(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】実質的に連続な超連続体を画定する波長を有する光子ビームを生成する装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/365 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
G02F1/365
(21)【出願番号】P 2018554028
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2017057760
(87)【国際公開番号】W WO2017178255
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-02-21
(32)【優先日】2016-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】513319730
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リモージュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIMOGES
【住所又は居所原語表記】33 rue Francois Miterrand, 87032 LIMOGES CEDEX, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルパ,カタルジーナ
(72)【発明者】
【氏名】シャラビ,バドル
(72)【発明者】
【氏名】トネロ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】クーデール,バンサン
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0099340(US,A1)
【文献】特開2007-271783(JP,A)
【文献】特開2006-128408(JP,A)
【文献】特表2008-536185(JP,A)
【文献】特開2008-262004(JP,A)
【文献】特開平09-236834(JP,A)
【文献】特表2007-535691(JP,A)
【文献】米国特許第06097870(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0010497(US,A1)
【文献】特開2008-197684(JP,A)
【文献】特開2003-124551(JP,A)
【文献】特表2015-519605(JP,A)
【文献】特開昭59-090826(JP,A)
【文献】Logan G. Wright et al.,"Controllable spatiotemporal nonlinear effects in multimode fibres",Nature Photonics,vol.9, no.5,英国,Nature,2015年04月13日,pp.306-310
【文献】G. Lopez-Galmiche et al.,"Visible supercontinuum generation in a graded index multimode fiber pumped at 1064 nm",Optics letters,米国,OSA,2016年05月25日,Vol. 41, No. 11,pp. 2553-2556
【文献】Ying Deng et al.,"Spatial and temporal self shaping for large mode area fiber laser system",Proc. of SPIE 8130, Laser Beam Shaping XII,米国,SPIE,2011年09月27日,pp.81300A-1 - 81300A-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
H03M 1/00-1/88
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子の多色ビームを生成する装置(DG)であって、前記装置(DG)が単一空間モードで少なくとも1個の波長を有する一次光子を伝送可能な少なくとも1個のパルスレーザー源(SL)と、入力ビーム(FE)を伝送すべく前記一次光子に作用可能な形成手段(MM)と、前記入力ビーム(FE)から、複数の波長を有する二次光子を含む多色出力ビーム(FS)を生成すべく構成された少なくとも1本の光ファイバ(FO)とを含み、前記パルスレーザー源(SL)が前記一次光子を、高励起エネルギーを有するパルスとして伝送可能であること、および前記光ファイバ(FO)が、少なくとも10個のモードを有し、その1個が基本モードと呼ばれ、前記モード間で前記一次光子の前記励起エネルギーが最初に分配され、前記光ファイバは、前記基本モードにおける前記一次光子の前記波長からの波長変換により各種波長の前記二次光子を生成する前に、カー効果を介して前記
励起エネルギーを前記基本モードに再配置するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記一次光子の前記励起エネルギーの前記再配置が、前記光ファイバ(FO)へのエネルギーの結合の変更、前記光ファイバ(FO)の芯の屈折率変動分布、および前記入力ビーム(FE)の偏光を含むグループから選択された少なくとも1個のパラメータにより制御されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記形成手段(MM)が、前記入力ビーム(FE)が前記光ファイバ(FO)の前記芯に発散的に結合されるように前記一次光子に作用すべく構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記形成手段(MM)が、前記入力ビーム(FE)が線形または楕円偏光されるように前記一次光子に作用すべく構成されていることを特徴とする、請求項2または3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記光ファイバ(FO)が、放物線分布、ガウス分布、超ガウス分布、三角形分布、ローレンツ分布、マルチローブ分布、二乗双曲線正割分布、および矩形分布を含むグループから選択された屈折率変動分布を有する芯を含んでいることを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記波長変換が、自己位相変調による変換、相互位相変調による変換、ラマン効果による変換、およびソリトン効果による変換、パラメータ混合による変換を含むグループから選択されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記光ファイバ(FO)にイオンが添加されていること、および前記二次光子への変換を増大させるべく前記イオンとの相互作用を意図された補助光子を前記光ファイバ(FO)に注入可能な補助レーザー源(SLA)を含んでいることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記光ファイバ(FO)が、前記一次光子の前記励起エネルギーの前記再配置を改善可能な長手方向の周期的マーキングを有していることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記光ファイバ(FO)が、断熱テーパー形状を有していることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記光ファイバ(FO)が、いわゆる「偏光維持」光ファイバであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記光ファイバ(FO)が、円形形状、矩形形状、および六角形形状を含むグループから選択された断面形状を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記光ファイバ(FO)に、前記一次光子の前記励起エネルギーの前記再配置を促進すべく機械的ストレスが加えられることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記光ファイバ(FO)が少なくとも20個のモードを有していることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
複数の光ファイバ(FO)を含んでおり、複数の光ファイバは、束ねられて一体となっていることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記パルスレーザー源(SL)が、数百ナノ秒~数十ナノ秒の範囲に含まれる持続期間を有するパルスの前記一次光子を伝送可能であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
i)前記入力ビーム(FE)を受光可能であって前記光ファイバ(FO)の進入側が固定された半反射入射鏡(ME)と、ii)前記出力ビーム(FS)を伝送可能な半反射出射鏡(MS)とを含む共振空洞(CR)を含んでいることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
カー効果を介した前記一次光子の励起エネルギーが、高モードまたはLP11モードに再配置可能であることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の少なくとも1個の生成装置(DG)を含み
、試料を分析すべく多色出力ビーム(FS)を伝送可能であることを特徴とする試料分析システム。
【請求項19】
多重コヒーレント反ストークスラマン散乱により前記試料の分析を実行可能であることを特徴とする、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
線形蛍光および非線形蛍光により前記試料の分析を実行可能であることを特徴とする、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子の多色ビームを生成すると共に、そのような装置を用いるシステムの分析を担う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
当業者には公知にように、特定の分野において、典型的には数十ナノメートル~数百ナノメートルの広いスペクトル幅にあたり実質的に連続して分布する波長を有する光子ビームを伝送するレーザー源が用いられる。これは特に試料(恐らく医学的試料)分析の分野に当てはまる。
【0003】
連続体と通常呼ばれるこれらの多色レーザー源は一般に、非線形効果を含む光と物質の相互作用の結果生じる。これらは多くの場合、「一次」波長を有する「一次」光子を伝送する少なくとも1個のパルスレーザー源、および多数の「二次」波長(互いに超連続体を形成する)を有する二次光子を含む出力ビームを一次光子から生成するための微細構造の光ファイバを含んでいる。
【0004】
非線形微細構造光ファイバは一般に二酸化ケイ素から作られ、光と物質の相互作用を増大させ、従って一次波長の多数の二次波長への変換を向上させるべく、光力を閉じ込めることを意図された微細構造を含んでいる。例えば、これらの微細構造は、光ファイバ内の光の伝搬方向と直交し、且つ光に見られる分散関係を変更可能なブラッグ格子を形成していてよい。
【0005】
この種のレーザー源、すなわち1個以上の微細構造光ファイバを用いるレーザー源により、近紫外(UV)(約350nm)から中赤外(典型的には5μm)までの範囲のスペクトル幅を有する安定した発光が得られる。二酸化ケイ素からなる微細構造光ファイバの性能は例えば約2.4μm超の赤外に制限される。
【0006】
不都合な点として、これらの微細構造光ファイバの芯は小径である。従って、内部に多量のエネルギーが閉じ込められている場合、芯材料が損傷する閾値に極めて急速に到達し、従って、当該光ファイバを用いるレーザー源が高出力エネルギーを伝送できなくなる。更に、これらの微細構造光ファイバが通常の分散領域で励起された場合、誘導ラマン効果を介して変換スペクトルが非連続的に生成され、従って当該ファイバを用いるレーザー源は真の連続体であるとは考えられない。
【0007】
その結果、当該レーザー源は、放射光のスペクトルの非連続性により、例えば多重コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微分光等の特定の用途に用いることができない。多重CARS顕微分光は特に、試料内または開いた空間における特定の化学種を識別および位置特定すべく撮像および分光の分野で用いられる。
【0008】
極めて高いエネルギーを有する超連続体の生成が求められる場合、単一モードまたは準単一モードの微細構造光ファイバよりも顕著に大きい芯径を有する光ファイバを用いる必要がある。この目的のため、マルチモード光ファイバを用いる場合がある。
【0009】
後者の種類の光ファイバは、より高いエネルギーを誘導することができるが、芯幅が大きいため誘導の分散を大幅に変更する能力は有していない。放射出力は複数のモード間で等しく配分されるため、出力放射の明度が大幅に低下する。
【0010】
超連続体は、特にラマン効果とパラメータ処理との組み合わせより、光ファイバ内で作成することができる。ラマン効果および分散領域に起因して、一次(または励起)波長を上回る波長で超連続体の二次光子が生成されるため、励起波を下回るスペクトル領域での二次波長の生成が困難になる。通常の分散領域に位置する励起波長の場合、超連続体の波長は、ラマン利得の非連続な形状に起因してパケット単位で生成されるため、真のスペクトル連続体の実現が妨げられる。ラマン変換により生じる部分的モーダルフィルタリングにもかかわらず、出力放射は多くのモードでも得られるため、レーザー源の明度および空間コヒーレンス性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、特に明度およびスペクトル連続性の状況を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特に、上述の目的のため、光子の多色ビームを生成することを意図され、単一空間モードで少なくとも1個の波長を有する一次光子を伝送可能な少なくとも1個のパルスレーザー源と、入力ビームを伝送すべく一次光子に作用可能な形成手段と、入力ビームから、複数の波長を有する二次光子を含む多色出力ビームを生成すべく構成された少なくとも1本の光ファイバとを含む装置を提供する。
【0013】
当該生成装置は、
-自身のパルスレーザー源が一次光子を、高励起エネルギーを有するパルスとして伝送可能であること、および
-各光ファイバが、少なくとも10個のモードを有し、その1個が基本モードと呼ばれ、当該モード間で一次光子の励起エネルギーが最初に分配され、且つ各光ファイバが、基本モードにおける一次光子の波長からの波長変換により各種波長の二次光子を生成する前に、非線形効果を介して当該励起エネルギーを基本モードに再配置可能であることを特徴とする。
【0014】
従って、高エネルギーパルスにより励起されたマルチモード光ファイバを用いることにより、有利な特徴として、連続スペクトルを有する、基本モード、且つ可視および赤外領域における極めて空間的にコヒーレントな光子超連続体を得ることが可能である。
【0015】
本発明による装置は、個別にまたは組み合わせて実装可能な他の特徴を有していてよく、特に
-一次光子の励起エネルギーの再配置は、(少なくとも)光ファイバへのエネルギーの結合の変更、光ファイバの芯の屈折率変動分布、および入力ビームの偏光から選択された少なくとも1個のパラメータにより制御することができ、
・当該装置の形成手段は、入力ビームが光ファイバの芯にある程度発散的に結合されるように一次光子に作用すべく構成されていてよく、
・当該装置の形成手段は、入力ビームが線形または楕円偏光され得るように一次光子に作用すべく構成されていてよく、
・当該装置の/各光ファイバは、(少なくとも)放物線分布、ガウス分布、超ガウス分布、三角形分布、ローレンツ分布、マルチローブ分布、二乗双曲線正割分布、および矩形分布を含むグループから選択された屈折率変動分布を有する芯を含んでいてよく、
-波長変換は、(少なくとも)自己位相変調による変換、相互位相変調による変換、ラマン効果による変換、およびソリトン効果による変換、パラメータ混合による変換から選択されてよく、
-当該装置の/各光ファイバにイオンが添加されていてよい。この場合、当該装置はまた、二次光子への変換を増大させるべくイオンとの相互作用を意図された補助光子を当該/各光ファイバに注入可能な補助レーザー源を含んでいてよく、
-当該装置の/各光ファイバは、一次光子の励起エネルギーの再配置を改善可能な長手方向の周期的マーキングを有していてよく、
-当該装置の/各光ファイバは、断熱テーパー形状を有していてよく、
-当該装置の/各光ファイバは、いわゆる「偏光維持」光ファイバであってよく、
-当該装置の/各光ファイバは、(少なくとも)円形形状、矩形形状、および六角形形状から選択された断面形状を有していてよく、
-当該装置の/各光ファイバに、一次光子の励起エネルギーの再配置を促進すべく機械的ストレスが加えられてよく、
-当該装置の/各光ファイバは少なくとも20個のモードを有していてよく、
-当該装置は、複数(少なくとも2本)の光ファイバを含んでいてよく、
-当該装置のパルスレーザー源は、数十ナノ秒~数百ナノ秒の範囲に含まれる持続期間を有するパルスの一次光子を伝送可能であってよく、
-当該装置は、一方で入力ビームを受光可能であって当該/各光ファイバの進入側が固定された半反射入射鏡、他方で出力ビームを伝送可能な半反射出射鏡を含む共振空洞を含
んでいてよく、
-非線形効果を介した一次光子の励起エネルギーの再配置は有利な特徴として、高モード、すなわちLP11モード以上で実行されてよい。
【0016】
本発明はまた、上に示す種類の少なくとも1個の生成装置を含み、試料を分析すべく多色出力ビームを伝送可能な試料分析システムを提供する。
【0017】
例えば、このようなシステムは、多重コヒーレント反ストークスラマン散乱(すなわちCARS)により試料の分析を実行可能であってよい。
【0018】
また、例えば、このようなシステムは、線形蛍光および非線形蛍光により試料の分析を実行可能であってよい。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な記述および添付図面を精査することにより明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による生成装置の第1の例示的実施形態を模式的且つ機能的に示す。
【
図2】本発明による生成装置の入射ビームの強度(P、単位:dB)の変動の一例を波長(λ、単位:nm)の関数としてグラフにより模式的に示す。
【
図3】
図2に示す変動のパターンのビームを入力ビームとして有する、本発明による生成装置の出力ビームの強度(P、単位:dB)の変動の一例を波長(λ、単位:nm)の関数としてグラフにより模式的に示す。
【
図4】本発明による生成装置の第2の例示的実施形態を模式的且つ機能的に示す。
【
図5】本発明による生成装置の第3の例示的実施形態を模式的且つ機能的に示す。
【
図6A】光ファイバ芯に対して入力ビームを集光およびデフォーカスさせる例を模式的に示す。
【
図6B】光ファイバ芯に対して入力ビームを集光およびデフォーカスさせる例を模式的に示す。
【
図7】入力ビームの2種類のクリーニングの結果を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の目的は特に、高明度の準単一モード出力ビームFSを生成すべく意図され、且つ実質的に連続な(超)連続体を画定する波長を光子が有する装置DGを提供することである。
【0022】
以下の記述において、生成装置DGは、非限定的な例を通じて、(任意選択的に医療用の)試料を分析するシステムの一部を形成することを意図されているものと考える。しかし、本発明はこの種のシステムに限定されない。具体的には、本発明は、光子の多色ビームを生成可能な少なくとも1個の装置を含むことを要する任意のシステムに関する。
【0023】
更に、以下の記述において、非限定的な例を通じて、分析システムは、試料の多重コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)分析を実行可能であると考える。このような試料は、例えば血液試料であってよい。しかし、本発明はこの種の分析に限定されない。従って、本発明はまた、例えば線形蛍光および非線形蛍光による試料の分析にも関する。
【0024】
一般に、本発明は多くの分野、特に生体光計測(および特に細胞診断)、干渉断層撮影、フローサイトメトリ、化学元素の遠隔スクリーニング(例:空港警備用)、身体検査(例:医療分野)、爆発物の検出、および細菌の検出に関する。
【0025】
図1、4、5に、本発明による生成装置DGの3個の非限定的な例示的実施形態を模式的に示す。
【0026】
図示するように、本発明による(生成)装置DGは、少なくとも1個のパルスレーザー源SL、形成手段MM、および少なくとも1個のマルチモード光ファイバFOを含んでいる。
【0027】
パルスレーザー源(または励起レーザー)SLは、以下で「一次」(または励起)波長と呼ばれる少なくとも1個の波長を有する「一次」光子と呼ばれるものを伝送可能である。当該一次(または励起)波長は、用途の要件、従って所望のスペクトル帯域に応じて選択される。従って、当該波長は、赤外(すなわちIR)、可視、または紫外(すなわちUV)領域に属する可能性がある。これらの一次光子はまた、複数の領域、例えば赤外波長およびその第2高調波)に属していてよい。
【0028】
また、パルスレーザー源SLは、高励起エネルギー(すなわちピーク励起強度)を有するパルスの一次光子を伝送可能である。好適には、当該ピーク強度は30kWより高く、これは5個のGW/cm2よりも高い強度に対応している。
【0029】
例えば、当該パルスレーザー源SLは、10ps~50nsの範囲のパルスを有する1064nmの光子を生成するNd:YAGレーザーを含んでいてよい。しかし、当該レーザー源はまた、例えば、マイクロレーザーまたはモードロックレーザーあるいは利得変調レーザーを含んでいてもよい。
【0030】
図1、4、5に非限定的に示す3個の例において、(生成)装置DGは入力ビームFEを生成する単一のパルスレーザー源SLだけを含んでいる。しかし、複数(少なくとも2個)のパルスレーザー源を含んでいてもよく、当該パルスレーザー源は互いに異なるが、必ずしもコヒーレントではない。
【0031】
形成手段MMは、集光またはデフォーカスされ得る入力ビームFEを伝送すべく一次光子に作用可能である。例えば、形成手段MMは、入力ビームFEが若干発散して光ファイバFOの芯に結合するように一次光子に作用すべく構成されていてよい。
【0032】
好適には、これらの形成手段MMはまた、入力ビームFEが選択された偏光(すなわち場の発振方向)を有するように一次光子に作用すべく構成されている。当該偏光は好適には線形である。しかし、円形または楕円形であってもよい。(励起)レーザー源SLが、既に偏光されたビームを伝送する、従って、後続の偏光が、特定の非線形効果を高めるべくレーザー空洞外の半波長プレートまたは四分の一波長プレートにより転回または変更され得る点に注意されたい。従って光ファイバFOに関する偏光の方位付け/変更により、最終的なスペクトルを(適度に)変更することができる。入力励起ビームの発散の変更により、比較的多くのモードを励起するように一次光子が結合することができる。
【0033】
図1、4、5に非限定的に示す3個の例において、形成手段MMは、一次光子の伝搬方向に対してパルスレーザー源SLの下流に、比較的多くのモードを励起すべく、集光またはデフォーカス効果を介して、一次光子を光ファイバFOに結合可能な選択された偏光(例:線形偏光)および集光レンズLFを一次光子に与え得る波長プレートLPを含んでいる。
図6A、6Bは各々、入力ビームFEの光ファイバFOの芯に対して集光および分散させる例を示す。波長プレートLPが集光レンズLFの後ろに配置できる点に注意されたい。
【0034】
当該/各光ファイバFOは極めてマルチモードであって、これは少なくとも10個のモード、および好適には少なくとも20個のモードを有し、これらの間で入力ビームFEの一次光子の励起エネルギーが最初に分配される。これらのモードの一つが基本モードと呼ばれる点に注意されたい。
【0035】
図1、4、5に非限定的に示す3個の例において、装置DGが単一の光ファイバFOだけを含む点に注意されたい。しかし、複数(少なくとも2個)の光ファイバFOを含んでいてもよい。
【0036】
当該/各光ファイバFOは、入力ビームFEを受信可能であって、入力ビームFEから、複数の波長を有する「二次」光子と呼ばれるものを含む多色出力ビームFSを生成すべく構成されている。例えば、非限定的に示すように、光ファイバFOの入射端は、入力を介して、入力ビームFEを受信する結合手段MCに堅牢に固定されていてよい。これらの結合手段MCは、例えば、入力ビームFEを光ファイバFOの入射端の芯により正確に再集光(または任意選択的にデフォーカス)する役割を果たすマイクロレンズに基づくカプラの形式をなしていてよい。
【0037】
当該/各光ファイバFOは、例えば、二酸化ケイ素または他の材料、例えばテルル化物、カルコゲニド、またはフッ化ガラスから作られていてよく、任意選択的に不純物が添加されていてよい。当該/各光ファイバFOは、例えばSF50OM2型または50/125屈折率勾配型であってよい。
【0038】
当該/各光ファイバFOは、各種波長を有する「二次」光子と称する光子を生成する前に、(自身の各種のモード間で分布された)励起エネルギーを、波長変換により、再配置に起因して基本モードにある一次光子の(一次または励起)波長から非線形効果を介して自身の基本モードに再配置する。
【0039】
一次光子が複数の波長を有する場合、それら全てが基本モードに「再配置」される点に注意されたい。
【0040】
一次(励起)光子は、自身の最大数のモードを励起すべく光ファイバFOに結合される。(一次光子の)励起エネルギーは従って、基本モードを呼ばれる単一モードへの自身の再配置(または自身の転移)を行わせるのに充分高い。これを「空間クリーニング」と称する場合がある。
【0041】
励起エネルギーの上述の転移(または再配置)は、少なくとも光ファイバFOへのエネルギー結合の変更、光ファイバFOの芯の屈折率変動分布、および入力ビームFEの可能な偏光から選択された少なくとも1個のパラメータを介して制御される。
【0042】
好適には、上述の3個のパラメータを用いて転移(または再配置)を制御する。この場合、上述のように、入力ビームFEが線形偏光されていることが好適である。同様に、この場合、光ファイバFOの芯が、少なくとも放物線分布、ガウス分布、超ガウス分布(例:ホールから生じた)、三角形分布、ローレンツ分布、マルチローブ分布、二乗双曲線正割分布、および矩形分布から選択された屈折率変動分布を有していることが好適である。
【0043】
再配置により実現される空間クリーニングは、光ファイバFOの各種モード間でのエネルギー転移の前駆として機能する非線形効果(より正確にはカー効果)の影響により生じる。そこから出力ビームFSの明度の大幅な向上が生じる。
【0044】
次に、基本モードに再配置された一次光子の全エネルギーを用いて、少なくとも1個の非線形効果から生じる波長変換により、赤外または可視領域にスペクトルを拡大する。
【0045】
好適には、これらの波長変換は、自己位相変調による変換、相互位相変調による変換、ラマン効果による変換、ソリトン効果による変換、およびパラメータ混合による変換の少なくとも1個から選択されている。ラマンカスケードによる変換に関して、励起エネルギーがラマン利得を飽和させることが、通常の分散領域でエネルギーの観点から出力スペクトルを平坦化可能にするため、好適である。
【0046】
図2に、装置DGの入力ビームFEの強度(単位:dB)の変動の一例を波長λ(nmで)の関数として示す。ここで、レーザー源SLは、(励起)波長が1064nmに等しい一次光子を生成する。
【0047】
図3に、入力ビームFEが
図2に示す変動パターンを有する場合に装置DGにより出力されたビームFSの強度(単位:dB)の変動の一例を波長λ(nmで)の関数として示す。同図から分かるように、実質的に連続なスペクトルはここで約800nmにわたり得られ、当該スペクトルはまた、特にエネルギーの観点から約400nmにわたり平坦である。このようなスペクトルは、多くの用途、特に多重CARSマイクロ分光学に良く適している。
【0048】
実質的に連続な多色出力ビームFSを取得可能にする機構のより詳細な記述を以下に与える。
【0049】
最初に、一次(励起)光子は、高出力の、(ここでは)長手方向に単色な、マルチモード光ファイバFOに結合された空間的に単一モードレーザー波を形成する。光ファイバFOの先頭数センチメートルへ伝搬する間、当該レーザー波の空間分布は変更され、各種モード間でのグループ速度の差異の影響下で僅かにマルチモードになる。
【0050】
これらのモード間の線形結合により、光ファイバFOを通る伝搬の全長にわたり周期的画像(ホットスポット)が得られる。この周期性は、相互作用するモードの伝搬定数に依存する。
【0051】
高出力であるため、当該周期的画像は、(カー効果を介して)光ファイバFOの芯の屈折率の周期的な変調を可能にし、次いでモード間で位相整合をもたらす(これがいわゆる4波混合である)。当該位相整合は次いで、各種モードのエネルギーの、最低速度を有するモードすなわち基本モード)への転移を可能にする。
【0052】
その後、(転移から生じる)高エネルギーに起因して、当該基本モードは、自己位相変調の影響下で他のモードから分離することにより、エネルギー転移の処理を停止して当該単一基本モードのエネルギーを完全に閉じ込める。一次光子のエネルギーは従って基本モードへ再配置される。
【0053】
本発明の一変型例によれば、非線形効果を介した一次光子の励起エネルギーの再配置を高モード、LP11モード、またはおり高いモードで実行されてよい点に注意されたい。
図7に、入力ビームの2種類の「クリーニング」、すなわち基本モード(矢印A)のクリーニング、および高次L11モード(矢印B)のクリーニングを示す。
【0054】
次に、ファイバに存在する波長変換機構(自己位相変調および/または相互位相変調および/またはラマン効果および/またはソリトン効果および/またはパラメータ混合)の影響下で、当該単一直交基本モードの一次光子の波長が同じく当該基本モードの他の波長に変換される。換言すれば、光の超連続体は単一の空間モードで得られる。
【0055】
レーザー源SLが、一次光子を数百ナノ秒~数十ナノ秒の範囲に含まれる持続期間を有するパルスとして伝送可能である点に注意されたい。これらの好適なパルス持続期間は、当該伝搬領域が、励起エネルギーが分配される各種モード間での時間的分離の影響が無視できることを保証すべく意図されている(従ってパルスの継続期間はモード間のグループ時間差よりも長くなければならない)。持続期間がより短い場合は分散効果が問題となり、持続期間がより長い場合は高ピーク強度を有するパルスを得ることは困難である。
【0056】
図4の第2の例に非限定的に示すように、装置DGはまた、当該装置の/各光ファイバFOを収容する共振空洞CRを含んでいてよい点に注意されたい。当該共振空洞CRにより、非線形波長変換の増幅をもたらし得る二次光子の振動を可能にする。当該共振空洞CRは好適には長い一次パルスと共に用いられる。このような共振空洞CRは、一方では、入力ビームFEを受光可能であって、例えば当該/各光ファイバFOの入射が固定されている半反射入射鏡ME、他方では、例えば光ファイバFOの出口が固定されていて、出射ビームFSを伝送可能な半反射出射鏡MSを含んでいてよい。
【0057】
また、当該/各光ファイバFOにイオンが添加されていてよい点に注意されたい。この場合、且つ
図5の第3の例に非限定的に示すように、装置DGはまた、光ファイバFOに、二次光子への変換を増大させるべくイオンとの相互作用を意図された補助光子を注入可能な補助レーザー源SLAを含んでいてよい。
【0058】
例えば、当該/各光ファイバFOに、希土類イオン、特にネオジムイオン、イッテルビウムイオン、プラセオジミウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン、またはツリウムイオンが添加されていてよい。一例として、補助レーザー源SLAの発光波長は、イッテルビウム(Yb)およびエルビウム(Er)イオンでは980nmに等しくてよく、またはネオジム(Nd)イオンでは808nmに等しくてよい。
【0059】
一変型として、当該/各光ファイバFOには他の種類のイオン、例えばゲルマニウムまたはクロミウムイオンが添加されていてよい。
【0060】
また、当該/各光ファイバFOが、一次光子の励起エネルギーの再配置を改善可能な長手方向の周期的マーキングを有していてよい点に注意されたい。当該マーキングは、2個の単色波長(従って「光学ポーリング」に言及する)を発することにより生成できるが、二酸化ケイ素の芯の屈折率を局所的に変更するUVレーザーによる反復的照射により生成されてもよい。
【0061】
また、当該/各光ファイバFOが断熱テーパー形状を有していてよい点に注意されたい。光ファイバFOの芯の当該テーパーの目的は、高次モードをフィルタリングすることによりビームのクリーニング度合を向上させることである。
【0062】
また、当該/各光ファイバFOが「偏光維持」光ファイバであってよい点に注意されたい。具体的には、偏光状態の変更は、他の波長への非線形変換の効率を低下させる場合がある。
【0063】
また、当該/各光ファイバFOが、少なくとも円形形状、矩形形状、および六角形形状から選択された断面形状を有していてよい点に注意されたい。当該配置により、モードの伝搬定数が変更可能になり、より多くの、または少ない個数の4波モード混合型の非線形効果が生じ得る。
【0064】
また、当該/各光ファイバFOに、一次光子の励起エネルギーの再配置を促進すべく機械的ストレスが加えられてよい点に注意されたい。この目的のため、当該/各光ファイバFOは、例えば当該装置の回りに巻かれて内部に機械的ストレスを(受動的または能動的に)生じさせることができ、これらのストレスは、各種モード間の直交性を壊し、従って空間再配置の生起を促進する。例えば、機械心棒の回りに光ファイバFOが巻かれていてよい。心棒の直径の変更により光ファイバFOが伸長する結果、機械的ストレスが生じる。
【0065】
また、複数の光ファイバFOを1本ずつ用いて、任意選択的に異なる特性を発揮させることが考えられる点に注意されたい。これにより、例えば、スペクトルを段階的に拡張する間に材料の透明度を適合させることができる。一例として、2.4μmまで伸ばすには二酸化ケイ素製の光ファイバを用い、次いで5μmを実現するためにフッ化物ガラス製の光ファイバを用いることが可能である。これもまた、材料の非線形性を伝搬の全長にわたり適合させることができる。
【0066】
本発明は多くの利点を有しており、特に、
-本発明により、実質的に連続な(超)連続体が高スペクトル出力で得られ、
-本発明により、一般に多モード伝搬により劣化する、広帯域放射のコヒーレンスを向上させることができる。