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7061356培養装置、2種類以上の細胞構造体を構築する方法及びオンチップ臓器デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】培養装置、2種類以上の細胞構造体を構築する方法及びオンチップ臓器デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220421BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220421BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220421BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220421BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12N5/077
C12N5/071
C12Q1/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018035094
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019146548
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】井関 啓人
(72)【発明者】
【氏名】品川 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】楯 芳樹
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-195845(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0212964(US,A1)
【文献】特表2008-513013(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0212066(US,A1)
【文献】HUH, Dongeun et al.,From 3D cell culture to organs-on-chips,Trends Cell Biol.,2011年,Vol. 21,pp. 745-754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 5/00-5/28
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器と、灌流装置と、を備える培養装置であって、
前記培養容器は、
溶液を収容可能な第1のセルと、
前記溶液を収容可能な第2のセルと、
前記第1のセル及び前記第2のセルを接続する第3のセルと、
前記溶液を収容可能であり、底面に半透膜を有する第4のセルと、
を有し、
前記第3のセルは、
前記第1のセルに隣接する第1の隔壁と、
前記第2のセルに隣接する第2の隔壁と、
前記第1の隔壁及び前記第2の隔壁にそれぞれ対向して形成され、前記第1のセル及び前記第2のセルをそれぞれ連通する少なくとも一対の孔を含み、前記溶液の流路となりうる第1の孔部と、
を有し、
前記第4のセルが前記流路に着脱可能に配置され、
前記灌流装置は、支持部材と、駆動機構と、を有し、
少なくとも1つの前記培養容器が前記支持部材上に配置される培養装置。
【請求項2】
前記第1のセル、前記第2のセル及び前記第3のセルが、酸素透過性を有するポリマー材からなる請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記酸素透過性を有するポリマー材がポリジメチルシロキサンである請求項2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記流路の内壁面上に細胞足場材を備え、前記第4のセルが前記細胞足場材を介して前記流路に着脱可能に配置される請求項1~3のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項5】
水平面上で直交する方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向、並びに、これらの方向と直交する方向をZ軸方向とした場合に、
前記駆動機構は、
前記支持部材を配置する載台と、
前記載台の中央部においてY軸方向に沿って配置された軸部と、
前記軸部をY軸まわりに回動させる駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部と、
を有し、
前記支持部材上において、前記培養容器の前記第1のセル及び前記第2のセルがX軸方向に対向して配置されており、
前記駆動部は、前記軸部をY軸まわりに回動させることで、前記載台と前記支持部材上に配置された前記培養容器とをY軸まわりに回動させ、
前記制御部は、前記載台のY軸方向の傾斜角度が-20度以上20度以下となり、且つ、前記載台のY軸方向の傾斜速度が0.1度/分以上6度/分以下となるように前記駆動部を制御する請求項1~4のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の培養装置を用いて、2種類以上の細胞構造体を構築する方法であって、
1)前記第1のセルに第1の細胞を播種して培養することで、第1の細胞構造体を形成させる工程と、
2)前記第2のセルに第2の細胞を播種して培養することで、第2の細胞構造体を形成させる工程と、
3)前記第4のセルに第3の細胞を播種して培養することで、第3の細胞構造体を形成させる工程と、
4)前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体を、前記培養装置を用いて共培養する工程と、を備え、
前記第1の細胞構造体と、前記第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよく、
前記第1の細胞構造体及び前記第2の細胞構造体と、前記第3の細胞構造体とは、異なる種類である方法。
【請求項7】
前記工程1)の前に、さらに、
1′)前記第3のセルの前記流路に第4の細胞を播種して培養することで、前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を形成させる工程を備え、
前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体と、前記第4の細胞構造体とは、異なる種類であり、
前記工程4)において、前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体、前記第3の細胞構造体及び前記第4の細胞構造体を、前記培養装置を用いて共培養する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の培養装置の前記培養容器内に2種類以上の細胞構造体を備えるオンチップ臓器デバイスであって、
前記第1のセル内に第1の細胞構造体を備え、
前記第2のセル内に第2の細胞構造体を備え、
前記第4のセルの前記半透膜上に第3の細胞構造体を備え、
前記第1の細胞構造体と、前記第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよく、
前記第1の細胞構造体及び前記第2の細胞構造体と、前記第3の細胞構造体とは、異なる種類であるオンチップ臓器デバイス。
【請求項9】
さらに、前記第3のセルの前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を備え、
前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体と、前記第4の細胞構造体とは、異なる種類である請求項8に記載のオンチップ臓器デバイス。
【請求項10】
前記第1の細胞構造体が心筋細胞からなり、
前記第2の細胞構造体が肝細胞からなり、
前記第3の細胞構造体が培養皮膚である請求項8又は9に記載のオンチップ臓器デバイス。
【請求項11】
前記第4の細胞構造体が血管内皮細胞からなる請求項9又は10に記載のオンチップ臓器デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置、2種類以上の細胞構造体を構築する方法及びオンチップ臓器デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
創薬分野では動物実験の代替法として、培養細胞を用いた化学物質の薬効及び毒性のスクリーニングアッセイが広く行われている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、従来のプラスチックディッシュ上の培養細胞を用いた毒性評価では、培養細胞で確認されない毒性が、その後の動物実験又はヒト臨床試験の段階で確認される等の不一致が生じることがあった。これは、体内に入った化学物質はADME(吸収、分布、代謝及び排除)といった連鎖的な過程を経て、排除されるが、この過程で化学物質がより毒性の強い異種化合物に変換されることがあるためである。
【0003】
上記問題を解決する技術として、近年、マイクロ流体技術を応用した、単一臓器モデルである「Organ on a Chip(組織チップ)」や複数の組織を一つのデバイス内で連結する「Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)」が注目されている(例えば、非特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Li C-L et al., “Survival advantages of multicellular spheroids vs. monolayers of HepG2 cells in vitro.”, ONCOLOGY REPORTS, Vol.20, p1465-1471, 2008.
【文献】Huh D et al., “From Three-Dimensional Cell Culture to Organs-on-Chips.”, Trends Cell Biol., Vol. 21, Issue 12, p745-754, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの組織チップ及びボディ・オン・チップでは、シリンジポンプを用いた送液方法を採用しており、チップ内に構築された血管様構造一つ一つにチューブ及びシリンジポンプを接続しなければならず、操作が煩雑であった。
また、チップ内の培地を交換するために、シリンジをその都度チップから取り外し、チップ内に培地を導入しなければならなかった。
また、チューブを介してシリンジをチップに接続するため、接続部分から雑菌が混入する虞があり、コンタミネーションのリスクが高かった。
また、これらチップを用いて灌流培養を行う場合には、送液した培地を、チップにさらにチューブに接続して戻す工程が必要となり、チップを含む装置がより複雑となり、装置の設置面積が広くなりすぎる虞があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ポンプを使用せずに容易に灌流培養でき、且つ、2種類以上の細胞構造体を構築可能な培養装置を提供する。前記培養装置を用いた2種類以上の細胞構造体を構築する方法及びオンチップ臓器デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る培養装置は、培養容器と、灌流装置と、を備える培養装置であって、前記培養容器は、溶液を収容可能な第1のセルと、前記溶液を収容可能な第2のセルと、前記第1のセル及び前記第2のセルを接続する第3のセルと、前記溶液を収容可能であり、底面に半透膜を有する第4のセルと、を有し、前記第3のセルは、前記第1のセルに隣接する第1の隔壁と、前記第2のセルに隣接する第2の隔壁と、前記第1の隔壁及び前記第2の隔壁にそれぞれ対向して形成され、前記第1のセル及び前記第2のセルをそれぞれ連通する少なくとも一対の孔を含み、前記溶液の流路となりうる第1の孔部と、を有し、前記第4のセルが前記流路の天面に着脱可能に配置され、前記灌流装置は、支持部材と、駆動機構と、を有し、少なくとも1つの前記培養容器が前記支持部材上に配置される。
上記第1態様に係る培養装置において、前記第1のセル、前記第2のセル及び前記第3のセルが、酸素透過性を有するポリマー材からなってもよい。
上記第1態様に係る培養装置において、前記酸素透過性を有するポリマー材がポリジメチルシロキサンであってもよい。
上記第1態様に係る培養装置において、前記流路の内壁面上に細胞足場材を備え、前記第4のセルが前記細胞足場材を介して前記流路の天面に着脱可能に配置されてもよい。
上記第1態様に係る培養装置において、水平面上で直交する方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向、並びに、これらの方向と直交する方向をZ軸方向とした場合に、前記駆動装置は、前記支持部材を配置する載台と、前記載台の中央部においてY軸方向に沿って配置された軸部と、前記軸部をY軸まわりに回動させる駆動部と、前記駆動部を制御する制御部と、を有し、前記支持部材上において、前記培養容器の前記第1のセル及び前記第2のセルがX軸方向に対向して配置されており、前記駆動部は、前記軸部をY軸まわりに回動させることで、前記載台と前記支持部材上に配置された前記培養容器とをY軸まわりに回動させ、前記制御部は、前記載台のY軸方向の傾斜角度が-20度以上20度以下となり、且つ、前記載台のY軸方向の傾斜速度が0.1度/分以上6度/分以下となるように前記駆動部を制御してもよい。
【0008】
本発明の第2態様に係る方法は、上記第1態様に係る培養装置を用いて、2種類以上の細胞構造体を構築する方法であって、
1)前記第1のセルに第1の細胞を播種して培養することで、第1の細胞構造体を形成させる工程と、
2)前記第2のセルに第2の細胞を播種して培養することで、第2の細胞構造体を形成させる工程と、
3)前記第4のセルに第3の細胞を播種して培養することで、第3の細胞構造体を形成させる工程と、
4)前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体を、前記培養装置を用いて共培養する工程と、を備える方法であり、
前記第1の細胞構造体と、前記第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよく、前記第1の細胞構造体及び前記第2の細胞構造体と、前記第3の細胞構造体とは、異なる種類である。
上記第2態様に係る方法は、前記工程1)の前に、さらに、
1’)前記第3のセルの前記流路に第4の細胞を播種して培養することで、前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を形成させる工程を備える方法であり、
前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体と、前記第4の細胞構造体とは、異なる種類であり、前記工程4)において、前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体、前記第3の細胞構造体及び前記第4の細胞構造体を、前記培養装置を用いて共培養してもよい。
【0009】
本発明の第3態様に係るオンチップ臓器デバイスは、上記第1態様に係る培養装置の前記培養容器内に2種類以上の細胞構造体を備えるオンチップ臓器デバイスであって、前記第1のセル内に第1の細胞構造体を備え、前記第2のセル内に第2の細胞構造体を備え、前記第4のセルの前記半透膜上に第3の細胞構造体を備え、前記第1の細胞構造体と、前記第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよく、前記第1の細胞構造体及び前記第2の細胞構造体と、前記第3の細胞構造体とは、異なる種類である。
上記第3態様に係るオンチップ臓器デバイスは、さらに、前記第3のセルの前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を備え、前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体と、前記第4の細胞構造体とは、異なる種類であってもよい。
上記第3態様に係るオンチップ臓器デバイスにおいて、前記第1の細胞構造体が心筋細胞からなり、前記第2の細胞構造体が肝細胞からなり、前記第3の細胞構造体が培養皮膚であってもよい。
上記第3態様に係るオンチップ臓器デバイスにおいて、前記第4の細胞構造体が血管内皮細胞からなってもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の培養装置によれば、ポンプを使用せずに容易に灌流培養でき、且つ、2種類以上の細胞構造体を構築できる。上記態様の2種類以上の細胞構造体を構築する方法は、前記培養装置を用いたものであり、容易に2種類以上の細胞構造体を構築することができる。上記態様のオンチップ臓器デバイスは、前記培養装置を含み、生体に近しい構成である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の培養装置の一例を示す斜視図である。
図2A】本実施形態の培養装置が備える培養容器(密閉状態)の一例を示す斜視図である。
図2B】本実施形態の培養装置が備える培養容器(開放状態)の一例を示す斜視図である。
図3A】本実施形態の培養装置が備える培養容器(第4のセル装着時)の一例を示す断面図である。
図3B】本実施形態の培養装置が備える培養容器(第4のセル脱着時)の一例を示す断面図である。
図3C】本実施形態の培養装置が備える培養容器(第4のセル脱着時)の一例を示す平面図である。
図4A】本実施形態の培養装置が備える灌流装置の駆動機構の一例を示す正面図である。
図4B】本実施形態の培養装置を用いた灌流培養方法の一例を示す断面図である。
図5】本実施形態のオンチップ臓器デバイスの一例を示す断面図である。
図6】参考例1で製造された培養容器を上から見た画像(左)及び正面から見た画像(右)である。
図7】参考例1で製造された培養装置を斜め上から見た画像である。
図8】参考例2における血管様細胞構造体の作製手順を示す工程図である。
図9】参考例2で作製された血管様細胞構造体の蛍光像である。スケールバーは500μmを示す。
図10】参考例2で作製された血管様細胞構造体を備える培養装置の灌流培養の様子を示す画像(左)及び断面図(右)である。
図11】参考例3におけるシーソー型灌流装置の傾斜速度と培地の流速との関係を示すグラフである。
図12】参考例4における培養7日目の静置培養(左)及びシーソー型灌流装置による灌流培養(右)したヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell;HUVEC)の共焦点レーザー顕微鏡像である。スケールバーは250μmを示す。また、矢印は灌流培養における送液方向を示す。
図13A】参考例4における培養7日目の静置培養及びシーソー型灌流装置による灌流培養したHUVECの各配向角度における配向強度を示すグラフである。
図13B】参考例4における培養7日目の静置培養及びシーソー型灌流装置による灌流培養したHUVECの配向強度を比較したグラフである。
図14】参考例5における培養1、3及び7日目のMDA-MB-231とNB1RGBとの混合スフェロイドの共焦点レーザー顕微鏡像である。スケールバーは1mmを示す。
図15】参考例6における混合スフェロイド存在又は非存在下で灌流培養した血管様細胞構造体を示す模式図及び位相差蛍光顕微鏡像である。スケールバーは500μmを示す。
図16A】参考例7で製造された培養容器を斜め上から見た画像である。
図16B】参考例7で製造された培養容器を上から見た画像(上)及び細胞培養チャンバー内のマイクロウェル構造の拡大図(下)である。
図17】参考例7におけるヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞のスフェロイド(左)、及び、ヒト心筋細胞(Human Cardiac Myocytes;HCM)のスフェロイド(右)の位相差顕微鏡像である。スケールバーは200μmを示す。
図18】参考例8における培養皮膚の位相差顕微鏡像(左:明視野像、右:蛍光像)である。スケールバーは200μmを示す。
図19】実施例1で製造された培養容器を斜め上から見た画像である。
図20】実施例1における培養1及び3日目のシーソー型灌流装置を用いた灌流培養により培養容器内に構築されたHCMのスフェロイド(左)、培養皮膚(中央)及びHepG2細胞のスフェロイド(右)を示す画像である。スケールバーは500μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪培養装置≫
図1は、本実施形態の培養装置の一例を示す斜視図である。なお、図1中のX軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
図1に示す培養装置100は、培養容器10と、灌流装置20と、を備える。
培養容器10は、溶液を収容可能な第1のセル11と、前記溶液を収容可能な第2のセル12と、第1のセル11及び第2のセル12を接続する第3のセル13(図示せず)と、底面に半透膜を有する第4のセル14(図示せず)と、を有する。
また、灌流装置20は、支持部材21と、駆動機構22と、を有する。この駆動機構22は、載台22aと、軸部22bと、駆動部22cと、制御部22dとを有する。
図1において、複数の培養容器10が支持部材21上に配置される例を示したが、支持部材21上に配置される培養容器10の数は、1つでもよく、2つ以上の複数でもよい。
【0013】
本実施形態の培養装置は、後述する実施例に示すように、ポンプを使用せずに溶液を送液でき、且つ、容易に灌流培養することができるものである。また、第1のセル、第2のセル、第3のセル内の流路及び第4のセルにそれぞれ細胞構造体を形成できる。そのため、本実施形態の培養装置を用いることで、後述するように、2種類以上の細胞構造体を含むオンチップ臓器デバイスを構築することができる。
なお、一般に、「灌流培養」とは、細胞を含む培養系に培地を連続的に供給するとともに、それと同量の細胞を含まない培養上清を連続的に系外へ取り出し、培養系を定常状態に保ちながら培養する方法を意味する。本実施形態の培養装置は、ポンプを用いる代わりに、後述する構成を有する灌流装置を用いて、培地を第1のセルから第2のセルへ送液した後、該溶液を第2のセルから第1のセルに再度送液するという動作を繰り返しながら、培養容器内の細胞を培養することができる。また、培地を第1のセル又は第2のセルから簡便に取り出せる。そのため、本実施形態の培養装置は、従来の組織チップ及びボディ・オン・チップよりも容易に灌流培養を行うことができる。
【0014】
また、本明細書において、「細胞構造体」とは、複数の細胞が細胞-細胞間の結合を形成した単層細胞、多層細胞、又は、凝集細胞からなる3次元構造体を意味する。
また、本明細書において、「オンチップ臓器デバイス」とは、生体内の2種類以上の組織又は臓器の機能を再現したデバイスである。
次いで、本実施形態の培養装置の各構成について以下に詳細を説明する。
【0015】
<培養容器>
図2A図3Cは、本実施形態の培養装置が備える培養容器を示す図である。
具体的には、図2A及び図2Bは、それぞれ培養容器の斜視図であり、図2Aは培養容器が密閉状態である場合を示し、図2Bは培養容器が開放状態である場合を示している。
また、図3A及び図3Bは、それぞれ培養容器の断面図であり、図3Aは第4のセル装着時を示し、図3Bは第4のセル脱着を示している。
また、図3Cは、培養容器の平面図である。
なお、図2A図3C中のx軸、y軸及びz軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
これらの図に示すように、培養容器10は、第1のセル11と、第2のセル12と、第3のセル13と、第4のセル14とを有する。
第1のセル11及び第2のセル12は、例えば同一の容積を有していてもよく、第3のセル13は、例えば第1のセル11及び第2のセル12よりも小さい容積を有していてもよい。
また、第4のセル14は、第3のセル13内の流路F上に着脱可能に配置される。そのため、第4のセル14は、第3のセル13よりも小さい容積であることが好ましい。具体的には、第4のセル14の外形容積は第3のセル13内の容積と同一であることが好ましい。これにより、第4のセル14を第3のセル13内に隙間なく安定して装着することができ、コンタミネーションのリスクを軽減することができる。
【0016】
培養容器10において、第1のセル11、第2のセル12、第3のセル13及び第4のセル14の半透膜14b以外の部分は同一の材料で形成されていてもよく、異なる材料で形成されていてもよい。中でも、製造が容易であることから、第1のセル11、第2のセル12及び第3のセル13は、同一の材料で形成されていることが好ましい。
第1のセル11、第2のセル12、第3のセル13及び第4のセル14の半透膜14b以外の部分を形成する材料としては、観察の容易性から、透光性を有するものであればよく、例えば、透明なガラス、アクリル樹脂等の各種ポリマー材等が挙げられる。中でも、酸素透過性を有するポリマー材が好ましい。特に、第1のセル11、第2のセル12及び第3のセル13は、酸素透過性を有するポリマー材からなることが好ましい。
【0017】
酸素透過性を有するポリマー材として具体的には、例えば、フッ素樹脂、シリコンゴム(例えば、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane):PDMS)等)等が挙げられる。これらの材料を単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。中でも、酸素透過性を有するポリマー材としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。
【0018】
本明細書において、「酸素透過性」とは、分子状の酸素を透過し、細胞培養容器のウェル内まで到達させる性質を表している。具体的な酸素透過率としては、約100cm/m・24h・atm以上5000cm/m・24h・atm以下であってよく、約1100cm/m・24h・atm以上3000cm/m・24h・atm以下であってよく、約1250cm/m・24h・atm以上2750cm/m・24h・atm以下であってよい。なお、「24h」は24時間を意味し、「atm」とは、気圧をの単位を意味する。すなわち、上記単位「cm/m・24h・atm」は、1気圧の環境下において、24時間で透過する酸素の1mあたりの容量(cm)を表している。酸素透過率が上記範囲である材料からなる培養容器を使用することにより、十分な量の酸素を細胞に供給でき、細胞の生存率を高く保ちながら長期間培養することができる。また、効率よく細胞を増殖させることができる。
【0019】
[第1のセル及び第2のセル]
第1のセル11及び第2のセル12は、いずれも、溶液を収容することが可能に構成され、第3のセル13を挟んで、例えばy軸方向に対向して配置される。第1のセル11及び第2のセル12は、後述する第1の孔部13dを介して第3のセル13と連通し、第3のセル13に溶液を供給することができる。
第1のセル11及び第2のセル12は、例えばz軸方向に直交する開口11a及び12aをそれぞれ含み、略直方体状又は略円柱状に構成される。この開口11a及び12aは、図2A及び図2Bにおいて上方側から例えば溶液を添加するために用いられる。
また、図2A及び図2Bに示すように、第1のセル11は、第3のセル13に隣接する面に対向する面に、孔11bと、孔11bを密閉することが可能なプラグ11cとを有してもよい。この孔11bは、開放状態において針状部材(図示せず)を挿入させることが可能に構成される。これにより、後述するように、第3のセル13の流路Fに血管様細胞構造体を構築することができる。また、孔11bは、プラグ11c(図示せず)によって密閉されることにより、灌流培養時に第1のセル11内に収容され得る溶液の漏出を防止することができる。
【0020】
ここでいう「溶液」とは、細胞培養に用いられる液体培地であってもよいし、該培地にスクリーニング対象の薬剤や成長因子等を適宜添加したものであってもよい。
また、第1のセル11及び第2のセル12には、必要に応じて、培地以外の緩衝液、生理食塩水等が収容されてもよい。
【0021】
また、第1のセル11の底部11d及び第2のセルの底部12bはそれぞれ1つ以上のウェルを備えていてもよい。2つ以上の複数のウェルを備える場合、各ウェル内に細胞を播種し、大量に培養させることができる。
ウェルの底面の形状は、平底であってもよく、U字型であってもよい。ウェルの底面の形状がU字型である場合、球状の細胞構造体を培養するのに好適である。
【0022】
[第3のセル]
第3のセル13は、第1のセル11及び第2のセル12を相互に接続する。第3のセル13では、図3A図3Cに示すように、底部13c上に流路Fを有する。図3Cでは、流路Fを1つ有する場合を例示したが、流路Fの数は1つでもよく、2つ以上の複数でもよい。
また、図3A図3Cに示すように、第3のセル13は、第1の隔壁13aと、第2の隔壁13bと、底部13cと、第1の孔部13dとを有する。
【0023】
第1の隔壁13aは、第1のセル11に隣接する隔壁(第1のセル11と第3のセル13とを区画する画壁)である。
第2の隔壁13bは、第2のセル12に隣接する隔壁(第2のセル12と第3のセル13とを区画する画壁)である。
第1の隔壁13a及び第2の隔壁13bは、相互にy軸方向に対向している。
底部13cは、灌流培養時に第3のセル13の底部を構成する面(底面)であり、第1の隔壁13a及び第2の隔壁13bに連接して配置される。培養容器10において、第3のセル13の底部13cは、第1のセル11の底部11d及び第2のセル12の底部12bと略同一平面上に形成される。また、底部13cが透光性材料により形成されることにより、光学顕微鏡や蛍光顕微鏡等による流路Fに存在する細胞又は送液の様子の観察が容易になる。
また、底部13cは流路Fの底面となりうることから、平滑であることが好ましい。
また、図3Bに示すように、第4のセルの脱着時において、第3のセル13は例えばz軸方向に直交する開口13fを含み、略直方体状又は略円柱状に構成される。この開口13fは、図3A及び図3Bにおいて上方側から第4のセル14を装着するために用いられる。
【0024】
第1の孔部13dは、第1の隔壁13a及び第2の隔壁13bにそれぞれy軸方向に対向して形成された少なくとも一対の孔13d-1及び孔13d-2を含む。孔13d-1及び孔13d-2は、第1のセル11及び第2のセル12とそれぞれ連通している。そのため、図3A図3Cに示すように、第1の孔部13dは、溶液の流路Fとなりうる。
図3Cに示すように、第1の孔部13dは、培養容器10において、複数対(例えば2対)の孔13d-1及び孔13d-2を含んでもよい。これにより、第1のセル11及び第2のセル12間において、1種類の溶液を複数対の孔から1つの第1の孔部13d(1本の流路F)を介して灌流することができ、効率よく、精度のよい灌流培養を行うことができる。
また、図3A図3Cにおいて、第1の孔部13dを1つ有する場合を例示したが、第1の孔部13dを2つ以上有してもよい。これにより、第1のセル11及び第2のセル12間において、1種類の溶液を複数本の流路から灌流でき、効率よく、精度のよい灌流培養を行うことができる。
また、第1の孔部13dは、後述する針状部材が第3のセル13を貫通するように挿入させることが可能に構成されてもよい。
【0025】
また、流路Fの内壁面上に細胞足場材を備えていてもよい。例えば、孔11bから針状部材が第1の孔部13dに挿入されている間に、針状部材の周囲にゲル状の細胞足場材が充填することができる。すなわち、針状部材の抜去後に、針状部材が挿入されていた領域は、細胞足場材が充填されていない空隙となる。これにより、針状部材を抜去後に形成された一対の孔13d-1及び孔13d-2間を結ぶ管状の空隙が、壁面に細胞足場材を備える流路Fとなりうる。なお、例えば、図3Cにおいては、2対の孔13d-1及び孔13d-2が含まれるため、それぞれに針状部材を挿入することで、第1の孔部13d内に2本の流路Fが形成される。したがって、第1のセル11及び第2のセル12間において、1種類の溶液を2本の流路Fにより灌流することができ、効率よく、精度のよい灌流培養を行うことができる。
【0026】
(細胞足場材)
本明細書において、「細胞足場材」としては、典型的にはゲル化することが可能な細胞足場材であり、加温、化学的架橋、光架橋等により容易にゲル化する材料を用いることができる。このような細胞足場材としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、ゼラチン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アルギン酸、デンプン、ポリエチレングリコール、ポリジメチルシロキサン、ポリ乳酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグルタミン酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリアクリル酸等からなるポリマーゲル及びそれらを適宜修飾させてなるポリマーゲル等が挙げられる。
なお、流路Fが細胞足場材を備える場合、第4のセル14は、細胞足場材を介して、流路の天面に着脱可能に配置される。そのため、第4のセル14からの培地に溶解している栄養分若しくは薬剤、又は、細胞から分泌された各種生理活性物質若しくは代謝物を透過させる観点から、上記例示された材料から構成される細胞足場材は、気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有することが好ましい。
なお、本明細書において、「半透性」とは、一定の分子量以下の分子又はイオンのみを透過可能な性質を意味し、「半透膜」とは、当該性質を有する膜である。
【0027】
また、図3A図3Cに示すように、第3のセル13は、さらに、第2の孔部13eを有してもよい。第2の孔部13eは、第1の隔壁13aに形成され、細胞足場材を注入するための孔として構成される。図3Cでは、第2の孔部13eを2つ有する場合を例示したが、第2の孔部13eが有する孔の数は1つでもよく、2つ以上の複数でもよい。第2の孔部13eが複数の孔を有している場合には、各孔とも、細胞足場材を注入することが可能であってもよく、また少なくとも一つの孔が第3のセル13内の排気等の機能を担っていてもよい。
【0028】
第3のセルが上記構成を有することで、第1のセル11及び第2のセル12の一方から他方に溶液を灌流させることができる。したがって、ポンプ等の構成を用いることなく、簡便に灌流培養することができる。
【0029】
[第4のセル]
第4のセル14は、溶液を収容することが可能に構成され、第3のセル13内の流路F上に着脱可能に配置される。また、図3A及び図3Bに示すように、第4のセル14は、第3のセル13内において、z軸方向に着脱可能に配置される。
【0030】
また、第4のセル14は、例えばz軸方向に直交する開口14aを含み、略直方体状又は略円柱状に構成される。なお、第4のセル14の形状は第3のセル13の形状と同一であることが好ましい。これにより、第4のセル14を第3のセル13内に隙間なく安定して装着することができ、コンタミネーションのリスクを軽減することができる。この開口14aは、図3A及び図3Bにおいて上方側から例えば溶液を添加するために用いられる。
【0031】
また、図3A及び図3Bに示すように、第4のセル14は、底面に半透膜14bと、胴部14cと、を有する。また、図3A及び図3Bに示すように第4のセル14は、さらに、係止部14dを有してもよい。これにより、第4のセル14を第3のセル13内に安定して装着することができ、また、第4のセル14を第3のセル13から容易に脱着することができる。
【0032】
(半透膜)
本明細書中において、「半透膜」とは、気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する膜を意味する。半透膜14bは、気相中で液密性を有するため、例えば、第4のセルの内部に培地等の液体を含んでいる場合に、気相中において、液体が漏れず、内部に保つことができる。この液密性は、半透膜上での表面張力によるものである。一方、気体を通すことができるため、内部に液体を含む場合、内部の液体は経時的に蒸発する。
また、第4のセルに用いられる半透膜は、液相中で半透性を有するため、例えば、第1のセルに第1の細胞と培地との懸濁液を添加し、第2のセルに第2の細胞と培地との懸濁液を添加し、さらに、細胞と培地との懸濁液が添加された第4のセルを、第3のセル内に装着した場合に、第4のセル内の細胞は第4のセルの外部に透過させない。一方、第1のセル又は第2のセル間で灌流する培地に溶解している栄養分又は薬剤や、第1の細胞又は第2の細胞から分泌された各種生理活性物質又は代謝物質を第3のセルの流路を介して第4のセル内部に透過させることができる。また、培地に溶解している栄養分若しくは薬剤、又は、細胞から分泌された各種生理活性物質若しくは代謝物を第4のセルの外部に透過させることができる。このため、本実施形態の培養装置を用いることで、生体内での細胞間又は組織間の相互作用を再現することができる。
【0033】
半透膜14bの材料としては、細胞毒性のないものであればよく、天然高分子化合物であってもよく、合成高分子化合物であってもよい。
【0034】
前記天然高分子化合物としては、例えば、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分、多糖類(例えば、アルギネート、セルロース、デキストラン、プルラン(pullulane)、ポリヒアルロン酸、及びそれらの誘導体等)、キチン、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(特に、ポリ(β-ヒドロキブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート))、ポリ(3-ヒドロキシ脂肪酸)、フィブリン、寒天、アガロース等が挙げられ、これらに限定されない。
前記セルロースには、合成により改質されたものも含み、例えば、セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、キトサン等)等が挙げられる。より具体的なセルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローススルフェートナトリウム塩等が挙げられる。
前記ゲル化する細胞外マトリックス由来成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択し半透膜を作製することが可能である。また、原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣した半透膜を得ることができる。
【0035】
前記合成高分子化合物としては、例えば、ポリホスファゼン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド(例えば、ナイロン等)、ポリエステルアミド、ポリ(アミノ酸)、ポリ無水物、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアクリレート(アクリル樹脂)、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン等)、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール等)、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド等)、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオルトエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド等)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ[ラクチド-co-(ε-カプロラクトン)]、ポリ[グリコリド-co-(ε-カプロラクトン)]等)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、及びこれらのコポリマー等が挙げられ、これらに限定されない。
前記ポリアクリレート(アクリル樹脂)としてより具体的には、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)等が挙げられる。
【0036】
半透膜14bは、上記例示された材料のうち1種類から構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。また、半透膜は、天然高分子化合物又は合成高分子化合物のうちいずれかで形成されていてもよく、天然高分子化合物及び合成高分子化合物の両方から形成されていてもよい。
【0037】
また、半透膜14bは、両面が平滑な膜であってもよく、少なくとも第4のセル内部側の面に1つ以上の凹凸形状を備えていてもよい。半透膜14bが第4のセル内部側の面に1つ以上の凹凸形状を備える場合、該凹凸形状の凹部をウェルとして使用することができ、各凹部内に細胞を播種して培養することができる。また、凹部の底面の形状は、平底であってもよく、U字型であってもよい。凹部の底面の形状がU字型である場合、球状の細胞構造体を培養するのに好適である。
【0038】
(胴部)
なお、胴部14cを形成する材料としては、観察の容易性から、透光性を有するものであればよく、例えば、透明なガラス、アクリル樹脂等の各種ポリマー材等が挙げられる。
【0039】
第4のセル14としては、上記半透膜及び上記胴部の材料を組み合わせて作製してもよく、市販のものをそのまま用いてもよい。市販のものとしては、例えば、Falcon社製のセルカルチャーインサート等が挙げられる。
【0040】
第4のセル14が上記構成を有することで、第4のセル内に添加した培地に溶解している栄養分若しくは薬剤、又は、細胞から分泌された各種生理活性物質若しくは代謝物を、第3のセル13の流路を介して、第1のセル又は第2のセルに送達させることができる。また、第1のセル又は第2のセル間で灌流する培地に溶解している栄養分又は薬剤や、第1の細胞又は第2の細胞から分泌された各種生理活性物質又は代謝物質を、第3のセルの流路を介して第4のセル内部に送達させることができる。このため、本実施形態の培養装置を用いることで、生体内での細胞間又は組織間の相互作用を再現することができる。
【0041】
<灌流装置>
図4Aは、本実施形態の培養装置が備える灌流装置の駆動機構の一例を示す正面図である。
また、図4Bは、本実施形態の培養装置を用いた灌流培養方法の一例を示す断面図である。
なお、図4A及び図4B中のX軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
これらの図に示すように、灌流装置20は、支持部材21と、駆動機構22と、を有する。さらに、駆動機構22は、載台22aと、軸部22bと、駆動部22cと、制御部22dとを有する。
【0042】
[支持部材]
培養装置100において、支持部材21は、複数の培養容器10を配置するトレイ状に構成される。各培養容器10の第1のセル11及び第2のセル12は、水平方向(図4BではX軸方向)に対向して配置される。
【0043】
[駆動機構]
図4Bに示すように、駆動機構22は、支持部材21を配置する載台22aと、例えばX軸方向に沿った軸部22bと、駆動部22cと、制御部22dとを有する。軸部22bは、例えば、載台22aの中央部において、Y軸方向に沿って配置され、載台22aは、駆動部22cにより、軸部22bを中心としてY軸まわりに回動することが可能に構成される。また、制御部22dは、軸部22bの回転角及び回転速度が適当な範囲となるように駆動部22cを制御可能に構成される。このような駆動機構22により、複数の培養容器10をY軸まわりに回動させ、流路Fに溶液L2を灌流させることができる。
【0044】
灌流装置20を用いて培養容器10内の溶液を流路Fに灌流させる方法としては、例えば以下のように行われる。
すなわち、まず培養容器10を、水平状態から所定の回転角となるまでY軸まわりに回動させる。各培養容器10には、第1のセル11及び第2のセル12の少なくとも一方に溶液L2が添加されている。上記回動により、第1のセル11と第2のセル12との溶液L2の液頭差が生じ、高い位置まで溶液L2が添加されている方のセルから他方のセルに対し、流路Fを介して溶液L2が流入する。培養容器10が傾斜した状態を維持することにより、流路Fに溶液L2が継続的に灌流される。そして、鉛直方向上方に配置されていたセル内の溶液L2がなくなるまでに再び培養容器10を回動させることで、鉛直方向上方に配置されるセルを他方のセルに切り替えることができ、継続的に流路Fに溶液L2を灌流させることができる。
また、例えば、培養容器10において、第2のセル12に溶液L2を添加し、水平状態からY軸を中心として時計回りに所定の回転角(例えば、「+α度」とする)となるまで回動させて、第2のセル12から第1のセル11に溶液L2を移すことができる。次いで、Y軸を中心として反時計回りに回動させて水平状態に戻し、さらに、該所定の回転角と同じ角度(-α度)となるまで反時計回りに回動させることで、第1のセル11から第2のセル12に溶液L2を移すことができる。この動作を繰り返すことで、第1のセル11及び第2のセル12間で溶液L2を繰り返し移動させることができる。
流路F中の流速は、例えば流路Fの断面積や回転角の大きさ、回転の角速度等に相関を有する。このため、主に灌流装置20の回動に関する条件を検討することで、培養容器10を用いた場合の流速を制御することができる。
例えば、後述の実施例に示すとおり、流路Fの断面積が3mm以上4mm以下程度であり、流路の長さが15mm以上20mm以下程度である場合、制御部22dは、載台22aのY軸方向の傾斜角度が-20度以上20度以下(好ましくは、-15度以上15度以下)となり、且つ、載台22aのY軸方向の傾斜速度が0.1度/分以上6度/分以下となるように駆動部22aを制御することができる。これにより、生体内での血流等の速度と同程度の流速に制御することができる。
【0045】
<その他構成>
[針状部材]
本実施形態の培養装置は、特開2017-195845号公報(参考文献1)に示されるように、上記培養容器及び上記灌流装置に加えて、さらに、着脱可能な針状部材を備えていてもよい。
【0046】
針状部材は、複数の培養容器10のうちの一の培養容器10の第3のセル13を貫通することが可能に構成される。具体的には、各針状部材は、一対の孔13d-1及び孔13d-2に挿入される。
針状部材は、導電性材料により形成されることが好ましく、針状部材の表面は、例えば金(Au)により形成されることがより好ましい。これにより、後述するように、表面に播種された細胞の脱離を円滑に行うことができる。
針状部材は、例えば一軸方向(例えばZ軸方向)に延在する棒状に構成され、針状部材の横断面(延在方向に直交する断面)は、典型的には円形で構成される。当該横断面の径は、作製する血管様構造の径に応じて適宜設定することができ、例えば0.1mm以上1.0mm以下程度で構成され得る。
また、針状部材は、第3のセル13を貫通する第1の位置と、第3のセル13から抜去される第2の位置と、の間を移動可能に構成される。
【0047】
[その他部材]
本実施形態の培養装置は、特開2017-195845号公報(参考文献1)に示されるように、上記培養容器及び上記灌流装置に加えて、さらに、容器保持部材、ホルダ、移動機構等のその他部材を備えていてもよい。これらのその他部材は、培養容器10の第3のセル13に細胞足場材を充填する目的で用いられる。
具体的には、容器保持部材は、複数の培養容器10を保持するためのものである。
ホルダは、複数の針状部材それぞれを複数の培養容器10のうち少なくとも1つの培養容器10の第3のセル13に貫通させることが可能に、複数の針状部材を保持するためのものである。
移動機構は、針状部材を第3のセル13を貫通する第1の位置と、第3のセル13から抜去される第2の位置と、の間を移動可能に、ホルダを移動させるためのものである。
【0048】
≪2種類以上の細胞構造体を構築する方法≫
本実施形態の方法は、上記実施形態に係る培養装置を用いて、2種類以上の細胞構造体を構築する方法であって、以下の工程1)~4)を備える方法である。
1)前記第1のセルに第1の細胞を播種して培養することで、第1の細胞構造体を形成させる工程;
2)前記第2のセルに第2の細胞を播種して培養することで、第2の細胞構造体を形成させる工程;
3)前記第4のセルに第3の細胞を播種して培養することで、第3の細胞構造体を形成させる工程;
4)前記第1の細胞構造体、前記第2の細胞構造体及び前記第3の細胞構造体を、前記培養装置を用いて共培養する工程
【0049】
また、前記第1の細胞構造体と、前記第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよく、前記第1の細胞構造体及び前記第2の細胞構造体と、前記第3の細胞構造体とは、異なる種類である。
【0050】
本実施形態の方法では、上記培養装置を用いることで、該培養装置が備える培養容器内に2種類以上の細胞構造体を容易に構築することができる。得られた培養容器内に2種類以上の細胞構造体を備える培養装置は、後述するようにオンチップ臓器デバイスとして活用することができる。
【0051】
<細胞>
本実施形態の方法の各工程で用いられる細胞としては、特別な限定はなく、脊椎動物細胞であってもよく、無脊椎動物細胞であってもよい。脊椎動物細胞としては、例えば、哺乳動物細胞、鳥類細胞、は虫類細胞、両生類細胞、魚類細胞等が挙げられる。無脊椎動物細胞としては、例えば、昆虫細胞、甲殻類細胞、軟体動物細胞、原生動物細胞等が挙げられる。中でも、脊椎動物細胞が好ましく、哺乳動物細胞がより好ましい。
【0052】
脊椎動物細胞(特に、哺乳動物細胞)としては、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離されたがん細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられ、これらに限定されない。また、これら細胞の細胞塊(スフェロイド)を用いてもよい。また、生体の正常組織又はがん組織から分離された小さな組織片を、そのまま細胞塊と同様に用いてもよい。
【0053】
生体を構成する体細胞としては、例えば、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が挙げられ、これらに限定されない。体細胞として、より具体的には、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、免疫細胞(例えば、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、マクロファージ、単球、等)、赤血球、血小板、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、肝細胞、膵島細胞(例えば、α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞等)、軟骨細胞、卵丘細胞、グリア細胞、神経細胞(ニューロン)、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心筋細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞等)、メラニン細胞、単核細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0054】
幹細胞とは、自己を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞である。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、がん幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0055】
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞又は生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
【0056】
がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞であり、周囲の組織に浸潤し、又は転移を起こす悪性新生物である。がん細胞の由来となる癌としては、例えば、乳癌(例えば、浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌、炎症性乳癌等)、前立腺癌(例えば、ホルモン依存性前立腺癌、ホルモン非依存性前立腺癌等)、膵癌(例えば、膵管癌等)、胃癌(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌等)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫等)、結腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸癌(例えば、家族性大腸癌、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、消化管間質腫瘍等)、小腸癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道癌、十二指腸癌、舌癌、咽頭癌(例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌等)、頭頚部癌、唾液腺癌、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓癌(例えば、原発性肝癌、肝外胆管癌等)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂と尿管の移行上皮癌等)、胆嚢癌、膵臓癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌(例、上皮性卵巣癌、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱癌、尿道癌、皮膚癌(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞癌等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌等)、副甲状腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形癌(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
また、本明細書において、「癌」とは、診断名を表す際に用いられ、「がん」とは、悪性新生物の総称を表す際に用いられる。
【0057】
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株としては、例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸がん細胞株)、HepG2(ヒト肝がん細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が挙げられ、これらに限定されない。
【0058】
本実施形態の方法において、各セルに播種される細胞の種類は、その目的に応じて適宜選択することができる。また、各セルに播種される細胞は1種類単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてよい。
【0059】
<培地>
本実施形態の方法の各工程で細胞を培養するために用いられる培地としては、特別な限定はなく、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地とすることができる。
【0060】
培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、及び、膜電位の調節を助けるためのものである。
無機塩としては、特別な限定はなく、例えば、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛等の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び、重炭酸塩の形で用いられる。
一般的に、培地中の無機塩の重量オスモル濃度は、例えば200mOsm/kg以上400mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上350mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上310mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上300mOsm/kg未満とすることができ、例えば280mOsm/kgとすることができる。
【0061】
炭水化物としては、特別な限定はなく、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。
一般的に、培地中の炭水化物(好ましくは、D-グルコース)の濃度としては、0.5g/L以上2g/L以下であることが好ましい。
【0062】
アミノ酸としては、特別な限定はなく、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、及び、それらの組み合わせ等が挙げられる。
一般的に、培地に含まれるグルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下) とすることができる。培地に含まれるグルタミン以外の各アミノ酸は、0.001g/L以上1g/L以下(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下) とすることができる。アミノ酸は合成由来でもよい。
【0063】
ビタミンとしては、特別な限定はなく、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、D-パントテン酸ヘミカルシウム(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)、塩化コリン、myo-イノシトール等が挙げられる。
【0064】
培地は、さらに抗生物質、血清、成長因子、又は、ホルモンを含んでいてもよい。
【0065】
抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下とすることができる。
【0066】
血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
一般的に、培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0067】
成長因子としては、例えば、細胞増殖因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。
成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic fibroblast growth factor:aFGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin―like growth factor-1:IGF-1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage-derived growth factor:MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、腫瘍血管新生因子(Tumor angiogenesis factor:TAF)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下とすることができる。
【0068】
ホルモンとしては、例えば、インスリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン(ハイドロコーチゾン等)等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下とすることができる。
【0069】
また、成長因子及びホルモンを含む培地添加剤として、ウシ脳下垂体抽出物(Bovine Pituitary Extract:BPE)を用いてもよい。
【0070】
培地として具体的には、例えば、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、DMEM:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow MEM等の公知の基本培地が挙げられる。
【0071】
また、細胞の種類に応じた市販の培地を用いてもよい。
例えば、細胞が上皮系細胞である場合、培地として具体的には、例えば、HuMedia-KB2(クラボウ社製)、角化細胞基本培地2(Keratinocyte Basal Medium 2)(Promo Cell社製)、EpiLife(登録商標) Medium(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)、HuMedia-KG2(クラボウ社製)、角化細胞増殖培地2(Keratinocyte Growth Medium 2)(Promo Cell社製)等が挙げられる。
【0072】
本実施形態の方法の各工程で使用される培地は、使用する細胞の種類に応じて、上記例示された培地から、適宜選択することができる。
【0073】
<培養条件>
本実施形態の方法の各工程で細胞を培養する条件としては、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
培養温度としては、例えば25℃以上40℃以下とすることができ、例えば30℃以上39℃以下とすることができ、例えば35℃以上39℃以下とすることができる。
また、培養環境は、例えば約5%のCO条件下とすることができる。
また、上記「≪培養装置≫」の「<灌流装置>」に示したように、灌流装置が備える載台の傾斜角度及び傾斜速度を、制御部及び駆動部により適宜調整することで、流路Fにおける流速を制御しながら、灌流培養することができる。
【0074】
<各工程>
次いで、本実施形態の方法の各工程について以下に説明する。
工程1)では、第1のセルに第1の細胞を播種して培養することで、第1の細胞構造体を形成させる。
工程2)では、第2のセルに第2の細胞を播種して培養することで、第2の細胞構造体を形成させる。
第1の細胞と第2の細胞とは、同一の種類のものを使用してもよく、異なる種類のものを使用してもよい。同一の種類のものを使用した場合、形成される第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体を同一の種類とすることができる。また、異なる種類のものを使用した場合、形成される第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体を異なる種類とすることができる。中でも、第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体は異なる種類であることが好ましい。これにより、本実施形態の方法において、3種類の細胞構造体を構築することができる。
また、第1の細胞及び第2の細胞としては、上記細胞として例示されたものから、目的に応じて適宜選択することができ、中でも、各種臓器(例えば、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、副腎、卵巣、子宮、精巣、脳等)を構成する細胞、それらのがん細胞又はそれらの細胞株を用いることが好ましい。
また、播種する細胞数は、各セル内の大きさ又は各セルの底部のウェルの大きさに応じて、適宜調整することができる。
【0075】
工程1)と工程2)とは、同時に行ってもよく、工程1)を先に行った後に工程2)を行ってもよい。
また、第1の細胞及び第2の細胞の種類が異なる場合に、それぞれに適した培地を用いるために、流路Fを遮断する仕切り等を第3のセル内に設けて各細胞を培養することもできる。
【0076】
工程3)では、第4のセルに第3の細胞を播種して培養することで、第3の細胞構造体を形成させる。
本実施形態の方法において、第3の細胞は、上記第1の細胞及び上記第2の細胞と異なる種類のものを用いられる。すなわち、第3の細胞構造体は、上記第1の細胞構造体及び上記第2の細胞構造体と異なる種類のものとなる。これにより、少なくとも2種類以上の細胞構造体を構築することができる。
第3の細胞としては、上記細胞として例示されたものから、目的に応じて適宜選択することができ、中でも、上皮組織(例えば、被蓋上皮、腺上皮、吸収上皮、感覚上皮、呼吸上皮等)を構成する細胞、それらのがん細胞又はそれらの細胞株を用いることが好ましい。
また、播種する細胞数は、第4のセル内の大きさ又は第4のセルの底部のウェルの大きさに応じて、適宜調整することができる。
【0077】
工程3は、工程1)及び工程2)と同時に行ってもよく、工程1)の後であって工程2)の前に行ってもよく、工程2の後に行ってもよい。
また、工程3)において、第4のセルを培養容器の第3のセル内に装着した状態で第3の細胞を培養して第3の細胞構造体が形成させてもよく、又は、第4のセルを培養容器の第3のセルから脱着した状態で個別に第3の細胞を培養して第3の細胞構造体が形成させてもよい。中でも、第4のセルを培養容器の第3のセルから脱着した状態で個別に第3の細胞を培養して第3の細胞構造体が形成させることが好ましい。第1の細胞及び第2の細胞と、第3の細胞とは種類が異なるため、使用する培地及び培養条件等も異なる可能性がある。そのため、第4のセルを培養容器の第3のセルから脱着した状態で、個別に第3の細胞を培養することで、各細胞構造体が形成されるまで、目的の各細胞構造体の形成に適した条件下で培養することができる。
【0078】
工程4)では、工程1)で形成された第1の細胞構造体、工程2)で形成された第2の細胞構造体及び工程3)で形成された第3の細胞構造体を、上記培養装置を用いて共培養する。これにより、第1の細胞構造体、第2の細胞構造体及び第3の細胞構造体間の相互作用を評価することができる。
【0079】
また、本実施形態の方法は、上記工程1)~工程4)に加えて、前記工程1)の前に、さらに、以下の工程1’)を備えてもよい。
1’)前記第3のセルの前記流路に第4の細胞を播種して培養することで、前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を形成させる工程
【0080】
また、本実施形態の方法が、工程1’)を備える場合、第3の細胞は、上記第1の細胞、上記第2の細胞及び上記第3の細胞と異なる種類のものが用いられる。すなわち、第4の細胞構造体は、上記第1の細胞構造体、上記第2の細胞構造体及び上記第3の細胞構造体と異なる種類のものとなる。これにより、少なくとも3種類の細胞構造体を構築することができる。
第4の細胞としては、上記細胞として例示されたものから、目的に応じて適宜選択することができ、中でも、血管組織を構成する細胞、それらのがん細胞又はそれらの細胞株が好ましい。
【0081】
流路の壁面上に第4の細胞構造体を形成させる方法としては、例えば、上記「≪培養装置≫」の「[その他部材]」において記載された針状部材を用いた、公知の文献(参考文献1:特開2017-195845号公報)に記載の方法等が挙げられる。
針状部材が導電性を有する場合、具体的には、まず、該針状部材の表面に第4の細胞を播種する。
次いで、針状部材の表面に第4の細胞を十分に吸着させた後、該針状部材を培養容器の第3のセルを貫通するように挿入する。配置される位置としては、図3B及び図3Cに示す培養容器10Bにおいて、針状部材(図示せず)が、第1の孔部13dとZ軸方向に対向するように配置される。
次いで、第3のセル13内に挿入された針状部材の周囲に細胞足場材を充填する。細胞足場材を充填する場合、該細胞足場材の性状に応じて、加温、光の照射、化学反応等によりゲル化させることができる。
次いで、第3のセルの流路の壁面上に備えられた細胞足場材に、針状部材から細胞を転写する。針状部材が導電性を有する場合、電圧を印加することで、表面に吸着した細胞を第3のセルの流路の壁面上、又は、第3のセルの流路の壁面上に備えられた細胞足場材に転写することができる。電圧の大きさや時間等の条件は、細胞が生存可能な程度であればよく、例えば-1Vで5分間程度の電圧を印加することができる。
次いで、針状部材を培養容器10内から抜去する。このとき、第1のセル11及び第2のセル12のうち少なくとも一方に培地を添加することが好ましい。これにより、針状部材の抜去時に、培養容器10内に気泡が入る等の不具合を防止することができる。
次いで、第3のセルの流路の壁面上に備えられた細胞足場材に播種された第4の細胞を培養することで、流路の壁面上に、細胞足場材を介して、第4の細胞構造体を形成させることができる。
【0082】
また、針状部材が導電性を有しない場合、まず、針状部材を培養容器の第3のセルを貫通するように挿入する。配置される位置としては、上記「針状部材が導電性を有する場合」と同様である。
次いで、第3のセル13内に挿入された針状部材の周囲に細胞足場材を充填する。
細胞足場材を充填する場合、該細胞足場材の性状に応じて、加温、光の照射、化学反応等によりゲル化させることができる。
次いで、針状部材を抜去する。これにより、針状部材を抜去後に形成された一対の孔13d-1及び孔13d-2間を結ぶ管状の空隙が、壁面に細胞足場材を備える流路Fとなりうる。
次いで、第4の細胞の懸濁液を流路Fに添加する。添加後、図3B及び図3Cに示す培養容器10Bにおいて、該培養容器10をy軸まわりに回転させることで、第4の細胞をまんべんなく流路Fの壁面上に播種することができる。この第3のセルの流路の壁面上に備えられた細胞足場材に播種された第4の細胞を培養することで、流路の壁面上に細胞足場材を介して第4の細胞構造体を形成させることができる。
【0083】
また、工程1’)を備える場合、上記工程4)において、第1の細胞構造体、第2の細胞構造体、第3の細胞構造体及び第4の細胞構造体を、上記培養装置を用いて共培養することができる。
【0084】
また、本実施形態の方法は、上記工程1)~工程4)に加えて、さらに、工程4)の後に、以下の工程5)~6)等のその他の工程を備えてもよい。
5)共培養された第1の細胞構造体、第2の細胞構造体及び第3の構造体をそれぞれ観察する工程;
6)共培養された第1の細胞構造体、第2の細胞構造体及び第3の構造体をそれぞれ分析する工程
【0085】
工程5)では、顕微鏡等を用いて、各細胞構造体を観察することができる。
また、工程6)では、各細胞構造体を培養装置内に備えたまま、各種染色法(例えば、免疫染色法)等を用いて、解析することができる。
【0086】
≪オンチップ臓器デバイス≫
本実施形態のオンチップ臓器デバイスは、上記実施形態に係る培養装置の前記培養容器内に2種類以上の細胞構造体を備えるオンチップ臓器デバイスである。第1のセル内に第1の細胞構造体を備え、第2のセル内にそれぞれ第2の細胞構造体を備え、第4のセルの前記半透膜上に第3の細胞構造体を備える。
また、第1の細胞構造体と、第2の細胞構造体とは、同一の種類であってもよく、異なる種類であってもよい。中でも、第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体は異なる種類であることが好ましい。これにより、本実施形態のオンチップ臓器デバイスは、3種類の細胞構造体を備えることができる。
また、第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体と、第3の細胞構造体とは、異なる種類である。これにより、少なくとも2種類以上の細胞構造体を備えることができる。
また、第1の細胞構造体及び第2の細胞構造体は、上記「<細胞>」に例示されたいずれの細胞からなってもよい。
一方、第3の細胞構造体は、物質が吸収又は暴露される上皮組織及び表皮組織を構成する細胞からなることが好ましく、具体的には、例えば、肺、小腸、眼、粘膜等を構成する細胞からなることが好ましい。
【0087】
図5及び後述の実施例に示すように、例えば、本実施形態のオンチップ臓器デバイスにおいて、第1の細胞構造体が心筋細胞からなり、第2の細胞構造体が肝細胞からなり、第3の細胞構造体が培養皮膚である場合、生体内での皮膚組織、心臓及び肝臓間の相互作用を再現し、評価することができる。また、例えば、第4のセル内に経皮吸収される薬剤を添加することで、該薬剤の心臓及び肝臓への毒性等の影響を評価することができる。
【0088】
また、本実施形態のオンチップ臓器デバイスは、さらに、前記第3のセルの前記流路の壁面上に第4の細胞構造体を備えてもよい。このとき、第1の細胞構造体、第2の細胞構造体及び第3の細胞構造体と、第4の細胞構造体とは、異なる種類である。これにより、少なくとも3種類の細胞構造体を備えることができる。
第4の細胞構造体は、物質の運搬に関与する組織を構成する細胞からなることが好ましく、具体的には、例えば、血管(例えば、毛細血管、静脈、動脈等)、神経、リンパ、尿細管、胆管、汗腺、乳腺等を構成する細胞からなることが好ましい。
【0089】
例えば、本実施形態のオンチップ臓器デバイスにおいて、第1の細胞構造体が心筋細胞からなり、第2の細胞構造体が肝細胞からなり、第3の細胞構造体が培養皮膚であり、第4の細胞構造体が血管内皮細胞からなる場合、皮膚組織、血管組織、心臓及び肝臓間の相互作用を再現し、評価することができる。また、例えば、第4のセル内に経皮吸収される薬剤を添加することで、該薬剤が皮膚から、血管を介して、心臓及び肝臓へ送達される吸収及び代謝の流れを再現でき、より生体内の環境に近しい環境で薬剤の毒性等を評価することができる。
【0090】
<使用用途>
本実施形態のオンチップ臓器デバイスは、薬剤の毒性評価、新規薬剤の探索、生体内の臓器間相互作用の基礎研究、病態メカニズムの解明、再生医療用組織又は臓器の構築等の分野で好適に用いられる。
【実施例
【0091】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[参考例1]シーソー型送液システムを備える培養装置の開発
生体内の血管には血液が流れており、その流れによってせん断応力が細胞に負荷されている。そのため、生体内の環境を模倣するにあたって、液を送液し、せん断応力を負荷しながら細胞を培養するということが非常に重要である。そこで、まず、三次元的な足場材料であるハイドロゲル内に、血管様構造を作製し、その中を簡便に送液しながら培養できるシステムを開発した。
【0093】
1.培養容器の製造
(1)鋳型の作製
アクリル板をレーザー加工機でカットし、アクリル樹脂用接着剤(アクリサンデー)で貼り合わせることで鋳型を作製した。
【0094】
(2)ポリジメチルシロキサン(PDMS)溶液の調製
熱硬化性シリコーンゴム PDMS前駆体(信越化学社製、KE-1300T)とPDMS硬化剤(信越化学社製、CAT-1300)とを10:1の割合でよく混ぜ合わせ、オイルポンプ(ULVAC社製、G-50SA)を用いて気泡抜きを行い、PDMS溶液を得た。
【0095】
(3)培養容器の製造
(3-1)PDMSチップの作製
次いで、(2)で調製したPDMS溶液を(1)で作製した鋳型に流しいれ、再度オイルポンプを用いて気泡を抜いた。その後80℃のオーブンで2時間焼成した。さらに、硬化したPDMSを鋳型から取り出し、純水に入れてオートクレーブして、PDMSチップを得た(図6参照)。
【0096】
(3-2)ガラスの接着
次いで、プラズマクリーナー(HARRICK PLASMA社製、PLASMAFLO)のチャンバー内にPDMSチップとカバーガラス(松浪硝子社製、No.1)1枚とを入れて、真空引きを行った。真空計の値が98mTorrになったところで、バルブを回し酸素を2分間導入した。その後、バルブを用いて酸素の導入量を調整し、315mTorr、Middle、30秒の条件下でプラズマ処理を行った。照射完了後、チャンバーからPDMSチップとガラスとを取り出し、PDMSチップの底面にそれぞれ1枚ずつ素早く貼り付けた。これにより、顕微鏡による経時的な観察を可能とした。
【0097】
(3-3)コラーゲンの導入及びニードルの設置
次いで、ニードルの差込口からニードルをセル内に設置後、ピペットを用いて、中央部のハイドロゲル導入部にコラーゲンを導入した。次いで、コラーゲンがゲル化後、ニードルを引き抜くことで、培養容器を完成させた。
【0098】
2.培養装置の製造
次いで、「1.」で製造された培養容器をシーソー型灌流装置上に配置し、培養容器とシーソー型灌流装置とを備える培養装置を完成させた(図7参照)。湿度約100%であるインキュベーターで使用できるように、耐湿性のあるモーターを選択した。また、ケーブルの接続部がインキュベーター外に出るように設計した。これにより、2週間ほどの長期使用時にも、問題なく稼働した。
さらに、様々な条件を検討できるように、傾斜角度を-20°以上20°以下、傾斜速度を0.1°/分以上6°/分以下に設定できるように設計した。
【0099】
[参考例2]シーソー型送液システムを備える培養装置内での血管様細胞構造体の作製
次いで、参考例1で製造されたシーソー型送液システムを備える培養装置を用いて、該装置内に血管様細胞構造体を作製した。
【0100】
1.培養容器の製造
(1)鋳型の作製
参考例1の(1)と同様の方法を用いて、鋳型を作製した。
【0101】
(2)PDMS溶液の調製
参考例1の(2)と同様の方法を用いて、PDMS溶液を調製した。
【0102】
(3)培養容器の製造
(3-1)PDMSチップの作製
参考例1の(3-1)と同様の方法を用いて、PDMSチップを作製した。
【0103】
(3-2)ガラスの接着
カバーガラスを2枚用いて、PDMSチップの上面及び底面に貼り合わせた以外は、参考例1の(3-2)と同様の方法を用いて、PDMSチップにガラスを接着させた。次いで、培養容器をオートクレーブすることで滅菌した。
【0104】
2.血管様細胞構造体の構築
図8に示す手順にて血管様細胞構造体を構築した。具体的な作製方法には、以下に示すとおりである。
【0105】
(1)ニードルの準備
ニードルをクリーンベンチ内で70%エタノールに5分間浸漬し、滅菌した。その後、滅菌水に5分間×3回浸漬し、洗浄した。
【0106】
(2)コラーゲンゲルの導入
次いで、(3-3)で準備したニードルをハイドロゲル導入部に挿入した。次いで、ハイドロゲル導入部にコラーゲンゲルを導入し、15分間インキュベートした。
【0107】
(3)細胞播種及びニードルの引き抜き
次いで、流路の片側に3.0×10cells/30μLの細胞懸濁液を滴下し、反対側からニードルを引き抜くことで流路内にGFP発現ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell;HUVEC)(ANGIO-PROTEOMIE社より購入)の懸濁液を導入した。15分後に培養容器を逆さにして、流路内の全面に細胞が接着するようにして、血管様細胞構造体を構築した。
【0108】
3.シーソー型灌流装置を用いた培養装置による培養
(1)培地の送液
次いで、培養容器の培地リザーバー内に2mLの血管内皮細胞用増殖培地(Lonza社製、Endothelial Basal Medium-2)を入れ、培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度)に載せることで、コラーゲンゲル内の血管様細胞構造体中に培地を繰り返し送液して1日間培養した。
【0109】
(2)蛍光観察
培養後、位相差蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX-71)を用いて、GFP発現HUVECを観察した。結果を図9に示す。図9において、スケールバーは500μmを示す。
【0110】
図9から、培養容器内のコラーゲンゲル中に、細胞が密に覆った血管様細胞構造体を構築できたことが確認された。
また、この培養容器は、ハイドロゲル導入部の両端に培地リザーバーを備えるため、シーソー型灌流装置上に培養容器を設置することで、血管様細胞構造体に培地を繰り返し送液できることが確かめられた(図10参照)。
【0111】
[参考例3]シーソー型灌流装置の傾斜速度及び送液速度の検証
次いで、シーソー型灌流装置の傾斜速度と、培地が実際に血管様細胞構造体を流れる速度の関係を調べた。
【0112】
1.培養容器の製造
参考例2と同様の方法を用いて、培養容器を製造した。
【0113】
2.血管様細胞構造体の構築
GFP発現HUVEC(ANGIO-PROTEOMIE社より購入)の代わりに、HUVEC(LONZA社より購入)を用いた以外は、参考例2の「2.」と同様の方法を用いて、血管様細胞構造体を構築した。血管様細胞構造体の内径は500μmであった。
【0114】
3.シーソー型灌流装置を用いた培養装置による培養
(1)培地の送液
次いで、培養容器の片側の培地リザーバーに1mLの血管内皮細胞用増殖培地(Lonza社製、Endothelial Basal Medium-2)を入れ、培養容器をシーソー型灌流装置に載せた。次いで、シーソー型灌流装置を15度になるまで傾斜させた。
【0115】
(2)送液速度の計算
次いで、15度まで傾いた後に、培地を入れたのとは反対側の培地リザーバーに流れてきた培地を回収し、その液量を測定した。次いで、液量を傾斜に要した時間(分)で割ることで、1分あたり流路に流れた培地の流速を求めた。傾斜速度を変えて、同様に15度まで傾斜させて、それぞれ培地の流速を求めた。結果を図11に示す。
【0116】
図11から、血管様細胞構造体内を流れる培地の流速は、シーソー型灌流装置の傾斜速度に比例した。このことから、シーソー型灌流装置の傾斜速度を変更することで、培地の流速を自在にコントロール可能であることがわかった。
また、培地の流速は、シーソー型灌流装置のどの場所にデバイスを置いても同じであった。これより、一度に多くのデバイスを、同じ流速の条件下で培養できることがわかった。
【0117】
[参考例4]灌流培養による細胞への影響の確認
次いで、シーソー型灌流装置を用いた灌流培養による細胞への影響を確認した。
【0118】
1.培養容器の製造
参考例2と同様の方法を用いて、培養容器を製造した。
【0119】
2.血管様細胞構造体の構築
GFP発現HUVEC(ANGIO-PROTEOMIE社より購入)の代わりに、HUVEC(LONZA社より購入)を用いた以外は、参考例2の「2.」と同様の方法を用いて、血管様細胞構造体を構築した。血管様細胞構造体の内径は500μmであった。
【0120】
3.シーソー型灌流装置を用いた培養装置による培養
(1)培地の送液
次いで、培養容器の培地リザーバー内に2mLの血管内皮細胞用増殖培地(Lonza社製、Endothelial Basal Medium-2)を入れ、培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度、傾斜速度:0.2度/分)に載せることで、コラーゲンゲル内の血管様細胞構造体中に培地を繰り返し送液して7日間培養した。また、対照として、同様の培養容器を用いた7日間静置培養した。
【0121】
(2)細胞の観察及び画像解析
培養7日目に、共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss社製、PASCAL Laser Scanning Microscope)を用いて細胞を観察し、画像を取得した。取得した画像の画素及びサイズを調整し、移動平均法により二値化処理を行った。次いで、画像解析ソフト(N2K-Pro)により高速フーリエ変換(fast Fourier transform;FFT)を行い、取得した画像にフーリエ変換を適用した。結果を図12に示す。図12中、スケールバーは250μmを示す。また、D7は培養7日目であることを意味する。また、矢印は灌流培養における送液方向を意味する。
【0122】
(3)配向角度及び配向強度の算出
取得したフーリエ変換画像から配向角度と配向強度を算出した。その際、フーリエ変換画像で、X軸正方向を0°として、反時計回りの角度(度)に対する平均振幅を計算した。結果を図13A(各配向角度における配向強度を示すグラフ)及び図13B(配向強度を示すグラフ)に示す。
【0123】
図12から、7日間灌流培養することで、細胞が送液方向に配向することが確かめられた。
また、図13A及び図13Bから、静置培養と比較して灌流培養の際は、配向強度が約1.5倍になった。
これらのことから、間接的であるが、灌流培養によって細胞間接着が強固になり、安定した血管様再構造体が得られたと推察された。
【0124】
[参考例5]市販の96Uウェルプレートを用いたがん細胞による血管新生の評価
1.混合スフェロイドの作製
ヒト乳腺癌由来細胞MDA-MB-231(JCRB細胞バンクより入手)の細胞数とヒト新生児皮膚線維芽細胞NB1RGBの(理化学研究所細胞バンクより入手)細胞数とが10:1になるように細胞懸濁液を混合し、細胞非接着の96Uウェルプレート(住友ベークライト社製、Prime Surface 96 U plate)に、1ウェル当たり2.0×10cells/200μLとなるよう播種した。その後2日に1度培地交換をし、1週間培養した。培地の組成は、Fetal bovine serum 1604H(CeLLect Gold社製)及びPenicilin/Streptomycin 26252-94(nacalai tesque社製)を含有する(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)(Sigma社製)である。培養1、3及び7日目に共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss社製、PASCAL Laser Scanning Microscope)を用いて細胞を観察した。結果を図14に示す。図14において、スケールバーは1mmを示す。また、「D1」は培養1日目、「D3」は培養3日目、「D7」は培養7日目であることを意味する。
【0125】
図14から、培養1日目では細胞が集まっただけだったが、培養によって細胞が徐々に凝集していき、培養7日目には密に細胞が凝集したスフェロイドを形成した。また、作製したスフェロイドは細胞密度が高かった。また、直径1mm程度のスフェロイドを作製することができた。拡散による酸素や栄養素の供給は200μm程度までしかできないということが知られており、ここで作製したスフェロイドは、非常に大きいため、内部の細胞が低酸素誘導因子-1α(Hypoxia Inducible Factor-1α;HIF-1α)を発現していることが示唆された。これにより、血管新生促進因子の分泌量が増加したものと考えられた。
【0126】
[参考例6]培養装置を用いたがん細胞による血管新生の評価
1.培養容器の製造
参考例2と同様の方法を用いて、培養容器を製造した。
【0127】
2.混合スフェロイドの作製
参考例5の「1.」と同様の方法を用いて、混合スフェロイドを作製した。
【0128】
3.血管様細胞構造体の構築
(1)ニードルの準備
ニードルをクリーンベンチ内で70%エタノールに5分間浸漬し、滅菌した。その後、滅菌水に5分間×3回浸漬し、洗浄した。
【0129】
(2)コラーゲンゲルの導入
次いで、「2.」で作製した混合スフェロイドを回収し、上澄み液を除去した後、コラーゲンゲルに包埋した。次いで、(3-3)で準備したニードルをハイドロゲル導入部に挿入した。次いで、混合スフェロイド包埋したコラーゲンゲルをハイドロゲル導入部に導入し、15分間インキュベートした。対照として、混合スフェロイドを包埋していないコラーゲンゲルを導入したものも準備した。
【0130】
(3)細胞播種及びニードルの引き抜き
次いで、流路の片側に3.0×10cells/30μLの細胞懸濁液を滴下し、反対側からニードルを引き抜くことで流路内にHUVEC(Lonza社より購入)の懸濁液を導入した。15分後に培養容器を逆さにして、流路内の全面に細胞が接着するようにして、血管様細胞構造体を構築した。
【0131】
4.シーソー型灌流装置を用いた培養装置による培養
(1)培地の送液
次いで、培養容器の培地リザーバー内に2mLの血管内皮細胞用増殖培地(Lonza社製、Endothelial Basal Medium-2)を入れ、培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度、流速:10μL/分)に載せることで、コラーゲンゲル内の血管様細胞構造体中に培地を繰り返し送液して3日間培養した。
【0132】
(2)アクチン染色及び核染色
次いで、アクチン染色試薬であるローダミンファロイジン(Sigma社製)及び核染色液であるDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole)(Sigma社製)をそれぞれ培地に混合して送液して、ハイドロゲル導入部内の細胞を染色した。染色後、位相差蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX-71)を用いて観察した。結果を図15(真ん中)に示す。図15において、スケールバーは500μmを示す。また、図15の左側の図及び画像は、混合スフェロイド存在下で灌流培養した血管様細胞構造体である。右側の図及び画像は、混合スフェロイド非存在下で灌流培養した血管様細胞構造体である。いずれの画像も正面から見たものである。また、「D3」は培養3日目を意味する。
【0133】
(3)デキストランの送液
次いで、蛍光標識デキストラン(分子量3000、Dextran Texas Red(登録商標) 3000MW、Thermo Fisher Scientific社製)を含む培地を数分間送液し、その後に、位相差蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX-71)を用いて観察した。結果を図15(下)に示す。
【0134】
図15から、培養3日目において、がん細胞の混合スフェロイドを包埋すると、包埋してない場合と比べて血管新生が促進されることが確かめられた。これは、がん細胞が血管新生促進因子を分泌したためであると考えられる。
また、デキストランを送液すると、がん細胞を包埋した場合は、包埋してない場合と比較して血管様細胞構造体外へのデキストランの漏れ出しが確認された。このことからも血管新生が促進されたことが示唆された。
【0135】
[参考例7]培養装置を用いた薬剤評価デバイスの作製
薬剤を評価していく上で臓器間の相互作用を考慮して目的の臓器の評価を行うことは非常に重要である。そこで、培養装置を用いて、生体と同じような臓器間の相互作用が評価できる薬剤評価デバイスの作製を目指した。
【0136】
1.培養容器の製造
図16A及び図16Bは、参考例6で製造した培養容器を示す画像である。図16A及び図16Bに示すサイズ及びマイクロウェル構造となるように鋳型を設計し、ガラスを接着しなかったこと以外は、参考例2と同様の方法を用いて、培養容器を製造した。製造された培養容器は、チャンバー部分にマイクロウェル構造(φ500μm、500ウェル)を備えることで細胞の凝集体(スフェロイド)を形成できる設計とした。このマイクロウェル構造は両サイドに備えられており、この両サイドのチャンバーに異なる細胞を播種することで、二つの臓器間の相互作用を評価できる。
【0137】
2.細胞培養
(1)細胞の播種
次いで、「1.」で製造された培養容器の各チャンバーに、ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞(理研セルバンクより入手)(左側のチャンバー)及びヒト心筋細胞(Human Cardiac Myocytes;HCM)(タカラバイオ社より購入)(右側のチャンバー)を播種して、培養した。細胞密度はどちらも2.5×10cell/mLずつ播種し、1ウェルあたり500cellsになるようにした。培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度、流速:10μL/分)に載せることで、培地を各チャンバー内に送液して3日間培養した。また、位相差蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX-71)を用いて、3日間、経過観察を行った。結果を図17に示す。図17において、スケールバーは200μmを示す。
【0138】
図17から、いずれも培養3日以内にウェル内でスフェロイドを形成することが示された。
【0139】
[参考例8]セルカルチャーインサートを用いた培養皮膚の作製
1.培養皮膚の作製
(1)ヒト皮膚線維芽細胞の準備
まず、0.3%コラーゲン(cell matrix社製)、ハム培地及び再構成緩衝液を8:1:1の比で混合したコラーゲン溶液を調製した。次いで、ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts;NHDF)(J-TEC社より購入)を2.5×10Cells懸濁して細胞懸濁液を調製した。
【0140】
(2)NHDFの播種及びコラーゲンのゲル化
次いで、(1)で調製された細胞懸濁液400μLをセルカルチャーインサート(Falcon社製)に添加して、コラーゲンをゲル化させた。
【0141】
(3)角化細胞(ケラチノサイト)の播種
次いで、NHDFを含むゲル化させたコラーゲンの層の上に1.0×10cellsの角化細胞(ケラチノサイト)(Angioprptemie社より購入)を含む細胞懸濁液200μLを添加した。インサート外にはNHDF培地をインサート内の液面と同じになるように入れて、2日間培養した。
【0142】
(4)気液界面培養
次いで、2日後、インサート内の培地を取り除き、気液界面培養を行った。なお、インサート外にはNHDF培地と上皮細胞培養培地(KG-2、カネボウ社製)とを1:1で混合したものを1mL入れた。この状態で、7日間培養して培養皮膚を作製した。
【0143】
2.切片の作製
培養7日後、培養皮膚を取り出して、20%ホルマリンに1日浸漬することで組織の固定を行った。次いで、10%、20%、30%スクロース溶液に1時間ずつ浸してスクロース置換を行った。次いで、スクロース置換した切片をOCT compound内に包埋した。次いで、クライオミクロトームを用いて切片を作製した。
【0144】
3.ヘマトキシリン-エオジン(Hematoxylin Eosin;HE)染色
次いで、「2.」で得られた切片を用いて、以下の手順でHE染色を行った。その後、位相差蛍光顕微鏡を用いて観察した。結果を図18(左)に示す。図18において、スケールバーは200μmを示す。
(1)キシレンに30分間浸漬×2回
(2)100%エタノールに5分間浸漬×2回
(3)90%エタノールに5分間浸漬×1回
(4)70%エタノールに5分間浸漬×1回
(5)蒸留水に3分間浸漬×1回
(6)ヘマトキシリン染色液に3分間浸漬×1回
(7)流水で13分間洗浄×1回
(8)エオシンYに4分間浸漬×1回
(9)90%エタノールに30秒間浸漬×1回
(10)90%エタノールに1分間浸漬×1回
(11)100%エタノールに1分間浸漬×1回
(12)100%エタノールに5分間浸漬×2回
(13)キシレンに30分間浸漬×2回
(14)マウントクイック(商品名)(大道産業株式会社製)含有キシレン溶液で封入
【0145】
3.免疫抗体染色
次いで、「2.」で得られた切片を用いて、以下の手順で免疫抗体染色を行った。その後、位相差蛍光顕微鏡を用いて観察した。結果を図18(右)に示す。図18において、スケールバーは200μmを示す。
(1)PBSに5分間浸漬×2回
(2)5%スキムミルク含有D-PBS溶液で30分間ブロッキング
(3)20μg/mLの1次抗体含有D-PBSで一晩1次抗体反応
なお、1次抗体として、抗フィラグリン抗体(アブカム社製)及び抗サイトケラチン15抗体(以下、「CK15」と略記する場合がある)(アブカム社製)を用いた。
(4)PBS-T(0.1%Tween-20含有)に10分間浸漬×3回
(5)2次抗体含有D-PBSで60分間2次抗体反応
なお、2次抗体として、ヤギ抗ウサギIgG H&L(アブカム社製)を用いた。
(6)PBS-T(0.1%Tween-20含有)に10分間浸漬×3回
(7)10ng/mLのDAPI含有PBS溶液で9分間核染色
(8)PBSに5分間浸漬×2回
【0146】
図18から、上皮層と真皮層とがセルカルチャーインサート上で形成されていることが確認された。特に、免疫染色で抗体として用いたCK15は皮膚においては基底膜において発現するタンパク質であり、基底膜は上皮の1番下に位置する。図18の右側の蛍光像から、基底膜が染まっていることが観察された。これにより作製した培養皮膚はin vivoと類似した構造を有しているということが確認された。
【0147】
[実施例1]
1.培養容器の製造
図19は、実施例1で製造された培養容器を示す画像である。図19に示す構造となるように鋳型を設計し、ガラスを接着しなかったこと以外は、参考例2と同様の方法を用いて、培養容器を製造した。図19に示すように、この培養容器は、流路の中央部分に層状組織を培養が可能なセルカルチャーインサートを組み込める仕様に設計した。また、インサートが自在に取り外し可能な設計にしたため、層状組織が分化するまでは個別で培養が行うことができる。また、培養容器の流路は、直径2mmの円柱状(断面積3.14mm)であり、長さを18mmとなるように設計した。
【0148】
2.各細胞構造体の作製
(1)スフェロイドの作製
「1.」で製造した培養容器の各マイクロウェルチャンバーに、HepG2細胞(右側のチャンバー)及びHCM(左側のチャンバー)を播種した。細胞密度はどちらも2.5×10cell/mLずつ播種し、1ウェルあたり500cellsになるようにした。培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度、流速:10μL/分)に載せることで、培地を各チャンバー内に送液して3日間培養した。
【0149】
(2)培養皮膚の作製
次いで、セルカルチャーインサート(Falcon社製)に3.6×10cells/mLのケラチノサイトを含む細胞懸濁液を添加して、2日間培養して培養皮膚を作製した。
【0150】
(3)細胞構造体の共培養
次いで、(1)でスフェロイドが作製された培養容器に、培養皮膚が作製されたセルカルチャーインサートを挿入した。培養容器をシーソー型灌流装置(傾斜角度:15度、流速:10μL/分)に載せることで、培地を各チャンバー及びセルカルチャーインサート内に送液して3日間共培養した。また、位相差蛍光顕微鏡(Olympus社製、IX-71)を用いて、3日間、経過観察を行った。結果を図20に示す。図20において、スケールバーは500μmを示す。また、「D1」は培養1日目、「D3」は培養3日目であることを意味する。
【0151】
図20から、少なくとも3日間は、培養容器内で3種類の細胞構造体が生存した状態で培養できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本実施形態の培養装置によれば、ポンプを使用せずに容易に灌流培養でき、且つ、2種類以上の細胞構造体を構築できる。また、本実施形態のオンチップ臓器デバイスは、薬剤の毒性評価、新規薬剤の探索、生体内の臓器間相互作用の基礎研究、病態メカニズムの解明、再生医療用組織又は臓器の構築等の分野で好適に用いられる。
【符号の説明】
【0153】
10:培養容器
10A:培養容器(第4のセル装着時)
10B:培養容器(第4のセル脱着時)
11:第1のセル
11a:(第1のセルの)開口
11b:孔
11c:プラグ
11d:底部
12:第2のセル
12a:(第2のセルの)開口
12b:底部
13:第3のセル
13a:第1の隔壁
13b:第2の隔壁
13c:底部
13d:第1の孔部
13d-1:孔
13d-2:孔
13e:第2の孔部
13e-1:孔
13e-2:孔
13f:(第3のセルの)開口
14:第4のセル
14a:(第4のセルの)開口
14b:半透膜
14c:胴部
14d:係止部
20:灌流装置
21:支持部材
22:駆動機構
22a:載台
22b:軸部
22c:駆動部(モーター)
22d:制御部
F:流路
L2:溶液
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20