(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】紙製カップのエンボス構造
(51)【国際特許分類】
B31F 1/07 20060101AFI20220420BHJP
B31B 50/88 20170101ALN20220420BHJP
【FI】
B31F1/07
B31B50/88
(21)【出願番号】P 2018026530
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083183
【氏名又は名称】西 良久
(72)【発明者】
【氏名】久富 祥人
(72)【発明者】
【氏名】門田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中條 修
(72)【発明者】
【氏名】岡部 誠司
【審査官】内田 茉李
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/155751(WO,A1)
【文献】特表2004-531397(JP,A)
【文献】特開2008-126669(JP,A)
【文献】特開昭60-027529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31F 1/07
B31B 50/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製カップの胴部、または紙製カップの胴部外周に巻き付ける外スリーブのブランクに、対向する一対のエンボスロールによって成形されるエンボスが、規則的な間隔で前記エンボスロールの流れ方向と幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かってブランクの表面から一側方へ隆起する側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部が多数形成されてなるエンボス構造において、
エンボスの頂部側を上側とし、接地面からエンボスの頂部までの高さを流れ方向と幅方向とで同一面となる高さとし、
エンボス自体の高さであって、格子枠の溝の深さが幅方向の
深さより流れ方向の
深さを深く設定してなることを特徴とするエンボス構造。
【請求項2】
エンボス構造が、紙製カップの胴部、または胴部外周に巻き付ける外スリーブのブランクに、エンボスを対向する一対のエンボスロールによって成形する紙製カップの製造装置によって成型されており、
紙製カップの製造装置が、該一対のエンボスロールの表面に形成される各押し型が、略同一形状であって、 規則的な間隔で縦横方向となる流れ方向及び幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る平坦面からなる枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かって隆起する四つの側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部とを備えており、
前記一対のエンボスロールの押し型が、それぞれの突起部を前記ブランクに向けて接近する方向に配置すると共に、一方の雄型に対して他方の雌型を縦横方向にずらすことなく揃えて配置して前記ブランクに凹凸のエンボスが加工されてなることを特徴とする請求項1に記載のエンボス構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスロールでブランクに断熱用のエンボスを成型する紙製カップのエンボス構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙製カップの胴部、または紙製カップの胴部外周に巻き付ける外スリーブのブランクに、対向する一対のエンボスロールによって成形されるエンボスが、規則的な間隔で前記エンボスロールの流れ方向と幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かってブランクの表面から一側方へ隆起する側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部が多数形成されてなるエンボス構造は知られている(特許第5943497号公報など)。
上記エンボスに断熱性を付与するためには、エンボスの高さを高くするのが効果的であるが、そのエンボスの頂部の高さを高くするとブランクの紙破れが発生するおそれがあった。
これは一対のエンボスロールにおいて、幅方向側は、エンボスロール金型に拘束されるため、特に紙の場合は、流れ方向(Machine Direction)に比べて、幅方向(Cross Machine Direction)の方が紙の伸び縮みが少なく、エンボス加工時に紙破れが発生しやすいからである。
そこで、従来は、流れ方向と幅方向のエンボスの頂部の高さは、いずれの方向でも紙破れが生じない同一の高さに設定されていた。
特に、前記特許文献1では、一対のエンボスロールの押し型が、それぞれの突起部を前記ブランクに向けて接近する方向に配置すると共に、前記セルと、該セルの隣接する縦横の辺に沿って延びる二辺の枠部および枠部の交差個所とを含んだ単位部分の四角形の縦横の長さを各1ピッチとして、一方の押し型に対して他方の押し型を前記縦横方向に半ピッチずつずらして配置されているので、原紙を引き延ばすことは困難であった。
そこで、この発明では、一対のエンボスロールの一対の押し型(雄型と、これに対応する雌型)は重なり合うように縦横に同一ピッチで配置されている場合が好ましい。
【0003】
ここで、流れ方向/幅方向の原紙の変化量について基礎試験を行った結果を以下に示す。
原紙:国内一般紙
テスト方法:試験片100mm×100mmの原紙にエンボス加工を行い、原紙の収縮量を測定した。
N数:3回
結果:加工後の収縮寸法
原紙 エンボス高さ 流れ方向 幅方向
国内一般紙 0.71mm 96.9% 99.9%
この試験により、エンボス加工後の原紙寸法変化は、流れ方向で約3%程度収縮するのに対し、幅方向はほぼ変化がなかった。
【0004】
そこで、一例として、エンボスの高さが最大で1.5mmで、流れ方向、および幅方向の高さが同じ場合で原紙に紙破れが生じない場合で、エンボス高さを流れ方向で現行(高さ1.5mm)のままとし、幅方向を現行または現行以下とした場合には紙破れが発生せず、幅方向を現行の高さを超えた高さとした場合には紙破れが発生することが確認できた。
また、エンボスの高さを流れ方向を現行以上とした場合で、幅方向を現行の高さを超えた高さにすると紙破れが発生するが、幅方向を現行または現行より低くした場合には紙破れは発生しないことが確認できた。
エンボスロール加工を行う場合に、断熱性を高めるためにはエンボス高さを高くする必要があるが、幅方向の高さを現行の高さを超えた高さとすると原紙が金型に拘束され引っ張られて破れやすくなる。
即ち、幅方向は原紙の伸びが必要となるが幅方向への収縮がなく、ロール加工時に流れ方向に比べて紙破れが発生しやすいことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記問題点に鑑みて創案されたものであって、エンボスの高さを流れ方向と幅方向とで同一の高さとして紙破れが生じない現行の高さを基準として、これよりもエンボスの高さを高くする場合には、流れ方向の高さを高くし、幅方向の高さを低く設定して、エンボス高さを高くし断熱性を高めたエンボス構造を提供することにある。
この発明で、流れ方向は、エンボスロールの進行方向で整列されるエンボスの列方向をいい、幅方向はエンボスロールの横幅方向で整列されるエンボスの行方向をいい、直線方向に揃う場合に限らず、幅方向が円弧形状に揃う場合もある(
図1参照)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を達成するために、
紙製カップの胴部、または紙製カップの胴部外周に巻き付ける外スリーブのブランクに、対向する一対のエンボスロールによって成形されるエンボスが、規則的な間隔で前記エンボスロールの流れ方向と幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かってブランクの表面から一側方へ隆起する側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部が多数形成されてなるエンボス構造において、
エンボスの頂部側を上側とし、接地面からエンボスの頂部までの高さを流れ方向と幅方向とで同一面となる高さとし、
エンボス自体の高さであって、格子枠の溝の深さが幅方向の深さより流れ方向の深さを深く設定してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
エンボスの頂部の高さレベルを同一に揃えた場合に、エンボスの厚みにおいて流れ方向の高さと幅方向の高さが異なっており、幅方向の高さより流れ方向の高さを高く設定して、エンボスの高さを高めて、ブランクの紙破れを生じさせることなく断熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のエンボス加工されたブランクの平面図であって、流れ方向と幅方向を示す図である。
【
図2】一対の押し型で成型されたエンボスを示す断面図である。
【
図4】胴一対のエンボスロールを示し、押し型を点線で示した正面図である。
【
図5】コップ状の紙カップの外スリーブにエンボス加工した状態の正面図である。
【
図6(a)】押し型の一部を示す正面図であって、説明図である。
【
図6(b)】押し型の一部を示す正面図で、流れ方向の枠部と幅方向の枠部を異なるハッチングで示した説明図である。
【
図7(a)】流れ方向を示す
図6(a)のA-A線断面図である。
【
図7(b)】幅方向を示す
図6(a)のB-B線断面図である。
【
図8(a)】従来の流れ方向と幅方向の高さを同一とした押し型の一部を示す正面図である。
【
図8(b)】従来の流れ方向と幅方向の高さを同一とした押し型の一部を示す図であって、流れ方向を示すA-A線断面図である。
【
図8(c)】従来の流れ方向と幅方向の高さを同一とした押し型の一部を示す図であって、幅方向を示すB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
以下に、この発明を紙製カップの胴部に巻き付ける外スリーブのエンボス構造に適用した好適実施例について、図面を参照しながら説明する。
本実施例では、一例として、特許第5943497号のエンボス製造装置や紙製カップに準じた外スリーブにエンボス加工する。
本実施例では押し型は、縦横に半ピッチずらすことなく揃えて配置している点が相違しているが、この発明では前記先願特許発明のように縦横に半ピッチずらして配置したものでもよい。
また、本実施例で流れ方向、幅方向とは、エンボスロールの流れ方向と幅方向をいい、紙製カップや外スリーブでは縦横方向ともいう(
図1~
図3参照)。
【0011】
このエンボス製造装置では、前記外スリーブの扇面形状のブランク1に、エンボス2を加工する対向する一対のエンボスロール3、4からなっており、該一対のエンボスロール3、4の表面に形成される押し型(雄型と雌型)5、6が、略同一形状であって、 規則的な間隔で縦横方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルCを仕切る平坦面からなる枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かって隆起する四つの側壁面11、12、13、14および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部15を有する突起部10とを備えており、前記一対のエンボスロール3、4の押し型5、6が、それぞれの突起部10が凹凸整合するように配置して、前記ブランク1に向けて接近する方向に配置すると共に、前記セルと、該セルの隣接する縦横の辺に沿って延びる縦横の枠部16、17および枠部の交差個所18とを含んだ単位部分の四角形の縦横の長さを揃えて、一方の押し型(雄型)と他方の押し型(雌型)の凹凸を縦横方向に揃えて、前記ブランクにエンボスが加工される構造からなっている(
図2、
図6参照)。
【0012】
また、上記エンボス製造装置で成型される紙カップの外スリーブの一例を示すと、前記押し型5、6に対応して、ブランク1の表面に、規則的な間隔で縦横方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルCを仕切る縦横の枠部16,17と、前記セルCの各辺の四方向からセルCの中央側に向かってブランク1の表面から一側方へ隆起する側壁面11~14および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部15を有する突起部10が形成される。
ここで、ブランクの縦横方向は、流れ方向が縦で、幅方向が横とする。
図6~
図7では、押し型5、6の形状を示すが、これによってブランク1に成型されるエンボス2の形状は押し型の形状と同一でなくてもよく、通常は押し型で角部となる個所が多少丸みを帯びた形状となるが、略同じであるので、説明の便宜上、同一の符号を付している。
【0013】
従来は、押し型でエンボス2の頂部の高さは、
図8(a)から(c)に示すように、流れ方向の高さ(
図8(b))と幅方向の高さ(
図8(c))とが同一の高さになっており、エンボス2の厚みも同一となっており、この高さを説明上Hとする。上記押し型の形状は
図6、
図7に準じるので、説明の便宜上、同一の符号を付して説明を省略する。
【0014】
断熱性を一層高めるためにはエンボス2の頂部15の高さを前記比較対象の高さHより高くする必要がある。
この場合、流れ方向と幅方向のエンボス2の頂部15は同一の高さレベルの位置でエンボスの頂部15を形成しているので、エンボスの流れ方向の高さH1だけを前記高さHより高くして、幅方向の高さH2を変更しない場合でも、紙破れが生じない。なぜなら、紙破れの要因は、幅方向がエンボスロール金型に拘束され、紙の伸び量の影響を受けやすいからである。一方で、流れ方向は、エンボスロール金型に手繰り寄せられながら、エンボスが作られるため、紙の伸び量の影響を受けにくい。
【0015】
さらに、本発明では、流れ方向と幅方向の高さH1とH2に差を持たせると共に、流れ方向の高さH1を比較対象の高さHより高くし、幅方向の高さH2を比較対象の高さHより低く(短く)設定した。これにより、幅方向の高さH2を高さHのままにしたときよりも、さらにH1を高くすることが可能となる。
即ち、エンボスの流れ方向と幅方向の下端の位置を幅方向の下端が流れ方向の下端より上方に、即ち、幅方向の下端となる枠部17の位置を流れ方向の下端となる枠部16より頂部の増分以上に浅く設定される。
なお、枠部の交差個所18は、幅方向の枠部17と同じ高さ位置としたが、流れ方向の枠部16と同じ高さ位置としてもよい。
この流れ方向の高さH1は、幅方向の高さH2を比較対象の高さHと同じか短くすることで、前記高さHよりも長い高さH1に増加させることが可能となる。
これは、エンボス加工時の紙の伸びや収縮などの要因に起因するので、実験的に最適値を定める。
これによりエンボスロールによるブランクにエンボス加工が行われる際にブランクの紙破れを防ぐことができる。
【0016】
上記実施例では、紙製カップの胴部外周に巻き付ける外スリーブのブランクにエンボス加工する場合を例に説明したが、この発明は紙製カップの胴部外周を形成するにブランクに直接形成するものでもよい。
即ち、一対のエンボスロールによって成形されるエンボスが、規則的な間隔で前記エンボスロールの流れ方向と幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かってブランクの表面から一側方へ隆起する側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部が多数形成されてなるエンボス構造に当てはまる。
【0017】
また、前記実施例では比較対象となるエンボスの紙破れしない高さH(最大閾値)を1.5mmとし、エンボスの流れ方向の高さH1を1.5mmを超える高さとし、幅方向の高さH2を1.5mm以下に低く設定したことで紙破れが生じずに比較対象より高いエンボスを成形することができるが、その具体的な数値は、前記原紙の性質や、エンボスの形態や配置、個数などによる原紙の流れ方向の収縮率などにより差異が生じるので、実験的に最適な数値を定めることができる。
【0018】
また、エンボスは、規則的な間隔で前記エンボスロールの流れ方向と幅方向に延びて交差する格子枠で囲まれた各四角形のセルを仕切る枠部と、前記セルの各辺の四方向からセルの中央側に向かってブランクの表面から一側方へ隆起する側壁面および該側壁面の先端で集合する面または線状に形成される頂部を有する突起部が多数形成されたエンボス形状であればよく、前記四角形は、正方形であっても
図6のような長方形であってもよく、またエンボスの頂部形状も略正方形、略長方形、略線状などであってもよい。
その他、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【符号の説明】
【0019】
1 ブランク
2 エンボス
3 対向する一方のエンボスロール
4 対向する他方のエンボスロール
5 一方のエンボスロールに設けられた押し型(雄型)
6 他方のエンボスロールに設けられた押し型(雌型)
10 突起部
11~14 側壁面
15 頂部
16,17 枠部
18 枠部の交差個所