(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】超音波血流モニタ方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2019506365
(86)(22)【出願日】2017-08-04
(86)【国際出願番号】 GB2017052309
(87)【国際公開番号】W WO2018025050
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-08-04
(32)【優先日】2016-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521557300
【氏名又は名称】サイモン メディカル アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】トルプ、ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルグム、トルビョーン
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0374540(US,A1)
【文献】特開昭64-043237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血流量をモニタするシステムであって、
該システムは、
単一素子の超音波送受波器と、自ユニットを患者に固定するための固定具と、を有する第1ユニットと、
コントローラ・サブシステムと、
モニタサブシステムと、
を有し、
前記コントローラ・サブシステムは、
前記単一素子の超音波送受波器を制御して、伝播方向にいる患者の体内に平面波パルスを送波し、
前記単一素子の超音波送受波器で受波された、前記患者内の所定領域から発せられた前記平面波パルスの反射波をサンプリングして、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成し、
複数の前記パルス・ドップラー応答信
号から、前記所定領域を通過す
る血流の、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定し、
前記連続する複数の値の前記一つの組から所定時間内の血流曲線を計算することにより、前記所定時間内の血流曲線を計算し、
前記モニタサブシステムは、前記所定時間内における、連続する複数の値の一つの組をモニタし、一つ又は複数の前記値が所定の基準を満たす場合に信号を生成すること
を特徴とするシステム。
【請求項2】
前記超音波送受波器の前に音響レンズがないこと
を特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記超音波送受波器が、前記伝播方向に一定の断面を有する非集束型ビームを送波すること
を特徴とする請求項
1、または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラ・サブシステムは、前記伝播方向にある前記所定領域の広がりを制御するために距離ゲーティングを使用すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記固定具がストラップを含むこと
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記固定具が接着剤領域を含むこと
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラ・サブシステムは、熱雑音に関連する電力スペクトルを推定し、前記サンプリングされた反射波から生成された電力スペクトルから、前記熱雑音の前記電力スペクトルを減算すること
を特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラ・サブシステムは、複数の前記パルス・ドップラー応答信号をハイパスフィルタに通すこと
を特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラ・サブシステムが、前記血流曲線から脈動指数又は抵抗指数を計算すること
を特徴とする請求
項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラ・サブシステムは、前記患者内の複数の所定領域の各々から発せられた、前記平面波パルスの反射波をサンプリングし、複数の前記所定領域の各々について、複数の前記所定領域のそれぞれを通る
血流についてそれぞれ
の血流量を決定すること
を特徴とする請求項1
~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラ・サブシステムは、前記第1ユニットから分離した第2ユニットを有し、
前記第1ユニットは、複数の前記パルス・ドップラー応答信号を表すデータを、有線又は無線リンクを介して前記第2ユニットへ送信すること
を特徴とする請求項1
~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記第2ユニットは、複数の前記パルス・ドップラー応答信号から前記連続する複数の値の一つの組を推定すること
を特徴とする請求
項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記第2ユニットがディスプレイを有すること
を特徴とする請求
項11、または請求
項12に記載のシステム。
【請求項14】
患者の血流量をモニタする方法であって、該方法は、
単一素子の超音波送受波器を有するユニットを患者に締結するステップと、
平面波超音波パルスを伝播方向にいる前記患者の体内に前記単一素子の超音波送受波器から送波するステップと、
前記患者の体内の所定領域から発せられ前記単一素子の超音波送受波器で受信した、平面波パルスの反射波をサンプリングして、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成するステップと
、
複数の前記パルス・ドップラー応答信号から、前記所定領域を通過する血流の、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定し、前記連続する複数の値の前記一つの組から所定時間内の血流曲線を計算することにより、前記所定時間内の血流曲線を計算するステップと、
前記連続する複数の値の一つの組が、所定の警報発生基準を満たすかどうかを決定するステップと、
前記連続する複数の値の一つの組が前記所定の警報発生基準を満たす場合に警報を発するステップと、を含むこと
を特徴とする方法。
【請求項15】
前記連続する複数の値の一つの組の各値は、それぞれの時点で前記所定領域を通る血流量に関係し、かつ、複数の前記時点が1分より長い時間に広がること
を特徴とする請求
項14に記載の方法。
【請求項16】
前記連続する複数の値の一つの組の各値が、複数の時点のそれぞれにおいて前記所定領域を通る血流量に関連し、前記複数の時点は1時間よりも長い時間に広がること
を特徴とする請求
項14、または請求
項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて生体内の血流をモニタする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間や動物の患者の末梢血流をモニタすることが役に立つ多くの臨床事例がある。例えば、早産の乳児の脳内血流をモニタすることは、血流の減少が確認された場合に迅速に治療を開始するために重要である。また、末梢バイパスの閉塞を検出するために、血管の手術後の数時間、患者の微小循環をモニタすることは有用である。
【0003】
血液の流れを分析するために様々な技術が用いられてきた。その技術の中には、レーザ・ドップラー走査、近赤外分光法、ドップラー超音波撮像が含まれる。しかしながら、このような分析は、一般的には、熟練した技術者が行うことが必要であり、このような技術者が分析の間ずっと患者の傍にいる必要があった。そのような分析を実行するための機器もまた非常に高価になる場合があった(例えば、3D超音波撮像システムは100万米ドルを超える)。従って、このような技術は、病棟にいる患者の無人モニタリングにはあまり適していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Abnormalities of left ventricular filling in patients with coronary artery disease: assessment by colour M-mode Doppler techniqu、Stugaard M、Brodahl U、Torp H、Ihlen H (Eur Heart J. 1994 Mar、15(3):318-27)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記技術の問題を解決する、より進んだ分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、生体内の血流をモニタするためのシステムを提供し、本システムは、
超音波送受波器と、
コントローラ・サブシステムと、を含み、
該コントローラ・サブシステムは、
(i)平面波パルスを伝播方向にある生体内に送波するように前記超音波送受波器を制御し、
(ii)前記生体内の所定領域から発せられ、前記超音波送受波器で受波された、前記平面波パルスの反射波をサンプリングし、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成し、そして
(iii)複数の前記パルス・ドップラー応答信号を処理して、前記所定領域を通過する総血流量に比例する尺度となる、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定する。
【0007】
本発明の第2の態様は、生体内の血流をモニタする方法を提供し、該方法は以下のステップを含む。
平面波パルスを伝播方向にある生体内に送波するステップと、
前記生体内の所定領域から発せられた、前記平面波パルスの反射波をサンプリングして、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成するステップと、
複数の前記パルス・ドップラー応答信号を処理して、前記所定領域を通過する総血流量に比例する尺度となる、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定するステップ。
【0008】
したがって、当業者には明らかなように、本発明によれば、低コストの非収束型超音波送受波器を用いて、生体内の所定領域を通過する血流を定性的にモニタすることができる。これは、単一血管内の血流の絶対量を計算しようとする従来技術の手法とは対照的である。言い換えれば、本発明の実施形態では、前記尺度は全血流量に比例するが、等しくはない。上述のような従来技術のアプローチは、典型的には高価な超音波送受波器、複雑な処理システム、及び熟練した操作者を必要とする。これに対し、本願の発明者は、生体の所定領域内の血流量の相対的尺度の値は、はるかに低いコストで、かつ、熟練したオペレータを必要とせずに取得でき、それにも拘わらず、生体に関する臨床的に重要な情報を提供することができることを発見した。本願発明者はさらに、前記測定は生体の前記所定領域内の血管に対する超音波送受波器の角度とは無関係に行うことができる(以下で、より詳細に説明する)ので、撮像システムを必要とせずに上記値を取得することができることを発見した。
【0009】
本発明は、アレイ型の超音波送受波器を使用して実施することができるが、好ましい一組の実施形態では、超音波送受波器は単一素子超音波送受波器である。前記素子は圧電素子にすることができる。超音波送受波器内の同じ素子で、超音波を送波及び受波することが好ましい。これにより、超音波送受波器のコストを低く抑えることができる。超音波送受波器は、好ましくは、平坦な表面から超音波を放射する。この平坦な表面の幅(例えば、最大幅、最小幅、又は平均幅)は、好ましくは、従来の集束型超音波送受波器の幅と比較して広い方がよい(例えば、少なくとも2mm、5mm、10mm、20mm、又はそれ以上の幅を有する)。前記超音波送受波器は、超音波エネルギーを実質的に均一なビームで、すなわち伝播(深さ)方向に一定の断面積を有するように送波することが好ましい。超音波送受波器(すなわち、その送波面)は任意の形状にすることができるが、一組の実施形態では円形である。この場合、例えば、直径10mmの円柱状のビームを生体内に送波することができる。ビームを集束させないことによって、平面波送波強度は、対象領域全体に亘ってほぼ均一になる。これにより、全血流量に比例する尺度を推定(すなわち、システムの精度限界内で、かつ、何らかのノイズやその他の原因による誤差の範囲内で計算)することが可能になる。これは通常、集束型ビームを用いては不可能と思われる。集束型ビームの強度は、対象領域全体に亘って、かつ、個々の血管毎に変化する。従って、集束型ビームを使用する従来技術の超音波血流撮像システムは、総血流量ではなく血流速度だけを測定する。
【0010】
生体内の領域の横方向の広がりは、好ましくは、超音波送受波器(又はその送波面)の形状によって決定される。生体内の領域の軸方向(すなわち、伝播方向、又は、本明細書では深さ方向とも呼ぶ)の広がりは、各パルスの持続時間及び各パルスを送波後に反射波がサンプリングされるまでの遅延時間によって決定することができる。対象領域の軸方向の広がりを制御するために距離ゲーティングを使用することができる。いくつかの実施形態では、対象領域は0.15mmから1mmの深さになる。
【0011】
本発明は、特に、超音波送受波器に近い場所の血流を決定するのに適している。この理由は、広がりのある非収束型のビームの場合、各々の血球からの反射波が比較的弱いからである。したがって、対象領域は、伝播方向の超音波送受波器からの最大距離が、超音波送受波器の幅(例えば、最大幅、最小幅、又は平均幅)よりも短くなる、又は広くとも、超音波送受波器の幅の2倍、3倍、5倍、又は10倍程度である。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記平面波パルスの反射波は、生体内の複数の領域の各々から、好ましくは超音波送受波器からの距離が異なる複数の場所、例えば複数の対をなして隣接する、又は重なり合う領域からサンプリングされる。前記領域は、全て同じ厚さを有し、0.15mmから1mmの間にすることができる。超音波送受波器から最も遠い領域は、伝播方向における超音波送受波器からの最大距離の地点にあるが、やはり、超音波送受波器の幅(例えば、最大幅、最小幅、又は平均幅)よりも短く、超音波送受波器の幅の2倍、3倍、5倍、又は10倍程度である。それぞれの領域を通る総血流量に比例する尺度となる、連続する複数の値の組のそれぞれが、それぞれの領域について決定される。
【0013】
平面波パルスは、好ましくは間欠的に、好ましくは一定間隔で送波される。約10キロヘルツのパルス繰り返し周波数を使用することができる。送波されるパルスは、好ましくは、共通のキャリア周波数を有する正弦波パルスである。一つのパルス・ドップラー応答信号は、たったひとつのパルスの複数の反射波から生成することができる。しかしながら、有効な深度分解能を得るためには、各パルスは短いことが必要であり、したがって、一般的に非常に短く、ドップラー周波数シフトを単一のパルスの反射波から測定することは不可能である。(単一パルスの帯域幅は、通常、約1MHzになるが、一方、対象領域内の血球から出てくるドップラーシフトは、約1kHzになる)。したがって、対象領域を通過する総血流量に比例する尺度の各々は、複数のパルス(例えば、約50パルス)の複数の反射波から決定することが好ましい。複数のパルスの各々から一つのサンプルを得ることができ、この複数のサンプルは、次に、一つのパルス・ドップラー応答信号を生成するために使用され、該一つのパルス・ドップラー応答信号は、前記尺度となる値を推定するために処理される。
【0014】
いくつかの実施形態では、パルス・ドップラー応答信号は複素復調される。応答信号は、好ましくは、ベースバンドにシフトされる。いくつかの実施形態では、ヒルベルト変換を複数のパルス・ドップラー応答信号に適用することができる。前記応答信号は、例えば熱雑音を低減するためにフィルタリングすることができる。
【0015】
本明細書では、パルスは平面波パルスとして記載しているが、当業者には、実際には、波面が厳密には平面でない可能性があることがわかる。これは、例えば、超音波送受波器の不完全性、又は波の進行時に起きる干渉(例えば、屈折及び回折)、又は波面の範囲が有限であることに起因する。パルスは、好ましくは非集束である。超音波送受波器は音響レンズを持たないことが好ましい。伝播方向は、例えば対象の生体に対する超音波送受波器の意図的又は偶発的な相対移動により、経時変化することがある。
【0016】
前記領域を通る全血流量に比例する尺度となる、連続する複数の値の一つの組は、値を、2、3、10又はそれ以上含むことができる。各値は、好ましくは、異なる時点において前記領域を通る血流量に関係づけられる。これらの時点は、1分、又は30分、60分、120分、若しくは240分、又はそれよりも長い期間に及ぶ場合がある。前記連続する複数の値の一つの組は、モニタサブシステムによってモニタすることができる。一つ又は複数の前記値の一つの組が所定の基準を満たす場合、例えば、一つの値が閾値より小さくなる場合(一つ又は複数の以前の値と比較して決定される)、又は前記連続する複数の値の一つの組が閾値速度よりも速くなる場合等に、一つの信号を生成することができる。該信号は、例えば、可聴警報を鳴らすことによって、又はネットワーク接続を介してメッセージを送波することによって、警報を出すことができる。前記システムは、患者モニタシステム、例えば病院のベッドサイドで使用するためのシステムとすることができる。前記連続する複数の値の一つの組は、1分よりも長い時間、又は30、60、120、又は240分、又はそれ以上長い時間の間、モニタすることができる。
【0017】
複数のパルス・ドップラー応答信号は、前記領域を流れる全血流量に比例する尺度を推定するための任意の適切な方法で処理することができる。前記尺度と前記領域を流れる前記全血流量との関係(すなわち比例係数)は、前記連続する複数の値の一つの組に対して一定であることが好ましい。
【0018】
サンプリングされた反射波は、応答信号を生成する時に、ノイズを除去するように、又は他の目的のために処理することができる。例えば、熱雑音を除去又は減衰させるために、コントローラ・サブシステムは、熱雑音(例えば、超音波送受波器が動作していないときに受波される信号(すなわち、反射波を含まない信号)から生成される)に関連する電力スペクトルを推定し、そして、サンプリングされた反射波から生成された電力スペクトルから熱雑音の電力スペクトルを除去するように構成できる。熱雑音はすべての周波数で一定であるので、熱雑音の電力を推定し、この熱雑音の電力を、周波数スペクトル全体に亘って、サンプリングされた反射波から生成された電力スペクトルから差し引くことで求められる。
【0019】
複数の実施形態の好ましい組では、前記尺度となる値の各々は、複数のパルス・ドップラー応答信号のうちの一つの少なくとも一部分のそれぞれの電力加重平均周波数(又は、より一般的には、「標準平均(average)」の任意の適切な定義に対する電力加重標準平均周波数)から決定することができる。血流の尺度は、電力加重平均周波数と等しくすることができ、又はこの電力加重平均周波数の関数とすることができる。前記コントローラ・サブシステムは、好ましくは、一つの応答信号から電力加重平均周波数を計算するように構成される。この平均値は、一つのパルス・ドップラー応答信号の全体にわたって、又は前記一つのパルス・ドップラー応答信号の一部に亘って(例えば、周波数の特定の範囲にわたって)計算することができる。電力加重平均周波数を表す値は、メモリ、例えば、RAM又はシステムのレジスタに、処理の一部として格納することができる(この値は、前記平均周波数でよく、又は、平均周波数の丸め値、又は、平均周波数の数学的に等価な表現等の、適切な表現値にすることができる)。それぞれの電力加重平均周波数の値は、一続きの平面波パルスのそれぞれ、例えば50パルス近辺の数のパルス、の反射波から計算することができる。
【0020】
前記電力の加重は、任意の適切な方法、例えば、複数の周波数値の一つの組、又は複数の周波数離散区間の一つの組の各々の値に、前記周波数値、又は前期離散区間の各々における一つの前記パルス・ドップラー応答信号の電力又は振幅の尺度を乗算することにより、掛けることができる。いくつかの実施形態では、電力加重平均周波数は積分として計算することができる。他の実施形態では、電力加重平均周波数は自己相関を用いて計算することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記コントローラ・サブシステムは、複数の周波数の組の一つ全体に対して、(好ましくはベースバンドにシフトされた)複数のパルス・ドップラー応答信号のうちの一つの電力スペクトルの関数を積分するように構成される。前記関数は、電力に周波数を乗じたものとすることができる。電力スペクトルは、複雑な復調処理の後に、フーリエ解析を使用して、例えば、パルス・ドップラー応答信号の高速フーリエ変換を行うことによって決定することができる。電力スペクトルの関数は、任意の適切な周波数の組全体に亘って積分することができる。いくつかの実施形態では、電力スペクトルの関数は、フーリエ変換において全周波数にわたって積分することができる。しかしながら、他の実施形態では、前記周波数の一つの組は、ゼロ付近の帯域内の複数の周波数(復調前に送波されたパルスの搬送波周波数に近い周波数に対応する)を除外することができる。これは、ベースバンドにシフトされた一つのパルス・ドップラー応答信号にハイパスフィルタ(例えば、約50Hzから約500Hzの間の遮断周波数を有する)を適用することによって実現できる。このようにして、静止した、又はゆっくり移動する「かく乱物」からの反射波をフィルタして除去することができ、その結果、血液等の速く移動する身体組織からの反射波のみを積分に含むようにすることができる。ゆっくり移動する血液による影響は、このようなハイパスフィルタによって除去することができる。しかし、前記対象領域の中を流れる総血液量に対し、上記のような動きの遅い血液の影響は一般的には微小であり、従って、無視できるものと見なしてもよい。
【0022】
前記電力スペクトルの関数が積分される範囲にある前記周波数の一つの組は、正の周波数(復調前に送波されたパルスの周波数よりも高い周波数に対応する)のみを含むことができ、その結果、超音波送受波器に向かう成分を有する方向の流量のみが含まれる。あるいは、前記周波数の一つの組は、負の周波数(復調前に送波されたパルスの周波数よりも低い周波数に対応する)のみを含むことができ、その結果、超音波送受波器から離れていく成分を有する方向にある流量のみを含むことができる。前記コントローラ・サブシステムは、正の周波数のみ、又は負の周波数のみを選択して処理するように制限する入力を受波するように構成することができる。このようにして、医師は一方向のみの流れをモニタすることを選択することができる。これは、例えば、一つの領域内の特定の主要な動脈に関心がある場合に有用である。
【0023】
いくつかの実施形態において、コントローラ・サブシステムは、一つのパルス・ドップラー応答信号から、自己相関を用いて電力加重平均周波数を計算する。該コントローラ・サブシステムは、一つの前記応答信号の一部又は全ての複素包絡線信号の自己相関関数を用いて、電力加重平均周波数を計算するように構成することができる。該コントローラ・サブシステムは、自己相関を実行するための一つ又は複数の共役複素数乗算器を含むことができる。自己相関関数は、1サンプルの遅れで決定することができる。電力加重平均周波数は、前記一つの応答信号の信号電力に複素自己相関関数を乗算することによって計算することができる。
【0024】
前記尺度と全血流量との比例係数は、通常は未知である。この理由は、前記因子が超音波送受波器と血管との間の超音波の減衰だけでなく、血液の散乱係数に依存するからである。しかし、前記因子は、連続する複数の値の一つの組にわたって一定であると見なすことができる、これにより、連続する複数の値の一つの組の有意な分析が可能になる。
【0025】
条件によっては、減衰が一定であるという仮定が正当化できない場合がある。たとえば、超音波送受波器を有するプローブが、生体に対して相対的に(わずかでも)動いている場合等である。したがって、いくつかの実施形態では、複数のパルス・ドップラー応答信号の処理は、超音波送受波器と対象領域との間の減衰の補償を含む。これは、対象領域を通過する総血流量に比例する尺度を、減衰の推定値に基づいて縮尺調整することによって行うことができる。この減衰の推定値は、超音波送受波器の動的な相対運動を可能にするために、時間間隔をあけて更新することができる。いくつかの実施形態では、前記コントローラ・サブシステムは、ローパスフィルタをベースバンドシフトした一つのパルス・ドップラー応答信号に適用し、ローパスフィルタリングの後に、尺度の推定値を信号電力で除算するように構成される。前記ローパスフィルタは、血管の周囲の静止した組織及び動きの遅い組織(筋肉、血管壁等)からの信号を通すが、動きの速い血液からの信号をフィルタに通して除去するように設定することができる。フィルタは、約50Hzから約500Hzの間の遮断周波数を持つことができる。(これは、複雑な復調が実行されない場合、送波された平面波パルスの周波数の周りの帯域内の信号をフィルタに通して除去することと等価である)。前記ローパスフィルタは、上述した「かく乱物」からの信号のフィルタを補完することができる。減衰は通常、高周波と低周波の反射波に同じ程度の影響を与えるため、前記尺度を低周波の信号電力で除算すると、減衰の影響を取り除くことができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記尺度の一つの値は、5ミリ秒毎に、又は10ミリ秒毎に、あるいは5ミリ秒と10ミリ秒の間の何秒か毎に推定することができる。連続する複数の値の一つの組から一つの血流曲線を計算することができ、前記複数の測定値の一つの組は部分的に重複する複数の期間から生成することができる。この血流曲線は、波形解析のための十分な時間分解能を有することが好ましい。前記コントローラ・サブシステムは、前記血流曲線から複数の心拍にわたる時間平均を計算するように構成することができる。該コントローラ・サブシステムは、前記血流曲線から拍動指数及び/又は抵抗指数を計算するように構成することができる。これらの指標は、対象領域内の血管の弾性特性に関連している。
【0027】
連続する複数の値の複数の組を、多様な周辺抵抗を用いて決定することができる。前記連続する複数の値の複数の組は、容積コンプライアンスに比例するパラメータを、例えば、波形をウインド・ケッセル・モデルと組み合わせることによって推定するために使用することができる。
【0028】
対象領域内の全血流量に比例する、連続する複数の値の一つの組、血流曲線、脈動指数、抵抗指数、容積コンプライアンスに比例するパラメータ、及び他の何らかの中間値又は出力値のすべてを表すデータは、前記システムのメモリに格納するか、データ接続を介して出力するか、又は画面上に表示することができる。
【0029】
血流モニタシステム及びそのコントローラ・サブシステムは、当業者には常識であるが、一つ又は複数のプロセッサ、DSP、ASIC、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、入力、出力等を含むことができる。本明細書に記載する動作のいくつか又はすべては、メモリに格納され、前記コントローラ・サブシステム又は血流モニタシステム内にある一つ又は複数のプロセッサ上で実行されるソフトウェアによって、又はその制御下で実行することができる。血流モニタシステムは、単一の装置、又は分散システムにすることができる。分散システムでは、一つ又は複数の動作を、生体から離れて、例えば、リモートサーバ上で遠隔実行することができる。前記コントローラ・サブシステム内にあるサンプリングモジュールは、増幅器、及び/又は、ADC、及び/又は、一つ又は複数のフィルタ及び/又は復調器を含むことができる。
【0030】
特に、コントローラ・サブシステムは、2つの別々のユニット、すなわち第1ユニットと第2ユニットとを有することができる。該第1ユニットは超音波送受波器を制御して反射波をサンプリングすることができる。前記第2ユニットは、複数のパルス・ドップラー応答信号から、連続する複数の値の一つの組を推定することができる。前記第1ユニット又は第2ユニットは平面波パルスの反射波をサンプリングすることができる。該2つのユニットは、USBケーブル等の有線リンク、又はブルートゥース(登録商標)接続等の無線リンクを介して通信することができる。特に、前記第1ユニットは、(好ましくはバンドパスフィルタリング及び複素復調後に)複数のパルス・ドップラー応答信号を表すデータを、好ましくは無線で、前記第2ユニットに送波することができる。前記第1ユニットは、電池等の電源を有する。前記第1ユニットは、超音波送受波器を、例えば共通の筐体、好ましくは箱型のような堅固な筐体内に有することができる。前記第1ユニットは、該第1ユニット自体を患者に固定するための手段、例えば、ストラップ、接着パッド若しくは接着領域等、又は任意の他の適切な固定具を有することができる。前記第2ユニットはディスプレイを有することができる。前記第2ユニットは、モバイルフォン(携帯電話)、タブレット・コンピュータ、又は他の携帯機器とすることができる。このようにシステムを分割することにより、前記第1ユニットは、リード線を接続する不便さなしに患者に容易に取り付けることができる携帯型センサユニットとすることができ、かつ、比較的低コストにすることができる。この理由は、前記第1ユニットは、比較的基本的なマイクロコントローラのみを有すればよく、一方、応答信号のより複雑な処理は、他のより高性能の装置で実行することができるからである。
【0031】
本明細書に記載する動作は、必ずしも互いに近接した時間内で実行される必要はない。特に、反射超音波信号は、第1の期間に取得され、その後、何日も離れた、後の期間に処理することができる。
【0032】
本願発明のシステムは、多くの用途、例えば新生児モニタリング、術後ケア、脳内循環モニタリング、微小循環モニタリング、緊急時の突発的失血のモニタリング、等に応用できる。
【0033】
本願発明者は、同じ原理が単に血液だけでなくそれ以外の物質のモニタに適用することができることを認識しており、したがって、さらに別の発明の態様では、本願発明は、流体の流量をモニタするためのシステムを提供し、該システムは、
超音波送受波器と、
コントローラ・サブシステムと、を含み、
該コントローラ・サブシステムは、
(i)平面波パルスを伝播方向に送波するように前記超音波送受波器を制御し、
(ii)ある領域から発せられ、超音波送受波器で受波された、前記平面波パルスの反射波をサンプリングし、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成し、そして
(iii)複数の前記パルス・ドップラー応答信号を処理して、前記領域を通過する流体の総流量に比例する尺度となる、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定する。
【0034】
本発明のもう一つ別の態様は、流体の流量をモニタする方法を提供し、該方法は以下のステップを含む。
平面波音響パルスを伝播方向に送波するステップと、
一つの領域から発せられた、前記平面波パルスの反射波をサンプリングして、複数のパルス・ドップラー応答信号を生成するステップと、
複数の前記パルス・ドップラー応答信号を処理して、前記領域を通過する液体の総流量に比例する尺度となる、所定時間内における、連続する複数の値の一つの組を推定するステップ。
【0035】
流体は任意の液体又は気体とすることができる。音響パルスは超音波パルスとすることができる。上述の特徴の任意に選択したいずれでも、上記発明の態様の特徴とすることができる。
【0036】
本明細書に記載の任意の発明の態様又は実施形態のいずれの特徴も、適切な場合はいつでも、本明細書に記載の他の任意の発明の態様又は実施形態に適用することができる。異なる実施形態又は実施形態の組を参照する場合、これらの実施形態又は実施形態の組は、必ずしも相違しているわけではなく、重複することもあることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以降、単なる例として、本発明の特定の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して説明する。この図面には以下がある。
【
図1】本発明の実施形態の走査システムの図である。
【
図2】前記走査システムの機能要素の概略図である。
【
図3】血液供給系及び超音波送受波器の簡略な断面図である。
【
図4】第1の方向を向いた超音波送受波器を含む簡略な断面図である。
【
図5】第2の方向を向いた超音波送受波器を含む簡略な断面図である。
【
図6】血管及び超音波送受波器を通る、説明記号を入れた簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、超音波利用血流モニタシステム1を示す。血流モニタシステム1は圧電型超音波送受波器2、処理ユニット3、及び表示装置4を含む。超音波送受波器2は、適切な筺体に収容された、単一で、平面状の、直径約10mmの円形の能動素子を有する。超音波送受波器2は、処理ユニット3と有線接続されている。処理ユニット3はディスプレイ4に接続されている。
【0039】
超音波送受波器2は、処理ユニット3の制御下で、複数の超音波平面波(例えば、連続するパルスの一つの組)を送波することができ、かつ、前記超音波平面波の反射波を受波できる。超音波送受波器2は、未熟児等の患者5に、例えば、一つ又は複数のストラップ、又は粘着パッドにより固定することができる。
【0040】
超音波送受波器2は、臨床医又は技師によって患者5に固定され、その後、微小循環血流をモニタするためにモニタシステム1に接続して無人のままにしておくことができる。モニタシステム1は、血流曲線のリアルタイム・プロット等のデータをディスプレイ4に出力することができる。モニタシステム1は、また、血流量が急速に低下する場合のように、所定の基準が満たされる場合に警告を発することもできる。この警告はディスプレイ4に表示することができ、又は音声で発することができ、又はネットワーク接続を介して別の装置に送信することができる。
【0041】
モニタシステム1は、未熟児の脳内循環をモニタするために、又は手術後の末梢循環をモニタするために、あるいは血流量の変化が患者5の状態に関する有用な指標を提供できる他の多くの状況のために使用することができる。
【0042】
図2は、システム1をより詳細に示す。処理装置3はマイクロコントローラ(MCU)6を含む。代替的には、マイクロコントローラ(MCU)6は、一つ又は複数のCPU、DSP、又は他の処理手段とすることができる。処理装置3内の送受信器と送受切り替え部の混合部7は、超音波送受波器2に接続されている。この送受信器と送受切り替え部との混合部7は、超音波送受波器2に平面波パルス(例えば長さ10マイクロ秒の間)を所定の搬送周波数(例えば2MHz)かつ所定の繰返し速度(例えば、10kHz)で送波させることができる。送受信器と送受切り替え部の混合部7は、マイクロコントローラ6に制御されて、各パルスの反射波を超音波送受波器2で受波するために、送波モードと受波モードとを前記所定の繰り返し速度(例えば、10kHz)で切り替えることができる。送受信器と送受切り替え部の混合部7は、受波した反射波を、処理ユニット3内にある低雑音増幅器(LNA)8へ出力する。LNA8は、受波した反射波信号を増幅する。LNA8は、増幅した反射波信号を処理ユニット3内のアナログ-デジタルコンバータ(A/D)9に出力する。アナログ-デジタルコンバータ(A/D)9は、受波した各パルスからの反射波をサンプリングしてデジタル化する。
【0043】
サンプリングされた反射波(複数のパルス・ドップラー応答信号)は、次に、処理ユニット3内のフィルタ/複素復調ユニット10においてバンドパスフィルタに通され、そして複素復調される。復調された複数のパルス・ドップラー応答信号は、マイクロコントローラ6に送波され、次の処理が行われる。マイクロコントローラ6は、血流量の推定値を計算し、該血流量に関するデータを、ユーザに表示するために、(処理装置3と分離していても一体化していてもよい)表示装置4に入出力ユニット(I/O)11を介して送信する。
【0044】
代替的に、復調された複数のパルス・ドップラー応答信号は、入出力ユニット(I/O)11を介して外部表示装置4(携帯電話又はタブレット・コンピュータとすることができる)に直接転送することができ、表示装置4が、応答信号からの血流量の推定値を計算することができる。この場合、I/Oユニット11は、ブルートゥース(登録商標)無線のような無線通信ユニットとすることができる。
【0045】
代替の実施形態では、超音波送受波器2は、処理ユニット3と電線によって接続するのではなく、共通の筺体内で処理ユニット3と一体化させることができる。その場合、処理ユニット3は非常にコンパクトであることが好ましい。処理ユニット3は電池駆動にすることができる。I/Oユニット11は、好ましくは無線(例えば、ブルートゥース無線)接続である。このようにして、複合化された処理ユニット3と超音波送受波器2とは、携帯性が非常に良いセンサユニットを形成する。該センサユニットは、好ましくは、処理のために復調信号を別筺体の表示装置4に送波することができる。これによって、処理ユニット3は、比較的基本的なマイクロプロセッサ6を有することができ、低コストで製造することが可能になる。
【0046】
マイクロコントローラ6、及び/又は表示装置4は、復調した応答信号を処理して、以下に記載した技術のいずれかを使用して、患者5の体内の血流量の連続する複数の推定値の一つの組を取得することができる。
【0047】
図3は、分岐血管系12の断面図を示す。血分岐管系12は、患者5の皮下、数mm、又は1cm若しくは2cmにある。
図3の左側にある超音波送受波器2は、患者5に取り付けられている。超音波送受波器2は、円筒状のビームの形で患者5の体内に平面波を送波する。前記円筒の軸は、
図3の左から右に伸びる。戻りの反射波は各パルスの送信後にサンプリングされる。患者5の体内の一組の円筒形サンプル体13a~13kの各々について、パルス送波後の遅延の後に一つのサンプルが取得され、該遅延を用いて各サンプル体13a~13kが超音波送受波器2の表面からどれだけ離れているかを決定する。
【0048】
超音波送受波器2は、非集束型の、音響レンズを含まないディスク形状の超音波送受波器であり、従来技術の集束型の超音波送受波器又はアレイ型超音波送受波器よりもかなり大きい寸法の、例えば直径10mmの円形ディスクである。これにより、深さ方向に一定の断面を有する均一なビーム、例えば直径10mmの円筒形ビームを生成することができる。受波時の空間感度もまた、前記ビームの幅の中で一定であり、その結果、前記サンプル体の断面積は集束型ビームと比較してはるかに大きくなる。これは、システム1が集束型の超音波送受波器よりもはるかに広い領域から血流の信号を取得するので、前記プローブの位置及び向きがそれほど大きな要因でなくなることを意味する。集束型ビームと比較した幅広ビームの欠点は、個々の血球からの信号が弱くなることである。これにより、測定可能な最大深度に制限が出て来る。したがって、本願発明の技術は深部血管には適用できない。
【0049】
連続する複数のパルス(例えば、50パルス)から成る一つの組から得られるサンプルは、各サンプル体13a~13kについて収集され、復調ユニット10によってフィルタリング及び複素復調され、各サンプル体13a~13kについてそれぞれ、ベースバンドのパルス・ドップラー応答信号を5ミリ秒毎に出力する。
【0050】
マルチゲート・ドップラー技術を使用することによって、前記信号は多数のドップラー信号に分割され、各ドップラー信号は超音波ビームに垂直な薄い「スライス」、又はサンプル体13a~13k、を通過する血流を表すようにできる。前記スライスの厚さdは、送波パルスの長さ、d=N*λ/2によって与えられる。ここで、Nは送波パルスの周期の数、λは超音波ビームの波長である。厚さdの典型的な値は0.15mmから1mm(例えば0.5mm)である。各サンプル体13a~13kから発せられるドップラー信号の周波数解析(例えば、高速フーリエ変換による解析)によってドップラー周波数スペクトルが得られる。ここで、各周波数成分の電力密度は、超音波送受波器2に垂直な特定の速度成分を持つ血液細胞の数から求められる。
【0051】
各サンプル体13a~13kについて、血流量の値は、各サンプル体を通過する全ての血管を流れる血流量を示し、そして、超音波ビームと血管との間の角度とは無関係な尺度を与える。これは
図4、5、及び6に示されている。
【0052】
図4は、第1の方向を向いた超音波送受波器2を示し、代表的なサンプル体13が血管系12と交差している。
【0053】
図5は、第2の向きにある超音波送受波器2を示しており、別の例示的なサンプル体13’が血管系12と、
図4とは異なる角度で交差している。同一の主血管(血流の大部分を占める)が、第1及び第2の方向においてサンプル体と交差している。
【0054】
図6は、血管系12の主血管の一部を示し、該主血管は、超音波送受波器2に対して角度jの方向を向いている。該主血管が、断面積aを有し、血液が、速度vで矢印の方向にサンプル体の一部分に沿って移動していると仮定する。このとき、サンプル体13と主血管との交差部における血液の容量は、d*a/cos(j)である。
【0055】
対応するドップラーシフトは、fd=2*v*cos(j)/lである。電力密度スペクトルP(fd)は血液容量に比例する。
【0056】
重要なことに、以下の一組の式(1)は、積P(fd)*fdが角度θと無関係であることを示している。
【0057】
【0058】
ここで、kは超音波減衰に依存する縮尺調整定数であり、qは血管内の血流量である。いくつかの血管が前記サンプル体と交差する場合、交差する血管の各々は、式(1)に従って電力スペクトルに寄与する。次に、サンプル体13’を通る総血流量を、以下のように、ドップラースペクトル内のすべての周波数にわたって式(1)を積分することによって得ることができる。
【0059】
【0060】
すべての周波数に対して一定である熱雑音の影響を除去するために、送波電力をオフにしたときの信号から熱雑音を推定し、上記積分の前に、前記熱雑音を電力スペクトルから差し引くことができる。
【0061】
上記式(2)は、血流速度が血管断面にわたって変化するときでも有効であることに留意されたい。これは次のように理解することができる。すなわち、速度を一定にして前記血管断面を小さなサブエリアに分割し、積分によって合計を計算することを考えよう。測定された血流量qは角度jとは無関係であることにも留意されたい。このことは、撮像システムがないので血管の傾きを測定する方法がないため、重要である。超音波の波長lと前記サンプル体の厚さは既知であるが、縮尺調整定数kはわかっていない。縮尺調整定数kは、血液の散乱係数、及び、超音波送受波器と血管との間の超音波の減衰に依存する。本方法が、患者5に対して相対的に固定した位置にある超音波送受波器2を用いてモニタするために適用される場合、瞬時的な流量の変化を正確に測定することができる。しかしながら、本方法は、プローブの動き、及び皮膚表面との音響的作用状態の変動の影響を受けやすい。
【0062】
上記問題を解決するために、血管の周囲の組織(筋肉、血管壁等)からの信号を基準として使用することができる。血液とは異なり、周囲の組織は静止しているので、周囲の組織からの信号はドップラーシフトを有しない。実際には、いくらかのドップラーシフトを起こす微小な振動又は動きが依然として存在する可能性はあるが、このドップラーシフトは、動いている血液からのものよりも小さい。このドップラーシフトは、ローパスフィルタを用いて、元の信号から分離することができる。特定の限度より大きい速度で動く血液からの信号は、ハイパスフィルタによって抽出することができる。したがって、低速の血液からの信号は血流量の計算には含まれない。これは、低速なので、総血流量に対する寄与が小さいため、一般的には問題にはならない。
【0063】
低周波信号の電力PLF、及び、高周波信号の電力は減衰によって等しく影響を受けるので、測定した流量値は、下記式によって、減衰とは独立させることができる。
【0064】
【0065】
他の実施形態では、上記のいくつかの積分計算を実行する表示装置4のマイクロコントローラ6の代わりに、自己相関利用手法を使用して電力加重平均周波数を推定することができ、計算負荷を削減することができる。そのような自己相関利用手法は、非特許文献1に記載されている。この文献に記載の方法の場合、血液量qに比例する尺度は、次式を評価することによって推定される。
【0066】
【0067】
ここで、PBとRBは、遅延=1のサンプルの信号電力と複素自己相関関数である。
【0068】
積分による手法と自己相関による手法のいずれも、流量の較正値(例えば、ml/秒の単位で)を出力しないことに注意されたい。しかしながら、それにも拘わらず、これらの比例量を使用して、各心拍、又は、より長い時間シーケンスに亘る、血流量の時間的変動を正しくモニタすることができる。
【0069】
上記の技術は、大きな血管(典型的には0.2平方センチから1平方センチ)にも、この血管の断面積が超音波ビームによって完全に覆われることを条件として、適用することができる。上記技術は、また、より小さな血管の血管網にも適用することができる。両方の場合において、尺度は、超音波送受波器2の位置及び角度の調整による影響を比較的受けないで推定することができ、したがって、特別な訓練を受けていない人も使用することができる。上記の技術は、また、システム1を、動きによる実質的な干渉なしに血流をモニタし、血液循環の予期せぬ変化による自動警報機能を備える用途に使用することを可能にする。
【0070】
拍動等の心臓周期の変化、又は、刺激に対する血流の他の短期的応答は、測定することができる。システム1は、超音波送受波器2が同一の位置にとどまる限り、長期間のモニタリングにも使用することができる。この応用の例は、未熟児の脳内血流のモニタリングである。
【0071】
未熟児は 失血又は脳への不安定な血液供給による脳損傷の発生率が高い。システム1を、脳への血流をモニタするために使用して、血液供給量の減少の場合には、迅速に治療を開始することができる。散発的にしか行うことができず、経験豊富なオペレータを必要とする、泉門の中を通る血流の検査をするために、泉門の中に超音波カラードップラ-撮像装置を通して使用する方法とは対照的に、本発明の血流モニタシステム1は、泉門の下にある、比較的広い領域の血流量を取得することができる、簡易で、小型、かつ軽量の超音波ドップラー送受波器2を使用し、タブレットやPCへの無線接続機能を有する。超音波送受波器2の位置及び角度は重要ではなく、これは、超音波に関して特別な訓練を受けていない医療専門家によって操作することができることを意味する。システム1は、安価に製造することができ、かつ、人生の第1の重要な段階にある早産児を継続的にモニタするための新たな機会を提供する。
【0072】
瞬時血流量の単一の尺度は、5ミリ秒から10ミリ秒の期間に亘って取得することができる。部分的に重複する期間から得られる繰り返しの測定は、システム1が波形分析のために十分な時間分解能で血流曲線を生成することを可能にする。この曲線から、システム1は、次に、時間平均(例えば、1~10心拍)を計算することができる。脈動指数/抵抗指数は、血管の弾性特性に関連するが、前記波形から算出することができる。
【0073】
末梢血管抵抗が異なる測定を繰り返し行うことによって、システム1は、ウインド・ケッセル・モデルと組み合わせて前記波形を使用し、容積コンプライアンスに比例するパラメータを推定することができる。このパラメータは、容積流量曲線に基づいて計算することができる。
【0074】
本発明を、一つ又は複数の特定の実施形態を記載することによって説明したが、当業者であれば、本発明がこれらの実施形態に限定されないことがわかるであろう。多くの変形及び修正が、添付の特許請求の範囲内で可能である。