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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/40 20060101AFI20220421BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C23C14/40
H05H1/46 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017053128
(22)【出願日】2017-03-17
(65)【公開番号】P2018154875
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】岸田 茂明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 大輔
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037555(JP,A)
【文献】特開2017-004602(JP,A)
【文献】特開2015-172240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/40
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置であって、
真空排気され且つガスが導入される真空容器と、
前記真空容器内において前記基板を保持する基板保持部と、
前記真空容器内において前記基板と対向して前記ターゲットを保持するターゲット保持部と、
前記基板保持部に保持された基板の表面に沿って配列され、前記プラズマを発生させる複数のアンテナと、
前記基板保持部に保持された基板を、前記複数のアンテナの配列方向に沿って往復走査する往復走査機構と、を備え、
前記ターゲット保持部を複数有し、これら複数のターゲット保持部は等間隔に配列されており、
前記複数のアンテナは等間隔に配列されるとともに、前記各ターゲット保持部により保持された前記ターゲットの両側に配置されることにより、前記複数のターゲット及び前記複数のアンテナが交互に配置されており、
前記複数のターゲットのピッチ幅と、前記複数のアンテナのピッチ幅とが同一であり、
前記走査機構は、前記基板保持部の走査範囲を前記ピッチ幅としてあり、
前記アンテナは、少なくとも2つの導体要素と、互いに隣り合う前記導体要素の間に設けられて、それら導体要素を絶縁する絶縁要素と、互いに隣り合う前記導体要素と電気的に直列接続された容量素子とを備え、
前記導体要素及び前記絶縁要素は、内部に冷却液が流れる管状をなすものであり、
前記容量素子は、前記絶縁要素の一方側の前記導体要素と電気的に接続された第1の電極と、前記絶縁要素の他方側の前記導体要素と電気的に接続されるとともに、第1の電極に対向して配置された第2の電極とを備えており、前記第1の電極及び前記第2の電極の間の空間を前記冷却液が満たすことにより構成されている、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲット保持部は、平面視において矩形状をなすターゲットを保持するものであり、
前記アンテナは、平面視において直線状をなすものであり、前記ターゲットの長手方向と平行となるように配置されている、請求項1記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスパッタリング装置としては、マグネトロンスパッタリング装置が知られている。このマグネトロンスパッタリング装置は、ターゲットの裏面に設けた磁石によってターゲットの表面に磁界を形成してプラズマを生成し、当該プラズマ中のイオンをターゲットに衝突させることで、ターゲットからスパッタ粒子が飛び出すように構成されている。
【0003】
従来のマグネトロンスパッタリング装置では、ターゲットの表面近傍に生成されるプラズマに粗密が生じてしまい、これに応じて、ターゲットが不均一に消費され、ターゲットの利用率が低くなってしまう。また、ターゲットが不均一に消費されることから、生成される膜厚も不均一となってしまう。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1や特許文献2に示すように、磁石、ターゲット又は基板を揺動又は回転させたりする構成や、ターゲットと基板との距離を制御する構成を有するものが考えられている。
【0005】
しかしながら、磁石により生じるプラズマの粗密を、磁石、ターゲット又は基板の揺動又は回転等によって解消するためには、複雑な機構及び制御が必要になってしまう。また、このような複雑な機構及び制御によっても十分なターゲットの使用効率及び成膜の均一性を実現することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-158835号公報
【文献】特開平11-246969号公報
【文献】国際公開2016/047184号公報
【0007】
一方で、本願発明者は、上述したマグネトロンスパッタリング装置ではなく、特許文献3に示すように、ターゲットの近傍にアンテナを配置して、当該アンテナに高周波電流を流すことによってスパッタリング用のプラズマを生成するスパッタリング装置の開発を進めている。アンテナを用いてプラズマを生成するものは、磁石を用いてプラズマを生成する構成に比べて、プラズマの粗密が小さくなる。プラズマの粗密が小さくなることによって、ターゲットの使用効率が上がるとともに、成膜の均一性も向上することが期待される。
【0008】
ところが、近年の基板の大型化に対応する等のためには、1又は複数のターゲットに対して複数のアンテナを配置する必要がある。このように複数のアンテナを配置した場合には、複数のアンテナの配置パターンによってプラズマの分布に濃淡が生じてしまうだけでなく、ターゲットから出るスパッタ粒子の分布にも濃淡が生じてしまう。その結果、生成される膜厚が不均一となってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、スパッタリング用のプラズマを複数のアンテナを用いて生成するものにおいて成膜の均一性を向上させることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係るスパッタリング装置は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置であって、真空排気され且つガスが導入される真空容器と、前記真空容器内において前記基板を保持する基板保持部と、前記真空容器内において前記基板と対向して前記ターゲットを保持するターゲット保持部と、前記基板保持部に保持された基板の表面に沿って配列され、前記プラズマを発生させる複数のアンテナと、前記基板保持部に保持された基板を、前記複数のアンテナの配列方向に沿って往復走査する往復走査機構と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このようなスパッタリング装置であれば、基板保持部に保持された基板をアンテナの配列方向に沿って往復走査させているので、アンテナの配列方向に沿ったプラズマの分布の濃淡及びスパッタ粒子の分布の濃淡による膜厚のばらつきを低減することができ、成膜の均一性を向上させることができる。また、アンテナを用いてスパッタリング用のプラズマを生成しているので、マグネトロンスパッタリング装置に比べて、ターゲットを一様に消費することができ、ターゲットの使用効率を向上させることができる。
【0012】
前記ターゲット保持部が、平面視において矩形状をなすターゲットを保持する構成の場合において、当該ターゲットを効率良くスパッタリングするためには、前記アンテナは、平面視において直線状をなすものであり、前記ターゲットの長手方向と平行となるように配置されていることが望ましい。この構成において、アンテナの配列方向はアンテナの長手方向に直交する方向であり、基板保持部に保持された基板はアンテナの長手方向に直交する方向に往復走査される。
【0013】
大型の基板に対応する等のためには、前記ターゲット保持部を複数有し、これら複数のターゲット保持部は等間隔に配列されており、前記複数のアンテナは等間隔に配列されるとともに、前記各ターゲット保持部により保持された前記ターゲットの両側に配置されていることが望ましい。
この構成では、各ターゲットから飛び出すスパッタ粒子が重なり合ってアンテナの配列方向において周期的な分布が発生するが、本発明のように基板をアンテナの配列方向に沿って往復走査させることによって、その周期的な分布に起因する膜厚の不均一を低減することができる。
【0014】
各ターゲットを一様に消費するためには、前記複数のターゲットのピッチ幅と、前記複数のアンテナのピッチ幅とを同一にすることが考えられる。この構成において、前記走査機構は、前記基板保持部の走査範囲を前記ピッチ幅としていることが望ましい。
【0015】
アンテナの配列方向の膜厚を均一化するだけでなく、アンテナの長手方向の膜厚も均一化するためには、前記アンテナは、少なくとも2つの導体要素と、互いに隣り合う前記導体要素の間に設けられて、それら導体要素を絶縁する絶縁要素と、互いに隣り合う前記導体要素と電気的に直列接続された容量素子とを備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、基板保持部に保持された基板をアンテナの配列方向に沿って往復走査しているので、スパッタリング用のプラズマを複数のアンテナを用いて生成するものにおいて成膜の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する縦断面図である。
図2】同実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に沿った縦断面図である。
図3】同実施形態のアンテナ、ターゲット及び基板の位置関係を示す模式図である。
図4】同実施形態のスパッタ粒子の拡散分布を示す模式図である。
図5】同実施形態の往復走査機構による基板の走査速度波形を示す図である。
図6】基板の走査速度と成膜の均一性の関係を示すグラフである。
図7】変形実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に沿った縦断面図である。
図8】変形実施形態のアンテナにおけるコンデンサ部分を示す部分拡大断面図である。
図9】変形実施形態のアンテナにおけるコンデンサ部分を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るスパッタリング装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
<装置構成>
本実施形態のスパッタリング装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いてターゲットTをスパッタリングして基板Wに成膜するものである。ここで、基板Wは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。
【0020】
具体的にスパッタリング装置100は、図1及び図2に示すように、真空排気され且つガスが導入される真空容器2と、真空容器2内において基板Wを保持する基板保持部3と、真空容器2内においてターゲットTを保持するターゲット保持部4と、真空容器2内に配置された直線状をなす複数のアンテナ5と、真空容器2内に誘導結合型のプラズマPを生成するための高周波を複数のアンテナ5に印加する高周波電源6とを備えている。なお、複数のアンテナ5に高周波電源6から高周波を印加することにより複数のアンテナ5には高周波電流IRが流れて、真空容器2内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0021】
真空容器2は、例えば金属製の容器であり、その内部は真空排気装置16によって真空排気される。真空容器2はこの例では電気的に接地されている。
【0022】
真空容器2内に、例えば流量調整器(図示省略)及び複数のガス導入口21、22を経由して、スパッタ用ガス7又は反応性ガス8が導入される。スパッタ用ガス7及び反応性ガス8は、基板Wに施す処理内容に応じたものにすれば良い。スパッタ用ガス7としては、例えばアルゴン(Ar)等の不活性ガスであり、反応性ガス8としては、例えば酸素(O)や窒素(N)等である。
【0023】
基板保持部3は、真空容器2内において平板状をなす基板Wを例えば水平状態となるように保持するホルダである。なお、基板保持部3は、後述するように真空容器2内において直線状に往復走査されるように構成されている。
【0024】
ターゲット保持部4は、基板保持部3に保持された基板Wと対向してターゲットTを保持するものである。本実施形態のターゲットTは、平面視において矩形状をなす平板状のものである。このターゲット保持部4は、真空容器2を形成する側壁2a(例えば上側壁)に設けられている。また、ターゲット保持部4と真空容器2の上側壁2aとの間には、真空シール機能を有する絶縁部9が設けられている。ターゲットTには、それにターゲットバイアス電圧を印加するターゲットバイアス電源10が、この例ではターゲット保持部4を介して接続されている。ターゲットバイアス電圧は、プラズマP中のイオンをターゲットTに引き込んでスパッタさせる電圧である。
【0025】
本実施形態では、ターゲット保持部4は複数設けられている。複数のターゲット保持部4は、真空容器2内における基板Wの表面側に、基板Wの表面に沿うように(例えば、基板Wの裏面と実質的に平行に)同一平面上に並列に配置されている。複数のターゲット保持部4は、その長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されている。これにより、真空容器2内に配置された複数のターゲットTは、図1及び図3に示すように、基板Wの表面と実質的に平行であり、且つ、長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されることになる。なお、各ターゲット保持部4は同一構成である。
【0026】
複数のアンテナ5は、真空容器2内における基板Wの表面側に、基板Wの表面に沿うように(例えば、基板Wの表面と実質的に平行に)同一平面上に並列に配置されている。複数のアンテナ5は、その長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されている。なお、各アンテナ5は平面視において直線状で同一構成であり、その長さは数十cm以上である。
【0027】
本実施形態のアンテナ5は、図1及び図3に示すように、各ターゲット保持部4に保持されたターゲットTの両側にそれぞれ配置されている。つまり、アンテナ5とターゲットTとが交互に配置されており、1つのターゲットTは、2本のアンテナ5により挟まれた構成となる。ここで、各アンテナ5の長手方向と各ターゲット保持部4に保持されたターゲットTの長手方向とは同一方向である。また、特に図3に示すように、複数のターゲットTのピッチ幅と、複数のアンテナ5のピッチ幅とは同一(ともにピッチ幅a)となるように配置されている。さらに、2つのターゲットTの間に配置されるアンテナ5はそれら2つのターゲットTから等距離の位置に配置されている。
【0028】
また、各アンテナ5の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等であるが、これに限られるものではない。なお、アンテナ5を中空にして、その中に冷却水等の冷媒を流し、アンテナ5を冷却するようにしても良い。
【0029】
なお、アンテナ5の両端部付近は、図2に示すように、真空容器2の相対向する側壁2b、2cをそれぞれ貫通している。アンテナ5の両端部を真空容器2外へ貫通させる部分には、絶縁部材11がそれぞれ設けられている。この各絶縁部材11を、アンテナ5の両端部が貫通しており、その貫通部は例えばパッキンによって真空シールされている。各絶縁部材11と真空容器2との間も、例えばパッキンによって真空シールされている。なお、絶縁部材11の材質は、例えば、アルミナ等のセラミックス、石英、又はポリフェニンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のエンジニアリングプラスチック等である。
【0030】
さらに、各アンテナ5において、真空容器2内に位置する部分は、絶縁物製で直管状の絶縁カバー12により覆われている。この絶縁カバー12の両端部と真空容器2との間はシールしなくても良い。絶縁カバー12内の空間にガス7が入っても、当該空間は小さくて電子の移動距離は短いので、通常は当該空間にプラズマPは発生しないからである。なお、絶縁カバー12の材質は、例えば、石英、アルミナ、フッ素樹脂、窒化シリコン、炭化シリコン、シリコン等であるが、これらに限られるものではない。
【0031】
アンテナ5の一端部である給電端部5aには、整合回路61を介して高周波電源6が接続されており、他端部である終端部5bは直接接地されている。なお、給電端部5a又は終端部5bに、可変コンデンサ又は可変リアクトル等のインピーダンス調整回路を設けて、各アンテナ5のインピーダンスを調整するように構成しても良い。このように各アンテナ5のインピーダンスを調整することによって、アンテナ5の長手方向におけるプラズマPの密度分布を均一化することができ、アンテナ5の長手方向の膜厚を均一化することができる。
【0032】
上記構成によって、高周波電源6から、整合回路61を介して、アンテナ5に高周波電流IRを流すことができる。高周波の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0033】
そして、本実施形態のスパッタリング装置100は、基板保持部3に保持された基板Wを、アンテナ5の配列方向Xに沿って往復走査する往復走査機構14を有している。
【0034】
往復走査機構14は、基板保持部3をアンテナ5の配列方向Xに沿って機械的に往復走査させることにより、基板保持部3に保持された基板Wを配列方向Xに沿って同一平面上で往復走査させるものである。この往復走査機構14による基板Wの往路及び復路は直線移動であり、また、往路及び復路は互いに重複するように構成されている。なお、往復走査機構14は、例えば真空容器2外に設けられたアクチュエータと、基板保持部3に連結されるとともにアクチュエータにより駆動されるリニアガイドとを備えたもの等が考えられる。
【0035】
また、往復走査機構14は、図3に示すように、基板Wの走査範囲SRが前記ピッチ幅aとなるよう構成されている。具体的には、往復走査機構14を制御する制御装置15によって、基板Wの走査範囲SRが前記ピッチ幅aとなるよう構成されている。つまり、基板Wは、初期位置を中心位置Oとして±a/2の振幅で往復走査される。
【0036】
本実施形態のように複数のターゲットT及び複数のアンテナ5を交互に配置した構成の場合、各ターゲットTから飛び出すスパッタ粒子の拡散範囲は図4のように互いに重なり、基板Wを走査しない場合には、基板表面には周期aの膜厚や膜質の分布が生じ得る。ここで、往復走査機構14による基板Wの走査範囲SRをピッチ幅aとしているので、基板表面に生じ得る周期aの膜厚や膜質の分布を均して、成膜の均一性を向上させることができる。
【0037】
ここで、往復走査機構14による基板Wの走査速度は、図5に示すように、基本的には等速(例えば40mm/sec)であり、往路及び復路の折り返し点を含む近傍においては減速するように構成されている。本実施形態では、走査速度の波形は台形波である。このように速度制御することによって、折り返し点において慣性力による基板Wの位置ずれを防止している。その他、基板Wの走査速度の波形は、正弦波であってもいし、三角波であっても良い。
【0038】
<実施例>
本実施形態のスパッタリング装置100において、基板Wの走査速度を変化させた場合の成膜の均一性を評価した。なお、使用したターゲットTは、IGZO1114であり、サイズは、150×1000mmである。アンテナ間距離(ピッチ幅a)は、200mmである。ターゲット-基板間距離は、125mmである。基板Wのサイズは、320×400mmである。
【0039】
真空容器2を3×10-6Torr以下に真空排気した後に、100sccmのスパッタ用ガス(Arガス)を導入しつつ真空容器2内の圧力を0.9Paとなるように調整した。複数のアンテナ5に7kWの高周波電力を供給して、誘導結合型のプラズマPを生成・維持した。ターゲットTに-350Vの直流電圧パルスを印加して、ターゲットTのスパッタリングを行い、基板W上の膜厚が50nmとなるまで成膜処理を行った。
【0040】
この成膜処理において、往復走査機構14による基板Wの走査範囲SRはアンテナ間距離である200mmとし、0(往復走査なし)、14mm/sec、20mm/sec、27mm/sec、40mm/sec、48mm/sec、55mm/sec、68mm/sec、82mm/secの各走査速度において得られた成膜の均一性を評価した。成膜の均一性の評価は、基板W上に成膜された膜厚の最大値と最小値との比により行った。
【0041】
各走査速度における均一性のグラフを図6に示す。この図6から分かるように、往復走査機構14による基板Wの走査範囲SRをアンテナ間距離とし、基板Wを往復走査することで、成膜の均一性が向上した。そして、走査速度を上げるほど成膜の均一性は向上し、走査速度40mm/sec以上ではほとんど一定となった。したがって、走査速度を40mm/sec以上とすることが好ましい。
【0042】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のスパッタリング装置100によれば、基板保持部3に保持された基板Wをアンテナ5の配列方向Xに沿って往復走査させているので、アンテナ5の配列方向Xに沿ったプラズマPの濃淡及びスパッタ粒子の濃淡による膜厚のばらつきを低減することができ、成膜の均一性を向上させることができる。
【0043】
特に本実施形態のように、複数のターゲットT及び複数のアンテナ5を交互に配置した構成の場合には、スパッタ粒子の周期的な濃淡が生じやすくなるところ、往復走査機構14によって基板Wを往復走査することによって、スパッタ粒子の周期的な濃淡による膜厚のばらつきを低減して、成膜の均一性を向上させることができる。
【0044】
ここで、成膜速度を速くするだけでなく真空容器2を小型化するためには、ターゲットTと基板Wとの距離を小さくすることが考えられるが、そうすると、複数のターゲットTから出るスパッタ粒子の重なり影響が少なくなり均一性が悪化してしまう。本実施形態では、基板Wを往復走査させているので、ターゲットTと基板Wとの距離を小さくしても成膜の均一性を向上できる。
【0045】
また、本実施形態では、プラズマ生成に磁石を用いることなく、アンテナ5を用いてスパッタリング用のプラズマPを生成しているので、マグネトロンスパッタリング装置に比べて、ターゲットTを一様に消費することができ、ターゲットの使用効率を向上させることができる。
【0046】
さらに本実施形態では、矩形状のターゲットTを用いているので、例えば断面円形などの特殊形状のターゲットに比べてコストを削減することができる。また、複数のターゲットTを用いているので、各ターゲットTの面積を小さくすることができ、大面積のターゲットを製造する場合に比べて歩留まり良く製造することができ、これによってもコストを削減することができる。
【0047】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、往復走査機構による基板Wの走査範囲SRをピッチ幅a未満としても良い。この場合であっても、アンテナ5の配列方向Xに沿ったプラズマPの濃淡及びスパッタ粒子の濃淡による膜厚のばらつきを低減することができ、成膜の均一性を向上させることができる。
【0049】
アンテナ5の構成に関していうと、アンテナ5は平面視において直線状であれば屈曲するものであってもよいし、アンテナ5の長手方向に分割して複数のアンテナで構成してもよい。また、以下の構成であれば、アンテナ5の配列方向Xの膜厚を均一化するだけでなく、アンテナ5の長手方向の膜厚も均一化することができる。
【0050】
具体的にアンテナ5は、図7に示すように、少なくとも2つの金属製の導体要素51と、互いに隣り合う導体要素51の間に設けられて、それら導体要素51を絶縁する絶縁要素52と、互いに隣り合う導体要素51と電気的に直列接続された定量素子であるコンデンサ53とを備えている。なお、導体要素51及び絶縁要素52は、内部に冷却液CLが流れる管状をなすものである。図7では、導体要素51の数は2つであり、絶縁要素52及びコンデンサ53の数は各1つである。なお、アンテナ5は、3つ以上の導体要素51を有する構成であっても良く、この場合、絶縁要素52及びコンデンサ53の数はいずれも導体要素51の数よりも1つ少ないものになる。
【0051】
導体要素51は直管状をなすものであり、導体要素51の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等である。また、絶縁要素52は直管状をなすものであり、絶縁要素52の材質は、例えば、アルミナ、フッ素樹脂、ポリエチレン(PE)、エンジニアリングプラスチック(例えばポリフェニンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など)等である。
【0052】
コンデンサ53は、図8に示すように、例えば絶縁要素52の外周部に配置された層状のものである。具体的にコンデンサ53は、絶縁要素52の外周部に配置されるとともに、一方の導体要素51に電気的に接続された第1の電極53Aと、絶縁要素52の外周部において第1の電極53Aと対向して配置されるとともに、他方の導体要素51に電気的に接続された第2の電極53Bと、第1の電極53A及び第2の電極53Bの間に配置された誘電体53Cとを有する。
【0053】
第1の電極53A及び第2の電極53Bは、例えば金属の膜、箔、フィルム、シート等である。第1の電極53A及び第2の電極53Bの材質は、例えば、アルミニウム、銅、これらの合金等である。
【0054】
誘電体53Cの材質は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等である。
【0055】
この構成のコンデンサ53は、例えば、フィルム状の誘電体53Cの両主面に電極53A、53Bを金属蒸着等によって形成したものを、絶縁要素52の外周部に所定回数巻き付けた構造のものでも良いし、その他の構造のものでも良い。
【0056】
このようにアンテナ5を構成することによって、アンテナ5の合成リアクタンスは、簡単に言えば、誘導性リアクタンスから容量性リアクタンスを引いた形になるので、アンテナ5のインピーダンスを低減させることができる。その結果、アンテナ5を長くする場合でもそのインピーダンスの増大を抑えることができ、アンテナ5に高周波電流IRが流れやすくなり、誘導結合型のプラズマPを効率良く発生させることができる。したがって、アンテナ5の長手方向におけるプラズマの密度分布を均一化することができ、アンテナ5の長手方向の膜厚も均一化することができる。
【0057】
また、コンデンサ53の誘電体53Cを例えば水等の冷却液CLにより構成しても良い。この場合、コンデンサ53は、冷却液CLが流れる流路内に設けられる構成となる。例えば、図9に示すように、コンデンサ53が絶縁要素52の内部に設けられる構成、つまり、絶縁要素52の冷却液CLが流れる流路に設けられる構成である。
【0058】
具体的にコンデンサ53は、絶縁要素52の一方側の金属要素51と電気的に接続された第1の電極53Aと、絶縁要素52の他方側の金属要素51と電気的に接続されるとともに、第1の電極53Aに対向して配置された第2の電極53Bとを備えており、第1の電極53A及び第2の電極53Bの間の空間を冷却液CLが満たすように構成されている。つまり、この第1の電極53A及び第2の電極53Bの間の空間を流れる冷却液CLが、コンデンサ53を構成する液体の誘電体となる。各電極53A、53Bは、概略回転体形状をなすとともに、その中心軸に沿って中央部に流路が形成されている。具体的に各電極53A、53Bは、金属要素51における絶縁要素52側の端部に電気的に接触するフランジ部531と、当該フランジ部531から絶縁要素52側に延出した例えば円筒状の延出部532とを有している。フランジ部531は、金属要素51及び絶縁要素52の間に挟持される。また、フランジ部にも冷却水が流れる貫通孔531hが形成されている。
【0059】
第1の電極53A及び第2の電極53Bの間の空間を液体の誘電体(冷却液CL)で満たしているので、コンデンサ53を構成する電極53A、53B及び誘電体の間に生じる隙間を無くすことができる。その結果、電極53A、53B及び誘電体の間の隙間に発生しうるアーク放電を無くし、アーク放電に起因するコンデンサ53の破損を無くすことができる。また、隙間を考慮することなく、第1の電極53Aの延出部532と第2の電極53Bの延出部532との離間距離、対向面積及び液体の誘電体(冷却液CL)の比誘電率からキャパシタンス値を精度良く設定することができる。さらに、隙間を埋めるための電極53A、53B及び誘電体を押圧する構造も不要にすることができ、当該押圧構造によるアンテナ周辺の構造の複雑化及びそれにより生じるプラズマPの均一性の悪化を防ぐことができる。
【0060】
さらに、絶縁要素52の一方側の金属要素51の一部を第1の電極53Aとしても良い。この場合には、絶縁要素52の他方側の金属要素51に電気的に接続された第2の電極53Bは、絶縁要素52の内部を通って絶縁要素52の一方側の金属要素51の内部に延出する構成とすることが考えられる。
【0061】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
100・・・スパッタリング装置
W ・・・基板
P ・・・プラズマ
T ・・・ターゲット
2 ・・・真空容器
3 ・・・基板保持部
4 ・・・ターゲット保持部
5 ・・・アンテナ
14 ・・・往復走査機構
51 ・・・導体要素
52 ・・・絶縁要素
53 ・・・容量素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9