(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着用漆膜、及び消臭用具
(51)【国際特許分類】
A61L 9/013 20060101AFI20220420BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20220420BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220420BHJP
A43B 17/00 20060101ALI20220420BHJP
A01N 65/08 20090101ALN20220420BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20220420BHJP
【FI】
A61L9/013
A61L9/014
B01J20/22 A
A43B17/00 B
A01N65/08
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2020094296
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2021-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519021325
【氏名又は名称】あらい有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094581
【氏名又は名称】鯨田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】荒井 俊勝
(72)【発明者】
【氏名】荒井 良将
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-303665(JP,A)
【文献】特開2000-350777(JP,A)
【文献】登録実用新案第3108706(JP,U)
【文献】特開2008-284731(JP,A)
【文献】特開2000-248231(JP,A)
【文献】実開昭61-067739(JP,U)
【文献】特開2001-158712(JP,A)
【文献】特開平08-188729(JP,A)
【文献】特開昭63-007874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/08
A01P 3/00
A43B 17/00
A61L 9/00-014
B01J 20/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有体物表面に形成された漆膜であって、漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着した状態を保持する作用により、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着用漆膜。
【請求項2】
漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している紙製シートから成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する消臭用具。
【請求項3】
漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している木質板材から成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する消臭用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着用漆膜、抗白癬菌用漆膜、及び消臭用具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木炭、竹炭もしくは活性炭を含み又はそれらの粉末等を混入した消臭剤が提案等されている。例えば特許文献1は、多孔質炭素と活性炭を含有させることにより、周囲の空気中の臭い(異臭)成分を含む粒子を吸着するという多孔質素材の性質を活用した消臭剤を提案等している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような従来の木炭、竹炭又は活性炭を含み又はそれらの粉末等を混入した消臭剤においては、木炭、竹炭もしくは活性炭又はそれらの粉末等が有する吸着作用により、いったんは周囲の空気中の臭い成分を含む粒子が吸着されて臭いが周囲の空間から減少、消失するとしても、周囲の湿度及び気圧の変動などに伴って比較的短い時間が経過しただけの段階で、前記木炭、竹炭もしくは活性炭又はそれらの粉末等から、前記いったん吸着した臭い成分を含む粒子が脱着(離脱)され放出されてしまうという不都合が生じていた。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目して為されたものであって、周囲の空気中から臭い成分を含む粒子を効率的に吸着すると共にそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持できるようにして、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させることができる消臭剤を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような消臭剤であって特に臭い成分の代表的なものである3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)などをも含む臭い粒子を周囲の空気中から効率的に吸着すると共にそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡って吸着したまま保持できるようにし、その結果、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させることができる、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着剤、並びに、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着及び保持剤を提供することをも目的とする。また、本発明は、このような長期間に渡り臭い成分を含む粒子の吸着及び消臭を維持することができる(消臭作用)だけでなく、白癬菌などのカビを減少させる抗かび作用(特に抗白癬菌作用)をも併せ奏することができる、消臭及び抗かび剤(消臭及び抗白癬菌剤)を提供することをも目的とする。また本発明は、前述のような臭い成分を含む粒子の吸着及び保持による消臭作用を長期間に渡り維持することができ且つ日常生活において使い勝手の良い消臭用具を提供することをも目的とする。また本発明は、前述のような臭い成分を含む粒子の吸着及び保持による消臭作用を長期間に渡り維持することができる、靴用の消臭用具を提供することをも目的とする。またさらに、本発明は、前述のような臭い成分を含む粒子の吸着及び保持による消臭作用を長期間に渡り維持することができ且つ靴内部の消臭のために極めて使い勝手が良く、更に水虫の防止にも適した、靴用の消臭用具を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有体物表面に形成された漆膜であって、漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着した状態を保持する作用により、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着用漆膜である。
また本発明は、有体物表面に形成された漆膜であって、漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を密封環境下で2時間静置した後の吸着率が97%以上であるような高吸着率で吸着し且つ当該吸着した状態を密封環境下で30分静置した後の脱着率が0.2%以下であるような低脱着率で保持する作用により、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着用漆膜である。
また本発明は、有体物表面に形成された漆膜であって、漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着した状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有すると共に、漆成分が有する白癬菌を減少させる作用により水虫を防止又は軽減する機能を有する、消臭機能をも備えた抗白癬菌用漆膜である。
また本発明は、有体物表面に形成された漆膜であって、漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有すると共に、漆成分が有する白癬菌を用いた抗菌性試験において抗かび活性値が3.2以上の高い抗かび性で白癬菌を減少させる作用により水虫を防止又は軽減する機能を有する抗白癬菌用漆膜である。
また本発明は、漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している紙製シートから成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する消臭用具である。
また本発明は、漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している木質板材から成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する消臭用具である。
また本発明は、漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している紙製シートから成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する白癬菌を減少させる作用により水虫を防止する機能を有すると共に、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着した状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する、水虫防止機能をも有する消臭用具である。
さらに本発明は、漆が表面に塗布され且つその内部の少なくとも一部にまで浸透している木質板材から成る消臭用具であって、その表面及び内部に存在する漆成分が有する白癬菌を減少させる作用により水虫を防止する機能を有すると共に、その表面及び内部に存在する漆成分が有する3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着し且つ当該吸着した状態を保持する作用により3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)による臭いを除去する機能を有する、水虫防止機能をも有する消臭用具である。
【0007】
また、本発明による靴消臭用具は、漆が塗布された紙製シート又は木質板材から成る靴消臭用具である。さらに、本発明による靴消臭用具においては、前記紙製シート又は木質板材は、その平面が、靴底又は靴中敷と類似する形状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明による消臭剤は、漆を何らかの対象物(有体物)に塗布して比較的広い表面積を持たせることにより、その広く塗布された漆が、周囲の空気中から臭い成分を含む粒子を効率的に吸着すると共にそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持できるようにした。よって、本発明によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させられるようになる。
【0009】
また本発明による3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着剤、又は本発明による3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着及び保持剤は、漆を有効成分としたので、臭い成分の代表的なものである3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を含む粒子を、周囲の空気中から効率的に吸着し且つそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持できるようにした。よって、本発明によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させられるようになる。
【0010】
また本発明による消臭及び抗かび剤(特に、消臭及び抗白癬菌剤)は、漆を有効成分としたので、上記の長期間に渡る消臭作用の発揮及び/又は維持だけでなく、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用を、長期間に渡り発揮させられるようになり、ユーザーのために、カビ(特に白癬菌など)を原因とする水虫などの皮膚病の防止、低減にも寄与できるようになる。
【0011】
また、本発明による紙製シート(紙製シートの内部には、漆が染み込むことができる微小な隙間が多数存在している)を含む消臭用具、又は本発明による木質板材(木質板材の内部には、漆が染み込むことができる微小な隙間が多数存在している)を含む消臭用具においては、漆が、消臭作用の有効成分として、紙製シート又は木質板材の表面に塗布(一回又は複数回だけ塗布)され且つ当該漆は前記紙製シート又は木質板材の内部まで染み込んでいる(一般に、漆は、紙製シート又は木質板材の表面上に(下地膜を介することなく)一回又は複数回塗布されたときは、自然に(毛細管現象と浸透圧などにより)、当該紙製シート又は木質板材の内部深く、例えば当該紙製シート又は木質板材の表面から内部へ0.5mm以上、1mm以上、数mm以上、又は数十mm以上の深さまでも染み込むことができる)ので、空気中(靴の内部などをも含む)において不快な臭いを発生させる3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)などの異臭成分を含む粒子を、効率的に吸着すると共に、それらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持することができる。よって、本発明によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡って、周囲の消臭効果を持続させることができ、さらに、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用により、ユーザーが周囲の白癬菌の繁殖により水虫に罹患してしまうことなどをも、長期間に渡って防止できるようになる。また、本発明では、漆が塗布された紙製シート又は木質板材により消臭用具を構成したので、日常生活において極めて使い勝手の良い(紙製シート又は木質板材が日常生活上で使い勝手がよいことは明らかである)消臭用具を実現できるようになる。
【0012】
また、本発明に係る靴消臭用具においては、漆が、消臭作用の有効成分として塗布(一回又は複数回だけ塗布)された紙製シート又は木質板材から構成されており、且つ当該漆は前記紙製シート又は木質板材の内部まで染み込んでいる(一般に、漆は、紙製シート又は木質板材の表面上に(下地膜を介することなく)一回又は複数回塗布されたときは、自然に(毛細管現象と浸透圧などにより)、当該紙製シート又は木質板材の内部深く、例えば当該紙製シート又は木質板材の表面から内部へ0.5mm以上、1mm以上、数mm以上、又は数十mm以上の深さまでも染み込むことができる)ので、空気中(靴の内部などをも含む)において不快な臭いを発生させる3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)などの異臭成分を含む粒子を、効率的に吸着すると共に、それらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持することができる。よって、本発明によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡って、靴の内部の消臭効果を持続させることができ、さらに、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用により、靴のユーザーが靴内の白癬菌の繁殖により水虫に罹患してしまうことをも、長期間に渡って防止できるようになる。
【0013】
さらに、特に、本発明による靴消臭用具において、漆が塗布された紙製シート又は木質板材の平面を、靴底又は靴中敷と類似する形状に形成するようにしたときは、上記の効果に加えて、靴底又は靴中敷と類似する形状に形成された紙製シート又は木質板材を靴の内部に対して極めて簡単に出し入れできるようになり、靴内部の消臭に適した、極めて使い勝手のよい靴消臭用具を実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による靴消臭用具の一例を示す図で、(a)はその概略を示す平面図、(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明者らは、漆を塗布した食器(重箱などを含む)などを長年に渡り製造・販売してきた経験などから、漆には消臭作用があるのではないかと推測した。そこで本発明者らは、このような漆の特性、すなわち漆の有する消臭作用、例えば消臭成分の代表的なものである3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)の吸着作用及び吸着した消臭成分の保持作用(吸着した消臭成分を長期間に渡り脱着・放出させないで保持する作用・性質)についての効果確認試験を、或る試験機関(地方独立行政法人京都市産業技術研究所)に依頼した。この試験機関は、2020年5月12日、上記効果確認試験を行った。本発明者らは、上記効果確認試験の内容及び結果を示した「成績書」を、この試験機関から受け取った。上記の漆の消臭作用(特に、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)の吸着作用及び吸着した消臭成分の保持作用)に関する効果確認試験の内容及び結果は、次に引用するとおりのものであった。
【0016】
受付番号 2020-0-0132
令和 2年5月12日
成績書
依頼者 あらい有限会社
依頼事項 定量分析、その他の分析
供試品 漆塗紙板4点
完了年月日 令和2年5月11日
本研究所に提出された上記試料について得られた結果は下記のとおりです。
<試験方法>
供試品について,依頼者の指定により以下の2つの試験を行った。
試験1
窒素置換した500ml三角フラスコに縦5cm×横2.5cmに裁断した試験片2枚と20g/1イソ吉草酸エタノール溶液5μlを加え密封し,20℃,65%r.h.の環境で2時間静置した。その後フラスコをよく振り混ぜ,内部のガスをガスタイトシリンジで1ml採取し,ガスクロマトグラフ質量分析計(以下GC-MS)で測定した。試験片を用いないブランク試験も同様に行い,以下の式(1)より試験片のイソ吉草酸に対する吸着率を求めた。なお,試験は2回実施した。
吸着率(%)=(Sb-Sm)/Sb×100 (1)
Sb:ブランク試験でのGC-MSピーク面積の平均値
Sm:試験片を用いた試験でのGC-MS ピーク面積の平均値
試験2
試験1に用いた試験片を清浄な500ml三角フラスコに速やかに移し,内部を窒素ガスで置換し密封した。20℃,65%r.h.の環境で30分静置し,試験1と同様の手順で測定を行った。以下の式(2)より、試験片からのイソ吉草酸脱着率を求めた。なお,試験は2回実施した。
脱着率(%)=sd/(Sb-Sm)×100 (2)
sd:試験2におけるGC-MSピーク面積の平均値
<試験結果>
【0017】
【表1】
地方独立行政法人京都市産業技術研究所 理事長
【0018】
なお、上記表1の「試供品」の項目中の「漆塗片面」は約2mm厚の厚紙シートの片面に漆を塗布したもの、「漆塗両面」は約2mm厚の厚紙シートの両面に漆を塗布したもの、「珈琲殻有漆塗片面」は約2mm厚の厚紙シートの片面に珈琲殻を配置して漆を塗布したもの、「珈琲殻有漆塗両面」は約2mm厚の厚紙シートの両面に珈琲殻を配置して漆を塗布したもの、である。
【0019】
また、本発明者らは、漆を塗布した食器(重箱などを含む)などを長年に渡り製造・販売してきた経験などから、漆には抗かび性(抗かび作用)があるのではないかと推測した。そこで本発明者らは、このような漆の特性、すなわち漆の抗かび性、特に漆の抗白癬菌性についての効果確認試験を、或る試験機関(一般財団法人日本繊維製品品質技術センター)に依頼した。この試験機関は、2020年4月30日、上記効果確認試験を行った。本発明者らは、上記効果確認試験の内容及び結果を示した「試験成績証明書」を、この試験機関から受け取った。上記の漆の抗かび性(特に漆の抗白癬菌性)に関する効果確認試験の内容及び結果は、次に引用するとおりのものであった。
【0020】
20KB060388(1/1)
試験成績証明書
依頼者名 あらい有限会社殿
品名 漆塗布板1点
試験項目 抗かび性試験
2020年4月13日提出の試料に対する試験結果は下記の通りです。
2020年4月30日
一般財団法人日本繊維製品品質技術センター
神戸試験センター 微生物ラボ
記
○試験結果 ・試験菌種:白癬菌
【0021】
【0022】
○試験方法
*抗菌性試験 JIS Z 2801(フィルム密着法)準用
試驗菌種:Trichophyton mentagrophytes NBRC32409(白癬菌)
かび胞子濃度:1.0×105spores/ml
胞子懸濁液接種量:0.4ml
ATP量測定方法*:発光測定法
胞子懸濁液調製溶液*:1/20SDB培地
培養条件*:25℃、95%RH、42時間
無加工試験片:ポリエチレンフィルム
*ATP量測定方法、胞子懸濁液調製溶液、培養条件はJIS L 1921(吸収法)に準ずる
○提出試料
貼付省略
*この証明書は、提出の試料に対する試験結果であり、ロット全体の品質を保証するものではありません。
*本証明書の全部又は一部の無断転用を固くお断りします。
【0023】
〔実施形態1〕
次に本発明の実施形態1に係る消臭剤について説明する。本実施形態1による消臭剤は、漆を紙製又は木質等の対象物(有体物)の表面に塗布して比較的広い表面積を持たせたものである。このように、本実施形態1では、前記の対象物上に比較的広く塗布された漆が、周囲の空気中から臭い成分を含む粒子を効率的に吸着すると共にそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したままの状態を保持できるようになる。このことは、上記漆の消臭作用に関する効果確認試験結果から明らかである(特に上記の表1など参照)。よって、本実施形態1によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させられるようになる。なお、本実施形態1において、漆が塗布される対象物である紙製又は木質の物質は、例えば建物の内壁板、柱、家具、置物なども含め、その種類及び形状を問わない。すなわち、本実施形態1は、漆を消臭作用の有効成分とし消臭を目的の1つとして製造又は販売されるものであれば全て含まれる。
【0024】
〔実施形態2〕
次に本発明の実施形態2に係る、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着剤について説明する。例えば紙製シート又は木質板材などの各種物体に塗布された漆(すなわち漆が塗布された紙製シートなどの各種物体)が、3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着する作用を有すること、及び/又は3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を吸着する作用を有するだけでなく当該吸着した3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)をほとんど脱着・放出させないで吸着したまま保持する作用を有することは、上記漆の消臭作用に関する効果確認試験結果から明らかである(特に上記の表1など参照)。よって、本実施形態2においては、紙製シート又は木質板材など様々な物体に塗布された漆(そして塗布された後に当該物体の内部に染み込んだ漆)が、臭い成分の代表的なものである3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を含む粒子を、周囲の空気中から効率的に吸着し且つそれらを容易に脱着(離脱)させて放出させることなく、極めて長期間に渡り吸着したまま保持する。よって、本実施形態2によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡り消臭効果を持続させられるようになる。
【0025】
〔実施形態3〕
次に本発明の実施形態3に係る、漆を塗布した紙製シート又は木質板材などを含む3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着剤(抗かび作用・抗白癬菌作用をも有するもの)について説明する。本実施形態3では、漆が塗布された紙製シート又は木質板材などの各種物体を含んでいる。ところで、漆が塗布された紙製シートなどが、抗かび作用をも有すること、特に抗白癬菌作用を有することは、上記漆の抗かび作用に関する効果確認試験結果から明らかである(特に上記の表2など参照)。よって、本実施形態3においては、紙製シート又は木質板材などの物体に漆が塗布されているので、上記漆の抗かび作用に関する効果確認試験結果(特に上記表2参照)などから、前記様々な物体(例えば紙製シート又は木質板材など)に塗布された漆(そして塗布された後に当該物体の内部に染み込んだ漆)が、実施形態1,2と同様に臭い成分の代表的なものである3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)を含む粒子を周囲の空気中から効率的に吸着し且つそれらを容易に脱着(離脱)させて放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持することができるが、それだけでなく、さらにカビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用を発揮することもできる。よって、本実施形態3によれば、上記漆を塗布した紙製シート又は木質板材などにより、消臭作用、特に3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)吸着保持作用が長期間に渡り持続されるだけでなく、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用が長期間に渡り発揮され、ユーザーが罹患する危険がある、カビ(特に白癬菌など)を原因とする水虫などの皮膚病の防止・低減にも大きく寄与できるようになる。
【0026】
〔実施形態4〕
次に本発明の実施形態4に係る、漆を塗布した紙製シート又は木質板材を含む消臭用具について説明する。本実施形態4においては、漆が紙製シート又は木質板材(いずれもその内部には、漆が染み込むことができる微小な隙間が多数存在している)の表面に塗布(一回又は複数回だけ塗布)されており、且つ当該漆は前記シート又は板材の内部まで染み込んでいる(一般に、漆は、紙製シート又は木質板材の表面上に(下地膜を介することなく)1回又は複数回塗布されたときは、自然に(毛細管現象と浸透圧などにより)、当該紙製シート又は木質板材の内部深く、例えば当該紙製シート又は木質板材の表面から内部へ0.5mm以上、1mm以上、数mm以上、又は数十mm以上の深さまでも染み込むことができる)。ところで、例えば紙製シート又は木質板材などの各種物体に塗布された漆(すなわち漆が塗布された紙製シート又は木質板材などの各種物体)が、消臭作用を有すると共に、抗かび作用、特に抗白癬菌作用をも有することは、上記漆の消臭及び抗かび作用に関する効果確認試験結果から明らかである(特に上記の表1、表2など参照)。よって、本実施形態4によれば、漆を塗布した紙製シート又は木質板材などを含むことから、空気中(靴の内部などをも含む)において不快な臭いを発生させる3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)などの異臭成分を含む粒子を、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、効率的に吸着するだけでなくそれらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着したまま保持することができる。また、本実施形態4によれば、前述のように極めて長期間に渡って周囲の消臭効果を持続させることができるだけでなく、さらに、漆が有するカビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用により、ユーザーが周囲の白癬菌の繁殖により水虫に罹患してしまうことをも、長期間に渡って防止できるようになる。また、本実施形態4では、前述のように、漆が塗布された紙製シート又は木質板材により消臭用具を構成したので、日常生活において極めて使い勝手の良い(紙製シート又は木質板材が日常生活上で使い勝手がよいことは明らかである)消臭用具を実現できるようになる。
【0027】
〔実施形態5〕
次に、本実施形態5による靴消臭用具について説明する。本実施形態5においては、漆が塗布(一回又は複数回だけ塗布)された紙製シート又は木質板材により靴消臭用具を構成している。本実施形態5では、漆が紙製シート又は木質板材の表面に塗布(一回又は複数回だけ塗布)されているため、当該漆が前記紙製シート又は木質板材の内部まで染み込んでいる(一般に、漆は、紙製シート又は木質板材の表面上に(下地膜を介することなく)一回又は複数回塗布されたときは、自然に(毛細管現象と浸透圧などにより)、当該紙製シート又は木質板材の内部深く、例えば当該紙製シート又は木質板材の表面から内部へ0.5mm以上、1mm以上、数mm以上、又は数十mm以上の深さまでも染み込むことができる)。
【0028】
ところで、紙製シート又は木質板材などに塗布され且つその内部まで染み込んだ漆が、消臭作用、特に3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)の吸着及び保持作用を有することは上記漆の消臭作用に関する効果確認試験結果から、明らかである(特に上記の表1など参照)。また、紙製シート又は木質板材などに塗布され且つその内部まで染み込んだ漆が、上記消臭作用を有するだけでなく、抗かび作用、特に抗白癬菌作用をも有することは、上記漆の抗かび作用・抗白癬菌作用に関する効果確認試験結果から、明らかである(特に上記の表2など参照)。
【0029】
よって、本実施形態5の靴消臭用具によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡って、靴の内部の消臭効果を持続させることができ、また、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用により、靴のユーザーが靴内の白癬菌の繁殖により水虫に罹患してしまうことをも長期間に渡って防止できるようになる。
【0030】
〔実施形態6〕
さらに、本発明の実施形態6に係る靴消臭用具について説明する。本実施形態6は、前記本実施形態5と基本的構成は同一であるので、以下では前記字形5と異なる部分を中心に説明する。
【0031】
本実施形態6では、前記実施形態5で説明した靴消臭用具の一例としての、漆が塗布された厚紙製シートにより靴消臭用具を構成している。すなわち、本実施形態6では、
図1に示すように、漆が厚紙製シート1の上面側に1回だけ塗布される(
図1の符号2a参照)と共に、厚紙製シート1の下面側に2回に渡り塗布されている(
図1の符号2b参照)。
【0032】
また本実施形態6では、
図1(a)に示すように、前記厚紙製シート1は、その平面が、靴底又は靴中敷の平面と類似する(相似形となる)ように形成(切断又は成型等)されている。この
図1(a)において、前記厚紙製シート1の厚さ寸法は例えば約1~4mm、望ましくは約2mmであるが、本実施形態では任意の厚さとすることができる。
【0033】
図1に示す例では、前述のように厚紙製シート1の上面側に漆を1回だけ塗布する(
図1の符号2a参照)ようにしたが、複数回塗布してもよい。また、
図1に示す例では、前述のように厚紙製シート1の下面側(靴底に対向する側)には漆を2回だけ塗布する(
図1の符号2b参照)ようにしたが、1回だけ又は3回以上の多数回塗布してもよい。なお、2回以上塗布するときは、1回目に塗布した後に自然乾燥(通常は1日以上放置する必要がある)させてから2回目の塗布を行うことが望ましい。
【0034】
また、
図1(b)において、前記厚紙製シート1の上面側の漆2aは、厚紙製シート1の上面側に、例えば砥粉などを含む公知の下地剤による膜(前記厚紙製シート1の上面側の膜。図示省略)の上に塗布される(前記下地剤による膜の存在により、漆の前記厚紙製シート1の内部への染み込みが減少させられ又は防止される)ことにより、例えば0.03mmの被膜を形成している。
【0035】
また、
図1(b)において、前記厚紙製シート1の下面側に1回目に塗布された漆2aは、図示とは異なるが実際には(前記下地剤による膜が存在しないので)前記厚紙製シート1の内部に染み込んでいる。
図1(b)において、前記厚紙製シート1の下面側に2回目に塗布された漆2bは、例えば砥粉などを含む公知の下地剤による膜(前記厚紙製シート1の下面側の膜。図示では省略しているが、前記漆2aの上の膜)の上に塗布されることにより、例えば0.03mmの被膜を形成している。
【0036】
このように、
図1(b)に示す本実施形態6では、前記厚紙製シート1の下面側に2回に渡り塗布された漆の中、1回目に塗布された漆2aが前記厚紙製シート1の内部深くまで(例えば約0.5~5mm程度深くまで)染み込んでおり、この染み込んだ部分も前記漆2aの消臭作用及び抗かび作用を発揮している。よって、本実施形態6では、前記漆2aの消臭作用及び抗かび作用を有する部分が大きな容量を有するようになっている。よって、本実施形態6では(他の前記各実施形態1-5でも同様であるが)、このように紙製シートの内部深くまで及ぶ大きな容量を有する前記漆2aの消臭作用及び抗かび作用を有する部分が存在しているため、いったん吸着した臭い成分を含む粒子が脱着・放出されることなく前記消臭作用(特に3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)の吸着及び保持作用)及び抗かび作用(特に抗白癬菌作用)を有する部分中に長期間保持(前記吸着された状態のまま長期間保持)される。
【0037】
以上のように、本実施形態6に係る靴消臭用具においては、漆2a,2bが塗布された厚紙製シート1が靴底又は靴中敷と類似する平面形状となるように形成されているので、ユーザーは、前記靴底又は靴中敷と類似する形状に形成された厚紙製シート1を、靴の内部に対して極めて簡単に出し入れできるようになり、その結果、靴内部の消臭に適した、極めて使い勝手のよい靴消臭用具を実現できるようになる。
【0038】
また、本実施形態6の靴消臭用具は、漆が消臭作用(特に3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)の吸着及び保持作用)の有効成分として塗布された厚紙製シート1から構成されており、且つ当該漆は前記厚紙製シート1の内部深くまで染み込んでいるので、靴の内部などの空気中において不快な臭いを発生させる3-メチルブタン酸(イソ吉草酸)などの異臭成分を含む粒子を、効率的に吸着するだけでなく、それらを容易に脱着(離脱)・放出させることなく極めて長期間に渡り吸着した状態のまま保持することができる。よって、本実施形態6によれば、従来の活性炭などを消臭のために使用する場合と異なり、極めて長期間に渡って、靴の内部の消臭効果を持続させることができる。またさらに、本実施形態6によれば、カビ類を減少させる抗かび作用、特に白癬菌を減少させる抗白癬菌作用により、靴のユーザーが靴内の白癬菌の繁殖により水虫に罹患してしまうことをも、長期間に渡って防止できるようになる。
【0039】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は前記の各実施形態1-6として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。例えば、本発明における「シート」は、数mmから数cm又はそれ以上の厚さのあるシート・板、例えば数十cmの厚みのある大型シートなども含まれることはもちろんである。また、本発明における「消臭用具」は、比較的薄い板材などに限定されるものではなく、例えば柱状のもの、断面が円形、楕円形、三角形その他さまざまな多角形状のものなど、様々な形状・形態のものが含まれる。また本発明における「木質板材」は、木材製シート(合板も含むし、比較的厚いボード状のものも含む)だけでなく、例えば、多種類の木材を粉砕した粒・欠片・チップなどを(膠などの公知のバインダーを混入して又はそのようなバインダーは混入させないで)加圧して固めて成る木質シート(比較的厚いボード状のものも含む)や木質ペレット(断面円形の棒などの形態)などとしてもよい。また、本発明においては、紙製シート又は木質板材に塗布する漆は、従来より食器や置物への塗布に使用されている漆と同じように、えごま油などを含む公知の硬化剤で一定程度希釈した公知の漆を使用することができる。さらに、本発明において、紙製シート又は木質板材に漆を塗布する方法としては、従来より公知の方法、例えば、刷毛による塗布、吹き付け(スプレー)による塗布、又は拭きうるし(漆を含ませた布を対象の紙製シート又は木質板材の表面に押し付ける方法)による塗布など、様々な公知の塗布方法を採用することができる。また、前記各実施形態においては、一般に、漆は、紙製シート又は木質板材の表面上に(下地膜を介することなく)一回又は複数回塗布されたときは、自然に(毛細管現象と浸透圧などにより)、当該紙製シート又は木質板材の内部深く、例えば当該紙製シート又は木質板材の表面から内部へ0.5mm以上、1mm以上、数mm以上、又は数十mm以上の深さまでも染み込むことができると記載したが、本発明ではさらに、例えば数十cmもしくは数m以上の厚みのある木製の大型シート(ボード)や角柱などに対し表面側から漆を圧入することなどにより表面から数十cmの内部深さまで漆を染み込ませるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 厚紙製シート
2a,2b 漆