(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】黄緑色系ガラス及び黄緑色系ガラス容器
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20220420BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C03C3/087
B65D1/00 110
(21)【出願番号】P 2018015277
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017214003
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】東條 誠司
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】「ガラス組成データブック 1991」,日本,社団法人 日本硝子製品工業会,1991年03月25日,第24ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.15質量%(mass%)以上のSO
3を含むソーダ石灰シリカ系の黄緑色系ガラスであって、着色剤として、Cr
2O
3とMnOとを含み、MnO/Cr
2O
3が質量比で0.25~1.00であり、
Cr
2
O
3
とMnOとの合計割合がガラス全体に対して0.190質量%以下であり、
着色剤として、0~0.115質量%(mass%)のFe
2
O
3
をさらに含む、酸化性であることを特徴とする黄緑色系ガラス。
【請求項2】
CIE表示(厚み10mm換算)で、明度Y=7~25%、主波長λd=570~580nm、刺激純度Pe=60~95%である、請求項1に記載の黄緑色系ガラス。
【請求項3】
0.15質量%(mass%)以上のSO
3
を含むソーダ石灰シリカ系の黄緑色系ガラスであって、着色剤として、0.070~0.130質量%(mass%)のCr
2
O
3
と、0.020~0.100質量%(mass%)のMnOとを含み、
着色剤として、0~0.115質量%(mass%)のFe
2
O
3
をさらに含む、黄緑色系ガラス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の黄緑色系ガラスを成形してなる、黄緑系ガラス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄緑色系ガラス及びそのガラスを成形してなる黄緑色系ガラス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から濃緑色ガラスなどの様々な着色ガラスが、飲料や酒類、調味料用のガラス容器に用いられてきた(特許文献1参照)。
【0003】
中でも、黄緑色(一般的には枯葉色と称される)のガラス容器は、ワイン、特に白ワインに用いられることが多く、主にヨーロッパで生産されている。
【0004】
しかし、ヨーロッパで生産されている黄緑色系ガラスは、還元性ガラス(バッチのレドックスが0以下、ガラス中SO3濃度が0.1質量%(mass%)以下)である。日本でこのガラスをカレットとして使用する場合、酸化性ガラスと反応することにより最終製品に泡を発生させたり、色調を変動させたりする等の不具合を生じさせるリスクがある。したがって、日本ではヨーロッパで製造されている還元性の黄緑色系ガラスをリサイクル用カレットとして使用しづらい状況にある。
【0005】
リサイクルの困難性の観点から、還元性の黄緑色系ガラスは日本ではごく少量しか生産されておらず、黄緑色系ガラス容器を使用したい場合、ワインメーカーは海外から輸入しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、日本でもワインの消費量が増加し、このような色調の容器の輸入量が今後も増加すると、還元性ガラスを用いて成形された海外から輸入される黄緑色系ガラス容器に関する上記リスクが、顕在化するおそれがある。
【0008】
さらにワインメーカーは、コスト面や品質面の関係から、日本製の黄緑色系ガラス容器を望んでいる。そこで本発明は、還元性の黄緑色系ガラスに似た色調を有する酸化性の黄緑色系ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、以下の酸化性であることを特徴とする黄緑色系ガラス及びそのガラスを成形してなる黄緑色系ガラス容器を開発した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0011】
[1] 0.15質量%(mass%)以上のSO3を含むソーダ石灰シリカ系の黄緑色系ガラスであって、着色剤として、Cr2O3とMnOとを含み、MnO/Cr2O3が質量比で0.25~1.00であり、酸化性であることを特徴とする黄緑色系ガラス。
【0012】
[2] Cr2O3とMnOとの合計割合がガラス全体に対して0.190質量%以下である、前項[1]に記載の黄緑色系ガラス。
【0013】
[3] 着色剤として、0~0.120質量%(mass%)のFe2O3をさらに含む、前項[1]又は[2]に記載の黄緑色系ガラス。
【0014】
[4] CIE表示(厚み10mm換算)で、明度Y=7~25%、主波長λd=570~580nm、刺激純度Pe=60~95%である、前項[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の黄緑色系ガラス。
【0015】
[5] 0.15質量%(mass%)以上のSO3を含むソーダ石灰シリカ系の黄緑色系ガラスであって、着色剤として、0.070~0.130質量%(mass%)のCr2O3と、0.020~0.100質量%(mass%)のMnOとを含む、黄緑色系ガラス。
【0016】
[6] 前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の黄緑色系ガラスを成形してなる、黄緑系ガラス容器。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、酸化性ガラスに着色剤として特定量の酸化クロム及び酸化マンガンを加えることにより黄緑色を表現したガラスであるため、当該ガラスの原料にカレットを用いた場合であっても、還元性ガラスを使用したときのような泡の発生がなく、色調変動の要因になりにくい。また、酸化クロム及び酸化マンガンは、現在生産している多くの緑色ガラスに一般的に使用される原料であり、本発明のガラスは、カレットとしてリサイクルしやすいものである。したがって、ガラス容器を生産する製びん会社は安定したガラス容器を供給でき、ワインメーカーは海外から輸入するコストが削減できるなどの利点のあるガラスであると言える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施例のガラス及び従来の還元性ガラスの透過率曲線(厚み10mm換算)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は実施の形態に限定されるべきものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者により適宜設計、変更できるものとする。
【0020】
本明細書において、「~」は範囲を示すものであり、上限及び下限の数値も包含する。また、本明細書において、ガラス中の各金属酸化物の成分割合は、表記される化学式の酸化物基準換算で計算されるものとする。
【0021】
[SO3成分について]
本発明のガラスは、人間の視覚では黄緑色(枯葉色)に見える酸化性ソーダ石灰シリカ系ガラスである。本明細書において「酸化性」とは、ガラスが酸化状態にあることをいう。ガラス中のSO3量はガラスが酸化性であるかどうかの指標となる成分であり、SO3量が多い場合は酸化性側に寄っていると言うことができる。本発明の対象となるガラスは、SO3成分を0.15質量%(mass%)以上含む酸化性ガラスである。
【0022】
本発明のガラスは、SO3を0.15質量%(mass%)以上含むが、好ましくは0.18質量%(mass%)以上、より好ましくは0.20質量%(mass%)以上のSO3を含む。SO3の含有量が0.15質量%(mass%)以上であれば、ガラスが酸化状態であり、MnO及びCr2O3の発色が良好となり、黄緑色系を維持できる。
【0023】
[MnO及びCr2O3成分について]
本発明のガラスの特徴として、着色剤として、MnO及びCr2O3を含有する。黄緑色系を呈するような、ソーダ石灰シリカ系ガラスにするためには、MnOとCr2O3を特定の割合で含有することが好ましい。
【0024】
具体的には、MnO/Cr2O3が質量比で0.25~1.00であることが好ましい。Cr2O3に対してMnOの量が1.00以下であれば茶色系になりすぎず、Cr2O3に対してMnOの量が0.25以上であれば、緑に黄色系が入ることになり、黄緑色系を呈することができる。MnO/Cr2O3はより好ましくは、0.28~0.95(質量比)であり、さらに好ましくは0.30~0.75(質量比)であり、特に好ましくは、0.31~0.60(質量比)である。
【0025】
MnOとCr2O3の合計の含有量は、0.190質量%(mass%)以下であることが好ましい。0.190質量%(mass%)以下であれば、透過率が低下しすぎることがない。MnOとCr2O3の合計含有量は、好ましくは0.180質量%(mass%)以下であり、より好ましくは0.170質量%(mass%)以下である。
【0026】
MnOは、本発明のガラス全体に対して、好ましくは0.020~0.100質量%(mass%)であり、より好ましくは0.025~0.075質量%(mass%)であり、さらに好ましくは0.027~0.060質量%(mass%)である。MnOの含有量が0.020質量%(mass%)以上、0.100質量%(mass%)以下であれば、黄緑色系を維持できる。
【0027】
Cr2O3は、本発明のガラス全体に対して、好ましくは0.070~0.130質量%(mass%)であり、より好ましくは0.073~0.120質量%(mass%)であり、さらに好ましくは0.075~0.110質量%(mass%)である。Cr2O3の含有量が0.070質量%(mass%)以上であれば、λdが長波長化せず、また0.130質量%(mass%)以下であれば、λdが短波長化しすぎることがなく、所望の黄緑色系に近い色になる。
【0028】
[Fe2O3成分について]
本発明のガラスは、Fe2O3を含有してもよいが、しなくてもよい。Fe2O3の含有量としては、0~0.120質量%(mass%)が好ましい(Fe2O3の含有量が0であることは、Fe2O3を含有していないことを意味する。)。また、より好ましい範囲は、0~0.115質量%(mass%)である。0.120質量%(mass%)以下であれば、MnO及びCr2O3の発色が減少することなく、Y値を適正な値にし、所望の黄緑色系に近い色になる。
【0029】
なお、Fe2O3成分は、SiO2等の原料に不純物として含まれるFe2O3量を考慮してガラス中の含有量を計算すればよく、必要により原料に積極的に含有させてもよい。
【0030】
[その他ガラス成分]
本発明の母材のガラスとなるソーダ石灰シリカ系ガラスは、Na2O、CaO及びSiO2を主な構成成分とするガラスであり、耐候性が良好であることから飲料や酒類、調味料用のガラス容器として汎用的に用いられるものである。本発明においては、例えばNa2O、CaO及びSiO2の3成分の合計が80質量%(mass%)以上としてもよい。
【0031】
SiO2はガラス骨格を構成する成分であり、含有量は特に制限されるものではないが、通常65~80質量%(mass%)である。65質量%(mass%)以上では表面にヤケ等が発生しにくく、耐候性が良好となる。80質量%(mass%)以下であれば、溶融のための温度が高くなりすぎることがない。
【0032】
Na2Oはガラスの溶融性を高めるものである。含有量は特に限定されるものではないが、通常、10~18質量%(mass%)含である。10質量%(mass%)以上であれば、溶融性が高まり、失透も生じにくくなる。18質量%(mass%)以下であれば、良好な耐候性を有し、表面にヤケ等が発生しにくくなる。
【0033】
CaOは溶融温度を下げることができ、耐水性を向上させることができる成分である。含有量は特に制限されるものではないが、通常5~20重量%である。含有量が5質量%(mass%)以上であれば、良好な溶融性を有することができ、20質量%(mass%)以下であれば失透しにくくなる。
【0034】
本発明のガラスには、Li2O、K2O、Ru2O等の第1族元素の酸化物、MgO、SrO、BaO等の第2族元素の酸化物、その他、Al2O3、ZnO、B2O3、ZrO2、TiO2、Sb2O3等の金属酸化物を含有することができる。
【0035】
本発明のガラスは、CIE表示(厚み10mm換算)で、好ましくは、明度Y=7~25%、主波長λd=570~580nm、刺激純度Pe=60~95%である。本発明のソーダ石灰シリカ系ガラスがこれらの条件を満たすことにより、還元性の黄緑色系ガラスに近いガラスの色になる。
【0036】
[製造方法]
本発明のガラスは、通常のガラスの製造方法で製造することができる。すなわち、所定の組成になるように、粉体のガラス原料を混合・溶融し、冷却することにより、製造することができる。なお、冷却は、ひずみによりガラスが割れてしまうため、徐冷することが好ましい。
【0037】
粉体のガラス材料を混合するだけでなく、組成が既知であるガラス状態の材料であるカレットを溶融しながら、足りない成分を追加投入し、本発明の組成のガラスを製造することもできる。
【0038】
また、本発明のガラスは連続製造することができ、例えば、押し出し式の連続色替窯を用いて製造することができる。押し出し式の連続色替窯の製造においては、本発明の酸化性ガラスは、還元性の黄緑色系ガラスに比べると、Cr2O3やMnOを含む緑系の色ガラス又は黒系の色ガラスからの色替が容易で、色替時のエネルギーロスの削減及び色替完了直後の品質向上にもつながる。
【0039】
溶融温度は、特に限定されるものではないが、通常1100℃~1550℃であり、使用済みのガラスのカレットを材料の一部として用いると溶融温度を下げることができるため、好ましい。
【0040】
びん形状のガラスにするためには、溶融状態の本発明のガラスを用いて、種々のびんの成形方法により製造することができる。
【実施例】
【0041】
表1に示す調合比の原料を、雰囲気温度を1400℃に設定した電気炉で溶融し、表2に示す組成の黄緑色系ガラス(実施例1乃至実施例7)を得た。このガラスの透過率曲線(厚さ10mm換算)を
図1に示す。
図1には、従来から日本国内で用いられている黄緑色系還元性ガラスの透過率曲線も併せて表示する。
【0042】
【0043】