(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】検査方法、ペリクルの製造方法、および検査装置
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20220421BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20220421BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20220421BHJP
G01N 21/958 20060101ALI20220421BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20220421BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F1/84
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G01N21/958
G01N21/88 Z
G01N21/27 B
(21)【出願番号】P 2018062294
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】石川 比佐子
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-061540(JP,A)
【文献】特開2015-175815(JP,A)
【文献】特開2008-157753(JP,A)
【文献】特開2007-278846(JP,A)
【文献】特開2014-215177(JP,A)
【文献】特開2007-264499(JP,A)
【文献】特開平07-072617(JP,A)
【文献】特開2016-122091(JP,A)
【文献】特表2017-534078(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0140199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
21/17-21/61
21/84-21/958
G03F 1/00- 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材を撮像した画像であって、画素ごとにペリクルを構成するための部材から到来した
第1波長の光の強度のデータおよび第2波長の光の強度のデータを含む画像を取得し、
各画素における前記第1波長の光の強度と
前記第2波長の光の強度との比である第1強度比と、基準値と、の差異に基づいて、前記部材を検査する検査方法。
【請求項2】
前記基準値は、基準となる前記第1波長の光の強度と基準となる前記第2波長の光の強度との比である第2強度比を示す請求項
1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第1強度比と前記第2強度比とをそれぞれ複数用いて前記部材を検査する請求項
2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記第2強度比は、前記部材を検査する前に決められる請求項
2または請求項
3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記第2強度比は、前記部材とは異なる部材から到来した前記第1波長の光の強度と前記第2波長の光の強度とに基づいて決められる請求項
4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記部材の表面粗さRaは0.3nm以上100μm以下である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記部材はペリクル膜を含む、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項8】
前記部材はペリクル膜を支持する支持体を含む、請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項9】
前記検査は、少なくとも前記部材に含まれる異物の有無を検査することを含む請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項10】
ペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持体とを少なくとも有するペリクルの製造方法であって、
前記ペリクル膜と前記支持体とを接続することと、
前記ペリクル膜と前記支持体とを接続する前または接続した後において、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の検査方法を用いて、前記ペリクルを構成するための部材を検査することと、
を含むペリクルの製造方法。
【請求項11】
ペリクルを構成するための部材が配置される台と、
前記台に置かれた前記部材に、第1波長の光および第2波長の光を照射する照射装置と、
前記部材から到来した前記第1波長の光および前記第2波長の光に基づいて前記部材を撮像し、画素ごとに前記第1波長の光の強度のデータおよび前記第2波長の光の強度のデータを含む画像を生成する撮像装置と、
各画素における前記第1波長の光と第2波長の光との強度の比である第1強度比と、基
準値と、の差異に基づいて、前記部材を検査する検査部と、
を有する検査装置。
【請求項12】
前記台の移動を制御する移動制御部を有し、
前記検査部は、前記台が複数の異なる位置にあるときにそれぞれ撮像された前記画像に基づいて、前記部材を検査する
請求項
11に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルを構成するための部材を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、LSI(Large Scale Integration)および超LSIで例示されるデバイスの製造工程は、マスク(フォトマスクともいう。)に光を照射してパターンを形成する工程を含む。マスクに異物が付着していた場合、該異物に光が吸収され、または該異物によって光が屈折する場合がある。その結果、パターニングの精度が低下し、製造されたデバイスの品質および外観が損なわれることがある。このため、マスクの表面にペリクルを装着し、該マスクへの異物の付着を抑えることが行われている。
【0003】
ペリクルは、通常、パターニング用の光を透過可能なペリクル膜と、該ペリクル膜を支持する枠状の支持体(ペリクルフレームともいう。)と、を含む。ペリクルは、異物の付着を少なくすることが求められる。ペリクルの表面の異物の付着を検査する技術として、従来から散乱光を用いた方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
ところで、デバイスの高集積化および微細化に伴い、従来のエキシマレーザを用いて露光することが難しくなる場合がある。そこで、露光光として、より短波長のEUV(極端紫外光:Extreme Ultra Violet)光を採用することが検討されている。EUV光は、あらゆる物質に吸収されやすい。そこで、ペリクル膜の材質として、単結晶シリコンからなる膜(特許文献2および特許文献3)、金属メッシュ上に積層された窒化アルミニウム膜(特許文献4)、グラフェン膜(特許文献5)、およびカーボンナノチューブ膜(特許文献6)を採用することが提案されている。
【0005】
また、支持体は、異物の付着を減らすため、例えば、プラズマ処理、粗面化処理、サンドブラスト処理、またはショットブラスト処理により、表面処理されていることがある。この表面処理により、支持体の表面に付着した異物および油成分が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-221744号公報
【文献】特開2010-256434号公報
【文献】特開2009-116284号公報
【文献】特開2005-43895号公報
【文献】国際公開第2011/160861号公報
【文献】国際公開第2018/008594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、EUV露光用のペリクル膜や、表面処理されたペリクルフレームは、従来よりも表面に微細な凹凸を有するものがある。これらの部材についての検査方法として、従来の散乱光を用いた検査方法よりも、検出精度が向上した検査方法が求められる。例えば、検査の対象となる部材の表面に、その表面粗さと近い大きさの異物が付着している場合、検出感度を上げると、ペリクル膜やペリクルフレームの表面の微細な凹凸に起因する散乱光を異物として認識してしまい、凹凸と異物との区別が難しい可能性がある。検出感度を下げると、微細な異物を検出できない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、ペリクルを構成するための部材の検査の精度を向上させるための技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の一実施形態において、ペリクルを構成するための部材から到来した第1波長の光の強度と第2波長の光の強度との比である第1強度比と、基準値と、の差異に基づいて、前記部材を検査する検査方法が提供される。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記部材を撮像した画像であって、画素ごとに前記第1波長の光の強度のデータおよび前記第2波長の光の強度のデータを含む画像を取得し、各画素における前記第1強度比と、前記基準値との差異に基づいて、前記部材を検査してもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記基準値は、基準となる前記第1波長の光の強度と基準となる前記第2波長の光の強度との比である第2強度比を示してもよい。本発明の一実施形態において、前記第1強度比と前記第2強度比とをそれぞれ複数用いて前記部材を検査してもよい。本発明の一実施形態において、前記第2強度比は、前記部材を検査する前に決められてもよい。前記第2強度比は、前記部材とは異なる部材から到来した前記第1波長の光の強度と前記第2波長の光の強度とに基づいて決められてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記部材の表面粗さRaは0.3nm以上100μm以下であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記部材はペリクル膜を含んでもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記部材はペリクル膜を支持する支持体を含んでもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記検査は、少なくとも前記部材に含まれる異物の有無を検査することを含んでもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、ペリクル膜と、前記ペリクル膜を支持する支持枠とを少なくとも有するペリクルの製造方法であって、前記ペリクル膜と前記支持枠とを接続することと、前記ペリクル膜と前記支持枠とを接続する前または接続した後において、上記いずれかの検査方法を用いて、前記ペリクルを構成するための部材を検査することと、を含むペリクルの製造方法が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態において、ペリクルを構成するための部材が配置される台と、前記台に置かれた前記部材に、第1波長の光および第2波長の光を照射する照射装置と、前記部材から到来した前記第1波長の光および前記第2波長の光に基づいて前記部材を撮像し、画素ごとに前記第1波長の光の強度のデータおよび前記第2波長の光の強度のデータを含む画像を生成する撮像装置と、各画素における前記第1波長の光と第2波長の光との強度の比である第1強度比と、基準値と、の差異に基づいて、前記部材を検査する検査部と、を有する検査装置が提供される。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記台の移動を制御する移動制御部を有し、前記検査部は、前記台が複数の異なる位置にあるときにそれぞれ撮像された前記画像に基づいて、前記部材を検査してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ペリクルを構成するための物品の検査の精度を向上させるための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る検査装置の全体構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る撮像装置により生成される撮像画像を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るペリクルの側断面を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る検査装置が行う処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るスペクトルデータを例示するグラフである。
【
図6】
図5に示したスペクトルデータを相対強度によって表したグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る異物の検出方法の一例を説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るペリクルの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施形態に係るペリクルの製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施例に係る異物の検出結果を示す図である。
【
図11】本発明の一実施例に係るスペクトルデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0022】
本明細書において、ある部材又は領域が、他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0023】
図1は、検査装置1の全体構成を示す図である。検査装置1は、ペリクルを構成するための部材を検査する検査方法を実施可能な装置である。検査装置1は、台10と、照射装置20と、撮像装置30と、情報処理装置40と、を少なくとも有し、駆動装置50をさらに有していてもよい。本実施形態では、検査の対象となる部材を、「検査対象物200」と称する。
【0024】
台10は、検査対象物200が置かれる台である。台10の上面は、平面である。台10は、移動可能である。台10は、本実施形態では、互いに直交するX軸方向およびY軸方向の各方向に沿って水平に移動する。台10は、いわゆるXYステージであってもよい。
【0025】
照射装置20は、台10の上に置かれた検査対象物200に光を照射する。照射装置20からの光は、検査対象物200の表面に入射する。照射装置20は、例えば、近紫外から近赤外に至る波長領域を有する光を照射する。該波長領域は、例えば350nmから1100nmに至る波長領域であるが、これに限られない。照射装置20は、例えば白色光を照射する。照射装置20は、例えば発光ダイオード、半導体レーザまたはハロゲンランプを光源として含む。照射装置20の位置および姿勢は、台10の上面に所定の入射角(例えば、45度)の光が入射するように、あらかじめ調整されている。
【0026】
撮像装置30は、検査対象物200から到来した光に基づいて、検査対象物200を撮像する。撮像装置30は、本実施形態では、検査対象物200からの反射光を受光して撮像する。撮像装置30は、例えば、マルチスペクトルカメラまたはハイパースペクトルカメラである。撮像装置30は、複数の画素の各々について、複数の波長(または波長域)の光の強度のデータを取得する。本明細書において、マルチスペクトルカメラは、2以上9以下の波長の光の強度のデータを取得するカメラである。また、ハイパースペクトルカメラは、10以上の波長の光の強度のデータを取得するカメラである。
【0027】
撮像装置30は、検査対象物200を撮像した画像(以下「撮像画像」という。)を生成する。撮像画像は、画素ごとに複数の波長の各波長の光の強度のデータ(以下「スペクトルデータ」という。)を含む画像である。撮像画像は、いわゆるスペクトル画像と同様の構成である。
【0028】
図2は、撮像装置30により生成される撮像画像を説明する図である。
図2に示す撮像画像は複数の画素を含む。
図2では、左上隅点を原点とし、左からi番目、上からj番目の画素を、「P(i,j)」と表す。複数の画素は、X1方向およびY1方向に沿ってマトリクス状に配置される。X1方向はX軸方向に対応する方向である。Y1方向は、Y軸方向に対応する方向である。本実施形態では、撮像画像として正方形の画素がより大きな正方形を構成する配置で説明したが、これに限定されず従来公知の画素の形状とすることができる。
【0029】
撮像装置30は、分光部31と撮像部32とを含む。分光部31は、検査対象物200から到来した光を、複数の波長の光に分光する。分光部31は、検査対象物200から到来した光を20nm以下の間隔で分光する。好ましくは、分光部31は、検査対象物200から到来した光を10nm以下の間隔で分光する。より好ましくは、分光部31は、検査対象物200から到来した光を5nm以下の間隔で分光する。本実施形態では、撮像装置30が1つである例を示したが、検査装置1は撮像装置30を複数含んでいてもよい。検査装置1が撮像装置30を複数含むことで、撮像に要する時間を短縮することができる。
【0030】
仮に、分光部31ではなくRGBフィルタを用いた場合、検査対象物200から到来した光は、赤(R)成分の光と、緑(G)成分の光と、青(B)成分の光とに分離される。この場合、各色成分の光は、およそ100nmの波長幅となる。よって、分光部31による分光後の光は、RGBフィルタが用いられた場合に比べて、より狭い波長幅の成分を有する。同様に、分光部31による分光後の光は、例えばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、およびグリーン(G)の各色に対応する補色系フィルタを用いた場合に比べて、より狭い波長幅となる。
【0031】
分光部31は、例えばプリズムを含む。ただし、分光部31は、回折格子(透過型または反射型)、フィルタ(例えばバンドパスフィルタ)、またはその他の素子を含んでもよい。
【0032】
撮像部32は、撮像素子を含む。撮像素子は、例えば、CCD(Conference of Committee on Disarmament)またはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)である。撮像装置30は、エリアCCDカメラ、ラインCCDカメラ、またはCMOSカメラであってもよい。撮像部32は、拡大レンズを含んでいてもよい。拡大レンズとしては、例えば、テレセントリックレンズ系レンズや非テレセントリック系レンズであるが、これらに限られない。
【0033】
なお、撮像部32と検査対象物200との間に、拡大レンズが設けられてもよい。撮像部32と検査対象物200との間に設けられる拡大レンズは、例えば、テレセントリックレンズ系レンズ、非テレセントリック系レンズ、顕微鏡であるが、これらに限られない。分解能を向上させる観点から、該拡大レンズが設けられていることが好ましい。視野エリア、カメラ画素数、カメラ画素サイズ、拡大レンズの分解能により、撮像画像の分解能が変化する。また、分光部が撮像装置の外部に配置されてもよい。この場合、検査装置1は、分光部31に相当する分光部と、撮像部32に相当する撮像装置とを有する検査装置である。また、
図1に示す撮像装置30の位置および姿勢は、一例に過ぎない。撮像装置30は、ここでは、台10から見て、台10の上面の法線方向に位置する。この場合、撮像装置30は、検査対象物200からの拡散反射光に基づいて撮像を行う。
【0034】
情報処理装置40は、検査装置1における情報処理を司る。情報処理装置40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)で例示される演算処理装置、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)で例示されるメモリ、並びにASIC(Application Specific Integrated Circuit)およびLSIで例示される画像処理部を含む。
【0035】
駆動装置50は、台10をX軸方向およびY軸方向の各方向に移動させる。駆動装置50は、台10を移動させるための駆動力を発生させる。駆動装置50は、例えばモータを含む。本実施形態では駆動装置50を有する検査装置1について説明したが、検査対象物200の表面全体を撮像できれば、検査装置1は駆動装置50を有しなくてもよい。
【0036】
情報処理装置40は、取得部42と、検査部43と、に相当する機能を少なくとも有し、さらに移動制御部41に相当する機能を有してもよい。移動制御部41は、駆動装置50を用いて台10の移動を制御する。取得部42は、撮像装置30から撮像画像を取得する。検査部43は、取得部42が取得した撮像画像に基づいて、検査対象物200を検査する。検査部43は、少なくとも、検査対象物200に含まれる異物の有無を検査する。検査部43は、さらに、検査対象物200において異物の存在する位置を検査してもよい。異物とは、検査対象物200を構成する部材以外の物体をいい、その種類は問わない。異物は、例えば埃である。
【0037】
図3は、ペリクル300の側断面を示す図である。検査対象物200は、ペリクル300を構成するための部材である。ペリクル300は、ここでは、EUVフォトリソグラフィ用ペリクルである。ペリクル300は、少なくとも、ペリクル膜310と、支持体320とを含む。ペリクル膜310は、ペリクル300に使用される薄膜である。ペリクル膜310は、例えば、単結晶シリコン膜、多結晶シリコン膜、アモルファス炭化ケイ素膜、結晶性炭化ケイ素膜、窒化シリコン膜、カーボンナノチューブ膜、窒化アルミニウム膜、グラフェン膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、またはその他のペリクル膜である。ペリクル膜310は、好ましくは、カーボンナノチューブ膜である。
【0038】
ペリクル膜310の厚さは、10nm以上200nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上70nm以下がさらに好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましく、10nm以上45nm以下が最も好ましい。
【0039】
支持体320は、ペリクル膜310の一方の面に設けられ、ペリクル膜310を支持する枠状の支持体である。ペリクル膜310を支持体320に固定する方法は問わない。ペリクル膜310は、支持体320へ直接貼り付けられてもよいし、支持体320の一方の端面にある膜接着剤層を介して接着されてもよいし、機械的または磁石的な方法により固定されてもよい。
【0040】
支持体320は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金(5000系、6000系、7000系等)、ステンレス、シリコン、シリコン合金、鉄、鉄系合金、炭素鋼、工具鋼、セラミックス、金属-セラミックス複合材料、樹脂またはその他の材料で形成されている。支持体320は、好ましくは、プラズマ処理、粗面化処理、サンドブラスト処理、ショットブラスト処理またはその他に処理により、表面処理または接合加工されている。なお、
図3に示す支持体320の構成は一例に過ぎない。支持体320は、例えば、ペリクル膜310に接続される枠状の第1支持体と、該第1支持体に接続される枠状の第2支持体と、を含んでもよい。
【0041】
ペリクル300は、さらに、マスク400に設置するための接着層330を含んでもよい。接着層330は、支持体320において、ペリクル膜310が吊架された端部とは反対側の端部に設けられる。接着層330は、マスク400とペリクル300とを接続する際に使用される。なお、本明細書において「接着」は、「粘着」を含む概念である。
【0042】
ペリクル300は、さらに、保護層(図示略)を含んでもよい。保護層は、ペリクル300の表面の少なくとも一部を覆う層である。保護層は薄い層であり、ペリクル300の表面粗さにさほど影響しない。保護層は、例えば、ペリクル膜310の露光原版が設けられる側の面に設けられてもよいし、ペリクル膜310の上に最表面として設けられてもよい。保護層は、例えば、SiOx(ただし、x≦2)、SiaNb(ただし、a/bは0.7以上1.5以下)、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、B4C、SiCおよびRhのうちから選択される1つ以上の材料を含んでもよい。保護層は、ペリクル膜310に、水素ラジカル耐性(すなわち、還元耐性)と酸化耐性との両方を付与する。
【0043】
検査対象物200は、例えば、ペリクル膜310である。検査対象物200は、例えば、支持体320である。検査対象物200は、ペリクル膜310および支持体320以外の部材であってもよい。検査対象物200は、例えば、ペリクル300の外観に含まれる部分を含む部材である。検査対象物200は、例えば、ペリクル300を構成する前のペリクル膜310および支持体320であってもよく、ペリクル300を構成した後のペリクル膜310および支持体320であってもよい。
【0044】
次に、検査装置1の動作を説明する。
図4は、検査装置1が行う処理の一例を示すフローチャートである。
【0045】
情報処理装置40において移動制御部41は、駆動装置50を制御して、台10の位置を設定する(ステップS1)。台10が所定の位置に移動した後、撮像装置30は検査対象物200を撮像する。取得部42は、その撮像により生成された撮像画像を取得する(ステップS2)。該撮像画像は、検査対象物200の一部の領域を撮像した画像である。
【0046】
次に、検査部43は、撮像画像の取得が完了したかどうかを判定する(ステップS3)。例えば、検査対象物200の全体が撮像されるまで、検査部43はステップS3で「NO」と判定する。ステップS3で「NO」と判定された場合、情報処理装置40の処理はステップS1に戻される。
【0047】
この場合、移動制御部41は、駆動装置50を制御して、台10の位置を設定する(ステップS1)。移動制御部41は、撮像装置30により撮像される領域が変更されるように、台10の位置を設定する。台10が所定の位置に移動した後、撮像装置30は検査対象物200を撮像する。取得部42は、その撮像により生成された撮像画像を取得する(ステップS2)。
【0048】
情報処理装置40においては、検査対象物200の全体が撮像されるまで、ステップS1、ステップS2、およびステップS3で「NO」の処理が繰り返し実行される。移動制御部41は、例えば、台10をX軸方向における一端の位置から他端の位置まで移動させると、台10をY軸方向に所定量だけ移動させて、台10をX軸方向における一端の位置から他端の位置まで移動させる。移動制御部41は、検査対象物200の全体が撮像されるまで、この制御を繰り返す。移動制御部41の制御は、これに限られない。ステップS1~S3の処理が行われているとき、撮像装置30は移動しない。
【0049】
ステップS3で「YES」と判定した場合、検査部43は、撮像画像において検査を行う画素を特定する(ステップS4)。検査部43は、未検査の画素のうちからいずれか1つの画素を特定する。
【0050】
次に、検査部43は、ステップS4で特定した画素について、第1波長における光と第2波長における光との強度の比である第1強度比を取得する(ステップS5)。第1波長および第2波長は、互いに異なる波長である。第1波長は、例えば550nm(または550nmを含む波長域)である。第2波長は、例えば700nm(または700nmを含む波長域)である。第1波長および第2波長は、例えば、あらかじめ決められている。検査部43は、例えば、スペクトルデータに基づいて、第1波長における光の強度を、第2波長における光との強度で除することにより、第1強度比を取得する。なお、後述するように、検査部43は、第1波長および第2波長の一方、または両方を変更することにより、複数の第1強度比を取得してもよい。
【0051】
次に、検査部43は、第2強度比を取得する(ステップS6)。検査部43は、例えば、情報処理装置40のメモリに記憶された第2強度比を読み出して、該第2強度比を取得する。第2強度比は、検査において基準となる強度比で、第1強度比との比較に用いられる基準値である。第2強度比は、検査装置1が検査を行う前に決められていてもよい。第2強度比は、基準となる第1波長の光の強度と、基準となる第2波長の光の強度との比である。第2強度比は、検査対象物200に異物が付着していない場合の、第1波長における光と第2波長における光との強度の比を示すことが望ましい。
【0052】
第2強度比は、例えば、ペリクル300中の異物が存在しない箇所から取得される。また、第2強度比は、例えば、ペリクル300とは異なるペリクルを構成するための部材を用いて取得される。ペリクル300とは異なるペリクルは、ペリクル300と同一の構成(例えば、材料、形状およびサイズ)を有するペリクルであることが好ましい。検査対象物200がペリクル膜310である場合、第2強度比はペリクル膜310以外のペリクル膜を用いて取得される。検査対象物200が支持体320である場合、第2強度比は支持体320以外の支持体を用いて取得される。第2強度比を決めるために、撮像画像を数十~数千枚用いて、複数の強度比が取得されてもよい。この場合、該複数の強度比を用いた統計処理(例えば、平均値、中央値、最頻値)によって第2強度比が決められてもよい。
【0053】
次に、検査部43は、ステップS5で取得した第1強度比と、ステップS6で取得した第2強度比との差異に基づいて、検査対象物200を検査する(ステップS7)。
【0054】
図5は、スペクトルデータを例示するグラフである。
図5のグラフにおいて、横軸は波長[nm]に対応し、縦軸は光の強度(スペクトル強度)に対応する。
図5には、第1強度比の取得に用いたスペクトルデータ(第1スペクトルデータ)が実線のグラフで、第2強度比の取得に用いたスペクトルデータ(第2スペクトルデータ)が一点鎖線のグラフで示されている。
【0055】
第1スペクトルデータにおいては、第1波長であるλ1=550nmにおける強度がL11で、第2波長であるλ2=700nmにおける強度がL21である。一方、第2スペクトルデータにおいては、第1波長であるλ1=550nmにおける強度がL12で、第2波長であるλ2=700nmにおける強度がL22である。λ1=550nmにおいては、光の強度の差異(つまり、L11-L12)が比較的大きいが、λ2=700nmにおいては、これらの光の強度の差異(つまり、L21-L22)は比較的小さい。第1スペクトルデータと第2スペクトルデータとの差異は、検査対象物200に含まれる異物に起因して現れたと考えられる。
【0056】
図6は、第1スペクトルデータと第2スペクトルデータとの各波長における光の強度の差異を視覚的に把握しやすくするため、
図5に示したスペクトルデータを相対強度によって表したグラフである。相対強度は、各波長において、第1スペクトルデータの値および第2スペクトルデータの値をそれぞれ該第2スペクトルデータの値で除した値を示す。すなわち、第2スペクトルデータの相対強度は、全波長において「1」である。第1スペクトルデータの相対強度は、少なくとも一部の波長域、
図6ではおよそ500nmから700nmの波長域で「1」から乖離する。また、相対強度が「1」から大きく乖離している場合ほど異物が撮像された可能性が高い、と推測することができる。
【0057】
検査部43は、第1強度比(L11/L21)と第2強度比(L12/L22)とを比較し、これらの差異(L11/L21―L12/L22)が閾値以上である場合に、特定した画素に異常があると判定する。一方、検査部43は、第1強度比(L11/L21)と第2強度比(L12/L22)との差異(L11/L21―L12/L22)が閾値未満である場合には、異常がないと判定する。ここにおいて、異常がある画素は、異物が撮像された可能性のある画素である。閾値は、例えば、第2強度比の取得に用いられた複数の強度比のばらつきの大きさに基づいて、検査の前に決められている。閾値は、異常がないと判定される第1強度比と第2強度比との差異の許容範囲を規定する。
【0058】
検査精度を向上する観点からは、検査部43は、第1波長および第2波長の一方、または両方を変更することにより、複数の第1強度比および複数の第2強度比に基づいて、画素の異常の有無を判断することが望ましい。すなわち、検査部43は、3つ以上の波長の光の強度から得た強度比に基づいて検査対象物200の検査を行ってもよい。検査部43は、選択した3つ以上の波長(例えば、λ1、λ2、λ3、λ4)のうちから2つの波長(例えば、λ1、λ2)を選択し、ステップS4~S8で説明した処理により、異常の有無を判定する。次に、検査部43は、選択する波長の組み合わせを変更して(例えば、λ1、λ3)、異物の有無を判定する。λ1=400nm、λ2=450nm、λ3=600nm、λ4=650nmであるが、この例に限られない。そして、検査部43は、いずれかの波長の組み合わせで第1強度比と第2強度比との差異が閾値以上となった場合、または閾値以上の数の組み合わせについて第1強度比と第2強度比との差異が閾値以上となった場合に、特定した画素について異常があると判定してもよい。検査に用いられる波長の数は、異物の検出精度を向上させる観点から、5波長以上が好ましく、10波長以上がより好ましい。この場合において、検査部43は、複数の波長の各波長を少なくとも1度は用いて第1強度比および第2強度比を取得し、異物の有無を判定することが望ましい。
【0059】
なお、検査部43は、検査に用いる波長を、検出すべき異物の種類に応じて決めてもよい。検査部43は、使用者により異物の種類が指定されると、その異物の種類に応じた波長を選択して、検査を行う。
【0060】
検査部43が光の強度同士を比較するのではなく、強度比同士を比較する理由は、各波長の光の強度がペリクル膜310の膜厚など、検査対象物200の構成によって変化し得るためである。すなわち、単に各波長の光の強度を比較しただけでは、検査対象物200に含まれる異物の有無を精度良く判断することが困難だからである。
【0061】
検査部43は、特定した画素について異常の有無を判定すると、その判定の結果をメモリに記憶させる。この際、検査部43は、特定した画素の情報(例えば、座標)と対応付けて、異常の有無の情報を記憶させておく。以上が、ステップS7の検査に係る処理の説明である。
【0062】
次に、検査部43は、検査対象物200の検査を終了するかどうかを判定する(ステップS8)。検査部43は、例えば、全画素の検査が未だ完了していない場合、ステップS4の処理に戻す。次に、検査部43は、他の未検査の画素を特定して(ステップS4)、ステップS5からステップS8の処理を行う。なお、検査部43は、すべての画素を検査するのではなく、一部の画素のみを検査してもよい。検査部43は、例えば、所定数の画素について異常が存在すると判定した場合には、検査を終了させてもよい。
【0063】
検査部43は、検査を終了すると判定した場合(ステップS8;YES)、ステップS9の処理に進める。
【0064】
検査が終了すると、検査部43は、検査結果に応じたデータを出力する(ステップS9)。検査結果に応じたデータは、例えば、異物の有無を特定するデータを含む。検査部43は、以下の方法で、異物の有無を検査してもよい。
【0065】
図7は、異物の検出方法の一例を説明する図である。
図7に示す撮像画像において、異常がないと判定された画素を白で、異常があると判定された画素を黒で塗りつぶして表す。検査部43は、異常があると判定した画素が連なる領域Tのサイズに基づいて、異物の有無を判定してもよい。検査部43は、例えば、領域Tを構成する画素数または領域Tの外接矩形の面積が閾値以上である場合に、異物が存在すると判定する。検出される異物のサイズは、例えば、1μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上15μm以下がより好ましい。このサイズに応じて領域Tのサイズと比較される閾値が決められていてもよい。また、検査部43は、異常があると判定した画素が連なる領域の数が閾値以上である場合に、異物が存在すると判定してもよい。この閾値は、許容する異物の数に応じて決められてもよい。検査部43は、領域Tの形状に基づいて異物の有無を判定してもよい。
【0066】
検査結果に応じたデータは、異物の存在する位置を特定するデータを含んでもよい。検査部43は、撮像画像における画素の位置と検査対象物200における位置との関係に基づいて、異物の存在する位置を特定する。
【0067】
検査結果に応じたデータは、異物の種類を含んでもよい。例えば、第1強度比と第2強度比との差異が大きい場合に、使用した光の波長に基づいて異物の種類を特定(推定)できる可能性があるからである。
【0068】
検査結果に応じたデータは、撮像装置30の撮像画像を含んでもよい。この撮像画像に含まれる異常と判定された画素については、その画素を指し示す画像(例えば、丸囲みの画像、矢印画像)が含まれてもよい。
【0069】
検査部43の検査結果に応じたデータの出力方法、および出力先は、問わない。該出力方法は、送信、印刷、表示またはその他の方法である。
【0070】
以上説明した実施形態によれば、検査装置1は、複数の波長の光の強度を画素ごとに含む撮像画像に基づいて、検査対象物200を検査する。これにより、検査対象物の表面の凹凸の程度によらず異物を検出できることを発明者らは確認した。
【0071】
検査対象物の表面粗さと異物の大きさとが近い関係にある場合、従来の光散乱による方法では、その異物の存在を検出することが困難である。これに対し、検査装置1が行う検査方法によると、検査対象物の表面粗さと異物の大きさとが近い関係にある場合でも、該異物を検出することができる。好ましくは、検査対象物の表面粗さRaは、算術平均粗さとも呼ばれ、0.3nm以上100μm以下、好ましくは0.5nm以上50μm以下、より好ましくは1nm以上20μm以下である。なお、表面粗さRaの測定方法は、検査対象物の表面粗さRaに応じて、公知の表面粗さRaの測定方法から適した方法を選択すればよい。例えば、表面粗さRaが1μm未満の部材については原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて1μm以上50μm以下の走査範囲で測定することができる。例えば、表面粗さRaが10nm以上の部材については触針式プロファイリングシステムを用いて50μm以上1mm以下の走査範囲で測定することができる。なお、表面粗さRaは、JIS B0601(対応ISO4287)にて定義される。表面粗さRaの測定方法は、表面粗さRaの程度のほかに、部材の軟らかさに応じて適切な方法が選択されればよい。
【0072】
検査対象物の表面粗さと異物の大きさとの関係として、好ましくは、検査対象物の表面粗さRaが0.3nm以上100μm以下かつ検出する異物の大きさが1μm以上100μm以下である。より好ましくは、検査対象物の表面粗さRaが0.5nm以上50μm以下かつ検出する異物の大きさが3μm以上15μm以下である。さらに好ましくは、検査対象物の表面粗さRaが1nm以上20μm以下かつ検出する異物の大きさが3μm以上15μm以下である。
【0073】
また、検査装置1は、検査時において、撮像装置30を固定し、台10を移動させて、検査対象物200のうちの撮像される領域を調整する。撮像装置30を固定して台10を移動させる理由は、撮像装置30を移動させた場合、埃を含む異物が検査対象物200に付着する可能性が高まるためである。すなわち、検査部530は、台10が複数の異なる位置にあるときにそれぞれ撮像された撮像画像に基づいて検査を行うが、撮像装置30の移動に起因する異物の影響が軽減される。
【0074】
[ペリクルの製造方法]
次に、上記検査方法を用いたペリクルの製造方法の一例を説明する。
【0075】
図8は、ペリクル300の製造方法の一例を示すフローチャートである。検査装置1は、ペリクル膜310と支持体320とが接続される前において、検査対象物200の検査を行う(ステップS20)。ステップS20の検査は、
図4を用いて説明した処理により行われる。検査対象物200の検査により異物が存在しないこと、または許容範囲内であることが確認された場合、ペリクル膜310と支持体320とが接続される(ステップS30)。例えば、検査対象物200のうち、異物が存在しないこと、または許容範囲内であることが確認された部材と、そうではない部材とを仕分ける制御が行われてもよい。
【0076】
図9は、ペリクル300の製造方法の他の例を示すフローチャートである。まず、ペリクル膜310と支持体320とが接続される(ステップS40)。これにより、
図4のペリクル300が製造される。検査装置1は、ペリクル膜310と支持体320とが接続された後において、検査対象物200を検査する(ステップS50)。ステップS50の検査は、
図4を用いて説明した処理により行われる。さらに、検査対象物200のうち、異物が存在しないこと、または許容範囲内であることが確認されたペリクル300と、そうではないペリクル300とを仕分ける制御が行われてもよい。
【0077】
発明者らは、以下の<試験例>で説明する試験を行うことにより、スペクトル画像から異常の有無を検出できることを確認した。
【0078】
<試験例>
シリコン基板上に、5μmのポリスチレン粒子が付着した厚さ200nmのカーボンナノチューブ膜を成膜した。該カーボンナノチューブ膜の表面粗さを、原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製)で、30μm×30μmのエリアをDFM(Dynamic Force Mode)モードで測定したところ、表面粗さRaは40nmであった。なお、表面粗さは、ポリスチレン粒子が存在しない部分で測定した。
【0079】
次に、カーボンナノチューブ膜を台(ステージ)上に配置し、ハイパースペクトルカメラ(商品名「ハイパースペクトルカメラNH-7」、エバ・ジャパン社製)を搭載した顕微鏡で、反射光観察により表面を撮像した。この撮像により、波長400nmから800nmまでの波長領域において5nm間隔でスペクトルデータを取得した。
【0080】
異物が存在しない画素のスペクトルデータから得た強度比(第2強度比)と、他の画素の各波長の強度比(第1強度比)とを比較して、異物が存在するか否かを判断した。
【0081】
図10は、異物の検出結果を示す図である。
図10において、上段に比較として、波長600nmでの撮像画像を示す。
図10において、下段に各波長の強度比から異物を抽出した画像を示す。波長600nmの撮像画像中、丸で囲んだ箇所に異物が存在すると思われる。異物をマッピングした右側の画像における点状の画像は異物を示す。なお、
図10に示す波長600nmでの撮像画像では、コントラストを変更して、異物が存在すると思われる部分を視認しやすくしてある。
【0082】
図11は、異物を撮像した画素のスペクトルデータと、異物を撮像していない画素のスペクトルデータとを示すグラフである。
図11のグラフにおいて、横軸は波長[nm]に対応し、縦軸は相対強度に対応する。
図11のグラフにおいて、異物を撮像していない画素のスペクトルデータの値は、全波長において「1」である。一方、異物を撮像した画素のスペクトルデータの値は、少なくとも一部の波長、ここではおよそ450nmから650nmの波長領域おいて「1」から乖離している。
図11のグラフから分かるように、発明者らは、異物を撮像していない画素のスペクトルデータと、異物を撮像した画素のスペクトルデータとに異物の存在に起因する差異が存在することが確認できた。
【0083】
波長600nmの撮像画像において異物と思われたが、強度比によれば異物ではないと判定された部分について、電子顕微鏡観察を実施したところ、この部分はカーボンナノチューブの凝集物であり、異物ではないことが確認できた。なお、光散乱法によって試験しようとしても、光が乱反射してしまい、異物の有無を確認できなかった。
【0084】
本試験例によれば、微細な凹凸を有するカーボンナノチューブ膜において、5μmの異物の有無を検査することができた。また、本試験例により、ペリクル膜がカーボンナノチューブである場合に、カーボンナノチューブの凝集体を異物と誤認する可能性が低いことも確認できた。
【0085】
上述した検査装置1では、撮像装置30は、検査対象物200が反射した光に基づいて、検査対象物200を撮像した。これに代えて、撮像装置30は、検査対象物200を透過した光、または検査対象物200において散乱した光に基づいて検査対象物200を撮像して、検査対象物200を検査してもよい。
【0086】
上述した実施形態では、第2強度比は、検査対象物200以外の物品を撮像して得た撮像画像に基づいて取得していた。これに代えて、第2強度比は、検査対象物200を撮像した撮像画像に基づいて取得されてもよい。仮に、検査対象物200に異物が付着している場合でも、その付着した領域は、検査対象物200の全体の領域に対してごく一部であると考えられる。そこで、検査部43は、撮像画像の各画素から強度比を取得し、最も多くを占める強度比を第2強度比としてもよい。
【0087】
図4で説明した処理の順番は、一例に過ぎない。例えば、撮像装置30による検査対象物200の撮像と、情報処理装置40における検査とが並行して行われてもよい。また、上述した実施形態で説明した構成の一部が置き換えられ、または除外されてもよい。
【0088】
情報処理装置40が実現する機能は、複数のプログラムの組み合わせによって実現され、又は複数のハードウェア資源の連係によって実現され得る。情報処理装置40の機能がプログラムを用いて実現される場合、この機能を実現するためのプログラムが、各種の磁気記録媒体、光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供されてもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介して配信されてもよい。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施形態による検査方法、ペリクルの製造方法、および検査装置について説明した。しかし、これらは単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲はそれらには限定されない。実際、当業者であれば、特許請求の範囲において請求されている本発明の要旨を逸脱することなく、種々の変更が可能であろう。よって、それらの変更も当然に、本発明の技術的範囲に属すると解されるべきである。
【符号の説明】
【0090】
1:検査装置、10:台、20:照射装置、30:撮像装置、31:分光部、32:撮像部、40:情報処理装置、50:駆動装置、200:検査対象物、300:ペリクル、310:ペリクル膜、320:支持体、330:接着層、400:マスク、41:移動制御部、42:取得部、43:検査部