(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】生物由来のポリエステル及び生体適合性無機化合物を含む組成物並びに化粧品分野におけるその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 8/24 20060101AFI20220420BHJP
A61K 8/84 20060101ALI20220420BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220420BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220420BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220420BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220420BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220420BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220420BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
A61K8/24
A61K8/84
A61Q11/00
A61K47/34
A61P1/02
A61P17/00
A61P31/04
A61K9/10
A61K47/02
(21)【出願番号】P 2019512038
(86)(22)【出願日】2017-05-09
(86)【国際出願番号】 IB2017052696
(87)【国際公開番号】W WO2017195108
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】102016000047978
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518399391
【氏名又は名称】バイオ-オン ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ロヴェーリ ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】レッリ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】マゼッティ マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】ペトラロイア サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ベゴッティ シモーネ
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】Materials Letters, 2007, vol.61, p.1071-1076
【文献】Materials Science and Engineering C, 2009, vol.29, p.2221-2225
【文献】Biomaterials, 1991. vol.12, p.841-847
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)及び少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む組成物であって、前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、0.1~10μm
の平均サイズを有する集合体の形態であ
り、前記集合体が、0.01~1.0μmの範囲の平均寸法及び50~80%の範囲の結晶化度(CD)を有するリン酸カルシウム粒子から構成される、組成物。
【請求項2】
前記集合体が、0.2~5μmの平均サイズを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム粒子が、0.05~0.5μmの範囲の平均寸法を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リン酸カルシウム粒子が、58~75%の範囲の結晶化度(CD)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のPHAが、式:
-O-CHR
1-(CH
2)
n-CO-(I)
を有する繰り返し単位を含むポリマーであり、式中、
R
1が、-H、C
1-C
12アルキル、C
4-C
16シクロアルキル、C
2-C
12アルケニルから選択され、ハロゲン(F、Cl、Br)、-CN、-OH、-COOH、-OR、-COOR(R=C
1-C
4アルキル、ベンジル)から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよく、
nが、0又は1~6
の整数である、
請求項1
~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
nが、1又は2である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のPHAが、5000~1500000Da
の重量平均分子量(M
w)を有する、請求項1
~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のPHAが、100000~1000000Daの重量平均分子量(M
w
)を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種のPHAが、0.1~100μm
の平均サイズを有する粒子の形態である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種のPHAが、0.2~20μmの平均サイズを有する粒子の形態である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、リン酸オクタカルシウム、リン酸トリカルシウム、アパタイト、ヒドキシアパタイトから選択される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、アパタイト又はヒドロキシアパタイトである、請求項
11に記載の組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、カルシウムイオンと部分置換している亜鉛イオンを更に含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、ホスフェートイオンと部分置換しているカーボネートイオンを更に含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、式:
Ca
10-xZn
x(PO
4)
6-y(CO
3)
y+z(OH)
2-z
を有するヒドロキシアパタイトであり、式中、
xが、0.0055~0.6の数であり、
yが、0.065~0.9の数であり、
zが、0~0.32の数である、
請求項1~
14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1種のPHAが、組成物の総質量に対して60~98質量%
の量で存在する、請求項1~
15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1種のPHAが、組成物の総質量に対して75~95質量%の量で存在する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、組成物の総質量に対して2~40質量%
の量で存在する、請求項1~
17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、組成物の総質量に対して5~25質量%の量で存在する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも1種の生物活性物質を更に含む、請求項1~
19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記少なくとも1種の生物活性物質が、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤及び鎮痛剤から選択される、請求項
20に記載の組成物。
【請求項22】
化粧用配合品における、請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項23】
請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のPHAを含む第1水性懸濁液を用意する工程と、
懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む第2水性懸濁液を用意する工程と、
前記第1水性懸濁液及び第2水性懸濁液を混合して、PHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項24】
少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む前記第2水性懸濁液が、カルシウムイオン(Ca
2+)を含む水溶液にリン酸(H
3PO
4)の水溶液を添加し、このようにして得られた溶液をリン酸カルシウムの水性懸濁液が得られるまで混合することで得られる、請求項
23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~
21のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
0.1~10モル/l
の濃度でカルシウムイオンを含む第1水溶液を用意する工程と、
前記第1水溶液に、懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のPHAの少なくとも1種の第1水性懸濁液を添加して、第2懸濁液を得る工程と、
前記第2懸濁液に、0.1~10モル/l
の濃度でホスフェートイオンを含む第2水溶液を添加する工程と、
このようにして得られた懸濁液を10~80℃
の温度で撹拌しながら維持して、PHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項26】
前記第1水溶液が、0.3~5モル/lの濃度でカルシウムイオンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第2水溶液が、0.2~5モル/lの濃度でホスフェートイオンを含む、請求項25又は26に記載の方法
【請求項28】
前記温度が、20~50℃である、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来のポリエステル及び生体適合性無機化合物を含む組成物と、化粧品分野におけるその適した使用に関する。より具体的には、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート及びリン酸カルシウムを含む組成物、また化粧用配合品における、有効成分を送達するためのその適した使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー物質は、化粧品及びパーソナルケア製品の処方において極めて広く用いられている。これらの配合品は大半が水性であるため、使用するポリマーは可能な限り水性環境に適合性でなくてはならない。実際、このせいで選択肢は一部の縮合ポリマー、特には一般的に毛髪及び封入剤用の固定剤として使用されているポリエステル及びポリアミドに限られてきた。これらのポリマーは、化粧品でよく見られる水性環境の大半においてある程度の不安定さはあるものの、水への溶解性が低いため、すすぎ過程を経ても簡単には除去されず、結果的に毛髪及び皮膚上により長く留まるという利点を有する。この特徴から、これらのポリマーは、生物由来のバイオポリマー及びポリエステルが利用し易くなっているにもかかわらず、依然として広く用いられている。
【0003】
化粧品及びパーソナルケア製品における合成ポリマーの使用は水質汚染における重要な要因であるため、これらの合成ポリマーを、有機溶媒の使用を必要とせず且つ可能な限り毛髪及び皮膚の表面上に留まらせるために水への溶解性を制御可能な他の生分解性製品に置き換えることが極めて重要である。
【0004】
材料の生分解性は、微生物による、生物地球化学的循環に加わることができる単純な分子への変換し易さに関係している。自然環境から得られた微生物又は遺伝子操作した微生物により製造されるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)ポリマーは高い生分解性を特徴とする。周知のように、これらは、炭素及びエネルギーの貯蔵庫としての役割を果たすポリマーであり、また成長に不適な条件下及び炭素源が過剰に存在する場合に多種多様な細菌種により蓄積される。PHAは約300種の異なる微生物種により合成、蓄積され、グラム陽性及びグラム陰性の細菌の属は90を超え、例えばバチルス属(Bacillus)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ロドスピリラム属(Rhodospirillum)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アゾトバクター属(Azotobacter)、リゾビウム属(Rhizobium)である。
【0005】
細胞において、PHAは微粒子の形態で貯蔵され、細胞1つあたりのその寸法及び数は細菌の種によって異なる。電子顕微鏡下では直径が0.2~0.7μmの屈折性細胞含有物に見える。細胞外炭素源がない場合、細菌は緊急体制に入り、これらの貯蔵物を炭素及びエネルギー基質として使用する。PHAは、細胞内代謝プロセス(例えば、細胞運動性及び様々な代謝経路における炭素貯蔵物の分配)の調節のかなめとなる化合物である。近年、ポリマーには、環境ストレス(例えば、浸透圧ショック、紫外線照射、脱水、熱及び酸化ストレス)からの細胞の保護等の更に重要な役割があることが判明している。PHAは、モノマー単位を形成する炭素原子の数に応じて2つのグループに分けられる。3~5個の炭素原子から構成されるPHAscl(短鎖長)、6~15個の炭素原子から構成されるPHAmcl(中鎖長)、またPHAlcl(長鎖長)は15個を超える炭素原子のモノマー単位を有する。PHAsclは高い結晶化度を有し、PHAmcl及びPHAlclは低結晶化度及び低融点のエラストマーである。
【0006】
PHAの主な特徴は以下の通りである。
・熱可塑性:温度に応じて物理機械的性質が変化する性質を利用して、様々なタイプの器具で加工できる。
・生分解性:生物由来のポリマー化合物に典型的な特徴であり、生物由来のポリマー化合物は概して合成された後、必要に応じて、特定の微生物酵素の作用で再度分解される。この特徴は環境という点からもこれらのポリマーを特に興味深いものにしており、その生分解性のおかげで、これまでのプラスチック材料のように埋立地の体積の増加に関与しない。
・生体適合性:人工器官又は手術器具を作製するための医療分野における応用可能性
・炭素収支:炭化水素(石油)の燃焼により大量の二酸化炭素が発生し、二酸化炭素は大気中に放出されると炭素循環で再吸収されることがない。他方、土壌中に存在する微小植物相によりPHAが自然に分解されることで、炭素は大気中に放出されることなく循環内に留まる。更に、バイオポリマーは再生可能な原料由来であるため、化石原料の利用可能性に左右されることがない。
・脆弱性及び弾性:これらは共に材料の重要な特性である。壊れやすいこと、力を加えると変形し易く、加えられた作用がなくなると元の形態を再度獲得する傾向は実用性が極めて高い性質である。
・低い気体透過性:酸素透過性及び他の気体の透過性は概して密接に関係している。従来の材料では、酸素透過性と二酸化炭素透過性との間に一定の関係がある。この関係はバイオポリマーでも見られる。ただし一部のバイオポリマーの二酸化炭素透過性は、従来の材料より高い傾向がある。
【0007】
出願人は、長い時間すすいでも皮膚及び毛髪のケラチン表面上に長時間にわたって留まる生分解性ポリマー成分として作用するだけでなく、塗布後も生物活性が長時間続く特定の有効成分の画期的担体及びディスペンサーとしても機能する化粧品及びパーソナルケア製品の処方におけるPHAの使用に取り組んできた。
【発明の概要】
【0008】
これらの結果を達成するため、出願人は、PHAをリン酸カルシウムをベースとした生体適合性無機微粒子に結合させることができ、リン酸カルシウムをベースとした生体適合性無機微粒子は、生理学的条件下で、化粧品及びパーソナルケア製品で使用される有効成分を送達することができ、繰り返し洗ってもPHAが容易には除去されないようPHAを留めるための物質としても働くことを発見した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、そのままのHA(スペクトルA)、HA+プロシアニジン(スペクトルB)、組成物HA+PHA+プロシアニジン(スペクトルC)、そのままのプロシアニジン(スペクトルD)、そのままのPHA(スペクトルE)のFT-IRスペクトルを示す。
【
図2】
図2は、PHA粒子そのままのSEM(走査電子顕微鏡)画像を示す。
【
図3】
図3は、プロシアニジンを含有するHA粒子と結合させた後のPHA粒子のSEM(走査電子顕微鏡)画像を示す。
【
図4】
図4は、PHAそのままの粒子の表面の組成についての、EDXプローブを用いた元素分析(エネルギー分散型X線解析)を示す。
【
図5】
図5は、プロシアニジンを含有するHA粒子に結合させた後のPHAの粒子の表面の組成についての、EDXプローブを用いた元素分析(エネルギー分散型X線解析)を示す。
【
図6】
図6は、そのままのHA(スペクトルA)、そのままのコエンザイムQ10(スペクトルB)、組成物HA+PHA+コエンザイムQ10(スペクトルC)、そのままのPHA(スペクトルD)のFT-IRスペクトルを示す。
【
図7】
図7は、そのままのHA(スペクトルA)、アスコルベート+HA(スペクトルB)、組成物HA+PHA+アスコルベート(スペクトルC)、そのままのアスコルベート(スペクトルD)、そのままのPHA(スペクトルE)のFT-IRスペクトルを示す。
【
図8】
図8は、そのままのHA(スペクトルA)、組成物HA+PHA+ラクトフェリン(スペクトルB)、そのままのラクトフェリン(スペクトルC)、そのままのPHA(スペクトルD)のFT-IRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従って、第1の態様において、本発明は少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)及び少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む組成物に関し、この少なくとも1種のリン酸カルシウムは0.1~10μm、好ましくは0.2~5μmの平均サイズを有する集合体の形態である。
【0011】
PHAに関し、PHAは好ましくは、式:
-O-CHR1-(CH2)n-CO-(I)
を有する繰り返し単位を含むポリマーであり、式中、R1は-H、C1-C12アルキル、C4-C16シクロアルキル、C2-C12アルケニルから選択され、場合によってはハロゲン(F、Cl、Br)、-CN、-OH、-COOH、-OR、-COOR(R=C1-C4アルキル、ベンジル)から選択される少なくとも1つの基で置換され、nはゼロ又は1~6、好ましくは1又は2の整数である。
【0012】
好ましくは、R1はメチル又はエチルであり、nは1又は2である。
【0013】
PHAはホモポリマー、コポリマー又はターポリマーのいずれにもなり得る。コポリマー又はターポリマーの場合、式(I)を有する異なる繰り返し単位、あるいはヒドロキシアルカノエートと共重合可能なコモノマー由来の少なくとも1つの繰り返し単位(例えばラクトン又はラクタム)と組み合わされた、式(I)を有する少なくとも1つの繰り返し単位から成り得る。後者の場合、式(I)を有する繰り返し単位は、繰り返し単位の総モル数に対して少なくとも10モル%の量で存在する。
【0014】
式(I)を有する特に好ましい繰り返し単位は、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシヴァレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシウンデセ-10-エノエート、4-ヒドロキシヴァレレート由来のものである。
【0015】
特に好ましいPHAは、ポリ-3-ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ-3-ヒドロキシヴァレレート(PHV)、ポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHH)、ポリ-3-ヒドロキシオクタノエート(PHO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドオロキシヴァレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート-コ-3-ヒドロキシウンデセ-10-エノエート)(PHOU)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヴァレレート-コ-4-ヒドロキシヴァレレート(PHBVV)又はこれらの混合物である、
【0016】
好ましくは、PHAは、5000~1500000Da、より好ましくは100000~1000000Daの重量平均分子量(Mx)を有する。
【0017】
好ましくは、PHAは、0.1~100μm、好ましくは0.2~20μmの平均サイズを有する粒子の形態である。
【0018】
PHAの製造に関して、これは好ましくは、PHAを製造可能な微生物種による有機基質(例えば、炭水化物又は他の発酵性基質、例えばグリセロール)の微生物発酵と細胞集団からのPHAの続く回収により行われる。さらなる詳細については、例えば特許出願WO/99/23146、WO2011/045625及びWO2015/015315を参照のこと。発酵によるPHAの製造に適した基質は特には野菜の加工から得られ、例えばサトウダイコン又はサトウキビの加工から得られるジュース、糖蜜、果肉である。これらの基質は概して、スクロース及び他の炭水化物に加えて、有機成長因子、窒素、リン及び/又は細胞の成長に栄養素として有用な他のミネラルを含有する。代替物にはバイオディーゼル製造時の副産物であるため低コストな有機炭素源であるグリセロールがあり、これはレブリン酸との混合に用いることができる(例えば、米国特許第8956835B2を参照のこと)。
【0019】
本発明で使用し得るリン酸カルシウムに関して、これは好ましくは、リン酸オクタカルシウム、リン酸トリカルシウム、アパタイト、ヒドキシアパタイトから選択される。リン酸カルシウムはより好ましくはアパタイト又はヒドロキシアパタイトである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、リン酸カルシウムは、カルシウムイオンと部分置換する亜鉛イオンも含む。好ましくは、リン酸カルシウム構造内における亜鉛イオンの置換度は総カルシウム含有量の0.1~20質量%である。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態において、リン酸カルシウムはホスフェートイオンと部分置換するカーボネートイオンも含む。好ましくは、リン酸カルシウム構造内におけるカーボネートの置換度は0.5~10質量%である。
【0022】
更に好ましい実施形態において、ヒドロキシアパタイトは以下の式:
Ca10-xZnx(PO4)6-y(CO3)y+z(OH)2-z
を有し、式中、
xは0.0055~0.6の数字であり、
yは0.065~0.9の数字であり、
zは0~0.32の数字である。
【0023】
上述したように、リン酸カルシウムは0.1~10μm、好ましくは0.2~5μmの平均サイズを有するマイクロメートル集合体の形態である。そしてマイクロメートル集合体は、0.01~1.0μm、好ましくは0.05~0.5μmの平均寸法を有するリン酸カルシウム粒子から構成される。
【0024】
本文及び添付の請求項において、リン酸カルシウム集合体及びPHA粒子の平均サイズは、レーザー源での動的光散乱により求められる(DLS法。例えば規格ISO 13320-1(1999)を参照のこと)。しかしながら、リン酸カルシウム粒子の平均サイズの測定に関しては、TEM(透過型電子顕微鏡)画像解析が好ましい。
【0025】
リン酸カルシウム粒子は好ましくは表面の正電荷と負電荷との間に中和不足があるため、有利には目的とする化粧品用途のための分子及び/又は有効成分との間に十分に安定した相互作用が形成される(例えば、静電結合)。本発明の好ましい実施形態において、リン酸カルシウム粒子は50~80%、より好ましくは58~75%の結晶化度(CD)を有する。
【0026】
結晶化度(CD)は、例えばX線回折データの解析といった当業者に周知の方法により求めることができる。特に、結晶化度(CD)は、Landi,E.,Tampieri,A.,Celotti,G.,Sprio,S.,“Densification behaviour and mechanisms of synthetic hydroxyapatites”,J.Eur.Ceram.Soc.,2000,20,2377-2387:
CD=(1-X/Y)・100
(式中、Y=2θ=33°での最大回折高さであり、X=ナノ粒子のX線回折パターンの2θ=33°での回折バックグラウンド高さである)に記載の方法により測定する。
【0027】
上で定義したリン酸カルシウムは、同一生物学的環境における同一遊離分子の活性と比べた場合に、結合した生物学的に活性な分子の生物学的活性を大幅に上昇させることができると考えられる。この向上した活性は主にリン酸カルシウム粒子の表面上の自由電荷の分布によるものであると考えられ、リン酸カルシウム粒子は生物活性有機分子と自然に静電引力を形成する。活性の更なる上昇は、生物活性分子が結合する粒子の広い表面積のせいでもある。
【0028】
リン酸カルシウムは好ましくは、リン酸(H3PO4)の水溶液をカルシウムイオン(Ca2+)を含有する水溶液に添加し、このようにして得られた溶液をリン酸カルシウムの水性懸濁液が得られるまで混合することで得られる。この混合物を概して6~48時間、好ましくは12~32時間にわたって25~70℃で撹拌しながら維持する。このようにして得られたリン酸カルシウム粒子の懸濁液を好ましくは洗浄も濾過もせずそのまま、懸濁した粒子の形態で少なくとも1種のPHAを含有する水性懸濁液の添加することで本発明の組成物の調製に使用する。好ましくは、リン酸カルシウムはか焼されない。
【0029】
任意の有効成分をリン酸カルシウムの合成中に、あるいはPHA懸濁液に、あるいはPHA懸濁液をリン酸カルシウム懸濁液と混合する際に添加し得る。
【0030】
上述したリン酸カルシウムの懸濁液の調製により、上記の値内で、制御された結晶化度のリン酸カルシウムが得られる。これは過度な結晶化度(90%より高い)を有するリン酸カルシウムだとリン酸カルシウムそれ自体の活性が大幅に低下し、これにより有機分子及び有効成分への結合能力が低下するからである。これに関し、リン酸カルシウムの他の合成方法では結晶化度をこのように制御できないことに留意されたい。特に、リン酸カルシウムをエマルションで調製し、続いて濾過後に生成物をか焼すると、90%に近い過度な結晶化度を有する材料が得られ、この材料の表面の反応性は低くなり、従って有効成分で官能化するにはあまり適さない。
【0031】
例えばY.Wang et al,Materials Letters 61(2007),1071-1076に記載されるように、リン酸カルシウム(特にはヒドロキシアパタイト)の水中油型エマルション法による合成は、エタノールとヘプタンとの混合物におけるドデシルアミンの溶液の調製を含み、そこに硝酸カルシウムの水溶液を強く撹拌しながら添加する。次に、リン酸水素アンモニウム(NH4)2HPO4の水溶液をこの混合物に添加する。撹拌しながらこの混合物を維持した後、生成物を濾別し、蒸留水及びエーテルで繰り返し洗浄し、乾燥させ、500℃で28時間にわたってか焼する。HAとPHBVと有効成分(ゲンタマイシン)との複合体を調製するにあたっては、ここでもエマルション法(水中油型固型エマルション)を用いて、ゲンタマイシンをHAナノ粒子に添加し、ゲンタマイシンが添加されたナノ粒子をボールミルで有機溶媒(ジクロロメタン)中のPHA溶液とポリエチレングリコール(PEG)と共に混合する。乳化剤としてメチルセルロースを含有する水に混合物を注いだ後、得られたエマルションを撹拌しながら維持し、次に溶媒を蒸発させた。最終生成物は、遠心分離、濾過及び乾燥(凍結乾燥)後に得られる。
【0032】
好ましくは、少なくとも1種のPHAは、本発明の組成物中に、組成物の総質量に対して60~98質量%、より好ましくは75~95質量%の量で存在する。
【0033】
好ましくは、少なくとも1種のリン酸カルシウムは、本発明の組成物中に、組成物の総質量に対して2~40質量%、より好ましくは5~25質量%の量で存在する。
【0034】
本発明の組成物は、中性及び塩基性のpH条件下では安定しており、事実上、水に不溶性であり、酸性環境で可溶性であることに留意されたい。この特徴により、本発明の組成物は、皮膚及び毛髪(中性又は若干塩基性)の生理学的pH条件下で実質的に安定となる一方、組成物は異なるpH条件(概して3.5~5.5、これらの値は感染症又は細菌量が多い場合に一般的に見られる)下で迅速に溶解し、化粧用配合品は生理学的条件を回復させる働きをする。
【0035】
結果として、本発明の組成物は、生物活性分子が結合した時、2つの機能を果たし得る。生理学的pH条件下では、組成物は、何度も洗浄した後であって毛髪及び皮膚のケラチンに付着したままであり、特定の有効成分を長時間にわたってそのケラチンに徐々に放出する。他方で、組成物が異なるpH条件下(非生理学的)で治療的効果を有する分子を放出する機能を有する場合、組成物はインシチュで可溶化され、有効成分を放出する。その一応用例は肌に直接触れる石鹸及び口腔衛生製品であり、生理学的pHのバランスをとる作用と、口腔衛生の場合は、酸性である歯垢の形成を防止する作用とを必要とする。
【0036】
従って、本発明の組成物は好ましくは少なくとも1種の生物活性物質を含む。これは、得られる効果に応じて幅広い生成物から選択し得る。
【0037】
第1の生物活性物質グループは抗酸化物質グループであり、酸化ストレスに対抗することを主な目的としており、酸化ストレスは酸化化学物質種の生産と抗酸化物質防御系による排出との間で生物の生理学的バランスが崩れることで引き起こされる病的状態である。抗酸化物質とは、他の物質の酸化を遅延させる又は防止する化学物質(分子、イオン、ラジカル)又は物理的物質である。酸化反応はなによりも、細胞に損傷を与える連鎖反応の引き金となるフリーラジカルを生成し得る。抗酸化物質は、ラジカルに介入し、他の酸化反応を阻害することでこれらの連鎖反応を終了させ、結果的にこれらは本質的に還元物質として働く。
【0038】
本発明の組成物に使用し得る酸化物質の一部は例えば:
ビタミンC(アスコルビン酸、アスコルベート);
ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール);
ポリフェノール(例えば、レスベラトロール、フラボノイド、プロシアニジン);
カロテノイド(例えば、リコピン、カロテン);
抗酸化作用を有するタンパク質(例えば、ラクトフェリン);
コエンザイム(例えば、コエンザイムQ10)。
【0039】
他の特に有用な生物活性物質はグリコサミノグリカン、特にはヒアルロン酸である。
【0040】
本発明の組成物に含め得る他の生物活性物質は、抗菌剤、抗炎症剤及び鎮痛剤から選択し得る。
【0041】
少なくとも1種の生物活性物質は、その具体的な物質、その活性及び得られる効果に応じて、広い範囲内の様々な量で組成物に含め得る。少なくとも1種の生物活性物質は概して、組成物の総質量に対して0.0001~30.0質量%、好ましくは0.001~15.0質量%の量で本発明の組成物中に存在する。
【0042】
第2の態様では、本発明は、化粧用配合品における上で定義した組成物の使用に関する。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、上で定義した組成物を調製するための第1の方法に関し、この方法は、
粒子の形態で少なくとも1種のPHAが懸濁している第1水性懸濁液を用意し、
粒子の形態で少なくとも1種のリン酸カルシウムが懸濁している第2水性懸濁液を用意し、
第1及び第2水性懸濁液を混合してPHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る
ことを含む。
【0044】
さらなる態様において、本発明は、上で定義した組成物を調製するための第2の方法に関し、この方法は、
0.1~10モル/l、好ましくは0.3~5モル/lの濃度でカルシウムイオンを含む第1水溶液を用意し、
この第1水溶液に、粒子の形態で少なくとも1種のPHAが懸濁している少なくとも第1水性懸濁液を添加することで第2懸濁液を得て、
この第2懸濁液に、0.1~10モル/l、好ましくは0.2~5モル/lの濃度でホスフェートイオンを含有する第2水溶液を添加し、
このようにして得られた懸濁液を10~80℃、好ましくは20~50℃で撹拌しながら維持することでPHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る
ことを含む。
【0045】
上述した両方の方法において、調製の最期に、本発明の組成物は沈殿物として分離し得て、あるいは懸濁液は、特に組成物を水の含有量が高い配合品の調製に使用する場合、そのまま使用し得る。
【0046】
PHAに関する限り、上記の方法において、PHAは好ましくは、0.1~100μm、より好ましくは0.2~20μmの平均サイズを有する懸濁した粒子の形態で使用する。
【0047】
本発明の組成物の調製に関しては、PHAそれ自体を製造する細菌発酵法から直接得られたPHAの水性懸濁液を、沈澱させたり乾燥させたりすることなく使用するのが有利である。製造方法から直接得られた水性懸濁液は、実際、均質性、分散及びPHAの粒径の点で最適な特徴を有する。発酵法で得られたPHAの水性懸濁液は、いずれの場合でも、好ましくは、発酵ブロス中に存在する残留物及び物質を除去するために事前に精製及び漂白ステップに供せられる。
【0048】
生物活性物質の導入に関して、生物活性物質は組成物調製法の任意のステップで添加し得る。上記の本発明の第1の方法の場合、生物活性物質は好ましくはリン酸カルシウムと共に添加される。これは、生物活性物質とリン酸カルシウムとの間の結合に役立ち、次にPHAに結合する。
【0049】
好ましくは、上述した本発明の第2の方法の場合、ここでもまたリン酸カルシウムと生物活性物質との相互作用を支援する目的で、生物活性物質をリン酸カルシウムの調製中に、特にはカルシウムイオンの溶液と共に又はホスフェートイオンの溶液と共に添加する。
【0050】
以下の実施例は純粋に本発明を説明するためのものであって、同封した請求項で定義される保護範囲を限定すると考えるべきではない。
【実施例】
【0051】
実施例1
ヒドロキシアパタイト(HA)の水性懸濁液を以下のようにして調製した。
【0052】
25.0gのCa(OH)2及び0.2gのCaCO3の水溶液を、これらの製品を250mlの脱塩水中で混合し、撹拌しながら1時間にわたって45℃で維持することで調製した。この溶液に、250mlの脱塩水中の6.3gのリン酸(H3PO4)溶液を滴加した。このようにして得られた混合物を撹拌しながら24時間にわたって25℃で維持した。このようにして得られたHAの懸濁液を後述するようにそのまま使用した。
【0053】
このようにして得られたHAは、上で定義されLandi,E.,Tampieri,A.,Celotti,G.,Sprio,S.,“Densification behaviour and mechanisms of synthetic hydroxyapatites”,J.Eur.Ceram.Soc.,2000,20,2377-2387に記載の方法に準拠して測定された結晶化度(CD)によりキャラクタリゼーションが行われる。得られたCD値は71.0%に等しかった。
【0054】
7.5gの脱塩水に溶解させた1gのプロシアニジンから成る溶液を調製した。溶液を上述したHA懸濁液(10gのHAを含有)に添加した。1つのHA結晶の寸法は0.05~0.4ミクロンであった。これらは次に1ミクロンの平均サイズを有するクラスタへと自然に集合した。
【0055】
懸濁液を、約60分にわたって撹拌しながら維持した。
【0056】
5gのPHA(発酵ブロスから得られた乾燥させていない粒子の形態。約10μmの平均サイズを有する)を10gの脱塩水に30分にわたって強く撹拌しながら懸濁させた(PHA濃度:10質量%)。
【0057】
プロシアニジンを含有するHAの懸濁液をPHAの懸濁液と混合し、混合物全体を120分にわたって撹拌しながら維持した。
【0058】
本発明の組成物を、得られた懸濁液から濾過により分離した。
【0059】
このようにして得られた出発材料及び組成物のキャラクタリゼーションは以下のようにして行った。
【0060】
FT-IRスペクトル
図1はそのままのHA(スペクトルA)、HA+プロシアニジン(スペクトルB)、組成物HA+PHA+プロシアニジン(スペクトルC)、そのままのプロシアニジン(スペクトルD)、そのままのPHA(スペクトルE)のFT-IRスペクトルを示す。HA単体に関わるスペクトルAにおいて、その存在は、1100-1030cm
-1にあるホスフェート基に典型的なバンドで観察できる。プロシアニジンと組み合わせた後(スペクトルB)、このバンドの強度が大きく低下したことが見て取れ、プロシアニジンに存在する基に特徴的でスペクトルDで見て取れるバンドが2800-3000cm
-1で強調される。
【0061】
PHAと組み合わせた後(スペクトルC)、PHA単体のスペクトル(スペクトルE)ではっきりと見えるPHAに典型的なバンドも、まず1800cm-1に、幾つか出現する。
【0062】
SEM画像
PHA粒子そのまま(
図2)及びプロシアニジンを含有するHA粒子と結合させた後のPHA粒子のSEM(走査電子顕微鏡)画像を何枚か撮影した(
図3)。HAと組み合わせる前及び組み合わせた後に、PHA粒子の異なる集合状態を観察できる。
【0063】
EDX分析
PHAそのままの粒子(
図4)及びプロシアニジンを含有するHA粒子に結合させた後のPHAの粒子(
図5)の表面の組成をEDXプローブを用いた元素分析(エネルギー分散型X線解析)により分析した。
【0064】
図4は、PHA粒子の表面に行ったEDX分析がいかにしてAu(金)(分析の実行に使用した機器により加えられるため存在する)、ナトリウム(PHAを懸濁させた液体中に存在すると思われる)、なによりも炭素及び酸素の存在を明らかにするかを示す。
【0065】
他方、
図5においては、元素分析により、ヒドロキシアパタイトに特徴的な元素であるカルシウム及びリンの存在が、ヒドロキシアパタイトが合成された同じ比で判明したことに留意されたい。これは、HAの薄い層がHAと相互作用するPHAのマイクロメートル顆粒上に堆積されたことを意味する。
【0066】
実施例2
7gの脱塩水に溶解させた21gのコエンザイムQ10から成る溶液を調製した。この溶液を、実施例1に記載の通りにして得られた10gのヒドロキシアパタイト(HA)の水中懸濁液に添加した。
【0067】
HAの単結晶の寸法は0.05~0.4ミクロンであった。次にこれらの結晶は1ミクロンの平均サイズを有するクラスタへと自然に集合した。
【0068】
懸濁液を撹拌しながら約60分にわたって維持した。
【0069】
PHAそれ自体を製造するための発酵法から直接得られた、事前に精製した10gのPHA懸濁液をコエンザイムQ10を含有するHAの懸濁液と混合した。混合物全体を撹拌しながら180分にわたって維持した。
【0070】
本発明の組成物を、そのようにして得られた懸濁液から濾過により分離した。
【0071】
このようにして得られた出発材料及び組成物のキャラクタリゼーションを以下のようにして行った。
【0072】
FT-IRスペクトル
図6は、そのままのHA(スペクトルA)、そのままのコエンザイムQ10(スペクトルB)、組成物HA+PHA+コエンザイムQ10(スペクトルC)、そのままのPHA(スペクトルD)のFT-IRスペクトルを示す。
【0073】
(HA単体に関わる)スペクトルAにおいて、その存在は、1100-1030cm-1にあるホスフェート基に典型的なバンドで観察できる。HA、Q10及びPHAと組み合わせた後(スペクトルC)、このバンドの強度が大きく低下したことが見て取れ、Q10に存在する基に特徴的でQ10単体に関するスペクトルBで見て取れるバンドが2800-3000cm-1で強調される。スペクトルCにおいて、PHA単体のスペクトル(スペクトルD)ではっきりと見えるPHAに典型的なバンドも、まず1800cm-1に、幾つか出現する。
【0074】
実施例3
実施例2を、コエンザイQ10の溶液の代わりに、5mlの脱塩水に溶解させたアスコルビン酸カリウム(0.20g)から成る溶液を使用して繰り返した。
【0075】
FT-IRスペクトル
図7は、そのままのHA(スペクトルA)、アスコルベート+HA(スペクトルB)、組成物HA+PHA+アスコルベート(スペクトルC)、そのままのアスコルベート(スペクトルD)、そのままのPHA(スペクトルE)のFT-IRスペクトルを示す。
【0076】
スペクトルAにおいて、その存在は、1100-1030cm-1にあるホスフェート基に典型的なバンドで観察できる。アスコルベートと組み合わせた後(スペクトルB)、このバンドの強度が大きく低下したことが見て取れ、アスコルベートに存在する基に特徴的でスペクトルDで見て取れるバンドが2800-3000cm-1で強調される。またスペクトルBにおいては、3200cm-1での吸収バンドの広がりも観察され、これはアスコルベートに典型的な吸収バンドがHAのものでオーバートーンされるからである。
【0077】
PHAと組み合わせた後(スペクトルC)、3200cm-1での上記のオーバートーンに加えて、PHA単体のスペクトル(スペクトルE)ではっきりと見えるPHAに典型的なバンドも、まず1800cm-1に、幾つか出現する。
【0078】
実施例4
濃度3.60g/lでカルシウムイオンを含有する100mlの溶液を、25℃にサーモスタット制御した環境にある反応フラスコに導入した。
【0079】
PHAそれ自体を製造するための発酵法から直接得られた、事前に精製した10gのPHA懸濁液を、上記のカルシウムイオン溶液と混合した。混合物全体を撹拌しながら60分にわたって維持した。
【0080】
ホスフェートイオンを含有する20mlの水溶液を別に17.85g/lの濃度で調製した。この溶液を、上記のカルシウムイオンを含有するPHA懸濁液に強く撹拌しながら滴加した(滴下速度は0.3ml/分)。次に、懸濁液を熟成させ、撹拌しながら25℃で約24時間にわたって撹拌した。
【0081】
最後に、10mlの脱塩水に200mgのラクトフェリンを溶解させることで得られたラクトフェリンの溶液(濃度:20mg/ml)を懸濁液に添加した。混合物全体を約360分にわたって撹拌しながら維持した。
【0082】
本発明の組成物をこのようにして得られた懸濁液から濾過により分離した。このようにして得られた出発材料及び組成物のキャラクタリゼーションを以下のようにして行った。
【0083】
FT-IRスペクトル
図8は、そのままのHA(スペクトルA)、組成物HA+PHA+ラクトフェリン(スペクトルB)、そのままのラクトフェリン(スペクトルC)、そのままのPHA(スペクトルD)のFT-IRスペクトルを示す。
【0084】
スペクトルAにおいて、その存在は、1100-1030cm-1にあるホスフェート基に典型的なバンドで観察できる。ラクトフェリンと組み合わせた後(スペクトルB)、このバンドの強度が大きく低下したことが見て取れ、そのままのラクトフェリン(スペクトルC)に存在する基に特徴的なバンドが2800-3000cm-1で強調される。PHAとの相互作用により、3200cm-1での上記のオーバートーンに加えて、PHA単体のスペクトル(スペクトルD)ではっきりと見えるPHAに典型的なバンドも、まず1800cm-1に、幾つか出現する。
【0085】
実施例5
実施例4に記載のものと同じ手順に従って、ラクトフェリン、ヒドロキシアパタイト及びPHAの2種の組成物を、濃度60mg/ml及び80mg/mlのラクトフェリンの溶液並びに実施例4で使用したものと同じHA及びPHAの水性懸濁液(ラクトフェリンとHA+PHAとの混合物との質量比は1:1)を使用して調製した。これらの組成物の抗菌効果を、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)ATCC35668の増殖に対するペトリ皿上での細菌の数により評価した。結果を表1に示す。この表はまた、実施例4で用いたものと同じ製品から得られたHAとPHAとの混合物(質量比1:1)、またラクトフェリン単体(濃度60mg/ml及び80mg/mlの水溶液)についての細菌増殖の低下の割合の値を比較のために示している。
【0086】
【0087】
得られた結果から、本発明の組成物を使用することで、別々の成分を使用する場合より(相乗効果)、改善された抗菌作用が得られることは明らかである。
本発明の好ましい態様は、下記の通りである。
〔1〕少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)及び少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む組成物であって、前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、0.1~10μm、好ましくは0.2~5μmの平均サイズを有する集合体の形態である、組成物。
〔2〕前記少なくとも1種のPHAが、式:
-O-CHR
1
-(CH
2
)
n
-CO-(I)
を有する繰り返し単位を含むポリマーであり、式中、
R
1
が、-H、C
1
-C
12
アルキル、C
4
-C
16
シクロアルキル、C
2
-C
12
アルケニルから選択され、ハロゲン(F、Cl、Br)、-CN、-OH、-COOH、-OR、-COOR(R=C
1
-C
4
アルキル、ベンジル)から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよく、
nが、0又は1~6、好ましくは1又は2の整数である、
前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記少なくとも1種のPHAが、5000~1500000Da、好ましくは100000~1000000Daの重量平均分子量(M
w
)を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記少なくとも1種のPHAが、0.1~100μm、好ましくは0.2~20μmの平均サイズを有する粒子の形態である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、リン酸オクタカルシウム、リン酸トリカルシウム、アパタイト、ヒドキシアパタイトから選択される、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、アパタイト又はヒドロキシアパタイトである、前記〔5〕に記載の組成物。
〔7〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、カルシウムイオンと部分置換している亜鉛イオンを更に含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔8〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、ホスフェートイオンと部分置換しているカーボネートイオンを更に含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔9〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、式:
Ca
10-x
Zn
x
(PO
4
)
6-y
(CO
3
)
y+z
(OH)
2-z
を有するヒドロキシアパタイトであり、式中、
xが、0.0055~0.6の数であり、
yが、0.065~0.9の数であり、
zが、0~0.32の数である、
前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔10〕前記少なくとも1種のPHAが、組成物の総質量に対して60~98質量%、好ましくは75~95質量%の量で存在する、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔11〕前記少なくとも1種のリン酸カルシウムが、組成物の総質量に対して2~40質量%、好ましくは5~25質量%の量で存在する、前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔12〕少なくとも1種の生物活性物質を更に含む、前記〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔13〕前記少なくとも1種の生物活性物質が、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤及び鎮痛剤から選択される、前記〔12〕に記載の組成物。
〔14〕化粧用配合品における、前記〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載の組成物の使用。
〔15〕前記〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のPHAを含む第1水性懸濁液を用意する工程と、
懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む第2水性懸濁液を用意する工程と、
前記第1水性懸濁液及び第2水性懸濁液を混合して、PHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る工程と、
を含む、方法。
〔16〕少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む前記第2水性懸濁液が、カルシウムイオン(Ca
2+
)を含む水溶液にリン酸(H
3
PO
4
)の水溶液を添加し、このようにして得られた溶液をリン酸カルシウムの水性懸濁液が得られるまで混合することで得られる、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記〔1〕~〔13〕のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
0.1~10モル/l、好ましくは0.3~5モル/lの濃度でカルシウムイオンを含む第1水溶液を用意する工程と、
前記第1水溶液に、懸濁液中の粒子形態の少なくとも1種のPHAの少なくとも1種の第1水性懸濁液を添加して、第2懸濁液を得る工程と、
前記第2懸濁液に、0.1~10モル/l、好ましくは0.2~5モル/lの濃度でホスフェートイオンを含む第2水溶液を添加する工程と、
このようにして得られた懸濁液を10~80℃、好ましくは20~50℃の温度で撹拌しながら維持して、PHA粒子とリン酸カルシウム粒子との集合体を得る工程と、
を含む、方法。