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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】締結状態の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/09 20060101AFI20220421BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
G01N29/09
G01N29/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018008732
(22)【出願日】2018-01-23
(65)【公開番号】P2019128193
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518025803
【氏名又は名称】金友 正文
(74)【代理人】
【識別番号】100145883
【弁理士】
【氏名又は名称】新池 義明
(72)【発明者】
【氏名】金友 正文
(72)【発明者】
【氏名】村山 省己
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貴
(72)【発明者】
【氏名】岡道 航平
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-008151(JP,A)
【文献】特開2017-040585(JP,A)
【文献】特開2007-085733(JP,A)
【文献】特開2002-263968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0034009(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
G01N 29/00 - G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブがネジを含む被検体に入射した超音波の出射波を受信し、該受信信号のインピーダンス又はアドミッタンス(以下、単に「インピーダンス」という。)を計測し、検査周波数決定部とパターン認識部を有する判定器が該インピーダンスから該被検体の締結状態を検査する方法であって、
前記検査周波数決定部が、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数するステップと、
前記パターン認識部が、前記被検体の前記検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの有無によって締結状態を判定するステップ
を含む締結状態の検査方法。
【請求項2】
前記パターン認識部が、前記被検体の前記検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの高さと正常軸力で締結されているときのインピーダンス・パターンのピークの高さの比較によって締結状態を判定するステップ
を含む請求項1記載の締結状態の検査方法。
【請求項3】
前記パターン認識部が、前記被検体の前記検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの移動によって締結状態を判定するステップ
を含む請求項1又は請求項2記載の締結状態の検査方法。)
【請求項4】
超音波プローブがネジを含む被検体に入射した超音波の出射波を受信し、該受信信号のインピーダンスを計測し、検査周波数決定部とデータ加工部と逆行列計算部とマハラノビス距離計算部と判定部を有する判定器が該インピーダンスから該被検体の締結状態を検査する方法であって、
前記検査周波数決定部が、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数とし、
前記データ加工部が、前記正常軸力で締結されているときに計測された複数の前記検査周波数に対するインピーダンスを加工して相関行列を作成し、
前記逆行列計算部が、前記相関行列から逆行列を計算し、
前記マハラノビス距離計算部が、前記被検体の前記検査周波数に対するインピーダンスと前記逆行列からマハラノビス距離を計算し、
前記判定部が前記マハラノビス距離が基準値を満足しているか否によって締結状態を判定する
各ステップを含む締結状態の検査方法。
【請求項5】
前記データ加工部が、前記異常軸力で締結されているときに計測された複数の前記検査周波数に対するインピーダンスを加工して相関行列を作成する
ステップを含む請求項4記載の締結状態の検査方法。
【請求項6】
ネジを含む被検体の締結状態を検査する方法に使用する超音波プローブが前記被検体に超音波を入射し、前記被検体から出射した超音波を受信し、該受信信号から計測されたインピーダンから被検体の締結状態を判定する判定器であって、
前記被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数とする検査周波数決定部と、
前記正常軸力及び/又は異常軸力で締結されているときに計測された複数の前記検査周波数に対するインピーダンを加工して相関行列を作成するデータ加工部と、
前記相関行列から逆行列を計算する逆行列計算部と、
前記被検体の前記検査周波数に対するインピーダンスと前記逆行列からマハラノビス距離を計算するマハラノビス距離計算部と、
前記マハラノビス距離が基準値を満足しているか否かによって締結状態を判定する判定部と
を有する判定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材を含む被検体の締結状態を検査する方法に関し、例えば、ネジやリベットの締結状態を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機、モータなどの産業機器、自動車、電車、航空機などの輸送機、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電品は複数個の部品を組み合わせて性能を発揮する。この組み合わせを行う締結には、ネジ、リベット、溶接などが採用される。例えば、ネジ締結は、ネジの回転により簡便に締結できるが、締め忘れなどによる緩みが発生するおそれがある。この緩みは重大な事故を発生させることがあるので、メーカは締結不備対策に時間と労力を費やしている。
【0003】
例えば、ネジ締結はネジが本来備えた倍力機能によって数十Kgから数千Kgの締結力が発生するので、要求される締結力によってネジの大きさを決定する。ネジにより所定の締結力を得るためには締結トルクの管理が必要である。この締結トルクは、締結力とネジと被締結部材の摩擦によって決まり、摩擦がネジの形状誤差、潤滑不足などで大きくなると、所定の締結力が得られない。締結状態を検査する方法として、視認、打音、ひずみゲージによる変形計測などが一般的である。
【0004】
別の方法として、超音波のインピーダンス変化及び共振周波数変化を計測して締結力を検査する技術がある。この技術は、ネジの着座に着目し、ネジ頭の座面と被締結物との接触状態をインピーダンス変化として計測するため、小型のネジにも適用が可能であり、装置も安価に構成することができる。また、ネジに計測のための特別な構造の付加をせず、ネジ締結作業後に検査工程を入れることも可能になるため、生産ラインのin situ(その場)で短時間に締結検査が可能となり、全数検査にも対応できると開示されている(特許文献1段落[0013],[0039],[0057]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-54039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、選択するデータの選定方法、比較する場合のデータの判定法など締結ネジのインピーダンス変化と締結力の関係についての比較方法の記載がないため、正常な軸力と軸力の不足を判定することが困難であった。また、ネジ締結作業後の全数検査にも対応できると記載されているが、生産ラインに適応した場合のその姿が描かれておらず、実用化に対して、その有り様が示されていない。
【0007】
上記従来技術の課題に鑑み、本発明の目的は、被検体の締結状態を信頼性高く全数診断することが可能な締結状態の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明は、超音波プローブがネジを含む被検体に入射した超音波の出射波を受信し、該受信信号のインピーダンス又はアドミッタンス(以下、単に「インピーダンス」という。)を計測し、検査周波数決定部とパターン認識部を有する判定器が該インピーダンスから該被検体の締結状態を検査する方法であって、前記検査周波数決定部が、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数するステップと、前記パターン認識部が、前記被検体の前記検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの有無によって締結状態を判定するステップを含む締結状態の検査方法を提供する。
【0009】
上記第1の観点による締結状態の検査方法では、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数とし、該検査周波数における被検体のインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの有無によって締結状態が判定される。これにより、被検体の締結状態を短時間に高い精度で検査することが可能となるので、in situ検査を全数行うことができる。
【0010】
本発明において、パターン認識部が、被検体の検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの高さと正常軸力で締結されているときのインピーダンス・パターンのピークの高さの比較によって締結状態を判定するステップを含むのが好ましい。更に、パターン認識部が、被検体の検査周波数におけるインピーダンス・パターンを認識し、該パターンのピークの移動によって締結状態を判定するステップを含むのが好ましい。正常軸力で締結されているときのインピーダンス・パターンのピークの高さの比較とインピーダンス・パターンのピークの移動によって締結状態を判定することによってより正確に判定することができる
【0011】
第2の観点では、本発明は、超音波プローブがネジを含む被検体に入射した超音波の出射波を受信し、該受信信号のインピーダンスを計測し、検査周波数決定部とデータ加工部と逆行列計算部とマハラノビス距離計算部と判定部を有する判定器が該インピーダンスから該被検体の締結状態を検査する方法であって、前記検査周波数決定部が、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数とし、前記データ加工部が、前記正常軸力で締結されているときに計測された複数の前記検査周波数に対するインピーダンスを加工して相関行列を作成し、前記逆行列計算部が、前記相関行列から逆行列を計算し、前記マハラノビス距離計算部が、前記被検体の前記検査周波数に対するインピーダンスと前記逆行列からマハラノビス距離を計算し、前記判定部が前記マハラノビス距離が基準値を満足しているか否によって締結状態を判定する各ステップを含む締結状態の検査方法を提供する。
【0012】
上記第2の観点による締結状態の検査方法では、被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、正常軸力で締結されているときに計測された複数の検査周波数に対するインピーダンスを加工して相関行列を作成し、該相関行列から逆行列を計算し、被検体のインピーダンスと前記逆行列からマハラノビス距離を計算され、締結状態が判定される。これにより、被検体の締結状態を短時間に高い精度で検査することが可能となるので、in situ検査を全数行うことができる。
【0013】
本発明において、データ加工部が、異常軸力で締結されているときに計測された複数の検査周波数に対するインピーダンスを加工して相関行列を作成するステップを含むのが好ましい。異常軸力で締結されているときインピーダンスデータを入力に戻すので、フィードバック制御することができる
【0021】
の観点では、本発明は、前記被検体が正常軸力で締結されているとき及び異常軸力で締結されているときに計測される周波数に対するインピーダンス・パターンを比較して、両パターンに差異が認められる近傍の周波数を検査周波数とする検査周波数決定部と、正常軸力及び/又は異常軸力で締結されているときに計測された複数の検査周波数に対するインピーダンを加工して相関行列を作成するデータ加工部と、相関行列から逆行列を計算する逆行列計算部と、検査周波数に対する被検体のインピーダンスと前記逆行列からマハラノビス距離を計算するマハラノビス距離計算部と、該マハラノビス距離が基準値を満足しているか否かによって締結状態を判定する判定部(261)とを有する判定器(247,257)を提供する。
【0022】
上記第の観点による判定器では、正常軸力と異常軸力で締結されたときのインピーダンスデータから相関行列及びその逆行列が作成され、該逆行列と被検体から計測されたインピーダンスデータからマハラノビス距離が計算され、該マハラノビス距離が基準値を満足しているか否かで被検体の締結状態の合否が判定される。これにより、被検体の締結状態を短時間に高い精度で検査することが可能となるので、in situ検査を全数行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の締結状態の検査方法によれば、超音波プローブがネジを含む被検体に超音波を入射し、被検体から出射した超音波がインピーダンスとして計測され、被検体が正常軸力及び異常軸力で締結されているときに計測されるインピーダンス・パターンを比較して検査周波数が決められ、検査周波数における(i)被検体のインピーダンス・パターンのピークの有無によって、又は(ii)該インピーダンスと正常軸力で締結された締結体のインピーダンスから計算された逆行列からマハラビス距離が計算され、締結状態が判定される。このことから、被検体の締結状態を短時間に高い精度で検査することが可能となるので、in situ検査を全数行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1に係る締結検査装置を示す構成説明図である。
図2】実施例1に係るインピーダンスの周波数特性図である。
図3】実施例1に係る締結状態の検査方法を示すフロー図である。
図4】実施例1に係るネジの機械的インピーダンスを示す図である。
図5】実施例1に係る締結検査装置の第1使用例を示す説明図である。
図6】第1使用例のネジ締結前と後の良品のインピーダンス信号を示す図である。
図7】実施例1に係る締結検査装置の第2使用例を示す説明図である。
図8】実施例1に係る締結検査装置の第3使用例を示す説明図である。
図9】実施例1に係る締結検査装置の第4使用例を示す説明図である。
図10】実施例1に係る締結検査装置の第5使用例を示す説明図である。
図11】実施例1に係るネジ締結・検査ステーションを示す説明図である。
図12】実施例1に係る他のネジ締結・検査ステーションを示す説明図である。
図13】実施例1に係る正常品と異常品のインピーダンスの周波数特性図である。
図14】正常品と異常品のインピーダンスの周波数特性を示す部分拡大図である。
図15】正常品と異常品のインピーダンスの周波数特性を示す他の部分拡大図である。
図16】超音波プローブの構造を示す説明図である。
図17】実施例2に係る締結検査装置の判定器の構成説明図である。
図18】実施例2に係る判定手順を示すフロー図である。
図19】実施例3に係る締結検査装置の判定器を示す構成説明図である。
図20】実施例3に係る締結検査装置における他の判定器の信号処理の説明図である。
図21】実施例3に係る判定手順を示すフロー図である。
図22】実施例4に係る締結検査装置の判定器を示す構成説明図である。
図23】実施例4に係る判定手順を示すフロー図である。
図24】実施例4に係るネジの締結状態を示す構成説明図である。
図25】実施例4に係るネジの他の締結状態を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。以下では、締結手段としてネジを用い、ネジによる被締結物と締結物の締結状態を検査することを例に挙げているが、締結手段にはネジだけでなく、リベット、溶接、かしめ等も含まれ、本発明はこれらの締結状態の検査にも当然適用可能である。なお、実施の形態を説明するに当たって、同一機能を奏するものは同じ符号を付して説明する。
【実施例
【0026】
-実施例1-
図1は、実施例1に係る締結検査装置100を示す構成説明図である。
締結検査装置100は、超音波を生成し受信する超音波プローブ1と、超音波プローブ1に押圧力を付加するエアシリンダ23と、超音波プローブ1内の圧電素子11を駆動する駆動ドライバー3と、インピーダンスを計測する計測器5と、計測されたインピーダンス等のデータを収集するデータ収集器7と、締結状態の判定を行う判定器9とを具備している。
【0027】
超音波プローブ1は、圧電素子11をその間に挟みこんだ軸構造からなり、圧電素子11とネジ頭33の間に前軸13、反対側に後軸15が配置され、先端部にはクション材17が取り付けられている。前軸13の外周には 取り付けフランジ19が加工されており、ここで固定軸21と結合されている。固定軸21はエアシリンダ23の可動軸25に取り付けられ、可動軸25は圧縮空気によって上下に動かすことができる。クション材17は、ゴム材料などの軟質材からなり、ネジ頭33と超音波プローブ1の接触を高める。
【0028】
圧電素子11と駆動ドライバー3と計測器5とデータ収集器7と判定器9とは、信号線27によって互いに電気的に接続されている。
計測器5は、ネジ31の座面35と被締結部材37の接触部の反射波から得られた電気信号から電気インピーダンスを計測する。データ収集器7は、計測器5で計測されたインピーダンスデータ信号を収集する。判定器9は、得られたインピーダンス信号と正常軸力で締結されたときに計測された複数個のインピーダンス信号から抽出した正常データを比較することによって、ネジ31による被締結部材37と締結部材39の締結状態の判定を行う。
なお、本実施例では計測器5でインピーダンスを計測したが、その逆数であるアドミッタンスを計測しても本実施例と同様に締結状態の判定を行うことができる。
【0029】
エアシリンダ23は、可動軸25,固定軸21、 取り付けフランジ19を介して超音波プローブ21の先端部に上方からネジ頭33を押圧する力を与える。この力によって、超音波プローブ21の超音波の出力端がネジ頭33に押し付けられるので、クション材17は、十分に変形し、ネジ頭33の表面の粗さや平面度を吸収する。このことによって、超音波が超音波プローブ21からネジ31を含む被検体へ効率よく伝搬することができる。
ネジ31は被締結部材37を締結部材39に取り付ける締結手段であり、被締結部材37には通し穴、締結部材39にはタップ穴が加工されている。ネジ31の回転により被締結部材37が締結部材39に締結される。
ここで、被検体とは連結状態を測定する対照物であり、被締結部材37と締結部材39と、両部材を連結するネジ31を含む。
超音波プローブ1は圧電素子11を含む軸の先端からネジ頭33に向かって超音波を入射する。
【0030】
図2は、実施例1に係るインピーダンスの周波数特性図であり、(a)は軸力が正常なときの基準データ、(b)は軸力が不足したときの検査データを示す。
(a)及び(b)は、超音波プローブ1からネジ31の座面35と被締結部材37の接触部に向けて超音波を出射し、該接触部から入射された電気信号から計測器5で計測された電気インピーダンスを示す。
ネジを含めた被検体には、共振周波数と呼ばれる固有の振動数が存在する。この振動数又は振動振幅は軸力が正常なときの基準データと軸力が不足した検査データで変化するので、この変化部を比較することで締結の判定を行う。ここで、軸力とは、締め付けにより引っ張られたネジ31が反発し被締結部材37を押さえつける力のことをいう。ネジ31を締めると、ネジによる締め付け部は軸方向に引っ張られる。これを元に戻そうとする反発力が軸力であり、この軸力により、被締結部材37が締結部材39に固定される。
【0031】
図3は、実施例1に係る締結状態の検査方法を示す。
ステップS101で、内部に圧電素子11を備えた超音波プローブ1を被締結部材37と締結部材39を締結するネジ31のネジ頭33にエアシリンダ23の空気圧で押圧する。
ステップS102で、一定範囲の複数の周波数で所定電圧を発生する駆動ドライバー3によって圧電素子11が駆動され、発生した超音波が超音波プローブの先端部から被検体に超音波を出射する。ここで、周波数は1kHzから100KHzの範囲であることが好ましい。
ステップS103で、被検体から入射された超音波を超音波プローブ1が受信し、計測器5が該受信信号からインピーダンスを計測する。
ステップS104で、判定器9が周波数に対するインピーダンスのパターンから被検体の締結状態を判定する
【0032】
図4は、実施例1に係るネジの機械的インピーダンスを示す図であり、(a)はネジ31の側面図、(b)はその平面図である。
図4に示すように、ネジ31には頭部外周部56が矢印57方向の上下に振動する固有モード、頭部円周部58が上下方向に波打って振動するモードなどがある。(b)の対称線59でネジ頭33の矢印61で示す円周方向で高い位置を示しており合計6個の高い部分が存在するモードで振動している。このようにネジ31を含む被検体には多くの振動モードとその固有振動数が存在する。該振動モードを圧電素子により所定の周波数でネジ31を加振することでネジ31の締結によって創生される固有振動数を励起し、ネジ31の締結軸力によって変化する振動モードをインピーダンスとして、加振周波数と共に取り出すことができる。
【0033】
図5は、実施例1に係る締結検査装置の第1使用例を示す。
図5(a)(b)を参照して、ネジ締め装置71と締結検査装置72を用いた一連の動作を説明する。(a)では、ネジ締めビット73と締結検査装置72が直進移動台74に固定されており、該直進移動台74がエアシリンダ75で駆動される構造となっている。
ネジ締めビット73には回転機構76と上下移動機構77が取り付けられている。ネジ締め作業は、直進移動台74で締結ネジ78の上部にネジ締めビット73を移動させ、上下移動機構77の下方向の移動で、ネジ78とネジ締めビット73が接触し、回転機構76を用いてネジ締め作業を行う。所定のトルクでネジを締結した後、上下移動装置77でネジ締めビット73が上方向に移動し、ネジ78と分離する。
【0034】
(b)では、続いて締結検査装置72がネジ78の上部に直進移動台74により移動し、上下移動機構79により超音波プローブ80がネジ頭81に接触し、ネジ締結を検査する。該超音波プローブ80とネジ頭81間の押し付け力は上下移動機構79の駆動装置であるエアシリンダ75の圧縮空気の圧力により行う。この一連のネジ締め動作と検査動作を繰り返すことで締結作業を実施する。
この締結検査で、ネジ締めが不備と判定された場合は、外部に信号を出すか、更に強いトルクで再度ネジ締めビット73により締め付け作業を続行するか、選択できる構造となっている。
【0035】
図6は、第1使用例のネジ締結前後の正常品のインピーダンス信号を示す。
図6から分かるように、ネジ締結前後の締結軸力が十分な正常品のデータ65とネジ締結前の軸力が不足した場合のデータ64では、特定の周波数67におけるインピーダンスピークが大きく異なる。この部分に着目すれば、ネジの締結による軸力の差異を締結材料の振動モードから判定することが可能である。
なお、このインピーダンスの計測を行う際には、周波数ピッチは1Hzから100Hzの範囲で可変可能なインピーダンスメータを用い、特定の周波数ピッチで固定して、データを取得した。
【0036】
図7は、実施例1に係る締結検査装置の第2使用例を示す。
図7(a)(b)を参照して、ネジ締め装置85と締結検査装置86を用いた一連の動作を説明する。(a)では、ネジ締めビット87は上下移動機構88の先端に取り付けられている。締結動作終了に伴い、上方向に移動する。締結検査装置86の超音波プローブ89はネジ締めビット87の側面に回転移動機構90と上下移動機構91を内部に配置した移動台の先端に取り付けられている。ネジ締結作業時には(a)に示す位置で待機している。
【0037】
(b)は、ネジ92を所定のトルクで締結した後の、ネジ締結検査の工程を示す。ネジ締めビット87はその上下移動機構88で上方向に移動し、この空間にネジ締結検査用の超音波プローブ89が移動する。超音波プローブ89は回転移動機構90でネジ92上部に移動し、続いて上下移動機構91による下方向移動でネジ頭33と超音波プローブ89が接触する。この接触による超音波の伝達でネジ92の座面94と被締結部材95の接触部のインピーダンスを計測し、その締結力を検査する。ネジ検査で合格すればネジ検査装置は上下移動機構91、回転移動機構90で(a)に示す待機位置に移動し、次の締結ネジに移動する。
この測定によるネジ締結前後のインピーダンスの変化は図6と同様である。ネジ締結前はインピーダンス線64、ネジ締結後の正常品のインピーダンス線65で示される。
【0038】
図8は、実施例1に係る締結検査装置の第3使用例を示す。
図8に示すように、ネジ締め装置103はネジ105の上部に配置し、締結検査装置104はネジ105の斜め上方向に配置した構造となっている。ネジ締め装置103と締結検査装置104には上下移動機構106、107が取り付けられている。
【0039】
これらの動作について説明する。ネジ締めビット101がネジ105の上部に位置し、エアシリンダでネジ105の上部のリセス部にネジ締めビット101が接触し、その回転動作によってネジ締結を行う。ネジ105を所定のトルクで締め付けた後、その側面に配置した締結検査装置103が上下移動機構107で移動し、超音波プローブ102先端をネジ頭108に接触させる。この接触によって超音波がネジ頭108に入射し、ネジ頭108の座面と被締結部材109の接触状態を検知できる構造となっている。この場合、ネジ105の締結を行うネジ締めビット101はネジ締結検査作業時はネジ頭108と接触した状態を保つ構造となっている。
この測定によるネジ締結前後のインピーダンスの変化は図6と同様である。ネジ締結前はインピーダンス線64、ネジ締結後の正常品のインピーダンス線65で示される。
【0040】
図9は、実施例1に係る締結検査装置の第4使用例を示す。
図9に示すように、締結検査装置にはネジ締めビット111と超音波プローブ112が同軸に組み込まれた構成である。ネジ113上部に締結用のネジ締めビット111が配置されており、ネジ締めビット111と一体化した構造で超音波プローブ112が取り付けられている。超音波プローブ112の前軸114の先端にネジ締めビット111が配置されている。ネジ締めビット111の先端にはネジ頭115との接触を確保するための軟質材からなるクッション材116が取り付けられている。前軸114の側面から取り付け座117が配置され、モータ118と連結している。モータ118の回転力でネジ締結のためのトルクが発生する。超音波プローブ112内の圧電素子119への給電線と信号線は圧電素子119の上部に軸120を介して取り出され、上部のロータリコネクタ121を介してから給電や信号の送受信がされる。この使用例では、締結動作と締結検査を同時に行なうことができるので、検査データを締結動作と並行して得ることができる。
【0041】
図10は、実施例1に係る締結検査装置の第5使用例を示す。
図10に示すように、ネジ締めビット240と超音波プローブ242がロボットアーム242の先端に取り付けられている。ネジ243により固定した被締結部材244と締結部材245の締結と締結力の検査を行う。まず、ネジ締めビット240でネジ243を締めることによって締結部材245に被締結部材244が締結される。次に、ロボットアーム242が移動し、ネジ243の上部に超音波プローブ242を所定の圧力で押し当てて、インピーダンスを得ることによって締結の検査を行うことができる。
【0042】
図11は、実施例1に係るネジ締結・検査ステーションを示す。
図11を用いて、締結検査装置132を組み立てラインに組み込んだ場合について説明する。締結部材126に被締結部材125をネジ127を用いて固定する組み立てラインであって、下部には部品を運搬するレール128を配置しており、その上部には搬送機129が載っている。搬送機129は紙面に向かって左方向から移動してきて、ネジ締め装置130の下で停止しネジ127がネジ締めビット131の回転で固定される。
本作業が終了するとネジ締結器130は上方に移動し,再び搬送機129が移動し、締結検査装置132の下方で停止する。停止と同時に締結検査装置132の超音波プローブ1が移動しネジ頭134に接触し、締結部材126とネジ127と被締結部材125を含む被検体の締結状態を検査し、締結の良・不良を判定する。
【0043】
図12は、実施例1に係る他のネジ締結・検査ステーションを示す。
図12図11で説明した組み立てラインにネジ締結器130と締結検査装置132を組み込んだ例であるが、締結不良の検査結果が出た場合、再度ネジの締結を行うことができるように締結検査装置132の下流にネジ締結器130を組み込む装置として示している。締結状態の不良は、潤滑剤を使用しないクリーン関係で使用するネジの締結不良として見られる現象であり、ネジの摩擦力が潤滑不良で大きくなるために発生すると考えられている。図12では、締結検査装置132の下流にネジ締結器130を配置したが、再度上流のネジ締結器130に戻して再締結を行うか、ネジ締結不良品としてラインから取り出し、後に、再締結してもよい。
【0044】
図13は、実施例1に係る正常品と異常品のインピーダンスの周波数特性図である。
図13から図15では、被検体(ネジ31と被締結部材37と締結部材39を含む。符号は図1参照。)の締結状態が良好な場合(本明細書において「ネジの締結軸力が正常な場合」といい、そのときの被検体を「正常品」又は「良品」ということがある。)と不良な場合(本明細書において「ネジの締結軸力が異常な場合」といい、そのときの被検体を「異常品」又は「不良品」ということがある。)について、図1に示した締結検査装置100を使用して計測した周波数に対するインピーダンスを示す。
【0045】
図13から分かるように、周波数43~44KHzの周波数領域Aで正常品と異常品の間にインピーダンスのピークを示す周波数に変化が生じている。また、51.3KHz近傍のの周波数領域Bでは、インピーダンス値は明らかに正常品の方が異常品より大きい。このように正常品と異常品でインピーダンスが異なる部分を見い出し、該当する周波数領域における検査データを比較データとして取り込み、これを用いて正常・異常の軸力を判定することができる。
複数個の正常品のデータによってデータの再現性を確認し、判定の比較データ(正常データ)とすることが望ましい。
【0046】
図14は、インピーダンスの周波数特性を示す部分拡大図である。
図14は、締結軸力が正常値の場合と異常値の場合の両インピーダンスデータを示している。正常値ではそのピーク161が41.5kHzに現れているが、異常値ではこの部分にピークはなく逆に正常値でピークの現れていない42kHz近傍にピーク162が表れている。このように特定の周波数におけるインピーダンスのピークの有無によっても、その締結の軸力の良否を判定することができる。
【0047】
図15は、インピーダンスの周波数特性を示す他の部分拡大図である。
図15は、締結力が正常データを破線165で示し、異常データを実線166で示している。正常データと異常データではインピーダンスのピークの周波数がずれており、正常値でのピーク167は44.54kHz、異常値でのピーク168は44.48kHzであり、わずかではあるが距離Lだけずれている。これらの異常軸力と正常軸力によるインピーダンス変化を生ずる周波数に着目して、その周波数におけるインピーダンスを判定データとして取得し、このデータによっても締結の良否を判定することができる。
【0048】
図16は、超音波プローブの構造を示し、(a)は実施例1、(b)は実施例2に係る超音波プローブの構造を示す。
図16(a)から分かるように、超音波プローブ1にはその内部に圧電素子11が組み込まれ、圧電素子11の上下に金属ブロック1、15が取り付けられている。下方の金属ブロック13の先端のクッション材17がネジ31と接触する。クッション材17とネジ31の接触状態を良好とするためにクッション材17は弾性材料からなる。クッション材17がネジ31と接触すると、金属ブロック13内部を超音波が伝わりプローブ1の振動振幅でネジ31を加振するが、超音波プローブ1がネジ31と接する位置、つまりクッション材17の部位で最大振幅となるように圧電素子11の端部179からクッション材17の先端の長さLを選ぶことによって超音波プローブ1の構造が決められる。
【0049】
図16(a)の右部に横軸にプローブ振動振幅、縦軸に金属ブロックのプローブ位置を示して、各場所での振幅を示してた。圧電素子11は最大電圧が加わったときにその伸び量が最大となる。駆動周波数とは、最大振幅が生じるときの周波数である。
最大振幅は圧電素子11の端部179で発生し、これがサイン波180で金属ブロック13を伝わりプローブ先端(クッション材)17が振動する。プローブ先端(クッション材)先端17の振幅値を最大とする金属ブロック13の長さは、周波数と超音波が金属ブロック13内を進む速度で決まる。金属ブロック13としてアルミ材を用いた場合、超音波が金属ブロック13内を進む速度は5000m/sであるので、45KHzの周波数においてプローブ先端17で最大の振幅を得るには、金属ブロック13の長さを110mm程度にすればよい。180°逆の位相を使用すれば半分の55.5mmとすることができる。
インピーダンス計測による軸力の検査は使用する周波数が、ネジ31の大きさによって異なるので、プローブ先端でその最大振幅が得られるようにプローブ長Lを変えることによりネジ締結検査におけるプローブ形状の最適化が可能となる。
【0050】
-実施例2-
図16(b)は、金属ブロック173の長さを自由に変えることが可能な超音波プローブ187の構造を示す。目的とする駆動周波数に対してその先端189の振幅値が最大となるように金属ブロックの長さLを調整することができるように、金属ブロック173が3体191、192、193の分割構造になっている。中央部のブロック192は超音波プローブ187を支持する部分となるので、この部分では振幅値がゼロとなるように金属ブロックの長さLを決めることができる構造となっている。この3個の金属ブロック191、192、193の合計の長さLを中央部の金属ブロック192の位置でその振幅がゼロとなり、かつ測定周波数で決められる長さとすることによって最適な形状の超音波プローブ187の構造を得ることができる。
【0051】
図17は、実施例2に係る締結検査装置の判定器の構成を示す。
判定器237は、良品や不良品などのデータを受領するデータ受領部251と、検査する周波数を決める検査周波数決定部253と、インピーダンスデータのパターン認識を行うパターン認識部255と、パターンマッチングによりインピーダンスデータの比較を行う比較部257と、締結状態について良否の判断を行う判定部261を有する。
データ受信部251は、正常な軸力及び軸力の不足した異常な軸力のとき得られた複数のインピーダンスデータ(それぞれ「良品データ」及び「不良品データ」ということがある。)及び検査品のインピーダンスデータ(「検査品データ」ということがある。)を受領する。
【0052】
検査周波数決定部253は、複数の良品データと複数の不良品データに差異がある部分から検査する周波数の範囲(「検査周波数」ということがある。)を決定する。なお、検査周波数が予め定められている場合には、この構成部は不要であり、該検査周波数が直接パターン認識部255に入力される。
パターン認識部255は、ニューラルネットによるマッチング法やAIによるマッチング法により、複数の良品データと複数の不良品データの検査周波数部分を比較して良品データのパターンの特徴を定める。
比較部257は、被検体について実施された締結検査の計測データがパターン認識部255から送信された正常データのパターンの特徴とパターンマッチングによって比較する。
判定部261は、比較部257でのパターンマッチング結果に基づいて被検体が合格品に該当するか否かであるかを判定する。
【0053】
図18は、実施例2に係る判定手順を示す。
超音波プローブ187を備えた締結検査装置を使用して複数の良品データを得る(S201)。また、複数の不良品データを得る(S202)。
検査周波数決定部253が、複数の良品データと不良品データを比較し、その差異を見い出し(S203)、差異があるインピーダンス部分から検査周波数を決定する(S204)。
次に、パターン認識部255が周波数に対する良品データと不良品データのパターンを検査周波数についてニューラルネットワーク法を用いて学習し、良品データの特徴を定義する(S205)。
被検体の締結検査によって得られた検査データをパターンマッチングによって良品データの特徴と比較し(S206)、被検体の締結状態の良否を判定する(S207)。
図18では、パターン認識手法としてニューラルネットワーク法を用いて説明したが、AI法など他の方法によるパターン認識についても使用できる。
【0054】
-実施例3-
図19は、実施例3に係る締結検査装置の判定器を示す構成説明図である。
図19に示すように判定器247は、データを受領するデータ受領部251と、該判定器247によって被検体の締結状態の合否を判定するために使用する周波数の範囲を決定する検査周波数決定部253と、インピーダンスデータを加工するデータ加工部263と、逆行列を計算する逆行列計算部265と、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離計算部267と、被検体の締結状態の合否を判定する判定部261を備える。
【0055】
データ加工部263は、複数のインピーダンスデータを加工し、相関行列を作成する。
逆行列計算部265は、相関行列から逆行列を計算する。
マハラノビス距離計算部267は、被検査品のインピーダンスデータと逆行列計算部265で作成された逆行列からマハラノビス距離を計算する。
判定部261は、該特定のインピーダンスデータから得られたマハラノビス距離が基準値を満足しているか否かを判断して被検体の締結状態の合否を判定する。
【0056】
図20は、実施例2に係る締結検査装置における他の判定器の信号処理の説明図である。
図20(a)は、正常軸力の周波数とインピーダンスの締結デー夕を複数個取り込みを示す。データは、所定の周波数に対して、計測したインピーダンス結果として示す。この正常軸力のデータはそのデー夕量が多いと、良品と不良品で特徴の存在が有効なデータとなりうる。(b)は、得られた合格品のデータを統計解析の手法により作成された相関行列を示す。相関行列は、ある周波数における複数個のインピーダンスの平均値、標準偏差を算出することにより求める。(c)は、良品の相関行列から判定に使用する逆行列の計算について示す。
(d)は、マハラノビス距離の計算を示す。この逆行列を用いて、被検体から得られた検査デー夕と上記逆行列を用いてマハラノビス距離を算出する。この距離の大きさで合否の判定を行う。
【0057】
図21は、実施例3に係る判定手順を示す。
超音波プローブ187を備えた締結検査装置を使用して良品データと不良品データを得る(S221,S222)。
検査周波数決定部253が、品データと不良品データを比較し、その差異を見い出し(S223)、差異があるインピーダンス部分から検査周波数を決定する(S224)。
次に、データ加工部263が複数の良品データの相関行列をステップS224で決定された検査周波数について作成する(S225)。
ステップS226で、逆行列計算部265がステップ225で作成された相関行列から逆行列を作成する。
ステップS227で、検査品のインピーダンスデータとステップS226で作成された逆行列からマハラノビス距離を計算する。
ステップ228で、判定部261がマハラノビス距離の数値の大きさが所定の基準値を満たすかどうかを判定し、被検体の合否を決定する。
【0058】
-実施例4-
図22は、実施例4に係る締結検査装置の判定器を示す構成説明図である。
図22に示すように判定器257は、データを受領するデータ受領部251と、該判定器257によって被検体の締結状態の合否を判定するために使用する周波数の範囲を決定する検査周波数決定部253と、インピーダンスデータデータを加工するデータ加工部A及びB263と、逆行列を計算する逆行列計算部A及びB265と、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離計算部A及びB267と、被検体の締結状態の合否を判定する判定部261を備える。
【0059】
図23は、実施例4に係る判定手順を示す。
超音波プローブ187を備えた締結検査装置を使用して良品データと不良品データを得る(S231,S232)。
検査周波数決定部253が、良品データと不良品データを比較し、その差異を見い出し(S233)、差異があるインピーダンス部分から検査周波数を決定する(S234)。
次に、ステップS235で、データ加工部A263が複数の良品データの相関行列を、データ加工部B263が複数の不良品データの相関行列を、それぞれステップS234で決定された検査周波数について作成する。
ステップS236で、2つの逆行列計算部A及びB265がステップ235で作成された相関行列からそれぞれ逆行列を作成する。
ステップS237で、検査品のインピーダンスデータとステップS236で作成された逆行列からマハラノビス距離を計算する。
ステップ238で、判定部261が良品及び不良品からのマハラノビス距離の数値の大きさが所定の基準値を満たすかどうかを判定し、検査品の合否を決定する。
【0060】
図23で示した判定手順における合格品及び不合格品のインピーダンスデータを図22のデータ受領部251に戻して、合格品のデータを良品データとしてデータ加工部A263へ送り、不合格品のデータを不良品データとしてデータ加工部263へ送ることによって、良品及び/又は不良品の逆行列を作ることも可能である。
このようなフィードバックによって逆行列計算部A,B265で作成される逆行列を修正し、判定ミス少ない信頼性の高い判定器257とすることができる。
このフィードバックは合格品の良品データだけでも良いが、不合格品の不良品データについても使用とさらに精度が向上するので好ましい。
この逆行列の修正は、そのデータが多く、計算量が多い場合、in situ検査では行わず、バッチ処理で、検査の合間に対応するシステムとすれば効率の高い判定器とすることができる。
【0061】
図24は、実施例4に係るネジの締結状態を示す。
(a)に示すように、ネジ280で被締結部材281と締結部材282を締結する際に、ネジ頭283の座面284と被締結部材281が所定の軸力による面圧で接触している場合は、図22に示す合格品の計測結果が得られる。(b)に示すようにネジ頭285の座面286と被締結部材287が、締結部材288とネジ289のネジ山が締結部材288のネジ山と固着するかじり290により、ネジ頭285の座面286と被締結部材287の間に隙間がある場合、そのインピーダンス計測結果は図22に示す不合格品の計測結果が得られ、このデータによってマハラノビス距離を計算した場合、閾値を超えた不良品の判定となる。
【0062】
図25は、実施例4に係るネジの他の締結状態を示す。
(a)に示すように、ネジ295で被締結部材296と締結部材297を締結するが、ネジ頭298の座面299と被締結部材296が所定の軸力による面圧で接触している場合は、図22に示す合格品の計測結果が得られる。(b)に示すように、ネジ頭300の座面301と被締結部材302が、仕様値以下の締結力が不足した場合、そのインピーダンス計測結果は図22に示す不合格品の計測結果が得られ、このデータによってマハラノビス距離を計算した場合、閾値を超えた不良品の判定となる。
【0063】
発明の詳細な説明の項においてなされた実施形態及び実施例は、本発明の技術内容を明らかにするものであって、上述の実施形態及び実施例に限定して解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ネジで複数の部材を連結した工業生産品の締結状態を生産ラインで全数検査するのに有用能である。
【符号の説明】
【0065】
1,80,89,102,112,187,242 超音波プローブ
3 駆動ドライバー
5 計測器
7 データ収集器
9,237,247,257 判定器
11,119 圧電素子
13,114 前軸,金属ブロック
15 後軸,金属ブロック
17,116,189 クション材
19,117 取り付けフランジ,取り付け座
21 固定軸
23,75 エアシリンダ
25 可動軸
27 信号線
31,78,92,105,113,127,243,280,289,295 ネジ
33,81,93,108,115,115,134,285,298,300ネジ頭
35,94,284,286,299,301 座面
37,95,125,244,281,287,296,302 被締結部材
39,126,245,282,288,297,303 締結部材
71,85,103,130 ネジ締め装置
73,87,101,111,240 ネジ締めビット
74,80 直進移動台
76,90 回転機構
77,79,88,91,106,107 上下移動機構
72,86,100,104,114,130,132,300 締結検査装置
118 モータ
121 ロータリコネクタ
242 ロボットアーム
251 データ受領部
253 検査周波数決定部
255 パターン認識部
259 比較部
261 判定部
263 データ加工部
265 逆行列計算部
267 マハラノビス距離計算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25