(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】耐熱性の逆転写酵素変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20220420BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20220420BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220420BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220420BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20220420BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220420BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALN20220420BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20220420BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N9/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P19/34 A
C12P21/02 C
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2018556717
(86)(22)【出願日】2017-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2017044693
(87)【国際公開番号】W WO2018110595
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2016242171
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】石川 一彦
(72)【発明者】
【氏名】上森 隆司
(72)【発明者】
【氏名】高津 成彰
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/112767(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/020759(WO,A1)
【文献】特表2009-504162(JP,A)
【文献】特表2004-511211(JP,A)
【文献】特表2011-516072(JP,A)
【文献】久好哲郎 他,RNase H触媒部位から離れた部位へのアミノ酸変異によるMMLV逆転写酵素の耐熱化とRNase H活性の消失,日本農芸化学会大会講演要旨集,2015年,Vol.2015th,#4C22p03, 特に【方法】,ISSN: 2186-7976
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00- 9/99
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来の野生型逆転写酵素の
配列番号1で示されるアミノ酸配列
において、開始コドンによってコードされるメチオニンを数えない番号での55位に相当する位置にアミノ酸変異を含む逆転写酵素変異体であって、該アミノ酸変異がスレオニンから、グリシン、アスパラギン酸、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸への置換であ
り、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、前記野生型逆転写酵素と比較して耐熱性が向上した逆転写活性を有することを特徴とする、MMLV由来の逆転写酵素変異体。
【請求項2】
さらに下記(1)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を含む、請求項1に記載の逆転写酵素変異体:
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【請求項3】
リボヌクレアーゼH活性を欠損している、請求項1又は2に記載の逆転写酵素変異体。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の逆転写酵素変異体をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4記載の核酸および発現調節配列を含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項5記載の発現ベクターで形質転換された、逆転写酵素変異体を発現する細胞。
【請求項7】
MMLV由来の逆転写酵素をコードする
配列番号11で示される核酸において、MMLV由来の野生型逆転写酵素の
配列番号1で示されるアミノ酸配列
における、開始コドンによってコードされるメチオニンを数えない番号での55位に相当する位置にあるスレオニンをコードするコドンを、グリシン、アスパラギン酸、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸をコードするコドンに置換する工程を包含する、MMLV由来の逆転写酵素変異体をコードする核酸の製造方法。
【請求項8】
MMLV由来の逆転写酵素をコードする核酸が、MMLV由来の野生型逆転写酵素又は該酵素の変異体タンパク質をコードする核酸である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
MMLV由来の逆転写酵素をコードする核酸が、下記(1)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を含む逆転写酵素変異体をコードする核酸である、請求項8に記載の方法:
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【請求項10】
MMLV由来の野生型逆転写酵素の
配列番号1で示されるアミノ酸配列
において、開始コドンによってコードされるメチオニンを数えない番号での55位に相当する位置にあるスレオニンを、グリシン、アスパラギン酸、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸に置換することを特徴とする、MMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~3いずれか1項に記載の逆転写酵素変異体を使用して、鋳型となるRNAに相補的なDNAを合成する工程を包含する、cDNAの合成方法。
【請求項12】
さらにcDNAを増幅する工程を包含する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
cDNAの増幅が等温増幅反応またはPCRで実施される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1~3いずれか1項に記載の逆転写酵素変異体を含む組成物。
【請求項15】
請求項1~3いずれか1項に記載の逆転写酵素変異体を含むキット。
【請求項16】
MMLV由来の逆転写酵素をコードする
配列番号11で示される核酸において、MMLV由来の野生型逆転写酵素の
配列番号1で示されるアミノ酸配列
における、開始コドンによってコードされるメチオニンを数えない番号での55位に相当する位置にあるスレオニンをコードするコドンを、グリシン、アスパラギン酸、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸をコードするコドンに置換することを特徴とする、MMLV由来の逆転写酵素の耐熱性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性の逆転写酵素変異体に関する。さらに、既存の逆転写酵素の耐熱性を向上させるための方法、および当該耐熱性の逆転写酵素変異体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写酵素(RTase)は、一般的にRNAを鋳型としてcDNAを合成する活性、いわゆるRNA依存型DNAポリメラーゼ活性と、RNA/DNAハイブリッド中のRNA鎖を分解する活性、いわゆるリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を有している。
【0003】
逆転写酵素は、RNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有していることから、生体内で発現しているタンパク質のアミノ酸配列を直接反映しているmRNAの塩基配列解析、cDNAライブラリーの構築、さらにはRT-PCRなどに使用することができる。これらの用途には、モロニーマウス白血病ウイルス又はトリ骨髄芽球症ウイルスの産生する逆転写酵素がよく用いられている。
【0004】
このように逆転写酵素の用途は多岐にわたるが、RNAを鋳型とすることから種々の問題点がある。例えば、mRNAが二次構造を形成しやすい塩基配列を有する場合、当該mRNAを鋳型とした逆転写酵素によるcDNA合成が前記二次構造によって妨げられることがある。この問題を解決するためには逆転写反応の温度を上げることで効果があるが、前記モロニーマウス白血病ウイルスが産生する逆転写酵素およびトリ骨髄芽球症ウイルスが産生する逆転写酵素は耐熱性が低く、RNAの二次構造形成が抑制されるような温度条件では失活してしまう。そのため、耐熱性を向上させた逆転写酵素変異体が提案されてきた(例えば、特許文献1~6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第4193079号
【文献】国際公開パンフレットWO2004/024749
【文献】国際公開パンフレットWO2007/022045
【文献】国際公開パンフレットWO2009/125006
【文献】国際公開パンフレットWO2012/108672
【文献】国際公開パンフレットWO2015/112767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、さらなる耐熱性逆転写酵素の開発が依然として望まれている。本発明の目的は、耐熱性の逆転写酵素変異体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、耐熱性の逆転写酵素変異体を開発すべく鋭意研究した結果、驚くべきことに、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus)(以下、MMLVと略することもある)が産生する逆転写酵素のアミノ酸配列において、これまで変異が導入されたことのない、ループ構造の安定化に関連すると思われる第55番目のスレオニンを非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択された他のアミノ酸に置換することによって、耐熱性を有する逆転写酵素が得られることを見出した。さらに当該アミノ酸変異を既知の耐熱性逆転写酵素のアミノ酸変異と組み合わせることにより、該既知の逆転写酵素の耐熱性をさらに向上させることができることを見出した。さらに当該アミノ酸変異を新規な他のアミノ酸変異と組み合わせることにより、耐熱性がさらに向上した逆転写酵素が得られることも見出した。かくして、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列のループ構造の立体構造を安定化させるために、アミノ酸配列の53位から56位にかけての部位のアミノ酸を置換することを特徴とする。本発明の第一の態様は、特に限定はされないが、55位に相当する位置にアミノ酸変異を含む逆転写酵素変異体であって、該アミノ酸変異がスレオニンから他のアミノ酸への置換であり、該他のアミノ酸が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されることを特徴とする、逆転写酵素変異体に関する。本発明の第一の態様の逆転写酵素変異体において、前記アミノ酸変異は、スレオニンから、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸への置換であってもよい。また、本発明の第一の態様の逆転写酵素変異体において、前記アミノ酸変異は、スレオニンから、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸への置換であってもよい。
【0009】
本発明の第一の態様の逆転写酵素変異体の一例として、前記アミノ酸変異がスレオニンからグリシン又はアスパラギン酸への置換であることを特徴とする逆転写酵素変異体が挙げられる。また、本発明の第一の態様の逆転写酵素変異体は、下記(1)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換をさらに含んでいてもよい:
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【0010】
なお、上記の第55位のアミノ酸置換および上記(1)の第54位のアミノ酸置換と、上記(2)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換とを組み合わせて含む逆転写酵素変異体も本発明の範疇である。また、本発明の第一の態様の逆転写酵素変異体は、さらにリボヌクレアーゼH活性を欠損していてもよい。
【0011】
なお、上記(3)の第291位のアミノ酸置換、ならびに上記(8)の第209位および第212位のアミノ酸置換は、本発明により初めて耐熱性との関連が確認されたものである。例えば、MMLV逆転写酵素の野生型のアミノ酸配列において第291位のグルタミンからリシンへのアミノ酸置換、あるいは第209位のアスパラギン酸からプロリン並びに第212位のイソロイシンからアラニンへのアミノ酸置換を有する逆転写酵素変異体は、野生型に比べて耐熱性が向上する。従って、本発明の上記の第55位のアミノ酸置換と組み合わせる対象となる。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の逆転写酵素変異体をコードする核酸に関する。
【0013】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様の核酸および発現調節配列を含む発現ベクターに関する。
【0014】
本発明の第四の態様は、前記第三の態様の発現ベクターで形質転換された、逆転写酵素変異体を発現する細胞に関する。
【0015】
本発明の第五の態様は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素をコードする核酸において、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンをコードするコドンを、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸をコードするコドンに置換する工程を包含する、逆転写酵素変異体をコードする核酸の製造方法に関する。本発明の第五の態様において、前記スレオニンをコードするコドンは、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸をコードするコドンに置換してもよい。
【0016】
本発明の第五の態様において、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素をコードする核酸は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素又は該酵素の変異体をコードする核酸であってもよい。
【0017】
本発明の第五の態様において、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素をコードする核酸は、下記(1)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を含む逆転写酵素変異体をコードする核酸であってもよい:
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【0018】
本発明の第六の態様は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸に置換することを特徴とする、耐熱性の逆転写酵素変異体の製造方法に関する。本発明の第六の態様の方法において、前記スレオニンは、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸に置換してもよい。
【0019】
本発明の第七の態様は、前記第一の態様の逆転写酵素変異体を使用して、鋳型となるRNAに相補的なDNAを合成する工程を包含する、cDNAの合成方法に関する。また、当該方法において、さらにcDNAを増幅する工程を包含してもよい。さらに前記cDNAの増幅が等温増幅反応またはPCRで実施されるものであってもよい。
【0020】
本発明の第八の態様は、前記第一の態様の逆転写酵素変異体を含む組成物に関する。
【0021】
本発明の第九の態様は、前記第一の態様の逆転写酵素変異体を含むキットに関する。
【0022】
本発明の第十の態様は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸に置換することを特徴とする、逆転写酵素の耐熱性を向上させる方法である。本発明の第十の態様において、前記スレオニンは、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸に置換してもよい。また、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素をコードする核酸において、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンをコードするコドンを、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸をコードするコドンに置換することを特徴とする、逆転写酵素の耐熱性向上方法も提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、耐熱性逆転写酵素変異体並びにその製造方法が提供される。本発明によれば、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを他のアミノ酸に置換することにより、耐熱性逆転写酵素変異体が提供される。また、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを他のアミノ酸に置換することにより、既知の耐熱性逆転写酵素の耐熱性がさらに向上される。このような既知の耐熱性逆転写酵素の耐熱性をさらに向上させる効果を有するアミノ酸変異は、これまで知られておらず、本発明により初めて見出された。また、本発明の耐熱性逆転写酵素変異体は、逆転写酵素の特性、例えば、RNA結合活性、cDNA伸長活性、およびcDNA伸長速度に何ら影響を受けることなく、向上した耐熱性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、「耐熱性」とは、熱処理の後にも酵素活性を保持することのできる性質のことを言う。例えば、40℃、5分の処理で活性が50%失われる酵素であれば、50℃以上、60℃以上、あるいは70℃以上の条件で5分処理した後でも50%以上の活性を保持することができた場合に「耐熱性」が向上したと言える。このような耐熱性が向上した酵素は、より高い温度での反応に供することができる。例えば、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素の場合、野生型酵素の至適温度は37~42℃であるので、例えば43℃以上、好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上で酵素活性を保持する逆転写酵素変異体は、「耐熱性である」または「向上した耐熱性を有する」と言える。
【0025】
本発明において、「残存活性」とは、加熱処理後の酵素活性のことをいう。また、「残存活性率」とは、加熱処理しない(非加熱処理)タンパク質の酵素活性を100%とした場合の、加熱処理後の酵素活性の割合(%)のことをいう。
【0026】
本発明において使用しているアミノ酸番号(またはアミノ酸位置)は、開始コドンによってコードされるメチオニンを数えない番号で表示している。従って、1番目のメチオニンを数える場合は、本明細書に記載されるアミノ酸番号に1を足した番号となる。
【0027】
以下、詳細に説明する。
【0028】
1.本発明の耐熱性逆転写酵素変異体
本発明の第一の態様は、耐熱性逆転写酵素変異体、即ち耐熱性を獲得した(又は耐熱性が向上した)逆転写酵素の変異体に関するものである。該逆転写酵素変異体は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素又はその変異体において、野生型逆転写酵素のループ構造部分であるアミノ酸配列の53位から56位にかけての立体構造をより安定な構造にするアミノ酸に変異させることを特徴とする。例えば、野生型アミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンが、該逆転写酵素における本ループ構造の立体構造を安定化させるためのアミノ酸、例えば、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸に置換されていることを特徴とする。前記「非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸」とは、さらに言い換えれば、非極性で疎水性のアミノ酸であり、イソロイシン、ロイシン、バリン、グリシン、プロリン、およびアラニンが例示される。前記「極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸」とは、カルボン酸基を有するアミノ酸であり、アスパラギン酸およびグルタミン酸が例示される。本発明の逆転写酵素変異体は、特に、前記アミノ酸変異が、スレオニンからグリシンまたはアスパラギン酸へのアミノ酸置換であることが好適である。
【0029】
さらに立体構造を安定化させるアミノ酸への置換という観点から、例えば、本発明の逆転写酵素変異体は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にアミノ酸変異を含み、該アミノ酸変異がスレオニンから他のアミノ酸への置換であり、該他のアミノ酸が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されることを特徴とする。好ましくは、本発明の逆転写酵素変異体は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にアミノ酸変異を含み、該アミノ酸変異がスレオニンから他のアミノ酸への置換であり、該他のアミノ酸が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されことを特徴とする。前記「極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸」としては、アルギニンおよびリシンが例示される。前記「極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸」としては、セリンが例示される。
【0030】
また、本発明の逆転写酵素変異体は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にアミノ酸変異を含み、該アミノ酸変異がスレオニンから他のアミノ酸への置換であり、該他のアミノ酸が非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸である逆転写酵素変異体であってもよく、例えば、前記アミノ酸変異は、スレオニンからグリシン、アルギニン、リシンまたはセリンへのアミノ酸置換であってもよい。
【0031】
また、例えば、本発明の逆転写酵素変異体は、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にアミノ酸変異を含み、該アミノ酸変異がスレオニンから他のアミノ酸への置換であり、該他のアミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、バリン、グリシン、プロリン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸である逆転写酵素変異体であってもよい。さらなる例として、上記他のアミノ酸は、グリシン、アスパラギン酸、リシン、およびセリンからなる群から選択されるアミノ酸であってもよい。
【0032】
本明細書において、「モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置」とは、モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のループ構造の立体構造に関与する位置であり、具体的にはアミノ酸配列の55位、またはモロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素変異体のアミノ酸配列における、該野生型アミノ酸配列の55位に相当する位置を意味する。逆転写酵素変異体のアミノ酸配列における「モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置」は、例えば、公知のアルゴリズム等を用いて、該野生型配列と該変異体のアミノ酸配列との比較およびアラインメントより容易に特定することができる。同様に、本願明細書においてアミノ酸位置に言及する場合、野生型アミノ酸配列におけるアミノ酸位置を記載しているが、該アミノ酸位置は、その対応する変異体における、該野生型アミノ酸配列の当該位置に相当する位置を包含する。特に限定はされないが、野生型配列の55位に相当する位置として、変異体のアミノ酸配列の53位から56位にかけての部位が例示される。
【0033】
また、本発明の逆転写酵素変異体は、上記した「モロニーマウス白血病ウイルス由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置」におけるスレオニンのアミノ酸置換(以下、「55位のアミノ酸置換」ともいう)に加えて、55位以外のアミノ酸位置の変異(以下、「他のアミノ酸位置の変異」ともいう)を含んでいてもよい。他のアミノ酸位置の変異は、アミノ酸置換変異、アミノ酸挿入変異、またはアミノ酸欠失変異のいずれであってもよく、また、本発明の逆転写酵素変異体は、2以上の他のアミノ酸位置の変異を含んでいてもよい。他のアミノ酸位置の変異は、特に限定されず、いずれのアミノ酸変異であってもよい。
【0034】
他のアミノ酸位置の変異の例としては、限定するものではないが、耐熱性を付与するための変異、耐熱性を向上させるための変異、および逆転写酵素の特性を改善させるためのアミノ酸変異が挙げられる。例えば、本発明の逆転写酵素変異体が、上記55位のアミノ酸置換と、他のアミノ酸位置の変異として耐熱性の付与または向上に関与する変異とを組みあわせて含む場合、その耐熱性がさらに向上する。
【0035】
特に限定はされないが、他のアミノ酸位置の変異の好ましい例として、以下の(1)~(8)に示されるアミノ酸置換またはアミノ酸置換の組み合わせが挙げられる。
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【0036】
ここで、上記他のアミノ酸位置の変異のうち上記(3)の第291位ならびに上記(8)の第209位および第212位のアミノ酸変異については、本発明により初めて耐熱性との関連が確認されたものである。例えば、MMLV逆転写酵素の野生型のアミノ酸配列において第291位のグルタミンからリシンへのアミノ酸置換、あるいは第209位のアスパラギン酸からプロリン並びに第212位イソロイシンからアラニンへのアミノ酸置換を有する逆転写酵素変異体は、野生型に比べて耐熱性が向上する。従って、本発明の上記55位のアミノ酸置換と組み合わせることにより、耐熱性がさらに向上した逆転写酵素を得ることができる。
【0037】
例えば、本発明の逆転写酵素変異体は、上記55位のアミノ酸置換に加えて、上記(1)~(8)から選択される1以上のアミノ酸置換またはアミノ酸置換の組み合わせを含んでいてもよい。例えば、上記55位のアミノ酸置換と、上記(1)の第54位のアミノ酸置換を含み、さらに上記(2)~(8)から選択される1以上のアミノ酸置換またはアミノ酸置換の組み合わせとを含む逆転写酵素変異体も本発明の範疇である。例えば、第54位のアラニンをプロリン、第55位のスレオニンをグリシンにアミノ酸置換し、さらに上記(2)~(8)のアミノ酸置換を組み合わせたものが例示される。
【0038】
本発明の逆転写酵素変異体は、さらにRNaseH活性を欠失する変異を含んでいてもよい。RNaseH活性欠失変異としては、特に限定はされないが、583位および/または524位のアスパラギン酸を別のアミノ酸に置換させたもの、またはRNase H活性ドメインを欠失させたものが例示される。かくして、本発明は、耐熱性を有し、かつRNaseH活性を欠失した逆転写酵素変異体を提供する。このような変異体は、RNAを鋳型とした逆転写反応に好適に使用される。
【0039】
本発明の逆転写酵素変異体として、特に限定はされないが、配列番号1記載の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンがグリシンに置換されたアミノ酸配列(配列番号2)を含む変異体、またはアスパラギン酸に置換されたアミノ酸配列(配列番号3)を含むタンパク質が例示される。さらに、本発明の逆転写酵素変異体の例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる変異体、および配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる変異体が挙げられる。また、本発明の逆転写酵素変異体として、特に限定はされないが、配列番号4~10、39~44、52、55~62記載のいずれかのアミノ酸配列を含む変異体が例示される。さらに、本発明の逆転写酵素変異体の例として、配列番号4~10、39~44、52、55~62記載のいずれかのアミノ酸配列からなる変異体が挙げられる。前記アミノ酸配列においては、さらに耐熱性を向上させるための別の変異や逆転写酵素の特性を改善させるための変異等を含んでいてもよい。
【0040】
さらに、本発明の逆転写酵素変異体の例として、配列番号1と少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、耐熱性を有する変異体であって、該アミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンが、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸、例えば、グリシンまたはアスパラギン酸に置換された逆転写酵素変異体が挙げられる。また、本発明の逆転写酵素変異体のさらなる例として、配列番号1と少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、耐熱性を有する変異体であって、該アミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンが、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸、例えば、グリシンまたはアスパラギン酸に置換された、逆転写酵素変異体が挙げられる。
【0041】
野生型逆転写酵素では37~42℃において活性を示すのに対し、本発明の逆転写酵素変異体は、40℃以上、例えば、45℃以上、50℃以上、55℃以上、または60℃以上の温度条件下でも活性を示す。例えば、限定するのもではないが、本発明の逆転写酵素変異体は、50~55℃の高温域でも野生型と比較して高い活性を示し、該高温域にて保温された後の残存活性も野生型と比較して高くなる。
【0042】
また、本発明の逆転写酵素変異体は、耐熱性を有し、かつ、逆転写酵素の特性、例えばRNA結合活性、cDNA伸長活性等を保持する。すなわち、上記「55位のアミノ酸置換」は、逆転写酵素に耐熱性を付与するが、逆転写酵素の特性、例えばRNA結合活性、cDNA伸長活性、cDNA伸長速度に対して影響を与えない。
【0043】
さらに、本発明の逆転写酵素変異体は、上記55位のアミノ酸置換と他の耐熱化変異とを組み合わせて含む場合、さらに向上した耐熱性を有する。
【0044】
さらに、本発明の逆転写酵素変異体は、発現させたポリペプチドの精製を容易にするためのアフィニティタグを含んでいてもよい。本発明の逆転写酵素変異体は、逆転写酵素活性ならびに固有の耐熱性を維持する限り、アフィニティタグ等のペプチドもしくはポリペプチドを、例えばN末端またはC末端に有していてもよい。このようなタグは当該変異体の生成に有用である。タグの例としては、His残基が4個~8個連続するヒスチジンタグ、Flagタグ、HAタグ、c-mycタグ、GSTタグなどの公知のものが挙げられる。所望により、これらタグは1~15個のアミノ酸を含むリンカーを介して本発明の変異体と連結することができる。
【0045】
2.本発明の耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸
本発明においては、耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸を提供することができる。具体的には上記した本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸を提供する。
【0046】
本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸として、特に限定はされないが、配列番号2~10、39~44、52、または55~62のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸が例示される。さらに、本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸の例として、配列番号2~10、39~44、52または55~62記載のいずれかのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸が挙げられる。さらに好適には、本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸として、配列番号12~20、45~50、54または63~70のいずれかに記載の塩基配列を含む核酸が例示される。さらに、本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸の例として、配列番号12~20、45~50、54または63~70のいずれかに記載の塩基配列からなる核酸が挙げられる。前記核酸は、さらに耐熱性を付与または向上させるための別の核酸変異や逆転写酵素の特性を改善させるため核酸変異を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸は、使用する宿主(host)において発現可能かつ逆転写酵素活性を有するタンパク質をコードするコドンで構成されたものであれば特に限定は無く、使用する宿主において発現可能にするためまたは発現量を増加させるためにコドンの最適化を行ってもよい。該コドン最適化は、本分野において通常使用されている方法によって行うことが好ましい。
【0048】
3.本発明の耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸を含む発現ベクター
本発明の発現ベクターは、本発明の変異体逆転写酵素変異体をコードする核酸、および該核酸と作動可能に連結された発現調節配列を含むことが好ましい。
【0049】
本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸を挿入する発現ベクターとしては、本分野において通常使用されている発現ベクターであれば、特に限定は無い。宿主細胞において自立複製が可能なベクターや宿主染色体に組み込まれ得るベクターを使用することができる。宿主に適合するベクターを使用すればよい。
【0050】
本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸を挿入する発現ベクターとして、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができる。プラスミドベクターとしては、使用する宿主に適したプラスミド、例えば大腸菌由来のプラスミド、バチルス属細菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドが当業者に周知であり、また、市販されているものも多い。本発明には、これら公知のプラスミドやその改変体を使用することができる。ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)等を使用することができ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスを使用することができる。さらに、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞を宿主とする異種タンパク質発現系も数多く構築されており、また、すでに市販もされている。本発明の逆転写酵素変異体の製造には、これら発現系を使用してもよい。
【0051】
本発明の発現ベクターに搭載するプロモーターは宿主に応じて選択することができ、例えば大腸菌ではtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターやそれらの改変体を使用することができるが、前記のものに限定されるものではない。さらに、ファージ由来のプロモーターとRNAポリメラーゼ遺伝子を組み合わせた発現系(例えばpET発現系等)を利用してもよい。
【0052】
発現させたポリペプチドの精製を容易にするために、本発明の発現ベクターは、アフィニティタグをコードする核酸をさらに含んでいてもよい。アフィニティタグをコードする核酸は、本発明の逆転写酵素変異体と当該アフィニティタグの融合タンパク質が発現されるようにベクターに挿入される。本発明を何ら限定するものではないが、アフィニティタグとしては、例えば、ヒスチジン(His)タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグ、マルトース結合タンパク質(maltose binding protein;MBP)タグ、8残基のアミノ酸(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys)からなるStrep(II)タグなどをコードする核酸が例示される。当該タグを付加する位置は、本発明のモロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素(MMLV RTase)変異体をコードする核酸の5’末端および/または3’末端側のいずれでもよく、発現およびタグ機能の障害とならない位置に適宜付加すればよい。なお、該タグは、発現させたポリペプチドの精製段階において切断できるタグが好ましい。本発明を何ら限定するものではないが、かかる切断できるタグとしては、例えば、Facror Xa、PreScission Protease、トロンビン(Thrombin)、エンテロキナーゼ(enterokinase)、TEVプロテアーゼ(Tobacco Etch Virus Protease)などの融合ポリペプチド切断用プロテアーゼの認識配列をコードする核酸を含むタグが例示される。
【0053】
本発明の発現ベクターは、さらに1または複数の発現調節配列を含んでいてもよい。当該発現調節配列は特に限定されるものではないが、プロモーターならびにプロモーターの制御に関わる遺伝子、リボソーム結合配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列(転写ターミネーター)、エンハンサー等が挙げられる。さらに複製起点(origin)や形質転換体の選別に用いられるマーカー(薬剤耐性遺伝子、蛍光マーカー、発光マーカー)をコードする遺伝子、翻訳効率を高めるための塩基配列、等を挙げることができる。
【0054】
4.本発明の発現ベクターで形質転換された細胞
本発明の逆転写酵素変異体を発現するベクターで形質転換する細胞(宿主)としては、本分野において通常使用されている宿主であれば、特に限定は無い。例えば細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、糸状菌、昆虫細胞、真核細胞、動物細胞(ヒト細胞を含む哺乳動物細胞等)が使用できる。
【0055】
原核細胞を宿主細胞とする場合、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli:大腸菌)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を宿主細胞として使用することができる。異種タンパク質の製造に使用可能な大腸菌は当業者に周知であり、また、市販されているものも多い(例えば、Escherichia coli BL21T1R、Escherichia coli BL21、E.coli XL1-Blue、E.coli XL2-Blue、E.coli DH1、E.coli JM109、E.coli HB101等)。また、バチルス属細菌であるBacillus subtilis MI114、B.subtilis 207-21等、Brevibacillus属細菌であるもBrevibacillus choshinensis等が異種タンパク質の製造用宿主として知られている。これらの宿主細胞を適切な発現ベクターと組み合わせ、本発明の融合ポリペプチドの製造に使用することができる。特に限定はされないが、大腸菌株のBL21系統である、E.coli BL21T1RやBL21DE3が好適に使用できる。
【0056】
発現ベクターの宿主への導入方法としては、宿主に核酸を導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を使用することができる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法は、昆虫細胞にDNAを導入し得る限り特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を使用することができる。ファージベクターやウイルスベクターは、これらベクターに応じた方法で宿主細胞への感染を実施し、本発明の融合ポリペプチドを発現する形質転換体を得ることができる。
【0057】
上記形質転換体を培養し、培養物から本発明の逆転写酵素変異体を取得することができる。培養条件は、使用する発現ベクター、宿主等に適した条件であれば特に限定はない。本発明を何ら限定するものではないが、例えば、pETベクターにて大腸菌を形質転換した場合、形質転換体をLB培地へ接種して37℃にて振盪培養する。培養液のODが0.2~0.8になった時点でIPTGを添加し、目的タンパク質の発現を誘導するために例えば15~30℃で2~5時間、好ましくは25℃で4~5時間振盪培養する。その後、培養液を遠心分離し、得られた菌体を洗浄後、超音波破砕処理またはリゾチームによる溶菌処理によって本発明の変異体を含む破砕物を得ることができる。破砕物は夾雑物が多いため、本分野において使用されている精製方法、例えば、硫酸アンモニウム沈殿法、陰イオン交換カラム、陽イオン交換カラム、ゲル濾過カラム、アフィニティクロマトカラム、透析等を適宜組み合わせるによって本発明の変異体の精製を行うことが望ましい。アフィニティタグが付加された変異体は、当該アフィニティタグの性質に応じたアフィニティ担体を使用して簡便に精製することが可能である。また、使用する宿主または発現ベクターの種類によっては、IPTGに加え、L-アラビノースなど他に必要な誘導物質を適切なタイミングで添加してもよい。
【0058】
5.本発明の耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸の製造方法
本発明の核酸の製造方法は、例えば、MMLV由来の逆転写酵素をコードする核酸において、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンをコードするコドンを、立体構造を安定化させるアミノ酸、例えば非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸をコードするコドンに置換する工程を含む。立体構造を安定化させるアミノ酸については、上記1.で説明したとおりである。特に限定はされないが、上記スレオニンに対応するコドンの置換は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸に対応するコドンへの置換が好適であり、グリシンまたはアスパラギン酸に対応するコドンへの置換がさらに好適である。
【0059】
上記1.で説明したとおり、本発明の逆転写酵素変異体は、例えば、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置におけるスレオニンを立体構造を安定化させるアミノ酸、例えば非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸へ置換する変異を含むことを特徴としている。本発明において、上記55位のアミノ酸置換を導入する逆転写酵素のアミノ酸配列は、野生型アミノ酸配列、または変異型アミノ酸配列、例えば耐熱性変異体のアミノ酸配列、のいずれであってもよい。したがって、本発明の核酸の製造方法において、上記のコドン置換を導入するMMLV由来の逆転写酵素をコードする核酸は、MMLV由来の野生型逆転写酵素をコードする核酸、または該酵素の変異体をコードする核酸のいずれであってもよい。
【0060】
例えば、MMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体に上記55位のアミノ酸置換を導入する場合、該耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸上の、MMLV由来の野生型逆転写酵素アミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンに対応するコドンを、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸のコドンに変換することにより、上記コドン変換前の耐熱性逆転写酵素の耐熱性よりも向上した耐熱性を有する逆転写酵素変異体をコードする核酸を製造することができる。
【0061】
例えば、上記のコドン置換を導入するMMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体をコードする核酸としては、下記(1)~(8)からなる群から選択される1以上のアミノ酸置換を含む逆転写酵素変異体をコードする核酸が挙げられる。
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【0062】
前記コドン変換は、公知の方法によって行えばよく、特に限定するものではないが、例えば、変異導入プライマーを用いた部位特異的変異導入など公知の手法による変異導入、または変異後の配列(もしくは配列の一部)を有する核酸の人工合成によって行うことができる。さらに、使用する宿主において発現可能にするためまたは発現量を増加させるためにコドンの最適化を行ってもよい。該コドン最適化は、本分野において通常使用されている方法によって行うことができる。
【0063】
さらに、本発明の核酸の製造方法では、MMLV由来の逆転写酵素をコードする核酸において、上記55位のアミノ酸置換を導入するためのコドン置換に加えて、1以上の他のコドン置換を行ってもよい。他のコドン置換としては、例えば、耐熱性を付与するための変異を導入するためのコドン置換、耐熱性を向上させるためのアミノ酸置換を導入するためのコドン置換、逆転写酵素の特性を改善させるための変異を導入するためのコドン置換、RNaseH活性欠失変異を導入するためのコドン置換等が挙げられる。耐熱性を付与または向上するためのアミノ酸置換を導入するためのコドン置換としては、例えば、限定するものではないが、上記(1)~(8)に示されるアミノ酸置換を導入するためのコドン置換が挙げられる。さらに、宿主内でタンパク質生産を安定・向上させるためのコドン置換を組み合わせてもよい。
【0064】
本発明の核酸の製造方法には、前記2.で説明した核酸が適用できる。
【0065】
6.本発明の逆転写酵素変異体の製造方法および逆転写酵素の耐熱性の向上方法
本発明の逆転写酵素変異体の製造方法は、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを、立体構造を安定化させるアミノ酸、例えば、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸に置換することを特徴とする。また、本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法は、MMLV由来の野生型逆転写酵素のアミノ酸配列の55位に相当する位置にあるスレオニンを、立体構造を安定化させるアミノ酸、例えば、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸、極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸、極性の塩基性官能基側鎖を有するアミノ酸、および極性の水酸基脂肪族側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択される他のアミノ酸に置換することを特徴とする。立体構造を安定化させるアミノ酸については、上記1.で説明したとおりである。好ましくは、上記55位のアミノ酸置換は、非極性の脂肪族側鎖を有するアミノ酸および極性の酸性官能基側鎖を有するアミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸への置換であり、さらに好ましくは、グリシンまたはアスパラギン酸への置換である。
【0066】
本発明の逆転写酵素変異体の製造方法および本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法は、MMLV由来の逆転写酵素のアミノ酸配列に上記55位のアミノ酸置換を導入することを含む。該MMLV由来の逆転写酵素のアミノ酸配列は、野生型アミノ酸配列、または変異型配列のいずれであってもよい。該変異型配列として、MMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体のアミノ酸配列を用いる場合、本発明の方法にしたがって上記55位のアミノ酸置換を導入することにより、該アミノ酸置換を導入する前の逆転写酵素の耐熱性よりも向上した耐熱性を有する逆転写酵素変異体を製造することができる。
【0067】
したがって、本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法によれば、MMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体のアミノ酸配列に上記55位のアミノ酸置換を導入することにより、該アミノ酸置換を導入する前の逆転写酵素の耐熱性を向上させることができる。この技術により、既存の耐熱性逆転写酵素の耐熱性をさらに向上させることができる。当該技術は、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の製造方法として有用である。
【0068】
上記55位のアミノ酸置換を導入するMMLV由来の耐熱性逆転写酵素変異体としては、例えば、限定するものではないが、下記(1)~(8)からなる群から選択さる1以上のアミノ酸置換を含む逆転写酵素変異体が挙げられる。
(1)A54P、
(2)T287K、
(3)Q291K、
(4)T306K、
(5)D524A、
(6)D524N、
(7)H204R、M289L、T306KおよびF309N、ならびに
(8)D209P、およびI212A。
【0069】
さらに、本発明の逆転写酵素変異体の製造方法、ならびに本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法においては、MMLV由来の逆転写酵素のアミノ酸配列において、上記55位のアミノ酸置換に加えて、1以上の他のアミノ酸位置の変異を導入してもよい。他のアミノ酸位置の変異としては、例えば、耐熱性を付与するための変異、耐熱性を向上させるための変異、逆転写酵素の特性を改善させるための変異、およびRNaseH活性欠失変異等が挙げられる。耐熱性を付与または向上するための変異としては、例えば、限定するものではないが、上記(1)~(8)に示されるアミノ酸置換が挙げられる。
【0070】
上記アミノ酸置換またはその他の変異の導入は、対応する核酸配列にPCR法を用いて変異導入する方法、人工遺伝子で全核酸を合成する方法などの既知の方法により行えばよい。例えば、上記5.で記載したように、本発明の逆転写酵素変異体をコードする核酸を製造し、適当な発現ベクターを用いて宿主細胞中で該逆転写酵素変異体を発現させ、該細胞培養物から該逆転写酵素変異体を取得してもよい。
【0071】
本発明の逆転写酵素変異体の製造方法および本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法によれば、例えば40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、または60℃以上の温度条件下でも使用できる逆転写酵素を得ることができる。また、本発明の逆転写酵素変異体の製造方法および本発明の逆転写酵素の耐熱性の向上方法は、逆転写酵素の特性、例えば、RNA結合活性、cDNA伸長活性、cDNA伸長速度に対して影響を与えることなく、耐熱性を向上させることができる。
【0072】
7.本発明の逆転写酵素変異体を用いたcDNAの合成方法
本発明の逆転写酵素変異体は、RNAに相補的なDNAを合成する工程を包含する、cDNAの合成に使用することができる。本発明の逆転写酵素変異体は、耐熱性を有するので、野生型MMLV逆転写酵素より高温で逆転写反応を行うことができる。さらに、本発明の逆転写酵素変異体は、従来の耐熱性逆転写酵素よりも向上した耐熱性を有するので、従来の耐熱性逆転写酵素と比較してさらに高温条件下で逆転写反応を行うことができる。従って、これまで既存の耐熱性逆転写酵素を用いて40℃、45℃、50℃、または55℃でcDNAを合成していたのに対し、本発明の逆転写酵素変異体を用いれば、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、または70℃以上という、これまでに想定されていなかった高温条件下にて逆転写反応を行うことが可能である。これにより、今までの温度条件ではなし得なかったmRNAの高次構造破壊を達成することができ、その結果としてmRNA全長のcDNA合成が容易となる。
【0073】
前記cDNAの合成方法を実施する際には、通常、二価金属塩、dNTPs、pH維持のための緩衝成分(緩衝液)、還元剤などを含む反応液が調製される。前記二価金属塩を構成する二価金属イオンとしては、特に限定するものではないが、マンガンイオン、マグネシウムイオン、コバルトイオンが例示される。逆転写酵素に適する二価金属イオンとその濃度は、当該分野で知られている。二価金属イオンは塩化物、硫酸塩、または酢酸塩等の塩の形態で供給され得る。本発明を特に限定するものではないが、本発明の組成物中の二価金属イオンの濃度としては、例えば0.5~20mMが好ましく例示される。前記dNTPとしては、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP、もしくはそれらの誘導体の少なくとも1種が使用される。好適にはdATP、dCTP、dGTP、およびdTTPの4種類の混合物が使用される。
【0074】
pH維持のための緩衝成分としては、当該分野で知られている弱酸とその共役塩基や弱塩基とその共役酸を混合したものが使用できる。特に限定するものではないが、トリス(Tris)緩衝液、へぺス(HEPES)緩衝液、酢酸緩衝液あるいはリン酸緩衝液が例示される。例えば、逆転写酵素に適する緩衝成分とその濃度は、当該分野で知られている。還元剤としては、特に限定するものではないが、DTT(dithiothreitol)、2-mercaptoethanolが例示される。逆転写酵素に適する還元剤とその濃度は、当該分野で知られている。
【0075】
プライマーを使用してcDNA合成を実施する場合、例えばrandom 6 mers、Oligo dT primer、および遺伝子特異的プライマーがプライマーとして使用できる。当該プライマーの鎖長は、ハイブリダイゼーションの特異性の観点から、好ましくは6ヌクレオチド以上であり、更に好ましくは10ヌクレオチド以上であり、オリゴヌクレオチドの合成の観点から、好ましくは100ヌクレオチド以下であり、更に好ましくは30ヌクレオチド以下である。なお、非特異的なcDNA合成を目的としたランダムプライマーとしては鎖長6~8ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドの混合物を使用してもよい。前記オリゴヌクレオチドは、例えば公知の方法により化学的に合成することができる。また、生物試料由来のオリゴヌクレオチドであっても良く、例えば天然の試料より調製したDNAの制限エンドヌクレアーゼ消化物から単離して作製しても良い。
【0076】
上記方法にて得られたcDNAを鋳型とし、さらにcDNAを増幅してもよい。DNA増幅反応としてはPCR法や種々の等温増幅法が例示される。核酸増幅法は上記cDNAの合成方法にて得られたcDNAを鋳型とした相補鎖合成反応により実施されることから、例えば、上記反応液にさらにDNAポリメラーゼを添加して実施することが可能である。当該DNAポリメラーゼとしては、耐熱性DNAポリメラーゼが好ましい。
【0077】
このように本発明の逆転写酵素変異体は、優れた耐熱性を有していることから、複雑な二次構造を形成するRNAを鋳型とした逆転写反応によるcDNA合成やRT-PCRなどに有用である。
【0078】
8.本発明の組成物またはキット
本発明の組成物は、逆転写反応用組成物である。本発明の組成物は、本発明の逆転写酵素変異体に加え、逆転写反応に必要な成分、例えば、二価金属塩、dNTPs、緩衝成分、還元剤、滅菌水等を含有する。本発明の組成物は、プライマーをさらに含んでいてもよい。本発明のキットは、逆転写反応用キットである。本発明のキットとしては、本発明の逆転写酵素変異体、二価金属塩、dNTP、緩衝成分、還元剤などを含有し、使用時にこれらを混合して逆転写反応液を調製するためのキット、前記の本発明の組成物を含有し、使用時に鋳型DNAと水(滅菌水等)を添加するのみで使用可能なキット、さらに前記の本発明の組成物が乾燥状態で含有されたキット、等が例示される。特定のRNAの検出を目的とした、標的RNAに特異的なプライマーや陽性コントロール用のRNAを含有するキットも本発明に包含される。なお、上記二価金属塩、dNTPs、緩衝成分、および還元剤は、上記7.で説明したとおりである。
【0079】
さらに本発明のキットは、二本鎖核酸合成に必要な成分、例えば、耐熱性DNAポリメラーゼ等、ならびに増幅された二本鎖核酸の検出に必要な成分、例えば、インターカレーターや蛍光標識プローブ等を含有していてもよい。インターカレーターとしてはSYBR(登録商標) Green Iやその他の核酸結合性色素が、蛍光標識プローブとしては、TaqMan(登録商標)プローブ、Cycleave(登録商標)プローブあるいはモレキュラービーコンプローブ等が、それぞれ挙げられる。該キットは、二本鎖核酸合成用のプライマーセットをさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0080】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0081】
実験方法1
(1)逆転写酵素変異体の調製A
Molony Murine Leukemia Virus由来の野生型逆転写酵素をコードする遺伝子の塩基配列は、Genbank Acc. No. AF033811.1に開示されている。本明細書では、その塩基配列をもとに特定の部位に変異を導入した人工遺伝子を常法により調製した。得られた人工遺伝子は、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(タカラバイオUSA社製)を用いて、プラスミドpET6xHN-C(タカラバイオUSA社製)に導入した。得られたプラスミドは、C末端側にヒスチジンタグが付加された逆転写酵素変異体をコードする塩基配列を有している。
【0082】
次に、当該プラスミドで大腸菌BL21 DE3株(タカラバイオ社製)を形質転換し、100μg/ml濃度のアンピシリンを含む1.5%アガロースLBプレート上で37℃で終夜培養を行った。このプレートから3つのシングルコロニーを選択して100μg/ml濃度のアンピシリンを含むLB培地(以下LB-AP培地と称する)に植菌し、37℃で終夜振とう培養を行った。さらに前記培養液300μlをLB-AP培地6mlに接種し、37℃で終夜振とう培養した。OD600値が0.6になった時に、培養液に終濃度1mMのIPTGを加えてさらに25℃で4時間誘導培養を行った。その後OD600値が4になった時に菌体を採取した。
【0083】
上記で得られた菌体を400μlの50mM Tris・HCl pH7.5、300mM NaCl、5%グリセロール及び0.15%トライトンX-100を含む溶液(以下、Buffer Sと称する)に懸濁し、4℃で超音波破砕装置(Sonic&Materials社製)を使用した30秒間の超音波処理を3回繰り返す操作を実施した。この操作により懸濁液は透明となった。超音波破砕後の懸濁液を4℃で11000×gで10分間遠心し、上清を回収した。こうして得た粗抽出液をNi樹脂精製に供した。
【0084】
Ni樹脂精製は、以下のようにして行った。即ち、50μlのNi-NTA Agarose(Qiagen社製)を1.5mlのチューブに入れ、250μlの滅菌蒸留水で2回洗浄したのちBuffer A(50mM Tris・HCl pH7.5、300mM NaCl、5%グリセロール及び5mM イミダゾール)250μlで2回平衡化した。平衡化したNi-NTA Agaroseを粗抽出液400μlに懸濁し、30分間静置させた。その後、4℃で12000回転10分間遠心した。上清を除去した後のNi-NTA Agaroseを100μlのBuffer Aで3回洗浄した。その後、100μlのBuffer B(50mM Tris・HCl pH7.5、300mM NaCl、5%グリセロール及び300mM イミダゾール)でNi-NTA Agaroseから吸着物を溶出させた。得られた溶出液を逆転写酵素変異体溶液として、以下の試験に使用した。
【0085】
(2)逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験A
上記(1)で得られた逆転写酵素変異体について、以下の方法で耐熱性を試験した。即ち、当該逆転写酵素変異体溶液について、最終濃度が0.25%のウシ血清アルブミン(宝生物工程社製)を含む希釈Buffer(50mM Tris・HCl pH8.3、2mM DTT、0.1%NP-40及び10%グリセロール)で2倍希釈した。当該希釈液を未加熱処理、あるいは44℃又は50℃で15分間の加熱処理に供した。その後、未加熱処理、あるいは熱処理後の希釈液を前記希釈Bufferでさらに5倍希釈したのち、逆転写酵素活性を測定した。
【0086】
測定は以下のようにして行った。即ち、0.01μg/μl濃度のポリ(リボアデニンヌクレオチド)、0.1ng/μl濃度のオリゴ(dT)12-18、85mM 塩化カリウム、8mM塩化マグネシウム、50mM Tris・HCl pH8.3、10mM DTT、0.1%NP-40を含む反応液35μlに上記未加熱処理、あるいは熱処理後の希釈液5μlを添加し、37℃で5分間加温した。次に、反応液に2.5mM dTTPを10μl添加し、37℃ 10分間反応させた。反応停止は、100mM EDTA溶液5μlを添加して行った。反応停止後の溶液から5μlを96穴プレートに分取した。このプレートのそれぞれのウェルに1×SYBR GreenI(サーモサイエンティフィック社製)を150μlずつ分注し、プレートミキサー(タイテック社製)を用いて混合させた。その後、プレートをプレート遠心機(アレグラ社製)を用いて1000rpmで1分間の条件で遠心した。遠心後、プレートをTECAN infinite 200pro(テカン社製)にセットし、励起波長485nm、検出波長520nmの条件で各ウェルの蛍光量を測定することで逆転写酵素活性測定を行った。
【0087】
実験方法2
(1)逆転写酵素変異体の調製B
菌体処理方法を超音波処理からリゾチームによる溶菌処理へ変更した点を除き、実験方法1(1)と同じ調製方法で、逆転写酵素変異体を調製した。
【0088】
(2)逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験B
上記(1)で得られた逆転写酵素変異体について、耐熱性を試験した。なお、加熱処理温度を55℃、60℃、65℃、および70℃へ変更した点を除き、実験方法1(2)と同じ試験方法である。
【0089】
実施例1:逆転写酵素変異体の調製1
(1)MMLV逆転写酵素変異体O1~O3およびP12、P13の調製(T55G、T55A、T55S、T55D、T55K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位にスレオニンからグリシンへの置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1と命名した。また、55位のスレオニンをアラニンに置き換えた逆転写酵素変異体、55位のスレオニンをセリンに置き換えた逆転写酵素変異体をそれぞれO2及びO3と命名した。さらに、55位のスレオニンをアスパラギン酸に置き換えた逆転写酵素変異体、55位のスレオニンをリシンに置き換えた逆転写酵素変異体をそれぞれP12及びP13と命名した。これらのタンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号21~26に示す。
【0090】
(2)MMLV逆転写酵素変異体C3の調製(T55G+A54P)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシンに置き換え、同時に54位のアラニンをプロリンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位と55位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号4及び14に示す。
【0091】
(3)MMLV逆転写酵素変異体D1の調製(T287K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、287位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該287位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をD1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号27および33に示す。
【0092】
(4)MMLV逆転写酵素変異体O1+D1の調製(T55G+T287K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン及び287位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位及び287位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+D1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号5および15に示す。
【0093】
(5)MMLV逆転写酵素変異体C3+D1の調製(T55G+A54P+T287K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン、54位のアラニンをプロリン及び287位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位、54位及び287位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+D1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号39および45に示す。
【0094】
(6)MMLV逆転写酵素変異体LTの調製(H204R+M289L+T306K+F309N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、204位のヒスチジンをアルギニン、289位のメチオニンをロイシン、306位のスレオニンをリシン、さらに309位のフェニルアラニンをアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該204位、289位、306位及び309位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をLTと命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号32および38に示す。
【0095】
(7)MMLV逆転写酵素変異体O1+LTの調製(T55G+H204R+M289L+T306K+F309N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン、204位のヒスチジンをアルギニン、289位のメチオニンをロイシン、306位のスレオニンをリシン、さらに309位のフェニルアラニンをアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位、204位、289位、306位及び309位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+LTと命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号10および20に示す。
【0096】
(8)MMLV逆転写酵素変異体C3+LTの調製(T55G+A54P+H204R+M289L+T306K+F309N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン、204位のヒスチジンをアルギニン、289位のメチオニンをロイシン、306位のスレオニンをリシン、さらに309位のフェニルアラニンをアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位、204位、289位、306位及び309位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+LTと命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号44および50に示す。
【0097】
(9)MMLV逆転写酵素変異体K1の調製(Q291K)
MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、291位のグルタミンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該291位に変異を有する逆転写酵素変異体をK1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列表の配列番号28および34に示す。
【0098】
(10)MMLV逆転写酵素変異体O1+K1の調製(T55G+Q291K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン及び291位のグルタミンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位及び291位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+K1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号6および16に示す。
【0099】
(11)MMLV逆転写酵素変異体C3+K1の調製(T55G+A54P+Q291K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン及び291位のグルタミンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位及び291位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+K1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号40および46に示す。
【0100】
(12)MMLV逆転写酵素変異体K2の調製(D524N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、524位のアスパラギン酸をアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をK2と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号31および37に示す。
【0101】
(13)MMLV逆転写酵素変異体O1+K2の調製(T55G+D524N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン及び524位のアスパラギン酸をアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位及び524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+K2と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号9および19に示す。
【0102】
(14)MMLV逆転写酵素変異体C3+K2の調製(T55G+A54P+D524N)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン及び524位のアスパラギン酸をアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位及び524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+K2と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号43および49に示す。
【0103】
(15)MMLV逆転写酵素変異体K3の調製(D524A)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、524位のアスパラギン酸をアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をK3と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号30および36に示す。
【0104】
(16)MMLV逆転写酵素変異体O1+K3の調製(T55G+D524A)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン及び524位のアスパラギン酸をアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位及び524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+K3と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号8および18に示す。
【0105】
(17)MMLV逆転写酵素変異体C3+K3の調製(T55G+A54P+D524A)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン及び524位のアスパラギン酸をアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位及び524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+K3と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号42および48に示す。
【0106】
(18)MMLV逆転写酵素変異体K4の調製(T306K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、306位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該306位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をK4と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号29および35に示す。
【0107】
(19)MMLV逆転写酵素変異体O1+K4の調製(T55G+T306K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン及び306位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位及び306位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+K4と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号7および17に示す。
【0108】
(20)MMLV逆転写酵素変異体C3+K4の調製(T55G+A54P+T306K)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン及び306位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位及び306位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+K4と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号41および47に示す。
【0109】
(21)MMLV逆転写酵素変異体C5の調製(D209P+I212A)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、209位のアスパラギン酸をプロリン及び212位のイソロイシンをアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該209位及び212位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC5と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号51および53に示す。
【0110】
(22)MMLV逆転写酵素変異体C3+C5の調製(T55G+A54P+D209P+I212A)
実験方法1(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、54位のアラニンをプロリン、55位のスレオニンをグリシン、209位のアスパラギン酸をプロリン及び212位のイソロイシンをアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法1(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該54位、55位、209位及び212位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をC3+C5と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号52および54に示す。
【0111】
実施例2:逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験1
実施例1(1)で調製した逆転写酵素変異体及び野生型逆転写酵素について、実験方法1(2)にしたがって耐熱性評価試験を行った。その結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1に示したように、特に変異体O1、P12またはC3の変異体は、野生型のアミノ酸配列を有する逆転写酵素と比較して、44℃および50℃15分の加熱処理のいずれでも残存活性が1.3~4.7倍と向上していることが確認できた。変異体O3及びP13は、44℃15分の加熱処理で、野生型逆転写酵素よりも1.1~1.3倍高い残存活性を有した。
【0114】
実施例3:逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験2
本発明のアミノ酸置換と耐熱性に関与していると報告されている既知の変異、あるいは本研究で初めて耐熱性への関与が確認できた変異との組み合わせについて検討した。即ち、実施例1(3)と(5)、(6)と(8)、(9)と(11)、(12)と(14)、(15)と(17)、(18)と(20)、(21)と(22)で調製した逆転写酵素変異体について、実験方法1(2)にしたがって耐熱性評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0115】
【0116】
表2に示したように、耐熱性に関与していると報告されている変異D1、LT、K2、K3、K4と、本発明のC3アミノ酸置換を組み合わせることにより、いずれの変異の組み合わせでも44℃あるいは50℃15分の加熱処理における残存活性が1.3~11.7倍と向上していることが確認できた。また、本願で初めて耐熱性に関与していることが確認できた変異K1と本発明のC3アミノ酸置換を組み合わせについて検討したところ、前記変異の組み合わせでも44℃あるいは50℃15分の加熱処理における残存活性が1.4~12.8倍と向上していることが確認できた。さらに変異C5とC3アミノ酸置換を組み合わせた場合も同様の結果が得られた。このことから、本発明は、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の耐熱性をさらに向上させることができることを確認した。
【0117】
実施例4:逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験3
本発明のアミノ酸置換と耐熱性に関与していると報告されている既知の変異、あるいは本研究で初めて耐熱性との関与が確認できた変異との組み合わせについてさらに検討した。即ち、実施例1(9)と(10)、(15)と(16)並びに(18)と(19)で調製した逆転写酵素変異体について、実験方法1(2)にしたがって耐熱性評価試験を行った。
【0118】
その結果、耐熱性に関与していると報告されている変異K3、K4と、本発明のO1アミノ酸置換を組み合わせることにより、K3とO1+K3の比較で4.2倍、K4とO1+K4の比較で4.8倍といずれの変異の組み合わせでも50℃15分の加熱処理における残存活性が向上していることが確認できた。また、本願で初めて耐熱性に関与していることが確認できた変異K1と本発明のO1アミノ酸置換を組み合わせについても、K1とO1+K1の比較で50℃15分の加熱処理における残存活性が4倍向上していることが確認できた。以上のことから、本発明のO1アミノ酸置換も、実施例3のC3アミノ酸置換と同様に、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の耐熱性をさらに向上させることができることを確認した。さらに本発明のO1アミノ酸置換は、D1、LT、K2並びにC5変異との組み合わせでも耐熱性をさらに向上させることができる。
【0119】
実施例5:逆転写酵素変異体の調製2
(1)MMLV逆転写酵素変異体P12+D1の調製(T55D+T287K)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸および287位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位および287位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+D1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号55および63に示す。
【0120】
(2)MMLV逆転写酵素変異体P12+LTの調製(T55D+H204R+M289L+T306K+F309N)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸、204位のヒスチジンをアルギニン、289位のメチオニンをロイシン、306位のスレオニンをリシン、さらに309位のフェニルアラニンをアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位、204位、289位、306位、および309位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+LTと命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号56および64に示す。
【0121】
(3)MMLV逆転写酵素変異体P12+K1の調製(T55D+Q291K)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸および291位のグルタミンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位および291位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+K1と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号57および65に示す。
【0122】
(4)MMLV逆転写酵素変異体P12+K2の調製(T55D+D524N)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸および524位のアスパラギン酸をアスパラギンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位および524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+K2と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号58および66に示す。
【0123】
(5)MMLV逆転写酵素変異体P12+K3の調製(T55D+D524A)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸および524位のアスパラギン酸をアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位および524位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+K3と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号59および67に示す。
【0124】
(6)MMLV逆転写酵素変異体P12+K4の調製(T55D+T306K)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸および306位のスレオニンをリシンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位および306位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+K4と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号60および68に示す。
【0125】
(7)MMLV逆転写酵素変異体O1+C5の調製(T55G+D209P+I212A)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをグリシン、209位のアスパラギン酸をプロリンおよび212位のイソロイシンをアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位、209位および212位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をO1+C5と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号61および69に示す。
【0126】
(8)MMLV逆転写酵素変異体P12+C5の調製(T55D+D209P+I212A)
実験方法2(1)にしたがって、MMLV逆転写酵素の野生型アミノ酸配列において、55位のスレオニンをアスパラギン酸、209位のアスパラギン酸をプロリンおよび212位のイソロイシンをアラニンに置き換えた変異体タンパク質をコードする人工遺伝子を調製した。得られた人工遺伝子は、実験方法2(1)にしたがってタンパク発現ならびに精製を行った。本明細書において、当該55位、209位および212位の置換変異を有する逆転写酵素変異体をP12+C5と命名した。当該タンパク質のアミノ酸配列及び核酸配列を配列番号62および70に示す。
【0127】
実施例6:逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験4
本発明のアミノ酸置換と、耐熱性に関与していると報告されている既知の変異あるいは本研究で初めて耐熱性への関与が確認できた変異との組み合わせについて検討した。すなわち、実施例1(3)、実施例1(4)と実施例5(1);実施例1(6)、実施例1(7)と実施例5(2);実施例1(9)、実施例1(10)と実施例5(3);実施例1(12)、実施例1(13)と実施例5(4);実施例1(15)、実施例1(16)と実施例5(5);実施例1(18)、実施例1(19)と実施例5(6);実施例1(21)と実施例5(7)、実施例1(22)と実施例5(8)で調製した逆転写酵素変異体について、実験方法2(2)にしたがって耐熱性評価試験を行った。その結果を表3および表4に示す。
【0128】
【0129】
表3に示したように、耐熱性に関与していると報告されている変異D1、LT、K2、K3、K4と、本発明のO1、P12アミノ酸置換を組み合わせることにより、いずれの変異の組み合わせでも55℃15分の加熱処理における残存活性が1.3~7.1倍と大幅に向上していることが確認できた。
また、本願で初めて耐熱性に関与していることが確認できた変異K1と本発明のO1、P12アミノ酸置換を組み合わせについて検討したところ、前記変異の組み合わせでも55℃15分の加熱処理における残存活性が3.0~8.4倍と大幅に向上していることが確認できた。
以上のことから、本発明は、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の耐熱性をさらに向上させることができることを確認した。
【0130】
【0131】
表4に示したように、本願で初めて耐熱性に関与していることが確認できた変異C5と、本発明のO1、P12アミノ酸置換を組み合わせることにより、いずれの変異の組み合わせでも55℃15分の加熱処理における残存活性が2.0~9.0倍と大幅に向上していることが確認できた。また、変異C5とC3アミノ酸置換を組み合わせた場合も同様の結果が得られた。
以上のことから、本発明は、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の耐熱性をさらに向上させることができることを確認した。
【0132】
実施例7:逆転写酵素変異体の耐熱性評価試験5
本発明のアミノ酸置換と、耐熱性に関与していると報告されている既知の変異あるいは本研究で初めて耐熱性への関与が確認できた変異との組み合わせについて検討した。すなわち、実施例1(7)と実施例5(2)で調製した逆転写酵素変異体について、実験方法2(2)にしたがって耐熱性評価試験を行った。
【0133】
その結果、耐熱性に関与していると報告されている変異LTと、本発明のO1+LTの比較で、60℃15分加熱処理において6.7倍、65℃15分加熱処理において1.9倍、70℃15分加熱処理において1.9倍とさらに高温の加熱処理においても残存活性が向上していることが確認できた。また、LTと、本発明のP12+LTの比較で、60℃15分加熱処理において2.4倍、65℃15分加熱処理において1.9倍、70℃15分加熱処理において1.9倍とさらに高温の加熱処理においても残存活性が向上していることが確認できた。
以上のことから、本発明は、耐熱性の向上した逆転写酵素変異体の耐熱性をさらに向上させることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明により耐熱性逆転写酵素変異体を提供することができ、当該逆転写酵素変異体を用いることにより、これまで逆転写酵素反応が困難であった強固な二次構造を有するRNAを鋳型としたcDNA合成が可能になった。当該耐熱性逆転写酵素変異体は、遺伝子工学、生物学、医学、農業等幅広い分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0135】
SEQ ID NO: 1: Molony Murine Leukemia Virus reverse transcriptase amino acid sequence
SEQ ID NO: 2: Reverse transcriptase mutant O1(T55G) amino acid sequence
SEQ ID NO: 3: Reverse transcriptase mutant P12(T55D) amino acid sequence
SEQ ID NO: 4: Reverse transcriptase mutant C3(T55G+A54P) amino acid sequence
SEQ ID NO: 5: Reverse transcriptase mutant O1+D1(T55G+T287K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 6: Reverse transcriptase mutant O1+K1(T55G+Q291K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 7: Reverse transcriptase mutant O1+K4 (T55G+T306K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 8: Reverse transcriptase mutant O1+K3 (T55G+D524A) amino acid sequence
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SEQ ID NO: 11: Molony Murine Leukemia Virus reverse transcriptase nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 12: Reverse transcriptase mutant O1(T55G) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 13: Reverse transcriptase mutant P12(T55D) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 14: Reverse transcriptase mutant C3(T55G+A54P) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 15: Reverse transcriptase mutant O1+D1(T55G+T287K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 16: Reverse transcriptase mutant O1+K1(T55G+Q291K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 17: Reverse transcriptase mutant O1+K4 (T55G+T306K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 18: Reverse transcriptase mutant O1+K3 (T55G+D524A) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 19: Reverse transcriptase mutant O1+K2 (T55G+D524N) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 20: Reverse transcriptase mutant O1+LT (T55G+H204R+M289L+T306K+F309N) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 21: Reverse transcriptase mutant O2(T55A) amino acid sequence
SEQ ID NO: 22: Reverse transcriptase mutant O3(T55S) amino acid sequence
SEQ ID NO: 23: Reverse transcriptase mutant P13(T55K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 24: Reverse transcriptase mutant O2(T55A) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 25: Reverse transcriptase mutant O3(T55S) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 26: Reverse transcriptase mutant P13(T55K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 27: Reverse transcriptase mutant D1(T287K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 28: Reverse transcriptase mutant K1(Q291K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 29: Reverse transcriptase mutant K4(T306K) amino acid sequence
SEQ ID NO: 30: Reverse transcriptase mutant K3(D524A) amino acid sequence
SEQ ID NO: 31: Reverse transcriptase mutant K2(D524N) amino acid sequence
SEQ ID NO: 32: Reverse transcriptase mutant LT(H204R+M289L+T306K+F309N) amino acid sequence
SEQ ID NO: 33: Reverse transcriptase mutant D1(T287K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 34: Reverse transcriptase mutant K1(Q291K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 35: Reverse transcriptase mutant K4(T306K) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 36: Reverse transcriptase mutant K3(D524A) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 37: Reverse transcriptase mutant K2(D524N) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 38: Reverse transcriptase mutant LT(H204R+M289L+T306K+F309N) nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 39: Reverse transcriptase mutant C3+D1 amino acid sequence
SEQ ID NO: 40: Reverse transcriptase mutant C3+K1 amino acid sequence
SEQ ID NO: 41: Reverse transcriptase mutant C3+K4 amino acid sequence
SEQ ID NO: 42: Reverse transcriptase mutant C3+K3 amino acid sequence
SEQ ID NO: 43: Reverse transcriptase mutant C3+K2 amino acid sequence
SEQ ID NO: 44: Reverse transcriptase mutant C3+LT amino acid sequence
SEQ ID NO: 45: Reverse transcriptase mutant C3+D1 nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 46: Reverse transcriptase mutant C3+K1 nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 47: Reverse transcriptase mutant C3+K4 nucleic acid sequence
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SEQ ID NO: 51: Reverse transcriptase mutant C5(D209P+I212A) amino acid sequence
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SEQ ID NO: 53: Reverse transcriptase mutant C5 nucleic acid sequence
SEQ ID NO: 54: Reverse transcriptase mutant C3+C5 nucleic acid sequence
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SEQ ID NO: 70: Reverse transcriptase mutant P12+C5 nucleic acid sequence
【配列表】