(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】成形物の取り出しシステム、及び成形物の取り出し方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/40 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
B29C45/40
(21)【出願番号】P 2019225159
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤森 克紀
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-51729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形物を成形型から取り出すための、成形物の取り出しシステムであって、
吸着圧により前記成形物を
吸着することで前記成形物を前記成形型から離型し、離型後の前記成形物を吸着圧により吸着保持しながら移動することで前記成形物を搬送する吸着装置と、
圧縮空気の駆動により前記吸着装置に第1の吸着圧を供給する第1の真空発生装置と、
モーターの駆動により前記吸着装置に第2の吸着圧を供給する第2の真空発生装置と、を備え、
前記成形型から前記成形物を離型するタイミングでは、前記第1の吸着圧と前記第2の吸着圧とを前記吸着装置に供給することで、前記成形物を離型するための吸着圧を前記吸着装置に供給し、離型後の前記成形物を搬送する期間では、前記第1の吸着圧と前記第2の吸着圧のうちの前記第1の吸着圧のみを前記吸着装置に供給することで、前記成形物を吸着保持するための吸着圧を前記吸着装置に供給する、
成形物の取り出しシステム。
【請求項2】
前記吸着装置の内部には、前記第1の真空発生装置が前記第1の吸着圧を供給するための吸引経路と前記第2の真空発生装置が前記吸着装置に吸着圧を供給するための吸引経路とが繋がる空間である負圧室が形成され、
前記吸着装置は、前記成形物が吸着保持される保持面と、前記保持面内に形成されると共に前記負圧室と繋がる吸引孔と、を有する、
請求項1に記載の成形物の取り出しシステム。
【請求項3】
前記吸着装置は、前記保持面を底面として有する溝であって、前記成形物の少なくとも一部を収容可能な溝を、更に有する、
請求項2に記載の成形物の取り出しシステム。
【請求項4】
吸着圧により成形物を
吸着することで前記成形物を成形型から離型し、離型後の前記成形物を吸着圧により吸着保持しながら移動することで前記成形物を搬送する吸着装置によって、前記成形物を成形型から取り出すための、成形物の取り出し方法であって、
前記成形型から前記成形物を離型するタイミングでは、圧縮空気の駆動により前記吸着装置に第1の吸着圧を供給すると共にモーターの駆動により第2の吸着圧を前記吸着装置
に供給することで、前記成形物を離型するための吸着圧を前記吸着装置に供給し、離型後の前記成形物を搬送する期間では、前記第1の吸着圧と前記第2の吸着圧のうちの前記第1の吸着圧のみを前記吸着装置に供給することで、前記成形物を吸着保持するための吸着圧を前記吸着装置に供給する、
成形物の取り出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形物を成形型から離型して搬送するための、成形物の取り出しシステム、及び成形物の取り出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形やプレス成形等の、成形型を用いる成形において、成形物を成形型から取り出すためのシステムとして、負圧(真空)による吸着圧を利用して成形物を吸着保持することで成形物を離型する吸着装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1)。このような吸着装置に吸着圧を供給するための負圧源としては、圧縮空気の駆動により負圧を発生させるタイプの真空発生装置(以下、エジェクタと呼ぶ)が用いられることがある。エジェクタは、外部のコンプレッサーから供給された圧縮空気をノズルで絞り、高速で排気することで、ベンチュリ効果により負圧を発生させる。このエジェクタを負圧源として利用することによる利点としては、システム全体を比較的安価でコンパクトにすることができる点等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4527880号公報
【文献】特開2008-300668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、成形物を取り出す過程では、例えば、成形物の離型時等の所定のタイミングにおいて、成形物を吸着保持するために比較的大きな吸着圧が要求される場合がある。負圧源としてエジェクタを用いる場合、エジェクタへ供給する圧縮空気の圧力を高めることで、吸着装置の吸着圧を高めることができる。しかしながら、空気の圧力を高めると、エジェクタに供給される空気の流量も増えることとなる。そのため、エジェクタの排気孔から空気が排気される音は、圧力が高くなるほど大きくなる傾向がある。そのため、上記所定のタイミングに成形物を吸着保持するための吸着圧をエジェクタのみで得ようとすると、エジェクタの排気口から大量の空気が排気されることで大きな騒音が発生する虞があった。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮空気の駆動により吸着圧を供給するタイプの真空発生装置を用いて成形物を成形型から取り出す技術において、騒音の発生を抑制しつつも大きな吸着圧を得ることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用した。即ち、本発明は、成形物を成形型から取り出すための、成形物の取り出しシステムであって、吸着圧により前記成形物を吸着保持する吸着装置と、圧縮空気の駆動により前記吸着装置に第1の吸着圧を供給する第1の真空発生装置と、モーターの駆動により前記吸着装置に第2の吸着圧を供給する第2の真空発生装置と、を備え、前記第1の吸着圧を前記吸着装置に供給している期間における所定のタイミングで前記第2の吸着圧を前記吸着装置に供給することで、又は、前記吸着装置に前記第2の吸着圧を供給している期間における前記所定のタイミングで前記第1の吸着圧を前記吸着装置に供給することで、前記所定のタイミングにおいて前記成形物を吸着保持するための吸着圧を、前記吸着装置に供給する、成形物の取り出しシ
ステムである。
【0007】
つまり、本発明は、所定のタイミングで第1の真空発生装置による第1の吸着圧と第2の真空発生装置による第2の吸着圧とを加えることで、当該所定のタイミングにおいて成形物を吸着保持するための吸着圧を吸着装置に供給するように構成されている。これによると、所定のタイミングで成形物を吸着保持するために必要な吸着圧を、第1の真空発生装置のみで供給する場合と比較して、第1の真空発生装置に供給すべき空気の圧力を低くすることができる。その結果、所定のタイミングで成形物を確実に吸着保持しつつも、大きな騒音の発生を抑制することができる。更に、当該所定のタイミングにおいて必要な吸着圧を第1の真空発生装置のみで供給する場合と比較して、第1の真空発生装置に供給すべき空気の流量も少なく済むため、空気の消費量を低減することができる。
【0008】
なお、第1の真空発生装置としては、圧縮空気の供給を受けてベンチュリ効果により真空を発生させることで吸着装置に吸着圧を供給するエジェクタを例示することができる。また、第2の真空発生装置としては、モーターの駆動により内蔵されたロータを回転させて空気を吸引することで吸着装置に吸着圧を供給する真空ポンプを例示することができる。但し、本発明はこれらに限定するものではない。
【0009】
更に、本発明において、前記所定のタイミングは、前記成形型から前記成形物を離型するタイミングであってもよい。これによると、比較的大きな吸着圧が必要とされる成形物の離型のタイミングで第1の吸着圧と第2の吸着圧とを加えて供給することで、成形物の取り出しミスを低減することができる。
【0010】
また、本発明において、前記吸着装置の内部には、前記第1の真空発生装置が前記第1の吸着圧を供給するための吸引経路と前記第2の真空発生装置が前記吸着装置に吸着圧を供給するための吸引経路とが繋がる空間である負圧室が形成され、前記吸着装置は、前記成形物が吸着保持される保持面と、前記保持面内に形成されると共に前記負圧室と繋がる吸引孔と、を有してもよい。これによると、第1の真空発生装置による第1の吸着圧と第2の真空発生装置による第2の吸着圧とを、共通の吸引孔から成形物に作用させることができる。その結果、第1の吸着圧と第2の吸着圧とを加えることができる。
【0011】
また、本発明において、前記吸着装置は、前記保持面を底面として有する溝であって、前記成形物の少なくとも一部を収容可能な溝を、更に有してもよい。これによると、成形物の少なくとも一部が溝に収容された状態で成形物が吸着保持されるため、吸着圧が成形物に対して好適に作用し、成形物を確実に吸着保持することができる。このことは、特に樹脂成形品のような、成形直後において比較的柔らかい成形物の吸着保持に好適である。
【0012】
また、本発明は、成形物の取り出し方法としても特定することができる。即ち、本発明は、吸着圧により成形物を吸着保持する吸着装置によって、前記成形物を成形型から取り出すための、成形物の取り出し方法であって、圧縮空気の駆動により前記吸着装置に第1の吸着圧を供給している期間における所定のタイミングでモーターの駆動により第2の吸着圧を前記吸着装置に供給することで、又は、前記吸着装置に前記第2の吸着圧を供給している期間における前記所定のタイミングで前記第1の吸着圧を前記吸着装置に供給することで、前記所定のタイミングにおいて前記成形物を吸着保持するための吸着圧を、前記吸着装置に供給する、成形物の取り出し方法であってもよい。更に、この場合において、前記所定のタイミングは、前記成形型から前記成形物を離型するタイミングであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧縮空気の駆動により吸着圧を供給するタイプの真空発生装置を用い
て成形物を成形型から取り出す技術において、騒音の発生を抑制しつつも大きな吸着圧を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る成形物の取り出しシステムの全体構成を示す図である。
【
図4】
図4(A)は、
図3のA-A断面図であり、
図4(B)は成形物を吸着した状態の吸着装置の正面図である。
【
図5】実施形態に係る成形物の取り出し方法の手順を示す図である。
【
図6】待機工程における吸着装置と金型との位置関係を示す図である。
【
図7】接近工程において吸着装置が離型位置に至ったときの吸着装置と金型との位置関係を示す図である。
【
図8】離型工程において成形物が離型された状態を示す図である。
【
図9】実施形態に係る成形物の取り出しシステムにおける制御装置によるバルブ制御を示す図である。
【
図10】比較例1におけるバルブ制御を示す図である。
【
図11】比較例2におけるバルブ制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る取り出しシステムは、成形物を成形型から取り出すことができる。成形物の材質や形状は特に限定されず、樹脂成形物や金属成形物などに適用することができる。また、成形物の成形方法についても、成形型を用いるものであれば特に限定されず、射出成形やプレス成形に適用することができる。以下、図面を参照しながら、本発明に係る成形物の取り出しシステムの好ましい実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明に係る取り出しシステムを、射出成形により成形したリング状の樹脂成形物を金型(成形型)から取り出す場合に適用したものである。但し、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
図1は、実施形態に係る成形物の取り出しシステム(以下、取り出しシステム)100の全体構成を示す図である。
図1に示すように、取り出しシステム100は、吸着装置10、移動装置20、エジェクタ30、圧縮空気移送手段40、真空破壊装置50、真空ポンプ60、吸気移送手段70、及び制御装置80を備える。
図1に示す矢印は、取り出しシステム100における空気の流れを示す。空気の流路(経路)は、図示しない空気配管によって形成されている。
【0017】
図2は、取り出しシステムの取り出し対象であるシールリングX1を示す図である。シールリングX1は、射出成形により断面矩形のリング状(円環状)に形成された樹脂製品である。シールリングX1の材料としては、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)が挙
げられる。但し、シールリングX1の材料はこれに限定されない。シールリングX1は、機械部品に組み込まれることで、密閉構造を構成する。
図2に示すように、シールリングX1は、中途が間欠したリング形状を成しており、その端面同士が対向することで合口(隙間)G1が形成されている。この合口G1により、シールリングX1と機械部品との熱膨張差による影響が低減される。シールリングX1は、本発明に係る成形物の一例である。但し、本発明に係る成形物はシールリングに限定されず、成形物の形状や材質は上述のものに限定されない。成形物の形状は、合口を有さないリング状であってもよいし、リング状でなくともよい。また、成形物の材料は、成形物の形状に関わらず、樹脂材料であってもよいし、樹脂材料でなくともよい。
【0018】
実施形態に係る取り出しシステム100は、工場内のシールリングX1を成形する成形機ごとに設置される。
図1に示すように、取り出しシステム100は、エジェクタ30に圧縮空気を供給することで、吸着装置10から空気を吸引し、吸着装置10に第1の吸着圧を供給する。取り出しシステム100は、更に、真空ポンプ60によって吸着装置10から空気を吸引することで、吸着装置10に第2の吸着圧を供給する。圧縮空気の供給源としてのコンプレッサー200は、工場内の所定の場所に設けられ、1台のコンプレッサー200から空気配管を介して複数の取り出しシステム100に圧縮空気が供給される。なお、コンプレッサー200は、取り出しシステム100ごとに1台ずつ設置されてもよい。本実施形態に係る取り出しシステム100は、第1の吸着圧に加えて第2の吸着圧をシールリングX1に作用させることで、シールリングX1を射出成形機の金型から好適に取り出すことができる。以下、取り出しシステム100の各構成について説明する。
【0019】
吸着装置10は、吸着圧により成形物を吸着保持する装置である。
図3は、吸着装置10の斜視図である。
図3に示すように、吸着装置10は、吸着ボックス1と吸着板2とを有する。以下、吸着装置10について、吸着板2側を前方(正面)とし、符号11で示す第1接続孔が設けられている側を上方とする。
図4(A)は、
図3のA-A断面図であり、
図4(B)はシールリングX1を吸着した状態の吸着装置10の正面図である。
【0020】
図3及び
図4(A)に示すように、吸着ボックス1は、前面が開口した略直方体状の箱型に形成されている。吸着ボックス1の上面には、エジェクタ30が接続される孔である第1接続孔11が設けられ、吸着ボックス1の右側面には、吸気移送手段70を介して真空ポンプ60が接続される孔である第2接続孔12が設けられている。また、吸着板2は、板状に形成されており、吸着板2が吸着ボックス1の前面を覆うように設けられることで、吸着装置10の内部には、吸着ボックス1と吸着板2とによって囲まれた空間である負圧室S1が形成されている。負圧室S1は、第1接続孔11を介してエジェクタ30による空気の吸引経路と繋がり、第2接続孔12を介して真空ポンプ60による空気の吸引経路と繋がっている。
【0021】
また、
図4(B)に示すように、吸着板2の前面には、シールリングX1を収容可能な、環状の溝21が形成されている。溝21は、シールリングX1の全体を収容可能な深さを有している。
図3及び
図4(A)において符号22で示す溝21の底面は、シールリングX1を吸着保持する保持面となる。保持面22には、負圧室S1と溝21内の空間とを連通する孔である吸引孔23が複数形成されている。複数の吸引孔23は、溝21の周方向に沿って等間隔に並んでいる。但し、本発明に係る溝の形状や複数の吸引孔の数量及び配置は、
図3に示すものに限定されない。溝の形状、吸引孔の数量及び配置は、取り出し対象となる成形物の形態に応じて変更することができる。
【0022】
移動装置20は、吸着装置10を移動させる装置である。吸着装置10は、移動装置20が備える可動アームに取り付けられ、可動アームの運動方向に応じて前後方向、上下方向、及び左右方向に移動可能である。移動装置20は、金型が開放されると、吸着装置10を金型に接近させ、吸着装置10がシールリングX1を吸着保持すると、吸着装置10を金型から退避させ、以てシールリングX1を所定の開放位置まで搬送する。移動装置20としては、公知の装置を適宜用いることができる。
【0023】
エジェクタ30は、真空発生器とも呼ばれ、圧縮空気の駆動により、吸着装置10に第1の吸着圧を供給する。
図1に示すように、エジェクタ30は、供給口301、排気口302、及び吸気口303を有し、外部から供給口301に供給される圧縮空気を、内部に設けられたノズル(図示なし)で絞り、排気口302から高速で外部に排気(吐出)することで、ベンチュリ効果により内部に真空を発生させ、吸気口303から空気を吸引する。供給口301は、圧縮空気移送手段40に接続され、吸気口303は、吸着装置10の
第1接続孔11に接続されている。そのため、圧縮空気移送手段40からエジェクタ30に圧縮空気が供給されることで、負圧室S1の空気が吸引され、負圧室S1に真空(負圧)が生じる。これにより、吸着板2に形成された吸引孔23から外気が吸引されることとなり、吸着装置10にエジェクタ30による第1の吸着圧が供給される。このとき、エジェクタ30により吸着装置10に供給される吸着圧は、エジェクタ30に供給される圧縮空気の圧力の大きさに相関する。エジェクタ30は、本発明に係る「第1の真空発生装置」の一例である。
【0024】
圧縮空気移送手段40は、コンプレッサー200から供給される圧縮空気をエジェクタ30に供給する。より具体的には、圧縮空気移送手段40は、増圧弁401、エアータンク402、高圧レギュレータ(減圧弁)403、第1高圧バルブ404、低圧レギュレータ(減圧弁)405、及び第1低圧バルブ406を有する。増圧弁401は、コンプレッサー200からエジェクタ30への圧縮空気の供給経路において最上流に配置され、コンプレッサー200から供給された圧縮空気の圧力を増圧する。エアータンク402は、増圧弁401の下流に設置され、圧縮空気を一時的に貯留することで空気圧力の脈動を平準化し、また、急激な圧力の降下を防止する。ここで、圧縮空気の供給経路は、エアータンク402から高圧レギュレータ403及び第1高圧バルブ404を流れてエジェクタ30に至る経路と、エアータンク402から低圧レギュレータ405及び第1低圧バルブ406を流れてエジェクタ30に至る経路と、に分岐する。高圧レギュレータ403は、エアータンク402の下流に設置され、圧縮空気の圧力を調整することで、比較的高圧な高圧縮空気を生成する。第1高圧バルブ404は、高圧レギュレータ403の下流に設置され、吸気移送手段70の制御に応じて開閉することで、エジェクタ30への高圧縮空気の供給と供給の停止とを切り替える。低圧レギュレータ405は、エアータンク402の下流に設置され、圧縮空気の圧力を調整し、比較的低圧な低圧縮空気を生成する。第1低圧バルブ406は、低圧レギュレータ405の下流に設置され、制御装置80の制御に応じて開閉することで、エジェクタ30への低圧縮空気の供給と供給の停止とを切り替える。
【0025】
本実施形態では、圧縮空気は、0.5[MPa]の圧力でコンプレッサー200から供給され、増圧弁401によって所定の圧力に増圧され、エアータンク402に貯留される。エアータンク402から高圧レギュレータ403に供給された圧縮空気は、0.7[MPa]に調整される。コンプレッサー200から圧縮空気移送手段40に圧縮空気が供給された状態で第1高圧バルブ404が開くことで、0.7[MPa]の高圧縮空気がエジェクタ30に供給される。エアータンク402から低圧レギュレータ405に供給された圧縮空気は、0.2[MPa]に調整される。コンプレッサー200から圧縮空気移送手段40に圧縮空気が供給された状態で第1低圧バルブ406が開くことで、0.2[MPa]の低圧縮空気がエジェクタ30に供給される。つまり、コンプレッサー200から圧縮空気移送手段40に圧縮空気が供給された状態で、第1高圧バルブ404と第1低圧バルブ406とのうち、少なくとも何れか一方が開かれることで、エジェクタ30に圧縮空気が供給されることとなり、吸着装置10に第1の吸着圧が供給される。
【0026】
真空破壊装置50は、制御装置80の制御に応じてエジェクタ30内の真空を破壊する。真空破壊装置50は、エジェクタ30の排気口302の上方に配置されており、筒状のシリンダ部501と、シリンダ部501によって上下に摺動可能なピストン部502と、を有する。真空破壊装置50は、制御装置80の制御に応じてピストン部502を下降させ、ピストン部502によって排気口302を閉塞することで、エジェクタ30の排気を遮断する。これにより、エジェクタ30内の真空が破壊される。
【0027】
真空ポンプ60は、モーターの駆動により、吸着装置10に第2の吸着圧を供給する。より具体的には、真空ポンプ60は、ドライポンプであり、モーター601、排気口602、及び吸気口603を有し、内蔵されたロータ(図示なし)をモーター601の駆動に
より回転させることで内部の空気を排気口602から空気を排気し、吸気口603から空気を吸引する。吸気口603は、吸気移送手段70を介して吸着装置10の第2接続孔12に接続されている。真空ポンプ60は、本発明に係る「第2の真空発生装置」の一例である。なお、本発明の第2の真空発生装置は、ドライポンプやロータリーポンプに限定されず、モーターの駆動により真空を発生させるものであれば、種々のものを選択することができる。第2の真空発生装置は、例えば、油回転式のウェットポンプであってもよいし、ダイヤフラムポンプであってもよい。
【0028】
吸気移送手段70は、真空ポンプ60により吸着装置10から吸引される空気を移送する。吸気移送手段70は、第2バルブ701、及びエアータンク702を有する。第2バルブ701は、吸着装置10から真空ポンプ60に至る空気の吸引経路において、吸着装置10の下流に配置され、制御装置80の制御に応じて開閉することで、真空ポンプ60による吸引と吸引の停止とを切り替える。エアータンク702は、第2バルブ701の下流に設置され、空気を一時的に貯留する。
【0029】
真空ポンプ60が作動した状態で第2バルブ701が開くことで、真空ポンプ60により負圧室S1の空気が吸引され、負圧室S1に真空が生じる。これにより、吸着板2に形成された吸引孔23から外気が吸引されることとなり、吸着装置10に真空ポンプ60による第2の吸着圧が供給される。
【0030】
制御装置80は、第1高圧バルブ404、第1低圧バルブ406、第2バルブ701、及び真空破壊装置50を制御する。制御装置80は、PLC(programmable logic controller)として構成されており、メモリに格納された所定のプログラムをMPU(Main Processing Unit)が実行することで、第1高圧バルブ404、第1低圧バルブ406、第
2バルブ701、及び真空破壊装置50に対して、これらをタイマー制御するための信号を出力する。これにより、所定のタイミングで第1高圧バルブ404、第1低圧バルブ406、及び第2バルブ701が開閉され、また、所定のタイミングで真空破壊装置50がエジェクタ30の真空を破壊する。
【0031】
[成形物の取り出し方法]
次に、本実施形態に係る成形物の取り出し方法について説明する。
図5は、実施形態に係る成形物の取り出し方法の手順を示す図である。本実施形態に係る成形物の取り出し方法は、1回の射出成形に対して1サイクル行われる。成形物の取り出しでは、射出成形されたシールリングX1を金型300(
図6参照)から離型し、金型300と離れた所定の開放位置までシールリングX1を搬送し、開放位置でシールリングX1を開放する。なお、以下に説明する成形物の取り出しは、コンプレッサー200から取り出しシステム100に対して圧縮空気が供給され、且つ、真空ポンプ60が動作している状態で行われる。
【0032】
まず、
図5に示すステップS101の待機工程では、金型300からシールリングX1を離型可能な状態となるまで吸着装置10を待機させる。具体的には、射出成形機によるシールリングX1の射出成形が完了し、金型300が型開きされるまで吸着装置10を待機させる。ここで、
図6は、待機工程における吸着装置10と金型300との位置関係を示す図である。
図6では、金型300が型開きされた状態となっている。
図6に示すように、待機工程では、吸着装置10は、金型300よりも上方の待機位置に配置されている。
【0033】
次に、ステップS102の接近工程では、金型300が型開きされた後で、シールリングX1の離型が可能となる位置(離型位置)まで、吸着装置10を移動させる。
図7は、接近工程において吸着装置10が離型位置に至ったときの吸着装置10と金型300との位置関係を示す図である。接近工程では、移動装置20が、吸着装置10を下降させた後
に前進させることで、吸着装置10を
図7に示す離型位置に配置する。
図7に示すように、吸着装置10が離型位置にあるとき、吸着装置10の吸着板2(及び保持面22)が金型300に対向している。
【0034】
次に、ステップS103の離型工程では、取り出しシステム100は、
図7に示した吸着装置10が離型位置にある状態で、吸着装置10に吸着圧を供給することで、シールリングX1を離型する。
図8は、離型工程においてシールリングX1が離型された状態を示す図である。
図8に示すように、シールリングX1が金型300から離れ、保持面22に吸着保持される。このとき、シールリングX1の少なくとも一部が溝21に収容された状態でシールリングX1が吸着保持されるため、吸着圧がシールリングX1に対して好適に作用し、シールリングX1を確実に吸着保持することができる。
【0035】
次に、ステップS104の退避工程では、シールリングX1を吸着保持した状態の吸着装置10を離型位置から退避させ、ゲートカット機によるシールリングX1のゲート切断が可能となる位置(ゲートカット位置)まで吸着装置10を移動させる。より具体的には、移動装置20が、吸着装置10を後退させた後に上昇させることで、吸着装置10をゲートカット位置に配置する。
【0036】
次に、ステップS105のゲートカット工程では、ゲートカット位置にあるシールリングX1のゲートをゲートカット機によって切断する。
【0037】
次に、ステップS106の開放工程では、シールリングX1を開放する位置(開放位置)まで吸着装置10を移動させ、開放位置において吸着装置10によるシールリングX1の吸着を解除し、シールリングX1を開放する。開放位置には、例えばシューターや集積装置が配置されており、開放されたシールリングX1は、次の機械に送られる。
【0038】
次に、ステップS107の回帰工程では、移動装置20が吸着装置10を待機位置まで移動させる。ステップS107の後は、ステップS101に戻り、待機位置に回帰した吸着装置10を、次回の射出成形が完了し、金型300が型開きされるまで待機させる。以上のようにして、射出成形ごとにシールリングX1の取り出しが行われる。
【0039】
ここで、
図9は、実施形態に係る取り出しシステムにおける制御装置80によるバルブ制御を示す図である。
図9では、待機工程から次サイクルの待機工程までの期間における第1高圧バルブ404、第1低圧バルブ406、及び第2バルブ701の開閉状態が示されている。
図9中の「t」は、時間を表す。
図9に示すように、待機工程の期間をt1≦t<t2とし、接近工程の期間をt2≦t<t3とし、離型工程の期間をt3≦t<t5とし、退避工程の期間をt5≦t<t7とし、ゲートカット工程の期間をt7≦t<t8とし、開放工程の期間をt8≦t≦t9とし、回帰工程の期間をt9<t<t10とし、次サイクルの待機工程の期間をt10≦t<t11とする。シールリングX1は、t=t4(t3<t4<t5)のタイミングで金型300から離型され、t=t9のタイミングで吸着装置10から開放される。以下、
図9を参照しながら、成形物の取り出し方法における吸着圧の制御及び作用について説明する。
【0040】
まず、
図9に示すように、待機工程の開始から接近工程の終了までの期間(t1≦t<t3)では、第1高圧バルブ404、第1低圧バルブ406、第2バルブ701の何れもが閉じられており、吸着装置10に対しては、第1の吸着圧と第2の吸着圧との何れもが供給されていない状態となっている。
【0041】
そして、離型工程の期間(t3≦t<t5)では、第1高圧バルブ404が開かれることで、0.7[MPa]の高圧縮空気がエジェクタ30に供給され、エジェクタ30によ
る第1の吸着圧が吸着装置10に供給される。これに加え、離型工程の期間では、第2バルブ701が開かれることで、真空ポンプ60による第2の吸着圧が吸着装置10に供給される。つまり、シールリングX1が離型されるt=t4のタイミングでは、第1高圧バルブ404と第2バルブ701との両方が開かれており、第1の吸着圧と第2の吸着圧とが同時に吸着装置10に供給される。そのため、比較的大きな吸着圧を必要とする離型のタイミングにおいて、十分な吸着圧が得られる。第1の吸着圧と第2の吸着圧とが吸引孔23を介してシールリングX1に作用することで、シールリングX1が金型300から離れ、保持面22に吸着保持される。
【0042】
第1高圧バルブ404は、離型工程が終了した後も、退避工程の期間の途中まで開かれており、t=t6(t5≦t6<t7)のタイミングで閉じられる。つまり、高圧縮空気による第1の吸着圧は、離型工程の開始から退避工程の途中まで(t3≦t<t6)、連続して吸着装置10に供給されている。そして、第1高圧バルブ404が閉じられるのと同時(t=t6)に第1低圧バルブ406が開かれることで、エジェクタ30へ供給される圧縮空気が高圧縮空気から低圧縮空気に切り替えられる。これ以降(t6≦t≦t11)、第1高圧バルブ404は閉じられている。エジェクタ30に供給される圧縮空気の圧力が高圧から低圧へと切り替えられることで、第1の吸着圧が弱められている。第1低圧バルブ406は、切り替えのタイミングから開放工程の終了直前まで(t6≦t<t9)、連続して開かれており、開放工程の終了時以降(t9≦t<t11)は、閉じられている。つまり、低圧縮空気による第1の吸着圧は、高圧縮空気から低圧縮空気への切り替えのタイミングから開放工程の終了直前(t6≦t<t9)まで連続して供給されている。以上のように、エジェクタ30による第1の吸着圧は、退避工程の途中で高圧縮空気によるものから低圧縮空気によるものへと切り替わるものの、シールリングX1の離型開始からシールリングX1の開放直前までの期間(t3≦t<t9)、連続して吸着装置10に供給されている。即ち、エジェクタ30による第1の吸着圧は、離型時から搬送時に亘って、連続して吸着装置10に供給されている。
【0043】
一方、第2バルブ701は、離型工程の終了直後のタイミング(t=t5)で閉じられる。そのため、離型工程が終了すると真空ポンプ60の吸引経路が遮断され、吸着装置10への第2の吸着圧の供給が停止される。それ以降(t5≦t<t11)、第2バルブ701は閉じられている。ここで、シールリングX1を吸着保持してしまえば、シールリングX1の搬送時(つまり、吸着装置10の移動時)は、離型時と比較してシールリングX1を吸着保持するために大きな吸着圧は必要とならない傾向がある。そのため、本実施形態に係る成形物の取り出し方法では、シールリングX1の離型が終了すると、シールリングX1の搬送時(t5≦t≦t9)は、第2の吸着圧の供給を停止し、第1の吸着圧のみでシールリングX1を吸着保持している。更に、搬送時の途中(t=t6)で第1の吸着圧を高圧縮空気によるものから低圧縮空気によるものに切り替えることで、シールリングX1を吸着保持しつつも、エジェクタ30に供給される空気量(即ち、空気の消費量)を低減している。
【0044】
なお、開放工程では、t=t9のタイミングで第1低圧バルブ406が閉じられることで、エジェクタ30への圧縮空気の供給が停止する。これと同時に、制御装置80が真空破壊装置50を制御することで、真空破壊装置50によってエジェクタ30の真空が破壊される。開放工程では、エジェクタ30への圧縮空気の供給が停止されると共にエジェクタ30の真空が破壊されることで、吸着装置10への第1の吸着圧の供給が速やかに停止され、シールリングX1が速やかに開放される。
【0045】
[作用・効果]
上述のように、成形物を取り出す過程では、成形物の離型のタイミングにおいて、成形物を吸着保持するために比較的大きな吸着圧が要求される。また、吸着圧の供給源として
エジェクタを用いる場合、エジェクタへ供給する圧縮空気の圧力を高めることで、吸着装置の吸着圧を高めることができる。しかしながら、空気の圧力を高めると、エジェクタに供給される空気の流量も増加する。そのため、エジェクタの排気孔から空気が排気される音は、圧力が高くなるほど大きくなる傾向がある。従って、仮に、離型のタイミングで成形物を吸着保持するための吸着圧をエジェクタのみで得ようとすると、エジェクタの排気口から大量の空気が排気されることで大きな騒音が発生する虞があった。
【0046】
なお、小さな吸着圧で成形物を離型するための手段としては、金型に離型剤を塗布することが考えられるが、その場合、離型剤を塗布する工数がかかる上に、離型剤が成形物の表面に付着したり成形物の内部に入り込んだりする虞がある。また、小さな吸着圧で成形物を離型するための別の手段として、金型の表面粗さを低減することも挙げられるが、そのための金型への表面処理はコスト高となる。また、騒音を低減するための手段として、エジェクタの排気口に消音装置を取り付けることも考えられるが、その場合、吸着圧が低下するデメリットもある。従って、離型のタイミングで吸着圧を大きくしつつも、大きな騒音の発生を抑制することが望まれていた。
【0047】
これに対して、本実施形態に係る取り出しシステム100は、シールリングX1を吸着保持する吸着装置10と、圧縮空気の駆動により吸着装置10に第1の吸着圧を供給するエジェクタ30と、モーター601の駆動により吸着装置10に第2の吸着圧を供給する真空ポンプ60と、を備えている。そして、取り出しシステム100は、第1の吸着圧を吸着装置10に供給している期間における離型のタイミングで、第1の吸着圧に第2の吸着圧を付加することで、離型のタイミングにおいてシールリングX1を吸着保持するための吸着圧を吸着装置10に供給するように構成されている。
【0048】
これによると、離型のタイミングでシールリングX1を吸着保持するために必要な吸着圧をエジェクタ30のみで供給する場合と比較して、エジェクタ30に供給すべき空気の圧力を低くすることができる。その結果、離型のタイミングでシールリングX1を確実に吸着保持し、取り出しミスを低減しつつも、大きな騒音の発生を抑制することができる。更に、必要な吸着圧をエジェクタ30のみで供給する場合と比較して、エジェクタ30に供給すべき空気の流量も少なく済むため、空気の消費量を低減することができる。
【0049】
なお、第1の吸着圧に加えて第2の吸着圧を供給するタイミングは、成形物の離型のタイミングには限定されない。つまり、本発明に係る成形物の取り出しシステムは、第1の吸着圧を吸着装置に供給している期間における所定のタイミング(本実施形態では、離型のタイミング)で、第2の吸着圧を吸着装置に供給することで、当該所定のタイミングにおいて成形物を吸着保持するための吸着圧を吸着装置に供給するように、構成されていればよい。例えば、成形物を搬送する際に、成形物に大きな慣性力が働くタイミングがある場合には、そのタイミングで第2の吸着圧を付加してもよく、そうすることで、搬送時において成形物を好適に吸着保持し、成形物の吸着装置からの脱落を防止することができる。また、例えば、成形物のゲートを切断するタイミングで第2の吸着圧を付加してもよい。そうすることで、ゲート切断時に成形物にかかる負荷によって成形物が動くことを防止できる。
【0050】
本実施形態では、特に、成形物を金型から離型するタイミングにおいて、成形物の搬送時よりも大きな吸着圧が必要となることに着目し、離型のタイミングで第1の吸着圧に加えて第2の吸着圧を供給するように、取り出しシステム100が構成されている。これにより、シールリングX1の取り出しミスを低減することができる。
【0051】
なお、取り出しシステム100は、第2の吸着圧を吸着装置10に供給している期間における離型のタイミングで、第2の吸着圧に第1の吸着圧を付加することで、離型のタイ
ミングにおいてシールリングX1を吸着保持するための吸着圧を吸着装置10に供給するように構成されていてもよい。例えば、真空ポンプ60による第2の吸着圧を離型時から搬送時に亘って連続して吸着装置10に供給し、離型のタイミングでエジェクタ30による第1の吸着圧を第2の吸着圧に付加するように、バルブ制御がなされてもよい。これによっても、離型のタイミングでシールリングX1を吸着保持するために必要な吸着圧をエジェクタ30のみで供給する場合と比較して、エジェクタ30に供給すべき空気の圧力を低くすることができる。その結果、離型のタイミングでシールリングX1を確実に吸着保持し、取り出しミスを低減しつつも、大きな騒音の発生を抑制することができる。つまり、本発明に係る取り出しシステムは、所定のタイミングで第1の吸着圧と第2の吸着圧とを加えることで、当該所定のタイミングにおいて成形物を吸着保持するための吸着圧を吸着装置に供給するように、構成されていればよい。
【0052】
更に、本実施形態では、吸着装置10の内部に、エジェクタ30が第1の吸着圧を供給するための吸引経路と真空ポンプ60が吸着装置10に吸着圧を供給するための吸引経路とが繋がる空間である負圧室S1が形成されている。そして、シールリングX1が吸着保持される保持面22内には、負圧室S1と繋がる吸引孔23が形成されている。つまり、取り出しシステム100では、エジェクタ30による吸引経路と真空ポンプ60による吸引経路とを共に負圧室S1に繋げ、負圧室S1に繋がる吸引孔23を介してシールリングX1に吸着圧を作用させる構成となっている。これによると、エジェクタ30による第1の吸着圧と真空ポンプ60による第2の吸着圧とを、共通の吸引孔23からシールリングX1に作用させることができる。つまり、第1の吸着圧に対して第2の吸着圧を付加することができる。特に、本実施形態のように保持面22に複数の吸引孔23が形成されている場合には、各吸引孔23が共通の負圧室S1に繋がることとなるため、各吸引孔23からシールリングX1に均等に吸着圧を作用させることができる。その結果、シールリングX1を安定して吸着保持することができる。
【0053】
更に、吸着装置10は、保持面22を底面として有する溝21であって、シールリングX1を収容可能な溝21を有している。これによると、シールリングX1が溝21に収容された状態でシールリングX1が吸着保持されるため、吸着圧がシールリングX1に対して好適に作用し、離型時や搬送時においてシールリングX1を確実に吸着保持することができる。なお、本発明に係る溝は、成形物の少なくとも一部を収容可能な深さを有していればよいが、本実施形態の溝21のように、成形物の全体を完全に収容可能な深さを有することがより好ましい。そうすることで、より好適に成形物を吸着保持することができる。
【0054】
ここで、樹脂成形物の場合、成形直後において比較的柔らかい傾向があるため、過度な吸着圧で離型しようとすると変形する可能性がある。また、合口を有するリング状の成形物の場合、合口部分が型から離れ難い傾向があるため、過度な吸着圧で離型しようとすると合口部分が変形する可能性がある。成形物の少なくとも一部を収容可能な溝を吸着装置に設けることで、吸着圧が成形物に対して好適に作用するため、適度な吸着圧で樹脂成形物や合口を有する成形物を離型することができ、これらの変形を抑制することができる。
【0055】
なお、上述の実施形態では、エジェクタに供給する圧縮空気の圧力を切り替えることで第1の吸着圧の大きさを切り替え可能に構成されていたが、本発明はこれに限定されない。つまり、エジェクタ(第1の真空発生装置)に供給する圧縮空気の圧力は、切り替え又は調節できなくともよい。但し、本実施形態に係る取り出しシステム100では、成形物を吸着保持するために高い吸着圧が必要な離型のタイミングでは高圧縮空気を供給し、離型のタイミングと比較して高い吸着圧は必要とされない搬送時には低圧縮空気を供給する構成としている。これにより、離型した成形物を搬送時においても安定して吸着保持しつつも、エジェクタ30に供給する空気の消費量を低減することができる。
【0056】
また、上述の実施形態では、吸着圧の供給の制御をバルブ制御により行ったが、本発明はこれに限定しない。吸着圧の供給の制御は、吸着圧の供給源の動作を制御することで行ってもよい。例えば、真空ポンプ(第2の真空発生装置)の吸引経路において、バルブを設けず、又はバルブが常時開いた状態にしておき、所定のタイミングで真空ポンプの吸引動作を開始させることで、第2の吸着圧を付加してもよい。
【0057】
更に、実施形態に係る取り出しシステム100は、圧縮空気をエアータンク402に溜めておき、バルブ制御によりエアータンク402からエジェクタ30への圧縮空気の供給を制御することで、必要なタイミングで圧縮空気を使用することができる。その結果、空気の消費量を低減することができる。
【0058】
[評価試験]
本実施形態に係る成形物の取り出しシステムの作用・効果を確認すべく、成形物の取り出し試験を行った。試験では、
図1に示す取り出しシステムを用い、
図5に示す手順によって、
図3に示す樹脂製の成形物の取り出しテストを10回行った。そして、吸着の成功率、吸着圧及び騒音レベルを評価した。吸着圧の評価は、吸着装置に取り付けた圧力センサを用いて、成形物に作用する吸着圧を測定した。騒音の評価は、騒音計を用いて騒音レベルを測定した。
【0059】
[実施例]
実施例として、
図9に示したバルブ制御を行った場合の吸着圧及び騒音を評価した。即ち、実施例は、第1高圧バルブを開くことで0.7[MPa]の高圧縮空気がエジェクタに供給され、第1低圧バルブを開くことで0.2[MPa]の低圧縮空気がエジェクタに供給されるようになっている。
【0060】
[比較例1]
図10は、比較例1におけるバルブ制御を示す図である。比較例1として、
図10に示すバルブ制御を行った場合の吸着圧及び騒音を評価した。比較例1では、第1高圧バルブを開くことで、0.5[MPa]の高圧縮空気がエジェクタに供給されるように、レギュレータが調整されている。比較例1では、離型工程の開始から開放工程の終了直前まで(t3≦t<t9)、第1高圧バルブを連続して開いた状態とし、且つ、第1低圧バルブ及び第2バルブを終始閉じた状態とした。つまり、比較例1では、実施例とは異なり、0.5[MPa]の高圧縮空気によりエジェクタが生成する第1の吸着圧のみを吸着装置に供給することで成形物の離型及び搬送を試みた。
【0061】
[比較例2]
図11は、比較例2におけるバルブ制御を示す図である。比較例2として、
図11に示すバルブ制御を行った場合の吸着圧及び騒音を評価した。比較例2は、第1高圧バルブを開くことで、0.7[MPa]の高圧縮空気がエジェクタに供給されるようになっている点では実施例と共通である。比較例2では、離型工程の開始から開放工程の終了直前まで(t3≦t<t9)、第1高圧バルブを連続して開いた状態とし、且つ、第1低圧バルブ及び第2バルブを終始閉じた状態とした。つまり、比較例2では、実施例と異なり、0.7[MPa]の高圧縮空気によりエジェクタが生成する第1の吸着圧のみを吸着装置に供給することで成形物の離型及び搬送を試みた。
【0062】
[試験結果]
表1は、吸着圧及び騒音の試験結果を示す。表1には、離型時(t=t4)と搬送時(t5≦t<t9)のそれぞれにおける、エジェクタに供給される圧縮空気の圧力、真空ポンプによる吸引の有無(即ち、第2の吸着圧の供給の有無)、吸着成功率、吸着圧の平均
値、及び騒音レベルの平均値を示した。「吸着成功率」における「離型時」の項目では、取り出しテストの全体の回数のうち、成形物を離型することのできた回数の割合とした。また、「吸着成功率」における「搬送時」の項目では、成形物を離型できた回数のうち、搬送時も継続して成形物を吸着保持することのできた割合とした。なお、表1に示す騒音レベルは、成形機の稼働による騒音を含むものである。取り出しシステムを稼働せずに(空気の供給及び排気を行わずに)、成形機のみを稼働した場合の騒音レベルは70~75[db]であった。
【0063】
【表1】
表1に示すように、実施例では、離型時の吸着成功率と搬送時の吸着成功率とが共に100[%]となった。つまり、実施例では、離型時と搬送時の両方で確実に成形物を吸着
保持することができた。また、実施例では、離型時に41.2[kPa]の吸着圧が得られ、搬送時には6.7[kPa]の吸着圧が得られた。また、実施例では、離型時の騒音レベルは91[db]であり、搬送時の騒音レベルは81[db]であった。また、比較例1では、離型時の吸着成功率が0[%]となった。つまり、成形物が吸着装置に吸着されず、成形物を金型から取り出すことができなかった。そのため、吸着圧及び騒音を測定できなかった。また、比較例2では、離型ミスが発生し、離型時の吸着成功率は40[%]となった
。また、比較例2の搬送時の吸着成功率は100[%]となった。また、比較例2では、
離型時に34.4[kPa]の吸着圧が得られ、搬送時には34.5[kPa]の吸着圧が得られた。また、比較例2では、離型時の騒音レベルは93[db]であり、搬送時の騒音レベルは118[db]であった。
【0064】
実施例の搬送時の吸着成功率と比較例1の離型時の吸着成功率とを比較することで、搬送時は0.2[MPa]の圧縮空気をエジェクタに供給することで成形物を確実に吸着保持可能であるのに対して、離型時は0.5[MPa]の圧縮空気をエジェクタに供給しても成形物を吸着保持できないことが分かる。これにより、搬送時よりも離型時の方が大きな吸着圧が必要となることを確認できた。
【0065】
実施例と比較例2の搬送時における騒音レベルを比較することで、エジェクタに供給される圧縮空気の圧力が高い方が、騒音レベルが高くなることを確認できた。
【0066】
実施例と比較例2の離型時における吸着圧を比較することで、エジェクタによる吸着圧に真空ポンプによる吸着圧を付加することでより大きな吸着圧を得られることを確認できた。また、実施例と比較例2の離型時の吸着成功率を比較することで、吸着圧を大きくすることで離型ミスを低減し、吸着成功率を高められることを確認できた。
【0067】
実施例と比較例2の離型時における騒音レベルを比較することで、エジェクタによる吸着圧に真空ポンプによる吸着圧を付加しても、騒音レベルが大きく上昇しないことを確認できた。
【0068】
以上、実施例と比較例2との比較により、エジェクタによる吸着圧に真空ポンプによる吸着圧を付加することで、騒音レベルの上昇を抑えつつも、つまり、大きな騒音の発生を
抑制しつつも、より大きな吸着圧が得られることを確認できた。
<その他>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0069】
100 :成形物の取り出しシステム
10 :吸着装置
1 :吸着ボックス
2 :吸着板
21 :溝
22 :保持面
23 :吸引孔
20 :移動装置
30 :エジェクタ(第1の真空発生装置の一例)
40 :圧縮空気移送手段
50 :真空破壊装置
60 :真空ポンプ(第2の真空発生装置の一例)
601 :モーター
70 :吸気移送手段
80 :制御装置
200 :コンプレッサー
300 :金型(成形型の一例)
S1 :負圧室