(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/86 20220101AFI20220421BHJP
B01F 27/808 20220101ALI20220421BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20220421BHJP
B01F 25/64 20220101ALI20220421BHJP
B01F 25/21 20220101ALI20220421BHJP
【FI】
B01F7/16 L
B01F7/16 E
B01F5/10
B01F5/16
B01F5/02 A
(21)【出願番号】P 2018032111
(22)【出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000225016
【氏名又は名称】プライミクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金澤 賢次郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 宏
(72)【発明者】
【氏名】仁井 翔一
(72)【発明者】
【氏名】古市 尚
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-047407(JP,A)
【文献】特開平07-060093(JP,A)
【文献】特開2013-240767(JP,A)
【文献】特開2007-021357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に攪拌羽根とバッフルを備える攪拌装置であって、
前記攪拌羽根は、基部と、前記基部に対して前記軸方向一方側に位置し且つ回転方向に配列された複数の羽根部からなる羽根群と、を備えており、
前記羽根部は、径方向における内方端に繋がり且つ前記軸方向視において前記回転方向前方に凸である前方湾曲部を有し、
前記容器は、容器内壁の底部が漏斗状に傾斜した傾斜底部を有し、
前記バッフルは、前記容器の傾斜底部上において、前記複数枚のフィンがバッフルの中心部から外側に向けて放射状でかつ、前記攪拌羽根の回転方向と反対方向に湾曲又は屈曲するように配設され、
前記攪拌羽根と前記バッフルは、攪拌羽根の軸回転方向に対して対向しておらず、同心状の位置関係となるように配置され、
前記バッフルは、前記攪拌羽根の攪拌対象物の排出方向の延長線上に配置されており、
当該攪拌対象物が
当該バッフルから排出される方向が、当該バッフルの中心部から外側に向かう方向である
ことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記容器の底に攪拌対象物の排出口、前記容器の上部に攪拌対象物の吐出口を有し、前記排出口から吐出口に繋がる配管を経由して、攪拌対象物を循環させる外部循環手段を有することを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記外部循環手段は、攪拌対象物を排出口から吐出口へ移送手段を有することを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記移送手段は、高圧ポンプインペラーであることを特徴とする請求項3に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記吐出口には、シャワーノズルが配置されていることを特徴とする請求項2から4に記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記羽根部は、前記前方湾曲部に対して前記径方向外方に繋がり且つ前記軸方向視において前記回転方向後方に凸である後方湾曲部を有していることを特徴とする請求項1から5に記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記羽根部は、前記軸方向において前記基部から離間するほど前記回転方向前方に位置するように傾いていることを特徴とする請求項1から6に記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記羽根部の前記軸方向に対する傾斜角度は、前記径方向内方に向かうほど大であることを特徴とする請求項1から7に記載の攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に粉体溶解を行うための攪拌装置であって、医薬品、化粧品、食品、塗料、化学品等の製造に際して用いられる、原料粉末を液体に効率よく溶解させるための攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
攪拌機は、混合、分散、乳化、溶解、微粒化といった攪拌処理を製品の製造プロセスに含む分野、特に医薬品、化粧品、食品、塗料、化学品等の製造分野において幅広く利用されている。このうち、粉体等の溶解を伴う攪拌処理については、主に粉体溶解槽が用いられる。 粉体溶解を行うための攪拌装置としては、たとえば特許文献1に開示された攪拌装置がある(
図10)。
この攪拌装置は、粉体と溶媒が混合された液体を、攪拌装置が付設されたタンク内で処理を行いつつ、タンクの底から分散装置(粉砕装置)を経由して容器上部へと繋がるとタンク外循環経路通じて攪拌対象物を循環させることにより、タンクの攪拌対象物の上下が常時入れ替わるようにしながら粉体を溶解する方法を採用している。
この方法によると、ダマを形成し易い粉体の溶解(例えば水へのPVA粉体の溶解など)を行う場合においても、溶解所要時間短縮と溶解完了時の泡立ちを抑制し、かつ未溶解物の残留の無い溶解が可能になるとのことである。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された攪拌装置等において、溶媒中での粉体の分散をより高度化するには、攪拌羽根による力をごく一部の処理対象物に集中させることが重要である。
一方、攪拌装置における混合をより高度化するには、攪拌羽根による力を容器内に収容された処理対象物全体に作用させ、流動させることが重要である。このように、1つの攪拌羽根によって、分散と混合とを高度化することは、相反する挙動を両立させることが求められる。
特に、処理対象物の粘度が高くなるほど、分散と混合とを高度化することが困難となるといった課題が生じる。
【0004】
この課題を解決する有効な手段として、本願の発明者は特許文献2に開示された攪拌装置を提案している(
図11)。
この攪拌装置に使用される攪拌羽根は、軸方向周りに回転させられる攪拌羽根であって、基部と、この基部に対して軸方向一方側に位置し且つ回転方向に配列された複数の羽根部からなる羽根群とを備えており、羽根部が径方向における内方端に繋がり且つ軸方向視において回転方向前方に凸である前方湾曲部を有している(
図12)。
【0005】
特許文献2の攪拌羽根による混合の高度化の要因として、羽根部の前方湾曲部の寄与が挙げられる。発明者らが検証を行ったところ、前方湾曲部を回転方向前方に凸とすることで、内方端において処理対象物が強力に吸引され、吸引された処理対象物が径方向外方へとよりスムーズに移動しており、これが混合の高度化に寄与していることを確認している。
これにより、上記課題を解決することができ、例えば、溶媒の液面付近に浮遊して溶媒となじみ難い比重の小さい粉体を溶解する場合でも、粉末を容器の底付近まで吸い込みながら効率良く溶解処理を行う事ができる。
【0006】
このような特許文献2の攪拌羽根を溶解装置に適用して、
図13に示すように容器底付単軸複合ミキサーを構成することができる。容器底付単軸複合ミキサーは、攪拌羽根201と高圧ポンプインペラー202の異なる役割の回転体が容器底から突き出した回転軸203に固定されている。
このうち、混合羽根201が容器内の攪拌対象物Tを均一に混合する機能を有する一方、高圧ポンプインペラー202が攪拌対象物にせん断力を与えることによって分散、乳化、溶解、微粒化など各種攪拌操作を行う機能を有する。
また、高圧ポンプインペラー202は、高圧ポンプの機能も有しており、容器底の排出口204から攪拌対象物Tを吸い込み、容器外の配管205を経由して容器上部に移送して容器内の攪拌対象物Tを循環させる機能を有している。
また、容器底付単軸複合ミキサーは攪拌羽根201と高圧ポンプインペラー202が一つの駆動部に固定されていることから、それぞれ別の駆動部で構成した装置と比較して低コストで装置を製造できるメリットがある。
【0007】
しかしながら、容器底付単軸複合ミキサーにおいて攪拌羽根201の周速を大きくして処理を行うと、攪拌対象物Tが容器内を高速で旋回流動して竜巻状のいわゆる空気吸い込み渦206が発生し、容器中心部分に攪拌対象物が存在しない空洞部が生じることがある(
図13)。
さらに、攪拌羽根201の周速が増大して空気吸い込み渦206が発達し、渦の下端が容器底の排出口204まで達すると、高圧ポンプインペラー202の収容室内に空気が吸い込まれるようになる。
これにより、高圧ポンプインペラー202のせん断力が低下して、攪拌対象物Tに対する分散、乳化、溶解、微粒化の作用が低下するという問題が生じる。
【0008】
空気吸い込み渦206の容器底の排出口204への到達を防止する手段としては、攪拌対象物Tの流動を部分的に減衰させる方法が考えられる。例えば、特許文献3に開示された攪拌装置(混合装置)では(
図14)、攪拌羽根(攪拌翼)に近接するように、
図15に示すようなバッフル(邪魔板)を容器内壁に配設することによって、攪拌対象物の流動を減衰させ、攪拌対象物への泡の混入等を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-205071号公報
【文献】国際公開第2017/212935号公報
【文献】特開2007-136432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
容器底付単軸複合ミキサーにおいて、攪拌羽根にバッフルを近接させる方法を採用すると、空気吸い込み渦が発達して、渦の下端が容器底の排出口まで達するといった問題は解決できる。しかしながら、攪拌対象物が強力に吸引されて径方向外方へとよりスムーズに移動し、混合の高度化を達成できるという特許文献2の攪拌羽根本来の効果が著しく減殺されることになる。
このため、容器底付単軸複合ミキサー合において、バッフルを配設する方法を採用することは、これまで不適であると考えられてきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者が上記課題について鋭意検討した結果、容器底付単軸複合ミキサーにおいて本来不適とされていたバッフルであっても、(1)攪拌羽根とバッフルの位置関係、(2)バッフルの形状、及び(3)バッフルの容器内での配置方法を見直すことによって、混合の高度化と分散、乳化、溶解、微粒化の作用の低下防止という相反する課題の解決のために有効に活用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、本発明の攪拌装置は、容器内に攪拌羽根とバッフルを備える攪拌装置であって、 前記攪拌羽根は、基部と、前記基部に対して前記軸方向一方側に位置し且つ回転方向に配列された複数の羽根部からなる羽根群と、を備えており、前記羽根部は、径方向における内方端に繋がり且つ前記軸方向視において前記回転方向前方に凸である前方湾曲部を有し、 前記容器は、容器内壁の底部が漏斗状に傾斜した傾斜底部を有し、 前記バッフルは、前記容器の傾斜底部上において、前記複数枚のフィンがバッフルの中心部から外側に向けて放射状でかつ、前記攪拌羽根の回転方向と反対方向に湾曲又は屈曲するように配設され、 前記攪拌羽根と前記バッフルは、攪拌羽根の軸回転方向に対して対向しておらず、同心状の位置関係となるように配置され、 前記バッフルは、前記攪拌羽根の攪拌対象物の排出方向の延長線上に配置されており、
当該攪拌対象物が当該バッフルから排出される方向が、当該バッフルの中心部から外側に向かう方向である(請求項1)。
【0013】
前記攪拌装置は、容器底に攪拌対象物の排出口、容器上部に攪拌対象物の吐出口を有し、前記排出口から吐出口に繋がる配管を経由して、攪拌対象物を循環させる外部循環手段を有することが好ましい(請求項2)。
また、前記外部循環手段は、攪拌対象物を排出口から吐出口へ移送手段を有することが好ましい(請求項3)。
また、前記移送手段は、高圧ポンプインペラーであることが好ましい(請求項4)。
さらに、前記吐出口には、シャワーノズルが配置されていることが好ましい(請求項5)
【0014】
一方、前記羽根部は、前記前方湾曲部に対して前記径方向外方に繋がり且つ前記軸方向視において前記回転方向後方に凸である後方湾曲部を有していることが好ましい(請求項6)。
より好ましくは、前記羽根部は、前記軸方向において前記基部から離間するほど前記回転方向前方に位置するように傾いている(請求項7)。
さらに好ましくは、 前記羽根部の前記軸方向に対する傾斜角度は、前記径方向内方に向かうほど大である(請求項8)。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の構成によると、攪拌羽根によって生じる攪拌対象物の流れ成分が、攪拌羽根の軸回転方向と反対方向に旋回する流れ成分に変換され、攪拌羽根の軸回転方向と逆向きに旋回する空気吸い込み渦を生じさせることができる(
図1)。
【0016】
具体的には、
図1に示すように、攪拌羽根A2によって生じる攪拌対象物Tの流れ方向が、バッフルA11及び容器A1の傾斜部との相互作用によって、攪拌羽根A2の回転方向と反対方向に流動する流れ成分Cに変換され、これにより攪拌羽根A2の回転方向と反対方向に旋回する空気吸い込み渦Vを発生させる。
この攪拌羽根A2の回転方向と反対方向の流動は、攪拌羽根A2の近傍において生じている攪拌羽根A2の回転方向と同方向の流動と攪拌羽根A2の直上付近において合成される。このため、攪拌羽根A2の回転方向と反対方向に旋回する空気吸い込み渦Vは、攪拌羽根の直上付近で消失し、容器の底にある第1排出口A6まで到達しない。
【0017】
これにより、高圧ポンプインペラーA4のせん断力が低下し、分散、乳化、溶解、微粒化の作用が低下するといった問題を回避することができる。
一方、攪拌羽根A2の作用によって処理対象物Tが容器A1の上方から攪拌羽根A2に向けて強力に吸引され、攪拌羽根A2の径方向外方へとスムーズに移動排出されることによって混合の高度化を達成できるという攪拌羽根A2の本来の効果は、攪拌羽根A2の回転方向と反対方向の旋回流動によって維持される。
以上のようにして、混合の高度化と分散、乳化、溶解、微粒化の作用の低下防止といった相反する課題を共に解決することができる。
【0018】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る攪拌装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根を示す斜視図である。
【
図3】本発明に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根を示す正面図である。
【
図4】本発明に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根を示す平面図である。
【
図5】本発明に係る攪拌装置に使用するバッフルを示す平面図である。
【
図6】本発明に係る攪拌装置に使用するバッフルを示す正面図である。
【
図7】本発明に係る攪拌装置に使用するバッフルの変形例を示す平面図である。
【
図8】本発明に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根及びバッフルを組み合わせた状態を示す平面図である。
【
図9】本発明に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根及びバッフルを組み合わせた状態を示す正面図である。
【
図10】従来例に係る攪拌装置を示す概略図である。
【
図11】従来例に係る攪拌装置を示す概略図である。
【
図12】従来例に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根を示す斜視図である。
【
図13】従来例に係る攪拌装置を示す概略図である。
【
図14】従来例に係る攪拌装置を示す概略図である。
【
図15】従来例に係る攪拌装置に使用する攪拌羽根及びバッフルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
図1~9は、本発明に係る攪拌装置の一実施形態及び変形例を示している。
【0021】
図1に示す攪拌装置Aは、主に粉体溶解を行うための攪拌装置であって、医薬品、化粧品、食品、塗料、化学品等の製造に際して用いられる、原料粉末を液体に効率よく溶解させるための攪拌装置である。
【0022】
攪拌装置Aは、いわゆる容器底付単軸複合ミキサーであり、容器A1内に攪拌羽根A2が配置され、さらに容器A1の直下に配置される収容室A3の中には、高圧ポンプインペラーA4が配置されている。
混合羽根A1と高圧ポンプインペラーA2は、収容室A3を貫通して容器A1の底から容器内に向けて突き出す回転軸A5に固定されている。収容室A3と回転軸A5との間には、図示しない軸シールが設けられ、回転軸A5は、図示しないモーターに接続されている。攪拌羽根A2と高圧ポンプインペラーA4は、このモーターの駆動力によって
図1中に図示する方向に一体となって回転する構造となっている。
なお、他の構成要素として、たとえば容器A1およびモーターを支持する筐体や、モーターの駆動を制御する制御部等を適宜採用してもよい。
【0023】
容器A1内に投入された攪拌対象物Tは、攪拌羽根A2の回転によって流動して均一に混合される。この混合羽根A2は、攪拌対象物に対して独特の流動を生じさせるものであり、その形態、機能については後で詳述する。
また、容器A1の底部中央には第1排出口A6が形成されており、容器A1と収容室A3は、第1排出口A6を介して接続されている。これにより、高圧ポンプインペラーA4の吸引力によって、容器A1内の攪拌対象物Tを収容室A3に移送することができる。収容室A3に移送、収容された攪拌対象物Tは、高圧ポンプインペラーA2の回転によってせん断力が付加され、分散、乳化、溶解、微粒化など各種攪拌操作が行われる。
【0024】
収容室A3の側面には、第2排出口A7が形成されており、さらに第2排出口A7には、容器3の上部に向けて延びる配管A8が接続されている。
配管A8の他端部分は、容器A1の上部から容器3の内部に挿入されており、第1排出口A6から第2排出口A7を経由して移送された攪拌対象物Tが、配管A7の先端部分の吐出口A9から容器A1内に吐出されるようになっている。これにより、容器A1内の攪拌対象部Tを常時循環させながら上記一連の処理を行うことができる。
【0025】
容器A1の底部には、容器A1の側壁の下端部から容器中央に向けて漏斗状に傾斜した傾斜部A10が形成されており、この傾斜部A10の表面に沿うようにバッフルA11が配置されている。
このバッフルA11は、攪拌羽根A2及び傾斜部A10と連動して攪拌対象物Tに対して独特の流動Cを生じさせるものであり、その形態、機能については後で詳述する。
バッフルA11と攪拌羽根A2は、回転軸A5を中心とする同心円状の位置関係となるように配置される。
また、バッフルA11は、傾斜部A10の表面と攪拌羽根A2の間に介挿される形で配置されており、回転軸A5の径方向に対して攪拌羽根A2と対向していない。
これは、後で詳述するように、攪拌羽根A2の攪拌対象物の排出方向の延長線上に、バッフルA11が配置されるようにするためである。
【0026】
次に、攪拌羽根A2の形態、機能等について詳述する。
攪拌羽根A2は、
図2~
図4に示す形態を有している。
図2は、攪拌羽根A2を示す斜視図である。
図3は、攪拌羽根A2を示す正面である。
図3は、
図1および
図2におけるz方向上側から見た攪拌羽根A2を示す平面図である。回転方向θは、攪拌羽根A2が回転する方向であり、軸方向zおよび径方向rに対して、一般的に周方向と称される方向である。また、これらの図における矢印は、攪拌羽根A1が回転する向きを示している。
【0027】
攪拌羽根A2の材質は、特に限定されず、金属や樹脂など攪拌対象物Tの分散および混合に適した材質が適宜選択される。攪拌羽根A2を構成する好ましい金属としては、たとえばステンレスが挙げられる。また、攪拌羽根A2は、基部1および羽根群2が一体的に形成されたものであってもよいし、複数の部品が組み合わされた構成であってもよい。さらに、攪拌羽根A2を攪拌装置B1の回転軸A5に取り付ける構造としては、種々の係合機構や締結機構などの取り付け機構が採用されてもよいし、回転軸A5と攪拌羽根A2の少なくとも一部とが一体的に形成された構造であってもよい。
図2~
図4においては、攪拌羽根A2を回転軸A5に取り付けるための構造は、理解の便宜上省略している。攪拌羽根A2の大きさは特に限定されず、本実施形態においては、攪拌羽根A2の直径が、40mm程度である。
【0028】
基部1は、羽根群2を支持しており、回転軸A5に固定される部位である。基部1の形状および大きさは特に限定されない。本実施形態の基部1は、軸方向z視において円形状である。基部1は、外周端10および傾斜面11を有する。外周端10は、径方向rにおいて最外方に位置する部位である。本実施形態においては、外周端10は、基部1の軸方向z下端に位置しており、軸方向z視において円形である。傾斜面11は、外周端10に対して軸方向z上側に設けられている。傾斜面11は、軸方向zにおいて外周端10に向かうほど径方向r外方に位置するように傾斜している。図示された例においては、基部1全体が、円錐体とされており、傾斜面11は、円錐体の側面によって構成されている。
【0029】
羽根群2は、基部1に対して軸方向z一方側に位置し、且つ各々が回転方向θに配列された複数の羽根部20からなる。本実施形態においては、羽根群2は、傾斜面11に設けられている。
図2に示すように、羽根群2を構成する複数の羽根部20は、軸方向zにおける所定範囲に配置されている。
【0030】
羽根群2を構成する複数の羽根部20の個数は特に限定されない。本実施形態においては、羽根群2を構成する複数の羽根部20の個数は4つである。また、4つの羽根部20は、等ピッチで配列されており、図示された例においては、当該ピッチは90度である。
【0031】
羽根部20は、内方端21、外方端22、根本端23、先端24、前方面25、後方面26、前方湾曲部27および後方湾曲部28を有する。内方端21は、羽根部20のうち径方向rにおいて最も内方に位置する端部である。本実施形態においては、複数の羽根部20の内方端21どうしは、回転方向θにおいて互いに離間している。外方端22は、羽根部20のうち径方向rにおいて最も外方に位置する端部である。
図4に示すように、図示された例においては、外方端22は、軸方向z視において基部1の外周端10と一致している。すなわち、基部1と羽根部20とは、いずれかが径方向r外方に突出する構成とはなっていない。ただし、羽根部20が、基部1よりも径方向r外方に突出する構成であってもよいし、基部1よりも径方向r内方に退避した構成であってもよい。
【0032】
根本端23は、羽根部20が基部1に繋がる部位である。先端24は、羽根部20のうち根本端23から軸方向zに位置する端部である。
【0033】
前方面25は、羽根部20のうち回転方向θ前方側の面である。後方面26は、羽根部20のうち回転方向θ後方側の面である。
【0034】
前方湾曲部27は、内方端21に繋がり且つ軸方向z視において回転方向θ前方に凸である部位である。より具体的には、前方湾曲部27は、前方湾曲部27の径方向r両端を結ぶ仮想直線よりも回転方向θ前方に凸である形状である。後方湾曲部28は、前方湾曲部27に対して径方向r外方に繋がり且つ軸方向z視において回転方向θ後方に凸である部位である。
より具体的には、後方湾曲部28は、後方湾曲部28の径方向r両端を結ぶ仮想直線よりも回転方向θ後方に凸である形状である。
図2および
図4においては、前方湾曲部27および後方湾曲部28について、理解の便宜上一点鎖線の矢印によってそれぞれの範囲を示している。図示された例においては、先端24は、羽根部20のうち概ね前方湾曲部27を構成する部分に設けられており、
図4に示すように、軸方向z視において回転方向θ前方に凸である形状となっている。また、根本端23は、前方湾曲部27および後方湾曲部28を構成する部分の双方に設けられており、
図4に示すように、軸方向z視においてS字形状となっている。なお、前方湾曲部27および後方湾曲部28が設けられる範囲や、それぞれの湾曲度合い等は特に限定されない。
【0035】
また、本実施形態においては、羽根部20は、軸方向zにおいて基部1から離間するほど回転方向θ前方に位置するように傾いている。さらに、本実施形態においては、羽根部20の軸方向zに対する傾斜角度は、径方向r内方に向かうほど大である。より具体的には、
図3に示すように、羽根部20の内方端21が軸方向zとなす角度である角度α1は、羽根部20の外方端22が軸方向zとなす角度である。角度α2よりも大である。言い換えると、前方湾曲部27が軸方向zとなす角度は、後方湾曲部28が軸方向zとなす角度よりも大である。
【0036】
攪拌羽根A2が回転方向θに回転すると、攪拌対象物も回転方向θに沿う回転流れを生じる。また、攪拌羽根A2の軸方向z上方から、攪拌対象物Tが攪拌羽根A2に吸い込まれる流動が生じる。そして、攪拌羽根A2の軸方向z下端(外周端10付近)から、容器81の底部に沿って径方向r外方に向かう流動が生じる。
【0037】
攪拌羽根A2による混合の高度化の要因として、まず、羽根部20の前方湾曲部27の寄与が挙げられる。発明者らの研究によれば、前方湾曲部27を回転方向θ前方に凸とすることにより、内方端21において攪拌対象物Tをより強力に吸引しつつ、吸引した攪拌対象物Tを径方向r外方へとよりスムーズに移動させることが可能であるという知見が得られた。特に、図示された例においては、内方端21における羽根部20と回転方向θとがなす角度が相対的に小となっていることが、攪拌対象物をより強力に吸引するのに有利であることが判明した。また、図示された前方湾曲部27においては、径方向r外方に向かうほど羽根部20と回転方向θとがなす角度が徐々に大きくなっていることが、吸引した攪拌対象物Tを径方向r外方へとよりスムーズに移動させるのに有利であることが判明した。この強力な吸引とスムーズな移動は、攪拌対象物T全体の混合を生じさせる一因と考えられる。なお、攪拌羽根A2の機能の詳細については、本願の発明者に係る先願のPCT/JP2017/019543の記載事項に基づいて把握することができる。
【0038】
また、攪拌羽根A2は、上述した形態以外にも、本願の発明者が開発した単一の金属板材料からなり、径方向中心に位置する基部および基部に繋がる複数の羽根要素を各々が有し、軸方向に積層された複数の板材を備え、羽根部は、軸方向に隣接する複数の板材の羽根要素同士が互いに接触または近接して構成された攪拌対象を流動させる羽根面を有する形態を使用することができる。
なお、上記他の形態の攪拌羽根を使用した攪拌装置の実施は、本願の発明者に係る先願の特願2017-225538の記載事項に基づいて行うことができる。
【0039】
次に、バッフルA11の形態、機能等について詳述する。
バッフルA11は、
図5~
図6に示す形態を有している。
【0040】
図5は、バッフルA11を示す平面図である。
図6は、バッフルA11を示す側面図である。
バッフルA11の材質は、特に限定されず、金属や樹脂など攪拌対象物Tの分散および混合に適した材質が適宜選択される。バッフルA11を構成する好ましい金属としては、たとえばステンレスが挙げられる。
図5に示すようにバッフルA11は、複数枚のフィン101で構成されている。フィン101は、平面方向視において中心部から中心軸の径方向に等間隔かつ放射状に形成されている。また各フィン101は、中心部から中心軸に対して径方向に反り返るように湾曲している。この湾曲の方向は、攪拌羽根A2の軸回転方向と反対方向に湾曲するように設定される。
また、
図6に示すように、各フィン101は、側面方向視において中心部から中心軸方向に反り返るように湾曲している。この湾曲の形状は、バッフルA11の底面が容器A1の内壁側の底部の漏斗状に傾斜した傾斜部A10の形状に沿うように設定される。
【0041】
上述の例ではフィン101の本数が8本のバッフルA11を示したが、これに限られるものではなく、必要に応じてフィン101の本数を増減することができる。また、上述の例では、フィン101の断面形状がU字状のバッフルA11を示したが、これに限られるものではなく、フィン101の断面形状として三角形、四角形等、攪拌対象物Tの流れ成分を変換し得るものであれば特に制限されない。
【0042】
上記バッフルA11は、フィンの形状が湾曲した例を示したが、
図7に示すように、フィンの形状が屈曲したものを用いることもできる。
図7に示した例では、フィンの中央部で屈曲した例を示したが、これに限られるものではなく、屈曲箇所は必要に応じて変更できる。
また、
図7に示した例では、屈曲箇所の数がそれぞれのフィンで1か所となる例を示したが、これに限られるものではなく、屈曲箇所数は必要に応じて増加させることもできる。
【0043】
次に、攪拌羽根A2とバッフルA11の組み合わせ等について詳述する。
攪拌羽根A2とバッフルA11は、
図8~
図9に示すように組み合される。
【0044】
図8は、攪拌羽根A2とバッフルA11を組み合わせた状態を示す平面図である。
図9は、バッフルA11を組み合わせた状態を示す正面図である。
図8に示すように、バッフルA11は、容器A1の傾斜部A10の表面に回転軸A5と同心状の位置関係となるように固定される。 固定の手段は、螺子止め、嵌合、溶接等を採用できるが、これらに限定されない。
また、
図9に示すように、容器A1の底から容器内に向けて突き出した回転軸A5が、バッフルA11の中心部を貫通し、さらに回転軸A5の先端には、攪拌羽根A1が配置されている。
攪拌羽根A2とバッフルA11は、回転軸A5の軸方向に対して所定の間隔を置いて配置されており、回転軸A5の径方向に対して相互に対向しない位置関係となっている。これは、攪拌羽根A2から攪拌対象物が排出される方向の延長線上に、バッフルA11が位置するように設定するためである。
【0045】
以上のような攪拌羽根A2、バッフルA11及び容器A1の傾斜部A10の位置関係の下、攪拌羽根A2によって容器A1の上方から強力に吸引され、攪拌羽根A2の径方向r外方へとよりスムーズに移動する攪拌対象物Tの流れ方向が、バッフルA11及び容器A1の傾斜部A10との相互作用によって変換される。 この変換について以下に詳述する。
まず、バッフルA11を使用しない場合、攪拌羽根A2の周速を大きくして処理を行うと、攪拌対象物Tが攪拌羽根201の回転方向と同方向に容器内を流動して竜巻状のいわゆる空気吸い込み渦が発生し、容器中心部分において攪拌対象物Tが存在しない空洞部が生じる。
【0046】
これに対し、
図1に示すように、バッフルA11を使用する場合、攪拌対象物Tの流れ方向が、バッフルA11及び容器A1の傾斜部A10との相互作用によって、攪拌羽根A10の回転方向と反対方向の流動に変換され、これにより攪拌羽根A10の回転方向と反対方向に旋回する空気吸い込み渦Vが発生する。
この攪拌羽根A10の回転方向と反対方向の流動は、攪拌羽根A2の近傍において生じている攪拌羽根A2の回転方向と同方向の流動と、攪拌羽根A2の直上付近において合成される。このため、拌羽根A2の回転方向と反対方向に旋回する空気吸い込み渦は、攪拌羽根A2の直上付近で消失し、容器A1の底にある第1排出口A6まで到達しない。
これにより、空気吸い込み渦Vが容器A1の底にある第1排出口A6まで到達して、高圧ポンプインペラーA4のせん断力が低下し、分散、乳化、溶解、微粒化の作用が低下するといった問題を回避することができる。
【0047】
一方、攪拌羽根A2の作用によって処理対象物Tが容器上方から攪拌羽根A2に向けて強力に吸引され、攪拌羽根A2の径方向外方へとスムーズに移動排出されることによって、混合の高度化を達成できるという攪拌羽根A2の本来の効果は、上記変換によって生じる攪拌羽根A2の回転方向と反対方向の流動によって維持される。
以上のようにして、混合の高度化と分散、乳化、溶解、微粒化の作用の低下防止といった相反する課題を共に解決することができる。
【0048】
本発明に係る攪拌装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る攪拌装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0049】
A1 :容器
A2 :攪拌羽根
A3 :収容室
A4 :高圧ポンプインペラー
A5 :回転軸
A6 :第1排出口
A7 :第2排出口
A8 :配管
A9 :吐出口
A10 :傾斜部
A11 :バッフル(邪魔板)
1 :基部
2 :羽根群
10 :外周端
11 :傾斜面
20 :羽根部
21 :内方端
22 :外方端
23 :根本端
24 :先端
25 :前方面
26 :後方面
27 :前方湾曲部
28 :後方湾曲部
r :径方向
z :軸方向
θ :回転方向
α1,α2 :角度
101 :フィン
201 :攪拌羽根
202 :高圧ポンプインペラー
203 :回転軸
204 :排出口
205 :配管
206 :空気吸い込み渦