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  • 特許-遮熱コーティング用材料及び物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】遮熱コーティング用材料及び物品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20220420BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20220420BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20220420BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220420BHJP
   F02C 7/24 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C04B35/495
C23C4/11
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F02C7/24 A
F01D25/00 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019159854
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2020075847
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2018164967
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松平 恒昭
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】川島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】横江 大作
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー・クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】土生 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】永尾 美佳子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義康
(72)【発明者】
【氏名】大井手 雄平
(72)【発明者】
【氏名】高木 海人
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-234553(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076176(WO,A1)
【文献】特開2014-125656(JP,A)
【文献】特開2015-089968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107285768(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
C04B 41/87
C23C 4/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物である化合物Xを含み、
前記化合物Xの単位格子は、それぞれが6つの酸素原子で構成され、かつ1つの酸素原子を共有する2つの八面体が並んだ構造を有しており、
前記化合物Xにおいて、隣接する単位格子にそれぞれ属し、かつ隣り合う2つの八面体のそれぞれの中心軸は、互いに傾いており、
前記隣接する単位格子にそれぞれ属し、かつ隣り合う2つの八面体は、複数並ぶことで、異なる傾きを持つ八面体が交互に並ぶ周期的な構造を構成し、
前記化合物Xは、その結晶構造中に前記周期的な構造の周期性が変化する境界面を有し、
前記化合物Xは、下記一般式(1)で表され、
(M 1-x 1-y-z (Ta 1-y 9+δ ・・・(1)
前記一般式(1)は、下記(a)~(c)のいずれか1つの要件を満たす遮熱コーティング用材料。
(a)一般式(1)中、MはY原子であり、Aは全ての希土類元素から選ばれた1種の原子であり、DはHf又はZrであり、x、y及びzはそれぞれx=0、0<y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。
(b)一般式(1)中、MはYb原子であり、Aは全ての希土類元素から選ばれた1種の原子であり、DはHf又はZrであり、x、y及びzはそれぞれ0<x≦0.4、y=0及びz=0を充足し、δは電気的中性を満足する値である。
(c)一般式(1)中、MはSmよりイオン半径の小さい希土類元素から選ばれたY及びYb以外の1種の原子であり、Aは全ての希土類元素から選ばれた1種の原子であり、DはHf又はZrであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.4、0≦y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。但し、x、y及びzの全てが0の場合を除く。
【請求項2】
前記化合物Xの結晶系は、正方晶系である請求項1に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項3】
前記化合物Xの結晶構造中には複数の前記境界面が存在し、当該複数の境界面によって囲まれる領域の一辺の長さが1~10nmである請求項1又は2に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項4】
前記単位格子に含まれる2つの八面体の中心軸は、それぞれ異なる方向に傾いている請求項1~3のいずれかに記載の遮熱コーティング材料。
【請求項5】
前記周期的な構造は、前記単位格子の2つの八面体が並ぶ方向から見たときに、縦2つ横2つに並んだ計4つの八面体を構成単位として一つのユニットを構成している
請求項1~4のいずれかに記載の遮熱コーティング材料。
【請求項6】
前記化合物Xの結晶構造中には、前記単位格子の2つの八面体が並ぶ方向から見たときに前記境界面を境に隣接する2つのユニットに着目したとき、各ユニットのそれぞれに含まれる4つの八面体は、互いの中心軸が、それぞれ線対称の関係になるように傾いている
請求項5に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項7】
前記(C)の要件は、更に、DがHfであり、yが0<y≦0.2である請求項1~6のいずれかに記載の遮熱コーティング用材料。
【請求項8】
基体と、前記基体に積層された請求項1~7のいずれかに記載の遮熱コーティング用材料を含む皮膜とを備える物品。
【請求項9】
ガスタービン部品又はジェットエンジン部品である請求項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱コーティング用材料、及び、この遮熱コーティング用材料を用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用ガスタービン、航空機用ジェットエンジン等においては、その燃焼ガスが高温であるために、動翼、静翼、燃焼器等の高温部品の表面に遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)といわれる皮膜が設けられている。そして、遮熱コーティングによって、耐食性、耐酸化性、耐熱性等の要求特性を満たしている。
これまで、この遮熱コーティングの形成は、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含む遮熱コーティング用材料を使用して行われていた。また、より耐熱性に優れた遮熱コーティングの開発も行われてきた。
【0003】
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含む材料よりも低い熱伝導率を与える材料として、例えば、特許文献1には、LaTaやYTaなどの下記一般式(A)で表される化合物を含む遮熱コーティング用材料が提案されている。
・・・(A)
(式中、Mは、希土類元素から選ばれた1種の原子であり、Mは、タンタル原子又はニオブ原子である。)
また、例えば、特許文献2には、Y0.80La0.20TaやY0.70La0.30Taなどの下記一般式(B)で表される化合物、及びY1.08Ta2.76Zr0.24などの下記一般式(C)で表される化合物を含む遮熱コーティング用材料が提案されている。
1-xLaTa・・・(B)
(式中、xは、0.15~0.50である。)
1+yTa3-3yZr3y・・・(C)
(式中、yは、0.05~0.10である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-125656号公報
【文献】特開2014-234553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2に記載された上記一般式(A)~(C)で表される化合物は、YSZに比べて熱伝導率が低く、遮熱コーティングとして使用するのに適していると考えられる。
一方、上記一般式(A)~(C)で表される化合物を遮熱コーティングとして使用した場合、化合物によっては、構造安定性に劣り、高温下やヒートサイクル条件下で遮熱コーティングに破損や剥離が発生する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況のもと、本発明者らは、遮熱コーティング用材料について更なる探索を重ね、熱伝導率が低く、構造安定性に優れた遮熱コーティング用材料を新たに見出し、本発明を完成した。
【0007】
(1)本発明の遮熱コーティング用材料は、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物である化合物Xを含み、
上記化合物Xの単位格子は、それぞれが6つの酸素原子で構成され、かつ1つの酸素原子を共有する2つの八面体が並んだ構造を有しており、
上記化合物Xにおいて、隣接する単位格子にそれぞれ属し、かつ隣り合う2つの八面体のそれぞれの中心軸は、互いに傾いており、
上記隣接する単位格子にそれぞれ属し、かつ隣り合う2つの八面体は、複数並ぶことで、異なる傾きを持つ八面体が交互に並ぶ周期的な構造を構成し、
上記化合物Xは、その結晶構造中に上記周期的な構造の周期性が変化する境界面を有する。
【0008】
本発明の遮熱コーティング用材料によれば、低熱伝導性及び構造安定性に優れる遮熱コーティング(TBC)を形成することができる。
本発明において、遮熱コーティングが構造安定性に優れるとは、1000℃を超えるような高温領域で分解や破損が生じにくいこと、及び/又は、常温~高温領域(例えば、100℃~1300℃の範囲における昇温時及び/又は降温時に相変態(相転移)が発生しないこと、を意味する。
【0009】
(2)上記遮熱コーティング用材料において、上記化合物Xの結晶系は、正方晶系であることが好ましい。
(3)上記遮熱コーティング用材料において、上記化合物Xの結晶構造中には複数の上記境界面が存在し、当該複数の境界面によって囲まれる領域の一辺の長さが1~10nmであることが好ましい。
(4)上記遮熱コーティング用材料において、上記単位格子に含まれる2つの八面体の中心軸は、それぞれ異なる方向に傾いていることが好ましい。
これらの要件を充足する遮熱コーティング用材料は、低熱伝導性及び構造安定性に優れる遮熱コーティング(TBC)を形成するのにより適している。
なお、本発明において、上記化合物Xの結晶系は、X線回折測定の測定結果に基づいて決定する。
【0010】
(5)上記遮熱コーティング用材料において、上記周期的な構造は、上記単位格子の2つの八面体が並ぶ方向から見たときに、縦2つ横2つに並んだ計4つの八面体を構成単位として一つのユニットを構成していることが好ましい。
(6)上記(5)の遮熱コーティング用材料において、上記化合物Xの結晶構造中には、上記単位格子の2つの八面体が並ぶ方向から見たときに前記境界面を境に隣接する2つのユニットに着目したとき、各ユニットのそれぞれに含まれる4つの八面体は、互いの中心軸が、それぞれ線対称の関係になるように傾いていることが好ましい。
【0011】
(7)上記遮熱コーティング用材料において、上記化合物Xは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
(M1-x1-y-z(Ta1-y9+δ・・・(1)
(式中、MはSmよりイオン半径の小さい希土類元素から選ばれた1種の原子であり、Aは全ての希土類元素から選ばれた1種の原子であり、DはHf又はZrであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.4、0≦y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。但し、x、y及びzの全てが0の場合を除く。)
上記一般式(1)で表される化合物Xを含む遮熱コーティング用材料は、低熱伝導性及び構造安定性に優れる遮熱コーティング(TBC)を形成するのに特に適している。
【0012】
(8)上記遮熱コーティング用材料において、上記一般式(1)で表される化合物は、MがYであり、x=0であり、0<y≦0.2であり、0≦z≦0.2であることが好ましい。
この場合、上記化合物は、下記一般式(2)で表すことができる。
1-y-z(Ta1-y9+δ・・・(2)
(式中、DはHf又はZrであり、y及びzはそれぞれ、0<y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。)
上記一般式(2)で表される化合物を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは、低熱伝導性及び構造安定性の両立により適している。特に、常温~高温領域における昇温時及び/又は降温時に相変態(相転移)が発生しにくい。そのため、昇温及び降温を繰り返すようなヒートサイクル条件下で使用しても、相変態に起因する変形や破損が発生しにくい。
【0013】
(9)上記遮熱コーティング用材料において、上記一般式(1)で表される化合物は、MがYbであり、0<x≦0.4であり、y=0であり、z=0であることも好ましい。
この場合、上記化合物は、下記一般式(3)で表すことができる。
(Yb1-x)Ta・・・(3)
(式中、xは、0<x≦0.4である。)
上記一般式(3)で表される化合物を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは、低熱伝導性及び構造安定性の両立により適している。特に、1000℃を超えるような高温領域で使用しても、遮熱コーティングの分解や破損が発生しにくい。そのため、耐久性に優れる。
【0014】
(10)本発明の物品は、基体と、上記基体に積層された上記遮熱コーティング用材料を含む皮膜とを備えることを特徴とする。
本発明の物品は、基体の表面に、直接又は中間層を介して上記遮熱コーティング用材料を用いて形成された皮膜(遮熱コーティング)が積層されている。
上記皮膜は、上述した通り、低熱伝導性及び構造安定性に優れる。
そのため、上記物品は、低熱伝導性、耐久性が求められる高温部品として好適に使用することができる。
【0015】
(11)上記物品は、ガスタービン部品又はジェットエンジン部品として好適に使用される。
上記化合物Xを含む遮熱コーティング用材料は、高温領域においても低熱伝導性に優れるため、上記物品は、少なくとも600℃の雰囲気に晒されるガスタービン部品や、ジェットエンジン部品として好適に使用される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の遮熱コーティング用材料は、化合物Xを含有しており、当該化合物Xを含み、低熱伝導性及び構造安定性に優れる遮熱コーティングの形成に好適に用いることができる。
本発明の物品は、上記遮熱コーティング用材料を含む皮膜を備えており、高温部品として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一般式:RTaで表される化合物の結晶構造を示す概略図である。
図2A】ドメイン構造を有する化合物の一例(実施例1の化合物)を透過型電子顕微鏡で観察して得た画像である。
図2B】ドメイン構造を有する化合物の一例(実施例1の化合物)を透過型電子顕微鏡で観察して取得した電子回折図形である。
図3】RTaで表される化合物において、TaO八面体が傾いた状態を説明するための図である。
図4】RTaで表される化合物において、TaO八面体が傾いた状態を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態に係る物品の一例を示す概略断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る物品の別の一例を示す概略断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る物品が備える遮熱コーティングの別の一例を示す概略断面図である。
図8A】実施例3の化合物を透過型電子顕微鏡で観察して得た画像である。
図8B】実施例3の化合物を透過型電子顕微鏡で観察して取得した電子回折図形である。
図9】実施例1~3及び比較例1、2で製造した焼成体の熱伝導率の測定結果である。
図10】実施例4で製造した遮熱コーティングの走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(遮熱コーティング用材料)
本発明の実施形態に係る遮熱コーティング用材料は、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物である化合物Xを含む。上記化合物Xは、例えば、図1に示すような構造を有する。
図1は、一般式:RTaで表される化合物の結晶構造を示す概略図である。
図1に示す構造は、2つのTaO八面体とR原子とを基本構成(単位格子)として有し、これが三次元的に並んだ結晶構造を有している。TaO八面体は、6つの酸素原子で構成された八面体と、八面体の中心に位置する1つのTaとで構成される。1つの単位格子に含まれる2つのTaO八面体は、1つの酸素を共有するようにして、図1のZ方向に並んで位置する。これら1つの単位格子に含まれる2つのTaO八面体の中心軸は、それぞれ異なる方向に傾いている。ここで、TaO八面体の中心軸とは、上記TaO八面体を構成する6つの頂点から選択された2つの頂点を結ぶ線分のうち、単位格子に含まれる2つのTaO八面体が並ぶ方向に沿った方向の線分をいう。TaO八面体は全ての面が三角形で構成されている。TaO八面体の形の例としては、正八面体及び双四角錐が挙げられるが、全ての面が三角形で構成されていればその他の八面体であってもよい。
また、ここでの説明では、図1に示す構造における所定の面をTaO面(単位断面にTa原子1個分とO原子2個分を含む面)、RO面(単位断面にR原子1個分とO原子1個分を含む面)とする。RO面ではRイオンが一部欠損している。RO面において、Rは一部がAに置換されていても良い。また、TaO面において、Taは一部がHf又はZrに置換されていても良い。
図1のRサイトには、例えば、希土類元素から選ばれた1種の原子Rと任意原子として他の希土類元素から選ばれた1種の原子Aとが入り、Taサイトには、例えば、Taと任意原子としてHf又はZrとが入る。
【0019】
従って、図1に示す構造で表される化合物Xは、例えば、一般式:RTa(Rは希土類元素から選ばれた1種の原子)において、Rの一部がR以外の他の希土類元素から選ばれた1種の原子に置換されていても良く、Taの一部がHf又はZrに置換されていても良い化合物である。
【0020】
上記化合物Xを含む遮熱コーティング用材料は、上述した通り低熱伝導性に優れる。
この理由については、上記化合物Xが、所定の構造(本発明では、ドメイン又はドメイン構造と称する)を備える化合物であるためと推測している。
上記ドメイン構造は、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物の一部で観察される構造であり、本発明者らによって新たに見出された特異的な構造である。
【0021】
上記ドメイン構造は、透過型電子顕微鏡や電子回折図形で観察される特徴的な構造である。
図2Aは、ドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物の一例(YbTa)を透過型電子顕微鏡で観察して取得した画像の1つである。
ドメイン構造を有する化合物の透過型電子顕微鏡による画像を取得した場合、図2Aに示すような1つの結晶中の画像において、明るさ(コントラスト)の異なる1辺の長さが10nm以下のサイズの2つの領域が周期的に並んだ構造が観察される。
本発明では、このような周期構造が観察される化合物をドメイン構造を有する化合物と称している。
図2Aに示した観察像は、ABF(環状明視野法:Annular Bright Field)を使用し、<001>晶帯軸入射条件で観察した透過型電子顕微鏡による画像である。
【0022】
また、上記ドメイン構造を有する化合物は、電子回折図形においても特徴的な画像が観察される。
図2Bは、ドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物の一例(YbTa)を透過型電子顕微鏡で観察して取得した電子回折図形の1つである。
ドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物の電子回折図形では、9つの基本回折斑点50に加え、その中の4つの基本回折斑点50からほぼ等距離にある位置に、4点の菱形状の斑点51が検出される。
これらの斑点51が基本回折斑点50の中間付近に位置していることから、ドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物の結晶構造は、単位格子よりも大きい周期性を有する、超格子が形成されていることが明らかである。
また、図2Bに示す例では、4点の菱形状の斑点51が見られたことから、結晶構造中において、互いに交差する境界面を介して4つのドメインが隣接して存在していることがわかる。
【0023】
上記ドメイン構造は、特定の結晶構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物において観察される構造であり、上記複合酸化物の結晶構造に起因するものと推測している。
これについて、図1、3、4を参考に、もう少し詳しく説明する。
化合物Xの結晶構造において、任意のTaO八面体の中心軸は、隣接する単位格子に属し、かつ隣り合うTaO八面体の中心軸に対して傾いている。加えて、当該隣り合う2つのTaO八面体の傾く方向は、図1のZ方向から見たときに90度又は180度の角度を成している。
図3、4は、それぞれTaO八面体が傾いた状態を説明するための図である。
図3は、化合物Xの結晶構造を<001>方向(z軸方向)から見た図であり、化合物Xの結晶構造に含まれるTaO八面体は、<001>方向に対してそれぞれ異なる方向に傾いている。
【0024】
図3では、A~Dからなる4つのドメインを図示している。ドメインA~Dのそれぞれは、縦2つ横2つ並んだ計4つの八面体を構成単位とする複数のユニットで構成されている。このようなユニットが複数並ぶことにより、異なる傾きを持つTaO八面体が交互に並ぶ周期的な構造が1つのドメイン内に構成される。一方、各ドメインの境界面(図中では境界線AB、境界線BC、境界線CD、境界線DA)を見ると、この境界面を境に、八面体が傾く向きの周期性が変化している。逆に言えば、複数並ぶTaO八面体の傾きの周期性が変化する境界がドメインの境界面に当たる。
ドメイン間で比較すると、隣接するドメインにそれぞれ属し、かつ境界面を境に隣り合う2つのユニットに含まれる4つのTaO八面体は、互いに対応する位置にあるTaO八面体同士が、ちょうど90度を成すように傾いている。例えば、ドメインAとドメインBに着目すると、ユニットaの左上に位置する八面体は、ユニットbの左上に位置する八面体に対して、中心軸の向きが90度ずれている。同様に、ユニットaの右上に位置する八面体とユニットbの右上に位置する八面体、ユニットaの左下に位置する八面体とユニットbの左下に位置する八面体、ユニットaの右下に位置する八面体とユニットbの右下に位置する八面体も、それぞれ中心軸の向きが90度ずれている関係にある。また、ユニットaに含まれる4つの八面体とユニットbに含まれる4つの八面体とは、境界線ABを境に、互いに中心軸の傾く方向が線対称の関係になるとも言える。この関係は、互いに隣接するドメイン間(すなわち、A-B間、B-C間、C-D間、D-A間)の全てに共通する。その結果、図3のように、十字を構成する4つの境界線(境界線AB、BC、CD、DA)に隣接する4つのユニットa~dは、その境界線の交差点を中心に時計回り(a→b→c→d)に見たときに、各々の中心軸の向きが90度ずつずれた4つのTaO八面体を含んでいることになり、360度で1周する関係が成立する。
そして、このように中心軸の向きが異なるTaO八面体を含むドメインを境界として、当該化合物の結晶構造を透過型電子顕微鏡で観察した際に明るさ(コントラスト)の異なる領域として現れる。
【0025】
図4は、図3に示した化合物Xの結晶構造をy軸方向からみた図であり、化合物Xの結晶構造内のTaO面を維持するために、隣接するTaO八面体の中心軸は、z軸方向に対して互いに逆向きに傾いている。
そして、TaO八面体の傾いた化合物Xの結晶構造において、当該TaO八面体の傾き度合いが、図4中に示すTa-O-Taのなす角θの分布のピーク値として、160°より小さい場合に、化合物Xの結晶構造は、ドメイン構造が観察されやすいと推測される。このようなドメイン構造は、TaO八面体を結晶の基本構造として有し、かつ希土類元素から選ばれた1種の原子を含むカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物に特異的に見られ、当該希土類元素のイオン半径が小さいものほど、その特徴は顕著に見られる。これは、含まれる希土類元素のイオン半径が小さいものほど、Ta-O-Taのなす角θの値が小さく、結晶構造内の歪みが大きいためである。
【0026】
加えて、原子Rとして含まれる希土類元素のイオン半径が小さく、かつ結晶系が正方晶系であるカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物は、特にドメイン構造が観察されやすい。結晶系が正方晶系であるということは、図4におけるTa-O-Taのなす角θが180度に近いか、あるいは、180度より小さい(より顕著には160度以下である)ものの、当該傾きによって生じる構造的な歪みを解消する別の構造的要因が存在することを意味している。本発明者らは、複数並ぶTaO八面体の傾きの周期性が変化する地点の存在が、このような構造的な歪みの解消に寄与していると考えている。実際に、本発明者らは、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物のうち、希土類の中でもイオン半径の大きなLaを含むLaTaは、正方晶系であるにもかかわらずドメイン構造が見られず、希土類の中でもイオン半径の小さなYbを含むYbTaは、正方晶系でありながらもドメイン構造が見られることを確認している。
【0027】
以上のように、本発明においては、RTaで表される化合物の結晶構造中でTaO八面体の傾く方向の周期性が変化する境界面を「ドメイン界面」と呼び、この境界面によって区切られる各領域のことを「ドメイン」という。
また、上記ドメインが複数並ぶことで、透過型電子顕微鏡観察において明るさの異なる周期構造として観察されるものを「ドメイン構造」という。
【0028】
このようなドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物が低熱伝導性に優れる理由は、1つの結晶中において複数存在するドメイン界面が、熱伝導を妨げる障壁になるためと考えている。また、形成されるドメインの大きさは、一辺の長さが1~10nmであるときにその効果が顕著に表れるものと考えられる。
【0029】
上記化合物Xは、ドメイン構造を有するカチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物であれば良く、典型的には、下記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)ともいう)で表される。
(M1-x1-y-z(Ta1-y9+δ・・・(1)
(式(1)中、MはSmよりイオン半径の小さい希土類元素から選ばれた1種の原子であり、Aは全ての希土類元素から選ばれた1種の原子であり、DはHf又はZrであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.4、0≦y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。但し、x、y及びzの全てが0の場合を除く。)
【0030】
上記一般式(1)において、Mで表されるSmよりイオン半径の小さい希土類元素としては、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。中でも、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)は、特にイオン半径が小さく、結晶構造内の歪みが生じやすい。
また、上記一般式(1)において、原子Aを表す希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。
ここで、原子Aは、原子Mと異なる希土類元素を選択する。
【0031】
上記化合物(1)を含む遮熱コーティング用材料の融点は、1700℃以上であることが好ましい。
上記遮熱コーティング用材料は、JIS R 1611に準じて、レーザーフラッシュ法により測定される熱伝導率(測定温度:100℃~1300℃)が、1.7W/(m・K)未満であることが好ましい。
【0032】
本発明の遮熱コーティング用材料は、上述した特性(融点、熱伝導率)を損なうことが無い範囲で他の成分を含んでいても良い。
上記遮熱コーティング用材料は、上記化合物(1)を主成分とする。ここで「主成分」とは、全成分の中で最も含有比が高く、かつ全成分に対して40モル%以上含まれる成分をいう。上記主成分は、全成分の中で80モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。
【0033】
上記化合物(1)を製造する方法は、Smよりイオン半径の小さい希土類元素Mを含む化合物(以下、「化合物(m1)」という。)と、上記M以外の希土類元素Aを含む化合物(以下、「化合物(m2)」という。)と、Taを含む化合物(以下、「化合物(m3)」という。)と、Hf又はZrを含む化合物(以下、「化合物(m4)」という。)とを、各原子のモル比が所定の割合(0も含む)となるように配合し、これを熱処理する方法が一般的である。更に、より均質な上記化合物(1)を得るために、例えば、尿素を含む混合物とした後、これを熱処理する方法もある。
【0034】
上記化合物(m1)、化合物(m2)、化合物(m3)及び化合物(m4)としては、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物等を用いることができる。これらのうち、組成がより均一な複合酸化物を得る場合には、水溶性化合物が好ましいが、水不溶性化合物を用いることもできる。
【0035】
上記化合物(1)は、特に、ガスタービン部品又はジェットエンジン部品の遮熱コーティングを形成するための材料として好適である。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物(1)としては、特に後述する化合物(2)及び化合物(3)が好ましい。
これらの化合物(2)及び化合物(3)は、低熱伝導性に優れるともに、特に高温雰囲気下での構造安定性に優れる。
【0037】
上記化合物(2)は、上記一般式(1)で表される化合物において、MがYであり、x=0であり、0<y≦0.2である。
上記化合物(2)は、下記一般式(2)で表すことができる。
1-y-z(Ta1-y9+δ・・・(2)
(式(2)中、DはHf又はZrであり、y及びzはそれぞれ、0<y≦0.2及び0≦z≦0.2を充足し、δは電気的中性を満足する値である。)
【0038】
上記一般式(2)で表される化合物(2)は、上記ドメイン構造を有する化合物であり、この化合物を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは低熱伝導性に優れる。
また、上記化合物(2)を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは、上述したヒートサイクル条件下において相転移が発生しない点で、構造安定性にも優れる。
【0039】
上記化合物(3)は、上記一般式(1)で表される化合物において、MがYbであり、0<x≦0.4であり、y=0であり、z=0である。
上記化合物(3)は、下記一般式(3)で表すことができる。
(Yb1-x)Ta・・・(3)
(式(3)中、xは、0<x≦0.4である。)
上記一般式(3)で表される化合物(3)を含む遮熱コーティング用材料は、上記ドメイン構造を有する化合物であり、この化合物を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは低熱伝導性に優れる。
また、上記化合物(3)を含む遮熱コーティング用材料を用いた遮熱コーティングは、上記高温領域で分解や破損が発生しにくい点で、構造安定性にも優れる。
【0040】
(物品)
本発明の実施形態に係る物品は、基体と、上記基体に積層された上記遮熱コーティング用材料を含む皮膜(遮熱コーティング)とを備える。
図5は、本発明の実施形態に係る物品の一例を示す概略断面図である。
図5に示す物品1は、基体15と、基体15の表面に積層された遮熱コーティング11とを備える。
基体15は、金属、合金、セラミックス等の材料からなる部材であり、Ni基超合金、Co基超合金、Fe基超合金等の耐熱材料からなる部材が好ましい。
【0041】
遮熱コーティング11は、上記遮熱コーティング用材料を用いて形成された皮膜であり、上述した化合物(2)、化合物(3)等の上記一般式(1)で表される化合物に代表される化合物Xを含む遮熱コーティング用材料を主成分とする皮膜である。
遮熱コーティング11は、上記遮熱コーティング用材料を電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)、化学蒸着(CVD)、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、サスペンション溶射(サスペンションプラズマ溶射、サスペンション高速フレーム溶射等)、高速フレーム溶射、焼結等の方法により形成することができる。このような方法によれば、基体15の表面に安定な遮熱コーティング11を形成することができる。
【0042】
図5に示した物品1では、基体15の表面に遮熱コーティング11が直接積層されている。
一方、本発明の実施形態に係る物品を構成する遮熱コーティングは、必ずしも上記基体の表面に直接積層されている必要はなく、上記基体に中間層を介して積層されていて良い。
図6は、本発明の実施形態に係る物品の別の一例を示す概略断面図である。
【0043】
図6に示す物品2は、基体25と中間層23と遮熱コーティング21とを備えており、基体25の表面に中間層23を介して遮熱コーティング21が積層されている。
基体25は、基体15と同様の部材である。
中間層23は、基体25及び遮熱コーティング21のそれぞれと密着性を有する層である。中間層23の材料は、基体25及び遮熱コーティング21のそれぞれと密着性を有するものであれば良く、基体25及び遮熱コーティング21のそれぞれの材質を考慮して適宜選択すれば良い。
【0044】
これらの、物品1、2において、遮熱コーティング11、21の厚さは特に限定されず、物品の使用目的、用途等に応じて適宜選択すれば良いが、低熱伝導性及び構造安定性、更には耐食性、耐酸化性、耐熱性、基体や中間層の保護効果等の性質の観点からは、100μmを下限値とすることが好ましい。
一方、遮熱コーティング11、21は、その厚さが大きいほど、上記の性質に優れることは言うまでもないが、遮熱コーティング11、21は、YSZからなる公知の遮熱コーティングに比べて、薄い厚さで同程度の上記性質を確保することができる。そのため、従来の物品に比べて軽量化を図ることができ、特に大型の物品においては、大きく重量を減らすことができる。
【0045】
物品1、2において、遮熱コーティング11、21は、緻密層であっても良いし、多孔層であっても良い。遮熱コーティング11、21は、基体側(又は中間層側)から外側に向かって延びるように立設された複数の柱状組織からなるセグメント構造を有する層であっても良い。
上記セグメント構造は、例えば、平均粒子径0.05~5μmの上記化合物に代表される化合物Xをサスペンション溶射する方法等を採用して形成すれば良い。
【0046】
図5に示した物品1は、基体15の表面に単層の遮熱コーティング11が積層されている。
一方、本発明の実施形態に係る上記物品において、上記遮熱コーティングは、積層体であっても良い。
図7は、本発明の実施形態に係る物品が備える遮熱コーティングの別の一例を示す概略断面図である。
図7に示す遮熱コーティング31は、金属結合層101と、金属結合層101の表面に形成された酸化アルミニウム(Al)を主成分とするアルミナ層102と、アルミナ層102上に積層された第1中間層103と、第1中間層103上に積層された第2中間層104と、第2中間層104上に積層された遮熱層105とを備える積層体である。遮熱コーティング31を構成する各層は互いに密着している。
【0047】
金属結合層101は、Alを含む合金からなる層であり、融点が1300℃以上であることが好ましい。金属結合層101の具体例としては、例えば、MCrAlY合金(但し、MはNi、Co及びFeの少なくとも1種)、白金アルミナイド、ニッケル-白金-アルミナイド等が挙げられる。
金属結合層101は、上記基体の上に積層された層である。
【0048】
アルミナ層102は、酸化アルミニウムを主成分とする。
アルミナ層102に含まれる酸化アルミニウムは、その結晶相がα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、σ-アルミナ、χ-アルミナ、η-アルミナ、θ-アルミナ及びκ-アルミナのいずれでも良く、これらのうちの2種以上の組み合わせであっても良い。
アルミナ層102は、酸化アルミニウム(Al)のみからなることが好ましいが、NiAl、(Co,Ni)(Al,Cr)等からなる他の化合物を含んでもいても良い。
【0049】
アルミナ層102は、物品の使用時にAlを含有する金属結合層101に由来して、金属結合層101の表面に不回避的に生じる層であっても良い。
アルミナ層102を形成する方法としては、例えば、金属結合層101の表面を酸素含有雰囲気で高温加熱することにより強制酸化する方法等を採用することができる。
アルミナ層102の厚さは特に限定されないが、ヒートサイクル条件下における耐久性等の観点から、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~5μm、更に好ましくは0.5~2μmである。
【0050】
第1中間層103は、酸化ハフニウム(HfO)を主成分とする層(以下、ハフニア層ともいう)である。
ハフニア層とアルミナ層とは、両者が接触した状態で1600℃の雰囲気に晒されたとしても、AlがHfOに固溶しないため、アルミナ層が消失しない。
また、金属結合層101中のAl成分が遮熱層105に向かって拡散することもない。
そのため、物品の使用時に金属結合層101中のAlが他の層に移行し、枯渇することによって生じる不具合(金属結合層の劣化、各層間の剥離、基材の損傷等)を回避することができる。
第1中間層103は、酸化ハフニウム(HfO)のみからなることが好ましいが、上述した効果が得られる範囲において、他の化合物を含んでもいても良い。
【0051】
第1中間層103は、気孔率が5体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることがより好ましい。
第1中間層103の気孔率は、皮膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察し、気孔が皮膜全体に占める面積を算出した値である。
第1中間層103の厚さは特に限定されないが、Alの移行・拡散を抑制するのに適している点から、10~50μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。
【0052】
第2中間層104は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)からなる化合物、又は、これらの成分に加えて上記一般式(1)中のMと同一の希土類元素を含む化合物を主成分とする層である。
上記タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)からなる化合物は、下記一般式(4)で表される。
TaHf(5y+4z)/2・・・(4)
(式(4)中、y=2.0、5.0≦z≦7.0)
上記一般式(1)中のMと同一の希土類元素、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)からなる化合物は、下記一般式(5)又は下記一般式(6)で表される。
TaHf(3x+5y+4z)/2・・・(5)
(式(5)中、0<x≦0.25、0<y≦0.25、0.5≦z≦1.0)
TaHf(3x+5y+4z)/2・・・(6)
(式(6)中、0.5≦x≦1.0、0.5≦y≦1.0、0<z≦1.0)
第2中間層104は、第1中間層(ハフニア層)103及び遮熱層105の一方又は両方と良好な密着性を有する層である。第2中間層104を設けることによって遮熱層105の剥離がより発生しにくくなる。
【0053】
上記一般式(5)で表される化合物は、HfOにM、Taが固溶した化合物であり、この化合物を主成分とする層は、特にハフニア層103との密着性に優れる。また、上記一般式(5)で表される化合物は、それ自体が優れた遮熱特性を有している。
上記一般式(6)で表される化合物は、MTaOにHfが固溶した化合物であり、この化合物を主成分とする層は、特に遮熱層105との密着性に優れる。また、上記一般式(6)で表される化合物は、それ自体が優れた遮熱特性を有している。
【0054】
第2中間層104は、内側第2中間層(ハフニア層103側に位置する第2中間層)と外側第2中間層との2層で構成されていても良い。この場合、内側第2中間層が上記一般式(5)で表される化合物を主成分とする層であり、外側第2中間層が上記一般式(6)で表される化合物を主成分とする層であることが好ましい。
【0055】
第2中間層104の厚さは特に限定されないが、0.2~30μmが好ましい。
第2中間層104が2層で構成されている場合、それぞれ好ましい厚さは0.1~15μmである。
なお、第2中間層104を構成する化合物は、上記一般式(5)においてx=0及び/又はy=0の化合物であっても良いし、上記一般式(6)においてz=0の化合物であっても良い。
【0056】
遮熱層105は、上述した化合物(2)、化合物(3)等の上記一般式(1)で表される化合物に代表される化合物Xを含む遮熱コーティング用材料を主成分とする皮膜である。
遮熱層105は、緻密層であっても良いし、多孔層であっても良い。更には、外側に向かって延びるように立設された複数の柱状組織からなるセグメント構造を有する層であっても良い。
遮熱層105の厚さは特に限定されないが、低熱伝導性及び構造安定性、更には耐食性、耐酸化性、耐熱性、金属結合層の保護効果等の性質の観点から、100~2000μmが好ましい。遮熱層105のより好ましい厚さは、200~500μmである。
【0057】
このような構成の遮熱コーティング31は、各層を金属結合層101側から順に積層していくことにより製造することができる。
例えば、上記基体の表面に、各層の皮膜を順に積層すれば良い。
上記皮膜の形成において、金属結合層101、第1中間層103及び第2中間層104は、例えば、電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、サスペンション溶射(サスペンションプラズマ溶射、サスペンション高速フレーム溶射等)、高速フレーム溶射、焼結等の方法で製造すれば良い。
また、アルミナ層102は、上述した方法で金属結合層101の表面に積極的に形成しても良いし、物品の使用過程で不回避的に形成しても良い。
遮熱層105は、上記一般式(1)で表される化合物に代表される化合物Xを、電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、サスペンション溶射、焼結等の方法で成膜することで形成すれば良い。
【0058】
図7に示す遮熱コーティング31は、金属結合層101~第2中間層104が図6に示した物品2における中間層23に相当し、遮熱層105が物品2における遮熱コーティング21に相当すると、みなすこともできる。
【0059】
上記物品の具体例としては、例えば、航空機用ジェットエンジン、発電用ガスタービンにおける動翼等の高温部品、その他、各種のエンジンや高温プラントにおける高温部品などが挙げられる。
上記物品が航空機用ジェットエンジンにおける動翼である場合には、作動温度をより高温化して燃費の向上を図ることができる。また、上記物品が発電用ガスタービンにおける動翼である場合には、作動温度をより高温化して発電効率の向上を図ることができる。
【実施例
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明の実施形態を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0061】
(実施例1:YbTa
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水649グラムに、純度99.9%以上のYb(NO・4HO粉末(日本イットリウム製)28グラム(0.065モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。
次いで、この水溶液に、尿素491グラム(8モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.99%以上のTa粉末(レアメタリック社製)43グラム(0.097モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:14時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で14時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力10MPa)に供した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1700℃で1時間熱処理して焼成体を得た。焼成体を目視観察したところ、1700℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.99g/cmであった。
得られた焼成体をX線回折測定したところ、主成分である正方晶系のYbTaと、未反応物と思われる若干量のTa及びYbTaOを含む焼成体が得られたことが確認された。
【0062】
(高温における構造安定性)
得られた焼成体を、大気中、1600℃で20時間の熱処理を行った後、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行った。
その結果、YbTaから分解したとみられるTa、YbTaOが一部検出されたものの、主成分は正方晶系のYbTaであった。
【0063】
(電子顕微鏡による観察)
得られた焼成体:YbTaについて、ABF(環状明視野法)を使用し、<001>晶帯軸入射条件で観察した透過型電子顕微鏡による画像を取得したところ、図2Aに示した画像が得られた。
既に説明した通り、得られた画像では、明るさ(コントラスト)の異なる2つの領域が周期的に並んだ構造が観察された。
また、上記の焼成体を透過型電子顕微鏡で観察して電子回折図形を取得したところ、図2Bに示した電子回折図形が得られた。この電子回折図形では、9つの基本回折斑点50に加え、その中の4つの基本回折斑点からほぼ等距離にある位置に、4点の菱形状の斑点51が検出された。
【0064】
(実施例2:(Yb0.9La0.1)Ta
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水665グラムに、純度99.9%以上のYb(NO・4HO粉末(日本イットリウム製)25グラム(0.065モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。その後、純度99.99%以上のLa(NO・6HO粉末(関東化学製)3グラム(0.006モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌した。
次いで、この水溶液に、尿素491グラム(8モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.99%以上のTa粉末(レアメタリック社製)46グラム(0.104モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:14時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で14時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力10MPa)に供した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1700℃で1時間熱処理して焼成体を得た。焼成体を目視観察したところ、1700℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは8.17g/cmであった。
得られた焼成体をX線回折測定したところ、主成分である正方晶系のYbTaの他、YbTaに比してTaリッチな組成のYbTa19を含んでいることが確認された。
【0065】
(高温における構造安定性)
得られた焼成体を、大気中、1400℃で20時間の熱処理を行った後、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行った。
その結果、YbTaが分解することで生成されるTa、YbTaOは検出されず、高温における構造安定性に優れることが確認された。
【0066】
(実施例3:(Y0.8(Ta0.9Hf0.18.6
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水649グラムに、純度99.99%以上のY(NO・6HO粉末(関東化学製)28グラム(0.065モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。その後、純度99.9%以上のHfCl粉末(和光純薬製)8グラム(0.016モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌した。
次いで、この水溶液に、尿素491グラム(8モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.99%以上のTa粉末(レアメタリック社製)51グラム(0.115モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:14時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で14時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力10MPa)に供した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1700℃で1時間熱処理して焼成体を得た。焼成体を目視観察したところ、1700℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.21g/cmであった。
得られた焼成体をX線回折測定したところ、主成分である正方晶系のYTaの他、若干量のHfTa17を含んでいることが確認された。
【0067】
(高温における構造安定性)
得られた焼成体を、大気中、1400℃で20時間の熱処理を行った後、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行った。
その結果、YTaが分解することで生成されるTa、YTaOは検出されず、高温における構造安定性に優れることが確認された。
【0068】
(電子顕微鏡による観察)
得られた焼成体:Y0.8(Ta0.9Hf0.18.6について、ABF(環状明視野法)を使用し、<001>晶帯軸入射条件で観察した透過型電子顕微鏡による画像を取得した。得られた画像を図8Aに示した。
図8Aに示したように、得られた画像では、明るさ(コントラスト)の異なる2つの領域が周期的に並んだ構造が観察された。
また、上記の焼成体を透過型電子顕微鏡で観察して電子回折図形を取得したところ、図8Bに示したように、9つの基本回折斑点60に加え、その中の4つの基本回折斑点からほぼ等距離にある位置に、4点の菱形状の斑点61が検出された電子回折図形が得られた。
【0069】
[熱伝導性の評価]
実施例1~3で得られた焼成体の熱伝導性を下記の手法で評価した。
また、比較サンプルとして、比較例1:YSZ(7.4wt%Y-ZrO)、及び比較例2:LaTaを用意し、実施例1~3で製造した焼成体と同様に、熱伝導性を評価した。
【0070】
(比較例1:YSZ)
東ソー社製、TZ-4Y粉末(7.4wt%Y-ZrO)を、プレス成形(圧力25MPa)に供し、更に、冷間等方静水圧加圧(荷重2.5トン)を行って、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1500℃で5時間熱処理した。密度ρは6.05g/cmであった。
【0071】
(比較例2:LaTa
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水716グラムに、純度99.99%以上のLa(NO・6HO粉末(関東化学製)31グラム(0.065モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。
次いで、この水溶液に、尿素491グラム(8モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.99%以上のTa粉末(レアメタリック社製)45グラム(0.102モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:14時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で14時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力10MPa)に供した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1700℃で1時間熱処理した。焼成体を目視観察したところ、1700℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.40g/cmであった。
得られた焼成体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行った。X線回折測定の結果、焼成体は、正方晶系のLaTaでのみで構成されることが確認された。
【0072】
実施例1(YbTa)、実施例2((Yb0.9La0.1)Ta)、実施例3(Y0.8(Ta0.9Hf0.18.6)、比較例1(7.4wt%Y-ZrO)、及び比較例2(LaTa)のそれぞれの焼成体について、下記の方法により、熱伝導率の測定を行った。
熱伝導率の測定結果は、図9に示した。
【0073】
(熱伝導率の測定)
各資料は、レーザーフラッシュ法(JIS R1611に準拠)に供して、25℃、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、及び1000℃における熱伝導率を測定した。
なお、固体の熱伝導率は気孔の影響を受け、気孔を含むと低めの値となる。そのため、下記式(7)のような補正式(参照文献:C. Wan, et al., Acta Mater., 58, 6166‐6172 (2010))
k′/k=1-4/3φ (7)
(式(7)中、k′は供試体の熱伝導率、kは緻密質としての熱伝導率、φは気孔率である。)を用いて熱伝導率の測定値を補正し、補正した熱伝導率を求めた。
【0074】
図9に示した通り、実施例1(YbTa)、実施例2((Yb0.9La0.1)Ta)、及び、実施例3(Y0.8(Ta0.9Hf0.18.6)は、いずれもYSZおよびLaTaに比べて熱伝導率が充分に小さかった。
【0075】
(実施例4)
下記の方法で、遮熱コーティングを製造した。
遮熱コーティングを形成するための基体として、縦50mm、横50mm、厚さ5mmのステンレス鋼(SUS304)の板材を用意し、実施例3で製造した焼成体(Y0.8(Ta0.9Hf0.18.6)の粉末(粒度:10~63μm)を溶射材料として、大気圧プラズマ溶射により、上記基体上に厚さ200μmの溶射皮膜(遮熱コーティング)を形成した。
その後、作製したサンプル(遮熱コーティング)を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
図10は、実施例4の遮熱コーティングの切断面の走査型電子顕微鏡による観察像である。
図10に示すように、基体上に形成された遮熱コーティング層は、割れや剥離がなく、緻密かつ高い密着力で成膜されている。
【符号の説明】
【0076】
1、2 物品
11、21、31 遮熱コーティング
23 中間層
15、25 基体
101 金属結合層
102 アルミナ層
103 第1中間層(ハフニア層)
104 第2中間層
105 遮熱層
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10