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特許7061543Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法
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  • 特許-Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220421BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/495
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018174713
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020045522
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】加守 雄一
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6377230(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/155070(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C04B 35/495
G11B 7/24-7/2595
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnと、Nbと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含むMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットであって、
相対密度が90%以上であり、かつ、MnNb3.67の結晶相を含有するスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、NbとWとを合わせた割合が60原子%未満である請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記成分組成にさらにZnを含む請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、前記成分組成にさらに含む請求項1から3いずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の合計の含有率が、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%~70原子%である請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
マンガン含有粉末と、金属ニオブ粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する混合工程と、
前記混合工程の後、前記混合粉末を550kgf/cm以上の圧力を加えて700℃~900℃の温度で焼結する焼結工程と、を含む製造方法。
【請求項7】
前記マンガン含有粉末がマンガン酸化物粉末であり、前記タングステン含有粉末が金属タングステン粉末であり、前記銅含有粉末が金属銅粉末である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末が亜鉛酸化物粉末をさらに含む請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合粉末が、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末をさらに含む請求項6から8いずれかにに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、光情報記録媒体の記録層の形成に有用な、Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光情報記録媒体(光ディスク)の分野において、取り扱うデータの増大等に伴い、光ディスクの大容量化が求められている。光ディスクは、読み込み専用と記録型とに大別され、記録型はさらに追記型と書き換え型との2種類に細分される。追記型の記録層材料として、従来は有機色素材料が広く検討されてきたが、近年の大容量化に伴い、無機材料も広く検討されるようになっている。
【0003】
無機材料を用いた有用な記録方式として、分解温度の低い無機酸化物を含む記録層にレーザー光を照射することにより、記録層の物性が変化し、それに伴い光学定数が変化することを利用した記録方式がある。無機酸化物材料としては、パラジウム酸化物が実用化されている。しかし、Pdは貴金属であり材料コストが高いため、パラジウム酸化物に代わり安価な材料コストで実現できる記録層の開発が望まれている。
【0004】
安価な材料コストで十分良好な記録特性が得られるものとして、マンガン酸化物系材料からなる記録層が開発されている。例えば、特許文献1では、マンガン酸化物とW等の複数種の無機元素とを含む記録層、及びその記録層を形成するために用いるスパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/183277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、前述のマンガン酸化物とW等の複数の無機元素とからなる記録層を形成するためのスパッタリング法として、それぞれの元素からなる複数のスパッタリングターゲットを用いる多元スパッタ法と、複数の元素を含有する1枚の複合スパッタリングターゲットを用いる方法とがある。特許文献1では、多元スパッタ法が開示されているが、装置が大型化しコストアップ要因になる上、組成ずれが生じやすい欠点がある。そのため、1枚の複合スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングが好ましい。また、生産性の観点から、高周波スパッタリングよりも、直流(DC)スパッタリングを用いることが望ましい。
【0007】
しかし、マンガン酸化物とW等の複数の無機元素とからなる複合スパッタリングターゲット中には、WMnO等の絶縁粒が含まれやすい。DCスパッタリングでは、複合スパッタリングターゲットに直流電圧をかけるため、複合スパッタリングターゲット中の絶縁粒の影響により十分な導電性が得られない場合、異常放電(アーキング)が発生するおそれがある。この成膜中の異常放電により、記録層にダメージが与えられ、歩留まり低下の原因となる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、DCスパッタリングに供した際に、異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜を可能にするMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、Mnと、Nbと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含むMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットであって、相対密度が90%以上であり、かつ、MnNb3.67の結晶相を含有するスパッタリングターゲットを提供する。
【0010】
前記成分組成は、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、NbとWとを合わせた割合が60原子%未満であってもよい。
【0011】
前記スパッタリングターゲットは、前記成分組成にさらにZnを含んでもよい。
【0012】
前記スパッタリングターゲットは、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、前記成分組成にさらに含んでもよい。
【0013】
前記Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の合計の含有率は、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%~70原子%であってもよい。
【0014】
また本発明は、前記Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットの製造方法であって、マンガン含有粉末と、金属ニオブ粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する混合工程と、前記混合工程の後、前記混合粉末を550kgf/cm以上の圧力を加えて700℃~900℃の温度で焼結する焼結工程と、を含む製造方法を提供する。
【0015】
前記マンガン含有粉末がマンガン酸化物粉末であり、前記タングステン含有粉末が金属タングステン粉末であり、前記銅含有粉末が金属銅粉末であってもよい。
【0016】
前記混合粉末は、亜鉛酸化物粉末をさらに含んでもよい。
【0017】
前記混合粉末は、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、DCスパッタリングに供した際に、異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜を可能にするMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1及び比較例1に係るスパッタリングターゲットのX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について詳しく説明する。
【0021】
[Mn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット]
本実施形態に係るMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」という。)は、Mnと、Nbと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含み、相対密度が90%以上であり、かつ、MnNb3.67の結晶相を含有する。
【0022】
本実施形態に係るターゲットによれば、DCスパッタリングに供した際に、異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜が可能になる。
【0023】
本実施形態に係るターゲットの成分比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Mnと、Nbと、Wと、Cuと、の合計100原子%に対して、Mnが5原子%~40原子%であり、Nbが10原子%~35原子%であり、Wが5原子%~30原子%であり、Cuが5原子%~30原子%であってもよい。
【0024】
本実施形態に係るターゲットは、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、NbとWとを合わせた割合が60原子%未満であることが好ましく、55原子%未満であってもよく、50原子%未満であってもよい。Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、NbとWとを合わせた割合が60原子%以上であるよりも60原子%未満であるほうが、容易に相対密度を90%以上に調整することができる傾向にある。下限については特に制限はないが、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、NbとWとを合わせた割合が、20原子%以上であることが好ましい。
【0025】
本実施形態に係るターゲットは、成分組成にZnを含んでもよい。成分比については、特に制限なく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、Znが1原子%~35原子%であってもよい。
【0026】
本実施形態に係るターゲットは、必要に応じて、その他の成分組成を含んでいてもよい。他の元素を適宜含有させることで、例えば、情報記録媒体の記録層形成のためにターゲットを用いる場合、記録層の透過率、反射率、及び記録感度を調整することができる。他の元素としては、例えば、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。
【0027】
上記Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する場合、その合計の含有率は、例えば、ターゲットの構成元素のうち、O(酸素)を除いた構成元素の合計100%に対して、8原子%~70原子%とすることができる。
【0028】
また、本実施形態に係るターゲットは、MnNb3.67の結晶相を含んでいる。
【0029】
ターゲットに含まれる結晶相は、X線回折法により確認することができる。ターゲットのX線回折スペクトルの取得は、常法に従い行うことができる。例えば、株式会社リガク製のSmartLabを用いて、ターゲット表面をθ-2θスキャンして、スペクトルを取得すればよい。X線回折の測定条件はターゲットに応じて適宜定まり、例えば以下の条件の範囲内から選択することができる。
X線源:Cu-Kα線
出力設定:20kV~100kV、10mA~100mA
測角範囲:2θ=5°~80°
スキャン速度:1°~4°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:0.5°~2°
散乱スリット:0.5°~2°
受光スリット:0.1mm~0.5mm
【0030】
ターゲットの主な結晶相の回折ピークは、以下の範囲で検出される。
MnNb3.67の回折ピーク:41.7°±0.3°
MnNbの回折ピーク:29.8°±0.3°
Wの回折ピーク:40.26°±0.3°
MnOの回折ピーク:35.16°±0.3°、40.99°±0.3°、59.18°±0.3°
MnWOの回折ピーク:29.8°±0.3°、30.23°±0.3°
ZnOの回折ピーク:36.3°±0.3°
Cuの回折ピーク:43.47°±0.3°、50.67°±0.3°
【0031】
本実施形態に係るターゲットが高密度であることを示す指標として、本明細書では相対密度を用いることとする。ターゲットの相対密度は、90%以上であり、高いほど好ましい。
【0032】
なお、相対密度とは、ターゲットの原料粉が100%充填されたと仮定して計算した場合の仮想密度に対する、原料分を焼結した後の実測密度の割合である。相対密度を計算するために、まず、ターゲットの寸法測定及び重量測定を行い、実測密度を算出する。次に、以下の計算式を用いて相対密度を算出する。
相対密度(%)=(焼結体の実測密度/仮想密度)×100
【0033】
なお、本実施形態に係るターゲットの形状は何ら限定されることはなく、円盤状、円筒状、四角形板状、長方形板状、正方形板状等の任意の形状とすることができ、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。また、ターゲットの幅及び奥行きの大きさ(円形の場合には直径)についても、mmオーダー~mオーダー程度の範囲で、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、ターゲットが円形の場合、一般的には直径50mm~300mm程度である。厚みについても同様であるが、一般的には1mm~20mm程度である。
【0034】
また、ターゲットは、特に、光情報記録媒体の記録層の形成に有用であるが、用途は何ら限定されるものではない。
【0035】
[ターゲットの製造方法]
次に、本実施形態に係るターゲットの製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、混合工程と、焼結工程と、を含む。
【0036】
まず、混合工程にて、マンガン含有粉末と、金属ニオブ粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末とを含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する。
【0037】
マンガン含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、Mnの単体又は化合物からなる粉末等が挙げられる。中でも、マンガン酸化物が好ましい。マンガン酸化物としては、例えば、Mn、Mn、MnO、MnO、MnO、Mn等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記マンガン酸化物の中でも、焼結温度と融点との関係よりMnが好ましい。
マンガン含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、3μm~15μm程度とすることができる。
【0038】
金属ニオブ粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、5μm~106μm程度とすることができる。
【0039】
タングステン含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Wの単体からなる金属タングステン粉末等が挙げられる。
タングステン含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、1μm~10μm程度とすることができる。
【0040】
銅含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Cuの単体からなる金属銅粉末等が挙げられる。
銅含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、1μm~50μm程度とすることができる。
【0041】
上記混合粉末に、亜鉛酸化物粉末を含ませてもよい。亜鉛酸化物粉末としては、例えば、ZnOを用いることができる。
亜鉛酸化物粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、0.1μm~3μm程度とすることができる。
【0042】
また、製造するターゲットの所望の目的に応じて、上記マンガン含有粉末、金属ニオブ粉末、タングステン含有粉末、銅含有粉末、及び亜鉛酸化物粉末以外のその他の粉末を、混合粉末に含ませてもよい。その他の粉末としては、例えば、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Mo、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末が挙げられる。
【0043】
湿式混合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来公知のボールミル装置を用いた湿式混合方法等が挙げられる。
【0044】
湿式混合時間は、10時間以上とする。混合時間を10時間以上とすることにより、十分に混合粉末を混合することができる。特に、マンガン含有粉末としてマンガン酸化物を用いる場合、焼結中のマンガン酸化物の固相反応を促進して、焼結後の酸化マンガンの結晶相の残留を抑制することに繋がる。混合時間は、12時間以上とすることが好ましく、16時間以上とすることがより好ましく、20時間以上とすることがさらに好ましい。24時間混合すると、混合の効果は飽和する。
【0045】
次に焼結工程にて、混合粉末を550kgf/cm以上の圧力、700℃~900℃の温度で焼結する。なお、1kgf/cmは、98.1kPaに相当する。
焼結法としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不活性ガス雰囲気中でのホットプレス、熱間等方圧加圧法(HIP法;Hot Isostatic Pressing)等が挙げられる。
【0046】
焼結時に加える圧力については、550kgf/cm以上であればよく。600kgf/cm以上であることが好ましく、700kgf/cm以上であることがより好ましく、800kgf/cm以上であることがさらに好ましい。ターゲットの成分組成等の他の焼結条件にもよるが、焼結時の圧力を550kgf/cm未満とするとターゲットの相対密度を90%以上とすることが困難になる。
【0047】
焼結温度については、700℃~900℃であればよく、750℃~850℃であってもよい。
【0048】
焼結時間は特に限定されず、適宜選択することが可能であり、一般的に行われる1時間~6時間程度の焼結時間とすればよい。
【0049】
以上の工程を経て相対密度が90%以上、かつ、MnNb3.67の結晶相を含有するMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0050】
なお、本実施形態に係る製造方法は、上記混合工程及び焼結工程以外にも、他の工程を含んでもよい。他の工程としては、例えば、スパッタリングターゲットの形状を形成するために行われる、混合粉末の成形工程が挙げられる。
【実施例
【0051】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
[スパッタリングターゲットの製造方法]
<実施例1>
実施例1では、原料粉末として、以下の粉末を用意した。
Mn粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:10μm)
W粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:5μm)
Nb粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:10μm)
Cu粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:30μm)
各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=35:20:20:25(原子%)となるように、上記原料粉末を秤量した。秤量した各原料粉末並びに各原料粉末の合計重量の0.5倍のジルコニアボール(直径5mm)及び0.5倍のエタノールを、容器に入れ、ボールミル装置にて、湿式混合を20時間行った。混合した上記原料粉末を含んだスラリー溶液から、目開き2mmの篩を使用し、ジルコニアボールを分離した。スラリー溶液を加熱乾燥させ、目開き250μmの篩を用い解砕し、混合粉末を得た。次いで、上記混合粉末に対し、焼結温度800℃にて2時間、800kgf/cmの圧力を加えて、アルゴン雰囲気中でホットプレスを行い、スパッタリングターゲットを作製した。スパッタリングターゲットの形状は円盤状であり、サイズは直径50mmである。
【0053】
<実施例2>
実施例2では、実施例1で用いた原料粉末に加え、以下の原料粉末を用いた。
ZnO粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:2μm)
各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu:Zn=20:25:25:20:10(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0054】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=30:25:25:20(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0055】
<実施例4>
実施例4では、実施例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=25:25:30:20(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0056】
<実施例5>
実施例5では、実施例2と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu:Zn=20:25:30:15:10(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0057】
<実施例6>
実施例6では、実施例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が実施例1と同様になるように、原料粉末を秤量し、焼結温度を750℃とした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0058】
<実施例7>
実施例7では、実施例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が実施例1と同様になるように、原料粉末を秤量し、焼結時の圧力を600kgf/cmとした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0059】
<比較例1>
比較例1では、実施例1で用いたNb粉末の代わりに、以下の原料粉末を用いた。
Nb粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:2μm)
各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=35:20:20:25(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、焼結温度を1000℃とし、焼結時の圧力を500kgf/cmとした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、比較例1で用いた原料粉末に加え、以下の原料粉末を用いた。
ZnO粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:2μm)
各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu:Zn=20:25:25:20:10(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、比較例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0061】
<比較例3>
比較例3では、比較例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=20:30:30:20(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、比較例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0062】
<比較例4>
比較例4では、実施例1と同様の原料粉末を用いて、各含有金属の割合が、Mn:W:Nb:Cu=20:30:30:20(原子%)となるように、原料粉末を秤量し、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0063】
[評価]
上記の実施例1から7及び比較例1から4で作製したスパッタリングターゲットについて、結晶相に含まれるNb系複合酸化物の同定、相対密度測定、及び異常放電回数の測定を行った。各評価は、以下のように行った。得られた評価結果を表1に示した。
【0064】
<結晶相に含まれるNb系複合酸化物の同定>
X線回折法により、スパッタリングターゲットの結晶相に含まれるNb系複合酸化物の同定を行った。X線回折にあっては、株式会社リガク製のSmartLabを用いて、θ-2θスキャンし、X線回折スペクトルを得た。代表例として、実施例1及び比較例1に係るスパッタリングターゲットのX線回折スペクトルを図1に示す。試験条件は以下の通りである。
X線源:Cu-Kα線
出力設定:30kV、15mA
測角範囲:2θ=15°~70°
スキャン速度:2°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
【0065】
<相対密度>
上記の実施例1から7及び比較例1から4で作製したスパッタリングターゲットの相対密度を計算するため、スパッタリングターゲットの寸法測定及び重量測定を行い、実測密度を算出した。次に、以下の計算式を用いて相対密度を算出した。
相対密度(%)=(焼結体の実測密度/焼結体の仮想密度)×100
【0066】
<異常放電回数の測定>
上記の実施例1から7及び比較例1から4で作製したスパッタリングターゲットを、無酸素銅製のバッキングプレートにInはんだで接着した。これらスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、1×10-4Pa以下まで真空排気を行った後、ArガスとOガスとを導入し、装置内圧力を0.3Paとした。酸素の割合(O/Ar+O)は70%とした。DC電源にて電力5W/cmを印加して、30分間スパッタリングを行い、アーキングカウンターによりスパッタリング中の異常放電の回数を測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の結果から、MnNb3.67の結晶相を含有し、かつ、相対密度が90%以上であるMn-Nb-W-Cu-O系スパッタリングターゲットは、異常放電回数が抑制されることが確認された。
また、同じ原料粉末を用いて同じ焼結条件で作製された実施例1、3、4、及び比較例4を比較すると、Nb及びWの含有比が高いほど、相対密度が下がる傾向にあることが確認された。
さらに、焼結時の圧力以外は全て同じ条件により作製された実施例1及び7を比較すると、焼結時の圧力が高い方が、相対密度が高い傾向にあることが確認された。
図1