑われる物質である。
類縁物質Cは、化学名(S)-2-(4-〔〔(2-アミノ-4-オキソ-1、4-ジヒドロプテリジン-6-イル)メチル〕(メチル)アミノ〕ベンズアミド)ペンタンジオン酸である。
類縁物質Eは、化学名4-〔〔(2、4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル〕(メチル)アミノ〕安息香酸であり、アレルギー性皮膚反応を引き起こす可能性がある物質である。
測定結果を表3、5、7及び9に示す。試験条件は後述のとおりである。
比較例1の処方No.4~6及び8においては、いずれかの類縁物質がUSPの基準値0.3%以上であるか、不純物ガイドラインの基準値の0.2%以上の未知ピークが1個以上見られた。
比較例2の処方No.9及び10においても同様に、いずれかの類縁物質がUSPの基準値0.3%以上であるか、不純物ガイドラインの基準値の0.2%以上の未知ピークが1個以上見られた。また、処方No.11においては、素錠中に酸化鉄を含有せずに光安定性を担保できたが、コーティング層が厚く、実生産での作業性が悪いと評価された。また比較例2においては、2mg錠及び4mg錠の2規格(処方No.12~15)で光安定性を担保でき、異なる色とすることができたが、1mg錠が基準を満たさなかった。
比較例3の処方No.16~18についても素錠中に酸化鉄を含有せずに光安定性を担保できたが、いずれも橙色系の似通った外観となり、規格ごとに異なる色味とすることができなかった。
〔試験条件〕
検出器:紫外吸光光度計(測定波長280nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする(例えば、和光純薬製Wakopak(登録商標)Wakosil-II5C18HG)。
カラム温度:25℃付近の一定温度
pH6.0のリン酸塩緩衝液:無水リン酸二水素ナトリウム3.40gを水に溶かし、1000mLとした液に、水酸化ナトリウム試液を加えてpH6.0に調整する。
移動相A:アセトニトリル/pH6.0のリン酸塩緩衝液混液(1:19)
移動相B:アセトニトリル/pH6.0のリン酸塩緩衝液混液(1:1)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
素錠中の酸化鉄の種類及び量と、得られた素錠を光曝露した際の類縁物質との関係については表10の通りであった。
酸化鉄を一切用いないもの[1]に比べ、いずれかの酸化鉄を用いた[2]~[4]では類縁物質の増加を抑えることができた。
酸化鉄としては三二酸化鉄を単独で用いたもの[2]が、黄色三二酸化鉄を単独で用いたもの[3]、三二酸化鉄と黄色三二酸化鉄の組み合わせたもの[4]と比べて類縁物質の増加の割合が低い結果が得られた。また、0.2%以上及び0.5%以上の未知ピークの個数についても、三二酸化鉄を単独で用いた[2]が最も少なかった。このことから、素錠中に三二酸化鉄を単独で用いることで、メトトレキサートの光安定性を向上させることができることが分かった。また、配合する三二酸化鉄の量にはついては、0.2~0.4mg(素錠全体に対して0.1~0.3重量%)程度が必要であることが示された。
【0050】
【0051】
以上の結果より、実施例で製造したメトトレキサート含有フィルムコーティング錠は、フィルムコーティング層中に酸化鉄を配合することにより、光曝露によるメトトレキサート含量の低下を基準値以下に抑えることができた。また、フィルムコーティング層中の酸化鉄の選択や含有量により淡色系の外観にした場合でも、酸化鉄を素錠中に配合することにより、メトトレキサート含量の低下を抑え、類縁物質の生成を基準値以下にでき、未知ピークの個数も抑えることができた。さらに、1mg錠、2mg錠、4mg錠をそれぞれ異なる色味の外観とすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るメトトレキサート含有フィルムコーティング錠は、光曝露後も有効成分の含量低下や類縁物質の増加が基準値以下に抑えられるため、遮光保存を必要としないものである。また、含量規格ごとに異なる色を付すこともできるため、患者や医療関係者に識別性を確保でき、利便性が高いものである。