(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-19
(45)【発行日】2022-04-27
(54)【発明の名称】組換え宿主細胞内での炭素源調節タンパク質産生
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220420BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20220420BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20220420BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/16 G
C12N1/14 A
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2021539943
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2020050517
(87)【国際公開番号】W WO2020144313
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-07-08
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003864
【氏名又は名称】ロンザ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ガッサー,ブリギッテ
(72)【発明者】
【氏名】レブネッガー,コリンナ
(72)【発明者】
【氏名】フローレス・ビレガス,ミレル・シトラリ
(72)【発明者】
【氏名】マタノビッチ,ディートハルト
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511148(JP,A)
【文献】特表2017-511147(JP,A)
【文献】特表2014-530016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/16
C12N 1/14
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質または
配列番号1に対し少なくとも90%の配列同一性を有するそのホモログをコードする内在性遺伝子を含む組換え宿主細胞であって、
前記宿主細胞が、1つ以上の遺伝子修飾によって、前記1つ以上の遺伝子修飾を行う前の前記宿主細胞と比較して前記
FLO8タンパク質またはそのホモログをコードする内在性遺伝子の発現を低下させるように操作され、
ここで前記1つ以上の遺伝子修飾が(i)前記内在性遺伝子もしくはその一部または(ii)前記内在性遺伝子の発現制御配列、好ましくは、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列もしくは翻訳開始及び停止配列、エンハンサー、ならびにアクチベーター配列からなる群より選択される発現制御配列の破壊、置換、欠失、もしくはノックアウトを含み、
前記宿主細胞が、発現カセットプロモーター(ECP)の制御下で、目的遺伝子(GOI)を含む異種性発現カセットを含み、前記ECPが、非メタノール炭素源によって抑制可能であり、かつ
(i)配列番号10~16のいずれか1つ
を含む、または
(ii)配列番号41~45のいずれか1つ
を含む、または
(iii)配列番号10~16もしくは配列番号41~45のいずれか1つの3’末端を含む少なくとも300ntの領域に対する少なくとも
90%の配列同一性
を有する、
前記組換え宿主細胞。
【請求項2】
前記内在性
遺伝子が前記FLO8タンパク質をコードする遺伝子であ
る、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
前記FLO8タンパク質または前記ホモログをコードする前記内在性遺伝子が、前記1つ以上の遺伝子修飾によってノックアウトされる、請求項1または2に記載の宿主細胞。
【請求項4】
前記ECPが、成長制限量の非メタノール炭素源の存在下で、好ましくはメタノールの非存在下で誘導可能であり、前記成長制限量よりも高い過剰量の非メタノール炭素源の存在下で抑制可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項5】
前記ECPが、配列番号10または配列番号11を含むまたはそれからなる、請求項4に記載の宿主細胞。
【請求項6】
前記発現カセットが、前記GOIによってコードされる目的タンパク質(POI)の分泌を可能にするシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは、前記シグナルペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記GOIの5’末端に隣接して融合している、請求項1~5のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項7】
前記GOIが、抗原結合タンパク質、治療タンパク質、酵素、ペプチド、タンパク質抗生物質、毒素融合タンパク質、炭水化物-タンパク質結合体、構造タンパク質、調節タンパク質、ワクチン抗原、成長因子、ホルモン、サイトカイン、プロセス酵素、及び代謝酵素からなる群より選択されるペプチドまたはタンパク質である目的タンパク質(POI)をコードする、請求項1~6のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の宿主細胞であって、
a)Pichia、Hansenula、Komagataella、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Ogataea、Yarrowia、及びGeotrichumからなる群より選択される属の酵母細胞、例えば、Pichia pastoris、Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris、Saccharomyces cerevisiae、Ogataea minuta、Kluyveromces lactis、Kluyveromes marxianus、Yarrowia lipolytica、もしくはHansenula polymorpha、または
b)糸状菌、例えば、Aspergillus awamoriもしくはrichoderma reeseiの細胞
である、宿主細胞。
【請求項9】
非メタノール炭素源によって抑制可能なプロモーターの制御下で、目的タンパク質(POI)をコードする目的遺伝子(GOI)を発現する宿主細胞によって産生される前記POIの収率を増加させる方法であって、
配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質または
配列番号1に対し少なくとも90%の配列同一性を有するそのホモログをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、前記POIの収率を増加させ
ここで前記FLO8タンパク質またはそのホモログをコードする遺伝子の発現を低下させることが(i)前記FLO8タンパク質もしくはそのホモログをコードする遺伝子もしくはその一部または(ii)前記FLO8タンパク質もしくはそのホモログをコードする遺伝子の発現制御配列、好ましくは、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列もしくは翻訳開始及び停止配列、エンハンサー、ならびにアクチベーター配列からなる群より選択される発現制御配列の破壊、置換、欠失、もしくはノックアウトを含む、
前記方法。
【請求項10】
目的遺伝子(GOI)によってコードされる目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、前記GOIを産生する条件下で請求項1~8のいずれか1項に記載の宿主細胞を培養することにより、前記POIを産生する方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法であって、以下のステップ:
a)成長条件下で前記宿主細胞を培養することと、
b)最大1g/Lの第2の非メタノール炭素源の存在下、成長制限条件下で前記宿主細胞を培養し、前記GOIを発現させて前記POIを産生させることとを含み、
好ましくは、前記a)培養ステップがバッチフェーズで行われ、前記b)培養ステップが流加バッチまたは連続培養フェーズで実施される、方法。
【請求項12】
前記第1または第2の炭素源が、糖類、ポリオール、アルコール、または前述のいずれか1つ以上の混合物から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
宿主細胞内で目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、以下のステップ:
a)配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質または
配列番号1に対し少なくとも90%の配列同一性を有するそのホモログをコードする内在性遺伝子の発現を低下させるように宿主細胞を遺伝子操作し、
前記宿主細胞に、目的遺伝子(GOI)に作用可能に結合している発現カセットプロモーター(ECP)の制御下で、前記POIを発現する前記GOIを含む異種性発現カセットを導入することであって、前記ECPが、非メタノール炭素源によって抑制可能であり、かつ
(i)配列番号10~16のいずれか1つ
を含む、または
(ii)配列番号41~45のいずれか1つ
を含む、または
(iii)配列番号10~16もしくは配列番号41~45のいずれか1つの3’末端を含む少なくとも300ntの領域に対する少なくとも
90%の配列同一性
を有する、導入することと、
b)前記POIを産生する条件下で前記宿主細胞を培養することと、
c)任意選択で、前記細胞培養物から前記POIを単離することと、
d)任意選択で、前記POIを精製することと
を含
み、
ここで前記宿主細胞の遺伝子操作が(i)前記内在性遺伝子もしくはその一部または(ii)前記内在性遺伝子の発現制御配列、好ましくは、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列もしくは翻訳開始及び停止配列、エンハンサー、ならびにアクチベーター配列からなる群より選択される発現制御配列の破壊、置換、欠失、もしくはノックアウトを含む、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、POIをコードする目的遺伝子(GOI)を発現するための異種性発現カセットを含む組換え宿主細胞における目的タンパク質(POI)の産生に関し、この宿主細胞は、FLO8タンパク質の発現を低下させるように操作される。
【背景技術】
【0002】
組換え宿主細胞培養で産生されるタンパク質は、診断薬剤及び治療薬剤としてますます重要になっている。この目的において、細胞は、異常に高レベルの組換えまたは異種性の目的タンパク質を産生するように操作及び/または選択される。細胞培養条件の最適化は、組換えまたは異種性タンパク質の商業的生産を成功させるために重要である。
【0003】
目的タンパク質(POI)生産は、細胞培養で原核及び真核細胞の両方により成功している。真核宿主細胞、特定的には哺乳類宿主細胞、酵母もしくは糸状菌、または細菌は、生物薬剤学的タンパク質及びバルク化学物質の産生宿主として一般的に使用されている。最も顕著な例は、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、もしくはHansenula polymorphaのような酵母、Aspergillus awamoriもしくはTrichoderma reeseiのような糸状菌、またはCHO細胞のような哺乳類細胞である。Pichia pastorisなどのメチロトローフ酵母は、異種性タンパク質を効率的に分泌するとよく言われている。P.pastorisは新規のKomagataella属に再分類され、K.pastoris、K.phaffii、及びK.pseudopastorisの3つの種に分かれている。バイオテクノロジー用途に一般的に使用される株は、2つの提唱される種、K.pastoris及びK.phaffiiに属する。株GS115、X-33、CBS2612、及びCBS7435はK.phaffiiであり、一方SMDシリーズのプロテアーゼ欠損株(例えば、SMD1168)はタイプ種K.pastorisに分類され、これは全ての利用可能なP.pastorisの基準株である。(Kurtzman 2009,J Ind Microbiol Biotechnol.36(11):1435-8)。Mattanovich et al.(Microbial Cell Factories 2009,8:29 doi:10.1186/1475-2859-8-29)は、K.pastorisのタイプ株DSMZ 70382のゲノムシークエンシングについて記述し、そのセクレトーム及び糖輸送体を解析した。
【0004】
WO2015/158808A2は、ヘルパータンパク質を過剰発現するように操作された組換え宿主細胞を開示している。
【0005】
WO2015/158800A1は、宿主細胞のPOIを発現及び/または分泌する能力の改善について開示しており、宿主細胞にとって内在性であり過剰発現するとタンパク質産生の収率を低下させることが判明しているある特定のタンパク質(KOタンパク質と呼ばれる)を過小発現させるように操作することにより、能力を改善する。そのため、このようなKOタンパク質は、収率を改善するためのノックアウト標的として選択されている。さらに、P.pastoris宿主細胞系でKOタンパク質を過小発現させると、モデルタンパク質の収率が1.2~2.4倍増加することが分かった。誘導可能(pAOX1)プロモーターまたは構成的(pGAP)プロモーターが使用されている。KOタンパク質は、P.cerevisiae FLO8タンパク質のP.pastorisホモログ、S.cerevisiae HCH1タンパク質のP.pastorisホモログとして同定されており、KO3は、S.cerevisiae SCJ1タンパク質のP.pastorisホモログとして同定されている。
【0006】
Rebnegger et al.(Applied and Environmental Microbiology 2016,82(15):4570-4583)は、フィルター目詰まりを防止するためのP.pastoris flo8欠失変異体のグルコース制限ケモスタット培養について記述している。
【0007】
組換え宿主細胞内でのタンパク質産生に使用されるプロモーターは、調節されている(例えば、培地にメタノールを添加すると誘導される/メタノール制御性)か、または恒常的に活性である(構成的)。メタノール制御性プロモーターは、リアクター内の廃熱、または酸素供給といった技術的限界をもたらす。
【0008】
WO20137050551A1は、P.pastorisの一連の炭素源調節可能プロモーター(pG1-pG8と称される)と、細胞培養物中の炭素源を制限することによるタンパク質産生の誘導とについて開示している。
【0009】
WO2017021541A1は、P.pastorisの炭素源調節可能プロモーター(pG1と称される)のバリアントを開示している。このバリアントは、メタノール以外の炭素源によって調節され、すなわちメタノール制御性ではなく、例えば、成長フェーズ中に炭素源の存在下で抑制され、産生フェーズで炭素源を制限することによって誘導される。
【0010】
Prielhofer et al.(Microbial Cell Factories2013;12(5):1-10)は、メタノールなしで調節可能かつ誘導されるP.pastorisプロモーターについて記載している。
【0011】
Prielhofer et al.(Biotechnology and Bioengineering.2018;115:2479-2488)は、野生型プロモーターと比較して誘導特性が大幅に増強したグルコース調節PGTH1プロモーター及び操作バリアントについて記載している。
【0012】
EP2669375A1は、MPP1ホモログの高レベル発現によってタンパク質発現が改善した酵母について開示している。
【0013】
Hye Young Kim et al.(Biochemical and Biophysical Research Communications 2014,449:202-207)は、標的遺伝子セットの転写活性化におけるFlo8アクチベーターの2つのドメインの役割及び、Mss11アクチベーターと相互作用することによるFlo8の作用様式について記載している。
【0014】
EP2952584A1は、ある特定のポリヌクレオチドを過剰発現することによるタンパク質産生の改善について開示している。
【0015】
EP2258855A1は、P.pastorisのある特定のリーダー及び分泌シグナル配列について開示している。
【0016】
WO2010099195A1は、遺伝的修飾されたP.pastoris株、ならびに異種性タンパク質及びシャペロンタンパク質の同時発現について開示している。
【発明の概要】
【0017】
目的は、組換え宿主細胞内でのタンパク質産生を改善すること、及びタンパク質産生の収率を増加させることである。本発明の別の目的は、宿主細胞内で組換えタンパク質または異種性タンパク質を産生する方法であって、産生プロセス中に宿主細胞の形態が変化するリスクが低下する、方法を提供することである。
【0018】
当該目的は、特許請求される主題によって解決される。
【0019】
本発明によれば、配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする内在性遺伝子を含む組換え宿主細胞であって、当該宿主細胞が、1つ以上の遺伝子修飾によって、当該1つ以上の遺伝子修飾を行う前の当該宿主細胞と比較して当該ポリヌクレオチドの発現を低下させる(または消失させる)ように操作され、当該宿主細胞が、発現カセットプロモーター(ECP)の制御下で目的遺伝子(GOI)を発現するためのGOIを含む異種性発現カセットを含む、組換え宿主細胞が提供される。
【0020】
具体的には、ECPは、非メタノール炭素源によって調節可能である。
【0021】
具体的には、ECPは、非メタノール炭素源によって抑制可能である。
【0022】
具体的には、ECPは、抑制炭素源、例えば、メタノールではない抑制炭素源(例えば、グルコースまたはグリセロール)によって抑制可能であり、抑制炭素源の量を減らすことによって誘導可能(抑制解除可能)である。
【0023】
具体的には、ECPはメタノールによって誘導可能ではない。
【0024】
具体的には、非メタノール炭素源は、宿主細胞培養で好適に使用される、メタノール以外の任意の炭素源である。具体的には、非メタノール炭素源はメタノールではない。
【0025】
具体的には、非メタノール炭素源はメタノール以外の炭素源である。特定的には、ECPはメタノール制御性ではない。細胞培養物または細胞培養基はメタノールを含む場合も含まない場合もあるが、本明細書で使用されるECPはいかなる量のメタノールにも調節されず、特定的には、メタノールによって誘導可能ではないためメタノール制御性ではない。具体的には、ECPは、メタノールを含まない細胞培養物または培養基中で十分に誘導することができる。
【0026】
本明細書で説明される目的において、「FLO8タンパク質」という用語は、配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号1に対しある特定の相同性を有するアミノ酸配列の両方を指すものとする。さらに、相同配列はFLO8ホモログとも称される。
【0027】
具体的には、FLO8ホモログは、配列番号1に対し少なくとも25%、30%、もしくは35%のいずれか1つの配列同一性、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%のいずれか1つの配列同一性を有する、または配列番号1と100%同一である。具体的には、配列同一性は、例えば全長配列を比較したときに、本明細書でさらに開示されるように決定される。
【0028】
具体的には、FLO8タンパク質またはそれぞれのホモログは、配列番号50に対し少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%のいずれか1つの配列同一性を含むか、または配列番号50と100%同一である、LisHドメインを含む。
【0029】
具体的な態様によれば、FLO8タンパク質のLisHドメインは、真核生物のFLO8タンパク質またはそれぞれのFLO8オルソログの天然に存在するLisHドメインのいずれかに対し少なくとも80%、85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性を含むか、またはこのような天然に存在するLisHドメイン、具体的には、酵母または真菌(特定的には糸状菌)のLisHドメイン、例えば、以下のいずれか1つを含むまたはそれからなるLisHドメインと100%同一である。
a)K.phaffiiのFLO8タンパク質のLisHドメインである配列番号50(配列番号50)
b)配列番号51(K.pastorisのFLO8タンパク質のLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し96%の同一性(23/24aa))
c)配列番号52(S.cerevisiae株のFLO8オルソログのLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し54%の同一性(13/24aa))
d)配列番号53(別のS.cerevisiae株のFLO8オルソログのLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し54%の同一性(13/24aa))
e)配列番号54(Yarrowia lipolytica株のFLO8オルソログのLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し71%の同一性(12/17aa))
f)配列番号55(Ogataea polymorpha株のFLO8オルソログのLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し62%の同一性(8/13aa))、または
g)配列番号56(Aspergillus niger株のFLO8オルソログのLisHドメイン)(BLASTp:配列番号50に対し73%の同一性(8/11aa))
【0030】
典型的には、FLO8タンパク質のLisHドメインの長さは25~27アミノ酸であり、データベースPfam、ID番号PF08513に記載のヒトタンパク質LIS1及びそれぞれの配列に対し、ある特定の配列同一性を有する。分子生物学において、LisHドメインは、広範囲の機能を有する多数の真核生物タンパク質に認められるタンパク質ドメインである。LIS1のN末端領域におけるLisHドメインの構造は、それを二量体化モチーフとして示した(The dimerization mechanism of LIS1 and its implication for proteins containing the LisH motif.Mateja A,Cierpicki T,Paduch M,Derewenda ZS,Otlewski J.2006.J Mol Biol.357(2):621-31)
【0031】
FLO8ホモログは、特定的には、本明細書でさらに説明されるように、POIを産生する組換え宿主細胞として使用される宿主細胞にとって内在性であることが理解される。特定的には、FLO8タンパク質は、宿主細胞種の種にとって内在性であるオルソログである。
【0032】
具体的には、宿主細胞がP.pastoris、特定的にはK.pastorisまたはK.phaffiiである場合、FLO8タンパク質は、それぞれ、P.pastoris起源、特定的にはK.pastorisまたはK.phaffii起源である。代替的に、FLO8タンパク質は、P.pastoris起源、特定的にはK.pastorisまたはK.phaffii起源のこのようなFLO8タンパク質の相同(またはオルソログ)配列を含み、この相同(オルソログ)配列は、別の起源または種の場合、野生型宿主細胞にとって内在性である。例えば、宿主細胞がK.phaffiiである場合、内在性FLO8タンパク質は、配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる。別の例によれば、宿主細胞がK.pastorisである場合、内在性FLO8タンパク質は、配列番号3(配列番号1に対し91%同一である)として同定されるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる。さらに、宿主細胞が異なる種(K.pastoris及び/またはK.phaffii以外)のものである場合、宿主細胞にとって内在性であるFLO8タンパク質配列は配列番号1のホモログであり、本明細書で説明される目的において、宿主細胞内でのこのようなホモログの発現(配列番号1のオルソログ配列)が低下する。
【0033】
具体的には、相同配列のいずれかまたは各々は、P.pastoris、特定的にはK.pastorisまたはK.phaffiiにおけるように、それぞれの野生型宿主細胞におけるFLO8タンパク質の転写因子としての、特定的には、細胞接着、凝集、侵襲的成長、またはデンプン異化の調節に関与するDNA結合転写アクチベーターとしての同じ定性的機能によって特徴付けられるが、その定量的活性は、野生型K.pastorisまたはK.phaffiiのFLO8タンパク質と比較すると異なる可能性がある。
【0034】
具体的には、それぞれの相同配列は、P.pastoris(特定的には、K.pastorisまたはK.phaffii)以外の種のもの、例えば、別の酵母または糸状菌細胞、好ましくはKomagataellaもしくはPichia属の酵母、またはSaccharomyces属もしくは任意のメチロトローフ酵母のものである。さらに、宿主細胞は、動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳類細胞、ヒト細胞、植物細胞、細菌細胞、線虫細胞、無脊椎動物細胞(例えば、昆虫細胞もしくは軟体動物細胞)、または幹細胞とすることができ、本明細書に記載のそれぞれのFLO8タンパク質及びそのホモログは、それぞれの宿主細胞にとって内在性であるが、本明細書に記載されるようにその発現が低下または消失する。
【0035】
具体的には、FLO8タンパク質ホモログは、内在性もしくはPichia種由来、または内在性もしくは他の任意の酵母、真菌、もしくは細菌由来であり、配列番号1もしくは配列番号2に対し25%の配列同一性、特定の場合において少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%のいずれか1つの配列同一性を有し、または配列番号1または配列番号2と100%同一である。具体的には、Pichia(pastoris)またはSaccharomyces(cerevisiae)株のflo8ノックアウト株の培養物に外来性FLO8タンパク質(または外来性FLO8タンパク質をコードする遺伝子)を添加して機能する場合(このノックアウト株が外来性FLO8タンパク質の起源とは異なることにより、欠失した内在性FLO8タンパク質の機能的置き換えが立証される)、この外来性FLO8タンパク質はFLO8タンパク質ホモログと判定される。
【0036】
具体的には、FLO8タンパク質はP.pastoris起源のものであり、特定的には、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はKomagataella pastorisである。
【0037】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1を含むまたはそれからなるKomagataella phaffii起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はKomagataella phaffiiである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号2として同定されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0038】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1に対し少なくとも90%または91%の配列同一性を含むKomagataella起源のものである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号3を含むまたはそれからなるKomagataella pastoris起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はKomagataella pastorisである。
【0039】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1に対し少なくとも35%の配列同一性を含むSaccharomyces起源のものである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号5または配列番号6を含むまたはそれからなるS.cerevisiae起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はS.cerevisiaeである。
【0040】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1に対し少なくとも40%または44%の配列同一性を含むYarrowia起源のものである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号7を含むまたはそれからなるYarrowia lipolytica起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はYarrowia lipolyticaである。
【0041】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1に対し少なくとも30%または34%の配列同一性を含むOgataea起源のものである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号8を含むまたはそれからなるOgataea polymorpha起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はOgataea polymorphaである。
【0042】
具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号1に対し少なくとも25%または26%の配列同一性を含むAspergillus起源のものである。具体的には、FLO8タンパク質は、配列番号9を含むまたはそれからなるAspergillus niger起源のものである。具体的には、このようなFLO8タンパク質は、宿主細胞にとって内在性の遺伝子によってコードされ、このとき、宿主細胞はAspergillus nigerである。
【0043】
具体的には、宿主細胞は、FLO8タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写及び/もしくは翻訳を低下させる、ならびに/または他の方法でポリヌクレオチドの発現を低下させFLO8タンパク質の産生を低下させる、ゲノム変異を含む1つ以上の遺伝子修飾により、遺伝子修飾される。
【0044】
具体的には、当該1つ以上の遺伝子修飾は、(i)1つ以上の内在性ポリヌクレオチドもしくはその一部または(ii)発現制御配列の、破壊、置換、欠失、またはノックアウトを含む。
【0045】
具体的な態様によれば、当該1つ以上の遺伝子修飾は、本明細書に記載no宿主細胞の1つ以上の内在性ポリヌクレオチドのもの、例えば、コードポリヌクレオチドのものであり、これには例えば、FLO8タンパク質、特定的には、宿主細胞の種、タイプ、または株に天然に存在する野生型(修飾されていないまたはネイティブの)タンパク質をコードするポリヌクレオチド(または遺伝子)が含まれる。
【0046】
具体的な態様によれば、当該1つ以上の遺伝子修飾は、発現制御配列のもの(例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写または翻訳開始及び停止配列を含む)、またはエンハンサーまたはアクチベーター配列のものである。
【0047】
宿主細胞を操作する様々な方法を用いて内在性ポリヌクレオチド(例えば、FLO8タンパク質をコードする遺伝子)の発現を低下させることができ、このような低下には、FLO8タンパク質をコードするポリヌクレオチドを破壊すること、このようなポリヌクレオチドに作用可能に結合しているプロモーターを破壊すること、このようなプロモーターを、プロモーター活性がより低い別のプロモーターで置き換えること、このようなポリヌクレオチドの発現を調整する調節配列を修飾または調整(例えば、活性化、上方調節、不活性化、阻害、または下方調節)すること、例えば、CRISPRベースの宿主細胞の修飾方法で使用されるRNA誘導リボヌクレアーゼにより、関連する配列を標的とするそれぞれの転写調節因子を使用することが含まれ、例えば、調節配列は、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始または停止配列、翻訳開始または停止配列、エンハンサーまたはアクチベーター配列、リプレッサーまたはインヒビター配列、シグナルまたはリーダー配列、特定的には、タンパク質の発現及び/または分泌を制御する配列からなる群より選択される。
【0048】
具体的には、当該1つ以上の遺伝子修飾は、例えば遺伝子のノックアウトにより、このような遺伝子修飾を伴わないそれぞれの宿主と比較して、遺伝子もしくは遺伝子の一部の発現を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、もしくは95%低下させる、またはその発現を完全に消失させる、遺伝子またはゲノム配列の欠失または不活性化を含む、1つ以上のゲノム変異を含む。
【0049】
具体的には、当該1つ以上の遺伝子修飾は、1つ以上の内在性ポリヌクレオチドの発現を構成的に障害するまたは別の方法で低下させる、ゲノム変異を含む。
【0050】
具体的には、当該1つ以上の遺伝子修飾は、1つ以上の内在性ポリヌクレオチドの発現を条件的に障害するまたは別の方法で低下させる、1つ以上の誘導可能または抑制可能調節配列を導入するゲノム変異を含む。このような条件的に活性の修飾は、特定的には、細胞培養条件に応じて活性でありかつ/または発現する調節エレメント及び遺伝子を標的化している。
【0051】
具体的には、当該1つ以上の内在性ポリヌクレオチドの発現が低下することにより、POIを産生する際にFLO8タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現が低下する。具体的には、遺伝子修飾されると、POIが産生される宿主細胞培養の条件下でFLO8タンパク質の発現が低下する。
【0052】
具体的には、当該FLO8タンパク質の量(例えば、レベルまたは濃度)を、例えば、遺伝子のノックアウトにより、修飾を伴わない宿主細胞と比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%(mol/mol)のうちの1つ、または100%(例えば、検出可能でない量まで)低下させて、FLO8タンパク質の産生を完全に消失させるように、宿主細胞を遺伝子修飾する。具体的な実施形態によれば、宿主細胞は、(1つ以上の)ゲノム配列、特定的には、FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログをコードするゲノム配列の1つ以上の欠失を含むように遺伝子修飾される。このような宿主細胞は、典型的には欠失株またはノックアウト株として提供される。
【0053】
具体的な実施形態によれば、ひとたび本明細書に記載の宿主細胞が細胞培養物中で培養されると、宿主細胞または宿主細胞培養物中の合計FLO8タンパク質量は、このような遺伝子修飾の前にもしくは遺伝子修飾なしで宿主細胞によって発現もしくは産生される参照量と比較して、またはそれぞれの宿主細胞培養物中で産生される参照量と比較して、または当該修飾の前もしくは修飾なしの宿主細胞と比較して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%(mol/mol)のいずれか1つ、または100%にも(例えば、検出可能でない量まで)低下する。
【0054】
本明細書に記載の宿主細胞を、当該FLO8タンパク質の産生を低下させる遺伝子修飾の作用に関して比較する場合、典型的には、このような遺伝子修飾の前または遺伝子修飾なしの比較可能な宿主細胞と比較する。比較は、典型的には、組換えまたは異種性POIを産生するように操作された、このような遺伝子修飾を伴わない同じ宿主細胞の種またはタイプを用いて、特定的には、当該POIを産生する条件下で培養するときに、行われる。ただし、組換えまたは異種性POIを産生するようにさらなる操作がされていない同じ宿主細胞の種またはタイプを用いても、比較を行うことができる。
【0055】
具体的な態様によれば、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログの減少は、細胞中の当該FLO8タンパク質の量(例えば、レベルまたは濃度)の減少によって定量される。具体的には、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログの量は、好適な方法によって、例えば、ウェスタンブロット、免疫蛍光イメージング、フローサイトメトリー、または質量分析(特定的には、質量分析は、液体クロマトグラフ-質量分析(LC-MS)または液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)である)(例えば、Doneanu et al.(MAbs.2012;4(1):24-44)に記載の通り)によって定量される。
【0056】
具体的な態様によれば、組換え宿主細胞は、1つのみまたは複数の異種性発現カセット、例えば、発現カセットの複数コピー(例えば、少なくとも2、3、4、または5コピー(遺伝子コピー数、GCN))を含む。例えば、組換え宿主細胞は、最大2、3、4、または5コピーを含む。コピーの各々は、同じまたは異なる配列を含むまたはそれらからなることができ、さらに、GOIに作用可能に結合したECPを含む。
【0057】
具体的な態様によれば、異種性発現カセットは、GOIに作用可能に結合したECPを含むポリヌクレオチドの人工的融合物と、任意選択でさらなる配列(例えば、シグナル、リーダー、またはターミネーター配列)とを含むまたはこれらからなる。具体的には、宿主細胞にとって異種性のまたは人工的な発現カセットが使用され、特定的には、この発現カセットはプロモーター(ECP)及びGOIを含み、このときプロモーター及びGOIは互いに異種性であり、この組合せでは自然界に存在せず、例えば、プロモーター及びGOIのいずれか一方(または一方のみ)が、人工的であるまたは他方及び/もしくは本明細書に記載の宿主細胞にとって異種性である、プロモーターが内在性プロモーターであり、GOIが異種性GOIである、あるいはプロモーターが人工的または異種性プロモーターであり、GOIが内在性GOIである。このとき、プロモーター及びGOIの両方は、人工的、異種性、または異なる起源由来(例えば、本明細書に記載の宿主細胞と比較して異なる種またはタイプ(株)細胞由来)である。具体的には、ECPは、本明細書に記載の宿主細胞として使用される細胞内で、当該GOIと天然には会合しておらず、かつ/または作用可能に結合していない。
【0058】
具体的な態様によれば、ECPは、成長制限量の非メタノール炭素源の存在下で、好ましくはメタノールの非存在下で誘導可能であり、成長制限量よりも高い過剰量の非メタノール炭素源の存在下で抑制可能である。具体的には、異種性発現カセットによるGOI発現は、誘導性ECPによって誘導可能である。
【0059】
好ましくは、ECPは、調節可能な炭素源であり、例えば、細胞培養基または上清中の1、1.5、2、2.5、または3g/Lのいずれか1つよりも多い量(本明細書ではプロモーター抑制量と称される)の炭素源の存在下で抑制され、検出可能な炭素源の非存在下で、または細胞培養基もしくは上清中の最大0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、もしくは1.0g/Lのいずれか1つの量(本明細書ではプロモーター誘導量と称される)の炭素源の存在下で、誘導または抑制解除される。細胞培養基または上清中のこのような量は、特定的には、宿主細胞の摂食及び宿主細胞による消費の際に検出可能であり得る量として理解されている。典型的には、成長制限条件下でPOIを産生する際、細胞培養物の供給は、POI産生中に細胞によって直ちに消費される量の補充炭素源を添加することによって行われ、したがって、細胞培養基または上清中に残存量が全くまたはごくわずか(例えば、最大1.0g/L)しか残らない。
【0060】
具体的には、ECPを調節する炭素源はメタノール以外の任意の炭素源であり、本明細書ではこれを非メタノール炭素源と称する。
【0061】
具体的には、非メタノール炭素源は炭水化物ではない。
【0062】
具体的には、非メタノール炭素源は、糖類、ポリオール、アルコール、または前述のいずれか1つ以上の混合物から選択される。
【0063】
具体的には、糖類は、単糖類、例えば、ヘキソース(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、またはマンノース)、あるいは二糖類(例えば、サッカロース)、あるいはアルコールまたはポリオール、例えば、エタノール、または任意のジオール、またはトリオール(例えば、グリセロール)、あるいは上記のいずれかの混合物のいずれか1つ以上であり得る。具体的には、任意のこのような非メタノール炭素源は、ECPの制御下で当該POIを産生する量で細胞培養物中に使用することができる。
【0064】
具体的な態様によれば、ECPは、少なくとも1つの第1のコア調節領域及び少なくとも1つの第2のコア調節領域を含む。具体的には、ECPは、少なくとも2つの当該第1及び/または第2コア調節領域を含む。具体的には、ECPは、限定された数の当該第1及び第2のコア調節領域を含み、当該第1のコア調節領域の数は1つのみ、2つ、または3つであり、当該第2のコア調節領域の数は1つのみ、2つ、または3つである。具体的には、ECPは、同数の当該第1及び第2のコア調節領域を含み、例えば、当該第1のコア調節領域の数が1かつ当該第2のコア調節領域の数が1、当該第1のコア調節領域の数が2かつ当該第2のコア調節領域の数が2、または当該第1のコア調節領域の数が3かつ第2のコア調節領域の数が3である。
【0065】
具体的には、第1のコア調節領域は、配列番号17に対し少なくとも75%の配列同一性(例えば、少なくとも80%または少なくとも90%のいずれか1つの配列同一性)を有し、及び/または第2のコア調節領域は、配列番号18に対し少なくとも75%の配列同一性(例えば、少なくとも80%または少なくとも90%のいずれか1つの配列同一性)を有する。
【0066】
具体的には、第1コア調節領域及び第2のコア調節領域の各々は、8~16ntの長さを有する。
【0067】
具体的には、第1のコア調節領域は8~10nt、特定的には9ntの長さを有する。具体的には、第1のコア調節領域は、配列番号17、または配列番号17として同定されるヌクレオチド配列の修飾を含むまたはそれからなり、このとき修飾は、最大1つまたは2つの点変異であり、特定的には、1つの点変異は、1つのヌクレオチドの置換、挿入、または欠失のいずれか1つである。
【0068】
具体的には、第2のコア調節領域は14~16nt、特定的には15ntの長さを有する。具体的には、第2のコア調節領域は、配列番号18、または配列番号18として同定されるヌクレオチド配列の修飾を含むまたはそれからなり、このとき修飾は、最大1つ、2つ、または3つの点変異であり、特定的には、1つの点変異は、1つのヌクレオチドの置換、挿入、または欠失のいずれか1つである。
【0069】
具体的には、ECPは、少なくとも1つの第1のコア調節領域及び少なくとも1つの第2のコア調節領域を、任意の順序で、好ましくは互いに近接して(例えば、最も近い第1及び第2のコア調節領域間が最大20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または10ntのいずれか1つ)含む。
【0070】
具体的には、ECPは、1つの第1のコア調節領域及び1つの第2のコア調節領域を含み、これらは、スペーサーを介して結合し、特定的には、少なくとも5、6、7、8、9、10ntのいずれか1つの長さ、かつ/または最大20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、もしくは10のいずれか1つの長さを有するヌクレオチド配列(本明細書中では「スペーサーコア領域」と称される)によって分離している。特定的には、スペーサーコア領域は、配列番号36に対し少なくとも75%の配列同一性(例えば、少なくとも80%少なくとも90%のいずれか1つの配列同一性)を有し、かつ/または配列番号36、または配列番号36として同定されるヌクレオチド配列の修飾を含むまたはそれからなり、このとき修飾は、最大1つ、2つ、3つ、または4つの点変異であり、特定的には、1つの点変異は、1つのヌクレオチドの置換、挿入、または欠失のいずれか1つである。具体的には、スペーサーコア領域は、ヌクレオチドの大部分(少なくとも50%または少なくとも60%)がG、C、またはTから選択されるヌクレオチド配列を含むまたはそれからなる。
【0071】
具体的には、ECPは、5’末端→3’末端で以下の3つの連続するエレメント、(i)第1のコア調節領域、(ii)スペーサーコア領域、及び(iii)第2のコア調節領域からなるヌクレオチド配列からなる少なくとも1つの領域を含み、これは本明細書では「主要調節領域」と称される。
【0072】
具体的には、ECPは、少なくとも1つもしくは2つ、または1つのみもしくは2つの主要調節領域を含み、これらは各々、配列番号35に対し少なくとも85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むまたはそれからなる。このような主要調節領域は、好ましくは、第1のコア調節領域、スペーサーコア領域、及び第2のコア調節領域からなる。
【0073】
具体的には、ECPは、配列番号35に対し少なくとも85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0074】
具体的には、ECPは、本明細書に記載のように、1つのみ、2つ、または3つの主要調節領域を含み、特定的には、主要調節領域の数は2つまたは3つであり、当該2つまたは3つの調節領域は互いに同一であっても異なっていてもよい。具体的には、ECPは、2つのみの主要調節領域を含み、これらは、少なくとも50、60、70、80、90、100ntのいずれか1つの長さ、かつ/または最大500、450、400、350、または300ntのいずれか1つの長さ、特定的には100から300ntの間の範囲の長さを有するヌクレオチド配列(本明細書中では「スペーサー主要領域」と称される)によって分離している。具体的には、スペーサー主要領域は、配列番号37に対し少なくとも60%の配列同一性(例えば、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性)を有する少なくとも50、60、70、80、90、100ntのいずれか1つの長さのヌクレオチド配列を含み、かつ/または配列番号37、または配列番号37として同定されるヌクレオチド配列の修飾を含むまたはそれからなり、このとき修飾は、最大30、25、20、15、または10のいずれか1つの点変異であり、特定的には、1つの点変異は、1つのヌクレオチドの置換、挿入、または欠失のいずれか1つである。
【0075】
具体的な態様によれば、ECPは、大部分がチミン(T)である、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または100%のいずれか1つがTであるヌクレオチド配列からなる少なくとも1つのTモチーフを含み、当該Tモチーフは、例えば、配列番号19~34のいずれか1つを含むまたはそれからなり、当該Tモチーフの5’または3’末端のいずれかにある1つ以上のさらなる(または隣接する)チミンによる伸長を伴わない。
【0076】
具体的には、ECPは、1つのみもしくは2つの当該Tモチーフ、または少なくとも2つの当該Tモチーフ、最大4つもしくは3つのTモチーフを含み、このとき、当該Tモチーフは互いに同一であるか、または異なる。
【0077】
具体的には、ECPは、主要調節領域の上流または下流の少なくとも1つのTモチーフ、例えば、主要調節領域の上流の1つ(または1つのみもしくは2つ)のTモチーフと、下流の1つ(または1つのみもしくは2つ)のTモチーフとを含む。さらに、具体的な実施形態によれば、ECPは、当該Tモチーフの少なくとも1つ、特定的には、スペーサー主要領域内の1つのみまたは2つのTモチーフを含む。
【0078】
具体的には、ECPは、少なくとも350、400、450、500、550、600、650、700、850、900、950、または1000bpのいずれか1つの長さで、例えば、最大2000bp、または1500bpの長さを有する。
【0079】
具体的には、ECPは、例えば、長さが最大50、40、30、20、10、9、8、7、6または5nt以下(3’末端を含む)の3’末端ヌクレオチド配列を含み、これは翻訳開始部位の少なくとも一部、例えば、配列番号38、配列番号39、または配列番号40のいずれか1つに対し少なくとも60%、70%、80%、85%、または少なくとも90%同一のいずれか1つである配列を含む。翻訳開始部位は、真核生物におけるKozakコンセンサス配列であり、遺伝子発現を支持するための好適なプロモーター配列であり得る。
【0080】
具体的な態様によれば、ECPは、例えば、転写因子結合部位(TFBS)を含む領域内、及び/または配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、もしくは配列番号16のいずれか1つ、または配列番号41~45のいずれか1つの配列の3’末端を含む3’末端配列内(特定的には、全長が1000nt未満の場合、前述のヌクレオチド配列のいずれかの全長以下とする)で、少なくとも300(連続)nt、特定的には少なくとも300、350、400、450、500、550、600、650、700、850、900、950、または1000ntのいずれか1つに対し、少なくとも60%、65%、70%、75%、または80%の配列同一性、特定的には少なくとも85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性を含むか、または100%同一である。
【0081】
具体的な態様によれば、ECPは、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、もしくは配列番号16のいずれか1つまたは配列番号41~45のいずれか1つの全長配列に対し、少なくとも60%、65%、70%、75%、もしくは80%のいずれか1つの配列同一性、特定的には、少なくとも85%、90%、もしくは95%のいずれか1つの配列同一性を含むか、または100%同一である。
【0082】
具体的な実施形態は、配列番号10または配列番号11を含むまたはそれからなるECP、あるいは配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、もしくは配列番号16、または配列番号41~45のいずれか1つの完全長配列に対し、それぞれ少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%のいずれか1つの配列同一性を有するか、または100%同一である、ヌクレオチド配列を含むまたはそれからなるECPを指す。
【0083】
具体的には、ECPプロモーターは、配列番号10または配列番号11の少なくとも一部または断片を含むまたはそれからなり、長さは少なくとも300、400、500、600、700、800、900、または1000bpのいずれか1つの長さであり、特定的には、TFBS及び/または3’末端を含む。
【0084】
具体的には、ECPの第1及び第2のコア調節領域、またはECPの主要調節領域のいずれかが1つ以上のTFBSを含む。具体的には、ECPの第1及び第2のコア調節領域の各々、または第1及び第2のコア調節領域の両方、または主要調節領域の各々は、機能的であると考えられそれぞれの転写因子によって認識されるTFBSまたは少なくともその一部を含む。
【0085】
具体的には、TFBSは、Rgt1(例えば、配列番号47を含むまたはそれからなる)、Cat8-1(例えば、配列番号48を含むまたはそれからなる)、及びCat8-2(例えば、配列番号49を含むまたはそれからなる)からなる群より選択される転写因子のいずれか1つ以上によって認識される。
TFBSはある特定のコンセンサス配列によって特徴付けられ、これは同じ因子に対して変化し得る。特異的な転写因子は以下のように同定される。
【0086】
Rgt1は、グルコース応答性転写アクチベーター及びリプレッサーであり、いくつかのグルコース輸送体(HXT)遺伝子の発現を調節する。P.pastorisのRgt1はアミノ酸配列の配列番号47を含む。
【0087】
Cat8-1及びCat8-2は、炭素源応答エレメントに結合する亜鉛クラスター転写アクチベーターであり、非発酵性成長条件下での様々な遺伝子の抑制解除に必要である。P.pastorisのCat8-1及びCat8-2は、それぞれ配列番号48及び配列番号49のアミノ酸配列を含む。
【0088】
具体的な態様によれば、ECPは、少なくとも2、3、4、5、6、7、または8個のTFBSを含み、TFBSの各々は、Rgt1、Cat8-1、またはCat8-2のいずれかによって個別に認識される。
【0089】
具体的には、ECPは、参照プロモーターと比較して増加したプロモーター強度によって特徴付けられ、
・プロモーター強度は、参照プロモーターのプロモーター強度と同じであるか、またはそれよりも高く、特定的には、誘導状態にある場合、少なくとも1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍、3.3倍、3.5倍、3.8倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、または少なくとも6倍の増加のいずれか1つである。
【0090】
特定的には、宿主細胞のネイティブpGAPプロモーター、具体的には、組換えPOI産生に使用される宿主細胞にとって内在性でかつ宿主細胞内に天然に存在するpGAPプロモーター、P.pastoris内でのGAPDHの発現を制御するために使用されるP.pastorisのネイティブpGAPプロモーター(例えば、配列番号46を含むまたはそれからなる)は、P.pastoris宿主細胞内でのECPプロモーター強度の改善を定量するための参照として機能し得る。このような参照プロモーターは、同じ宿主細胞及び発現系を用いた並行対照実験で、または同じ宿主細胞培養物内の内部対照として使用することができる。参照プロモーターと比較してプロモーター機能を認定するこのような対照実験は、好ましくは、P.pastoris宿主細胞培養物で、特定的にはモデルタンパク質(例えば、GFPまたはeGFP)を発現する組換えP.pastorisで、実施される。参照プロモーター強度と比較したプロモーター強度は、以下の標準アッセイによって定量することができる:eGFPを発現するP.pastoris株を、試験対象のプロモーターの制御下で、24ディープウェルプレート中25℃で、280rpmで振とうしながらウェル当たり2mLの培養物を用いてスクリーニングする。グルコースフィードビーズ(6mm、Kuhner、CH)を使用して、グルコース制限成長条件を作成する。誘導状態(YP+1フィードビーズ、20~28時間)における細胞のeGFP発現を解析する。
【0091】
具体的な態様によれば、本明細書に記載のECPの相対的なプロモーターまたは転写の強度または比率は、POIを産生するための宿主として使用される同じ種または株の細胞のネイティブpGAPプロモーターと比較される。
【0092】
具体的には、参照プロモーターは、宿主細胞のネイティブpGAPプロモーターである。例えば、P.pastoris内にある修飾されていない内在性プロモーター配列であるP.pastorisのネイティブpGAPプロモーター(例えば、配列番号46として同定される配列を含むまたはそれからなる)を、P.pastoris(GS115)内でのGAPDHの発現を制御するために使用するように、P.pastoris内での参照プロモーターとして使用することができる。P.pastorisを、本明細書に記載されるようなPOIを産生するための組換え宿主細胞として使用する場合、本明細書に記載のECPの転写強度または転写率は、このようなP.pastorisのネイティブpGAPプロモーターと好都合に比較される。
【0093】
P.pastoris(GS115)の例示的なネイティブpGAPプロモーター配列(配列番号46)
【表1】
*PAS:P.pastoris GS115のORF名;PIPA:P.pastorisタイプ株DSMZ 70382のORF名
【0094】
別の例によれば、S.cerevisiae内の修飾されていない内在性プロモーター配列であるS.cerevisiaeのネイティブpGAPプロモーターを、S.cerevisiae内でのGAPDHの発現を制御するために使用されるように、参照プロモーターとして使用することができる。S.cerevisiaeを、本明細書に記載されるようなPOIを産生するための組換え宿主細胞として使用する場合、本明細書に記載のECPの転写強度または転写率は、このようなS.cerevisiaeのネイティブpGAPプロモーターと好都合に比較される。
【0095】
具体的には、プロモーター強度は、参照プロモーターと比較したPOIの発現レベル、例えば、モデルタンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、GFP(例えば、増強GFP、eGFP、Gene Bankアクセッション番号U57607を含む))の発現レベル、及び/または転写強度によって定量される。好ましくは、転写解析は定量的または半定量的であり、好ましくはqRT-PCR、DNAマイクロアレイ、RNAシークエンシング、及びトランスクリプトーム解析を用いる。
【0096】
具体的には、ECPはさらに、抑制状態での低レベルと比較して完全誘導状態で転写強度が高いことによって特徴付けられるプロモーター誘導比により、特徴付けられる。
【0097】
具体的には、プロモーター誘導比とは転写の誘導を指し、具体的には、さらなる翻訳及び当該POIの任意選択の発現を含む。転写は、典型的には、プロモーター強度の尺度として定量され、具体的には、当該プロモーターを完全に誘導する際に得られる転写物の量を指す。当該転写物の存在量は、例えば、グルコース制限ケモスタット培養条件下で得られ発現する、参照プロモーターの転写率と比較した完全誘導状態での転写強度によって定量することができる。
【0098】
誘導比はECPの炭素源調節を定量する重要なパラメーターであり、抑制状態のプロモーター活性または強度に対する誘導状態のプロモーター活性または強度を設定する。例えば、抑制状態におけるレポータータンパク質(例えば、GFPまたはeGFP)の発現レベル及び/または転写レベルは、過剰グリセロールによる抑制によって定量され、モデルタンパク質の発現レベル及び/または転写レベルは、グルコース供給を制限することによって誘導された誘導状態で定量される。
【0099】
ECPプロモーターは、培養条件が例えば、0.4g/L未満、好ましくは0.04g/L未満、とりわけ0.02g/L未満のグルコース濃度でほぼ最大の誘導がもたらされる場合、抑制解除状態かつ完全誘導状態とみなされる。好ましくは、完全誘導状態のプロモーターは、ネイティブpGAPプロモーターと比較して、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%、または少なくとも150%もしくは少なくとも200%というさらに高い転写レベル/強度を示す。転写レベル/強度は、例えば、液体培養でクローンを培養する際のレポーター遺伝子(例えば、eGFP)の転写物の量によって定量することができる。代替的に、転写率は、マイクロアレイ上のネイティブ制御遺伝子の転写強度によって定量することができ、このときマイクロアレイデータは、抑制状態と抑制解除状態との間の発現レベルの差、及び完全誘導状態での対照より高いシグナル強度を示す。
【0100】
具体的には、誘導比は、抑制状態に対する誘導状態における(例えば、GFPまたはeGFPなどのモデルタンパク質の)発現レベルの比によって定量することができる。参照プロモーターと比較した誘導比は、以下の標準アッセイによって定量することができる:eGFPを発現するP.pastoris株を、試験対象のプロモーターの制御下で、24ディープウェルプレート中25℃で、280rpmで振とうしながらウェル当たり2mLの培養物を用いてスクリーニングする。グルコースフィードビーズ(6mm、Kuhner、CH)を使用して、グルコース制限成長条件を作成する。抑制状態(YP+1%グリセロール、対数期)及び誘導状態(YP+1フィードビーズ、20~28時間)の間の細胞のeGFP発現を解析する。
【0101】
具体的には、ECPプロモーターは、抑制解除(誘導)状態で、抑制状態よりも少なくとも1.5、2.0、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10倍高いのいずれか1つであるプロモーター活性または強度(例えば、転写活性または転写強度)を有する。そのため、それぞれの誘導率は、少なくとも1.5、2.0、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10のいずれか1つであり得る。
【0102】
驚くべきことに、FLO8ノックアウト株における(例えばグルコース制限誘導条件下で、完全に誘導されたときの)本明細書に記載のECPの転写活性(または転写強度)は、FLO8遺伝子座を含みかつFLO8タンパク質を産生する野生型株と比較してはるかに高く、例えば、少なくとも1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍高いのいずれか1つであることが判明した。本明細書に記載の宿主細胞内での転写強度は顕著に増加し、flo8欠失変異体においてはECPの制御下でGOIの発現レベルを高められることが分かった。これに対し、pGAPまたはpAOXからの転写は、(比較例で定量されている通り)flo8欠失変異体では増加しない。
【0103】
具体的な態様によれば、異種性発現カセットは、自律複製ベクターまたはプラスミドに含まれるか、または宿主細胞の染色体内に組み込まれる。
【0104】
発現カセットは、宿主細胞に導入し、(例えば、組込みの特定の部位の、またはランダムに組み込まれた)染色体内エレメントとして宿主細胞ゲノム(またはその染色体のいずれか)に組み込むことができ、それから高産生宿主細胞系が選択される。代替的に、発現カセットは、プラスミドまたは人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC))などの染色体外遺伝子要素内に組み込んでもよい。具体的な例によれば、発現カセットは、ベクター、特定的には発現ベクターによって宿主細胞に導入され、当該ベクターは、好適な形質転換技術によって宿主細胞に導入される。この目的において、GOIを発現ベクターにライゲーションすることができる。
【0105】
好ましい酵母発現ベクター(好ましくは酵母内での発現に使用されるベクター)は、pPICZ、pGAPZ、pPIC9、pPICZalfa、pGAPZalfa、pPIC9K、pGAPHis、pPUZZLE、またはGoldenPiCSに由来するプラスミドからなる群より選択される。
【0106】
ベクターまたはプラスミドを導入するために宿主細胞を形質移入または形質転換する技法は、当技術分野で周知されている。このような技法には、エレクトロポレーション、スフェロプラスト形成、脂質小胞媒介取り込み、熱ショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介形質移入(リン酸カルシウム/DNA共沈殿)、ウイルス感染(特定的には、修飾ウイルス(例えば、修飾アデノウイルス)、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーションを用いた感染)が含まれ得る。
【0107】
本明細書に記載の形質転換体は、発現カセット、ベクター、またはプラスミドDNAを宿主に導入し、関連するタンパク質または選択マーカーを発現する形質転換体を選択することにより、得ることができる。宿主細胞は、宿主細胞の形質転換に従来的に使用されている方法(例えば、電気パルス法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、及びこれらの改変方法)によって処理して異種または外来DNAを導入することができる。P.pastorisは、好ましくはエレクトロポレーションによって形質転換される。微生物による組換えDNA断片の取込みのための好ましい形質転換方法には、化学的形質転換、エレクトロポレーション、またはプロトプラスト法による形質転換が含まれる。
【0108】
具体的には、発現カセットは、POIをコードするGOIに作用可能に結合したECPを含み、任意選択でさらに、必要に応じて分泌タンパク質としてPOIを発現及び産生するためのシグナル及びリーダー配列を含む。
【0109】
具体的な態様によれば、発現カセットは、POIの分泌を可能にするシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列は、GOIの5’末端に対し、隣接してまたは直接融合される。
【0110】
具体的には、シグナルペプチドは、S.cerevisiaeアルファ-接合因子プレプロペプチド由来のシグナル配列、P.pastoris酸性ホスファターゼ遺伝子(PHO1)、及び細胞外プロテインX(EPX1)(Heiss,S.,V.Puxbaum,C.Gruber,F.Altmann,D.Mattanovich & B.Gasser,Microbiology 2015;161(7):1356-68)からなる群より選択される。
【0111】
具体的には、WO2014067926A1に記載のシグナル及び/またはリーダー配列のいずれか、特定的には、配列番号59または配列番号60を使用することができる。
【0112】
具体的には、WO2012152823A1に記載のシグナル配列、特定的には、配列番号61として同定されたS.cerevisiaeのネイティブアルファ接合因子のシグナル配列またはその変異体を使用することができる。
【0113】
具体的な態様によれば、本明細書に記載の宿主細胞は、例えば、タンパク質産生を改善するために、1つ以上のさらなる遺伝子修飾を経ることができる。
【0114】
具体的には、宿主細胞をさらに操作して、プロテアーゼ欠損株、特定的には、カルボキシペプチダーゼY活性欠損株の生成に使用されるタンパク質分解活性に影響を及ぼす1つ以上の遺伝子を修飾する。特定的な例は、WO1992017595A1に記載されている。プロテアーゼAまたはプロテイナーゼBなどの液胞プロテアーゼに機能的欠損を有するプロテアーゼ欠損Pichia株のさらなる例は、US6153424Aに記載されている。さらなる例は、例えば、ThermoFisher Scientificが提供する、ade2欠失を有する、及び/またはプロテアーゼ遺伝子PEP4及びPRB1の一方もしくは両方の欠失を有する、Pichia株である。
【0115】
具体的には、宿主細胞は、WO2010099195A1で開示されているように、PEP4、PRB1、YPS1、YPS2、YMP1、YMP2、YMP1、DAP2、GRH1、PRD1、YSP3、及びPRB3からなる群より選択される、機能的遺伝子産物、特定的にはプロテアーゼをコードする少なくとも1つの核酸配列を修飾するように操作される。
【0116】
ヘルパー因子をコードする遺伝子の過剰発現または過小発現は、具体的には、例えばWO2015158800A1に記載のように、GOIの発現を増強するために適用される。
【0117】
以下の遺伝子の過剰発現は、P.pastoris内でのPOI分泌を増加させることが示された:PP7435_Chr3-0607、PP7435_Chr3-0933、PP7435_Chr2-0220、PP7435_Chr3-0639、PP7435_Chr4-0108、PP7435_Chr1-1232、PP7435_Chr1-1225、PP7435_Chr1-0667、及びPP7435_Chr4-0448。
【0118】
以下の遺伝子の過小発現は,P.pastorisにおけるPOI分泌を増加させることが示された:PP7435_Chr1-0176、PP7435_Chr3-1062、及びPP7435_Chr4-0252。
【0119】
特定的には、宿主細胞は、任意の1つ以上のヘルパー因子を過剰発現させ、配列番号62~71のいずれか1つによって同定されるそれぞれのタンパク質の産生を増加させるように操作して、POI収率をさらに増加させることができる。POIは、真核生物、原核生物、または合成ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または宿主細胞の代謝産物のいずれか1つとすることができる。
【0120】
具体的には、POIは宿主細胞種にとって異種性である。
【0121】
具体的には、POIは、分泌ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり、すなわち、宿主細胞から細胞培養上清中に分泌される。
【0122】
具体的には、POIは真核細胞タンパク質であり、好ましくは、哺乳類由来もしくは関連タンパク質(例えば、ヒトタンパク質もしくはヒトタンパク質配列を含むタンパク質)、または細菌タンパク質もしくは細菌由来タンパク質である。
【0123】
好ましくは、POIは哺乳類で機能する治療用タンパク質である。
【0124】
具体的な場合において、POIは、多量体タンパク質、具体的には二量体または四量体である。
【0125】
具体的な態様によれば、POIは、抗原結合タンパク質、治療タンパク質、酵素、ペプチド、タンパク質抗生物質、毒素融合タンパク質、炭水化物-タンパク質結合体、構造タンパク質、調節タンパク質、ワクチン抗原、成長因子、ホルモン、サイトカイン、プロセス酵素、及び代謝酵素からなる群より選択されるペプチドまたはタンパク質である。
【0126】
具体的には、抗原結合タンパク質は、以下からなる群より選択される:
a)抗体または抗体断片、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、Fab、Fd、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、Fv四量体、ミニボディ、VH、VHH、IGnaRS、もしくはV-NARのような単一ドメイン抗体のいずれか
b)抗体ミメティック、例えば、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、もしくはNanoCLAMP、または
c)1つ以上の免疫グロブリン折畳みドメイン、抗体ドメイン、もしくは抗体ミメティックを含む融合タンパク質。
【0127】
具体的なPOIは、抗原結合分子、例えば、抗体またはその断片、特定的には、抗原結合ドメインを含む抗体断片である。具体的なPOIに含まれるものとして、モノクローナル抗体(mAb)、免疫グロブリン(Ig)もしくは免疫グロブリンクラスG(IgG)、重鎖抗体(HcAb)もしくはその断片、例えば、断片-抗原結合(Fab)、Fd、1本鎖可変断片(scFv)、もしくはその操作バリアント、例えば、Fv二量体(ダイアボディ)、Fv三量体(トリアボディ)、Fv四量体、もしくはミニボディ、及びVH、VHH、IgNAR、もしくはV-NARのような単一ドメイン抗体、または免疫グロブリン折畳みドメインを含む任意のタンパク質がある。さらなる抗原結合分子は、抗体ミメティック、または(代替的な)足場タンパク質(例えば、操作されたクニッツドメイン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アンチカリン、またはDARPin)から選択され得る。
【0128】
具体的な態様によれば、POIは、例えば、BOTOX、Myobloc、Neurobloc、Dysport(またはボツリヌス神経毒の他の血清型)、アルグルコシダーゼアルファ、ダプトマイシン、YH-16、コリオゴナドトロピンアルファ、フィルグラスチム、セトロレリックス、インターロイキン-2、アルデスロイキン、テセロイキン(teceleulin)、デニロイキンジフチトクス、インターフェロンアルファ-n3(注射用)、インターフェロンアルファ-nl、DL-8234、インターフェロン、Suntory(ガンマ-1a)、インターフェロンガンマ、サイモシンアルファ1、タソネルミン、DigiFab、ViperaTAb、EchiTAb、CroFab、ネシリチド、アバタセプト、アレファセプト、Rebif、エプトテルミンアルファ、テリパラチド(骨粗鬆症)、カルシトニン注射用(骨疾患)、カルシトニン(経鼻用、骨粗鬆症)、エタネルセプト、ヘモグロビングルタマー250(bovine)、ドロトレコギンアルファ、コラゲナーゼ、カルペリチド、組換えヒト上皮成長因子(局所用ゲル、創傷治癒)、DWP401、ダルベポエチンアルファ、エポエチンオメガ、エポエチンベータ、エポエチンアルファ、デシルジン、レピルジン、ビバリルジン、ノナコグアルファ、Mononine、エプタコグアルファ(活性化)、組換え第VIII因子+VWF、Recombinate、組換え第VIII因子、第VIII因子(組換え)、Alphnmate、オクトコグアルファ、第VIII因子、パリフェルミン、インジキナーゼ、テネクテプラーゼ、アルテプラーゼ、パミテプラーゼ、レテプラーゼ、ナテプラーゼ、モンテプラーゼ、フォリトロピンアルファ、rFSH、hpFSH、ミカファンギン、ペグフィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、セルモレリン、グルカゴン、エキセナチド、プラムリンチド、イミグルセラーゼ(iniglucerase)、ガルスルファーゼ、Leucotropin、モルグラモスチム、トリプトレリン酢酸塩、ヒストレリン(皮下インプラント、Hydron)、デスロレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ロイプロリド徐放デポー(ATRIGEL)、ロイプロリドインプラント(DUROS)、ゴセレリン、Eutropin、KP-102プログラム、ソマトロピン、メカセルミン(成長障害)、エンルファルビチド(enlfavirtide)、Org-33408、インスリングラルギン、インスリングルリジン、インスリン(吸入用)、インスリンリスプロ、インスリンデテミル(deternir)、インスリン(頬側、RapidMist)、メカセルミンリンファバート、アナキンラ、セルモロイキン、99 mTc-アプシタイド注射、Myelopid、Betaseron、グラチラマー酢酸塩、Gepon、サルグラモスチム、オプレルベキン、ヒト白血球由来アルファインターフェロン、Bilive、インスリン(組換え)、組換えヒトインスリン、インスリンアスパルト、メカセルミン(mecasenin)、Roferon-A、インターフェロン-アルファ2、Alfaferone、インターフェロンアルファコン-1、インターフェロンアルファ、Avonex組換えヒト黄体形成ホルモン、ドルナーゼアルファ、トラフェルミン、ジコノチド、タルチレリン、ジボテルミンアルファ、アトシバン、ベカプレルミン、エプチフィバチド、Zemaira、CTC-111、Shanvac-B、HPVワクチン(4価)、オクトレオチド、ランレオチド、アンセスチム(ancestirn)、アガルシダーゼベータ、アガルシダーゼアルファ、ラロニダーゼ、酢酸プレザチド銅(局所用ゲル)、ラスブリカーゼ、ラニビズマブ、Actimmune、PEG-イントロン、Tricomin、組換えハウスダウトダニアレルギー減感作注射、組換えヒト副甲状腺ホルモン(PTH)1-84(皮下用、骨粗鬆症)、エポエチンデルタ、トランスジェニックアンチトロンビンIII、Granditropin、Vitrase、組換えインスリン、インターフェロン-アルファ(経口用ロゼンジ)、GEM-21S、バプレオチド、イズルスルファーゼ、オマパトリラト(omnapatrilat)、組換え血清アルブミン、セルトリズマブペゴル、グルカルピダーゼ、ヒト組換えC1 エステラーゼ阻害剤(血管性浮腫)、ラノテプラーゼ、組換えヒト成長ホルモン、エンフビルチド(ニードルフリー注射、Biojector 2000)、VGV-1、インターフェロン(アルファ)、ルシナクタント、アビプタジル(吸入用、肺疾患)、イカチバント、エカランチド、オミガナン、Aurograb、ペキシガナンアセテート(pexigananacetate)、ADI-PEG-20、LDI-200、デガレリクス、シントレデキンベスドトクス(cintredelinbesudotox)、Favld、MDX-1379、ISAtx-247、リラグルチド、テリパラチド(骨粗鬆症)、チファコギン、AA4500、T4N5リポソームローション 、カツマキソマブ、DWP413、ART-123、Chrysalin、デスモテプラーゼ、アメジプラーゼ、コリフォリトロピンアルファ、TH-9507、テデュグルチド、Diamyd、DWP-412、成長ホルモン(徐放注射)、組換えG-CSF、インスリン(吸入用、AIR)、インスリン(吸入用、Technosphere)、インスリン(吸入用、AERx)、RGN-303、DiaPep277、インターフェロンベータ(C型肝炎ウイルス注射(HCV))、インターフェロンアルファ-n3(経口用)、ベラタセプト、経皮用インスリンパッチ、AMG-531、MBP-8298、Xerecept、オペバカン(opebacan)、AIDSVAX、GV-1001、LymphoScan、ランピルナーゼ、Lipoxysan、ルスプルチド、MP52(ベータ-リン酸三カルシウム担体、骨再生)、黒色腫ワクチン、シプロイセル-T、CTP-37、Insegia、ビテスペン、ヒトトロンビン(凍結、外科出血)、トロンビン、TransMID、アルフィメプラーゼ、Puricase、テルリプレシン(静注用、肝腎症候群)、EUR-1008M、組換えFGF-I(注射用、血管疾患)、BDM-E、ロチガプチド、ETC-216、P-113、MBI-594AN、デュラマイシン(吸入用、嚢胞性線維症)、SCV-07、OPI-45、エンドスタチン、アンジオスタチン、ABT-510、ボウマン・バーク型阻害剤濃縮物、XMP-629、99 mTc-Hynic-アネキシン V、カハラリドF、CTCE-9908、テベレリクス(持続放出)、オザレリクス、ロミデプシン(rornidepsin)、BAY-504798、インターロイキン4、PRX-321、Pepscan、イボクタデキン、rhラクトフェリン、TRU-015、IL-21、ATN-161、シレンギチド、Albuferon、Biphasix、IRX-2、オメガインターフェロン、PCK-3145、CAP-232、パシレオチド、huN901-DMI、卵巣癌免疫療法ワクチン、SB-249553、Oncovax-CL、OncoVax-P、BLP-25、CerVax-16、マルチエピトープペプチド黒色腫ワクチン(MART-1、gp100、チロシナーゼ)、ネミフィチド、rAAT(吸入用)、rAAT(皮膚科用)、CGRP(吸入用、喘息)、ペグスネルセプト、サイモシンベータ4、プリチデプシン、GTP-200、ラモプラニン、GRASPA、OBI-1、AC-100、サケカルシトニン(経口用、eligen)、カルシトニン(経口用、骨粗鬆症)、エキサモレリン、カプロモレリン、Cardeva、ベラフェルミン、131I-TM-601、KK-220、T-10、ウラリチド、デペレスタット、ヘマチド、Chrysalin(局所用)、rNAPc2、組換え第VIII因子(PEG化リポソーム)、bFGF、PEG化組換えスタフィロキナーゼバリアント、V-10153、SonoLysis Prolyse、NeuroVax、CZEN-002、島細胞新生療法、rGLP-1、BIM-51077、LY-548806、exenatide(即時放出、Medisorb)、AVE-0010、GA-GCB、アボレリン、ACM-9604、リナクロチドアセテート(linaclotid eacetate)、CETi-1、Hemospan、VAL(注射用)、速効性インスリン(注射用、Viadel)、鼻内インスリン、インスリン(吸入用)、インスリン(経口用、eligen)、組換えメチオニルヒトレプチン、ピトラキンラ皮下注射、湿疹)、ピトラキンラ(吸入用乾燥粉末、喘息)、Multikine、RG-1068、MM-093、NBI-6024、AT-001、PI-0824、Org-39141、Cpn10(自己免疫疾患/炎症)、タラクトフェリン(局所用)、rEV-131(点眼用)、rEV-131(呼吸器疾患)、経口用組換えヒトインスリン(糖尿病)、RPI-78M、オプレルベキン(経口用)、CYT-99007 CTLA4-Ig、DTY-001、バラテグラスト、インターフェロンアルファ-n3(局所用)、IRX-3、RDP-58、Tauferon、胆汁酸塩刺激リパーゼ、Merispase、アルカリ(alaline)ホスファターゼ、EP-2104R、Melanotan-II、ブレメラノチド、ATL-104、組換えヒトマイクロプラスミン、AX-200、SEMAX、ACV-1、Xen-2174、CJC-1008、ダイノルフィンA、SI-6603、LAB GHRH、AER-002、BGC-728、マラリアワクチン(ビロソーム、PeviPRO)、ALTU-135、パルボウイルスB19ワクチン、インフルエンザワクチン(組換えノイラミニダーゼ)、マラリア/HBVワクチン、炭疽ワクチン、Vacc-5q、Vacc-4x、HIVワクチン(経口用)、HPVワクチン、Tatトキソイド、YSPSL、CHS-13340、PTH(1-34)リポソームクリーム(Novasome)、Ostabolin-C、PTHアナログ(局所用、乾癬)、MBRI-93.02、MTB72Fワクチン(結核)、MVA-Ag85Aワクチン(結核)、FARA04、BA-210、組換えペストFIVワクチン、AG-702、OxSODrol、rBetV1、Der-p1/Der-p2/Der-p7アレルゲン標的化ワクチン(チリダニアレルギー)、PR1ペプチド抗原(白血病)、変異型rasワクチン、HPV-16 E7リポペプチドワクチン、ラビリンシン(labyrinthin)ワクチン(腺癌)、CMLワクチン、WT1-ペプチドワクチン(癌)、IDD-5、CDX-110、Pentrys、Norelin、CytoFab、P-9808、VT-111、イクロカプチド(icrocaptide)、テルベルミン(皮膚科用、糖尿病足潰瘍)、ルピントリビル、レチキュロース(reticulose)、rGRF、HA、アルファ-ガラクトシダーゼA、ACE-011、ALTU-140、CGX-1160、アンジオテンシン治療薬ワクチン、D-4F、ETC-642、APP-018、rhMBL、SCV-07(経口用、結核)、DRF-7295、ABT-828、ErbB2-特異性イムノトキシン(抗癌)、DT3SSIL-3、TST-10088、PRO-1762、Combotox、コレシストキニン-B/ガストリン-受容体結合ペプチド、111In-hEGF、AE-37、トラスツズマブ(trasnizumab)-DM1、アンタゴニストG、IL-12(組換え)、PM-02734、IMP-321、rhIGF-BP3、BLX-883、CUV-1647(局所用)、L-19ベース放射線免疫療法薬(癌)、Re-188-P-2045、AMG-386、DC/1540/KLHワクチン(癌)、VX-001、AVE-9633、AC-9301、NY-ESO-1ワクチン(ペプチド)、NA17.A2ペプチド、
黒色腫ワクチン(パルス抗原治療薬)、前立腺癌ワクチン、CBP-501、組換えヒトラクトフェリン(ドライアイ)、FX-06、AP-214、WAP-8294A(注射用)、ACP-HIP、SUN-11031、ペプチドYY[3-36](肥満、鼻内)、FGLL、アタシセプト、BR3-Fc、BN-003、BA-058、ヒト副甲状腺ホルモン1-34(経鼻用、骨粗鬆症)、F-18-CCR1、AT-1100(セリアック病/糖尿病)、JPD-003、PTH(7-34)リポソームクリーム(Novasome)、デュラマイシン(点眼用、ドライアイ)、CAB-2、CTCE-0214、グリコPEG化エリスロポエチン、EPO-Fc、CNTO-528、AMG-114、JR-013、第XIII因子、アミノカンジン、PN-951、716155、SUN-E7001、TH-0318、BAY-73-7977、テベレリクス(即時放出)、EP-51216、hGH(即時放出、Biosphere)、OGP-I、シフビルチド(sifuvirtide)、TV4710、ALG-889、Org-41259、rhCC10、F-991、チモペンチン(肺疾患)、r(m)CRP、肝選択的インスリン、スバリン、L19-IL-2融合タンパク質、エラフィン、NMK-150、ALTU-139、EN-122004、rhTPO、トロンボポエチン受容体アゴニスト(血小板減少障害)、AL-108、AL-208、神経成長因子アンタゴニスト(疼痛)、SLV-317、CGX-1007、INNO-105、経口用テリパラチド(eligen)、GEM-OS1、AC-162352、PRX-302、LFn-p24融合ワクチン(Therapore)、EP-1043、S pneumoniae小児ワクチン、マラリアワクチン、Neisseria meningitidis B群ワクチン、新生児B群連鎖球菌ワクチン、炭疽ワクチン、HCVワクチン(gpE1+gpE2+MF-59)、中耳炎療法、HCVワクチン(コア抗原+ISCOMATRIX)、hPTH(1-34)(経皮用、ViaDerm)、768974、SYN-101、PGN-0052、アビスクミン(aviscumnine)、BIM-23190、結核ワクチン、マルチエピトープチロシナーゼペプチド、癌ワクチン、エンカスチム、APC-8024、GI-5005、ACC-001、TTS-CD3、血管標的化TNF(固形腫瘍)、デスモプレシン(頬側用即時放出)、オネルセプト、もしくはTP-9201、アダリムマブ(HUMIRA)、インフリキシマブ(REMICADE(商標))、リツキシマブ(RITUXAN(商標)/MAB THERA(商標))、エタネルセプト(ENBREL(商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(商標))、トラスツズマブ(HERCEPTIN(商標))、ペグフィルグラスチム(pegrilgrastim)(NEULASTA(商標))、または他の任意の好適なPOI(バイオシミラー及びバイオベターを含む)である。
【0129】
具体的な態様によれば、宿主細胞は、任意の動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳類細胞、ヒト細胞、植物細胞、線虫細胞、無脊椎動物細胞(例えば、昆虫細胞もしくは軟体動物細胞)、上記のいずれかに由来する幹細胞、または真菌細胞もしくは酵母細胞であり得る。具体的には、宿主細胞は、Pichia、Hansenula、Komagataella、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Ogataea、Yarrowia、及びGeotrichumからなる群より選択される属の細胞であり、具体的には、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Ogataea minuta、Kluyveromces lactis、Kluyveromes marxianus、Yarrowia lipolytica、もしくはHansenula polymorphaの細胞、またはAspergillus awamoriもしくはTrichoderma reeseiのような糸状菌の細胞である。好ましくは、宿主細胞はメチロトローフ酵母、好ましくはPichia pastorisである。本明細書では、Pichia pastorisは、全てのKomagagataella pastoris、Komagataella phaffii、及びKomagataella pseudopastorisに対し同義的に使用される。
具体的な態様によれば、宿主細胞は、以下のものである。
【0130】
a)Pichia、Hansenula、Komagataella、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Ogataea、Yarrowia、及びGeotrichumからなる群より選択される属の酵母細胞、例えば、Pichia属(例えば、Pichia.pastoris、Pichia methanolica、Pichia kluyveri、及びPichia angusta)、Komagataella属(例えば、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris、もしくはKomagataella phaffii)、Saccharomyces属(例えば、Saccharomyces cerevisae、Saccharomyces kluyveri、Saccharomyces uvarum)、Kluyveromyces属(例えば、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus)、Candida属(例えば、Candida utilis、Candida cacaoi、Candida boidinii)、Geotrichum属(例えば、Geotrichum fermentans)、Hansenula polymorpha、Yarrowia lipolytica、もしくはSchizosaccharomyces pombeの酵母細胞、または
b)糸状菌、例えば、Aspergillus awamoriもしくはrichoderma reeseiの細胞。
【0131】
Pichia pastoris種が好ましい。具体的には、宿主細胞は、CBS 704、CBS 2612、CBS 7435、CBS 9173-9189、DSM Z70877、X-33、GS115、KM71、KM71H、及びSMD1168からなる群より選択されるPichia pastoris株である。
【0132】
供給源:CBS 704(=NRRL Y-1603=DSMZ 70382)、CBS 2612(=NRRL Y-7556)、CBS 7435(=NRRL Y-11430)、CBS 9173-9189(CBS株:CBS-KNAW Fungal Biodiversity Centre,Centraalbureau voor Schimmelculturen,Utrecht,The Netherlands)、及びDSMZ 70877(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures);Invitrogen製の株、例えばX-33、GS115、KM71、KM71H、及びSMD1168。
【0133】
好ましいS.cerevisiae株の例としては、W303、CEN.PK、及びBYシリーズ(EUROSCARFコレクション)が挙げられる。上記の株は全て、形質転換体を産生し異種遺伝子を発現するのに首尾よく使用されている。
【0134】
具体的な態様によれば、真核宿主細胞は、真菌細胞(例えば、Aspergillus(例えば、A.niger、A.fumigatus、A.oryzae、A.nidulans)、Acremonium(例えば、A.thermophilum)、Chaetomium(例えば、C.thermophilum)、Chrysosporium(例えば、C.thermophile)、Cordyceps(例えば、C.militaris)、Corynascus、Ctenomyces、Fusarium(例えば、F.oxysporum)、Glomerella(例えば、G.graminicola)、Hypocrea(例えば、H.jecorina)、Magnaporthe(例えば、M.oryzae)、Myceliophthora(例えば、M.thermophile)、Nectria(例えば、N.haematococca)、Neurospora(例えば、N.crassa),Trichoderma(T.reesei rotrichum(S.好熱菌など)、Penicillium、Sporotrichum(例えば、S.thermophile)、Thielavia(例えば、T.terrestris、T.heterothallica)、Trichoderma(例えば、T.reesei)、またはVerticillium(例えば、V.dahlia))であり得る。
【0135】
具体的な態様によれば、哺乳類細胞は、ヒト、げっ歯類、またはウシの細胞、細胞系、または細胞株である。本明細書に記載される宿主細胞に適した具体的な哺乳類細胞の例は、マウス骨髄腫(NSO)細胞系、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系、HT1080、H9、HepG2、MCF7、MDBK Jurkat、MDCK、NIH3T3、PC12、BHK(ベビーハムスター腎細胞)、VERO、SP2/0、YB2/0、Y0、C127、L細胞、COS(例えば、COS1及びCOS7)、QC1-3、HEK-293、VERO、PER.C6、HeLa、EBl、EB2、EB3、腫瘍溶解性、またはハイブリドーマ細胞系である。好ましくは、哺乳類細胞はCHO細胞系である。1つの実施形態において、細胞はCHO細胞である。1つの実施形態において、細胞は、CHO-K1細胞、CHO-K1 SV細胞、DG44 CHO細胞、DUXB11 CHO細胞、DUKX CHO細胞、CHO-S、CHO FUT8ノックアウトCHO GSノックアウト細胞、CHO FUT8GSノックアウト細胞、CHOZN、またはCHO由来細胞である。CHO GSノックアウト細胞(例えば、GSKO細胞)は、例えば、CHO-K1 SV GSノックアウト細胞である。CHO FUT8ノックアウト細胞は、例えば、Potelligent(登録商標)CHOK1 SV(Lonza Biologics,Inc.)である。また、真核細胞には、鳥類の細胞、細胞系、または細胞株(例えば、EBx(登録商標)細胞、EB14、EB24、EB26、EB66、またはEBvl3)も含まれる。
【0136】
別の具体的な態様によれば、真核細胞は、昆虫細胞(例えば、Sf9、Mimic(商標)Sf9、Sf21、High Five(商標)(BT1-TN-5B1-4)、またはBT1-Ea88細胞)、藻類細胞(例えば、Amphora、Bacillariophyceae、Dunaliella、Chlorella、Chlamydomonas、Cyanophyta(シアノバクテリア)、Nannochloropsis、Spirulina、またはOchromonas属)、あるいは植物細胞(例えば、単子葉植物(例えば、トウモロコシ、イネ、コムギ、もしくはセタリア)由来の細胞、または双子葉植物(例えば、キャッサバ、ジャガイモ、ダイズ、トマト、タバコ、アルファルファ、Physcomitrella patens、もしくはArabidopsis)由来の細胞)である。
【0137】
具体的な態様によれば、宿主細胞は、原核細胞(例えば、細菌細胞)である。具体的には、宿主細胞は、グラム陽性細胞(例えば、Bacillus、Streptomyces、Streptococcus、Staphylococcus、またはLactobacillus)である。使用することができるBacillusは、例えば、B.subtilis、B.amyloliquefaciens、B.licheniformis、B.natto、またはB.megateriumである。実施形態において、細胞はB.subtilis(例えば、B.subtilis 3NA及びB.subtilis168)である。Bacillusは、例えば、Bacillus Genetic Stock Center,Biological Sciences 556,484 West 12th Avenue,Columbus OH 43210-1214から入手可能である。
【0138】
1つの実施形態において、原核細胞は、グラム陰性細胞、例えば、Salmonella spp.またはEscherichia coli、例えば、TG1、TG2、W3110、DH1、DHB4、DH5a、HMS174、HMS174(DE3)、NM533、C600、HB101、JM109、MC4100、XL1-Blue、及びOrigami、ならびにE.coli B株(例えば、BL-21またはBL21(DE3))由来の細胞であり、これらは全て市販されている。
【0139】
具体的な実施形態によれば、原核細胞は、E.coli、B.subtilis、及びPseudomonasからなる群より選択される。
【0140】
好適な宿主細胞は、例えば、DSMZ(Deutsche Sammmlung von Mikroorganisitionen and Zellkulturen GmbH,Braunschweig,Germany)またはAmerican Type Culture Collection(ATCC)などの培養コレクションから市販されている。
【0141】
具体的な態様によれば、本発明は、非メタノール炭素源によって調節可能または抑制可能なプロモーター(特定的には、本明細書に記載のECP)の制御下で、目的タンパク質(POI)をコードする目的遺伝子(GOI)を発現する宿主細胞によって産生される当該POIの収率を増加させる方法であって、当該宿主細胞にとって内在性である、配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする遺伝子(特定的には、当該FLO8タンパク質をコードする遺伝子)の発現を低下させることにより、当該POIの収率を増加させる方法を提供する。
【0142】
具体的には、収率は、当該GOIを発現する比較可能な宿主細胞と比較して、少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍、3.5倍、4倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、10倍、10.5倍、11倍、11.5倍、または12倍のいずれか1つだけ増加し、
a)比較可能な宿主細胞は、内在性FLO8タンパク質をコードする当該遺伝子の発現を低下させるように操作されていないか、または内在性FLO8タンパク質をコードする当該遺伝子の発現が修飾されておらず、また任意選択的で
b)当該GOIの発現を制御するプロモーターが、構成的プロモーター、特定的にはGAPプロモーター、またはメタノール誘導性プロモーター、特定的にはAOX1プロモーターである。
【0143】
具体的には、本明細書に記載されるPOI産生の収率を増加させる方法は、本明細書でさらに記載されるように、組換え宿主細胞を用いる。
【0144】
さらなる具体的な態様によれば、本発明は、目的遺伝子(GOI)によってコードされる目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、目的遺伝子(GOI)によってコードされる目的タンパク質(POI)を産生するための条件下で、本明細書にさらに記載されるような組換え宿主細胞を培養することによって行う、方法を提供する。
【0145】
さらなる具体的な実施形態によれば、本発明は、POIの産生のための本明細書に記載の宿主細胞の使用を提供する。
【0146】
具体的には、宿主細胞は、細胞培養物中で培養された細胞系、特定的には、産生宿主細胞系である。
【0147】
具体的な実施形態によれば、細胞系は、バッチ、流加バッチ、または連続培養条件の下で培養される。この培養は、マイクロタイタープレート、振とうフラスコ、またはバイオリアクターで実施することができ、任意選択で、第1ステップとしてバッチ段階で開始し、その後、第2ステップとして流加バッチフェーズまたは連続培養フェーズが続く。
【0148】
具体的には、当該方法は以下のステップ:
a)成長条件下で宿主細胞を培養することと、さらに
b)最大1g/Lの第2の非メタノール炭素源の存在下、成長制限条件下で宿主細胞を培養し、その結果当該GOIが発現して当該POIが産生されること
とを含む。
【0149】
具体的には、第2のステップb)は、第1のステップa)に続く。
【0150】
具体的には、第1の炭素源は、本明細書で基礎炭素源と呼ばれる非メタノール炭素源である。
【0151】
具体的には、宿主細胞は、第1の炭素源を含む細胞培養基中で、例えば、細胞培養で宿主細胞の成長を可能にするのに十分な量で、任意選択で炭素源の量が消費されるまで、成長条件下で第1のステップで培養され、さらなる培養は成長制限条件下にあり得る。
【0152】
具体的には、第2の炭素源は、本明細書で補充炭素源と呼ばれる非メタノール炭素源である。
【0153】
具体的には、当該第1及び/または第2のメタノール炭素源は、本明細書でさらに記載されるように、糖類、ポリオール、アルコール、または前述のいずれか1つ以上の混合物から選択される。
【0154】
具体的な実施形態によれば、基礎炭素源は補充炭素源とは異なり、例えば、量的及び/または質的に異なる。この量的な差異により、典型的には、プロモーター活性を抑制または抑制解除するための異なる条件がもたらされる。
【0155】
さらなる具体的な実施形態によれば、基礎炭素源及び補充炭素源は、同じタイプの分子または炭水化物を、好ましくは異なる濃度で含む。さらなる具体的な実施形態によれば、炭素源は、2つ以上の異なる炭素源の混合物である。
【0156】
任意のタイプの有機炭素源、特定的には宿主細胞培養、特定的には真核宿主細胞培養のために典型的に用いられるものを使用することができる。具体的な実施形態によれば、炭素源は、ヘキソース(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、もしくはマンノース)、二糖類(例えば、サッカロース)、アルコール(例えば、グリセロールもしくはエタノール)、またはこれらの混合物である。
【0157】
具体的に好ましい実施形態によれば、基礎炭素源は、グルコース、グリセロール、エタノール、またはこれらの混合物からなる群より選択される。好ましい実施形態によれば、基礎炭素源はグリセロールである。
【0158】
さらなる具体的な実施形態によれば、補充炭素源は、ヘキソース(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、及びマンノース)、二糖類(例えば、サッカロース)、アルコール(例えば、グリセロールもしくはエタノール)、またはこれらの混合物である。好ましい実施形態によれば、補充炭素源はグルコースである。
【0159】
具体的には、
a)基礎炭素源は、グルコース、グリセロール、エタノール、及びこれらの混合物からなる群より選択され、
b)補充炭素源は、ヘキソース(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、もしくはマンノース)、二糖類(例えば、サッカロース)、アルコール(例えば、グリセロールもしくはエタノール)、または前述のうちのいずれかの混合物である。
【0160】
両方の培養するステップが、具体的に、当該炭素源の存在下で当該細胞系を培養することを含む。例えば、成長条件下での宿主細胞の当該培養(ステップa)は基礎炭素源を用いて行われ、成長制限条件下での宿主細胞の当該培養(ステップb)は補充炭素源を用いて行われ、例えば、細胞培養基が最大1g/Lを含むか、または培養中(ステップb)の細胞培養基または上清中に検出可能な量の補充炭素源が含まれないように制限された量で行われる。
【0161】
抑制解除(または誘導)条件は、好適には、具体的な手段によって達成され得る。第2のステップb)は、任意選択で、細胞培養基または上清中に補充炭素源を提供しないまたは制限量で提供するフィード培地を用いる。具体的には、フィード培地は化学規定のものであり、またメタノールを含まない。
【0162】
具体的には、第2のステップb)は、比成長率を0.0001h-1~0.2h-1、好ましくは0.005h-1~0.15h-1の範囲内に維持するための成長制限量の補充炭素源を提供するフィード培地を用いる。
【0163】
フィード培地は、液体形態または別の代替形態(例えば、固体(例えば、錠剤もしくは他の徐放手段として)、または気体)で培養基に添加することができる。さらに、好ましい実施形態によれば、細胞培養基に添加される補充炭素源の制限量はゼロであってもよい。好ましくは、制限された炭素基質の条件下で、培養基中の補充炭素源の検出可能な濃度は、0~1g/L、好ましくは0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1g/L未満のいずれか1つ、好ましくは90、80、70、60、50、40、30、20、もしくは10mg/L未満のいずれか1つ、さらに9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1mg/L未満、または具体的には1~50mg/L、もしくは1~10mg/L未満、具体的には1mg/Lもしくはそれ以下であり、例えば、好適な標準アッセイで測定される検出限界未満、例えば、成長細胞培養物によって消費される際の培地中の残留濃度として定量される検出限界未満である。
【0164】
好ましい方法において、制限量の補充供給源は、産生フェーズの終わりの発酵ブロス、または(好ましくは発酵産物を収集する際の)発酵プロセスの産出物での定量において、検出限界未満の細胞培養物中残存量をもたらす。
【0165】
具体的には、当該ステップa)の培養はバッチフェーズで実施され、当該ステップb)の培養は流加バッチまたは連続培養フェーズで実施される。
【0166】
具体的には、宿主細胞は、(成長条件下にある)ステップa)の高成長率(例えば、少なくとも50%、または少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最大成長率まで)フェーズ中には、基礎炭素源を含む炭素源豊富培地中で成長し、ステップb)の低成長率(例えば、最大成長率の90%未満、好ましくは80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、または0.2%未満)フェーズ中には、炭素源を制限しながら、特定的には、産生フェーズで細胞培養物を維持する際に完全に消費される炭素源量のみを含む規定された最小培地を供給することにより、POIを産生する。
【0167】
具体的には、POIは、当該成長制限条件下で、例えば、細胞の最大成長率未満の成長率で、典型的には、細胞の最大成長率の90%未満、好ましくは80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、または0.2%未満で細胞系を培養することにより、発現する。典型的には、最大成長率は、各タイプの宿主細胞に対し個別に定量される。
【0168】
具体的には、バッチフェーズは、最初に細胞培養に添加される基礎炭素源が細胞系によって消費されるまで実施される。溶存酸素(DO)スパイク法を使用してバッチフェーズ中の基礎炭素源消費量を定量することができる。
【0169】
具体的な実施形態によれば、バッチフェーズは酸素分圧(pO2)シグナルの連続的な減少によって特徴付けられ、バッチフェーズの終わりはpO2の増加によって特徴付けられる。典型的には、バッチフェーズ中に基礎炭素源を消費しながら、かつバッチフェーズに典型的であるようにさらなる炭素源を追加することなく、酸素分圧(pO2)シグナルは、例えば65%未満、例えば30%まで連続的に減少する。基礎炭素源を消費すると、pO2は、例えば30%超、例えば65%超、またはそれ以上に増加し得、これは、炭素源制限条件下でさらなる炭素源を追加するためにフィード培地を用いて流加バッチ系に切り替えるための適切な時点を示す。
【0170】
具体的には、pO2は、バッチフェーズ中に65%未満またはそれ以下の飽和度に減少し、続いてバッチの最後に65%超またはそれ以上の飽和度に増加する。具体的には、バッチフェーズは、酸素分圧(pO2)シグナルの増加が65%飽和度を超えるまで、具体的には70%、75%、80%、または85%のいずれかを超えるまで実施される。
【0171】
具体的には、バッチフェーズはおよそ10~36時間にわたって実施される。
【0172】
培養時間に対する「およそ」という用語は、+/-5%または+/-10%を意味するものとする。
【0173】
例えば、およそ10~36時間の具体的なバッチ性能時間は、18~39.6時間、具体的には19から37.8時間とすることができる。
【0174】
具体的な実施形態によれば、バッチフェーズは、40~50g/Lのグリセロール、具体的には45g/Lのグリセロールを基礎炭素源としてバッチ培地中で使用して行われ、培養は、25℃でおよそ27~30時間、または30℃でおよそ23~36時間、または23~36時間の培養時間中に25℃から30℃の間の任意の温度で実施される。バッチ媒体中のグリセロール濃度を低下させればバッチフェーズの長さが減少し、バッチ媒体中のグリセロールを増加させればバッチフェーズがさらに長くなるであろう。グリセロールの代替として、グルコースを、例えばほぼ同量で使用してもよい。
【0175】
典型的な細胞培養系及びPOI発現系では、バッチフェーズの後に流加バッチフェーズが続き、具体的には、流加バッチフェーズでの培養は、およそ15~80時間、およそ15~70時間、およそ15~60時間、およそ15~50時間、およそ15~45時間、およそ15~40時間、およそ15~35時間、およそ15~30時間、およそ15~35時間、およそ15~25時間、またはおよそ15~20時間のいずれか1つ、好ましくはおよそ20~40時間にわたって行われる。具体的には、流加バッチでの培養は、およそ80時間、およそ70時間、およそ60時間、およそ55時間、およそ50時間、およそ45時間、およそ40時間、およそ35時間、およそ33時間、およそ30時間、およそ25時間、およそ20時間、またはおよそ15時間のいずれか1つにわたって行われる。
【0176】
POI産生の成功、及びそれによる高収率をもたらす120時間未満または100時間未満または最大80時間のいずれかの流加バッチ培養は、本明細書では、「高速発酵」と称される。具体的には、体積比産物形成率(rP)は、単位体積(L)及び単位時間(h)当たりに形成される産物(mg)
【0177】
(mg(Lh)-1)の量である。体積比産物形成率は、空間時間収率(STY)または体積生産性とも呼ばれる。
【0178】
具体的には、本明細書に記載の方法の流加バッチ培養は、およそ30mg(Lh)-1(30mg(Lh)-1+/-5%または+/-10%を意味する)の時空収率が得られるように実施される。具体的には、およそ30mg(Lh)-1の時空収率は、およそ30時間以内の供給バッチで達成され、具体的には、少なくとも27、28、29、30、31、32、または33mg(Lh)-1のいずれか1つが、33時間、32時間、31時間、30時間、29時間、28時間、27時間、26時間、または25時間未満のいずれか1つの供給バッチ時間で達成され得る。
【0179】
具体的には、バッチフェーズは第1のステップa)として実施され、流加バッチフェーズは第2のステップb)として実施される。
【0180】
具体的には、第2のステップb)は、流加バッチフェーズにおいて、比成長率を0.0001h-1~0.2h-1、好ましくは0.2、0.15、0.1h-1、または0.15h-1未満のいずれかの範囲内に維持するための成長制限量の補充炭素源を提供するフィード培地を用いる。
【0181】
具体的には、バッチ及び流加バッチ工程の両方を含む培養方法は、特定的には、酵母宿主細胞、例えば、Saccharomyces属もしくはPichia属もしくはKomagataella属のいずれかの酵母、またはPichia以外の属由来の酵母、例えば、K.lactis、Z.rouxii、P.stipitis、H.polymorpha、またはY.lipolytica、好ましくはPichia pastorisまたはKomagataella pastorisを用いることができる。
【0182】
さらなる具体的な態様によれば、本発明は、宿主細胞内で目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、以下のステップ:
a)配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする内在性遺伝子の発現を低下させるように宿主細胞を遺伝子操作することと、
b)当該宿主細胞に、発現カセットプロモーター(ECP)の制御下で、当該POIをコードまたは発現する目的遺伝子(GOI)を含む異種性発現カセットを導入することであって、当該ECPが、当該GOIに作用可能に結合しており、かつ非メタノール炭素源によって調節可能または抑制可能である、導入することと、
c)当該POIを産生する条件下で当該宿主細胞を培養することと、
d)任意選択で、当該細胞培養物から当該POIを単離することと、
e)任意選択で、当該POIを精製することと
を含む、方法を提供する。
【0183】
具体的には、本明細書に記載の方法のステップa)は、ステップb)の前、後、または同時に行われる。
【0184】
特定の態様によれば、宿主細胞は、POI産生のために操作する前に、最初に、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログの発現を低下させるように遺伝子操作する。具体的な例によれば、野生型宿主細胞は、本明細書に記載の方法のステップa)に従って遺伝子修飾される。具体的には、宿主細胞は、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログを減少させるために、当該1つ以上の遺伝子修飾を野生型宿主細胞株に導入する際に提供される。
【0185】
さらなる態様によれば、宿主細胞は、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログを減少させるためにさらに遺伝子修飾する前に、最初に、異種性または組換えPOIを産生するように操作する。具体的な例によれば、野生型宿主細胞は、最初に、POI産生のための発現カセットを含むように操作することができる。次いで、このような操作宿主細胞をさらに修飾して、本明細書に記載のように、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログを減少させることができる。
【0186】
さらなる態様によれば、宿主細胞は、例えば1つの方法ステップでは、1つ以上の反応混合物中でそれぞれの発現カセット、試薬、及びツールを用いて、POI産生のための操作と、当該FLO8タンパク質またはそのそれぞれのホモログを減少させるための遺伝的修飾との両方を経る。
【0187】
具体的には、この方法は、本明細書でさらに記載されるように、組換え宿主細胞を産生するための方法ステップを用いる。
【0188】
具体的には、異種性発現カセットは、本明細書でさらに記載されるようなECPを含む。
【0189】
具体的には、POIの産生は、宿主細胞を適切な培地で培養し、細胞を分離したら、発現したPOIを細胞培養物から(特定的には、細胞培養物上清または培地から)単離し、発現した産物に適切な方法によってPOIを精製する(特定的には、POIを細胞から分離したら、好適な手段によって精製する)ことにより、行われ得る。これにより、精製したPOI調製物を産生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【
図1-1】
図1は、本明細書で言及される配列である。
【発明を実施するための形態】
【0191】
本明細書全体において使用される具体的な用語は、以下の意味を有する。
【0192】
本明細書で使用する場合、「炭素源」(「炭素基質」とも称される)という用語は、発酵性炭素基質、典型的には、微生物のエネルギー源として適した供給源炭水化物(例えば、宿主生物または産生細胞系によって代謝可能なもの)、特定的には、単糖、オリゴ糖、多糖、グリセロールを含むアルコールからなる群より選択される供給源を意味するものとし、精製形態をとるか、最小培地に含まれるか、または原料(例えば、複合栄養物質)中に供給される。炭素源は、本明細書で記載されるように、単一の炭素源として、または異なる炭素源の混合物として使用され得る。
【0193】
非メタノール炭素源は、本明細書では、ある量のメタノール以外の任意の炭素源、特定的にはメタノールを含まない炭素源として理解される。
【0194】
本明細書に記載のように使用される「基礎炭素源」は、典型的には、細胞成長に適した炭素源であり、例えば、宿主細胞、特定的には真核細胞のための栄養素である。基礎炭素源は、培地(例えば、基礎培地または複合培地)中に供給され得るが、精製された炭素源を含む化学規定培地中にも供給され得る。基礎炭素源は、典型的には、細胞成長をもたらす量で、特定的には培養プロセスでの成長フェーズ中に供給して、例えば、少なくとも5g/L細胞乾燥重量、好ましくは少なくとも10g/L細胞乾燥重量、または少なくとも15g/L細胞乾燥重量の細胞密度を得、例えば、標準的な継代培養ステップの間に90%超、好ましくは95%超の生存率を示す。
【0195】
基礎炭素源は、典型的には、過剰量または余剰量で使用され、これは、例えば、高い比成長率を伴った細胞系の培養中に(例えば、バッチまたは流加バッチ培養プロセスでの細胞系の成長フェーズ中に)、バイオマスを増加させるためのエネルギーをもたらす過剰として理解される。この余剰量は、特定的には、測定可能であり、かつ制限量の補充炭素源を供給する間よりも典型的には少なくとも10倍高い、好ましくは少なくとも50倍または少なくとも100倍高い発酵ブロス中の残留濃度を達成するために、(成長制限条件下で使用される)制限量の補充炭素源を上回る。
【0196】
本明細書で記載されるような「補充炭素源」は、典型的には、産生細胞系による発酵産物の産生を、特定的には培養プロセスの産生フェーズで促進する補充基質である。産生フェーズは、具体的には、例えばバッチ、流加バッチ、及び連続培養プロセスにおいて、成長フェーズに続く。補充炭素源は、具体的には、流加バッチプロセスの供給物に含まれてもよい。補充炭素源は、典型的には、炭素基質制限条件下、すなわち、制限量の炭素源を使用する細胞培養で用いられる。
【0197】
炭素源の「制限量」または「制限された炭素源」とは、本明細書では、特定的には最大成長率未満の制御された成長率を伴った培養プロセスにおいて、産生細胞系による発酵産物の産生を促進する炭素基質のタイプ及び量を具体的に指すものと理解される。産生フェーズは、具体的には、例えばバッチ、流加バッチ、及び連続培養プロセスにおいて、成長フェーズに続く。細胞培養プロセスは、バッチ培養、連続培養、及び流加バッチ培養を用いることができる。バッチ培養は、培地に少量のシード培養液を添加し、培養中に追加培地を添加することも培養溶液を排出させることもせずに細胞を成長させる培養プロセスである。連続培養は、培養中に培地を連続的に添加し排出させる培養方法である。連続培養には灌流培養も含まれる。流加バッチ培養は、バッチ培養及び連続培養の中間であり、セミバッチ培養とも称され、培養中に培地を連続的または継続的に添加する培養方法であるが、連続培養のように培養液を連続的に排出させることはない。
【0198】
具体的に好ましいのは、培養物への成長制限栄養素基質の供給に基づいた流加バッチプロセスである。単一流加バッチまたは反復流加バッチ発酵を含む流加バッチ戦略は、典型的には、バイオリアクター内で高い細胞密度に到達するために、バイオ産業プロセスで使用されている。炭素基質の制御された添加は、培養物の成長率に直接影響を及ぼし、オーバーフロー代謝または望ましくない代謝副産物の形成を回避するのに役立つ。炭素源制限条件下では、炭素源は、具体的には、流加バッチプロセスの供給物に含まれてもよい。これにより、炭素基質が制限量で供給される。
【0199】
また、本明細書で記載されるようなケモスタットまたは連続培養においても、成長率を厳密に制御することができる。
【0200】
炭素源の制限量は、本明細書では、特定的には、産生細胞系を成長制限条件下で、例えば産生フェーズまたは産生モードで維持するために必要な炭素源の量として理解される。このような制限量は流加バッチプロセスで用いられ得、このとき、炭素源はフィード培地中に含まれ、例えばPOIを産生するため、低いフィード率で培養物に補充して持続的にエネルギーを送達し、低い比成長率でバイオマスを維持する。フィード培地は、典型的には、細胞培養の産生フェーズ中に発酵ブロスに添加する。
【0201】
炭素源の制限量は、例えば、細胞培養ブロス中の炭素源の残存量によって定量することができ、これは所定の閾値未満か、または標準(炭水化物)アッセイでの測定における検出限界未満ですらある。残存量は、典型的には、発酵産物を収集する際に発酵ブロス中で定量される。
【0202】
炭素源の制限量は、例えば、全培養プロセス(例えば、流加バッチフェーズ)にわたって追加された培養時間当たりの量による定量における、発酵槽への炭素源の平均供給率を規定することによっても定量することができ、時間当たりの計算された平均量を定量する。この平均供給率は、細胞培養による補充炭素源の完全な使用を確実にするために低く維持され、例えば、0.6gL-1h-1(L初期発酵体積及びh時間当たりの炭素源g)から25gL-1h-1の間、好ましくは1.6gL-1h-1から20gL-1h-1の間である。
【0203】
また、炭素源の制限量は、比成長率を測定することによっても定量することができ、比成長率は、産生フェーズ中に、例えば最大比成長率よりも低く維持され、例えば所定の範囲内で、例えば0.001h-1~0.20h-1、または0.005h-1~0.20h-1、好ましくは0.01h-1~0.15h-1の範囲で維持される。
【0204】
具体的には、フィード培地は化学規定であり、かつメタノールを含まない。
【0205】
細胞培養基(例えば、最小培地または流加バッチプロセスにおけるフィード培地)に対する「化学規定」という用語は、産生細胞系のin vitro細胞培養に適し、全ての化学的な構成成分及び(ポリ)ペプチドが既知の培養基を意味するものとする。典型的には、化学規定培地は、動物由来構成成分を全く含まず、純粋で安定した細胞培養環境に相当する。
【0206】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、単一細胞、単一細胞クローン、または宿主細胞の細胞系を指す。
【0207】
本明細書で使用する場合、「細胞系」という用語は、長期間にわたり増殖する能力を獲得した特定の細胞タイプの確立されたクローンを指す。細胞系は、典型的には、内在性または組換え遺伝子、または代謝経路の産物を発現させて、このようなポリペプチドによって媒介されるポリペプチドまたは細胞代謝産物を産生するために使用される。「産生宿主細胞系」または「産生細胞系」は、一般的には、産生プロセスの産物(例えば、POI)を得るためにバイオリアクターでの細胞培養にすぐに使用できる細胞系であることが理解されている。
【0208】
本明細書で記載されるようなPOIを産生する宿主細胞は「産生宿主細胞」、それぞれの細胞系は「産生細胞系」とも称される。
【0209】
本明細書で記載される具体的な実施形態は、FLO8タンパク質をコードする内在性遺伝子を過小発現するように操作されている、かつ/またはこのような遺伝子の発現が低下している産生細胞系を指し、当該実施形態は、炭素源調節可能プロモーター(例えば、本明細書に記載のECP)、特定的には、細胞培養物にメタノールを添加する必要なしに誘導され得るプロモーターの制御下でPOI産生の収率が高いことを特徴とする。このような宿主細胞は、顕著に形態を変化させることなく安定的にPOIを発現していることが分かった。
【0210】
「宿主細胞」という用語は、特定的には、POIまたは宿主細胞代謝産物を産生するための組換え目的で好適に使用される任意の真核または原核の細胞または生物に適用するものとする。「宿主細胞」という用語にヒトが含まれないことは十分に理解されている。具体的には、本明細書に記載の宿主細胞は、人工的な生物及びネイティブ(野生型)宿主細胞の派生物である。本明細書に記載の宿主細胞、方法、及び使用(例えば、具体的には、1つ以上の遺伝子修飾、異種性発現カセットまたは構築物、形質移入または形質転換された宿主細胞及び組換えタンパク質を指す)が、天然に存在しない「人工」または合成のものであり、そのため「自然法則」の結果とみなされないことは十分に理解されている。
【0211】
宿主細胞に対し本明細書で使用する場合、「細胞培養」または「培養(culturing)」または「培養(cultivation)」という用語は、人工的な(例えば、in vitroの)環境で、細胞の増殖、分化、または持続的な生存に有利な条件下で、活性状態または休止状態で、特定的には、業界で知られている方法に従った制御されたバイオリアクター内で、細胞を維持することを指す。
【0212】
適切な培養基を用いて細胞培養物を培養する際に、細胞培養物中での細胞の培養を支持するのに適した条件下で、細胞を培養容器中の培地または基質と接触させる。本明細書で記載されるように、宿主細胞、例えば、真核細胞、具体的には酵母または糸状菌の成長のために使用され得る培養基が提供される。標準的な細胞培養技法は、当技術分野で周知されている。
【0213】
本明細書に記載の細胞培養物は、特定的には、例えば、細胞培養基中のPOIを得るために、分泌POIを産生させる技法を用いる。分泌POIは細胞バイオマス(本明細書では「細胞培養上清」と称される)から分離可能であり、精製してより高い純度でPOIを得ることができる。本明細書では、細胞培養物中で宿主細胞によってタンパク質(例えば、POI)が産生及び分泌される際、このようなタンパク質が、細胞培養物上清中に分泌され、そして、宿主細胞バイオマスから細胞培養上清を分離し、任意選択でさらにタンパク質を精製して精製タンパク質調製物を産生することにより得られ得ることが理解される。
【0214】
細胞培養基は、制御された人工的なin vitro環境で細胞を維持し成長させるために必要な栄養素を提供する。細胞培養基の特徴及び組成は、特定的な細胞要件に応じて変化する。重要なパラメーターとしては、浸透圧、pH、及び栄養配合物が挙げられる。栄養素の供給は、当技術分野で知られている方法に従って、連続的または非連続的様式で行うことができる。
【0215】
バッチプロセスが、細胞の培養に必要な全ての栄養素が最初の培養基に含まれる細胞培養様式であり、発酵中にさらなる栄養素を追加的に補充することはないのに対し、流加バッチプロセスでは、バッチフェーズの後に流加によって1つ以上の栄養素が培養物に補充される流加フェーズが生じる。ほとんどのプロセスにおいて、供給様式は決定的かつ重要であるが、本明細書に記載の宿主細胞及び方法は、細胞培養のある特定の様式に関して制限を受けない。
【0216】
組換えPOIは、本明細書に記載の宿主細胞及びそれぞれの細胞系を用いて、適切な培地中で培養し、発現した産物または代謝産物を培養物から単離し、任意選択で、それを好適な方法によって精製することにより、産生することができる。
【0217】
本明細書で記載されるようなPOI産生のためのいくつかの異なるアプローチが好ましい。POIの発現、処理、及び任意選択による分泌は、関連タンパク質をコードする組換えDNAを有する発現ベクターを用いて宿主細胞に対し形質移入または形質転換し、形質移入または形質転換された細胞の培養物を調製し、培養物を成長させ、転写及びPOI産生を誘導し、POIを回収することにより、行うことができる。
【0218】
ある特定の実施形態において、細胞培養プロセスは流加バッチプロセスである。具体的には、所望の組換えPOIを産生させるには、所望の組換えPOIをコードする核酸コンストラクトで形質転換した宿主細胞を成長フェーズにおいて培養して産生フェーズに移行させる。
【0219】
別の実施形態において、本明細書に記載の宿主細胞は、連続的様式で、例えば、ケモスタットを用いて培養される。連続的発酵プロセスは、バイオリアクター内に新鮮な培養基を規定された一定の連続的比率で供給することを特徴とし、それにより、培養ブロスは、同じ規定された一定かつ連続的な除去率で同時にバイオリアクターから除去される。培養基、供給率、及び除去率を同じ一定レベルに保つことにより、バイオリアクター内の細胞培養パラメーター及び条件が一定に保たれる。
【0220】
本明細書に記載の安定した細胞培養物は、遺伝的特性を維持し、具体的には、POI産生レベルを約20世代の培養後も、好ましくは少なくとも30世代、より好ましくは少なくとも40世代、最も好ましくは少なくとも50世代の培養後であっても、例えば少なくともμgレベルに維持する細胞培養物を指すことが具体的に理解される。具体的には、工業規模生産向けに使用される際に大きな利点と考えられる、安定した組換え宿主細胞系がもたらされる。
【0221】
本明細書に記載の細胞培養は、栄養素の供給に基づく培養モード、特に、流加バッチまたはバッチプロセス、または連続的または半連続的プロセス(例えば、ケモスタット)と組み合わせた、例えば容量及び技術的システムの両方に関して、工業的製造スケールでの方法に特に有利である。
【0222】
本明細書に記載の宿主細胞は、典型的には、POI産生のためのGOIの発現能力について試験され、以下の試験のいずれかによってPOI収率が試験される:ELISA、活性アッセイ、HPLC、または他の好適な試験、例えば、SDS-PAGE及びウェスタンブロッティング技法、または質量分析。
【0223】
遺伝子修飾が、それぞれの細胞培養物中でのFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする遺伝子の過小発現または減少に及ぼす効果や、例えばPOI産生に及ぼす効果を定量するために、宿主細胞系は、マイクロタイタープレート、振とうフラスコ、またはバイオリアクター内で流加バッチまたはケモスタット発酵を用いて培養し、それぞれの細胞内にこのような遺伝子修飾を伴わない株と比較することができる。
【0224】
本明細書に記載の産生方法は、具体的には、パイロットスケールまたは工業スケールでの発酵を可能にする。好ましくは、工業プロセススケールは、少なくとも10L、具体的には少なくとも50L、好ましくは少なくとも1m3、好ましくは少なくとも10m3、最も好ましくは少なくとも100m3の体積を用いる。
【0225】
工業的規模での製造条件が好ましく、これは例えば、数日の典型的な処理時間を用いる100L~10m3またはそれ以上のリアクター容積での流加バッチ培養法、または約0.02~0.15h-1の希釈率を伴う約50~1000Lまたはそれ以上の発酵槽容積での連続的プロセスを指す。
【0226】
本明細書に記載の目的のために使用されるデバイス、設備、及び方法は、原核及び/または真核細胞系を含む任意の所望の細胞系の培養で及び培養と共に使用するのに特に適している。さらに、実施形態において、デバイス、設備、及び方法は、浮遊細胞または足場依存性(接着性)細胞を含む任意の細胞タイプを培養するのに適しており、医薬製品及びバイオ医薬製品(例えば、ポリペプチド産物(POI)、核酸産物(例えば、DNAまたはRNA)、または細胞及び/もしくはウイルス(例えば、細胞及び/もしくはウイルス療法で使用されるもの))を生産するために構成される生産運用に適している。
【0227】
ある特定の実施形態において、細胞は、組換え治療製品または診断用製品などの製品を発現または産生する。本明細書でさらに詳細に記載されるように、細胞によって産生される製品の例としては、限定されるものではないが、本明細書で例示されるようなPOIが挙げられ、これには抗体分子(例えば、モノクローナル抗体、二重特異性抗体)、抗体ミメティック(抗原に特異的に結合するが構造的に抗体に関連しないポリペプチド分子、例えば、DARPin、アフィボディ、アドネクチン、もしくはIgNAR)、融合タンパク質(例えば、Fc融合タンパク質、キメラ型サイトカイン)、他の組換えタンパク質(例えば、グリコシル化タンパク質、酵素、ホルモン)、またはウイルス治療薬(例えば、抗癌腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子療法及びウイルス免疫療法向けのウイルスベクター)、細胞治療薬(例えば、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、及び成人幹細胞)、ワクチンもしくは脂質カプセル化粒子(例えば、エクソソーム、ウイルス様粒子)、RNA(例えば、siRNA)もしくはDNA(例えば、プラスミドDNA)、抗生剤、またはアミノ酸が含まれる。実施形態において、デバイス、設備、及び方法は、バイオシミラーを生産するために使用され得る。
【0228】
前述のように、ある特定の実施形態において、デバイス、設備、及び方法は、真核細胞、例えば哺乳類細胞もしくは下等真核細胞(例えば、酵母細胞もしくは糸状菌細胞)、または原核細胞(例えばグラム陽性細胞もしくはグラム陰性細胞)、及び/または真核細胞もしくは原核細胞の産物(例えば、タンパク質、ペプチド、もしくは抗生物質、アミノ酸、核酸(例えば、DNAもしくはRNA)を含むPOI)の産生を可能にし、これらは大規模な方式で当該細胞によって合成される。本明細書に別段の記載がない限り、デバイス、設備、及び方法は、限定されるものではないが、ベンチスケール、パイロットスケール、及びフル生産スケール能力を含む任意の所望のボリュームまたは生産能力を含むことができる。
【0229】
さらに、本明細書に別段の記載がない限り、デバイス、設備、及び方法は、限定されるものではないが、撹拌タンク、エアリフト、繊維、マイクロファイバー、中空繊維、セラミックマトリックス、流動床、固定床、及び/または噴流床バイオリアクターを含む任意の好適なリアクターを含むことができる。本明細書で使用する場合、「リアクター」には、発酵槽もしくは発酵ユニット、または任意の他の反応容器を含まれ得、「リアクター」という用語は「発酵槽」と互換的に使用される。例えば、いくつかの態様において、例示的なバイオリアクターユニットは、以下の1つ以上、または全てを実施することができる:栄養素及び/もしくは炭素源の供給、適切なガス(例えば、酸素)の注入、発酵または細胞培養基の流入口及び流出口、気相及び液相の分離、温度の維持、酸素及びCO2レベルの維持、pHレベルの維持、撹拌(agitation)(例えば、撹拌(stirring))、ならびに/または洗浄/滅菌。発酵ユニットなどの例示的なリアクターユニットは、ユニット内に複数のリアクターを収容することができ、例えば、ユニットは、各ユニット内に1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100以上のバイオリアクターを有し得、かつ/または設備は、施設内に1つまたは複数のリアクターを有する複数のユニットを収容することができる。様々な実施形態において、バイオリアクターは、バッチ、半流加バッチ、流加バッチ、灌流、及び/または連続発酵プロセスに適し得る。任意の好適なリアクター直径を使用することができる。実施形態において、バイオリアクターは、約100mL~約50,000Lの容積を有することができる。非限定的な例としては、100mL、250mL、500mL、750mL、1リットル、2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7リットル、8リットル、9リットル、10リットル、10リットル、15リットル、20リットル、25リットル、30リットル、40リットル、50リットル、60リットル、70リットル、80リットル、90リットル、100リットル、150リットル、200リットル、250リットル、300リットル、350リットル、400リットル、450リットル、500リットル、550リットル、600リットル、650リットル、700リットル、750リットル、800リットル、850リットル、900リットル、950リットル、1000リットル、1500リットル、2000リットル、2500リットル、3000リットル、3500リットル、4000リットル、4500リットル、5000リットル、6000リットル、7000リットル、8000リットル、9000リットル、10,000リットル、15000リットル、20000リットル、及び/または50000リットルの容積が挙げられる。加えて、好適なリアクターは、複数回使用、単回使用、使い捨て、または非使い捨てであり得、ステンレス鋼(例えば、316Lまたは他の任意の好適なステンレス鋼)及びインコネル、プラスチック、及び/またはガラスなどの金属合金を含む任意の好適な材料で形成され得る。
【0230】
実施形態において、及び本明細書中で別段の記載がない限り、本明細書に記載のデバイス、設備、及び方法は、他に言及されない任意の好適なユニット運用及び/または装置、例えば、このような産物を分離、精製、及び単離するための運用及び/または装置も含み得る。任意の好適な設備及び環境、例えば、伝統的な現場組立て設備、モジュール式、移動式、及び一時的設備、または他の任意の好適な構造、設備、及び/またはレイアウトを使用することができる。例えば、いくつかの実施形態において、モジュール式クリーンルームを使用することができる。加えて、別段の明記がない限り、本明細書に記載のデバイス、システム、及び方法は、1つの位置または設備に収容及び/または実施することができ、あるいは代替的に、別個のまたは複数の位置及び/または設備に収容及び/または実施することができる。
【0231】
好適な技法は、バッチフェーズで開始し、次いで高い比成長率の短い指数関数的流加バッチフェーズが続き、さらに、低い比成長率の流加バッチフェーズが続く、バイオリアクター内での培養を包含し得る。別の好適な培養技法は、バッチフェーズと、それに続く流加バッチフェーズであって、任意の好適な比成長率または比成長率の組合せ(例えば、POI産生時間にわたって高い成長率から低い成長率へ、またはPOI産生時間にわたって低い成長率から高い成長率へと進む)で行う流加バッチフェーズとを包含し得る。別の好適な培養技法は、バッチ相と、それに続く低希釈率で行う連続培養相とを包含し得る。
【0232】
好ましい実施形態は、バイオマスを提供するためのバッチ培養と、それに続く高収率のPOI産生のための流加バッチ培養とを含む。
【0233】
本明細書に記載の宿主細胞は、少なくとも1g/L細胞乾燥重量、より好ましくは少なくとも10g/L細胞乾燥重量、好ましくは少なくとも20g/L細胞乾燥重量、好ましくは少なくとも30、40、50、60、70、または80g/L細胞乾燥重量のいずれか1つの細胞密度を得るための成長条件下でバイオリアクター内で培養することが好ましい。このようなバイオマス産生の収量をパイロット規模または工業規模で提供することは有利である。
【0234】
バイオマスの蓄積を可能にする成長培地、具体的には基礎成長培地は、典型的には、炭素源、窒素源、硫黄源、及びリン酸源を含む。典型的には、このような培地はさらに、微量元素及びビタミンを含み、さらに、アミノ酸、ペプトン、または酵母抽出物を含むことができる。
【0235】
好ましい窒素源としては、NH4H2PO4、またはNH3、または(NH4)2SO4が挙げられる。
好ましい硫黄源としては、MgSO4、または(NH4)2SO4、またはK2SO4が挙げられる。
好ましいリン酸源としては、NH4H2PO4、またはH3PO4、またはNaH2PO4、KH2PO4、Na2HPO4、またはK2HPO4が挙げられる。
さらなる典型的な培地構成成分としては、KCl、CaCl2、及び以下のような微量元素が挙げられる:Fe、Co、Cu、Ni、Zn、Mo、Mn、I、B。
好ましくは、培地にはビタミンB7が補充される。
P.pastorisのための典型的な成長培地は、グリセロール、ソルビトール、またはグルコース、NH4H2PO4、MgSO4、KCl、CaCl2、ビオチン、及び微量元素を含む。
【0236】
産生フェーズでは、産生媒体は、具体的には、限られた量の補充炭素源のみを用いて使用される。
【0237】
好ましくは、宿主細胞株は、好適な炭素源を有する無機質培地中で培養され、それによって単離プロセスが顕著に簡略化される。好ましい無機質培地の例は、利用可能な炭素源(例えば、グルコース、グリセロール、またはソルビトール)、多量元素(カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、塩化物、硫酸、リン酸)及び微量元素(銅、ヨウ化物、マンガン、モリブデン酸、コバルト、亜鉛、及び鉄の塩、ならびにホウ酸)を含む塩、ならびに任意選択で(例えば、栄養要求性を補完するための)ビタミンまたはアミノ酸を含む培地である。
【0238】
具体的には、細胞は、所望のPOIの発現をもたらすのに適した条件下で培養され、POIは、発現系及び発現したタンパク質の性質に応じて、例えば、タンパク質がシグナルペプチドと融合しているか、及びタンパク質が可溶性であるか膜結合であるかに応じて、細胞または培養基から精製することができる。当業者によって理解されるであろうように、培養条件は、宿主細胞のタイプ及び用いられる特定的な発現ベクターを含む因子に応じて変化する。
【0239】
典型的な産生培地は、補充炭素源と、さらにNH4H2PO4、MgSO4、KCl、CaCl2、ビオチン、及び微量元素とを含む。
【0240】
例えば、発酵に添加される補充炭素源のフィードは、最大50wt%の利用可能な糖を含む炭素源を含むことができる。
【0241】
発酵は、好ましくは3~8の範囲のpHで行われる。
【0242】
典型的な発酵時間は、20℃~35℃、好ましくは22~30℃の範囲の温度で約24~120時間である。
【0243】
POIは、少なくとも1mg/L、好ましくは少なくとも10mg/L、好ましくは少なくとも100mg/L、最も好ましくは少なくとも1g/Lの収率をもたらす条件を用いて発現させることが好ましい。
【0244】
本明細書で使用する場合、「発現」または「発現カセット」という用語は、作用可能な結合で所望のコード配列及び制御配列を含む核酸分子を指し、このような配列を用いた形質転換または形質移入された宿主は、コードされたタンパク質または宿主細胞代謝産物を産生可能である。形質転換をもたらすには、発現系をベクターに含めることができるが、関連するDNAを宿主細胞染色体に組み込むこともできる。発現とは、ポリペプチドまたは代謝産物を含む分泌されたまたは分泌されていない発現産物を指す。
【0245】
発現カセットは、発現コンストラクトとして、例えば、「ベクター」または「プラスミド」の形態で好都合に提供され、これは典型的には、クローニングされた組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子の転写や、好適な宿主生物内でのそのmRNAの翻訳に必要とされるDNA配列である。発現ベクターまたはプラスミドは、通常は、宿主細胞内での自律複製のための供給源またはゲノム組込みのための座位、選択マーカー(例えば、アミノ酸合成遺伝子または抗生物質(例えば、zeocin、カナマイシン、G418またはハイグロマイシン、nourseothricin)に対する耐性を付与する遺伝子)、複数の制限酵素切断部位、好適なプロモーター配列、及び転写ターミネーターを含み、これらの構成成分は共に作用可能に結合している。本明細書で使用する場合、「プラスミド」及び「ベクター」という用語は、自律的に複製するヌクレオチド配列及びゲノム組込みヌクレオチド配列(例えば、人工染色体、例えば酵母人工染色体(YAC))を包む。
【0246】
発現ベクターとしては、限定されるものではないが、クローニングベクター、修飾クローニングベクター、及び特異的に設計されたプラスミドを挙げることができる。本明細書に記載の好ましい発現ベクターは、真核宿主細胞内で組換え遺伝子を発現させるのに適した発現ベクターであり、これは宿主生物に応じて選択される。適切な発現ベクターは、典型的には、真核宿主細胞内でPOIをコードするDNAを発現させるのに適した調節配列を含む。調節配列の例としては、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、ならびに転写及び翻訳の開始及び終結を制御する配列が挙げられる。調節配列は、典型的には、発現対象のDNA配列に作用可能に結合している。
【0247】
宿主細胞内での組換えヌクレオチド配列の発現を可能にするために、本明細書に記載の発現カセットまたはベクターは、POIの発現及び分泌を促進するためにECP、典型的にはコード配列の5’末端に隣接するプロモーターヌクレオチド配列を含む(例えば、目的遺伝子(GOI)の上流で隣接し、またはシグナルもしくはリーダー配列が使用される場合は、それぞれ当該シグナル及びリーダー配列の上流で隣接する)。プロモーター配列は、典型的には、下流のヌクレオチド配列の転写を調節及び開始するものであり、これ(特定的にはGOIを含む)に対し、作用可能に結合している。
【0248】
本明細書に記載の具体的な発現コンストラクトは、POIをコードするヌクレオチド配列に作用可能に結合したプロモーターを含み、当該POIは当該プロモーターの転写制御下にある。具体的には、プロモーターは、POIのコード配列とネイティブには会合していない。
【0249】
本明細書に記載の具体的な発現コンストラクトは、宿主細胞からのPOIの分泌を引き起こすリーダー配列に結合したPOIをコードするポリヌクレオチドを含む。発現ベクター内でこのような分泌リーダー配列の存在が必要とされるのは、典型的には、組換え発現及び分泌が意図されているPOIが天然には分泌されないため、天然の分泌リーダー配列が欠如したタンパク質であるとき、またはそのヌクレオチド配列が、その天然の分泌リーダー配列なしにクローニングされたときである。概して、宿主細胞からのPOIの分泌を引き起こすのに有効な任意の分泌リーダー配列が使用され得る。分泌リーダー配列は、酵母源、例えば、Saccharomyces cerevisiaeのMFaなどの酵母α-因子、または酵母ホスファターゼ、哺乳類もしくは植物起源、またはその他のものから生じ得る。
【0250】
具体的な実施形態において、マルチクローニング部位を有するベクターであるマルチクローニングベクターが使用され得る。具体的には、所望の異種性遺伝子をマルチクローニング部位に組み込むかまたは取り込んで発現ベクターを調製することができる。マルチクローニングベクターの場合、プロモーターは典型的にはマルチクローニング部位の上流に配置される。
【0251】
本明細書に記載の組換え宿主細胞は、具体的には、宿主細胞の内在性FLO8タンパク質または宿主細胞内のそれぞれのホモログもしくはオルソログの量を減少させるように操作され、これは特定的には、それぞれのコード遺伝子配列の発現を低下させて遺伝子を過小発現させることによって行う。
【0252】
本明細書で使用する場合、「遺伝子発現」または「ポリヌクレオチドの発現」という用語は、mRNAへのDNA転写、mRNAプロセシング、mRNA成熟、mRNA輸送、翻訳、タンパク質折畳み及び/またはタンパク質運搬からなる群より選択される少なくとも1つのステップを包含するように意図されている。
【0253】
「発現を低下させる」という用語は、典型的には「過小発現させること」を指し、概して、参照標準物質によって示される発現レベルよりも低い任意の量を指す。参照標準物質とは、ある特定のポリヌクレオチドの発現を低下させるように操作する前の宿主細胞であるか、または当該ポリヌクレオチドの発現を低下させるように操作されていない同じタイプまたは種の宿主細胞内で別の方法で発現させたものである。本明細書に記載の発現低下とは、規定されたFLO8タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子、特定的には、操作前に宿主細胞にとって内在性である遺伝子を指す。特定的には、それぞれの遺伝子産物は、本明細書に記載のように規定されたFLO8タンパク質である。遺伝子修飾によって宿主細胞を操作して当該遺伝子の発現を低下させると、当該遺伝子産物またはポリペプチドの発現は、宿主細胞を遺伝子修飾する前のまたは遺伝子修飾されていない同等の宿主内での同じ遺伝子産物またはポリペプチドの発現よりも低いレベルとなる。「~未満」には、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上が含まれる。遺伝子産物またはポリペプチドの発現が全くないことも、「発現低下」または「過小発現」という用語によって包含される。
【0254】
本明細書に記載の具体的な実施形態によれば、宿主細胞は、FLO8タンパク質(本明細書で定義されるように、例えば、それぞれのホモログまたはオルソログを含む)をコードする内在性宿主細胞遺伝子、または当該FLO8タンパク質を発現または産生する宿主細胞の能力を付与する他の(コードまたは非コード)ヌクレオチド配列を、(遺伝子またはその一部の不活性化または欠失のために)ノックダウンまたはノックアウトするように操作される。
【0255】
具体的には、ヌクレオチド配列が破壊された欠失株が提供される。
【0256】
本明細書で使用する場合、「破壊する」という用語は、(例えば、ノックダウンまたはノックアウトによる)宿主細胞内の1つ以上の内在性タンパク質の発現の顕著な低下から完全な除去までを指す。これは、例えば、質量分析により、宿主細胞の細胞培養物または培養基中におけるこの1つ以上の内在性タンパク質の存在として測定することができ、このとき、内在性タンパク質の総含量は閾値未満または検出不可能であり得る。
【0257】
「破壊」という用語は、具体的には、遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、ドミナントネガティブコンストラクトの送達、条件付き遺伝子ノックアウト、及び/または特定の遺伝子に対する遺伝子修飾からなる群より選択される少なくとも1つのステップによる遺伝子操作の結果を指す。
【0258】
本明細書で使用される遺伝子発現の文脈における「ノックダウン」、「低下」、または「枯渇」という用語は、対照細胞における発現と比較して所与の遺伝子の発現低下をもたらす実験的アプローチを指す。遺伝子のノックダウンは、様々な実験的手段により、例えば、遺伝子のmRNAの一部とハイブリダイズして分解をもたらす核酸分子(例えば、shRNA、RNAi、miRNA)を細胞に導入すること、または転写の低下、mRNA安定性の低下、もしくはmRNA翻訳の減少をもたらす方法で遺伝子の配列を改変することにより、達成することができる。
【0259】
所与の遺伝子の発現を完全に阻害することは、「ノックアウト」と称される。遺伝子のノックアウトとは、当該遺伝子から機能的転写産物が合成されず、この遺伝子によって正常に提供される機能が失われることを意味する。遺伝子ノックアウトは、DNA配列を改変することによって達成され、遺伝子もしくはその調節配列、またはこのような遺伝子もしくは調節配列の一部の破壊または欠失をもたらす。ノックアウト技術には、重要な部分もしくは遺伝子配列全体を置換、中断、もしくは削除するための相同組換え技法の使用、または標的遺伝子のDNAに二重鎖切断を導入するためのDNA修飾酵素(例えば、ジンクフィンガーまたはメガヌクレアーゼ)の使用が含まれる(例えば、Gaj et al.(Trends Biotechnol.2013;31(7):397-405によって説明されている)。
【0260】
具体的な実施形態は、宿主細胞を形質転換または形質移入する1つ以上のノックアウトプラスミドまたはカセットを用いる。相同組換えにより、宿主細胞内の標的遺伝子を破壊することができる。この手順は、典型的には、標的遺伝子の全てのアレルが安定的に除去されるまで繰り返される。
【0261】
本明細書に記載の具体的な遺伝子をノックアウトするための1つの具体的な方法は、例えば、Weninger et al.(J.Biotechnol.2016,235:139-49)で説明されているCRISPR-Cas9法である。別の方法としては、例えば、Heiss et al.2013(Appl Microbiol Biotechnol.97(3):1241-9)によって説明されているようなスプリットマーカーアプローチが挙げられる。
【0262】
別の実施形態は、宿主細胞を形質移入するために低分子干渉RNA(siRNA)を使用し、当該宿主細胞によって内在的に発現した標的タンパク質をコードするmRNAを標的化することによる、標的mRNA分解を指す。
【0263】
遺伝子の発現は、遺伝子発現を直接的に妨害する方法によって阻害または低下させることができ、このような方法には、限定されるものではないが、(例えば、特異的プロモーター関連リプレッサーの使用による、所与のプロモーターの部位特異的変異誘発による、プロモーター交換による)DNA転写の阻害もしくは低下、または(例えば、RNAiもしくは非コードRNA誘導転写後遺伝子サイレンシングによる)翻訳の阻害もしくは低下が含まれる。活性が低下した機能不全または不活性の遺伝子産物の発現は、例えば、コード遺伝子内の部位特異的またはランダムな変異誘発、挿入、または欠失によって達成され得る。
【0264】
遺伝子産物の活性の阻害または低下は、例えば、タンパク質発現の前またはそれと同時に、それぞれの酵素に対する阻害剤を投与するか、またはそれとインキュベートすることにより、達成することができる。このような阻害剤の例としては、限定されるものではないが、当該酵素に対する阻害性ペプチド、抗体、アプタマー、融合タンパク質、もしくは抗体ミメティック、またはこれらのリガンドもしくは受容体、あるいは同様の結合活性を有する阻害性ペプチドもしくは核酸、または小分子が挙げられる。
【0265】
遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、及び遺伝子ノックアウトとは、遺伝子の発現を低下させる技法を指し、遺伝子修飾を介して、またはmRNA転写物もしくは遺伝子のいずれかに相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドで処置することによって行われる。DNAの遺伝子修飾が行われれば、その結果はノックダウンまたはノックアウト生物である。遺伝子発現の変化が、オリゴヌクレオチドがmRNAに結合するか、または一時的に遺伝子に結合することによって引き起こされる場合、染色体DNAの修飾なしに遺伝子発現の一時的な変化がもたらされ、これは一過性ノックダウンと称される。
【0266】
上記の用語にも包含される一過性のノックダウンにおいて、このオリゴヌクレオチドの活性遺伝子またはその転写物への結合は、転写のブロック(遺伝子結合の場合)、(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)もしくはアンチセンスRNAによる)mRNA転写物の分解、またはmRNA翻訳のブロックを介して、発現の減少を引き起こす。
【0267】
遺伝子サイレンシング、ノックダウン、またはノックアウトを行うための他のアプローチは、それぞれの文献から当業者に知られており、本発明の文脈でこれらを適用することは通例的なものとみなされる。遺伝子ノックアウトとは、遺伝子の発現が完全にブロックされる(すなわち、それぞれの遺伝子が作用しない、または除去すらされる)技法を指す。この目標を達成するための方法論的アプローチは多様であり、当業者には知られている。例としては、所与の遺伝子に対しドミナントネガティブである変異体の産生がある。このような変異体は、部位特異的変異誘発(例えば、欠失、部分欠失、挿入、または核酸置換)により、好適なトランスポゾンの使用により、またはそれぞれの文献から当業者に知られている他のアプローチによって産生することができ、従って、本発明の文脈でこれらを適用することは通例的なものとみなされる。1つの例は、標的化ジンクフィンガーヌクレアーゼの使用によるノックアウトである。それぞれのキットは、「CompoZRノックアウトZFN」としてSigma Aldrichによって提供される。別のアプローチは、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の使用を包含する。
【0268】
ドミナントネガティブコンストラクトの送達は、例えば、トランスフェクションによって、機能不全な遺伝子発現産物をコードする配列を導入することを伴う。当該コード配列は、機能不全性酵素の遺伝子発現が遺伝子発現産物の自然な発現を無効にし、ひいては当該遺伝子発現産物のそれぞれの活性の有効な生理学的欠損をもたらすような方法で、強力なプロモーターに機能的に連結される。
【0269】
条件付き遺伝子ノックアウトは、組織特異的または時間特異的な方式で遺伝子発現をブロックすることを可能にする。これは、例えば、目的遺伝子の周囲にloxP部位と呼ばれる短い配列を導入することによって行われる。この場合も、他のアプローチがそれぞれの文献から当業者に知られており、本発明の文脈でこれらを適用することは通例的なものとみなされる。
【0270】
他のアプローチの1つは、機能不全の遺伝子産物または活性が低下した遺伝子産物をもたらし得る遺伝子修飾である。このアプローチは、フレームシフト変異の導入、ナンセンス変異の導入(すなわち、未成熟終止コドンの導入)、またはアミノ酸置換をもたらす変異の導入を伴い、これは、遺伝子産物全体を機能不全にするか、または活性低下を引き起こす。このような遺伝子修飾は、例えば、変異誘発(例えば、欠失、部分欠失、挿入もしくは核酸置換)、非特異的(ランダム)変異誘発または部位特異的変異誘発のいずれかによってもたらされ得る。遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、ドミナントネガティブコンストラクトの送達、条件付き遺伝子ノックアウト、及び/または遺伝子修飾の実際的な適用について記載するプロトコルは、当業者にとって一般的に入手可能なものであり、かつ当業者のルーチン内にある。したがって、本明細書で提供される技術的教示は、遺伝子産物の遺伝子発現の阻害または低下、または機能不全もしくは不活性の遺伝子産物の発現、または活性低下につながる全ての考えられる方法に関して完全に可能なものである。
【0271】
本明細書に記載される遺伝子修飾は、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2001)によって説明されているような当技術分野で知られているツール、方法、技術を用いることができる。
【0272】
本明細書で使用する場合、「内在性」という用語は、野生型(ネイティブ)宿主細胞内に存在する分子及び配列、特定的には内在性遺伝子またはタンパク質を含むように意図され、これらは、それぞれの内在性遺伝子の発現を低下させ、かつ/または内在性タンパク質の産生を低下させるための修飾を行う前に存在する。特定的には、自然界で見出されるような特定の宿主細胞内に生じる(かつそこから得ることができる)内在性核酸分子(例えば、遺伝子)またはタンパク質は、「宿主細胞内在性」または「宿主細胞にとって内在性」であると理解される。さらに、核酸またはタンパク質を「内在的に発現する」細胞は、自然界で見出される同じ特定のタイプの宿主と同様に、その核酸またはタンパク質を発現する。さらに、核酸、タンパク質、または他の化合物を「内在的に産生している」または「内在的に産生する」宿主細胞は、自然界で見出される同じ特定のタイプの宿主細胞と同様に、その核酸、タンパク質、または化合物を産生する。
【0273】
したがって、(例えば、遺伝子をコードするタンパク質が不活化または欠失した宿主細胞のノックアウト変異体において)内在性タンパク質がもはや宿主細胞によって産生されない場合であっても、当該タンパク質は、本明細書においてはなお「内在性」と称される。
【0274】
「異種性」という用語は、ヌクレオチド配列、コンストラクト(例えば、発現カセット、アミノ酸配列、またはタンパク質)に関して本明細書で使用する場合、所与の宿主細胞にとって異質である、すなわち、「外来性」である(例えば、当該宿主細胞に自然界では見出されない)化合物、または所与の宿主細胞に自然界で見出される化合物(例えば、「内在性」であるが異種性コンストラクトの文脈でそうである、またはこのような異種性コンストラクトに組み込まれている(例えば、内在性核酸と融合した異種性核酸を用いるか、または内在性核酸と共に異種性核酸を用いてコンストラクトを異種性にする)を指す。内在的に見出される異種性ヌクレオチド配列はまた、細胞中で非天然量で、例えば、予想よりも多いまたは天然に見出されるよりも多い量で、産生され得る。異種性ヌクレオチド配列、または異種性ヌクレオチド配列を含む核酸は、内在性ヌクレオチド配列とは配列が異なる可能性があるが、内在的に見出されるものと同じタンパク質をコードする。具体的には、異種性ヌクレオチド配列は、自然界では宿主細胞にとって同じ関係で見出されない配列である。任意の組換えまたは人工ヌクレオチド配列は、異種性であると理解される。異種性ポリヌクレオチドの例は、本明細書で記載されるように、例えばハイブリッドプロモーターを得るために、プロモーターとネイティブには会合していないか、またはコード配列に作用可能に結合していないヌクレオチド配列である。結果として、ハイブリッドまたはキメラ型ポリヌクレオチドが得られ得る。異種性化合物のさらなる例は、内在性の天然に存在するPOIコード配列が通常は作用可能に結合していない、転写調節要素(例えば、プロモーター)に作用可能に結合したポリヌクレオチドをコードするPOIである。
【0275】
本明細書で使用する場合、「作用可能に結合した」という用語は、ヌクレオチド配列が単一の核酸分子(例えば、ベクターまたは発現カセット)上で、1つ以上のヌクレオチド配列の機能が当該核酸分子上に存在する少なくとも1つの他のヌクレオチド配列によって影響を受けるような方法で、会合していることを指す。作用可能な結合により、核酸配列は、同じ核酸分子上の別の核酸配列と機能的関係に置かれる。例えば、プロモーターは、組換え遺伝子のコード配列の発現をもたらすことが可能な場合、そのコード配列と作用可能に結合している。さらなる例として、シグナルペプチドをコードする核酸は、分泌形態(例えば、成熟タンパク質または成熟タンパク質のプレフォーム)でタンパク質を発現可能な場合、POIをコードする核酸配列に作用可能に結合している。具体的には、相互に作用可能に結合したこのような核酸は、直接結合していてもよく、すなわち、シグナルペプチドをコードする核酸とPOIをコードする核酸配列との間にさらなるエレメントまたは核酸配列が存在することなく結合していてもよい。
【0276】
「プロモーター」配列は、典型的には、プロモーターがコード配列の転写を制御する場合、コード配列に作用可能に結合していると理解される。プロモーター配列がコード配列とネイティブに会合していない場合、その転写はネイティブ(野生型)細胞内でプロモーターによる制御を受けないか、または当該コード配列は異なる連続配列と再結合する。
【0277】
非メタノール炭素源によって調節可能、特定的には抑制可能であり、本明細書に記載の目的で使用されるプロモーターは、本明細書では「ECP」と称される。そのため、「ECP」に関する本開示は、「非メタノール炭素源によって調節可能(または抑制可能)なプロモーター」も指し、逆もまた同様である。
【0278】
本明細書に記載のECPは、特定的には、POIコードDNAの発現を開始、調節、または別の方法で媒介もしくは制御する。プロモーターDNA及びコードDNAは、同一の遺伝子または異なる遺伝子に由来し得、また同一または異なる生物に由来し得る。
【0279】
本明細書に記載のECPは、具体的には、調節可能プロモーター、特定的には、抑制及び誘導状態で異なるプロモーター強度を有する炭素源調節可能プロモーター、特定的には、非メタノール炭素源調節可能プロモーター、例えば、非メタノール炭素源によって抑制され、特定的にはメタノールによって誘導可能でないECPとして理解される。具体的には、メタノールの非存在下で転写活性を有するECPを使用することにより、ECPの転写制御下でPOIを産生するための宿主細胞培養物にメタノールを添加する必要がない。
【0280】
ECPの強度とは、具体的にはその転写強度を指し、そのプロモーターにおいて高頻度または低頻度で生じる転写開始の効率によって表される。転写強度が高いほど、そのプロモーターでの転写は頻繁に生じる。プロモーター強度はプロモーターの典型的な特徴である。なぜなら、プロモーター強度は、所与のmRNA配列が転写される頻度を決定し、いくつかの遺伝子に他の遺伝子よりも高い転写の優先度を有効に与え、転写産物の濃度を高めるからである。例えば、大量に必要とされるタンパク質をコードする遺伝子は、典型的には比較的強力なプロモーターを有する。RNAポリメラーゼは一度に1つの転写タスクしか実施できないため、効率的に行うには作業に優先順位を付けなければならない。プロモーター強度の差は、この優先順位付けを可能にするように選択される。
【0281】
本明細書で使用されるECPは、典型的にはほぼ最大活性状態として理解される完全誘導状態では比較的強力である。相対的強度は、一般的には、比較可能なプロモーター(本明細書では参照プロモーターと称される)に対し定量され、このプロモーターは、宿主細胞として使用される細胞のそれぞれのpGAPプロモーターのような標準プロモーターであり得る。
【0282】
転写の頻度は、転写率として一般に理解されており、これは例えば、好適なアッセイ(例えば、RT-PCRまたはノーザンブロッティング)における転写物の量によって定量される。例えば、本発明によるプロモーターの転写強度は、P.pastorisである宿主細胞において定量され、P.pastorisのネイティブpGAPプロモーターと比較される。
【0283】
目的遺伝子を発現するプロモーターの強度は、一般的には、発現強度または高い発現レベル/率を支持する能力として理解される。例えば、本発明のプロモーターの発現及び/または転写強度は、P.pastorisである宿主細胞において定量され、P.pastorisのネイティブpGAPプロモーターと比較される。
【0284】
参照プロモーターと比較した比較転写強度は、標準的な方法によって(例えば、転写産物の量を、例えばマイクロアレイを用いて測定することにより)、または細胞培養において(例えば、組換え細胞内のそれぞれの遺伝子発現産物の量を測定することにより)、定量することができる。特定的には、転写率は、マイクロアレイ上の転写強度、ノーザンブロットまたは定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)またはRNA配列決定(RNA-seq)によって定量することができ、このとき、データは、高い成長率を有する条件と低い成長率を有する条件との間の発現レベルの差、または異なる培地組成を用いる条件、及び参照プロモーターと比較した高いシグナル強度を示す。
【0285】
発現率は、例えば、eGFPなどのレポーター遺伝子の発現量によって定量することができる。
【0286】
本明細書に記載のECPは、比較的高い転写強度を発揮し、例えば、宿主細胞内のネイティブpGAPプロモーター(「相同pGAPプロモーター」とも呼ばれる)に対し少なくとも15%の転写率または転写強度によって反映される。好ましくは、転写率または転写強度は、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%またはそれ以上のいずれか1つ、例えば、ネイティブpGAPプロモーターと比較して少なくとも110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、または200%の少なくともいずれか1つであり、例えば、POIを産生するための組換え目的の宿主細胞として選択された(例えば、真核)宿主細胞で定量される。
【0287】
ネイティブpGAPプロモーターは、典型的には、ほとんどの生物に存在する構成的プロモーターであるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードするギャップ遺伝子の発現を開始する。GAPDH(EC 1.2.1.12)は解糖及び糖新生のキーとなる酵素であり、異化及び同化炭水化物の代謝で重要な役割を果たす。
【0288】
ネイティブpGAPプロモーターは、修飾されていない(非組換え)または組換え真核細胞を含めた同じ種または株のネイティブ真核細胞と同様に、組換え真核細胞において特異的に活性である。このようなネイティブpGAPプロモーターは、一般的には、内在性プロモーターであると理解されるため、宿主細胞に相同であり、比較目的の標準プロモーターまたは参照プロモーターとして機能し得る。本明細書に記載されるようなプロモーターの相対的な発現または転写の強度または比率は、通常は、POIを産生するための宿主として使用される同じ種または株の細胞のネイティブpGAPプロモーターと比較される。
【0289】
誘導可能または抑制可能調節エレメント(例えば、本明細書に記載のプロモーター)に対する「調節可能」という用語は、例えばバッチ培養の成長フェーズにおいて、過剰量の物質(例えば、細胞培養基中の栄養素)の存在下で宿主細胞内で抑制され、かつ例えば産生フェーズ(栄養素の量を減らす際、または補充基質を供給する際など)において、流加バッチ戦略に従って、強力な活性を誘導するために抑制解除されるエレメントを指すものとする。調節エレメントも同様に調節可能であるように、エレメントが細胞培養添加物の追加なしには不活性であり、このような添加剤の存在下では活性であるように設計され得る。したがって、このような調節エレメントの制御下でのPOIの発現は、このような添加物を加えることによって誘導され得る。
【0290】
本明細書に記載のECPは、比較的強力な調節可能プロモーターであり、典型的には、細胞成長条件下(成長フェーズ)で沈黙化または抑制され、産生条件下(産生フェーズ)で活性化または抑制解除されるため、炭素源を制限することによって産生細胞系におけるPOI産生を誘導するのに適している。
【0291】
具体的には、本明細書に記載のプロモーターは、グルコース及びグルコース制限の存在下でのその強度を比較する試験で定量されるような示差的プロモーター強度で調節可能な炭素源であり、これは、当該プロモーターが比較的高いグルコース濃度で、好ましくは少なくとも10g/L、好ましくは少なくとも20g/Lの濃度でなお抑制されることを示す。具体的には、本明細書に記載のプロモーターは、プロモーターを完全に誘導するグルコース閾値濃度を考慮して、制限されたグルコース濃度で完全に誘導され、この閾値は、典型的には、20g/L未満、好ましくは10g/L未満、1g/L以下、さらには0.1g/L未満、または50mg/L未満であり、好ましくは40mg/L未満のグルコース濃度で、ネイティブの相同なpGAPプロモーターの、例えば少なくとも50%の完全転写強度を伴う。
【0292】
本開示の文脈内で本明細書で使用する場合、「抑制」または「抑制された」という用語は、例えば、本明細書に記載の炭素源調節可能プロモーターを特徴付けるために使用する場合、抑制可能であると理解されるプロモーターの転写制御下にある(目的タンパク質をコードする)目的遺伝子の転写の妨害を指し、この妨害の結果、細胞による目的タンパク質の発現が減少する。
【0293】
本明細書に記載のECPの抑制は、抑制作用物質が細胞培養基中に存在する場合に特異的に生じる。抑制作用物質は、ある特定の炭素源、または(例えば、特定の閾値量を上回る)炭素源の抑制量であり得る。目的遺伝子または目的タンパク質の発現は、抑制作用物質が培地から除去されるか、またはこれ以上抑制されない閾値量未満まで減少したときに、「抑制解除」とされる。抑制解除時に、ECPは完全誘導状態であると理解され、目的タンパク質の発現は、典型的には、プロモーター抑制条件下での細胞による発現の基礎レベルの少なくとも1.5倍である。
【0294】
具体的には、本明細書に記載のECPの制御下での目的遺伝子の転写は、ECPの抑制解除または完全誘導時の当該遺伝子の転写と比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、または95%のいずれか1つだけ抑制されるか、または完全に抑制(100%抑制)され得る。
【0295】
抑制条件及び抑制解除条件下でのプロモーター強度を比較する示差的プロモーター強度は、プロモーターの調節可能特性及びそれぞれの誘導比を定量する。ある特定の実施形態によれば、誘導比は、所定の炭素源閾値未満の誘導条件に切り替えた際のPOI産生の開始によって定量される示差的プロモーター強度として理解され、抑制状態における強度と比較される。転写強度は一般的には、完全誘導状態での強度、すなわち、抑制解除条件下で最大の活性を示す強度として理解される。示差的プロモーター強度は、例えば、抑制条件と比較した脱抑制条件下での組換え宿主細胞系のPOI産生の効率または収率に従って、または転写物の量によって定量される。本明細書に記載の調節可能プロモーターは、抑制された状態と比較して、抑制解除(完全誘導)状態では少なくとも1.5倍または少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、さらにより好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも30、40、50、または100倍である、好ましい示差的プロモーター強度(誘導比)を有し、誘導倍数としても理解される。
【0296】
本明細書で使用する場合、「変異誘発」という用語は、非コード領域またはコード領域内に少なくとも1つの変化を有するヌクレオチド配列の変異体を得るために、例えば1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、及び/または置換により、ヌクレオチド配列の変異体を提供する方法を指すものとする。変異誘発は、ランダム、半ランダム、または部位特異的変異によるものであり得る。本明細書に記載されの具体的なECP及びそれぞれのヌクレオチド配列は、同様に本明細書に記載の目的で使用され得る調節可能プロモーターであるバリアントを産生するために使用され得る。このようなバリアントは、親配列として本明細書に提供されるECPヌクレオチド配列を用いた好適な変異誘発法によって産生することができる。このような変異誘発法は、それぞれの親プロモーター配列情報を鋳型として用いて核酸を操作する方法またはヌクレオチド配列をde novo合成する方法を包含する。具体的な変異誘発法は、合理的なプロモーター操作を適用する。
【0297】
本明細書に記載の例示的なECPは、例えば、発現レベルの改変及び調節特性を有するプロモーターバリアントを生成するように修飾することができる。例えば、プロモーターライブラリーは、選択されたプロモーター配列の変異誘発によって調製することができ、このプロモーター配列は、例えば真核細胞内での遺伝子発現を微調整するための親分子として使用され得、これは、異なる発酵戦略下での発現のためのバリアントを解析し、好適なバリアントを選択することによって行われる。バリアントの合成ライブラリーは、例えば、選択されたPOIを産生するための要件に適合するプロモーターを選択するために、使用することができる。このようなバリアントは、(例えば、真核)宿主細胞内で発現効率が増加し、炭素源の豊富及び制限条件下で示差的発現を示し得る。典型的には、大規模なランダム化遺伝子ライブラリーが高い遺伝子多様性で作製され、遺伝子多様性は、具体的に所望される遺伝子型または表現型に従って選択され得る。
【0298】
ある特定のECPバリアントは、本明細書に示されるECPヌクレオチド配列のサイズバリアントであり得、かつ/または本明細書に記載のプロモーターのエレメントまたは領域(例えば、コア調節領域、主要調節領域、もしくはTモチーフ)のうちの2つ以上を含み得、かつ/またはECPヌクレオチド配列の1つ以上の(同じまたは異なる)断片を含み得る。
【0299】
特異的変異誘発法は、配列内の1つ以上のヌクレオチドの点変異、特定的にはタンデム点変異を提供し、例えば、プロモーターのヌクレオチド配列内の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはさらにより連続したヌクレオチドを変化させる。点変異は、典型的には、1つ以上のヌクレオチドの欠失、挿入、及び/または置換のうちの少なくとも1つである。プロモーター配列は、遠位の末端で、特定的には、全長プロモーター配列の最大50%の量に達する5’領域内で変異させることができ、この5’領域は、プロモーター活性を実質的に喪失することなく高度に変動し得る。プロモーター配列は、主要調節領域内で特異的に変異させることができるが、それでもなお、例示的な主要調節領域、特定的には例示的なコア調節領域に対する配列同一性は高いことが好ましいと考えられ、例えば、少なくとも80%、85%、90%、または95%のいずれか1つであることが好ましいと考えられる。コアまたは主要調節領域のいずれか以外では配列の可変性はより高く、ECPは、例えば、80%未満または85%未満の配列同一性で、依然機能的であり得る。
【0300】
コアまたは主要調節領域内のいかなる変異も、典型的には保存的であり、すなわち、例えば、ある特定の転写因子による認識を維持(またはさらに改善)するように保存的である。
【0301】
具体的には、本明細書に記載のECPは、例えば本明細書に記載のコアまたは主要調節領域を含むハイブリッドヌクレオチド配列と、さらに、1つ以上の領域または代替的な(ネイティブまたは人工の)プロモーター配列、例えば、異なるプロモーター(例えば、任意の構成的または調節可能(または別の方法による誘導可能)プロモーター)の3’領域の翻訳開始部位(具体的には、3’末端を含めて少なくとも10または15の3’末端ヌクレオチド配列を含む3’末端(例えば、最大20、25、または30nt)とを含むことができ、それによってECPプロモーターの翻訳開始部位を置換する。
【0302】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」という用語は、DNAまたはRNAのいずれかを指す。「核酸配列」または「ポリヌクレオチド配列」または単に「ポリヌクレオチド」とは、5’末端→3’末端に読み止まれるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド塩基の1本鎖または2本鎖ポリマーを指す。これには、発現カセット、自己複製プラスミド、DNAまたはRNAの感染性ポリマー、及び非機能的DNAまたはRNAが含まれる。
【0303】
本明細書で使用する場合、「目的タンパク質(POI)」という用語は、宿主細胞内で組換え技術によって産生されるポリペプチドまたはタンパク質を指す。より具体的には、タンパク質は、宿主細胞内に天然に存在しないポリペプチド(すなわち、異種性タンパク質)であってもよく、または宿主細胞にとってネイティブであってもよく、すなわち、宿主細胞にとって相同性のタンパク質であってもよいが、ただし、例えば、POIをコードする核酸配列を含む自己複製ベクターを用いた形質転換によって、またはPOIをコードする核酸配列の1つ以上のコピーの宿主細胞のゲノムへの組換え技術による組み込みによって、またはPOIをコードする遺伝子の発現を制御する1つ以上の調節配列(例えば、プロモーター配列)の組換え修飾によって、産生される。いくつかの場合において、本明細書で使用する場合、POIという用語は、組換え発現したタンパク質によって媒介される宿主細胞による任意の代謝産物も指す。
【0304】
本明細書で使用する場合、「足場」という用語は、抗原結合分子の生成のための開始点として機能する、コンパクトで安定的に折り畳まれたタンパク質の多面的な群(サイズ、構造、及び起源が異なる)を説明するものである。抗体(免疫グロブリン)の構造-機能関係に触発され、このような代替タンパク質足場は、これは所与の(生体)分子標的を厳密かつ特異的に認識するために再形成され得る相互作用部位を支持するロバストで保存的な構造的枠組みを提供する。
【0305】
親ヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較してのバリアント、ホモログ、またはオルソログの「配列同一性」という用語は、2つ以上の配列の同一性の程度を示す。2つ以上のアミノ酸配列は、対応する位置で、ある程度まで、最大で100%、同じまたは保存的なアミノ酸残基を有し得る。2つ以上のヌクレオチド配列は、対応する位置で、ある程度まで、最大で100%、同じまたは保存的な塩基対を有し得る。
【0306】
配列類似性検索は、過剰な(例えば、少なくとも50%の)配列同一性を有するホモログを同定するための有効かつ信頼できる戦略である。頻繁に使用される配列類似性検索ツールは、例えば、BLAST、FASTA、及びHMMERである。
【0307】
配列類似性検索は、過剰な類似性、及び共通の祖先を反映する統計的に有意な類似性を検出することにより、このような相同性のタンパク質または遺伝子を同定することができる。ホモログはオルソログを包含することができ、オルソログは、本明細書では、異なる生物における同じタンパク質(例えば、異なる生物または種におけるこのようなタンパク質のバリアント)として理解される。
【0308】
異なる生物または種における同じタンパク質のオルソログ配列は、典型的には、タンパク質配列に対し、特定的には同じ属から生じるオルソログのタンパク質配列に対し相同性である。典型的には、オルソログは、少なくとも約25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、または95%の同一性、最大100%の配列同一性のいずれか1つを有する。具体的には、オルソログは、FLO8タンパク質またはFLO8タンパク質をコードする遺伝子を、宿主細胞内のオルソロガス配列によって置き換えることで決定することができ、これは内在性FLO8タンパク質をノックアウトするように修飾される。例えば、P.pastoris及びS.cerevisiae内でノックアウトされた遺伝子によってコードされる内在性FLO8タンパク質を置き換える推定FLO8タンパク質が、それぞれP.pastorisまたはS.cerevisiae宿主細胞内で機能的である場合、このような推定FLO8タンパク質は、本明細書に記載の目的におけるFLO8タンパク質ホモログとみなすことができる。
【0309】
配列番号1として同定されたアミノ酸配列を含むまたはそれからなるFLO8タンパク質は、K.phaffii起源のものである。他の真核または原核宿主細胞内に存在する相同配列があることは十分に理解されている。例えば、酵母細胞は、特定的にはPichia pastorisの酵母内に、それぞれの相同配列を含み、これは新規の属Komagataellaに再分類され、3つの種K.pastoris、K.phaffii、及びK.pseudopastorisに分けられている。具体的な相同配列は、例えば、K.pastoris(例えば、配列番号3(例えば、配列番号4を含むまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる))、Saccharomyces cerevisiae(例えば、配列番号5または6)、Yarrowia lipolytica(例えば、配列番号7)、Ogataea polymorpha(例えば、配列番号8)、またはAspergillus niger(例えば、配列番号9)に見出される。
【0310】
本明細書に記載のある特定の配列同一性を有するFLO8タンパク質の任意の相同配列、特定的には、P.pastoris FLO8タンパク質のオルソログである任意のFLO8タンパク質は、本明細書に記載のFLO8タンパク質の定義に含まれる。
【0311】
本明細書に記載のアミノ酸配列、ホモログ、及びオルソログに対する「配列同一性」とは、配列をアラインメントしギャップを導入して、必要な場合は最大パーセント配列同一性を達成した後に、特定のポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義され、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない。当業者は、比較する配列の完全長にわたる最大アラインメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。
【0312】
本明細書に記載の目的において、2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、以下の例示的パラメーターと共にNCBI BLASTプログラムバージョンBLASTP2.8.1を用いて定量される:Program:blastp、Word size:6、Expect value:10、Hitlist size:100、Gapcosts:11.1、Matrix:BLOSUM62、Filter string:F、Compositional adjustment:Conditional composition score matrix adjustment。
【0313】
(例えば、プロモーターまたは遺伝子の)ヌクレオチド配列に対する「同一性パーセント(%)」とは、配列をアラインメントしギャップを導入して、必要な場合は最大パーセント配列同一性を達成した後に、DNA配列内のヌクレオチドと同一である候補配列内のヌクレオチドのパーセンテージとして定義され、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない。ヌクレオチド配列同一性パーセントの定量を目的としたアラインメントは、当業者の技量範囲内の様々な方法で、例えば、公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを用いて、達成することができる。当業者は、比較する配列の完全長にわたる最大アラインメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。
【0314】
POIに対し本明細書で使用する場合、「単離された」または「単離」という用語は、天然に会合する環境、特定的には細胞培養上清から十分に分離され、「精製された」または「実質的に純粋な」形態で存在する化合物を指すものとする。しかし、「単離された」とは、必ずしも、他の化合物または材料との人工的または合成的混合物、または基礎的活性を妨害せず、例えば不完全な精製ゆえに存在し得る不純物の存在を除外することを意味するものではない。単離化合物は、その調製物を生成するためにさらに製剤化することができ、実際的な目的のために引き続き単離することができる。例えば、POIは、診断または治療で使用される場合、医薬的に許容される担体または賦形剤と混合することができる。
【0315】
本明細書で使用する場合、「精製された」という用語は、化合物(例えば、POI)の少なくとも50%(mol/mol)、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または95%を含む調製物を指す。純度は、化合物に適切な方法(例えば、クロマトグラフィー法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析など)によって測定される。本明細書に記載されるような単離され精製されたPOIは、細胞培養上清を精製して不純物を減少させることによって得ることができる。
【0316】
組換えポリペプチドまたはタンパク質産物を得るための単離及び精製方法として、溶解度の差を利用する方法(例えば、塩析、溶媒沈殿)、分子量の差を利用する方法(例えば、限外濾過、ゲル電気泳動)、電荷の差を利用する方法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー)、特異的親和性を利用する方法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)、疎水性の差を利用する方法(例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー)、等電点の差を利用する方法(例えば、等電点電気泳動法)などの方法が使用され得る。
【0317】
以下の標準的な方法が好ましい:精密濾過またはタンジェンシャルフローフィルター(TFF)または遠心分離による細胞(デブリ)の分離及び洗浄、沈殿または熱処理によるPOIの精製、酵素消化によるPOIの活性化、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除(SEC)、またはHPLCクロマトグラフィー)によるPOIの精製、限外濾過ステップによる濃縮及び洗浄のPOI沈殿。
【0318】
高度に精製された産物は、本質的に混入タンパク質を含まず、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらに少なくとも98%、最大100%の純度を有する。精製された産物は、細胞培養上清または細胞デブリからの精製によって得ることができる。
【0319】
単離及び精製されたPOIは、ウェスタンブロット、HPLC、活性アッセイ、またはELISAなどの従来的な方法によって同定することができる。
【0320】
本明細書で使用する場合、「組換え」という用語は、遺伝子工学によって調製されているか、または遺伝子工学の結果であることを意味するものとする。組換え宿主は、1つ以上のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列を欠失及び/または不活性化するように操作され得、(特定的には、宿主にとって異質なヌクレオチド配列を用いる)組換え核酸配列を含む発現ベクターまたはクローニングベクターを特異的に含み得る。組換えタンパク質は、それぞれの組換え核酸を宿主内で発現させることによって産生される。本明細書で使用する場合、POIに対する「組換え」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作成、または単離されるPOI(例えば、POIを発現するように形質転換された宿主細胞から単離されるPOI)を含む。本発明に従って、当業者の技量範囲内の従来的な分子生物学、微生物学、及び組換えDNA技法を用いることができる。このような技法は、文献で十分に説明されている。例えば、Maniatis,Fritsch & Sambrook,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor,(1982)を参照。
【0321】
ある特定の組換え宿主細胞は、遺伝子工学を用いて、すなわちヒトの介入によって操作された宿主細胞として理解される「操作された」宿主細胞である。宿主細胞が、所与の遺伝子またはそれぞれのタンパク質の発現を低下させるかまたは過小発現するように操作される場合、宿主細胞は、操作前の同じ条件下の宿主細胞と比較して、または当該遺伝子またはタンパク質が過小発現するように操作されていない宿主細胞と比較して、このような遺伝子及びタンパク質をそれぞれ発現する能力をもはや持たないように操作される。
【0322】
具体的な例によれば、驚くべきことに、宿主細胞内での遺伝子発現をコードするFLO8の減少、特定的にはこのような遺伝子の欠失は、非メタノール制御誘導可能プロモーター(ECP)によって制御される遺伝子の発現レベルに正の影響を及ぼし、よって、炭素源プロモーター調節を喪失することなくより高い発現レベルを可能にすることが見出された。そのため、FLO8タンパク質をコードするそれぞれの内在性遺伝子(FLO8遺伝子)の欠失のありまたはなしで細胞を生成し、ECPの制御下での遺伝子の強度及び調節を試験した。細胞内または分泌モデルタンパク質のいずれかであるいくつかの例示的なPOIについては、それぞれのflo8遺伝子の欠失を伴った細胞内で発現が増加したことが示されており、これは転写物レベルの増加に起因していた。この発現増加は,小規模スクリーニング培養及びバイオリアクター内での制御された産生プロセスの両方で示すことができた。したがって、メタノールを含まない培地(例えば、Pichiaなどの酵母の場合)において、過去に存在した発現系と比較してはるかに高い産物形成を可能にする新規の発現系が開発された。
【0323】
具体的な例によれば、(メタノール以外の炭素源によって調節される)非メタノール炭素源調節プロモーターpG1、pG3、pG4、pG6の発現強度に及ぼすFLO8破壊の効果を、構成的プロモーターpGAPまたはメタノール誘導プロモーターpAOX1と比較した。全ての非メタノール炭素源調節プロモーターの転写が、dFLO8株において統計的に有意に高いことが見出された。これは驚くべきことであり、このようなプロモーターの制御下で発現が増加したことを示すものである。これに対し、メタノール誘導可能pAOX1は、dFLO8変異体において野生型と比較して有意な転写強度の増加を示さず、pGAPの転写強度にも有意な影響を及ぼさなかった。したがって、pGAPまたはpAOX1プロモーター活性はFLO8の過小発現による影響を受けないことが結論付けられる。
【0324】
驚くべきことに、細胞培養物中での目的タンパク質を産生するための目的異種遺伝子の発現は、標準的なpGAPプロモーターと比較してメタノールによって誘導可能でない炭素源抑制可能プロモーターを使用した場合、FLO8のノックアウトまたは破壊を行うと有効に増加することが見出された。例えば、dFLO8株においてプロモーターpG1、pG1-3、pG3、pG4、pG6、pG7、及びpG8の各々についてのeGFP蛍光の増加が見出され、これは、野生型宿主細胞(FLO8破壊なし)における発現と比較して1.2~3.9倍の範囲の増加であった。
【0325】
以下の項目が、本明細書に記載される実施形態である。
1.配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする内在性遺伝子を含む組換え宿主細胞であって、当該宿主細胞が、1つ以上の遺伝子修飾によって、当該1つ以上の遺伝子修飾を行う前の当該宿主細胞と比較して当該遺伝子の発現を低下させるように操作され、当該宿主細胞が、発現カセットプロモーター(ECP)の制御下で、目的遺伝子(GOI)を含む異種性発現カセットを含み、当該ECPが非メタノール炭素源によって調節可能である、組換え宿主細胞。
2.当該ホモログが配列番号1に対し少なくとも25%の配列同一性を有する、項目1の宿主細胞。
3.当該1つ以上の遺伝子修飾が、(i)1つ以上の内在性ポリヌクレオチドもしくはその一部または(ii)発現制御配列の、破壊、置換、欠失、またはノックアウトを含む、項目1~2のいずれか1つに記載の宿主細胞。
4.当該内在性ポリヌクレオチドが、当該FLO8タンパク質または当該ホモログをコードする遺伝子である、項目3に記載の宿主細胞。
5.当該発現制御配列が、プロモーター、リボソーム結合部位、転写もしくは翻訳の開始及び停止配列、またはエンハンサーもしくはアクチベーター配列のいずれか1つを含む、項目4に記載の宿主細胞。
6.当該ECPが、成長制限量の非メタノール炭素源の存在下で、好ましくはメタノールの非存在下で誘導可能であり、当該成長制限量よりも高い過剰量の非メタノール炭素源の存在下で抑制可能である、項目1~4のいずれか1つに記載の宿主細胞。
7.当該非メタノール炭素源の成長制限量が最大1g/L細胞培養基である、項目6に記載の宿主細胞。
8.当該ECPが、少なくとも1つの第1のコア調節領域及び少なくとも1つの第2のコア調節領域を含み、当該第1のコア調節領域が配列番号17に対し少なくとも75%の配列同一性を有し、当該第2のコア調節領域が配列番号18に対し少なくとも75%の配列同一性を有する、項目1~7のいずれか1つに記載の宿主細胞。
9.当該ECPが、配列番号35に対し少なくとも85%の配列同一性を有する少なくとも1つの調節領域を含む、項目1~8のいずれか1つに記載の宿主細胞。
10.当該ECPが、少なくとも2つの当該第1及び/または第2コア調節領域を含む、項目8または9に記載の宿主細胞。
11.当該ECPが、配列番号19~34のいずれか1つからなる少なくとも1つのTモチーフを含み、任意選択で、当該Tモチーフの5’または3’末端のいずれかにおける1つ以上のチミンによる当該Tモチーフの伸長を伴わない、項目1~10のいずれか1つに記載の宿主細胞。
12.当該ECPが、少なくとも2つの当該Tモチーフを含む、項目11に記載の宿主細胞。
13.当該ECPが、配列番号10~16のいずれか1つまたは配列番号41~45のいずれか1つの配列の少なくとも300ntに対し少なくとも60%の配列同一性を含む、項目1~7のいずれか1つに記載の宿主細胞。
14.当該ECPが、全長配列配列番号10~16のいずれか1つまたは配列番号41~45のいずれか1つに対し少なくとも60%の配列同一性を含む、項目13に記載の宿主細胞。
15.当該ECPが、配列番号10または配列番号11を含むまたはそれからなる、項目13または14に記載の宿主細胞。
16.当該発現カセットが、自律複製ベクターもしくはプラスミドまたは当該宿主細胞の染色体内に含まれる、項目1~15のいずれか1つに記載の宿主細胞。
17.当該発現カセットが、当該GOIによってコードされる目的タンパク質(POI)の分泌を可能にするシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、好ましくは、当該シグナルペプチドをコードする当該ヌクレオチド配列が、当該GOIの5’末端に隣接して融合している、項目1~16のいずれか1つに記載の宿主細胞。
18.当該GOIが、抗原結合タンパク質、治療タンパク質、酵素、ペプチド、タンパク質抗生物質、毒素融合タンパク質、炭水化物-タンパク質結合体、構造タンパク質、調節タンパク質、ワクチン抗原、成長因子、ホルモン、サイトカイン、プロセス酵素、及び代謝酵素からなる群より選択されるペプチドまたはタンパク質である目的タンパク質(POI)をコードする、項目1~17のいずれか1つに記載の宿主細胞。
19.当該抗原結合タンパク質が、以下からなる群より選択される、項目1~18のいずれか1つに記載の宿主細胞:
a)抗体または抗体断片、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、Fab、Fd、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、Fv四量体、ミニボディ、VH、VHH、IGnaRS、もしくはV-NARのような単一ドメイン抗体のいずれか
b)抗体ミメティック、例えば、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、もしくはNanoCLAMP、または
c)1つ以上の免疫グロブリン折畳みドメイン、抗体ドメイン、もしくは抗体ミメティックを含む融合タンパク質。
20.項目1~19のいずれか1項に記載の宿主細胞であって、
a)Pichia、Hansenula、Komagataella、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Ogataea、Yarrowia、及びGeotrichumからなる群より選択される属の酵母細胞、例えば、Pichia pastoris、Komagataella phaffii、Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris、Saccharomyces cerevisiae、Ogataea minuta、Kluyveromces lactis、Kluyveromes marxianus、Yarrowia lipolytica、もしくはHansenula polymorpha、または
b)糸状菌、例えば、Aspergillus awamoriもしくはrichoderma reeseiの細胞
である、宿主細胞。
21.非メタノール炭素源によって調節可能または抑制可能なプロモーターの制御下で、目的タンパク質(POI)をコードする目的遺伝子(GOI)を発現する宿主細胞によって産生される当該POIの収率を増加させる方法であって、配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、当該POIの収率を増加させる方法。
22.目的遺伝子(GOI)によってコードされる目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、当該GOIを産生する条件下で項目1~20のいずれか1つに記載の宿主細胞を培養することにより、当該POIを産生する方法。
23.項目21または22に記載の方法であって、以下のステップ:
a)成長条件下で宿主細胞を培養することと、さらに
b)最大1g/Lの第2の非メタノール炭素源の存在下、成長制限条件下で宿主細胞を培養し、その結果当該GOIが発現して当該POIが産生されることと
を含む、方法。
24.当該第1または第2の炭素源が、糖類、ポリオール、アルコール、または前述のいずれか1つ以上の混合物から選択される、項目23に記載の方法。
25.当該ステップa)の培養がバッチフェーズで実施され、当該ステップb)の培養が流加バッチまたは連続培養フェーズで実施される、項目23または24に記載の方法。
26.宿主細胞内で目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、以下のステップ:
a)配列番号1として同定されるアミノ酸配列を含むFLO8タンパク質またはそのホモログをコードする内在性遺伝子の発現を低下させるように宿主細胞を遺伝子操作することと、
b)当該POIをコードする目的遺伝子(GOI)に作用可能に結合した非メタノール性炭素源調節可能プロモーター(特定的には、本明細書に記載のECP)を含む異種発現カセットを宿主細胞に導入することと、
c)当該POIを産生する条件下で当該宿主細胞を培養することと、
d)任意選択で、当該細胞培養物から当該POIを単離することと、
e)任意選択で、当該POIを精製することと
を含む、方法。
【0326】
上記の説明は、以下の実施例を参照すればより十分に理解されるであろう。ただし、このような実施例は、本発明の1つ以上の実施形態を実施する方法を単に代表するものであり、発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0327】
以下の実施例は、転写調節因子FLO8の破壊がpG1、pG3、pG4、pG6、及びpG8などの炭素調節プロモーターならびにこれらの操作バリアントの転写活性を高め、炭素制限培養条件下での組換えタンパク質の生産性の増加を可能にすることを示すものである。
【0328】
実施例1:P.pastoris dFLO8株の構築
P.pastoris野生型株CBS7435またはCBS2612(CBS-KNAW Fungal Biodiversity Centre,Centraalbureau voor Schimmelcultures,Utrecht,The Netherlands)を宿主株として用いた。
【0329】
dFLO8変異体株を生成するため、P.pastorisに適合させ(Gasser et al.,2013)WO2015158800A1に記載のように、スプリットマーカーカセット法によって遺伝子PP7435_Chr4-0252(FLO8)を破壊した。簡潔に説明すると、ORFの翻訳開始の約200bp上流及び下流に位置する2つの1.5kb領域を、それぞれプライマーA_fw及びA_bw、D_fw及びD_bwを用いて増幅した(表1)。得られた断片A及びBを使用して、融合PCRにより、KanMXマーカーカセット(プライマーB_fw、B_bw、C_fw、及びC_bw)の2つの約1kbの長さと重複部分(435bps)とを、抵抗性マーカーカセットのそれぞれのB及びC部分の5’及び3’末端に対し相同であるプライマーA_bw及びD_fw上のオーバーハングを用いてフランキングした。2つの融合断片AB及びCDを、(Gasser et al.,2013)に記載のように、同時にエレクトロコンピテントP.pastoris細胞に形質転換した。組込みに成功するには3つの異なる組換え事象が必要であり、結果的にPP7435_Chr4-0252及びそのプロモーターの5’末端の0.4kb断片をKanMXカセットによって置換した。
【0330】
陽性形質転換体の選択は、500μgmL
-1のGeneticinを含む選択的YPD寒天プレート(1リットル当たり:10g酵母抽出物、20gペプトン、20gグルコース、20g寒天)上で行った。妥当な欠失変異体を、スプリットマーカーカセットの外側に位置するプライマー(Det_fw及びDet_bw、表1)を用いたPCRと、ゲル電気泳動とによって確認した。
【表2】
【0331】
実施例2:FLO8破壊がpG1及びpG1-3駆動型細胞内eGFP生産性に及ぼす影響
a)P.pastoris dFLO8株の構築
P.pastoris CBS2612_pG1_eGFP #8(WO2013050551A1に記載)及びCBS2612_pG1-3_eGFP #1(WO2017021541A1及びPrielhofer et al.2018においてCBS2612_pGTH1-D1240として記載)を宿主株として使用した。これらの株は、Zeocin耐性カセットの単一コピーを、グルコース調節プロモーターpG1(配列番号12)またはその操作バリアント(pG1-3、配列番号10)、GOI、及びS.cerevisiae CYC1転写ターミネーターからなるeGFP発現カセットと一緒に組み込んだことが示されている。対応するdFLO8変異体株を実施例1に記載のように構築した。
【0332】
b)eGFP生産性のスクリーニング
発現スクリーニングのために、dFLO8株の単一コロニーならびにそのそれぞれの親株及び非産生野生型株を、25μgmL-1 Zeocin及び500μgmL-1 Geneticin(適切な場合)を含む2mLの液体YP培地(1リットル当たり:20gペプトン、10g酵母抽出物)に接種した。プレ培養物を24-DWP中25℃及び280rpmで約24時間成長させ、続いて50gL-1多糖及び1.5%グルコース放出酵素(グルコース放出率約0.8mgmL-1 h-1を可能にする;m2p培地開発キット)を含む2mLの合成スクリーニング培地ASMv6(培地組成を以下に示す)を5の開始OD600(誘導条件)に接種するために使用した。抑制条件として、2%グリセロールを含むASMv6を使用した。次いで、メイン培養物をさらに48時間にわたり、25℃及び280rpmでインキュベートした。eGFP発現を測定するために、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で0.1のOD600まで希釈し、Stadlmayr et al.2010に記載のようにフローサイトメトリーによって解析した。各試料について、15000個の細胞を解析した。P.pastoris野生型細胞を用いてP.pastorisの自己蛍光を測定し、シグナルから差し引いた。正規化されたeGFP発現レベル(細胞サイズに関連する蛍光強度)をpGAP制御発現のパーセンテージとして示す(表2)。
【0333】
1L当たりに含まれる合成スクリーニング培地ASMv6:22.0gクエン酸一水和物、6.30g(NH4)2HPO4、0.49g MgSO4*7H2O、2.64g KCl、0.0535g CaCl2*2H2O、1.470mL PTM0微量塩ストック溶液、0.4mgビオチン;pHはKOH(固体)で6.5に設定した。
【0334】
1リットル当たりに含まれるPTM0微量塩ストック溶液:
6.0g CuSO4*5H2O、0.08g NaI、3.36g MnSO4*H2O、0.2 g Na2MoO4*2H2O、0.02g H3BO3、0.82g CoCl2*6H2O、20.0g ZnCl2、65.0g FeSO4*7H2O、及び5.0mlH2SO4(95%~98%)。
【0335】
表2:dFLO8がpG1またはpG1-3の制御下でeGFPの発現に及ぼす影響。2%グリセロール(抑制)または制限グルコース(誘導)中で48時間培養した後のpGAPに対するeGFP発現レベルと、野生型におけるpG1またはpG1-3と比較した誘導条件下でのdFLO8株におけるeGFP蛍光の増加とを示す。
【表3】
*実施例2に記載の方法によって産生。
【0336】
FLO8の欠失は、pG1駆動発現に正の影響を及ぼし、誘導(グルコース制限)条件においてほぼ4倍高いeGFPレベルをもたらした(表2)。よって、FLO8を破壊する効果を、それ自体がより高い内在性発現を有するプロモーターバリアントpG1-3についても調べた。正の影響はプロモーターバリアントについても示され、この場合も、野生型バックグラウンドにおける同じプロモーターからの発現と比較して、dFLO8株において2.5~3倍高いeGFPレベルを可能にした(表2)。
【0337】
実施例3:FLO8破壊が分泌組換えタンパク質のPG1-3駆動型生産性に及ぼす効果
次に、dFLO8変異が分泌モデルタンパク質のpG1-3駆動型発現に及ぼす影響を評価した。この目的において、vHHまたはscRの発現カセットを、CBS2612及びCBS2612_dFLO8に形質転換した。
【0338】
a)P.pastoris dFLO8株の構築及び選択マーカー再利用
【0339】
P.pastoris野生型株CBS2612(CBS-KNAW Fungal Biodiversity Centre,Centraalbureau voor Schimmelcultures,Utrecht,The Netherlands)を宿主株として用いた。
【0340】
CBS2612_KanR_dFLO8 #2を、実施例1に記載のように構築した。Cre-loxP組換えに基づいてゲノムからKanMX選択マーカーカセットを切除するために、CBS2612_KanR_dFLO8 #2を、Gasser et al.2013に記載のように、エレクトロポレーションによって、プラスミドpTAC_Cre_hphMX4で一時的に形質転換した。pTAC_Cre_hphMX4は、プラスミドpYX022(R&D Systems)の派生物であり、E.coliの複製起点、Cre-リコンビナーゼ遺伝子の発現カセット、ハイグロマイシン耐性カセット、及びARS/CENエレメントからなる。この構築のために、pTAC_Cre_kanMX(Marx et al.,2008)をEcoR91Iで消化して、カナマイシン耐性カセットを除去した。プラスミドpGA26_hphMX4を同じ酵素で消化してハイグロマイシン耐性カセットを切除し、適切な断片をライゲーションによって融合した。
【0341】
陽性形質転換体の選択は、100μgmL-1ハイグロマイシンを含むYPD寒天上で行った。続いてハイグロマイシン耐性クローンを、YPD寒天(pKTAC-CRE_hygRの喪失を促進するためにハイグロマイシンを含まない)及び500μgmL-1のGeneticinを含むYPD寒天上に並行的に再ストリークした。Geneticinに対する耐性を喪失した株は、さらに、PCRならびにプライマーDet_bw及びDet_fw(表1)を用いたゲル電気泳動によってチェックして、ゲノムからのKanMX耐性カセットの切除を確認した。対応する株から、CBS2612_L_dFLO8 #2_4をさらなる使用に選択した。
【0342】
b)PG1-3の転写制御下で抗体断片scFv(SCr)及びvHHを分泌するP.pastoris株の構築
発現プラスミドpPM2d_PaOX_SCr及びpPM2d_PaOX_vHHは、pPUZZLEプラスミド骨格の派生物である(Stadlmayr et al.2010)。これらは、E.coli(pUC19)の複製起点、Zeocin耐性カセット、S.cerevisiaeアルファ-接合因子プレプロリーダー、目的遺伝子(vHHまたはscR)、及びS.cerevisiae CYC1転写ターミネーター、ならびにP.pastorisゲノムへの組込みのための座位(3’AOX1領域)からなる。これらの構築のために、scFv(scR)及びvHHをコードする遺伝子をDNA2.0によってコドン最適化し、合成DNAとして得た(配列を以下に記載する)。His6-タグを検出のために遺伝子のC末端に融合させた。XhoI及びBamHI(scRについて)またはEcoRV(vHHについて)で制限消化した後、各遺伝子を、XhoI及びBamHIまたはEcoRVで消化したpPM2d_PaOXにライゲーションした。PAOX1のPG1-3による置換は、これらのプラスミドならびに発現プラスミドpPM1aZ10_pG1-3_eGFP(WO2017021541A1に記載のpPUZZLE誘導体でもある)のAlwNI及びSbfIによる制限消化及び適切なプラスミド断片の融合によって行われた。pPM1aZ10_pG1-3_eGFP由来の断片は、この座位への標的化組込みを可能にするAOXターミネーターの配列も含んだ。
【0343】
得られた発現プラスミドpPM1aZ30_pG1-3_scR及びpPM1aZ30_pG1-3_vHHをAscIで線状化し、Gasser et al.2013に記載のような標準的なプロトコルを用いたエレクトロポレーションにより、CBS2612(略称wt)、CBS2612_KanR_dFLO8# 2(略称dFLO8)、またはCBS2612_L_dFLO8 #2_4(略称dFLO8L)に形質転換した。
【0344】
陽性形質転換体の選択は、50μg/mL-1のZeocin及び500μg/mL-1のGeneticin(適切な場合)を含む選択的YPD寒天上で行った。
【0345】
c)抗体断片生産性のスクリーニング
発現スクリーニングのために、それぞれの形質転換体の単一コロニーを、25μgmL-1 Zeocin及び500μgmL-1のGeneticin(適切な場合)を含む2mL液体YP培地(1リットル当たり20gペプトン、10g酵母エキス)に接種し、280rpmの24-DWP中、25℃で約24時間成長させた。これらの培養物を使用して、50gL-1多糖及び1.5%グルコース放出酵素(グルコース放出率約0.8mgh-1mL-1を可能にする;m2p培地開発キット)を含む2mLの合成スクリーニング培地ASMv6(組成については実施例2を参照)を8の開始OD600に接種するために使用した。培養条件はプレ培養条件と類似していた。48時間後、1mLの細胞浮遊液を予め秤量した1.5mL遠心分離チューブに移し、室温で5分間16100gで遠心分離した。上清を慎重に新しいバイアルに移し、さらに使用するまで-20℃で保存した。ペレットを含む遠心分離チューブを再び秤量して、湿細胞重量(WCW)を定量した。上清中の組換え分泌タンパク質の定量化は、以下に記載のように、マイクロ流体キャピラリー電気泳動によって行った。
【0346】
d)マイクロ流体キャピラリー電気泳動(MCe)による定量化
培養上清中の分泌タンパク質力価の定量分析には、「LabChip GX/GXII System」(PerkinElmer)を使用した。消耗品「Protein Express Lab Chip」(760499、PerkinElmer)及び「Protein Express Reagent Kit」(CLS960008、PerkinElmer)を使用した。チップ及び試料調製は、製造業者の推奨に従って行った。この手順の簡単な説明を以下に示す。
【0347】
チップの準備:試薬が室温になった後、520及び280μLのProtein Expressゲルマトリックスをスピンフィルターに移した。20μLのProtein Express色素溶液を、520μLゲルマトリックスを含むスピンフィルターに添加した。色素を含むスピンフィルターを逆方向に短時間ボルテックスした後、両方のスピンフィルターを9300gで10分間遠心分離した。チップを洗浄するため、120μL Milli-Q(登録商標)水を全ての活性チップウェルに添加し、チップを機器洗浄プログラムに供した。さらにMilli-Q(登録商標)水でさらに2回すすぐステップの後、残りの流体を完全に吸引し、適量の濾過したゲルマトリックス溶液及びProtein Express Lower Marker溶液を適切なチップウェルに加えた。
【0348】
試料及びラダーの調製:試料調製のために、6μLの試料を96マイクロタイタープレート中の21μLの試料バッファーと混合した。試料を100℃で5分間変性させ、1200gで2分間遠心分離した。続いて、105μLのMilli-Q(登録商標)水を加えた。試料溶液をピペッティングによって短時間混合し、測定前に1200gで2分間再度遠心分離した。ラダーを調製するため、PCRチューブ内で12μLのProtein Expressラダーを100℃で5分間変性させた。続いて、120μLのMilli-Q(登録商標)水を添加し、ラダー溶液を短時間ボルテックスした後、ミニ遠心分離機中でチューブを15秒間スピンさせた。
【0349】
定量化は、製造業者が提供するLabChipソフトウェアを使用し、BSA標準と比較することによって行った。
【0350】
表3は、平均scR力価が、dFLO8株の上清では野生型と比較して1.8倍高く、一方、バイオマス濃度は差がなく、dFLO8株の上清で1.86倍高いscR収率がもたらされることを示している。vHH発現株の場合にも、dFLO8変異による平均力価及びvHH収率の増加(1.7倍)が同様に観察された(表4)。
【0351】
表3:pPM1aZ30_pG1-3_scRで形質転換されたCBS2612及びCB2612_L_dFLO8 #2_4の24-DWPスクリーニングの平均WCW、産物力価、及び収率。コンストラクト当たり20クローンをスクリーニングした。
【表4】
【0352】
表4:pPM1aZ30_pG1-3_vHHで形質転換されたCBS2612及びCB2612_KanR_dFLO8 #2の24-DWPスクリーニングの平均WCW、産物力価、及び収率。コンストラクト当たり20クローンをスクリーニングした。
【表5】
【0353】
次に、実施例1に記載のようなスプリットマーカーカセットアプローチを用いることにより、上記のスクリーニングから選択された4つの異なるvHH発現クローン(CBS2612_pG1-3_vHH#4、#5、#13、及び#15)においてFLO8を破壊した。続いて、dFLO8変異体クローン及び対応するFLO8親クローンを、24-DWPスクリーニングレジームを適用して、これらの生産性についてスクリーニングした。表5は、vHH力価及び産物収率が、dFLO8クローンにおいて2~3倍高かったことを示している。産生レベルの増加がより高い転写発現に基づくことを確認するため、vHH転写物レベルを異なる時点でqPCRにより定量化した。平均して2倍高いvHH発現レベルがdFLO8クローンで観察され、これは、vHH力価の改善が実際に、より高い転写活性ofpG1-3に基づくことを示す(実施例4を参照)。
【0354】
表5:4つの異なるvHH発現株及びこれらの対応するdFLO8株の平均WCW及び力価。各親株の4つの複製物及び6つの対応するdFLO8株をスクリーニングした。(FC:倍数変化)
【表6】
【0355】
実施例4:FLO8破壊がpG1-3制御vHH-転写に及ぼす影響
FLO8の破壊がpG1-3の制御下で遺伝子の転写活性を増加させるかを試験するため、CBS2612_pG1-3_vHH #4及び#13ならびに対応するdFLO8変異体株CBS2612_pG1-3_vHH #4_dFLO8_1及び#13_dFLO8_2の6つの技術的複製物(表5;実施例3)を、実施例3に記載のような24-DWPフォーマットで培養した。2、19、及び26時間後、2つの複製物から1mLの培養物を収集し、16100g及び4℃で1分間遠心分離し、上清を廃棄した。続いて、細胞ペレットを1mLのTRI試薬(Sigma-Aldrich)に再懸濁し、さらなる処理まで-80℃で保存した。
【0356】
RNA単離を実施例6に記載のように行った。残留DNAを除去するため、RNAサンプルを、製造業者のマニュアルに従ってDNA-free(商標)-kit(Ambion)で処理した。続いて、NanoDrop 2000(Thermo Scientific)を用いて、ゲル電気泳動及び分光光度分析によって、RNAの品質、純度、及び濃度を解析した。
【0357】
cDNAの合成は、製造業者のマニュアルに従ってBiozym cDNA Synthesis Kitを用いて行った。簡潔に説明すると、500ngの総RNAを、逆転写酵素、dNTP、RNase阻害剤、及び合成緩衝液を含むマスター混合物に添加した。プライミングにはオリゴd(T)23 VN(NEB)を使用した。反応混合物のインキュベートを55℃で60分間行った。続いて、酵素の不活性化は、反応混合物を99℃で5分間インキュベートすることによって達成した。
【0358】
定量的リアルタイムPCR(qPCR)用にvHH特異的プライマーを使用した(表6)。正規化は、ACT1発現レベルと比較することによって行った(表6)。1μLのcDNAを解析するため、水及びプライマーをSensiMix SYBR 2xマスターミックス(Bioline)と混合し、リアルタイムPCRサイクラー(Rotor-Gene、Qiagen)で解析した。
【表7】
【0359】
全ての試料を技術的3連で測定した。比較定量(QC)法を用いて、Rotor-Geneソフトウェアでデータ解析を行った。
【0360】
表7は、dFLO8株において、解析した全ての培養時点にわたって平均vHH-転写物レベルが増加したことを示している。
【表8】
【0361】
実施例5:FLO8破壊がラボスケールバイオリアクター流加バッチ培養におけるpG1-3-駆動型分泌抗体断片の生産性に及ぼす影響
流加バッチ培養を行う前に、Geneticin耐性マーカーカセットを、CBS2612_pG1-3_vHH #4_dFLO8_4株(略称dFLO8_pG1-3_vHH #4_4)のゲノムから、実施例3に記載したように、Cre媒介組換えによって切除した(表5、実施例3)。得られた株CBS2612_pG1-3_vHH #4_dFLO8_4 #L1(略称L_dFLO8_pG1-3_vHH #4_4_1)の3つの複製物の生産性を、実施例3に記載の24-DPWスクリーニングフォーマットにおけるその親株の3つの複製物の産物レベルと比較した(表8)。CBS2612_pG1-3_vHH #4_dFLO8_4 #L1の平均生産性は親株と同程度であった(p値0.096)。
【0362】
【0363】
CBS2612_pG1-3_vHH #4株及び対応するloxed dFLO8変異体CBS2612_L_dFLO8_pG1-3_vHH #4_4_1株を用いて、1Lベンチトップバイオリアクター(SR0700ODLS;Dasgip,Germany)で流加バッチ培養を行った。プレ培養のために、1L振とうフラスコ中に50μgmL Zeocinを含む100mLのYPG培地に1.0mLの凍結ストックを接種し、180rpm及び25℃で約24時間インキュベートした。バッチ培養物を0.25Lの作業体積で運用し、1.5の出発OD600に接種した。グリセロールバッチ媒体の組成を以下に示す。全プロセス中、温度を30℃に制御し、DOは、撹拌機速度(400から1200rpmの間)及び空気流(9.5から30sLh-1の間)の自動調整によって30%に維持し、pHは、12.5% NH4OHの自動添加によって5.0に調節した。バッチ終了を示すDOの突然のスパイクの後、PG1-3に基づくqPに対し特異的に最適化された、速い初期成長率とそれに続く徐々に減少するμの延長相をもたらす線形増分グルコース供給(培地組成を以下に詳述する)をμ動態に適用した(Prielhofer et al.,2018)。
【0364】
1リットル当たりに含まれるグリセロールバッチ媒体:
2gクエン酸一水和物(C6H8O7*H2O)、45gグリセロール、12.6g(NH4)2HPO4、0.5g MgSO4*7H2O、0.9g KCl、0.022g CaCl2*2H2O、6.6mLビオチンストック溶液(0.2gL-1)、及び4.6mL PTM0微量塩ストック溶液(実施例2に記載)。HCl(濃)を加えてpHを5に設定した。
【0365】
1リットル当たりに含まれるグルコースフィード培地:
495gグルコース一水和物、5.2g MgSO4*7H2O、8.4g KCl、0.28g MgSO4*7H2O、11.8mLビオチンストック溶液(0.2gL-1)、及び10.1mL PTM0微量塩ストック溶液(実施例2に記載)。
【0366】
YDM及び分泌組換えタンパク質を、プロセス全体における様々な時点で解析した(表9)。YDM解析のために、1mLの培養ブロスを、2mLの(105℃で少なくとも24時間)予め乾燥し予め秤量した遠心分離チューブに移した。16100gで5分間遠心分離した後、上清を慎重に新しいバイアルに移し、さらに使用するまで-20℃で保存した。細胞ペレットを脱イオン水で2回洗浄し、105℃で少なくとも24時間乾燥した後、再び重量を測定した。
【0367】
実施例3に記載のように、上清をマイクロ流体キャピラリー電気泳動(GXII、Perkin-Elmer)によって解析した。
【表10】
*グルコース供給開始
【0368】
表9から、プロセス全体を通じて、dFLO8株の生成物力価がwt-バックグラウンド株よりも一貫して高かったことが分かる。プロセスの最後に、生産性の5.7倍の増加が観察された。また、流加バッチ培養では、dFLO8株においてvHH転写物レベルの増加が全時間的に観察された。
【0369】
実施例6:FLO8破壊が非メタノール炭素調節プロモーターの発現強度及び調節挙動に及ぼす影響
次のステップでは、誘導条件においてFLO8の破壊が他の炭素調節プロモーター(WO2013050551A1及びPrielhofer et al.2013に記載)の転写強度に及ぼす影響について調べた。グルコース制限条件下のトランスクリプトーム解析のために、CBS7435野生型及びCBS7436_KanR_dFLO8 #2を使用した。プレ培養物及びメイン培養物を24ディープウェルプレート(24-DWP)で培養した。最初のプレ培養では、500μgmL-1のGeneticin(適切な場合)を含む2mLのYPD(1リットル当たり:10g酵母抽出物、20gペプトン、20gグルコース)に、それぞれCBS7435及びCBS7435_KanR_dFLO8 #2の単一コロニーを接種し、25℃及び280rpmで約24時間成長させた。第2のプレ培養には、4の出発OD600に接種した2mLのM2(D)培地(以下に記載する組成物)を使用した。ディスク当たり1.63t0.74mg(t=時間[h])の非線形速度でグルコースを放出するグルコース放出ポリマービーズ(12mm供給ビーズ、Kuhner,CH)を添加し、培養物を約24時間、25℃及び280rpmでインキュベートした。メイン培養物には2mLのM2培地(グルコースを含まないM2(D))を使用した。培養物を280rpm及び25℃で振とうした。グルコースのゆっくりとした放出は、グルコース制限成長を確実にした。試料をメイン培養から3時間後に採取し(推定比成長率:0.1h-1)、予め冷却した固定液(5%[vol/vol]フェノール/エタノール[絶対値])と直ちに2:1の割合で混合し、密封した試験管に分注し、16100gで1分間遠心分離した。ペレットは、さらに使用するまで-80℃で保存した。
【0370】
1L当たりに含まれるM2(D):22.0gグルコース一水和物、22.0gクエン酸一水和物、3.15g(NH4)2HPO4、0.49g MgSO4*7H2O、0.80g KCl、0.0268g CaCl2*2H2O、1.47mL PTM0微量塩ストック溶液、0.4mgビオチン;pHはKOH(固体)で5に設定した。
【0371】
RNA単離のために、1mLのTRI試薬(Sigma-Aldrich)及び500μLの酸で洗浄したガラスビーズを加え、細胞をFastPrep-24(mpbio)中で5.5m/sの速度で40秒間破壊した。その後、200μLのクロロホルムを加えた。続いて、試料を激しく振とうし、次いで室温で5~10分間静置した。相分離を促進するために16100g及び4℃で10分間遠心分離した後、RNAを含む無色の上層水相を新しい試験管に移し、500μLのイソプロパノールを加えてRNAを沈殿させた。10分間のインキュベート後、試料を16100g及び4℃で10分間遠心分離し、上清を廃棄した。RNAペレットを70%エタノールで1回洗浄し、風乾し、RNaseフリー水中に再懸濁した。
【0372】
トランスクリプトーム解析のために、インハウス設計のP.pastoris特異的オリゴヌクレオチドアレイ(AMAD-ID034821、8×15Kカスタムアレイ;Agilent,USA)を使用した(Graf et al.;BMC Genomics.2008;9:390.)。cRNAの合成、ハイブリダイゼーション、及びスキャニングは、Agilentプロトコルに従って、2色発現アレイについて行った。試料をCy3及びCy5で3連で標識し、様々な培養条件下で成長させた細胞から生じた参照プールに対してハイブリダイズした。全てのサンプルについて、色素スワップ実験を行った。
【0373】
マイクロアレイデータの正規化ステップ及び統計的解析には、局所重み付けMA-スキャッタープロット平滑化(LOESS)を用いてカラーバイアスを除去し、続いて「Aquantile」法を用いてアレイ間正規化を行うことが含まれた。差次的に発現する遺伝子を同定しp値を計算するために、eBayes補正による線形モデル適合を使用した。Benjamini & Yekutieli,2001による偽検出法(FDR)を用いた多重検定のためにP値を調整した。調整済みp値<0.05の遺伝子は、統計的に有意な差次的発現を有すると考えられる。差次的発現遺伝子を同定するために、さらに、少なくとも0.58>log2FC<-0.58の倍数変化カットオフを適用した。
【0374】
全てのステップは、Rソフトウェア(Robinson MD,McCarthy DJ,Smyth GK.edgeR:a Bioconductor package for differential expression analysis of digital gene expression data.2010.Bioinformatics.26:139-40.)及びlimmaパッケージを用いて行った。炭素調節遺伝子(炭素源調節プロモーターの制御下にある遺伝子)の選択に対する倍数変化を表10に示す。ネイティブFLO8遺伝子の発現は、野生型と比較して、dFLO8変異体において明らかにかつ有意に減少している。全ての炭素源調節遺伝子について、dFLO8変異体の転写物レベルの増加が見られ、誘導条件下での転写強度は3.7~11.4倍に達した。これらの遺伝子は全て、dFLO8変異体株において統計的に有意に高い転写(調整済みp値<0.05)を有する。これは、FLO8の破壊により、Prielhofer et al.2013及びPrielhofer et al.2018で記載されているような全ての非メタノール炭素調節プロモーターの産生の可能性が増強されることを強く示すものである。これに対し、GAPプロモーターの発現強度は、FLO8の破壊による影響を受けない。
【0375】
表10:dFLO8変異体が、グルコース制限誘導条件において炭素調節プロモーター下で制御されるFLO8遺伝子の転写強度に及ぼす影響。野生型株と比較したdFLO8変異株間の倍数変化(FC)を示している。調整済みp値<0.05での発現変化は統計学的に有意な差を示している。
【表11】
【0376】
実施例7:FLO8破壊がメタノール調節プロモーターpAOX1の転写強度に及ぼす影響
FLO8破壊が転写強度に及ぼす影響を、メタノール誘導条件下のP.pastoris標準プロモーター(例えば、pAOX1及びpGAP)についても定量した。そのため、pAOX1の制御下で組換えFab断片を発現する株CBS7435及びそれぞれのdFLO8変異株dFLO8#2をメタノールベースの流加バッチ培養で培養した。
【0377】
流加バッチは、1.4LのDASGIPリアクター(Eppendorf,Germany)において最大使用容量1.0Lで実施した。培養温度を25℃に制御し、pHは25%水酸化アンモニウムを加えることにより5.0に制御し、溶存酸素濃度は、撹拌速度を400から1200rpmの間、空気流を24から72sL/hの間に制御することにより20%飽和超に維持した。
【0378】
流加バッチ培養のための接種物を、20g/Lのグリセロール及び50μg/mLのZeocinを含む100mLのYP培地を収容する振とうフラスコ中で培養し、28℃及び180rpmで約24時間インキュベートした。培養物を使用して、バイオリアクター内の0.4Lの出発体積に接種して1.0の出発光学密度(600nm)にした。バッチは約24時間後に終了し、最初の(10mL)ソルトショットが得られた。
【0379】
次いで、グリセロール流加バッチ溶液を5mL/hの一定速度で5時間供給した。次いで、メタノールパルス(2g)及びソルトショット(10mL)を培養物に加えた。培養中の溶存酸素濃度の増加によってメタノールパルス消費が示された後、メタノール流加バッチ溶液による一定供給を1.0g/hの供給速度で開始した。新たに形成されたバイオマス10gごとにソルトショット10mLを加えた。これは約43gのメタノールフィード培地に対応する。バイオマス濃度の増加に伴い、メタノール供給速度は、メタノール供給を短時間停止したときに培地中の溶存酸素の急激な増加によってメタノール蓄積を除外することができた場合に、適切に増加した。最終的なメタノール供給速度は2.5g/hであった。
【0380】
試料は頻繁に採取した。細胞密度が100g/L細胞乾燥重量超に達した約100時間後に、培養物を収集した。
【0381】
培地は以下の通りである:
バッチ媒体(1リットル当たり)に含まれたもの:2.0gクエン酸、12.4g(NH4)2HPO4、0.022g CaCl2・2H2O、0.9g KCl、0.5g MgSO4・7H2O、40gグリセロール、4.6mL PTM1微量塩ストック溶液。pHは、25%HClを用いて5.0に設定する。
【0382】
グリセロール流加バッチ溶液(1リットル当たり)には、623gグリセロール、12mL PTM0微量塩ストック溶液、及び40mgビオチンが含まれた。PTM0の組成は実施例2に示されている。
【0383】
純粋なメタノールのメタノール流加バッチ溶液(1リットル当たり)には、12mL PTM0微量塩ストック溶液及び40mgビオチンが含まれた。
【0384】
ソルトショット溶液(1リットル当たり)に含まれたもの:20.8g MgSO4・7H2O、41.6 KCl、1.04g CaCl2・2H2O。
【0385】
コーティング抗体として抗ヒトIgG抗体(ab7497、Abcam)を用い、検出抗体としてヤギ抗ヒトIgG(Fab特異的)-アルカリホスファターゼ結合抗体(Sigma A8542)を用いて、ELISAによるインタクトなFabの定量化を行った。ヒトFab/Kappa、IgG断片(Bethyl P80-115)を出発濃度100ng/mLで標準物質として使用し、上清試料を適宜希釈した。検出はpNPP(Sigma S0942)を用いて行った。コーティング、希釈、及び洗浄バッファーは、PBS(2mM KH2PO4、10mM Na2HPO4.2H2O、2.7mM g KCl、8mM NaCl、pH7.4)に基づいており、適宜BSA(1%(w/v))及び/またはTween20(0.1%(v/v))を用いて完了した。
【0386】
産物力価に関しては、pAOX1の制御下のdFLO8変異体でのFab産生の増加は、メタノール流加バッチ培養の終了時(WO2015/158800A1に記載のように119時間後)に最大1.45倍であり、一方バイオマス形成はわずかに減少した(10~14%)。
【0387】
マイクロアレイ試料を53.5時間後(25時間のメタノール供給)に採取し、実施例6に記載のように処理した。野生型株と比較したdFLO8変異株間の遺伝子の選択についての倍数変化を表11に示す。この場合も、dFLO8変異体におけるFLO8転写物レベルは、野生型と比較して有意に低い。表10に示される非メタノール炭素調節遺伝子及びプロモーターとは対照的に、メタノール誘導性pAOX1は、完全誘導条件でのdFLO8変異体における転写強度について、野生型と比較して有意な増加を示さない(調整済みp値が0.05より大きいため)。また、メタノール成長細胞におけるpGAPにも有意な影響は認められない。したがって、P.pastorisにおけるこれらの標準プロモーターの転写は、FLO8の過小発現による影響を受けない。
【0388】
表11:dFLO8変異体が、メタノール誘導流加バッチ条件においてFLO8遺伝子及びメタノール誘導可能AOX1プロモーター下で制御される遺伝子の転写強度に及ぼす影響。野生型株と比較したdFLO8変異株間の倍数変化(FC)を示している。調整済みp値<0.05での発現変化は統計学的に有意な差を示している。
【表12】
【0389】
実施例8:FLO8破壊が非メタノール炭素調節プロモーターによって駆動される細胞内eGFP発現に及ぼす影響
ほとんどの非メタノール炭素調節プロモーター(WO2013050551A1;Prielhofer et al.(2013))によって駆動されるネイティブ遺伝子の発現が、dFLO8株での誘導条件下で顕著に上方調節された(実施例6参照)ため、WO2013050551A1及びPrielhofer et al.(2013)に記載のそれぞれのeGFPレポーター株においてもFLO8の破壊を試験した。各非メタノール誘導可能プロモーターについて、pPM1aZ10_pG#_eGFP発現ベクター(CBS2612_pG3_eGFP #1;CBS2612_pG4_eGFP #6;CBS2612_pG6_eGFP #53;X33_pG7_eGFP #1;CBS2612_pG8_eGFP #8)を有する1つの株を選択し、実施例1に記載のスプリットマーカーカセット法を用いることにより、FLO8を破壊した。多糖及びグルコース放出酵素が異なる供給業者(EnPump200、Enpresso)から得たことを除き、実施例2に記載のように誘導(グルコース制限)条件下でのスクリーニング培養を行った。新たなグルコース放出酵素の性質が異なるため、濃度を約0.6mgmL-1h-1の一定グルコース放出速度に対応して0.4%に適合させた。各場合において、それぞれの親の2つの複製物及び少なくとも7つの対応するdFLO8株をスクリーニングした。eGFP-生産性は、細胞サイズについて値を正規化しなかったことを除いて、実施例2に記載のように定量した。表12は、FLO8の破壊が各プロモーターにおけるeGFP蛍光の増加をもたらし、pG3及びpG8の場合にそれぞれ1.7倍及び1.2倍、pG4及びpG7の場合に2.3倍、pG6の場合に2.2倍に達することを示している。このことは、pG1及びpG1派生物以外の他の非メタノール炭素調節プロモーターを増強することに対するFLO8破壊の可能性をさらに強調するものである。
【0390】
これらの結果は、野生型宿主細胞におけるこのような発現と比較して、dFLO8宿主細胞ではpG1またはpG1派生物(pG1-3)の制御下でeGFP発現が増加することを裏付けている。表2は、FLO8の破壊が、pG1及びpG1-3の場合にeGFP蛍光の増加をもたらし、それぞれ3.8(または3.9)及び2.8(または2.9)倍であることを示している。
【0391】
表12:dFLO8が非メタノール炭素源調節プロモーターの制御下でeGFPの発現に及ぼす影響。グルコース制限(誘導)条件で48時間培養した後のpGAP発現のパーセンテージとしてのeGFP発現レベル及びそれぞれのdFLO8_pG#_eGFP株の倍数変化とを親野生型株と比較して示している。
【表13】
【0392】
参考文献:
Benjamini Y & Yekutieli D(2001)The Control of the False Discovery Rate in Multiple Testing under Dependency.The Annals of Statistics 29:1165-1188.
Gasser B,Prielhofer R,Marx H,Maurer M,Nocon J,Steiger M,Puxbaum V,Sauer M & Mattanovich D(2013)Pichia pastoris:protein production host and model organism for biomedical research.Future Microbiol 8:191-208.
Marx H,Mattanovich D & Sauer M(2008)Overexpression of the riboflavin biosynthetic pathway in Pichia pastoris.Microb Cell Fact 7:23.
Prielhofer R,Reichinger M,Wagner N,Claes K,Kiziak C,Gasser B & Mattanovich D(2018)Superior protein titers in half the fermentation time:Promoter and process engineering for the glucose-regulated GTH1 promoter of Pichia pastoris.Biotechnol Bioeng.
Stadlmayr G,Mecklenbrauker A,Rothmuller M,Maurer M,Sauer M,Mattanovich D & Gasser B(2010)Identification and characterisation of novel Pichia pastoris promoters for heterologous protein production.J Biotechnol 150:519-529.
【配列表】