(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】非結晶性ポリエステル樹脂、トナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
C08G 63/52 20060101AFI20220420BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20220420BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C08G63/52
G03G9/087 331
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2017232767
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武司
(72)【発明者】
【氏名】桑野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 奈生子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌繁
(72)【発明者】
【氏名】谷口 範洋
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501281(JP,A)
【文献】特開平10-010776(JP,A)
【文献】特表2013-540184(JP,A)
【文献】特開平08-041185(JP,A)
【文献】特開2012-133356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
G03G9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸の酸無水物、芳香族ジカルボン酸の酸ハライド、又は芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルを含む多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを含む原料の重縮合物であるポリエステル樹脂であって、前記多価アルコール成分がエルカ酸ダイマージオールを含み、
前記芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1~4個である、非結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記原料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートの解重合物、及びポリブチレンテレフタレートの解重合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1に記載の非結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記原料における前記エルカ酸ダイマージオールの含有量が0.2~10モル%である、請求項1又は2に記載の非結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸の酸無水物、芳香族ジカルボン酸の酸ハライド、又は芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルに由来する構造単位と、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含み、
前記芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1~4個である、非結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非結晶性ポリエステル樹脂を含有する、トナー用結着樹脂。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非結晶性ポリエステル樹脂が水系媒体中で分散又は乳化されている、分散液又は乳化液。
【請求項7】
請求項5に記載のトナー用結着樹脂を含む、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非結晶性ポリエステル樹脂、トナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真プロセスの技術の発展により、高画質化、高速化及び省エネルギー化に対応した電子写真用トナー(静電荷像現像用トナー)の開発が要求されている。要求されるトナー特性には、高画質化への対応においてトナーの小粒径化が進むため、トナーの保管時、例えば輸送時や大量の連続印刷時等において、カートリッジ内部に充填されたトナーのブロッキングが生じにくい耐熱保管性と、高速化への対応においてホットオフセット発生温度が高い(耐ホットオフセット性に優れている)ことと定着温度が低い(低温定着性に優れている)こととの両立がある。
【0003】
上記の特性が得られやすいことからポリエステル樹脂がトナーの結着樹脂として用いられている(例えば、特許文献1~3)。また、下記特許文献2には、低温定着性、耐オフセット性、耐ブロッキング性の改善を目的として、炭素数16~34の直鎖脂肪族ジカルボン酸類、ダイマー酸及び炭素数21の二塩基酸を原料とする非線状ポリエステル樹脂を、電子写真用トナー組成物にバインダー樹脂として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-121059号公報
【文献】特開2007-169456号公報
【文献】特開平10-10776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、トナーを製造するときには、通常、トナー用結着樹脂とワックス及びその他の成分とが併用されているが、トナー用結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いた場合には、ワックスとポリエステル樹脂との相溶性(分散性)が良好ではないという問題がある。そのため、従来のポリエステル樹脂を用いたトナーは、ワックスの分散状態が粗いことからワックスの効果が十分に発現しない、又はトナー粒子からワックスが経時的にブリードアウトしやすいというという問題がある。また、これらの問題が深刻なものとならないようそもそもワックス使用量が制限されている。
【0006】
また、特許文献3では、多価カルボン酸類と、1~30mol%のダイマージオールを含む多価アルコール類とから得られるポリエステル樹脂を、静電荷像現像用トナーの結着樹脂として用いることが開示されており、ワックスを含有しない点でOHPシートの鮮明性を改善する目的で有用であるものの、耐オフセット性は未だ十分であるとは言えない。また一般のOA紙、POD用途等のハイエンドでの使用に向けたトナーに要求される低温定着性、耐オフセット性及び耐熱保管性を達成させる点では十分であるとは言えない。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、ワックス分散性の高い非結晶性ポリエステル樹脂、並びにそれを用いたトナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを含む原料の重縮合物であり、当該多価アルコール成分がエルカ酸ダイマージオールを含む。本発明の非結晶性ポリエステル樹脂は、トナー用結着樹脂として使用した際に、ワックスとの相溶性が高いため、トナー粒子中にワックスが微小な粒子として均一に分散しやすい。そのため、経時的なブリードアウトによるトナー粒子表面へのワックスの露出を抑えることができる。
【0009】
上記原料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートの解重合物、及びポリブチレンテレフタレートの解重合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むと好ましい。この場合、上記非結晶性ポリエステル樹脂の明度を向上させることが容易となる。トナー粒子に含まれる樹脂の明度が向上すると、カラートナーの発色が鮮やかになり、定着画像の画質向上に寄与する。
【0010】
上記原料におけるエルカ酸ダイマージオールの含有量が0.2~10モル%であると好ましい。この場合、トナーの低温定着性及び耐熱保管性を向上させることが容易となる。
【0011】
また、本発明の非結晶性ポリエステル樹脂は、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含むものであってよい。
【0012】
本発明のトナー用結着樹脂の上記非結晶性ポリエステル樹脂を含有する。本発明のトナー用結着樹脂によれば、ワックスの分散性の良い静電荷像現像用トナーを実現できる傾向にある。また、本発明のトナー用結着樹脂によれば、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性の全てに優れる静電荷像現像用トナーを実現できる傾向にある。
【0013】
本発明の分散液又は乳化液は、非結晶性ポリエステル樹脂が水系媒体中で分散又は乳化されているものである。このような分散液を使用して、静電荷像現像用トナーを容易に製造することができる。
【0014】
上記静電荷像現像用トナーは、上記トナー用結着樹脂を含む。本発明の静電荷像現像用トナーは、本発明係るポリエステル樹脂がトナー用結着樹脂として含まれることにより、ワックスの分散性が良く、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性に優れたトナーになり得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワックス分散性の高い非結晶性ポリエステル樹脂、並びにそれを用いたトナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナーを提供することができる。かかる非結晶性ポリエステル樹脂は、トナー用結着樹脂として用いたときに、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、パラフィン系、エステル系、植物系等のワックスが結着樹脂成分と部分的に相溶しやすいため、トナー中に高充填で均一に分散させることが可能である。そのため、ワックスのトナー粒子表面への露出が抑えられ、耐オフセット性のみならず光沢性が増し、画質向上に寄与するものと考えられる。
【0016】
また、本発明のポリエステル樹脂は、それ自体によってトナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性、特には低温定着性を向上させることができるが、ワックス類の分散性に優れていることから、ワックス類による効果を有効に発現させることができ、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性のうちの一つ以上の特性を向上させる効果を相乗的に得ることもできる。
【0017】
ところで、従来のポリエステル樹脂において、脂肪酸成分やアルコール成分の炭素数を増やした場合、融点を下げることはできるものの溶融時の大きな粘度変化を得ることができず、トナーの低温定着性が悪くなる傾向がある。これに対して、本発明のポリエステル樹脂は、炭素数の多いエルカ酸ダイマージオールを用いていながらも、トナーの低温定着性を十分に向上させることができる。この効果は、従来の炭素数16~36の直鎖脂肪族ジカルボン酸類、ダイマー酸、炭素数21の二塩基酸等を用いたポリエステル樹脂の構成成分と比較して、エルカ酸ダイマージオールがより長いアルキル基を持つと共に、環状骨格を分子中に有する点が異なることに起因すると考えられる。エルカ酸ダイマージオールを含有する非結晶性ポリエステル樹脂は、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位が疎水性を有し、エステル結合部分が親水性を有するという、いわゆるジェミニ型構造を分子中に備える。エルカ酸ダイマージオールに由来する環状骨格を含むC44のアルキル骨格によって分子間の自由体積を十分に確保することができ、溶融時の粘度低下を充分に大きくできたためと考えられる。また、エルカ酸ダイマージオールは、従来の炭素数18不飽和脂肪酸由来のダイマージオール(すなわち炭素数36のダイマージオール)に比べて炭素数が多いことから、ポリエステル樹脂の構成成分として用いたときには分子間に働くエステル結合間の水素結合が相対的に小さくなる。これにより、ポリエステル樹脂の分子間における凝集エネルギーが小さくなることも上記効果が得られる要因の一つと考えられる。すなわち、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含有するポリエステル樹脂をトナーの結着樹脂とすることで、トナーが定着される際、比較的少ない熱エネルギーで溶融し、且つ加圧ローラーによって容易く紙に浸透し、低温でも十分な定着特定が得られたものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
[ポリエステル樹脂]
本実施形態に係る非結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分とを含む原料の重縮合物であり、当該多価アルコール成分がエルカ酸ダイマージオールを含む。また、本実施形態のポリエステル樹脂は、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含む。
【0020】
(エルカ酸ダイマージオール)
本明細書においてエルカ酸ダイマージオールとは、エルカ酸ダイマーのカルボキシル基を還元してヒドロキシル基とした化学構造を有するものを言う。エルカ酸ダイマーのカルボキシル基を還元する方法としては、特に制限はないが、エルカ酸ダイマーに触媒存在下で水素添加して還元する方法が挙げられる。エルカ酸ダイマージオールとしては、ダイマー酸由来の炭素-炭素二重結合も水素化した水添ダイマージオールが特に好ましい。
【0021】
ここで、エルカ酸ダイマーとは、炭素数が22である不飽和脂肪酸(エルカ酸)が二量化した炭素数が44のダイマー酸であるジカルボン酸、並びにその酸無水物、酸ハライド及び低級(炭素数1~4)アルキルエステルを意味する。二量化に用いられるエルカ酸は、エルカ酸そのものであってもよいし、エルカ酸を含む植物油を用いてもよい。エルカ酸を含む植物油としては、ホホバ油、ナタネ油が挙げられる。市販のエルカ酸ダイマーの代表的なものとしては、商品名:プリポール 1004(クローダ社製)等が挙げられる。
【0022】
上記原料におけるエルカ酸ダイマージオールの含有量は、トナーの低温定着性及び耐熱保管性を向上させることが容易となる観点から、0.2~10モル%であることが好ましく、0.2~8モル%であることがより好ましく、0.2~5モル%であることが更に好ましい。なお、上記含有量は、ポリエステル樹脂の構成成分の全仕込み量を100モル%として計算される値である。
【0023】
多価アルコール成分としてエルカ酸ダイマージオールを用いることにより、ポリエステル樹脂にエルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含有させることができる。
【0024】
また、上記の割合でエルカ酸ダイマージオールを用いることにより、ポリエステル樹脂におけるエルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位の含有量を、0.2~10モル%、0.2~8モル%、又は0.2~5モル%とすることができる。
【0025】
(エルカ酸ダイマージオール以外の多価アルコール)
エルカ酸ダイマージオール以外の多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリンなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAなどの脂環式ジオール;ビスフェノールAのアルキレン(炭素数2~3)オキサイド付加物などの芳香族ジオール類が挙げられる。
【0026】
また、良好な定着性を確保するために架橋構造又は分岐構造を形成するように、多価アルコールとして、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリオキシアルキレントリス(ヒドロキシフェニル)エタンエチレンオキサイド付加物等の3価以上の多価アルコールを用いることができる。
【0027】
エルカ酸ダイマージオール以外の多価アルコール成分は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記の多価アルコールのうち、低温定着性が良好となる観点から、芳香族ジオール類、又は脂環式ジオール類が好ましく、トナーの帯電性の観点から、芳香族ジオールが更に好ましい。
【0029】
上記原料における多価アルコール成分の含有量は、30~55モル%であることが好ましく、35~50モル%であることがより好ましく、40~50モル%であることが更に好ましい。なお、上記含有量は、ポリエステル樹脂の構成成分の全仕込み量を100モル%として計算される値である。
【0030】
(多価カルボン酸成分)
多価カルボン酸成分としては、多価カルボン酸、その酸無水物、その酸ハライド、及び、その低級(炭素数1~4)アルキルエステルを挙げることができる。多価カルボン酸成分は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,4-、1,5-、2,6-)、アントラセンジカルボン酸、フェニルジカルボン酸等の、芳香環に置換基を有していてもよい芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等の3価以上の芳香族カルボン酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸等のシクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸等のシクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸等の3価以上の脂環式カルボン酸が挙げられる。
【0032】
トナーの帯電性及び耐熱保管性の観点から、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0033】
多価カルボン酸成分が3価以上の多価カルボン酸成分を含む場合、多価カルボン酸成分における3価以上の多価カルボン酸成分の含有量は、多価カルボン酸成分全量基準で0.3~20モル%が好ましく、3~10モル%がより好ましい。
【0034】
多価カルボン酸成分は、本発明の効果を損なわない程度に、脂肪族多価カルボン酸、その酸無水物、その酸ハライド、及び、その低級(炭素数1~4)アルキルエステルを含むことができる。
【0035】
脂肪族多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2-エチルヘキシルコハク酸、オレイルコハク酸、2-ドデセニルコハク酸、及びテトラプロペニルコハク酸等の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
【0036】
多価カルボン酸成分が脂肪族多価カルボン酸成分を含む場合、多価カルボン酸成分における脂肪族多価カルボン酸成分の含有量は、多価カルボン酸成分全量基準で、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。
【0037】
上記原料における多価カルボン酸成分の含有量は、10~60モル%であることが好ましく、15~60モル%であることがより好ましく、15~50モル%であることが更に好ましい。なお、上記含有量は、ポリエステル樹脂の構成成分の全仕込み量を100モル%として計算される値である。
【0038】
また、多価カルボン酸成分としては、上述のエルカ酸ダイマーを用いることもできる。上記原料におけるエルカ酸ダイマーの含有量は、トナーの低温定着性及び耐熱保管性を向上させることが容易となる観点から、0.2~10モル%であることが好ましく、0.2~8モル%であることがより好ましく、0.2~5モル%であることが更に好ましい。なお、上記含有量は、ポリエステル樹脂の構成成分の全仕込み量を100モル%として計算される値である。
【0039】
多価カルボン酸成分としてエルカ酸ダイマーを用いることにより、ポリエステル樹脂にエルカ酸ダイマーに由来する構造単位を含有させることができる。
【0040】
また、上記の割合でエルカ酸ダイマーを用いることにより、ポリエステル樹脂におけるエルカ酸ダイマーに由来する構造単位の含有量を、0.2~10モル%、0.2~8モル%、又は0.2~5モル%とすることができる。
【0041】
(その他の成分)
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、上記エルカ酸ダイマージオールを含む上記多価アルコール成分と上記多価カルボン酸成分とを重縮合することによって得られるが、重縮合する原料が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレートの解重合物、及びポリブチレンテレフタレートの解重合物からなる群より選択される1種以上の化合物を更に含むことができる。原料がこのような化合物を含むことにより、得られる非結晶性ポリエステル樹脂の明度を向上させることができる傾向にある。
【0042】
この場合、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位に加えて、下記式(1)で示される構造単位を更に含有することができる。
【化1】
[式(1)中、nは2又は4を示す。]
【0043】
用いられるPET及びPBTの分子量分布、組成、製造方法、使用する際の形態等に制限はない。また、PET及びPBTは、廃物より回収されたリサイクルPETやリサイクルPBTであってもよい。
【0044】
リサイクルPETやリサイクルPBTは、通常、フレーク状又はペレット状に加工されており、重量平均分子量が30000~90000程度のものである。
【0045】
上記原料におけるPET、PBT及びこれらの解重合物の総含有量は、耐熱保管性の観点から、25モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、35モル%以上であることが更に好ましい。また、上記原料におけるPET、PBT及びこれらの解重合物の総含有量は、重縮合性や低温定着性の観点から、70モル%以下であることが好ましく、65モル%以下であることがより好ましく、60モル%以下であることが更に好ましい。
【0046】
PET及びPBTを原料として用いる際には、予め、多価アルコール成分の一部とPET及び/又はPBTとを仕込み、PET及び/又はPBTの解重合反応を行った後に、残余の多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分を添加し、重縮合反応を行ってもよい。
【0047】
また、PET及び/又はPBT、多価アルコール成分、並びに多価カルボン酸成分を一括で仕込み、解重合反応と重縮合反応とを同時に行ってもよい。なお、本明細書において解重合とは、加水分解反応やエステル交換反応等の種々の重縮合の逆反応を表す。
【0048】
上記原料におけるPET、PBT及びこれらの解重合物の総含有量は、[テレフタル酸:エチレン(又はブチレン)グリコール]単位を1モルとして、PET及び/又はPBTの仕込み質量から算出することができる。
【0049】
[非結晶性ポリエステル樹脂の製造]
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分を、直接エステル化反応又はエステル交換反応を介して、多価アルコールと重縮合反応させることによって製造することができる。
【0050】
本実施形態において、重縮合反応を行う際の温度は、反応時間の短縮、及び樹脂の分解抑制の観点から、150~300℃とすることができ、好ましくは180℃~270℃であり、より好ましくは200℃~250℃である。
【0051】
重縮合反応は、必要に応じて、三酸化アンチモン、ジブチル錫オキサイド等の有機スズ系重合触媒、ゲルマニウム系触媒、無機チタン系触媒、n-テトラブトキシチタンやテトライソプロポキシチタン等の有機チタン系触媒、有機コバルト系触媒、酢酸亜鉛や酢酸マンガン等のエステル交換触媒等の、従来公知の触媒を使用することができる。これらのうち、ゲルマニウム系触媒、無機チタン系触媒、有機チタン系触媒などが好ましい。
【0052】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂には、その製造過程の任意の段階で、又は製造の後に、着色や熱分解を防ぐ目的で酸化防止剤を加えてもよい。このような酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、含イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、従来公知の方法により、ウレタン変性、ウレア変性、エポキシ変性等の変性、又は、スチレンアクリレート共重合樹脂とのハイブリッド化を更に行うこともできる。
【0054】
[ポリエステル樹脂の物性]
本実施形態のポリエステル樹脂は非結晶性であるため、ガラス転移点以上の温度域において明確な融点を示さないゴム状領域を有することから、樹脂の流動開始直前まで貯蔵弾性率を保持しやすい性質を有することができる。
【0055】
なお、本明細書において「非結晶性」のポリエステル樹脂とは、明確な結晶融解吸熱ピークを示さず、DSC(示差走査熱量測定)曲線における融解吸熱ピーク面積から求められた融解エンタルピーが5mJ/mg以下であるポリエステル樹脂を指す。これに対し、「結晶性」のポリエステル樹脂とは、明確な結晶融解吸熱ピークを示し、その融解エンタルピーが5mJ/mgより大きいポリエステル樹脂を指す。なお、上記融解エンタルピーの値は、インジウムを標準物質として求められた値である。
【0056】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、1~25mgKOH/gであることが好ましく、4~15mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が1mgKOH/g以上であると、トナー表面の電荷による粒子間のイオン反発力を確保しやすくなり、保管時など高温状態に長期間曝された場合にトナー同士の合着や凝集といった問題を抑制しやすくなり、酸価が1mgKOH/g未満である場合と比較して耐ブロッキング性が向上する傾向がある。一方、酸価が25mgKOH/g以下であると、イオン性官能基に起因する吸湿性が増大することを抑制でき、酸価が25mgKOH/gを超える場合と比較して耐ブロッキング性の確保が容易となり、また、トナーの帯電特性が低下して画像形成不良による画質の低下も抑制できる。更に、酸価が4~25mgKOH/gの範囲にあると、樹脂を乳化・再凝集させて作製されるケミカルトナーにおいて、粒径のコントロールが容易となる。なお、製造されたポリエステル樹脂の酸価が上記範囲から外れていた場合は、多価カルボン酸を適宜反応させて上記範囲内に調整することもできる。
【0057】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、耐熱保管性の観点から、45℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。また、本実施形態のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、低温定着性の観点から、65℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。
【0058】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、低温定着性の観点から、溶融粘度が10000Pa・sとなるときの温度が、70~110℃であることが好ましく、80~100℃であることがより好ましい。また、耐ホットオフセット性の観点から、溶融粘度が1000Pa・sとなるときの温度が、100~150℃であることが好ましく、110~140℃であることがより好ましい。
【0059】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、特に制限はないが、トナーとしたときの性能面から、5,000~50,000であることが好ましい。下限値以上とすることで、耐ホットオフセット性を確保しやすくなり、上限値以下とすることで、低温定着性及び画像光沢性を確保しやすくなる。
【0060】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が異なる2種以上の非結晶性ポリエステル樹脂を混合して用いることができる。この場合、重量平均分子量が5,000以上20,000未満の非結晶性ポリエステル樹脂と、重量平均分子量が20,000以上50,000以下の非結晶性ポリエステル樹脂とを、重量比で95:5~5:95の割合で混合することが好ましく、90:10~40:60の割合で混合することがより好ましく、80:20~50:50の割合で混合することが更に好ましい。上記割合が95:5~5:95の範囲であると、更に優れた低温定着性及び画像光沢性(グロス性)を有するとともに良好な耐ホットオフセット性及び耐熱保管性を有するトナーを得ることができる。
【0061】
[トナー用結着樹脂]
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、そのままで、又はポリスチレンやスチレンブタジエン系ポリマー、スチレンアクリル系ポリマー、ポリエステルなどの従来公知の非結晶性樹脂や結晶性ポリエステル樹脂と併用して、トナー用結着樹脂として用いることができ、特には静電荷像現像用トナーの結着樹脂として用いることができる。
【0062】
併用する結晶性ポリエステル樹脂としては、炭素数4~12(好ましくは炭素数8~12)の脂肪族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸と、炭素数2~12(好ましくは炭素数8~12)の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールとの組み合わせにより製造された樹脂が挙げられる。また、このような結晶性ポリエステル樹脂としては、DSCによる融点が65~75℃であるものが好ましい。
【0063】
本実施形態のトナー用結着樹脂は、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂が水系媒体へ分散又は乳化された分散液又は乳化液の形態であることが好ましい。例えば、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体へ分散又は乳化することによりトナー用結着樹脂分散物を得ることができる。上記水系媒体としては、水、及び、水と混和性のある溶媒(例えば、炭素数1~4の低級アルコール若しくはグリコール、又は、メチルエチルケトン及びアセトン等のケトン)と水との混合溶媒等が挙げられる。分散又は乳化の方法としては、例えば、メディア型分散機(ビーズミル)又は高圧型分散機(ホモジナイザー、アルティマイザー)を用いる方法や、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解させた溶液中に水を添加して、油相から水相へ転相させる転相乳化法等が挙げられる。
【0064】
本実施形態のトナー用結着樹脂は、結着樹脂以外の成分を含有することができる。その成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、顔料等の着色剤、無機微粒子、有機微粒子、帯電制御剤、及び離型剤等の従来公知の成分が挙げられる。
【0065】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂は、ワックス類を良好に微分散させることができ、ワックス分散性に優れている。これにより、トナーにおいてワックス類の含有量を高める場合であっても、ワックス類のブリードアウトを抑制することができるだけでなく、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性のうちの一つ以上の特性を向上させる効果を相乗的に得ることもできる。このような観点から、本実施形態のトナー用結着樹脂は、ワックス類を含有することが好ましい。
【0066】
ワックス類としては、例えば、ポリエチレン、プロピレン等の低分子量ポリオレフィン類、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油ワックス;ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等の高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルワックス類;ステアリン酸ブチル、オレイン酸プロピル、モノステアリン酸グリセリド、ジステアリン酸グリセリド、ペンタエリスリトールテトラベヘネート等の高級脂肪酸と単価又は多価低級アルコールとのエステルワックス類;ジエチレングリコールモノステアレート、ジプロピレングリコールジステアレート、ジステアリン酸ジグリセリド、テトラステアリン酸トリグリセリド等の高級脂肪酸と多価アルコール多量体とからなるエステルワックス類;ソルビタンモノステアレート等のソルビタン高級脂肪酸エステルワックス類などが挙げられる。ワックス類は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
トナー用結着樹脂におけるワックス類の含有量は、低温定着性及び耐ホットオフセット性の観点から、トナー用結着樹脂全量(固形分)を基準として、1~10質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0068】
[トナー]
本実施形態のトナーは、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂が含まれる上記本実施形態のトナー用結着樹脂、顔料、及びワックス類等のその他の成分を含有することができる。本実施形態のトナーは静電荷像現像用トナーとして好適である。
【0069】
本実施形態のトナーは、本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂を結着樹脂として使用し、トナーを製造する際は、従来公知の混練粉砕法、スプレイドライ法、及び乳化凝集法等によるケミカルトナー等を採用すればよく、また、トナー製造のための成分も従来公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0071】
なお、実施例おいては下記の方法にしたがって各評価を行った。
【0072】
[ポリエステル樹脂の物性評価]
(1)酸価
非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、JIS K 0070(1992)の3.1の中和滴定法に準じ、測定溶媒としてテトラヒドロフラン:水=10:1(体積比)の混合溶媒を用い、この混合溶媒60mLに試料1gを溶解させて測定した。
【0073】
(2)ガラス転移点
非結晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点を、JIS K7121(1987)の9.3(3)に従いDSCにより測定した。測定装置として示差走査熱量計DSC-6220(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使用した。
<測定条件>
昇温及び降温速度:10℃/分
昇温プログラム:室温から150℃まで昇温した後、150℃で1分間保持した。次いで、0℃まで降温して0℃で1分間保持し、さらに150℃まで昇温しながら測定した。
雰囲気:窒素気流中(50mL/分)
セル:密閉アルミニウム
試料量:5mg
【0074】
(3)融点
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量計DSC-6220(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)により得られる温度に対する熱量のグラフにおける、融解吸熱ピーク頂点の温度を融点とした。測定条件は(2)ガラス転移点の場合と同様とした。
【0075】
(4)重量平均分子量
非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量を以下の方法にしたがって測定した。即ち、ポリエステル樹脂2mgをテトラヒドロフラン5mLに加えて溶解させ、重量平均分子量を、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)により、ポリスチレン換算にて求めた。また、重量平均分子量が500以下である成分の割合を検出ピークの面積比より算出した。
<測定条件>
検出装置:RI検出器
移動相:テトラヒドロフラン
カラム:Tsk-gel Super HZ 2000を2本とTsk-gel Sup
er HZ 4000を1本とを直列に接続した。
サンプルインジェクターとカラムの温度:40℃
RI検出器の温度:35℃
サンプル注入量:5μL
流速:0.25mL/分
測定時間:40分
【0076】
(5)溶融特性
高架式フローテスターCFT-500(株式会社島津製作所製)を用い、ダイ(長さ1.0mm、直径φ0.5mm)を取り付けたシリンダー内に、非結晶性ポリエステル樹脂を1.0g入れ、85℃で5分間保持した後、3℃/分で昇温しながら、プランジャーにより25kgの荷重を加えて溶融粘度を測定し、溶融粘度が10000Pa・sとなる温度、及び1000Pa・sとなる温度を測定した。
【0077】
(6)樹脂の明度(ΔL値)
試料として非結晶性ポリエステル樹脂の10質量%THF溶液を作製した。分光光度計(UV-Vis Lambda650S、パーキンエルマー社製)を用い、THFをブランクとして、波長域400~700nmにおける試料の透過率を測定し、これをL*a*b*表色系に変換し、明度(ΔL*値)を算出した。
【0078】
[ポリエステル樹脂の分散液の評価]
(7)粒度分布
非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂の分散液中の、ポリエステル樹脂の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(LA-920、堀場製作所製)を用いて測定した。測定方法としては、分散液を適当な濃度になるまでセルに投入し、約2分間待って、セル内の濃度がほぼ安定になったところで測定した。
【0079】
得られたチャンネルごとの体積平均粒径を、小径側から累積分布を描き、累積16%になる粒径を体積平均粒径D16vと定義し、累積50%になる粒径を、体積平均粒径D50vと定義した。同様に、累積84%になる粒径を、体積平均粒径D84vと定義した。この平均粒径から、体積粒度分布指標(GSDv)を次式によって算出した。
GSDv=(D84v/D16v)0.5
【0080】
[トナーの物性評価]
(8)平均円形度評価
トナーの形状をシスメックス(SYSMEX)社のFPIA-3000装備を利用して測定し、トナーの円形度を下記式に基づいて計算した。なお、円形度値は、0~1の値であり、円形度値が1に近いほど球形に近づくが、トナーの性能面から0.96~0.98程度であることが好ましい。
円形度(circularity)=2×(π×面積)0.5/周囲長
【0081】
式中、周囲長は、CCDカメラで撮影した粒子の周囲の長さを指す。平均円形度は、トナー粒子3,000個の円形度値を平均して算出した。
【0082】
(9)粒度分布評価
コールターカウンター(Coulter counter)であるマルチサイザIII(ベックマン-コールター社製)測定機を使用し、次の測定条件で、トナー粒子の粒度分布の指標である体積平均粒度D50vを測定した。
電解液:ISOTON II
Aperture Tube:100μm
測定粒子数:30,000
【0083】
[トナーの性能評価]
実施例及び比較例で調製したトナーに対し、定着特性(低温定着性及び耐ホットオフセット性)、耐熱保管性及びワックス分散性を下記基準に基づいて評価した。
【0084】
(10)定着特性
温度25℃、55%RHの相対湿度の条件下での部屋で、実施例及び比較例のトナーを、プロセス速度と温度調節ができるように改造したDocuPrint C3350(富士ゼロックス社製)のトナーカートリッジにセットし、単色ベタ画像の現像トナー量が0.70ミリグラム/cm2となるように調整した後、未定着画像(2.5cm×4cm)を紙に印刷した。印刷画像は、カラー画像ではなく、同じシアントナーで二層を積層した画像で評価を行った。
【0085】
上記の条件の下で、XEROX EXCLUSIVE 90グラム紙A4用紙に、100℃から190℃まで定着温度を変化させて、未定着画像を定着させた。定着時の処理速度は約160mm/秒で行った。
【0086】
3Mテープ(スコッチメンディングテープ810-3-15)を定着画像の表面に付着し、500gの錘を用いて5回往復し、テープ剥離前後の画像濃度をマクベス型反射濃度計にて測定し、下記式にて定着率(%)を算出した。本明細書では、定着率(%)が90%以上である定着温度領域をトナーの定着領域とみなす。
定着性(%)=(テープ剥離後の光学密度/テープ剥離前の光学密度)×100
【0087】
(10-1)低温定着性
各温度での画像濃度を測定し、定着性が90%以上となる最低温度を最低定着温度とし、下記評価基準で評価した。最低定着温度が低いほど低温定着性が優れていることを意味する。
【0088】
低温定着性の評価基準
5 :最低定着温度≦110℃
4 :110℃<最低定着温度≦120℃
3 :120℃<最低定着温度≦130℃
2 :130℃<最低定着温度≦140℃
1 :140℃<最低定着温度
【0089】
(10-2)耐ホットオフセット性
また、高温オフセット(ホットオフセット)が発生する最低温度をホットオフセット温度とし、下記評価基準で評価した。なお、ホットオフセットは、未定着画像を定着させた後、白色紙を同様の条件で定着装置に供給し、トナー汚れが白色紙に発生したかどうかを肉眼で観察して評価した。
【0090】
耐オフセット性の評価基準
5 :190℃≦ホットオフセット発生温度
4 :180℃≦ホットオフセット発生温度<190℃
3 :170℃≦ホットオフセット発生温度<180℃
2 :160℃≦ホットオフセット発生温度<170℃
1 :ホットオフセット発生温度<160℃
【0091】
(11)耐熱保管性
トナーを、50℃、15時間、相対湿度80%に維持した後、パウダーテスター(モデル名:PT-S、ホソカワミクロンPOWDER SYSTEMS)を使用して、以下のトナー流動性の評価に基づき、トナーの耐熱保存性を評価した。
【0092】
3種類のメッシュ(目開き:53ミクロン、45ミクロン、38ミクロン)を上、中、下に配置する。トナー2.0gを上部メッシュの上に載せ、1mm振動振幅で40秒間振動させ、各メッシュ上に残ったトナー量を測定し、以下の式によってトナーの凝集度を算出した。
凝集度={(a×1.0+b×0.6+c×0.2)÷2}×100
a=53ミクロンメッシュ上に残ったトナー量(g)
b=45ミクロンメッシュ上に残ったトナー量(g)
c=38ミクロンメッシュ上に残ったトナー量(g)
【0093】
凝集度から、トナー流動性を次のような基準で評価した。
トナー流動性の評価基準
5 :凝集度10未満であり、非常に流動性が良好な状態
4 :凝集度10以上20未満、流動性が良好な状態
3 :凝集度20以上40未満、流動性が若干良好でない状態
2 :凝集度40以上60未満、流動性が良好でない状態
1 :凝集度60以上、流動性がなく、一部ブロッキングした状態
【0094】
(12)ワックス分散性
トナー粒子中のワックスを以下の方法で観察した。
【0095】
まず、光硬化性のエポキシ樹脂中にトナー粒子を十分分散させた後、紫外線を照射して該エポキシ樹脂を硬化させた。得られた硬化物を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて切断し、薄片状のサンプルを作製した。該サンプルに四酸化ルテニウムを用い染色を施した後、透過電子顕微鏡(TEM)(JEOL社製 JEM-2100-TM)を用い、加速電圧120kVの条件でトナー粒子の断面を観察及び写真撮影した。
【0096】
なお、四酸化ルテニウムを用いると、非結晶性ポリエステル樹脂部分が強く染色され、ワックス部分は白く観察される。これによりワックスの分散状態が観察可能となる。観察倍率は20000倍とした。
【0097】
上記写真撮影により得られた画像を、スキャナーを介して600dpiで読み取り、画像解析及び画像計測ソフトウェア「粒子解析 Ver.3.5」(日鉄住金テクノロジー)に導入した。トナー断面に観察されたワックス部分が明瞭に見えるように、適宜コントラストと明るさの調整を行った後、2値化処理及び穴埋め、雑音除去を行い、ワックス部分の面積を測定した。測定された面積に基づき、測定された面積と同じ面積を有する円の直径である円相当径を算出した。計測データ数が100カウントになるまで計測を行い、それらの個数平均を求めることでワックス部分の円相当径とし、下記評価基準に基づき分散性を評価した。
ワックス分散性の評価基準
5 :0.5μm以下
4 :0.5μm超1μm以下
3 :1μm超3μm以下
2 :3μm超5μm以下
1 :5μm超
【0098】
<非結晶性ポリエステル樹脂の製造>
(実施例1)
予め十分乾燥させた反応容器に、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2.3モル付加物554g、イソフタル酸272g、後述のエルカ酸ダイマージオール32gを仕込み、窒素通気中で攪拌しながら180℃になるまで加熱した。ここで、触媒として、チタンラクテート(オルガチックスTC-310、マツモトファインケミカル社製、チタンラクテート濃度44質量%)を1.7g仕込み、250℃まで昇温し、最終的に反応容器内の圧力が2kPa以下になるまで減圧し、250℃で所定の重量平均分子量になるまで重縮合反応を行い、非結晶性ポリエステル樹脂(A-1)を得た。
【0099】
(実施例2~7)
表1及び2に示すように原料及び組成(仕込み量)を変えた以外は実施例1と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂(A-2)~(A-7)をそれぞれ得た。なお、触媒の仕込み量は、多価アルコール成分、多価カルボン酸成分及びその他の成分の合計モル数を100としたときに添加される量である。
【0100】
(比較例1~6)
表2に示すように原料及び組成(仕込み量)を変えた以外は、実施例1と同様にして非結晶性ポリエステル樹脂(R-1)~(R-6)をそれぞれ得た。
【0101】
上記で得られた非結晶性ポリエステル樹脂の物性を表1及び2にまとめる。
【0102】
なお、表中の原料の詳細は下記のとおりである。
回収PET:重量平均分子量65,000
C18不飽和脂肪酸ダイマージオール:「プリポール 2033」(クローダ社製、商品名)
エルカ酸ダイマージオール:以下の調製例1により製造したものである。
【0103】
(調製例1)
エルカ酸ダイマー「プリポール 1004」(クローダ社製、商品名)300gに市販の銅-クロム酸化物触媒「N202D」(日揮触媒化成株式会社製)を5.63g、10質量%水酸化カリウムメタノール溶液を、水酸化カリウムがエルカ酸ダイマーに対し60ppmとなるように加え、1000mLオートクレーブ中で、水素圧25MPa、反応温度275℃、水素を5L/minで流し、反応を10時間行った。反応は液相懸濁床方式で行った。
反応終了後、反応器を冷却し、オートクレーブを開放して反応液を抜き出し、加圧濾過により触媒を回収し、反応物であるエルカ酸ダイマージオールを得た。
【0104】
<結晶性ポリエステル樹脂の製造>
(製造例1)
予め十分乾燥させた反応容器に、1,9-ノナンジオール438g、1,10-デカンジカルボン酸562gを仕込み、窒素通気中で攪拌しながら150℃になるまで加熱した。ここで、触媒として、n-テトラブトキシチタンを、1,10-デカンジカルボン酸のモル数を100としたときに0.05モルとなる量で仕込み、210℃まで昇温し、最終的に反応容器内の圧力が2kPa以下になるまで減圧し、210℃で1.5時間重縮合反応を行い、結晶性ポリエステル樹脂(C)を得た。融点は、示差走査熱量計DSC-6220(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)により測定し、68℃であった。
【0105】
結晶性ポリエステル樹脂(C)について物性を評価したところ、GPCにおける重量平均分子量は6,100であり、酸価は14.3mgKOH/gであった。
【0106】
<非結晶性ポリエステル樹脂分散液の調製>
(調製例LA-1)
4口フラスコに、非晶性ポリエステル樹脂(A-1)を60質量部、メチルエチルケトン48質量部及び2-プロピルアルコール12質量部を入れ、スリーワンモーターで攪拌させながら、樹脂を溶解させた後、5質量%アンモニア水溶液を26質量部加えた。さらに、イオン交換水94質量部を徐々に加えて、転相乳化を行った後、脱溶媒を行った。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度を30質量%に調整し、非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-1)を得た。分散液中の樹脂粒子の体積平均粒径(D50v)は155nm、体積粒度分布指標(GSDv)は1.15であった。
【0107】
(調製例LA-2~LA-7、LR-1~LR-6)
非結晶性ポリエステル樹脂A-2~A-7、R-1~R-6を用いた以外は非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-1)と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂分散液LA-2~LA-7、LR-1~LR-6それぞれを得た。
【0108】
<結晶性ポリエステル樹脂分散液の調製>
(調製例LC)
4口フラスコに、結晶性ポリエステル樹脂(C)60質量部、メチルエチルケトン32質量部及び2-プロピルアルコール8質量部を入れ、スリーワンモーターで攪拌させながら、樹脂を溶解させた後、5質量%アンモニア水溶液を8質量部加えた。さらに、イオン交換水180質量部を徐々に加えて、転相乳化を行った後、脱溶媒を行った。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度を30質量%に調整し、結晶性ポリエステル樹脂分散液(LC)を得た。分散液中の樹脂粒子の体積平均粒径(D50v)は165nm、体積粒度分布指標(GSDv)は1.23であった。
【0109】
<着色剤分散液の調製>
SUS製容器に、シアン顔料(PB 15:4)60質量部及びアニオン界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬社製)10質量部と、イオン交換水と、直径1mmのガラスビーズとを投入し、常温を保ちながら10時間振とうした後、ナイロンメッシュでガラスビーズを分離し、シアン顔料分散液を得た。
【0110】
<離型剤分散液の調製>
パラフィンワックス(HNP-9、日本精鑞社製)100質量部及びアニオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業社製)5質量部をイオン交換水に110℃で加熱溶融させた後、ホモジナイザー装置(ゴーリーン社製、商品名:ホモジナイザー、30MPa)で分散処理を行い、離型剤分散液を得た。
【0111】
<トナーの調製>
(実施例8)
3L反応器に、脱イオン水764g、非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-1)702g、及び結晶性ポリエステル樹脂分散液(LC)112gを入れ、350rpmで撹拌した。反応器に、シアン顔料分散液77g及び離型剤分散液80gを入れた後、0.3N濃度の硝酸水溶液30g(0.3mol)及び凝集剤としてポリ塩化アルミニウム25g(濃度10質量%)をさらに入れ、ホモジナイザーを利用して撹拌し、1℃/分の速度で50℃まで加熱した。その後、0.03℃/分の速度で、凝集反応液の温度を上昇させ、凝集反応を続け、4~5μmの体積平均粒径を有する一次凝集トナーを形成した。
【0112】
次に、反応器に、シェル層用として非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-1)300gを添加し、0.5時間凝集させた後、1N NaOH水溶液を添加し、系のpHを8.3に調整し、20分後に、系の温度を83℃に昇温し、4時間融合し、5~7μmの体積平均粒径を有する二次凝集トナー粒子を得た。この凝集反応液を、28℃以下に冷やした後、濾過工程を経て、トナー粒子を分離して乾燥した。
【0113】
ヘンシェルミキサーに、乾燥したトナー粒子100g、RY50(日本アエロジル(株))1.0g、SW-100(チタン工業(株))0.8gを添加し、8,000rpmで120秒間撹拌することによって、トナー粒子に外添剤を添加した。これにより、体積平均粒径が6.4μmであるトナー(TN-1)を得た。トナー粒子(TN-1)の平均円形度は0.972であった。
【0114】
(実施例9~16、比較例7~13)
表3及び4に示すとおり、非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-1)の代わりに、非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LA-2)~(LA-7)又は非結晶性ポリエステル樹脂分散液(LR-1)~(LR-6)を用いた以外は実施例8と同様にして、トナー(TN-2)~(TN-16)をそれぞれ得た。
【0115】
上記で得られたトナーの性能評価の結果を表3及び4に示す。また、トナーにおけるパラフィンワックスの含有量(質量%)(トナー全質量基準)も表3及び4に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
エルカ酸ダイマージオールを必須原料として合成された非結晶性ポリエステル樹脂を用いて得られるトナーは、いずれもワックス分散性がよく、低温定着性が優れている。
また、実施例15及び16と、比較例12及び13との対比から、エルカ酸ダイマージオールに由来する構造単位を含む非結晶性ポリエステルは、ワックスを増量させても分散性が良好であり、耐熱保管性に優れる。
【0121】
本実施形態の非結晶性ポリエステル樹脂を用いて得られるトナーは、耐オフセット性及び耐熱保管性が良好である。
【0122】
また、回収PETを用いていない比較例1と回収PETを用いた比較例6との明度の差は1.4であり、回収PETを用いても明度はほとんど変化しなかった。非結晶性ポリエステル樹脂の多価アルコール成分としてC36不飽和脂肪酸ダイマージオールを用いた比較例5と比較例9との明度の差は4であり、回収PETを用いたことによる明度の向上が見られたものの、エルカ酸ダイマージオールを用いた実施例1と実施例5との明度の差は5であり、回収PETを使用したことによる明度についてより大きな改善が見られた。