(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】衝撃迂回機構
(51)【国際特許分類】
A42B 3/06 20060101AFI20220421BHJP
A41D 13/01 20060101ALI20220421BHJP
A41D 13/015 20060101ALI20220421BHJP
A42B 3/04 20060101ALI20220421BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A42B3/06
A41D13/01
A41D13/015
A42B3/04
F16F7/00 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018148974
(22)【出願日】2018-08-08
(62)【分割の表示】P 2016240161の分割
【原出願日】2012-06-29
【審査請求日】2018-08-08
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-03
(32)【優先日】2011-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514003382
【氏名又は名称】サイモン フレーザー 大学
【氏名又は名称原語表記】SIMON FRASER UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】8888 University Drive, Innovation Office, Multi-Tenant Facility, Burnaby, British Columbia V5A 1S6 (CA)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ゴルナラジ, ファリッド
(72)【発明者】
【氏名】ワング, ジョフェング ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】エイブラハイミ, イーマン
(72)【発明者】
【氏名】イェリヴィッヒ, コンビッツ
【合議体】
【審判長】石井 孝明
【審判官】佐々木 正章
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6282724(US,B1)
【文献】特表2008-529747(JP,A)
【文献】特開平9-143814(JP,A)
【文献】特表2003-518203(JP,A)
【文献】国際公開第2013/000095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/06 3/04
A41D 13/01 13/015
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護用装具に結合可能な衝撃迂回機構(16)であって、前記衝撃迂回機構(16)は、
前記保護用装具の表面の一部に結合可能な下層(18)と、
上層(22)と、を備え、
前記上層(22)は前記上層の周囲と前記下層の周囲が連結する部分を介して前記下層(18)に対して隣接して配置され且つ機械的に接続され、
前記上層における連結していない部分は、前記上層の周囲と前記下層の周囲が連結する部分の内側において前記下層における連結していない部分とは連結していない状態にあり、
前記上層(22)は前記下層(18)から遠くに配置された衝撃面を有し、
前記上層(22)における前記連結していない部分および前記下層(18)における前記連結していない部分は互いに対してズレることができ、
前記上層(22)および前記下層(18)は前記保護用装具の前記表面の領域よりも小さく、
前記上層(22)の前記衝撃面上の衝撃点にかかる斜め衝撃力に反応して前記上層(22)における前記連結していない部分は前記下層(18)における前記連結していない部分および前記保護用装具の前記表面に対してズレるように構成されており、
前記衝撃迂回機構(16)は、前記保護用装具及び/又はその構成要素の前記表面の一部に結合可能であり、
前記上層(22)および前記下層(18)は可撓性があることから、前記衝撃迂回機構(16)は結合時に前記保護用装具の前記表面と適合するものであり、
前記下層(18)における前記連結していない部分に対する前記上層(22)における前記連結していない部分の前記ズレは、前記斜め衝撃力のベクトルの平行成分から生じる運動エネルギーを迂回および放散させ、これにより、前記保護用装具の回転加速度と直線加速度を低減する、衝撃迂回機構(16)。
【請求項2】
前記上層および前記下層の間には、潤滑材(20)が存在し、
前記潤滑材(20)は、自己潤滑性の前記上層と、自己潤滑性の前記下層と、前記上層および前記下層の間にある独立した潤滑材と、これらの組み合わせと、からなる群から選択される、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項3】
前記上層(22)上に前記斜め衝撃力がかかった結果として前記下層(18)における前記連結していない部分に対して横方向に前記上層(22)における前記連結していない部分がズレるように前記下層(18)および前記上層(22)が構成されている、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項4】
前記上層(22)および前記下層(18)は、弾性の材料からなる、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項5】
前記弾性の材料は、熱硬化性プラスチック、熱可塑性物質、または熱硬化性エラストマーからなる群より選択される、請求項4に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項6】
前記下層(18)は、異なる形状の複数の区画からなり、且つ、連続的または非連続的にランダムまたは均一なパターンに配置されている、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項7】
前記上層(22)および前記下層(18)は共に複合または積層材料を備えている、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項8】
前記上層(22)は埋め込まれた粒子によって強化されている、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項9】
前記上層(22)および前記下層(18)の少なくとも一方は、ダイラタントを含んでいる、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項10】
前記上層(22)及び下層(18)の少なくとも一方は、繊維材料を含む、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項11】
前記衝撃迂回機構(16)は、前記衝撃迂回機構(16)を前記保護用装具の表面に結合できるように構成された剥離紙付き粘着材又は機械的留め具を更に備える、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項12】
前記衝撃迂回機構(16)は、使用者の体の一部に着用するように構成された保護用装具に結合可能である、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項13】
前記保護用装具は、ヘルメット(10)である、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項14】
前記上層(22)または前記下層(18)の前記表面は、広告、ロゴ、商標、許可証ラベル、警告ラベル、シリアルナンバーを表示するように構成される、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項15】
前記上層(22)または前記下層(18)は、暗い条件での前記衝撃迂回機構の視認性を向上させるように構成された発光材料を更に含む、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項16】
前記下層(18)は、前記保護用装具の剛質シェル(12)の外表面に結合可能である、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項17】
前記上層(22)は、可塑化フォームでできている、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項18】
複数の衝撃迂回機構(16)が前記保護用装具に結合している、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項19】
前記上層は、前記下層と同じ構成及び材料特性を有する、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【請求項20】
前記保護用装具は、着脱可能な衣料品であり、衝撃、要因又は他の害から物体を保護する構成である、請求項1に記載の衝撃迂回機構(16)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は6月30日出願の米国仮出願第61/503,054号に基づく優先権を主張し、当該出願の開示内容全体が本願に援用されるものとする。
【0002】
発明の分野
本発明は衝撃迂回機構に関する。より具体的には、本発明は、保護用装具(例えば、ヘルメットまたはボディアーマー)に搭載した時に、事故、スポーツ、労災の怪我、転倒、および暴力に関連する怪我を防ぐように設計された機構に関する。
【0003】
背景
様々なヘルメット設計がある。それぞれ特定種類の活動に適している。一般的に、ヘルメット構造は、剛質のアウターシェル、衝撃吸収ライナー、フィットパディング、および留め具システムで構成されている。アウターシェルの役割は、ヘルメット内部へのあらゆる貫通を防ぐとともに、衝撃荷重をライナー全体に均一に分散することである。ライナーの機能は、衝撃のエネルギーを吸収することである。衝撃荷重を分散させると、ライナーのエネルギー吸収能力が増大する。衝撃が生じるとアウターシェルは瞬時に停止する。しかし、ヘルメット内部では、ライナーに当たるまで頭が動き続ける。ライナーの役割は、頭を「やさしく」停止させることである。換言すれば、ライナーの主要な役割は、装着者の頭の並進加速度の絶対値を低減することである。硬いライナー程、事故の最中に脳にかかる衝撃荷重が多くなり、より軟らかいライナー程、脳に伝わる衝撃が少なくなる。
【0004】
現在のヘルメットは、衝撃時の並進加速度を低減することに主要な焦点を置いている。しかし、回転加速度も怪我を引き起こすに足り得る。実は、回転加速度が頭の怪我の主要な原因であることが最近の研究で分かっている。並進加速度が頭の怪我の閾値を超えなくとも、回転加速度が怪我を引き起こす大きさに達し得ることが証明されている。従って、ヘルメット設計を改良して、並進加速度を低減するだけでなく、回転加速度も低減する必要がある。
【0005】
WO2010/151631A1は、インナーシェルとアウターシェルとの間に配置された中間層を介して、衝撃荷重の方向を問わず、アウターシェルがインナーシェルに対して回転可能である保護用ヘッドギアを記述している。中間層は、接線すなわち剪断方向に連続的に且つ非線形に変形する実質的に等方性の柔軟な材料で構成されている。この層が衝撃の際に変形することにより、インナーシェルがアウターシェルに対して回転して使用者の頭の回転加速度を低減することが可能になる。
【0006】
WO03005844A1は、衝撃が生じている間、使用者の頭の回転加速度を低減する機能を有する保護用ヘッドギアを開示している。この発明は、典型的なヘッドギアのシェルと、このヘッドギアシェルの外側面に重ねられた1枚のエラストマー外側膜(この1つの層は複合または積層材料を含み得る)とを備えている。この1枚のエラストマー外側膜は、独立気泡可塑化ポリ塩化ビニルと、ポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを備えている。さらに、シェルと外側膜との間に潤滑材が設けられていてもよい。障害物との衝撃の際に外側膜に摩擦力がかかり、このかかっている力によって外側膜はヘッドギアシェルに対して動く。潤滑材によってシェルと外側膜との間の摩擦は最小限に抑えられているので、ヘッドギアは衝撃面および膜に対して滑動する。この発明は、人間の頭皮が頭蓋骨に対して動くことによる保護を再現している。この外側膜は、頭蓋骨に固定されずに頭蓋骨に対して限られた距離だけ動けるように自由になっている頭皮を模倣して設計されている。この機構は、衝撃の際の衝撃力の接線成分の怪我発生効果を軽減し、装着者の頭の回転方向の(即ち、角度のついた)加速度を低減するものとして記載されている。
【0007】
WO09019667Aは、ヘルメットのキャップのコーティングであって、前記コーティングは、接着手段を用いて前記キャップに固定するように配置された第1面および前記第1面に対向する第2面を有する第1の弾力材層と、前記弾力材層の前記第2面に前記接着手段を用いて固定されるコーティング層とを備えたコーティングを紹介している。これによりヘルメットの安全保護能力が向上し、また、このコーティングは異なるサイズのヘルメットに容易に適合可能である。
【0008】
一般に、入手可能なヘルメットは、回転加速度に対する保護を全く提供しない。従って、ヘルメットなどほぼ全ての種類の安全装具のアウターシェル上に使用者や製造者が簡単に設置できる効果的な追加装着層としての衝撃迂回機構が必要とされている。
【0009】
要旨
ある局面において、事故(例えば、車、バイク、自転車など)、スポーツ活動(例えば、ホッケー、フットボール、スキー、リュージュ、クライミングなど)、労災の怪我、転倒、および暴力に関連する怪我を防ぐ衝撃迂回機構が提供される。
【0010】
別のある局面において、衝撃迂回機構が提供される。ある実施形態において、衝撃迂回機構は、
下層と、
前記下層に対して隣接して配置され且つ機械的に接続された上層であって、前記上層は前記下層から遠くに配置された衝撃面を有し、前記上層および前記下層は互いに対して動くことができ、前記衝撃面は平面状または非平面状である上層と、を備え、
前記上層および前記下層は、上層の衝撃面上の衝撃点に斜め衝撃力がかかった際に前記上層が前記下層に対してズレるように構成されており、
前記斜め衝撃力は、前記衝撃面上の前記衝撃点における平面上に投影される平行成分を有するベクトルであり、
前記平面は、非平面状衝撃面に対して接線方向であるか、あるいは、平面状衝撃面に一致し、
前記下層に対する前記上層の前記ズレは、前記斜め衝撃力の前記ベクトルの前記平行成分から生じる運動エネルギーを迂回および放散させ、これにより、回転加速度を低減する、衝撃迂回機構。
【0011】
別の局面において、斜め衝撃の際に回転加速度および直線加速度を共に軽減し、さらなる安全性を提供することができる衝撃迂回機構が提供される。
【0012】
別の局面において、互いに対して動くことができる少なくとも2つの層を備え、これにより、前記上層が一時的または永久的に変形または破断して、回転運動を低減する衝撃迂回機構が提供される。前記上層が前記下層に対して動くことができ且つ特定の箇所においてのみ前記下層に接続されている状態で、前記下層が保護用ギアのアウターシェルに完全に取り付けられる。
【0013】
別の局面において、1つの一体層として、あるいは、互いに接続されたまたは接続されていないランダムまたは均一なパターンに配置された異なる形状の複数の区画からなるカバーとして、任意の種類の頭および体用の保護用装具のアウターシェルを覆うことができる衝撃迂回機構が提供される。
【0014】
別の局面において、表面の全体を利用して回転加速度を低減するエッジレス設計を有する衝撃迂回機構が提供される。
【0015】
別の局面において、下層に衝撃迂回材料を使用することにより、衝撃荷重をより効率的に軽減し、これにより、装着者の頭または体の直線加速度を低減することができる衝撃迂回機構が提供される。
【0016】
別の局面において、2つの層の間に任意の種類の潤滑材を使用した衝撃迂回機構が提供される。前記潤滑材はハードシェルから分離させてあり、これにより、ハードシェルが長期使用で劣化するのを防いでいる。
【0017】
添付図面を参照しながら下記の特定の実施形態の説明を読むことによって、本開示内容の上記以外の局面および特徴が当業者には明らかになるであろう。
【0018】
衝撃迂回機構の用途は、保護用ヘッドギア(例えば、ヘルメット)およびボディアーマーのような個人用保護用装具に限定されない。本機構は、衝撃力を低減すること、特に回転加速度を低減することを目的とする任意の他の用途において使用可能である。非限定的な例として、本機構を組み込むことによって車両のバンパーを改良し得る。本設計の他の用途として、航空機のキャビン内部または車両の内部でこれを使用して、それにより、大きな加速または減速が生じる事故の際の怪我を低減する用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下の添付図面を参照しながら本願の実施形態を説明するが、これは例示に過ぎない。
【
図2】
図2は、本明細書に記載の実施形態による、衝撃迂回機構をヘルメットのアウターシェル上に搭載した状態の断面図を示す。
【
図3】
図3は、本明細書に記載の実施形態による、衝撃迂回機構のエッジを接合することにより互いに接合した上層および下層の断面図を示す。
【
図4】
図4は、本明細書に記載の実施形態による、衝撃迂回機構の下層の下側に折り込まれた余分なエッジを有する上層の断面図を示す。
【
図5】
図5は、本明細書に記載の実施形態による、衝撃迂回機構の下層の下側に折り込まれた余分なエッジを有する上層の断面図を示す。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、本明細書に記載の実施形態による、複数の小さなボールベアリングを有する衝撃迂回機構の上面図(
図6A)および断面図(
図6B)を示す。
【
図7】
図7は、本明細書に記載の実施形態による、余分なエッジを有する衝撃迂回機構の上層の上面図を示す。
【
図8】
図8は、本明細書に記載の実施形態による、
図7の上層の余分なエッジをその下側に収めるための余白を有する下層の上面図を示す。
【
図9】
図9は、開示された実施形態による、代表的な衝撃迂回機構に生じた衝撃に含まれる複数の力を示した図である。
【0020】
詳細な説明
ある局面において、衝撃迂回機構が提供される。ある実施形態において、衝撃迂回機構は、
下層と、
前記下層に対して隣接して配置され且つ機械的に接続された上層であって、前記上層は前記下層から遠くに配置された衝撃面を有し、前記上層および前記下層は互いに対して動くことができ、前記衝撃面は平面状または非平面状である上層と、を備え、
前記上層および前記下層は、上層の衝撃面上の衝撃点に斜め衝撃力がかかった際に前記上層が前記下層に対してズレるように構成されており、
前記斜め衝撃力は、前記衝撃面上の前記衝撃点における平面上に投影される平行成分を有するベクトルであり、
前記平面は、非平面状衝撃面に対して接線方向であるか、あるいは、平面状衝撃面に一致し、
前記下層に対する前記上層の前記ズレは、前記斜め衝撃力の前記ベクトルの前記平行成分から生じる運動エネルギーを迂回および放散させ、これにより、回転加速度を低減する、衝撃迂回機構である。
【0021】
図9は、開示される実施形態の基準系を示すものであり、斜め衝撃力ベクトルは斜めの角度で衝撃面に衝突する物体を表している。このベクトルは接線成分および法線成分を有する。衝撃面は図のように丸くなくてもよく、平坦であってもよい。
【0022】
図面を参照して、本明細書に記載の実施形態は、ヘルメット10または他の(例えば、装着者の頭や体を怪我から守るための)保護用装具に対して保護用追加装着物として任意に追加できる衝撃迂回機構16を含む。従来技術として公知の典型的なヘルメット10を
図1に示す。ヘルメット10に取り付けられた状態の機構16を
図2に示す。
【0023】
図示を分かり易く明瞭にするために、複数の図面にわたって同じ参照符号を使って対応または類似要素を示している。本明細書に記載の実施形態が理解できるように、細部を多く示している。これらの細部が無くても実施形態は実施可能である。他方、本明細書に記載の実施形態が解りにくくなることを避けるために、周知の方法、手順、構成要素については詳細に記載していない。本明細書の内容は、本明細書に記載の実施形態の範囲に限定して解釈されるものではない。
【0024】
機構16は、下層18の上に配置された上層22に機械的に接合された下層18を備えている。上層22は、機構が斜めの角度から衝撃を受けた時に回転加速度を低減することにより下層18を保護する。
【0025】
図示した代表的な実施形態において、下層18は、ヘルメット10のアウターシェル12に取り付けられる。本明細書に記載の機構が、ヘルメットのような物体に搭載されている時、あるいは、搭載されるように構成されている時、下層は物体に最も近い層であり、上層は物体から遠い層である。
【0026】
下層18は、
図2に示すように、接着剤または機械的留め具を用いて、アウターシェルの表面12に固定するか、しっかりと取り付けられる。下層18は、熱硬化性プラスチック(例えば、シリコーン)、従来の熱可塑性物質、ポリウレタンエラストマーのような熱硬化性エラストマー、天然又は合成ゴム、可塑化フォーム、あるいは、低密度または高密度ポリエチレンからなる。
【0027】
下層18は、単純層、複合層または複数のチャンバーを含む層であってもよい。チャンバーが含まれる場合、チャンバーは、保護用装具にかかる衝撃荷重による直線加速度を低減するd3oTMなどのようなダイラタント(ずり増粘)材料(せん断ひずみ率と共に粘度が増大する)を含む。特定の実施形態において、他の衝撃吸収材料または機構を用いて直線加速度をさらに低減する。
【0028】
潤滑材からなる中間層20は、上層22を動き易くする。
図5に示すある実施形態において、上層22aは、熱硬化性プラスチック(例えば、シリコーン)、従来の熱可塑性物質、ポリウレタンエラストマーのような熱硬化性エラストマー、天然又は合成ゴム、可塑化フォーム、あるいは、低密度または高密度ポリエチレンのような可撓性および伸縮性のある材料からなる単純層(即ち、複合化するためにポリマーに何かを足したりしていない)である。ある実施形態において、上層および下層は、熱硬化性プラスチック、従来の熱可塑性物質、または熱硬化性エラストマーのような弾性または非弾性の材料からなる。
【0029】
上層22は、上層22と下層18との間に配置される任意の中間層20の上に重なるように配置される。中間層20について、特定の実施形態においては中間層20は独立した1つの層であるが、特定の実施形態においては両層が互いに対して動き易くなるように上層および/または下層が自己潤滑性を有している。ある実施形態において、自己潤滑性の上層と、自己潤滑性の下層と、上層および下層の間にある独立した潤滑剤と、これらの組み合わせと、からなる群から選択される潤滑が上層および下層の間にある。
【0030】
中間層20は、上層22と下層18とを互いに対して動き易くすることができる潤滑材またはゲルである。潤滑材をハードシェル12から分離しているのは、ハードアウターシェル12が長期使用で劣化するかもしれないのを防ぐためであり、この実施形態は任意の種類のハードシェル12に使用可能である。
【0031】
中間層20を含まない実施形態においては、上層22および下層18は、当接していてもよいし、あるいは、機械的接続を維持したまま間隙を挟んで互いに分離されていてもよい。
【0032】
本明細書に記載の実施形態は、概して、機構16をヘルメット(例えば、
図2のヘルメット10)に使用することを述べているが、機構16は、1つの一体層として、あるいは、互いに接続されたまたは接続されていないランダムまたは均一なパターンに配置された異なる形状の複数の区画からなるカバーとして、任意の種類の保護用装具(例えば、個人用保護用装具)の外表面を覆うように使用してもよいことが当業者であれば理解できる。
【0033】
斜め衝撃の際に上層22が一時的または永久的に変形または破断して下層18に対して(例えば、横方向に)動くことにより回転加速度を低減するように機構16の各層が構成されている。従って、ある実施形態において、上層に斜め衝撃力がかかった結果として下層に対して実質的に横方向に上層がズレるように下層および上層が構成されている。本明細書においては、「実質的に横方向に」という用語は、
図9に示すように垂直方向よりも接線方向においてより大きい動きのことを指す。
【0034】
別の実施形態において、上層は衝撃を受けた際に破断または永久変形する。
【0035】
本明細書に記載の代表的な実施形態は、典型的には、物体(例えば、ヘルメット)を含み、この物体に衝撃迂回機構が搭載または取り付けられる。しかし、特定の実施形態において、衝撃迂回機構は物体には搭載されない。代わりに、保護を必要とする物体に取り付けられるように衝撃迂回機構が構成されていてもよい。ある実施形態において、下層が物体の表面に固定されるように構成されており、斜め衝撃力に曝された時に衝撃迂回機構が無かった場合の物体の回転加速度に比べて、斜め衝撃力に曝された時の物体の回転加速度を低減するように衝撃迂回機構が構成されている。
【0036】
さらに別の実施形態において、下層は、接着剤、共成形、機械的手段、剥離紙付き粘着材、または、他の任意の取り付け方法を用いて物体に取り付けられる。このような接着剤は当業者には周知である。
【0037】
ある実施形態において、下層は物体に取り付けられ、物体は保護用ギアまたはアーマーの外側層であり、取り付けは接着剤または機械的手段を用いて1つ以上の箇所で行われる。
【0038】
ある実施形態において、上層の外表面は、斜め衝撃力が生じた際により良い機械的グリップが得られるように、平滑面と、平坦面と、きめ細かい面と、からなる群から選択される面を有する。
【0039】
図3および
図4に示す特定の実施形態において、上層22は、可撓性および伸縮性のある材料からなる複数の小さな平円盤体28を含む強化層22b(例えば、ポリマーおよび添加物を含む複合層)である。強化層22bは以下の手順で作成される。まず、可撓性の薄い層を作成し、その後、この第1層上に複数の小さな平円盤体28を配置し、その後、可撓性材料からなる第2層を上に加える。硬化後、上層22bは、複数の小さな平円盤体28が層22bの中に(例えば、魚の鱗のように)分散した1つの一体層となる。上層の外表面には上層と衝撃領域との間のグリップが増大するようにテクスチャを採用しており、この結果、上下層の性能が向上する。
【0040】
別の実施形態において、上層22は比較的高い硬度を有する粒子を含んでいる(例えば、上層22中に複合物として埋め込まれている)。このような粒子は、衝撃荷重に対して層22を強化したり、および/または、潤滑材20および下層18上で上層22が滑動する能力を向上させる。他方、この粒子は互いに分離しており、弾性を有する上層22はその可撓性および伸縮性を維持することができるので、この粒子の存在によって層22の全体的な硬度が増大することはない。この種の層は、回転加速度を大幅に低減させ得るものであり、また、より弾力があるので、ごつごつした表面上でも機能する。
【0041】
ある実施形態において、上層に1つ以上の追加層が追加されており、追加層は、互いに自由に動くことができる1つ以上の潤滑層および強化層を含む。
【0042】
別のある局面において、
図6Aおよび
図6Bに示すように、複数の小さなボール32用のケース層30を備えた迂回機構が提供され、個々のボール32はケース30に入っていて自由に回転できるようになっている。この弾性を有する層は、中でボールが自由に回転できる小さな剛質のケースを有している。従って、本明細書に記載の他の設計のような潤滑層はない。また、ボールの回転を改善するためにケース内部に潤滑媒体を施してもよい。斜め衝撃の際、これらの小さなボール32がケース30内で回転することにより、ヘルメット10は回動せずに滑動し、それにより、回転加速度を低下させる。
【0043】
上層22は、
図3、
図4、
図5、
図7および
図8に示すように異なる方法で下層18に接合される。ここで
図3を参照して、小さな平円盤体28を備えた上層22bと下層18とを接合エッジ24によって互いに接合する(即ち、これら2層に接合用の突条と溝が設計されている)。
【0044】
ある実施形態において、上層は下層に対して周囲全体にわたって接合される。さらに別の実施形態において、これら2層は、両者の互いに隣接する表面の全体にわたって接続されてはおらず、隣接する表面の一部にわたって接続される。
【0045】
別の実施形態において、上層22は、
図4、
図5、
図7および
図8に示すように、外側に伸びて下層18の下側に折り込まれる延長エッジ26を備えている。延長エッジ26を用いれば、ヘルメット上の尖ったエッジを少なくして見た目を改善する「エッジレス」設計を作成することができる。エッジレス設計を用いれば、衝撃迂回機構16の周囲に衝撃がかかった場合でも機構が機能し、ヘルメット10は滑動できる。エッジレス設計と非機能的エッジのある設計との違いは、それを隠すためにヘルメットの実際の周囲エッジにアクセスできない状態で保護層をヘルメット上に設置しなければならない場合によく分かる。
【0046】
エッジレス設計は2つの層を用いるだけで作成できる。エッジレス設計を用いれば、衝撃迂回機構の周囲に衝撃がかかった場合でも機構が機能し、ヘルメットは滑動できる。1つの層だけを用いて、外側層の境界部をハードシェルに取り付けると非機能的エッジが生じ得る。外側層の非機能的エッジに当たった場合、エッジレス設計の場合ほど効果的には回転加速度が低減されないかもしれない。エッジレス設計と非機能的エッジのある設計との違いは、それを隠すためにヘルメットの実際の周囲エッジにアクセスできない状態で保護層をヘルメット上に設置しなければならない場合によく分かる。
【0047】
ここで
図7を参照して、本明細書に記載の実施形態による、複数の延長エッジ26を有する衝撃迂回機構16の上層22の上面図を示す。延長エッジ26はタブ形状であり、
図4および
図5に示すように下層18の張り出しエッジ(例えば、
図8の余白34)の下側に、または、機構16を搭載するヘルメット10のエッジの下側に折り込むことができる。
【0048】
ここで
図8を参照して、本明細書に記載の実施形態による、
図7の上層の延長エッジ26をその下側に重ねるための余白34を有する下層18の上面図を示す。
【0049】
さらに別の実施形態において、上下層は、接合境界が全く無い一体パーツである。
【0050】
機構16は、斜め衝撃の際の回転加速度を低減し、ヘルメット10の装着者にさらなる安全性を提供するだろう。衝撃迂回機構16に加えて、機構16の複数の層(または追加装着層)をずり増粘(ダイラタント)材料のような衝撃吸収材料から作成し、それにより、回転加速度から保護するだけでなく、装着者の頭および体にかかる直線加速度を軽減することも可能である。
【0051】
単一層保護機構と比べて、(潤滑材20によって分離された)上層22および下層18の両方を有する利点のいくつかは、以下の通りである。
【0052】
利用可能な表面積の全体を利用して回転加速度を低減するエッジレス設計(
図4、
図5、
図7および
図8)が可能となること、回転加速度をより低減できること、
特にヘルメットの一部領域のみを覆う追加装着物として機構16を簡単に設置できること、
潤滑材20をハードシェル12から分離することにより、長期使用によって起こり得るハードシェル12の劣化を防ぐとともに設置を容易にし、これにより、機構16が任意の種類のハードシェルに使用可能となること、および、
下層18に衝撃迂回材料を使用することにより、衝撃荷重をより効率的に軽減し、これにより、装着者の頭の直線加速度を低減できること。
【0053】
ある実施形態において、機構は上層と下層との間に間隙を含む。
【0054】
ある実施形態において、下層は物体に取り付けられ、この物体は、車両、航空機、または、斜め衝撃力に曝される他の物体である。
【0055】
ある実施形態において、下層は物体の内部に取り付けられる。
【0056】
ある実施形態において、物体は、飛行機、自動車、列車、または、斜め衝撃力に曝される他の乗り物の乗車空間である。
【0057】
ある実施形態において、上層の外表面に発光材料または発光装置を埋め込み、これにより、暗い条件下での視認性を向上させる。
【0058】
ある実施形態において、第1層すなわち上層の外表面は情報を表示するように構成されている。
【0059】
ある実施形態において、この情報は、広告、ロゴ、商標、許可証ラベル、警告ラベル、シリアルナンバーなどである。
【0060】
ある実施形態において、衝撃迂回機構は、斜め衝撃力に曝された時に衝撃迂回機構が無かった場合の物体の直線加速度に比べて、斜め衝撃力に曝された時の物体の直線加速度を低減する。
【0061】
ある実施形態において、上層は、下層だけでなく物体にも接合されるように構成されている。
【0062】
ある実施形態において、上記各層のいずれもが他の層の一部分となっている。
【0063】
ある実施形態において、上記各層のいずれもが他の層とは独立している。
【0064】
ある実施形態において、上層が下層に対してズレる性能を向上させる比較的高い硬度を有する粒子を上層が含んでいる。
【0065】
ある実施形態において、衝撃迂回機構は、上層に比べて下層の直線加速度を低減するように構成されている。
【0066】
ある実施形態において、下層は、単純層、複合層、または、複数のチャンバーを含む層である。
【0067】
ある実施形態において、上層または下層は積層構造を備えている。
【0068】
本発明の好適な実施形態を例示および説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく実施形態に様々な変更を加えることが可能であることは言うまでもない。