(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】防虫機能を有する樹脂組成物及びこれを用いたフィルム並びに壁紙、化粧シート
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20220420BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L23/04
(21)【出願番号】P 2018016070
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】白石雅也
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-114606(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039588(WO,A1)
【文献】特開2006-096718(JP,A)
【文献】特開2011-157539(JP,A)
【文献】特開平08-302080(JP,A)
【文献】特表2003-501366(JP,A)
【文献】米国特許第06534079(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体 100質量部;及び、
(B)ピレスロイド系化合物 0.01~5質量部;
を含む
壁紙用、又は化粧シート用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体 80~98質量%;と
(C)ポリエチレン 20~2質量%;
からなり、ここで上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体と上記成分(C)ポリエチレンとの和は100質量%である、熱可塑性樹脂混合物 100質量部;及び、
(B)ピレスロイド系化合物 0.01~5質量部;
を含む
壁紙用、又は化粧シート用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有量が
20~80モル%である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記成分(B)ピレスロイド系化合物がエトフェンプロックスを含む請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有量が35~60モル%である請求項1~4の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む壁紙、又は化粧シート。
【請求項7】
正面側から順に、請求項1~5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂シートの層を有する壁紙。
【請求項8】
正面側から順に、請求項1~5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂シートの層を有する化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な樹脂組成物に関する。更に詳しくは、防虫機能を有する樹脂組成物、及びこれを用いたフィルム並びに壁紙、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・ビニルアルコール共重合体は耐薬品性、及び耐汚染性などに優れているため、従来から塩化ビニル系樹脂フィルムなどのフィルム基材の表面にエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムが貼合された積層体が、壁紙や化粧シートとして使用されている。近年、蚊の媒介するデング熱などの感染症に対する関心、ヒアリなどの強い毒を有する外来昆虫に対する関心が高まっており、壁紙や化粧シートにも防虫機能を付与することが期待されている。しかし、防虫剤を配合した樹脂組成物のフィルムには、防虫剤がフィルム表面にブリードアウトして白濁した外観を呈するという問題(以下、この問題を「ブリード白化」ということがある。)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006‐096718号公報
【文献】特開2011‐157539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、防虫機能を有する樹脂組成物、及びこれを用いたフィルム、並びに壁紙、化粧シートを提供することにある。本発明の更なる課題は、防虫機能を有し、ブリード白化が抑制され、エンボス加工適性に優れ、エチレン・ビニルアルコール共重合体の有する耐薬品性及び耐汚染性などの好ましい特性の低下の抑制された樹脂組成物、及びこれを用いたフィルム、並びに壁紙、化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の樹脂組成物により、上記課題を達成できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体 100質量部;及び、
(B)ピレスロイド系化合物 0.01~5質量部;
を含む熱可塑性樹脂組成物である。
【0007】
第2の発明は、
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体 80~98質量%;と
(C)ポリエチレン 20~2質量%;からなり、
ここで上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体と上記成分(C)ポリエチレンとの和は100質量%である、熱可塑性樹脂混合物 100質量部;及び、
(B)ピレスロイド系化合物 0.01~5質量部;
を含む熱可塑性樹脂組成物である。
【0008】
第3の発明は、上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有量が35~60モル%である第1の発明又は第2の発明に記載の熱可塑性樹脂組成物である。
【0009】
第4の発明は、第1~3の発明の何れか1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムである。
【0010】
第5の発明は、第4の発明に記載のフィルムを含む壁紙である。
【0011】
第6の発明は、第4の発明に記載のフィルムを含む化粧シートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は防虫機能を有する。本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、防虫機能を有し、ブリード白化が抑制され、エンボス加工適性に優れ、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムの有する耐薬品性及び耐汚染性などの好ましい特性の低下が抑制されている。そのため、壁紙や化粧シートとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「樹脂」の用語は、2以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。
【0014】
数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
【0015】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体;及び、(B)ピレスロイド系化合物;を含む。
【0017】
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体:
上記成分(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体は、エチレンとビニルアルコールとが共重合した構造を有する共重合体である。上記成分(A)は、ビニルアルコールが熱力学的に不安定な化合物であるため、通常は、エチレンとビニルエステルとの共重合体を鹸化して生産される。
【0018】
上記ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、及びピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルをあげることができる。上記ビニルエステルとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0019】
上記成分(A)の鹸化度(ビニルエステルに由来する全構成単位を100モル%としたとき、ビニルエステルに由来する構成単位であって、鹸化によりビニルアルコール構造になっている構成単位の割合。)は、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムの有する耐薬品性及び耐汚染性などの好ましい特性の低下を抑制する観点から、通常80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上であってよい。一方、耐水性、ブリード白化の抑制、エンボス加工適性、及び壁紙や化粧シートとして用いる際の施行性の観点から、通常100モル%以下、好ましくは99モル%以下、より好ましくは96モル%以下であってよい。
【0020】
上記成分(A)のエチレンに由来する構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%としたとき、耐水性、ブリード白化の抑制、エンボス加工適性、及び壁紙や化粧シートとして用いる際の施行性の観点から、通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは35モル%以上、最も好ましくは40モル%以上であってよい。一方、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムの有する耐薬品性及び耐汚染性などの好ましい特性の低下を抑制する観点から、通常80モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、最も好ましくは55モル%以下であってよい。
【0021】
上記成分(A)のJIS K7210‐1:2014に準拠し、210℃、21.18Nの条件で測定したメルトマスフローレートは、フィルム製膜性の観点から、通常1~30g/10分、好ましくは2~20g/10分であってよい。
【0022】
上記成分(A)は、本発明の目的に反しない限度において、所望により、エチレンに由来する構成単位、及びビニルエステルに由来する構成単位以外に、エチレン、ビニルエステルの少なくとも何れかと共重合可能なモノマーに由来する構成単位を含むものであってよい。上記共重合可能なモノマーは、通常、炭素・炭素二重結合を有する化合物であり、典型的にはエチレン性二重結合を有する化合物である。上記共重合可能なモノマーとしては、例えば、プロピレン、1‐ブテン、1‐ヘキセン、及び1‐オクテンなどのα‐オレフィン;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などの不飽和カルボン酸;マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸、アクリル酸メチル等のアクリル酸アルキル、及びメタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルなどの不飽和カルボン酸の誘導体;及び、塩化ビニル;などをあげることができる。上記共重合可能なモノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0023】
上記成分(A)のエチレンに由来する構成単位、ビニルエステルに由来する構成単位などの各構成単位の含有量は、13C‐NMRを使用して求めることができる。ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から上記成分(A)中の各構成単位の含有量を算出することができる。なお13C-NMRの測定は、株式会社三井化学分析センターなどの分析機関において行うこともできる。
【0024】
(B)ピレスロイド系化合物:
上記成分(B)ピレスロイド系化合物は、防虫機能を発現させる働きをする。また上記成分(A)との組み合わせにおいて、ブリード白化が起こり難いという特性を有する。
【0025】
上記成分(B)としては、例えば、ピレトリン1、ピレトリン2、シネリン1、シネリン2、ジャスモリン1、及びジャスモリン2などの天然ピレスロイド;アレスリン、フタルスリン(D‐テトラメトリン)、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、ベラトリン、シラフルオフェン、及びエトフェンプロックス(2‐(4‐エトキシフェニル)‐2‐メチルプロピル=3‐フェノキシベンジルエーテル、CAS登録番号80844‐07‐1)などの合成ピレスロイド系化合物;などをあげることができる。これらの中で、虫以外の生物に対する毒性(哺乳類や鳥類などの温血動物に対する毒性、魚に対する毒性など。)の低さ、及び防虫機能の観点から、エトフェンプロックスが好ましい。上記成分(B)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0026】
上記成分(B)の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、ブリード白化を抑制する観点から、通常5質量部以下、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下、最も好ましくは2質量部以下である。一方、防虫機能、及び防虫機能の持続性の観点から、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。
【0027】
(C)ポリエチレン:
本発明の樹脂組成物は、好ましい態様の1つにおいて、上記成分(C)ポリエチレンを含むものであってよい。上記成分(C)は、フィルム製膜性、耐水性、エンボス加工適性、及び壁紙や化粧シートとして用いる際の施行性を高める働きをする。
【0028】
上記成分(C)は、エチレンに由来する構成単位を主として含む重合体である。上記成分(C)としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン単独重合体、エチレンとα-オレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等の1種又は2種以上)との共重合体などをあげることができる。上記成分(C)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。なお上記成分(C)として混合物を用いる場合には、混合物として後述する密度やメルトマスフローレートの範囲を有するものが好ましい。
【0029】
上記成分(C)のJIS K7112:1999に準拠し、水中置換法で測定した密度は、透明性の観点から、通常930Kg/m3以下、好ましくは910Kg/m3以下、より好ましくは890Kg/m3以下、更に好ましくは880Kg/m3以下であってよい。一方、フィルム製膜性の観点から通常850Kg/m3以上、好ましくは860Kg/m3以上であってよい。
【0030】
上記成分(C)のJIS K7210‐1:2014に準拠し、190℃、21.18Nの条件で測定したメルトマスフローレートは、フィルム製膜性の観点から、通常0.1~30g/10分、好ましくは0.5~10g/10分であってよい。
【0031】
上記成分(C)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(C)の配合量は、上記成分(A)と上記成分(C)との和を100質量%として、フィルム製膜性の観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であってよい。一方、透明性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であってよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限度において、フェノール系、リン系、及び硫黄系などの酸化防止剤;老化防止剤、光安定剤、及び紫外線吸収剤などの耐候剤;酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩、ワックス、シリコンオイル、及び変性シリコンオイルなどの滑剤;芳香族リン酸金属塩系、及びゲルオール系などの造核剤;グリセリン脂肪酸エステル系などの帯電防止剤;有機系・無機系の各種難燃剤;無機微粒子、有機微粒子、無機着色剤、及び有機着色剤などの任意成分を1種又は2種以上含ませることができる。これらの任意成分の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。これらの任意成分の配合量は、上記成分(A)を100質量部として、通常0.01~10質量部程度である。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、上記成分(A)、上記成分(B)、及びその他の任意成分を用い、公知の溶融混練機を使用して溶融混練することにより得ることができる。上記溶融混練機としては、例えば、加圧ニーダー及びミキサー等のバッチ混練機;同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機などの押出混練機;カレンダーロール混練機;及び、これらを任意に組み合わせた装置などをあげることができる。得られた樹脂組成物は、公知の造粒方法を使用して造粒し、ペレット化することができる。上記造粒方法としては、例えば、ホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカットなどの方法をあげることができる。
【0034】
本発明のフィルムは、本発明の樹脂組成物を含むフィルムである。本発明のフィルムは、好ましくは本発明の樹脂組成物からなるフィルムである。本発明のフィルムは、本発明の樹脂組成物を用い、公知の製膜装置を使用して製膜することにより得ることができる。上記製膜装置としては、例えば、カレンダー圧延ロールと引巻取機を備える装置;押出機、Tダイ、及び引巻取機を備える装置;及び、押出機、円筒ダイ、及び引巻取機を備える装置;などをあげることができる。
【0035】
本発明の壁紙は、本発明のフィルムを含む壁紙である。本発明の壁紙としては、例えば、正面(壁紙が実使用に供される際に、通常視認される側となる面。以下、同じ。)側から順に、本発明のフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂シートの層を有するものをあげることができる。
【0036】
本発明の化粧シートは、本発明のフィルムを含む化粧シートである。本発明の化粧シートとしては、例えば、正面(化粧シートが実使用に供される際に、通常視認される側となる面。以下、同じ。)側から順に、本発明のフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂シートの層を有するものをあげることができる。
【0037】
本発明のフィルムの層には、意匠性の観点から、所望により、エンボス模様を形成してもよいし、形成しなくてもよい。上記エンボス模様は、例えば、エンボスロールと受けロールとで押圧する機構を備えたエンボス装置を使用し、回転するエンボスロールと受けロールとの間に、本発明のフィルムを供給投入し、押圧することにより;又は、本発明のフィルムの層、印刷層、及び着色樹脂シートの層を有する積層体を、本発明のフィルムの層側の面が上記エンボスロール側となるように供給投入し、押圧することにより;形成することができる。上記エンボスロールは、その表面に凹凸模様の彫刻されたロールである。上記エンボスロールとしては、例えば、金属製、セラミック製、及びシリコンゴム製などのエンボスロールをあげることができる。上記エンボス形状は、特に制限されず、意匠性の観点から、任意の形状を選択することができる。上記エンボス形状としては、例えば、木目柄や皮しぼなどの天然素材を模した形状;金属を加工したかの様なヘアライン模様の形状;格子柄、ストライプ模様、及び水玉模様などの幾何抽象柄の形状;及び、これらの組み合わせをあげることができる。更に上記エンボス模様の凹部には、ワイピング印刷などの方法により、印刷インキを充填してもよいし、充填しなくてもよい。
【0038】
上記着色樹脂シートとしては、例えば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン;などの着色樹脂シートをあげることができる。これらのシートは、無延伸シート、一軸延伸シート、二軸延伸シートを包含する。また発泡シートを包含する。更にこれらの1種以上を2層以上積層した積層シートを包含する。
【0039】
上記着色樹脂シートの厚みは、特に制限されないが、通常20μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上であってよい。また物品の薄肉化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは250μ以下であってよい。
【0040】
上記印刷層は、高い意匠性を付与するために設けるものであり、任意の模様を任意のインキと任意の印刷機を使用して印刷することにより形成することができる。
【0041】
印刷は、直接又はアンカーコートを介して、本発明のフィルムの正面とは反対側の面の上に、又は/及び上記着色樹脂シートの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、施すことができる。模様としては、ヘアライン等の金属調模様、木目模様、大理石等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、寄木模様、及びパッチワークなどをあげることができる。印刷インキとしては、バインダーに顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、及び硬化剤等を適宜混合したものを使用することができる。上記バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル・アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、及び酢酸セルロース系樹脂などの樹脂、及びこれらの樹脂組成物を使用することができる。また金属調の意匠を施すため、アルミニウム、錫、チタン、インジウム及びこれらの酸化物などを、直接又はアンカーコートを介して、本発明のフィルムの正面とは反対側の面の上に、又は/及び上記着色樹脂シートの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、公知の方法により蒸着してもよい。
【0042】
本発明のフィルムと上記着色樹脂シートとの積層は、特に制限されず、任意の方法で行うことができる。上記方法としては、例えば、公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法;及び公知の粘着剤からなる層を形成した後、両者を重ね合せ押圧する方法;などをあげることができる。
【0043】
図1は本発明の壁紙の一例を示す断面の概念図である。正面側から順に本発明のフィルムの層1、印刷層2、及び着色樹脂シートの層3を有している。また本発明のフィルムの層1にはエンボス模様4が形成されている。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
測定方法
(イ)ヘーズ:
JIS K7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を用いて測定した。
【0046】
(ロ)ブリード白化:
温度80℃、相対湿度50%の環境下で24時間処理した後、上記(イ)の方法に従い、ヘーズを測定した。上記(イ)ヘーズの値と比較して、ヘーズの増加が小さいものは、ブリード白化が抑制されていると評価できる。
【0047】
(ハ)防虫機能:
樹脂フィルムに直径6cm、深さ5cmのポリエチレンテレフタレートカップを仰向けに貼付け、上記カップの底に穴を開け、該穴から10匹のチカイエカ(メス)を上記カップに入れた後、上記穴を脱脂綿で栓をし、5質量%蔗糖水を餌として綿に含ませた。48時間経過後のノックダウン数と死虫数の和を計数した。試験は3回繰り返して行い、3回の試験の総和を算出した。
【0048】
(ニ)エンボス加工適性:
壁紙のエンボス形成面を肉眼(矯正視力1.0)で目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:少なくとも最適条件では、エンボスが壁紙のエンボス形成面の全体にわたって形成されており、かつ壁紙や防虫フィルムの割れや穴開きもない。
○:最適条件でも、壁紙のエンボス形成面の一部にエンボスの形成されていない部分がある。しかし、少なくとも最適条件では、壁紙や防虫フィルムの割れや穴開きはない。
×:最適条件でも、エンボスがほとんど又は全く形成されていない、又は/及び、壁紙、防虫フィルムに割れや穴開きがある。
【0049】
(ホ)耐薬品性(耐ストレスクラック性):
プロクター・アンド・ギャンブル社のオレンジオイル含有アルカリ洗剤「マイスター プロパー(Meister Proper)」(商品名)20mlに対し、マジックペン用(赤)インキを10滴の割合で混合し試験液とした。次に試験片(壁紙)の防虫フィルム側の面の上に30mm×40mmの大きさにカットした日本製紙クレシア株式会社の紙ワイパー「キムワイプ(商品名)」を広げて置き、スポイトを使用して上記試験液10滴を上記紙ワイパーの上に均一に滴下した。滴下後、上記紙ワイパーと上記試験片との間の気泡を、ピンセットを使用して抜き、上記紙ワイパーと上記試験片とを密着させたものを温度23℃、相対湿度50%の環境下で保管した。保管時間24時間毎に、上記試験液10滴を滴下し、気泡を抜いて密着させる操作を繰り返しながら72時間保管した。所定時間経過後、上記試験片上の上記試験液を含んだ上記紙ワイパーを除去し、上記試験片を上記紙ワイパーに水を染み込ませて水拭きし、更に乾いた上記紙ワイパーで乾拭きし、上記試験片表面に付着した上記試験液を完全に取除いた。上記試験片(壁紙)の防虫フィルム側の面を肉眼(矯正視力1.0)、又はルーペ(拡大倍率25倍)を用いて目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:ルーペを用いて観察してもクラックは認められない
○:肉眼ではクラックは認められない。しかし、ルーペを用いて観察すると軽微なクラックの存在が認められる。
×:肉眼でクラックを認めることができる。
【0050】
使用した原材料
(A)エチレン・ビニルアルコール共重合体:
(A-1)株式会社クラレの「エバールE105B(商品名)」。エチレンに由来する構成単位の含有量44モル%。メルトマスフローレート(210℃、21.18N)13g/10分。
(A-2)株式会社クラレの「エバールL171B(商品名)」。エチレンに由来する構成単位の含有量27モル%。メルトマスフローレート(210℃、21.18N)4.0g/10分。
(A-3)株式会社クラレの「エバールG156B(商品名)」。エチレンに由来する構成単位の含有量48モル%。メルトマスフローレート(210℃、21.18N)15g/10分。
(A-4)東ソー株式会社の「メルセンH‐6051(商品名)」。エチレンに由来する構成単位の含有量81モル%。メルトマスフローレート(210℃、21.18N)14g/10分。
【0051】
(A’-1)株式会社プライムポリマーのポリプロピレン「プライムポリプロF‐730NV(商品名)」。
【0052】
(B)ピレスロイド系化合物:
(B-1)三井化学アグロ株式会社のピレスロイド系化合物「エトフェンプロックス(商品名)」。2‐(4‐エトキシフェニル)‐2‐メチルプロピル=3‐フェノキシベンジルエーテル。
【0053】
(C)ポリエチレン:
(C-1)ダウエラストマー社の「エンゲージ8100(商品名)」。密度870Kg/m3、メルトマスフローレート(190℃、21.18N)1g/10分。
【0054】
例1
(1)熱可塑性樹脂組成物の作成:
上記成分(A-1)100質量部、及び上記成分(B-1)2質量部の混合物を日本製鋼株式会社の28mm径、L/D=42の二軸押出機を使用し、スクリュウ回転数200rpm、ダイス出口樹脂温度220℃の条件で溶融混練し、ストランドカット法により、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
(2)防虫フィルムの作成:
上記で得たペレットを用い、押出機、Tダイ、及びバキュームチャンバ―方式の引巻取機を備えたフィルム製膜装置を使用し、Tダイ出口樹脂温度220℃、鏡面冷却ロールの表面温度40℃、及び引取速度20m/分の条件で、厚み12μmの防虫フィルムを得た。
(3)壁紙の作成:
リケンテクノス株式会社の厚み120μm、白色の着色ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム「FC1814(商品名)」の片面の上に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系樹脂バインダーの印刷インキを用い、乾燥後の層厚みが2μmとなるように印刷層を設け、該印刷層の上に上記(2)で得た防虫フィルムを重ね、鏡面ロールと表面の平滑な受けロールとで押圧する機構を備えた装置を使用して温度25℃で押圧し、積層体を得た。次に、予熱ロール及び木目導管・梨地メッキの金属製エンボスロールBR‐16を備えたエンボス加工装置を使用し、温度120℃に設定した予熱ロールと押圧ロールとの間に、上記積層体を、上記積層体の上記(2)で得た防虫フィルム側の面が予熱ロール側となるように通紙し、挟み込んで予熱した後、そのまま連続的に、温度を150℃に設定した上記エンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に、上記積層体を、上記積層体の上記(2)で得た防虫フィルム側の面がエンボスロール側になるように挟み込んでエンボス加工を行い、表面にエンボス模様を有する壁紙を得た。このとき押圧の圧力は11Kg/cmであった。なお上記の加工条件では、エンボスがほとんど又は全く形成されていない場合、あるいは壁紙、防虫フィフィルムに割れや穴開きがある場合は、予熱ロールの温度を100~180℃の範囲で、エンボスロールの温度を120~200℃の範囲で適宜調節した。
(4)上記試験(イ)~(ニ)を行った。結果を表1に示す。
【0055】
例2~10:
熱可塑性樹脂組成物の配合を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
本発明の樹脂組成物からなるフィルムは、防虫機能を有し、ブリード白化が抑制され、エンボス加工適性に優れている。また透明性や耐薬品性が良好であることから、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムの有する好ましい特性の低下も抑制されていると評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本発明の壁紙の一例を示す断面の概念図である。
【符号の説明】
【0060】
1:本発明のフィルムの層
2:印刷層
3:着色樹脂シートの層
4:エンボス模様