(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】コンクリートの締固め完了判定方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/06 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
E04G21/06
(21)【出願番号】P 2018070767
(22)【出願日】2018-04-02
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】宮里 心一
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕史
【審査官】津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-357274(JP,A)
【文献】特開昭60-105765(JP,A)
【文献】特開昭60-105764(JP,A)
【文献】実開昭51-018402(JP,U)
【文献】特開平07-180352(JP,A)
【文献】特開平07-180353(JP,A)
【文献】特開昭61-124429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えてコンクリートを締固める際のコンクリートの締固め完了を判定するコンクリートの締固め完了判定方法であって、
型枠内のコンクリートのバイブレータによる締固めによってコンクリート中をコンクリートの締固め度合いに応じて浮上する浮遊体を、コンクリート打込み前の型枠内でコンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所の底部に設置し、この状態から型枠内にコンクリートを打込み、バイブレータで締固めて、浮遊体の浮上をもってコンクリートの締固め完了と判定する、
ことを特徴とするコンクリートの締固め完了判定方法。
【請求項2】
コンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠内のコンクリートの全体とする場合、多数の浮遊体を型枠内の底部上全体に所定の間隔で規則的に設置する請求項1に記載のコンクリートの締固め完了判定方法。
【請求項3】
コンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠内のコンクリートの一部とする場合、少数の浮遊体を型枠内の底部上の一部に所定の間隔で設置する請求項1に記載のコンクリートの締固め完了判定方法。
【請求項4】
浮遊体は、中空構造を含み、型枠内に打込まれるコンクリートの密度よりも小さい軽量のもので、表面がコンクリートとの摩擦抵抗が小さい平滑な面を呈する請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリートの締固め完了判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートを締固める際に用いるコンクリートの締固め完了判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、フレッシュコンクリートを締固める際は、運搬時、打込み時に巻き込んだ空気をコンクリートから除去し、鉄筋や埋設物などをコンクリートとよく密着させ、コンクリートを均一で密実にすることが求められる。一般に、コンクリートの締固めは、型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えることで行われている。また、この場合、コンクリートの十分な締固めの判断、つまり、締固め完了の判定は、ベテランの作業員や技術者のコンクリート表面に対する目視判断によって行われている。この振動締固めが十分になされることにより、コンクリートを型枠、鉄筋の隅々まで密に充填し、かつコンクリートの内部及び表面の気泡などの空隙をなくして、強度、水密性、耐久性に優れたコンクリートを作ることができる。
なお、コンクリートの十分な締固めに関し、一般的な指針として、コンクリート標準示方書では「振動締固めが十分である証拠の一つは、コンクリートとせき板との接触面にセメントペーストの線が現れることである。また、コンクリートの容積の減っていくのが認められなくなり、表面に光沢が現れてコンクリート全体が均一に溶け合ったように見えること等から分かる。」と記載されている。
【0003】
また、従来においては、作業員の個人的技量に左右されないで、打設コンクリートの所要の品質を確保することを目的としたコンクリートの締固め方法が特許文献1により提案されている。
この文献1のコンクリートの締固め方法では、打設するコンクリートの型枠底部に浮揚式バイブレータを設置し、型枠内にコンクリートを所定高さになるように打設するとともに、バイブレータ付近のコンクリート圧に応じてバイブレータを振動させながらコンクリート内を上方へ浮上させることにより、打設コンクリートを下部から上方へ向けて締固める。
この場合、バイブレータは、型枠内に打設するコンクリートが所定厚さに達すると、圧力センサーにより検出されるコンクリート圧の検出信号により原動機が駆動し、これにより、バイブレータは所定周波数で振動して周囲のコンクリートを締固めるとともに、バイブレータとコンクリートとの摩擦抵抗を減少させる。また、バイブレータのかさ比重がコンクリートの比重より軽量に形成されているので、バイブレータとコンクリートとの摩擦抵抗の減少に伴ってバイブレータに公知の浮力が発生し、バイブレータは振動して周囲のコンクリートを締固めながら上方へ上昇する。そして、バイブレータがコンクリートの上面に位置すると、コンクリート圧が0値の検出信号が圧力センサーから原動機へ送電され、バイブレータが停止してコンクリートの締固めが終了する。
このようにこのコンクリートの締固め方法では、浮揚式バイブレータを用いることにより、コンクリートの締固め作業を自動化して、従来の重作業から解放することができ、コンクリートの締固め度合いが個人的技量に依存されないため、施工の信頼性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のコンクリートの締固め完了の判定は、ベテランの作業員や技術者のコンクリート表面に対する目視判断によって行われており、その判断基準が作業員や技術者の経験、技量などに依存するため、適切に判断できる者が限られており、また他面で、作業員、技術者間で判定結果に個人差が生じることがあり、さらにはコンクリート内部における振動の伝播状況までは把握できないことから、コンクリートの仕上がり品質にばらつきが生じるおそれがある、という問題がある。
また、特許文献1のコンクリートの締固め方法では、作業員の個人的技量に左右されない点で利点があるものの、バイブレータ自体が浮上するものであるため、コンクリートの締固め完了の判定がコンクリート内のバイブレータの挿入位置のみの判定に留まり、また、この場合も、コンクリート内部における振動の伝播状況までは把握することができないことから、コンクリートの仕上がり品質にばらつきが生じるおそれがある、という問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種のコンクリートの締固め完了判定方法において、コンクリートの締固め完了判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除し、誰でも、コンクリート内部における振動の伝播状況までを簡易かつ適切に把握して、コンクリートの締固め完了を容易に判定できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、
型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えてコンクリートを締固める際のコンクリートの締固め完了を判定するコンクリートの締固め完了判定方法であって、
型枠内のコンクリートのバイブレータによる締固めによってコンクリート中をコンクリートの締固め度合いに応じて浮上する浮遊体を、コンクリート打込み前の型枠内でコンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所の底部に設置し、この状態から型枠内にコンクリートを打込み、バイブレータで締固めて、浮遊体の浮上をもってコンクリートの締固め完了と判定する、
ことを要旨とする。
また、このコンクリートの締固め完了判定方法は次のように具体化される。
(1)コンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠内のコンクリートの全体とする場合、多数の浮遊体を型枠内の底部上全体に所定の間隔で規則的に設置する。
(2)コンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠内のコンクリートの一部とする場合、少数の浮遊体を型枠内の底部上の一部に所定の間隔で設置する。
(3)浮遊体は、中空構造を含み、型枠内に打込まれるコンクリートの密度よりも小さい軽量のもので、表面がコンクリートとの摩擦抵抗が小さい平滑な面を呈する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンクリートの締固め完了判定方法によれば、型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えてコンクリートを締固める際のコンクリートの締固め完了を判定するに当たり、型枠内のコンクリートのバイブレータによる締固めによってコンクリート中をコンクリートの締固め度合いに応じて浮上する浮遊体を、コンクリート打込み前の型枠内でコンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所の底部に設置して、この状態から型枠内にコンクリートを打込み、バイブレータで締固めて、浮遊体の浮上をもってコンクリートの締固め完了と判定するようにしたので、コンクリートの締固め完了判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除し、誰でも、コンクリート内部における振動の伝播状況までを簡易かつ適切に把握して、コンクリートの締固め完了を容易に判定することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態によるコンクリートの締固め完了判定方法を示し、特に、型枠内のコンクリート全体の締固め完了を判定する場合を示す図
【
図2】同コンクリートの締固め完了判定方法を示し、特に、型枠内のコンクリートの一部の締固め完了を判定する場合を示す図 方法の構成を示す図
【
図3】同コンクリートの締固め完了判定方法を示し、特に、型枠内の下層のコンクリートの上に上層のコンクリートを打込む場合の上層のコンクリートの締固め完了を判定する場合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
図1、
図2及び
図3にコンクリートの締固め完了判定方法(以下、単に判定方法という場合がある。)を示している。
図1、
図2及び
図3に示すように、このコンクリートの締固め完了方法は、型枠M内に打込まれたコンクリートCにバイブレータVを挿入し振動を加えてコンクリートCを締固める際のコンクリートCの締固め完了を判定するもので、この判定方法では、型枠M内のコンクリートCのバイブレータVによる締固めによってコンクリートC中をコンクリートCの締固め度合いに応じて浮上する浮遊体Fを、コンクリート打込み前の型枠M内でコンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所の底部に設置し、この状態から型枠M内にコンクリートCを打込み、バイブレータVで締固めて、浮遊体Fの浮上をもってコンクリートCの締固め完了と判定する。
また、この判定方法で用いる浮遊体Fは、バイブレータVの振動を受け、コンクリート中を上昇する必要があるため、中空構造を含み、型枠内に打込まれるコンクリートの密度よりも小さい軽量のもので、表面がコンクリートとの摩擦抵抗が小さい平滑な面を呈することが好ましい。このような浮遊体Fとして、プラスチック製で、直径35mm~45mm、重量1.5g~2.5gの中空の球体からなるものが好適である。かかる球体からなる浮遊体Fは、型枠内に打込まれるコンクリートの比重よりも小さい極めて軽量のもので、この浮遊体Fをあらかじめ型枠内の底部に設置して型枠内に打込まれたコンクリートの中に沈設した状態とした後、浮遊体Fの設置位置までバイブレータの振動が伝播するようにコンクリートの所定の位置にバイブレータを差し込み振動を加えてバイブレータ周囲の振動伝播範囲を所定の締固め度合いまで、この場合、その範囲のコンクリートの表面にモルタルが平均的に浮上して、その表面が光沢を帯び艶が現れて、コンクリートが均一に溶け合ったように見える程度まで締固めると、浮遊体Fはコンクリートの表面まで浮上することが実験により確認されている。
【0011】
この判定方法では、型枠M内にコンクリートCを打込む前に、あらかじめ、型枠M内の底部上でコンクリートCの締固め完了の判定をしようとする範囲に複数の浮遊体Fを自由に設置して、通常のコンクリートCの締固め作業を行えばよい。
【0012】
図1はコンクリートCの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠M内のコンクリートCの全体とする場合で、この場合、多数の浮遊体Fを型枠M内の底部上全体に所定の間隔で規則的に、例えば格子状(マス目状)の配列に設置する。バイブレータVの振動の伝播が周囲に及ぶのが通常30cm程度であるので、この場合、各マス目が50cm四方となるように浮遊体Fを配置するのもよい。このようにして型枠M内にコンクリートCを打込み、コンクリートCに、この場合、複数の浮遊体Fの格子状の配列において各マス目の中心に当たる位置にバイブレータVを挿入し振動を加えて、浮遊体FがコンクリートCの表面に浮上すると、これが、コンクリートCのバイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲が所定の締固め度合いに、この場合、その範囲のコンクリートCの表面にモルタルが平均的に浮上して、その表面が光沢を帯び艶が現れて、コンクリートCが均一に溶け合ったように見える程度に締固められたことの指標となって、バイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲を締固め完了と判定し、ここでバイブレータVを引き抜く。また、この場合、コンクリートC中の浮遊体Fの上昇の程度を把握すれば、バイブレータVの影響範囲を正確に把握でき、バイブレータVの挿入位置を変えた場合の締固めの程度の積算による判断も可能となる。
【0013】
図2はコンクリートCの締固め完了を判定しようとする箇所を型枠M内のコンクリートCの一部とする場合、例えば、コンクリートCの締固め完了の判定が困難な位置を含む特にコンクリートCの締固め管理が必要な位置に限定する場合で、この場合、少数の浮遊体Fを型枠M内の底部上の一部(例えば、コンクリートCの締固め管理を必要とする位置)に、所定の間隔で設置する。このようにして型枠M内にコンクリートCを打込み、コンクリートCに、この場合、各浮遊体Fから所定の距離離れた位置にバイブレータVを挿入し振動を加えて、浮遊体FがコンクリートCの表面に浮上すると、これが、コンクリートCのバイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲が所定の締固め度合いに締固められたことの指標となって、バイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲を締固め完了と判定し、ここでバイブレータVを引き抜く。
【0014】
図3は先に打込んでまだ固まらない下層のコンクリートC1の上に上層のコンクリートC2を打重ねる場合で、この場合、複数の浮遊体Fを型枠Mの底部となる下層のコンクリートC1の上面に所定の間隔で設置する。このようにして型枠M内に上層のコンクリートC2を打込み、上層のコンクリートC2にバイブレータVを挿入しバイブレータVの先端を下層のコンクリートC1の上面から10cm程度差し込んで、振動を加え、浮遊体Fが上層のコンクリートC2の表面に浮上すると、これが、コンクリートC2のバイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲が打重ね面を含めて所定の締固め度合いに締固められたことの指標となって、バイブレータVの挿入位置から浮遊体Fの浮上位置までの範囲を打重ね面を含めて締固め完了と判定し、ここでバイブレータVを引き抜く。
なお、既設の(既に固まっている)下層のコンクリートの上にコンクリートを打重ねる場合でも、同様に、複数の浮遊体を型枠の底部となる下層のコンクリートの上面に所定の間隔で設置して、型枠内にコンクリートを打込み、コンクリートにバイブレータを挿入して振動を加え、浮遊体がコンクリートの表面に浮上したら、これが、コンクリートのバイブレータの挿入位置から浮遊体の浮上位置までの範囲が所定の締固め度合いに締固められたことの指標として、バイブレータの挿入位置から浮遊体の浮上位置までの範囲を締固め完了と判定すればよい。
【0015】
以上説明したように、このコンクリートの締固め完了判定方法によれば、型枠M内に打込まれたコンクリートCにバイブレータVを挿入し振動を加えてコンクリートCを締固める際のコンクリートCの締固め完了を判定するに当たり、型枠M内のコンクリートCのバイブレータVによる締固めによってコンクリートC中をコンクリートCの締固め度合いに応じて浮上する浮遊体Fを、コンクリート打込み前の型枠M内でコンクリートの締固め完了を判定しようとする箇所の底部に設置し、この状態から型枠M内にコンクリートCを打込み、バイブレータVで締固めて、浮遊体Fの浮上をもってコンクリートCの締固め完了と判定するようにしたので、コンクリートCの締固め完了判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除し、誰でも、コンクリートC内部における振動の伝播状況までを簡易かつ適切に把握して、コンクリートCの締固め完了を容易に判定することができる。したがって、コンクリートの締固め作業に容易に従事することができる。
【符号の説明】
【0016】
M 型枠
C コンクリート
C1 下層のコンクリート
C2 上層のコンクリート
V バイブレータ
F 浮遊体