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  • 特許-無機繊維用サイジング剤、及び無機繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】無機繊維用サイジング剤、及び無機繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/256 20060101AFI20220421BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20220421BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20220421BHJP
   D06M 15/33 20060101ALI20220421BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20220421BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
D06M13/256
D06M13/11
D06M13/17
D06M15/33
D06M15/55
D06M101:40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021198784
(22)【出願日】2021-12-07
【審査請求日】2021-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】土井 章弘
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0342275(US,A1)
【文献】国際公開第02/099180(WO,A1)
【文献】特開2020-196882(JP,A)
【文献】特許第6795228(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を含有することを特徴とする無機繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記脂肪族スルホン酸塩(B)が、脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩である請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記脂肪族スルホン酸塩(B)が、一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)を含む請求項1又は2に記載の無機繊維用サイジング剤。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤(C)が、分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の無機繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記エポキシ化合物(A)、前記脂肪族スルホン酸塩(B)、及び前記非イオン性界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、
前記脂肪族スルホン酸塩(B)を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の無機繊維用サイジング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用サイジング剤、及び無機繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維等の無機繊維、及び母材として熱硬化性樹脂等のマトリックス樹脂を含む材料として繊維強化樹脂複合材料が知られ、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。無機繊維とマトリックス樹脂との界面の接着性を向上させるためにサイジング剤を無機繊維に付着させる処理が行われている。
【0003】
従来より、例えば特許文献1に開示のサイジング剤が知られている。特許文献1のサイジング剤は、炭素繊維に付与する無機繊維用サイジング剤として用いられる。特許文献1の無機繊維用サイジング剤は、主剤がエポキシ化合物であり、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤からなる界面活性剤を含んでいる。アニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン120モル付加モノスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-124844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の無機繊維用サイジング剤には、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維における毛羽の抑制が求められている。また、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維とマトリックス樹脂とを用いて作製した繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための無機繊維用サイジング剤は、エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を含有することを要旨とする。
上記無機繊維用サイジング剤において、前記脂肪族スルホン酸塩(B)が、脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩であることが好ましい。
【0007】
上記無機繊維用サイジング剤において、前記脂肪族スルホン酸塩(B)が、一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)を含むことが好ましい。
【0008】
上記無機繊維用サイジング剤において、前記非イオン性界面活性剤(C)が、分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)を含むことが好ましい。
【0009】
上記無機繊維用サイジング剤において、前記エポキシ化合物(A)、前記脂肪族スルホン酸塩(B)、及び前記非イオン性界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記脂肪族スルホン酸塩(B)を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽を抑制することができる。また、繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例欄における接着性評価のための複合材界面特性評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
本発明に係る無機繊維用サイジング剤(以下、サイジング剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態のサイジング剤は、エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を含有する。
サイジング剤が、非イオン性界面活性剤(C)を含有することにより、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽を抑制することができる。また、サイジング剤が、エポキシ化合物(A)と脂肪族スルホン酸塩(B)を含有することにより、繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができる。
【0014】
(エポキシ化合物(A))
エポキシ化合物(A)は、分子中にエポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物(A)は、分子中にエポキシ基を1つ有するモノエポキシ化合物、又は2以上有する多官能エポキシ化合物のいずれであってもよい。
【0015】
エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えばポリオキシアルキレン付加p-tert-ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレン付加アルキルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレン付加フェニルグリシジルエーテル、トリグリシジルアミン、テトラグリシジルアミン等の重合体等のアミン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0016】
エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、特に制限されないが、例えば50以上1000以下であることが好ましい。
(脂肪族スルホン酸塩(B))
脂肪族スルホン酸塩(B)は、脂肪族の炭化水素基にスルホン酸が結合した化合物の塩である。また、脂肪族スルホン酸塩(B)は、直鎖、もしくは分岐鎖を有する脂肪酸エステルにスルホン酸が結合した化合物の塩を含むものとする。上記炭化水素基としては、特に制限されず、例えば炭素数8以上24以下の炭化水素基を挙げることができる。
【0017】
上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。
【0018】
直鎖の飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0019】
分岐鎖構造を有する飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0020】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0021】
炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖構造を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0022】
上記脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、上記の炭化水素基を有する脂肪酸を挙げることができる。
脂肪族スルホン酸塩(B)を構成する塩としては、特に制限されず、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩であると、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができるため好ましい。
【0023】
上記脂肪族スルホン酸塩(B)は、一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)のいずれであってもよい。脂肪族スルホン酸塩(B)は、一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)の両方を含むことが好ましい。一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)の両方を含むことにより、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができる。
【0024】
(非イオン性界面活性剤(C))
非イオン性界面活性剤(C)は、特に制限されないが、分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)を含むことが好ましい。分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)を含むことにより、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽をより好適に抑制することができる。
【0025】
上記非イオン性界面活性剤(C1)の具体例としては、例えば1-ノナノールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とパルミチン酸のエステル、1-ノナノールにエチレンオキサイド5モルを付加した化合物とパルミチン酸のエステル、2-エチルヘキシルアルコールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル、2-エチルヘキシルアルコールにエチレンオキサイド6モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル、1-ブタノールにエチレンオキサイド22モル、プロピレンオキサイド9モルをランダム付加した化合物とステアリン酸のエステル、1-ブタノールにエチレンオキサイド10モルを付加した化合物とステアリン酸のエステル、1-ヘキサノールにエチレンオキサイド4モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とオレイン酸のエステル、1-ヘキサノールにエチレンオキサイド7モルを付加した化合物とオレイン酸のエステル、イソトリデシルアルコールにエチレンオキサイド3モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル、イソトリデシルアルコールにエチレンオキサイド4モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド4モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド5モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル、2-デシルテトラデカノールにエチレンオキサイド2モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とヘキサン酸のエステル、2-デシルテトラデカノールにエチレンオキサイド4モルを付加した化合物とヘキサン酸のエステル等が挙げられる。
【0026】
上記非イオン性界面活性剤(C1)以外の非イオン性界面活性剤(C)、すなわち、分子中にエステル結合を含まない非イオン性界面活性剤(C2)の具体例としては、例えばトリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド31モル、プロピレンオキサイド4モルをランダム付加した化合物、ジスチレン化フェノールにエチレンオキサイド27モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド17モル付加した化合物、ドデシルアルコールにエチレンオキサイド9モル付加した化合物、イソノナノールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物、ドデシルアミンにエチレンオキサイド15モル付加した化合物、ポリオキシエチレン40モル付加モノスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0027】
これらの非イオン性界面活性剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
サイジング剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を含んでいてもよい。これらの界面活性剤は、一種の界面活性剤を単独で使用してもよく、二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
(アニオン性界面活性剤)
アニオン性界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。アニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩、(3)ドデシルベンゼンスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸塩、(4)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(6)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(7)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(8)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩等が挙げられる。アニオン性界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0029】
(カチオン性界面活性剤)
カチオン性界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、1,2-ジメチルイミダゾール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0030】
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
サイジング剤におけるエポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)の含有割合は特に制限されない。エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、サイジング剤は、脂肪族スルホン酸塩(B)を0.01質量部以上10.0質量部以下の割合で含有することが好ましい。また、脂肪族スルホン酸塩(B)を、0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含有することがより好ましい。脂肪族スルホン酸塩(B)の含有割合が上記数値範囲であると、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができる。
【0032】
<第2実施形態>
次に本発明に係る無機繊維を具体化した第2実施形態について説明する。第2実施形態について、下記の記載以外は、第1実施形態と同様の構成が適用される。
【0033】
本実施形態の無機繊維は、第1実施形態のサイジング剤が表面に付着している。無機繊維の製造方法は、第1実施形態のサイジング剤を無機繊維に付着させる工程を含んでいる。付着量(溶媒を含まない)については特に制限はないが、無機繊維にサイジング剤として0.01質量%以上10質量%以下となるよう付着させたものが好ましい。かかる数値範囲に規定することにより、無機繊維の集束性等の効果をより向上できる。
【0034】
(無機繊維)
本実施形態において適用される無機繊維の種類としては、特に限定されず、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維、スラッグ繊維等が挙げられる。これらの中でも本発明の効果をより有効に発現できる観点からガラス繊維、炭素繊維が好ましい。炭素繊維の種類としては、例えばアクリル繊維を原料として得られたPAN系炭素繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系炭素繊維、リサイクル炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂等を原料として得られる炭素繊維が挙げられる。
【0035】
第1実施形態のサイジング剤を無機繊維に付着させるには、一般に工業的に用いられている方法を適用できる。例えば、ローラー浸漬法、ローラー接触法、スプレー法、抄紙法等が挙げられる。サイジング剤を付着させた無機繊維は、続いて公知の方法を用いて乾燥処理してもよい。
【0036】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る複合材料を具体化した第3実施形態について説明する。第3実施形態について、下記の記載以外は、第1、2実施形態と同様の構成が適用される。
【0037】
第2実施形態によりサイジング剤を付着させた無機繊維を、母材としてのマトリックス樹脂に含浸させることにより複合材料が得られる。複合材料を製造する際、無機繊維の形態としては特に制限はなく、例えば長繊維状、短繊維状、不織布状等の形態を採用できる。
【0038】
(マトリックス樹脂)
マトリックス樹脂は、複合材料の目的、用途等に応じて公知のものから適宜選択される。マトリックス樹脂の具体例としては、例えばエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、PEEK樹脂、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、BMI樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂前駆体、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。これらの中で、接着特性をより有効に発揮できる観点から熱硬化性樹脂が適用されることが好ましい。
【0039】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
(1)サイジング剤が、エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を含有する。
【0040】
サイジング剤が、非イオン性界面活性剤(C)を含有することにより、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽を抑制することができる。また、サイジング剤が、エポキシ化合物(A)と脂肪族スルホン酸塩(B)を含有することにより、繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができる。
【0041】
(2)脂肪族スルホン酸塩(B)が、脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩である。したがって、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができる。
(3)脂肪族スルホン酸塩(B)が、一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)、及び二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)の両方を含む。したがって、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができる。
【0042】
(4)非イオン性界面活性剤(C)が、分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)を含む。したがって、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽をより好適に抑制することができる。
【0043】
(5)エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、サイジング剤は、脂肪族スルホン酸塩(B)を0.01質量部以上1.0質量部以下の割合で含有する。したがって、無機繊維とマトリックス樹脂との接着性をより向上させることができる。
【0044】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0045】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)、平滑剤、水、有機溶剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例
【0046】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を意味する。
【0047】
試験区分1(サイジング剤の調製)
(実施例1)
実施例1のサイジング剤は、原料として、エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を、表1に示した含有割合にて混合して得た。
【0048】
(実施例2~41、比較例1~4)
実施例2~41、比較例1~4のサイジング剤は、各成分を表1に示した含有割合にて混合して得た。
【0049】
エポキシ化合物(A)の種類と含有量、脂肪族スルホン酸塩(B)の種類と含有量、及び非イオン性界面活性剤(C)の種類と含有量を、表1の「エポキシ化合物(A)」欄、「脂肪族スルホン酸塩(B)」欄、「非イオン性界面活性剤(C)」欄にそれぞれ示す。「非イオン性界面活性剤(C)」欄に、分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1)と、分子中にエステル結合を有さない非イオン性界面活性剤(C2)とを示す。
【0050】
【表1】
表1に記載したエポキシ化合物(A)の詳細は以下のとおりである。
【0051】
(エポキシ化合物(A))
A-1:ビスフェノールAジグリシジルエーテル(エポキシ当量184以上194以下)
A-2:ポリオキシエチレン30mol付加ラウリルアルコールモノグリシジルエーテル
A-3:ポリオキシエチレン20mol付加p-ter-ブチルフェノールモノグリシジルエーテル
表1に記載した脂肪族スルホン酸塩(B)の詳細について表2に示す。脂肪族スルホン酸塩(B)の構造を「構造」欄に示す。一級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B1)と二級スルホン酸基を有する脂肪族スルホン酸塩(B2)の質量比率を、「比率(一級スルホン酸基:二級スルホン酸基)」欄に示す。
【0052】
【表2】
表1に記載した非イオン性界面活性剤(C)の詳細は以下のとおりである。
【0053】
(分子中にエステル結合を1つとエーテル結合とを有する非イオン性界面活性剤(C1))
X-1:1-ノナノールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とパルミチン酸のエステル
X-2:1-ノナノールにエチレンオキサイド5モルを付加した化合物とパルミチン酸のエステル
X-3:2-エチルヘキシルアルコールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-4:2-エチルヘキシルアルコールにエチレンオキサイド6モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-5:1-ブタノールにエチレンオキサイド22モル、プロピレンオキサイド9モルをランダム付加した化合物とステアリン酸のエステル
X-6:1-ブタノールにエチレンオキサイド10モルを付加した化合物とステアリン酸のエステル
X-7:1-ヘキサノールにエチレンオキサイド4モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とオレイン酸のエステル
X-8:1-ヘキサノールにエチレンオキサイド7モルを付加した化合物とオレイン酸のエステル
X-9:イソトリデシルアルコールにエチレンオキサイド3モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-10:イソトリデシルアルコールにエチレンオキサイド4モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-11:ラウリルアルコールにエチレンオキサイド4モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-12:ラウリルアルコールにエチレンオキサイド5モルを付加した化合物とラウリン酸のエステル
X-13:2-デシルテトラデカノールにエチレンオキサイド2モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物とヘキサン酸のエステル
X-14:2-デシルテトラデカノールにエチレンオキサイド4モルを付加した化合物とヘキサン酸のエステル
(分子中にエステル結合を有さない非イオン性界面活性剤(C2))
Y-1:トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド31モル、プロピレンオキサイド4モルをランダム付加した化合物
Y-2:ジスチレン化フェノールにエチレンオキサイド27モル、プロピレンオキサイド3モルをランダム付加した化合物
Y-3:トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド17モル付加した化合物
Y-4:ドデシルアルコールにエチレンオキサイド9モル付加した化合物
Y-5:イソノナノールにエチレンオキサイド6モル、プロピレンオキサイド2モルをランダム付加した化合物
Y-6:ドデシルアミンにエチレンオキサイド15モル付加した化合物
Y-7:ポリオキシエチレン40モル付加モノスチレン化フェニルエーテル
試験区分2(無機繊維のサイジング、複合材料の作製)
試験区分1で調製した各例のサイジング剤を水で希釈し、固形分が2%の水性液を作成して処理浴に入れた。ポリアクリロニトリル系繊維から得た未サイジングの炭素繊維(引張強度3500MPa、引張弾性率2.3×10MPa、12000フィラメント)を連続的に上記処理浴に浸漬し、サイジング剤(溶媒を含まない)の付着量が炭素繊維に対して2%で一定となるようにローラーの絞り条件を調節してサイジング剤を付着させた。
【0054】
サイジング剤を付着させた炭素繊維のストランド状の繊維束を、ローラーで搬送しながら開繊させた。開繊後の繊維束を、マトリックス樹脂としてのビニルエステル樹脂の樹脂槽を通過させてビニルエステル樹脂を含浸した。ビニルエステル樹脂としては、昭和電工社製、商品名:リポキシ(登録商標)R-804B(同社製メチルエチルケトンパーオキシド硬化剤使用)を用いた。ビニルエステル樹脂の含浸後、140℃に設定した長さ1mの硬化用金型を通過させて引き抜き成形を行い、複合材料を作製した。なお、引き抜き成形を行うことにより、サイジング剤は、マトリックス樹脂とともに硬化される。
【0055】
試験区分3(評価)
実施例1~41、及び比較例1~4のサイジング剤について、サイジング剤を付着させた無機繊維の接着性、及び毛羽の有無を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“接着性”、“毛羽”欄に示す。
【0056】
(接着性)
接着性は、市販の複合材界面特性評価装置を用いてマイクロドロップレット法によって測定される応力により評価した。図1に複合材界面特性評価装置10の概略図を示す。
【0057】
試験区分2において、サイジング剤を付着させた炭素繊維の繊維束から、1本の炭素繊維12を取り出し、この炭素繊維12を板状の四角枠状のホルダー11に緊張した状態でその両端を接着剤14で固定した。
【0058】
次に、エポキシ樹脂(エポキシ当量190、三菱ケミカル社製の商品名jER828)/BF3モノエチルアミン塩(ステラケミファ社製の商品名三フッ化ホウ素モノエチルアミン)=100/3(質量比)の割合で混合したマトリックス樹脂を、直径がほぼ70μmの樹脂滴13となるように炭素繊維12に付着させ、160℃の空気雰囲気下で90分間加熱して固定した。
【0059】
図示しない装置本体には、一側面において垂直断面が先細状に成型された2枚の板状のブレード17,18が、その先端部17a及び18aが向かい合わせになる位置状態で取り付けられている。
【0060】
樹脂滴13が固定されている炭素繊維12を2枚のブレード17,18の先端部17a,18aで挟む位置にて、ホルダー11を装置本体に固定されている基板16に取り付けた。基板16にはロードセル15が接続され、基板16に負荷される応力が計測される。ホルダー11を5mm/分の速度で繊維軸方向に移動させた時に、ブレード17,18の先端部17a,18aによって樹脂滴13が炭素繊維12から剥離する際に生じる最大応力Fを、ロードセル15にて計測した。
【0061】
計測した値を用いて、下記の数1により界面せん断強度τを算出した。同様の操作を20回行い、得られた界面せん断強度の平均値を求めた。
【0062】
【数1】
数1において、
F:炭素繊維12から樹脂滴13が剥離する際に生じる最大応力(N)、
D:炭素繊維12の直径(m)、
L:樹脂滴13の引き抜き方向の直径(m)。
【0063】
・接着性の評価基準
◎◎◎(特に優れる):界面剪断強度が75以上
◎◎(優れる):界面剪断強度が70以上75未満
◎(良好):界面剪断強度が65以上70未満
○(可):界面剪断強度が60以上65未満
×(不可):界面剪断強度が60未満
(毛羽)
直径2mmのクロムめっきされたステンレス棒を5本用意した。ステンレス棒の表面に対して、サイジング剤を付着した炭素繊維束が120°の接触角で接触しながら通過するように、ステンレス棒をジグザクに15mm間隔で配置した。このステンレス棒間に炭素繊維束をジグザグにかけ、1kg重の張力をかけた。巻き取りロール直前で炭素繊維束を、1kg重の荷重をかけた10cm×10cmのウレタンフォーム2枚で挟み、1m/分の速度で5分間擦過させた。この間にウレタンフォームに付着した毛羽の重量を測定して、以下の評価基準で評価した。
【0064】
・毛羽の評価基準
◎(良好):0.15mg/m未満
〇(可):0.15mg/m以上、0.20mg/m未満
×(不可):0.20mg/m以上
表1の結果から、本発明によれば、無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽を抑制することができる。また、繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができる。なお、無機繊維であるガラス繊維についても炭素繊維の評価と同様に毛羽の抑制及び接着性の向上効果を確認している。
【符号の説明】
【0065】
10…複合材界面特性評価装置
11…ホルダー
12…炭素繊維
13…樹脂滴
14…接着剤
15…ロードセル
16…基板
17,18…ブレード
【要約】
【課題】無機繊維用サイジング剤を付着させた無機繊維の毛羽を抑制する。また、繊維強化樹脂複合材料における無機繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させる。
【解決手段】無機繊維用サイジング剤は、エポキシ化合物(A)、脂肪族スルホン酸塩(B)、及び非イオン性界面活性剤(C)を含有する。
【選択図】なし
図1