(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】壁面パネル及び壁面構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
E02D29/02 309
(21)【出願番号】P 2020083820
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2021-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519210608
【氏名又は名称】山下 喜央
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】山下 喜央
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185452(JP,A)
【文献】特開2001-348894(JP,A)
【文献】米国特許第04648752(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0142577(US,A1)
【文献】特許第5182826(JP,B2)
【文献】韓国特許第10-2019193(KR,B1)
【文献】特開2003-020746(JP,A)
【文献】特開2008-174926(JP,A)
【文献】実開昭60-080138(JP,U)
【文献】特開平04-166514(JP,A)
【文献】特許第5866735(JP,B2)
【文献】特開2012-233323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積み上げて壁面の外面を形成するための略
直方体形状の壁面パネルにおいて、隣接する壁面パネルと係合するガイドランナーと、壁面パネルを背後の固定物に結合するフックを備える壁面パネルであって、上記ガイドランナーが、壁面パネルの上辺と下辺付近のそれぞれに2箇所以上に設けられている
と共に、上記ガイドランナーが、壁面パネルの内部に埋設されている縦方向の金属製筋材の端部であって、壁面パネル裏面の上辺付近と下辺付近において裏面から突出し、それぞれ近接する辺側へと曲がり、さらにそれぞれ近接する辺を越えて延在し、さらにそれぞれ先端付近で曲がり、先端が上記裏面と略同一平面まで延在する形状に形成されたものであることと、上記フックが、上記ガイドランナーとは独立に壁面パネルの裏面の適所に設けられていることを特徴とする、壁面パネル。
【請求項2】
上記フックが、穴を有し、壁面パネルの内部で横方向の金属製筋材と係合している部材であることを特徴とする、請求項1に記載の壁面パネル。
【請求項3】
上記フックが、スプリングフックであることを特徴とする、請求項1に記載の壁面パネル。
【請求項4】
壁面パネルを積み上げて壁面を形成する壁面構築方法において、法面側に固定物を形成する固定物形成ステップと、基礎を形成する基礎形成ステップと、上記請求項1の壁面パネルを上記基礎上に初段の壁面パネルとして並べ、並べた各壁面パネルの裏面に設けたフックを背後の上記固定物に結合する初段壁面パネル形成ステップと、上記請求項1の壁面パネルを下段の壁面パネルの上に各壁面パネルに設けたガイドランナーを利用して次段の壁面パネルとして並べ、並べた各壁面パネルの裏面に設けたフックを背後の上記固定物に結合する次段壁面パネル形成ステップと、前記次段壁面パネル形成ステップを所定高さまで繰り返す壁面構築ステップとを含むことを特徴とする、壁面構築方法。
【請求項5】
上記背後の固定物に結合された壁面パネルの段の背面側に、コンクリートを充填するコンクリート打設ステップを更に含むことを特徴とする、請求項4に記載の壁面構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面を形成するための壁面パネルに関するもので、特に、残存型枠として好適に用いることができる壁面パネル、及び該壁面パネルを用いた壁面構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許第5866735号公報)に、切土、盛土の傾斜した法面の表面側に残存型枠を連結具を用いて並べ、隣接する残存型枠を結合する前記連結具をセパレータを介して法面側に設置された柱材に固定し、その後、裏込めコンクリートを残存型枠と法面との間の隙間に打設する、もたれ式擁壁の構築方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2(特許第5182826号公報)に、壁面構築用パネルの裏面にフックを設け、該フックに楔状のアームを取付け、そのアームの先端を上下周縁から突出させたものを、下段の壁面構築用パネルの背後に滑り込ませて、当該壁面構築用パネルの上記アームと下段の壁面構築用パネルの上記アームを用いて両者を係合させて壁面構築用パネルを連設する技術が開示されている。そして、この技術では、係合に利用された上記アームにU字形又はV字形アンカーを係止して、該壁面構築用パネルを地面に固定している。
【0004】
非特許文献1(多数アンカー式補強土壁協会の「多数アンカー式補強土壁工法 設計・施行マニュアル 第4版 技術説明会のテキスト」)の第7頁から第9頁に、コンクリート壁面材を積み上げて壁面を作る際に、上下の壁面材をコネクターで結合し、そのコネクターを地山に埋設されたアンカープレートに丸鋼とターンバックルを用いて結合する補強土壁工法が紹介されている。
【0005】
上記した特許文献1、特許文献2、非特許文献1の技術は、いずれも壁面を形成する残存型枠、壁面構築用パネル或いはコンクリート壁面材(以下、これらを総称して「壁面材」という)を相互に接続する連結具(特許文献1では連結具、特許文献2ではアーム、非特許文献1ではコネクター)を用いて、該壁面材を背面側の固定物(特許文献1では柱材、特許文献2では地面、非特許文献1ではアンカープレート)に固定する点で共通する。
【0006】
しかしながら、上記した方式では、次のような問題があった。
1)壁面材の背面に設けられた連結具で上下左右に隣接する壁面材同士を接続する際に、該連結具をセパレータ等を介して固定する法面側の固定物の位置を考慮しながら壁面材を配置しなければならず、壁面材の位置の調整可能範囲が狭いものであった。特に、傾斜した壁面のカーブ施工では、壁面材の積段数毎に壁面延長が変ってしまうため、連結具の固定位置が決められた壁面材では、その壁面延長の変化に追従して配置することが非常に困難であり、設置できない場合が存在した。
2)上下左右に隣接する壁面材を接続する連結具に、法面側の固定物と固定されるセパレータ等を結合させるものであるので、連結具に荷重が集中し、連結具の強度や遊びのバラつき、あるいはコンクリート打設時の側圧による該連結具の変移等の影響を受けやすく、構築される壁面の精度を毀損する場合があったとともに、場合によっては、連結具に作用した無理な荷重によって壁面材自体が損傷する場合もあった。
3)連結具は、壁面材間の接続という機能と、法面側の固定物と固定されるセパレータ等との結合という二重の機能を担うものであるので、必然的にその構造が複雑なものとなり、また、連結具には、少なくとも2つの壁面材とセパレータが関係しているので、壁面材の位置や配向を再調整する際に、セパレータの解除、あるいは連結具の解除等の作業が複雑なものとなり、再調整の効率が悪いものとなっていた。
4)コンクリート打設側圧の荷重が、連結具を介して壁面材の端部に集中して作用する構造であるので、壁面材中央部に過大な曲げ応力が負荷されることとなり、壁面材の剛性を高めるため材質の強度を上げたり、板厚を厚くする、補強部材を増やすなどの対策が必要となり、経済性が損なわれるものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5866735号公報
【文献】特許第5182826号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】多数アンカー式補強土壁協会の「多数アンカー式補強土壁工法 設計・施行マニュアル 第4版 技術説明会のテキスト」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した背景技術が有する様々な問題に鑑みなされたものであって、その課題は、積み上げて壁面を形成するための略直方体形状の壁面パネルにおいて、背景技術による壁面材によって生じる上述の問題を解決できる壁面パネル、及び該壁面パネルを用いた壁面構築方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を達成するため、本発明は、次の〔1〕~〔5〕に記載した壁面パネル及び壁面構築方法とした。
〔1〕積み上げて壁面の外面を形成するための略直方体形状の壁面パネルにおいて、隣接する壁面パネルと係合するガイドランナーと、壁面パネルを背後の固定物に結合するフックとを備える壁面パネルであって、上記ガイドランナーが、壁面パネルの上辺と下辺付近のそれぞれに2箇所以上に設けられていると共に、上記ガイドランナーが、壁面パネルの内部に埋設されている縦方向の金属製筋材の端部であって、壁面パネル裏面の上辺付近と下辺付近において裏面から突出し、それぞれ近接する辺側へと曲がり、さらにそれぞれ近接する辺を越えて延在し、さらにそれぞれ先端付近で曲がり、先端が上記裏面と略同一平面まで延在する形状に形成されたものであることと、上記フックが、上記ガイドランナーとは独立に壁面パネルの裏面の適所に設けられていることを特徴とする、壁面パネル。
〔2〕上記フックが、穴を有し、壁面パネルの内部で横方向の金属製筋材と係合している部材であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の壁面パネル。
〔3〕上記フックが、スプリングフックであることを特徴とする、上記〔1〕に記載の壁面パネル。
〔4〕壁面パネルを積み上げて壁面を形成する壁面構築方法において、法面側に固定物を形成する固定物形成ステップと、基礎を形成する基礎形成ステップと、上記〔1〕に記載の壁面パネルを上記形成した基礎上に初段の壁面パネルとして並べ、並べた各壁面パネルの裏面に設けたフックを背後の上記固定物に結合する初段壁面パネル形成ステップと、上記〔1〕に記載の壁面パネルを下段の壁面パネルの上に各壁面パネルに設けたガイドランナーを利用して次段の壁面パネルとして並べ、並べた各壁面パネルの裏面に設けたフックを背後の上記固定物に結合する次段壁面パネル形成ステップと、前記次段壁面パネル形成ステップを所定高さまで繰り返す壁面構築ステップとを含むことを特徴とする、壁面構築方法。
〔5〕上記背後の固定物に結合された壁面パネルの段の背面側に、コンクリートを充填するコンクリート打設ステップを更に含むことを特徴とする、上記〔4〕に記載の壁面構築方法。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明によれば、以下の効果を奏する。
1)上下に隣接する壁面パネルを連設するためのガイドランナーと、壁面パネルを背後の固定物に結合するためのフックとを独立に備えるものであるので、壁面パネルの位置の調整可能範囲が広いものとなる。そのため、傾斜した壁面の構築において内カーブ、外カーブ及び内外カーブの連続施工など、壁面パネルの位置調整が強要される壁面の施工も容易に実施できるものとなる。
2)壁面パネルを連設するためのガイドランナーと、壁面パネルを固定するためのフックとが独立しているものであるので、荷重が分散され、ガイドランナーやフックの変形や変移、また壁面パネル自体の損傷も生じ難いものとなり、信頼性の高い壁面を構築することができる。
3)ガイドランナーは隣接する壁面パネルと係合する機能、フックは背後の固定物に結合させる機能をそれぞれ果たすものであり、要求される機能が単一のものであるために構造が単純なものとなり、また、壁面パネルの位置や配向を再調整する際に、フックの固定物との解除を行えばよく、位置や配向の再調整の効率がよいものとなる。
4)上記2)に記載したように、荷重が分散されて集中しないため、壁面パネルに要求される曲げ強度が少なくてすむものとなる。そのため、壁面パネルの薄肉化、軽量化が可能となり、また壁面パネルの大型化、自動化など経済性、施工性の更なる向上が図れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る壁面パネルの第1の実施形態を示した図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
【
図2】本発明に係る壁面パネルの第2の実施形態を示した図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
【
図3】壁面パネルのガイドランナー近傍を示した図であり、(a)は上下に隣接する壁面パネルのガイドランナー近傍の拡大斜視図、(b)は同部の拡大側面図である。
【
図4】壁面パネルの第1の実施形態の埋設鉄筋構造を示した図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図5】並べられた下段の壁面パネル列の上に上段の壁面パネルを積み上げる状態を概念的に示した背面図である。
【
図6】壁面パネルに設けられたフックの一実施形態を示した拡大斜視図である。
【
図7】壁面パネルがフックとセパレータを用いて固定物に固定された状態を示した概念的な斜視図である。
【
図8】壁面パネルのガイドランナーとフックの機能を説明した図であり、(a)は下段の壁面パネルが第1の実施形態の壁面パネルであり、その上に縦に並んだ2つのフックしか備えない壁面パネルを積み上げた状態の各壁面パネルの埋設鉄筋構造を示した背面図、(b)は縦に並んだ2つのフックしか備えない壁面パネルをセパレータを介して固定物に固定した状態を示した平面図である。
【
図9】本発明に係る壁面パネルを用いて壁面を作る実施形態の固定物形成ステップと基礎形成ステップを示した概念的な側面図である。
【
図10】本発明に係る壁面パネルを用いて壁面を作る実施形態の初段壁面パネル形成ステップを示した概念的な側面図である。
【
図11】本発明に係る壁面パネルを用いて壁面を作る実施形態の次段壁面パネル形成ステップを示した概念的な側面図である。
【
図12】本発明に係る壁面パネルを用いて壁面を作る実施形態の壁面構築ステップとコンクリート打設ステップを示した概念的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る壁面パネルと壁面構築方法の実施形態を、詳細に説明する。
ただし、本発明の技術的範囲は、この実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る壁面パネルの第1の実施形態の外形を示し、
図2は、本発明に係る壁面パネルの第2の実施形態の外形を示した図である。
図1の壁面パネル1と
図2の壁面パネル1は、共に薄い略直方体状の形状のものである。
なお、第2の実施の態の壁面パネル1は、第1の実施形態の壁面パネル1の幅を半分にした半切り形の壁面パネルである。また、この明細書においては、理解を容易にするために第1の実施形態の壁面パネル1と第2の実施形態の壁面パネル1における共通あるいは対応する構成要素については、共通の参照番号を付してその説明を省略する場合がある。
【0015】
図1と
図2に例示す第1と第2の実施形態の壁面パネル1は、その厚さDと高さHは共通であるが、幅Wは異なる。厚さDは、例えば35mmである。高さHは、例えば400mmである。第1の実施形態の壁面パネルの幅W1は、例えば800mmであり、第2の実施形態の壁面パネルの幅W2は、例えば400mmである。幅が異なる壁面パネルを組み合わせて配置することにより、下段と上段の壁面パネルの境界をずらす等の配置の自由度を増すことができる。
【0016】
壁面の完成後に表面となる壁面パネル1の正面は、美的に処理されていることが好ましい。例えば、
図1と
図2の実施形態の壁面パネル1では、共に正面にハツリ模様2が施されている。また、該正面に連なる左右の両側面3,3と上下の両側面4,4は、
図1と
図2の(a),(c)にそれぞれ示すように、正面の面積が裏面の面積より若干小さくなるように傾斜した斜面に形成されている。
【0017】
また、
図1の第1の実施形態の壁面パネル1では、裏面5の上辺5aと下辺5bに近い箇所からそれぞれ3つ、合計6つのガイドランナー6a~6fが突出して形成されている。また、裏面5の板面の適所から4つのフック7a~7dが突出して形成されている。他方、
図2の第2の実施形態の壁面パネル1では、裏面5の上辺5aと下辺5bに近い箇所からそれぞれ2つ、合計4つのガイドランナー6a~6dが突出して形成され、裏面5の板面の適所から3つのフック7a~7cが突出して形成されている。
なお、後述するように、ガイドランナー6は、積み上げる壁面パネルの位置決めを行うための部材であり、フック7は、積み上げた壁面パネルを後方の固定物に結合するための部材である。
【0018】
図3は、壁面パネルのガイドランナー近傍を示した図であり、(a)は上下に隣接する壁面パネルのガイドランナー近傍の拡大斜視図、(b)は同部の拡大側面図である。これらの図に示すように、下段の壁面パネル1の裏面5から突出したガイドランナー6および上段の壁面パネル1の裏面5から突出したガイドランナー6は、それぞれ近接する上辺5aまたは下辺5b側の方向へ曲がり、さらにそれぞれ近接する辺5a,5bを越えて延在し、さらにそれぞれ先端付近で曲がり、先端Xが上記裏面5と略同一平面まで延在する形状に形成されている。
【0019】
図4は、第1の実施形態の壁面パネル1の埋設鉄筋構造を示した図である。この実施形態の壁面パネル1の内部には、
図4(b)に示したように、横方向の金属製筋材10が、3組(2本で一組)略均等に平行に配置され、該横方向の金属製筋材10に直交する縦方向の金属製筋材11が、3本間隔を開けて配設されている。第2の実施形態の壁面パネル1においても、図示はしないが、横方向の金属製筋材10が、3組(2本で一組)略均等に平行に配置され、該横方向の金属製筋材10に直交する縦方向の金属製筋材11が、2本間隔を開けて配設されている。
【0020】
また、図示した実施形態の壁面パネル1にあっては、
図4(c)に示したように、縦方向の金属製筋材11の両端部は、それぞれ折り曲げられることにより上記したガイドランナー6に形成されている。即ち、縦方向の金属製筋材11の端部は、上辺5aあるいは下辺5b近傍においてそれぞれ裏面5側に曲げられ、さらに裏面5から突出し、それぞれ近接する上辺5aまたは下辺5b側の方向に曲げられ、さらにそれぞれ該近接する辺5a,5bを越えて延在し、さらにそれぞれ先端付近で曲げられ、先端Xが上記裏面5と略同一平面まで延在する形状に形成されている。このようにガイドランナー6が、壁面パネル1の内部に埋設されている縦方向の金属製筋材11の端部により形成されていることにより、製造が容易なものとなるとともに、形成したガイドランナーの背後に打設したコンクリートが回り込みやすいものとなる。
【0021】
上記したガイドランナー6を備える壁面パネル1は、
図3の(a)及び(b)の矢印に示すように、下段の壁面パネル1の上に上段の壁面パネル1を、それぞれのガイドランナー6,6の先端Xを互いの壁面パネル1の裏面5と面一に保ちながら下ろして積み上げる。このとき、壁面パネル1の上下の両側面4,4は前方ほど内方に傾斜した斜面に形成されているので、上段の壁面パネル1は正面側に倒れ込む傾向があるが、互いの裏面5に先端Xが当接するガイドランナー6によりその移動は阻止され、上下の壁面パネル1,1の厚さ方向の平面性が担保され、かつ厚さ方向の相対的位置が該ガイドランナー6により仮固定された状態で積み上げられる。
【0022】
図5は、並べられた下段の壁面パネル列の上に上段の壁面パネルを積み上げる状態を概念的に示した背面図である。上述したように、下段の壁面パネル1と上段の壁面パネル1は、複数のガイドランナー6が互いに係合することによって平面性が担保される。他方、
図5の矢印で示すように、上段の壁面パネル1は幅方向には移動の自由度が残っており、その位置調整が仮固定後においても可能な状態となる。
図5では種々の幅寸法(4種)の壁面パネル1が使用され、各壁面パネル1の上辺と下辺にはガイドランナー6が突き出しているが、例えばガイドランナー6の位置を左右非対称に設計しておけば、天地反転や積み上げた後の上記幅方向の位置調整などの工夫により、それらのガイドランナー6が互いに干渉しないように上段の壁面パネル1を下段の壁面パネル1の上に積み上げることができる。また、傾斜した壁面の構築において内カーブ、外カーブ及び内外カーブの連続施工など、壁面パネル1の位置調整が強要される壁面の施工も容易に実施できるものとなる。
【0023】
図6は、壁面パネルに設けられたフックの一実施形態を示した拡大斜視図である。この実施形態では、フック7は、円環状頭部Rと二つの半円状足部Sを有するスプリングフックからなる。円環状頭部Rは、後述するようにセパレータ等を係止するために使われる。半円状足部Sは、フック7が壁面パネル1から抜けないように壁面パネル1の内部に埋設されている例えば金属製筋材に係止されている。フック7は、耐久性のある金属(例えばステンレス鋼)で作られ、
図4及び
図6に示した実施形態においては、壁面パネル1内に埋設された二本一組の横方向の金属製筋材10間に半円状足部Sが係止されている。このようにフック7を、上記したガイドランナー6とは独立した別部材とすることにより、壁面パネル1の形状や構造上最も有利なバランスのよい位置に該フックを配置することができ、壁面パネルの薄肉化や大型化などが可能となる。また、実施形態のようにスプリングフックから成るものとすることによりフック7がたわみ代を有する構造のものとなり、擁壁完成後において長期的に擁壁の変移変形や凍害等による不測の外力にたいしても荷重を逃がすことで壁面の損傷や剥落等を抑止することのできる壁面固定構造とすることができる。
【0024】
図7は、壁面パネルがフックとセパレータを用いて固定物に固定された状態を示した概念的な斜視図である。積み上げられた壁面パネル1は、地山側に固定された固定物20にセパレータ30によって固定される。地山に固定されたメッシュパネルあるいは壁面の基礎に固定された支持鋼材等を固定物20として使うことができる。この例では、セパレータ30は、第1の部材30aと第2の部材30bからなる。壁面パネル1の裏面5に設けられたフック7の円環状頭部Rに一端が鉤状に曲げられた鉄棒よりなるセパレータの第1の部材30aを係合させ、地山側に固定された固定物20に一端が鉤状に曲げられた鉄棒より成るセパレータの第2の部材30bを係合させ、第1の部材30aと第2の部材30bを互いに引き付けた状態で溶接αにより接合してセパレータ30を形成している。なお、セパレータ30の固定の態様は、上記した溶接結合に限られず、ネジとナット、あるいは単一の部材で作る等、他の慣用技術によっても可能である。また、セパレータを用いず、他の結合部材を用いてフック7を固定物20に結合させてもよい。
【0025】
図8は、壁面パネルのガイドランナーとフックの機能を説明した図であり、(a)は下段の壁面パネル1が第1の実施形態の壁面パネルであり、その上に縦に並んだ2つのフック7しか備えない壁面パネル1を積み上げた状態の各壁面パネルの埋設鉄筋構造を示した背面図、(b)は縦に並んだ2つのフックしか備えない壁面パネルをセパレータ30を介して固定物20に固定した状態を示した平面図である。上段の壁面パネル1のフック7を第1の部材30aと第2の部材30bから成るセパレータ30を介して固定物(例えばメッシュパネル)20に固定しても、
図8(b)の回転矢印に示すように、壁面パネル1の回転自由度が残り位置が安定しないことは想定できる。しかし、下段の壁面パネル1と上段の壁面パネル1が複数のガイドランナー6により係合していることによって、その回転は阻止され、この場合も両壁面パネル1,1の平面性が担保されている。このように、ガイドランナー6は壁面パネルの回転阻止機能も担っているため、該ガイドライナー6は、壁面パネル1の上辺と下辺付近のそれぞれに2箇所以上に設けられている。
【0026】
上記した本発明に係る壁面パネル1は、上下に隣接する壁面パネルを連設するためのガイドランナー6と、壁面パネルを背後の固定物20にセパレータ30等を介して結合するためのフック7を独立に備えるものであるので、位置の調整可能範囲が広いものとなり、位置や配向の再調整の効率もよいものとなる。また、コンクリート打設側圧の荷重が分散され、要求される曲げ強度が少なくてすむものとなる。さらに、傾斜した壁やカーブのある壁面でも位置調整の自由度が大きいものとなり、大型化、自動化に対応することが容易なものとなる。
【0027】
次に、
図9から
図12を参照しながら、上記した壁面パネルを用いた本発明に係る壁面構築方法の一実施形態を、説明する。
【0028】
まず、
図9に示すように、地山50の表面を、必要に応じて排水材(砕石、透水性マット、ドレン材等)で被覆し、透水層60を形成する(透水層形成ステップ)。続いて、地山50の下方に、基礎コンクリート70を作る(基礎形成ステップ)とともに、基礎コンクリート70に所定間隔(例えば400~500mm)で設けた差筋71に、地山50に沿って支持鋼材(アングル材、鉄筋等)80を固定する(固定物形成ステップ)。なお、前記基礎形成ステップと固定物形成ステップとは、いずれを先に行ってもよい。
【0029】
次に、初段の壁面パネル列を作る。この際、
図10に示すように、基礎コンクリート70の上に壁面パネル1を一列に配設する。そして、セパレータ30を左右上下に動かし、壁面パネル1の上下のフック7を後方に位置する固定物である上記支持鋼材80に、先に
図7を用いて説明したように、セパレータ30を介して結合する。これにより、初段の壁面パネル列が作られる(初段壁面パネル形成ステップ)。なお、この段階では、ガイドランナー6は機能を未だ発揮していないので、壁面パネル1は、
図10の回転矢印に示すように回転自由度がやや残っている。
【0030】
続いて、2段目以上の壁面パネル列を作る。この際、
図11に示すように、2段目の壁面パネル1を初段の壁面パネル1の上に図中の矢印に示すように載せると、先に
図3を用いて説明したように、ガイドランナー6の先端Xが上下の壁面パネル1の背面に互いに当接し、壁面パネル1は自立し、暫定位置を保持する。高さ通りを調整した後、壁面パネル1のフック7にセパレータ30を係止し、初段と同様に固定物である支持鋼材80に結合する。この際、
図11に示されているように、セパレータ30の第1の部材を予めフック7に係止した壁面パネル1を初段の壁面パネル1の上に載せることも可能である。このように2段目の壁面パネル列を支持鋼材80に固定し、2段目の壁面パネル列が作られる(次段壁面パネル形成ステップ)。なお、この段階では、先に
図8を示して説明したように、下段の壁面パネル1と上段の壁面パネル1が複数のガイドランナー6により係合していることによって回転は阻止され、上下両壁面パネル1,1の平面性が担保されている。続いて、前記次段壁面パネル形成ステップを所定高さまで繰り返し(壁面構築ステップ)、所定高さの壁面が構築される。
【0031】
また、必要に応じて、例えば、上記2段目までの壁面パネル列の積み上げとフック7とセパレータ30による支持鋼材80への固定が終わった後、
図12に示すように、壁面パネル1と地山50の間にコンクリート90を打設し(コンクリート打設ステップ)、そして、前記コンクリート打設ステップの後、再び次段の壁面パネル1を設置し、支持鋼材80に固定する次段壁面パネル形成ステップを数回繰り返し、その後コンクリート90を打設するコンクリート打設ステップを行うことを所定高さまで繰り返し(壁面構築ステップ)、所定高さの壁面を構築することとしてもよい。
【0032】
上記した本発明に係る壁面構築方法は、上下に隣接する壁面パネルを連設するためのガイドランナー6と、壁面パネルを背後の支持鋼材80に結合するためのフック7とを独立に備える壁面パネル1を用いて構築するものであるので、壁面パネルに従来においては必要であった連結具がなく、壁面パネルの位置の調整範囲が広いものとなり、壁面パネルの位置や配向の再調整の効率もよいものとなる。また、壁面パネルに対するコンクリート打設側圧の荷重が分散され、要求される曲げ強度が少なくてすむものとなり、壁面パネルの薄肉化、軽量化が図れるとともに、壁面パネルがコンクリート打設時の側圧による変移等の影響を受け難いものとなる。さらに、傾斜した壁やカーブのある壁面でも、壁面パネルの位置調整の自由度が大きい傾斜型枠の構築システムとなり、大型化、施工の自動化に対応することも容易となる。
【0033】
以上、本発明に係る壁面パネルおよび壁面構築方法説明したが、本発明の適用対象は図面に例示されたものに限られず、同じ技術思想で他の形態の装置および方法として実施することも可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る壁面パネルと、これを用いた壁面構築方法は、法面への適用以外にも、多用な壁面の構築に利用できるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 壁面パネル
2 ハツリ模様
3 左右の側面
4 上下の側面
5 裏面
5a 上辺
5b 下辺
6,6a,6b,6c,6d,6e,6f ガイドランナー
X ガイドランナーの先端
7,7a,7b,7c,7d フック
R フックの円環状頭部
S フックの半円状足部
10 横方向の金属製筋材
11 縦方向の金属製筋材
20 固定物
30 セパレータ
30a セパレータの第1の部材
30b セパレータの第2の部材
α 溶接
50 地山
60 透水層
70 基礎コンクリート
71 差筋
80 支持鋼材(固定物)
90 コンクリート