(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】浮力による分離方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20220420BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220420BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220420BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220420BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N5/0783
C12N1/00 B
C12M3/00 Z
C12M1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019532680
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 US2017066525
(87)【国際公開番号】W WO2018112262
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-11
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516337951
【氏名又は名称】ダイアグノロジックス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シ、グシン
(72)【発明者】
【氏名】リュー、キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ワン、イン - ティン
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0219636(US,A1)
【文献】NIH Public Access Author Manuscript、Published in final edited form as: Cancer J. 2010 ; 16(4): 374-381.,2011年,p.1-16,[online], [retrieved on 2021-09-28], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2929753/pdf/nihms221700.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/02
C12N 5/0783
C12N 1/00
C12M 3/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
様々な異なる細胞を含むサンプルから、複数の異なる細胞表面マーカーによって区別された細胞のスパースサブセットを単離するための、浮力による分離方法であって、
a)サンプルを
、分離方法全体にわたって使用される単一容器に入れる工程、
b)気体を包囲する内部気泡壁と、サンプルに含まれる細胞の第1サブセットの第1細胞表面マーカーに結合することができる第1抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第1の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、
c)第1抗体と第1細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第1抗体を第1細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、
d)サンプルの残り部分から、浮揚により、第1の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第1の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第1サブセットを分離することを可能にする工程、
e)サンプルにおける細胞の第1サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程、
f)単離された細胞の第1セットが浮揚しなくなるように、第1の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程、
g)気体を包囲する内部気泡壁と、細胞の第1サブセットに含まれる細胞の第2サブセットの第2細胞表面マーカーに結合することができる第2抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第2の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、
h)第2抗体と第2細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第2抗体を少なくとも一つの第2細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、
i)サンプルの残り部分から、浮揚により、第2の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第2の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第2サブセットを分離することを可能にする工程、および
j)細胞の第1サブセットにおける細胞の第2サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程
を含む、浮力による分離方法。
【請求項2】
第1および第2の細胞表面マーカーは、CD8、CD62L、CD45RA、CD3およびCD28のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
k)単離された細胞の第2サブセットが浮揚しなくなるように、第2の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程、および
l)細胞の第3サブセットのために、標的されていなかった標的細胞表面マーカーに結合することができる使用されていなかった抗体に共役した追加の柔軟なシェルマイクロバブルを利用することにより、工程g)から工程k)までを繰り返す工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞表面マーカーは、CD8+、CD62L+およびCD45RA+であり、細胞のスパースサブセットは、ナイーブT細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞のn番目のサブセットのために、標的されていなかった標的細胞表面マーカーに結合することができる使用されていなかった抗体に共役した追加の柔軟なシェルマイクロバブルを利用することにより、工程I)を繰り返すことをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
容器の底部から廃棄物を除去することを含む、容器から廃棄物を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
望ましくない細胞をそれぞれのマイクロバブルと結合させ、容器の上部に浮揚させ、容器の上部から、これらのそれぞれのマイクロバブルに結合した望ましくない細胞を除去することによって、望ましくない細胞としての廃棄物を容器から除去することにより、ネガティブ選択で容器から廃棄物を除去する工程をさらに含み、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
容器内でプランジャを移動させることを含む、容器から廃棄物を除去する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
容器内でプランジャを移動させることを含む、容器から廃棄物を除去する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
柔軟なシェルマイクロバブルが受ける圧力を増加させることを含む、第1、第2およびその後の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
容器内でプランジャを移動させることを含む、マイクロバブルが受ける圧力を増加させることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞のスパースサブセットは、T細胞を含んでおり、
m)気体を包囲する内部気泡壁と、T細胞と免疫学的シナプスを形成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、細胞のスパースサブセットに加える工程、
o)T細胞のスパースサブセットを活性化および増殖するために、十分な時間スパンにわたってT細胞およびリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルをインキュベートする工程、
p)組換えMHCに結合したユニークなペプチド、および抗CD28または組換えCD80やCD86のような補助刺激分子と組み合わせることで、特異的T細胞の活性化を達成する工程、および
q)抗CD3、および抗CD28または組み換えCD80やCD86のような補助刺激分子と組み合わせることで、非特異的T細胞活性化を達成する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
サンプルは、ヒトもしくは動物の血液、他のヒトもしくは動物の体液、または人工緩衝液からのT細胞、B細胞、腫瘍浸潤リンパ球、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、内皮細胞、幹細胞、および癌細胞のうちの1つまたはそれらの組合せのような様々な異なる細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
様々な異なる細胞を含むサンプルから細胞のスパースサブセットを単離することは、ポジティブ選択、ネガティブ選択、またはその両方の逐次的組合せによって行われる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年12月16日に出願された米国仮特許出願第62/435,083号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究に関する陳述)
本発明は、国立衛生研究所によって授与された1R43CA176892-01A1、3R43CA176892-01A1S1、2R44CA176892、1R43HL126285-01、2R44HL126285-02A1、およびHHSN261201700051Cに基づく、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、細胞および他の生物学的因子の大量単離、連続多重マーカー選別、刺激、操作、培養、および増殖のための単純なエンドツーエンドの装置およびシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
すべての細胞療法にとっての大きな課題は、費用対効果が高く効率的な製造および供給能力、例えば、T細胞のサブセットを単離するためのスケーラブルで自動化された閉鎖システムの作成などを開発する必要にある。例えば、マウスおよびヒトにおける研究では、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を用いて遺伝子操作された低分化型T細胞の注入(infusion)が、優れた細胞増殖、持続性、および癌排除をもたらすことを示す。T細胞のサブセット(例えば、ナイーブCD8+細胞)を選別および単離することは、多重マーカー(例えば、CD8、CD62LおよびCD45RA)を必要とするが、これらはスケールアップおよび自動化することが困難である。
【0005】
FACS(fluorescence activated cell sorting、蛍光活性化細胞選別)は、個々の細胞の詳細な分析に最もよく使用される製品である。FACSの使用において、細胞の大量単離のためにスケールアップすることが困難である。磁気細胞選別(MACS)技術、特に、ミルテニーシステムは、大量の標的細胞単離のために使用される。マイクロビーズ(例えば、ダイナビーズ(Dynabeads))に結合した細胞は、混合管の外側の外部磁石によって引き出すことができる。しかし、抗体単独または抗体共役ナノビーズではなく、抗体共役マイクロビーズを細胞に結合させると、プロセスが遅くなる。したがって、ほとんどの市販の磁気細胞選別システムは、マイクロビーズ共役抗体ではなく、ナノビーズを使用している。MACSに関する最大の問題の1つは、磁気微粒子(>1μm)と結合した単離細胞が破壊されることが多いことである。
【0006】
既存のMACS技術は、強い外部磁石によって生成された磁場において、高勾配磁気細胞分離カラムを適用して、ナノビーズ標識細胞を磁化する。MACSは、強磁気のスチールウール充填カラムを使用して、低磁気ナノビーズと外部磁石との間の長距離相互作用を強化する。しかしながら、このシステムにおけるスチールウール充填カラムを使用すると、カラム詰まりや製造コストの増加などの他の技術的問題が生じる。さらに、MACSナノビーズは、エンドサイトーシスによって、細胞表面または内部のいずれかで標的細胞に付着する。これにより、MACSの適用は、主に単一の表面マーカーに基づく細胞濃縮に限定される。
【0007】
国際特許出願公開WO2015/175344 A1号のパンフレットに記載されているように、細胞単離のための標的マイクロバブルを適用することにより、BUBLES(浮揚が可能な分離)または浮揚活性化細胞選別(BACS)技術が細胞単離のために開発されている。
【0008】
マルチパラメータMACSとして、従来技術は、細胞と親和性リガンドに共役した磁気ビーズとの可逆的結合を可能にするいくつかの方法を含む。これらは、複数の細胞表面マーカーを逐次的に標的とすることによって開発された。例えば、ストレプタマー(Streptamer)技術は、ストレプタグ(Strep-tag)と融合するように設計されているストレプタクチン(Strep-Tactin)多量体化低親和性一本鎖抗体に結合することにより、磁気微粒子(約1μm)の可逆的標的細胞結合を可能にする。従来技術における他の技術は、細胞または磁気ビーズから解離できる修飾抗体を使用する。これらの方法は、通常、目的の抗体に対する広範な修飾を必要とし、FACS、BACSおよび他の形態の親和性精製のようなMACS以外のプラットフォームに適用され得る。
【0009】
WO2015/175344A1には、臨床応用のために、循環腫瘍細胞および臍帯血幹細胞の単離を含むBACS法が開示されている。この技術は、大量な細胞分離の実行において、他の従来技術に対していくつかの利点を有する。第一に、その脂質シェルマイクロバブルは、最も圧縮性と柔軟性に優れたシェルクラスのマイクロバブル(さらにアルブミン、ポリマー、ガラスなどを含む)であるため、外力(例えば、超音波および結合細胞)に対する自己成形的である。ガスコアと共役すると、細胞を単離するための非常に優しい材料となる。第二に、マイクロバブルと結合した細胞が自動的に液体の上面に浮揚するので、その使用するマイクロバブルは「自己運転ビークル」である。第三に、その使用する脂質シェルマイクロバブルは、水性溶液から自己分離し、他のマイクロバブルに自己濃縮/凝集する。第四に、細胞に結合したマイクロバブルを扱うという技術のユーザは、周囲の気圧を上げることによって、細胞にダメージを与えることなく、内部の結合を破壊することができる。
【0010】
乳化は、リン脂質シェル内にペルフルオロヘキサンガスマイクロバブル(MB)を調製するために使用される。マイクロバブル膜においてDSPE-PEG3400-マレイミドを使用して、抗体をマイクロバブルに共役させる。それは、抗体あたり1~2個のチオール基を有するFcフラグメント特異的IgGを用いて、マイケル付加を介して、抗体をマレイミド活性化MBに共役させる。この技術は、連結のために、上皮起源の循環腫瘍細胞を単離するための最も広く受け入れられているマーカーである抗EpCAMなどの標的抗体を使用する。このプロセスにおいて、ほとんどのMBの直径が3~10μmである。各MBは、平均367,000の抗FcIgG分子を有する。
【0011】
BACS(またはBUBLES)は、革新的な細胞単離/選別プラットフォームであって、挑戦的なタスクのために単独でまたは従来技術における他の2つの主要なプラットフォーム(FACSおよびMACS)と組合せて使用することができる。その好ましい実施形態では、本開示は、単一の容器装置において、ヒト細胞の大量の単離、多重マーカー選別および操作を行うために、BACSを使用する。他の実施形態では、本開示は、前記単離、選別および操作プロセスを行うために、BACSとFACSまたはMACSとを組合せて使用する。
【0012】
細胞ベースの治療法は、急速に発展している研究であり、また、患者の利益に大きな可能性がある。現在の臨床試験における細胞療法の大部分は、造血幹細胞もしくは間葉系幹細胞や、遺伝性疾患および癌に対する免疫T細胞であり、これらの標的細胞は、非常にまれなサブセットであること、および血液またはヒト組織中の不均質な細胞混合物からの特異的分離のための複数の細胞表面マーカーの必要があることという共通のよく知られている特徴を有し、また、単離、増殖およびインビトロ操作の際に、細胞分化の進行の調節または細胞の幹細胞性(sternness)の維持は非常に困難である。本発明は、これらの多くの課題を克服することを意図している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、他の多くの目的以外、全ての細胞療法に対する2つの主な課題、すなわち、(1)十分な量の標的細胞を費用効果的にスケールアップするための堅牢な製造手順、および(2)患者への臨床投与の前に標的細胞の生物学的特徴を制御と維持する能力という課題を克服することを目的とする。本発明の他の目的は、簡単なエンドツーエンド装置およびシステムにより、これらの2つの課題を克服/改善するための技術を提供して、上記の目的(1)および(2)を達成することであり、さらに具体的には、前述の目的を達成するための一連の工程で、汚染から安全な無菌環境における細胞の大量単離、連続多重マーカー選別、刺激、操作、培養、および増殖を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一態様によれば、様々な異なる細胞を含むサンプルから、複数の異なる細胞表面マーカーによって区別された細胞のスパースサブセットを単離するための、浮力による分離方法であって、a)サンプルを容器に入れる工程、b)気体を包囲する内部気泡壁と、液体サンプルに含まれる細胞の第1サブセットの第1細胞表面マーカーに結合することができる第1抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第1の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、c)第1抗体と第1細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第1抗体を第1細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、d)サンプルの残り部分から、浮揚により、第1の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第1の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第1サブセットを分離することを可能にする工程、e)サンプルにおける細胞の第1サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程、f)単離された細胞の第1セットが浮揚しなくなるように、第1の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程、g)気体を包囲する内部気泡壁と、細胞の第1サブセットに含まれる細胞の第2サブセットの第2細胞表面マーカーに結合することができる第2抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第2の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、h)第2抗体と第2細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第2抗体を少なくとも一つの第2細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、i)サンプルの残り部分から、浮揚により、第2の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第2の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第2サブセットを分離することを可能にする工程、およびj)細胞の第1サブセットにおける細胞の第2サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程を含む、浮力による分離方法が作成される。
【0015】
本発明の第二態様によれば、前記の方法を実行するためのシステムであって、「内部容器空間を画定する内壁を有する容器」、「内壁と密封的に接続され、内壁に対して可動なプランジャ」、「内部空間を周囲空間に接続させ、気体、液体および固体材料を内部空間に送り込んだり内部空間から送り出したりすることを可能にする、開閉可能な弁を備えたポート」、および「内部容器空間における柔軟なマイクロバブル」を含み、前記マイクロバブルは、気体を包囲する内部気泡壁と、液体サンプルに含まれる細胞の第1サブセットの第1細胞表面マーカーに結合することができる第1抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える、システムが作成される。
【0016】
本発明の第三態様によれば、a)気体を包囲する内部気泡壁と、単離されたT細胞上で細胞接触依存性のジュクスタクリンシグナル伝達を達成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟な脂質シェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、単離されたT細胞に加える工程、およびb)気体を包囲する内部気泡壁と、T細胞と免疫学的シナプスを形成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟な脂質シェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、単離されたT細胞に加える工程、を含む、単離されたT細胞を活性化および増殖するための方法が作成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つの実施形態は、循環腫瘍細胞、臍帯血幹細胞およびTリンパ球の単離を含む、臨床応用のための浮力による分離方法およびシステム(以下、その頭字語であるBUBLESで参照される)に関する。この技術は、大量な細胞分離の実行において、他の技術と比較していくつかの利点を有する。第一に、その脂質シェルマイクロバブルは、例えば、アルブミン、ポリマーまたはガラスと比較して、最も圧縮性と柔軟性に優れたシェルのマイクロバブルであるため、外力(例えば、超音波および結合細胞)に対する自己成形的である。ガスコアと共役すると、細胞を単離するための非常に優しい材料となる。第二に、マイクロバブルと結合した細胞が自動的に液体の上面に浮揚するので、その使用するマイクロバブルは「自己運転ビークル」である。第三に、その使用する脂質シェルマイクロバブルは、水性溶液から自己分離し、他のマイクロバブルに自己濃縮/凝集する。第四に、細胞に結合したマイクロバブルは、周囲の気圧を上げることによって、細胞にダメージを与えることなく、内部の結合を破壊することができる。以下、マイクロバブルのこれらのユニークな利点は、細胞治療の課題の解決にどのように役立つかを説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
実施形態は、例として示され、添付の図面の図に限定されず、図面において同じ参照符号で同じ要素を示す。
【
図1】本発明の一つの実施形態によるシステムを第1構成で示す。
【
図2】本発明の一つの実施形態によるシステムを第2構成で示す。
【
図3】本発明の一つの実施形態によるシステムを第3構成で示す。
【
図4】本発明の一つの実施形態によるシステムを第4構成で示す。
【
図5】本発明の一つの実施形態によるシステムに含まれる接続/閉鎖機構を概略的に示す。
【
図6】本発明の一つの実施形態によるシステムに含まれる別の接続/閉鎖機構を概略的に示す。
【
図7】本発明の一つの実施形態によるシステムに含まれるプランジャを概略的に示す。
【
図8】本発明の一つの実施形態によるシステムに含まれる別のプランジャを概略的に示す。
【
図9】従来技術と比較して、マイクロバブルを含む本発明の好ましい実施形態の細胞増殖の結果を示す。
【
図10】従来技術と比較して、マイクロバブルを含む本発明の好ましい実施形態の細胞生存率の結果を示す。
【
図11】先行技術と比較して、マイクロバブルを含む本発明の好ましい実施形態の細胞増殖の結果の倍率変化の結果を示す。
【
図12】血中の稀な集団であるナイーブT細胞の例を記載する。
【
図13】組織(ここでは骨髄)中の稀な集団である幹細胞の例を記載する。
【
図14】他の望ましくない細胞混合物と混合された低い標的細胞濃度をもたらす第一の従来技術の選択戦略を示す。
【
図15】他の望ましくない細胞混合物と混合された低い標的細胞濃度をもたらす第二の従来技術の選択戦略を示す。
【
図16】他の望ましくない細胞混合物と比較的少ない程度しか混合され得ない高い標的細胞濃度をもたらす選択戦略を示す。
【
図17】ポジティブ連続選択による細胞療法における製造工程を示す。
【
図18】T細胞と抗原提示細胞(APC)との間のリガンドおよび受容体の相互作用を概略的に示す。
【
図19】免疫学的シナプスにおける受容体-リガンド対が、極性および対称性を含む独特のパターンで組織化されていることを概略的に示す。
【
図20】T細胞とAPCとの間の免疫学的シナプス、および本発明の実施形態に従う、T細胞とAPCを似たマイクロバブルとの間の免疫学的シナプスを概略的に示す。
【
図21】異なる献血者による1回以上の再刺激において、抗CD3/CD28共役ダイナビーズおよび抗CD3/CD28共役マイクロバブルを使用することによるT細胞増殖の比較を示す。
【
図22】蛍光染色によるT細胞と抗CD3/CD28共役マイクロバブルとの間の免疫学的シナプスの形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明および図面は例示的なものであり、限定的に解釈されるべきではない。徹底的な理解を提供するために、多数の特定の詳細が記載されている。しかしながら、場合によっては、説明が曖昧になることを避けるために、よく知られている詳細または従来の詳細は説明されていない。本開示における一つの(oneまたはan)実施形態への参照は、必ずしも同じ実施形態への参照ではなく、そのような参照は少なくとも1つを意味する。
【0020】
本明細書における見出しの使用は、単に参照を容易にするために提供されており、決して本開示または添付の特許請求の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0021】
本明細書において「一つの(one)実施形態」または「一つの(an)実施形態」などへの参照は、その実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一つの実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を参照しているわけではなく、他の実施形態を相互に排除する別個のまたは代替の実施形態でもない。さらに、他の実施形態によってではなく、いくつかの実施形態によって示されてもよい様々な特徴が説明される。同様に、他の実施形態に対する要件ではなく、いくつかの実施形態に対する要件であり得る様々な要件が説明される。
【0022】
本開示は、単一の容器における細胞および他の生物学的因子の大量単離、選別、刺激、増殖、および操作のための装置およびシステムを含む。その好ましい実施形態では、本開示は、単一の密閉容器において、ヒト細胞を繰り返し単離、選別、刺激、増殖または操作するために、マイクロバブルに添付した抗体ベースの親和性リガンドと連続BACS(またはBUBLES)とを使用する。
【0023】
図1~4は、本開示の好ましい実施形態の1つのバリエーションを示す。ここで、末梢血単核球(PBMC)1である試料細胞1は、注射器状の容器3の中で抗CD8マイクロバブル2と混合してインキュベートする。マイクロバブル2および標的細胞4は徐々に液面に浮揚する(
図2)。標的細胞4の集団(CD8+細胞)は、容器の開口部6が地面に向くように(
図2)、プランジャ5(
図3)を押すことによって保持される(ポジティブ選択)。このポジティブ選択のために、液体の大部分は廃棄される。続いて、容器内の空気空間0における周囲空気圧を増加させることによってマイクロバブル2が破壊され、当該周囲空気圧は、キャップ7が容器の開口部に取り付けられたとき(
図4)に空気を圧縮すること、例えば、プランジャを動かすことによって作り出される。BACSの次のサイクルでは、緩衝液を含む第2種の標的マイクロバブル2(抗CD62L)を抗CD8選別細胞と混合する。プロセスは前述のようにリスタートされる(
図2~4)。抗CD45RAマイクロバブル2を用いた3回目のサイクルの後、注射器状の容器3におけるナイーブCD8+のT細胞集団(CD8+CD62L+CD45RA+)は、培地において抗CD3/抗CD28共役マイクロバブル2に連結させることによって、刺激および増殖される。その後の操作(例えば、キメラ抗原受容体によるウイルス形質導入)も同じ容器3で行うことができる。
【0024】
上記の図では、3つの連続するポジティブ選択が適用される。他の出願は、マイクロバブル2に結合した標的細胞を除去するためのネガティブ選択工程を紹介できる。ネガティブ選択は、容器の開口部6が、
図2に示された状態ではなく、
図1に示すように地面と反対側に向く配向を採用することによって、達成される。国際特許出願公開WO2015/175344 A1号および
図6に記載されているように、ネガティブ選択に特に適した他の装置またはアダプタに関連する。
【0025】
本発明のシステムにおける接続/閉鎖機構の好ましい実施形態は、多数の医療器具および実験室器具とインターフェースする標準のルアーロック8を備える。アダプタ9または11は、注射器状の容器3の一端部の開口部6を密封することにより、親和性リガンドに共役したマイクロバブルおよび細胞内容物を操作して、採取された細胞を集め、また、プランジャ5は、形状が凸状または凹状になるように修飾されたプランジャ先端部10を有し、親和性リガンドに共役したマイクロバブル2と溶液中の細胞との間の空間を満たし、容器3の他方の端部に挿入される。プランジャは自動的または手動で操作できる。プランジャ先端部10の形状は、プランジャ5の前面形状の変化前後を示す
図7と
図8との間の矢印で概略的に示されるように、ダイヤフラム弁の機構によって調節または調整することができる。プランジャの形状は、選択プロセスの異なる工程の間におけるユーザのニーズに対応するように、システムの使用中に調整することができる。例えば、プランジャは、より多くの浮揚マイクロバブルを収容するように凹状に調整すること、および最終製品からより多くの廃棄物を排出させるように凸状に調整することができる。これらのプランジャの前面形状も、各工程の性能を高めるために、プロセス中に調整される。プランジャを異なる工程に完全に交換することもでき、すなわち、プランジャの選択を含むキットが提供される。これにより設計の簡単化を提供しているが、工程の間においてプランジャを交換することは、キャップ7、ルアーロック8またはアダプタ9を介すこと以外、容器を開くことを含むので、無菌性の観点から好ましくない。
【0026】
本開示の装置の他の実施形態は、異なる硬質または軟質の密閉容器、異なる構成タイプの注射器状の容器3、異なるタイプのアダプタまたはプラグ、異なる親和性リガンドの組合せ、および異なる角度で反転するまたは全く反転しないプランジャからなり得る。他の実施形態は、他の種類の細胞および生物学的因子を単離、選別、操作、刺激および増殖することもできる。最後に、本開示の他の実施形態では、BACSと併せて、MACSまたはFACSを使用することができる。
【0027】
図1~4は、本開示の好ましい実施形態の一つのバリエーションを示す。これらの図において、密閉の容器3は、上述のように、プランジャを有する単一の注射器状の構成からなり、キャップで密封されてもよい。容器3内には、サンプル細胞または生物学的因子を単離、選別、操作、刺激または増殖するために使用される親和性リガンドに共役したマイクロバブル2の溶液がある。単一の容器3における多重マーカー選別のための連続BACS(またはBUBLES)の使用は上記の通りである。
【0028】
標的マイクロバブルを用してナイーブT細胞の連続多重マーカー単離を示すために、注射器において、0.2%BSA緩衝液中の10
8/mlのPBMCを最初に抗CD8MB(マイクロバブル)と共にインキュベートした。注射器内の混合物を4℃で20分間穏やかに回転させた。続いて、注射器を
図2に示すような位置に10分間保持した後、プランジャを穏やかに押すことにより、溶液における望ましくない細胞を除去して、
図3に示されるように浮力があるMB層を保持した。0.2%BSA緩衝液を補充することにより、保持されたMB層を1回洗浄した。最後に、注射器を
図4に示されるように保持し、その開口部をキャップで密封した。マイクロバブルは、プランジャを押して周囲圧力を約2~3気圧に上昇させることにより、破壊された。同じ手順は、抗CD62L MB、続いて抗CD45RA MBを適用することにより繰り返された。FACS分析により、CD8+、CD62L+またはCD45RA+集団のいずれかについて、各単一マーカー単離の細胞純度が80%を超えることを証明した。概念実証の連続多重マーカー単離では、CD8+/CD62L+/CD45RA+トリプルポジティブ細胞集団が、2%(元PBMC)から約60(40~80)%まで濃縮された。
【0029】
図5は、本開示の1つの好ましい実施形態からの装置の頂部を示す。ここで、部分的に密閉容器を含む注射器状の構成は、装置が様々な医療器具および実験器具とインターフェースすることを可能にする、ルアーロック8が使用される。
【0030】
図6は、円筒状アダプタ9を注射器状の容器3の開口部6に接続させることにより、容器を密封し、
図4に示されるようにプランジャを押すことによって高い周囲圧力を作り出すことにより、マイクロバブルを破壊することを示す。
【0031】
図6は、本開示のもう一つの好ましい実施形態からの装置の上半部を示す。ここで、単離、選別、操作、増殖、または刺激された細胞サンプルを収集するための、異なる反転アダプタ11が使用される。なお、その他の点では
図6は
図5と同一である。
【0032】
他の種類のアダプタ、例えば、汎用の2方向、3方向または4方向のルアーロックコネクタは、注射器状の容器3の開口部6に接続され、密閉容器においてBACSを繰り返し適用した後、分類、単離、操作、刺激、または拡張されたサンプルを大量に収集する。ここで、親和性リガンドに共役したマイクロバブルの溶液はサンプルに注入され、当該サンプルはヒト血液および他の体液または組織からの標的細胞集団からなる。
【0033】
図7は、好ましい実施形態のプランジャ5を示す。この好ましい実施形態では、プランジャ5のプランジャ先端部10は、ダイアフラム弁または他の類似の装置を制御する機構を介して、相互に変換して、凹状を形成することができる。先端部は、プランジャ5内に液体または空気圧を加えることによって、修飾される。プランジャ先端部5の構成は、標的マイクロバブル2および注入されたヒト細胞を操作するために使用される。
【0034】
図8は、他の好ましい実施形態のプランジャ5を示す。ここで、プランジャのプランジャ先端部10は、ダイアフラム弁または他の類似の装置を制御する機構を介して、相互に変換して、凸状を形成することができる。なお、その他の点では
図8は
図7と同一である。
【0035】
図5~
図8は、本開示の1つの好ましい実施形態に使用されるシステムを示す。このシステムは、BACSを適用し、親和性リガンドに共役したマイクロバブル2を使用して、密閉容器3において、細胞や他の生物学的因子の大量の分離、選別、操作、増殖、または刺激を繰り返し行う。この特定の好ましい実施形態で使用されるシステムを操作する際に、ユーザは、
図1または
図2に示す工程から始まり、
図3に示す工程に進み、最後に
図4に示す工程に続く。
図4に示す工程が完了された後、ユーザは、
図2~4に示す工程に戻ることによって、別の種類の標的マイクロバブル2を用いてプロセスを再開することができる。これらの工程は、サンプル生物学的因子の大量の単離、選別、操作、刺激、または増殖を達成するために繰り返し行われる。
【0036】
図1~4は、標的マイクロバブルが注入されたマイクロバブルを使用する、本開示のBACSシステムの好ましい実施形態を示す。装置の好ましい実施形態において、BACSシステムは、ルアーロックと、プラグではないアダプタと、反転先端を有するプランジャとを使用する密閉容器を含む注射器状の構成で適用される。
【0037】
図9~10は、本開示の溶液の他の実施形態および従来技術に存在するマイクロバブル溶液と比較して、本開示のマイクロバブル溶液の好ましい実施形態の細胞生存率および増殖の結果を示す。この本開示のマイクロバブル溶液の好ましい実施形態において、T細胞の単離、選別、増殖、操作、または刺激のために、CD3/CD28親和性リガンドの組合せに共役したマイクロバブルが注入される。マイクロバブルに共役したCD3/CD28およびダイナビーズに共役したCD3/CD28の両方は、開始時点およびグラフ上の矢印が示す時点で、細胞培養物に添加される。
図9~10は、この好ましい実施形態が、本開示の他の実施形態および従来技術(ダイナビーズ)で使用される溶液よりも高い細胞生存率および細胞増殖を達成することを示す。この優れた結果は、免疫学的シナプスを再現するためのマイクロバブルとT細胞の間のより自然な相互作用を反映する可能性がある。
【0038】
図11は、本開示のマイクロバブル溶液の好ましい実施形態を示す。
図11において、単一の容器内で細胞単離が行われた後、CD3/CD28リガンドの組合せに共役したマイクロバブルがマイクロバブル溶液に注入される。この抗CD3/CD28マイクロバブル溶液は、従来技術で開発された抗CD3/CD28ダイナビーズよりも高い効率および品質でT細胞を増殖することに適用することができる。表1において、細胞増殖プロファイル(CD8/CD4T細胞比)は、CD3/CD28刺激後の癌免疫療法での使用に適する。
【0039】
PBMC単独(PBMCグループ)、PBMC+抗CD3/CD28ダイナビーズ(ビーズグループ)およびPBMC+抗CD3/CD28マイクロバブル(MBグループ)の結果を比較し、特に、複数の刺激回数の場合のビーズおよびMBの性能を比較し、以下の表1にまとめられているように、MBは、特に2回目の再刺激のような高次の再刺激では、PBMCおよびビーズよりも著しく優れていることが明らかになった。
【0040】
【0041】
本開示の他の実施形態では、マイクロバブルは、類似の細胞接触依存性シグナル伝達用途のために、他の種類のリガンドに共役することができる。
【0042】
本開示の実施形態では、好ましいか否か及び示されるか否かに関わらず、マイクロバブルに注入された親和性リガンドの組合せは、経時的に分裂させること、または高い周囲圧力をかけることによってより正確に制御されることが可能であるので、便利なフィーダー細胞・フリー無細胞・接触依存性細胞の培養システムの製造を可能にする。
【0043】
堅牢な製造手順を提供するためのBUBLES技術の実用化
リン脂質シェルを有するペルフルオロヘキサンガスマイクロバブル(MB)を調製するためのBUBLES(またはBACS)技術による乳化法としては、例えば、国際特許出願公開WO2015/175344 A1に記載されているように、DSPE-PEG 3400-マレイミドが膜に含まれることにより、抗体あたり1~2個のチオール基を有するFcフラグメント特異的IgGと抗体とを共役させ、マイケル付加により、マレイミド活性化MBに共役させた。抗EpCAMのような標的抗体を2番目の工程で結合させた。大部分のMBは、3~10μmの直径を有する(ほとんどの哺乳動物細胞のサイズと類似する)。各MBは、平均367,000の抗FcIgG分子を有する。最近、出願者らと他の人々は、同じアプローチを使用して、Her2、EGFR、CD3、CD4、CD8、CD34、PD1などを含む他の細胞表面タンパク質を標的とするマイクロバブルの製造に成功した。出願者の以前の刊行物に記載されているように、MBと磁気ビーズの結合効率を並べて比較すると、両者が同等の効率で標的細胞とロゼットを形成することを示した。しかしながら、MBはより速い結合を示し、1分間の混合後に、85%を超える細胞がMBに付着した。
【0044】
BUBLESは、革新的な細胞単離/選別プラットフォームであり、困難な課題のために、単独で使用することも、他の2つの主要なプラットフォームであるFACSおよびMACSと組み合わせて使用することもできる。その概要は、主に、単一の容器装置内において、ヒト細胞の大量単離、多重マーカー選別、および操作のために、細胞治療の臨床応用におけるBUBLESの使用に関する説明および討論に注目している。ただし、他の臨床または研究の状況では、BUBLESを単独またはFACSやMACSと組み合わせて使用することにより、最適な結果を得ることもできる。
【0045】
FACS(蛍光活性化細胞選別)は、個々の細胞の詳細な分析に最もよく使用される製品であるが、細胞の大量単離のためにスケールアップには使用されていない。磁気細胞選別(MACS)技術、特に、ミルテニーシステムは、大量の標的細胞単離のために使用される。マイクロビーズ(例えば、ダイナビーズ)に結合した細胞は、混合管の外側の外部磁石によって引き出すことができる。MACSに関する最大の問題の1つは、磁気微粒子(>1μm)と結合した単離細胞が破壊されることが多いことである。したがって、ほとんどの市販の磁気細胞選別システムは、マイクロビーズ共役抗体ではなく、ナノビーズを使用している。既存のMACS技術は、強い外部磁石によって生成された磁場中において、高勾配磁気細胞分離カラムを適用して、ナノビーズ標識細胞を磁化する。MACSは、強磁気のスチールウール充填カラムを使用して、低磁気ナノビーズと外部磁石との間の長距離相互作用を強化する。しかしながら、このシステムにおけるスチールウール充填カラムを使用すると、カラム詰まりや製造コストの増加などの他の技術的問題が生じる。さらに、MACSナノビーズは、エンドサイトーシスによって、細胞表面または内部のいずれかで標的細胞に付着する。これにより、MACSの適用は、主に単一の表面マーカーに基づく細胞濃縮に限定される。
【0046】
BUBLES技術は、異種細胞混合物から希な標的細胞を単離するための連続的なポジティブまたはネガティブ選択を提供する
現在の臨床試験における細胞療法の大部分は、血液または組織中の稀な集団である幹細胞または免疫T細胞であり、例としては
図12および
図13に記載されている。腫瘍リダイレクトの低分化度のT細胞サブセットによる利点が圧倒的な前臨床データにより示されるにもかかわらず、臨床試験では、単一選択を用いたMACSによる末梢血単核球(PBMC)由来のCAR工学的T細胞(CAR-engineered T cell)が主に使用されている。この選択戦略は、
図14および
図15に記載されるように、他の望ましくない細胞混合物と混合された低い標的細胞からなる一貫性のない細胞製品を生成する。標的細胞注入の治療用量が不十分であると、患者に次善の臨床的利益をもたらす可能性が高い。連続選択は、
図16に記載されるように、標的細胞を高純度で生成してその量を濃縮することができる。最近、細胞と親和性リガンドに共役した磁気ビーズとの可逆的結合を可能にする戦略が報告されている。例えば、ストレプタマー技術は、ストレプタグと融合するように設計されたストレプタクチン多量体化低親和性一本鎖抗体に共役することによって、磁気微粒子またはナノ粒子の標的細胞との可逆的結合を可能にする。他の技術では、細胞または磁気ビーズから解離することができる修飾抗体を使用する。これらの方法では、通常、標的抗体に対する大規模な修飾を必要とし、操作手順と複雑さを大幅に増大させる。一方、BUBLES技術は、特別な研究および臨床的必要に基づいて、十分に確立された抗体、容易に商業的な入手が可能な抗体または特定の抗体などの任意の望まれる抗体に共役できる方法を使用している。装置内に高い周囲圧力(例えば、哺乳動物細胞によく耐えられる)を加えることによってマイクロバブルを破壊できるというBUBLES技術の有する利点は、多重の細胞表面マーカーの連続ポジティブまたはネガティブ選択を可能とし、細胞混合物から標的細胞を単離し精製できる。さらに、細胞への物理的な悪影響を及ぼさないこの方法は、細胞の活性と特徴を保存するための付加的な利益をもたらし、これについては、以下でさらに説明する。
【0047】
BUBLES技術により、単一容器において、選択、選別、培養、遺伝子導入、およびその他の多くのインビトロ操作を可能にする
GMP製造細胞療法の最も重要な概念の1つは、収集および製造プロセスを通じて、製品の無菌性を維持するために、外部環境に閉鎖的なシステムに細胞を維持することである。BUBLESの明確な4つの利点は、細胞療法生産のために、簡単な操作と費用対効果的な方法で、1つの単一容器において、多数のインビトロ操作を可能にする。ここでは、CAR-T-CD19細胞療法を例として使用して、
図17に記載されるような製造工程を説明する。
図17において、Aで表示される第1構成が示されており、血液バンクまたは臨床センターから得られた出発物質であるアフェレーシスPBMC(8~9mlにおいては~約10
9個細胞)が、BUBLES注射器状の容器3に移される。マイクロバブル2を加え、当該マイクロバブル2は、試料としてPBMCにおける細胞混合物のスペースサブセットである標的細胞の第1の細胞表面マーカーを標的とする。注射器状の容器3内の内容積の約3分の1の空間は、空間0として残される。この構成Aでは、PBMCとマイクロバブル2との混合物は、例えば、10~60分間インキュベートすることができる。場合により、希釈のために緩衝液または培地を添加してもよい。この構成Aでは、PBMCサンプル、マイクロバブル2の第1セットおよび任意に希釈剤および/または媒体を容器3の中に入れた後、
図5に示されるように、装置の頂部は、キャップ7またはルアーロック8/アダプタ9の組み合わせによって閉鎖される。構成Bに示されるように、次いで容器3が反転され、プランジャ5を押し下げることによって廃棄物12が廃棄される。
図3による構成に示されるように、プランジャ5を押す距離によって容器3における内容物のどれくらいの量を廃棄するかを決定するので、マイクロバブル2に結合しなかった非標的細胞を含む廃棄物12が廃棄され、マイクロバブル2およびマイクロバブル2に結合した細胞が容器3に残るようにプランジャを押す。有用であれば、細胞選択工程の次の工程に進む前に、細胞洗浄工程を適用することができる。次の工程は、構成Cによって示され、すなわち、注射器状の容器3の向きが再び変えられ、プランジャ5が引き抜かれて、容器3内のAL容積を増大させる。次の工程として、キャップ7またはルアーロック8/アダプタ9の組み合わせが再び取り付けられて、容器3を密封するので、構成Dにより示される次の工程においては、プランジャ5を押し上げることによって、容器内の空気圧が上昇し、容器3内の空気量を減少させる。これにより、マイクロバブル2が破壊され、構成Eにより示されるように、これまでに選択された細胞混合物がマイクロバブル2から分離される。必要に応じて希釈剤または媒体を再度添加した後、
図17のシステム構成A~Eにより示される工程は、標的細胞の第2細胞表面マーカーを標的とするマイクロバブルの第2セットについて繰り返すことができる。
【0048】
図17に示されるように、マイクロバブルに共役した抗体、緩衝液または培地、サイトカインなどを含む材料は、ルアーロック機構を通して添加または廃棄し、閉鎖系の無菌性を維持することができる。特に、マイクロバブルは、自己浮揚ビークルとして機能し、自己凝集/集合特性を有し、また、BUBLESシステムは、容器を簡単に反転させることによって同じ容器内の所望の画分を分離して濃縮することができ、さらに、周囲圧力を加えることでバブルを破壊すると、抗体共役を容易に破壊して、1つの容器内で連続選択を可能にすることができる。なお、操作全体を自動化モードに簡単に設定して、GMPメーカーをスリム化することができる。
【0049】
複数のサブ配列選択による選択工程は、標的細胞を動かすことなく同一の容器内で行われるので、本発明による方法およびシステムは、全体のプロセスで無菌環境を維持するという利点をさらに提供する。この利点は、さらに拡張して、同じ無菌環境、すなわち、複数のサブ配列選択プロセスが完了した後に細胞のスペースサブセットを高濃度で保持する容器内で、細胞活性化および細胞増殖を提供することもできる。この目的のために、キャップ7またはルアーロック8/アダプタ9の組み合わせを空気フィルターで置き換えることができ、例えば、CAR-T細胞療法のために、単離された細胞にレトロウイルスベクターを加えることによって、容器3においてCAR遺伝子形質導入を行うことができる。さらに、場合によっては、マイクロバブルは、CD19細胞表面マーカーを有するCD19発現T細胞に結合する。代替的または追加的に、選択された細胞は、培養バッグに移されて細胞をスケールアップすることもできるが、これらの工程は、代替として容器3内で実行することもできる。次いで、濃縮のための追加のマイクロバブルは容器に添加してもよく、また、緩衝液は、単離や増殖/活性化した細胞を作製するために、患者への投与に適した交換緩衝液と交換してもよい。同じ容器3内で全ての工程を実行しないことが選択した場合でも、これらの工程の少なくとも大部分はその容器内で実行できるので、選択+拡張/活性化プロセスの過程において汚染の危険性が著しく低い。
【0050】
一方、他の方法およびプラットフォーム(MACSまたはストレプタマーなど)では、各工程においてバッグまたは容器を変えることを必要とし、緩衝液を変えるかまたは細胞を濃縮するために洗浄および遠心分離を必要とする。比較のために、従来技術の方法は、1つのダイナビーズに対して3つのCD3+細胞の比で、アフェレーシス生成物と抗CD3/抗CD28常磁性ダイナビーズとをインキュベートすること、および磁石への暴露によりCD3+細胞画分を単離することを含む。選択した細胞を洗浄して、低IL-2濃度を有する開始培地で再懸濁し、培養2日間後、レトロネクチン(RetroNectin)で処理された培養バッグに細胞およびビーズを添加し、抗CD19CARの新しい培養バッグおよびウイルスベクターが充填されて、少なくとも24時間インキュベートした。翌日、この形質導入工程を繰り返し、次いで細胞およびビーズを新しい培養バッグに移し、さらに9日間増殖させた。細胞増殖が完了した時に、再び磁石を適用することで、ビーズを除去して廃棄し、細胞を洗浄して注入のために調製した。
【0051】
MACS、ストレプタマーおよびマイクロバブルの3つの方法の間の比較は、以下の表2に要約されている。
【0052】
【0053】
操作の余分な工程は、細胞製品の収量に影響を及ぼし、細胞の健康と活動に直接ストレスを加える。自動化によって操作できるいくつかの工程以外、それらの複雑で複数の工程の適切な実行を確実にするために、多大な労力が必要とされる。さらに、現在のMACSシステムは、これらのGMP材料を大量に必要とするので、培養バッグおよび滅菌チューブが高価である。ストレプタマーシステムは、広範囲で予測不可能な抗体工学作業に加えて、複数の複雑な手順について同様の要求も必要とされる。
【0054】
マイクロバブルが4つの異なる特性を有するので、記載されているBUBLESシステムは、診療所で使用されている現在利用可能なシステムに対して様々な利点を提供し、例えば、(1)表面マーカーの連続ポジティブまたはネガティブ選択を使用して、血液またはヒト組織から希な標的細胞サブセットを選択、単離、精製、および濃縮すること、(2)Abを設計するための余分な作業はなく、容易に入手できる任意の抗体を使用し、このシステムの使用を多くの種類の細胞療法に容易に拡張すること、(3)全ての操作を単一の容器で行うことが可能であるので、閉鎖系で製造手順を単純化し制御すること、(4)自動化モードに簡単に設定すること、(5)GMPグレードのチューブや材料を節約するので費用対効果が高いことを含む。ここで、システムについてCAR-T細胞療法を例として説明しているが、マイクロバブルが様々な抗体と容易に結合して特定の稀な細胞のサブセットを連続選択できることにより、臨床的需要を満たすことができるので、このシステムは、他の細胞療法、例えば、様々な造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、免疫T細胞、または免疫的樹状細胞にも非常に役立つ。遺伝子工学は、CAR-T細胞療法において必要とされ、このシステムの単一の容器中で行われることができる。他の細胞治療用途では、膨大な量の細胞が必要な場合に、BUBLESシステムは、手順の流れに培養バッグを組み込むことで柔軟に適用することができる。
【0055】
インビトロ/エクスビボ操作中の細胞特性の維持
幹細胞の古典的な定義は、自己複製性および多能性の特性を有するということである。体性幹細胞は、未分化状態のままで細胞分裂を行う能力を有する稀な細胞サブセットであり、受けた分化シグナルに応じて様々な成熟細胞型に発達する多能性がある。結果として、細胞治療の最終的な成功は、注入細胞の幹細胞の特徴の維持(sternness、すなわち、幹細胞性)程度に左右される。BUBLESは、インビトロ/エクスビボ操作過程において、標的細胞への物理的損傷を最小限に抑えるだけでなく、さらに重要なことには、生物学的意義のメカニズムを通して細胞効力を維持および刺激するという明確な利点も提供する。ここで、CAR-T細胞療法を例としてこの課題を具体的に説明しているが、患者の再生機能を達成するために注入された細胞の幹細胞活性の維持が重要であるため、類似の原理は、HSC、MSC、神経幹細胞などを含む他の幹細胞療法にも適用されることに留意されたい。
【0056】
単一の容器操作により、細胞への機械的損傷を最小限に抑える
第一に、BUBLESシステムは、インビトロ操作工程を最小限に抑え、前記のように、単一容器内において、標的細胞の単離および濃縮、細胞の培養および増殖、遺伝子形質導入、ならびに他の操作を含み、さらに、工程間で細胞を洗浄、遠心分離、再懸濁する必要がない。また、最も圧縮性/柔軟性の高い脂質コートマイクロバブルは、ガスコアと共役して、外力(例えば、超音波および結合細胞)に対して自己成形性があり、細胞にとって非常に優しい材料である。簡単な例として、風船(マイクロバブル)で緩和された卵(細胞)である。BUBLESシステムのこれらの有利な利点は、操作上および物理的な便益を提供して、細胞の損傷を大幅に最小限に抑える。
【0057】
低分化度のT細胞は、CAR-T細胞療法に望ましい細胞サブセットである
Tメモリー幹細胞(TSCM)は、メモリーリンパ球の稀なサブセットであり、自己再生する幹細胞様能力、およびメモリーとエフェクターT細胞サブセットの全スペクトルを再構成する多能性能力を有する。T細胞は、増殖能力の連続的な喪失を受けるが、抗原未経験のナイーブ細胞(TN)からCD62L+セントラルメモリー(TCM)、CD62L-エフェクターメモリー(TEM)およびエフェクター(TE)T細胞サブセットへの分化の過程において、エフェクター機能の獲得が起こる。ヒトT細胞分化の階層モデルを示す表は、Gattinoni L、Nat Rev Cancer、2012;12(10):671-684から以下の表3として提供される。
【0058】
【0059】
ヒトT細胞分化の階層モデルでは、抗原プライミングの後、ナイーブT(TN)細胞は、次第に多様なメモリーT細胞サブ集団に、最終的には最終分化エフェクターT(TTE)細胞に分化する。T細胞サブセットは、示された表面マーカーの組み合わせ発現によって区別される。TN細胞はTTE細胞型に漸進的に分化するにつれて、特定の機能および代謝属性を失うかまたは獲得する。上の表で使用されている用語として、TSCM細胞はTメモリー幹細胞を表し、TCM細胞はセントラルメモリT細胞を表し、TE細胞はエフェクターメモリーT細胞を表す。
【0060】
これは、TNおよびTCMの選択がより高い治療効力をもたらす可能性があることを示唆する。多くの前臨床試験では、CAR-T免疫療法の採用においてナイーブT細胞が理想的な細胞集団であることが確認されているが、循環中の相対的な不足のナイーブT細胞を分離するという技術的困難、およびインビトロでこの細胞型を生成および維持することができる堅牢な臨床グレードの製造プロトコルの欠如により、臨床試験では、選択されていない末梢血単核球(PBMC)由来のT細胞集団が主に採用されている。低分化度のT細胞集団の単離には、より明確なT細胞製品を再現性よく生成するという利点もあり、TEMおよびエフェクター細胞を高い割合で含む選択されていない集団は、インビトロでの細胞増殖が不十分なため、実行可能な臨床製品を生成できない可能性がある。BUBLESシステムは、堅牢な製造手順を提供することによってナイーブT細胞を生成し、当該ナイーブT細胞はサイトカインのパネルの添加により所望のTSCM細胞に分化するように駆動される。
【0061】
マイクロバブルは、免疫学的シナプスにおけるAPCとT細胞の相互作用を再現する
T細胞のインビトロ細胞培養は、免疫療法に十分な用量を達成するための受容体工学および細胞増殖に不可欠である。しかしながら、ナイーブで低分化度のT細胞は、細胞培養および増殖期間中に急速な喪失および成熟期を経験し、異なる分化プロトコールによって各T細胞サブセットの異なる結果を提示する。培地および血清に加えて、培養物には、様々なサイトカインおよび抗体/刺激物質が含まれる必要がある。典型的に、T細胞増殖を促進するためにはIL-2の添加が必要であるが、ある程度のT細胞成熟をも誘導するので、メモリーT細胞表現型を維持するためにIL-7、IL-15およびIL-21を補足する。T細胞受容体(TCR)の刺激により標的T細胞の機能と活性を確保するために、インビトロ培養の期間においてT細胞受容体活性を維持することが重要であり、抗CD3(またはプラス抗CD28)は、T細胞と抗原提示細胞(APC)との間の免疫学的シナプス形成を模倣するために、
図18に示されるように、人工合成材料(例えば、磁性微粒子)またはフィーダー細胞(例えば、PBMCまたはK562細胞)のいずれかの表面に提示する必要がある。非専門的細胞(フィーダー細胞)または固体微粒子に由来する人工APC(aAPC)は様々な程度の成功が報告されている。堅牢なスケールアップ製造プロトコルのためのより制御されたシステムを得るために、インビトロアッセイおよび大規模生産を開発するための合成aAPCを使用することが好ましい。実際に、生体細胞上でのHLAの発現は経時的に変動することが報告されている。一方、固体粒子に基づくaAPCは、リガンドの不動性という別の問題を抱えており、これは免疫学的シナプス形成の動的過程を妨げることになる。研究では、インビトロT細胞増殖へのダイナビーズ-CD3/CD28の添加が、ナイーブT細胞およびメモリーT細胞の急速な喪失を引き起こすことも示された。
【0062】
免疫学的シナプス
物理的なT細胞-APC接触は、このモードのジャクスタクリン(juxtacrine)シグナル伝達に固有するTCR、接着分子、キナーゼ、細胞骨格要素および細胞小器官の分極軸を設定する。さらに、TCRと接着分子を放射状対称コンパートメントに横方向に組織化し、免疫学的シナプスは、T細胞-APC相互作用の持続時間を制御するために、交差する対称面と規制された対称性の破れの可能性を明らかにした。免疫学的シナプスは、シグナル伝達機構の組織化に加えて、サイトカインおよび細胞溶解剤の偏極輸送および分泌を支配してシナプス間隙を横切り、また、受容APCおよび環境中の他の細胞に機能的に影響を与える生物活性微小胞(bioactive microvesicle)の生成およびエキソサイトーシス放出のための部位であり、
図18および19を参照する。
【0063】
図18に示されるように、T細胞媒介性免疫応答はペプチドの提示から始まり、当該ペプチドは、病原体または他の生物学的構造に由来し、APC表面上で主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、MHCともいう。pMHCを生成する)に載せられた。このpMHC複合体は、T細胞受容体(TCR)複合体によって認識され、細胞内シグナル伝達のカスケードを開始する。免疫学的シナプス(IS)のこの小さな(~75μm
2)領域において、T細胞とAPCとの間の多くのさらなる受容体-リガンド複合体が観察されており、また、この相互作用に参加しているT細胞とAPCの種類や環境中の可溶性因子の存在などを含む多くの要因に応じて変化する可能性がある。しかしながら、TCR-pMHCに加えて、2つの重要なシグナル伝達システムが主な焦点である。それらの一つ目は、T細胞表面に提示されるタンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーの一員であるCD28である。CD80またはCD86のいずれかと連結すると、CD28は、TCRに基づくシグナル伝達を増強する共刺激シグナルを提供し、ナイーブT細胞の完全な活性化には必須である。二つ目のシステムは、受容体のインテグリンファミリーの一員であるLFA-1であり、これはAPC上のICAM-1に結合し、細胞間接着および共刺激機能を提供する。TCRとLFA-1および/またはCD28との同時関与は、多くの種類のT細胞の活性化を提供し、これらの3つの受容体は、T細胞機能のインビトロ還元的な研究に非常に適しているシグナルのコアセットを形成する。
【0064】
図19に示されるように、ISの顕著な特徴は、この界面内の受容体-リガンド対が、周辺超分子活性化クラスター(pSMAC)によって囲まれたマイクロメートルスケール中心超分子活性化クラスター(cSMAC)領域からなるマイクロメートルスケールおよびそれよりも小さい独特のパターンで組織化され、上記のマイクロメートルスケール中心超分子活性化クラスター(cSMAC)および周辺超分子活性化クラスター(pSMAC)は、濃縮したTCR-pMHCおよびLFA-1とICAM-1の結合の区域にそれぞれ対応する。特に、
図19は、成熟免疫学的シナプスにおける極性および対称性を示す。最も重要なことには、免疫学的シナプス内のTCRとAPCとの間の相互作用複合体の動的成分および分子成分が、その後のT細胞の増殖および系統の運命を決定する。異なるT細胞-APC相互作用は異なる結果をもたらし、ISのマイクロスケールおよびナノスケールの組織化はT細胞とAPCとの間の伝達言語の一部を伝えることが示唆される。重要なことに、これらの構造は、「成熟した」ISで観察され、最初の数分間の相互作用にわたって高度に動的なISが観察されている。ISの構造やダイナミクスがT細胞機能に与える影響およびその根底にあるメカニズムを理解することは、IS構造の動的な複雑さをより正確に再現できる有用な実験ツールがないため、免疫細胞生物学に対する現代的な課題である。
【0065】
別の根本的な課題は、TCR、CD28およびLFA-1の下流のシグナル伝達が、細胞質ゾルに可溶な中間体を伴うリン酸化カスケードと主に関連することである。そのような分子は、通常、タンパク質活性を調節できる速度に比べて、高い移動度(μm2/ミリ秒程度の拡散係数)を示し、また、ISを規定するマイクロメートルスケールの距離にわたってこれらの分子の段階的濃度の活性を得ることは困難である。さらに、TCR/CD28/LFA-1シグナル伝達は、膜貫通ドメインを介して安定的に、または脂質の翻訳後付着を介して一過性に、または特定の膜成分への結合により、細胞膜と関連する中間体を伴うので、通常、μm2/秒のオーダーの拡散係数を示し、その値はこれらのスケールで空間的に分解された細胞シグナル伝達を妥当なものにする。TCRシグナル伝達は、細胞骨格の組み立て、分解、および活性を調節する経路の活性化を伴い、マイクロメートルおよびそれよりも小さいの規模で、シグナル伝達の空間的調節を可能にする。
【0066】
細胞接触依存性相互作用のための人工表面
細胞外環境の特定のアスペクトを捉える人工または工学的表面は、細胞-細胞接触(ジャクスタクリン)シグナル伝達の研究において中心的な役割を果たす。上記の背景の概要で簡単に要約したように、CD3およびCD28抗体はリガンド-受容体相互作用を模倣するためのコアTCR複合体として使用できるが、人工システムは少なくとも、(1)原型IS構造の動的複雑性、(2)細胞内の下流シグナル伝達をよりよく誘発するための細胞膜上の分子の移動性および空間的相互作用、ならびに(3)数μm~数十nmの範囲の複数の距離スケールで膜タンパク質と相互作用する基礎細胞骨格ネットワーク、を要約する必要もある。
【0067】
例えば、制御された弾性のエラストマーおよびヒドロゲルは、間質細胞がECMの剛性をどのように感知するかを理解するという文脈の中で、非常にうまく使用されてきたが、そのように工学化されたシステムは、さらなる機械的応答および細胞特性を示すT細胞とAPCとの間の相互作用を捕獲することが困難であることが証明されている。IS内でTCR複合体に対してリガンドのパターンを提示するマイクロパターン化表面および多成分マイクロパターン化表面の使用は、細胞シグナル伝達を理解するための次のステップであるが、根本的な制限は、そのようなシステムがAPC表面に沿ったタンパク質の自然な移動性を捕獲しないことである。
図19は、成熟した免疫学的シナプスにおける極性および対称性を示す。超分子活性化クラスター(SMAC)は、T細胞とAPCとの間の界面に示される。指向性分泌の軸は、SMACを通過するスペアである。対称面は、免疫学的シナプスの面であり、安定しているときに放射状に対称である。T細胞は、接着リングが対称性を破ると、移動する。この技術は、固定化がシグナル伝達イベントに影響を与えるという事実により、細胞シグナル伝達および情報伝達の研究理解における使用において制限され、大規模なT細胞活性化には適していない。3番目の例は、リン脂質の自己組織化平面二層構造である。水和、ファンデルワールス、および他の力の組み合わせにより、その二層を適切な基材、最も一般的にはガラスに近接させて維持する。薄い(サブナノメートル)水層が二層と支持体を分離し、二層の平面においてリン脂質および他の膜成分(係留されたタンパク質を含む)の横方向の移動性を付与する。
【0068】
T細胞表面上の受容体に対する表面固定化リガンドおよび膜係留リガンドは、細胞構造のマイクロスケールおよびナノスケールの詳細により、2つの実験的極値を表し、実際のAPC膜はこれらの状態の間のどこかにある。4番目の方法において、二層構成を支持するほんの少数の材料のうちの1つである酸化ケイ素の表面は、金属またはプラスチックのような二層構成を支持しない他の材料のナノスケールバリアでパターン形成する。このモデルは工業規模で使用するには複雑すぎる。
【0069】
上記の例は、研究の理解のために使用されており、極端に低いスループットスケールおよびそのようなシステムを形成する材料の複雑さのために、工業的用途に変換することは実際的ではない。T細胞活性化のための現在の標準的なプロトコルは、上記のように、人工活性化因子として作用するCD3抗体またはプラスCD28抗体に共役したダイナビーズの添加である。マイクロスケール磁気ビーズは、APCを模倣するために類似の細胞サイズを有するように設計され、CD3およびCD28の共役は、リガンド-TCR結合を引き起こすことにより、TCR複合体を介して刺激シグナルを刺激する。しかしながら、研究により、ダイナビーズ-CD3/CD28のインビトロT細胞増殖への添加がナイーブT細胞およびメモリーT細胞の急速な喪失を引き起こすことが示された。簡単な例としては、岩(微粒子)で挟まれた卵(細胞)がある。したがって、現在市販の磁気細胞選別システムの大部分は、細胞分離用の砂(ナノ粒子)で囲まれた卵(細胞)に類似したナノビーズを使用している。しかしながら、これらのリガンドに共役したナノ粒子は、おそらくナノビーズの硬い性質のためだけでなく、小さいサイズの粒子が免疫学的シナプスの形成を誘導することができないため、T細胞を活性化するのに不十分である。免疫学的シナプスの複雑さを理解すると、ダイナビーズがAPCの生物学的機能を再現するという問題は、磁気ビーズの剛性と沈殿性の両方のために、T細胞で適切なシグナル伝達経路を誘発できないことに起因する可能性がある。潜在的には、MBの可動性脂質表面は、リガンド-TCRの関与の際に、必要な動的IS構造を提供することができる。
【0070】
実験演示
T細胞活性化に対する効果は、ダイナビーズ対マイクロバブルを用いて、試験した。抗CD3/CD28に共役したマイクロバブルは、特に2回目の刺激後に、T細胞増殖において、抗CD3/CD28ダイナビーズより優れた。
図21に示されるように、PBMC由来のT細胞は、最初の2週間以内に、抗CD3/CD28に共役したダイナビーズまたはマイクロバブルで最初に刺激した後に強く増殖した。注目すべきことに、マイクロバブルに基づくT細胞増殖は、その後の2回の刺激でも同じ傾向を続けたが、ダイナビーズベースに基づく増殖は、2回目の刺激後に劇的に減少した(
図21の(a))。T細胞増殖は、2回目の刺激が行われた際に、刺激試薬が添加されなかったときに停止したので、抗CD3/CD28に依存する(
図21、模擬グループまたは対照グループ)。結果は、同じドナー(
図21の(a)および(b))または異なるドナー(
図21の(b)、(c)および(d))からのPBMCを使用することで再現可能である。Liらの研究では、Fc受容体担持フィーダー細胞の存在下で、抗CD3/CD28ダイナビーズおよび可溶性抗CD3で刺激されたT細胞応答の比較において、「急速拡張プロトコル(Rapid Expansion Protocol、REP)」が指定された類似の観察が報告されており、フィーダー細胞は、抗CD3(そのFc受容体と結合した)およびB7(抗CD28に相当するCD80およびCD86)を提示するためのAPCとして機能する。マイクロバブルおよびフィーダー細胞は、刺激後のT細胞生存、増殖、および表現型の応答がREPおよびマイクロバブルと類似するように、液体脂質表面によって囲まれている。一方、フィーダー細胞は培養物から除去される必要があるが、MBに基づくT細胞活性化においては除去は必要とされない。したがって、マイクロバブルに基づくaAPCには、次の表4に示されるように、ダイナビーズおよびREPより多くの利点がある。
【0071】
【0072】
図22は、免疫蛍光アッセイによるT細胞(T1およびT2で示す)と抗CD3/CD28に共役したマイクロバブル(矢印でMB)との間の免疫学的シナプス形成のスケッチを示す。T細胞の形状は、F-アクチン染色パネルに見られるように、MBとの接触ゾーン付近のF-アクチン重合バンドで分極化されていることに留意されたい。MBと関連しないT細胞(T3)は、細胞内に典型的に均一に分布したFアクチン染色を有する。細胞の完全性を示すために、細胞核はDAPIで染色される。
【0073】
さらに、マイクロバブルは、37℃の標準培養条件では10~16時間以内に自然に破裂する。このマイクロバブルの独特な特性は、ISの形成がほんの数時間しか必要としていないことが示されているので、T細胞活性の消尽につながる可能性があるT細胞の過剰刺激を回避すること、および免疫学的シナプス形成期間をより模倣することなどのダイナビーズを超えるさらなる利点を提供できる。さらに、このマイクロバブルの興味深い性質は、ビーズ除去の必要性を排除するだけでなく、汚染の可能性および自動化の複雑さを減少させる。
【0074】
マイクロバブルに基づく技術は他の生物学的システムのための強力なツールとして役立つ
ISシグナリ伝達における空間的考慮の重要性は、あらゆる種類の細胞-細胞の通信および細胞-ECMの通信においても見られる。細胞間の情報伝達は、シグナル伝達分子自体だけでなく、シグナルが分配され受容体に提示される方法から生じる多くの文脈的および位置的合図によっても行われる。膜貫通型および分泌型増殖因子は、細胞外マトリックス(ECM)成分およびインテグリンと接触依存的に関連して、それらの受容体にシグナル伝達する。シグナル伝達分子は、シナプス様構造を介して標的細胞と接触し、活性化するサイトネームを介して離れた位置にある細胞に到達することもできる。上記の免疫学的シナプスシステム以外、他の多くの細胞-細胞および細胞-マトリックスの接触システムは、さまざまな生物学的機能を調節するための重要な役割を果たす。
【0075】
同様に、マイクロバブルに共役した選択されたリガンドは、これらの相互作用を再現するための人工細胞として役立ち得る。
【0076】
開示された実施形態の上記の説明は、当業者が本開示を製造または使用することを可能にするために提供される。これらの実施形態に対する様々な修飾は、当業者には容易に明らかとなり、本明細書に記載された一般的な原理は、本開示の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態に適用され得る。したがって、本明細書に記載されている説明および図面は、本開示の現在の好ましい実施形態を表しているため、本開示によって広く企図されている主題の代表であることを理解されたい。本開示の範囲は、当業者に明らかになり得る他の実施形態を完全に包含することがさらに理解される。
【0077】
さらなる実施形態は、以下の段落に示される。
1.様々な異なる細胞を含むサンプルから、複数の異なる細胞表面マーカーによって区別された細胞のスパースサブセットを単離するための、浮力による分離方法であって、
a)サンプルを容器に入れる工程、
b)気体を包囲する内部気泡壁と、サンプルに含まれる細胞の第1サブセットの第1細胞表面マーカーに結合することができる第1抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第1の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、
c)第1抗体と第1細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第1抗体を第1細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、
d)サンプルの残り部分から、浮揚により、第1の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第1の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第1サブセットを分離することを可能にする工程、
e)サンプルにおける細胞の第1サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程、
f)単離された細胞の第1セットが浮揚しなくなるように、第1の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程、
g)気体を包囲する内部気泡壁と、細胞の第1サブセットに含まれる細胞の第2サブセットの第2細胞表面マーカーに結合することができる第2抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える第2の柔軟なシェルマイクロバブルを加える工程、
h)第2抗体と第2細胞表面マーカーとの間の相互作用を可能にして、第2抗体を少なくとも一つの第2細胞表面マーカーに結合させるように、十分な時間スパンにわたってインキュベートする工程、
i)サンプルの残り部分から、浮揚により、第2の柔軟なシェルマイクロバブルおよび第2の柔軟なシェルマイクロバブルに結合した細胞の第2サブセットを分離することを可能にする工程、および
j)細胞の第1サブセットにおける細胞の第2サブセット以外の細胞を含む、廃棄物を容器から除去する工程
を含む、浮力による分離方法。
【0078】
2.第1および第2の細胞表面マーカーは、CD8、CD62L、CD45RA、CD3およびCD28のうちの1つである、実施形態1による方法。
【0079】
3.k)単離された細胞の第2サブセットが浮揚しなくなるように、第2の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程、および
l)細胞の第3サブセットのために、標的されていなかった標的細胞表面マーカーに結合することができる使用されていなかった抗体に共役した追加の柔軟なシェルマイクロバブルを利用することにより、工程g)から工程k)までを繰り返す工程
をさらに含む、実施形態1による方法。
【0080】
4.細胞表面マーカーは、CD8+、CD62L+およびCD45RA+であり、細胞のスパースサブセットは、ナイーブT細胞である、実施形態3による方法。
【0081】
5.細胞のn番目のサブセットのために、標的されていなかった標的細胞表面マーカーに結合することができる使用されていなかった抗体に共役した追加の柔軟なシェルマイクロバブルを利用することにより、工程I)を繰り返すことをさらに含む、実施形態4による方法。
【0082】
6.容器の底部から廃棄物を除去することを含む、容器から廃棄物を除去する工程をさらに含む、実施形態1~5のいずれか1つの方法。
【0083】
7.望ましくない細胞をそれぞれのマイクロバブルと結合させ、容器の上部に浮揚させ、容器の上部から、これらのそれぞれのマイクロバブルに結合した望ましくない細胞を除去することによって、望ましくない細胞としての廃棄物を容器から除去することにより、ネガティブ選択で容器から廃棄物を除去する工程をさらに含み、実施形態1~5のいずれか1つの方法。
【0084】
8.容器内でプランジャを移動させることを含む、容器から廃棄物を除去する工程をさらに含む、実施形態6または7の方法。
【0085】
9.柔軟なシェルマイクロバブルが受ける圧力を増加させることを含む、第1、第2およびその後の柔軟なシェルマイクロバブルを破壊する工程をさらに含む、前記の実施形態のいずれかの方法。
【0086】
10.容器内でプランジャを移動させることを含む、マイクロバブルが受ける圧力を増加させることをさらに含む、実施形態9の方法。
【0087】
11. 細胞のスパースサブセットは、T細胞を含んでおり、
m)気体を包囲する内部気泡壁と、T細胞と免疫学的シナプスを形成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、細胞のスパースサブセットに加える工程、
o)T細胞のスパースサブセットを活性化および増殖するために、十分な時間スパンにわたってT細胞およびリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルをインキュベートする工程、
p)組換えMHCに結合したユニークなペプチド、および抗CD28または組換えCD80やCD86のような補助刺激分子と組合せることで、特異的T細胞の活性化を達成する工程、および
q)抗CD3、および抗CD28または組み換えCD80やCD86のような補助刺激分子と組合せることで、非特異的T細胞活性化を達成する工程
を含む、前記の実施形態のいずれかの方法。
【0088】
12.サンプルは、ヒトもしくは動物の血液、他のヒトもしくは動物の体液、または人工緩衝液からのT細胞、B細胞、腫瘍浸潤リンパ球、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、内皮細胞、幹細胞、および癌細胞のうちの1つまたはそれらの組合せのような様々な異なる細胞を含む、前記の実施形態のいずれかの方法。
【0089】
13.様々な異なる細胞を含むサンプルから細胞のスパースサブセットを単離することは、ポジティブ選択、ネガティブ選択、またはその両方の逐次的組合せによって行われる、前記の実施形態のいずれかの方法。
【0090】
14.前記の実施形態のいずれかの方法を実行するためのシステムであって、
内部容器空間を画定する内壁を有する容器(3)、
内壁と密封的に接続され、内壁に対して可動なプランジャ(5)、
内部空間を周囲空間に接続させ、気体、液体および固体材料を内部空間に送り込んだり内部空間から送り出したりすることを可能にする、開閉可能な弁(8、9)を備えたポート、および
内部容器空間における柔軟なマイクロバブル(2)
を含み、
前記マイクロバブル(2)は、気体を包囲する内部気泡壁と、液体サンプルに含まれる細胞の第1サブセットの第1細胞表面マーカーに結合することができる第1抗体に共役した外部気泡壁とを有する柔軟なシェルを備える、システム。
【0091】
15. プランジャ(5)は、凹状、凸状または平坦状のうちの1つの形状を有する前面を備える、実施形態14によるシステム。
【0092】
16.プランジャ(5)は、凸状、凸状または平坦状を想定するような形状に変更するように適した調整可能な前面を有し、システムは、システムの使用中に前面の形状を変更するための調整機構をさらに含む実施形態14によるシステム。
【0093】
17.容器(3)は、滅菌状態である、実施形態14~16のうちの1つによるシステム。
【0094】
18.容器(3)は、サンプルの細胞(4)および生物学的因子を生存可能な状態に維持するように適した滅菌溶液を含む、実施形態14~17のうちの1つによるシステム。
【0095】
19.プランジャ(5)を動かすように構成された機械的プランジングシステムをさらに含む、実施形態14~18のうちの1つによるシステム。
【0096】
20.プランジングシステムは、自動化またはコンピュータ化されている、実施形態14~18のうちの1つによるシステム。
【0097】
21.a)気体を包囲する内部気泡壁と、単離されたT細胞上で細胞接触依存性のジュクスタクリンシグナル伝達を達成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟な脂質シェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、単離されたT細胞に加える工程、および
b)気体を包囲する内部気泡壁と、T細胞と免疫学的シナプスを形成することができるリガンドに共役した外部気泡壁とを有する柔軟な脂質シェルを備えるリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルを、単離されたT細胞に加える工程
を含む、単離されたT細胞を活性化および増殖するための方法。
【0098】
22.リガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルは、抗CD3および抗CD28に共役したマイクロバブルであり、
単離されたT細胞の活性化および増殖は、キメラ抗原受容体(CAR-T)細胞療法のような養子細胞移入のためのインビトロT細胞調製のために用いられる、実施形態21の方法。
【0099】
23.リガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルは、ペプチド/MHCおよび抗CD28に共役したマイクロバブルであり、
単離されたT細胞の活性化および増殖は、養子細胞移入のためのインビトロT細胞調製のために用いられる、実施形態21の方法。
【0100】
24.単離された細胞の活性化または阻害化のために、十分な時間スパンにわたって、前記細胞およびリガンド提示柔軟なシェルマイクロバブルをインキュベートする工程をさらに含む、実施形態21~23のうちの1つによる方法。