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特許7061336犠牲陽極構造体並びに犠牲陽極の消耗状態判別装置及び判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】犠牲陽極構造体並びに犠牲陽極の消耗状態判別装置及び判別方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/10 20060101AFI20220421BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20220421BHJP
   C23F 13/22 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C23F13/10 A
C23F13/02 A
C23F13/02 H
C23F13/02 L
C23F13/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018137140
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020012189
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000232759
【氏名又は名称】日本防蝕工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】小林 厚史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 清隆
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-264286(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106947976(CN,A)
【文献】実開昭52-129727(JP,U)
【文献】実開昭52-084512(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食対象鋼材に取り付けられる犠牲陽極構造体において、
犠牲陽極構造体は、犠牲陽極の長手方向でその内部に、第1芯金と第2芯金とが耐熱性絶縁体を介して接続されている複合芯金を備え、
前記第1芯金の犠牲陽極の内部への侵入長さは、前記第2芯金の犠牲陽極の内部への侵入長さよりも短くされており、
前記第1芯金と前記第2芯金との間に配置された前記耐熱性絶縁体は、前記犠牲陽極の消耗量が所望の量に達した時に、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体との接合部が、前記犠牲陽極の前記第1芯金側の端面から露出するような位置に設けられていることを特徴とする犠牲陽極構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金は、前記犠牲陽極の長手方向の1つの端面若しくは前記1つの端面に隣接する何れか1つの側面から突出し、前記第2芯金は、前記犠牲陽極の長手方向の前記1つの端面に対向する他の端面若しくは前記他の端面に隣接する何れか1つの側面から突出していることを特徴とする犠牲陽極構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の犠牲陽極構造体において、
前記耐熱性絶縁体は、前記犠牲陽極の消耗量が90%若しくは85%となった時の犠牲陽極の第1芯金側の端面から、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体との接合部が露出するような位置に設けられていることを特徴とする犠牲陽極構造体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金には、金具が電気的に導通した状態で接続され、
前記金具は、前記第1芯金から、前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心と所定の距離を有しながら前記犠牲陽極の前記第1芯金側の端面に対向する他の端面方向に延伸し、
前記金具と前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心との所定の距離とは、前記犠牲陽極の消耗量が所望の量に達した時の前記犠牲陽極の表面から、前記金具の全体が露出するような距離であることを特徴とする犠牲陽極構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の犠牲陽極構造体において、
前記金具と前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心との所定の距離とは、前記犠牲陽極の消耗量が90%若しくは85%に達した時の前記犠牲陽極の表面から、前記金具の全体が露出するような距離であることを特徴とする犠牲陽極構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金及び前記第2芯金の何れか一方は、防食対象鋼材との導通が起こらないよう絶縁状態で防食対象鋼材に保持され、
絶縁状態で防食対象鋼材に保持された一方の芯金には、防食対象鋼材との導通が起こらないよう絶縁状態にされた導線の一端が接続され、その他端は電位差若しくは抵抗測定用の電位測定装置内に引き込まれ、
他方の芯金は、防食対象鋼材と電気的に接続され、前記防食対象鋼材は前記電位測定装置と電気的に接続されていることを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別装置。
【請求項7】
前記電位測定装置が、発光体であることを特徴とする請求項6に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置。
【請求項8】
前記発光体が、LED電球であることを特徴とする請求項7に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置。
【請求項9】
請求項6記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置において、前記電位測定装置で測定した第1芯金と第2芯金の電位差、あるいは、第1芯金と第2芯金との抵抗を検知することで、犠牲陽極の消耗状態を判別することを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置において、前記発光体の点灯を検知することで、犠牲陽極の消耗状態を判別することを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭及び鋼矢板等の港湾構造物並びに河川構造物等の、水中及び土中に設置された防食対象鋼材の腐食発生を防止するために設けられた犠牲陽極構造体並びに犠牲陽極の消耗状態判別装置及び犠牲陽極の消耗状態の判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
桟橋及び護岸等の港湾施設、道路橋、並びに鉄道橋等の基礎部を構成する鋼管杭及び鋼矢板等の防食対象鋼材が、海水、河川水及び土壌によって腐食することを防止する方法として、防食対象鋼材よりもイオン化傾向の大きいAl、Zn、Mg等からなる犠牲陽極(流電陽極ともいう)を用いた電気防食法が広く用いられており、犠牲陽極の中には、犠牲陽極の内部を貫通する芯金によって支持され、防食対象鋼材に取り付けられているタイプがある(特許文献1、2参照)。
【0003】
犠牲陽極を用いた電気防食法の実施に際しては、設計したとおりの防食電流を犠牲陽極が発生しているか否かを監視し、犠牲陽極の消耗状態を定期的に把握するとともに、防食対象鋼材の電位と犠牲陽極の寿命を把握しておく必要がある。
犠牲陽極の消耗は、理論的には、ファラデーの法則に従って発生電流と時間との積( 電気量) に比例するため、犠牲陽極が発生する電流を経時的に測定しておくことにより、犠牲陽極の消耗量を推定することができる。
【0004】
犠牲陽極の寿命を予測するための従来技術としては、例えば、特許文献3に、犠牲陽極であるMg陽極に結ぶMg陽極端子と、埋設管に結ぶ埋設管端子と、前記Mg陽極から埋設管に流れる電流を定期的にモニタリングし、この値とあらかじめ入力された測定対象となっているMg陽極の電気量から残存電気量を演算する演算回路と、前記演算回路で演算された残存電気量及び日数を表示する表示回路とからなる電気防食用Mg陽極の寿命予測装置が提案されている。
そして、この寿命予測装置によれば、防食電流はMg陽極から埋設管に対してその電位差に基づいて常時流出し、演算回路は定期的にMg陽極から埋設管側に流出している電流値をモニタリングしており、この値と、あらかじめ入力されている対象となるMg陽極の電気量から、現在までの消耗量を演算するとともに、Mg陽極の消耗度及び寿命を知ることができるとされている。
【0005】
また、犠牲陽極の消耗量を監視するための従来技術としては、例えば、特許文献4には、電気防食された水中金属構造物に取り付けた該水中金属構造物と同種の金属で作成されたセンシング電極と該水中金属構造物とを絶縁被覆されたリードワイヤにより無抵抗電流計測器を介して接続してなる電気防食電流モニターを水中金属構造物に複数個配設し、各モニターの電流データを集約し監視する水中金属構造物全体の電気防食監視システムが提案されている。
そして、この電気防食監視システムによれば、銀塩化銀電極や飽和カロメル電極などの照合電極を用いて、水中の金属構造体の電位を測定する従来方法と異なり、防食電流を直接測定することによって、電気防食状態にある水中金属構造体の安全性及び長期耐久性の向上を効率よくかつ効果的に図ることができ、また、水中金属構造体の防食状況あるいは犠牲陽極の消耗状態を無人で遠隔的に監視することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-171477号公報
【文献】特開平7-316851号公報
【文献】特開平6-294770号公報
【文献】特開平8-283969号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「RECOMMENDED PRACTICE DNVGL-RP-B401 Edition June 2017」Cathodic protection design p.38,54。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献3、4に示される従来技術において、犠牲陽極の消耗量が、当初の設計値とほぼ一致している場合は問題ないが、長期間防食を行っている間には水温、水質汚染度、及び水の抵抗率等の構造物を取り巻く環境の変化、構造物に施された塗膜の予想を超える劣化、並びに他の構造物との接続等による構造物自体の構造変化などの要因が設計当初の予想を超えて変化し、その変化が犠牲陽極の寿命に影響を与えることがある。
【0009】
また、防食対象鋼材が大型構造物及び複雑な構造物の場合には、防食条件が対象鋼材全体で均一にならず、ある箇所では犠牲陽極は防食設計値よりも消耗速度が速く、別の箇所の犠牲陽極は防食設計値よりも消耗速度が遅いという場合もある。
【0010】
電気防食に適用される犠牲陽極の消耗状態の判別は、これまで防食対象鋼材の電位を測定する方法、または潜水調査による目視若しくは寸法を測定する方法、あるいは、前記特許文献3、4で提示される方法などで行われてきた。しかしながら、電気防食時の電位貴化は必ずしも犠牲陽極の消耗によるものだけで生ずるのではなく、犠牲陽極の脱落や設置環境の変化によっても生ずることから、従来の電位測定では、電位貴化が消耗によるものか否かを即座に判断できなかった。また、潜水による犠牲陽極の消耗量調査では、残存状態が明確に把握できるが、調査に要する費用が高額となる問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、犠牲陽極の消耗状態を陸上で簡易にかつ正確に判別することができる犠牲陽極構造体を提供することを目的とする。
さらに、この犠牲陽極構造体を用いた犠牲陽極の消耗状態判別装置及び犠牲陽極の消耗状態判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記特許文献1、2にも示されるように、従来の犠牲陽極の中には、その内部を長手方向に貫通する1本の芯金によって保持され、犠牲陽極の両端面から突出する芯金の端部が、防食対象鋼材に固定支持されているタイプがある。
本発明者は、従来の芯金に代えて、第1芯金と第2芯金とを耐熱性絶縁体を介して接続した複合芯金を用い、前記耐熱性絶縁体を適切な位置に配置することによって、犠牲陽極の消耗状態を簡易にかつ正確に判別し得ることを見出した。
【0013】
具体的に言えば、第1芯金と第2芯金とが耐熱性絶縁体を介して接続されている複合芯金により、犠牲陽極の内部を長手方向に支持する際に、犠牲陽極の長手方向の1つの端面若しくは前記1つの端面に隣接する犠牲陽極側面から犠牲陽極内部への第1芯金の侵入長さを、前記1つの端面に対向する他の端面若しくは前記他の端面に隣接する犠牲陽極側面から犠牲陽極内部への第2芯金の侵入長さより短くして、前記第1芯金と第2芯金の間に介在配置された前記耐熱性絶縁体を、犠牲陽極内部の長手方向中心位置と犠牲陽極の前記1つの端面(第1芯金側)の間に位置させ、さらに、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体の接合部の位置を適正化した場合、犠牲陽極の消耗によって、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体の前記接合部が、犠牲陽極の前記1つの端面から露出状態となったことを、例えば、数ミリボルト以上の電位差を検知することによって、あるいは、所定の電位差の発生による発光体の点灯によって、さらには抵抗を計測することによって、犠牲陽極の消耗状態を簡易にかつ正確に判別し得ることを見出したのである。
このように、本発明は第1芯金と第2芯金の各々に発生する電位の差、若しくは第1芯金と第2芯金との抵抗を検知することで犠牲陽極の消耗状態を判別するものである。
一方、犠牲陽極の消耗量と長さとの関係が記載された前記非特許文献1(「RECOMMENDED PRACTICE DNVGL-RP-B401 Edition June 2017」Cathodic protection design p.38,54参照)によると、犠牲陽極の形状がLong slender stand -offタイプの場合、「初期の犠牲陽極の長さの90%まで消耗した時、犠牲陽極の消耗量が90%に達する」、言い換えれば、「犠牲陽極の長さが10%消耗したときに、犠牲陽極全体としての消耗量は90%になる」という考え方に準拠して、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体との接合部を所定の位置に設けることで、犠牲陽極の消耗量が90%以上になったことを、前記電位差を検知すること、発光体の点灯を視認すること、若しくは抵抗を検知することによって、簡易にかつ正確に判別し得ることを見出したのである。
ここに、「Long slender stand -off」タイプとは、犠牲陽極の長さをL、同断面周長をcとした場合にr=c/2πで表される犠牲陽極の等価半径rから、L≧4rを満たす犠牲陽極である。一方、L<4rの場合は「Short slender stand -off」タイプと称され、「犠牲陽極の長さが10%消耗した時に、その消耗量は85%になる」という考え方に準拠している。
【0014】
また、本発明者は、犠牲陽極の消耗状態を、簡易にかつより正確に判別するために、前記のとおり、複合芯金として、第1芯金と第2芯金とを耐熱性絶縁体を介して接続することに加え、前記第1芯金に、金具を接続し、犠牲陽極の断面方向の消耗量を検知するために、所期の消耗量に達した場合に、金具の全体が犠牲陽極から露出するように配置することにより、第1芯金と第2芯金間の導通がOFFとなることを、例えば、電位差測定あるいは発光体の点灯、若しくは抵抗測定によって検知し、犠牲陽極全体の消耗状態を簡易にかつ一段と正確に判別し得ることを見出したのである。
金具は第1芯金と電気的に導通し、犠牲陽極が所期の消耗量に達した場合に、第1芯金と第2芯金間の導通がOFFとなりさえすれば、どのような形状のものであっても良い。さらに、複数個が備わっていても良い。
【0015】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、次のような特徴を有する。
(1)防食対象鋼材に取り付けられる犠牲陽極構造体において、
犠牲陽極構造体は、犠牲陽極の長手方向でその内部に、第1芯金と第2芯金とが耐熱性絶縁体を介して接続されている複合芯金を備え、
前記第1芯金の犠牲陽極の内部への侵入長さは、前記第2芯金の犠牲陽極の内部への侵入長さよりも短くされており、
前記第1芯金と前記第2芯金との間に配置された前記耐熱性絶縁体は、前記犠牲陽極の消耗量が所望の量に達した時に、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体との接合部が、前記犠牲陽極の前記第1芯金側の端面から露出するような位置に設けられていることを特徴とする犠牲陽極構造体。
(2)前記(1)に記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金は、前記犠牲陽極の長手方向の1つの端面若しくは前記1つの端面に隣接する何れか1つの側面から突出し、前記第2芯金は、前記犠牲陽極の長手方向の前記1つの端面に対向する他の端面若しくは前記他の端面に隣接する何れか1つの側面から突出していることを特徴とする犠牲陽極構造体。
(3)前記(1)または(2)に記載の犠牲陽極構造体において、
前記耐熱性絶縁体は、前記犠牲陽極の消耗量が90%若しくは85%となった時の犠牲陽極の第1芯金側の端面から、前記第1芯金と前記耐熱性絶縁体との接合部が露出するような位置に設けられていることを特徴とする犠牲陽極構造体。
(4)前記(1)乃至(3)の何れかに記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金には、金具が電気的に導通した状態で接続され、
前記金具は、前記第1芯金から、前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心と所定の距離を有しながら前記犠牲陽極の前記1つの端面に対向する他の端面方向に延伸し、
前記金具と前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心との所定の距離とは、前記犠牲陽極の消耗量が所望の量に達した時の前記犠牲陽極の表面から、前記金具の全体が露出するような距離であることを特徴とする犠牲陽極構造体。
(5)前記(4)に記載の犠牲陽極構造体において、
前記金具と前記第2芯金及び前記耐熱性絶縁体の中心との所定の距離とは、前記犠牲陽極の消耗量が90%若しくは85%に達した時の前記犠牲陽極の表面から、前記金具の全体が露出するような距離であることを特徴とする犠牲陽極構造体。
なお、前記(4)、(5)でいう「所定の距離」、「距離」とは、第2芯金及び耐熱性絶縁体の中心から犠牲陽極の溶解面までの垂直距離が、第2芯金及び耐熱性絶縁体の中心から金具までの垂直距離の最小値よりも短くなった時の、第2芯金及び耐熱性絶縁体の中心から金具までの垂直距離の最小値を指す。しかしながら、「所定の距離」、「距離」を設定する時は、犠牲陽極が所望の残存量に達した状態を正確に検知できなければならないため、金具の形状は、第2芯金及び耐熱性絶縁体の中心から金具までの垂直距離が最小となる箇所が、複数若しくは連続して存在すると、精度が増す。
【0016】
(6)前記(1)乃至(5)の何れかに記載の犠牲陽極構造体において、
前記第1芯金及び前記第2芯金の何れか一方は、防食対象鋼材との導通が起こらないよう絶縁状態で防食対象鋼材に保持され、
絶縁状態で防食対象鋼材に保持された一方の芯金には、防食対象鋼材との導通が起こらないよう絶縁状態にされた導線の一端が接続され、その他端は電位差若しくは抵抗測定用の電位測定装置内に引き込まれ、
他方の芯金は、防食対象鋼材と電気的に接続され、前記防食対象鋼材は前記電位測定装置と電気的に接続されていることを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別装置。
(7)前記電位測定装置が、発光体であることを特徴とする前記(6)に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置。
(8)前記発光体が、LED電球であることを特徴とする前記(7)に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置。
【0017】
(9)前記(6)記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置において、前記電位測定装置で測定した第1芯金と第2芯金の電位差、あるいは、第1芯金と第2芯金との抵抗を検知することで、犠牲陽極の消耗状態を判別することを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別方法。
(10)前記(7)または(8)に記載の犠牲陽極の消耗状態判別装置において、前記発光体の点灯を検知することで、犠牲陽極の消耗状態を判別することを特徴とする犠牲陽極の消耗状態判別方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、犠牲陽極を支持する芯金を、第1芯金と第2芯金とその間に介在配置された耐熱性絶縁体からなる複合芯金とし、耐熱性絶縁体を、犠牲陽極の許容される消耗状態に対応させた適切な位置(例えば、犠牲電極の90%あるいは85%消耗状態に対応する位置)に定めることによって、潜水調査等をすることを必要とせず、犠牲陽極が完全に消耗する前に、陸上にて、犠牲陽極の適正な消耗状態を簡易にかつ正確に判別することができる。
【0019】
さらに、前記第1芯金に、金具を電気的に導通した状態で接続し、前記金具の犠牲陽極の1つの端面に対向する他の端面方向への延伸部の長さと、前記金具の延伸部と第2芯金及び耐熱性絶縁体の中心との距離を、犠牲陽極の断面方向の許容される消耗状態に対応させた長さと距離(例えば、犠牲電極が90%あるいは85%消耗した時に、金具全体が犠牲陽極表面から露出するような長さと距離)とすることによって、前述の効果に加え、犠牲陽極が完全に消耗する前に、犠牲陽極全体としての消耗状態を簡易にかつより正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の犠牲陽極構造体及び犠牲陽極の消耗状態判別装置の1つの態様の全体概略模式図を示す。
図2】(a)は、図1の犠牲陽極構造体を示し、(b)は、図1の犠牲陽極構造体の長手方向の1つの端面近傍の部分拡大図を示す。
図3】本発明の犠牲陽極構造体の別の態様の概略模式図を示す。
図4】本発明の犠牲陽極構造体及び犠牲陽極の消耗状態判別装置の別の態様の全体概略模式図を示す。
図5】(a)は、図4の犠牲陽極構造体を示し、(b)は、図4の犠牲陽極構造体の長手方向の1つの端面近傍の部分拡大図を示す。
図6】金具4の別の態様を示し、(a)は、湾曲形状の金具、(b)は、波形形状の金具を示す。
図7】本発明の犠牲陽極の消耗状態判別装置の電位測定装置の1つの態様を示す。
図8】本発明の犠牲陽極の消耗状態判別装置の電位測定装置の別の態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明について、図面を参照しつつ、以下に説明する。
【0022】
図1には、例えば、港湾施設に取り付けられた本発明の犠牲陽極構造体及び犠牲陽極の消耗状態判別装置の1つの態様を示す。
図1において、犠牲陽極1は、その長手方向の両端面を芯金が貫通することによって保持され、該芯金は犠牲陽極1の内部への侵入長さが短い第1芯金3と、侵入長さが長い第2芯金5と、第1芯金3と第2芯金5との間に設けられた耐熱性絶縁体2とから構成される。
ここに、犠牲陽極1の長手方向の1つの端面とは第1芯金3側の端面であり、前記1つの端面に対向する他の端面とは第2芯金5側の端面であるとする。よって、以降、長手方向の1つの端面を「端面」、前記端面に対向する他の端面を「他の端面」と表記する。
第1芯金3は、例えば、ステンレス棒鋼や白金等の貴金属でめっきした耐食性金属で作製することができ、第2芯金5は、例えば、鉄棒鋼で作製することができ、また、耐熱性絶縁体2は、例えば、非導電性耐熱セラミックスを採用しても良く、窒化ケイ素やアルミナ等で作製することもできる。耐熱性絶縁体2は450~700℃程度の溶湯温度に耐えるものであれば、どのような絶縁材料を適用しても良い。
なお、第1芯金3あるいは第2芯金5と耐熱性絶縁体2との接合手段については特に限定されるものではなく、例えば、ねじ接合のような、この出願前に知られている従来のいかなる接合手段であっても良い。
【0023】
第1芯金3の犠牲陽極1への侵入長さは、第2芯金5の犠牲陽極1への侵入長さよりも短くなっているため、耐熱性絶縁体2は、犠牲陽極の長手方向中心位置と端面の間に配置されている。
第2芯金5は、例えば溝形鋼6により、防食対象鋼材17に溶接固定されることで、第2芯金5と防食対象鋼材17は導通状態が維持され、防食対象鋼材17と電気的に導通したステンレス電線管11によって、上部工18に設けられた電位測定装置13に、電気的に接続される。
電位測定装置13としては、例えば、図7に示す電位測定装置13内にステンレス板16を設けることができ、また、図8に示すように、所定の電位差が発生した時に自動的に点灯するLED電球16を用いることができる。LED電球16を用いることによって、犠牲陽極の消耗状態を視覚的に容易に判別することができる。
一方、第1芯金3は、例えば、Uボルト9で溝形鋼6に取り付け、該溝形鋼6を防食対象鋼材17に溶接固定するが、第1芯金3と防食対象鋼材17とは導通が起こらないよう絶縁状態で保持することが必要である。
そのためには、例えば、第1芯金3を、硬質塩化ビニールパイプ7等に挿入するとともに、第1芯金3と硬質塩化ビニールパイプ7との間隙に樹脂8等を充填し、これをUボルト9で溝形鋼6に取り付ければ良い。
前記第1芯金3に電気的に接続する導線10は、第1芯金3と同様に、防食対象鋼材17に対して絶縁状態を維持する必要があり、そのため、導線10を絶縁被覆された被覆導線とすることが望ましい。そして、導線10を、例えば、ステンレスサドル12で補強されたステンレス電線管11(防食対象鋼材17とは電気的な導通状態にある)の内部を通して、上部工18に設けられた電位測定装置13内でステンレス板16あるいはLED電球16に接続する。
このように、前記第1芯金3は防食対象鋼材17と絶縁状態で保持され、前記第2芯金5は防食対象鋼材17と電気的に接続されているが、絶縁と導通の組み合わせを逆転させた場合、即ち、前記第1芯金3が防食対象鋼材17に電気的に接続され、前記第2芯金5が防食対象鋼材17に絶縁状態で保持された場合であっても、第1芯金3と第2芯金5の各々に発生する電位の差、もしくは第1芯金3と第2芯金5との抵抗を検知できさえすれば、本発明は成立する。
なお、第1芯金3と第2芯金5の各々に発生する電位の差、若しくは第1芯金3と第2芯金5との抵抗を検知するための構成については特に限定されるものではなく、この出願前に知られている従来のいかなる施工形態を適用しても良い。
【0024】
図2(a)として、犠牲陽極構造体を示し、図2(b)として、犠牲陽極構造体の端面近傍の部分拡大図を示す。
図2(b)に示すように犠牲陽極1の消耗が進行し、当初の端面の位置(図中、実線で示す)から端面の位置が後退する(図中、破線で「消耗後の表面と端面」を示す)と、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部が、犠牲陽極1の端面から露出し、犠牲陽極1を介した第1芯金3と第2芯金5との導通が遮断されるため、犠牲陽極1及び第2芯金、第1芯金に各々電位が生じ、犠牲陽極1及び第2芯金に繋がる上部工18に設置した電位測定装置13と第1芯金に繋がる前記電位測定装置13内のステンレス板16間、あるいはLED電球16には、例えば、第1芯金3がステンレス棒鋼の場合は0.9V程度以上、同じく白金めっきしたチタン棒の場合は1.8V程度以上の電位差が発生する。そして、この電位差を、電圧計(電位差計)によって測定する、あるいは、LED電球16の点灯を目視で確認することにより、犠牲陽極1の消耗状態、即ち、犠牲陽極1の消耗量が、所望の消耗量に達したことを判断することができる。なお、LEDは有機ELであっても良い。さらに、電位差の発生をセンサーにて検知し、電源を備えた照明機器を発光させる仕組みを設けても良く、電気を利用する光源であればどのような機器であっても良い。
また、電位差の替りに抵抗を計測する場合、犠牲陽極1の消耗前の第1芯金3と第2芯金5との抵抗は0~数ミリオーム程度を示すが、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部が犠牲陽極1の端面から露出した時は、第1芯金3と第2芯金5との導通がOFFとなり、抵抗計のレンジ・オーバー表示により、所望の消耗量に達したことを検知することができる。
【0025】
ここで、電気防食の技術分野においては、前述の通り、犠牲陽極1の形状がL≧4rの場合は90%、L<4rの場合は85%を犠牲陽極1の消耗量の一応の目安とすることが前記非特許文献1によって知られていることから、犠牲陽極1の消耗量が90%若しくは85%となった状態を、犠牲陽極1の消耗状態の判断基準の1つの態様とした。
なお、前記非特許文献1の第38頁の記述を一部引用すれば、
「7.9.3 陽極が設計寿命の終わりt(years)に、その使用率uまで消費されたとき、残存する陽極の正味質量maf(kg)は以下によって示される。
af=mai・(1-u)
af(終期の陽極接水抵抗)計算のために使われる最終的な陽極の体積は、残存する陽極の正味質量 maf(kg)、陽極材の密度及び内部芯金の体積から計算することができる。
7.9.4 各々の使用率まで消耗したLong slender stand -offタイプ及びShort slender stand -offタイプの陽極は、長さが10%縮小するものとする。さらに、陽極の最終形状が円筒形であると仮定した場合、陽極の最終半径は(7.9.3)中で説明されているように、その長さの減少、最終質量及び最終体積に基づいて計算される。」と記載されている。
前記記述より、犠牲陽極1の長さが10%縮小すると、各タイプの犠牲陽極1の消耗量が各々90%若しくは85%となること、また、経験的に犠牲陽極1の長さは犠牲陽極1の消耗と共に徐々に短くなることから、比例計算により、犠牲陽極1の長手方向の消耗率と犠牲陽極1の消耗量との関係を導くことができる。よって、犠牲陽極1の消耗量が所望の量に達した時の犠牲陽極1の端面から、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部が露出するような位置に耐熱性絶縁体2を設けることによって、犠牲陽極1が所望の消耗量に達したことを判別することができるのである。
一方、図3に示すように、本発明の犠牲陽極構造体の別の形態として、芯金が犠牲陽極1の端面あるいは他の端面からは突出しておらず、端面に隣接する何れか1つの側面から突出し、他の端面に隣接する何れか1つの側面から突出している形態がある。このような場合であっても、犠牲陽極1の消耗量が所望の量に達した時の犠牲陽極1の端面から、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部が露出するような位置に耐熱性絶縁体2を設けることによって、犠牲陽極1が所望の消耗量に達したことを判別することができる。
なお、図示してはいないが、第1芯金3を犠牲陽極1の端面から突出させ、第2芯金5を他の端面に隣接する何れか1つの側面から突出させる形態、また、第1芯金3を犠牲陽極1の端面に隣接する何れか1つの側面から突出させ、第2芯金5を他の端面から突出させる形態も、本発明の犠牲陽極構造体の実施の形態に含まれることはいうまでもない。
ただし、いずれの場合も、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部が端面から露出した時点で電位差が発生するのを妨げないようにするために、第1芯金の突出位置は、耐熱性絶縁体2と第1芯金3の境界面より端面側でなければならない。
【0026】
図1図2に示す犠牲陽極の消耗状態判別装置は、主として、犠牲陽極の長手方向の消耗長さの観点から消耗状態を判別するものであるから、犠牲陽極全体としての消耗状態(即ち、長手方向及び断面方向への消耗を含めた全体的な消耗状態)を厳密に反映できているとはいえない。
しかし、通常の使用条件下であれば、多くの場合、犠牲陽極全体としての消耗状態と長手方向の消耗状態は相関を有することから、前記の装置による消耗状態の判別は、犠牲陽極の消耗状態の判別手法としては、実用上非常に有効であるといえる。
ただ、犠牲陽極の使用環境及び形状によっては、犠牲陽極の長手方向と断面方向への消耗の進行状況が大きく異なる場合がある。
この場合には、犠牲陽極の長手方向及び断面方向の消耗状態を全体的に把握する必要がある。
【0027】
図4に、図1図2に記載したものとは異なる本発明の犠牲陽極構造体及び犠牲陽極の消耗状態判別装置の別の態様を示し、また、図5には、(a)として、犠牲陽極構造体を示し、(b)として、犠牲陽極構造体の端面近傍の部分拡大図を示す。
図4図5に示す消耗状態判別装置は、犠牲陽極の長手方向及び断面方向の消耗状態を全体的に把握することができる消耗状態判別装置である。
以下、図4図5を参照して説明するが、図1図2で示した箇所と同一の箇所には、同一の符号を付している。
図4図5に示す犠牲陽極1においては、図1図2で説明した装置構成に加えて、第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部に、あるいは、第1芯金3に、第1芯金3と電気的に接続された金具4を設ける点が主たる追加構成である。
図5(b)に、金具4が設けられた犠牲陽極1の端面近傍を示すが、金具4は、前記第1芯金3と非導電性耐熱性セラミックスである窒化ケイ素やアルミナ等の耐熱性絶縁体2との接合部から、あるいは、第1芯金3から、犠牲陽極1の断面方向に延伸41し、さらに、前記第2芯金5及び前記耐熱性絶縁体2の中心と所定の距離を保って犠牲陽極1の他の端面方向に延伸42する。
そして、前記金具4の断面方向への延伸41長さと、金具4の他の端面方向への延伸42部の前記第2芯金5及び前記耐熱性絶縁体2の中心との距離は、犠牲陽極1の消耗量が所望の量に達した時の犠牲陽極1の長さ及び厚さの減少によって、犠牲陽極1の表面から前記金具4の全体が露出するような長さ及び距離とする。
なお、本発明における「第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心と所定の距離」あるいは「金具4の前記第2芯金5及び前記耐熱性絶縁体2の中心との距離」でいう「所定の距離」、「距離」とは、第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心から、対向する金具4の延伸42部までの垂直距離の最小値よりも、最小値を得た第2芯金及び耐熱性絶縁体2の中心から犠牲陽極1の溶解面までの垂直距離が短くなった時の、第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心から金具4までの垂直距離であると定義する。
【0028】
金具4は、複合芯金の周囲にアルミニウム合金を鋳包み法で鋳造する際、鋳込み時の熱あるいは溶湯の流動等によって変形することなく、金具4と第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心との所定の距離が維持されることが必要である。要するに、犠牲陽極1の消耗量が所望の量に達した時、前記金具4の全体が、犠牲陽極1の表面から露出するような金具であれば、その形状は問わない。
したがって、本発明では、図4図5に示すL字形状の金具4ばかりでなく、図6の(a)に示す湾曲形状の金具、あるいは、図6の(b)に示す波形形状の金具等、種々の形状の金具を用いることができる。すなわち、金具4の断面方向への延伸41部は必ずしも第1芯金3と耐熱性絶縁体2の接合部を起点として、犠牲陽極1の断面方向に垂直に延伸する必要はない。
一方、犠牲陽極1が所望の残存量に達した状態を検知するために、第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心から金具4の表面までの垂直距離の最小値を算出し、設定することが必要で、図4図5及び図6に示すとおり、第2芯金5及び耐熱性絶縁体2の中心から金具4の表面までの垂直距離が最小となる箇所が複数若しくは連続して存在すると、犠牲陽極1の消耗量を判別する精度は増す。
【0029】
一般的に、犠牲陽極1は先端(エッジ)から優先して消耗する傾向があるため、必ずしも初期形状から相似的に縮小していくものではない。実際に、溶解が進んだ犠牲陽極1の断面周長は、長手方向の中央部が最も長く、端部に向けて短くなる傾向がある。一方、前記金具4の断面方向への設定位置は、初期形状から相似的に縮小した場合を想定して算出するため、犠牲陽極1が初期形状から相似的に消耗しない場合、金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への長さは、長過ぎても短過ぎても実情を反映できないこととなる。
また、犠牲陽極1の長手方向の消耗速度が、断面方向の消耗速度に比べて極めて速い場合もある。すなわち、断面方向の消耗が少ない時点で、犠牲陽極1の端面から第1芯金3と耐熱性絶縁体2との接合部が露出してしまい、断面方向の消耗が少ないにもかかわらず、犠牲陽極1を介した第1芯金3と第2芯金5との導通がOFFとなり、あたかも犠牲陽極1の長手方向及び断面方向への全体的な消耗量が所期値を超えたと誤認される場合である。
したがって、これらを防止するために、金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への延伸42長さは、少なくとも前記金具4の先端部が前記第2芯金5と耐熱性絶縁体2との接合部を超えて延伸42していることが必要で、さらに犠牲陽極1の他の端面まで、任意の長さに延伸42させた形状とすることが可能であるが、犠牲陽極1の長さの1/10~2/5の長さ範囲とすることが望ましい。
以上のように、金具4は長手方向に歪な消耗傾向を示す場合を補完する役割を担うもので、前記金具4の断面方向への延伸41長さ及び前記金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への延伸42長さを、前記の如く定めることにより、犠牲陽極全体としての消耗状態、すなわち、犠牲陽極の長手方向及び断面方向への消耗状態を一段と正確に把握することができる。
【0030】
具体的なケースを例示すれば、次のとおりである。
例えば、使用環境によって、犠牲陽極1の断面方向の消耗速度が長手方向の消耗速度に比べて速い場合には、まず、金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への延伸42部が犠牲陽極1表面から露出する。
しかし、第1芯金3と耐熱性絶縁体2との接合部及び金具4の断面方向の延伸41部が、まだ犠牲陽極1の内部にあるため、第2芯金5-犠牲陽極1-第1芯金3間での導通状態が維持されることから、図7図8に示す電位測定装置13に電位差は生じることはなく、また、LED電球16が点灯することもない。
よって、このような場合には、犠牲陽極1全体として所望の消耗量に達したとは判断されない。
ついで、犠牲陽極1の長手方向の消耗が進行し、第1芯金3と耐熱性絶縁体2との接合部及び金具4の断面方向の延伸41部が犠牲陽極1の端面から露出した場合には、金具4の全体が犠牲陽極1の表面から露出することになるため、金具4を介した第2芯金5-犠牲陽極1-第1芯金3間での導通がOFFになり、その結果、図7図8に示す電位測定装置13には数ミリボルト以上の電位差が現れ、また、LED電球16が点灯することになる。
したがって、この場合には、犠牲陽極全体として所望の消耗量を超えたという判断がされる。
【0031】
一方、犠牲陽極1の長手方向の消耗速度が断面方向の消耗速度に比べて速い場合には、まず、第1芯金3と耐熱性絶縁体2との接合部及び金具4の断面方向への延伸41部が犠牲陽極1の端面から露出する。
しかし、金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への延伸42部の少なくとも一部が、まだ犠牲陽極1の内部にあるため、金具4を介した第2芯金5-犠牲陽極1-第1芯金3間での導通は維持され、電位測定装置13に電位差は生じることはなく、また、LED電球16が点灯することもない。
したがって、このような場合には、犠牲陽極全体として所望の消耗量に達したとは判断されない。
ついで、犠牲陽極の断面方向の消耗が進行し、金具4の犠牲陽極1の他の端面方向への延伸42部の全体が犠牲陽極1の表面から露出した場合には、金具4の全体が犠牲陽極1から露出することになるため、第2芯金5-犠牲陽極1-第1芯金3間での導通がOFFになり、その結果、図7図8に示す電位測定装置13には数ミリボルト以上の電位差が現れ、また、LED電球16が点灯することになる。
したがって、この場合には、犠牲陽極全体として所望の消耗量を超えたということが確認される。
【実施例
【0032】
以下では、実施例を用いて本発明を説明する。
【0033】
[実施例1]
本発明の1つの態様として、犠牲陽極の長手方向の消耗の観点から、犠牲陽極の消耗状態を判別するための犠牲陽極構造体を以下の手順で作製した。
まず、表1に示すそれぞれ所定の材質、サイズの第1芯金3と第2芯金5を、窒化ケイ素からなる耐熱性絶縁体2を介して、ねじ接合し、複合芯金を作製した。
ついで、この複合芯金の周囲に、アルミニウム合金を鋳包み法で鋳造することにより、実施例1の犠牲陽極構造体を作製した。
実施例1の犠牲陽極1のサイズは、表1に示すとおり、台形柱状であって、断面の短辺100mm、同長辺130mm、断面方向の厚さ120mm、長さ960mmであるから、犠牲陽極の長さLは960mm、また、犠牲陽極の等価半径r(ただし、犠牲陽極の断面周長をcとした場合にr=c/2πで表される半径)は約75mmであって、L≧4rの関係を満たす。
したがって、実施例1の犠牲陽極1は、前記非特許文献1でいう「Long slender stand -off」タイプの犠牲陽極に相当する。
そして、この実施例1では、犠牲陽極1の断面方向(厚さ方向)の消耗については考慮せず、犠牲陽極1の長手方向の長さの消耗の観点から、犠牲陽極全体としての消耗量が90%に達する状態、言い換えれば、犠牲陽極1の長さが10%(即ち、96mm)消耗する状態を判別できるように、犠牲陽極1における耐熱性絶縁体2の設置位置を定めた。
具体的には、犠牲陽極1の鋳造あるいは成形に際して、犠牲陽極1の端面から、第1芯金3と耐熱性絶縁体2との接合部までの距離が48mmとなるようにした。
上記の48mmという距離は、犠牲陽極1が90%消耗した時に端面が消耗によって後退する位置に相当する。
【0034】
【表1】
【0035】
前記で作製した実施例1の犠牲陽極構造体についで、図1図2に示されるように、前記で作製した犠牲陽極の端面から突出する第1芯金3及び他の端面から突出する第2芯金5を、溝形鋼6を介して水中で溶接し、防食対象鋼材17に取り付ける。
なお、第1芯金3を溝形鋼6に固定するにあたり、第1芯金3と防食対象鋼材17が導通しないように、第1芯金3を硬質塩化ビニールパイプ7に挿入するとともに、前記ビニールパイプ7内に樹脂8を充填して、防食対象鋼材17に対して絶縁性を保つようにする。
ついで、第1芯金3に導線10の一端を接続し、また、他端は、上部工18に設置した電位測定装置13内でステンレス板16に接続する。
第2芯金5は防食対象鋼材17と導通を維持し、ステンレス電線管11によって上部工18に設置した電位測定装置13と導通させる。
【0036】
前記の犠牲陽極構造体を防食対象鋼材17の海水中部に設置し、時間経過による犠牲陽極1の消耗状態を調査する。
犠牲陽極1を防食対象鋼材17に取付けた後、図7に示される電位測定装置13の電位差は0mVを示しているが、犠牲陽極1の取付けから8~10年程度経過後に電位差を測定すると、犠牲陽極の消耗量が所定量(犠牲陽極全体としての消耗量が90%)を超えている場合には、0.8V程度の電位差を示すことになる。
そして、この電位差が生じたことにより、犠牲陽極1は90%以上消耗していると判断することができる。
【0037】
[実施例2]
本発明の別の態様として、犠牲陽極の長手方向及び断面方向の消耗状態を全体的に判別するための犠牲陽極構造体を以下の手順で作製した。
前記実施例1で使用した複合芯金において、第1芯金3と耐熱性絶縁体2をねじ接合するに際し、図5(b)の端面近傍詳細に示すL字形状の金具4を第1芯金3と導通を保持するように取り付けて、金具4を備えた複合芯金を作製した。
第1芯金3及び金具4は白金めっきを施したチタン棒及びチタン線(φ3mm)で、金具4の断面方向の延伸41部の長さは14mmである。これは犠牲陽極1の他の端面方向に向かう延伸42部の表面と対向する第2芯金の表面との垂直距離を指す。また、延伸42部の長さは100mmとした。
なお、金具4の断面方向の前記延伸41部の長さ14mmは、犠牲陽極1が90%消耗した時、断面厚さが減少した犠牲陽極1の表面から金具4全体が露出するであろうと想定される長さ(計算値)である。
前記の金具4を備えた複合芯金の周囲に、実施例1と同様に、表1に示すアルミニウム合金を鋳包み法で鋳造し、成形することにより、表1に示すサイズを有する実施例2の犠牲陽極構造体を作製した。
【0038】
ついで、図4図5に示されるように、実施例2の犠牲陽極構造体を、実施例1の場合と同様にして防食対象鋼材17に取り付け、図8に示されるように、第1芯金3に導線10の一端を接続し、その他端は、上部工18に設置した電位測定装置13内でLED電球16に接続する。
第2芯金5は防食対象鋼材17と導通を維持し、ステンレス電線管11によって上部工18に設置した電位測定装置13に電気的に接続し、さらに、LED電球16に接続する。これにより、犠牲陽極1が消耗し、第1芯金と第2芯金との間に電位差が発生することで、LED電球16が点灯する仕組みが構築されることとなる。
なお、実施例2では第1芯金3及び金具4の基材としてチタンを採用したが、貴金属めっきを行うに当たり、めっき可能な耐食性金属であれば、他の安価な材質を適用しても良い。
【0039】
前記の犠牲陽極構造体を、実施例1の場合と同様に、防食対象鋼材17の海水中部に設置し、時間経過による犠牲陽極1の消耗状態を調査することができる。
犠牲陽極1を防食対象鋼材17に取付け後、LED電球16は非点灯状態を維持しているが、犠牲陽極1の取付けから8~10年程度経過後にLED電球16が点灯することにより、犠牲陽極1が90%以上の消耗状態になったことを知ることができる。
【0040】
実施例2の犠牲陽極構造体において設定した第2芯金5の表面から金具4の延伸42部までの垂直距離(14mm。金具4の延伸41部の長さに相当。)の算出方法について説明する。
前記非特許文献1の記載より、犠牲陽極1の残存率が10%になった時、犠牲陽極1の長さが初期値の90%になるとの考え方に準拠し、犠牲陽極1の残存率及び犠牲陽極1の長さの残存率等から、第2芯金5の表面から金具4の延伸42部までの垂直距離は、次のとおり導かれる。
(犠牲陽極の残存量)=(残存する犠牲陽極の断面積)×(犠牲陽極の残存長さ)より、
a×V=(πr )×(b×L)
(残存する犠牲陽極の近似半径)=(芯金半径)+(第2芯金表面から金具までの垂直距離)より、
=d+e
よって、e=[(a×V)/(π×b×L)]1/2-d
となる。

ここに、a :犠牲陽極の残存率(%)
b :犠牲陽極長の残存率(%)
d :芯金の半径(mm)
e :第2芯金表面から金具までの垂直距離(mm)
:残存する犠牲陽極の近似半径(mm)
:犠牲陽極の初期体積(mm
L :犠牲陽極の初期長さ(mm)
である。
犠牲陽極1が90%まで消耗し、犠牲陽極1の長さが10%減少した場合に、前記関係式において、以下の数値を代入してeの値を算出すると、e=14mmとなる。
a=0.1、b=0.9、d=8mm、V=13,248,000mm、L=960mm。
よって、犠牲陽極1が90%消耗した時、第2芯金5の表面から金具4の延伸42部までの垂直距離(e)は14mmとなる。
なお、残存する犠牲陽極の近似半径は、d+eより22mmとなる。
【0041】
以上のとおり、本発明の犠牲陽極構造体、犠牲陽極の消耗状態判別装置、消耗状態判別方法によれば、犠牲陽極の消耗状態を陸上で簡易かつ正確に判別することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 犠牲陽極
2 耐熱性絶縁体(非導電性の耐熱性セラミックス)
3 第1芯金(ステンレス棒鋼、白金めっきチタン棒)
4 金具(白金めっきチタン線)
41 (犠牲陽極断面方向への)延伸
42 (犠牲陽極の第2芯金側の他の端面方向への)延伸
5 第2芯金(鉄棒鋼)
6 溝形鋼
7 硬質塩化ビニールパイプ
8 樹脂
9 Uボルト
10 導線(被覆導線)
11 ステンレス電線管
12 ステンレスサドル
13 電位測定装置
14 樹脂
15 ゴムシート
16 ステンレス板、LED電球
17 防食対象鋼材
18 上部工

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8