(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】人工水晶体嚢
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2018567542
(86)(22)【出願日】2018-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2018004923
(87)【国際公開番号】W WO2018147463
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2017024097
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健太郎
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0202040(US,A1)
【文献】特開2014-090772(JP,A)
【文献】特開2016-174762(JP,A)
【文献】特表2013-501598(JP,A)
【文献】特表2003-505196(JP,A)
【文献】米国特許第06797004(US,B1)
【文献】特開平08-317943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズ固定デバイスであって、
デバイス支持部(A)と
該デバイス支持部(A)に連結された眼内レンズ収容部(B)と
を備え、
該デバイス支持部(A)は毛様溝に適合する形状の枠体を有し、
該眼内レンズ収容部(B)は、該デバイス支持部の枠体から内側に延設された延設部と、該延設部の内側端部から内側に延びた保持片とを有し、
該延設部は、該枠体により形成される第1平面と、該眼内レンズ収容部(B)により形成される第2平面との間の間隔を形成するように構成されており、該間隔は眼内レンズが天然の水晶体嚢に固定されると屈折度に変化がない距離であ
り、
該保持片が、該枠体の半径方向に走るスリットを複数有する、
眼内レンズ固定デバイス。
【請求項2】
前記眼内レンズ収容部(B)は内腔が形成された袋部を有し、該袋部内で視軸を中心として眼内レンズを回転可能に収納し得る、請求項1に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項3】
前記袋部は、眼内レンズを保持するための挟持部を有する、請求項2に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項4】
前記挟持部は対で構成され、該対が前記眼内レンズを挟持するように構成される、請求項3に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項5】
前記挟持部は複数対で構成され、該複数対が前記眼内レンズを挟持するように構成される、請求項3または4に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項6】
前記挟持部は、前記視軸方向に弾性的に変形可能であり、前記眼内レンズを弾性的に保持し得る、請求項3~5のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項7】
前記挟持部が、前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部に配置される、請求項3~6のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項8】
前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部が、前記眼内レンズ収容部の内周から半径方向に1.5mm未満の範囲である、請求項7に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項9】
前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部が、前記眼内レンズ収容部の内周から半径方向に0.5mm未満の範囲である、請求項8に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項10】
第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.1~1.5mmである、請求項7~9のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項11】
第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.3~1.2mmである、請求項10に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項12】
第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.5~1.0mmである、請求項11に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項13】
第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が、眼内レンズ収容部の前記挟持部以外の部分の間の距離と同等であるか、またはより広い、請求項7~12のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項14】
前記枠体の断面の重心と前記枠体外表面との最短距離が0.05~0.3mmである、請求項1~13のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項15】
前記袋部は、前記内腔から前記枠体方向に拡がる空間部を有する、請求項2~14のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項16】
前記空間部は、前記眼内レンズの光学部を少なくとも部分的に収容可能である、請求項15に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項17】
水晶体嚢を損傷または欠失した眼に使用されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項18】
前記枠体が、円弧状の部分を有する、請求項1~17のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項19】
前記枠体の形状が多角形であり、2つ以上の円弧状の部分を有する、請求項18に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項20】
前記枠体の形状が多角形であり、3つ以上の円弧状の部分を有する、請求項19に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項21】
前記枠体は環状、C字形状または略円形の形状である、請求項1~20のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項22】
前記デバイス支持部が、毛様溝の半周以上接する長さである、請求項1~21のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項23】
前記眼内レンズ収容部(B)が、弾性変形可能な構造である、請求項1~22のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項24】
前記眼内レンズ収容部(B)が、弾性変形可能な材料から構成される、請求項1~
23のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項25】
前記デバイス支持部が切開部分から挿入できるよう偏平形状に変形可能である、請求項1~
24のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項26】
前記眼内レンズ収容部(B)はC字形状を有し、その先端部に円弧状の部分を有する、請求項1~
25のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項27】
前記眼内レンズ収容部(B)が、2つ以上の円弧状の部分を有する、請求項
26に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項28】
前記眼内レンズ収容部(B)が、3つ以上の円弧状の部分を有する、請求項
27に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項29】
前記デバイス支持部が、切開部分から挿入できるサイズを有する、請求項1~
28のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項30】
前記間隔が1~3mmである、請求項1~
29のいずれか一項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項31】
前記枠体の断面形状は実質的に円形または楕円形である、請求項1~
30のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項32】
前記枠体の外面はアール部(曲線部)を有する、請求項1~
31のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項33】
前記保持片は、眼内レンズを保持するための平行に配設された一対の挟持片を有する、請求項1に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項34】
前記延設部が、前記支持部の枠体により形成される第1平面に対して30~60度の角度で傾斜している、請求項1または
33に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項35】
注入器によって注入可能な形状を有する、請求項1~
34のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
【請求項36】
眼内レンズを挿入するための固定キットであって、
a)請求項1~
35のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイスと、
b)該固定デバイスを注入するための注入器と
を備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科分野の発明に関する。より詳細には、本発明は眼内に移植される眼内レンズを固定するための固定デバイス、すなわち人工水晶体嚢に関する。一局面では、本発明のデバイスは、白内障等の眼科障害によって機能が損なわれた水晶体の代わりに、または水晶体嚢自体までも喪失した場合に使用することができるものである。本発明のデバイスはまた、水晶体嚢破損、水晶体脱臼、眼内レンズ脱臼等の眼障害によって機能が損なわれた水晶体支持組織(水晶体嚢、チン小帯)の代わりに使用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
白内障手術では、濁った水晶体の代わりとなる眼内レンズを眼内に挿入し、通常は、もともとの水晶体の支持体である水晶体嚢の中に眼内レンズを固定する(嚢内固定)。
【0003】
この嚢内固定に使用される眼内レンズとして、
図14に示すレンズ支持部30を備えた眼内レンズ3が一般に使用されている。
【0004】
図14A、BおよびCに示す眼内レンズ3は、それぞれ摘出された水晶体の代わりに水晶体嚢内に移植して固定するものである。これらの眼内レンズ3は、凸レンズの形を有する光学部31と、この光学部31の外周部から外側に延びる複数対のレンズ支持部30,30を備えている。
図14Aに示す眼内レンズ3は光学部31と支持部30を別々の素材で作り接合した(光学部と二つの支持部からなる)3ピーズレンズである。
図14Bに示す眼内レンズ3はプレート型の支持部30を有するもの、
図14Cに示す眼内レンズ3は光学部31と支持部30を同一の素材で作った1ピーズレンズである。
【0005】
従来、この眼内レンズ3を眼内に固定するには(嚢内固定)、
図1Bに示すように、手術によって水晶体嚢35内から摘出された水晶体の代わりに、眼内レンズ3の光学部31が水晶体嚢35の前嚢に形成された創口内腔に位置するようにし、かつレンズ支持部30の周縁部が水晶体嚢35の赤道部分に位置するようにして、眼内レンズ3を水晶体嚢35内に固定する(図中、40は眼球の前面に存在する角膜、41は毛様体、42はそこから繋がるチン小帯、43は強膜、44は網膜である。)。
【0006】
ところで、水晶体嚢35の破損や水晶体を支えるチン小帯42の断裂等の原因により嚢内固定ができない場合、従来では毛様溝固定や強膜への縫着等の代替法が実施されている。
【0007】
しかし、これらの代替法では、通常の嚢内固定で可能な乱視矯正レンズや多焦点眼内レンズを固定することができない。
【0008】
図16に乱視矯正レンズを眼内に固定する場合、
図17および
図18に多焦点眼内レンズを眼内に固定する場合に手術者または患者にとって障害になる点をそれぞれ示す。
【0009】
乱視矯正レンズを眼内に固定する場合、嚢内固定では、
図16Aの上図から下図のように視軸を中心として乱視矯正レンズ3を回転させ乱視の方向に合致した方向にレンズ3を固定する必要がある。しかし、毛様溝固定では水晶体嚢35の上に眼内レンズを乗せるため、眼内レンズの種類は
図14Aに示す支持部30を持つ眼内レンズ3に限定される(
図14Bおよび
図14Cの眼内レンズ3では支持部30の強度が不足するため毛様溝固定できない。)。また、
図16Bに示すように、水晶体嚢35の一部が欠損している状態では、レンズ3の固定の角度は限定され、
図16Bの下図のようにレンズ3の支持部30が欠損部からはみ出した状態でレンズ3を固定することはできない。さらに、
図16Cに示すように、強膜への縫着では縫合糸32でレンズ支持部30を強膜に縫着する手技上、レンズの種類は
図14Aに示す支持部30を持つ眼内レンズ3に限定される。
図14Bおよび14Cに示す眼内レンズ3では支持部30の強度が不足し、またその形状ゆえに縫着できない。さらに視軸を中心として乱視と一致する方向に回転した上でレンズ3を固定することは技術的に極めて煩雑で困難である。
【0010】
多焦点眼内レンズを眼内に固定する場合、多焦点眼内レンズは入射光を近用と遠用に振り分ける光学性質上、固定の際の視軸の前後方向のずれが手術の成否に決定的な影響を及ぼすが、毛様溝固定や強膜への縫着といった手段では
図14に示す支持部30を持つ眼内レンズ3を嚢内固定と同じ視軸上の位置に固定することはできない。
【0011】
これを具体的に説明する。
図17Bは、多焦点眼内レンズ3を天然水晶体嚢35に固定した場合を示し、
図17Aは多焦点眼内レンズ3を毛様溝36に固定した場合を示している。
図17Aのように多焦点眼内レンズ3を毛様溝36に固定した場合、該レンズ3と角膜40の正面側との間の距離H1は、
図17Bのように水晶体嚢35内に固定した場合における眼内レンズ3と角膜40の正面側との間の距離H2と異なるため、レンズ3を通過する入射光ILの焦点が網膜44に合わない。
【0012】
図18Bは、上記と同様に多焦点眼内レンズ3を天然水晶体嚢35に固定した場合を示し、
図18Aは多焦点眼内レンズ3を強膜43に逢着した場合を示している。多焦点眼内レンズ3を強膜43に逢着した場合も
図17Aの場合と同様に、レンズ3を嚢内固定と同じ視軸上の位置に固定することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に対し、どのような種類の眼内レンズであっても固定することができる眼内レンズ固定デバイスを提供する。
【0014】
本発明はまた、乱視矯正眼内レンズを固定する場合でも、視軸を中心としてレンズを回転させ乱視の方向に合致した方向に眼内レンズを固定することができる眼内レンズ固定デバイスを提供する。
【0015】
本発明はさらに、多焦点眼内レンズを眼内に固定する場合でも、眼内レンズを嚢内固定と同じ視軸上の位置に固定することができる眼内レンズ固定デバイスを提供する。
【0016】
本発明はまた、弾性変形性に優れた構造を有し、眼内へ容易に挿入可能で、かつ挿入時に組織を傷つけるおそれもない眼内レンズ固定デバイスを提供する。
【0017】
本発明はさらに、構成が比較的簡略で製造コストを低減できる眼内レンズ固定デバイスを提供する。
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は以下を特徴とする。
(1)眼内レンズ固定デバイスであって、
デバイス支持部(A)と
該デバイス支持部(A)に連結された眼内レンズ収容部(B)と
を備え、
該デバイス支持部(A)は毛様溝に適合する形状の枠体を有する、
眼内レンズ固定デバイス。
(2)前記眼内レンズ収容部(B)は内腔が形成された袋部を有し、該袋部内で視軸を中心として眼内レンズを回転可能に収納し得る、項目1に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(3)前記袋部は、眼内レンズを保持するための挟持部を有する、項目2に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(4)前記挟持部は対で構成され、該対が前記眼内レンズを挟持するように構成される、項目3に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(5)前記挟持部は複数対で構成され、該複数対が前記眼内レンズを挟持するように構成される、項目3または4に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(6)前記挟持部は、前記視軸方向に弾性的に変形可能であり、前記眼内レンズを弾性的に保持し得る、項目3~5のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(7)前記挟持部が、前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部に配置される、項目3~6のいずれか1項に記載の方法。
(8)前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部が、前記眼内レンズ収容部の内周から半径方向に1.5mm未満の範囲である、項目7に記載の方法。
(9)前記眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部が、前記眼内レンズ収容部の内周から半径方向に0.5mm未満の範囲である、項目8に記載の方法。
(10)第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.1~1.5mmである、項目7~9のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(11)第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.3~1.2mmである、項目10に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(12)第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が0.5~1.0mmである、項目11に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(13)第1の挟持片および第2の挟持片の前記内周周縁部の挟持部間の距離が、眼内レンズ収容部の前記挟持部以外の部分の間の距離と同等であるか、またはより広い、項目7~12のいずれか1項に記載の方法。
(14)前記枠体の断面の重心と前記枠体外表面との最短距離が0.05~0.3mmである、項目1~13のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(15)前記袋部は、前記内腔から前記枠体方向に拡がる空間部を有する、項目2~14のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(16)前記空間部は、前記眼内レンズの光学部を少なくとも部分的に収容可能である、項目15に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(17)水晶体嚢を損傷または欠失した眼に使用されることを特徴とする、項目1~16のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(18)前記枠体が、円弧状の部分を有する、項目1~17のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(19)前記枠体が、2つ以上の円弧状の部分を有する、項目18に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(20)前記枠体が、3つ以上の円弧状の部分を有する、項目19に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(21)前記枠体は環状、C字形状または略円形の形状である、項目1~20のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(22)前記デバイス支持部が、毛様溝の半周以上接する長さである、項目1~21のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(23)前記眼内レンズ収容部(B)が、弾性変形可能な構造である、項目1~22のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(24)前記眼内レンズ収容部(B)が、前記枠体の半径方向に長いスリットを有する、項目1~23のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(25)前記眼内レンズ収容部(B)が、弾性変形可能な材料から構成される、項目1~24のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(26)前記デバイス支持部が切開部分から挿入できるよう偏平形状に変形可能である、項目1~25のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(27)前記眼内レンズ収容部(B)はC字形状を有し、その先端部に円弧状の部分を有する、項目1~26のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(28)前記眼内レンズ収容部(B)が、2つ以上の円弧状の部分を有する、項目27に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(29)前記眼内レンズ収容部(B)が、3つ以上の円弧状の部分を有する、項目28に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(30)前記デバイス支持部が、切開部分から挿入できるサイズを有する、項目1~29のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(31)前記枠体により形成される第1平面と、前記眼内レンズ収容部(B)により形成される第2平面との間に間隔があり、該間隔は眼内レンズが天然の水晶体嚢に固定されると屈折度に変化がない距離である、項目1~30のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(32)前記間隔が1~3mmである、項目31に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(33)前記枠体の断面形状は実質的に円形または楕円形である、項目1~32のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(34)前記枠体の外面はアール部(曲線部)を有する、項目1~33のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(35)前記眼内レンズ収容部(B)は、デバイス支持部の枠体から内側に延設された延設部と、該延設部の内側端部から内側に延びた保持片とを有する、項目1~34のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(36)前記保持片は、眼内レンズを保持するための平行に配設された一対の挟持片を有する、項目35に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(37)前記延設部が、前記支持部の枠体により形成される第1平面に対して30~60度の角度で傾斜している、項目35または36に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(38)注入器によって注入可能な形状を有する、項目1~37のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイス。
(39)眼内レンズを挿入するための固定キットであって、
a)項目1~38のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイスと、
b)該固定デバイスを注入するための注入器と
を備えるキット。
(40)眼内レンズを眼内に挿入する方法であって、
a)項目1~38のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入し、前記デバイス支持部(A)の枠体を毛様溝に適合させる工程と、
b)眼内レンズを該眼内レンズ固定デバイスの眼内レンズ収容部(B)に固定する工程と、
を包含する、方法。
(41)前記眼内レンズ固定デバイスは、眼の切開部分から挿入される、項目40に記載の方法。
(42)前記眼内レンズ固定デバイスは、注入器を用いて眼内に挿入される、項目41または26に記載の方法。
(43)前記眼内レンズ固定デバイスを眼の切開部分から眼内に挿入する工程が、該眼内レンズ固定デバイスを注入するための注入器を提供する工程と、該注入器を用いて眼の開口部分から眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入する工程と、を包含する、項目40~42のいずれか1項に記載の方法。
(44)前記方法は、
a)項目1~38のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイスを注入するための第1の注入器を提供する工程と、
b)該眼内レンズ固定デバイスを、該第1の注入器を用いて眼の切開部分から眼内に挿入する工程と、
c)眼内レンズを注入するための第2の注入器を提供する工程と、
d)該眼内レンズを、該第2の注入器を用いて眼の切開部分から該眼内レンズ固定デバイスの前記眼内レンズ収容部(B)内に収容する工程と、
を包含する、項目40~43のいずれか1項に記載の方法。
【0019】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、以下の効果を有する。
【0021】
本発明の眼内レンズ固定デバイスは、毛様溝に適合する形状の枠体を有するので、水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に本発明のデバイスを固定でき、そして、デバイスの眼内レンズ収容部にどのような種類の眼内レンズであっても収容し、固定することができる。またデバイスの構造が簡略化でき変形性にも優れている。さらに枠体を利用して毛様溝に固定するので、構造が簡略化でき製造コストを低減することもできる。
【0022】
さらに、眼内レンズ収容部は内腔が形成された袋部を有し、該袋部内で視軸を中心として眼内レンズを回転可能に収納し得るよう構成すると、乱視矯正の追加機能を持つ乱視矯正眼内レンズをこのデバイスで固定する際に、患者の乱視の軸を矯正するように、眼内レンズを収容部の袋部内で回転させて固定角度を変えることができる。
【0023】
本発明により、従来の眼内レンズ固定デバイスに対して改善された効果が奏される。
【0024】
例えば、従来提案されているデバイスの多くは水晶体嚢内に埋め込まれるものが多いが、これらに対しては、水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に適用できるという利点を有する。
【0025】
水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に適用できるデバイスでは、該デバイスに使用される光学部品はデバイスに適合するよう形状が特定されており、
図14および
図15に示す様々な種類の眼内レンズをデバイスに固定することはできないが、本発明ではこのような形状にも対応することができる。特に、乱視矯正レンズを眼内に固定する場合、上記のように視軸を中心として乱視矯正レンズを回転させ乱視の方向に合致した方向にレンズをデバイスに固定する必要があるが、従来のデバイスでは眼内レンズを回転可能に収納することができず、しかも眼内レンズをデバイスに固定した後でもレンズが偏位することがあったが、これらも克服した。さらに、眼内レンズがデバイス内で視軸方向に移動する構成の場合には、多焦点眼内レンズをデバイス内に適切に固定することができない。さらに、固定用の支持部を設けたデバイスでは、該デバイスを眼内に挿入する際に組織を傷つけるおそれがあり、またデバイスの構造が複雑となり、製造コストが高くなるが、本発明はこのような点にも対応できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(A)は本発明の一実施形態の眼内レンズ固定デバイスの取付状態を示す断面図である。
図1(B)は天然水晶体嚢内に眼内レンズを固定した状態を示す断面図である。
【
図2】
図1(A)に示す眼内レンズ固定デバイスの正面図であり、
図2(A)および
図2(B)は、デバイスの眼内レンズ収容部内で眼内レンズを視軸周りで回転させた状態を示す。
【
図3】
図3(A)、(B)、(C)は、
図1(A)に示す眼内レンズ固定デバイスの斜視図、正面図、および側面図である。
【
図4】
図4(A)、(B)、(C)は、
図2(A)に示す眼内レンズ固定デバイスに眼内レンズを収容した状態の断面図である。
図4(D)は、眼内レンズ収容部の内周周縁部を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4(A)に示す眼内レンズ固定デバイスの第1平面と第2平面との間隔を示す説明図である。
【
図6】
図6は、
図1(A)に示す眼内レンズ固定デバイスの作用説明図である。
【
図7A-C】
図7(A)、(B)、および(C)は、実施形態2の眼内レンズ固定デバイスの斜視図、正面図、および側面図である。
【
図7D】
図7(D)は、実施形態2の眼内レンズ固定デバイスの断面図である。
【
図8A-C】
図8(A)、(B)、および(C)は、実施形態3の眼内レンズ固定デバイスの斜視図、正面図、および一部破断側面図である。
【
図8D】
図8(D)は、実施形態3の眼内レンズ固定デバイスの断面図である。
【
図9A-C】
図9(A)、(B)、および(C)は、実施形態4の眼内レンズ固定デバイスの斜視図、正面図、および一部破断側面図である。
【
図9D-E】
図9(D)、および(E)は、実施形態4の眼内レンズ固定デバイスの断面図、および枠体の支持部の要部断面図である。
【
図10A-B】
図10(A)、および(B)は、実施形態5の眼内レンズ固定デバイス内に眼内レンズを収容した状態の正面図、およびそのデバイスの眼内レンズ収容部内で眼内レンズを視軸周りに回転させた状態の正面図である。
【
図10C-E】
図10(C)、(D)、および(E)は、実施形態5の眼内レンズ固定デバイスの正面図、そのデバイスの概略側面図、および連結部材の拡大図である。
【
図12】
図12(A)、および
図12(B)は、
図10に示すデバイスを切開部分に挿入する際に変形させた状態の説明図、
図1に示すデバイスを切開部分に挿入する際に変形させた状態の説明図である。
【
図13】
図13は注入器の先端部にデバイスを挟んだ状態の概略説明図である。
【
図14】
図14(A)、(B)、および(C)は、それぞれ従来の眼内レンズの正面図である。
【
図15】
図15(A)、(B)、および(C)は、通常の単焦点レンズの正面図、乱視補正単焦点レンズの正面図、多焦点レンズの正面図である。
【
図16】
図16(A)、(B)、および(C)は、乱視矯正レンズを眼内に固定する場合の問題点を示す説明図である。
【
図17】
図17(A)および(B)は、多焦点眼内レンズを毛様溝固定する場合、および天然水晶体嚢に固定する場合を示す説明図である。
【
図18】
図18(A)および(B)、多焦点眼内レンズを強膜固定する場合、および天然水晶体嚢に固定する場合を示す説明図である。
【
図19】
図19(A)および(B)は、動物眼における有用性を確認するために3Dプリンターを用いて試作したC字形状の眼内レンズ固定デバイスの正面図および断面図である。
図19(A)は、眼内レンズ固定デバイスver.1を示す図である。
【
図20】
図20は、円弧形状の先端を有する眼内レンズ固定デバイスを示す説明図である。
図20は、眼内レンズ固定デバイスver.3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0028】
本明細書において、「約」、「実質的に」、「本質的に」及び「およそ」等(限定するものではないが)の近似的な単語は、「約」、「実質的に」等であると言及される特徴が厳密に特許請求の範囲において明示的に説明されるものである必要はなく、ある程度は変動してもよいことを意味する。特徴がどの程度まで変動してよいかは、どれくらい大きな変化がその特徴に組み込まれて、変更された特徴が当業者によってなお、変更前の特徴の特性及び機能を有していると認識されることができるかに依存するであろう。一般には、しかし上記の考察に従って、「約」等の近似的な単語によって変更された本明細書における数値は、規定された値から少なくとも±10%変動してもよい。
【0029】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0030】
(眼内レンズ固定デバイス)
本発明は、眼内レンズを眼内に固定するためのデバイスを提供する。
【0031】
本明細書において「眼内レンズ」は、当該分野において慣用されるのと同じ意味を有する。眼内レンズは、白内障手術によって、濁った水晶体を置き換えて使用されている。あるいは、眼内レンズは、患者の視力を改善するために、自己の水晶体を保持しつつ、患者の目に埋め込むことができる。単焦点IOLおよび多焦点IOLの両方が知られている。単焦点IOLが、単一の焦点力を提供する一方で、多焦点IOLは、偽調節として一般に知られる、ある程度の遠近調節を提供するように、複数(通常2つ)の焦点力を提供することができる。
【0032】
本明細書において「眼内レンズ固定デバイス」とは、眼内レンズを眼内で固定する任意のデバイスをいう。通常、眼内レンズ固定デバイスは、そのデバイス自体を支持するためのデバイス支持部と、眼内レンズ収容部とを備える。これらのデバイス支持部と眼内レンズ収容部とは別々の部分として形成されてもよく、一体形成されてもよい。本発明では、有利には、水晶体嚢を損傷または欠失した眼に使用される。固定デバイスは、注入器によって注入可能な形状を有することが好ましい。通常の手術で注入器によって挿入されるからであるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本明細書において「デバイス支持部」とは、眼内レンズ固定デバイスについて用いられ、当該固定デバイス自体を眼内において固定する機能を有する部分をいう。デバイス支持部は、眼内にデバイスを固定することができる限りどのような形状であってもよく、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)、円形、C型などを取り得る。デバイス支持部は、好ましくは、毛様溝に適合する形状の「枠体」を含みうる。本明細書において「枠体」とは、本発明のデバイスのようなデバイス構造を取り囲む任意の部材をいう。本発明の枠体は、デバイス支持部の形状に合わせ任意の形状をとることができ、任意の材質(例えば、生体適合性材料)で作製され、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)、円形、C型などを取り得る。デバイス支持部の直径は、好ましくは10mm以上であり、より好ましくは11~14mmである。この寸法は、一般にヒトの眼の毛様体溝の外径が11mm程度の場合に対応するものであり、デバイスが眼内に埋植されたときの状態を勘案して決定することができる。支持デバイスの形状は、環状または円弧であり得る。あるいは、点対称の形状(たとえば、円形、楕円形、三角形を含む多角形)であることが好ましい。なぜなら、かかる形状は毛様体溝などへの影響(たとえば、組織損傷、炎症の惹起)を軽減するからである。1つの実施形態では、枠体またはデバイス支持部は、環状、C字形状または略円形の形状であり、有利には毛様溝の半周以上接する長さである。好ましい実施形態では、枠体により形成される第1平面と、眼内レンズ収容部(B)により形成される第2平面との間に間隔(例えば、1~3mm)があり、該間隔は眼内レンズが天然の水晶体嚢に固定されると屈折度に変化がない距離である。これにより、任意の眼内レンズを適切に配置することができる。例示的な実施形態では、枠体の断面形状は実質的に円形または楕円形である。好ましくは、枠体の外面はアール部(曲線部)を有する。このアール部を持つことで、生体への傷害を減少または消失させることができる。1つの好ましい実施形態では、眼内レンズ収容部(B)は、デバイス支持部の枠体から内側に延設された延設部と、該延設部の内側端部から内側に延びた保持片とを有する。代表的には、この保持片は眼内レンズを保持するための平行に配設された一対の挟持片を有する。例示的な実施形態では、支持部の枠体により形成される第1平面に対して30~60度の角度で(例えば、30度、35度、40度、45度、50度、55度、60度、あるいはその間の任意の角度)傾斜している。
【0034】
本明細書において「眼内レンズ収容部」とは、眼内レンズを収容する部分を言い、眼内レンズを収容し得る限りどのような形状でも用いることができる。眼内レンズ収容部は、眼内レンズの光学部または支持部を保持することができ、硝子体への落下を防ぐ役割を果たす。眼内レンズ収容部の状としては、円、円弧、楕円のほか、三角、四角を含む多角形などが採用され得る。好ましくは、眼内レンズを保持し、視力矯正を行うため、光線の透過性を攪乱する作用が最も少ないと考えられる眼内レンズの光学部形状と相似な形状が最も有利と考えられる。眼内レンズの光学部の大きさは、一般に5~7mm程度であるため、1つの実施形態では、眼内レンズの光学部より大きいか、または眼内レンズの光学部よりたとえ小さくても有効光学部として3mm以上であることが好ましく、より好ましくは、4~7mmである。
【0035】
デバイス支持部と眼内レンズ収容部とは任意の様式で連結されている。連結の手法は限定されないが、例えば、物理的な結合、化学的な接着等による結合などを挙げることができる。 1つの局面において、本発明は新規形状の眼内レンズ固定デバイスを提供する。本発明の眼内レンズ固定デバイスは、デバイス支持部と、該デバイス支持部に連結された眼内レンズ収容部とを備え、該デバイス支持部は、毛様溝に適合する形状の枠体を有する。本発明では、毛様溝に適合する形状の枠体を有することから、水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に本発明のデバイスを固定でき、それゆえ、任意の形状の眼内デバイスを被験者に適用することができる。好ましい実施形態では、デバイス支持部は切開部分から挿入できるよう偏平形状に変形可能であり、有利にはデバイス支持部は、切開部分から挿入できるサイズを有する。
【0036】
1つの実施形態では、眼内レンズ収容部は内腔が形成された袋部を有し、該袋部内で視軸を中心として眼内レンズを回転可能に収納し得る。例示的な実施例では、眼内レンズ収容部は枠体の半径方向に長いスリットを有し、弾性変形可能な材料から構成されてもよい。眼内レンズ収容部がスリットを有することで、眼内レンズ固定デバイスに可撓性が付加され、その結果、角膜切開創から眼内奥までの挿入時間が短縮され得る。
【0037】
本明細書において「袋部」とは、眼内レンズなどの収容対象を少なくとも一部包み込むことができる任意の部分をいい、内腔が形成されている。好ましい実施形態では、袋部内で視軸を中心として眼内レンズを回転可能に収納することができる。このような回転可能な形状や構成は当業者は適宜の材料および形状を構成することで実現することができ、例えば、各実施形態に掲げられたものを例示することができる。
【0038】
1つの実施形態では、袋部には、挟持部を設けることができる。本明細書において「挟持部」とは、挟持する対象(例えば、眼内レンズ)を挟む様式で保持することができる形状または構成となっている任意の部分をいう。代表的には挟持部は対の部分からなり(本明細書において、挟持部のこの部分のことを特に「挟持片」ともいう)、挟持部の対を構成する部分が互いに挟み込むような位置に配置され、これらが対象物を挟み込むように移動可能に構成されており、これにより、対象物(例えば、眼内レンズ)が収容された後にこの対象物を固定することができる。対の部分は、1つの対でもよく、複数の対でもよい。この部分はその形状および機能の側面から、眼内レンズ挿入溝と呼ばれることもある。このような固定により、対象物が収容された後に眼内レンズを眼内により強固に固定することができ、眼内レンズがずれることを防止することができる。これにより視力の安定が図られQuality of Lifeが向上する。袋部が存在する領域や形状などは眼内レンズを収容できる限りどのような形状でもよいが、例えば、内腔から枠体方向に拡がる空間部を有する形状なども有利に提供される。このようにすることで、この空間部は、眼内レンズの光学部を少なくとも部分的に収容可能である。
【0039】
1つの実施形態では、本発明で使用される挟持部は、眼の視軸方向に弾性的に変形可能である。このように変形可能なことにより、眼内レンズを弾性的に保持し得る。
【0040】
本発明のデバイスに使用されうる材料の材質としては、生体適合性のあるポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、シリコーン、アクリル材料などが好ましく用いられるが、このほかコラーゲンなどの生体高分子、ナイロンなどのプラスチック繊維糸など、透明であり、弾性を有し、加工可能な材料が好適に用いられる。さらに、補助具の材料表面に、より生体親和性のあるフィブロネクチン、コンドロイチンサルフェート、ヒアルロン酸、ヘパリンなどの生体由来の物質を吸着させたり、化学的に結合させてもよい。このような部材は、各部材が同じ材料で構成されていてもよいし、各々が異なる材料で構成されていてもよいし、一部同じ材料で構成され他の部分が別の材料で構成されていてもよい。
【0041】
1つの実施形態では、枠体は、円弧状の部分を有する。好ましい実施形態では、枠体は、2つ以上、3つ以上または4つ以上の円弧状の部分を有する。他の実施形態では、枠体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上の円弧状の部分を有してもよい。特定の実施形態では、枠体は、円弧状以外の角膜切開創に引っ掛かりにくい形状を有してもよい。引っ掛かりにくい形状としては、例えば、鈍角を有する部分が挙げられるが、これに限定されない。鈍角としては、例えば、95度、100度、105度、110度、115度、120度、125度、130度、135度、140度、145度、150度、155度、160度、165度、170度、175度が挙げられるが、これに限定されない。かかる形状を有することにより、角膜切開創より本発明のデバイスを挿入する際に、角膜切開創に引っ掛かることが顕著に少なくなり、挿入が容易になる。
【0042】
1つの実施形態では、眼内レンズ収容部はC字状の形状を有し、その先端部に円弧状の部分を有する。好ましい実施形態では、眼内レンズ収容部は、2つ以上、3つ以上または4つ以上の円弧状の部分を有する。他の実施形態では、眼内レンズ収容部は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上の円弧状の部分を有してもよい。特定の実施形態では、眼内レンズ収容部は、円弧状以外の角膜切開創に引っ掛かりにくい形状を有してもよい。引っ掛かりにくい形状としては、例えば、鈍角を有する部分が挙げられるが、これに限定されない。鈍角としては、例えば、95度、100度、105度、110度、115度、120度、125度、130度、135度、140度、145度、150度、155度、160度、165度、170度、175度が挙げられるが、これに限定されない。かかる形状を有することにより、角膜切開創より本発明のデバイスを挿入する際に、角膜切開創に引っ掛かることが顕著に少なくなり、挿入が容易になる。
【0043】
本明細書において、「眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部」とは、眼内レンズ収容部の内周周縁の部分をいう。眼内レンズ固定デバイスは、これらの内周周縁部において眼内レンズと接してもよく、接しなくともよい。例えば、
図4(B)~(C)において、枠で囲った部分および
図4(D)において格子によって示した部分をいう。
【0044】
特定の実施形態では、眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部は、眼内レンズ収容部の内周から半径方向に1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2、0.15または0.1mm未満の範囲である。
【0045】
1つの実施形態では、挟持部は、眼内レンズ収容部の内周周縁部に配置される。好ましい実施形態では、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離は、0.1~1.5mmである。より好ましい実施形態では、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離は、0.3~1.2mmである。最も好ましいでは、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離は、0.5~1.0mmである。特定の実施形態では、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4または1.5mmである。上記のような第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離を有することにより、眼内レンズ収容部がしっかりと眼内レンズを固定できるようになる。第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離は、前記挟持部以外の部分の間の距離と同等であるか、またはより広くてもよい。特定の実施形態では、眼内レンズ固定デバイスは、眼内レンズ収容部の第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部を介して眼内レンズをしっかりと固定することができる。
【0046】
1つの実施形態では、枠体の断面の重心と枠体外側表面との最短距離を必要に応じて変更することができる。好ましい実施形態では、枠体の断面の重心と枠体外側表面との最短距離は、0.25mm以上である。特定の実施形態では、枠体の断面は、円形であり、枠体の断面の重心と枠体外側表面との最短距離は、0.5mm以上である。別の実施形態では、枠体の断面は、円形であり、枠体の断面の重心と枠体外側表面との最短距離は、0.05~0.3mmである。固定デバイス挿入時における固定デバイスの破損率を顕著に減少させるためである。その結果、係る最短距離を有さないデバイスと比較したとき、デバイス挿入手術に要する時間が相対的に短くなる。別の実施形態では、枠体は内腔部分を有してもよい。一部の実施形態では、枠体の断面は、リング状の形状であってもよい。
【0047】
1つの局面において、本発明は、眼内レンズを挿入するための固定キットを提供し、このキットは、a)本発明の眼内レンズ固定デバイスと、b)該固定デバイスを注入するための注入器とを備える。ここで使用される注入器は固定デバイスを注入することができる限りどのようなものでもよい。
【0048】
別の局面において、本発明は、眼内レンズを眼内に挿入する方法を提供し、この方法は、a)本発明の眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入し、前記デバイス支持部(A)の枠体を毛様溝に適合させる工程と、b)眼内レンズを該眼内レンズ固定デバイスの眼内レンズ収容部(B)に固定する工程と、を包含する。
【0049】
1つの実施形態では、本発明の方法において、眼内レンズ固定デバイスは、眼の切開部分から挿入される。さらなる実施形態では、前記眼内レンズ固定デバイスは、注入器を用いて眼内に挿入される。注入器を用いる手法は、従来知られた任意の手法でよい。1つの実施形態では、本発明の方法は、眼内レンズ固定デバイスを眼の切開部分から眼内に挿入する工程が、該眼内レンズ固定デバイスを注入するための注入器を提供する工程と、該注入器を用いて眼の開口部分から眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入する工程と、を包含する。
【0050】
1つの具体的な実施形態では、本発明は、a)本発明のいずれか1項に記載の眼内レンズ固定デバイスを注入するための第1の注入器を提供する工程と、b)該眼内レンズ固定デバイスを、該第1の注入器を用いて眼の切開部分から眼内に挿入する工程と、c)眼内レンズを注入するための第2の注入器を提供する工程と、d)該眼内レンズを、該第2の注入器を用いて眼の切開部分から該眼内レンズ固定デバイスの前記眼内レンズ収容部(B)内に収容する工程と、を包含する。
【0051】
本発明のこのような方法によって、任意の形状や機能をもつ眼内レンズを水晶体嚢を損傷または欠失した眼であっても挿入することができる。
【0052】
(好ましい実施形態)
以下に図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0053】
(実施形態1)
図1Aは本発明の一実施形態の眼内レンズ固定デバイスの取付状態を模式的に示す断面図、
図1Bは天然水晶体嚢内に眼内レンズを固定した状態を模式的に示す断面図である。
【0054】
従来の嚢内固定では、
図1Bに示したように、手術によって水晶体嚢35内から摘出された水晶体の代わりに、眼内レンズ3の光学部31が水晶体嚢35の前嚢に形成された創口内腔に位置するようにし、かつレンズ支持部30の周縁部が水晶体嚢35の赤道部分に位置するようにして、眼内レンズ3が水晶体嚢35内に固定される。
【0055】
本発明に係る眼内レンズ固定デバイス1は、
図1Aに示すように、水晶体嚢を損傷または欠失した眼内に挿入される。
【0056】
眼内レンズ固定デバイス1は弾性および柔軟性を有する材質により形成され、医師(施術者)が該デバイス1を弾性変形させて、眼の切開部分から眼内へ挿入することができる。該デバイス1の弾性復元力により毛様溝36に留めることにより、該デバイス1を眼内に固定させることができる。
【0057】
なお、本明細書で正面とは、眼内レンズ3を眼内に固定した患者の眼に対する正面をいう。
【0058】
本発明の眼内レンズを眼内に挿入する方法を提供する。この挿入方法は、眼科医の当該分野の技術常識を用いて適宜の手術方法(外科的技法)を用いて実現することができる。例えば、この方法は、本発明の眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入し、前記デバイス支持部(A)の枠体を毛様溝に適合させることで、眼内レンズ固定デバイスの眼内での固定を実現することができる。このような技法は眼科医であれば、どのような適切な方法でも用いることができると理解する。
【0059】
次に、b)眼内レンズを該眼内レンズ固定デバイスの眼内レンズ収容部(B)に固定する工程を行うことで、眼内の適切な位置に所望の眼内レンズを配置することができる。例えば、眼内レンズ固定デバイスは、眼の切開部分から挿入することができるが、これに限定されず、他の手法で固定デバイスを配置してもよい。1つの好ましい実施形態では、眼内レンズ固定デバイスは、注入器を用いて眼内に挿入される。このような注入器はどのようなものを用いてもよいが、生体適合性であり、毒性や刺激性がないものがよく、例えば、眼内レンズ固定デバイスと適合するものが好ましい。
【0060】
例えば、1つの実施形態では、眼内レンズ固定デバイスを眼の切開部分から眼内に挿入
する工程は、該眼内レンズ固定デバイスを注入するための注入器を提供する工程と、該注入器を用いて眼の開口部分から眼内レンズ固定デバイスを眼内に挿入する工程とにより実現され得る。
【0061】
1つの実施形態では、例えば、本発明は、a)本発明の眼内レンズ固定デバイスを注入するための第1の注入器を提供する工程と、b)該眼内レンズ固定デバイスを、該第1の注入器を用いて眼の切開部分から眼内に挿入する工程と、c)眼内レンズを注入するための第2の注入器を提供する工程と、d)該眼内レンズを、該第2の注入器を用いて眼の切開部分から該眼内レンズ固定デバイスの前記眼内レンズ収容部(B)内に収容する工程と、包含する。
【0062】
(眼内レンズ固定デバイスの実施形態)
本発明に係る眼内レンズ固定デバイス1は、
図1A、および
図2~
図4に示すように、デバイス支持部Aと、該デバイス支持部Aに連結された眼内レンズ収容部Bとを備える。
【0063】
以下、各部材の構成を説明する。
【0064】
(デバイス支持部)
デバイス支持部Aは、眼内レンズ固定デバイスを支持するための部分であり、代表的には、
図2Aに示すように、毛様溝36に適合する形状の枠体2を有する。この枠体2は、該枠体2を毛様溝36に留める(係止あるいは嵌合させる)ことにより、眼内レンズ固定デバイス1を毛様溝36に固定するためものである。従って、枠体2の形状は毛様溝36に適合する形状であればどのような形状であってもよい。例えば、枠体2の形状は、毛様溝36に適合する環状、C字形状、あるいは略円形の形状であってもよい。
【0065】
図1~
図4に示す実施形態1では、枠体2はC字形状に形成されている。このC字形状の枠体2は、細長い部材をC字形状に湾曲させ、あるいは成形して形成することができる。該枠体2を毛様溝36に留めた場合に、毛様溝36と適合する部分の長さは、毛様溝36の全周の半周以上、特に毛様溝36の全周の60~100%であるのが好ましく、具体的には22mm以上であるのが好ましい。該枠体2がC字形状に形成されているので、デバイス支持部Aに切欠部33が形成される。
【0066】
該デバイス支持部Aが枠体2を有することにより、従来のように、デバイス1は外側へ突出する支持部分を有しないので、デバイス1を眼内へ挿入する際、比較的小さい切開部分を通して眼内へスムーズに挿入することができ、また眼の切開される部分が小さくてよい。さらに、枠体2の外形は湾曲するので、デバイス1の挿入時に眼の組織を傷つけることもない。また、枠体2は、円弧状の形状を有してもよい。かかる形状を有することで、眼内レンズ固定デバイス1を眼内に挿入する際に、創口の内壁に引っ掛かる可能性が低減される
【0067】
該枠体2の断面形状は実質的に円形または楕円形であるのが好ましい。このような断面形状とすると、該枠体2の外面はアール部(曲線部)を有することになる。このように枠体2の外面がアール部を有すると、デバイス1を眼内へ挿入する際、あるいは毛様溝36に固定する際に、眼の組織を傷つけるおそれもない。
【0068】
枠体の形状が円環状、C字形状、円形状の場合、枠体2の直径は、11~14mmとすることができる。枠体の形状が円環状、C字形状、円形状以外の場合、枠体2の最大外径は、11~14mmとすることができる。また、枠体2の形状を毛様溝36に適合する形状にするため、枠体2の断面の重心と枠体2の外表面との最短距離を0.05~0.3mmとすることができる。このような枠体2の断面の重心と枠体2の外表面との最短距離を有すると、デバイス1を眼内へ挿入する際、あるいは毛様溝36に固定する際に、デバイス1が壊れるおそれが低減する。
【0069】
(眼内レンズ収容部)
眼内レンズ収容部Bはレンズ支持部30を収容して保持するためのものである。
【0070】
眼内レンズ収容部Bは、枠体2の内側に連結されている。眼内レンズ収容部Bは、枠体2とは別部材で構成し、眼内レンズ収容部Bと枠体2とを直接あるいは連結部材で連結するようにしてもよいが、この実施形態1では、眼内レンズ収容部Bは枠体2と一体に形成されている。
【0071】
図4および
図5に示すように、実施形態1では、眼内レンズ収容部Bは、該デバイス支持部Aの枠体2から内側に延設された延設部8と、該延設部8の内側端部から内側に延びた保持片10とを有する。該延設部8は、該デバイス支持部1の枠体2により形成される第1平面21に対して30~60度の角度で傾斜している。該保持片10は、レンズ支持部30を保持するための平行に配設された少なくとも一対の挟持片11,12を有する。
【0072】
この延設部8および挟持片11および12により、眼内レンズ3を収容し保持するための袋部15が形成される。この袋部15の内側にデバイス1の前面側および後面側に開口する内腔18が形成されている。挟持片は本発明の実施形態において挟持部に該当する。
【0073】
図4(A)に示すように、該袋部15は内腔18から枠体2方向に拡がる空間部20を有する。該空間部20は挟持片11,12と該延設部8から延びた壁部とから形成され、この空間部20内に眼内レンズ3の光学部31の周端部およびレンズ支持部30を収容することができる。該袋部15の挟持片11,12は視軸方向に弾性的に変形可能であり、従って袋部15内に収容された眼内レンズ3を弾性的に保持することができる。眼内レンズ収容部Bの内周周縁部における挟持片11と12との距離を0.1~1.5mmとすることで、眼内レンズ収容部Bは光学部31およびレンズ支持部30をしっかりと固定できる。このために、眼内レンズ収容部Bの内周周縁部における挟持片11と12との距離は、眼内レンズ収容部Bの他の部分における距離と同等であるか、またはより広くてもよい。
【0074】
図2および
図3に示すように、該延設部8および保持片10に、半径方向(デバイスの内外方向)に走るスリット14が形成されている。このスリット14を形成することにより、眼内レンズ収容部Bの屈曲性をさらに高めることができ、眼内レンズ固定デバイス1の破損のおそれが低減される。実施形態1では5つのスリット14が形成されているが、スリット14の数は1~10程度形成することができる。好ましいスリット14の数は複数であり、特に3~7が好ましい。スリット14のうち、眼内レンズ収容部Bの内周周縁を構成する部分は、眼内レンズ固定デバイス1を眼内に挿入する際に、創口の内壁に接触することがあるため、円弧状の形状を有してもよい。さらに、眼内レンズ収容部Bも、眼内レンズ固定デバイス1を眼内に挿入する際に、創口の内壁に接触することがあるため、円弧状の形状を有してもよい。このように、スリット14および眼内レンズ収容部Bが円弧状の形状を有することで、眼内レンズ固定デバイス1が創口の内壁に引っ掛かる可能性が低減される。
【0075】
スリット14の幅は0.5~1.0mmとすることができる。また、保持片10の長さは2.5~3.0mmとすることができる。
【0076】
上記のとおり、延設部8および保持片10にスリット14を形成することにより、眼内レンズ収容部Bが複数に分割された素体16が形成される。複数の素体16のうち、端側に位置する素体16の外側縁は湾曲されており、デバイス1の眼内挿入時などに組織が傷つくことを極力抑えている。
【0077】
このように眼内レンズ収容部Bにスリット14を形成することにより、デバイス1の柔軟性を高め、デバイス1挿入時の操作性を上げることができる。つまり、枠体2を変形させるだけでデバイス1の外形を容易に変形させることができる。また、柔軟性の向上のため、眼内レンズ固定デバイス1の挿入に要する時間も短縮される。
【0078】
眼内レンズ収容部Bの中央部に形成された略円形の内腔18は眼内レンズ収容部Bの正面側および後面側にそれぞれ開口している。従って、
図6に示すように、眼内レンズ3は前方からデバイス1の収容部Bに収容させるだけではなく、デバイス1の後方からもデバイス1の収容部Bに収容させることができる。この内腔18の内径は5.0~6.0mm程度とすることができる。
【0079】
図5に示すように、枠体2により第1平面21を形成することができる。そして、該眼内レンズ収容部Bの保持片10により第1平面22を形成することができる。該第1平面21と第1平面22との間に間隔Hが形成される。この間隔Hは、
図1Aに示したように本発明のデバイスを眼内に固定した場合の眼内レンズによる屈折度と、
図1Bに示したように天然の水晶体嚢35に眼内レンズ3を固定した場合の眼内レンズによる屈折度に変化がない距離である。該間隔Hは、1~3mmとすることができる。
【0080】
従って、本発明のデバイスを装着した場合の眼内レンズと角膜の正面側との間の距離H1(
図1A)と、従来の嚢内固定における眼内レンズと角膜の正面側との距離H2(
図1B)は等しくなる。
【0081】
また、嚢の内腔18の前後の間隔は0.4~0.7mmが好ましい。嚢の厚さは0.1~0.2mmが好ましい。
【0082】
上記のとおり、本発明は毛様溝に固定する人工水晶体嚢タイプの固定デバイスである。該デバイスは、特に、直径が約12~14mmで、中心に直径約5mm程度の内腔18を有する円盤状が好ましい。デバイス全体の厚さは1~2mmが好ましく、円盤の内側は眼内レンズを挿入可能な袋状の構造になっており、内腔18に眼内レンズを挿入できるようになっている。よって、デバイスを伸展させて2~3mmの眼の切開部分からデバイスを挿入することができる。
【0083】
眼内レンズ固定デバイス1は、安全で生体適合性のある材料から形成されている。例えば、生体適合性のあるポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、シリコーン、アクリル材料などが好ましく用いられるが、このほかコラーゲンなどの生体高分子、ナイロンなどのプラスチック繊維糸等の透明かつ一定の弾力性を有する材料により形成することができる。
【0084】
眼内レンズ固定デバイス1は、1種類の材料で一体的に形成することが望ましいが、弾性など性質の異なる材料を使用してそれらを接合あるいは2色成形によって形成することもできる。
【0085】
(眼内レンズ)
眼内レンズ3は、従来の種々の形態の異なるもの、あるいは機能の異なるものを使用することができる。例えば、眼内レンズの支持部の形状は触覚型(ハプテン型)、プレート型など、眼内レンズ光学部と支持部の素材は異なるもの(スリーピース)、同一(ワンピース)など(
図14参照)、種々の形態のどれにも対応可能である。また、単焦点レンズであっても、乱視矯正単焦点レンズであっても、多焦点レンズであっても利用可能である。
【0086】
眼内レンズ3は、デバイス1の眼内レンズ収容部Bに形成された前後の内腔18からレンズ収容部B内へ挿入して収容させることができる。
【0087】
眼内レンズ3は、
図14に示すように、レンズ機能を有する光学部(オプティクス)31と該光学部31を支持するためのレンズ支持部30(触覚型、ハプテン)とを備えている。
【0088】
眼内レンズ3の光学部31は通常は円盤状に形成された凸レンズであり、その外周部の対向する位置から複数対のレンズ支持部30が外側へ突出している。
【0089】
図2に示すように、レンズ支持部30の先端部がデバイス1のレンズ収容部Bに係合することで、レンズ収容部B内で眼内レンズ3が保たれるようになっている。すなわち、眼内レンズ3のレンズ支持部30の先端部が袋部15の内面に接触し、および
図4に示すように、眼内レンズ3の光学部31の周端部が一対の挟持片11,12により弾性的に挟持される。
【0090】
該眼内レンズ収容部Bに収容される眼内レンズ3は、市販品を使用することができる。例えば、多様な屈曲特性を有する眼内レンズ3としては、例えば、(a)通常の単焦点レ
ンズ、(b)乱視矯正単焦点レンズ、(c)多焦点レンズがある(
図15参照)。
【0091】
なお、眼内レンズ3も、上記デバイス1と同様の材料により形成することができる。材料の選択は当業者にとって任意であり、どのような材料またはその組み合わせであっても使用することができる。
【0092】
眼内レンズ3のレンズ支持部30は、光学部31と一体形成されるか、または光学部31とは別体のレンズ支持部30を光学部31に接合することで眼内レンズ3を形成してもよい。
【0093】
光学部31は、レンズ機能を有する比較的軟らかい部分であり、平面視円形の凸レンズ形状に形成されている。光学部31の直径は、眼内レンズ3を眼内のデバイス1に挿入するのに適した寸法であれば、どのような寸法に設定してもよい。具体的には、光学部31の直径Dは、好ましくは約5mm~約7mmの範囲であればよい。
【0094】
本発明に係る眼内レンズを眼内に挿入するための固定キットは、上記の眼内レンズ固定デバイス1と、該固定デバイス1を注入するための注入器とを有する。
【0095】
(眼内レンズ固定デバイスの使用方法)
眼内レンズ固定デバイスを使用する状況として、(1)水晶体が脱臼している場合、(2)白内障術中に水晶体嚢破損やチン小帯断裂が生じた場合、(3)白内障術後で水晶体嚢が不完全な状態であり、かつ眼内レンズが眼内に存在しない場合、(4)白内障術後で水晶体嚢が不完全な状態であり、かつ眼内レンズが眼内に存在する場合、(5)一旦嚢内固定された眼内レンズが外傷などにより脱臼している場合、の5つの状況が想定される。
【0096】
(1)と(2)では水晶体を摘出し、必要に応じて水晶体の後方にある硝子体を切除した状態、(3)、(4)、(5)では必要に応じて硝子体を切除した状態で角膜40もしくは強膜43と角膜40の移行部の切開部を通してデバイス1を眼内に挿入する。不完全な水晶体嚢やチン小帯が残存した状態でも毛様溝に固定するためデバイス1を挿入することは可能である。
【0097】
眼内レンズ固定デバイス1は、好ましくは、インジェクターなど注入器46を使用して眼内へ挿入することができる。
【0098】
図13に示すように、注入器46は該デバイス1を外側から掴んで圧縮し(もしくは折り畳んで)その外形を小さくする機能を有する先端操作部47を有し、デバイス1を掴んで外径を小さくした状態で、角膜40もしくは強膜43と角膜40の移行部の切開部を通して眼内へ挿入する。
【0099】
図3Cおよび
図4に示したように、枠体2は扁平にかつ変形可能に形成されているので、
図12(A)、(B)に示すように、デバイス1を幅の狭い形状に変形させて角膜40もしくは強膜43と角膜40の移行部の切開部を通して眼内へ直接挿入することができる。デバイス支持部Aが切開部分から容易に挿入できるようにするため、その幅は約1~約6mmが好ましく、特に好ましくは約2~約3mmである。
【0100】
このように、デバイス1を眼の切開部分から眼内に挿入し、デバイス支持部Aの枠体2を毛様溝に適合させることで固定する。
【0101】
次に、(1)、(2)、(3)の状況では切開部を通して、眼内レンズ3をデバイス1の眼内レンズ収容部Bに挿入する。その際も、眼内レンズ3の弾性(柔軟性)を利用し、眼内レンズ3の形状を変形させ丸めてカートリッジなどに挿入し、そのカートリッジの先端を角膜40もしくは強膜43と角膜40の移行部の切開部を通して眼内レンズ収容部Bの内腔18の前方開口部まで到達させ、眼内レンズ収容部B内に眼内レンズ3を収容させればよい。
【0102】
(4)、(5)といった眼内レンズが脱臼もしくは偏位して眼内に存在する場合では鑷子などを用いて眼内レンズ3を眼内レンズ収容部Bに導いて収容する。眼内レンズ3が硝子体腔内などの眼球後方部に落下している場合では
図6に示すように、内腔18の後方開口部より眼内レンズ収容部Bの袋部15の中に収容することができる。
【0103】
このようにして、枠体2が毛様溝36の全周の多くの部分に当接して留められるので、デバイス1が安定して毛様溝36に固定される。
【0104】
眼内レンズ収容部B内では、
図4に示すように、レンズ支持部30は、袋部15の内面に接触し、一対の挟持片11,12によって眼内レンズ3の光学部31の周端部が挟持され、眼内レンズ3は確実に眼内レンズ収容部Bに収容、固定される。
【0105】
眼内レンズ収容部Bは、視軸を中心として眼内レンズ3が回転可能に保持する形状である。つまり、
図2(A)および(B)に示すように、眼内レンズ収容部Bは完全もしくは不完全な(スリット14のある)直径約11~約13mm、高さ約0.4~約0.7mmの嚢状の空間部20を形成し、視軸を中心として眼内レンズ3を任意の角度に回転して収納できる形状である。
【0106】
このようにデバイス1を構成することにより、以下の効果を有する。
【0107】
乱視矯正の追加機能を持つ乱視矯正眼内レンズ3をこのデバイス1で固定する際に、患者の乱視の軸を矯正するように、眼内レンズ3をデバイス1内で回転させて固定角度を変えることができる。
【0108】
また、眼内レンズ固定デバイス1の内腔18の直径は、眼内レンズ3の光学部31の直径よりも小さく設定されており、眼内レンズ固定デバイス1の内腔18から眼内レンズ3を挿入した後に抜け出すことを防止することができ、眼内レンズ3を安定した状態で装着することができる。
【0109】
従って、この枠体を毛様溝に適合させると、該デバイス1が眼内に固定されるので、該デバイス1の眼内レンズ収容部Bに眼内レンズ3を収容することができる。
【0110】
すなわち、眼内レンズ3をデバイス1に固定する際には、眼内レンズ3を袋部15内で視軸周りに回転可能に固定できるので、乱視矯正眼内レンズを固定する場合であっても、視軸を中心としてレンズ3を回転させ乱視の方向に合致した方向に眼内レンズ3を固定することができる。しかも、デバイス1は、内腔18が形成される袋部15を有し、その袋部15の挟持片11,12は視軸方向に弾性的に変形可能であるので、この袋部15内に収容された眼内レンズ3の光学部31の周端部を挟持片11および12によって弾性的に保持することで、袋部15内で視軸と直交する方向の面内で眼内レンズ3が偏位することを確実に防止することができる。
【0111】
また、デバイス1を毛様溝36に固定した後では、袋部15内に収容した眼内レンズ3と角膜の正面側との間の距離H1は天然水晶体嚢内に固定した場合における眼内レンズ3と角膜の正面側との距離H2にほぼ等しくなるので、
図15に示すような支持部30を持つ多焦点眼内レンズ3を眼内に固定する場合であっても、嚢内固定と同じ視軸上の位置にレンズ3を固定することができる。
【0112】
従って、患者側はもとより医師および医療機関にとっても、(1)眼内レンズ種類の制約がない、(2)眼内レンズ度数変更の必要がない、という効果または利点がある。医師および医療機関側からは、さらに、(3)手技・侵襲が毛様溝固定や前房型眼内レンズと同程度に簡便である。加えて、(4)製造コストが低い、すなわち、費用面で負担が少ないという効果もある。
【0113】
(他の実施形態)
(実施形態2)
実施形態1は代表的な実施形態であり、他の形態も利用することができる。
図7に示すように、実施形態2のデバイス1は、上記実施形態1において、枠体2の断面形状を矩形あるいは台形状にし、かつスリット14の数を変更したこと以外は、実質的に実施形態1と同じである。
【0114】
この実施形態では、デバイス支持部(A)の枠体2は正面から見てほぼC字状に形成されている。枠体2の断面はほぼ台形状に形成され、該デバイス支持部Aに連結された眼内レンズ収容部Bは、枠体2から半径方向の中心側へ延設された第1の挟持片11と、該第1の挟持片11と間隔をおいて平行に配設された第2の挟持片12とを有している。該第1の挟持片11および第2の挟持片12によって保持片10の素体16が形成されている。この保持片10の素体16がスリット14を介して枠体2の内側に複数形成されている。
【0115】
この実施形態では4つのスリット14が保持片10に形成されている。
【0116】
この実施形態でも、実施形態1と同様に、眼内に挿入することができ、実施形態1と同様の利点があることが理解される。
【0117】
(実施形態3)
実施形態3は、スリットがない実施形態であり
図8に例示される。
図8に示すように、実施形態3のデバイス1は、実施形態1において、C字形に形成される枠体2の両端部に通孔を有する操作部19が形成され、かつ眼内レンズ収容部Bの延設部8と、該延設部8の内側端部から内側に延びた保持片10にスリット14が形成されていないこと以外は実施形態1と同じである。
【0118】
すなわち、デバイス支持部Aの枠体2はほぼC字状に形成されている。枠体2の断面はほぼ円形に形成され、該デバイス支持部Aに連結された眼内レンズ収容部Bは、枠体2から半径方向の中心側へ延設された延設部8と、該延設部8の内側端部から内側に延長された保持片10とを有する。該保持片10は間隙を介して平行に配設された第1および第2の挟持片11,12を有する。
【0119】
この実施形態では、枠体2の両端部に形成された操作部19の通孔を利用してデバイス1を眼内へ挿入し、毛様溝36に固定することができる。つまり、注入器46の先端部に設けた突起を通孔に係止させることで注入器46の先端部にデバイス1を一時的に係合させ、かつデバイス1を掴んで外形が小さくなるように変形させ、この係合状態でデバイス1を眼内に挿入することができる。
【0120】
デバイス1の直径(枠体2の外径)は、約12~約14mmとすることができる。デバイス1の厚さは約1.0~約2.0mmとすることができる。
【0121】
この実施形態でも、実施形態1または2と同様に眼内に挿入することができ、実施形態1および2と同様の利点があることが理解される。
【0122】
(実施形態4)
実施形態4は、スリットがない形状であって、ほぼ四角枠で形成した実施形態である。
図9に示すように、実施形態4のデバイス1は、実施形態1において、枠体2が略環状に形成され、かつ眼内レンズ収容部Bの延設部8と、該延設部8の内側端部から内側に延びた保持片10にスリット14が形成されていないこと以外は実質的に実施形態1と同じである。
【0123】
この実施形態4では、デバイス支持部Aの枠体2は、ほぼ四角枠の環状に形成されている。四角枠の角部に広幅の領域2aが形成され、4つの幅広部2a、2aの間に幅の狭い
領域2bが形成されている。
【0124】
該デバイス支持部Aに連結された眼内レンズ収容部Bは、該枠体2から半径方向の中心側へ延設された延設部8と、該延設部8の内側端部から内側に延長された保持片10とを有する。該保持片10は間隙を介して平行に配設された第1および第2の挟持片11,12を有する。
【0125】
延設部8の上面から該第1の挟持片11の上面は連続しており、延設部8の上面と該第1の挟持片11の上面によって、正面側が凹みかつ中央がフラットな袋部15が形成されている。
【0126】
このような構成のデバイス1では、上記枠体2の幅の狭い領域部分2bでデバイス1の変形性を高めることができる。また、枠体2の広幅の領域(支持部)2aが外側へ出っ張っているので、デバイス1を毛様溝36に確実に固定することができる。
【0127】
なお、デバイス1の外径(対抗する幅広部2a間の間隔)は、約12~約14mm、特に約13mmとすることができる。
【0128】
デバイス1の袋部15の直径は約11mm、袋部15の内腔18の直径は約6.0mm、袋部15の内腔18の前後の間隔は約0.6mm、袋部15の壁の厚みは約0.2mmとすることができる。袋部15のフラット部の直径は約9mmとすることができる。
【0129】
また、支持部(4つの出っ張りの領域)2aの厚みは約0.5mm、支持部の断面の厚みは約0.5mmとすることができる。
図9Eに示すように、支持部2aの外側の端部は曲面に形成されている(アールがつけられている。)。
【0130】
この実施形態でも、実施形態1~3と同様に、眼内に挿入することができ、実施形態1~3と同様の利点があることが理解される。
【0131】
(実施形態5)
実施形態5は、枠体をリングと連結した複合型の実施形態である。
図10に示すように、実施形態5のデバイス1は、実施形態1において、枠体2が4つの角部を有する環状に形成され、かつ枠体2に連結された眼内レンズ収容部Bの形状および構造が実施形態1とは異なっている。
【0132】
眼内レンズ収容部Bは、枠体2に連結された連結部材24と、枠体2内に配設され該連結部材24に連結されたリング状の袋部15と、を有する。連結部材24は、枠体2に回動可能に固定される連結孔25を有する基部26と、該基部26から内側に延びるフック部27とを有する。
【0133】
四角枠状の枠体2の出っ張り領域に支持部29が形成され、この支持部29に連結部材24が連結されている。
【0134】
袋部15の周囲の該連結部材24に対応する位置に係止孔28が設けられ、連結部材24のフック部27が係止孔28に係止している。
【0135】
図11に示すように、袋部15は内側が開口する断面コ字状に形成され、従って、袋部15は上下に間隙をおいて平行に配設された一対の挟持片11,12を有する。
【0136】
このような構成のデバイス1では、上記枠体2の支持部29が外側へ突出しているので、デバイス1を毛様溝36に確実に固定することができる。また、枠体2と眼内レンズ収容部Bが別部材で構成され、両部材を連結するように構成されているので、各部材の製造が比較的容易である。また、各部材をそれぞれ特性の異なる材料で構成することができる。枠体2は、例えばPMMAで形成し、眼内レンズ収容部Bはより変形性および弾性の高いシリコーン、アクリル樹脂などで形成することができる。
【0137】
なお、デバイス1の最長端の外径(対向する支持部間の間隔)は約12mmとすることができる。袋部15の外径は約10mmとすることができる。デバイスの袋部15の厚みは約2mmとすることができる。袋部15の内腔18の直径は約5.5mmとすることができる。
【0138】
この実施形態でも、実施形態1~4と同様に、眼内に挿入することができ、実施形態1~4と同様の利点があることが理解される。
【0139】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示したが、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0140】
(実施例1:3Dプリンターを用いた新規眼内レンズ固定デバイス試作および動物眼における有用性確認実験)
新規眼内レンズ固定デバイスの有用性を検討するために、眼内レンズ固定デバイスをCADソフトウェアでデザインし、3Dプリンターを使用してアクリル製眼内レンズ固定デバイスを作製した。
【0141】
眼内レンズ固定デバイスver.1を作製した。眼内レンズ固定デバイスver.1は、
図19(A)に示すように、C字形状の枠体および眼内レンズ収容部を有し、枠体および眼内レンズ収容部の内径を、それぞれ13mmおよび5.6mmとなるように設計した。また、枠体の断面をリング状にし、その外径を0.3mm、内径を0.2mm、枠体により形成される第1平面と、眼内レンズ収容部により形成される第2平面との間の距離を1.5mm、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離を0.5mmとなるように設計した。
【0142】
摘出した豚眼において、後嚢および全部硝子体を切除し、後嚢破損モデルを作製した。さらに、摘出した別の豚眼から水晶体嚢全体を摘出し、水晶体嚢全摘出モデルを作製した。
【0143】
作製した後嚢破損モデルまたは水晶体嚢全摘出モデルにおいて、角膜切開創より、円盤を回すように眼内レンズ固定デバイスver.1を挿入し、眼内レンズ固定を行った。
【0144】
その結果、眼内レンズ固定デバイスver.1は、後嚢破損モデルと水晶体嚢全摘出モデルとの両方において、引挿入時に角膜切開創に引っかかりやすく、かつ壊れやすいことが分かった。また、第1の挟持片および第2の挟持片の内周周縁部の挟持部間の距離が狭く、眼内レンズをしっかりと固定出来なかった。さらに、眼内レンズ固定デバイスver.1は柔軟性に欠け、角膜切開創から眼内奥までの挿入時間が長かった。
【0145】
(実施例2:新規眼内レンズ固定デバイスの改良)
実施例1の結果を基に、より引挿入しやすく、壊れにくく、眼内レンズを固定可能な眼内レンズ固定デバイスを得るために改良を行い、眼内レンズ固定デバイスver.3を作製した。
【0146】
眼内レンズ固定デバイスver.1と同一の方法で眼内レンズ固定デバイスver.3を作製した。眼内レンズ固定デバイスver.3は、
図20に示すように、C字形状の枠体および眼内レンズ収容部を有し、枠体および眼内レンズ収容部の内径を、それぞれ13mmおよび5.6mmとなるように設計した。また、枠体の断面の外径を0.5mm、内径を0.3mm、枠体により形成される第1平面と、眼内レンズ収容部により形成される第2平面との間の距離を1.5mm、第1の挟持片および第2の内周周縁部の挟持片の挟持部間の距離を0.8mmとなるように設計した。さらに、
図20に示すように、眼内レンズ固定デバイスの先端を半径3.2mmの円弧状にカットし、3.5mm×0.8mmのスリットを5箇所に加えた。
【0147】
実施例1と同様に、作製した後嚢破損モデルまたは水晶体嚢全摘出モデルにおいて、角膜切開創より、円盤を回すように眼内レンズ固定デバイスver.3を挿入し、眼内レンズ固定を行った。
【0148】
その結果、眼内レンズ固定デバイスver.3は、後嚢破損モデルと水晶体嚢全摘出モデルとの両方において、角膜切開創よりスムーズに引挿入が可能であり、破損しないことが分かった。眼内レンズ固定デバイスの毛様溝への固定は良好であった。また、第1の挟持片および第2の内周周縁部の挟持片の挟持部間の距離を適切な幅まで広げたため、眼内レンズを固定デバイス内に良好に固定することができた。さらに、眼内レンズ固定デバイスver.3は柔軟性が高く、角膜切開創から眼内奥までの挿入時間が短かった。
【0149】
本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係る眼内レンズ固定デバイスは、白内障によって機能が損なわれた水晶体の代わりに眼内に移植される眼内レンズを固定するための固定デバイスに有効である。
【符号の説明】
【0151】
1 眼内レンズ固定デバイス
2 枠体
3 眼内レンズ
8 延設部
10 保持片
11 第1挟持片
12 第2挟持片
14 スリット
15 袋部
A デバイス支持部
B 眼内レンズ収容部