(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】実用的で機能的な組織バンキング用の大容量組織サンプルの無氷保存
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20220421BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220421BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220421BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220421BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220421BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220421BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220421BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220421BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220421BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220421BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220421BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
A01N1/02
A61P9/00
A61P19/02
A61P19/08
A61P1/00
A61P13/12
A61P27/02
A61K35/34
A61L27/50 300
A61K47/26
A61P43/00 107
A61L27/36 310
(21)【出願番号】P 2019533160
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 US2017067060
(87)【国際公開番号】W WO2018118799
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-04
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519022908
【氏名又は名称】ティシュー テスティング テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】TISSUE TESTING TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ケルビン ジーエム ブロックバンク
(72)【発明者】
【氏名】リア エイチ キャンベル
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第102550541(CN,B)
【文献】特開2005-239685(JP,A)
【文献】特開2016-010359(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063806(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0190517(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0067480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの糖を含む凍結保護製剤に細胞材料をさらし、
前記細胞材料に対して氷による損傷が生じない保存プロトコルに前記細胞材料を供し、
凍結保存細胞材料を得る、生きている大容量の細胞材料を保存する方法であって、
前記細胞材料は4mLを超える体積を有し、保存プロトコルの完了後の前記細胞材料の細胞生存率(%)が少なくとも60%であ
り、
前記保存プロトコルは、前記細胞材料が、凍結保護製剤中でインキュベートされ、該凍結保護製剤が、0.1~1Mの前記少なくとも1つの糖を含む、ことを含み、
前記少なくとも1つの糖が、トレハロースおよびスクロースからなる群から選択され、
前記細胞材料は、心臓弁および血管からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記細胞材料が10mLを超える体積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞材料を前記保存プロトコルに供すると、前記細胞材料が少なくとも7日間無氷である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの糖が、トレハロース
である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記保存プロトコルは、少なくとも1つの糖を含む凍結保護製剤中で前記細胞材料を冷却し、
さらなる凍結防止剤が、冷却前または冷却中に凍結防止剤配合物に添加され、前記さらなる凍結防止剤は糖とは異なり、
前記凍結保護製剤は、前記さらなる凍結防止剤を0.1~13.0Mの濃度で含有することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記さらなる凍結防止剤が、アセトアミド、アガロース、アルギン酸塩、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、凍結防止タンパク質、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エリトリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセリン、グリセロリン酸塩、グリセリルモノアセテート、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルデンプン、氷再結晶抑制剤、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロパンジオール、ピリジンN-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリンおよびキシロースからなる群から選択される、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞材料が、ヒト臓器およびヒト組織からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記培地がDMSO、ホルムアミドおよび/またはプロピレングリコールを含まない、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本非仮出願は、2016年12月20日に出願された米国仮特許出願第62/436,642号の利益を主張する。当該先行出願の開示は、その全体における参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、細胞、組織および臓器の保存の分野、特に二糖類(例えば、トレハロース、スクロース)などの糖を組み込んだ新しい無氷処方(例えば、ガラス化)、並びに、サンプル容量が4mLを超えてもサンプル材料特性および生物学的生存能力を向上させるプロトコルに関する。より具体的には、本発明は、保存後の細胞生存および組織機能を向上させるための、二糖類(例えば、トレハロースおよびスクロース)などの糖を、(例えば、10mLを超えるなど、4mLを超える体積を有する)細胞材料を含む大きなサンプル用の無氷ガラス化処方物に補充する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
無氷凍結保存に対する従来のアプローチは、比較的小さいサンプルサイズの保存(ストレージ)に成功している。例えば、ヒト卵母細胞の保存は、臨床的体外受精の実践に革命をもたらした。
【0004】
細胞または組織が保存されるために、凍結防止剤溶液は、冷却または解凍/加温プロセス中の凍結による損傷を防ぐために典型的に使用される。凍結保存が有用であるためには、保存されたサンプルは、その完全性および/または生存率を妥当なレベルの保存後まで保持するべきである。したがって、サンプルを保存するプロセスは、細胞および/または組織構造の損傷または破壊を回避および/または制限するべきである。
【0005】
ガラス化、つまり、結晶相ではなく「ガラス状」での凍結保存は、組織バンキングおよび再生医療にとって重要な実現アプローチであり、さまざまな生物医学的用途のために細胞、組織および臓器を保管および輸送する能力を提供する。ガラス化による無氷凍結保存では、氷の形成は、凍結防止剤として知られている、水と相互作用して水と置き換わる、したがって水分子が氷を形成するのを防ぐ高濃度の化学物質の存在によって防止される。このアプローチは、凍結保護製剤のガラス転移温度(Tg)未満の貯蔵中の生物学的時間を本質的に停止させ、臓器やより大きな組織などのバルクシステムでの使用を妨げる拡散(熱および物質移動)および相変化の制限により、小規模の細胞および薄い組織サンプルの生存率および機能を維持するためにうまく使用されてきた。従来の境界対流加温技術を用いる以前のガラス化技術(およびDSMOのようなそれと共に使用される凍結保護剤)は時々4~5mLまでのサンプルについて成功することができ、一方、サンプル体積が10mLに近づくと、氷形成は依然として起こる。これは、従来の槽内の境界対流加温では十分な速さの加温速度が得られないためである。氷が形成されると、細胞や組織が破壊される。大きな組織サンプルに対するガラス化の主な制限は、使用される凍結防止剤への長期の暴露および再加温中の氷形成による潜在的な細胞毒性である。
【発明の概要】
【0006】
二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの糖を用いた大容量の細胞材料(例えば、10mLを超えるなど、4mLを超える容積を有する)に使用される無氷ガラス化製剤の補給は、保存後の細胞生存および組織機能の増加をもたらすことが見出された。
【0007】
したがって、本出願は、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの糖が、無氷ガラス化凍結保護製剤に添加される、大容量の細胞材料の処理のための新しい方法論および新しい処方を提供する。これらの糖の補給は、凍結防止剤誘発性の細胞傷害および冷却中および最も重要なことには再加温中の氷形成の危険性の両方を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、二糖類(トレハロースおよびスクロース)が様々なガラス化製剤(VS49、DP6、およびVS55)に添加される無氷凍結保存製剤の補充実験に関して得られたデータの説明図である。
【
図2】
図2は、フレッシュおよびガラス化ウサギ頸動脈の収縮反応に関して得られたデータの図である。(上)ノルエピネフリンおよびフェニレフリン(下)用量反応曲線。
【
図3】
図3は、VS55±0.6Mスクロースの4および10mLサンプルのブタ大腿動脈比較(alamarBlueアッセイ)に関して得られたデータの説明図である。
【
図4】
図4は、プレ収縮後のニトロプルシドナトリウムによって誘発されたブタ平滑筋弛緩に関して得られたデータの説明図である(生理学アッセイ)。
【
図5】
図5は、対流(convection)対ナノ加温(nanowarming)の比較のために、ナノ粒子を含むまたは含まない、0.6Mスクロースを含むまたは含まない、30mL容量のVS55中でガラス化されたウサギ胸部大動脈サンプルに関して得られたデータの図である。
【
図6A】
図6Aは、無傷心臓弁を30mLの凍結防止剤容量で保存し、対流またはナノ加温法のいずれかによって再加温した心臓弁組織の生存率の比較に関して得られたデータの図である。
【
図6B】
図6Bは、無傷心臓弁を30mLの凍結防止剤容量で保存し、対流またはナノ加温法のいずれかによって再加温した心臓弁組織の生存率の比較に関して得られたデータの図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
用語と定義
以下の説明では、本開示の理解を提供するために多数の詳細が述べられる。しかしながら、本開示の方法はこれらの詳細なしで実施されてもよく、記載された実施形態からの多数の変形または修正が可能であり得ることが当業者によって理解され得る。
【0010】
最初に、そのような実際の実施形態の開発において、システムに関連した制約やビジネスに関連した制約への準拠など、実装ごとに異なる開発者固有の目標を達成するために、実装固有の多数の決定を下し得ることに留意されたい。さらに、そのような開発努力は複雑で時間がかかる可能性があるが、それにもかかわらず、本開示の利益を享受する当業者にとっては日常的な作業であることが理解されよう。さらに、本明細書で使用/開示されている組成物はまた、引用したもの以外のいくつかの成分を含むことができる。要約およびこの詳細な説明では、各数値は、用語「約」によって修正されたものとしていったん読まれ(既に明示的にそのように修正されていない限り)、文脈上別段の指示がない限り、修正されていないものとして再度読む。
【0011】
本明細書で使用されるとき、量と関連して使用される用語「約」は、述べられた値を含み、そして文脈によって示される意味を有する。例えば、それは少なくとも特定の量の測定に関連する誤差の程度を含む。範囲の文脈で使用されるとき、修飾語句「約」はまた、2つの端点の絶対値によって定義された範囲を開示すると見なされるべきである。例えば、「約2~約4」の範囲は、「2~4」の範囲も開示する。
【0012】
本明細書で他に明示的に述べられていない限り、温度(℃)に関する修飾語「約」は、述べられた温度または温度範囲±述べられた温度または温度範囲±1~4%(記載された温度または一連の温度の終点)を指す。細胞生存率および細胞保持率(%)に関して、本明細書中に別段の記載がない限り、細胞生存率および細胞保持率(%)に関する修飾語「約」は、表示値または値の範囲、ならびに表示値または値±1~3%の値の範囲を指す。例えば、百万分の一(ppm)または十億分の一(ppb)のいずれかの単位で表されるような表現内容に関して、本明細書で特に明記しない限り、細胞生存率および細胞保持率(%)に関する修飾語「約」は、表示値または値の範囲ならびに表示値または値の範囲±1~3%を指す。単位μg/mLでの含有量の表現に関して、本明細書中に別段の定めがない限り、μg/mLでの値に関する修飾語「約」は、表示値または値の範囲ならびに表示値または値の範囲±1~4%を指す。モル濃度(M)に関して、本明細書で他に明示的に述べられていない限り、モル濃度(M)に関する修飾語「約」は、記載された値または値の範囲、ならびに記載された値または値の範囲±1~2%を指す。冷却速度(℃/分)に関して、本明細書中に別段の記載がない限り、冷却速度(℃/分)に関する修飾語「約」は、表示値または値の範囲、ならびに記載された値または範囲±1~3%を指す。
【0013】
また、要約およびこの詳細な説明では、終点を含む範囲内のすべての点が記載されているとみなされるため、有用である、適切であるなどとして列挙または記載されている範囲は、少なくともその範囲内の任意の考えられる小範囲に対するサポートを含むことを意図していることが理解されるべきである。例えば、「1~10の範囲」は、約1~約10の間の連続体に沿った各可能な数を示すものとして読まれるべきである。さらに、例えば、+/-1~4%は、1~4の間の連続体に沿って各可能な数を示すものとして読まれるべきである。さらに、本実施例における1つ以上のデータポイントは、互いに組み合わせられてもよく、または明細書におけるデータポイントの1つと組み合わせられて範囲を作成してもよく、したがってこの範囲内の各可能な値または数を含む。したがって、(1)範囲内の多数の特定のデータポイントが明示的に識別されていても、(2)範囲内のいくつかの特定のデータポイントを参照したとしても、または(3)範囲内のデータポイントが明確に識別されていないときでも、(i)範囲内の任意の考えられるデータ点が特定されたと見なされるべきであることを本発明者らは認識し理解していること、および(ii)本発明者らは、範囲全体、各範囲内の考えられる部分範囲、および範囲内の考えられる各点についての知識を有していたことが理解されるべきである。さらに、本明細書に例示的に開示された本出願の主題は、本明細書に具体的に開示されていない要素がなくても適切に実施することができる。
【0014】
そうでないと明示的に述べられていない限り、「または」は、包括的な「または」を指し、排他的な「または」を指すのではない。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれかによって満たされる:Aは真(すなわち存在する)でBは偽(すなわち存在しない)、Aは偽(すなわち存在しない)、Bは真(すなわち存在する)、およびAとBの両方が真(すなわち存在する)である。
【0015】
さらに、「1つの(a)」または「1つの(an)」の使用は、本明細書の実施形態の要素および構成要素を説明するために採用されている。これは単に便宜上および本開示による一般的な概念の意味を与えるために行われる。この説明は、1つまたは少なくとも1つを含むように読まれるべきであり、単数形は、特に明記しない限り複数形も含む。
【0016】
本明細書で使用される用語および表現は説明を目的としたものであり、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。「含む(including)」、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、または「含む(involving)」などの言語、およびその変形は、広義であり、その後に列挙されている主題、等価物、および列挙されていない追加の主題を包含するものとする。
【0017】
また、本明細書で使用されるとき、「一の実施形態」または「一実施形態」への言及は、その実施形態に関連して説明された特定の要素、特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一実施形態では」というフレーズの出現は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「室温」は、標準圧力で約18℃から約25℃の温度を指す。様々な例では、室温は、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、または約25℃であり得る。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「細胞材料」または「細胞サンプル」とは、材料が天然であろうと人工であろうと細胞成分を含む、生きている生物材料を指し、天然または人工であろうと細胞、組織および器官を含む。そのような用語はまた、細胞、組織および器官のような、凍結保存されるべきあらゆる種類の生物材料を意味する。いくつかの実施形態では、細胞、組織および器官は哺乳動物器官(ヒト器官など)、哺乳動物細胞(ヒト細胞など)および哺乳動物組織(ヒト組織など)であり得る。
【0020】
本明細書で使用されるとき、「大容量の細胞材料」または「大容量サンプル」または「大容量の細胞サンプル」という句で使用される「大容量」は、細胞成分を含有する、生きている生物学的材料を指し、材料が天然のものであるか人工のものであるかにかかわらず、細胞性の材料、組織および臓器を含み、天然のものであるか人工のものであるかにかかわらず、細胞成分を含有するそのような生体生物材料は、約4mLを超える体積、例えば約5mLを超える体積、または約10mLを超える体積、または約15mLを超える体積、または約30mLを超える体積、または約50mLを超える体積、または約70mLを超える体積、または、約4mL~約200mLの範囲の体積、例えば約4mL~約50mLの範囲の体積、または約4mL~約30mLの範囲の体積、または約5mL~約100mLの範囲の体積、例えば約5mL~約50mLの範囲の体積、または約5mL~約30mLの範囲の体積、または約6mL~約100mLの範囲の体積、または約6mL~約50mLの範囲の体積、または約6mL~約25mLの範囲の体積、または約10mL~約100mLの範囲の体積、または約10mL~約50mLの範囲の体積、または約10mL~約25mLの範囲の体積、または約10mL~約20mLの範囲の体積を有する。そのような用語はまた、細胞材料、組織および器官のような、凍結保存されるべきそのような容積を有するあらゆる種類の生物材料も含む。いくつかの実施形態では、そのような容積を有する組織および器官は哺乳動物臓器(ヒト臓器など)、哺乳動物細胞および哺乳動物組織(ヒト組織など)であり得る。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「臓器」は、例えば、肝臓、肺、腎臓、腸、心臓、膵臓、精巣、胎盤、胸腺、副腎、動脈、静脈、リンパ節、骨または骨格筋などの任意の臓器を指す。本明細書で使用されるとき、用語「組織(単数)」または「組織(複数)」は、任意の種類の細胞型を含む任意の組織型(例えば、上記の器官のうちの1つから)およびそれらの組み合わせを含み、例えば、卵巣組織、精巣組織、臍帯組織、胎盤組織、結合組織、心臓組織、筋肉、軟骨および骨由来の組織、内分泌組織、皮膚および神経組織が挙げられる。用語「組織(単数)」または「組織(複数)」はまた、脂肪組織または歯髄組織を含み得る。いくつかの実施形態において、組織または臓器は、例えば、ヒト肝臓、ヒト肺、ヒト腎臓、ヒト腸、ヒト心臓、ヒト膵臓、ヒト精巣、ヒト胎盤、ヒト胸腺、ヒト副腎、ヒト動脈、ヒト静脈、ヒト神経、ヒト皮膚、ヒトリンパ節、ヒト骨、またはヒト骨格筋のような、ヒトから得られたものである。
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞」は、例えば体細胞(組織または器官中のすべての種類の細胞を含む)、線維芽細胞、ケラチノサイト、肝細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、幹細胞、前駆細胞、卵母細胞、生殖細胞などの任意の種類の細胞を含む。そのような細胞は組織または器官の形態であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、上記のヒト組織または臓器などの哺乳動物組織または臓器に由来する。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「保存プロトコル」とは、生きている生物学的材料を含む細胞に有効期間を提供するためのプロセスをいう。保存プロトコルは、ガラス化による凍結保存および/または凍結乾燥または乾燥(desiccation)による無水生物保存を含み得る。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「ガラス化」とは、氷晶形成なしまたは実質的な氷晶形成なしのいずれかでの凝固をいう。いくつかの実施形態では、ガラス化および/または硝子体凍結保存(全体として-最初の冷却から再加温の完了まで)が氷晶形成なしに達成され得るように、保存されるサンプル(例えば、組織または細胞材料など)をガラス化することができる。いくつかの実施形態では、ガラス化および/またはガラス質凍結保存が、保存されるべきサンプル(例えば、組織または細胞材料など)の固化が実質的な氷結晶形成なしに起こり得る場合に達成され得るように、保存されるべきサンプル(例えば、組織または細胞材料など)はガラス化されてもよい(すなわち、ガラス化および/または硝子体凍結保存(全体として-最初の冷却から再加温の完了まで)は、組織への損傷を引き起こす量より少ない、少量の、または制限された量の氷の存在下でさえも達成され得る)。
【0025】
本明細書で使用されるとき、保存されるべきサンプル(例えば、組織または細胞材料など)は、ガラス転移温度(Tg)に達するとガラス化される。ガラス化のプロセスは、氷核形成および成長が抑制されるように温度が低下するにつれて、凍結防止剤溶液の粘度が著しく増加することを含む。一般に、溶液が凍結せずに過冷却する可能性がある最低温度は、均質な核形成温度Thであり、この温度では氷結晶が核形成および成長し、結晶性固体が溶液から形成される。ガラス化溶液はガラス転移温度Tgを有し、その温度で溶質はガラス化するか、または非結晶性固体になる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「ガラス転移温度」は、プロセスが行われている条件下での溶液または配合物のガラス転移温度を指す。一般に、本開示の方法論は生理学的圧力で行われる。しかしながら、保存されるサンプル(例えば、組織または細胞材料など)がそれによって著しく損傷されない限り、より高い圧力を使用することができる。
【0027】
本明細書で使用されているように、「生理的圧力」は、正常な機能の間に組織が受ける圧力を指す。したがって、「生理的圧力」という用語は、正常な大気条件、ならびに血管新生組織などの様々な組織が拡張期および収縮期の条件下で受けるより高い圧力を含む。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「凍結防止剤」は、凍結防止剤なしの冷却効果と比較して、組織が零度以下の温度に冷却されたときに組織/臓器内および周囲の氷晶形成を最小にし、そして温めた後に組織/臓器に実質的に損傷を与えない化学物質を意味する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「糖」は任意の糖を意味し得る。いくつかの実施形態では、糖は多糖類である。本明細書中で使用される場合、用語「多糖」は、2つ以上の単糖単位を含有する糖をいう。すなわち、多糖類という用語は、二糖類および三糖類などのオリゴ糖を含むが、単糖類を含まない。糖はまた、少なくとも1つの糖が多糖類である場合のように、糖の混合物でもあり得る。いくつかの実施形態では、糖は、二糖類および三糖類からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。いくつかの実施形態では、糖は二糖類であり、例えば二糖類がトレハロースおよびスクロースからなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。いくつかの実施形態では、糖はラフィノースなどの三糖類である。糖は、トレハロースおよび/またはスクロースおよび/またはラフィノースおよび/または他の二糖類もしくは三糖類の組み合わせでもあり得る。いくつかの実施形態では、糖はトレハロースを含む。
【0030】
本明細書で使用されるように、凍結保存材料に関して用語「凍結保存後に機能する」は、凍結保存後の器官または組織などの凍結保存材料が凍結保存後に許容されるおよび/または意図された機能を保持することを意味する。いくつかの実施形態では、凍結保存後の細胞材料は、そのすべての意図した機能を保持している。いくつかの実施形態では、開示の方法によって保存された細胞凍結保存材料は、意図された機能の少なくとも50%、例えば意図された機能の少なくとも60%、例えば意図された機能の少なくとも70%、例えば意図された機能の少なくとも80%、例えば意図された機能の少なくとも90%、例えば意図された機能の少なくとも95%、例えば意図された機能の100%、を保持する。例えば、細胞の生存能力を維持すると同時に、組織/器官の生理学的機能、例えば心臓のためのポンピング機能、および/または組織(例えば移植されるべきもの)が周囲の組織と一体化する能力もまた維持/保存することが重要であり得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「無菌」は、生きている細菌、微生物、および増殖することができる他の生物を含まないことを意味する。
【0032】
本明細書中で使用される場合、用語「凍結防止剤を実質的に含まない」とは、0.01w/w%未満の量の凍結防止剤を意味する。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、実質的にDMSOを含まない(すなわち、DMSOは0.01w/w%未満の量である)細胞材料などの、凍結防止剤を実質的に含まない培地/溶液および/または細胞材料を使用および/または達成することができる。いくつかの実施形態では、本開示の方法は、スクロースおよび/またはトレハロースなどの、糖以外の凍結防止剤を実質的に含まない培地/溶液および/または細胞材料を使用および/または達成することができる。
【0033】
実施形態
本開示は、大容量の生きている材料/サンプル/器官/組織(「材料」、「サンプル」、「器官」、および「組織」という用語は互換的に使用され、細胞成分を含むあらゆる生物学的材料を包含する。)を保存するための方法に関する。
【0034】
本開示の方法は、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖を含有する凍結防止剤溶液と大容量の細胞材料とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、これは、二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)(および場合によってはさらなる凍結防止剤)の少なくとも1つの糖を含有する凍結保護製剤/溶液中で大容量の細胞材料をインキュベートすること、例えば、二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)(および場合によってはさらなる凍結防止剤)の少なくとも糖を含む培地/溶液中で大容量の細胞材料をインキュベートする(または接触させる)ことなど、を含み得る。実施形態では、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、冷却および再加温中に大容量の細胞材料の細胞の生存をより助長する環境を提供するのに有効な量で凍結保護製剤/溶液中に存在し得る。
【0035】
例えば、いくつかの実施形態では、本開示の方法によって保存された細胞凍結保存材料は、意図された機能の少なくとも50%、例えば意図された機能の少なくとも60%、例えば意図された機能の少なくとも70%、例えば意図された機能の少なくとも80%、例えば意図された機能の少なくとも90%、例えば意図された機能の少なくとも95%、例えば意図された機能の100%、を保持する。例えば、組織や臓器における細胞の生存能力の維持とともに、細胞/組織/臓器の生理学的機能、例えば心臓のためのポンピング機能、および/または組織/細胞(例えば、移植されるもの)が周囲の組織/細胞と統合する能力もまた維持/保存することが重要であり得る。
【0036】
本開示の方法では、大容量の細胞材料の細胞(以下「細胞」とする)は、凍結保存温度への冷却および再加温の間に他の凍結防止剤と組み合わせた二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)の少なくとも1つの糖と接触させた後に凍結保存中に保護される。実施形態では、凍結保存製剤/溶液/組成物中の二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)の少なくとも1つの糖によって凍結保護剤溶液が安定化/保護されているため、冷却および再加温中に他の凍結防止剤と組み合わせて二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)の少なくとも1つの糖と接触させることは、細胞の生存率が著しく悪化しないように氷形成のリスクが最小限に抑えられることを意味する。
【0037】
実施形態では、細胞、組織および臓器の臓器貯蔵によく適した既知の溶液などの溶液は、保存プロトコルの間、大容量の細胞材料の細胞の生存をより助長する環境を提供するのに効果的である任意の有効量の糖を含み得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、本開示の方法において、他の抗凍結剤と組み合わせて二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)の少なくとも1つの糖を含有する培地(「培地」と「溶液」という用語は互換的に使用されている)を、組織および器官などの細胞材料と組み合わせて凍結保存組成物を調製し得る。(水性媒体であり得る)培地は、これらの目的のために、他の凍結防止剤と組み合わせて、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの任意の適切な濃度の少なくとも1つの糖を含み得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、他の凍結防止剤と組み合わせた二糖類など(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)の少なくとも1つの糖が、臓器、細胞、および哺乳動物の臓器などの組織、ならびに哺乳動物細胞、および哺乳動物組織(後で移植される可能性があるものを含む)からなる群から選択される生きた細胞材料/サンプルの生存率(凍結保存後)の改善をもたらすように、本開示の方法においてある量で使用される。「細胞生存率の改善」または「生存率の改善」という句は、例えば、80%以上など、少なくとも60%の細胞生存率(%)を指す。改善された細胞生存率(%)は、50%以上、60%以上、70%以上、73%以上、75%以上、77%以上、80%以上、83%以上、85%以上、87%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)(および任意選択でさらなる凍結防止剤)などの少なくとも1つの糖が、本開示の方法において、1つまたは複数の以下:氷の核形成を抑制し、氷の構造を修正し、氷の形成を減らし、氷の形成を防ぐこと、より速い冷却速度の使用を可能にする程度に氷形成を減少/防止すること、減少を可能にする程度に氷形成を減少/防止すること、を達成するのに有効であるような量で使用される。
【0041】
いくつかの実施形態において、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、保存されるべき細胞を含む培地の全重量の約1から約50%、例えば、保存される細胞と共に使用されている製剤/溶液/培地の総重量の約2~約50%、または約4~約45%、または約5~20%、または約5~約12%、または約6~20%、または約6~約12%、または約6~約10%を占める。
【0042】
いくつかの実施形態では、製剤/溶液/培地は、0.01M~5M、0.1M~4M、0.1M~3M、0.1M~2M、0.2M~2M、0.3M~2M、0.4M~2M、0.5M~2M、0.6M~2M、0.1M~1M、0.2M~1M、0.3M~1M、0.4M~1M、0.5M~1M、約0.05M~約6M、約0.1~約3M、約0.25~約6M、約0.25~約1M、約0.25~約2M、約0.25~約3M、約0.25~約4M、約0.25~約5M、約1~約4M、約1~約3M、約1~約2M、約3~約5M、約2~約4M、約0.5~約6M、約0.5~約5M、約0.5~約4M、約0.5~約3M、約0.5~約2M、または約0.5~約1Mの範囲の濃度で二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖を含有し、上記の範囲内で生じる任意の濃度も範囲の終点として役立ち得る。
【0043】
実施形態では、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖を含む製剤/溶液/培地は、任意の所望の期間にわたって保存されるべきサンプルと接触させることができ、向上した生存率(凍結保存後)を提供するため、および/または組織の損傷を防止/保護するため、および/または以下:氷の核形成を抑制し、氷の構造を修正し、氷の形成を減らし、氷の形成を防ぐ、より遅い冷却速度および加温速度の使用を可能にする程度に氷形成を減少/防止する、組織を保護するために細胞の生存をより助長する環境を提供するのに必要とされる凍結防止剤の量の減少を可能にする程度に氷形成を減少/防止する、のうちの1つ以上を達成するため、例えば、少なくとも1つの糖の所望の投与量(有効投与量など)まで、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)が細胞または組織の上/中に存在する。
【0044】
いくつかの実施形態において、凍結保存される細胞はまた、例えば少なくとも塩基性塩溶液、エネルギー源(例えばグルコース)、および冷却された温度で中性のpHを維持することができる緩衝液からなる凍結適合性pH緩衝液と接触していてもよい。そのような周知の材料には、例えば、ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)が含まれる。この材料はまた、凍結保存組成物の一部として含まれてもよい。例えば、Campbell et al., "Cryopreservation of Adherent Smooth Muscle and Endothelial Cells with Disaccharides," In: Katkov I. (ed.) Current Frontiers in Cryopreservation. Croatia: In Tech (2012);およびCampbell et al., "Development of Pancreas Storage Solutions: Initial Screening of Cytoprotective Supplements for β-cell Survival and Metabolic Status after Hypothermic Storage," Biopreservation and Biobanking 11(1): 12-18 (2013)を参照されたい。
【0045】
いくつかの実施形態では、凍結防止剤(糖および他のいずれかの凍結防止剤を含む)は、凍結保存組成物中に、例えば、約0.05M~約13M、約0.1~約13M、約0.25~約13M、約1~約13M、約2~約13M、約4~約13M、約6~約13M、約8~約13M、約0.25~約11M、約0.25~約9M、約0.25~約8M、約0.25~約7M、約0.25~約10M、約1~約7M、約1~約8M、約1~約9M、約3~約10M、約2~約10M、約0.5~約10M、約0.5~約9M、約0.5~約9M、約0.5~約8M、または約0.5~約7M、または約6.5~約11Mの量で存在してもよい。いくつかの実施形態では、凍結防止剤は、凍結保存組成物中に、例えば、約0.05Mから約6M、約0.1~約3M、約0.25~約6M、約1~約6M、約2~約6M、約3~約6M、約4~約6M、約5~約6Mの量で存在してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、保存されるべき細胞材料は、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖を含む、溶液/培地/処方物/組成物中に保存されるべき細胞材料をインキュベートする前、その間、またはその後に、凍結防止剤含有溶液/媒体/処方物/組成物と接触させることができる。そのような溶液/培地/処方物/組成物中への浸漬および/または灌流によって組織が接触し得る期間は、組織の質量の関数となるであろう。実施形態では、そのような溶液/培地/製剤/組成物の冷却速度は、氷の形成を防ぐために適切な組織浸透(濃度および時間の関数)を提供するように調整されてもよい。
【0047】
適切なさらなる凍結防止剤としては、例えば、アセトアミド、アガロース、アルギン酸塩、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、不凍タンパク質、ブタンジオール(2,3-ブタンジオールなど)、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(n-ジメチルホルムアミドなど)、ジメチルスルホキシド、エリトリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセリン、グリセロリン酸塩、グリセリルモノアセテート、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルデンプン、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロパンジオール(1,2-プロパンジオールおよび1,3-プロパンジオールなど)、ピリジンN-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリン、およびキシロースが挙げられる。本開示において使用され得る他の凍結防止剤は、Fahyらの米国特許第6,395,467号、Wowkらの米国特許第6,274,303号、Khirabadiらの米国特許第6,194,137号、Fahyらの米国特許第6,187,529号、Fahyらの米国特許第5,962,214号、Calacoらの米国特許第5,955,448号、Merymanらの米国特許第5,629,145号、および/またはこれは、Khirabadiらによる米国特許出願第09/691,197号に対応するWO02/32225A2に記載されており、それらの開示はそれぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0048】
凍結防止剤組成物はまた、凍結防止化合物として、少なくとも1種のシクロヘキサンジオール(CHD)化合物、例えば1,3-シクロヘキサンジオール(1,3CHD)または1,4-シクロヘキサンジオール(1,4CHD)のシスまたはトランス型、またはそれらのラセミ混合物を含み得る。
【0049】
CHD化合物は、凍結保存組成物中に、例えば、約0.05~約2M、約0.1M~約1M、約0.1~約2M、約0.1~約1M、約0.1~約1.5M、約0.1~約0.5M、約0.1~約0.25M、約1~約2M、約1.5~約2M、約0.75~約2M、約0.75~約1.5M、約0.75~約1M、約0.05~約1M、約0.05~約0.75M、約0.05~約0.5M、または約0.05~約0.1Mの量で存在し得る。
【0050】
凍結保存組成物はまた、細胞、組織および器官の保存によく適した溶液を含み得る(またはそれに基づく)。溶液は、周知のpH緩衝剤を含み得る。いくつかの実施形態では、溶液は、例えば、デキストロース、一塩基性および二塩基性リン酸カリウム、重炭酸ナトリウム、ならびに塩化カリウムからなるEuroCollins溶液であり得、これはTaylor et al., "Comparison of Unisol with Euro-Collins Solution as a Vehicle Solution for Cryoprotectants," Transplantation Proceedings 33: 677-679 (2001)に記載されており、または、多くの生物学的システムのガラス化に成功したことを実証した最適化された凍結防止剤カクテルである「VS55」溶液であり得る。VS55溶液は、ユーロ-コリンズ基本溶液中に3.1Mジメチルスルホキシド(DMSO)、2.2Mプロピレングリコール、および3.1Mホルムアミドからなり、合計で8.4Mである。あるいは、凍結防止剤溶液は、Unisolなどの別の溶液に製剤化することができる。
【0051】
なおさらに、本開示の方法において使用するための凍結保存組成物はまた、不凍糖脂質(AFGL)、不凍タンパク質/ペプチド(AFP)、「熱ヒステリシス」タンパク質(THP)、または氷の再結晶抑制剤(IRI)を含み得る。そのような物質は、例えば、組成物の約0.001から約1mg/mL、約0.05から約0.5mg/mL、または約0.1から約0.75mg/mLの量で凍結保存組成物中に存在してもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、二糖類(例えばトレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、例えばDMSOなどの凍結防止剤の代わりとして、または、凍結保存手順の間に凍結保存材料/サンプルの機能性を維持することに関して、凍結防止剤が同じまたはより良好な保護効果を達成する濃度など、その濃度を非毒性濃度まで低下させる、他の凍結防止剤の補足として作用してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、凍結防止剤の代替物として作用し得る、例えば、「VS55」として知られている溶液中のDMSOのような、これは多くの生物学的システムのガラス化の成功を実証した最適化された凍結防止剤カクテルである(VS55溶液は、ベースユーロコリンズ溶液中に3.1Mジメチルスルホキシド(DMSO)、2.2Mプロピレングリコール、および3.1Mホルムアミドからなり、合計8.4M)。これに関して、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、VS55溶液中の凍結防止剤の代替物として作用して、その濃度を、例えば無毒性濃度にまで低下させることができ、または、凍結保存手順の間に凍結保存材料/サンプルの機能性を維持することに関して、凍結防止剤が同じまたはより優れた保護効果を達成する、VS55における他の凍結防止剤の補足として作用し得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、哺乳動物の臓器、哺乳動物の細胞、および哺乳動物の組織などの臓器、細胞および組織(後で移植される可能性があるものを含む)からなる群から選択される生物材料/サンプルのための凍結防止剤として作用することが効果的であるように、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖は、本開示の方法においてある量で使用される。
【0054】
本開示の方法において使用され得る細胞材料中の細胞は、任意の適切な細胞組成物であり得る。いくつかの実施形態において、細胞は、皮膚細胞、ケラチノサイト、骨格筋細胞、心筋細胞、肺細胞、腸間膜細胞、脂肪細胞、幹細胞、肝細胞、上皮細胞、クッパー細胞、線維芽細胞、ニューロン、心臓筋細胞、筋細胞、軟骨細胞、膵腺房細胞、ランゲルハンス島、骨細胞、筋芽細胞、衛星細胞、内皮細胞、脂肪細胞、前脂肪細胞、胆管上皮細胞、前駆細胞、またはこれらの細胞タイプのいずれかの組み合わせであり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用される細胞は、任意の適切な動物種、例えばヒト、イヌ科動物(例えばイヌ)、ネコ科動物(例えばネコ)、ウマ科動物(例えばウマ)、ブタ、ヒツジ、ヤギ、またはウシ哺乳動物などの哺乳動物由来であり得る。
【0056】
凍結保存溶液を調製するために使用される製剤/組成物は、様々な方法で、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖と組み合わせることができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、細胞材料は、二糖類(例えば、トレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖を含有する水溶液などの水性液体媒体と組み合わせることができる。例えば、場合によっては穏やかに撹拌しながら、段階的な組み合わせを実施することができる。
【0058】
凍結保存組成物(および二糖類(例えばトレハロースおよび/またはスクロース)などの少なくとも1つの糖および保存される細胞材料と会合したもの)が調製されると、無氷ガラス化凍結保存のための冷却は、任意の方法で実施することができ、そして上記のものに任意の追加の材料を使用することができる。細胞材料を保存するためのプロトコルは、以下の特許および刊行物に記載されている。Fahyらの米国特許第6,395,467号、Wowkらの米国特許第6,274,303号、Khirabadiらの米国特許第6,194,137号、Fahyらの米国特許第6,187,529号、Tonerらの米国特許第6,127,177号、Fahyらの米国特許第5,962,214号、Calacoらの米国特許第5,955,448号、Beattieらの米国特許第5,827,741号、Goodrichらの米国特許第5,648,206号、Merymanらの米国特許第5,629,145号、Rudolphらの米国特許第5,242,792号および/またはこれは、Khirabadiらによる米国特許出願第09/691,197号に対応するWO02/32225A2に記載されており、それらの開示はそれぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0059】
保存プロトコルの凍結保存部分は、典型的には、細胞を水の凝固点より十分に低い温度、例えば約-80℃以下、より典型的には約-130℃以下に冷却することを含む。当業者に公知の任意の凍結保存方法を使用することができる。例えば、凍結保存のための冷却プロトコルは、凍結保存温度が約-20℃より低く(すなわちより低温)、例えば約-80℃以下(すなわちより低温)、または約-135℃以下(すなわちより低温)であり得る任意の適切な種類であり得る。いくつかの実施形態において、凍結保存温度は、約-20℃から約-200℃の、または約-120~約200℃、または約-130℃~約-196℃、または約-140℃~約-190℃、または約-150℃~約-190℃、または約-150℃~約-180℃、または約-30~約-175℃、または約-80℃~約-160℃、または約-85℃~約-150℃、または約-95℃~約-135℃、または約-80℃~約-180℃、または約-90℃~約-196℃、または約-100℃~約-196℃範囲であり得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、保存プロトコルは、凍結保存される細胞/組織の特性に応じて、開始温度(+4から-30℃)から-80℃または上記の任意の冷却温度までの連続制御速度冷却を含み得る。例えば、凍結保存のための冷却プロトコルは、毎分約-0.1℃を超える、または、毎分約-4.0℃を超える、または毎分約-6.0℃を超える、または毎分約-8.0℃を超える、または毎分約-10.0℃を超える、または毎分約-14.0℃を超える、または毎分約-25.0℃を超える、または毎分50℃を超える速度などの任意の適切な速度(および/または平均冷却速度、例えばサンプルの初期温度から凍結保存温度まで)であり得る。例えば、連続速度冷却(または他の種類の冷却)の場合などの冷却速度(および/または平均冷却速度)は、例えば、毎分約-0.1℃~約-10℃または毎分約-1℃~約-2℃であり得る。冷却速度は、毎分約-0.1~約-9℃、毎分約-0.1~約-8℃、毎分約-0.1~約-7℃、毎分約-0.1~約-6℃、毎分約-0.1~約-5℃、毎分約-0.1~約-4℃、毎分約-0.1~約-3℃、毎分約-0.1~約-2℃、毎分約0.1~約-1℃、毎分約0.1~約-0.5℃、毎分約-1~約-2℃、毎分約-1~約-3℃、毎分約-1~約-4℃、毎分約-1~約-5℃、毎分約-1~約-6℃、毎分約-1~約-7℃、毎分約-1~約-8℃、毎分約-1~約-9℃、毎分約-1~約-10℃、毎分約-2~約-3℃、毎分約-2~約-5℃、毎分約-2~約-7℃、毎分約-2~約-8℃、毎分約-2~約-20℃、毎分約-4~約-10℃、毎分約-4℃~約-8℃、毎分約-4~約-6℃、毎分約-6~約-10℃、毎分約-6~約-9℃、毎分約-6~約-8℃、毎分約-6~約-7℃、毎分約-7~約-10℃、毎分約-7~約-9℃、毎分約-7~約-8℃、毎分約-8~約-9℃、毎分約-9~約-10℃、毎分約-7~約-30℃、毎分約-10~約-25℃、毎分約-15~約-25℃、毎分約-20~約-25℃、または毎分約-20~約-30℃であり得る。保存プロトコルはまた、いくつかの実施形態では冷却速度と無関係であり得る。
【0061】
保存されるサンプル(例えば、細胞材料および/または組織)がこの連続速度冷却によって約-40℃~-80℃以下に冷却されると、それらは、凍結保存温度(典型的には凍結溶液のガラス転移温度より低い)にさらに冷却するために液体窒素または液体窒素の気相に移されてもよい。凍結保存温度にさらに冷却する前に、保存されるサンプル(例えば、細胞材料および/または組織)を約-40℃~約-75℃、約-45℃~約-70℃、約-50℃~約-60℃、約-55℃~約-60℃、約-70℃~約-80℃、約-75℃~約-80℃、約-40℃~約-45℃、約-40℃~約-50℃、約-40℃~約-60℃、約-50℃~約-70℃、または約-50℃~約-80℃に冷却してもよい。しかしながら、氷の形成は起こらないので、結果は冷却速度と無関係であることが予想される。細胞生存率の保持に対する制限因子は、摂氏0度に近い温度での凍結防止剤曝露の持続時間であり、温度が低いほど、生存率の低下が予想されないストレージ温度に達するまで細胞傷害作用のリスクが少なくなる。
【0062】
糖(トレハロースおよび/またはスクロースなど)を補充した凍結保護製剤は、ガラス転移温度を超える温度に曝されている間に氷核形成の傾向が低下する。したがって、これらの製剤中の細胞材料は、数分または数時間、-80℃などの温度への短期間の暴露に耐えるであろう。正確な期間は、凍結防止剤/糖製剤に依存する。各温度で許容される期間は、その温度で使用される凍結保護製剤の相対的細胞毒性に依存するだろう。さらに、これらの凍結保護製剤は、液体窒素からコラーゲンの変性温度範囲(約60℃)以下の生理的温度までの範囲の温度で、細胞生存率が望まれない組織(例えば、心臓弁、皮膚、腱および末梢神経移植片)の保存に使用できると予想される。
【0063】
いくつかの実施形態は、段階的冷却プロセスを含むことができ、ここで組織の温度は、第1の溶液のガラス転移温度と-20℃との間の第1の温度で、凍結防止剤を含む第1の溶液中で第1の温度まで低下させ、その後、凍結防止剤を含有する第2の溶液中で、第1の溶液のガラス転移温度と-20℃の間の温度でさらに第2の温度に低下させ、このプロセスは、所望の温度が達成されるまで、第3、第4、第5、第6、第7などの溶液で繰り返されてもよい。
【0064】
実施形態では、第1の溶液のガラス転移温度(例えば、凍結保護製剤)は、任意の所望のレベル、例えば、約-100℃~約-140℃、例えば約-110℃~約-130℃、または-115℃~約-130℃の範囲内などに設定することができる。実施形態では、約-120℃~約20℃のようなガラス転移温度と約-20℃との間の温度、例えば、約-110℃から約-30℃の間、または約-90℃から約60℃の間で、組織を冷却し、続いて保存することができる。
【0065】
初期溶液に浸した後、保存するサンプル(細胞材料または組織など)を、凍結防止剤を含む溶液に浸してもよい。最終的な凍結防止剤濃度は、保存されるサンプル(細胞材料または組織など)を第1の凍結防止剤濃度を含有する第1の溶液に浸漬し、次いで、組織を第2の凍結防止剤濃度(第1の凍結防止剤濃度より高い)を含有する第2の溶液に浸漬し得る段階的冷却プロセスで達成することができ、所望の濃度が達成されるまでこのプロセスを第3、第4、第5、第6、第7などの溶液で繰り返してもよい。凍結防止剤溶液は、凍結防止剤の任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、氷誘導損傷が起こらないように、冷却中の氷の成長を制限する任意の適切な温度で、最終の所望の凍結防止剤濃度を達成することができ、例えば、最終的な所望の凍結防止剤濃度は、0℃~約-30℃の範囲の温度、例えば、約-5℃~約-20℃、または約-7℃~約-15℃、または-8℃~約-12℃、または約-10℃の温度などで達成することができる。
【0066】
実施形態では、保存されるサンプル(細胞材料または組織など)は、保存プロトコル(例えば、冷却プロトコル、ストレージ、および加温プロトコル)の間、氷のない状態および/または氷による損傷のない状態のままであり得る。例えば、冷却プロセスの完了後、保存されるサンプル(細胞材料または組織など)は、少なくとも3日の期間、または少なくとも5日の期間、または少なくとも7日の期間、または少なくとも8日の期間のような長期間の保存工程/段階の間、氷がない状態および/または氷による損傷がない状態のままであり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、冷却プロセスの開始時に、保存されるべきサンプル(細胞材料または組織など)は、保存プロトコル全体の間(すなわち、冷却プロトコル、ストレージ、および加温プロトコルの間)、氷のない状態および/または氷による損傷のない状態のままであり得、保存プロトコル全体(例えば、冷却プロトコル、ストレージ工程/段階、および加温プロトコル)が少なくとも3日から最大約3ヶ月の範囲の期間、または少なくとも5日から約2ヶ月までの範囲内の期間、または少なくとも7日から約1ヶ月までの範囲内の期間、または少なくとも8日から約21日までの範囲内の期間、または少なくとも8日から約14日までの範囲内の期間を有する。さらに、実施形態では、そのような保存プロトコルの間、保存されるべきサンプル(細胞材料または組織など)は、保存プロトコルの期間中に最小限の細胞毒性を経験するであろう。
【0068】
加温プロトコルは、2段階加温手順(Campbell et al., Two stage method for thawing cryopreserved cells;例えば、米国特許第6,596,531号を参照のこと)を含み得、その開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。二段階加温プロトコルでは、凍結保存細胞材料(凍結保存温度で凍結保存されている)を貯蔵冷凍庫から取り出すことができる。凍結保存細胞材料は、二段階プロトコルの第一段階において、第1の環境で最初にゆっくり温められる。環境は特別な処理を受ける必要も、特別なメイクアップをする必要もなく、いかなる環境を使用してもよい。環境は気体雰囲気、例えば空気であり得る。第一段階のゆっくりとした加温を達成するために、環境は凍結保存温度よりも高い第1の加温温度であり得る。第1の加温温度は凍結温度未満であり得る。例えば、-30℃または、約-15℃~約-30℃、約-20℃~約-25℃、または約-20℃~約-30℃のような温度を使用することができる。第一段階において氷点下の温度まで温めることの利点は、より高温での凍結保護製剤の潜在的な細胞毒性効果が最小にされることである。
【0069】
二段階加温手順の第2の工程は、第1の加温工程で使用される加温温度よりも高い第2の加温温度で第2の環境において細胞材料を急速に再加温することを含む。第2の加温温度は32℃以上、約32℃~約50℃、約35℃~約45℃、約40℃~約50℃、約45℃~約50℃、約32℃~約40℃、約35℃~約40℃、または約37℃であってもよい。再び、気体(空気)、液体、または流動床などの任意の適切な環境を第2の環境として使用することができる。例えば、温かい温度の水またはジメチルスルホキシド浴を使用してこの急速な再加温を達成することができる。この工程の間、凍結防止剤の希釈は、やはり加温工程に寄与するであろう、温かい希釈剤溶液を用いて開始することができる。
【0070】
いくつかの実施形態において、サンプルを温めるために使用され得る従来の加熱方法は、例えば、対流およびマイクロ波加熱を含む。本開示の方法論に先立って、外側境界から加熱する対流加熱を含む従来の方法論は、小さいガラス化サンプルには有効であるが、細胞毒性および氷形成のために大きいサンプル(例えば、5mLより大きい体積を有する)には無効である。いくつかの実施形態では、分散型生体適合性磁性ナノ粒子(mNP)と組み合わせたときに、低高周波数および誘導加熱を使用して加熱することができる。例えば、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2016/0015025号を参照されたい。
【0071】
実施形態では、サンプルの細胞の大部分またはすべてが最小限の細胞毒性にさらされるため、保存されるサンプルの大部分またはすべての細胞(例えば、組織または細胞材料)は保存プロトコル後も生存可能なままであり得る。言い換えれば、本開示の方法は、組織(および溶液)の温度が37℃に近づくにつれて起こる凍結防止剤溶液の細胞毒性の増加に対して保存されるべきサンプルの曝露を回避することによって、いくつかの従来の凍結防止剤溶液の細胞毒性を回避する。実施形態では、本開示の方法は、(例えば、重度の浸透圧ストレスおよび/または化学的細胞毒性などの極端な条件にさらされることによって)保存されるべき組織の細胞の大部分または全部を死滅させ得る(例えば、37℃に近い温度で凍結防止剤溶液の細胞毒性レベルが上昇するため)任意の条件および/または凍結防止剤に保存されるべきサンプルをさらすことを回避する。しかしながら、細胞生性が望まれない実施形態では、細胞材料を、本質的に生細胞を含まないようにするために化学的毒性または重度の浸透圧ストレスを用いることができることに留意すべきである。
【0072】
実施形態では、本開示の方法によって保存された凍結保存細胞材料は、例えば研究または治療用途を含む任意の適切な用途に使用され得る。例えば、治療的使用に関して、凍結保存細胞材料は、大動脈心疾患、変性関節疾患、変性骨疾患、結腸または腸の疾患、変性性骨髄症、慢性腎不全の疾患、心臓病、椎間板疾患、角膜疾患、脊髄外傷、および指、四肢、顔などの外傷により失われたパーツの置換などの疾患または状態を治療または予防するためにヒトまたは動物の患者に投与されてもよい。
【0073】
凍結保存細胞材料は、任意の適切な方法で患者に投与することができる。 いくつかの実施形態において、凍結保存細胞材料は、患者に局所的に送達され得る(例えば、火傷、創傷、または皮膚疾患の治療において)。いくつかの実施形態では、凍結保存細胞材料は、患者内の局所移植部位に送達されてもよい。これらのいずれかまたはこれらの投与様式の任意の組み合わせを患者の治療に使用することができる。
【0074】
第1の態様では、本開示は、少なくとも1つの糖を含む凍結保護製剤/溶液/培地に細胞材料をさらし、前記細胞材料に対して氷による損傷が生じない保存プロトコルに前記細胞材料を供し、凍結保存細胞材料を得ることを含む、生きている大容量の細胞材料を保存する方法に関する。第2の態様では、第1の態様の方法が、前記細胞材料が4mLを超える体積を有する方法であることとしてもよい。第3の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料が10mLを超える体積を有する方法であることとしてもよい。第4の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料を前記保存プロトコルに供すると、前記細胞材料が少なくとも7日間無氷である方法であることとしてもよい。第5の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記保存プロトコルが、保存プロトコル中に氷による損傷が生じないように、冷却および加温中の氷の成長を制限するガラス化戦略を含む方法であることとしてもよい。第6の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記少なくとも1つの糖が、二糖類である方法であることとしてもよい。第7の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記少なくとも1つの糖が、トレハロースおよびスクロースからなる群から選択される方法であることとしてもよい。第8の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、凍結保護製剤/溶液/培地への段階的な凍結防止剤添加は、凍結防止剤濃度および/または細胞材料への氷による損傷を回避するのに有効な少なくとも1つの糖濃度を有する最終凍結保護製剤/溶液/培地を達成することを含む、細胞材料を保存プロトコルに供する方法であることとしてもよく、例えば、前記最終凍結保護製剤/溶液/媒体を達成する最後の凍結防止剤添加工程が、凍結保護製剤/溶液/媒体が約-10℃の温度に維持されている間に行われる。第9の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、凍結防止剤の漸増濃度および/または少なくとも1つの糖の漸増濃度を有する一連の溶液に細胞材料を浸漬して、凍結防止剤濃度および/または細胞材料に対する氷による損傷を回避するのに有効な少なくとも1つの糖濃度を有する最終溶液に浸漬することを含む、細胞材料を保存プロトコルに供する方法であることとしてもよい。第10の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料が、凍結保護製剤中でインキュベートされ、該凍結保護製剤が、0.1~1Mの前記少なくとも1つの糖を含む方法であることとしてもよい。第11の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記保存プロトコルは、少なくとも1つの糖を含む凍結保護製剤中で細胞材料を冷却し、さらなる凍結防止剤が、冷却前または冷却中に凍結保護製剤に添加され、前記さらなる凍結防止剤は糖とは異なり、前記さらなる凍結防止剤が、アセトアミド、アガロース、アルギン酸塩、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、凍結防止タンパク質、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エリトリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセリン、グリセロリン酸塩、グリセリルモノアセテート、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルデンプン、氷再結晶抑制剤、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロパンジオール、ピリジンN-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリンおよびキシロースからなる群から選択され、前記凍結保護製剤は、必要に応じて、前記さらなる凍結防止剤を0.1~13.0Mの濃度で含有し得ることをさらに含む方法であることとしてもよい。第12の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料が天然または人工の組織または臓器である方法であることとしてもよい。第13の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料が哺乳動物の臓器および哺乳動物の組織からなる群から選択される方法であることとしてもよい。第14の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記細胞材料がヒト器およびヒト組織からなる群から選択される方法であることとしてもよい。第15の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、保存プロトコルの完了後の前記細胞材料の細胞生存率(%)が少なくとも60%である方法であることとしてもよい。第16の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記培地がDMSOを含まない方法であることとしてもよい。第17の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記培地がホルムアミドを含まない方法であることとしてもよい。第18の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記培地がプロピレングリコールを含まない方法であることとしてもよい。第19の態様では、上記の態様のいずれかの方法が、前記培地がDMSO、ホルムアミドおよび/またはプロピレングリコールを含まない方法であることとしてもよい。
【0075】
さらなる態様では、本開示は、また、保存プロトコル中に、少なくとも1つの糖と任意にさらなる凍結防止剤とを含む凍結保護製剤に、生きている大容量の細胞材料をさらすことにより得られる凍結保存細胞材料に関し、前記保存プロトコル後の前記細胞材料の細胞生存率(%)は少なくとも50%であり、該細胞材料は4mLを超える体積を有し、このような凍結保存細胞材料は、例えば、上記態様のいずれかの方法により得ることができ、そして患者に投与することができる。
【0076】
さらなる態様では、本開示はまた、生存可能な凍結保存細胞材料の生産収率を増加させるための方法に関し、凍結保存製剤を形成するために、所定量の時間、大容量の細胞材料を、少なくとも1つの糖を含む凍結防止剤にさらし、凍結保存製剤を、約-80℃以下の凍結保存温度で凍結保存することを含む保存プロトコルに供し、保存プロトコルの完了後、凍結保存細胞材料を回収し、回収された前記凍結保存細胞材料の細胞生存率(%)は少なくとも60%であり、細胞材料は4mLを超える体積を有することを含む。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、前記細胞材料が、臓器および組織からなる群より選択される方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、前記細胞材料が、哺乳動物の臓器および哺乳動物の組織からなる群より選択される方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、ヒト臓器およびヒト組織からなる群から選択される方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、回収された前記凍結保存細胞材料の細胞生存率(%)が少なくとも80%である方法であることとしてもよい。
【0077】
さらなる態様では、本開示はまた、細胞の生存性が所望されない、生きている大容量の細胞材料を保存するための方法に関し、前記細胞材料を少なくとも1つの糖を含む凍結保護製剤/溶液/培地にさらし、液体窒素の温度からコラーゲンの変性温度範囲を下回る生理学的温度までの範囲の温度で前記細胞材料を保存することを含む保存プロトコルに、前記細胞材料を供し、凍結保存細胞材料を得る。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、前記細胞材料が、心臓弁、皮膚、腱および末梢神経移植片からなる群から選択される方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、前記細胞材料が哺乳動物から得られる方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記の態様のいずれかの方法は、前記細胞材料がヒトから得られる方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、前記細胞材料が、約-190℃から約60℃の範囲の温度で貯蔵される方法であることとしてもよい。さらなる態様では、上記態様のいずれかの方法は、回収された前記凍結保存細胞材料の細胞生存率(%)が0%であることとしてもよい。
【0078】
上記は、以下の実施例を参照することによってさらに説明されるが、これらは例示の目的で提示されており、本開示の範囲を限定することを意図しない。
実施例
【0079】
実施例1
以下の無氷凍結保存製剤の補充実験では、二糖類(トレハロースとスクロース)を
図1に示す量で様々なガラス化製剤(VS49、DP6、およびVS55)に添加し、様々な組織における氷形成の抑制における有効性にアクセスするための溶液(トレハロースおよび/またはスクロースなし)と比較する。
【0080】
特に、
図1は、ガラス化製剤のトレハロースおよびスクロース補給によって誘導される組織生存率の有意な増加があることを示している。対照の%VS55で示されるデータは、無添加対照と比較したANOVAまたは#T検定により、4℃で添加された最終凍結保護剤濃度、N=6、
*p<0.05で行われた結果である。
【0081】
この実験では、VS49、DP6およびVS55製剤への600mMトレハロースまたはスクロースの添加を比較した。組織を4mLの溶液中でガラス化した。トレハロース補給は、VS49およびVS55において弁尖生存率(leaflet viability)を増加させた。スクロース補給は、3つ全ての製剤において弁尖生存率を増加させた。これらの差は有意に異なり、ANOVAまたはT検定によりp<0.05であった。DP6は全ての治療群において一貫して最良の筋肉保存を示したが、この実験では統計的有意性を達成しなかった。しかしながら、この結果は、心筋が他の種類の組織(弁尖および動脈)よりも氷形成に対してより寛容であり、そしてホルムアミドがいくらかの細胞毒性を引き起こしているかもしれないことを示唆した。これにより、後の実験で糖を用いてDP6をより徹底的にテストする計画が生まれた。反復実験を、スクロース補充VS55を使用して実施し、そしてここに示される補充VS55についての結果と同様の結果を得た。
【0082】
方法
心臓弁と血管の調達:他のIACUCが承認したリサーチ研究で使用された動物または食品加工工場の死後のものから、過剰の心臓弁または血管を得た。組織を解剖し、すすぎ、そして抗生物質を含有する氷冷組織培養培地と共に一晩滅菌カップに入れ、そして次にインビトロ試験に割り当てた。
図1の心臓弁組織はそれぞれ、肺動脈、弁尖および心筋からなる組織片で構成されていた。それらを分離し、そして下記に記載される代謝活性を評価するアッセイを用いて生存率について個々にアッセイした。
【0083】
ガラス化方法:血管ガラス化、3M DMSO、3Mプロピレングリコールで構成されるVS55からVS49またはDP6への希釈について前述した方法を用いて、4℃でユーロコリンズ溶液中の3.10M DMSO、3.10Mホルムアミド、および2.21Mプロピレングリコールで構成されるVS55を組織に徐々に浸潤させた。あらかじめ冷却した希薄ガラス化溶液(4℃)を氷上で濃度を上げながら15分間で5回のステップで加える。mNPを含む最後の凍結防止剤濃度を、最後の6回目の添加工程において、予め冷却された-10℃または4℃の全強度ガラス化溶液のいずれかに添加し、-10℃の浴中で15分間または4℃でプラスチックチューブ中の氷上に保った。次にサンプルを2段階で冷却した。まず-135℃の予冷した2-メチルブタン浴に入れて-100℃に急冷した後、-135℃以下にゆっくり冷却するために気相窒素ストレージに移した。最後に、サンプルを試験前に少なくとも24時間気相窒素中で、-130℃以下で保存した。
【0084】
加温:加温は、対流による加温またはナノ加温のいずれかによって行われた。対流による加温は、ゆっくりと-100℃まで温めた後、できるだけ速やかに融解するまで温めるという2段階のプロセスである。ゆっくりとした加温速度は、サンプルを-135℃の冷凍庫の一番上に持っていくことによって作り出され、対照加温速度は、プラスチック容器を室温で30%DMSO/H2Oの混合物に入れることによって生成される。再加温後、ガラス化溶液を氷上で段階的に除去して組織を冷たく保ちそして残留凍結防止剤の存在による細胞毒性を最小にした。
【0085】
生存率評価:代謝活性-alamarBlue(商標)アッセイを使用して、コントロールおよび処理した組織サンプルの代謝活性を評価する。組織を2mlのDMEM+10%FBS培地中で1時間インキュベートして平衡化し、続いて20%AlamarBlueを標準細胞培養条件下で3時間添加した。AlamarBlueは、代謝活性の検出に基づいた無毒の蛍光指示薬である。544nmの励起波長および590nmの発光波長で蛍光を測定した。この評価は、細胞の生存率を実証するために再加温後(0日目)に実施した。対照および実験用組織を各実験の終わりに乾燥させ、秤量し、そして結果を相対蛍光単位(RFU)/mg組織乾燥重量として表した。
【0086】
これらの実験の結果は、0.6Mのトレハロースまたはスクロースが、DP6およびVS49配合物の両方において目に見える氷形成を防止し、そしてこれらの溶液(DP6、VS49およびVS55)において、弁尖生存率とともにガラス化後の生存率を2~3倍に増加させることを示す。特に、VS49またはDP6配合物は、米国特許出願公開第2016/0015025号に記載されているように、従来の対流加温を用いて氷形成を制御するのに効果的ではない。しかしながら、ナノ加温を伴うこれらの実験では、冷却中および再加温中にトレハロースまたはスクロースのいずれかの存在下で氷形成は観察されなかった。
【0087】
実施例2
(凍結保存中の事象を視覚化するために使用される)クライオマクロスコープと呼ばれる装置を使用して、血管を有する0.5MスクロースDP6製剤を用いてさらなる一連の実験を行った。結果を
図2に示す(フレッシュおよびガラス化ウサギ頸動脈の収縮反応、(上)ノルエピネフリンおよびフェニレフリン(下)用量反応曲線)。
【0088】
上記の研究は、ナノウォーミングなしで対流加温を用いて4mLのサンプルに対して行われた。前に示したように調製、ガラス化および再加温を行った。試験のために血管を2mmのリングに切断した。0.5Mスクロースを添加したDP6を用いて保存した動脈サンプルは、実験の第一セットにおいて上記の方法を用いてalamarBlueによって90%を超える生存率をもたらした(データは示さず)。
図2に見られるように、サンプルを平滑筋機能についてもチェックし、そして2つの収縮薬に対する優れた応答が観察された。
【0089】
方法
血管生理学:ラドノティ(Radnoti)臓器入浴システムにおけるウサギ大腿動脈輪の機能を収縮薬のパネルを用いて記録するために、血管生理学研究用に新鮮な無氷凍結保存血管の2mmリングを準備した。等尺性収縮張力は、以前に採用された方法を使用して各薬物の濃度を増加させて添加した後に測定した。生理学的結果は、グラム張力/mg組織乾燥重量として表した。
【0090】
実施例3
ブタ大腿動脈凍結保存は、4および10mLの細胞材料体積で、VS55±0.6Mスクロース中で実施した。有意な保存は4mLですべての製剤において実証されたが、10mLではスクロースを含まないVS55は低い生存率を実証した。対照的に、スクロース補充製剤は、採用されたalamarBlue(
図3;組織の輪がalamarBlue代謝アッセイを用いて評価された、VS55±0.6Mスクロースの4および10mLサンプルのブタ大腿動脈比較)および生理学アッセイ(
図4;前収縮後にニトロプルシドナトリウムによって誘発されたブタ平滑筋弛緩であり、VS55単独は4mLのサンプルではうまくいくが10mLのサンプルではうまくいかず、スクロース補給は10mLのサンプルで機能性(弛緩)を維持する)の両方による生存率の保存を実証した。これらの結果は、二糖類の補充が、補充されていない(すなわち、二糖類が添加されていない)VS55溶液が(組織生存率の喪失を伴う氷形成のため)失敗する大容量(例えば10mL容量)での組織生存をもたらすことを示す。2つの収縮薬についても同様の結果が得られた。
【0091】
ここで使用した方法は、対流加温を使用した以前の例と同じである。
【0092】
実施例4
対流対ナノ加温の比較のために、ウサギ胸部大動脈サンプルであって、ナノ粒子有りまたは無しのもの、0.6Mスクロースを有りまたは無しのものを、30mL容量のVS55でガラス化した。結果を
図5に示す(対流(真ん中の棒)またはナノ加温化(最も右側の棒)のいずれかを用いたスクロース補給による改善された結果を示す30mLのウサギ胸部大動脈の結果)。
【0093】
方法は、凍結防止剤の添加および冷却に関する先の実施例について記載した通りであった。しかし、この実験では対流加温とナノ加温を比較した。ナノ加温は、-130℃で少なくとも24時間後に行われた。サンプルを7.69mg/mlのFeナノ粒子(EMG-308、Ferrotec)でガラス化し、サンプルを再加温のために誘導加熱器のコイルに挿入した。より具体的には、リモート作業ヘッド付きの6.0kW端子、150~400kHz、EASYHEAT5060LIソリッドステート誘導電源と、6~7回転のカスタムマルチターンヘリカルコイルを使用して、中心に35kA/mの磁場を作成した。ガラス化溶液中にスクロースが存在する限り、対流加温またはナノ加温(米国特許出願公開第2016/0015025号に記載されているように実施される)のいずれかを用いて(50%未満の生存率)良好な結果が達成された。スクロースを含まないVS55は、再加温過程で観察された氷形成のためにうまく機能しなかった。
【0094】
実施例5
この一連の実験(その結果を
図6Aおよび
図6Bに示す)では、無傷の心臓弁を30mLの凍結防止剤容量で保存し、対流またはナノ加温法のいずれかによって再加温した心臓弁組織の生存率を比較する。
【0095】
各弁からの各組織タイプの合計9つのサンプルについて、3つの組織サンプルを各弁尖ならびに関連する肺動脈および心筋から採取した。無氷ガラス化および再加温手順は、最後の工程でスクロースまたはトレハロースと共にDP6を段階的に添加することを除いて、前述のように行った。場合によっては、DP6+糖工程の後に-10℃でVS55+糖に浸漬し、続いて直ちにガラス化する。この実験では、やはり
図1で観察されるように、DP6で起こる凍結にもかかわらず、DP6単独が良好な心筋細胞生存率をもたらすが、この実験では2つの凍結保存群がスクロース添加後に対照値(
図6B下)を達成したことに留意されたい。
【0096】
図6Aおよび
図6Bに示すデータに関して、個々のブタ心臓弁にDP6を装填し、次いで、DP6単独、DP6を0.6Mトレハロース、0.6Mスクロース、または0.3Mスクロースと0.3Mトレハロースの混合物とのいずれかで凍結保存するか、または最後の瞬間にDP6から糖を有するVS55に同じ糖を有するVS55に移した。組織および溶液の総量は少なくとも30mLであった。上から下への結果は、弁尖、次に導管、そして最後に心筋のものである。
図6Aの結果は対流加温に対するものであり、
図6Bの結果はナノ加温後のものである(n=9)。結果は、未処理の対照心臓弁組織のパーセントにおける平均±1標準誤差として表される。
【0097】
これらの結果は、0.6Mのスクロースを含むDP6(3.0Mのジメチルスルホキシド+ユーロコリンズ溶液中の3.0M)が、特にナノウォーミング後に心臓弁における3つの組織成分すべての優れた保存をもたらすことを実証する。DP6をロードし、次いでスクロースまたはトレハロースのいずれかを用いてVS55に移行することを含むいくつかの他の処置群もまた、対流加温またはナノ加温後の生存率を改善した。スクロースによる治療群はトレハロースによる治療群よりも優れている傾向があった。
【0098】
上記の結果(
図1~6)は組み合わされて、VS55と共に二糖類、例えばスクロースおよびトレハロースのような糖類の使用が実証され、より希薄な凍結保護製剤(DP6、
図6)は、無氷ガラス化の予想外の改善された結果をもたらす。これらの糖は、対流と磁性ナノ粒子の誘導加熱による急速加温の両方の間に役立つが、高スクロースとトレハロース製剤は急速加温を必要としないようである(
図7)。
【0099】
二糖類、例えばスクロースおよびトレハロースのような糖類の使用は、氷形成のリスクの低減および再加温後の生存率の増大と共に、大容量サンプルの保存およびゆっくりとした加温を可能にする。
【0100】
ある範囲のトレハロースおよびスクロース濃度でのVS55のストレージは、1週間の間-80℃で氷形成がないことを実証する。この実験では、増加する濃度の糖を含む30mLのVS55のサンプルを50mLのプラスチックチューブに入れ、そして-80℃の機械的貯蔵冷凍庫に7日間貯蔵した。チューブを氷形成について毎日チェックした。チューブは、8日後に氷形成を示さない最高濃度(例えば0.5~0.6Mの範囲内)で糖濃度依存的に氷を示した。1日後、0.4から0.6Mのトレハロースおよび0.5から0.6Mのスクロースが氷を含まなかったが、7日後に0.5から0.6Mのトレハロースおよび0.6Mのスクロース基が氷を含まなかった。低濃度のこれらの糖は、依然として無氷ガラス化に使用され得るが、氷形成のリスクがより大きくなり、対流加温よりもむしろナノ加温が必要とされ得るので、より急速な冷却および加温が必要とされる。
【0101】
0~0.4Mのスクロースまたは0~0.6Mのトレハロースのいずれかを添加したVS55は、氷(白色)の形成を示した。より高い濃度は氷なしが明らかであった。-80℃で1週間経過した後も、最高濃度の糖にはまだ氷がない。
【0102】
このような無氷ガラス化配合物への二糖類、例えばスクロースおよびトレハロースなどの糖の組み込みは、氷形成および細胞/組織生存率の損失なしに比較的遅い冷却および加温速度(数時間または数日程度)を使用することを可能にする。さらに、対流加温法とナノ加温法の両方を本明細書に記載の配合物と共に本開示の方法に使用することができる。急速な加温速度では、凍結防止剤曝露によって誘発される細胞毒性の機会が少ないため、ナノ加温法などの急速加温方法が依然として望ましい場合がある。これらの観察結果はまた、凍結防止剤の細胞毒性の危険性がさらに低い、糖を含む他の凍結保護製剤を開発することができることを示唆している。
【0103】
本開示を通して引用された全ての文献および特許参考文献は、その全体において参照により援用される。前述の説明は、特定の手段、材料、および実施形態を参照して本明細書で説明されてきたが、本明細書で開示された詳細に限定されることを意図するものではなく、むしろ、それは、添付の特許請求の範囲の範囲内にあるものなど、すべての機能的に同等の構造、方法および使用に及ぶ。さらに、ほんのいくつかの例示的な実施形態のみが上記に詳細に説明されているが、当業者は、例示的な実施形態において、「実用的で機能的な組織バンキング用の大容量組織サンプルの無氷保存)」の開示から実質的に逸脱することなく、多くの修正が可能であることを容易に理解するであろう。したがって、そのようなすべての修正は、添付の特許請求の範囲に定義されている本開示の範囲内に含まれることが意図されている。請求項において、ミーンズプラスファンクション条項は、列挙された機能を実行するものとして本明細書に記載された構造および構造上の均等物だけでなく均等な構造も網羅することを意図している。したがって、釘とねじは木の部品を一緒に固定するために円筒形の面を使用するという点で構造的に同等ではないかもしれないが、ねじは螺旋形の面を使用し、木製の部品を固定する環境では、釘とネジが同等の構造になり得る。特許請求の範囲が関連する機能と共に「手段」という言葉を明示的に使用しているものを除いて、本明細書の特許請求の範囲のいずれの制限についても35U.S.C§112(f)を呼び出さないことが出願人の明白な意図である。