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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】エンジンの始動装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 5/02 20060101AFI20220421BHJP
   F02N 3/02 20060101ALI20220421BHJP
   F02N 15/02 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
F02N5/02 Z
F02N3/02 G
F02N15/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018081301
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019190305
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】391014000
【氏名又は名称】スターテング工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157912
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 健
(74)【代理人】
【識別番号】100074918
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】正札 健太
(72)【発明者】
【氏名】橋場 英希
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-148306(JP,A)
【文献】特開2011-157839(JP,A)
【文献】特開2011-069347(JP,A)
【文献】特開2004-285875(JP,A)
【文献】特開2001-065435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 5/02
F02N 3/02
F02N 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータ本体と、
前記スタータ本体に回転自在に取り付けられたリールと、
前記リールが回転したときの回転力を蓄える蓄力ゼンマイと、
エンジンのクランクシャフトに接続された駆動プーリと、
を備え、
前記蓄力ゼンマイが蓄えた回転力を前記駆動プーリに伝達可能に構成したエンジンの始動装置であって、
前記スタータ本体には、前記駆動プーリの回転を規制するための回転規制部と、前記回転規制部に係合する規制保持部と、が設けられており、
前記回転規制部は、前記スタータ本体に回転可能に取り付けられて、前記駆動プーリに係合する第1の位置と、前記駆動プーリに係合しない第2の位置と、を取りうるように構成されており、
前記規制保持部は、前記回転規制部の周面に形成された突起に係合して回転を規制する板バネを備え、前記板バネが前記回転規制部に弾性的に係合することで、前記回転規制部を前記第1の位置または前記第2の位置に保持可能に形成されており、
前記回転規制部が第1の位置にあるときに前記駆動プーリを回転させようとする力が働いても、前記蓄力ゼンマイに所定のエネルギーが蓄えられるまでは、前記回転規制部の回転が前記板バネによって規制されているため、前記駆動プーリは回転しないように構成され、
前記蓄力ゼンマイに所定のエネルギーが蓄えられると、前記板バネが弾性変形して前記回転規制部の突起を乗り越えることで、前記回転規制部が前記第1の位置から前記第2の位置まで回転し、前記駆動プーリが回転を開始するように構成されていることを特徴とする、エンジンの始動装置。
【請求項2】
前記回転規制部を、前記第2の位置から前記第1の位置へと移動させるための操作部を備えることを特徴とする、請求項記載のエンジンの始動装置。
【請求項3】
前記第1の位置にある前記回転規制部は、前記駆動プーリが所定の方向に回転することを規制するが、前記駆動プーリが前記所定の方向とは反対の方向に回転することは規制しないことを特徴とする、請求項1または2に記載のエンジンの始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンを始動させるために必要とされる回転力を蓄力ゼンマイに対して十分に蓄力させた後で解放することができるエンジンの始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンの始動装置として、リールを手動またはセルモータで回転させることにより蓄力ゼンマイに回転力(エネルギー)を蓄えるものが知られている。こうした始動装置においては、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力がエンジンの回転抵抗を上回った場合に、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力が一気に開放されて駆動プーリを回転させ、駆動プーリに接続されたエンジンのクランクシャフトを回転させるようになっている。
【0003】
しかしながら、エンジンの回転抵抗の値は状況に応じて変化する不安定なものであり、常に一定の値とはならないという特性がある。例えば、ピストンが上死点近傍にある場合にはエンジンの回転抵抗が最も高い値となり、下死点近傍である場合にはエンジンの回転抵抗が最も低い値となる。
【0004】
このため、エンジンの回転抵抗の値が低い場合には、蓄力ゼンマイにエンジンの始動を行うために必要とされる回転力(始動回転力)が蓄積される前であっても、蓄力エネルギーがエンジンの回転抵抗を上回ってしまい、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力が開放されてしまうおそれがあった。このように不十分な蓄力エネルギーで回転力が開放されてしまうと、エンジンの始動に必要な始動回転力を駆動プーリに伝達することができないため、エンジンを確実に始動させることができないという問題が生じていた。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば特許文献1には、蓄力ゼンマイに蓄積された回転力がエンジン始動に付与されるのを規制する回転規制機構を備えた小型エンジンの始動装置が開示されている。この特許文献1記載の構成に係る回転規制機構は、エンジンのクランクシャフトに連動して回転する回転体の偏心位置に設けられた規制ラチェットと、エンジンケース側から規制ラチェットに係合し、所定の弾性押圧力によって規制ラチェットの作動を規制する押圧手段とからなり、蓄力ゼンマイに蓄力された回転力が弾性押圧力を越えたときに回転力によって規制ラチェットが押圧手段との係合を解除する位置まで作動することで回転体を回転可能にさせ、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放してエンジンを始動させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-157839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した特許文献1記載の構成においては、係合を解除する位置まで作動した規制ラチェットは、駆動プーリが回転したときの遠心力によってバネ力に抗して回動し、押圧手段と係合しない位置に保持されるようになっている。このような構成では、駆動プーリの回転速度が遅いなどの理由により規制ラチェットに十分な遠心力が働かないと、バネ力によって規制ラチェットが戻ってしまい、規制ラチェットが押圧手段と係合してしまうおそれがあった。すなわち、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力が開放されて駆動プーリが回転し始めたにもかかわらず、規制ラチェットが再び押圧手段に係合してしまい、駆動プーリの回転が阻止させるおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、エンジンの始動に必要な始動回転力を確実に駆動プーリに伝達することができ、かつ、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放した後に、駆動プーリをスムーズに回転させることができるエンジンの始動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、スタータ本体と、前記スタータ本体に回転自在に取り付けられたリールと、前記リールが回転したときの回転力を蓄える蓄力ゼンマイと、エンジンのクランクシャフトに接続された駆動プーリと、を備え、前記蓄力ゼンマイが蓄えた回転力を前記駆動プーリに伝達可能に構成したエンジンの始動装置であって、前記スタータ本体には、前記駆動プーリの回転を規制するための回転規制部と、前記回転規制部に係合する規制保持部と、が設けられており、前記回転規制部は、前記駆動プーリに係合する第1の位置と、前記駆動プーリに係合しない第2の位置と、を取りうるように構成されており、前記規制保持部は、前記回転規制部に弾性的に係合することで、前記回転規制部を前記第1の位置または前記第2の位置に保持可能に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記の通りであり、スタータ本体には、駆動プーリの回転を規制するための回転規制部と、回転規制部に係合する規制保持部と、が設けられており、回転規制部は、駆動プーリに係合する第1の位置と、駆動プーリに係合しない第2の位置と、を取りうるように構成されており、規制保持部は、回転規制部に弾性的に係合することで、回転規制部を第1の位置または第2の位置に保持可能に形成されている。このような構成によれば、エンジンの始動に必要な始動回転力が蓄力ゼンマイに蓄えられるまでは、第1の位置にある回転規制部によって駆動プーリの回転が阻止される。そして、蓄力ゼンマイに蓄力された回転力が規制保持部の弾性力を超えると、回転規制部が第1の位置から第2の位置に移動し、駆動プーリが回転可能な状態となる。このように回転規制部が移動することで、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力が一気に開放されてエンジンを始動させることができる。すなわち、規制保持部の弾性力を調整することによって蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放するタイミングを任意に設定できるので、エンジンの回転抵抗の値に左右されることなく、エンジンの始動に必要な始動回転力を確実に駆動プーリに伝達することができる。
【0011】
また、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放した後は、回転規制部が規制保持部によって第2の位置に保持されるため、駆動プーリの回転を邪魔することはない。よって、蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放した後に、駆動プーリをスムーズに回転させることができる。
【0012】
なお、回転規制部は、スタータ本体に回転可能に取り付けられていてもよい。このように回転式の回転規制部とすれば、回転規制部を回転させるだけで容易に次回始動時の蓄力状態に戻す(第2の位置から第1の位置へと移動させる)ことができる。
【0013】
また、回転規制部を、第2の位置から第1の位置へと移動させるための操作部を備えるようにしてもよい。このように構成すれば、回転規制部を第1の位置へと移動させる操作を容易に行うことができる。
【0014】
また、第1の位置にある回転規制部は、駆動プーリが所定の方向に回転することを規制するが、駆動プーリが所定の方向とは反対の方向に回転することは規制しないように構成してもよい。このように構成すれば、駆動プーリが逆回転した場合に、駆動プーリをロックしないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】始動装置の外観図である。
図2】始動装置の断面図である。
図3】操作レバーを取り外した始動装置の外観図である。
図4】始動装置の内部構造を示す図であって、回転規制部が第1の位置にある図である。
図5】始動装置の内部構造を示す図であって、回転規制部が第2の位置にある図である。
図6】回転規制部の構造を説明する図である。
図7】始動時の回転規制部の動きを説明する図であって、(a)回転規制部による規制が解除される前の図、(b)回転規制部による規制が解除される直前の図、(a)回転規制部による規制が解除された後の図である。
図8】操作レバーによる操作を説明する図であって、(a)操作レバーを操作する前の図、(b)操作レバーを操作中の図、(a)操作レバーを操作後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る始動装置10は、エンジンのクランクシャフトに回転力を付与することにより、エンジンの始動を行うためのものであり、図1および図2に示すように、スタータ本体11と、リール15と、リターンゼンマイ17と、蓄力ゼンマイ18と、カム部材20と、ラチェット部材21と、駆動プーリ25と、回転規制部30と、規制保持部40と、操作レバー45と、レバー支持部材46と、を備える。
【0017】
スタータ本体11は、図2に示すように、始動装置10の主要構成部品を収容しつつ、エンジンの側面部を覆うように配置されており、エンジン側に配置された円盤状のスタータベース12と、スタータベース12の外側を覆うように固定されたスタータケース13と、を備える。スタータケース13の中央には、エンジンのクランク軸(図示せず)と対向するように内側に突出したリール支軸13aが設けられている。このリール支軸13aには、後述するリール15やカム部材20が回転可能に取り付けられている。
【0018】
リール15は、周囲にロープ16を巻き回すためのロープ保持溝15aを形成したホイール状の部材である。このリール15は、中心部に貫通形成された孔に上記したリール支軸13aを貫通させることで、リール支軸13aに対して回転自在に取り付けられている。このリール15に巻回されたロープ16は、一端がリール15のロープ保持溝15aに固定され、他端がスタータ本体11の外部に引き出されている。このため、この引き出されたロープ16を作業者が勢い牽引することで、リール15がリール支軸13aを中心に回転するように形成されている。
【0019】
リターンゼンマイ17は、一端がスタータケース13に固定され、他端がリール15に固定されたゼンマイバネである。このリターンゼンマイ17は、ロープ16が引かれてリール15が回転したときに回転力を蓄えるためのものである。このリターンゼンマイ17が回転力を蓄えることで、引かれたロープ16が離されたときに、リターンゼンマイ17のバネ力でリール15が逆回転し、リール15がロープ16を巻き取るように構成されている。
【0020】
蓄力ゼンマイ18は、一端がリール15に固定され、他端がカム部材20に固定されたゼンマイバネである。この蓄力ゼンマイ18は、後述する駆動プーリ25を回転させるために、リール15が回転したときの回転力を蓄えるためのものである。ロープ16を引くことでリール15が回転すると、蓄力ゼンマイ18に回転力が蓄積されていき、蓄力された回転力が一定のレベルに到達すると、後述する駆動プーリ25が回転を開始し、駆動プーリ25の回転に伴ってエンジンのクランクシャフトが回転する構造となっている。
【0021】
カム部材20は、スタータ本体11のリール支軸13aに回転自在に取り付けられた短筒状の部材である。このカム部材20は、ワンウェイクラッチを介してリール15と接続されており、ロープ16を引き出す方向にリール15が回転しているときには、カム部材20は回転せず、ロープ16を巻き取る方向にリール15が回転しているときには、カム部材20はリール15と一体的に回転するように構成されている。このため、ロープ16を引き出す操作が行われているときには、リール15とカム部材20とが相対回転して蓄力ゼンマイ18に回転力が蓄積されるが、ロープ16を巻き取っているときには、リール15とカム部材20とが相対回転せず、蓄力ゼンマイ18の回転力が解放されないように構成されている。
【0022】
ラチェット部材21は、カム部材20の偏心位置に設けられたラチェット回動軸20aに対して、回動可能に取り付けられた部材である。このラチェット部材21は、カム部材20の周方向に突出するようにバネによって付勢されており、周方向に突出することで、後述する駆動プーリ25の内周面に係合するように形成されている。ただし、このラチェット部材21は、一方の方向に揺動可能となっており、揺動することでカム部材20の中心方向へ退避可能となっている。このため、カム部材20が駆動プーリ25に対して所定の方向(エンジンを始動させる方向)に回転しようとしたときには、ラチェット部材21が駆動プーリ25に係合するが、カム部材20が駆動プーリ25に対して所定の方向とは反対の方向に回転しようとしたときには、駆動プーリ25の内周面に押されてラチェット部材21が退避するので、ラチェット部材21が駆動プーリ25に係合しないようになっている。
【0023】
具体的には、蓄力ゼンマイ18に蓄積された回転力によってカム部材20が回転しようとしたときには、ラチェット部材21が駆動プーリ25に係合するので、カム部材20の回転力が駆動プーリ25に伝達されるようになっている。一方、カム部材20と駆動プーリ25とが相対的に反対方向に回転しようとしたとき、例えば、ロープ16を巻き取る動作に連動してカム部材20が回転しているときや、エンジンが回転を開始したことにより、駆動プーリ25の回転数がカム部材20の回転数を上回ったときには、ラチェット部材21が退避方向に揺動して駆動プーリ25に係合しない。よって、カム部材20と駆動プーリ25とが互いに回転力を伝達しないようになっている。
【0024】
駆動プーリ25は、エンジンのクランクシャフト(図示せず)に接続される筒状の部材である。この駆動プーリ25は、リール15やカム部材20の回転軸と同軸上において、回転自在に支持されている。この駆動プーリ25には、蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力がカム部材20を介して伝達される。蓄力ゼンマイ18から伝達された回転力により駆動プーリ25が回転を開始すると、駆動プーリ25の回転に連動してエンジンのクランクシャフトが強制的に回転し、エンジンに始動回転力が付与されるようになっている。
【0025】
なお、この駆動プーリ25の内周面には、上記したラチェット部材21に係合させるための被係合部25aが形成されている。本実施形態に係る被係合部25aは、図2および図4に示すような凹部として形成されている。
【0026】
また、この駆動プーリ25の端縁には、図2および図4に示すようなフランジ26が設けられている。このフランジ26は、後述する回転規制部30と係合可能に外周方向に突出して形成されている。このフランジ26には、図4に示すようなのこぎり刃状の切り欠き部26aが設けられている。この切り欠き部26aを設けることで、フランジ26がラチェットホイールとして機能するように構成されている。すなわち、この切り欠き部26aに後述する規制爪部32が係合することで、駆動プーリ25の回転が一方向でのみ規制されるように構成されている。具体的には、この切り欠き部26aは、のこぎり刃状の一方の面が規制爪部32に対して略垂直に当接して係合する被係止面26bとなっている。また、切り欠き部26aの他方の面は、規制爪部32に対して斜めに当接して係合しない傾斜面26cとなっている。この傾斜面26cに規制爪部32が当たったときには、規制爪部32が傾斜面26cに沿って揺動し、切り欠き部26aを乗り越えるように構成されている。
【0027】
回転規制部30は、駆動プーリ25の回転を規制するためのものである。詳しくは、この回転規制部30は、蓄力ゼンマイ18にエンジンの始動を行うために必要とされる回転力が蓄力されるまで、駆動プーリ25の回転を規制するようになっている。この回転規制部30は、駆動プーリ25の側面に臨むようにスタータ本体11に設けられている。本実施形態に係る回転規制部30は、図2および図6等に示すように、ベースプレート31と、規制爪部32と、カバープレート33と、ピン35と、リタンスプリング36と、を備える。これらの部品は、一体的に組付けられて回転規制部30を構成しており、スタータベース12に取り付けられた軸部材34を中心に、スタータベース12に回転可能に取り付けられている。
【0028】
上記した回転規制部30を構成する部品のうち、ベースプレート31およびカバープレート33は、対向するように配置された円盤状の部材である。このベースプレート31とカバープレート33との間には、規制爪部32が揺動可能に取り付けられている。本実施形態においては、規制爪部32が周方向に一定間隔で複数配置されている。規制爪部32は、ピン35を中心に揺動可能となっており、リタンスプリング36によって所定の方向に常時付勢されている。自然状態において常時付勢された規制爪部32は、ベースプレート31の表面に突出形成された受部31dに当接しており、これにより、規制爪部32は外周方向に突出した姿勢を維持するように構成されている。ただし、規制爪部32は、受部31dの反対方向には揺動可能であり(図6の曲線矢印を参照)、リタンスプリング36に付勢力に抗して揺動することで、内側に退避可能となっている。
【0029】
なお、ベースプレート31の外周面には、図6に示すように凹凸が形成されている。具体的には、ベースプレート31の外周面には、突起31a、第1凹部31b、第2凹部31cが周方向に順番に形成されている。これらの突起31a、第1凹部31b、第2凹部31cは、3つを1セットとして周方向に所定間隔で配置されている。このうち、突起31aは、後述する板バネ41の側面に係合させるために外周方向に突出して形成されている。また、第1凹部31bおよび第2凹部31cは、板バネ41の先端を係合させるために凹設されている。この第1凹部31bおよび第2凹部31cは、突起31aを挟んで互いに反対側に配設されている。また、第1凹部31bは、突起31aに連続するように、突起31aから間隔を設けずに配置されているが、第2凹部31cは、突起31aから間隔を設けて配置されている。また、第2凹部31cは、第1凹部31bよりも周方向に長く形成されている。
【0030】
規制保持部40は、回転規制部30に係合することにより、回転規制部30の回転するタイミングを制御するためのものである。すなわち、蓄力ゼンマイ18にエンジンの始動を行うために必要とされる回転力が蓄力されるまで回転規制部30の回転を規制し、これにより間接的に駆動プーリ25の回転を規制するものである。この規制保持部40は、回転規制部30の周面に臨むようにスタータ本体11に設けられている。本実施形態に係る規制保持部40は、図4等に示すように、板バネ41と、板バネ固定部42と、を備える。板バネ41は、解放端がベースプレート31の周面に臨むように、板バネ固定部42によってスタータベース12に固定されている。
【0031】
この規制保持部40の板バネ41は、回転規制部30に弾性的に係合することで、回転規制部30を第1の位置または第2の位置に保持可能に形成されている。すなわち、上記した回転規制部30は、図4に示すように、駆動プーリ25に係合する第1の位置と、図5に示すように、駆動プーリ25に係合しない第2の位置と、を取りうるように構成されている。
【0032】
図4に示す第1の位置においては、第1凹部31bに板バネ41の先端が係合することにより、回転規制部30が回転しないように保持されている。この第1の位置は、規制爪部32が駆動プーリ25のフランジ26と接触可能な位置であり、規制爪部32が駆動プーリ25の切り欠き部26aと係合することで、駆動プーリ25の回転を抑制することができる位置である。
【0033】
ただし、第1の位置にある回転規制部30は、駆動プーリ25が所定の方向(エンジンを始動させる方向)に回転することは規制するが、駆動プーリ25がこの所定の方向とは反対の方向に回転することは規制しない。すなわち、駆動プーリ25が所定の方向とは反対の方向に回転した場合、規制爪部32は傾斜面26cに押されて退避方向に揺動するので、規制爪部32が切り欠き部26aに引っかかることはなく、駆動プーリ25の回転を妨げないように構成されている。
【0034】
また、図5に示す第2の位置においては、第2凹部31cに板バネ41の先端が係合することにより、回転規制部30が一定範囲を超えて回転しないように保持されている。この第2の位置は、規制爪部32が駆動プーリ25のフランジ26と接触できない位置であり、このため、回転規制部30が駆動プーリ25の回転を抑制できない位置となっている。
【0035】
操作レバー45は、回転規制部30を所定の角度回転させることにより、回転規制部30を第2の位置から第1の位置へと移動させるための操作部である。この操作レバー45は、図1に示すようなレバーであり、後述するレバー支持部材46に対して、回動軸部45bを中心に回動可能に取り付けられている。この操作レバー45は、作業者が把持可能な把持部45aと、把持部45aの両側に張り出して設けられた突出部45cと、を備える。両側の突出部45cの下方には、それぞれ係合軸部45dが突出している。
【0036】
ここで、上記した回転規制部30は、図3に示すように、一部がスタータケース13の外部に露出するようになっている。そして、この露出した回転規制部30を覆うように、上記した操作レバー45が設けられている。また、図2および図8に示すように、この操作レバー45の係合軸部45dは、回転規制部30の軸部材34と平行に、回転規制部30の規制爪部32に係合可能な位置まで延設されている。このため、操作レバー45を回動させることで、規制爪部32に係合した係合軸部45dが回転規制部30を所定角度分だけ回転させるように構成されている。
【0037】
なお、この操作レバー45は、図示しないバネによって常に付勢されており、図8(a)に示す初期位置に維持されるようになっている。すなわち、図8(c)に示すように操作レバー45を奥まで操作したとしても、操作した手を離すと自動的に図8(a)に示す状態に戻るようになっている。
【0038】
レバー支持部材46は、上記した操作レバー45をスタータ本体11に取り付けるためのものである。本実施形態に係るレバー支持部材46は、図1に示すように、両端の固定部46aがスタータケース13に固定されることで、スタータケース13の表面を横切るように架設されている。そして、レバー支持部材46の中央付近には、操作レバー45を回動可能に支持する回動軸部45bが設けられている。
【0039】
次に、上記した始動装置10の動作について説明する。始動装置10でエンジンを始動させる場合には、まず図4に示すように回転規制部30を第1の位置に配置する。このように回転規制部30を第1の位置に配置すると、回転規制部30の回転が規制保持部40の板バネ41によって規制され、更には、駆動プーリ25の回転が回転規制部30によって規制された状態となる。この状態で作業者がリール15のロープ16を引くと、リール15が回転する。このとき、ラチェット部材21が駆動プーリ25に係合しているため、カム部材20は駆動プーリ25と一体的でなければ回転することができない。そして、駆動プーリ25は回転規制部30および規制保持部40によって回転を規制されているため、カム部材20も回転しない。よって、カム部材20が回転せず、リール15のみが回転するため、両者の間に配置された蓄力ゼンマイ18に回転力が蓄積されていく。
【0040】
なお、ロープ16を最後まで引き出しても十分なエネルギーを蓄えることができなかった場合には、一度ロープ16を離して、ロープ16をリール15に巻き取らせる。このとき、カム部材20はリール15と一体的に回転するため、蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力は解放されることはない。また、カム部材20に取り付けられたラチェット部材21は退避方向に揺動するため、カム部材20の回転が駆動プーリ25に伝達されることもない。そして、ロープ16がリール15に巻き取られたら、再びロープ16を牽引することで、蓄力ゼンマイ18に更に回転力を蓄積することができる。
このように蓄力ゼンマイ18に蓄えたエネルギーが一定のレベルに達すると、図7に示すように、回転規制部30のロックが解除される。
【0041】
すなわち、蓄力ゼンマイ18に蓄えたエネルギーが一定のレベルに達するまでは、図7(a)に示すように、駆動プーリ25を回転させようとする力が働いても、それを受け止める回転規制部30の回転が規制保持部40の板バネ41によって規制されているため、駆動プーリ25は回転しない。
【0042】
しかしながら、板バネ41の弾性力を超えるエネルギーが蓄力ゼンマイ18に蓄えられると、図7(b)に示すように、板バネ41の弾性力に抗して駆動プーリ25が回転を開始する。駆動プーリ25の回転に伴って回転規制部30も回転を開始し、これにより、板バネ41は弾性変形し始める。
【0043】
そして、板バネ41が弾性変形することにより、回転規制部30の突起31aを乗り越えると、図7(c)に示すように、板バネ41の先端が第2凹部31cに係合し、回転規制部30が第2の位置に配置される。この第2の位置では、回転規制部30が駆動プーリ25に係合しないので、駆動プーリ25は蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力により、勢いよく回転する。駆動プーリ25が回転すると、駆動プーリ25に連結されたクランクシャフトが回転し、エンジンを始動させることができる。
【0044】
なお、エンジンを一度止めた後で、エンジンを再始動させる場合には、上記した第2の位置にある回転規制部30を第1の位置に戻す必要がある。本実施形態においては、操作レバー45を使用することにより、回転規制部30を第2の位置から第1の位置へと移動させることができる。
【0045】
すなわち、図8(a)に示すように、第2の位置にある回転規制部30の規制爪部32は、操作レバー45の係合軸部45dに係合するようになっている。この状態で操作レバー45を揺動させると、図8(b)に示すように、係合軸部45dが規制爪部32を押し込むことで、板バネ41の弾性力に抗して回転規制部30が回転する。そして、奥まで操作レバー45を揺動させると、図8(c)に示すように、板バネ41が第1凹部31bに係合する位置まで回転規制部30が回転する。これにより、回転規制部30が第1の位置まで移動する。
【0046】
なお、この後にエンジンを始動させる操作を行うと、回転規制部30は操作レバー45で回転させられたのと同じ方向に回転することで、第1の位置から第2の位置まで移動する。その後は、また上記した図8に示す操作を行えば、回転規制部30を第2の位置から第1の位置まで移動させることができる。このように、本実施形態に係る回転式の回転規制部30によれば、回転規制部30を同じ方向に所定角度ずつ回転させることで、第1の位置と第2の位置とを交互に出現させることができる。
【0047】
また、既に説明したように、規制爪部32は退避方向に揺動可能である。このため、回転規制部30が第1の位置から第2の位置まで移動するときに、係合軸部45dに当たった規制爪部32が退避方向に揺動することで、規制爪部32が係合軸部45dの前方に回り込めるように構成されている。規制爪部32が係合軸部45dの前方に回り込むことで、図8(a)に示すように、第2の位置にある回転規制部30の規制爪部32は、操作レバー45の係合軸部45dに係合するようになっている。
【0048】
以上説明したように、スタータ本体11には、駆動プーリ25の回転を規制するための回転規制部30と、回転規制部30に係合する規制保持部40と、が設けられており、回転規制部30は、駆動プーリ25に係合する第1の位置と、駆動プーリ25に係合しない第2の位置と、を取りうるように構成されている。そして、規制保持部40は、回転規制部30に弾性的に係合することで、回転規制部30を第1の位置または第2の位置に保持可能に形成されている。このような構成によれば、エンジンの始動に必要な始動回転力が蓄力ゼンマイ18に蓄えられるまでは、第1の位置にある回転規制部30によって駆動プーリ25の回転が阻止される。そして、蓄力ゼンマイ18に蓄力された回転力が規制保持部40の弾性力を超えると、回転規制部30が第1の位置から第2の位置に移動し、駆動プーリ25が回転可能な状態となる。このように回転規制部30が移動することで、蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力が一気に開放されてエンジンを始動させることができる。すなわち、規制保持部の弾性力を調整することによって蓄力ゼンマイに蓄えられた回転力を開放するタイミングを任意に設定できるので、エンジンの回転抵抗の値に左右されることなく、エンジンの始動に必要な始動回転力を確実に駆動プーリ25に伝達することができる。
【0049】
また、蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力を開放した後は、回転規制部30が規制保持部40によって第2の位置に保持されるため、駆動プーリ25の回転を邪魔することはない。よって、蓄力ゼンマイ18に蓄えられた回転力を開放した後に、駆動プーリ25をスムーズに回転させることができる。
【0050】
なお、回転規制部30は、スタータ本体11に回転可能に取り付けられていてもよい。このように回転式の回転規制部30とすれば、回転規制部30を回転させるだけで容易に次回始動時の蓄力状態に戻す(第2の位置から第1の位置へと移動させる)ことができる。
【0051】
また、回転規制部30を、第2の位置から第1の位置へと移動させるための操作レバー45を備えるようにしてもよい。このように構成すれば、回転規制部30を第1の位置へと移動させる操作を容易に行うことができる。
【0052】
また、第1の位置にある回転規制部30は、駆動プーリ25が所定の方向に回転することを規制するが、駆動プーリ25が所定の方向とは反対の方向に回転することは規制しないように構成してもよい。このように構成すれば、駆動プーリ25が逆回転した場合に、駆動プーリ25をロックしないようにすることができる。
【0053】
なお、上記した実施形態においては、ロープ16を牽引することで蓄力ゼンマイ18に回転力を蓄積させるようにしたが、これに限らない。例えば、セルモータなどの回転力により蓄力ゼンマイ18に回転力を蓄積させるようにしてもよい。
【0054】
また、上記した実施形態においては、回転規制部30を第2の位置から第1の位置へと移動させるための操作部として、操作レバー45を設けた。しかしながら、この操作部はレバー形状に限らず、他の形状であってもよい。例えば、ダイヤル形状の操作部を設け、この操作部を回転させたときに、回転規制部30が第2の位置から第1の位置へと移動するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 始動装置
11 スタータ本体
12 スタータベース
13 スタータケース
13a リール支軸
15 リール
15a ロープ保持溝
16 ロープ
17 リターンゼンマイ
18 蓄力ゼンマイ
20 カム部材
20a ラチェット回動軸
21 ラチェット部材
25 駆動プーリ
25a 被係合部
26 フランジ
26a 切り欠き部
26b 被係止面
26c 傾斜面
30 回転規制部
31 ベースプレート
31a 突起
31b 第1凹部
31c 第2凹部
31d 受部
32 規制爪部
33 カバープレート
34 軸部材
35 ピン
36 リタンスプリング
40 規制保持部
41 板バネ
42 板バネ固定部
45 操作レバー(操作部)
45a 把持部
45b 回動軸部
45c 突出部
45d 係合軸部
46 レバー支持部材
46a 固定部
図1
図2
図3
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図8