(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】変位拡大機構及びそれを用いた光学装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/08 20060101AFI20220420BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
G02B26/08 E
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2019505951
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018009081
(87)【国際公開番号】W WO2018168659
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017052013
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木内 万里夫
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-037717(JP,A)
【文献】特開2013-080208(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080317(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0002084(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00 - 26/08
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられた固定部と、
前記固定部に連結されたアクチュエータと、
基端側が前記アクチュエータに連結されて前記基板の上面と略平行な方向に延在し、中間部の折り返し部にて該上面と交差する方向に折り返されて前記基端側に延在し先端側が前記固定部に連結されたビームと、
前記ビームの折り返し部に連結された移動部と、を有し、
前記アクチュエータは前記基端側から前記折り返し部側の方向へ前記ビームを押すかまたは引くように駆動する変位拡大機構。
【請求項2】
前記ビームは第1ビームと第2ビームとを含み、前記移動部は該第1ビームと該第2ビームとの間に設けられている請求項1に記載の変位拡大機構。
【請求項3】
前記折り返し部は、前記第1ビームおよび前記第2ビームがそれぞれ折り返されてなる第1折り返し部および第2折り返し部を含み、
前記移動部は前記第1折り返し部と前記第2折り返し部とに連結されている請求項2に記載の変位拡大機構。
【請求項4】
前記アクチュエータは第1アクチュエータと第2アクチュエータを含み、
前記第1ビームは第1アクチュエータに連結され、前記第2ビームは第2アクチュエータに連結されている請求項2または3に記載の変位拡大機構。
【請求項5】
前記移動部は前記ビームの折り返し部にヒンジを介して連結されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項6】
前記移動部は前記ビームの折り返し部および前記固定部にヒンジを介して連結されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項7】
前記ビームの前記基端側は折り返されて前記アクチュエータに連結されている請求項1ないし6のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項8】
前記アクチュエータは湾曲または屈曲した状態で前記固定部に連結され、加熱により駆動する熱型アクチュエータである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項9】
前記ビームは、前記基板の上面と平行な方向に延在する第1突起部を有する請求項1ないし8のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項10】
前記移動部は、前記基板の上面と平行な方向に延在する第2突起部を有する請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項11】
前記固定部は、前記第1突起
部を収容する凹部を有し、該凹部の側面と前記第1突起
部の側面とは所定の間隔をあけて設けられている請求項
9に記載の変位拡大機構。
【請求項12】
前記固定部は、前記第2突起部を収容する凹部を有し、該凹部の側面と前記第2突起部の側面とは所定の間隔をあけて設けられている請求項10に記載の変位拡大機構。
【請求項13】
前記ビームの下方に、前記ビームと所定の間隔をあけて放熱ブロックが設けられている請求項1ないし1
2のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項14】
前記基板は、デバイス層と酸化膜層とハンドル層とがこの順で積層されてなり、
前記ビームは前記デバイス層で構成される一方、前記放熱ブロックは前記ハンドル層で構成され、かつ前記固定部に連結されている請求項1
3に記載の変位拡大機構。
【請求項15】
前記基板は、デバイス層と酸化膜層とハンドル層とがこの順で積層されてなり、
前記アクチュエータと前記ビームとは前記デバイス層で構成される一方、前記移動部は前記デバイス層で構成される第1部分と、前記デバイス層と前記酸化膜層と前記ハンドル層とで構成される第2部分とを有する請求項1ないし1
4のいずれか1項に記載の変位拡大機構。
【請求項16】
請求項1ないし1
5のいずれか1項に記載の変位拡大機構と、
前記変位拡大機構の前記固定部上に配設され、前記アクチュエータの一端と電気的に接続された第1電極と、
前記変位拡大機構の前記固定部上に配設され、前記アクチュエータの他端と電気的に接続された第2電極と、を備え、
前記移動部は前記変位拡大機構に入射する光を反射または透過するか、あるいは吸収する光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、変位拡大機構及びそれを用いた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なミラー装置が知られている。例えば、特許文献1に開示されたミラー装置は、表面に圧電素子を積層させたアクチュエータと、アクチュエータの先端に連結されたミラーとを備えている。このミラー装置は、圧電素子に電圧を印加することによってアクチュエータを湾曲させ、ミラーを傾動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたミラー装置では、ミラーの傾動量を大きくしようとすると、圧電素子に印加する電圧を高くする必要がある。例えば、数度の傾動角度を得ようとすると、圧電素子への印加電圧を数十V以上にする必要があり、高価な電源が必要となる。また、消費電力が増加してしまい、高電圧を印加するため、ミラー装置での安全対策も必要である。静電駆動方式のアクチュエータを用いた場合も同様に、数度の傾動角度を得るためには駆動電圧を数十V以上にする必要がある。
【0005】
一方、駆動ビームを通電加熱してその熱膨張により駆動力を得る熱型アクチュエータは、低い電圧で大きな駆動量を得ることができる。しかし、このタイプのアクチュエータは、駆動ビームが延在する面内で駆動するため、ミラー表面と駆動ビームが延在する面とが同一または平行な位置にある場合、ミラーをその表面と交差する方向に傾動させることは困難であった。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑み、その目的は、ミラー等の移動部をその表面と交差する方向に対し傾動させるとともに、その傾動量を大きくできる変位拡大機構及びそれを用いた光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、ここに開示する技術では、アクチュエータに連結されたビームを基板の上面と交差する方向に折り返して段違いに配置し、アクチュエータによるビームの押し引きにより折り返し部及びそれに連結されたミラーを傾動させるようにした。
【0008】
具体的には、ここに開示する変位拡大機構は、基板と、前記基板に設けられた固定部と、前記固定部に連結されたアクチュエータと、基端側が前記アクチュエータに連結されて前記基板の上面と略平行な方向に延在し、中間部の折り返し部にて該上面と交差する方向に沿って該基端側に折り返されて前記基端側に延在し先端側が前記固定部に連結されたビームと、前記ビームの折り返し部に連結された移動部と、を有し、前記アクチュエータは前記基端側から前記折り返し部側の方向へ前記ビームを押すかまたは引くように駆動することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、基板の上面と交差する方向に折り返されたビームをアクチュエータが基端側から折り返し部側の方向に押し引きするため、固定部に連結されたビームが湾曲し、ビームの折り返し部を駆動して、それに連結された移動部を傾動させる。このことにより、アクチュエータのわずかな変位に対して移動部を大きく傾動させることができる。
【0010】
また、ここに開示する光学装置は、前記変位拡大機構と、前記変位拡大機構の前記固定部上に配設され、前記アクチュエータの一端と電気的に接続された第1電極と、前記変位拡大機構の前記固定部上に配設され、前記アクチュエータの他端と電気的に接続された第2電極と、を備え、前記移動部は、前記変位拡大機構に入射する光を反射または透過するか、あるいは吸収することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、移動部の傾動量を大きくできるため、アクチュエータの駆動電圧を低くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の変位拡大機構によれば、ミラー等の移動部をその表面と交差する方向に対して傾動させることができるとともに傾動量を大きくできる。また、本開示の光学装置は、低い駆動電圧でミラー等の移動部を大きく傾動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係るミラー装置の平面図である。
【
図3】実施形態1に係る駆動前後のミラー装置の斜視図である。
【
図6】実施形態2に係るミラー装置の平面図である。
【
図7】X軸周りにミラーが傾動した後のミラー装置の側面図である。
【
図8】Y軸周りにミラーが傾動した後のミラー装置の側面図である。
【
図10】変形例に係る駆動前後のミラー装置の斜視図である。
【
図11】変形例に係る駆動前後のミラー装置の別の斜視図である。
【
図12】実施形態3に係る波長選択フィルタ装置の斜視図である。
【
図13】
図12のXIII-XIII線での断面図であり、波長選択フィルタの駆動前後の状態を示している。
【
図14】変形例2に係る波長選択フィルタ装置の平面図である。
【
図15】変形例2に係る波長選択フィルタ装置の斜視図である。
【
図16】変形例3に係る波長選択フィルタ装置を下から見た平面図である。
【
図17A】変形例4に係る波長選択フィルタ装置の部分拡大図であり、
図14に示す領域Aに対応する部分拡大図である。
【
図17B】変形例4に係る波長選択フィルタ装置の部分拡大図であり、
図14に示す領域Bに対応する部分拡大図である。
【
図18】変形例5に係る波長選択フィルタ装置の平面図である。
【
図21】別の波長選択フィルタ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0015】
(実施形態1)
[ミラー装置の構成]
図1は、本実施形態に係るミラー装置の平面図を示し、
図2は、
図1におけるII-II線での断面図を示す。このミラー装置1は、SOI基板200に、以下に示す部材が設けられてなる。ミラー装置1は、固定部2と、固定部2に連結されたアクチュエータ3と、アクチュエータ3に連結された迂回ビーム4と、第1端部5aが迂回ビーム4に連結され、第4端部5dが固定部2に連結されたビーム5と、を備えている。また、ビーム5は、第1ビーム51と、ミラー6を挟んで第1ビーム51と対向して配置された第2ビーム52と、を有している。さらに、ミラー装置1は、両端に第1ビーム51及び第2ビーム52が連結された連結部53と連結部53の中間部に連結されたミラー6と、を有しており、後述の折り返し部54と連結される要素が移動部であり、本実施形態では連結部53とミラー6とが特許請求の範囲に言う移動部に相当する。ミラー装置1は、固定部2に設けられた第1電極101と第2電極102とを備えている。
【0016】
また、SOI基板200は、デバイス層(第1シリコン層210)、Box層(酸化膜層220)、及びハンドル層(第2シリコン層230)からなり、例えば、デバイス層の厚さは30μm、Box層の厚さは1μm、ハンドル層の厚さは250μmである。
【0017】
以下、説明の便宜上、アクチュエータ3の長手方向をX方向、第1ビーム51及び第2ビーム52の長手方向をY方向、ミラー装置1の厚み方向をZ方向と称する。なお、X方向において、
図1における左側を単に左側、
図1における右側を単に右側と称することもある。Y方向において、
図1における上側を単に上側、
図1における下側を単に下側と称することもある。Z方向において、
図2における上側を上面、
図2における下側を下面と称することもある。また、第1端部5a,5aを基端、第4端部5d,5dを先端と称することがある。
【0018】
図1に示すように、例えば、ミラー装置1は平面視で矩形の全体形状を有している。固定部2は、そのような平面視矩形のミラー装置1の全体形状を形成するフレームである。固定部2は、X方向に対向して配置された第1ベース部材21及び第2ベース部材22と、Y方向下側で第1ベース部材21と第2ベース部材22との間に設けられた第3ベース部材23とを備えている。第1ベース部材21、第2ベース部材22及び第3ベース部材23は、いずれも、アクチュエータ3、迂回ビーム4、第1ビーム51,第2ビーム52、連結部53及びミラー6の可動域を確保しつつできるだけ広い面積を占める形状にされている。
【0019】
なお、固定部2は、第1シリコン層210において第1ベース部材21、第2ベース部材22及び第3ベース部材23の3つのパーツに分かれているが、酸化膜層220及び第2シリコン層230では1つに繋がっている。このため、第1ベース部材21、第2ベース部材22及び第3ベース部材23の相対位置は固定されており、第1ベース部材21、第2ベース部材22及び第3ベース部材23で可動部材を支持することができる。
【0020】
また、固定部2は、第1ベース部材21と第2ベース部材22との間に開口部20Aを有しており、平面視で、開口部20A内に、アクチュエータ3、迂回ビーム4、第1ビーム51,第2ビーム52、連結部53及びミラー6がそれぞれ配置されており、固定部2と、その開口部20A内に設けられた上記の各可動部材とで変位拡大機構が構成されている。
【0021】
このように、固定部2は、可動部材の可動域を確保しつつできるだけ広い面積を占めるような形状にされていることで、アクチュエータ3を支持するフレームとして必要な高い剛性を確保している。
【0022】
アクチュエータ3はミラー駆動装置1においてY方向上側に配置されており、また、アクチュエータ3は、並列配置された2つのアクチュエータ31,31を備えている。2つのアクチュエータ31,31は、X方向に延びる棒状の駆動ビームであり、アクチュエータ3の第1端部3bから第2端部3cへの長手方向の略中央の中間部3aにおいて互いに連結されている。このように、2つのアクチュエータ31,31が中間部3aにおいて連結されていることで、2つのアクチュエータ31,31の各駆動力が結合されてアクチュエータ3は大きな駆動力を発揮することができる。
【0023】
2つのアクチュエータ31,31の第1端部3b,3bは、第1ベース部材21に連結されている。2つのアクチュエータ31,31の第2端部3c,3cは、第2ベース部材22に連結されている。
【0024】
また、アクチュエータ3は、X方向に一直線に伸びているわけではなく、中間部3aがその駆動方向であるY方向上側に突出するようにわずかに屈曲、あるいは全体的にY方向上側に膨らむようにわずかに湾曲している。
【0025】
アクチュエータ3は通電による加熱で熱膨張して駆動力を発生させる熱型アクチュエータである。また、上記のように、アクチュエータ3がその駆動方向に対して屈曲あるいは湾曲していることにより、加熱による熱膨張時に、アクチュエータ3が駆動方向と反対側に屈曲あるいは湾曲することがない。従って、駆動方向に向かってアクチュエータ3を確実に屈曲あるいは湾曲させることができる。
【0026】
迂回ビーム4は、Y方向下側が開口した略U字形状であり、X方向に延在する部分の略中間部にアクチュエータ3の中間部3aが連結されている。また、迂回ビーム4のY方向に延在する部分は、その端部で第1ビーム51及び第2ビーム52に連結されている。迂回ビーム4は、第1ビーム51、第2ビーム52及び連結部53よりも剛性が高くなっており、本実施形態では幅広に形成されている。従って、後述するアクチュエータ3の駆動時にほとんど弾性変形せずにその形状を留めてアクチュエータ3の駆動力を第1ビーム51及び第2ビーム52に伝達する。なお、迂回ビーム4の剛性を第1ビーム51、第2ビーム52及び連結部53よりも高めるためには、迂回ビーム4の厚みを第1ビーム51、第2ビーム52及び連結部53よりも厚くしたり、迂回ビーム4の一部に母材であるシリコンよりも剛性が高い材料を成膜する、例えば、ダイヤモンドライクカーボン膜等を成膜するなどしてもよい。また、図示しないが、迂回ビーム4には肉抜き部(孔)が設けられていてもよい。アクチュエータ3が上述のように熱型アクチュエータである場合、迂回ビーム4に肉抜き構造を設けることで、その表面積が増加し放熱が促進される。このことにより、アクチュエータ3からミラー6に伝わる熱を緩和することができる。
【0027】
ビーム5は、Y方向に延在する第1ビーム51と、ミラー6を挟んで第1ビーム51と対向して配置されY方向に延在する第2ビーム52と、を有している。第1ビーム51と第2ビーム52とは、基板200の上面と略平行となるように配置されている。
【0028】
第1ビーム51は、上側第1ビーム51aと下側第1ビーム51bと折り返し部54と、を有している。上側第1ビーム51aは、迂回ビーム4の一方の端部に第1端部5aが連結され、連結部53の一方の端部に折り返し部54を介して第2端部5bが連結されている。下側第1ビーム51bは、連結部53の一方の端部に折り返し部54を介して第3端部5cが連結され、第3ベース部材23に第4端部5dが連結されている。すなわち、第1ビーム51は、迂回ビーム4を介してアクチュエータ3に連結され、基板200の上面と平行に延在した後、折り返し部54においてZ方向下側に折り返され固定部2に連結される。上側第1ビーム51aと下側第1ビーム51bとは、ともにY方向に延在する幅が略一定の棒状の部材であり、上側第1ビーム51aの幅と下側第1ビーム51bの幅とは略等しい。また、平面視で、上側第1ビーム51aと下側第1ビーム51bとはX方向に関し、所定の間隔をあけて並列に配置されている。さらに、
図2に示すように、上側第1ビーム51aと下側第1ビーム51bとはZ方向に関し、所定の間隔をあけて並列に配置されており、上側第1ビーム51aの厚みと下側第1ビーム51bの厚みとは略等しい。上側第1ビーム51aの両端はそれぞれ第1ビームの第1端部5a及び第2端部5bであり、下側第1ビーム51bの両端はそれぞれ第1ビームの第3端部5c及び第4端部5dである。
【0029】
第2ビーム52は、上側第2ビーム52aと下側第2ビーム52bと折り返し部54と、を有している。上側第2ビーム52aは、迂回ビーム4の他方の端部に第1端部5aが連結され、連結部53の他方の端部に折り返し部54を介して第2端部5bが連結されている。下側第2ビーム52bは、連結部53の他方の端部に折り返し部54を介して第3端部5cが連結され、第3ベース部材23に第4端部5dが連結されている。すなわち、第2ビーム52は、迂回ビーム4を介してアクチュエータ3に連結され、基板200の上面と平行に延在した後、折り返し部54においてZ方向下側に折り返され固定部2に連結される。上側第2ビーム52aと下側第2ビーム52bとは、ともにY方向に延在する幅が略一定の棒状の部材であり、上側第2ビーム52aの幅と下側第2ビーム52bの幅とは略等しい。また、平面視で、上側第2ビーム52aと下側第2ビーム52bとはX方向に関し、所定の間隔をあけて並列に配置されている。さらに、
図2に示すように、上側第2ビーム52aと下側第2ビーム52bとはZ方向に関し、所定の間隔をあけて並列に配置されており、上側第2ビーム52aの厚みと下側第2ビーム52bの厚みとは略等しい。上側第2ビーム52aの両端はそれぞれ第2ビームの第1端部5a及び第2端部5bであり、下側第2ビーム52bの両端はそれぞれ第2ビームの第3端部5c及び第4端部5dである。また、上側第1及び第2ビーム51a,52aの第1端部5a及び第2端部5bはそれぞれ迂回ビーム4及び連結部53の上面近傍に連結され、下側第1及び第2ビーム51b,52bの第3端部5c及び第4端部5dはそれぞれ連結部53及び第3ベース部材23における第1シリコン層210の下面近傍に連結されている。
【0030】
また、第1ビーム51と第2ビーム52とはミラー6を挟んでX方向に関して対称に配置されており、後述するミラー装置1の駆動時にミラー6が捻れて駆動することがない。
【0031】
連結部53はX方向に延びる幅が略一定の棒状の部材であり、連結部53は第1ビーム51と第2ビーム52とを連結している。また、連結部53の両端部にそれぞれ第1ビーム51及び第2ビーム52の折り返し部54,54が連結されている。連結部53は、アクチュエータの3の駆動によって、基板200の上面に対して傾動する移動部である。
【0032】
ミラー6は、開口部20Aの略中央に配置されており、連結部53の中間部に連結された、平面視で略円形の平板部材である。ミラー6は、アクチュエータの3の駆動によって、基板200の上面に対して傾動する移動部である。また、当該ミラー装置1において、ミラー6は、図示しない入射光を反射するとともに、その光路を変化させるミラーとして機能する。したがって、ミラー6は、当該光路の断面よりも一回り大きい平面形状を有している。また、ミラー6の表面全体に金属膜61、例えば、Au/Ti膜が形成されている。なお、基板200の表面から光を入射させる場合は、ミラー6の表面に金属膜61を設けるが、基板200の裏面から光を入射させる場合は、ミラー6の裏面に金属膜61を設ける。また、
図2に示す構成では、ミラー6の厚みは固定部21,22における第1シリコン層210や迂回ビーム4の厚みと略等しいが、例えば、下側第1及び第2ビーム51b,52bの厚みと略等しくなるようにミラー6を薄く形成することで、ミラー6の質量を小さくして共振周波数を高くすることができる。なお、
図1に示す構成では、ミラー6は連結部53の中間部に直接連結されているが、例えば、ヒンジを介して連結されていてもよい。
【0033】
[ミラー装置の動作]
続いて、このように構成されたミラー装置1の動作について説明する。
図3は、駆動前後のミラー装置1の斜視図を示し、
図4は、駆動後のミラー装置1の側面図を示す。なお、
図3における二点鎖線は、駆動前の状態のミラー装置1を示している。また、説明の便宜上、各部材に関しては第1シリコン層210のみを図示している。
【0034】
ミラー装置1は、第1電極101と第2電極102との間に電圧を印加することで駆動される。第1電極101と第2電極102との間に電圧が印加されると、第1ベース部材21及び第2ベース部材22を通じてアクチュエータ3に電流が流れる。このとき、シリコン素材でできたアクチュエータ3にジュール熱が発生し、アクチュエータ3は一瞬のうちに400℃程度に加熱される。
【0035】
アクチュエータ3は、加熱されることにより全長が伸びるように熱膨張する。アクチュエータ3の第1端部3b,3b及び第2端部3c,3cは固定部2により位置が固定されて移動することができないため、アクチュエータ3の熱膨張により、中間部3aはあらかじめ突出している方向であるY方向上側へ押し出される。
【0036】
アクチュエータ3の中間部3aがY方向上側へ押し出されると、それに連結されている迂回ビーム4がY方向上側へ引っ張られるが、迂回ビーム4はほとんど弾性変形しない。よって、迂回ビーム4がY方向上側へ引っ張られる力は、迂回ビーム4に連結された上側第1ビーム51a及び上側第2ビーム52aをそれぞれ第1端部5a,5aからY方向上側に押し出すように働く。
【0037】
上側第1ビーム51a及び上側第2ビーム52aがY方向上側に押し出されると、これらの第2端部5b,5bに連結された折り返し部54の上面側にはY方向上側に押し出される力が働く。一方、折り返し部54は下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bを介して固定部2(第3ベース部材23)に連結されている。従って、下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bはY方向に変位せず、第3端部5c,5cには折り返し部54の下面側をY方向下側に引っ張る力が働く。折り返し部54の上面側と下面側に上記の力が働くことで、折り返し部54はZ方向下側に駆動される。このとき、第1ビーム51と第2ビーム52とは、第1端部5a,5a及び第4端部5d,5dを支点としてZ方向下側に向けて大きく湾曲し、第1ビーム51と第2ビーム52の湾曲に応じて、
図4に示すように、折り返し部54に連結された連結部53が時計回り方向に傾動する。
【0038】
連結部53に連結されたミラー6も、連結部53の傾動に伴い、時計回り方向に傾動する。このとき、ミラー6において、連結部53との連結部分のY方向における反対側はいずれの部材とも連結しておらず自由に移動可能である。また、
図1,3,4に示すように、第1及び第2ビーム51,52のY方向の長さとミラー6のY方向の長さ、つまりミラー6の直径とが略等しい。よって、ミラー6は連結部53との連結部分から半径分Y方向に離れた点、つまりミラー6の略中心を通りX方向に延びる軸(図示せず)の周りを傾動する。
図4に示すミラー6の傾動角度は約3°であり、このとき、第1電極101と第2電極102との間に印加される電圧は数V程度である。同じ傾動角度を得るのに、圧電駆動方式のアクチュエータを駆動してZ方向に直接ミラー6を傾動させようとする場合に比べて、駆動電圧を1/2から一桁程度低くすることができる。
【0039】
上記のように、電極101及び電極102への電圧印加(ミラー装置1の駆動状態)及び解除(ミラー装置1の非駆動状態)を切り替えることで、ミラー6をその表面と交差する方向に傾動させることができる。
図1に示すミラー6に重なるように図略の光路が配置されており、ミラー6が
図3,4に示すように傾動することで、図略の光路を通る光を反射し、その光路をもとの光路と異なるように変えてミラー装置1の外に出射する。
【0040】
[ミラー装置の製造方法]
続いて、ミラー装置1の製造方法について説明する。
図5は、本実施形態に係るミラー装置1の製造工程を示す。なお、
図5に描かれた各製造工程の図は、
図1のII-II線における断面図に対応する。
【0041】
まず、デバイス層(第1シリコン層210)、Box層(酸化膜層220)、及びハンドル層(第2シリコン層230)からなるSOIウエハー(SOI基板200)を用意する。例えば、デバイス層の厚さは30μm、Box層の厚さは1μm、ハンドル層の厚さは250μmである。
【0042】
デバイス層をエッチング処理して、デバイス層に、固定部2、アクチュエータ3(図示せず)、迂回ビーム4、上側第1ビーム51a、下側第1ビーム51b、上側第2ビーム52a、下側第2ビーム52b、連結部53(図示せず)及びミラー6からなる変位拡大機構を一体形成する。なお、
図5では、便宜上、当該変位拡大機構の一部のみ描かれている。
【0043】
特に、下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bとは、他の部材よりもエッチング回数を1回多くして、厚さが数μm程度になるように薄く形成される。つまり、下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bの部材の厚みはアクチュエータ3、迂回ビーム4、折り返し部53及びミラー6の厚みよりも薄い。さらに、第1ベース部材21の表面に第1電極101(図示せず)が形成され、第2ベース部材22の表面に第2電極102(図示せず)が形成され、ミラー6の表面に金属膜61が形成される。電極101,102及び金属膜61は、例えば、厚さ20nmのTi及び厚さ300nmのAuからなるAu/Ti膜である。
【0044】
デバイス層にミラー装置1の原形が形成されると、次に、デバイス層にワックス240でダミーウエハー250を貼り合わせてミラー装置1の裏面の層、すなわち、Box層及びハンドル層をエッチング処理する。さらに、上側第1ビーム51a及び上側第2ビーム52aに対応する部分が開口するよう、図示しないマスクをミラー装置1の裏面側に設け、裏面側から当該対応部分の第1シリコン層を除去する。このとき、上側第1ビーム51a及び上側第2ビーム52aの厚みと下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bの厚みとが略等しくなるようにエッチング処理を行う。次に、図示しないマスクを除去する。このエッチング処理により、固定部2にはSOI基板200が残され、その他の変位拡大機構における可動部材であるアクチュエータ3(図示せず)、迂回ビーム4、上側第1ビーム51a、下側第1ビーム51b、上側第2ビーム52a、下側第2ビーム52b、連結部53(図示せず)及びミラー6にはデバイス層のみが残される。
【0045】
最後に、ワックス240及びダミーウエハー250を除去してミラー装置1が完成する。上記の工程は、良く知られるMEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)素子の製造工程を応用したものであり、特に、上側第1及び第2ビーム51a,52aと下側第1及び第2ビーム51b,52bにおいて、Z方向で所定の間隔を保って加工するのが容易となる。また、これらのビームのX方向及びZ方向の配置間隔の精度を向上させることができる。
【0046】
[効果]
上記の変位拡大機構によれば、アクチュエータ3が通電加熱されて熱膨張することで、迂回ビーム4が駆動されて、迂回ビーム4に連結された第1及び第2ビーム51,52が駆動される。第1及び第2ビーム51,52において、上側第1及び第2ビーム51a,52aが折り返し部54を押し、下側第1及び第2ビーム51b,52bが折り返し部54を引くように駆動するため、折り返し部54,54に連結された第1及び第2ビーム51,52が大きく湾曲し、折り返し部54,54に連結された連結部53を傾動させる。さらに、連結部53に連結されたミラー6が傾動する。つまり、駆動部材であるアクチュエータ3がミラー6の表面と平行な方向にわずかに変位することでミラー6を大きく傾動させることができる。また、第1ビーム51と第2ビーム52とはミラー6を挟んでX方向に関して対称に配置されており、ミラー装置1の駆動時にミラー6が捻れて駆動することがないため、所定の方向にミラー6を傾動させることができる。
【0047】
また、第1及び第2ビーム51,52の長さとミラー6の直径とを略等しくすることにより、ミラー6をその略中心を通る軸の周りに傾動させることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、アクチュエータ3として熱型アクチュエータを用いる例を示したが、別の方式で駆動するアクチュエータ、例えば、静電容量駆動方式のアクチュエータや圧電駆動方式のアクチュエータを用いてもよい。アクチュエータ3として熱型アクチュエータを用いることで、ミラー6の傾動量を大きく取れるため、第1電極101と第2電極102との間に印加される電圧が低くても、ミラー6を十分に傾動させることができる。このことにより、ミラー6による反射光の照射範囲を大きくすることができる。また、熱型アクチュエータを用いることで、圧電駆動方式のアクチュエータに比べて、アクチュエータ自体の経年劣化が抑制され、ミラー装置1の長寿命化が図れる。また、本実施形態では、下側第1及び第2ビーム51b,52bの第4端部5d,5dを固定部2の第3ベース部材23に連結する構成を示したが、第4端部5d,5d同士を図示しない別の連結部で連結してもよいし、当該別の連結部に図示しない別のアクチュエータを連結し、アクチュエータ3と当該別のアクチュエータとで第1及び第2ビーム5,6を駆動してもよい。この場合、アクチュエータ3と図示しない別のアクチュエータは、屈曲(湾曲)方向が互いに反対となる。具体的には、駆動前の状態において、アクチュエータ3はY方向下側に屈曲または湾曲し、別のアクチュエータはY方向上側に屈曲または湾曲している。
【0049】
(実施形態2)
[ミラー装置の構成]
図6は、本実施形態に係るミラー装置1の平面図を示す。本実施形態と
図1に示すミラー装置1との違いは、まず、第1ビーム51を駆動するための第1アクチュエータ7と第2ビーム52を駆動するための第2アクチュエータ8とが別個に設けられていることである。
【0050】
第1アクチュエータ7は、並列配置された2つのアクチュエータ71,71を備えている。2つのアクチュエータ71,71は、X方向に延びる棒状の駆動ビームであり、アクチュエータ7の第1端部7b,7bから第2端部7c,7cへの長手方向の略中央の中間部7aにおいて互いに連結されている。2つのアクチュエータ71,71の湾曲あるいは屈曲方向やこれらの各駆動力が結合されて第1アクチュエータ7が大きな駆動力を発揮することは、実施形態1で説明したアクチュエータ3と同様である。
【0051】
2つのアクチュエータ71,71の第1端部7b,7bは、第1ベース部材21に連結されている。2つのアクチュエータ71,71の第2端部7c,7cは第1ベース部材21と第2ベース部材22との間に設けられた第4ベース部材24に連結されている。本実施形態に係るミラー装置1において、固定部2は第1~第4ベース部材21~24から構成されており、第3ベース部材23は実施形態1に示す構成と同様にY方向下側で第1ベース部材21と第2ベース部材22との間に設けられているのに対し、第4ベース部材24はY方向上側で第1ベース部材21と第2ベース部材22との間に設けられている。また、第4ベース部材24には第3電極103が設けられており、第3電極103は第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8との共通電極として機能する。
【0052】
また、第1アクチュエータ7は、X方向に一直線に伸びているわけではなく、中間部7aがその駆動方向であるY方向上側に突出するようにわずかに屈曲、あるいは全体的にY方向上側に膨らむようにわずかに湾曲している。
【0053】
第2アクチュエータ8は、並列配置された2つのアクチュエータ81,81を備えている。2つのアクチュエータ81,81は、X方向に延びる棒状の駆動ビームであり、アクチュエータ7の第1端部8b,8bから第2端部8c,8cへの長手方向の略中央の中間部8aにおいて互いに連結されている。2つのアクチュエータ81,81の湾曲あるいは屈曲方向やこれらの各駆動力が結合されて第2アクチュエータ8が大きな駆動力を発揮することは、第1アクチュエータ7と同様である。
【0054】
2つのアクチュエータ81,81の第1端部8b,8bは、第4ベース部材24に連結されている。2つのアクチュエータ81,81の第2端部8c,8cは、第2ベース部材22に連結されている。
【0055】
また、第2アクチュエータ8は、X方向に一直線に伸びているわけではなく、中間部8aがその駆動方向であるY方向上側に突出するようにわずかに屈曲、あるいは全体的にY方向上側に膨らむようにわずかに湾曲している。さらに、アクチュエータ71,71とアクチュエータ81,81とはX方向の長さ及びY方向の幅さらにZ方向の厚みが略等しくなるように設定されている。
【0056】
次に、本実施形態に係るミラー装置と
図1に示すミラー装置とで異なる点は、
図1に示す連結部53及び折り返し部54に代えて、第1ビーム51が第1折り返し部54aを介して第1連結部53aに、第2ビーム52が第2折り返し部54bを介して第2連結部53bにそれぞれ別個に連結されていることである。
【0057】
第1ビーム51の第1端部5aは第1アクチュエータ7の中間部7aに、第2ビーム52の第1端部5aは第2アクチュエータ8の中間部8aにそれぞれ連結されている。第1ビーム51の第2及び第3端部5b,5cはそれぞれ第1折り返し部54aを介して第1連結部53aに連結され、第2ビーム52の第2及び第3端部5b,5cはそれぞれ第2折り返し部54bを介して第2連結部53bに連結されている。また、第1ビーム51の第4端部5d及び第2ビーム52の第4端部5dはそれぞれ第3ベース部材23に連結されている。すなわち、第1ビーム51は、第1アクチュエータ7に連結され、基板200の上面と平行に延在した後、第1折り返し部54aにおいてZ方向上側に折り返され固定部2に連結される。第2ビーム52は、第2アクチュエータ8に連結され、基板200の上面と平行に延在した後、第2折り返し部54bにおいてZ方向上側に折り返され固定部2に連結される。
【0058】
第1ビーム51と第2ビーム53及び第1連結部53aと第2連結部53bとは、それぞれミラー6を挟んでX方向に対称に配置されている。また、ミラー6はヒンジ9aを介して第1連結部53aに、ヒンジ9bを介して第2連結部53bにそれぞれ連結されている。また、ミラー6はヒンジ9cを介して第3ベース部材23に連結されており、ヒンジ9cは、X方向で見てヒンジ9aとヒンジ9bとの略中間に位置している。ミラー6とヒンジ9aとの連結部と、ミラー6とヒンジ9bとの連結部とは、ミラー6の略中心を通りX方向に延びる軸を通るように設けられている。ヒンジ9a及びヒンジ9bはそれぞれX方向への折り返し構造とY方向への折り返し構造とを有しており、X軸周りまたはY軸周りでのミラー6の傾動に対応している。
【0059】
本実施形態に係るミラー装置1は、別個の第1及び第2アクチュエータ7,8によって第1及び第2ビーム5,6を独立に駆動することで、第1及び第2連結部53a,53b及びヒンジ9a,9bを介してミラー6を傾動させるとともにその傾動軸を変えることができる。以下、この点について図面を用いて説明する。
【0060】
[ミラー装置の動作]
図7は、X軸周りにミラー6が傾動した後のミラー装置1の側面図を示し、
図8は、Y軸周りにミラー6が傾動した後のミラー装置1の側面図を示す。なお、説明の便宜上、ヒンジ9a~9cについては図示を省略している。また、説明の便宜上、各部材に関しては第1シリコン層210のみを図示している。
【0061】
まず、X軸の周りをミラー6が傾動する場合について説明する。この場合、第1電極101及び第2電極102にそれぞれ同じ値の電圧を印加する。第3電極103は上述の通り、第1アクチュエータ1と第2アクチュエータ8との共通電極として機能する。この場合は、第3電極103はGND電位に固定される。
【0062】
第1電極101と第3電極103との間に電圧が印加されると、第1ベース部材21及び第4ベース部材24を通じて第1アクチュエータ7に電流が流れ、第1アクチュエータ7は加熱されて熱膨張する。第1アクチュエータ7の熱膨張により、中間部7aはあらかじめ突出している方向であるY方向上側へ押し出される。
【0063】
同様に、第2電極102と第3電極103との間に電圧が印加されると、第2ベース部材22及び第4ベース部材24を通じて第2アクチュエータ8に電流が流れ、第2アクチュエータ8は加熱されて熱膨張する。第2アクチュエータ8の熱膨張により、中間部8aはあらかじめ突出している方向であるY方向上側へ押し出される。
【0064】
中間部7a,8aが駆動されると、実施形態1で説明したのと同じ原理により、
図7に示すように、第1ビーム51(図示せず)及び第2ビーム52はZ方向下側に向かって大きく湾曲し、第1連結部53a(図示せず)及び第2連結部53bは、
図8におけるX軸の周りを時計回り方向に傾動する。第1及び第2連結部53a,53bが傾動すると、その変位を受けてヒンジ9a,9bがそれぞれ変形し、ヒンジ9a,9bとミラー6との連結部に対し、それぞれZ方向下側に力が働く。ここで、第1電極101及び第2電極102には同じ値の電圧が印加されている。上述の通り、アクチュエータ71,71とアクチュエータ81,81とはサイズが略等しいため、同じ値の電圧が印加されると流れる電流量及び発熱量も略等しくなる。よって、熱膨張による第1及び第2アクチュエータ7,8の駆動量は略等しく、ヒンジ9a,9bからミラー6がZ方向下側に受ける力も略等しくなる。ここで、ミラー6はヒンジ9cを介して第3ベース部材23に連結されており、ヒンジ9cは、X方向で見てヒンジ9aとヒンジ9bとの略中間に位置しているため、ヒンジ9cを支点としてミラー6のX方向右側とX方向左側とは略等しい力でZ方向下側に押され、結果としてヒンジ9cを通りX方向に延びる軸(図示せず)の周りをミラー6が傾動する。
【0065】
一方、第1電極101と第2電極102とにそれぞれ異なる値の電圧を印加すると、第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8とで駆動量が異なることは明らかである。このことを利用すると、ミラー6の傾動軸をX方向以外とすることができる。
【0066】
例えば、
図8に示すように、第2アクチュエータ8のみを駆動させるようにすると、第2ビーム52が駆動されて第2連結部53bのみが傾動し、ヒンジ9bとミラー6との連結部に対してのみZ方向下側に力が働く。このとき、第2ビーム52はZ方向に対して捻れることなく駆動するため、ミラー6はY方向に延びる軸の周りに傾動する。第1アクチュエータ7の駆動量と第2アクチュエータ8の駆動量を個別に調整することで、ミラー6とヒンジ9aとの連結部に働く力とミラー6とヒンジ9bとの連結部に働く力とを異ならせることができる。このことにより、ミラー6の傾動軸として、XY平面内で、ヒンジ9a,9cを通る軸とX方向に延びる軸との間の任意の軸を選択できる。
【0067】
なお、本実施形態において、第1及び第2アクチュエータ7,8をミラー装置1におけるY方向上側に並置した構成を示したが、いずれか一方のアクチュエータをミラー装置1におけるY方向下側に配置してもよい。それに応じて第1ビーム51または第2ビーム52の配置も変更される。また、ヒンジ9cを
図6に示す位置と反対側、つまり、固定部2の第4ベース部材24に連結するようにしてもよい。また、アクチュエータは1つだけ設けるようにしてもよく、その場合、アクチュエータは第1ビーム51あるいは第2ビーム52にのみ連結されていてもよいし、第1ビーム51と第2ビーム52の両方に連結されていてもよい。
【0068】
<<変形例>>
図9は、変形例に係るミラー装置の平面図を示し、
図10及び
図11は、それぞれ駆動前後のミラー装置の斜視図を示す。なお、
図10及び
図11における二点鎖線は、駆動前の状態のミラー装置1を示している。また、
図10,11において、説明の便宜上、各部材に関しては第1シリコン層210のみを図示している。さらに、
図11において、ヒンジ9a,9bの形状は簡略化して図示している。
【0069】
本変形例に係るミラー装置と実施形態2に係るミラー装置との違いは、まず、ミラー6と第3ベース部材23とを連結するヒンジ9cが設けられていない点である。次に、第2ビーム52において、上側第2ビーム52aがミラー6寄りに配置され、下側第2ビーム52bが近接する第2ベース部材22寄りに配置されていることであり、この場合に、上側第2ビーム52aの両端はそれぞれ第2ビームの第1端部5a及び第2端部5bであり、下側側第2ビーム52bの両端はそれぞれ第2ビームの第3端部5c及び第4端部5dである。つまり、第1ビーム51と第2ビーム52とは、Y方向に関して対称に配置されておらず、本変形例において、第2アクチュエータ8を駆動すると、上側第2ビーム52a及び下側側第2ビーム52bはZ方向上側に湾曲し、第2折り返し部54bが駆動され、第2連結部53bはZ方向上側に向けて傾動する。つまり、第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8とを同時に駆動させると、第1折り返し部54aと第2折り返し部54bとが駆動されて、第1連結部53aと第2連結部53bとはそれぞれ反対回りに傾動する。
【0070】
例えば、
図10に示すように第1アクチュエータ7のみを駆動させると、第1連結部52aのみが傾動し、ミラー6はヒンジ9bを通りX方向に延びる軸の周りを傾動するようになる。また、
図11に示すように第1電極101と第2電極とに電圧を印加し、第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8の両方を駆動させると、上述の通り、第1連結部53aと第2連結部53bとはそれぞれ反対回りに傾動する。第1電極101と第2電極とに同じ電圧を印加すると、第1連結部53aの傾動量と第2連結部53bの傾動量とは全体値が略等しくなるため、ミラー6はその略中心を通りY方向に延びる軸の周りを傾動するようになる。
【0071】
なお、本実施形態において、第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8とを独立に駆動させるため、第3ベース部材23において中間部分の第1シリコン層210が除去され、第3ベース部材23aと第3ベース部材23bとに分離されている。このことにより、第1アクチュエータ7と第2アクチュエータ8とが電気的に分離される。また、本実施形態において、第1及び第2アクチュエータ7,8をミラー装置1におけるY方向上側に並置した構成を示したが、いずれか一方のアクチュエータをミラー装置1におけるY方向下側に配置してもよい。それに応じて第1ビーム51または第2ビーム52の配置も変更される。また、アクチュエータは1つだけ設けるようにしてもよく、その場合、アクチュエータは第1ビーム51あるいは第2ビーム52にのみ連結されていてもよいし、第1ビーム51と第2ビーム52の両方に連結されていてもよい。
【0072】
(実施形態3)
本実施形態に示すように、ここに開示する変位拡大機構を波長選択フィルタ装置10に適用することができる。
図12は、本実施形態に係る波長選択フィルタ装置の斜視図を示し、
図13は、
図12のXIII-XIII線での断面図であり、波長選択フィルタの駆動前後の状態を示している。なお、
図12において、説明の便宜上、フィルタ100以外の部材に関しては第1シリコン層210のみを図示している。
【0073】
本実施形態に示す構成と
図1に示す構成との違いは、ミラー6に代えて、フィルタ支持部60が連結部53(
図1参照)に連結されており、フィルタ支持部60の上面(Z方向上側の主面)に誘電体多層膜からなるフィルタ100が載置されていることである。この場合は、連結部53、フィルタ支持部60及びフィルタ100が特許請求の範囲に言う移動部に相当する。なお、上記以外の構成は
図1に示す構成と共通するため、構造や機能及び動作については説明を省略する。
【0074】
フィルタ支持部60は、第1シリコン層210からなり、平面視で略矩形状である。フィルタ支持部60の中央部分には開口部が設けられている。フィルタ100はフィルタ支持部60の開口部を覆うようにフィルタ支持部60の上面に載置されている。第1アクチュエータ7が駆動されると、第1及び第2ビーム51,52が駆動されて、連結部53及びフィルタ支持部60、さらにフィルタ100がX軸の周りを傾動する。
【0075】
図13に示すように、波長選択フィルタ装置10において、フィルタ100の上面に光が入射すると、フィルタ100の内部で入射光が変調を受ける。フィルタ100は互いに屈折率の異なる誘電体が積層された構造であり、フィルタ100を透過する光の波長はフィルタ100の長さ、つまりフィルタ100内での光路長に依存する。
図13の左側に示す場合では、フィルタ100内での光路長D1に依存してフィルタ100を透過する光の波長が定まり、所定の波長の光がフィルタ100の下面から出射される。
【0076】
一方、第1アクチュエータ7を駆動して、フィルタ支持部60及びフィルタ100をX軸の周りに傾動させると、
図13の右側に示すように、フィルタ100内で光路長がD1からD2(D2>D1)に変化する。これに応じてフィルタ100を透過する光の波長も変化する。この原理を用いて、波長選択フィルタ装置10では、選択された波長の光のみを透過させるようにすることができる。なお、
図12ではフィルタ支持部60の開口部の形状を平面視で円形としているが、特にこれに限定されず矩形やその他の形状であってもよい。
【0077】
<<変形例2>>
図14は、本変形例に係る波長選択フィルタ装置の平面図を、
図15は、斜視図をそれぞれ示す。なお、本変形例において、実施形態1~3と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、
図15において、説明の便宜上、フィルタ100以外の部材に関しては第1シリコン層210のみを図示している。
【0078】
本変形例に示す構成と
図1または
図12に示す構成とは、第1~第3ベース部材21~23、迂回ビーム4及び連結部53の形状または配置が異なる。
図14,15に示す構成では、変位拡大機構において、第1ベース部材21がX方向左側かつY方向上側に、第2ベース部材22がX方向右側かつY方向上側に配置されている。一方、第3ベース部材23は、第1及び第2ベース部材21,22の間ではなく、第1及び第2ベース部材21,22のY方向下側に、かつフィルタ支持部60を囲むように配置されている。
【0079】
迂回ビーム4は、
図1または
図12に示す構成に比べて、Y方向に延在する部分が短く、フィルタ支持部60のY方向上側端部近傍まで延びている。また、
図1または
図12に示す構成では、迂回ビーム4がY方向下側で折り返された部分に上側第1ビーム51aと下側第2ビーム52aとがそれぞれ連結されているのに対して、本変形例に示す構成では、迂回ビーム4はY方向で折り返される部分を持たず、Y方向に延在する部分の端部でそれぞれ上側第1ビーム51aと下側第2ビーム52aとに連結されている。また、連結部53は、X方向に延びる幅が略一定の第1部分53cと第1部分53cの両端部からそれぞれY方向に延びる幅が略一定の第2部分53d及び第3部分53eとを有している。第1部分53cは、X方向の中央部でアクチュエータ3に連結されている。第2部分53dは、Y方向上側の端部近傍で、第3ベース部材23に連結されたヒンジ9aに連結されている。また、第3部分53eは、Y方向上側の端部近傍で、第3ベース部材23に連結されたヒンジ9bに連結されている。また、第2部分53dとヒンジ9aとの連結部分と、第3部分53eとヒンジ9bとの連結部分とは、フィルタ支持部60の略中心を通りX方向に延びる軸(以下、フィルタ支持部60の傾動軸Tと呼ぶことがある。)を通るように設けられている。
【0080】
変位拡大機構をこのように構成することで、
図1や
図12に示す構成に比べて、迂回ビーム4の体積及び質量を小さくすることができる。このことにより、アクチュエータ3が迂回ビーム4をY方向上側に引っ張る力が第1及び第2折り返し部54a,54bにより大きく伝わり、フィルタ支持部60の変位量を大きくすることができる。また、アクチュエータ3で発生した熱が迂回ビーム4から放散されるのを抑制でき、アクチュエータ3の駆動量、ひいてはフィルタ支持部60の変位量を大きくすることができる。また、フィルタ支持部60がヒンジ9a,9bを介して固定部2に連結され、かつヒンジ9aとヒンジ9bとが、傾動軸Tを通るように設けられているため、フィルタ支持部60を傾動軸Tの周りに傾動させることができる。
【0081】
また、迂回ビーム4のY方向に延びる部分を短くすることで、迂回ビーム4とビーム5との連結部(
図1に示す5aに相当)、この場合は、迂回ビーム4と下側第1ビーム51b及び下側第2ビーム52bとの連結部を、第3ベース部材23に接続された上側第1ビーム51a及び下側第1ビーム52aよりもフィルタ支持部60に近い側にそれぞれ配置することができる。このことにより、連結部53の第2及び第3部分53d,53eをビーム5よりもX方向で見てフィルタ支持部60から離れた側に配置し、かつY方向に延在させることができる。また、これらの第2及び第3部分53d,53eと固定部2(第3ベース部材23)とをそれぞれヒンジ9a,9bを介して連結することができる。つまり、ヒンジ9a,9bを介して、フィルタ支持部60及び連結部53(移動部)が固定部2に連結される。ヒンジ9a,9bはX方向で複数折り返されてなる線条部材であり、これらが一種のバネ部材として機能することで、フィルタ支持部60の剛性を高めることができる。特に、波長選択フィルタ装置10において、フィルタ100を取付けることで、フィルタ100及びフィルタ支持部60の傾動時の重心が基板200の上面よりもZ方向上側にシフトする。例えば、
図12に示す構成において、X方向の加速度がフィルタ100に加わると、Y軸方向に延びる軸の周りにフィルタ100及びフィルタ支持部60が回転するおそれがある。一方、本変形例によれば、ヒンジ9a,9bによって、フィルタ支持部60を2点で支持しているため、傾動軸T以外の軸の周りでの回転モーメントを抑制でき、フィルタ100を所望の方向に傾動させることができる。
【0082】
<<変形例3>>
図16は、本変形例に係る波長選択フィルタ装置を下から見た平面図を示す。なお、
図16に示す構成と、
図14,15に示す構成とは、裏面の構成が異なるのみであり、変形例3と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0083】
図16に示すように、フィルタ支持部60の4つのコーナー部には、それぞれ第2部分60aが設けられている。また、連結部53の第2及び第3部分53d,53eには、それぞれストッパ53fが設けられている。第2及び第3部分53d,53eにおいて、ストッパ53fは、それぞれフィルタ支持部60と反対側に、言いかえると、第3ベース部材23に近い側に設けられている。また、ストッパ53fのY方向の長さは、第2及び第3部分53d,53eのY方向の長さと略同じである。また、実施形態1~3に示すように、変位拡大機構の可動部材であるアクチュエータ3、迂回ビーム4、第1ビーム51,第2ビーム52、連結部53、ミラー6及びフィルタ支持部60は、基板200のうち、酸化膜層220と第2シリコン層230とが除去されて、デバイス層である第1シリコン層210で構成されている。一方、第2部分60a及びストッパ53fはそれぞれ、第1シリコン層210と酸化膜層220と第2シリコン層230とが積層されて構成されている。つまり、固定部2と同じ積層構造を有している。なお、第2部分60aやストッパ53fは、
図5に示すシャッタ装置1の裏面層のエッチング処理工程において、図示しないマスクを用いて、第2部分60aやストッパ53fに対応する箇所の酸化膜層220及び第2シリコン層を残すことで得られる。
【0084】
本変形例に係る変位拡大機構によれば、まず、フィルタ支持部60の4つのコーナー部に、それぞれ第2部分60aが設けられることで、フィルタ100を取付ける際にフィルタ支持部60に加わる衝撃を緩和することができる。前述したように、第1シリコン層210の厚み、つまり、フィルタ支持部60の開口及び第2部分60aを除く部分(第1部分)の厚みは30μm程度である。一方、フィルタ100は、一辺が1mm以下の直方体または立方体である。フィルタ100をフィルタ支持部60に取付ける際、通常、基台(図示せず)上に変位拡大機構が形成された基板200を載置し、接着剤等を介して、フィルタ支持部60の上面にフィルタ100が取付けられる。この場合、フィルタ支持部60と基台との間は第2シリコン層230及び酸化膜層220のトータルの厚み、つまり、約250μm程度の隙間があるため、取付け時の衝撃でフィルタ支持部60がたわんでフィルタ100の位置がぐらつき、所定の位置からずれてフィルタ100が取付けられるおそれがある。また、取付け時の衝撃の強さによってはフィルタ支持部60やこれに連結された連結部53やヒンジ9a,9bが破損するおそれがある。
【0085】
一方、本変形例によれば、フィルタ支持部60の裏面側に第2部分60aを設けることにより、第2部分60aを介して、フィルタ支持部60が基台上に安定して保持される。このことにより、フィルタ100を取付けるときのフィルタ支持部60のたわみやフィルタ100のぐらつきを抑制し、フィルタ支持部60にフィルタ100を安定して取付けることができる。また、第2部分60aの質量はフィルタ100の数%程度ではあるが、フィルタ支持部60の裏面側に第2部分60aを設けることにより、波長選択フィルタ装置10のZ方向での重心を、傾動軸Tに近づけることができる。このことにより、X方向やY方向から力を受けて、フィルタ100及びフィルタ支持部60が、傾動軸T以外の軸の周りに傾動するのを抑制できる。なお、フィルタ支持部60に第2部分60aを設けることにより、フィルタ支持部60自体の質量は大きくなる。フィルタ支持部60が重くなりすぎると、フィルタ支持部60のZ方向の変位量、ひいてはフィルタ100のZ方向の変位量が所定量よりも小さくなってしまうおそれがある。このような場合には、平面視で、第2部分60aの面積を小さくするようにするとよい。
図16において、単純に第2部分60aを縮小させるようにしてもよいが、他の形状、例えば、平面視ではしご状に第2部分60aを形成するようにしてもよい。
【0086】
また、本変形例によれば、連結部53の第2及び第3部分53d,53eの裏面側にストッパ53fを設けることで、フィルタ100及びフィルタ支持部60が所定量以上に傾動するのを抑制することができる。また、所定の方向以外の方向に傾動するのを抑制することができる。波長選択フィルタ装置10において、フィルタ100の質量が大きいため、例えば、アクチュエータ3の駆動量が所定量以上に大きくなりすぎると、傾動軸Tの周りにフィルタ100が傾動する場合においても、その傾動量が大きくなり、許容範囲以上の回転モーメントがフィルタ100に働いて、フィルタ支持部60や連結部53,あるいはヒンジ9a,9bを損傷するおそれがある。また、フィルタ100に対してX方向やY方向の加速度が加わる場合には、傾動軸T以外の軸の周りにフィルタ100が傾動し、同様に、フィルタ支持部60や連結部53,あるいはヒンジ9a,9bを損傷するおそれがある。
【0087】
一方、本変形例によれば、フィルタ100及びフィルタ支持部60が傾動軸Tの周りに所定量以上傾動しようとすると、ストッパ53fのY方向端部のいずれかが、対向する第3ベース部材23に当接して、それ以上にフィルタ100及びフィルタ支持部60が傾動するのを阻止する。フィルタ100に所定以上のY方向の加速度が加わった場合も同様である。また、フィルタ100に所定以上のX方向の加速度が加わった場合は、第2部分53dの裏面側のストッパ53f、または第3部分53eの裏面側のストッパ53fのいずれかが、対向する第3ベース部材23とX方向で当接して、傾動軸T以外の軸の周りにフィルタ100が傾動しようとするのを抑制できる。これらのことにより、フィルタ支持部60や連結部53等の不測の損傷を防止できるとともに、所定の方向に所定の範囲内でフィルタ100及びフィルタ支持部60を傾動させることができる。なお、ストッパ53fと対向する第3ベース部材23とは、フィルタ100及びフィルタ支持部60が所定量傾動するのを妨げない程度の所定の間隔をあけて設けられている。
【0088】
<<変形例4>>
図17Aは、本変形例に係る波長選択フィルタ装置の部分拡大図を、
図17Bは、波長選択フィルタ装置の別の部分の部分拡大図をそれぞれ示す。また、
図17Aは、
図14に示す領域Aに対応する部分拡大図であり、
図17Bは、
図14に示す領域Bに対応する部分拡大図である。なお、本変形例において、変形例2,3と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0089】
本変形例に示す構成と変形例2,3に示す構成との違いは、迂回ビーム4,連結部53の少なくともいずれかに第1突起部4aまたは第2突起部53gが設けられていることである。第1突起部4a及び第2突起部53aはそれぞれ第1シリコン層210で構成されており、基板200の上面と平行な方向に、本変形例ではX方向に延びて設けられている。また、第3ベース部材23には、第1突起部4aや第2突起部53gを収容する凹部23c及び/または23dが形成されている。
図17A,17Bにそれぞれ示すように、凹部23cと第1突起部4aとは所定の間隔L1をあけて配置されており、凹部23dと第2突起部53gとは所定の間隔L2をあけて配置されている。
【0090】
本変形例によれば、迂回ビーム4あるいは連結部53の表面積を増やすことができる。一般に、物体から熱が放散されるときの放熱時定数は、以下の式(1)で表わされる。
τc=mc/hA ・・・(1)
ここで、
τc:放熱時定数
m:物体の質量
c:物体の比熱
h:物体の熱伝達率
A:物体の表面積
である。
【0091】
式(1)から明らかなように、物体の表面積Aを増やすことにより、放熱時定数τcは減少する。つまり、より短時間で物体から熱が放散される。従って、第1突起部4a及び/または第2突起部53gを設けることにより、式(1)に示すように、迂回ビーム4及び/または連結部53の放熱時定数τcを小さくできるため、移動部である連結部53やフィルタ支持部60の応答速度を短縮することができる。ここで、移動部の応答速度はとは、アクチュエータ3に電圧を印加してから、移動部が所定の位置まで移動するまでの時間に相当する。併せて、アクチュエータ3から迂回ビーム4や連結部53に伝わる熱を速やかに放散することができる。このことにより、フィルタ100の温度上昇を抑制し、温度変化によってフィルタ100の光学特性が変化するのを防止できる。また、フィルタ100に加わる熱的ダメージを低減できる。
【0092】
また、本変形例において、前述の間隔L1,L2をそれぞれ数μm以下とすることで、迂回ビーム4及び/または連結部53からの放熱をさらに促進することができる。一般に、大気中に配置され、間隔をあけて対向する2つの物体間で温度差がある場合は、空気を介して両者の間で熱のやり取りが行われる。しかし、本実施形態においては、迂回ビーム4及び/または連結部53と第3ベース部材23との間隔は数μm以下と小さくなっており、このオーダーでの間隔では、熱抵抗が小さいため、第1突起部4a及び/または第2突起部53gから第3ベース部材23に速やかに熱が放散される。
【0093】
また、本変形例によれば、フィルタ200及びフィルタ支持部60が所定量以上に傾動しようとする場合、第1突起部4a及び/または第2突起部53gが第3ベース部材23に当接することで、所定量以上にフィルタ100及びフィルタ支持部60が傾動するのを阻止することができる。また、フィルタ支持部60の傾動軸以外の軸の周りに傾動しようとする場合にも、その傾動を抑制できる。これらのことにより、フィルタ支持部60や連結部53等の不測の損傷を防止できるとともに、所定の方向に所定の範囲内でフィルタ100及びフィルタ支持部60を傾動させることができる。なお、第1突起部4a及び第2突起部53gは、第1シリコン層210で構成されているため、一定以上の速度で第3ベース部材23に衝突すると、これらの部材4a,53gが破損する場合がある。従って、第1突起部4a及び/または第2突起部53gを上記のようにストッパとして用いる場合は、その強度、具体的には、第1突起部4a及び/または第2突起部53gのX方向及びY方向の長さやそれぞれの本数を適切に設定する必要がある。なお、要求される放熱仕様等に応じて、第1突起部4aと凹部23cのみを設けるようにしてもよいし、第2突起部53gと凹部23dのみを設けるにしてもよい。第1及び第2突起部4a,53gと凹部23c,53dをすべて設けるにしてもよい。
【0094】
<<変形例5>>
図18は、本変形例に係る波長選択フィルタ装置の平面図を、
図19は、
図18のXIX-XIX線での断面図をそれぞれ示す。また、
図20は、本変形例に係る放熱ブロックを下から見た平面図を示す。なお、本変形例において、変形例2,3と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、
図18,19に示す変位拡大機構は、放熱ブロック230aを除いて
図16に示す構成と同じである。
【0095】
本変形例に示す構成と実施形態1~3及び変形例2~4に示す構成との違いは、第1ビーム51及び第2ビーム52のZ方向下側に、これらビーム51,52と所定の間隔をあけて放熱ブロック230aが設けられている点にある。
図18,19に示すように、放熱ブロック230aは、ハンドル層である第2シリコン層230で構成されており、X方向の一端は、第3ベース部材23の第2シリコン層230に連結されている。また、放熱ブロック230aと第1電極101との間、及び放熱ブロック230aと第2電極102との間にはBox層220がそれぞれ介在しているため、放熱ブロック230aは第1及び第2ベース部材21,22とそれぞれ電気的には絶縁されている。また、
図19に示すように、第1ビーム51及び第2ビーム52と放熱ブロック230aとの間隔は、Box層220の厚さ(1μm)に相当する。
【0096】
本実施形態によれば、アクチュエータ3から第1及び第2ビーム51,52に伝わる熱を放熱ブロック230aを介して速やかに放散させることができる。変形例4で説明したように、2つの物体の間隔が数μm以下になると、空気が介在していても、第1ビーム51及びは第2ビーム52から放熱ブロック230aに速やかに熱が放散される。放熱ブロック230aに放散された熱は、放熱ブロック230aから直接大気に、あるいは放熱ブロック230aから第1及び第2ベース部材21,22の第2シリコン層230を介して放散される。このことにより、フィルタ100の温度上昇を抑制し、温度変化によってフィルタ100の光学特性が変化するのを防止できる。また、フィルタ100に加わる熱的ダメージを低減できる。また、第1及び第2ビーム51,52と放熱ブロック230aとの間では、Box層である酸化膜層220は設けられていないため、第1及び第2ビーム51,52はZ方向に変位可能である。ただし、これらビーム51,52がZ方向下側に変位して、放熱ブロック230aに当接しないように、放熱ブロック230aの配置や細部を適切に設定する必要がある。
【0097】
ここで、放熱ブロック230aは、例えば、
図5に示すシャッタ装置1の裏面層のエッチング処理工程において、図示しないマスクを用いて放熱ブロック230aを残すように第2シリコン層230をエッチング処理し、続けて、フッ酸系薬液を用いたエッチング等により、酸化膜層220を除去することで形成される。しかし、第1及び第2ビーム51,52と放熱ブロック230aとが平面視で重なる部分はX方向で数百μm~数mm程度あるため、当該重なる部分のY方向の幅によっては、Box層220のエッチング量が大きくなり、第1及び第2ベース部材21,22の酸化膜層220が側面からエッチングされてしまい、アクチュエータ3が駆動されて変位する際に、第1及び第2ベース部材21,22が変形してしまうおそれがある。また、薬液を用いたウエットエッチングでは、部材の表面張力や静電引力に起因した固着が生じるおそれがある。
【0098】
そこで、
図20に示すように、放熱ブロック230aに複数の肉抜き部(孔)231を設けることで、上記の問題を回避することができる。放熱ブロック230aの形成工程において、酸化膜層220を除去する際に、肉抜き部231から薬液が入り込むため、放熱ブロック230aに接した部分の酸化膜層220を除去する時間が短くなる。また、肉抜き部231を設けることにより、第1及び第2ビーム51,52と放熱ブロック230aとの対向面積を減らすことができる。これらのことにより、第1及び第2ビーム51,52や放熱ブロック230aでの表面張力や静電引力に起因した固着を抑制できる。以上のことから、第1ビーム51及び第2ビーム52と放熱ブロック230aと間の表面張力や静電引力を弱めて、これらが互いに固着したり、第1ビーム5や第2ビーム52が破損したりするのを防止できる。また、肉抜き部231を設けることで、放熱ブロック230aの表面積を増やし、放熱ブロック230aから速やかに熱を放散させることができる。なお、
図20において、放熱ブロック230aは、迂回ビーム4に近い側に配置されているが、特にこれに限定されない。例えば、
図14Aにおいて、第1ビーム5の中央部分や第2ビーム52の中央部分の下側に配置されていてもよいが、その場合は、フィルタ支持部60と放熱ブロック230aとが当接しないように放熱ブロック230aの位置を適切に設定する必要がある。また、平面視で、放熱ブロック230aが迂回ビーム4と一部または全部が重なるように配置されていてもよい。その場合は、放熱ブロック230aのX方向両端部がそれぞれ第3ベース部材23に連結されるとともに、当該連結部分がX方向で対向するようにしてもよい。
【0099】
(その他の実施形態)
なお、第1アクチュエータ7及び第2アクチュエータ8をそれぞれ単数のアクチュエータから構成してもよい。また、第1アクチュエータ7及び第2アクチュエータ8の大きさや構造は同じである必要はなく互いに違えてもよい。例えば、第1アクチュエータ7を1つのアクチュエータから構成し、第2アクチュエータ8を2つのアクチュエータから構成するなど、第1アクチュエータ7および第2アクチュエータ8を構成するアクチュエータの数が異なっていてもよい。また、第1アクチュエータ7を構成する部材の長さと第2アクチュエータ8を構成する部材の長さが異なっていてもよい。また、例えば、上側第1ビーム51a及び下側第1ビーム51bの上面にこれ等のビーム51a,51bの構成材料であるシリコンとは熱膨張係数の異なる材料を設けてバイメタル構造としてもよい。アクチュエータ3ないし第1及び第2アクチュエータ7,8で発生しビーム5に伝搬した熱をミラー6等の傾動に利用することができる。上側第2ビーム52a及び下側第1ビーム52bについても同様の構成とすることができる。
【0100】
また、実施形態1における折り返し部54や実施形態2における第1及び第2折り返し部54a,54bにおいて、第2端部5b,5bと第3端部5c,5cとがほぼ同じ位置で折り返し部54や第1及び第2折り返し部54a,54bに連結されていてもよい。具体的に言うと、第1ビーム51において、第2端部5bと第3端部5cとがいずれも折り返し部54における上面側に位置し、第2端部5bと第3端部5cとが直接連結されているような配置であってもよい。この場合でも、アクチュエータ3の駆動により折り返し部54に対し押す力と引っ張る力とを加えることができる。また、アクチュエータ3や第1及び第2アクチュエータ7,8で発生した熱がミラー6に伝搬して、ミラー6を構成する第1シリコン層210中のシリコンが金属膜61中に拡散し、光の反射特性等を変化させる場合がある。このようなシリコンの拡散を防止するために、金属膜61にシリコンの拡散防止膜を設けてもよい。例えば、金属膜61をAu/Pt/Ti膜としてもよい。変形例を含め上記の全ての実施形態において、必要に応じて、対応する部材に上記の構成を適用することができる。
【0101】
なお、実施形態3及び変形例2~5において、フィルタ100がフィルタ支持部60の上面(Z方向上側面)に載置された波長選択フィルタ10を示したが、
図21に示すように、フィルタ100がフィルタ支持部60の裏面(Z方向下側面)に載置されるようにしてもよい。なお、
図21に示す変位拡大機構は、
図14に示す変位拡大機構と同じであり、
図21に示す断面は、
図14に示す傾動軸Tを通るXZ平面に相当する。フィルタ100をこのように配置することで、基板200の上面、つまり、第1シリコン層210の上面が基台に接した状態でフィルタ100をフィルタ支持部60に取付けることができる。このことにより、フィルタ支持部60と基台との隙間がなくなり、フィルタ支持部60にフィルタ100を安定して取付けることができる。また、
図21から明らかなように、波長選択フィルタ装置10のZ方向の高さを低くすることができる。
図12,14に示す構成では、波長選択フィルタ装置10のZ方向の高さは、基板200の厚みとフィルタ100のZ方向の高さとの和に相当する。一方、
図21に示す構成では、波長選択フィルタ装置10のZ方向の高さは、第1シリコン層210の厚みとフィルタ100のZ方向の高さとの和に相当する。つまり、酸化膜層220と第2シリコン層230との厚みの和(約250μm)分、波長選択フィルタ装置10のZ方向の高さを低くすることができる。このことにより、波長選択フィルタ10を小型化できる。
【0102】
また、これに限らず、上記の各実施形態及び変形例で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、
図14,15に示す変位拡大機構を
図1に示す構成に適用してもよい。また、
図16に示すフィルタ支持部60の第2部分60aを、
図12,13に示す構成に設けるようにしてもよい。また、
図18~20に示す放熱ブロック230aを
図1,6,9に示す構成に適用することも可能である。ただし、アクチュエータ3やアクチュエータ7,8を駆動した場合に、放熱ブロック230aが第1及び第2ビーム51,52やフィルタ支持部60に当接しないように放熱ブロック230aの位置を適切に設定する必要がある。
【0103】
また、ここに開示する変位拡大機構を赤外線センサに適用してもよく、その場合は、例えば、
図1,6,9に示すミラー6に赤外線吸収体を付与すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
ここに開示された技術は、ミラー等の移動部をその表面と交差する方向に対して傾動させることができるとともに傾動量を大きくできるため、光学装置に適用する上で有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 ミラー装置
2 固定部
3 アクチュエータ
4 迂回ビーム
4a 第1突起部
23c,23d 凹部
51 第1ビーム(ビーム)
52 第2ビーム(ビーム)
53 連結部(移動部)
53a 第1連結部(移動部)
53b 第2連結部(移動部)
53g 第2突起部
54 折り返し部
54a 第1折り返し部
54b 第2折り返し部
60 フィルタ支持部
100 フィルタ
230a 放熱ブロック