(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】薬物送達システム及びゲムシタビンによる膀胱がんの治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20220421BHJP
A61M 5/14 20060101ALI20220421BHJP
A61M 31/00 20060101ALI20220421BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20220421BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220421BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61M5/14
A61M31/00
A61M37/00
A61P35/00
A61P13/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019184023
(22)【出願日】2019-10-04
(62)【分割の表示】P 2016555554の分割
【原出願日】2015-03-06
【審査請求日】2019-10-31
(32)【優先日】2014-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514274409
【氏名又は名称】タリス バイオメディカル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ギーシング,デニス
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒジン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル,カレン
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/106714(WO,A1)
【文献】特表2013-504584(JP,A)
【文献】特表2017-508749(JP,A)
【文献】国際公開第2011/089604(WO,A2)
【文献】UROLOGY,2004年,Vol.64, No.4,P.845-848
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A61M 5/00-5/52
A61M 31/00
A61M 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビンを含む、ヒトの患者の膀胱中に前記ゲムシタビンを局所投与して、膀胱組織中に治療濃度の前記ゲムシタビンを生じさせるために十分な、持続する濃度の前記ゲムシタビンを前記膀胱内の尿中に得ることによって、前記ヒトの患者の膀胱がんの治療に用いるための薬剤であって、
前記患者の膀胱中に局所投与することが、1mg/日~約
100mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてであり、
前記ゲムシタビンが、
3日~
21日の期間にわたって前記ゲムシタビンを膀胱内の尿中に連続的に放出する膀胱内薬物送達デバイスから膀胱中に送達さ
れ、
前記膀胱内薬物送達デバイスが、前記ゲムシタビンを収容し且つ制御可能に放出し、前記デバイスを患者の膀胱中に保持するように構成される保持形状と、該デバイスを患者の尿道を通過させるための配置形状との間で弾性的に変形可能な筐体を備え、
前記筐体が、浸透圧により前記ゲムシタビンを放出するように構成されている、
前記薬剤。
【請求項2】
前記患者の膀胱中に局所投与することが、5mg/日~100mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記患者の膀胱中に局所投与することが、10mg/日~50mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記患者の膀胱中に局所投与することが、15mg/日~25mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記患者の膀胱中に局所投与することが、約20mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである、請求項1に記載の薬剤。
【請求項6】
前記ゲムシタビンが、
3日~14日の期間にわたって前記尿中に放出される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記ゲムシタビンが、
3日~7日の期間にわたって前記尿中に放出される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記がんが、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
前記患者が、前記膀胱内薬物送達デバイスの前記膀胱への配置の前に、経尿道的切除術を受けている、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記筐体中に収容される前記ゲムシタビンが非液体状態である、請求項
1に記載の薬剤。
【請求項11】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の薬剤を備える
、膀胱がんの治療に用いられる薬物送達デバイスであって、
前記デバイスは、該デバイスが膀胱中に挿入された場合に、
3日~21日の期間にわたって1mg/日~約100mg/日の前記ゲムシタビン
の平均量で前記ゲムシタビンを
膀胱内の尿中に連続的に放出するように構成される、
前記デバイス。
【請求項12】
膀胱内挿入のために構成された筐体、及び
ゲムシタビンを含む剤形
を備える薬物送達デバイスであって、
前記筐体が、前記剤形を保持し且つ前記ゲムシタビンを膀胱の治療に治療上有効な量で膀胱中に放出するように構成され、
当該デバイスが、
3日~
21日の期間にわたって1mg/日~約
100mg/日の前記ゲムシタビン(FBE)の平均量で前記ゲムシタビンを前記膀胱中に連続的に放出するように構成され、
前記筐体が、当該デバイスを患者の膀胱中に保持するように構成される保持形状と、当該デバイスを患者の尿道を通過させるための配置形状と、の間で、弾性的に変形可能であ
り、
前記筐体が、浸透圧により前記ゲムシタビンを放出するように構成されている、
前記薬物送達デバイス。
【請求項13】
前記筐体が
、と共に前記ゲムシタビンが収容される薬物貯留部と連通する放出孔を備える、請求項
12に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2014年3月6日出願の米国仮特許出願第61/949,215号の優先権を主張し、該出願は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、発生をがんの治療に関係付け、より詳細には、膀胱がんの治療のための組成物、デバイス、及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
膀胱がんは重要な医学上の課題であり、現在利用可能な治療の選択肢は多くの理由により満足のいくものではない。
【0004】
概括的には、膀胱がんは筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)または筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)として分類される。膀胱がんの病理学的分類及び病期分類は次の通り、すなわち、pTa(尿路上皮病変)、pTis(高危険度尿路上皮限局)、pT1(粘膜固有層浸潤)、pT2(筋層浸潤)、pT3(膀胱周囲脂肪浸潤)、及びpT4(骨盤臓器伸展)である。膀胱がんはまた、異型度1/3(十分に分化)、異型度2/3(中程度に分化)、異型度3/3(不十分な分化)として、異型度によって分類することもできる。更に、膀胱がんは、病期0~IVとして病期によって分類することもできる。殆どの膀胱がんは上皮起源の移行上皮がんであり、膀胱の内壁に限局される筋層非浸潤性がん(NMIBC)に分類される。初期症状においては、殆どの膀胱がんは表在性NMIBCであり、病期pTa、pTis及びpT1疾患が挙げられる。MIBCとしては病期pT2、pT3及びpT4が挙げられる。
【0005】
一般的な初期膀胱がんの臨床プロトコルは、膀胱鏡検査での可視化及びそれに続く、経尿道的切除術(TUR)として知られる腫瘍(複数可)の外科的除去である。しかしながら、術後の再発率が高く、上記のがんが筋層浸潤性疾患へと進行する場合がある。そのため、再発の発生率及び重篤度を予防または遅延することを助けるために、手術は多くの場合、補助的治療である化学療法剤または免疫療法剤の膀胱内への導入(カテーテルを介した膀胱中への化学療法剤の直接投与)と組み合わされる。カルメット・ゲラン桿菌(BCG)はかかる免疫療法剤であり、一般的には手術後に膀胱に点滴注入される。しかし、BCGは多くの患者に奏功せず、その上BCGによる治療は、治療の中止に至らしめる様々な副作用を誘発し得る。化学療法剤は、通常、BCG療法が奏功しなかった患者のために留保される。化学療法は一般的に膀胱内に適用され、腫瘍部位に化学療法剤を集中させ、切除後に残存する腫瘍のいずれをも除去する一方、当該薬物の全身的な曝露を回避する。
【0006】
膀胱がんを治療するための臨床治験に用いられるかかる化学療法剤の一つはゲムシタビンである。ゲムシタビン(2’,2’-ジフルオロデオキシシチジン)は、転移性膀胱がんに対する活性を有するピリミジン類縁体である。ゲムシタビンはまた、表在性膀胱がん及びNMIBCを治療するための臨床治験においても、種々の週単位のスケジュールによる膀胱中への点滴注入によって使用されてきた。一般的には、ゲムシタビンは、一般的に500~2000mgの範囲の用量を最大で100mlの生理食塩水中で、週に1回または2回、数週の間、1~2時間にわたって点滴注入される。
【0007】
かかる製剤は、十分な効果が得られる前に膀胱から排泄されることが知られている。1~2時間という短い滞留時間により治療上の便益性が制限される。更に、上記滞留時間の制限を克服しようとするために、治療組織濃度を得ようと、高濃度(40mg/ml)且つ高用量(1回の点滴注入当たり最大で2グラム)が用いられる。しかしながら、ゲムシタビンの高用量の膀胱内投与は、顕著な全身での吸収につながり、消化管、膀胱及び骨髄毒性を引き起こし、局所的な忍容性の問題に加えて、更に臨床的有用性を制限する可能性がある。
【0008】
文献はまた、例えば90分にわたる、ゆっくりとした静脈内点滴よりも、例えば、1~2分にわたる、ボーラス注射によるゲムシタビンの静脈内全身投与の方が、患者により忍容されることを報告している。このことは、ゲムシタビンへの長期の曝露は毒性を増加させ、これを避けるべきであることを示唆している。
【0009】
従って、膀胱がんを治療するための改善された薬物送達方法及びシステムの必要性が依然として存在する。例えば、毒性及び忍容性の問題であって、それらが認められてゲムシタビンの臨床的有用性を制限することとなった上記毒性及び忍容性の問題を回避または軽減しつつ、患者に持続的な期間にわたって治療濃度のゲムシタビンを投与する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0010】
一態様において、ゲムシタビンを含む、患者の膀胱中に上記ゲムシタビンを局所投与して、膀胱組織中に治療濃度の上記ゲムシタビンを生じさせるために十分な、持続する濃度の上記ゲムシタビンを膀胱内の尿中に得ることによって、膀胱がんの治療に用いるための薬剤であって、上記患者の膀胱中への局所投与が、1mg/日~約300mg/日の上記ゲムシタビンの遊離塩基当量(FBE)の平均量においてである、上記薬剤が提供される。実施形態において、上記患者の膀胱中への局所投与は、1mg/日~200mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)、5mg/日~100mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)、10mg/日~50mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)、または15mg/日~25mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである。一ケースにおいて、上記患者の膀胱中へ局所投与することは、約20mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである。上記患者の膀胱中への局所投与は連続的または断続的であってよい。実施形態において、上記連続的または断続的な投与は、1日~30日、1日~14日、または1日~7日にわたる。
【0011】
好ましい実施形態において、上記ゲムシタビンが、持続的な期間にわたって上記ゲムシタビンを膀胱内の尿中に連続的に放出する膀胱内薬物送達デバイスから膀胱中に送達される。別の実施形態において、上記ゲムシタビンが膀胱に塗布されたコーティング物質から膀胱中に送達され、上記コーティング物質(例えば、粘膜付着性製剤)が持続的な期間にわたって膀胱内の尿中に上記ゲムシタビンを放出する。更に別の実施形態において、液体状態の上記ゲムシタビンが、膀胱中へと配置された尿道カテーテルまたは恥骨上カテーテルを通して、持続的な期間にわたって膀胱中に圧送される。
【0012】
別の態様において、膀胱がんの治療を要する患者に対してゲムシタビンを投与するための薬物送達デバイスであって、上記患者の膀胱中にゲムシタビンを膀胱内投与して、膀胱の組織中に治療上有効な濃度の上記ゲムシタビンを生じさせるために十分な、持続する濃度の上記ゲムシタビンを膀胱内の尿中に得ることによって上記投与がなされる、上記デバイスが提供される。特定の実施形態において、上記薬物送達デバイスは、膀胱内挿入のために構成された筐体、及びゲムシタビンを含む剤形を備え、上記筐体は、上記剤形を保持し且つ上記ゲムシタビンを膀胱の治療に治療上有効な量で膀胱中に放出するように構成され、上記デバイスは、1mg/日~約300mg/日の前記ゲムシタビンの平均量でゲムシタビンを膀胱中に放出するように構成される。好ましい実施形態において、上記筐体は、予め設定された放出開口部を有することなく上記ゲムシタビンを放出する。この好ましい実施形態の特定の形態において、上記筐体は、薬物透過性のポリマー壁材を通過する拡散によって上記ゲムシタビンを放出する。上記ゲムシタビンを収容し且つ制御可能に放出する上記筐体は、上記デバイスを患者の膀胱中に保持するように構成される保持形状と、該デバイスを患者の尿道を通過させるための配置形状との間で弾性的に変形可能であってもよい。
【0013】
更に別の態様において、患者の膀胱中に上記ゲムシタビンを局所投与して、膀胱組織中に治療濃度の上記ゲムシタビンを生じさせるために十分な、持続する濃度の上記ゲムシタビンを膀胱内の尿中に得ることによる膀胱がんの治療方法が提供される。実施形態において、上記患者の膀胱中への局所投与は、1mg/日~約300mg/日の上記ゲムシタビン(FBE)の平均量においてである。一実施形態において、上記方法は、上記患者に少なくとも第2の治療薬を投与することを更に含む。上記第2の治療薬は膀胱内投与されてもよい。別の実施形態において、上記方法は、尿素または別の溶解性変更剤を、上記ゲムシタビンの可溶化を向上させる若しくは他の形態で変更するために有効な量で、膀胱中に投与することを更に含む。実施形態において、上記第2の治療薬及び/または上記溶解性変更剤は、上記ゲムシタビンを放出する膀胱内デバイスから放出される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1A~1Bは、本明細書に記載の、ゲムシタビンを投与するために用いることができる膀胱内薬物送達デバイスの一実施形態を図解する図である。
【
図2】
図2A~2Bは、本明細書に記載の、ゲムシタビンを投与するために用いることができる膀胱内薬物送達デバイスの別の実施形態を図解する図である。
【
図3】
図3A~3Cは、本明細書に記載の、ゲムシタビンを投与するために用いることができる膀胱内薬物送達デバイスの更に別の実施形態を図解する図である。
【
図4】
図4A~4Bは、本明細書に記載の、ゲムシタビンの局所投与のための、患者の膀胱中への膀胱内薬物送達デバイスの挿入方法を図解する図である。
【
図5A】本明細書に記載の、ゲムシタビンの局所投与のための、膀胱壁の内表面に塗布される物質を図解する図である。
【
図5B】本明細書に記載の、ゲムシタビンの局所投与のための、膀胱壁の内表面上へのコーティング物質の塗布方法を図解する図である。
【
図6】液体薬物または薬物製剤の膀胱中への塗布方法を図解する図である。
【
図7】膀胱灌流及び静脈内投与後の前立腺におけるゲムシタビンの濃度を図解する図である。
【
図8】膀胱灌流及び静脈内投与後のゲムシタビンの血漿濃度を図解する図である。
【
図9】膀胱灌流及び静脈内投与後の膀胱中の
14Cゲムシタビン濃度を図解する図である。
【
図10】
図10A~Cは、透過ディスクを介してゲムシタビンを放出するための膀胱内薬物送達デバイスの一実施形態を図解する図である。
図10Aは当該デバイスの平面図である。
図10Bは、
図10Aに示すデバイスの4の薬物貯留モジュールの内の1の断面図であり、各モジュールの薬物の錠剤及び透過ディスクを示す。
図10Cは、
図10Aに示すデバイスの筐体/本体の一部の、当該デバイスの他の部材と組み立てる前の斜視図である。
【
図11】
図10A~Cに示すデバイスからイン・ビトロで放出されるゲムシタビンの累積量を示すグラフである。
【
図12】
図10A~Cに示すデバイスからイン・ビトロで放出されるゲムシタビンの累積量を示すグラフである。
【
図13】動物実験による、ゲムシタビン、dFdU及びそれらの組み合わせの尿中濃度をそれぞれ示すグラフである。
【
図14】動物実験による、ゲムシタビン、dFdU及びそれらの組み合わせの尿中濃度をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
膀胱内投与によるゲムシタビンの連続的送達によって、著しい血漿の/全身的な曝露を伴わずに、予想外の膀胱壁の厚さ方向の薬物分布が得られ、膀胱の全ての層において、予測される治療上の閾値のまたはそれを上回る薬物濃度が得られることが見出された。従って、本明細書に記載の組成物、システム、及び方法は、必要とされる膀胱の組織において治療上有効な量のゲムシタビンを得るために用いることができる一方で、正常な膀胱組織において十分に忍容され、全身的な曝露を最小限にもする。
【0016】
本明細書で用いられる用語「ゲムシタビン」は、上記化合物ゲムシタビン並びにその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物及びプロドラッグを包含する。詳細には、ゲムシタビンの塩酸塩が含まれる。上記ゲムシタビンは、1種または複数種の適宜の薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化することができる。
【0017】
特定の実施形態において、膀胱の組織中で治療濃度の上記薬物を生じさせ且つ維持するために十分な濃度で及び十分な時間にわたって、患者の膀胱内の尿中に制御された量のゲムシタビンが溶解する。但し、膀胱は全体的な循環への尿成分の吸収を制限するため、当該薬物に対する全身的な曝露は有利に最小化される。
【0018】
必要なゲムシタビンの尿中濃度を得るためには、様々な方法を用いることができる。一実施形態において、上記薬物は単純な溶液を膀胱内へ直接点滴注入することによって供給することができる。例えば、上記薬物の溶液を、尿道カテーテルまたは恥骨上カテーテルを通して、連続的またはパルス状の形態で、治療期間にわたって膀胱内に圧送してもよい。別の実施形態において、上記薬物は膀胱内に配置されたデバイスまたは組成物から放出され、該デバイスまたは組成物は、指定された治療期間にわたって、所望の薬物の尿中濃度を生じさせるために有効な速度で、(連続的または断続的に)該薬物を放出する。例えば、該薬物は膀胱内挿入デバイスから膀胱中に放出されてもよく、次いで該薬物は膀胱中に拡散する。治療期間の終了時に、上記デバイスは膀胱から回収されてもよく、または該デバイスは、吸収される、溶解する、排泄される、またはそれらを組み合わせることによって除去されてもよい。
【0019】
好ましい実施形態において、上記ゲムシタビンは、膀胱内デバイスから膀胱に投与される。本明細書に記載の投与計画を達成するように適合させることができる膀胱内薬物送達デバイス、及びそれらのデバイスを膀胱内に配置する方法の例が、以下の米国特許出願公開に記載される。すなわち、US2012/0203203(Leeら)、US2012/0089122(Leeら)、US2012/0089121(Leeら);US2011/0218488(Boykoら)、US2011/0202036(Boykoら)、US2011/0152839(Cimaら)、US2011/0060309(Leeら)、US2010/0331770(Leeら)、US2010/0330149(Danielら)、US2010/0003297(Tobiasら)、US2009/0149833(Cimaら)、US2007/0202151(Leeら)、WO2014/144066(Leeら)、U.S.2014/0276636(Leeら)、及びWO2015/026813(Leeら)である。
【0020】
上記ゲムシタビンが膀胱内薬物送達デバイスから送達される実施形態において、該薬物は、上記デバイス中に種々の形態で収容することができ、該形態は、該デバイスが該薬物を制御可能に膀胱内の流体(例えば、尿)中に放出する特定の機構に依存し得る。いくつかの実施形態において、上記薬剤は、固体、半固体、または他の非液体状態で供給され、このことによって、該デバイスが使用される前に、該薬物を安定的に貯蔵することが有利に容易になり、また該デバイスの薬物積載量を、該薬剤が液体の溶液の形態で収容される場合に可能であるはずの容量よりも有利に、より小さな容量で収納することを可能にする場合がある。ある実施形態において、上記非液体状態は、錠剤、顆粒剤、半固体(例えば、軟膏、クリーム、ペースト、またはゲル)、カプセル剤、及びそれらの組み合わせから選択される。一実施形態において、上記薬物は、米国特許第8,343,516号に記載のミニ錠剤などの複数の錠剤の形態である。他の実施形態において、上記薬物は、1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む溶液などの、液体状態で収容されてもよい。
【0021】
ある実施形態の薬物送達デバイス100が
図1Aに示される。このデバイス100は、薬物貯留部102及び保持フレーム部104を有するデバイス本体を備える。
図1において、デバイス100は、体内での保持に適した相対的に拡がった形状で示されている。体内への配置に続いて、デバイス100は、体腔または管腔内に薬物送達デバイスを保持するための、相対的に拡がった形状をとってもよい。
【0022】
本開示の目的に対して、「相対的に拡がった形状」、「相対的に高断面の形状」または「保持形状」などの用語は、当該デバイスを膀胱中に保持するために適した、
図1に示すプレッツェル形状を始めとする、但しこれに限定されない、意図される移植位置に当該デバイスを保持するために適した任意の形状を概括的に表わす。同様に、「相対的に低断面の形状」または「配置形状」などの用語は、尿道内に位置するカテーテル、膀胱鏡、またはその他の配置用器具の作業用導管内を通じて当該デバイスを配置するために適した直線状のまたは細長い形状を始めとする、当該の薬剤送達デバイスを体内に配置するために適した任意の形状を概括的に表わす。実施形態において、上記薬物送達デバイスは、自然に相対的に拡がった形状をとることができ、手動でまたは外部装置を用いるかのいずれかで、身体への挿入のための相対的に低断面の形状に変形させてもよい。上記デバイスは、配置されると自発的に、すなわち自然に、体内に保持するための初期の相対的に拡がった形状に復帰することができる。
【0023】
図解した実施形態において、薬物送達デバイス100の薬物貯留部及び保持フレーム部102、104は長手方向に配列され、それらの長さに沿って互いに結合されている。但し、他の構成も可能である。薬物送達デバイス100は、薬物貯留管腔108(すなわち、薬物筐体)及び保持フレーム管腔110を画成する、弾性または可撓性のデバイス本体106を備える。薬物貯留管腔108は、当該薬物を含む薬物製剤を収容するように設計される。図解した実施形態において、ゲムシタビンを含む上記薬物製剤は、多数の固体薬物ユニット112の形態であり、112は錠剤であってよい。保持フレーム管腔110は保持フレーム114を収容するように設計され、保持フレーム部104を形成する。図解される管腔108、110は相互に分離されている。但し、他の構成も可能である。
【0024】
図1Bの断面図に示すように、デバイス本体106は、薬物貯留管腔108を画成する管材または壁材122と、保持フレーム管腔110を画成する管材または壁材124とを備える。管材122、124及び管腔108、110は実質的に円筒形であってもよく、薬物貯留管腔108は保持フレーム管腔110よりも相対的により大きな径を有する。但し、例えば、送達される薬物の量、保持フレームの径、及び配置用器具の内径などの配置の考慮に基づいて、他の構成を選択することができる。保持フレーム管腔110を画成する壁材124は、図示するように、保持フレーム管腔110が薬物貯留管腔108と同様の長さを有するように、薬物貯留管腔108を画成する壁材122の全長に沿って延在していてもよい。但し、他の実施形態においては、一方の壁材は他方の壁材よりも短くてもよい。2の壁材122、124は、図解する実施形態において、当該デバイスの全長に沿って接合される。但し、断続的な接合を用いることもできる。
【0025】
図1Aに示すように、薬物貯留管腔108には多数の(ゲムシタビンを含む)薬物ユニット112が直列配置で充填される。例えば、貯留部及び薬物ユニットの大きさに応じて、本質的には任意の数の薬物ユニットを用いることができる。薬物貯留管腔108は、第1の末端開口部130及び反対側の第2の開口部132を備える。薬物ユニット112が充填された後、固定用の栓120が開口部130及び132に配置される。この実施形態においては、固定用の栓120は円筒形の栓であり、開口部130、132内に固定される。他の実施形態において、開口部130及び132は他の構造体または材料で閉止され、該構造体または材料としては、特定の実施形態に応じて、使用中に水または薬物が出入りし易くするために、開口部または透水性若しくは薬物透過性の壁材を挙げることができる。
【0026】
他の実施形態において、上記薬物貯留管腔には、固体薬物ユニット以外のゲムシタビンの形態が充填されてもよい。ゲムシタビンは、例えば、油性若しくは水性のビヒクル中の懸濁液、溶液、または乳化液の形態をとっていてもよく、また、懸濁化剤、安定化剤及び/または分散剤などのformulatory agentsを含有してもよい。あるいは、上記活性成分は、使用前に、適宜のビヒクル、例えば、無菌であり発熱物質を含まない水を用いて構成するための、無菌の固体の無菌的な単離によってまたは溶液からの凍結乾燥によって得られる粉末形態であってもよい。
【0027】
一実施形態において、上記ゲムシタビンは、上記デバイスの筐体の放出開口部からの可溶化されたゲムシタビンの放出を制御するための増粘剤を含む、1種または複数種の賦形剤と共に製剤化される。別の実施形態において、上記デバイスの貯留部はゲムシタビンと増粘剤との両方を備えるが、ゲムシタビンと増粘剤とは共製剤化されるのではなく、例えば別個の錠剤として貯留部内の別個の領域に供給される。医薬分野においては、ポリエチレンオキシド(PEO)を始めとする、但しこれに限定されない適宜の増粘剤が公知である。上記実施形態のいくつかの変化形においては、上記増粘剤は、例えば尿素または別の浸透圧剤と共に製剤されて供給されてもよい。
【0028】
一実施形態において、上記ゲムシタビンは溶解性向上剤と共に患者に投与される。ある実施形態において、上記溶解性向上剤は尿素である。一実施形態において、上記尿素は錠剤または他の固体の形態で供給され、膀胱内薬物送達デバイスの薬物貯留部にゲムシタビンと共に充填される。デバイスによっては、上記尿素は浸透圧剤としても機能して、薬物貯留部内で浸透圧を容易に生じさせることができる。特定の実施形態において、上記ゲムシタビン及び浸透圧剤は、参照によって本明細書に援用されるPCT WO2015/026813(Leeら)に記載されるように、薬物貯留部の異なる領域内に配置される別個の錠剤(または他の固体形態)として構成される。
【0029】
保持フレーム管腔110には保持フレーム114が充填され、114は例えば、ニチノールなどの超弾性合金である弾性線材であってよい。保持フレーム110は、図解した例である「プレッツェル」形状または上記において援用された出願に開示されるものなどの、別のコイル状の形状などの保持形状に、自然に復帰するように構成されてもよい。詳細には、保持フレーム114は、膀胱中などの体内にデバイス100を保持することができる。例えば、保持フレーム114は、デバイス100を相対的に低断面の形状で体内に導入することを可能にし、デバイス100が体内に入った後に相対的に拡がった形状に復帰することができるようにし、且つ上記デバイスが、排尿筋の収縮及び排尿に伴う流体力学的な力などの予想される力に応答して、体内で相対的に低断面の形状をとることを妨げる、弾性限界及び弾性率を有していてもよい。かくして、デバイス100は、偶発的な排出を制限または防止して、移植された後に体内に保持され得る。
【0030】
デバイス本体106を、少なくとも部分的に、形成するために用いられる材料は、デバイス100が配置形状と保持形状との間で動くことを可能にするために、弾性または可撓性であってよい。該デバイスが保持形状にあるときには、保持フレーム部104は図示されるように、薬物貯留部102の内側に位置する傾向であり得る。但し、他のケースにおいては、保持フレーム部104は、薬物貯留部102の内側、外側、上、または下に位置することができる。
【0031】
デバイス本体106を形成するために用いられる材料は、当該デバイスが移植された後、可溶化する流体(例えば、尿)が薬物貯留部102に入り込んで薬物ユニット112を可溶化するように透水性であってよい。例えば、シリコーンまたは別の生体適合性エラストマー材料を用いてもよい。他の実施形態において、上記デバイス本体は、少なくとも部分的に、非透水性の材料で形成されてもよい。
【0032】
図2Aは、別の実施形態の膀胱内薬物送達デバイス200を図解し、200は薬物212が充填された薬物貯留部202及び留め具230で連結された2のフィラメント220、222を含む保持構造体を備える。図示されるように、薬物貯留部202は、
図2Aに示す形状などの相対的に直線状の配置形状と、
図2Bに示す形状などの相対的に円形の保持形状の間で変形することができる細長い管材である。薬物212は、薬物貯留部202が上記2の形状の間で動くことができるように、柔軟な形態の管材内に充填されてもよい。例えば、薬物212は、多数の固体薬物の錠剤、液体剤、またはゲル剤であってもよい。フィラメント220、222は薬物貯留部202の両端部に取り付けられ、留め具230によって連結されてもよい。止め具230を調節して、一方のフィラメント220の位置を他方の222に対して調節し、それによって薬物貯留部202の一方の端部の位置を他方の端部に対して調節することができる。フィラメント220、222を調整して薬物貯留部202の両端部を互いにより近くに引き寄せることによって、デバイス200は保持形状をとることができ、その後に、留め具230によるフィラメント220、222の調節を防止することによって、デバイス200は保持形状で保持することができる。かかる実施形態においては、デバイス200が膀胱内に挿入された後に、手動でフィラメント220、222を調節することによって、デバイス200は手動で保持形状へと調節される。
【0033】
図解した実施形態において、留め具230はcinch nutであり、該cinch
nutは、薬物貯留部の両端部と当該cinch nutとの間のフィラメント220、222の部分を短縮することを可能にする一方、フィラメント220、222のこれらの部分が伸長することを防止する。かくして、上記cinch nutを通してフィラメント220、222の一方または両方を引っ張ることによって、薬物貯留部202の両端部を互いにより近くに引き寄せ、デバイス200に保持形状をとらせることができる。フィラメント220、222がそのように調整されると、上記cinch nutはフィラメント220、222が伸長することを防止して、当該デバイスを保持形状で保持する。このように、移植された後に、手動でデバイス200を保持形状に調節することは、単にフィラメント220、222の一方または両方を引っ張ることを要するのみである。但し、別個の操作を要する他の留め具230を用いることもできる。他の留め具もまた用いることができる。
【0034】
膀胱内薬物送達デバイスの別の実施形態が
図3A~3C図解される。この実施形態において、上記デバイスは、複数の別個の薬物貯留管腔320をもつ単一の連続的な構造体を有し、且つ任意選択で、その中に保持フレーム360が配置された少なくとも1の保持フレーム管腔330を有する筐体300を備える。各薬物貯留管腔320は、
図3Bの断面図に示すように、2の画成された開口部を有し、且つ少なくとも1の固体薬物ユニット340を保持する寸法を有する。例えば、固体薬物ユニット340は、薬物の錠剤またはカプセル剤であってよい。図示していない別の実施形態において、各薬物貯留管腔は、単一の画成された開口部を有する。上記筐体はシリコーンなどの可撓性ポリマーで形成することができる。
図3Bは、
図3Aに示す筐体の薬物貯留管腔320の1を線3B-3Bに沿って二分する平面の断面図である。
図3Bに示すように、一体型の筐体300は、その薬物貯留管腔320中に、固体薬物ユニット340の両端部を露出させる2の画成された開口部(350a、350b)を有する。この実施形態においては、保持フレーム管腔330は、上記筐体の長手方向の軸に対して平行に、且つ薬物貯留管腔320に対して直角に配列される。
図3Cは、
図3Aに示すデバイス300の実施形態の一部の斜視図であって、該デバイスが、保持フレーム360が保持フレーム管腔330内に配置された場合にとるその保持形状にある場合の上記斜視図である。この実施形態の筐体中の薬物貯留管腔320及び保持フレーム360は、薬物貯留管腔320が保持フレーム360の円弧の外側にあるように位置付けされる。あるいは、
図3Cの筐体が保持フレーム360の周りを180度回転して、薬物貯留管腔320が保持フレーム360の円弧の内側に配置された構成を与えることもできる。この実施例では、上記デバイスは、膀胱内に配置され保持された場合、固体薬物ユニットと該デバイスの周囲の尿との間の十分な直接的な接触をもたらす。実施形態において、上記デバイスからの薬物の放出は、上記固体薬物ユニットの表面の露出部分の浸食によって制御され、その結果、該薬物送達デバイスからの薬物放出の速度は、直接固体薬物ユニットの露出する総表面積に比例し、また該総表面積によって制限することができる。
【0035】
本明細書に記載の膀胱内デバイスのゲムシタビンの放出は、種々の作用機構により駆動及び制御され得る。様々な実施形態において、上記薬物は、薬物筐体の壁材を通過する拡散によって、薬物筐体の壁材中の1または複数の画成された開口部を通過する拡散によって、薬物筐体の中の開口部を通過する浸透圧によって、1または複数の一時的に形成された微細流路を通過する浸透圧によって、膀胱内の尿と接触する薬物製剤の侵食によって、またはそれらの組み合わせによって、膀胱内薬物送達デバイスから放出され得る。好ましい実施形態において、薬物放出は、デバイスの筐体の一部を画成する、薬物透過性ポリマー部材または薬物透過性マトリックス部材を通過する薬物の拡散によって制御される。一実施形態において、上記デバイスは薬物透過性ポリマー部材を備える。
【0036】
特定の実施形態において、上記薬物送達デバイスは、第1の壁構造体及び親水性の第2の壁構造体によって囲まれた、閉じた薬物貯留管腔を有する筐体、及び上記薬物貯留管腔内に収容されるゲムシタビンを含む薬物製剤を備え、第1の壁構造体は透水性または非透水性であり、且つ上記薬物に対して非透過性であり、第2の壁構造体は上記ゲムシタビンに対して透過性である。上記デバイスの薬物貯留部を囲み且つ画成する上記壁材は、第1の壁構造体としての役割を果たす第1の材料及び第2の壁構造体としての役割を果たす第2の材料からなり、その結果、薬物放出は実質的に第2の材料を通過することのみで起こる。一実施形態において、上記デバイスは開口部を備えておらず、薬物放出は第2の壁構造体を通過する拡散のみによる。本明細書において用いられる用語「上記薬物に対して非透過性」及び「非透水性」とは、上記壁構造体が上記薬物または水に対して実質的に非透過性であり、その結果、治療上の放出期間にわたって、薬物または水が実質的に当該の壁構造体を介して放出されないことをいう。膀胱中での使用に対しては、患者に対する不快感及び刺激を回避または軽減するために、排尿筋の収縮の間に上記デバイスが柔軟である(すなわち、容易に撓み、柔らかい感触である)ことが望ましい。従って、構築物の第1及び第2の材料のデュロメータは設計上の考慮事項であり、膀胱中でデバイスを適切に柔軟に維持しつつ、所定の大きさのデバイスの筐体を構築することにおいては、高デュロメータの材料の割合が制限される場合がある。例えば、Tecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン(Lubrizol社)は70Aを越える、80A~65Dなどのショア硬度を有し得る一方、シリコーン管材は50A~70Aのショア硬度を有し得る。従って、水に膨潤する親水性の、薬物透過性の第2の材料でデバイス全体を作製するよりも、これらの2種の異なるポリマー材料の組み合わせを利用することが有利であり得る。
【0037】
この特定の実施例を続けると、第1の壁構造体はシリコーンで形成されてもよい。例えば、上記筐体はシリコーン管材を備え、該シリコーン管材の壁材は第1の壁構造体としての役割を果たしてもよい。他の実施形態において、第1壁構造体は、他の透水性材料で形成することができる。上記薬物は好ましくは固体の形態(例えば、1の錠剤または複数の錠剤)であり、第1の壁構造体は、上記薬物が薬物貯留管腔中にある間、該薬物のイン・ビボでの可溶化を可能にするために透水性である。例えば、第1の壁構造体は、約50A~約70Aのショア・デュロメータ値を有するシリコーンで形成されてもよい。第2の壁構造体は、水を吸収するように設計された親水性ポリマーであってもよい。例えば、第2の壁構造体は、少なくとも部分的に、親水性ポリウレタン、親水性ポリエステル、または親水性ポリアミドからなる親水性のエラストマー材料であってよい。好ましい実施形態において、第2の壁構造体としては、Tecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン、HydroThane(商標)熱可塑性ポリウレタン(AdvanSource Biomaterials社)、Quadraphilic(商標)熱可塑性ポリウレタン(Biomerics,LLC)(ALCグレードは脂肪族ポリカーボネート系親水性ポリウレタンであり、ALEグレードは脂肪族ポリエーテル系親水性ポリウレタン)、HydroMed(商標)(AdvanSource Biomaterials社)、またはDryflex(登録商標)(HEXPOL TPE社)などの熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。別の親水性ポリマーはポリエーテルブロックアミドPebax(登録商標)MV 1074 SA 01 MED(アルケマ社)であり、該ポリマーは可撓性且つ親水性のポリエーテルと剛直なポリアミドからなる熱可塑性エラストマーである。例えば、第2の壁構造体の親水性材料は、約70A~約65Dのショア・デュロメータ値を有していてもよい。特定の材料及びその厚さ及び壁材面積は、水及び薬物の透過速度を制御し、それによって上記ゲムシタビンの特定の放出プロファイルを得るように選択することができる。
【0038】
第1及び第2の壁構造体の配置は様々な形態をとることができる。特定の実施形態において、第1の壁構造体は円筒状の管材であり、第2の壁構造体は上記円筒状の管材の少なくとも一方の端部に配置された端部壁材であり、あるいは第1の壁構造体と第2の壁構造体が互いに隣接しており、一緒に円筒状の管を形成する。すなわち、薬剤放出が、閉じたデバイスの筐体の一部を画成する薬物透過性部材を通過する薬物の拡散によって制御される。上記薬物透過性壁構造体は、所望の、当該デバイスからの制御された薬物の拡散速度を与えるように、配置され、寸法を有し、且つ材料特性を有していてもよい。一実施形態において、後述の例4に記載するように、第1の壁構造体は円筒状の管材であり、第2の壁構造体は上記円筒状の管材の少なくとも一方の端部に配置された端部壁材である。
【0039】
その後の膀胱中への薬物の制御された放出に向けた、膀胱内デバイス400を挿入する一実施形態が
図4A及び4Bに示される。ここでは、デバイス400であって、該デバイスが配置用器具402から出て、保持形状をとった上記デバイスが示されている。配置用器具402は任意の適宜の器具であってよい。配置用器具402は、カテーテル、尿道カテーテル、または膀胱鏡などの管腔状の器具であってよい。配置用器具402は、市販の器具または特別に本薬物送達デバイスに適合させた器具であってよい。
図4Bはデバイス400の膀胱中への挿入を図解し、例として成人男性の解剖学的構造を示している。配置用器具402は尿道を通じて膀胱中に挿入され、デバイス400は、デバイス400が膀胱中に出るまで、スタイレット若しくは潤滑剤の流れまたはそれらの組み合わせによって駆動されて、配置用器具402から渡され/配置用器具402を通過してもよく、デバイス400は、図示されるように、保持形状である。
【0040】
後述の実施例に記載の検討から、驚くべきことに、極めて小さな放出開口部、すなわち孔を有するデバイスの実施形態が好ましく、予め設定された孔なしで薬物を放出するデバイスの実施形態がより好ましいことが見出されている。これは、これらの実施形態が、相対的により大きな放出孔を利用するデバイスの実施形態と比較して、尿路上皮病変の発生を排除する、または少なくとも実質的に低減するために有効であり得ることが観測されたことによる。如何なる理論によっても拘束されるものではないが、より大きな孔のデバイスは、該デバイスの放出開口部近隣の領域の尿路上皮組織表面におけるゲムシタビンの局所的な高薬物濃度を形成する可能性があること、及びこれらの局所的な組織の領域が結果として損傷を受ける可能性があることが考えられる。対照的に、予め設定された孔をもたない、または非常に小さな放出孔を有する放出機構を利用するデバイスシステムでは、かかる局所的な高薬物濃度はより生じ難い。かかる好適な「非孔」放出システムの例が、PCT特許出願公開第WO2014/144066号(TB 130)及び米国特許出願公開第2014/0276636号(TB 134)に記載され、これらは参照により本明細書に援用される。
【0041】
上記デバイスが固体形態の薬物を備えるいくつかの実施形態において、該デバイスからの薬物の溶離は、該デバイス内の当該薬物の溶解に続いて起こる。体液が当該デバイス内に入り、薬剤と接触し、薬物を可溶化し、その後溶解した薬物が浸透圧下で若しくは拡散によって該デバイスから拡散し、または該デバイスから流出する。例えば、上記デバイスが膀胱内に移植されるケースにおいては、上記薬剤は尿との接触に際して可溶化され得る。
【0042】
様々な実施形態において、上記膀胱内デバイスは、上記薬物を連続的にまたは断続的に放出して、持続する、治療上有効な濃度の該薬物を、1時間~1ヶ月、例えば、2時間~2週間、6時間から1週間、24時間から72時間等の期間にわたって膀胱中に生じさせる濃度の当該薬物を、膀胱中に得ることができる。特定の実施形態において、上記膀胱内デバイスは、1mg/日~1000mg/日、例えば20mg/日~300mg/日または25mg/日~300mg/日の量で上記ゲムシタビンを放出してもよい。特定の実施形態において、これらの放出速度は、14日から21日の治療期間にわたって与えられる。
【0043】
別の実施形態において、コーティング物質が、膀胱壁(例えば、膀胱内側の尿路上皮の領域)に膀胱内塗布されてもよく、該コーティング物質は、上記ゲムシタビンまたは他の薬物及び、該コーティング物質の膀胱壁への接着を助長する1種または複数種の添加物質を含み、治療期間にわたって当該薬物の連続的な制御された放出を提供する。上記コーティング物質は、ゲル、軟膏、クリーム、ペースト、フィルム、乳化ゲル、錠剤、ポリマー、またはそれらの組み合わせなどの、粘膜付着性製剤であってよい。粘膜付着性製剤ポリマーとしては、ヒドロゲルまたは親水性ポリマー、ポリカルボフィル(すなわちカルボポールなど)、キトサン、ポリビニルピロリドン(PVP)、レクチン、ポリエチレングリコール化ポリマー、セルロース、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。好適なセルロースとしては、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。上記コーティング物質は透過性向上剤を含んでもよい。透過性向上剤の非限定的な例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、脂質、界面活性剤、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
図5Aに示すように、コーティング物質500は、コーティング物質500が膀胱壁552に係合するように膀胱550内に配置されてもよい。
【0044】
上記コーティング物質は、配置用器具を用いて膀胱内に配置されてもよい。
図5Bは男性の泌尿生殖器系の矢状断面図であり、配置用器具502を通じて移植部位へ配置されつつあるコーティング物質500を図解する。例として、男性の解剖学的構造が示され、移植部位が膀胱550として示されている。コーティング物質500は、本明細書に記載のコーティング物質の1種の実施形態であってよい。配置用器具502は、身体の自然の内腔を通過させて意図する移植部位に到達させるために設計された任意の器具であってよい。膀胱550中への配置に対しては、配置用器具502は、図示するように、患者の尿道560を膀胱550へと通過するための大きさ及び形状とされる。配置用器具502は、カテーテル若しくは膀胱鏡、または特別に設計された器具などの公知の器具であってよい。配置用器具502は、体内へコーティング物質500を配置するために用いられ、その後、完全に体内に移植されたコーティング物質500を残して、身体から取り出される。コーティング物質500は、このように移植された後、長期間体内に薬物を放出することができる。同等の手順を用いて、本明細書に記載のいずれかのデバイスまたは薬物を、他の自然の内腔を通じて身体の他の部分へ配置することができる。例えば、
図6に示すように、配置用器具602を用い、配置用器具602を尿道660に通過させることにより、液体の薬物または薬物製剤600を膀胱650中に配置することができる。
【0045】
一実施形態において、第2の治療薬が患者に投与される。この第2の薬剤は、上記ゲムシタビンの投与に対して同時に、逐次的に、または重複する形態で投与することができる。第2の治療薬は膀胱内投与されてもよい。本明細書に記載の方法及びシステムを用いて、第2の治療薬を膀胱内投与してもよい。第2の治療薬としては、細胞毒性剤、鎮痛剤、抗炎症剤、またはそれらの組合せを挙げることができる。第2の治療薬は、上記ゲムシタビンと異なる作用機序により機能してもよく、及び/または上記ゲムシタビンと相乗的に機能してもよい。一実施形態において、第2の治療薬は、膀胱の膀胱炎を予防、治療、または改善する。更に別の実施形態において、初めに(例えば、TURBTに続く最初の週の間)上記ゲムシタビンが化学免疫療法剤として用いられ、その後の後続の期間にカルメット・ゲラン桿菌(BCG)が定期的に投与される。例えば、Choら、J. Int’l Med. Res. 37:1823~30(2009)を参照されたい。
【0046】
様々な実施形態において、上記患者に対するゲムシタビンの膀胱内投与は、TURBTの前、TURBTの後、TURBTの前と後の両方、またはTURBTなしで実施することができる。
【0047】
一実施形態において、上記膀胱内ゲムシタビンは、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)の治療において用いられる。別の実施形態において、上記膀胱内ゲムシタビンは、BCG難治性NMIBCにおいて用いられる。更に別の実施形態において、上記膀胱内ゲムシタビンは反復投与形態で用いられ、誘導期間を置き、それに続いて一連の維持投与が行われる。例えば、3ヶ月の間、月に1回1週間の治療、それに続き必要に応じて、3ヶ月毎に1回、1週間の維持投与が行われる。
【0048】
本明細書で用いられる用語「患者」または「対象」とは、ヒトまたは、獣医学、家畜、及び臨床研究用途におけるような他の哺乳動物をいう。特定の実施形態において、上記患者または対象は成人のヒトである。他の実施形態において、上記患者または対象としては、ウシ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、及びブタが挙げられる。
【実施例】
【0049】
本発明は更に、以下の非限定的な実施例を参照して理解することができる。
【0050】
例1:前立腺における膀胱からのゲムシタビンの取り込み
雄のスプラーグ・ドーリーラットにおいて、膀胱内カニューレ、6時間若しくは24時間連続の灌流により、または単回の静脈内(IV)ボーラスによって、14Cゲムシタビンを投与して検討を行った。上記6時間及び24時間連続の灌流は、それぞれ、6.9mg及び26.6mgのゲムシタビンを膀胱中に灌流した。上記単回のIVボーラスは、5.0mgのゲムシタビンを含んでいた。
【0051】
血液(
図8)、尿、及び組織試料(例えば、膀胱、前立腺)(
図7及び9)を採取し、ゲムシタビン含有量について分析した。結果を
図7~9に図解する。これらの結果は、持続するゲムシタビン尿中濃度によって、膀胱組織中に顕著なゲムシタビン濃度が生じることが見出され、該ゲムシタビン濃度は、イン・ビトロでの膀胱がん細胞の実験に基づく治療濃度であるか、またはそれを超えることを示している。膀胱中のゲムシタビン濃度を
図9に示すが、同図もまた、臨床的に関連するIV投与後24時間の膀胱中のゲムシタビンの有意に低い濃度を示している。膀胱の上皮、固有層、筋層、及び外膜のそれぞれについて観測されたゲムシタビン濃度を
図14に示すが、同図もまた、ゲムシタビン組織濃度に対する目標有効範囲であることを図解している。
【0052】
例2:大型の雑種の猟犬におけるゲムシタビンの検討
尿中へ治療濃度(4mg/日及び40mg/日)を放出するように設計した2種のゲムシタビン放出システム(
図1A~1Bに示すデバイス)を選別試験した。上記デバイスは、上記ゲムシタビンの放出のために、レーザー穿設した孔または打ち抜いた孔のいずれかを用いた。試験したシステムを、臨床的に用いられる標準的な膀胱内投与を模倣するように設計した膀胱内点滴注入と比較した。試験動物は大型の雑種の猟犬であり、各群についてN=3で行った。
【0053】
各システムはイン・ビトロでゲムシタビンの異なる放出速度を示した。イン・ビトロでは、一方のシステムは、非常に低い尿中及び組織濃度が得られたが、試験動物において良好な忍容性を示した。他方のシステムは、目標とする尿中濃度レベルを生じたが、試験動物において不十分な忍容性しか示さなかった。尿プロファイルも変動し、薬物放出の継続時間は許容できない程度に短かった。膀胱内投与によって、文献に報告される症状と一致する有意な尿路上皮病変が生じることも観測された。
【0054】
要約すると、この検討は、デバイス/錠剤製剤設計が、経時的なゲムシタビン尿中濃度及び膀胱での忍容性の両方に、強く影響を与えることを実証した。
【0055】
例3:ミニブタにおけるゲムシタビン膀胱灌流の検討
様々な濃度のゲムシタビンを、N=5(処置群当たり雄2頭、雌3頭)で7日間ブタに灌流した。上記潅流動物に、ヒトにおける膀胱がんに対する目標用量を分類するために選択された濃度で投薬した。比較のために、中程度のイン・ビトロ放出速度を有する、大径の端部キャップ(固定のための栓であって、これを貫通する薬物放出のための大径の開口部を有する上記栓)を有する、(
図1A~1Bに示すような)ゲムシタビン放出デバイスを、別個の群の動物に配置した。全ての灌流群が、最も高い灌流用量を含めてゲムシタビンに対する良好な忍容性を示した。対照的に上記ゲムシタビン放出デバイスは、中程度の尿中濃度を生じるが、良好な忍容性を示さなかった。
【0056】
例4:透過システムによってゲムシタビンを放出するモジュラーデバイス
ゲムシタビンHClを、
図10A~Cに図解する4モジュールのデバイス1000中で試験した。
図10Aはデバイス1000が4の薬物貯留モジュール1010A、1010B、1010C、及び1010Dを備えることを示している。明確化のために、
図10Cは、薬物貯留モジュール1010A及び1010Dのみに対するデバイスの筐体部のみを示す(他の構成要素は省略)。
図10Cは、薬物貯留モジュール1010A及び1010Dのそれぞれの貯留部側壁材1040A及び1040Dが、壁材セグメント1012及び保持フレーム管腔1014によって一体的に結合される形態を図解している。貯留部側壁材1040A及び1040D、並びに壁材セグメント1012、及び保持フレーム管腔1014を、二重の管腔をもつシリコーン管材から断片を切り出すことによって形成した。(上記4モジュールのデバイスは、二重の管腔をもつシリコーン管材から、間隔を置いて3の断片を切り出すことによって作製した。)各薬物貯留モジュールは、内径2.64mm及び壁厚0.20mmの寸法を有するMED-4750(Nusil社)製のシリコーン管材からなっていた。上記シリコーン管材は内径0.51mm及び壁厚0.20mmを有する保持フレーム管腔を備えていた。ニチノール製保持フレームを保持フレーム管腔1014に挿入した。
図10Bは、それを通して、可溶化された薬物が拡散により放出されるディスク1060を備える薬物貯留モジュール1010Aの構造を図解する。(他の3の薬物貯留モジュールは、構造がモジュール1010Aと同一であった。)ディスク1060は、該ディスク1060を外側の座金1100と内側の座金1120との間に挟み込むことによって、円筒管の側壁材1040Aの管腔内に安定化される。各ディスク1060はHP-93A-100(Tecophilic(登録商標)熱可塑性ポリウレタン)製であり、各ディスク1060の寸法は、厚さ概略0.5mm及び外径3.0mmであった。上記ディスクの外径(3.0mm)は上記シリコーン管材の内径(2.64mm)よりも大きく、従って、上記ディスクを上記シリコーン管材中に摩擦によって嵌め込んだ。内側及び外側のシリコーン製座金1120、1100はMED-4780(Nusil社)製であり、これらの座金1120、1100の周囲にシリコーン接着剤を塗布して、ディスク1060に隣接して配置し、シリコーン管材1040A内にこれらの座金を取り付けた。シリコーン製の外側の座金1100は、それぞれ概略2.5mm、3.2mm、及び2mmの内径、外径、及び長さの寸法を有し、シリコーン製の内側の座金1120は、それぞれ概略1.58mm、2.77mm、及び2mmの内径、外径、及び長さの寸法を有していた。
【0057】
2.6mmの外径を有する多数の薬物の錠剤1080をシリコーン管材1040A中に充填し、その後ディスク1060並びに内側及び外側の座金1120及び1100によって貯留部の両端部を閉鎖した。上記錠剤製剤は、90%のゲムシタビンHCl、5%のPVP、2.5%のノイシリン、及び2.5%のステアリン酸マグネシウムであった。各4モジュールのデバイスに充填された上記錠剤の総質量は概略800mgであった。
【0058】
3個のデバイス(R204-4~6)を用いたイン・ビトロ放出試験を37℃で実施した。放出媒体は脱イオン水であり、各時点での試料を採取した。ゲムシタビンの放出はTecophilicディスクを通過する拡散により制御された。遊離塩基当量(FBE)で表した累積量及び放出速度をそれぞれ
図11及び
図12に示す。各誤差棒は平均値(N=3)を中心とした標準偏差である。いくつかの誤差棒は測定点を表わす記号よりも小さい。
【0059】
同一設計のデバイスを、3頭のゲッチンゲンミニブタを用いてイン・ビボで試験した。各デバイスを膀胱鏡によって、尿道を通じて非外科的に各動物の膀胱に挿入した。ゲムシタビン及び2’,2’-ジフルオロ-2’-デオキシウリジン(dFdU)の尿中濃度を8日間の期間にわたって測定した。この8日間の試験後に、各デバイスを膀胱鏡及び鉗子によって、尿道を通じて非外科的に取り出した。ゲムシタビンとdFdUとを合算した尿中濃度を
図13に示す。
【0060】
例5:ミニブタにおけるゲムシタビン送達デバイスの選別検討
上述のミニブタの灌流検討において見出されたゲムシタビンの固有の忍容性に基づいて、本薬物送達システムの設計を改良するために、一連の試作品の選別検討を行った。この検討においては、3種の試作デバイスを、尿中に治療濃度のゲムシタビンを放出するように設計した。2種のデバイスは
図1A~1Bの設計(薬物放出のための大径の端部キャップまたはレーザー穿設した孔を有する)のデバイスであり、1種のデバイスは
図10A~10Cの設計(薬物放出のための薬物透過性ディスク)のデバイスであった。3種の検討が完結し、それぞれの検討は、3頭のミニブタにおいて1種の試作設計を試験し、7日間の期間にわたって血液及び尿の試料を集中的に採取した。
【0061】
薬物放出のための大径の端部キャップを有する
図1A~1Bの設計のデバイスは、一貫して当該動物において、尿路上皮病変を生じさせることが見出された。しかし、上記ゲムシタビンと共に増粘剤を含む、レーザー穿設した孔を有する
図1A~1Bの設計のデバイスは、尿路上皮病変の発生を低減することが見出された。
図10A~10Cの設計の無孔のデバイスは、尿路上皮病変の発生を完全に排除することが見出された。かかる設計は、尿路上皮病変の発生に寄与すると考えられている、(該デバイスの薬物放出開口部近隣の組織表面における)上記ゲムシタビンの一時的な高い局所濃度を防ぐと考えられる。
【0062】
例6:ミニブタにおけるゲムシタビン送達デバイスの選別検討
この検討においては、浸透圧性試作デバイスを、尿中に治療濃度のゲムシタビンを放出するように設計した。上記デバイスは、関連する部分が本明細書に援用されるPCT WO2015/026813に概括的に記載されているように、薬物貯留部内の別個の位置に配置されたゲムシタビンの錠剤と浸透圧剤の錠剤とを用いるように構成されていた。第1の部分集合のデバイスは、それぞれ、シリコーン管材であって、該管材の両端部の間の中央に位置する領域に、薬物放出のための、75ミクロンのレーザー穿設した孔を有する上記シリコーン管材を備えていた。上記管材の管腔には、上記放出孔の近くの中央の領域にゲムシタビンと尿素との混合物の錠剤が充填され、該管腔の両端部領域に尿素/Lubritabの錠剤が充填された。第2の部分集合のデバイスは、それぞれ、シリコーン管材であって、該管材の両端部の間の中央に位置する領域に、薬物放出のための、150ミクロンのレーザー穿設した孔を有する上記シリコーン管材を備えていた。上記管材の管腔には、上記放出孔の近くの中央の領域にゲムシタビンと尿素との混合物の錠剤が充填され、該管腔の両端部領域に尿素/PEOの錠剤が充填された。上記デバイスを、イン・ビボでミニブタにおいて、及びイン・ビトロで試験し、7日間にわたって放出された累積及び平均のゲムシタビンを測定した。ゲムシタビンの放出速度は、75ミクロンの孔のデバイスからは7日間にわたって概略120mgであり、150ミクロンの孔のデバイスからは7日にわたって概略140mgであった。経時的な尿中濃度の変動は、尿素/Lubritab製剤と比較した場合、尿素/PEO製剤を用いると僅かに低いことが観測された。従って、デバイスの管腔中における可溶化された薬物の溶液の粘度が、薬物放出を制御する上での因子であり得る。
【0063】
実施例からの結論
目標濃度-腫瘍細胞株全体にわたるイン・ビトロ濃度-を提供する文献上の検討は、一般的に、奏功性の細胞株に対して、0.5μg/gと3.0μg/g(グラム当たりマイクログラム)との間の範囲のIC50値を有する(Jeonら、J. Urol. 186(5):2084~93(2011)を参照のこと)。文献はまた、有効であるためには高い尿中濃度(例えば、2000mgを最大で50mL中)が必要とされること、しかし、かかる濃度を得るための膀胱内点滴注入は、安全性及び忍容性、全身毒性、並びに下部尿路症状(LUTS)の問題を伴うことを示唆している(Cattelら、Annals Oncol. 17(補遺5):v142~47(2006)を参照のこと)。
【0064】
しかし、上述の実施例に記載の検討から、これらの治療組織濃度を得るために必要な尿中のゲムシタビンの濃度が測定され、且つ該濃度は、尿路上皮に対して忍容性を示すことが見出された。すなわち、高い膀胱内の尿中濃度を必要としない。特に、上述の濃度の1/100(例えば、20mgを最大で50mL中)を送達する膀胱内システムが有効であり得ることが見出された。
【0065】
また、文献がゲムシタビンの静脈内灌流に関して教示するものとは対照的に、尿路上皮に損傷を与えることなく、長期にわたるゲムシタビンの膀胱内送達を行うことができることが見出された。
【0066】
本明細書に引用される刊行物及びそれらのために該刊行物が引用される物質は、参照により具体的に援用される。本明細書に記載の方法及びデバイスの改変及び変化形は、上述の詳細な説明から当業者には明らかとなろう。かかる改変及び変化形は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。