(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】血腫除去装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
A61B17/22
(21)【出願番号】P 2017219014
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】折戸 公彦
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 優
(72)【発明者】
【氏名】森岡 基浩
【審査官】小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-164162(JP,A)
【文献】特開2017-000738(JP,A)
【文献】特開2006-094876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0043673(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の本体部材と、
前記本体部材の先端側から側方に延びるように前記先端側に設けられ且つ前記本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備え
、
前記除去部材は前記先端側に対して片持ち状に設けられており、
前記除去部材の自由端は揺動可能である、血腫除去装置。
【請求項2】
長尺状の本体部材と、
前記本体部材の先端側から側方に延びるように前記先端側に設けられ且つ前記本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備え、
前記除去部材は、前記先端側に位置する一端から前記本体部材の基端側に位置する他端に向けて拡径する傘状部材である、血腫除去装置。
【請求項3】
長尺状の本体部材と、
前記本体部材の先端側から側方に延びるように前記先端側に設けられ且つ前記本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備え、
前記除去部材には折りひだが形成されている、血腫除去装置。
【請求項4】
長尺状の本体部材と、
前記本体部材の先端側から側方に延びるように前記先端側に設けられ且つ前記本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備え、
前記除去部材は前記先端側に設けられた挿入孔に挿入されている、血腫除去装置。
【請求項5】
長尺状の本体部材と、
前記本体部材の先端側から側方に延びるように前記先端側に設けられ且つ前記本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備え、
前記除去部材の表面の少なくとも一部には薬剤含有部材が取り付けられている、血腫除去装置。
【請求項6】
前記除去部材は高分子吸収体で構成されている、請求項1
~5のいずれか一項に記載の血腫除去装置。
【請求項7】
前記本体部材は、血腫の吸引又は薬液の吐出が行えるように構成されたチューブ状を呈している、請求項1~
6のいずれか一項に記載の血腫除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、頭蓋内血腫を除去するための血腫除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
頭部に対する強い衝撃等により、頭蓋内で出血が生じ、頭蓋内血腫が形成されることがある。頭蓋内血腫としては、例えば、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫、脳内血腫等が挙げられる。頭蓋内血腫が生ずると、頭蓋内圧が亢進して瞳孔不同、意識障害等が発症し、さらに症状が進行すると脳ヘルニアが完成して、呼吸停止、脳死などに至りうる。そのため、早急な開頭手術を要する場合が多い。
【0003】
しかしながら、開頭手術の開始までには、例えば、手術室までの搬送、手術前の各種検査(採血、レントゲン撮影など)、全身麻酔の実施などによって時間を要する。そこで、開頭手術前に穿頭することと、頭蓋に形成された1cm~2cm程度の穿頭孔から血腫に向けてドレナージチューブ(以下、単に「チューブ」という。)を挿入することと、チューブを通じて血腫を体外に排出することとを含む血腫除去方法が知られている(特許文献1及び非特許文献1参照)。これにより、開頭手術前に頭蓋内圧を迅速に低下させて、脳ヘルニアの完成を遅らせることができる。
【0004】
穿頭は、開頭手術ができない場合にも行われる。例えば、患者の全身状態が良好でない場合、患者が抗凝固薬を服用しており、開頭により多量の出血が見込まれる場合、他の部位を優先して手術しなければならない場合、患者又はその家族から開頭手術の同意を得られない場合などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】TianshuLu et. al., “Preoperative trepanation and drainage for acute subdural hematoma:Two case reports,” Experimental and Therapeutic Medicine, Volume 10 Issue 1(July 2015), pp. 225-230, https://www.spandidos-publications.com/etm/10/1/225 (Publishedonline on April 28, 2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、血腫が殆ど流動性をもたず、ゲル状を呈する場合がありうる。そのようなゲル状の血腫としては、例えば、急性硬膜下血腫などの急性期の血腫が挙げられる。従来と同様に、チューブを用いてゲル状の血腫を除去しようとしても、吸引口近傍における血腫のごく僅かな部分しか吸引できないことがある。この場合、より多くの血腫を除去するために、医師は、例えば、血腫に対して位置を変えつつチューブの抜き差しを穿頭孔から繰り返す手技や、生理食塩水を血腫に噴射し、生理食塩水が血腫を押す勢いを利用してチューブから血腫を吸引する手技を行う。そのため、血腫の除去に手間及び時間を要することがあった。
【0008】
そこで、本開示は、頭蓋内血腫を迅速且つ効果的に除去することが可能な血腫除去装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一つの観点に係る血腫除去装置は、長尺状の本体部材と、本体部材の先端側に設けられ且つ吸収体で構成された除去部材とを備える。
【0010】
本開示の他の観点に係る血腫除去装置は、長尺状の本体部材と、本体部材の先端側から側方に延びるように先端側に設けられ且つ本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る血腫除去装置によれば、頭蓋内血腫を迅速且つ効果的に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、血腫除去装置の一例を示す正面図である。
【
図2】
図2は、血腫除去装置により血腫を除去する様子を説明するための図である。
【
図3】
図3は、血腫除去装置により血腫を除去する様子を説明するための図である。
【
図4】
図4は、血腫除去装置の一例を示す正面図である。
【
図5】
図5は、血腫除去装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。
【0014】
≪実施形態の概要≫
[1]本実施形態の一つの例に係る血腫除去装置は、長尺状の本体部材と、本体部材の先端側に設けられ且つ吸収体で構成された除去部材とを備える。この場合、血腫除去装置が穿頭孔から挿入され、除去部材が頭蓋内血腫と接触すると、血腫が吸収体に吸収される。そのため、血腫除去装置を血腫に接触させるだけで、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となるのみならず、頭蓋内圧の亢進を抑制することが可能となる。従って、脳ヘルニアの完成を大幅に遅らせることが可能となる。
【0015】
[2]本実施形態の他の例に係る血腫除去装置は、長尺状の本体部材と、本体部材の先端側から側方に延びるように先端側に設けられ且つ本体部材の前進及び後退によって血腫を掻き取り可能に構成された除去部材とを備える。この場合、血腫除去装置が穿頭孔から挿入され、本体部材の前進及び後退に伴い除去部材が血腫内で前進及び後退すると、血腫が除去部材に引っ掛かりつつ掻き集められる。その後、血腫除去装置が穿頭孔から抜去されると、除去部材によって比較的多くの血腫が穿頭孔から掻き出される。そのため、血腫除去装置の穿頭孔に対する挿抜だけで、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。従って、脳ヘルニアの完成を大幅に遅らせることが可能となる。
【0016】
[3]上記第1項又は第2項に記載の血腫除去装置において、除去部材は高分子吸収体で構成されていてもよい。この場合、高分子吸収体は、自身の重量の数倍~10倍程度の血腫を吸収可能であるので、頭蓋内血腫の体積を大幅に小さくすることができる。そのため、いっそう迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0017】
[4]上記第1項~第3項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、除去部材は先端側に対して片持ち状に設けられており、除去部材の自由端は揺動可能であってもよい。この場合、本体部材の前進及び後退に伴い、除去部材の自由端が血腫内において揺動する。そのため、除去部材が血腫のより広い領域と接触しやすくなると共に、除去部材により血腫を掻き出しやすくなる。従って、より迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0018】
[5]上記第1項~第4項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、除去部材は、先端側に位置する一端から本体部材の基端側に位置する他端に向けて拡径する傘状部材であってもよい。この場合、傘状を呈する除去部材によって、血腫をより掻き出しやすくなる。従って、さらに迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0019】
[6]上記第1項~第5項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、除去部材には折りひだが形成されていてもよい。この場合、穿頭孔から挿入される際には折りひだに沿って折り畳まれていた除去部材が、血腫を除去する過程で徐々に拡がる。そのため、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能な血腫除去装置を実現しつつ、使用前の血腫除去装置をコンパクト化することが可能となる。
【0020】
[7]上記第1項~第6項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、除去部材は先端側に設けられた挿入孔に挿入されていてもよい。この場合、本体部材に対する除去部材の着脱を容易に行うことが可能となる。
【0021】
[8]上記第1項~第7項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、本体部材は、血腫の吸引又は薬液の吐出が行えるように構成されたチューブ状を呈していてもよい。除去部材により血腫を除去しつつ、本体部材を介して血腫を吸引する場合には、いっそう迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。除去部材により血腫を除去しつつ、本体部材を介して薬液を脳表に供給する場合には、一つの血腫除去装置に、血腫の除去と薬液による脳表の処置との複数の機能を発揮させることが可能となる。
【0022】
[9]上記第1項~第8項のいずれか一項に記載の血腫除去装置において、除去部材の表面の少なくとも一部には薬剤含有部材が取り付けられていてもよい。この場合、血腫除去装置によって、薬剤を脳表の出血箇所に搬送しうる。そのため、一つの血腫除去装置に、血腫の除去と薬剤含有部材による脳表の処置との複数の機能を発揮させることが可能となる。
【0023】
≪実施形態の例示≫
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0024】
[血腫除去装置の構成]
血腫除去装置10は、頭蓋内血腫の除去に用いられる装置である。血腫除去装置10は、
図1に示されるように、本体部材12と、閉塞栓14と、一対の除去部材16とを備える。
【0025】
本体部材12は、長尺状を呈するチューブである。本体部材12は、可撓性を有しており、例えばシリコーンゴム、天然ゴム、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等で構成されていてもよい。本体部材12の長さは、例えば、10cm~100cm程度であってもよい。本体部材12の外径は、例えば、1mm~5mm程度であってもよい。
【0026】
本体部材12の先端部12aには、少なくとも一つの開口部12bが設けられている。
図1に示される例では、3つの開口部12bが先端部12aに設けられている。開口部12bは、本体部材12の内部と連通している。そのため、本体部材12の基端部から導入される液体は、本体部材12内を流通して、開口部12bから吐出される。あるいは、開口部12bから吸引される液体は、本体部材12内を流通して、本体部材12の基端部から排出される。
【0027】
閉塞栓14は、本体部材12(先端部12a)の先端に設けられており、当該先端を閉塞している。そのため、閉塞栓14は、本体部材12の先端を通じた液体の流入及び流出を阻止している。閉塞栓14は、当該先端に一体化されていてもよいし、当該先端に対して接着剤等で固定されていてもよい。閉塞栓14は、本体部材12と同じ材料で構成されていてもよい。
【0028】
閉塞栓14は、半球状を呈している。そのため、血腫除去装置10が頭蓋内に挿入される際に、頭蓋内血腫以外の正常な器官等に閉塞栓14が当接した場合であっても、当該器官を保護することが可能となる。
【0029】
一対の除去部材16は、矩形板状体を呈している。除去部材16は、高分子吸収体で構成されている。高分子吸収体は、自重の数倍~10倍程度の血腫を吸収し保持する機能を有しており、例えばポリアクリル酸ナトリウムで構成されていてもよい。高分子吸収体の形態は、特に限定されないが、例えば粒子状、糸状、板状等が挙げられる。すなわち、除去部材16は、粒子状又は糸状の高分子吸収体が不織布等の袋内に封入されたものであってもよいし、板状の高分子吸収体そのものであってもよい。
【0030】
除去部材16の基端は先端部12aの外周面に設けられている。すなわち、除去部材16は、本体部材12の先端側に設けられている。一方、除去部材16の先端は、本体部材12に固定されておらず、自由端として機能する。すなわち、除去部材16の先端は、揺動可能であり、先端部12aの近傍において自由に移動しうる。換言すれば、除去部材16は、先端部12aの外表面から側方に延びており、先端部12aに対して片持ち状に設けられている。除去部材16は、本体部材12と同様に可撓性を有していてもよい。
【0031】
除去部材16は、本体部材12よりも柔らかくてもよいし、本体部材12と同程度の柔らかさであってもよいし、本体部材12よりも固くてもよい。除去部材16及び本体部材12の硬さは、例えば、JIS K 6253:2012に適合したデュロメータを用いて測定されてもよい。除去部材16が本体部材12よりも柔らかい場合には、頭蓋内血腫以外の正常な器官等に除去部材16が当接した場合であっても、当該器官を保護することが可能となる。
【0032】
[血腫除去装置の使用方法]
ここで、
図2及び
図3を参照して、血腫除去装置10の使用方法について説明する。
図2及び
図3は、ヒトの頭部20の断面を示している。頭部20は、頭蓋骨22と、頭蓋骨22内に位置する脳(大脳)24と、頭蓋骨22及び脳24の間に位置する硬膜26とを含む。
図2及び
図3に示される頭部20には、頭蓋内血腫の一例である硬膜下血腫28が硬膜26と脳24との間に存在している。
【0033】
まず、
図2に示されるように、医師は、頭部20を穿頭して、硬膜下血腫28に繋がる穿頭孔30を頭蓋骨22及び硬膜26に形成する。続いて、医師は、穿頭孔30を通じて血腫除去装置10を頭部20内に挿入し、血腫除去装置10の先端部12a及び除去部材16を硬膜下血腫28内に至らせる。このとき、除去部材16が硬膜下血腫28に接触するので、高分子吸収体が硬膜下血腫28を吸収する。これにより、
図3に示されるように、除去部材16が膨潤する。硬膜下血腫28を吸収した後の除去部材16の体積は、除去部材16によって吸収された硬膜下血腫28の体積よりも小さくなるので、除去部材16の周囲には空隙Vが生ずる。これにより、頭蓋内圧の亢進が抑制される。
【0034】
医師は、頭部20内に挿入された血腫除去装置10を前進及び後退させて、先端部12aを硬膜下血腫28内において移動させてもよい。このとき、除去部材16の先端(自由端)が揺動可能であると、
図2に示されるような、除去部材16が先端部12aに対して伏臥した状態(除去部材16の先端が閉塞栓14よりも本体部材12の基端側に位置する状態)から、
図3に示されるような、除去部材16が先端部12aに対して起立した状態(除去部材16の先端が閉塞栓14よりも前方に位置する状態)となりうる。このように、除去部材16の姿勢が伏臥状態と起立状態との間で変化することで、除去部材16による硬膜下血腫28の掻き取りが効果的に行われる。
【0035】
図2に示されるように、除去部材16により硬膜下血腫28を除去しつつ、開口部12bから本体部材12を通じて血液及び硬膜下血腫28を吸引してもよい。この場合、いっそう迅速且つ効果的に硬膜下血腫28を除去することが可能となる。除去部材16によって硬膜下血腫28を所定量除去した後に、
図3に示されるように、本体部材12を通じて開口部12bから液状の止血剤を脳表に供給してもよい。この場合、一つの血腫除去装置10に、血腫の除去と脳表の止血との複数の機能を発揮させることが可能となる。液状の止血剤としては、例えば、バクスター株式会社製「フロシール」(登録商標)が挙げられる。なお、本体部材12を通じて開口部12bから、止血剤以外の種々の薬液を脳表に供給してもよい。この場合も、一つの血腫除去装置10に、血腫の除去と薬液による脳表の処置との複数の機能を発揮させることが可能となる。
【0036】
[作用]
以上のような本実施形態では、血腫除去装置10が、長尺状の本体部材12と、本体部材12の先端部12aに設けられ且つ高分子吸収体で構成された除去部材16とを備える。そのため、血腫除去装置10が穿頭孔30から挿入され、除去部材16が頭蓋内血腫(例えば硬膜下血腫28)と接触すると、血腫が高分子吸収体に吸収される。高分子吸収体は、自身の重量の数倍~10倍程度の血腫を吸収可能であるので、頭蓋内血腫の体積を大幅に小さくすることができる。従って、血腫除去装置10を血腫に接触させるだけで、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となるのみならず、頭蓋内圧の亢進を抑制することが可能となる。その結果、脳ヘルニアの完成を大幅に遅らせることが可能となる。特に、脳ヘルニアが完成しうる血腫の体積としては最大で50cc~100cc程度であるが、血腫除去装置10の除去部材16によって例えば10cc~数十cc程度の血腫を除去することで、十分な余裕をもって続く開頭手術を迎えることが可能となる。
【0037】
本実施形態では、除去部材16が先端部12aの外表面から側方に向けて延びている。そのため、血腫除去装置10が穿頭孔30から挿入され、本体部材12の前進及び後退に伴い除去部材16が血腫内で前進及び後退すると、血腫が除去部材16に引っ掛かりつつ掻き集められる。その後、血腫除去装置10が穿頭孔30から抜去されると、除去部材16によって比較的多くの血腫が穿頭孔30から掻き出される。そのため、血腫除去装置10の穿頭孔30に対する挿抜だけで、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。従って、脳ヘルニアの完成を大幅に遅らせることが可能となる。
【0038】
本実施形態では、除去部材16が先端部12aに対して片持ち状に設けられており、除去部材16の先端(自由端)が揺動可能である。そのため、本体部材12の前進及び後退に伴い、除去部材16の先端が血腫内において揺動する。そのため、除去部材16が血腫のより広い領域と接触しやすくなると共に、除去部材16により血腫を掻き出しやすくなる。従って、より迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0039】
ところで、頭蓋内血腫が慢性硬膜下血腫の場合、複数の血腫腔同士が隔壁により区画された状態(多房性血腫の状態)で頭蓋内に存在していることがある。この隔壁は比較的固い場合がある。しかしながら、本実施形態に係る血腫除去装置10によれば、本体部材12の前進及び後退に伴い、本体部材12の先端部12aに設けられた除去部材16も移動する。そのため、除去部材16が当該隔壁を破りうる。従って、当該隔壁と共に慢性硬膜下血腫を除去することも可能となる。
【0040】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、本体部材12は、チューブ状ではなく、中実状の長尺棒状体であってもよい。
【0041】
本体部材12自体が高分子吸収体で構成されていてもよい。この場合、本体部材12の先端部12aが除去部材16として機能する。
【0042】
図4(a)に示されるように、先端部12aの先端に、閉塞栓14に代えて柱状の除去部材16が設けられていてもよい。
【0043】
図4(b)に示されるように、先端部12aの外周面を取り囲むように、チューブ状の除去部材16が先端部12aに設けられていてもよい。
【0044】
図5(a)に示されるように、血腫除去装置10が閉塞栓14を備えておらず、開口部12bが先端部12aの先端面に位置していてもよい。当該先端面には挿入穴12cが設けられていてもよい。除去部材16の基端部が挿入穴12cに挿入されることで除去部材16が先端部12aに設けられていてもよい。この場合、本体部材12に対する除去部材16の着脱を容易に行うことが可能となる。ここでの除去部材16は、
図5(a)に示されるように円錐台状を呈していてもよいし、円柱状を呈していてもよいし、円形以外の錐台状又は柱状を呈していてもよい。
【0045】
図5(b)に示されるように、除去部材16は、先端部12a側に位置する一端から本体部材12の基端部側に位置する他端(自由端)に向けて拡径する傘状部材であってもよい。この場合、傘状を呈する除去部材16によって、血腫をより掻き出しやすくなる。そのため、さらに迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0046】
傘状のみならず種々の形状の除去部材16において、除去部材16には折りひだが形成されていてもよい(
図5(b)参照)。この場合、穿頭孔30から挿入される際には折りひだに沿って折り畳まれていた除去部材16が、血腫を除去する過程で徐々に拡がる。そのため、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能な血腫除去装置10を実現しつつ、使用前の血腫除去装置10をコンパクト化することが可能となる。
【0047】
図示はされていないが、除去部材16が糸状を呈していてもよい。この場合、多数の除去部材16の一端が先端部12aに設けられていてもよいし、少なくとも一つの除去部材16が先端部12aに巻き付けられていてもよい。
【0048】
除去部材16が血腫を掻き取る機能を有していれば、除去部材16が高分子吸収体で構成されていなくてもよい。すなわち、除去部材16が先端部12aから側方に延びるように設けられており、先端部12aと除去部材16とが例えばT字状、L字状、Y字状、U字状、V字状等をなしていてもよい。この場合も、血腫除去装置10が穿頭孔30から挿入され、本体部材12の前進及び後退に伴い除去部材16が血腫内で前進及び後退すると、血腫が除去部材16に引っ掛かりつつ掻き集められる。その後、血腫除去装置10が穿頭孔30から抜去されると、除去部材16によって比較的多くの血腫が穿頭孔30から掻き出される。そのため、血腫除去装置10の穿頭孔30に対する挿抜だけで、迅速且つ効果的に頭蓋内血腫を除去することが可能となる。
【0049】
除去部材16の表面の少なくとも一部には、シート状の止血剤が取り付けられていてもよい。この場合、血腫除去装置10によって、シート状の止血剤を脳表の出血箇所に搬送しうる。そのため、一つの血腫除去装置10に、血腫の除去と脳表の止血との複数の機能を発揮させることが可能となる。シート状の止血剤としては、例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製「サージセル」(登録商標)、日本臓器製薬株式会社製「インテグラン」(登録商標)などが挙げられる。なお、除去部材16の表面の少なくとも一部には、シート状の止血剤に代えて、止血剤以外の薬剤を含有する薬剤含有部材が取り付けられていてもよい。薬剤含有部材は、シート状以外の形態であってもよい。この場合も、一つの血腫除去装置10に、血腫の除去と薬剤による脳表の処置との複数の機能を発揮させることが可能となる。
【0050】
上記実施形態では、除去部材16が高分子吸収体で構成されていたが、除去部材16は、血液(血腫)を吸収可能な他の吸収体(例えば、布、紙など)で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10…血腫除去装置、12…本体部材、12a…先端部、12c…挿入穴、16…除去部材。