(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】蓄光樹脂組成物及び蓄光樹脂成型物
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20220421BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20220421BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20220421BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20220421BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220421BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220421BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20220421BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20220421BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/00 C
C09K11/02
C09K11/08 E
C08L101/00
C08K3/22
C08K5/01
C08L33/12
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2018164763
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】500045936
【氏名又は名称】日本管材センター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 彰三
(72)【発明者】
【氏名】関根 唯夫
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155087(JP,A)
【文献】特開2010-229216(JP,A)
【文献】特開2001-003046(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光体と着色剤と樹脂とを含有する蓄光樹脂組成物であって、
前記蓄光体は、MAl
14O
25:X(但し、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1つ以上の金属元素であり、Xは、Eu、Dy、Ce、Pr、Sm、Tb、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類金属元素である)で表される化合物であり、
前記着色剤は、ペリレンオレンジであり、
前記蓄光体の含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、27~40重量%である、蓄光樹脂組成物。
【請求項2】
前記ペリレンオレンジの含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、0.01~0.1重量%である、請求項1に記載の蓄光樹脂組成物。
【請求項3】
前記蓄光体の平均粒子径は、20~40μmである、請求項1又は2に記載の蓄光樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂は、ポリメタクリル酸メチル樹脂である、請求項1~3のいずれか一つに記載の蓄光樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂は、ポリカーボネート樹脂である、請求項1~3のいずれか一つに記載の蓄光樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一つに記載の蓄光樹脂組成物を用いて成型された、蓄光樹脂成型物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光樹脂組成物、及び、該蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光体は、可視光、紫外線等の光を吸収して蓄積し、さらに、該光を放出する性質を有する。このような蓄光体を含有する蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物は、光照射停止後、すなわち暗所でも発光することから、屋外で使用される道路標識、看板、広告、自動車部品等として幅広く用いられている。さらに、近年では、津波が発生した際、人々が安全な場所へ避難する際に利用される津波避難誘導標識としても、蓄光樹脂成型物が使用されている。当該用途においては、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値、すなわち、光照射停止後、720分後の燐光輝度が10mcd/m2以上を満たす蓄光樹脂成型物が求められている。
【0003】
従来、蓄光体と着色剤と樹脂とを含有する蓄光樹脂組成物が種々提案されている(例えば、特許文献1及び2)。前記蓄光体としては、一般的に、SrAl2O4:Eu、Dy等の成分を有するピーク波長520nmの黄緑色蓄光体、及び、Sr4Al14O25:Eu、Dy等の成分を有するピーク波長490nmの青緑色蓄光体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/194224号
【文献】特開2002-105448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、蓄光樹脂組成物中の着色剤の含有量が増加すると、該蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物の燐光輝度が低下することが知られている。そのため、従来の蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物は、一般的に、略白色に近い無彩色であった。このような蓄光樹脂成型物を屋外で使用すると、日中から薄暮、日没及び暗夜における視認性が劣るという問題があった。さらに、従来の蓄光樹脂成型物は、長期間にわたって屋外で使用すると変色するため、耐光性の点でも改良の余地があった。
【0006】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、かつ、視認性及び耐光性に優れた成型物を得ることができる蓄光樹脂組成物、及び、該蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蓄光樹脂組成物は、蓄光体と着色剤と樹脂とを含有し、前記蓄光体は、MAl14O25:X(但し、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1つ以上の金属元素であり、Xは、Eu、Dy、Ce、Pr、Sm、Tb、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類金属元素である)で表される化合物であり、前記着色剤は、ペリレンオレンジであり、前記蓄光体の含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、27~40重量%である。
【0008】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、さらに、従来の蓄光樹脂組成物に比べて燐光輝度が高い成型物を得ることができる。また、前記蓄光樹脂組成物は、前記着色剤としてペリレンオレンジを含有することにより、視認性及び耐光性に優れた成型物を得ることができる。
【0009】
本発明に係る蓄光樹脂組成物において、前記ペリレンオレンジの含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、0.01~0.1重量%であることが好ましい。
【0010】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、前記ペリレンオレンジと前記蓄光体とを混合した際、マンセル色相環において、5YR、10YR又は5Yの色相を示す。これにより、視認性に優れた成型物を得ることができる。
【0011】
本発明に係る蓄光樹脂組成物において、前記蓄光体の平均粒子径は、20~40μmであることが好ましい。
【0012】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、燐光輝度がより高い成型物を得ることができる。
【0013】
本発明に係る蓄光樹脂組成物において、前記樹脂は、ポリメタクリル酸メチル樹脂であることが好ましい。
【0014】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、耐光性により優れた成型物を得ることができる。
【0015】
本発明に係る蓄光樹脂組成物において、前記樹脂は、ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0016】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、耐衝撃性及び耐熱性に優れた成型物を得ることができる。
【0017】
本発明に係る蓄光樹脂成型物は、上述の蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物である。
【0018】
前記蓄光樹脂成型物は、斯かる構成により、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、さらに、従来の蓄光樹脂成型物に比べて燐光輝度を高くすることができる。また、前記蓄光樹脂成型物は、着色剤としてペリレンオレンジを含有する蓄光樹脂組成物を用いて成型されることにより、視認性及び耐光性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、かつ、視認性及び耐光性に優れた成型物を得ることができる蓄光樹脂組成物、及び、該蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る蓄光樹脂組成物について説明する。
【0021】
<蓄光樹脂組成物>
本実施形態に係る蓄光樹脂組成物は、蓄光体と着色剤と樹脂とを含有する。
【0022】
(蓄光体)
蓄光体とは、可視光、紫外線等の光を吸収して蓄積し、さらに、該光を放出する性質を有する成分である。前記蓄光体は、MAl14O25:X(但し、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1つ以上の金属元素であり、Xは、Eu、Dy、Ce、Pr、Sm、Tb、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選択される少なくとも1つ以上の希土類金属元素である)で表される化合物である。前記化合物としては、例えば、Sr4Al14O25:Eu、Sr4Al14O25:Eu、Dy等で表されるピーク波長が490nmの青緑色蓄光体等が挙げられる。これらの中でも、Sr4Al14O25:Eu、Dyであることが好ましい。なお、前記化合物は単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0023】
前記蓄光体の含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、27~40重量%である。また、前記含有量は、30重量%以上であることが好ましく、38重量%以下であることが好ましい。なお、前記蓄光体が二種以上含まれる場合、前記含有量は、前記蓄光体の合計含有量である。
【0024】
前記蓄光体の平均粒子径(D50)は、燐光輝度がより高い成型物を得る観点から、20~40μmであることが好ましい。また、前記平均粒子径は、25μm以上であることがより好ましく、35μm以下であることがより好ましい。前記平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法を用いて測定することができる。
【0025】
(着色剤)
前記着色剤は、ペリレンオレンジである。該ペリレンオレンジは、最大吸収波長が約525nmであり、最大励起波長が約571nmである。前記蓄光樹脂組成物は、前記着色剤としてペリレンオレンジを含有することにより、視認性及び耐光性に優れた成型物を得ることができる。また、従来の蓄光樹脂組成物に比べて燐光輝度が高い成型物を得ることができる。
【0026】
前記ペリレンオレンジの市販品としては、例えば、ルモゲンO-240(BASF社製)等が挙げられる。なお、前記着色剤は、その他の公知の着色剤を含んでいてもよい。
【0027】
前記ペリレンオレンジの含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、0.01~0.1重量%であることが好ましい。前記含有量が上述の範囲内であると、前記ペリレンオレンジと前記蓄光体とを混合した際、マンセル色相環において、5YR、10YR又は5Yの色相を示す。これにより、視認性をより向上させることができる。なお、前記含有量は、0.02重量%以上であることがより好ましく、0.08重量%以下であることがより好ましい。
【0028】
(樹脂)
前記樹脂は、ポリメタクリル酸メチル樹脂又はポリカーボネート樹脂であることが好ましい。前記樹脂がポリメタクリル酸メチル樹脂であると、耐光性により優れた成型物を得ることができる。また、前記樹脂がポリカーボネート樹脂であると、耐衝撃性及び耐熱性に優れた成型物を得ることができる。
【0029】
前記樹脂の含有量は、前記蓄光体及び前記樹脂の合計重量に対して、50~80重量%であることが好ましい。また、前記含有量は、55重量%以上であることがより好ましく、75重量%以下であることがより好ましい。
【0030】
前記蓄光樹脂組成物は、斯かる構成により、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、かつ、視認性及び耐光性に優れた成型物を得ることができる。
【0031】
本実施形態に係る蓄光樹脂組成物は、必要に応じて、その他の添加材を含んでいてもよい。前記その他の添加材としては、例えば、紫外線吸収剤、難燃剤、滴下防止剤、酸化防止剤、耐熱強化剤、架橋促進剤等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る蓄光樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、前記蓄光体、前記着色剤、前記樹脂、及び、必要に応じて前記その他の添加剤を混合し、溶融混練することにより製造することができる。
【0033】
<蓄光樹脂成型物>
本実施形態に係る蓄光樹脂成型物は、上述の蓄光樹脂組成物を用いて成型された蓄光樹脂成型物である。成型方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、射出成型法、押出成型法、金型を用いた成型法、積層成型法、シート成型法、プレス成型法等を用いて成型することができる。
【0034】
前記蓄光樹脂成型物は、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たし、さらに、従来の蓄光樹脂成型物に比べて燐光輝度を高くすることができる。また、前記蓄光樹脂成型物は、視認性及び耐光性を向上させることができる。
【0035】
本実施形態に係る蓄光樹脂成型物は、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たす蓄光樹脂成型物であるが、津波避難誘導標識の用途に限定されるものではなく、他の用途(例えば、道路標識、看板、広告、自動車部品等)にも用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(蓄光樹脂成型物の作製)
まず、表1に示す各成分を混合し、溶融混練することにより、各実施例及び比較例の蓄光樹脂組成物を調製した。次に、各実施例及び比較例の蓄光樹脂組成物を、金型を用いて成型することにより、各実施例及び比較例の蓄光樹脂成型物を得た。各蓄光樹脂成型物のサイズは、縦36mm×横50mm×厚さ3mmであった。
【0038】
表1及び2に示す各成分の詳細は以下の通りである。
P-282011:日亜化学社製、化学組成=Sr4Al14O25:Eu、Dy、発光色=青緑色、D50=25μm、ピーク波長=490nm
G-300M:根本特殊化学社製、化学組成=SrAl2O4:Eu、Dy、発光色=黄緑色、D50=30μm、ピーク波長=520nm
ルモゲンO-240:ペリレンオレンジ、BASF社製、ピーク波長=525nm
【0039】
(燐光輝度の測定)
燐光輝度の測定は、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)に準じて行った。なお、光照射は、キセノンランプ(L2175、浜松フォトニクス(株)製)を用いて、紫外線強度400μW/cm2で60分間行った。光照射停止後、720分後の燐光輝度を表1に示す。
【0040】
(視認性の評価)
視認性の評価は、マンセル色相環において、5YR、10YR又は5Yの色相を示す蓄光樹脂成型物を○、それ以外の色相を示す蓄光樹脂成型物を×とした。結果を表1に示す。
【0041】
(耐光性の評価)
まず、実施例1及び2、並びに、比較例1及び3の蓄光樹脂成型物を紫外線蛍光ランプ式耐光性試験装置(UVCON、Atlas社製)内に配置し、紫外線を300時間照射した。次に、紫外線を照射していない各蓄光樹脂成型物、及び、紫外線を照射した各蓄光樹脂成型物について、光照射停止後、60分後の燐光輝度を測定した。耐光性の評価は、紫外線照射後の燐光輝度の減少率が30%未満の蓄光樹脂成型物を○、30%以上の蓄光樹脂成型物を×とした。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1及び2の蓄光樹脂成型物は、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たす。さらに、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1の蓄光樹脂成型物は、ペリレンオレンジを含有しない比較例1の蓄光樹脂成型物に比べて、燐光輝度を高くすることができる。
【0044】
また、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1及び2の蓄光樹脂成型物は、ペリレンオレンジを含有するため、視認性及び耐光性に優れる。
【0045】
一方、比較例1の蓄光樹脂成型物は、ペリレンオレンジを含有しないため、視認性に劣る。また、比較例2及び4の蓄光樹脂成型物は、ペリレンオレンジ及び蓄光体としてMAl14O25:Xで表される化合物を含有しないため、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たさず、かつ、視認性に劣る。さらに、比較例3の蓄光樹脂成型物は、蓄光体の含有量が30重量%未満であるため、JIS Z 9097(津波避難誘導標識システム)で規定されるII類基準値を満たさず、かつ、耐光性に劣る。