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特許7061064一酸化窒素レベルの富化を制御する装置及び制御する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】一酸化窒素レベルの富化を制御する装置及び制御する方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20220420BHJP
   A61H 23/02 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
A61M16/00 335
A61M16/00
A61H23/02 340
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018524321
(86)(22)【出願日】2016-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2016078505
(87)【国際公開番号】W WO2017089369
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】15196767.6
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】カーラート ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】メナ ベニート マリア エストレーラ
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529334(JP,A)
【文献】国際公開第2014/144151(WO,A1)
【文献】特表2012-521791(JP,A)
【文献】特表2005-515822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 23/02
A61M 16/06
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肺の内部の一酸化窒素レベルの富化を制御する装置において、前記装置は、
前記被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出する検出器であり、前記呼吸サイクルは、吸気イベント及び呼気イベントの交互発生を有する、検出器、
前記被験者の副鼻腔に、音又は振動刺激を加える刺激器、並びに
前記呼吸サイクルの前記検出されたタイミング、及び/又は前記呼吸サイクルのイベントに応じて、前記刺激器を制御する制御器を有し、
前記制御器さらに、前記呼吸サイクルの次の吸気イベントの開始のタイミングの予測を提供するために、前記検出器の出力信号を解釈する、及び前記制御器は、前記呼吸サイクルの前記吸気イベントが始まる直前の既定の期間に前記刺激器を稼働させ、前記既定の期間は、100msから500msの範囲内である、
装置。
【請求項2】
前記検出器は、出力信号を供給する、及び前記制御器は、前記呼吸サイクルの呼吸速度、デューティサイクル及びタイミングを決定するために、前記検出器の前記出力信号を解釈する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記検出器は、呼吸フローを検出するフロー検出器又は胸部の動きを検出するセンサを有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記刺激器は、スピーカー又は振動ユニットを有する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
鼻マスク又はフルフェイスマスク、及び前記マスクに加圧されたガスを供給する圧力供給源を有し、前記刺激器は前記圧力供給源を制御する圧力制御器を有する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記刺激器の周波数は、50Hzから1000Hzの範囲内にある、請求項1乃至5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記制御器は、副鼻腔の共鳴周波数に一致する周波数で動作するように、前記刺激器を制御する、請求項1乃至6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、一酸化窒素の如何なる外部供給源と関連付けられていない、請求項1乃至7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、
音又は振動刺激を制御する方法を実施するプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムにおいて、
被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出するステップであり、前記呼吸サイクルは吸気イベント及び呼気イベントの交互発生を有する、ステップ、
前記被験者の副鼻腔に音又は振動刺激を加えるステップであり、前記音又は振動刺激は、副鼻腔の共鳴周波数に一致する周波数を有する、ステップ、
前記吸気サイクルの前記検出されたタイミング、及び/又は前記呼吸サイクルのイベントに応じて前記音又は振動刺激を制御するステップ、並びに
前記呼吸サイクルの前記吸気イベントが始まる直前の既定の期間に前記音又は振動刺激を与えるステップであり、前記既定の期間は、100msから500msの範囲内である、ステップ
を有するコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記方法は、前記呼吸サイクルの呼吸速度、デューティサイクル及びタイミングを決定するために、前記検出されたタイミングを解釈するステップを有する、請求項9に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の肺の一酸化窒素レベルの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、肺疾患の治療に関心がある。
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、空気流の閉塞により特徴付けられる進行性で、極めて不可逆的な疾患である。この空気流の閉塞は、気道及び実質損傷の組み合わせにより存在している。この損傷は、喘息に見られるのとは異なる慢性炎症の結果であり、これは通常、喫煙の結果である。
【0004】
COPDは、空気流の閉塞に限定的な影響を与える又は影響を与えない、薬理学的及び他の療法に反応する症状、障害及び生活の質の悪化を生み出す。増悪はしばしば、COPDを患う患者に起こり、正常な毎日の変動を超えた急速及び持続的な症状の悪化がある。同時に、COPDを患う患者における共存症、例えば心臓血管又は心理学に関連する共存症は、健康状態と同様に、疾患重症度及び生存率に重大な影響を与える(Vanfleteren 2013)。
【0005】
肺高血圧、収縮及び崩壊した肺胞は、COPD患者における典型的な症状であり、COPDの増悪及び病院への再入院の主な原因である。現在の薬物療法は、肺の換気及び循環を改善させるために、気管支及び血管を拡張させることを目標にしているが、最適な投薬量を見つけることが極めて重要である。
【0006】
従って、臨床的応用及び在宅医療応用の両方に対し、血管拡張及び高血圧の治療において非薬物療法の必要性がある。
【0007】
一酸化窒素(NO)は血管拡張剤としてよく知られ、これは血管、気管支及び肺胞を拡張させるが、緩和させることもできる。人間の体は血管及び気道内にある内皮細胞において一酸化窒素を生み出している。一酸化窒素の放出は、血管の壁及び気道にある受容体(レセプタ)により制御及び刺激される。
【0008】
気道において、一酸化窒素は特に、副鼻腔(paranasal sinus)において生み出される。空気で満たされた洞(sinus)の空洞は、一酸化窒素のリザーバとして働く。正常な呼吸中、吸気(又は吸入)及び呼気(又は呼息)サイクルにおける圧力及びフローの変化により、一酸化窒素の一部は、前記洞から気道に流れ込む。この一酸化窒素は一部が吸い込まれ、呼気相において一部は押し出され失われる。
【0009】
吸い込まれる空気内の一酸化窒素は、肺胞において細胞膜を通り肺血管内に移動し、血管の拡張及び拡張された血管の緩和に寄与する、これは結果的に血管抵抗及び血圧を下げる。これは、心臓の前負荷及び後負荷において有益な影響を与え、心拍出量を改善させる。
【0010】
副鼻腔において、気道において一酸化窒素の生み出しと一酸化窒素のフローとの均衡がある。流出が増大する場合、体は副鼻腔において均衡を達成するために、生み出しを増やすことにより再び濃度のバランスをとる。
【0011】
呼気中の一酸化窒素の流出は、ハミングすること(humming)により刺激されることができ、これは、ハミングする周波数の音響信号を自発的に発生させることを含む。
【0012】
これは例えば、V.M.D. Struben他著の"Silent and humming nasal nitric oxide measurements in adults aged 18-70 years", European Journal of Clinical Invenstigation (2005) 35, pp. 653-657に報告されている。
【0013】
これらのハミングする周波数は、前記洞内に音響共鳴を作り、前記洞の換気の改善、及び一酸化窒素の流出の増大につながる。これは、吐き出される空気の一酸化窒素濃度を3倍から5倍に増大させる。
【0014】
呼気中に声帯により作られるハミングする周波数は、前記洞から一酸化窒素を強く押し出すことにつながる。従って、体により作り出される一酸化窒素は、呼吸サイクルの次の吸気イベントに向けて失われる。これは、肺胞に到達する吸い込まれる空気の一酸化窒素濃度を下げる、及びこれは、血管の不十分な拡張の1つの原因である。
【0015】
洞から気道へのフローは、鼻呼吸においてのみ生じる。口呼吸において、洞は換気されず、故に一酸化窒素は前記洞に捕えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
(例えば集中治療室にいる挿管された患者における、又は鼻呼吸が不十分である或いはCOPDを患う人間の)口呼吸に対し、呼吸する空気の一酸化窒素濃度が減少し、これは肺血圧の増大の原因であることが知られている。
【0017】
集中治療室における臨床環境において、一酸化窒素濃度の減少は、一酸化窒素富化システムにより、外部の一酸化窒素供給源から補償されるが、これは、在宅医療の解決策には当てはまらない。
【0018】
従って、家庭での利用において、外部の一酸化窒素供給源を必要とせずに、体自身で生み出される一酸化窒素を上手く利用することにより、一酸化窒素の富化のための安全且つ簡単に利用可能な概念を開発する必要がある。
【0019】
米国特許出願公開番号US 2015/290418 A1は、呼吸状態を治療するための薬剤を標的送達するためのシステム及び方法を開示している。US 2015/290418 A1は、外部の一酸化窒素供給源を必要とせずに、体自身で生み出される一酸化窒素を上手く利用することにより一酸化窒素を富化することについて何も語っていない。
【0020】
米国特許出願公開番号US 2011/071444 A1は、吸入段階が咽頭管を再び開かせる及び再び満たすことを可能にするために、咽頭管が完全崩壊する前に呼吸サイクルを早めに反転するように、呼吸路に沿って咽頭管又は他の筋肉若しくは軟骨を選択的に励起させるための装置を開示している。US 2011/071444 A1は、一酸化窒素を富化することについて何も語っていない。
【0021】
国際特許出願公開番号WO 2010/071919 A1は、息切れを減らすために、呼吸中にユーザの胸壁を刺激する呼吸補助装置を開示している。WO 2010/071919 A1は、一酸化窒素を富化することについて何も語っていない。
【0022】
国際特許出願公開番号WO 2011/007346 A1は、人間の気道内に流体と取り入れるための装置を開示している。WO 2011/007346 A1は、一連の既定の流体の圧力パルスは、NO(一酸化窒素)の生成を刺激するための既定のハミングする発振を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は請求項により規定される。
【0024】
本発明のある態様に従う例は、被験者の肺の内部の一酸化窒素レベルの富化を制御する装置を提供することであり、この装置は、
被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出する検出器であり、前記呼吸サイクルは、吸気イベント(又は吸気相)及び呼気イベント(又は呼気相)の交互発生を有する、検出器、
被験者に音又は振動刺激を加える刺激器、並びに
呼吸サイクルの前記検出されたタイミングに応じて前記刺激器を制御するのに適応した制御器
を有する。
【0025】
それに加えて又はその代わりに、制御器は、呼吸サイクルのイベント(又は相)の検出されたタイミングに応じて刺激器を制御するのに適応される。
【0026】
正常な呼吸、特に口呼吸において、副鼻腔において生み出される一酸化窒素(NO)は、肺胞に十分に到達していない。一酸化窒素の大部分は、呼気(又は呼息)中に押し出される。呼吸サイクルの吸気イベント(又は吸気相)に基づいて刺激器を制御することにより、呼吸同期される音刺激が可能となり、これは、副鼻腔から多くの一酸化窒素が肺の深くまで吸い込まれることを保証することができる。前記装置は、吸気(又は吸入)相中にのみ前記副鼻腔から一酸化窒素のフローを刺激し、呼気(又は呼息)中に前記フローさえも阻止する。
【0027】
しかしながら、肺にある一酸化窒素の増大は、前記装置が何らかの外部の一酸化窒素供給源と関連付けられることを必要とせずに可能となる。
【0028】
ある例において、制御器は、呼吸サイクルの吸気(又は吸入)イベント(又は吸気(若しくは吸入)相)の開始時に刺激器を稼働させるのに適応する。従って、この装置は呼吸サイクルの吸入の開始時に副鼻腔から一酸化窒素の流出を刺激する。呼吸サイクルの吸気の開始時に専用の音又は振動刺激を与えることにより、一酸化窒素のフローは、副鼻腔の一酸化窒素が略完全に吸い込まれることを保証するように、ある方法で制御されることができる。これは、肺/肺胞における一酸化窒素濃度の上昇を提供する。
【0029】
制御器は、呼吸サイクルの呼吸速度、デューティサイクル及びタイミングを決定するために、検出器からの出力信号を解釈するのに適応する。呼吸サイクルのこれらの異なる特徴を決定することにより、刺激器は、最も効率的な方法で制御される。
【0030】
制御器は、呼吸サイクルの次の吸気の開始のタイミングの予測を提供するために、検出器の信号を解釈するのに適応する。この場合、制御器は、吸気イベント(又は吸気相)の開始前の既定の期間に刺激器を稼働させるのに適応する。
【0031】
ある例において、検出器は、呼吸フローを検出するフロー検出器を有する。この検出器は例えば、患者マスク内に組み込まれてもよい。
【0032】
もう1つの例において、検出器は、胸部の動きを検出するセンサを有する。このセンサは、被験者の呼吸を妨げることなく、呼吸を観察する方法を提供する。
【0033】
ある例において、刺激器は、スピーカーを有する。しかしながら、他の刺激器、例えば、音波として空気を介して被験者に伝えられずに、被験者内に振動を発生させるパッチのような振動ユニットが使用してもよい。この振動ユニットは、被験者と、好ましくは被験者の皮膚と接触している1つ以上の振動要素及び/又は超音波要素を有する。そのような振動要素及び/又は超音波要素は、例えばユーザの皮膚を介して、被験者に、好ましくは被験者の洞に伝達可能な振動を発生させるように構成される。刺激器は一般に患者の顔に付けられる。
【0034】
前記装置は、鼻又はフルフェイスマスク、及び圧力下でガスを前記マスクに送出するための圧力供給源を有し、ここで刺激器は、この圧力供給源を制御する圧力制御器を有する。このように、前記装置は、陽圧治療システムと組み合わされる。
【0035】
刺激器の周波数は、50Hzから1000Hzの範囲にある。
【0036】
しかしながら、制御器は、被験者の気道の一部、例えば副鼻腔の共鳴周波数に一致する周波数で動作するように刺激器を制御するのに適応する。
【0037】
本発明の第2の態様に従う例は、音又は振動刺激器を制御する方法を提供し、この方法は、
被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出するステップであり、前記呼吸サイクルは、吸気イベント(吸気相)及び呼気イベント(呼気相)の交互発生を有する、ステップ、
被験者に振動又は音刺激を加えるステップ、並びに
前記呼吸サイクルの検出されたタイミングに応じて前記刺激を制御するステップ
を有する。それに加えて又はその代わりに、前記方法は、呼吸サイクルのイベント(又は吸気相)の検出されたタイミングに応じて前記刺激を制御するステップを有する。
【0038】
呼吸サイクルの吸気イベント(又は吸気相)の開始時に、又は呼吸サイクルの吸気イベントの予測される開始の前の既定の期間に、刺激が与えられてもよい。
【0039】
検出されるタイミングは、呼吸サイクルの呼吸速度、デューティサイクル及びタイミングを決めるために解析される。刺激は、被験者の気道の一部の共鳴周波数に一致する周波数である。
【0040】
前記方法は、少なくともソフトウェアにより実行されるようなコンピュータ実装であり、それにより、コンピュータ及び/又は処理器により実行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の例は、付随する図面を参照して詳細に開示される。
図1】被験者の肺の内部にある一酸化窒素レベルを制御する装置を概略的な形式で示す。
図2】被験者の肺の内部にある一酸化窒素レベルを制御する装置のより詳細な例を、陽圧システムと組み合わされて示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、被験者の肺の内部における一酸化窒素レベルの富化を制御する装置を提供する。この装置は、被験者の呼吸サイクルを検出する検出器、及び被験者に音又は振動刺激を加える刺激器を有する。この刺激器は、検出された呼吸サイクルに応じて制御される。特に、刺激は吸気(又は吸入)の開始時に与えられる。このように、一酸化窒素のフローは、副鼻腔の一酸化窒素が略完全に吸い込まれることを確実にするように制御される。これは、肺/肺胞においてより高い一酸化窒素濃度を提供する。
【0043】
図1は、前記装置の一例を示す。検出器1は、被験者の呼吸サイクルを検出する。刺激器3は、制御器5の制御下で、被験者に音又は振動刺激を加える。刺激器3は、検出された呼吸サイクルに応じて制御される。
【0044】
刺激器3を実施するための様々な方法がある。
【0045】
第1の例は、気道の近くにある又は鼻マスク(又は鼻及び口マスク)に組み込まれるスピーカーである。周波数は例えば50Hzから1000Hzの範囲にある。
【0046】
外部音を発生させる代わりに、被験者内に音響振動を発生させる振動発生源が設けられてもよい。これは、図1に概略的に示される例である。
【0047】
制御器5は、例えば50Hzから1000Hzの所望の周波数範囲を持つ、音響信号発生器を実施する。
【0048】
前記検出器は、呼吸サイクルにおける様々な時点のタイミングを決定するのに使用される。最も重要なことであるが、検出器1は、吸気の開始を検出し、検出器1は、呼気(又は呼息)の開始も検出する。制御器は次いで、呼吸分析器の機能を実施して、呼吸速度及び/又は吸気/呼気のデューティサイクルを計算する。
【0049】
刺激器の動作のタイミングはこのとき、検出器1からの出力に応じて制御される。
【0050】
呼吸サイクル内の時点、特に吸気の開始及び呼気(又は呼息)の開始を決定するための様々な方法がある。1つの方法は、被験者から空気流(の方向及び速度)を測定することである。これは例えば、口及び/又は鼻を覆う、故に正常な呼吸を妨げるマスクを必要とする。それは、鼻の熱電対又は流量計を使用して実施される。
【0051】
代替案は、例えば胸部に付けられる加速度計を使用して胸部の動きを測定することである。
【0052】
もう1つの代替案は、インピーダンスプレチスモグラフを用いて生理学的パラメタ、例えば経胸腔インダクタンスを観察する、又は胸部周囲長の歪みゲージ(strain gauge)測定を行うことである。サーミスタの測定が使用されてもよい。胸部の膨張及び収縮を観察するための空気圧式呼吸トランスデューサもある。直接的なフローの測定が最も正確であるが、正常な呼吸を妨げるので、多くの応用において間接的な測定にも関心がある。
【0053】
最後の数分の観察される呼吸速度及び呼吸サイクルに基づいて、処理ユニットは、事前に次の呼吸サイクルの開始を予測することもできる。
【0054】
最も簡単な実施において、吸気イベントの開始時に、前記刺激器は、一定の時間制御され、この時間は、吸気イベントの予期される期間よりも短い。検出器からのトリガとして必要とされる全てのことは、吸気イベントが始まる時点である。
【0055】
より高度な実施において、刺激器は、予測される次の吸気イベントの開始の前のある時間期間、例えば数百ミリ秒(例えば100msから500msの範囲内、例えば200ms)で稼働する。
【0056】
より完全な実施において、呼吸のデューティサイクル及びタイミング、並びに呼吸速度が得られる。刺激器の周波数、タイミング及び力は、前記呼吸情報に応じて制御される。例えば、音刺激は、吸気イベントの全ての間で与えられてもよい。音響信号の振幅は一定でもよいが、吸気イベント内の時間の関数として変化してもよい。
【0057】
最も簡単な実施の組み合わせにおいて、刺激器は、簡単なON/OFFモードで動作する。ONモード中、信号強度は一定である。より改善された実施において、ONモードにおける信号強度は、所定の最大の信号強度から所定の最小の信号強度へ直線的に減少する。
【0058】
刺激は好ましくは、ユーザの呼吸パターンに従って適応される。すなわち、吸気相中の刺激の期間は、上気道の死腔(dead space)を考慮している。
【0059】
一回換気の間、吸い込まれた空気の体積は一般に、成人男性で400mlから500mlの間である。上気道(鼻気道、咽頭気道、喉頭及び主気管支)の空間体積は、約150mlである。これがいわゆる死腔である。
【0060】
概算として、例えば450mlの一回換気量において、吸い込まれた空気の300mlだけが、肺胞及び小さな細気管支に到達する。450mlのうち150mlが上気道に残り、呼気中に吐き出される。呼吸サイクルの吸気相における空気流の残りの150mlの如何なる一酸化窒素の富化も、それが次の呼気において失われるので効果的ではない。従って、この特定例に対し、刺激は、典型的な一回換気量の呼吸の吸気相の最初の3分の2に対してのみ続ける。
【0061】
他の実施において、観察装置は、患者の一般的な吸い込まれる空気の体積を測定し、吸い込まれた空気と死腔との比(例えば750ml/150ml)を計算するのに使用される。この比に基づいて、刺激の期間が決定される。この例において、刺激は、吸気相の80%の間続く。
【0062】
例えば一酸化窒素の軽度の富化が必要とされるとき、前記期間が意図的に短くされる設定でもよい。
【0063】
前記装置は、一酸化窒素の如何なる外部供給源も利用していない。実際に、一酸化窒素の生成及びフローを制御するために、体内の自然作用を利用している。
【0064】
音刺激の周波数は、鼻腔の共鳴周波数に応じて選択されてもよい。
【0065】
上気道、鼻腔及び洞(sinus)は、開いている空洞である。
【0066】
各々の空洞の形状及び体積は、人に依存する、故に共鳴周波数は、人に依存する及び最適化された刺激治療を施すために決定されなければならない。
【0067】
これら洞の音響共鳴は、楽器の解析と同じ方法で解析されることができる。オルガンのパイプ又は管楽器の管に対し、音響共鳴周波数及び周波数高調波は、管に空気流を通させることにより実験的に、又は空洞の形状を解析することにより理論的の何れか一方により決定されることができる。
【0068】
人間において、音響共鳴周波数は、3D撮像する又は周波数変調された空気流を鼻気道に通させることの何れか一方により決定されることができる。例えば断層撮影画像(tomography image)から体積形状を抽出するためのシステムが存在している。共鳴を計算するためのアルゴリズムは知られていて、文献、例えばE. Tarhan他著の"Acoustic rhinometry in human: accuracy of nasal passage area estimates, and ability to quantify paranasal sinus volume and ostium size"J. Appl. Physiol. 99:616-623, 2005に開示されている。
【0069】
その代わりに、共鳴周波数は、M. Maniscalco他著の"Assessment of nasal and sinus nitric oxide output using single-breath humming exhalations", Rur. Respir. J. 2003: 22 323-329に開示されるように、異なる刺激周波数で一酸化窒素の流出を測定することにより実験的に決定されることができる。
【0070】
従って、最適な音響共鳴周波数及び信号の最適な出力(power)は、副鼻腔の空洞の大きさに応じて選択される。各々の人間に対し、共鳴周波数は、刺激器の個別の設定により測定及び印加されることができる。
【0071】
前記装置の1つの実施は、図2により詳細に示され、この図において、前記装置は、持続的気道陽圧(CPAP)システム内に実装されている。このシステムは、呼吸ガスのフローを患者の気道に非侵襲的に、すなわち患者の気道に管を挿入することなく、又は患者の食道に気管チューブを外科的に挿入することなく、送出するのに使用される。気道陽圧は、内科的疾患、例えば睡眠時無呼吸症候群、特に閉塞性睡眠時無呼吸を治療するために、患者の呼吸サイクルと共に変化するように制御される。
【0072】
最も基本的なCPAPシステムは、患者の気道が崩壊し、無呼吸イベントを引き起こすのを防ぐために、患者の気道に加圧した空気の安定した持続的な流れを送る。そのようなCPAP機構は一般に、一晩中一定のままでいる1つの圧力に設定されている。しかしながら、多くのCPAP機構は、低い圧力の設定から始まり、徐々に所定の圧力に増大させるランプ特性(ramp feature)を持つ。その上、呼吸/フローセンサも、呼吸サイクルを検出する、並びに呼吸速度及び呼吸デューティサイクルを決定するのに使用されてもよい。
【0073】
二相性気道陽圧(BiPAP)システムは、毎分の呼吸量を測定し、制限を設定することができる呼吸タイミング特性を含む。呼吸の合間の時間が設定した制限を超える場合、前記機構は、空気圧を一時的に増大させることにより、人に強制的に呼吸させることができる。BiPAP機構は故に、2つの圧力設定、つまり吸入に対する所定の圧力(IPAP)と、呼息に対するより低い圧力(EPAP)を持つ。この2つの設定(デュアル設定)は、患者が自分の肺により多くの空気を入れる及びより多くの空気を出すことを可能にする。
【0074】
そのような非侵襲性の換気及び圧力支援療法は、患者の顔に、マスクコンポーネントを含む患者インタフェース装置の配置を含む。このマスクコンポーネントは、限定ではないが、患者の鼻を覆う鼻マスク、患者の鼻孔内に収容される鼻カニューレを持つ鼻枕/クッション、鼻及び口を覆う鼻/口マスク、又は患者の顔を覆うフルフェイスマスクでもよい。患者インタフェース装置は、換気装置又は圧力支援装置と患者の気道との間を連結するので、呼吸ガスのフローは、圧力/フロー発生装置から患者の気道へ送られることができる。
【0075】
図2は、患者に呼吸療法を施すためのシステムを示す。これは、"患者インタフェースアセンブリ"と呼ばれる。システムは、上述した音刺激を追加として供給するように変更されている。
【0076】
前記アセンブリは、圧力発生装置8及び患者インタフェース10を含む。
【0077】
患者インタフェース10は、マスク12を含み、この例示的な実施例において、マスク12は、鼻及び口を覆う鼻/口マスクである。しかしながら、患者の気道に呼吸ガスのフローを送出するのを容易にする如何なる種類のマスク、例えば鼻のみのマスク、鼻枕/クッション又はフルフェイスマスクがマスク12として使用されてもよい。マスク12は、シェル15に結合されるクッション14を含む。クッション14は、柔らかな柔軟性材料、例えば限定ではないが、シリコーン、適切な柔らかさの熱可塑性エラストマ、独立気泡フォーム又はそのような材料の如何なる組み合わせから作られる。シェル15にある開口は、圧力発生装置8からの呼吸ガスのフローが、シェル15及びクッション14により規定される内部空間に、及び次いで患者の気道に伝えられることを可能にする。
【0078】
圧力発生装置から、送出導管16は、患者インタフェース10のエルボーコネクタ18に結合される。圧力発生装置8は、呼吸ガスのフローを生成するように構成され、限定ではないが、換気装置、定圧支援装置(例えば持続的気道陽圧装置、すなわちCPAP装置)、可変圧力装置及び自動滴定圧力支援装置を含む。
【0079】
送出導管16は、圧力発生装置8からの呼吸ガスのフローを、エルボーコネクタ18を介して患者インタフェース10に伝える。送出導管16、エルボーコネクタ18及び患者インタフェース10は、しばしばまとめて患者回路と呼ばれる。
【0080】
検出器1は、呼吸サイクル内の時点を直接的な方法で決定するために、患者へのガスのフロー又は患者からのガスのフローを観察するためのフローセンサの形式で、導管16に設けられる。制御器5は、圧力発生装置を制御して、この圧力発生装置8により送出される圧力における適切な高周波信号を変調することにより、音響信号を作る。
【0081】
前記アセンブリは、ヘッドギアコンポーネント19も含み、これは、例示される実施例において、二点式のヘッドギアである。ヘッドギアコンポーネント19は、第1及び第2のストラップ20を含み、これらストラップの各々は、患者の耳の上にある患者の顔の側面に位置決められるように構成される。ヘッドギアコンポーネント19はさらに、前記ストラップ20の1つの端部をマスク12の夫々の側に結合するための第1及び第2のマスク取り付け要素22を含む。
【0082】
必要とされる力をより大きな領域に広げるための額支持部を含むことも知られている。このように、額の上の追加のクッション支持部は、鼻又は鼻及び口の周りのマスクにより加えられる力のバランスをとる。これは、患者の顔に堅固及び安定した封止を達成するのに必要なヘッドギアの力ベクトルが、患者の目の目頭の近くで直線をカットするという問題に対応するのに使用され、これは不快であり、気が散る。
【0083】
CPAP又はBiPAPシステムは既に、上述した音刺激装置を実装するのに必要な多くのハードウェアを提供している。
【0084】
例えば、少なくとも幾つかのCPAPシステム及び全てのBiPAPシステムは、ユーザの呼吸サイクルを観察することを含み、同じ観察が、音刺激を制御するのに使用されてもよい。
【0085】
音振動自身は、圧力発生装置8により供給される気道の圧力の調整により提供される。従って、音刺激システムは、刺激器を稼働させる及び制御するために、CPAP又はBiPAPシステムの制御器の機能を拡張することにより実施されてもよい。
【0086】
CPAP及びBiPAP装置の圧力は通例、4から20cmHO(約400Paから2000Pa)の範囲にある。PAP装置は、人の自発呼吸を検出し、圧力を観察される患者の呼吸パターンに適応させる。故に、BiPAP装置における低周波数の圧力調整は、呼吸数と同期される。
【0087】
副鼻腔は、最も大きな鼻腔である。その大きな空洞のために、副鼻腔は一酸化窒素の最大のリザーバである。副鼻腔の一般的な共鳴周波数は約200Hzである。従って、200Hzの刺激周波数がこの装置のデフォルトの周波数設定である。より小さな鼻腔は、1000Hzまでのより高い共鳴周波数を持つ。
【0088】
高度な実施において、刺激器は、複数の離散周波数、例えば200Hz、500Hz、1000Hzで刺激してもよい。
【0089】
CPAP又はBiPAPシステムと音刺激システムとの組み合わせは必須ではない。例えば、刺激器及び制御器は、持続的又は二層性の圧力を加える必要なく、鼻マスク又は鼻/口マスクに組み込まれてもよい。前記装置はこのとき、一酸化窒素レベルを制御するためだけでもよい。
【0090】
上述したように、刺激器は代わりに、副鼻腔を閉じるように、顔の皮膚に取り付けられるパッチ内に組み込まれてもよい。
【0091】
本発明は、肺高血圧の治療、収縮した気管支の緩和及び肺血管の血管拡張に関心がある。
【0092】
上に論じたように、制御器5は、制御方法を実施する。制御器は、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて、様々な方法で必要とされる様々な機能を行うように実施されることができる。処理器は、ソフトウェア(例えばマイクロコード)を用いて前記必要とされる機能を行うようにプログラムされる1つ以上のマイクロ処理器を用いる制御器の一例である。しかしながら、制御器は、処理器を用いるかどうかにかかわらず実施されてよく、幾つかの機能を行うための専用のハードウェアと、他の機能を行うための処理器(例えば1つ以上のプログラムされるマイクロ処理器及び関連回路)との組み合わせとして実施されてもよい。
【0093】
本開示の様々な実施例に用いられる制御器のコンポーネントの例は、限定ではなく、従来のマイクロ処理器、特定用途向け専用回路(ASIC)及びFPGA(field-programmable gate array)を含む。
【0094】
様々な実施において、処理器又は制御器は、揮発性及び不揮発性のコンピュータメモリのような1つ以上の記憶媒体、例えばRAM、PROM、EPROM及びEEPROMと関連付けられてもよい。この記憶媒体は、1つ以上の処理器及び/又は制御器において実行されるとき、前記必要とされる機能を行う1つ以上のプログラムを用いて符号化されてもよい。様々な記憶媒体は、処理器又は制御器内に固定されるか、或いは記憶媒体に記憶される1つ以上のプログラムが処理器又は制御器に読み込まれ得るような可搬型でもよい。
【0095】
それに加えて又はその代わりに、被験者の肺の内部の一酸化窒素レベルの富化を制御するための装置は、被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出する検出器(1)、被験者に音又は振動刺激を加える刺激器(3)及び前記呼吸サイクルの検出されたタイミングに応じて、前記刺激器を制御するのに適応する制御器(5)を有する。
【0096】
それに加えて又はその代わりに、音又は振動刺激器を制御する方法は、被験者の呼吸サイクルのタイミングを検出するステップ、被験者に振動又は音刺激を加えるステップ、及び前記呼吸サイクルの検出されたタイミングに応じて刺激を制御するステップ、を有する。
【0097】
請求項において、括弧の間に置かれる如何なる参照符号もその請求項を制限するとは考えない。"有する"又は"含む"という言葉は、請求項に挙げられる以外の要素又はステップの存在を排除していない。その要素が複数あることを述べなくても、その要素が複数あることを排除していない。ある要素が互いに異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの要素が組み合わせて使用できないことを示しているのではない。本発明は、最も実用的で、好ましい実施例であると現在考えられるものに基づいて説明を目的に詳細に開示されていたとしても、そのような詳細は単に説明が目的であること、及び本発明は開示される実施例に限定されるのではなく、それどころか添付の特許請求の範囲内にある改良版及び等価な配置にも及ぶことを意図していると理解されるべきである。例えば、本発明は、可能な限り、如何なる実施例の1つ以上の特性は、他の如何なる実施例の1つ以上の特性と組み合わされ得ると理解されるべきである。
図1
図2