(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】水田用水位調節装置
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
A01G25/00 501Z
(21)【出願番号】P 2017245564
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】川上 直里
(72)【発明者】
【氏名】矢島 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】田草川 英昇
(72)【発明者】
【氏名】源田 隆
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3116842(JP,U)
【文献】実開昭55-033064(JP,U)
【文献】特開2017-023032(JP,A)
【文献】特開平11-323888(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203894(JP,U)
【文献】登録実用新案第3199539(JP,U)
【文献】実開平3-32629(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0022502(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01G 5/00 - 7/06
A01G 9/28
A01G 17/00 - 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 - 22/67
A01G 24/00 - 29/00
E02B 9/00 - 13/02
E03B 1/00 - 11/16
F16L 15/00
F16L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田の水位を任意の高さ位置に調節する水田用水位調節装置であって、
一端および他端が開放面を成し、内部を水田の用水が流出する管筒状の可動管と、該可動管が移動可能な開口を備えた支持体と、前記可動管および前記支持体に形成され、前記可動管を中心軸方向に沿って前記支持体に対して任意の位置に係止させる係止手段と、を備え
、
前記係止手段は、前記可動管の外周面に互いに離間して、上下方向に形成された複数個の突起と、前記支持体の前記開口の内周面に形成され、前記可動管の中心軸方向に沿って前記突起の通過を許容する凹部と、を有し、
前記支持体には、前記突起と係合して、前記可動管の中心軸方向に沿って前記突起を通過させず、かつ前記可動管の周回方向への移動を抑制する突起係止溝が形成されていることを特徴とする水田用水位調節装置。
【請求項2】
複数個の前記突起は、前記可動管の中心軸方向に互いに異なる位置で、かつ、前記可動管の周回方向に互いに異なる位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の水田用水位調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田における水位を調節するための水田用水位調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水田の水位を調整する水位調節装置として、上部および周面に排水口を形成した筒体と、この筒体を支持する取付管とを有する水位調節装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。こうした水位調節装置によれば、筒体の高さ位置に応じて、所望の水位を超えた分の水田の水が筒体の排水口から下位の排水路などに排出されることで、水田を所望の水位に保つことができる。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化などによる局地的な降水量の急増によって、水田より下位にある排水路の氾濫等を防止するために、水田を一時貯水施設として利用することが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この特許文献2によれば、筒状の可動管の上部排水口部に流入する排水は、可動管の断面積よりも小さな開口面積をもつ小孔によって水田の水の流出量を制限する構成になっている。これにより、水位が上昇した水田から排水路に流出する水の水量を抑制し、排水路の氾濫等を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-022324号公報
【文献】特開2014-132851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の水位調節装置に比して、特許文献2のような水位調節装置は、可動管に形成した小孔によって、流出する水の水量を絞る構成である。そのため、水田に多量に貯留される水がこの小孔から排水される際に、この小孔には大きな水圧が加わる。こうした大きな水圧によって、可動管の位置が設定位置よりも下方に押し下げられ、設定水位が下がる。このことから、一時貯水施設として機能した後は、降水前に農家が予め設定した水位に調整されず、再度水位設定をしなければならず、農家にとって手間となっているという課題があった。また、洪水などによって排水路の水位が大きく上昇すると、水の逆流によって可動管が押し上げられ設定水位が変わってしまうばかりか、場合によっては可動管が取付管から抜け出て可動管を失う、といった不具合が生じる虞もあった。
【0006】
こうした可動管の想定外の上下動を防止するために、可動管と、この可動管が挿入される縦管との接触を強くする、即ち、可動管の外周面と、縦管の内周面とのクリアランスを小さくして、可動管を縦管により強く接触させることで可動管の想定外の上下動を抑止することも考えられる。しかし、可動管の外周面と縦管の内周面とのクリアランスを小さくする構成では、水田の水位を調節する際に可動管の上下動が困難になり、作業性が低下する懸念があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、水田の水位を簡易な操作で設定でき、しかも設定した水位の位置が予期せず変位することを防止できる水田用水位調節装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明は、水田の水位を任意の高さ位置に調節する水田用水位調節装置であって、一端および他端が開放面を成し、内部を水田の用水が流出する管筒状の可動管と、該可動管が移動可能な開口を備えた支持体と、前記可動管および前記支持体に形成され、前記可動管を中心軸方向に沿って前記支持体に対して任意の位置に係止させる係止手段と、を備え、前記係止手段は、前記可動管の外周面に互いに離間して、上下方向に形成された複数個の突起と、前記支持体の前記開口の内周面に形成され、前記可動管の中心軸方向に沿って前記突起の通過を許容する凹部と、を有し、前記支持体には、前記突起と係合して、前記可動管の中心軸方向に沿って前記突起を通過させず、かつ前記可動管の周回方向への移動を抑制する突起係止溝が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、複数個の前記突起は、前記可動管の中心軸方向に互いに異なる位置で、かつ、前記可動管の周回方向に互いに異なる位置に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水田の水位を簡易な操作で設定でき、しかも設定した水位の位置が予期せず変位することを防止できる水田用水位調節装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の水田用水位調節装置の設置例を示す説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置を示す外観斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置を示す断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置によって水田の水位位置を変更する際の手順を示した説明図である。
【
図5】本発明の第2実施形態の水田用水位調節装置を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第3実施形態の水田用水位調節装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の水田用水位調節装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1は、水田用水位調節装置の設置例を示す説明図である。
本発明の水田用水位調節装置10は、例えば、貯水池1の下流側に設けられている水田2の排水部3に設置される。そして、水田用水位調節装置10は、例えば地中の排水管4を介して水田2よりも下流側の排水路(用水路)5に接続され、所定の水位を超えた分の水が排水路(用水路)5に排水される。
【0019】
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置を示す斜視図である。また、
図3は、本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置を示す断面図である。
水田用水位調節装置10は、一端11aおよび他端11bが開放面を成し、内部を水田の用水が流出する円筒管状の可動管11と、この可動管11と係合して支持する円板状の支持体12と、可動管11を支持体12に任意の位置で係止させる係止手段13とを備えている。本実施形態では、係止手段13は、後述する突起14と凹部23とから構成されている。
【0020】
可動管11は、例えば、全体が樹脂によって形成された円筒パイプであり、外周面11fには、係止手段13を構成する複数個の突起14,14が互いに離間して形成されている。本実施形態では、突起14は、直方体状を成し、外周面11fから外方に突出するように形成されている。なお、こうした突起14は、可動管11と一体に成形されていればよく、また、可動管11とは別な部材として形成して外周面11fに固定してもよい。
【0021】
本実施形態の複数個の突起14,14は、可動管11の中心軸方向Cに互いに異なる位置で、かつ、可動管11の周回方向Rに互いに異なる位置に形成されている。より具体的には、複数個の突起14,14は、可動管11の一端(設置時の上側)11aと他端(設置時の下側)11bとの間で可動管11の外周面11fを周回するように設定した仮想螺旋線Lsに沿って、互いに所定の間隔を空けて配列形成されている。
【0022】
なお、この仮想螺旋線Lsは、突起14,14の配列を説明するための仮想線として挙げたものであり、実際に可動管11の外周面11fに線などが描かれているわけではない。また、仮想螺旋線Lsの周回回数や、突起14,14の設置間隔は任意に設定されればよく、限定されるものでは無い。一例として、本実施形態では、突起14,14は、可動管11の周回方向Rに対して互いに45°の角度を空けて形成されている。また、突起14,14は、可動管11の中心軸方向Cに対して、例えば、5cm間隔で形成されている。
【0023】
可動管11の内部には、一端11aから他端11bに向けて、開口径が漸減する漏斗状のオリフィス16が形成されている。このオリフィス16は、可動管11の内部を一端11aから他端11bに向かって通過する水田2の排水の流量を規制する。なお、こうしたオリフィス16を可動管11の内部に特に設けない構成であってもよい。
【0024】
支持体12は、例えば、全体が樹脂によって形成された円板状の部材であり、下部に外管21が接続されている。こうした外管21は、例えば、地中の排水管4(
図1参照)に接続されている。
【0025】
支持体12には、可動管11が中心軸方向Cに沿って摺動自在に挿通される開口22が形成されている。こうした開口22は、例えば、円形の貫通穴であり、可動管11の外径よりも僅かに大きな開口径となるように形成され、支持体12に対して可動管11が中心軸方向Cに沿って移動可能にされる。
【0026】
なお、こうした支持体12の開口22の内周面22aと、可動管11の外周面11fとは、互いに僅かなクリアランスを保つように形成されていても、あるいは、互いに摺動可能に接していてもよい。
【0027】
支持体12には、開口22の内周面22aに、可動管11の中心軸方向Cに沿って突起14の通過を許容する凹部23が形成されている。本実施形態では、凹部23は、開口22の内周面22aから外周方向に向かって凹み、円板状の支持体12の一面12aと他面12bとの間を貫通して突起14が通過可能な形状にされている。本実施形態では、こうした凹部23が支持体12の開口22を挟んで互いに対向するように180°の角度を空けて2箇所に形成されている。
【0028】
支持体12には、更に突起係止溝24が形成されていることが好ましい。突起係止溝24は、支持体12の一面12aに形成された突起14が係合可能な凹状の溝である。突起係止溝24は、可動管11の中心軸方向Cに沿って突起14を通過させず、かつ支持体12と係合した状態では、可動管11の周回方向Rへの移動を抑制する。
【0029】
なお、支持体12と外管21の間には、図示しない止水材を設置することも好ましい。止水材は、支持体12の凹部23の内周面22aによって形成される隙間から水田の水が排水されてしまうのを抑制する。
【0030】
以上のような構成の第1実施形態の水田用水位調節装置10の作用を説明する。
本発明の水田用水位調節装置10は、例えば、地中に排水管4が設置された水田2の排水部3(
図1参照)に、可動管11の中心軸方向Cが鉛直方向(上下方向)に合致するように設置される。水田用水位調節装置10は、水田2に可動管11が突出するように水田2に埋設される。
【0031】
そして、水田2の水位が降雨などによって上昇し、可動管11の開放端を成す一端11aを超えると、水田の水がオーバーフローして可動管11の内部に流れ込み、排水管4を介して水田2よりも下流側の排水路(用水路)5に排水される。これによって、水田2の水位は、水田用水位調節装置10の可動管11の一端11aの高さと同じか、これ以下に保たれる。
【0032】
こうした水田用水位調節装置10による排水時には、可動管11の内部を流れる排水は、可動管11の内部に形成されたオリフィス16によって最大流量が制限される。これにより、短時間に大量の排水が下流側の排水路(用水路)5に流れ込んで排水路(用水路)5が氾濫することを防止する。
【0033】
図4は、水田用水位調節装置10によって水田の最大水位を変更する際の手順を示した説明図である。
水田用水位調節装置10は、特定の位置の突起14が支持体12に係合した状態、即ちこの突起14が凹部23以外の位置において、支持体12の開口22の縁部に引っ掛かった状態にすることで、可動管11の自重によって中心軸方向Cに沿った特定の位置で可動管11が支持体12に支持される。本実施形態では、可動管11を周回方向Rに沿って回転させて、突起14を支持体12の突起係止溝24に嵌め込んでおくことで、可動管11が振動や強風などによって不用意に回動することを防止している(
図4(a)参照)。
【0034】
この状態から、水田2の最大水位を変更するために、可動管11を上下動させて、一端11aの高さ位置を変える際、例えば、水田2の最大水位を下げる場合には、
図4(b)に示すように、突起係止溝24に係合している突起14M1が凹部23に合致する位置まで可動管11を周回方向Rに沿って回動させる。そして、凹部23をこの突起14M1が通過するように可動管11を中心軸方向Cに沿って下げて、突起14M1が支持体12の一面12a側から他面12b側に行くように操作する(
図4(c)参照)。
【0035】
そして、このまま可動管11を垂直に(中心軸方向Cに沿って)下げると、仮想螺旋線Ls(
図2参照)に沿って突起14M1の上方に隣接する突起14M2が支持体12の開口22の縁部に当接し、可動管11は、この突起14M2の高さ位置で係止される(
図4(d)参照)。
【0036】
更に上方の突起14に支持体12を係止させる際には、上述した操作を繰り返す、即ち、可動管11を回動させて、凹部23から突起14を下方に通過させることを繰り返すことにより、可動管11の位置を下げることができる。
【0037】
この後、所望の高さ位置の突起14が支持体12の一面12aに接する位置まで可動管11を下げたら、この突起14が最も近い突起係止溝24に重なる位置まで可動管11を回動させて、突起14を突起係止溝24に嵌め込んでおけばよい。
【0038】
なお、可動管11を支持体12に対して引上げて水田2の最大水位を上げる場合も、上述した操作と逆の操作を行えばよい。即ち、可動管11を回動させて凹部23から突起14を上方に通過させることを繰り返すことにより、可動管11の位置を上げることができる。
【0039】
このように、本発明の第1実施形態の水田用水位調節装置10によれば、水田2の最大水位を変える際には、可動管11を周回方向Rに沿って回転させ、凹部23の位置に突起14を合わせて通過させるだけで良いので、煩雑な操作を伴うことなく容易に、かつ確実に水田2の最大水位を段階的に変更することが可能になる。また、突起14を仮想螺旋線Lsに沿って形成することで、可動管11の高さ位置を変える際の回動操作方向を一方向にできるので、直感的に理解しやすく、誤操作を低減できる。
【0040】
また、こうした水田用水位調節装置10は、支持体12の凹部23に突起14が重なった位置でしか、可動管11が下がることが無い。また、それぞれの突起14は、可動管11の中心軸方向Cの一線上に並べることなく、周回方向Rに沿って互いにずらして配置されているので、例えば外部の振動などによって可動管11が不用意に回動し、突起14が凹部23に重なってしまっても、可動管11が一気に外管21の内部に落下することが無く、隣接する突起14の形成高さ位置で可動管11の落下を止めることができる。
【0041】
また、こうした水田用水位調節装置10は、可動管11に形成した突起14と、支持体12との係合によって可動管11の高さ位置が維持される。このため、可動管11の高さ位置を維持するために支持体12の開口の内周面22aと可動管11の外周面11fとを強く当接させる必要が無く、可動管11の外周面11fと、支持体12の内周面22aとのクリアランスを適切に設定できる。これにより、水田2の最大水位を変える際に、可動管11を強い力で上下動させる必要が無く、小さな力で容易に可動管11の高さ位置を変更することができる。
【0042】
また、こうした水田用水位調節装置10は、大雨などによって下流の排水路(用水路)5が溢れて水田用水位調節装置10に水が逆流し、オリフィス16に下側から水圧が加わっても、支持体12に係合している突起14と、その下側に隣接する突起14との間の高さ方向に沿った幅の範囲でしか可動管11が動かない。これにより、オリフィス16に下側から水圧が加わっても、可動管11が大きく持ち上げられて水田の最大水位が大きく上昇するなどの不具合を確実に防止することができる。
【0043】
また、こうした水田用水位調節装置10は、水田2の排水を流出させる箇所が、大きな開口面積を有する可動管11の一端11a側の開口端であるので、排水が流入しやすく、短時間で効率的に水田2の排水を行うことができる。
【0044】
(第1実施形態の変形例1)
第1実施形態における支持体12に形成された凹部23は、外周方向への凹み量が可動管11の突起14の突出量よりも大幅に大きなスリット状に形成されているが、凹部23の外周方向への凹み量は、少なくとも突起14が円板状の支持体12の一面12aと他面12bとの間を通過可能なサイズに形成されていればよい。例えば、凹部23の外周方向への凹み量を突起14の突出量よりも僅かに大きい程度にすれば、支持体12に占める凹部23の面積が減らせるので、円板状の支持体12の強度を増加させることができる。
【0045】
(第1実施形態の変形例2)
また、第1実施形態における支持体12に形成された凹部23は、互いに対向する位置に2箇所形成さているが、凹部23の形成数はこれに限定されるものでは無く、任意の数の凹部23を形成することができる。凹部23の形成数を増加させれば、可動管11を上下動させる際に、可動管11を回動させる量を少なくすることができ、操作をより一層容易にすることができる。
【0046】
(第1実施形態の変形例3)
また、第1実施形態における可動管11の外周面11fに配された突起14は、直方体状に形成しているが、突起14の形状はこれに限定されるものでは無く、任意の形状の突起14を形成することができる。例えば、突起14として、1つの角が下向きになった三角柱状に形成することで、可動管11を上下動させる際に、突起14と凹部23との位置合わせが容易になる。突起14と凹部23とが完全に重なっていなくても、突起14を成す三角柱の下向きの角が凹部23の範囲内に重なれば、三角柱状の突起14が容易に凹部23を通過することができ、可動管11の上下動操作をより一層容易にすることができる。
【0047】
(第1実施形態の変形例4)
また、第1実施形態における支持体12に形成された開口22を楕円形状にすることもできる。これと共に、例えば、半球状の突起14を可動管11の周回方向Rに沿って互いに45°ずつ空けて4つ形成し、これと同様の配列で可動管11の中心軸方向Cに沿って所定の間隔で半球状の突起14を形成する。
【0048】
こうした構成によれば、周回方向Rに沿って互いに対向する位置にある2つの半球状の突起14が、楕円形の開口22の短軸に重なる位置にある時には、この半球状の突起14が、楕円形の開口22の縁部に引っ掛かり、可動管11が支持体12に対して係止される。また、この状態から可動管11を45°回動させれば、何れの半球状の突起14も楕円形の開口22の縁部に接しなくなるので、可動管11を中心軸方向Cに沿って上下動させることができる。
【0049】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態の水田用水位調節装置を示す斜視図である。なお、この第2実施形態において、前述した第1実施形態と同様の構成部材には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
第2実施形態の水田用水位調節装置30は、一端11aおよび他端11bが開放面を成し、内部を水田の用水が流出する円筒管状の可動管11と、この可動管11と係合して支持する円板状の支持体12と、可動管11を支持体12に任意の位置で係止させる係止手段33とを備えている。本実施形態では、係止手段33は、後述する突条34と溝部43とから構成されている。
【0050】
可動管11の外周面11fには、係止手段33を構成する突条34が形成されている。この突条34は、可動管11の一端11aと他端11bとの間で可動管11の外周面11fを周回する仮想螺旋線Lsに沿って延びるように形成された、断面が蒲鉾状を成す一続きの細長い突起である。こうした突条34は、例えば、可動管11と一体に成形されていればよく、また、可動管11とは別な部材として形成して外周面11fに固定してもよい。
【0051】
円板状の支持体12の開口22の内周面22aには、仮想螺旋線Lsに沿って突条34の通過を許容する溝部43が形成されている。この溝部43は、例えば、開口22の内周面22aから外周方向に向かって、突条34の断面形状よりも一回り程大きく形成された半楕円形の凹みである。
なお、本実施形態では、この溝部43と突条34の間には図示しない止水材を設けている。
【0052】
このような構成の第2実施形態の水田用水位調節装置30によれば、水田2の最大水位を設定する際に、可動管11を周回方向Rに回動させると、この可動管11は、突条34と溝部43との係合によって、支持体12に対して螺旋状に上昇または下降する。これにより、可動管11を回動させるといった簡単な操作だけで、可動管11の中心軸方向Cに沿った高さ位置を無段階に調節することができ、水田2の最大水位を簡単に設定することが可能になる。
【0053】
なお、こうした突条34は、断面が蒲鉾状以外にも、例えば、断面が半球状、矩形状、三角形状など、各種の形状の突条を採用することができる。支持体12の開口22に形成する溝部43は、こうした突条34の断面形状に合わせた形状にすればよい。
また、溝部43を突条34が摺動可能な程度の大きさに形成して止水材を省略しても良い。
【0054】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態の水田用水位調節装置を示す斜視図である。
図6の左側は支持体に可動管を支持させる前の状態を示し、
図6の右側は、支持体に可動管を支持させた状態における係止手段を拡大した図である。また、この第3実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の構成部材には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
第3実施形態の水田用水位調節装置50は、一端11aおよび他端11bが開放面を成し、内部を水田の用水が流出する円筒管状の可動管11と、この可動管11と係合して支持する筒状の支持体52と、可動管11を支持体52に任意の位置で係止させる係止手段53とを備えている。本実施形態では、係止手段53は、後述する可動突起54と係合穴63とから構成されている。
【0055】
可動管11の外周面11fには、係止手段53を構成する可動突起54が形成されている。この可動突起54は、先端部54aが支持体52の開口62の内周面62aよりも内側と内周面62aよりも外側との間で変位可能な部材である。こうした可動突起54は、例えば可動管11と一体に形成され、可動管11の一部が舌片状になるように切り込みを入れることで形成される。また、可動突起54の先端部54aは、可動管11の一部を舌片状にしたものの端部を、鋭角を成すようにカギ状に屈曲させて形成する。
【0056】
可動管11よりも短い円筒状の支持体52には、1つないし複数の係合穴63が形成されている。本実施形態では、係合穴63は、可動突起54の先端部54aが入り込んで係合可能な、支持体52を厚み方向に貫通する矩形の貫通孔からなる。
【0057】
このような構成の第3実施形態の水田用水位調節装置50によれば、水田2の最大水位を設定する際には、可動管11を円筒状の支持体52の開口62内に挿入する。この時、可動管11が支持体52に押し込まれる際に、舌片状の可動突起54の先端部54aが、支持体52の開口62の内周面62aよりも内側まで変位し、可動突起54全体が湾曲する。これにより、可動管11が支持体52に挿入可能にされる。
【0058】
そして、可動突起54が支持体52に形成された係合穴63に合致する位置まで可動管11が支持体52に押し込まれると、内側に湾曲していた可動突起54は弾性によって外方に戻り、可動突起54の先端部54aが、この係合穴63において支持体52の内周面62aよりも外側まで突出する。これにより、可動突起54と係合穴63とが係合し、可動管11が支持体52対して所定位置で支持される。
【0059】
なお、係合穴63を高さ方向に沿って複数形成した場合には、水田の最高水位を調節する際に、可動突起54の先端部54aを押し込んで係合穴63との係合を解除しつつ、隣接する他の係合穴63と可動突起54の先端部54aとが合致する位置まで可動管11を上下動させればよい。
【0060】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
10…水田用水位調節装置
11…可動管
12…支持体
13…係止手段
14…突起
23…凹部