(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】赤外線処理装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20220421BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20220421BHJP
H05B 3/44 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
B01J19/12 C
H05B3/10 B
H05B3/44
(21)【出願番号】P 2019527720
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2018025204
(87)【国際公開番号】W WO2019009288
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017131628
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 道郎
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-031816(JP,A)
【文献】特開2015-198063(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022857(WO,A1)
【文献】特開2015-169802(JP,A)
【文献】特開2008-082571(JP,A)
【文献】特開2009-099259(JP,A)
【文献】特開昭62-061286(JP,A)
【文献】特開2013-206606(JP,A)
【文献】特開2017-054664(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163986(WO,A1)
【文献】特開昭63-071805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B01J 19/12
H05B 3/10
H05B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と、前記発熱体から熱エネルギーを入力すると非プランク分布の最大ピークを有し且つ該最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射可能なメタマテリアル構造体と、を備えた赤外線ヒータと、
前記赤外線ヒータを囲んでおり、C-F結合を有するフッ素系材
料を含み、前記ピーク波長の赤外線を透過する内管と、
前記内管を囲み、前記内管との間に処理対象物が流通可能な対象物流路を形成する外管と、
を備えた赤外線処理装置。
【請求項2】
前記C-F結合を有するフッ素系材料は、フッ素樹脂である、
請求項1に記載の赤外線処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の赤外線処理装置であって、
前記発熱体から見て前記外管よりも外側に配設され、前記ピーク波長の赤外線を反射する反射体、
を備え、
前記外管は、前記ピーク波長の赤外線を透過する、
赤外線処理装置。
【請求項4】
前記反射体は、前記外管の外周面に配設されている、
請求項3に記載の赤外線処理装置。
【請求項5】
前記外管は、内周面の少なくとも一部が前記ピーク波長の赤外線を反射する反射面となっているか、又は該内周面の少なくとも一部に前記ピーク波長の赤外線を反射する反射体を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の赤外線処理装置。
【請求項6】
前記内管は、前記発熱体の配置された内部空間が減圧可能である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の赤外線処理装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の赤外線処理装置であって、
前記外管の内側に配設され前記内管を囲み、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含み、前記ピーク波長の赤外線を透過する透過管、
を備え、
前記対象物流路は、前記透過管と前記外管との間に形成されており、
前記内管と前記透過管との間には、冷媒が流通可能な冷媒流路が形成されている、
赤外線処理装置。
【請求項8】
前記最大ピークの前記ピーク波長が3.5μm超過7μm以下である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の赤外線処理装置。
【請求項9】
前記メタマテリアル構造体は、前記発熱体側から順に、第1導体層と、該第1導体層に接合された誘電体層と、各々が前記誘電体層に接合され互いに離間して周期的に配置された複数の個別導体層を有する第2導体層と、を備える、
請求項1~8のいずれか1項に記載の赤外線処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線ランプと、紫外線ランプを囲む石英ガラス製の保護管と、保護管を囲む外周容器と、を備えた殺菌装置が知られている(例えば、特許文献1)。この殺菌装置は、保護管と外周容器との間を流れる水溶液に紫外線を供給して、水溶液の殺菌を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、赤外線を放射して処理対象物の赤外線処理を行うにあたり、上記のような紫外線を用いた殺菌装置の構成を利用することを考えた。しかし、特許文献1では保護管として石英ガラスが使用されている。石英ガラスは波長3.5μmを超える赤外線を吸収してしまうため、赤外線処理に適さない場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、処理対象物の赤外線処理を効率よく行うことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の赤外線処理装置は、
発熱体と、前記発熱体から熱エネルギーを入力すると非プランク分布の最大ピークを有し且つ該最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射可能なメタマテリアル構造体と、を備えた赤外線ヒータと、
前記赤外線ヒータを囲んでおり、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含み、前記ピーク波長の赤外線を透過する内管と、
前記内管を囲み、前記内管との間に処理対象物が流通可能な対象物流路を形成する外管と、
を備えたものである。
【0008】
この赤外線処理装置では、メタマテリアル構造体を備えた赤外線ヒータが、非プランク分布の最大ピークを有し、且つその最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射する。そして、この赤外線が対象物流路内を流通する処理対象物に放射されることで、この赤外線処理装置は処理対象物の赤外線処理を行う。そして、赤外線ヒータと対象物流路との間に配設された内管は、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでおり、最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する。C-F結合は、波長2μm~7μm付近に赤外線の吸収ピークがないため、C-F結合を有するフッ素系材料は、最大ピークのピーク波長の赤外線の吸収率が比較的低い。また、フッ化カルシウムは、波長2μm~7μmの範囲では赤外線の透過率が比較的高いため、最大ピークのピーク波長の赤外線の吸収率が比較的低い。そのため、内管は最大ピーク付近の波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくい。したがって、この赤外線処理装置は、処理対象物の赤外線処理を効率よく行うことができる。ここで、「赤外線処理」は、赤外線を用いた処理対象物の処理であればよく、例えば加熱処理,化学反応させる処理などを含む。また、「処理対象物」は、対象物流路内を流通可能な物体であればよく、基本的には流体である。処理対象物は、液体でもよいし気体でもよい。処理対象物は、対象物流路内を流通可能であれば、固体の粒子を含む流体(液体又は気体)であってもよい。
【0009】
本発明の赤外線処理装置において、前記内管が前記ピーク波長の赤外線を透過する赤外線透過部材を備えており、該赤外線透過部材がC-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいてもよい。すなわち、本発明の赤外線処理装置において、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいるのが内管全体である必要はなく、内管の一部の部材であってもよい。
【0010】
本発明の赤外線処理装置において、前記内管は、C-F結合を有するフッ素系材料を主成分としてもよい。前記内管は、C-F結合を有するフッ素系材料と不可避的不純物とで構成されていてもよい。前記内管は、C-F結合を有するフッ素系材料のみで構成されていてもよい。前記内管は、前記メタマテリアル構造体の最大ピークのピーク波長の赤外線の透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが一層好ましい。
【0011】
本発明の赤外線処理装置において、前記C-F結合を有するフッ素系材料は、フッ素樹脂であってもよい。フッ素樹脂は、エーテル結合を有してもよいし、エーテル結合を有さなくてもよい。フッ素樹脂は、C,F,H,及びO以外の原子を有さなくてもよいし、C,F,及びH以外の原子を有さなくてもよいし、C及びF以外の原子を有さなくてもよい。フッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、及びエチレン四フッ化エチレン共重合体(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体,ETFE)などが挙げられる。
【0012】
本発明の赤外線処理装置は、前記発熱体から見て前記外管よりも外側に配設され、前記ピーク波長の赤外線を反射する反射体、を備え、前記外管は、前記ピーク波長の赤外線を透過してもよい。こうすれば、反射体が、赤外線ヒータから放射されて内管,処理対象物,及び外管を透過したピーク波長の赤外線を処理対象物側に反射するため、赤外線処理をより効率よく行うことができる。この場合において、前記反射体は、前記外管の外周面に配設されていてもよい。
【0013】
本発明の赤外線処理装置において、前記外管は、内周面の少なくとも一部が前記ピーク波長の赤外線を反射する反射面となっているか、又は該内周面の少なくとも一部に前記ピーク波長の赤外線を反射する反射体を有していてもよい。こうすれば、外管が、赤外線ヒータから放射されて内管及び処理対象物を透過したピーク波長の赤外線を処理対象物側に反射するため、赤外線処理をより効率よく行うことができる。
【0014】
本発明の赤外線処理装置において、前記内管は、前記発熱体の配置された内部空間が減圧可能であってもよい。こうすれば、内部空間が減圧された状態で赤外線処理を行うことで、例えば内部空間が常圧の場合と比較して、赤外線ヒータから内部空間内への対流熱伝達が少なくなり、対流損失を抑制できる。したがって、赤外線処理をより効率よく行うことができる。
【0015】
本発明の赤外線処理装置は、前記外管の内側に配設され前記内管を囲み、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含み、前記ピーク波長の赤外線を透過する透過管、を備え、前記対象物流路は、前記透過管と前記外管との間に形成されており、前記内管と前記透過管との間には、冷媒が流通可能な冷媒流路が形成されていてもよい。こうすれば、冷媒流路に冷媒を流すことにより、処理対象物,内管及び透過管の少なくともいずれかの過熱を抑制できる。
【0016】
本発明の赤外線処理装置において、前記最大ピークの前記ピーク波長が3.5μm超過7μm以下であってもよい。メタマテリアル構造体が放射する赤外線の最大ピークのピーク波長が3.5μm超過である場合、内管として例えば石英ガラスを用いると効率よく赤外線処理を行うことができない。そのため、内管としてC-F結合を有するフッ素系材料を用いる意義が高い。この場合において、前記最大ピークの前記ピーク波長は、4μm以上としてもよいし、5μm以上としてもよいし、6μm以上としてもよい。また、前記最大ピークの前記ピーク波長は、6μm以下としてもよいし、5μm以下としてもよい。
【0017】
本発明の赤外線処理装置において、前記メタマテリアル構造体は、前記発熱体側から順に、第1導体層と、該第1導体層に接合された誘電体層と、各々が前記誘電体層に接合され互いに離間して周期的に配置された複数の個別導体層を有する第2導体層と、を備えていてもよい。
【0018】
本発明の赤外線処理装置において、前記メタマテリアル構造体は、少なくとも表面が導体からなり互いに離間して周期的に配置された複数のマイクロキャビティを備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】第1メタマテリアル構造体30aの部分底面図。
【
図4】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の赤外線透過スペクトルの一例を示すグラフ。
【
図9】変形例の第1メタマテリアル構造体430aの部分底面斜視図。
【
図10】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの赤外線透過スペクトルを示すグラフ。
【
図11】パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)フィルムの赤外線透過スペクトルを示すグラフ。
【
図12】輻射型ヒータから放射されPTFEフィルムを透過した後の赤外線の放射強度を示すグラフ。
【
図13】輻射型ヒータから放射されPFAフィルムを透過した後の赤外線の放射強度を示すグラフ。
【
図14】輻射型ヒータから放射されポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを透過した後の赤外線の放射強度を示すグラフ。
【
図15】輻射型ヒータから放射されポリイミド(PI)フィルムを透過した後の赤外線の放射強度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である赤外線処理装置10の説明図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
図3は、第1メタマテリアル構造体30aの部分底面図である。本実施形態において、上下方向,左右方向及び前後方向は、
図1~3に示した通りとする。
【0021】
赤外線処理装置10は、赤外線ヒータ20と、赤外線ヒータ20を囲む内管40と、内管40を囲む外管50と、外管50の外周面に配設された反射体55と、外管50の前後の両端に気密に嵌め込まれた有底筒状のキャップ60,60と、を備えている。また、赤外線処理装置10は、内管40の内側に形成された内部空間42と、内管40と外管50との間に形成された対象物流路52と、を備えている。赤外線処理装置10は、対象物流路52を流通する処理対象物に対して赤外線ヒータ20からの赤外線を放射して、処理対象物の赤外線処理を行う。
【0022】
赤外線ヒータ20は、内管40の内部空間42内に配置されている。赤外線ヒータ20は、本実施形態では長手方向が前後方向に沿った略直方体形状をしている。赤外線ヒータ20は、
図1の拡大図に示すように、発熱部22と、発熱部22の上方及び下方にそれぞれ配置された第1,第2支持基板25a,25bと、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bを有するメタマテリアル構造体30と、を備えている。
【0023】
発熱部22は、いわゆる面状ヒーターとして構成されており、長手方向が前後方向に沿った平板状の形状をしている。発熱部22は、線状の部材をジグザグに湾曲させた発熱体23と、発熱体23に接触して発熱体23の周囲を覆う絶縁体である保護部材24とを備えている。発熱体23の材質としては、例えばW,Mo,Ta,Fe-Cr-Al合金及びNi-Cr合金などが挙げられる。保護部材24の材質としては、例えばポリイミドなどの絶縁性の樹脂やセラミックス等が挙げられる。発熱体23の両端には一対の電気配線57が取り付けられている。電気配線57は、キャップ60を貫通して気密に赤外線処理装置10の外部へ引き出され、図示しない電力供給源に接続される。発熱部22は、絶縁体にリボン状の発熱体を巻き付けた構成の面状ヒーターとしてもよい。発熱体23は、ジグザグに湾曲されず赤外線ヒータ20の長手方向(ここでは前後方向)に一直線に延びる形状としてもよい。
【0024】
第1支持基板25aは、発熱部22の上側に配置された平板状の部材である。第1支持基板25aの材質としては、例えばSiウェハ、ガラスなどのように、平滑面が維持しやすく、耐熱性が高く、熱反りが低い素材が挙げられる。本実施形態では、第1支持基板25aはSiウェハとした。第1支持基板25aは、本実施形態のように発熱部22の上面に接触していてもよいし、接触せず空間を介して発熱部22と上下に離間して配設されていてもよい。第1支持基板25aと発熱部22とが接触している場合には両者は接合されていてもよい。第2支持基板25bは、発熱部22の下側に配置されている点以外は第1支持基板25aと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0025】
メタマテリアル構造体30は、発熱体23及び第1支持基板25aの上方に配設された板状の第1メタマテリアル構造体30aと、発熱体23及び第2支持基板25bの下方に配設された板状の第2メタマテリアル構造体30bと、を備えている。第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、第1,第2支持基板25a,25bと直接接合されていてもよいし、図示しない接着層を介して接合されていてもよい。第1メタマテリアル構造体30aは、発熱体23側から上方に向かって、第1導体層31aと、誘電体層33aと、複数の個別導体層36aを有する第2導体層35aと、をこの順に備えている。第1メタマテリアル構造体30aが有する各層間は、直接接合されていてもよいし、接着層を介して接合されていてもよい。個別導体層36a及び誘電体層33aの上面露出部は酸化防止層(図示せず、例えばアルミナで形成される)で被覆されていてもよい。第2メタマテリアル構造体30bは、発熱体23側から下方に向かって、第1導体層31bと、誘電体層33bと、複数の個別導体層36bを有する第2導体層35bと、をこの順に備えている。第1メタマテリアル構造体30aと第2メタマテリアル構造体30bとは、発熱体23を挟んで上下対称に配置されており同様の構成を有するため、以下では第1メタマテリアル構造体30aの構成要素について説明する。
【0026】
第1導体層31aは、第1支持基板25aから見て発熱体23とは反対側(上側)で接合された平板状の部材である。第1導体層31aの材質は例えば金属などの導体(電気伝導体)である。金属の具体例としては、金,アルミニウム(Al),又はモリブデン(Mo)などが挙げられる。本実施形態では、第1導体層31aの材質は金とした。第1導体層31aは、図示しない接着層を介して第1支持基板25aに接合されている。接着層の材質としては、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)などが挙げられる。なお、第1導体層31aと第1支持基板25aとが直接接合されていてもよい。
【0027】
誘電体層33aは、第1導体層31aから見て発熱体23とは反対側(上側)で接合された平板状の部材である。誘電体層33aは、第1導体層31aと第2導体層35aとの間に挟まれている。誘電体層33aの材質としては、例えば、アルミナ(Al2O3),シリカ(SiO2)などが挙げられる。本実施形態では、誘電体層33aの材質はアルミナとした。
【0028】
第2導体層35aは、導体からなる層であり、誘電体層33aの上面に沿った方向(前後左右方向)に周期構造を有する。具体的には、第2導体層35aは複数の個別導体層36aを備えており、この個別導体層36aが誘電体層33aの上面に沿った方向(前後左右方向)に互いに離間して配置されることで、周期構造を構成している(
図3参照)。複数の個別導体層36aは、左右方向(第1方向)に間隔D1ずつ離れて互いに等間隔に配設されている。また、複数の個別導体層36aは、左右方向に直交する前後方向(第2方向)に間隔D2ずつ離れて互いに等間隔に配設されている。個別導体層36aは、このように格子状に配列されている。なお、本実施形態では
図3に示すように四方格子状に個別導体層36aを配列したが、例えば個別導体層36aの各々が正三角形の頂点に位置するように六方格子状に個別導体層36aを配列してもよい。複数の個別導体層36aの各々は、上面視で円形をしており、厚さh(上下高さ)が径Wよりも小さい円柱形状をしている。第2導体層35aの周期構造の周期は、横方向の周期Λ1=D1+W、縦方向の周期Λ2=D2+Wである。本実施形態では、D1=D2とし、したがってΛ1=Λ2とした。第2導体層35a(個別導体層36a)の材質は、例えば金属などの導体であり、上述した第1導体層31aと同様の材質を用いることができる。第1導体層31a及び第2導体層35aの少なくとも一方が金属であってもよい。本実施形態では、第2導体層35aの材質は第1導体層31aと同じ金とした。
【0029】
このように、第1メタマテリアル構造体30aは、第1導体層31aと、周期構造を有する第2導体層35a(個別導体層36a)と、第1導体層31a及び第2導体層35aに挟まれた誘電体層33aとを有している。これにより、第1メタマテリアル構造体30aは、発熱体23から熱エネルギーを入力すると非プランク分布の最大ピークを有する赤外線を放射可能になっている。なお、プランク分布とは、横軸を右にいくほど長くなる波長とし、縦軸を輻射強度としたグラフ上において、特定のピークを有した山型の分布であり、ピークよりも左側の傾斜が急で、ピークよりも右側の傾斜がなだらかな形状を有する曲線である。通常の材料はこの曲線(プランク放射曲線)に従って放射をする。非プランク放射(非プランク分布の最大ピークを有する赤外線の放射)とは、その放射の最大ピークを中心とした山型の傾斜が、前記のプランク放射に比べて急峻であるような放射である。すなわち、第1メタマテリアル構造体30aは、最大ピークがプランク分布のピークよりも急峻な放射特性を有する。なお、「プランク分布のピークよりも急峻」は、「プランク分布のピークよりも半値幅(FWHM:full width at half maximum)が狭い」ことを意味する。これにより、第1メタマテリアル構造体30aは、赤外線の全波長領域(0.7μm~1000μm)のうち、特定の波長の赤外線を選択的に放射する特性を有するメタマテリアルエミッターとして機能する。この特性は、マグネティックポラリトン(Magnetic polariton)で説明される共鳴現象によるものと考えられている。なお、マグネティックポラリトンとは、上下2枚の導体(第1導体層31a及び第2導体層35a)に反平行電流が励起され,その間の誘電体(誘電体層33a)内において強い磁場の閉じ込め効果が得られる共鳴現象のことである。これにより、第1メタマテリアル構造体30aでは、第1導体層31aおよび個別導体層36aで局所的に強い電場の振動が励起されることからこれが赤外線の放射源となり、赤外線が周囲環境(ここでは特に上方)に放射される。また、この第1メタマテリアル構造体30aでは、第1導体層31a,誘電体層33a及び第2導体層35aの材質や、個別導体層36aの形状及び周期構造を調整することで、共鳴波長を調整することができる。これにより、第1メタマテリアル構造体30aの第1導体層31aおよび個別導体層36aから放射される赤外線は、特定の波長の赤外線の放射率が高くなる特性を示す。すなわち、第1メタマテリアル構造体30aは、半値幅が比較的小さく放射率が比較的高い急峻な最大ピークを有する赤外線を放射する特性を有する。なお、本実施形態では、D1=D2としたが、間隔D1と間隔D2とが異なっていてもよい。周期Λ1及び周期Λ2についても同様である。なお半値幅は周期Λ1及び周期Λ2を変更することで制御できる。
【0030】
第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bは、所定の放射特性における上述した最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下の範囲内になるように、共鳴波長が調整されている。ピーク波長は3.5μm超過7μm以下の範囲内にあってもよい。ピーク波長は、4μm以上としてもよいし、5μm以上としてもよいし、6μm以上としてもよい。ピーク波長は、6μm以下としてもよいし、5μm以下としてもよい。ピーク波長は2.5μm以上3.5μm以下の範囲内にあってもよいし、4.5μm以上5.5μm以下の範囲内にあってもよいし、5.5μm以上6.5μm以上の範囲内にあってもよい。第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの各々は、最大ピークの立ち上がりから立ち下がりまでの波長領域以外の波長領域における赤外線の放射率が値0.2以下であることが好ましい。第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの各々は、最大ピークの半値幅が1.0μm以下であることが好ましい。第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの放射特性は、最大ピークを中心にして略左右対称形状を有していてもよい。また、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの最大ピークの高さ(最大輻射強度)は、上述したプランク放射の曲線を上回ることはない。メタマテリアル構造体30から放射される赤外線の最大ピークのピーク波長の値は、以下のように測定する。まず、メタマテリアル構造体30に対して、FT-IR装置(フーリエ変換赤外分光光度計)の光源からの光を垂直入射し、反射光を積分球で計測してメタマテリアル構造体30の半球反射率を求める。また、金プレート(反射率0.95)に対して同様の方法で測定された半球反射率をバックグランドとする。次に、メタマテリアル構造体30の半球反射率とバックグラウンドとを比較することで、メタマテリアル構造体30の反射スペクトルを求める。そして、求めた反射スペクトルにおけるボトム波長(反射率が最小となる谷部分の波長)を、メタマテリアル構造体30から放射される赤外線の最大ピークのピーク波長とする。
【0031】
なお、このような第1メタマテリアル構造体30aは、例えば以下のように形成することができる。まず、第1支持基板25aの表面(
図1では上面)にスパッタリングにより接着層及び第1導体層31aをこの順に形成する。次に、第1導体層31aの表面(
図1では上面)にALD法(atomic layer deposition:原子層堆積法)により誘電体層33aを形成する。続いて、誘電体層33aの表面(
図1では上面)に所定のレジストパターンを形成してからヘリコンスパッタリング法により第2導体層35aの材質からなる層を形成する。そして、レジストパターンを除去することにより、第2導体層35a(複数の個別導体層36a)を形成する。なお、第1メタマテリアル構造体30aの各構成要素と第2メタマテリアル構造体30bの各構成要素とは材質が同じでもよいし、一部の材質が異なっていてもよい。
【0032】
内管40は、赤外線ヒータ20を囲む管状部材であり、本実施形態では円筒状の部材とした。内管40の内側の内部空間42内に赤外線ヒータ20が配置されている。内部空間42は外管50の内側の対象物流路52とは連通しないように構成されており、本実施形態では内部空間42は封止されている。内部空間42は、少なくとも赤外線処理装置10の使用時に減圧状態にすることが可能であることが好ましく、本実施形態では内部空間42は予め空気雰囲気且つ減圧雰囲気とした状態で外部空間との間が封止されているものとした。ただし、内部空間42は不活性ガス雰囲気であってもよい。また、内部空間42は、減圧されずに常圧雰囲気であってもよい。内部空間42の減圧状態の圧力は、100Pa以下としてもよい。内部空間42の減圧状態の圧力は、0.01Pa以上としてもよい。内管40及び赤外線ヒータ20は、両者が長手方向の両端で固定されて一体化されていてもよい。この場合、キャップ60を取り外すことで内管40及び赤外線ヒータ20が一体的に交換可能になっていてもよい。
【0033】
内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料を含んでいる。内管40は、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する。C-F結合は、波長8μm付近に赤外線の吸収ピークを有するが、波長2μm~7μm付近には赤外線の吸収ピークがない。そのため、C-F結合を有するフッ素系材料は、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線の吸収率が比較的低い。したがって、内管40は最大ピーク付近の波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくい。内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料を主成分としてもよい。主成分とは、最も多く含まれる成分のことをいい、例えば質量割合が最も高い成分のことをいう。内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料と不可避的不純物とで構成されていてもよい。内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料のみで構成されていてもよい。内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料を1種類のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。C-F結合を有するフッ素系材料は、フッ素樹脂であってもよい。C-F結合を有するフッ素系材料は、エーテル結合を有してもよいし、エーテル結合を有さなくてもよい。C-F結合を有するフッ素系材料は、C,F,H,及びO以外の原子を有さなくてもよいし、C,F,及びH以外の原子を有さなくてもよいし、C及びF以外の原子を有さなくてもよい。内管40は、メタマテリアル構造体30の最大ピーク付近に赤外線の吸収ピークを有する結合が少ない材料を用いることが好ましい。例えば、O-H結合及びN-H結合は、波長2.8μm~3.2μmに吸収ピークを有する。そのため、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長が波長2.8μm~3.2μm付近(例えば波長2.5μm以上3.5μm以下)である場合には、O-H結合及びN-H結合の少なくともいずれかの結合が少ない材料が好ましく、これらのいずれの結合も有さない材料がより好ましい。フッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、及びエチレン四フッ化エチレン共重合体(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体,ETFE)などが挙げられる。本実施形態では、内管40の材質はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とした。内管40の耐熱性は、対象物流路52を流通する処理対象物の温度にもよるが、例えば100℃以上としてもよく、200℃以上が好ましい。上述したフッ素樹脂の具体例のうち、耐熱性の観点からは、PTFE又はPFAが好ましい。
【0034】
内管40は、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線の透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが一層好ましい。内管40は、メタマテリアル構造体30の最大ピークの半値幅領域のいずれの波長の赤外線についても透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。内管40は、波長2μm以上7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線も透過してもよい。内管40は、波長2μm以上7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線についても透過率が75%以上であってもよい。内管40は、波長3.5μm超過7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線も透過してもよく、その透過率が75%以上であってもよい。内管40は、波長5μm以上7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線も透過してもよく、その透過率が75%以上であってもよい。
【0035】
図4は、本実施形態の内管40の材質であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の赤外線透過スペクトルの一例を示すグラフである。
図4に示すように、PTFEは、8μm付近において赤外線透過率が最小となっている(すなわち、吸収ピーク波長が8μm付近である)が、波長2.5μm以上7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線についても透過率が比較的高い。また、図示は省略しているが、PTFEは、波長2.0μm以上波長2.5μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線についても透過率が比較的高い。そのため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で内管40を構成することで、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下のいずれであっても、内管40はそのピーク波長の赤外線を透過することができる。なお、
図4に示したのはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の赤外線透過スペクトルであり、内管40の実際の赤外線透過スペクトルにおける透過率の値は、例えば内管40の厚さによっても変化する。内管40の厚さは、例えば0.5mm以上3mm以下としてもよい。内管40の透過率の値は、内管40と同じ材質及び厚さの平板状のサンプル(50mm×50mm)に対してFT-IR装置(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて得られる赤外線透過スペクトルに基づいて測定される値とする。内管40の厚さは、例えば0.01mm以上0.5mm以下としてもよい。内管40の厚さは0.05mm以上としてもよい。内管40の厚さは0.1mm以下としてもよい。
【0036】
外管50は、赤外線ヒータ20からみて内管40よりも外側に位置し、内管40を囲む管状部材である。外管50は、本実施形態では円筒状の部材とした。外管50は、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する材料で形成されている。外管50の材質としては、上述した内管40と同じく、C-F結合を有するフッ素系材料が挙げられる。外管50の材質としては、上述した内管40の種々の材質が適用可能である。また、外管50の赤外線の透過率は、内管40に関して上述した種々の内容を適用できる。本実施形態では、外管50の材質は、内管40と同じくポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とした。外管50と内管40との間には対象物流路52が形成されている。対象物流路52は、本実施形態では、外管50の内周面と内管40の外周面とで囲まれた空間である。この対象物流路52には、処理対象物が流通可能である。
【0037】
反射体55は、発熱体23から見て外管50よりも外側に配設されている。本実施形態では、反射体55は、外管50の外周面に配置された反射層として形成されている。反射体55は、
図2に示すように、外管50の長手方向に垂直な断面において外管50の周囲を全て覆うように設けられている。反射体55は、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を反射する赤外線反射材料で形成されている。赤外線反射材料としては、例えば金,白金,アルミニウムなどが挙げられる。反射体55は、外管50の表面に塗布乾燥、スパッタリングやCVD、溶射といった成膜方法を用いて赤外線反射材料を成膜することで形成されている。
【0038】
キャップ60,60は、外管50の両端に配設され、外管50の前後の両端がそれぞれキャップ60,60内にはめ込まれている。また、赤外線ヒータ20及び内管40は、キャップ60の内部に配置されたホルダ64に両端が支持されている。これらにより、キャップ60,60は、赤外線ヒータ20,内管40及び外管50を支持している。各キャップ60は、対象物出入口66を有している。対象物出入口66の一方には、図示しない対象物供給源から処理対象物が供給される。一方の対象物出入口66からキャップ60内に流入した処理対象物は、対象物流路52を流通して他方の対象物出入口66から流出するようになっている。
【0039】
次に、こうして構成された赤外線処理装置10の使用時の動作について説明する。まず、図示しない電力供給源から電気配線57を介して発熱体23の両端に電力を供給する。また、対象物供給源から対象物流路52に処理対象物を流通させる。電力の供給は、例えば発熱体23の温度が予め設定された温度(特に限定するものではないが、ここでは320℃とする)になるように行う。所定の温度に達した発熱体23からは、伝導・対流・放射の伝熱3形態のうち主に伝導により周囲にエネルギーが伝達され、メタマテリアル構造体30が加熱される。その結果、メタマテリアル構造体30は所定温度(ここでは例えば300℃とする)に上昇し、放射体となって、赤外線を放射するようになる。このとき、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bが、上述したように第1導体層31a,31b、誘電体層33a,33b、及び第2導体層35a,35bをそれぞれ有することで、赤外線ヒータ20は、非プランク分布の最大ピークを有し且つその最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下となっている赤外線を放射する。より具体的には、赤外線ヒータ20は、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの第1導体層31a,31b及び個別導体層36a,36bから、特定の波長領域の赤外線(最大ピークのピーク波長及びその付近の波長領域の赤外線)を選択的に放射する。そして、この特定の波長領域の赤外線は、内管40を透過して、対象物流路52内を流通する処理対象物に放射される。これにより、赤外線処理装置10は、対象物流路52内の処理対象物に対して、特定の波長領域の赤外線を選択的に放射することができる。そのため、赤外線処理装置10は、例えばこの特定の波長領域の赤外線の吸収率が比較的高い処理対象物に対して、効率よく赤外線を放射して、加熱処理,化学反応させる処理などの赤外線処理を行うことができる。しかも、内管40はメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過するため、内管40は最大ピーク付近の波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくい。したがって、赤外線処理装置10は、処理対象物の赤外線処理をより効率よく行うことができる。なお、赤外線処理が完了するまで処理対象物が対象物流路52内を流通し続けるように、他方の対象物出入口66から流出した処理対象物を一方の対象物出入口66に再び流入するようにして、処理対象物を循環させてもよい。
【0040】
赤外線処理の例について説明する。例えば、処理対象物が水などの水素結合を有する物質である場合には、最大ピークのピーク波長が3μm付近であるようなメタマテリアル構造体30を用いることで、水素結合に効率よくエネルギーを投入して処理対象物を効率よく加熱処理できる。処理対象物がシアノ基を含む物質である場合には、最大ピークのピーク波長が4.8μm付近であるようなメタマテリアル構造体30を用いることで、シアノ基に効率よくエネルギーを投入して処理対象物の置換反応などを効率よく促進できる。処理対象物がカルボニル基を含む物質である場合には、最大ピークのピーク波長が5.9μm付近であるようなメタマテリアル構造体30を用いることで、カルボニル基に効率よくエネルギーを投入して処理対象物の置換反応などを効率よく促進できる。特にこれに限定するものではないが、赤外線処理装置10は、例えば有機合成や医薬品の製造などの分野において、処理対象物を効率よく反応させるために用いることができる。
【0041】
以上詳述した本実施形態の赤外線処理装置10では、メタマテリアル構造体30を備えた赤外線ヒータ20が、非プランク分布の最大ピークを有し、且つその最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射する。また、赤外線ヒータ20と対象物流路52との間に配設された内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料を含んでおり、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する。そのため、内管40は最大ピーク付近の波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくい。したがって、この赤外線処理装置10は、処理対象物の赤外線処理を効率よく行うことができる。
【0042】
また、赤外線処理装置10は、発熱体23から見て外管50よりも外側に配設されメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を反射する反射体55を備えている。そして、外管50は、最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する。これにより、反射体55が、赤外線ヒータ20から放射されて内管40,処理対象物,及び外管50を透過したピーク波長の赤外線を処理対象物側に反射するため、赤外線処理装置10は赤外線処理をより効率よく行うことができる。
【0043】
さらに、内管40は、発熱体23の配置された内部空間42が減圧可能になっている。そのため、内部空間42が減圧された状態で赤外線処理を行うことで、例えば内部空間42が常圧の場合と比較して、赤外線ヒータ20から内部空間42内への対流熱伝達が少なくなり、対流損失を抑制できる。したがって、赤外線処理をより効率よく行うことができる。
【0044】
さらにまた、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長が3.5μm超過7μm以下であってもよい。メタマテリアル構造体30が放射する赤外線の最大ピークのピーク波長が3.5μm超過である場合、内管42として例えば石英ガラスを用いると効率よく赤外線処理を行うことができない。そのため、内管42としてC-F結合を有するフッ素系材料を用いる意義が高い。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、対象物流路52は外管50の内周面と内管40の外周面とで囲まれた空間としたが、対象物流路52は内管40と外管50との間の空間であればよい。例えば、内管40と外管50との間に他の部材が存在してもよい。
図5は、この場合の変形例の赤外線処理装置110の断面図である。この赤外線処理装置110は、内管40と外管50との間に内管40を囲む透過管45が配設されている。透過管45は、内管40と同様に、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する。透過管45は、C-F結合を有するフッ素系材料を含んでいる。透過管45の材質としては、上述した内管40の種々の材質が適用可能である。また、透過管45の赤外線の透過率は、内管40に関して上述した種々の内容を適用できる。内管40と透過管45とは同じ材質であってもよい。赤外線処理装置110では、対象物流路52は透過管45の外周面と外管50の内周面との間の空間として形成されている。また、赤外線処理装置110には、内管40の外周面と透過管45の内周面とで囲まれた空間として、冷媒流路47が形成されている。なお、内管40と透過管45とが共にC-F結合を有するフッ素系材料を含んでおりメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過する場合、透過管45を本発明の赤外線処理装置の「内管」とみなすこともできる。赤外線処理装置110では、この冷媒流路47に冷媒を流通させることにより、処理対象物,内管40及び透過管45の少なくともいずれかの過熱を抑制できる。外部と冷媒流路47との間の冷媒の流出入は、例えばキャップ60,60に配設された図示しない冷媒出入口を介して行ってもよい。冷媒流路47を流通させる冷媒としては、メタマテリアル構造体30からの最大ピークのピーク波長の赤外線の透過率の高い材料が好ましい。例えば、冷媒は空気であってもよい。また、例えばメタマテリアル構造体30からの最大ピークのピーク波長が5μm~7μmである場合には、冷媒として水を用いてもよい。例えばメタマテリアル構造体30からの最大ピークのピーク波長が2μm~5μmである場合には、冷媒としてC-F結合を有するフッ素系材料を含んだ液体を用いてもよい。冷媒に用いるフッ素系材料の具体例としては、例えばヘプタフルオロシクロペンタンが挙げられる。
【0047】
上述した実施形態では、反射体55は外管50の外周面に形成されていたが、これに限られない。例えば、
図6の変形例の赤外線処理装置210の断面図に示すように、反射体55は外管50から離間した独立した部材であってもよい。
【0048】
上述した実施形態において、赤外線処理装置10は反射体55を備えなくてもよい。この場合、外管50はメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過しない材質であってもよい。例えば、外管50は石英ガラスや金属で構成されていてもよい。
【0049】
上述した実施形態において、外管50は、内周面の少なくとも一部にメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を反射する反射体を有していてもよい。
図7は、この場合の変形例の赤外線処理装置310の断面図である。この赤外線処理装置310では、反射体55は、外管50の外側ではなく外管50の内周面に形成されている。この赤外線処理装置310においても、外管50が有する反射体55が、赤外線ヒータ20から放射されて内管40及び処理対象物を透過したピーク波長の赤外線を処理対象物側に反射するため、赤外線処理をより効率よく行うことができる。また、外管50が内周面に反射体55を備える場合に限らず、外管50の内周面の少なくとも一部がメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を反射する反射面となっていてもよい。例えば、外管50が金属であり、外管50の内周面が研磨されて反射面となっていてもよい。この場合も、赤外線処理装置310と同様の効果が得られる。外管50が反射体55を有する場合や外管50の内周面が反射面となっている場合は、外管50はメタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線を透過しない材質であってもよい。
【0050】
上述した実施形態では、内部空間42は予め減圧された状態で封止されていたが、これに限らず、使用時に減圧状態にできるように構成されていてもよい。例えば、キャップ60と内管40との少なくとも一方に取り付けられた図示しない配管を用いて、赤外線処理装置10の使用時に真空ポンプにより内部空間42を減圧雰囲気にしてもよい。
【0051】
上述した実施形態において、内部空間42は対象物流路52と連通していなければよく、内部空間42は外部空間と連通していてもよい。例えば内管40の両端がキャップ60,60を前後方向に貫通していることで、内部空間42が外部空間と連通していてもよい。
【0052】
上述した実施形態において、赤外線ヒータ20は、第1,第2支持基板25a,25bの少なくとも一方を備えなくてもよい。この場合、メタマテリアル構造体30は発熱部22に接合されていてもよい。
【0053】
上述した実施形態では、メタマテリアル構造体30は、上方に赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体30aと、下方に赤外線を放射する第2メタマテリアル構造体30bとを備えていたが、特にこれに限られない。例えば、第1,第2メタマテリアル構造体30a,30bの一方を省略してもよい。あるいは、メタマテリアル構造体30は、左右に赤外線を放射する第1メタマテリアル構造体30aと同様の構成を有していてもよい。また、メタマテリアル構造体30は、赤外線ヒータ20の長手方向に垂直な断面(例えば
図2に示す断面)において発熱部22の周囲を囲むようにそれぞれ環状に形成された第1導体層,誘電体層及び第2導体層を有していてもよい。
【0054】
上述した実施形態では、1つの赤外線処理装置10で処理対象物の赤外線処理を行う場合について説明したが、複数の赤外線処理装置10を組み合わせて赤外線処理を行ってもよい。例えば、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長が互いに異なる2以上の赤外線処理装置10を用意し、この複数の赤外線処理装置10の各々の対象物流路52内に順番に処理対象物を流通させて、処理対象物に対して異なる赤外線処理を順次行うようにしてもよい。
【0055】
上述した実施形態では、メタマテリアル構造体30は第1導体層と誘電体層と第2導体層とを有していたが、これに限られない。メタマテリアル構造体30は、発熱体23から熱エネルギーを入力すると非プランク分布の最大ピークを有し且つその最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射可能な構造体であればよい。例えば、メタマテリアル構造体は、複数のマイクロキャビティを有するマイクロキャビティ形成体として構成されていてもよい。
図8は、変形例の赤外線ヒータ20の部分断面図である。
図9は、変形例の第1メタマテリアル構造体430aの部分底面斜視図である。
図9の赤外線ヒータ20は、メタマテリアル構造体30を備えない代わりに、メタマテリアル構造体430を備えている。メタマテリアル構造体430は、発熱体23の上側に配設された第1メタマテリアル構造体430aと、発熱体23の下側に配設された第2メタマテリアル構造体430bとを有している。第1メタマテリアル構造体430aは、少なくとも表面(ここでは側面438a及び底面439a)が導体層435aからなり前後左右方向の周期構造を構成する複数のマイクロキャビティ437aを有している。第1メタマテリアル構造体430aは、赤外線ヒータ20の発熱体23側から上方に向かって、本体層431aと、凹部形成層433aと、導体層435aと、をこの順に備えている。本体層431aは、例えばガラス基板などからなる。凹部形成層433aは、例えば樹脂や、セラミックス及びガラスなどの無機材料などからなり、本体層431aの上面に形成されて円柱状の凹部を形成している。凹部形成層433aは、上述した第2導体層35a,35bと同じ材料であってもよい。導体層435aは、第1メタマテリアル構造体430aの表面(上面)に配設されており、凹部形成層433aの表面(上面及び側面)と、本体層431aの上面(凹部形成層433aが配設されていない部分)とを覆っている。導体層435aは導体からなり、材質としては、例えば金,ニッケルなどの金属や導電性樹脂などが挙げられる。マイクロキャビティ437aは、この導体層435aの側面438a(凹部形成層433aの側面を覆う部分)と、底面439a(本体層431aの上面を覆う部分)とで囲まれ、上方に開口した略円柱形状の空間である。マイクロキャビティ437aは、
図9に示すように、前後左右に並べて複数配設されている。なお、第1メタマテリアル構造体430aの上面が対象物に赤外線を放射する放射面436aとなっている。具体的には、第1メタマテリアル構造体430aが発熱体23からのエネルギーを吸収すると、底面439aと側面438aとで形成される空間内での入射波と反射波との共振作用により、放射面436aから上方の対象物に向けて特定の波長の赤外線が強く放射される。これにより、第1メタマテリアル構造体430aは、第1メタマテリアル構造体30aと同様に、非プランク分布の最大ピークを有し且つその最大ピークのピーク波長が2μm以上7μm以下である赤外線を放射可能になっている。なお、複数のマイクロキャビティ437aの各々の円柱の直径及び深さを調整することで、第1メタマテリアル構造体430aの放射特性を調整することができる。マイクロキャビティ437aは円柱に限らず多角柱形状でもよい。マイクロキャビティ437aの深さは、例えば1.5μm以上10μm以下としてもよい。第1メタマテリアル構造体430aは、例えば以下のように形成することができる。まず、本体層431aの上面となる部分に周知のナノインプリントにより凹部形成層433aを形成する。そして、凹部形成層433aの表面及び本体層431aの表面を覆うように、例えばスパッタリングにより第1導435aを形成する。第2メタマテリアル構造体430bは、上下対称である点以外は第1メタマテリアル構造体430aと同様の構成をしているため、第2メタマテリアル構造体30bの構成要素については末尾をaからbに変更した点以外は第1メタマテリアル構造体430aの構成要素と同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。このような変形例の赤外線ヒータ20を有する赤外線処理装置10においても、上述した実施形態と同様に、対象物流路52内を流通する処理対象物の赤外線処理を効率よく行うことができる。
【0056】
C-F結合を有するフッ素系材料の具体例として、PTFE(ポリテトラフルオルエチレン)フィルムとPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)フィルムとを用意し、これらのフィルムについて赤外線の透過性能を評価した。各々の材質のフィルムについて、1.0mm、0.5mm、0.1mm、0.05mmの4種類の厚さのフィルムを用意して測定対象とした。測定には、日本分光株式会社製のFT/IR-6100型フーリエ変換赤外分光光度計(以下、分光計)を使用した。まずフィルムの赤外線透過スペクトルを測定した。フィルムを50mm×50mmに切り出し、分光計の試料室に入れて測定した。その結果を
図10と
図11に示す。
図10,11からわかるように、PTFEフィルムとPFAフィルムとのいずれにおいても、
図4に示したと同様に波長8μm近傍で吸収が著しいが、波長3.3μm以上(波数3000cm
-1以下)7μm以下の範囲内のいずれの波長の赤外線についても透過率が比較的高かった。また、図示は省略しているが、PTFEフィルム及びPFAフィルムのいずれも、波長2.0μm以上波長3.3μm未満の範囲内のいずれの波長の赤外線についても透過率が比較的高い。ただし、波長3.7μm超過4.4μm未満では透過率がやや低下する傾向が見られた。またPTFEフィルムとPFAフィルムとのいずれにおいても、厚さが薄いほど透過率が高くなる傾向が見られた。なお、上述した
図4は、
図10と比較して波長3.7μm超過4.4μm未満の範囲の透過率の低下がごくわずかであるが、これは
図4に用いたPTFEの方が厚さが薄いためである。次に、メタマテリアル構造体を備えない輻射型ヒータを使用し、輻射型ヒータから放射され上記のフィルムを透過した後の赤外線の放射強度を測定した。まず、上述した分光計に外部光取り込み部をオプションとして付属させ、日本分光株式会社製の黒体炉MODEL LS1215 100を1000℃で均熱させた状態で黒体炉の内部放射を分光計に取り込み、分光計を校正した。輻射型ヒータは日本ガイシ株式会社製のインフラクイックヒータ(インフラクイックは登録商標)とし、設定温度を600℃とした。次に、輻射型ヒータと外部光取り込み部の中間に上記のフィルムを載置し、フィルムを透過した後の放射光の放射強度を分光計で測定した。比較対象として、フィルムが無い状態、及びPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム及びPI(ポリイミド)フィルムを用いた場合についても測定した。PETフィルムは0.2mm、0.1mm、0.03mmの3種類の厚さのフィルムを用意してそれぞれ測定を行った。PIフィルムは0.13mm、0.08mm、0.03mmの3種類の厚さのフィルムを用意してそれぞれ測定を行った。その結果を
図12~
図15に示す。図中の「フィルムなし」は、フィルムがない状態での輻射型ヒータの放射強度であり、
図12~
図15のいずれも同じグラフである。放射強度が「フィルムなし」の状態に近いほど、フィルムが赤外線をあまり吸収しておらず、フィルムが処理対象物への赤外線の到達を妨げにくいことを意味する。
図12~15からわかるように、PTFEフィルム及びPFAフィルムのいずれも、PETフィルムやPIフィルムと比較して放射強度が高い傾向にあり、赤外線をあまり吸収せず透過できていることがわかる。また、
図12,13から、フッ素系フィルム(PTFE、PFA)は波長2~7μmの範囲の一部(波長3.7μm超過4.4μm未満の範囲)で比較的大きい吸収が見られるが、特に厚さが0.1mm、0.05mmであれば2~7μmの範囲で吸収が少なく、フィルムの無い状態と遜色ない透過が維持されていることが分かった。これら
図10~15の結果から、PTFE又はPFAを内管に用いる場合には、厚さ0.1mm以下が好ましく、厚さ0.05mm以下がより好ましいと考えられる。内管の厚さを薄くする場合、内管の表面をエンボス加工したり、C-F結合を有するフッ素系材料を使用した骨組み構造などを内管に採用したりすることで内管の強度を高めて、内管の円筒形状を維持しやすくしてもよい。また、
図10~15の結果から、PTFE又はPFAを内管に用いる場合には、メタマテリアル構造体から放射される赤外線の最大ピークのピーク波長が波長3.7μm超過4.4μm未満の範囲内にないことが好ましいと考えられる。すなわち、ピーク波長が2μm以上3.7μm以下の範囲内のいずれか又は4.4μm以上7μm以下の範囲内のいずれかであることが好ましいと考えられる。
【0057】
上述した実施形態では、内管40はC-F結合を有するフッ素系材料を含んでいたが、フッ素系材料に加えて又は代えて、フッ化カルシウムを含んでいてもよい。すなわち、内管40は、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいてもよい。フッ化カルシウムも、波長2μm~7μmの範囲では赤外線の透過率が比較的高いため、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくい。そのため、フッ化カルシウムも内管40の材質として適している。内管40は、フッ化カルシウムを主成分としてもよいし、フッ化カルシウムと不可避的不純物とで構成されていてもよい。内管40の材質としてフッ化カルシウムを用いる場合、内管40の厚さは例えば1mm以上2mm以下としてもよい。
【0058】
上述した実施形態では、内管40は1つの部材であったが、これに限らず内管40が複数の部材を備えていてもよい。このような場合、内管を構成する複数の部材の全てがC-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいる必要はなく、一部の部材がC-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
図16は、変形例の赤外線処理装置510の説明図であり、
図17は、
図16のB-B断面図である。以下、赤外線処理装置510について説明する。
【0059】
赤外線処理装置510は、赤外線ヒータ520と、赤外線ヒータ520を囲む内管540と、内管540を囲む外管550と、外管550の前後の両端に配設された蓋部560,560と、を備えている。赤外線ヒータ520は、発熱部22と、メタマテリアル構造体30と、第1,第2支持基板25a,25b(図示省略)と、を備えている。赤外線ヒータ520は、
図16に示すように発熱部22がメタマテリアル構造体30よりも前後に長く延びている点以外は、赤外線ヒータ20と同じ構成をしている。
【0060】
内管540は、赤外線ヒータ520を囲む角管状の部材であり、赤外線透過部材541と、枠体543と、ヒータ支持部材544と、を備えている。赤外線透過部材541は、内管540の上面を構成する板状又はフィルム状の第1赤外線透過部材541aと、内管540の下面を構成する板状又はフィルム状の第2赤外線透過部材541bと、を備えている。第1,第2赤外線透過部材541a,541bは、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいる。ここでは、第1,第2赤外線透過部材541a,541bはいずれもフッ化カルシウム製の板状部材とした。第1,第2赤外線透過部材541a,541bの厚さは、上述した内管40の厚さと同じ数値範囲を適用できる。枠体543は、上面視で四角形の4辺を構成する角柱を備えた枠状部材である。枠体543の上面及び下面には、ガスケット543b及び図示しない接着材を介して第1,第2赤外線透過部材541a,541bが取り付けられている。内管540は、赤外線透過部材541及び枠体543で囲まれた内部空間542を有しており、この内部空間542内に赤外線ヒータ520が配置されている。内部空間542には、枠体543の内側に取り付けられたヒータ支持部材544,544が前後に配置されている。このヒータ支持部材544,544上に発熱部22の前端及び後端が取り付けられることで、赤外線ヒータ520は内管540内で支持及び固定されている。枠体543の後部には電線導出管543aが取り付けられている。この電線導出管543aを介して発熱部22の両端の一対の電気配線57(前端側の電気配線57は図示省略)が内部空間542内から外部に引き出されている。
【0061】
外管550は、内管540を囲む角管状の部材である。外管550は、角管状の本体部551aと、本体部551aの前後の両端に配設されたフランジ部551b,551bとを備えている。本体部551aの底部の上には、複数(例えば4個)の内管支持部材564が配設されている。内管540は、この内管支持部材564の上に配置されることで、本体部551aの内周面から離間している。外管550の内周面と内管540の外周面とで囲まれた空間が、対象物流路552となっている。
【0062】
蓋部560,560は、外管550の前後の両端に配設されて、外管550の前後の開口を塞いでいる。蓋部560とフランジ部551bとの間にはガスケット561が配設されており、蓋部560とガスケット561とで対象物流路552と外部空間との間を封止している。前側の蓋部560は、対象物出入口566,566を有している。図示しない対象物供給源から供給される処理対象物は、下側に位置する対象物出入口566から対象物流路552に流入する。対象物流路552内に流入した処理対象物は、赤外線ヒータ520からの赤外線で赤外線処理された後、上側の対象物出入口566から流出する。電線導出管543aは、後側の蓋部560を前後に貫通している。赤外線ヒータ520及び内管540は、外管550から蓋部560を取り外すことで外管550内から取り出し可能である。これにより、赤外線ヒータ520及び内管540を一体的に交換したり、外管550の内周面や内管540の表面を容易に洗浄したりできる。枠体543,電線導出管543a,ヒータ支持部材544,外管550,内管支持部材564,蓋部560,及び対象物出入口566は、いずれも可視光を透過可能な材質(ここでは石英ガラス)とした。これにより、対象物流路552や赤外線ヒータ520などの赤外線処理装置510内部の様子を作業者が観察しやすくなる。ただし、これらの部材の1以上について他の材質を用いてもよい。例えば外管550及び蓋部560を金属製としてもよい。
【0063】
こうして構成された赤外線処理装置510においても、上述した実施形態と同様に、赤外線ヒータ520から放射される赤外線が対象物流路552内を流通する処理対象物に放射されることで、処理対象物の赤外線処理を行うことができる。そして、内管540が備える赤外線透過部材541はメタマテリアル構造体30が放射する赤外線の最大ピーク付近の波長の赤外線の処理対象物への到達を妨げにくいため、処理対象物の赤外線処理を効率よく行うことができる。
【0064】
赤外線処理装置510に対して、上述した実施形態及びその種々の変形例の態様を適用してもよい。例えば、外管550の本体部551aは内周面又は外周面に反射体を有していてもよい。内部空間542が減圧可能であってもよい。外管550と内管540との間に透過管を配設して内管540と透過管との間に冷媒流路を形成してもよい。透過管についても、C-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいればよい。また、透過管についても、内管と同様に、透過管を構成する複数の部材の全てがC-F結合を有するフッ素系材料とフッ化カルシウムとの少なくともいずれかを含んでいる必要はない。例えば、透過管が内管540の赤外線透過部材541と同様の部材を備えていてもよい。上述した実施形態に対して、赤外線処理装置510について説明した態様を適用してもよい。
【0065】
上述した赤外線処理装置510を実際に製作して、処理対象物の赤外線処理ができることを確認した。この赤外線処理装置510では、発熱体23の材質はFe-Cr-Al-Co合金とし、具体的にはサンドビック株式会社製のカンタルAF(カンタルは登録商標)とした。第1,第2支持基板25a,25bは厚さ0.5μmの石英板とし、メタマテリアル構造体30の最大ピークのピーク波長は5.88μmとした。第1,第2赤外線透過部材541a,541bはいずれも厚さ1mmのフッ化カルシウム製の板状部材とした。対象物出入口566,566の外部には循環冷却器を接続して、処理対象物を冷却しながら循環させる(対象物流路552内を繰り返し流通させる)ようにした。また、対象物流路552内が空の状態で赤外線ヒータ520が発熱している場合などに生じる赤外線透過部材541の過熱を検知できるように、赤外線透過部材541には図示しない過熱検知センサーを設置した。この赤外線処理装置510において、発熱体23に通電してメタマテリアル構造体30が赤外線を放射している状態で、処理対象物としてエーテル基を持つ医薬原料の水溶液を対象物流路552内に流通させたところ、赤外線によりエステル化反応が促進されて処理対象物に安息香酸が生じており、赤外線処理が行われたことが確認された。第1,第2赤外線透過部材541a,541bの材質を厚さ0.1mmのPFAフィルムに変更した場合においても、同様の赤外線処理が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、対象物の加熱処理や化学反応させる処理などの赤外線処理を行う必要のある産業に利用可能である。
【0067】
本出願は、2017年7月5日に出願された日本国特許出願第2017-131628号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10,110,210,310 赤外線処理装置、20 赤外線ヒータ、22 発熱部、23 発熱体、24 保護部材、25a,25b 第1,第2支持基板、30 メタマテリアル構造体、30a,30b 第1,第2メタマテリアル構造体、31a,31b 第1導体層、33a,33b 誘電体層、35a,35b 第2導体層、36a,36b 個別導体層、40 内管、42 内部空間、45 透過管、47 冷媒流路、50 外管、52 対象物流路、55 反射体、57 電気配線、60 キャップ、64 ホルダ、66 対象物出入口、430 メタマテリアル構造体、430a,430b 第1,第2メタマテリアル構造体、431a,431b 本体層、433a,433b 凹部形成層、435a,435b 導体層、436a,436b 放射面、437a,437b マイクロキャビティ、438a,438b 側面、439a,439b 底面、510 赤外線処理装置、520 赤外線ヒータ、540 内管、541 赤外線透過部材、541a,541b 第1,第2赤外線透過部材、542 内部空間、543 枠体、543a 電線導出管、543b ガスケット、544 ヒータ支持部材、550 外管、551a 本体部、551b フランジ部、552 対象物流路、560 蓋部、561 ガスケット、564 内管支持部材、566 対象物出入口。