IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 森村SOFCテクノロジー株式会社の特許一覧

特許7061105電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
<>
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図1
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図2
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図3
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図4
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図5
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図6
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図7
  • 特許-電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220420BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20220420BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20220420BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M8/12 102A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019216334
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086786
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-181572(JP,A)
【文献】特開2018-018693(JP,A)
【文献】特開2018-152204(JP,A)
【文献】特開2010-108876(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148108(WO,A1)
【文献】特開2014-129186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344415(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/12
H01M 8/1213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極は、拡散層と、前記拡散層より前記電解質層側に位置する活性層とから構成されており、
前記空気極は、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物を含有し、
前記空気極の前記拡散層における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、気孔の一部であって、幅が0.05μm以下であり、かつ、長さが0.1μm以上である部分が25個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在する、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極の前記拡散層における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、気孔の一部であって、幅が0.05μm以下であり、かつ、長さが0.25μm以上である部分が8個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在する、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極の前記拡散層は、Srを含有し、
前記空気極の前記拡散層に含まれる前記ペロブスカイト型酸化物において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率は、1.000より大きい、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極の前記拡散層における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記ペロブスカイト型酸化物の粒子と気孔との界面長は、1.6μm/μm以上である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極の前記拡散層の気孔率は、46%以上である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記空気極の前記拡散層の平均気孔径は、0.64μm以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記電解質層は、固体酸化物を含む、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項8】
前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単セルの少なくとも1つは、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルである、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを備える。空気極は、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)やLSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物))を含むように構成されている。
【0003】
例えば空気極に供給されるガス中に、S(硫黄)、B(ホウ素)、Cr(クロム)、Si(ケイ素)等の成分を含む汚染物質が含まれていると、該汚染物質が空気極における三相界面に付着して反応場が減少する現象(「空気極の被毒」と呼ばれる。)が発生し、単セルの性能が低下するおそれがある。従来、空気極上に捕集層を設け、該捕集層により汚染物質を捕集することにより、空気極への汚染物質の進入を抑制して空気極の被毒の発生を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-147660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術では、空気極とは別に捕集層を設ける必要があるため、単セルの製造工程が煩雑になると共に、空気極と捕集層との間の熱膨張差に起因する層間剥離が発生するおそれがあるため、好ましくない。従来の技術では、空気極とは別の部材を設けることなく、汚染物質による空気極の被毒に起因する単セルの性能低下を抑制することが困難である、という課題がある。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単セルにも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記空気極は、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物を含有し、前記空気極における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、気孔の一部であって、幅が0.05μm以下であり、かつ、長さが0.1μm以上である部分が25個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在する。気孔の上記部分は、幅が細く、かつ、長さが長い部分(細長い部分)であるため、該部分に進入したS、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質を効果的にトラップする。すなわち、気孔の該部分は、大きなアンカー効果を発揮するため、吸着した汚染物質を長期間保持する。そのため、本電気化学反応単セルによれば、例えば空気極とは別に捕集層等の別部材を設けることなく、空気極内に多数存在する該部分において汚染物質を効果的にトラップすることができ、汚染物質が空気極における三相界面に付着して反応場が減少する現象(空気極の被毒)により電気化学反応単セルの性能が低下することを抑制することができる。
【0010】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記空気極における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、気孔の一部であって、幅が0.05μm以下であり、かつ、長さが0.25μm以上である部分が8個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在する構成としてもよい。気孔の該部分は、幅がある程度細く、かつ、長さが極めて長い部分(極めて細長い部分)であるため、該部分に進入した汚染物質を極めて効果的にトラップする。そのため、上記構成を採用すれば、空気極内に多数存在する該部分において汚染物質をさらに効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することを効果的に抑制することができる。
【0011】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記空気極は、Srを含有し、前記空気極に含まれる前記ペロブスカイト型酸化物において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率は、1.000より大きい構成としてもよい。S、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質がSrと結合してトラップされる反応は、空気極に含まれるペロブスカイト型酸化物がAサイトリッチであるときに発生しやすい。そのため、上記構成を採用すれば、空気極内に多数存在する上記細長い部分において汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。
【0012】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記空気極における前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記ペロブスカイト型酸化物の粒子と気孔との界面長は、1.6μm/μm以上である構成としてもよい。ペロブスカイト型酸化物の粒子と気孔との間の界面長が比較的長いと、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子と接触する可能性が高くなり、気孔の上記細長い部分による汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、上記構成を採用すれば、空気極内に多数存在する上記細長い部分において汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。
【0013】
(5)上記電気化学反応単セルにおいて、前記空気極の気孔率は、46%以上である構成としてもよい。空気極の気孔率が比較的高いと、ガス拡散性が高くなり、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子と接触する可能性が高くなり、気孔の上記細長い部分による汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、上記構成を採用すれば、空気極内に多数存在する上記細長い部分において汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。
【0014】
(6)上記電気化学反応単セルにおいて、前記空気極の平均気孔径は、0.64μm以下である構成としてもよい。空気極の平均気孔径が比較的小さいと、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子と接触する可能性が高くなり、気孔の上記細長い部分による汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、上記構成を採用すれば、空気極内に多数存在する上記細長い部分において汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。
【0015】
(7)上記電気化学反応単セルにおいて、前記電解質層は、固体酸化物を含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、固体酸化物形の電気化学反応単セルにおいて、例えば空気極とは別に捕集層等の別部材を設けることなく、汚染物質による空気極の被毒により電気化学反応単セルの性能が低下することを抑制することができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
図6】単セル110における空気極114周辺の詳細構成を示す説明図
図7】空気極114内に存在する気孔Vの詳細構成を示す説明図
図8】性能評価結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0019】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0020】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0021】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0022】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0023】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0024】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0025】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0026】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0027】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0028】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0029】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(Z軸方向)に互いに対向する燃料極(アノード)116および空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116によって単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0030】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含むように構成されている。空気極114の構成について、後に詳述する。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)とYSZとを含むように構成されている。中間層180は、空気極114から拡散したSrが電解質層112に含まれるZrと反応して高抵抗な物質であるSrZrOが生成されることを抑制する。
【0031】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0032】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0033】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0034】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0035】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されてもよい。また、空気極側集電体134やインターコネクタ150の少なくとも一部の表面が、導電性のコートによって覆われていてもよい。また、空気極114と空気極側集電体134との間に、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
【0036】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0037】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0038】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0039】
A-3.空気極114の詳細構成:
次に、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各単セル110における空気極114の詳細構成について説明する。図6は、単セル110における空気極114周辺の詳細構成を示す説明図である。図6には、空気極114を挟んで電解質層112の一部と空気極側集電体134の一部とが含まれる領域(図4の領域X1)における単セル110のXZ断面構成が模式的に示されている。
【0040】
図6に示すように、本実施形態では、空気極114は、拡散層220と、拡散層220より電解質層112側(下側)に位置する活性層210とから構成されている。空気極114の活性層210は、主として、酸化剤ガスOGに含まれる酸素のイオン化反応の場として機能する層であり、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物(本実施形態では、LSCF)と、活性化物質(本実施形態ではは、GDC)とを含むように構成されている。活性層210におけるペロブスカイト型酸化物(LSCF)の含有比率は、10vol%以上であることが好ましく、30vol%以上であることがさらに好ましい。活性層210の厚さは、例えば、5μm~20μm程度である。
【0041】
空気極114の拡散層220は、主として、空気室166から供給された酸化剤ガスOGを拡散させると共に、発電反応により得られた電気を集電する場として機能する層であり、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物(本実施形態では、LSCF)を含むように構成されている。拡散層220におけるペロブスカイト型酸化物(LSCF)の含有比率は、80vol%以上であることが好ましく、90vol%以上であることがさらに好ましい。拡散層220の厚さは、例えば、50μm~100μm程度である。
【0042】
本実施形態の単セル110は、空気極114内に存在する気孔Vの構成に特徴がある。図7は、空気極114内に存在する気孔Vの詳細構成を示す説明図である。図7のA欄には、空気極114(の拡散層220)の一部の領域(図6の領域X2)のXZ断面構成が拡大して模式的に示されており、図7のB欄には、空気極114の一部の領域(後述する1つの細長部SP付近の領域)のXZ断面構成がさらに拡大して模式的に示されている。なお、図7のA欄およびB欄には、主として空気極114内に存在する気孔Vの構成が示されており、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物(LSCF)の粒子PAについては、その一部のみが破線で示されている。
【0043】
本実施形態の単セル110は、空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面であり、例えば図7のA欄に示すXZ断面(以下、同様))に、気孔Vの細長部SPが多数存在するように構成されている。ここで、気孔Vの細長部SPとは、該断面に表れた気孔Vの一部分であって、幅が0.05μm以下であり、かつ、長さが0.1μm以上である部分である。すなわち、気孔Vの細長部SPは、幅がある程度細く、かつ、長さがある程度長い部分である。気孔Vの細長部SPは、ペロブスカイト型酸化物(LSCF)の粒子PA間に挟まれた部分である。また、気孔Vの細長部SPは、閉塞的な部分(すなわち、気孔Vの延伸方向に沿った端部を含む部分)であることが好ましい。なお、図7のB欄に示すように、気孔Vのある部分の幅は、該部分の主たる延伸方向に直交する線分L1に沿った寸法であり、気孔Vのある部分の長さは、幅を規定する上記線分L1を上記延伸方向に沿って0.01μmピッチで複数引いたときの各線分L1の中点P1を順番に結ぶ複数の線分L2の長さの合計である。
【0044】
より具体的には、本実施形態の単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの細長部SPが25個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在するように構成されている。なお、1つの気孔Vに複数の細長部SPが存在するときは、各細長部SPの個数をカウントするものとする。このように、本実施形態の単セル110では、空気極114内に、気孔Vの細長部SP(すなわち、気孔Vの一部であって、幅が細く、かつ、長さが長い部分)が多数存在する。気孔Vの細長部SPは、幅が細く、かつ、長さが長い部分であるため、該細長部SPに進入したS、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質を効果的にトラップする。すなわち、気孔Vの細長部SPは、大きなアンカー効果を発揮するため、吸着した汚染物質を長期間保持する。そのため、本実施形態の単セル110によれば、例えば空気極114とは別に捕集層等の別部材を設けることなく、空気極114内に多数存在する気孔Vの細長部SPにおいて汚染物質を効果的にトラップすることができ、汚染物質が空気極114における三相界面に付着して反応場が減少する現象(空気極114の被毒)により単セル110の性能が低下することを抑制することができる。
【0045】
また、単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの特定細長部SPxが8個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在するように構成されていることがより好ましい。ここで、気孔Vの特定細長部SPxとは、細長部SPのうち、長さが0.25μm以上であるものである。すなわち、気孔Vの特定細長部SPxは、幅がある程度細く、かつ、長さが極めて長い部分である。そのため、気孔Vの特定細長部SPxは、該特定細長部SPxに進入したS、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質を極めて効果的にトラップする。従って、単セル110がこのような構成であれば、空気極114内に多数存在する気孔Vの特定細長部SPxにおいて汚染物質をさらに効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒により単セル110の性能が低下することを効果的に抑制することができる。なお、単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの特定細長部SPxが11個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在するように構成されていることがさらに好ましい。
【0046】
また、単セル110は、空気極114がSrを含有し、かつ、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物(LSCF)において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率が1.000より大きいように(すなわち、Aサイトリッチに)構成されていることがより好ましい。S、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質がSrと結合してトラップされる反応は、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物がAサイトリッチであるときに発生しやすい。そのため、単セル110がこのような構成であれば、気孔Vの細長部SPにおいて汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒により単セル110の性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。なお、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物(LSCF)において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率は、1.060以下であるとしてもよい。
【0047】
また、単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)において、ペロブスカイト型酸化物(LSCF)の粒子PAと気孔Vとの間の界面長が1.6μm/μm以上であるように構成されていることがより好ましい。ペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長が比較的長いと、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子PAと接触する可能性が高くなり、気孔Vの細長部SPによる汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、単セル110がこのような構成であれば、気孔Vの細長部SPにおいて汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒により単セル110の性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。なお、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)において、ペロブスカイト型酸化物(LSCF)の粒子PAと気孔Vとの界面長は、2.1μm/μm以下であるとしてもよい。
【0048】
また、単セル110は、空気極114の気孔率が46%以上であるように構成されていることがより好ましい。空気極114の気孔率が比較的高いと、ガス拡散性が高くなり、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子PAと接触する可能性が高くなり、気孔Vの細長部SPによる汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、単セル110がこのような構成であれば、気孔Vの細長部SPにおいて汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒により単セル110の性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。なお、空気極114の気孔率は、64%以下であるとしてもよい。
【0049】
また、単セル110は、空気極114の平均気孔径が0.64μm以下であるように構成されていることがより好ましい。空気極114の平均気孔径が比較的小さいと、ガス中に含まれる汚染物質がペロブスカイト型酸化物の粒子PAと接触する可能性が高くなり、気孔Vの細長部SPによる汚染物質のトラップ機能が高くなる。そのため、単セル110がこのような構成であれば、気孔Vの細長部SPにおいて汚染物質を一層効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒により単セル110の性能が低下することをさらに効果的に抑制することができる。なお、空気極114の平均気孔径は、0.41μm以上であるとしてもよい。
【0050】
なお、上述した空気極114の各特性は、空気極114における電解質層112側の界面(本実施形態では、空気極114と電解質層112との間に中間層180が存在するため中間層180との界面)からのZ軸方向に沿った距離が40μm以上の位置において実現されていることが好ましい。また、上述した空気極114の各特性は、空気極114をZ軸方向視で所定の方向(例えば、X軸方向)に沿って仮想的に3分割したときの各部分において実現されていることが好ましい。
【0051】
A-4.単セル110の製造方法:
本実施形態の単セル110の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0052】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ約10μmの電解質層用グリーンシートを得る。また、NiOの粉末をNi重量に換算して55質量部となるように秤量し、YSZの粉末45質量部と混合して混合粉末を得る。この混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ270μmの燃料極用グリーンシートを得る。電解質層用グリーンシートと燃料極用グリーンシートとを貼り付けて、乾燥させる。その後、例えば1400℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0053】
(中間層180の形成)
GDC粉末にYSZ粉末を添加し、高純度ジルコニア玉石にて60時間、分散混合を行う。混合後の粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して中間層用ペーストを調製する。得られた中間層用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112の表面にスクリーン印刷によって塗布し、例えば1200℃で焼成を行う。これにより、中間層180が形成され、中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0054】
(空気極114の形成)
粉砕したLSCF粉末と、GDC粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極活性層用ペーストを調製する。得られた空気極活性層用ペーストを、上述した中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体における中間層180の表面にスクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。また、LSCF粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極拡散層用ペーストを調製する。得られた空気極拡散層用ペーストを、上述した空気極活性層ペーストの上にスクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。その後、所定の温度で焼成を行う。焼成により、空気極114の活性層210および拡散層220が形成される。以上の工程により、上述した構成の単セル110が製造される。
【0055】
A-5.空気極114の各特性の調整方法:
上述した空気極114の各特性は、例えば以下のようにして調整することができる。
【0056】
空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面)における気孔Vの細長部SPの個数については、例えば、空気極114の焼成の際に、焼成温度を低くするほど細長部SPの個数を多くすることができる。また、空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面)における気孔Vの特定細長部SPxの個数については、例えば、空気極114の焼成の際に、焼成温度をさらに低くするほど特定細長部SPxの個数を多くすることができる。
【0057】
また、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物におけるBサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率については、例えば、LaおよびSrが多く含まれるLSCF粉末を使うほど該比率を高くすることができる。
【0058】
また、空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面)におけるペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長については、例えば、バインダの量を減らすほど該界面長を長くすることができる。
【0059】
また、空気極114の気孔率については、例えば、空気極114を作製するためのグリーンシート用のスラリーを調製する際に、造孔材の添加量を多くするほど、空気極114の気孔率を高くすることができる。
【0060】
また、空気極114の平均気孔径については、例えば、空気極114を作製するためのグリーンシート用のスラリーを調製する際に、スラリーの固形分比を高くするほど、空気極114における平均気孔径を小さくすることができる。また、空気極114の焼成の際に、焼成温度を低くするほど、また焼成時間を短くするほど、空気極114における平均気孔径を小さくすることができる。
【0061】
A-6.空気極114の各特性の特定方法:
上述した空気極114の各特性は、例えば以下のようにして特定することができる。
【0062】
空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面)における気孔Vの細長部SPの個数については、空気極114における該断面のSEM画像(20,000倍)を取得し、10μm×10μmの大きさの領域を設定し、該領域内において気孔Vの細長部SP(または特定細長部SPx)を特定し、特定された気孔Vの細長部SP(または特定細長部SPx)の個数をカウントする。
【0063】
また、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物におけるBサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率については、蛍光X線(XRF)分析により特定することができる。
【0064】
また、空気極114の断面(Z軸方向に平行な断面)におけるペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長については、上述した空気極114のSEM画像に対して画像処理ソフト(例えば、株式会社リンクスの「HALCON」)を用いた画像処理を行うことにより特定することができる。
【0065】
また、空気極114の気孔率および平均気孔径については、上述した空気極114のSEM断面写真を用い、インターセプト法(例えば、水谷惟恭著、「セラミックプロセシング」、技報堂出版、1985年3月、p.193-p.195参照)によって特定することができる。
【0066】
A-7.性能評価:
複数の単セル110のサンプルを用いて性能評価を行った。図8は、性能評価結果を示す説明図である。
【0067】
図8に示すように、性能評価には7つの単セル110のサンプル(SA1~SA7)が用いられた。各サンプルは、空気極114の上述した各特性(気孔Vの細長部SPの個数N1(10μm×10μmの大きさの領域あたり)、気孔Vの特定細長部SPxの個数N2(同)、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物におけるBサイトを占める元素の重量Wbに対するAサイトを占める元素の重量Waの比率(Wa/Wb)、ペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長、空気極114の気孔率、空気極114の平均気孔径)が互いに異なっている。上述した単セル110の製造方法および空気極114の各特性の調整方法に従い、各サンプルを作製した。各サンプルにおいて、空気極114は活性層210と拡散層220との2層構成とされ、図8に示される空気極114の各特性(気孔Vの細長部SPの個数N1、気孔Vの特定細長部SPxの個数N2、Wa/Wb、LSCF粒子PAの界面長、空気極114の気孔率、空気極114の平均気孔径)は拡散層220における値である。
【0068】
また、各サンプルを用いて、温度700℃、電流密度0.55A/cmで、4000時間の発電運転を行い、運転後において、蛍光X線(XRF)分析により、汚染物質の1つであるS(硫黄)の付着量を特定した。また、初期状態および上記発電運転後の状態において電圧を測定し、カレントインタラプション法により単セル110のη抵抗を特定し、発電運転によるη抵抗の増加量Δηを算出した。η抵抗の増加量Δηが0.15Ωcm未満の場合に合格(〇)と判定し、η抵抗の増加量Δηが0.15Ωcm以上の場合に不合格(×)と判定した。なお、Δηは、上述したように、空気極114が活性層210と拡散層220との2層構成とされた単セル110の各サンプルを対象として計測した。
【0069】
サンプルSA1~SA3では、η抵抗の増加量Δηが0.15Ωcm以上であったため、不合格(×)と判定された。サンプルSA1~SA3では、空気極114における気孔Vの細長部SPの個数N1が25個未満と少ないため、ガス中に含まれるS、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質を効果的にトラップすることができず、汚染物質が空気極114における三相界面に付着して反応場が減少する現象(空気極114の被毒)により単セル110の性能が低下したものと考えられる。この点は、サンプルSA1~SA3において、汚染物質の1つであるSの付着量が比較的少ないことからも裏付けられる。
【0070】
一方、サンプルSA4~SA7では、η抵抗の増加量Δηが0.15Ωcm未満であったため、合格(〇)と判定された。サンプルSA4~SA7では、空気極114における気孔Vの細長部SPの個数N1が25個以上と多いため、多数存在する細長部SPにおいて、ガス中に含まれるS、B、Cr、Si等の成分を含む汚染物質を効果的にトラップすることができ、汚染物質による空気極114の被毒に起因する単セル110の性能低下を抑制することができたものと考えられる。この点は、サンプルSA4~SA7において、汚染物質の1つであるSの付着量が比較的多いことからも裏付けられる。本性能評価によれば、単セル110が、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの細長部SPが25個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在するように構成されていれば、汚染物質による空気極114の被毒に起因する単セル110の性能低下を抑制することができることが確認されたと言える。
【0071】
なお、合格(〇)と判定されたサンプルSA4~SA7では、空気極114における気孔Vの特定細長部SPxの個数N2が8個以上であるため、単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの特定細長部SPxが8個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在するように構成されていることがより好ましいと言える。
【0072】
また、合格(〇)と判定されたサンプルSA4~SA7では、空気極114がSrを含有し、かつ、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率が1.000より大きいため、単セル110は、空気極114がSrを含有し、かつ、空気極114に含まれるペロブスカイト型酸化物において、Bサイトを占める元素の重量に対するAサイトを占める元素の重量の比率が1.000より大きいように構成されていることがより好ましいと言える。
【0073】
また、合格(〇)と判定されたサンプルSA4~SA7では、ペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長が1.6μm/μm以上であるため、単セル110は、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)において、ペロブスカイト型酸化物の粒子PAと気孔Vとの間の界面長が1.6μm/μm以上であるように構成されていることがより好ましいと言える。
【0074】
また、合格(〇)と判定されたサンプルSA4~SA7では、空気極114の気孔率が46%以上であるため、単セル110は、空気極114の気孔率が46%以上であるように構成されていることがより好ましいと言える。
【0075】
また、合格(〇)と判定されたサンプルSA4~SA7では、空気極114の平均気孔径が0.64μm以下であるため、単セル110は、空気極114の平均気孔径が0.64μm以下であるように構成されていることがより好ましいと言える。
【0076】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0077】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、空気極114は、活性層210と拡散層220との二層構成であるとしているが、空気極114が活性層210および拡散層220以外の他の層を含むとしてもよいし、空気極114が単層構成であるとしてもよい。また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0078】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。例えば、上記実施形態では、空気極114(活性層210および拡散層220)がLSCFを含むとしているが、空気極114は、LSCFに代えて、あるいはLSCFに加えて、他のペロブスカイト型酸化物を含むとしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態における空気極114の各特性は、活性層210において実現されていてもよいし、拡散層220において実現されていてもよいし、両者において実現されていてもよい。また、上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、上述した空気極114の各特性が実現されている必要は無く、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について、上述した空気極114の各特性が実現されていれば、該単セル110について、発電性能の低下を抑制することができるという効果を奏する。また、単セル110において、上述した空気極114の各特性のすべてが実現されている必要はなく、空気極114の少なくとも1つの断面(Z軸方向に平行な断面)に、気孔Vの細長部SPが25個以上存在するような、10μm×10μmの大きさの領域が存在する、という特性が実現されていれば、他の特性が実現されていなくてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、平板形の単セル110を対象としているが、本明細書に開示される技術は、平板形以外の他の単セルにも同様に適用可能である。
【0081】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルおよび電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様の空気極114の構成を採用すれば、単セルの性能の低下を抑制することができる。
【0082】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 210:活性層 220:拡散層 SP:細長部 SPx:特定細長部 V:気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8