(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】皮膚の温度上昇を軽減したニキビの選択的治療用レーザ装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/067 20060101AFI20220421BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A61N5/067
H01S3/00 A
(21)【出願番号】P 2018532729
(86)(22)【出願日】2016-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2016057767
(87)【国際公開番号】W WO2017109667
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】102015000086201
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518153047
【氏名又は名称】クアンタ システム ソチエタ ペル アチオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】タリアフェッリ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】カンノーネ ファービオ
(72)【発明者】
【氏名】グロッラ ジャンルーカ
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0091179(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102820613(CN,A)
【文献】特表2015-513947(JP,A)
【文献】特開2014-232734(JP,A)
【文献】特開2014-46072(JP,A)
【文献】特開2006-278525(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0254765(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0147054(US,A1)
【文献】特開平1-296688(JP,A)
【文献】特開2012-50571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/00 ― 18/28
A61N 5/00 ― 5/08
H01S 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニキビの選択的治療用レーザ装置であって、出力端が光コリメータ(2)になっているレーザ光線を供給するレーザ光源(1)であり、所定の持続時間の前記レーザ光線のインパルスを送れるようにするスイッチ(13)を備えた前記レーザ光源(1)と、
前記光コリメータ(2)から受けたレーザ光線の焦点を合わせるレンズ(4)を備えた光学機械インターフェース(3)と、前記光学機械インターフェース(3)に接続された光ファイバ(5)を備えたレーザ装置において、
前記光ファイバ(5)が、15mを超える長さを有し、前記レーザ装置が、前記光ファイバ(5)に接続されたハンドピース(10)を備え、前記ハンドピース(10)が、前記ハンドピース(10)から出るレーザ光線の直径を0.5mm~5.0mmで変えることのできる光学ズームシステム(11)を備え
、
前記レーザ光源(1)が、単一モードであり、
前記光ファイバ(5)が、多重モードファイバであり、
前記光ファイバ(5)が、その出力においてフラットトップビーム強度分布を有するレーザ光線を発生させ、フラットトップビーム強度の標準偏差の同じフラットトップビーム強度の平均値に対する比率が20%未満であることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記レーザ光源(1)が、1726nmの波長でレーザ光線を放射することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記ハンドピース(10)が、出力端にサファイア製の窓(12)を備えていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
所定温度の空気を前記サファイア製の窓(12)の内側の面に送る冷却システムを備えていることを特徴とする請求項
3に記載のレーザ装置。
【請求項5】
インパルスの持続時間が10ミリ秒~500ミリ秒の範囲にあるように前記スイッチ(13)が制御されることを特徴とする請求項1~
4のうちの1請求項に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の温度上昇を軽減したニキビの選択的治療用レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクトな手持ち式の皮膚の真皮領域における皮脂腺の疾患を治療する携帯装置が、国際公開第2008/008971号に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ニキビの選択的治療用の極めて効率的なレーザ装置を提供することである。
【0004】
本発明の他の目的は、周囲の組織への損傷を防止する皮膚の温度上昇を軽減したニキビの選択的治療用レーザ装置を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、治療を受ける皮膚の部位における加熱の影響を少なくすることのできる皮膚の温度上昇を軽減したニキビの選択的治療用レーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、前記目的及び他の目的が、添付の特許請求の範囲に記載のニキビの選択的治療用のレーザ装置又は方法によって達成される。
【0007】
本発明のさらに別の特徴が、従属請求項に開示されている。
【0008】
本発明によれば、皮脂腺の熱損傷を引き起こす温度上昇ΔTに影響を与える物理的パラメータの最適化を確保すると同時に、以下のように、それらの物理的パラメータのうちの幾つかの動的制御を可能にするニキビの選択的治療の解決策が提供される。
【0009】
・波長λが、1726nm、一般的には、1690nm~1750nmの範囲なので、皮脂腺周囲の組織における水の吸収に起因する加熱の影響を減少させ、最小の拡散効果、したがって減分f(fraction)の最大値を確保する;
・出力Pが1Wを超えているので、放射が極めて安定しており(変動が3%未満)、長時間にわたり処置の深さが変わらない、処置にとって適切なフルエンスを確保している;
・レーザ光線が、フラットトップ強度分布を有し(η≦15%)、すなわち、周囲組織の損傷を引き起こさず皮脂腺の選択的治療に適しており、0.5mmを超える直径φ、より一般的には0.5mm~5.0mmの範囲から選択することのできる直径φを有し、レーザ光線強度分布が変化しないように維持し、選択された態様で生体組織への進入の可能性を確保する;
・人の皮膚に対する熱衝撃を生じさせることのある寒剤ガスを使用することなしに皮膚の表面温度Tiを-10℃~+10℃に制御する;
・レーザインパルスの持続時間τが、皮脂腺による熱の拡散時間を超えず、前記皮脂腺の周囲組織の加熱を防止する。
【0010】
本発明の対象であるシステムは、生体組織において最適な温度分布を得られるようにすることにより、最小限のレーザ照射エネルギーで、ニキビの選択的治療を行い、レーザ光線と前記生体組織との相互作用を減少させることができる。
【0011】
ここに提案する解決手段は、ニキビの治療過程における限界を克服することに加え、強度分布がレーザ光線の放射条件とも前記レーザ光線の出力とも無関係である「フラットトップ」ビームを得られるようにできることが、付記さるべきである。
【0012】
本発明の特徴及び利点は、添付図面において非限定の例示として示されている本発明の一実施形態の以下の詳細な説明により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】1726nmの波長で、一様な強度分布(フラットトップ)を有するレーザ光線によって引き起こされた温度上昇ΔTを右側に、ガウス強度分布を有するレーザ光線によって引き起こされた温度上昇ΔTを左側に示している。生体組織におけるフルエンスは50J/cm
2で、直径が3.5mmのレーザ光線を上側に、直径が1.5mmのレーザ光線を下側に示している。このシミュレーションでは、皮脂腺が、R=0cmにおいて皮膚表面から0.6mmの深さでY軸上に位置しているとみなし、X軸は皮膚表面からの深さ深さをcmで示し、Y軸はレーザ光線の直径をcmで示している。
【
図2】50J/cm
2のフルエンスで、ガウス強度プロファイルを有するレーザ光線によって引き起こされた、皮脂腺R=0の垂直方向の軸線に沿う温度上昇ΔTプロファイルを示しており、下側の曲線から上側の曲線に向かって、レーザ光線の直径が、0.25、0.5、1、2、3、3.5、4、5mmに変化している。セグメントA~Dの間には真皮があり、セグメントB~Cの間には皮脂腺がある。
【
図3】50J/cm
2のフルエンスで、一様な強度プロファイルを有するレーザ光線によって引き起こされた、皮脂腺R=0の垂直方向の軸線に沿う温度上昇ΔTプロファイルを示しており、下側の曲線から上側の曲線に向かって、レーザ光線の直径が、0.25、0.5、1、2、3、3.5、4、5mmに変化している。セグメントA~Dの間には真皮があり、セグメントB~Cの間には皮脂腺がある。
【
図4】本発明によるニキビの選択的治療用レーザシステムの1例を概略的に示している。
【
図5】200μmのコア径と0.22のコア開口数を有するファイバのファイバ長さLの変化に伴う1726nmの波長におけるレーザ光線の強度分布の漸進的変化を示している。
【
図6】レーザ光線の直径φに応じたレーザ光線の生体組織への進入zの因果関係を示している。
【
図7】レーザインパルスの持続時間τに対する熱経路Rthの因果関係を示している。
【
図8】400msの持続時間を有する1回のインパルスによる皮脂腺の温度変化を示している。
【
図9】100msの持続時間を有する3回の連続したインパルスによる皮脂腺の温度変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
レーザ光線又はより一般的には放射光が生体組織に当たると、生じる最初の影響は、生体組織による光子の吸収である。同時に、光子の散乱現象、及び場合により、光子の吸収と競合する反射現象が観察される。物理的には、これらの過程は、生体組織の吸収係数(μa)、光子の散乱に関する散乱係数(μs)と異方性係数(g)、及び反射に対する屈折率(n)の割合に左右される。次に、生体組織(以下、標的又は標的組織とも称する)によって吸収された光は、周囲組織に広がり得る熱、エネルギー(ΔE)に変換される。その結果、温度上昇((ΔT):ΔT=ΔE/(ρ×Cp)、ここでρ及びCpは、それぞれ、生体組織の密度及び比熱である(方程式1))が記録される。この温度上昇は、標的組織だけでなく、隣接する組織においても生じる。熱拡散の経時的動向は、熱緩和時間(tr)により決定される。熱緩和時間は、ガウス温度分布が、標的組織の直径と等しい幅を有している場合に、その中央値が50%だけ減少するのに必要な時間間隔として定義される。良い近似値を得るには、熱緩和時間tr[ms]は、標的組織の直径の二乗に正比例し、熱の拡散定数kに反比例するので、tr≒(d2)/(n×K)で、nは標的の形状に応じて決まる数である。例えば、0.1mmの長さを有する皮脂腺は、0.5秒で非常に熱くなる。標的組織によって吸収されるエネルギーと入射光線のフルエンスは、方程式:ΔE ≒ μa×f×F、ここでfは、標的組織に到達する前の入射光線強度の減分(reduction fraction)を表す(方程式2)によって関連づけられる。(入射光線のエネルギー)/(入射光線のスポットの面積)として定義される入射光線の強度、というよりも入射光線のフルエンスが十分ならば、方程式2より、温度上昇が標的組織を破壊する。入射光線のフルエンス(F)は、レーザ出力P及びインパルスの持続時間τを用いて、F=(出力×インパルスの持続時間)/(スポットの面積)と書き表すことができ、この場合において、熱損傷について述べることができ、入射光線が治療を終えたと言えることが銘記さるべきである。方程式1と方程式2を組み合わせることにより、ΔT=(Tf-Ti)≒[(P×τ)×(f×μa)]/[(ρvCp)×(π×(φ/2)2)](方程式3)が得られる。
【0015】
方程式3から、熱損傷を引き起こす温度上昇は、
a)吸収係数μaに比例し、したがって、入射光線の波長λに左右される;
b)散乱現象が増加するにつれて減少する減分f(fraction)に比例し、したがって、上記の点に関して、入射光線の波長に左右され、入射光線が生体組織に進入する深さzと相関している;
c)入射光線のエネルギーEに比例し、したがって、E=P×τの関係により、放射システムの出力Pに比例している;
d)入射光線の照射時間τに比例し、入射光線の照射時間は、熱緩和時間trよりも長いと、標的組織を通り越すより大きな熱の伝播、したがって、過剰な温度上昇を引き起こすことがある;
e)直径φ及びレーザ光線領域の強度分布に比例している;
f)標的組織の初期温度Tiに比例している;
ことが推断される。
【0016】
この点において、温度範囲(ΔT)の生物学的重要性について熟考することは適切である。多くの人体組織において、50℃~60℃の範囲の温度をもたらす温度上昇は、熱損傷を引き起こすのに十分であるが、より高温の値では、非常に望ましくない影響が生じる。詳細には、60℃~70℃の温度範囲においては、タンパク質構造及びコラーゲンが変性し、70℃~80℃の温度範囲においては、核酸が構成要素に分解し、細胞膜が透過性になる。温度が100℃に達すると、人体組織に含まれている水の気化が生じる。光放射を用いる標的組織における温度上昇(ΔT)による熱損傷を引き起こす方法は、美容及び医療における用途にとって非常に重要であるが、上記の方法においては、先に説明したような副作用を引き起こすことのある周囲組織における望ましくない温度上昇を避けなければならないということが結論である。そうすると、上記の美容及び医療における用途においては、処理の間、温度上昇を左右する全ての物理的パラメータ(方程式3)を、制御することが根本的なことであるということになる。全ての公知の研究のなかで、アール・アール・アンダーソン(R.R.Anderson)教授による刊行物が、疑いなく最も余すところがない。選択的光熱分解(アンダーソン及びパリッシュ、選択的光熱分解:パルスレーザ光線の選択的吸収による精密な顕微手術、サイエンス1983年、220、524~527頁)[Selective photothermolysis(Amderson and Parrish, Selective photothermolysis: precise microsurgery by selective absorption of pulsed radiation in Science 220:524-527 1983)]は、適切で最大の温度上昇(ΔT)が、選択した標的組織においてのみ生じる、すなわち、光照射又はレーザ光照射によって引き起こされる損傷が局限されるという原理(アローラ及びアンダーソン、皮膚レーザにおける最近の進展、レーザーズ・イン・サージェリー・アンド・メディスン、2000年、26:108~118頁)(Alora and Anderson,Recent Developments in Cutaneous Lasers in Lasers in Surgery and Medicine 26:108-118 2000)に基づいている。選択的光熱分解の技術は、ニキビの選択的治療を含む様々な領域に応用されている。米国特許第6605080号は、脂質の多い組織の選択的標的化方法及び装置を例示しており、ニキビの選択的治療用のフルエンス値を見事に教示しているが、同じ波長を想定し、やはり米国特許第6605080号において述べられているように、皮脂腺は皮膚の表面から1mm~4mmにわたる広い範囲の深さに位置していると考え、入射光線の生体組織への進入の問題を未解決のままにしている。この点に関して、本願出願人は、入射光線の皮膚への進入zは、フルエンスと特に面積、すなわちレーザスポットの直径φに左右されることに注目した(
図1)。米国特許第6605080号は、ニキビの治療が行われるエネルギーフルエンスの範囲及び時間の値の範囲を示している。前記値の範囲は、方程式3において数学的に示されている生体組織への進入効率との間に存在する相関関係を考慮していない。さらに、米国特許第6605080号において、ニキビを選択的に治療することが可能な多くの波長範囲λ(880nm~935nm、1150nm~1230nm、1690nm~1750nm及び2280nm~2350nm)が提案されている。選択的光熱分解が生じるので、ニキビの選択的治療にとって最良の条件は、皮脂腺に多い脂質の吸収係数(μ
alip)が、前記皮脂腺の周囲組織である表皮及び真皮に多い水の吸収係数(μ
aH2O)よりも大きい時である。このようにして、水の多い皮脂腺周囲組織ではなく、皮脂腺の強力な(選択的)吸収が得られる。前記条件は、米国特許第6605080号において報告された全ての波長範囲で生じるが、上記の波長範囲は、二つの理由で、人の皮膚のニキビの治療にとっては同等ではない。
【0017】
1:880nm~935nmの範囲から1690nm~1750nmの範囲に変わると、出力Pにおける人の皮膚に達する放射光の影響は、10分の1になる;
2:散乱の影響は、波長が大きくなるにつれて減少する、したがって減分fが変化する;
3:もう一方では、放射光の進入能力は、波長とともに増加する。
【0018】
したがって、一つだけの波長範囲、好ましくは、光源好ましくはレーザ光源が発する波長を定め、この波長についてニキビの選択的治療に関する全てのパラメータを最適化することは、当を得ている。2006年に、ロックス・アール・アンダーソン教授(Prof. Rox R. Anderson)が、1720nmの波長を有する自由電子レーザを用いて予備試験を行い、1720nmにおける脂質吸収選択帯域が、表層の皮脂腺のような表層の(すなわち、最大皮膚深さが2mmの)標的の選択的治療にとって重要であるとの結論に達した(アンダーソン他、脂質の多い組織の選択的光熱分解:自由電子レーザによる研究、レーザーズ・イン・サージェリー・アンド・メディスン2006年;38;913~919頁)(Anderson et al.,Selective Photothermolysis of Lipid-Rich Tissues: A Free Electron Laser Study Lasers in Surgery and Medicine 38:913-919 2006)。より最近では、2011年に、ラマン散乱に基づいて1708nmの波長のレーザ光線を放射することのできる光ファイバ光源が開発された(アレキサンダー他、1.708μmのラマンファイバレーザと接触冷却を用いた人の皮膚における皮脂腺の生体外光熱分解、レーザーズ・イン・サージェリー・アンド・メディスン2011年;43;470~480頁)(Alexander et al.,Photothermolysis of sebaceous glands in human skin ex vivo with a 1,708 micron Raman fiber laser and contact cooling in Lasers in Surgery and Medicine 43:470-480 2011)。ラマン散乱に基づく光ファイバ光源を使用することは、それによりニキビの選択的治療にとって最良の波長範囲での施術を保証することになるが、この使用の決定は、発生するレーザ光線がガウスプロファイルの強度分布を有していることを意味する。この解決手段の限界は、ガウスプロファイルの強度分布を有する前記レーザ光線を使用することにある。実際、前記レーザ光線は、ニキビの選択的治療に最も適しているわけではない。著者によって指摘されているように、このガウスプロファイルは、皮脂腺を越えた所に位置する組織への損傷を引き起こすことがある。国際公開第2011/084863A2号では、ガウスプロファイルを有するレーザ光線に特有の空間分布よりも一様な空間分布を有するレーザ光線の使用が提案されているが、こうしたレーザ光線をどのようにして得るのか、また、こうしたレーザ光線をどのようにしてニキビの選択的治療に対して有効にするのかについての実践的な開示がない。既存のニキビの治療装置に冷却システムを採用することにより、皮膚表面の過剰な温度上昇によって引き起こされる損傷を少なくしている。皮膚表面の冷却システムを採用している、すなわち、適切な初期温度値Tiを採用している多くの解決手段がある。これらの解決手段の多くは、皮膚表面への低温液体の吹きつけに基づいている(ペイサンカー他、波長が1450nmのレーザ及び寒剤噴霧冷却によるニキビの治療、レーザーズ・イン・サージェリー・アンド・メディスン、2002年、31:106~114頁)(Paithankar et al.,Acne treatment with a 1,450 wavelength laser and cryogen spray cooling, Lasers in Surgery and Medicine 31:106-114 2002)。これらの解決手段は、複雑であることが非常に多く、治療中に、温度上昇ΔTを引き起こすレーザ光線のフルエンス値を大幅に変えなければならない場合には、最適ではない。
【0019】
結論として、公知技術には、ニキビの選択的治療に対する種々の取り組みがあるが、温度上昇に影響を与え、方程式3で数学的に説明されている全てのパラメータの制御及び動的な変更を可能にする総合的な解決手段は一つもない。そのため、提供されたどの解決手段も、皮脂腺周囲の生体組織に対する生物学的損傷を引き起こす可能性をなくしていない。
【0020】
モンテカルロシミュレーションを用いて、上記の公知技術の限界を克服する可能な解決手段が確認されている。これらのモンテカルロシミュレーションでは、標的組織は、皮膚内、特に真皮内に位置する皮脂腺である。皮脂腺は、例えば皮膚表面から0.6mmの所に位置し、1.0mmの長さを有している。
図1は、左側にガウス強度プロファイルを有する光線によって引き起こされた温度上昇(ΔT)(下側のレーザ光線スポットの直径が小さくなっている)を、右側に一様な強度プロファイルを有する(「フラットトップ」とも称する)レーザ光線によって引き起こされた温度上昇(ΔT)(下側のレーザ光線スポットが小さくなっている)を示すモンテカルロシミュレーションを例示している。このモンテカルロシミュレーションでは、強度の標準偏差(δI)の同じ強度の平均値(<I>)に対する比率(η)が、所定の値よりも低い時、レーザ光線の強度分布がフラットトップ、すなわち一様、であることが証明されており、このモンテカルロシミュレーションにおいては、比率(η)の所定の値が15%で証明されている。同じフルエンスで、一様な強度分布を有する光線(フラップトップ)が、組織の第1の層、すなわち皮脂腺の手前の層において一様な温度上昇(ΔT)を生じさせることが観察されている。もう一方で、ガウス強度プロファイルを有するレーザ光線は、特に組織の第1の層において、急な温度上昇(ΔT)勾配を発生させる。このことは、
図2及び
図3において、特に明らかである。
図2は、ガウス強度プロファイルを有するレーザ光線によって引き起こされた、皮脂腺の垂直方向の軸線R=0に沿う温度上昇ΔTプロファイルを、
図3は、一様な強度プロファイルを有するレーザ光線によって引き起こされた、皮脂腺の垂直方向の軸線R=0に沿う温度上昇ΔTプロファイルを示しており、レーザ光線の直径が変化している。直径が1mmを超えるガウス強度プロファイルを有するレーザ光線では、70℃を超える温度上昇が、皮脂腺の手前の皮膚の層において引き起こされる。前記温度上昇は、前記皮脂腺の手前の皮膚の層にとって望ましくない。前記の結果は、前記ガウス強度プロファイルを有するレーザ光線と同じフルエンスを有するが、一様な強度分布を特徴とするレーザ光線では生じない。さらに、一様な強度分布を有するレーザ光線(フラットトップ)では、レーザ光線の直径の変化に伴う温度上昇(ΔT)の変動が大幅に少なくなる。結論として、一様な強度分布を有するレーザ光線は、周囲組織に対する損傷という副作用のないニキビの選択的治療には、ガウスプロファイル強度分布を有するレーザ光線よりも好ましい。前記モンテカルロシミュレーションの分析は、入射レーザ光線の直径が大きくなるにつれ、レーザ光線の生体組織への進入度zが高くなることを際立たせている。したがって、レーザ光線スポットの直径φを調節することの利点は、明らかであり、プロセスのフルエンスを一定に保ちながら、より深い又はより浅い皮膚の層に達することである。「フラットトップ」ビームの使用は、種々の用途において好ましく(ヨーロッパ特許出願公開第2407807号、米国特許第5658275号)、多重モード光源の強度分布から出発して前記ビームプロファイルを得る多くの技術がある。特に、米国特許第6532244号では、(規格化周波数(V-number)>2.405の)多重モードレーザ光線を2本の多重モードファイバに入射させることにより、「フラットトップ」ビームが得られ、第1の多重モードファイバは、第2の多重モードファイバよりも小さい規格化周波数(V-number)を有している。遠隔制御ファイバと呼ばれる第2の多重モードファイバに関して、この第2の多重モードファイバは、適切な曲率半径で曲げられている(曲げ技術として公知である)。ガウス強度プロファイルを有するレーザ光線が、非線形材料を用いて一様な強度分布を有する光線に変換される解決手段も公知である(国際公開第2011/070306号)。任意の強度プロアイルを有するレーザ光線を、特殊な回折光学素子を用いてフラットトップにすることもできる。前記の解決策は、特に最適というわけではない。詳細には、ファイバに曲率半径を導入することにより一様な強度分布を有する光線を得る応用例は、湾曲によって引き起こされる出力損失の問題(ディー・マルクーゼ、「光ファイバに関する湾曲損失式」、ジャーナル・オブ・オプティカル・ソサエティ・オブ・アメリカ、1976年66(3)216頁)(D.Marcuse、“Curvature loss formula for optical fibers”、J. Opt. Soc. Am. 66(3)、216(1976))と、湾曲した光ファイバにおける微小な破損が生じる可能性の問題により、望ましくない。V1の規格化周波数(V-number)を有するファイバからV2(V2>V1)の規格化周波数(V-number)を有するファイバへの切り換えを決定するには、波面をシャッタリングし、光強度における損失を引き起こす影響を有する光学部品の使用が必要である。さらに、別個の光学部品、例えばマイクロレンズ又は非線形材料などの使用を伴う解決手段は、レーザ光線が非線形材料を通過する際に、著しい出力損失をもたらす。さらに、一様な強度分布を有する光線を得るには、一様でない光線のファイバへの入射が、適切な角度で行われなければならないことも公知である(シーリー及びホフナグル、レーザ光線の成形プロファイル及び伝播、アプライド・オプティクス 2006年45巻)(Shealy and Hoffnagle Laser beam shaping profiles and propagation in Appl.Optics Vol 45 2006)。
【0021】
本発明によるニキビの選択的治療用レーザ装置の一例が、ラマン効果に基づく光ファイバレーザ光源1を備えている。光ファイバレーザ光源1の出力端は、光コリメータ2になっている。光コリメータ2は、光学機械インターフェース3により、光ファイバ5と光学的に整列している。光学機械インターフェース3は、光学機械インターフェース3内に配置されたレンズ4により光コリメータ2から出る平行化された光線の焦点を光ファイバ5のコア内に合わせる長さ及び角度の高精度調節システム(x-y-z、θ-ψ)からなっている。光学機械インターフェース3の出力端は、SMAコネクタ6になっており、多重モード光ファイバ5の先端は、SMAコネクタ7になっている。
【0022】
多重モード光ファイバ5の出力端は、ハンドピース10に接続されたSMAコネクタ8になっており、ハンドピース10は、SMAコネクタ8と協働するSMAコネクタ9によって、治療中、生体組織と接触状態に置かれる。
【0023】
ハンドピース10は、多重モード光ファイバ5から出るレーザ光線を拡大することのできる光学ズームシステム11を備えている。
【0024】
ハンドピース10は、出力端にサファイア製の窓12を備えている。
【0025】
光ファイバレーザ光源1は、レーザ光線の伝送を遮断し、送られるレーザインパルスの持続時間を調節することのできるスイッチ13を備えている。
【0026】
スイッチ13を適切に作動させることにより、所望の待機時間によって隔てられた所望の持続時間のレーザインパルスを送ることができる。
【0027】
光ファイバレーザ光源1は、1726nmの波長で、より一般的には1720~1730nmの波長の範囲で放射する。前記波長の範囲では、脂質の吸収係数が水の吸収係数よりも大きい、(1720nmで)μalip=10cm-1>μaH2O=6cm-1、だけでなく、散乱係数(1720nmで3.5cm-1)が、脂質の吸収係数(1720nmで10cm-1)に対して非常に小さいので、入射する光子のほとんど全てが生体組織によって吸収される状態を確保している。光コリメータ2から出るレーザ光線は、平行化されており、3mm~5mmの範囲の直径を有している。光ファイバレーザ光源1は、光線を連続モードでもパルスモードでも放射することができる。光ファイバレーザ光源1は、出力制御手段及び光ファイバレーザ光源のパルス状の放射をもたらすスイッチを備えている。光ファイバレーザ光源1の性質を考慮すると、光コリメータ2から出るレーザ光線の強度プロファイルは、ガウス形である。別の実施の形態においては、光ファイバレーザ光源の出力端は、規格化周波数(V-number)>2.405のファイバになっていてもよい。
【0028】
光学機械インターフェース3は、レンズ4により光コリメータ2から出る平行化された光線の焦点を光ファイバ5のコア内に合わせる長さ及び角度の高精度調節システム(x-y-z、θ-ψ)からなっている。
【0029】
光ファイバ5は、以下の特徴を有している:
1.光ファイバのコアの直径φ及び開口数NAは、一様な強度分布を有する光線を発生させることに機能するのではなく、平行化されたレーザ光線の入射をレンズ4により最大限にすることにより、光線の強度における損失とSMAコネクタ7の望ましくない過熱を引き起こさないことに機能する;
2.規格化周波数(V-number)>2.405;
3.光ファイバのコアは、円形、正方形又は長方形のプロファイルを有していてよい;
4.長さLが、L*と呼ばれる或る値のLを過ぎると一様な強度分布を有するレーザ光線が得られる長さである;
5.光ファイバは、装置への収納に対してのみ機能して曲げによるレーザ光線強度の損失をまねかない曲率半径で巻かれている。
【0030】
図5は、いろいろな値の光ファイバの長さに関する光ファイバ5から出るレーザ光線の強度分布を示している。例示として、規格化周波数=78.50を有するファイバに関して、強度分布が一様であるη≦15%がL
*であるLの値は、25m以上である。η≦20%と考えると、長さL
*は15m以上である。
【0031】
光ファイバの長さLがL≧L*の場合には、パラメータηは、放射条件、例えばレンズ4の細目とは無関係であることが銘記さるべきである。したがって、この結果が達成されると、ニキビの選択的治療に対して機能する物理的パラメータのうちの一つであるηが、時間と共に変化することのあるシステムの光学的整列条件とは、無関係になる。さらに、光ファイバの長さパラメータのみを、フラットトップビームを生じさせる制御要素として用いるという技術的選択には、光ファイバレーザ光源1のいかなるタイプの出力Pの損失ももたらさないという利点がある。結論として、ニキビの選択的治療に関して適切な強度分布の一様性であるη≦15%を得るのに選択された本発明の技術的解決手段は、ニキビの選択的治療に必要なレーザ光線の出力Pとは無関係である。
【0032】
L*は、光ファイバの規格化周波数の値及び入射するレーザ光線の波長に応じて変化することが確認されている。特に、L*は規格化周波数が増加するにつれて短くなり、L*は入射するレーザ光線の波長が短くなるにつれて長くなることが確認されている。結論として、選択された1720nm~1730nmの波長の範囲が、先に説明した係数の値に関して有益であるだけでなく、得られる強度分布の一様性の値がより小さい。ここに提案する解決手段においては、光ファイバが装置に収納される曲率半径は、強度分布を一様にする何等の効果も有しない。結論として、上記の五つの条件を満たす光ファイバ5は、光コリメータ2から出るガウス強度プロファイルの強度分布を有するレーザ光線を、一様な強度分布を有するレーザ光線に変換する部材である。同様にして、光ファイバ5は、一様でない強度分布を有する非単一モードのレーザ光線を、一様な強度分布を有するレーザ光線に変換することができる。
【0033】
光ファイバ5とハンドピース10が、2個のSMAコネクタによって接続されていることが、ハンドピース10を交換可能な部材にしている。すなわち、交換可能な部材であるハンドピースは、治療中に故障又は損傷があった場合に応用分野において極めて有用である。
【0034】
ズームシステム11は、光学ファイバ5の出力面の拡大された画像を、サファイア製の窓12上に形成するようになっている光学システムからなり、サファイア製の窓は、前記光学システムの像面に位置しており、同じ強度分布を確保している。
【0035】
光学ズームシステム11は、3個のレンズからなる光学システムである。例示として、第1のレンズ11aは、光ファイバ5から出るレーザ光線の焦点を第2のレンズ11bに合わせる平凸レンズである。第2のレンズ11bは、両凹レンズである。第3のレンズ11cは、第2のレンズ11bから来る拡大されたレーザ光線を、サファイア製の窓12に到達する平行化された光線に変換する。第1のレンズ11aと第3のレンズ11cの間を移動する第2の両凹レンズ11bは、光線を分散させ、光ファイバ5から出るレーザ光線の倍率を変更する。
【0036】
第2のレンズ11bの移動は、公知の方法で行われ、外部から連続モードで調節することができる。
【0037】
解決手段の別の一例では、第3のレンズ11cの下流に、拡大されたレーザ光線の焦点を生体組織内に合わせることのできるさらに別の第4の平凸レンズ11dを組み入れてもよい。ズームシステム11によりなされる拡大の度合「m」は可変であるため、治療中にレーザ光線の最も適切な直径φを動的に得ることができる。この光学的な構成は、レーザ光線の強度分布を変えない。
【0038】
例示として、光ファイバ5が、0.2mmのコア径を有するファイバであると仮定すると、ズームシステム11は、2.5倍~25倍の範囲の倍率を動的に得られるようにできるので、ズームシステムは、0.5mm~5.0mmより好ましくは1.5mm~3.5mmの範囲で変化するレーザ光線直径を、サファイア製の窓に形成することができる。この解決手段は、治療中に二つのプロセスパラメータ:フルエンス、したがって標的組織における温度上昇ΔT及び出てくるレーザ光線の寸法、したがってレーザ光線が達する標的組織の深度レベルを、変更するという独特の特徴を有している(
図6及び
図7)。前記のダイナミズムは、レーザ光線の強度分布の一様性レベルに影響を与えないことが強調される。さらに、ズームシステム11によって行われた拡大、したがってスポットの直径φと、光ファイバレーザ光源1によって発された出力Pの調節とを結びつけるフィードバックシステムを組み入れ、皮膚の表面に到達するスポットの各々の直径に関して適切なフルエンスを得てもよい。例示として、一様な強度分布と3.5mmの直径を有する光線を用いて50J/cm
2のフルエンスをかけようとすると、約60Wのレーザ出力が必要となる。同じ治療中に、処置の深さを変えることなしに、すなわちスポットの直径を3.5mmに維持して、フルエンスを例えば50J/cm
2から30J/cm
2に下げることが必要な場合には、光ファイバレーザ光源1の出力を約36Wに下げれば十分である。さらに別の例示として、一様な強度分布と4.0mmの直径を有する光線を用いて30J/cm
2のフルエンスをかけようとすると、約62Wのレーザ出力が必要となる。同じ治療中に、フルエンスを変えることなしに処置の深さを減らす必要がある場合には、スポットの寸法を2.0mmに、光ファイバレーザ光源
1の出力を19Wに減らせば十分である。
図6は、処置の深さzのレーザ光線の寸法φに対する依存関係を示している。ニキビの治療中、より表面に近い皮膚の層にある皮脂腺に到達することには問題ないが、深い所にある皮脂腺に到達することはより困難であることに留意すべきである。ここに提案する解決手段は、表層の皮脂腺とより深い皮脂腺、より一般的には0.5mm~5.0mmの範囲の深さの皮脂腺に動的な態様で同じ治療を施すことができるので、この難題を解決することができる。ここに提案する解決手段のさらなる利点は、皮膚における痛み受容体の位置を考慮すると明らかである。痛み受容体は、2.5mm未満の深さzの皮膚の表面領域に位置し、約100/cm
2の平均密度を有している。したがって、皮膚の表面近くに、例えば、0.5mm~2.5mmの範囲の深さzに位置する皮脂腺を治療し、最大数の痛み受容体の刺激を軽減するには、2.0mm未満の直径φを有する光線を用いて作業をすることが適切である。
【0039】
皮膚の表層への損傷を軽減するには、前記皮膚の表層の温度を下げることが適切である場合がある。ハンドピース10に接続された冷却システム(図示せず)を用いることにより、皮膚の第1の層の温度を下げてもよく、冷却システムは、チューブ14から放出される空気流により、ズームシステム11の下流に配置されたサファイア製の窓12の温度を下げることができ、サファイア製の窓12は、治療する生体組織と接触状態におかれる。前記冷却システムは、温度を-10℃~+10℃の範囲に調節することができる。この解決手段は、二つの利点をもたらす。一つは、サファイア製の窓12を冷却するのに水流を用いないことであり、もう一つは、サファイア製の窓12の内側、すなわち治療する生体組織と接触する面の反対側の面に当たる空気流が、サファイア製の窓12が晒される低温によって生じる凝縮液の発生を防止することである。サファイア製の窓12は、より一般的には、熱伝導率の値が高いこと及び本発明で用いる光線に対して透明であることにより選択されるが、レーザ光線強度プロファイルの形を変えない光学窓である。
【0040】
皮膚表面下の皮膚の種々の層の冷却過程は、熱力学の法則によって支配されている。このこと及び光ファイバレーザ光源1のスイッチ13の存在を考慮すると、加えるインパルス又は一連のインパルスの持続時間は、
図8及び
図9に示すように調節することができる。
【0041】
t=0ミリ秒の時に、皮脂腺は出力Pで、時間τの間照射される。皮脂腺の温度は、生体組織の基礎温度Tbaseから最高温度Tpeakになる、すなわち、温度上昇ΔTが生じる。レーザインパルスの持続時間τは、先に説明したように標的組織の形状に応じて決まる標的組織の熱緩和時間(例示では450ミリ秒)よりも短いので、標的の周囲組織の加熱を生じさせない。照射の後、皮脂腺の温度は低下し、一定の時間後に皮脂腺の温度は基礎温度Tbaseに戻る。
【0042】
インパルスの持続時間τ、すなわち出力Pをかける時間の長さが、皮脂腺における熱損傷を生じさせる温度上昇ΔTを引き起こすのに十分でない場合には、インパルスの持続時間τを、熱緩和時間で表される最大限度に達するまで引き延ばす。これが、皮脂腺によって吸収されたエネルギーの放出による皮脂腺周囲の組織領域の加熱をもたらす。これらの領域の範囲は、インパルスの持続時間に応じて決まり、照射された皮脂腺によって放出されるエネルギーの半径方向の伝播を表す熱経路Rth(
図7)は、光線の持続時間に応じて決まる。
【0043】
ここに提案する解決手段は、レーザインパルスの時間調節により、皮脂腺の周囲組織部分の加熱を防止することができる。
図9は、50℃の熱変性値及び約500ミリ秒の熱緩和時間trを有する皮脂腺に関する前記時間調節の例を示している。
図8は、400ミリ秒の持続時間を有するインパルスを放射する光源によって生じた温度値を示している。
図9は、本発明により、各々100ミリ秒の持続時間で、500ミリ秒の時間によって間隔を置いた三つのインパルスを放射する同じ光源によって生じた温度値を示している。第1の場合には、半径方向の伝播は0.45mmであり、本発明による第2の場合には、前記半径方向の伝播の値は、50%減少している、すなわち0.22mmになっている。例示として、光ファイバレーザ光源1のインパルスは、10ミリ秒~500ミリ秒の範囲で調節することができる。
【0044】
適切な出力の単一のレーザ光源を利用してニキビの選択的治療を行うことができない場合には、2個以上のレーザ光源を組み合わせた別の解決手段の一例が採用される。