(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】状態判定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20220421BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20220421BHJP
G01J 3/46 20060101ALI20220421BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220421BHJP
【FI】
A61B5/01 350
A61B5/01 100
G01J5/48 C
G01J3/46 Z
G06T7/00 300F
G06T7/00 660A
(21)【出願番号】P 2018195765
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】ラムサル ビカス
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚人
(72)【発明者】
【氏名】八幡 真純
(72)【発明者】
【氏名】國近 京輔
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-047813(JP,A)
【文献】特開2011-067371(JP,A)
【文献】特開2018-149236(JP,A)
【文献】特表2014-524799(JP,A)
【文献】特開2016-038666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/01
G01J 5/48
G01J 3/46
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の状態を判定する状態判定システムであって、
特定の時間範囲において、複数の対象者それぞれについて、対象者を撮像した画像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段によって取得された画像から対象者それぞれの温度を特定する温度特定手段と、
判定基準の設定対象となる対象者の温度が特定された時点で、又は、判定の対象となる複数の対象者の温度が特定された時点で、前記温度特定手段によって特定され
ている複数の対象者の温度から、
特定の時間範囲における対象者の状態の判定に用いる判定基準を設定する判定基準設定手段と、
前記判定基準設定手段によって設定された判定基準に基づいて、前記温度特定手段によって特定された対象者の温度から当該対象者の状態を判定する判定手段と、
前記判定手段によって判定された対象者の状態に応じた出力を行う出力手段と、
を備える状態判定システム。
【請求項2】
前記画像取得手段は、画像上の位置が互いに対応付けられた対象者のサーモグラフィー画像及び可視光画像を取得し、
前記温度特定手段は、前記可視光画像から対象者の所定の部位の位置を特定し、特定した位置に基づいて前記サーモグラフィー画像から対象者の所定の部位の位置の温度を特定する、請求項1に記載の状態判定システム。
【請求項3】
前記判定基準設定手段は、対象者の過去の温度を示す情報を取得して、当該対象者の過去の温度から当該対象者についての判定基準を設定する請求項1又は2に記載の状態判定システム。
【請求項4】
前記判定基準設定手段は、判定に係る環境を示す情報を取得して、当該環境から判定基準を設定する請求項1~3の何れか一項に記載の状態判定システム。
【請求項5】
前記判定手段は、前記画像取得手段によって取得された画像から対象者の表情を特定し、特定した対象者の表情から当該対象者の状態を判定する請求項1~4の何れか一項に記載の状態判定システム。
【請求項6】
前記判定手段は、前記画像取得手段によって取得された画像から対象者の顔色を特定し、特定した対象者の顔色から当該対象者の状態を判定する請求項1~5の何れか一項に記載の状態判定システム。
【請求項7】
前記判定基準設定手段は、過去に判定された対象者の状態に応じた対象者に係る申告を示す情報を取得して、当該対象者に係る申告から当該対象者についての判定基準を設定する請求項1~6の何れか一項に記載の状態判定システム。
【請求項8】
前記判定手段は、対象者の状態として、対象者が健康であるか又は不健康であるかを判定し、
前記判定基準設定手段は、対象者に係る申告を示す情報として、対象者が健康であるか又は不健康であるかを申告する情報を取得すると共に、対象者が不健康であるとの判定に応じて対象者が健康であることを申告する情報を取得した場合、判定基準を対象者が健康であると判定されやすくするように設定し、又は、対象者が健康であるとの判定に応じて対象者が不健康であることを申告する情報を取得した場合、判定基準を対象者が不健康であると判定されやすくするように設定する請求項7に記載の状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の状態を判定する状態判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場では、当日の作業員の健康状態を確認して、体調不良と判定された場合には作業を許可しない等の措置を行うことが望ましい。特許文献1には、そのような目的に用いることができると考えられる装置が記載されている。当該装置は、建物への入場の際に対象者の温度を測定して測定された温度が閾値以下であるか否かを判定し、その判定に応じて入場を許可する。また、特許文献1には、対象者毎の通常時の温度を用いることも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象者の中には、通常時の温度が高い者もいれば、通常時の温度が低いものもいる。特許文献1に示されるように対象者毎の通常時の温度を用いることで、対象者毎の通常時の温度の相違を考慮した判定を行うことができる。しかしながら、単に対象者毎の通常時の温度を用いるだけでは、正確な判定が困難な場合がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、より正確に対象者の状態を判定することができる状態判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る状態判定システムは、対象者の状態を判定する状態判定システムであって、特定の時間範囲において、複数の対象者それぞれについて、対象者を撮像した画像を取得する画像取得手段と、画像取得手段によって取得された画像から対象者それぞれの温度を特定する温度特定手段と、判定基準の設定対象となる対象者の温度が特定された時点で、又は、判定の対象となる複数の対象者の温度が特定された時点で、温度特定手段によって特定されている複数の対象者の温度から、特定の時間範囲における対象者の状態の判定に用いる判定基準を設定する判定基準設定手段と、判定基準設定手段によって設定された判定基準に基づいて、温度特定手段によって特定された対象者の温度から当該対象者の状態を判定する判定手段と、判定手段によって判定された対象者の状態に応じた出力を行う出力手段と、を備える。
【0007】
本発明に係る状態判定システムでは、複数の対象者の温度から判定基準が設定されて、対象者の状態が判定される。従って、本発明に係る状態判定システムによれば、複数の対象者の温度に対して影響を及ぼし得る事象がある場合に、より正確に対象者の状態を判定することができる。
【0008】
画像取得手段は、画像上の位置が互いに対応付けられた対象者のサーモグラフィー画像及び可視光画像を取得し、温度特定手段は、可視光画像から対象者の所定の部位の位置を特定し、特定した位置に基づいてサーモグラフィー画像から対象者の所定の部位の位置の温度を特定する、こととしてもよい。この構成によれば、対象者の所定の部位についての温度を正確に特定することができ、その結果、正確に対象者の状態を判定することができる。
【0009】
判定基準設定手段は、対象者の過去の温度を示す情報を取得して、当該対象者の過去の温度から当該対象者についての判定基準を設定することとしてもよい。この構成によれば、対象者毎の判定基準を適切に設定することができ、その結果、正確に対象者の状態を判定することができる。
【0010】
判定基準設定手段は、判定に係る環境を示す情報を取得して、当該環境から判定基準を設定することとしてもよい。この構成によれば、環境に応じて対象者の状態を判定することができる。
【0011】
判定手段は、画像取得手段によって取得された画像から対象者の表情を特定し、特定した対象者の表情から当該対象者の状態を判定することとしてもよい。この構成によれば、対象者の表情に応じて対象者の状態を判定することができる。
【0012】
判定手段は、画像取得手段によって取得された画像から対象者の顔色を特定し、特定した対象者の顔色から当該対象者の状態を判定することとしてもよい。この構成によれば、対象者の顔色に応じて対象者の状態を判定することができる。
【0013】
判定基準設定手段は、過去に判定された対象者の状態に応じた対象者に係る申告を示す情報を取得して、当該対象者に係る申告から当該対象者についての判定基準を設定することとしてもよい。この構成によれば、対象者に応じて適切に対象者の状態を判定することができる。判定手段は、対象者の状態として、対象者が健康であるか又は不健康であるかを判定し、判定基準設定手段は、対象者に係る申告を示す情報として、対象者が健康であるか又は不健康であるかを申告する情報を取得すると共に、対象者が不健康であるとの判定に応じて対象者が健康であることを申告する情報を取得した場合、判定基準を対象者が健康であると判定されやすくするように設定し、又は、対象者が健康であるとの判定に応じて対象者が不健康であることを申告する情報を取得した場合、判定基準を対象者が不健康であると判定されやすくするように設定してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の対象者の温度に対して影響を及ぼし得る事象がある場合に、より正確に対象者の状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る状態判定システムの構成を示す図である。
【
図2】可視光画像、サーモグラフィー画像及び合成された画像の例である。
【
図3】可視光画像から特定される部位及び合成された画像における部位の例である。
【
図5】本発明の実施形態に係る状態判定システムで実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面と共に本発明に係る状態判定システムの実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に本実施形態に係る状態判定システム10を示す。状態判定システム10は、対象者の画像、具体的には対象者の顔画像から対象者の状態を判定するシステムである。例えば、状態判定システム10は建設現場の作業員の健康状態を判定する。当該判定は、作業当日に行われ、作業員の健康状態が作業を行うのに支障がないかどうか判定するものである。状態判定システム10によって健康である(体調がよい)と判定された作業員は、作業を行ってもよいとされる。状態判定システム10によって不健康である(体調が悪い)と判定された作業員は、建設現場の医師等によって更に詳細の健康状態が確認される。本実施形態では、状態の判定は複数の対象者に対して行われる。
【0018】
状態判定システム10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等のハードウェアを含むコンピュータであるサーバ装置によって構成されている。状態判定システム10の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。なお、状態判定システム10は、一つのコンピュータで実現されてもよいし、複数のコンピュータがネットワークにより互いに接続されて構成されるコンピュータシステムにより実現されていてもよい。
【0019】
図1に示すように状態判定システム10は、可視光カメラ21とサーモグラフィーカメラ22とに接続されており、それぞれのカメラ21,22によって撮像された画像を受信できるようになっている。カメラ21,22も、本発明に係る状態判定システムに含まれていてもよい。その場合、上記のサーバ装置とカメラ21,22とを含んで状態判定システムが構成される。
【0020】
可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、対象者の撮像を行う撮像装置である。可視光カメラ21は、可視光を利用して撮像を行う、いわゆる一般のカメラである。サーモグラフィーカメラ22は、赤外線を利用して撮像を行うカメラである。サーモグラフィーカメラ22の撮像によって得られるサーモグラフィー画像は、撮像された物体の温度を示したものである。具体的には、サーモグラフィー画像の各画素の画素値が、当該画素の部分の物体の温度を示している。
【0021】
可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、対象者の顔を撮像する。
図2(a)に可視光カメラ21によって撮像された可視光画像である対象者の顔画像(顔写真データ)の例を示す。
図2(b)にサーモグラフィーカメラ22によって撮像されたサーモグラフィー画像(サーモ写真データ)である対象者の顔画像の例を示す。
【0022】
可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、例えば、建設現場の入場口に設けられており、建設現場に入場する際の対象者の顔を撮像する。可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、対象者の操作等をトリガとして撮像を行ってもよいし、対象者が撮像されるべき位置に入ったことを検出して撮像を行ってもよい。可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、それぞれによって撮像される画像上の位置が互いに対応付けられるように配置等がなされる。例えば、可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22によって撮像される画像は同じサイズとされ、また、それぞれの画像上の同じ位置が同じ部分を撮像したものとされる。そのため、例えば、可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、ほぼ同一の位置に設けられ、ほぼ同一の撮像方向で同時に撮像を行う。なお、可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22の両方の機能を有する1つの装置を用いることとしてもよい。
【0023】
可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22は、撮像によって得られた対象者の画像のデータ、例えば、RGBデータを状態判定システム10に送信する。
【0024】
引き続いて、本実施形態に係る状態判定システム10の機能について説明する。
図1に示すように、状態判定システム10は、画像取得部11と、温度特定部12と、判定基準設定部13と、判定部14と、出力部15とを備えて構成される。
【0025】
画像取得部11は、複数の対象者それぞれについて、対象者を撮像した画像を取得する画像取得手段である。画像取得部11は、画像上の位置が互いに対応付けられた対象者のサーモグラフィー画像及び可視光画像を取得する。
【0026】
画像取得部11は、可視光カメラ21から可視光画像を受信して取得する。画像取得部11は、サーモグラフィーカメラ22からサーモグラフィー画像を受信して取得する。画像取得部11は、取得した可視光画像及びサーモグラフィー画像を温度特定部12に出力する。
【0027】
画像取得部11は、取得した可視光画像から写った対象者を特定してもよい。当該特定は従来の方法によって行うことができる。例えば、画像取得部11は、予め対象者毎の顔の特徴量を記憶しておき、取得した可視光画像から顔の特徴量を抽出して、記憶した特徴量と抽出した特徴量とを比較することで対象者の特定を行う。また、画像取得部11は、従来の方法と同様に顔認証を行い、顔認証をクリアした対象者のみに対して状態判定システム10における以降の処理を行うこととしてもよい。
【0028】
画像取得部11は、特定した対象者を示す情報(例えば、対象者の氏名等)を画像に対応付け、状態判定システム10における以降の処理を対象者毎に行わせる。なお、対象者の特定は、上記以外の方法で行われてもよい。例えば、画像の取得とあわせて対象者を特定する情報を入力してもよい。
【0029】
温度特定部12は、画像取得部11によって取得された画像から対象者それぞれの温度(体温)を特定(検出)する温度特定手段である。温度特定部12は、可視光画像から対象者の所定の部位の位置を特定し、特定した位置に基づいてサーモグラフィー画像から対象者の所定の部位の位置の温度を特定してもよい。
【0030】
温度特定部12は、画像取得部11から、対象者毎の可視光画像及びサーモグラフィー画像を入力する。温度特定部12は、入力した可視光画像とサーモグラフィー画像とを、それぞれの画像に写った対象者が同じ位置になるように重ね合わせて合成する。
図2(c)に合成された画像の例を示す。温度特定部12は、入力した可視光画像から、対象者の顔を検出して、特徴点となる部位の位置を特定(認識、検出)する。特定対象となる部位は、予め設定されており、例えば、額、目、耳、頬、鼻、口及び喉(首)等である。顔画像からの部位の位置の特定は、従来の技術(例えば、Bikash Lamsal et al.,Effects of the Unscented Kalman Filter Process for High Performance Face Detector, International Journal of Information and Electronics Engineering,Vol.5,No.6,pp.454-459,2015、又はBikash Lamsal et al.,Proposing a Novel Three Triangles Geometrical Approach for Face Detection on Occluded Facial Features,Journal of the Institute of Industrial Applications Engineers,Vol.4,No.4,pp.192-198,2016に示された方法)によって行うことができる。
図3(a)に特定された部分を示す可視光画像を示す。また、
図3(b)に特定された部分を示す合成された画像を示す。
【0031】
温度特定部12は、合成された画像のうちサーモグラフィー画像のデータから、特定した各部位の位置の温度を特定(抽出)する。特定した各部位は一定の範囲を有しており、サーモグラフィー画像は当該範囲に複数の画素のデータを含む。例えば、額とされた部分には、一定の範囲を有している。温度特定部12は、部位毎にサーモグラフィー画像の画素のデータから、温度の平準値(各部位の体温)及び最高値(各部位の最高体温)を算出する。温度の平準値は、例えば、各画素の画素値(色)によって示される温度の平均値とされる。各部位の最高体温は、体温の異常値として考慮されるべき値である。例えば、額の平準化の結果が36.8度であった場合でも、額の一部でも40度の温度であれば、健康上注意すべき温度である。
【0032】
また、温度特定部12は、各部位の温度の平準値から顔全体の温度(顔全体の平準体温)を算出する。例えば、各部位の温度の平準値の平均値を顔全体の温度としてもよい。あるいは、各部位の温度の平準値に部位毎に予め設定された係数を掛けて平準化した値を顔全体の温度としてもよい。温度特定部12は、対象者毎の温度を示す情報を判定基準設定部13及び判定部14に出力する。対象者毎の温度を示す情報としては、上述した部位毎の体温、部位毎の最高体温及び顔全体の体温の全てが用いられてもよいし、それらの一部が用いられてもよい。
【0033】
サーモグラフィー画像からでは、顔の特徴点を検出することが難しい。上述したように可視光画像から特徴点を検出してサーモグラフィー画像の顔の特徴点における温度を特定することで、正確な特徴点における対象者の温度を特定することができる。但し、可視光画像を用いた部位の位置の特定は、必ずしも行われる必要はなく、サーモグラフィー画像のみから対象者の温度が特定されてもよい。
【0034】
判定基準設定部13は、温度特定部12によって特定された複数の対象者の温度から、対象者の状態の判定に用いる判定基準を設定する判定基準設定手段である。状態判定システム10による状態判定は、後述するように、温度特定部12によって特定された温度に基づいて行われる。例えば、特定された温度が所定の範囲内に含まれていれば健康であり、特定された温度が所定の範囲内に含まれていなければ不健康であると判定される。所定の範囲は、例えば、基準値に基づく範囲(基準値に対して予め設定された上下の範囲)とされる。具体的には、基準値が36.0度であり上下が1.0度であるとすると、所定の範囲は35.0度~37.0度とされる。判定基準設定部13は、判定基準として上記の範囲を設定する。
【0035】
判定基準設定部13は、温度特定部12から対象者毎の温度を示す情報を入力する。判定基準設定部13において判定基準に設定に用いる温度は、その日に判定される対象者のその日の温度である。判定基準設定部13は、基準値と対象者毎の温度との差(対象者の温度-基準値の値)を算出する。判定基準設定部13は、各対象者について算出した差分について対象者間で平均する。判定基準設定部13は、算出した差分の平均値を用いて基準値を補正する。例えば、判定基準設定部13は、算出した差分の平均値を基準値に加えて補正後の基準値とする。判定基準設定部13は、補正した基準値に基づく範囲を判定基準とする。
【0036】
複数の対象者の温度から判定基準を設定することで、例えば、判定を行う前に複数の対象者の温度を変動させる事象がある場合に適切に判定を行うことができる。例えば、複数の対象者が、車内の温度が比較的高い電車又は車等の車両で建設現場に移動した場合、その影響によって複数の対象者の温度が共通して上がっていることが考えられる。そのような場合であっても、それに応じて判定基準を適切なものとすることができ適切に判定を行うことができる。そのような趣旨から、判定基準の設定に用いる複数の対象者の温度は、特定の時間範囲(例えば、同日)における温度としてもよい。
【0037】
判定基準設定部13は、判定基準の設定対象となる対象者の温度が温度特定部12によって特定された時点でその日に特定されている複数の対象者の温度を用いて判定基準を設定してもよい。あるいは、判定基準設定部13は、その日の判定の対象となる一定の数の対象者(例えば、判定対象の全ての対象者)の温度が特定された時点でそれらの複数の対象者の温度を用いて判定基準を設定してもよい。
【0038】
判定基準設定部13は、対象者の過去の温度を示す情報を取得して、当該対象者の過去の温度から当該対象者についての判定基準を設定してもよい。この場合、判定基準は、対象者毎に設定される。例えば、状態判定システム10は、前日迄の対象者毎の温度を記憶しておく。判定基準設定部13は、判定基準の設定対象となる対象者の過去の温度を読み出して取得する。判定基準設定部13は、当該過去の温度の平均値を上記の補正前の基準値とする。対象者の過去の温度を用いた判定基準の設定は、対象者毎の通常時の温度に応じた判定基準とするためのものである。
【0039】
なお、補正前の基準値は、必ずしも上記のように設定される必要はない。例えば、補正前の基準値は、予め設定された値であってもよい。また、予め設定された値は、対象者毎の値であってもよいし、対象者の区別なく一律の値であってもよい。
【0040】
判定基準設定部13は、判定に係る環境を示す情報を取得して、当該環境から判定基準を設定してもよい。例えば、判定基準設定部13は、判定を行う時点及び場所での気温、天候、時刻及び季節等の情報を入力して、それらに応じて基準値を補正してもよい。判定基準設定部13は、気温、天候、時刻及び季節等に応じた補正値を予め記憶しておき、入力した情報に応じた補正値で基準値を補正する。環境を示す情報は、状態判定システム10に接続されたセンサ(温度センサ等)又は外部の情報源(天気予報の情報を提供するサーバ等)等から入力される。これは、環境要素による体温変化を考慮したものである。
【0041】
判定基準設定部13は、過去に判定された対象者の状態に応じた対象者に係る申告を示す情報を取得して、当該対象者に係る申告から当該対象者についての判定基準を設定してもよい。この設定については、後述する。
【0042】
判定基準設定部13は、温度の種別(部位毎の体温、部位毎の最高体温及び顔全体の体温の別)及び部位毎に判定基準を設定する。判定基準設定部13は、設定した判定基準を示す情報を判定部14に出力する。
【0043】
判定部14は、判定基準設定部13によって設定された判定基準に基づいて、温度特定部12によって特定された対象者の温度から当該対象者の状態を判定する判定手段である。判定部14は、温度特定部12から対象者毎の温度を示す情報を入力する。判定部14は、判定基準設定部13から判定基準を示す情報を入力する。
【0044】
判定部14は、対象者の温度が判定基準である温度の範囲に含まれているか否かを判断して対象者の状態を判定する。上述したように判定部14は、対象者の温度が判定基準の範囲に含まれていれば健康であり、対象者の温度が判定基準の範囲に含まれていなければ不健康であると判定する。温度の種別が複数ある場合には、判定部14は、温度の種別毎に温度と範囲との比較を行い、それらの比較から総合的な対象者の状態の判定を行う。例えば、何れか一つの温度が判定基準から外れていたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。あるいは、予め設定された数の温度が判定基準から外れていたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。
【0045】
判定部14は、温度に基づく判定に加えて、画像取得部11によって取得された画像から対象者の表情を特定し、特定した対象者の表情から当該対象者の状態を判定してもよい。この場合、判定部14は、画像取得部11から対象者の可視光画像を入力する。判定部14は、対象者の可視光画像から対象者の表情を示す情報を抽出する。例えば、対象者の表情を示す情報としては、対象者の目に係る情報を抽出することができる。対象者の目の大きさは、対象者の疲れ具合等に応じたものになると考えられるためである。
【0046】
具体的には、判定部14は、可視光画像から対象者の顔全体、並びに目の黒目部分及び白目部分を認識して、それらの部分の大きさ(例えば、当該部分を構成する画素数)を特定する。判定部14は、顔全体の大きさに対する黒目部分の大きさの割合、及び顔全体の大きさに対する白目部分の大きさの割合を算出する。判定部14は、これらの割合が予め設定された範囲に含まれているか否かを判断して対象者の状態を判定する。当該範囲は、予め設定される。また、当該範囲は、上述した温度と同様に過去の対象者のデータ等から、対象者毎に設定されてもよい。
【0047】
判定部14は、黒目の割合及び白目の割合それぞれについて、割合が上記の範囲に含まれていれば健康であり、対象者の温度が判定基準の範囲に含まれていなければ不健康であると判定する。判定部14は、温度に基づく判定と表情に基づく判定とに基づいて、総合的な対象者の状態の判定を行う。例えば、温度に基づく判定と表情に基づく判定との何れかで不健康と判定されたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。あるいは、各種の温度及び表情の各種のパラメータ(例えば、黒目の割合と白目の割合)での判定において予め設定された数、不健康と判定されたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。
【0048】
なお、上記の例では、対象者の表情は、顔全体に対する目の大きさとしたが、それ以外の表情(例えば、唇の形状)を特定して判定に用いてもよい。
【0049】
判定部14は、温度に基づく判定に加えて、画像取得部11によって取得された画像から対象者の顔色(皮膚色)を特定し、特定した対象者の顔色から当該対象者の状態を判定してもよい。この場合、判定部14は、画像取得部11から対象者の可視光画像を入力する。判定部14は、対象者の可視光画像から対象者の顔色を示す情報を抽出する。
【0050】
具体的には、判定部14は、可視光画像から対象者の部位毎の顔色を数値化する。部位毎の顔色の数値化は、例えば、渡邊汐、影山芳之,「顔画像解析による色情報とストレスとの関連性について」,東海大学紀要工学部,Vol.57,No1,2017,pp51-57に記載された方法で行うことができる。この方法では、
図4に示すようにL*、a*及びb*の三次元の値で各部分を表現することができる。
【0051】
L*は、明度(明るい、暗い)を表し、色味の情報を持たない。L*=0は全く光が反射(又は透過)しない、光を完全に吸収する物体の明度を表す。L*=100は完全拡散反射の白(白いチョークはこれに近い白)の明度を表す。完全拡散反射とは光を入射すると全ての方向に同じ輝度で反射し、反射率が1.0の反射を指す。a*は緑から赤にかけての色味の強さを表す。0は緑でもなく赤でもない色味で、-(マイナス)の値は緑味を、+(プラス)は赤味の色を表す。それぞれ絶対値が大きくなるほど色味が強くなることを意味する。b*は青から黄にかけての色味の強さを表す。0は青でもなく黄でもない色味で、-(マイナス)の値は青味を、+(プラス)は黄味の強さを表す。それぞれ絶対値が大きくなるほど色味が強くなることを意味する。これら3つの値はそれぞれ独立したインデックスになっているので、それぞれを3つの直交する座標軸にとって3次元の直交座標系で表現される。これをL*a*b*色空間と呼ぶ。
【0052】
判定部14は、対象者の顔の、判定に用いる部位及び数値の種別毎の数値を抽出する。数値を抽出する部位及び種別は、例えば、頬についてのa*(体温の上昇に対応する)、目の下についてのb*(目の下にくまがあるか否かに対応する)及び唇についてのL*及びb*(血流(ヘモグロビン)量に対応する)等とすることができる。これらの部位の色は、対象者の体調等に応じたものになると考えられる。
【0053】
判定部14は、これらの数値が予め設定された範囲に含まれているか否かを判断して対象者の状態を判定する。当該範囲は、予め設定される。また、当該範囲は、上述した温度と同様に過去の対象者のデータ等から、対象者毎に設定されてもよい。
【0054】
判定部14は、各部位の数値それぞれについて、数値が上記の範囲に含まれていれば健康であり、対象者の温度が判定基準の範囲に含まれていなければ不健康であると判定する。判定部14は、温度に基づく判定と表情に基づく判定とに基づいて、総合的な対象者の状態の判定を行う。例えば、温度に基づく判定と顔色に基づく判定との何れかで不健康と判定されたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。あるいは、各種の温度及び顔色の各種のパラメータ(例えば、各部位の色の数値)での判定において予め設定された数、不健康と判定されたら、判定部14は、対象者が不健康であると判定する。なお、上記の例以外の顔色を判定に用いてもよい。
【0055】
判定部14は、判定した対象者の状態を示す情報、例えば、対象者が健康であるか否かを示す情報を出力部15に出力する。なお、判定部14による判定は、必ずしも上記のように行われる必要はない。例えば、機械学習等の人工知能(AI)の手法を用いた判定が行われてもよい。
【0056】
出力部15は、判定部14によって判定された対象者の状態に応じた出力を行う出力手段である。出力部15は、判定部14から対象者の状態を示す情報を入力する。例えば、出力部15は、対象者(作業員)が判定結果を知ることができるように状態判定システム10が備える表示装置に表示出力を行う。判定部14から入力した情報が、対象者が健康であることを示す場合、出力部15は、対象者が建設現場に入場可能であることを示す表示を行う。あるいは、この場合、例えば、入場ゲートのロック解除等、対象者が建設現場に入場できるような物理的な制御が行われてもよい。
【0057】
判定部14から入力した情報が、対象者が不健康であることを示す場合、出力部15は、アラート(音声)を出力する等して対象者にその旨を知らせる。また、この場合、出力部15は、対象者に医師等による健康状態の確認を促す表示を行う。また、この場合、状態判定システム10では、対象者に自身の健康状態の自己申告を示す情報を入力させてもよい。例えば、質問形式(アンケート形式)で対象者に健康であるか否か(対象がよいか悪いか)の情報を入力させてもよい。
【0058】
判定基準設定部13は、このように入力された情報、即ち、判定された対象者の状態に応じた対象者の自己申告を示す情報を取得する。状態判定システム10による判定が不健康であるとされたにもかかわらず、対象者からの自己申告が健康である場合には、判定の際の判定基準が妥当でないことが考えられる。そこでこの場合、判定基準設定部13は、次回以降の判定時に、対象者が健康であると判定されやすくするように判定基準を緩める。例えば、判定基準設定部13は、温度等の判定に用いる基準値に基づく範囲を予め設定された量の分だけ大きくする。このように申告に基づくフィードバックを行うことで、適切な判定を行うことができる。
【0059】
上記は状態判定システム10による判定が不健康であり、対象者からの自己申告が健康である場合の例であったが、状態判定システム10による判定が健康であり、対象者からの自己申告が不健康である場合も、それに応じた判定基準が設定されてもよい。この場合、判定基準設定部13は、次回以降の判定時に、対象者が不健康であると判定されやすくするように判定基準を厳しくする。なお、上記の申告は、必ずしも自己申告である必要はなく、例えば、対象者の健康状態をチェックした医師等による申告であってもよい。即ち、対象者に係る申告であってもよい。以上が、本実施形態に係る状態判定システム10の機能である。
【0060】
引き続いて、
図5のフローチャートを用いて、本実施形態に係る状態判定システム10で実行される処理を説明する。本処理では、まず、可視光カメラ21及びサーモグラフィーカメラ22によって対象者の顔の撮像が行われる。状態判定システム10では、撮像によって得られた可視光画像及びサーモグラフィー画像が、画像取得部11によって取得される(S01)。続いて、画像取得部11によって、画像から対象者の顔が検出されて、対象者の特定及び顔認証が行われる(S02)。
【0061】
続いて、温度特定部12によって、可視光画像とサーモグラフィー画像とが合成される(S03)。続いて、温度特定部12によって、状態判定に用いる顔の部位が可視光画像から検出される(S04)。続いて、温度特定部12によって、サーモグラフィー画像のデータから各部位の位置の温度(体温)が特定される(S05)。この際に部位毎の体温、部位毎の最高体温及び顔全体の体温が算出される。
【0062】
続いて、判定基準設定部13によって、複数の対象者の体温から、対象者の状態の判定に用いる判定基準が設定される(S06)。判定基準は、対象者の過去の温度、判定に係る環境、及び過去の判定に対する対象者に係る申告からも設定されてもよい。
【0063】
続いて、判定部14によって、上記の判定基準に基づいて対象者の温度から当該対象者の健康状態が判定される(S07)。また、判定部14によって、可視光画像から対象者の表情が特定され、特定された対象者の表情から当該対象者の健康状態が判定される(S08)。また、判定部14によって、可視光画像から対象者の顔色が特定され、特定された対象者の顔色から当該対象者の健康状態が判定される(S09)。なお、各情報に基づく判定(S07~S09)は、必ずしも上記の順番で行われる必要はない。
【0064】
続いて、判定部14によって、各情報に基づく判定から、総合的な対象者の健康状態が判定される(S10)。続いて、出力部15によって、判定部14によって判定された対象者の健康状態に応じた出力が行われる(S11)。判定が、対象者が健康であるというものであった場合(S12のYES)、本実施形態に係る状態判定システム10で実行される処理は終了する。この場合、作業員の建設現場への入場が許可される。
【0065】
一方で、判定が、対象者が不健康であるというものであった場合(S12のNO)、状態判定システム10から対象者に対して健康状態の質問が出力され、状態判定システム10では対象者からの質問に対する回答、即ち、健康状態の判定に対する自己申告が入力される(S13)。入力された自己申告を示す情報は、次回以降の判定に利用される。また、この場合、医師等による作業員の健康状態の確認が行われる。以上が、本実施形態に係る状態判定システム10で実行される処理である。
【0066】
本実施形態では、複数の対象者の温度から判定基準が設定されて、対象者の状態が判定される。従って、本実施形態によれば複数の対象者の温度に対して影響を及ぼし得る事象がある場合に、より正確に対象者の状態を判定することができる。例えば、上述したように複数の対象者が利用した移動手段が、対象者の温度に影響を及ぼし得るものである場合であっても、より正確に対象者の状態を判定することができる。
【0067】
また、本実施形態のように可視光画像から対象者の部位の位置を特定して、サーモグラフィー画像から部位の位置の温度を特定することとしてもよい。この構成によれば、対象者の所定の部位についての温度を正確に特定することができ、その結果、正確に対象者の状態を判定することができる。但し、対象者の温度の特定は上記のように行われる必要はなく、例えば、サーモグラフィー画像のみが用いられて対象者の温度が特定されてもよい。
【0068】
また、本実施形態のように対象者の過去の温度から当該対象者についての判定基準を設定してもよい。この構成によれば、対象者毎の判定基準を適切に設定することができ、その結果、正確に対象者の状態を判定することができる。但し、必ずしも対象者の過去の温度を判定基準の設定に用いる必要はない。
【0069】
また、本実施形態のように判定を行う時点及び場所での気温、天候、時刻及び季節等の判定に係る環境から判定基準を設定してもよい。この構成によれば、環境に応じて対象者の状態を判定することができる。但し、必ずしも環境を判定基準の設定に用いる必要はない。
【0070】
また、本実施形態のように対象者の表情から対象者の状態を判定してもよい。この構成によれば、対象者の表情に応じて対象者の状態を判定することができる。
【0071】
また、本実施形態のように対象者の顔色から対象者の状態を判定してもよい。この構成によれば、対象者の顔色に応じて対象者の状態を判定することができる。
【0072】
また、本実施形態のように過去に判定された対象者の状態に応じた対象者に係る申告から対象者の状態を判定してもよい。この構成によれば、対象者に応じて適切に対象者の状態を判定することができる。
【0073】
なお、本実施形態は、建設現場の作業員を対象者として説明したが、必ずしも判定の対象者は建設現場の作業員である必要はなく、本発明は、任意の対象者に対して判定を行うものであってもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…状態判定システム、11…画像取得部、12…温度特定部、13…判定基準設定部、14…判定部、15…出力部、21…可視光カメラ、22…サーモグラフィーカメラ。