(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】電磁加熱用の調理器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
A47J27/00 107
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020051874
(22)【出願日】2020-03-23
(62)【分割の表示】P 2018015561の分割
【原出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-03-23
(31)【優先権主張番号】201710266480.X
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710267188.X
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515117198
【氏名又は名称】佛山市▲順▼▲徳▼区美的▲電▼▲熱▼▲電▼器制造有限公司
【氏名又は名称原語表記】FOSHAN SHUNDE MIDEA ELECTRICAL HEATING APPLIANCES MANUFACTURING CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】San Le Road #19,Beijiao,Shunde Foshan,Guangdong 528311 China
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】李康
(72)【発明者】
【氏名】曹達華
(72)【発明者】
【氏名】楊玲
(72)【発明者】
【氏名】黄宇華
(72)【発明者】
【氏名】馬志海
(72)【発明者】
【氏名】雷大法
(72)【発明者】
【氏名】肖北陽
(72)【発明者】
【氏名】王帥
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-079064(JP,A)
【文献】特開2016-000849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁加熱用の調理器具を製造する方法であって、前記方法は、
(1)調理器具基体の表面に対して脱油及び脱脂処理を行うステップと、
(2)磁性粉末を前記調理器具基体の少なくとも一部の外表面に
コールドスプレー
法にて透磁層を形成し、前記透磁層の形成される厚さを
0.3~0.6ミリメートルに制御することにより、前記調理器具基体と前記透磁層とが接触する界面において、前記透磁層の材料が第1の連続した鋸歯状構造で前記調理器具基体に嵌め込まれ、且つ前記透磁層の表面に第2の連続した鋸歯状構造を有するようにするステップと、
(3)前記透磁層が形成された前記調理器具基体に対して脱油及び脱脂処理を行った後
、前記透磁層に錆止め層を形成するステップと、を含み、
前記第1の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さは、前記第2の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さより大きく、
前記第1の連続した鋸歯状構造および前記第2の連続した鋸歯状構造は、複数の歯先と複数の歯底とを有
し、
前記第2の連続した鋸歯状構造において、歯先と歯底との最大高度差(△H2)は、6~12マイクロメートルである、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁性粉末の粒径が10~50マイクロメートルであり、
前記コールドスプレー法の実施条件は、噴射圧力が1~5MPaであり、噴射距離が10~50ミリメートルであり、気体の加熱温度が200~1000℃である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器具の分野に関し、具体的には、電磁加熱用の調理器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金や304ステンレス鋼などの材質は、家電製品に非常に広く使われているが、これらの非磁性の材質又は透磁率が低い材質の鍋器具は電磁加熱機能が理想的ではない。IH内鍋の従来のプロセスは、主に爆発溶接又は圧力溶接の方式を採用してアルミニウム合金の表面に430ステンレス鋼の薄板を鏤めて、鍋器具の外表面の磁性の430ステンレス鋼が高周波交番磁界の作用により形成される渦電流効果にて誘導加熱する。しかし、このプロセスの過程は、比較的複雑で、コストが比較的高い。また、ホットスプレー、例えばアーク又はプラズマスプレーなどの方式により、鍋の底部に透磁性金属層を製造して、これらの鍋器具の電磁加熱機能を実現することができる。しかし、ホットスプレーの温度が高すぎるため、磁性合金材料が酸化されやすく、且つ金属鉄線又は鉄粉が溶融又は半溶融の状態で、比較的低い気圧において、鍋器具の基体表面に衝突する速度が比較的低く、形成される磁性層は、主にサンドブラスト処理する必要のあるアルミニウム合金基体の表面を覆い(一般的に、サンドブラストされたアルミニウム合金の表面粗さは3~8μmである)、鉄が基体に嵌め込まれにくいため、ホットスプレーされた鉄層とアルミニウム合金の鍋器具の基体との結合力が比較的悪い。また、ホットスプレーされた透磁層が一定の厚さ(例えば、0.3~0.6mm)まで増えた場合、その表面粗さが明らかに増えて(例えば、20~60マイクロメートル)、その表面にスプレーされた錆止め層の結合力が明らかに低くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の電磁加熱用の調理器具における透磁層と調理器具基体との間、及び錆止め層と透磁層との間の結合力が比較的悪いという欠陥を克服するために、電磁加熱用の調理器具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を実現するために、本発明の一側面は、電磁加熱用の調理器具を提供する。該調理器具は、調理器具基体と、前記調理器具基体の少なくとも一部の外表面に形成される透磁層と、前記透磁層の少なくとも一部の表面に形成される錆止め層とを含み、前記調理器具基体と前記透磁層とが接触する界面において、前記透磁層の材料が第1の連続した鋸歯状構造で前記調理器具基体に嵌め込まれ、前記透磁層と前記錆止め層とが接触する界面において、前記錆止め層の材料が第2の連続した鋸歯状構造で前記透磁層に嵌め込まれる。前記第1の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さは、第2の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さより大きい。前記第1の連続した鋸歯状構造および前記第2の連続した鋸歯状構造は、複数の歯先と複数の歯底とを有する。
【0005】
好ましくは、前記透磁層は、コールドスプレー法により形成される。
【0006】
好ましくは、前記第1の連続した鋸歯状構造における歯先と歯底との最大高度差は、前記第2の連続した鋸歯状構造における歯先と歯底との最大高度差より大きい。
【0007】
好ましくは、前記第1の連続した鋸歯状構造において、歯先と歯底との最大高度差が10~80マイクロメートルであり、歯幅が10~80マイクロメートルである。
【0008】
好ましくは、前記透磁層の厚さが0.1~0.6ミリメートルである。
【0009】
好ましくは、前記透磁層は、磁性の鉄合金によって形成され、前記磁性の鉄合金は、Fe-C合金、Fe-Si合金及びFe-Mn合金のうち少なくとも一つであり、且つ前記磁性の鉄合金におけるFeの含有量が95重量%以上である。
【0010】
好ましくは、前記調理器具基体の材質が非磁性の材料又は透磁率が低い材料であり、好ましくは、アルミニウム合金又は304ステンレス鋼である。
【0011】
本発明のもう一つの側面は、上記電磁加熱用の調理器具を製造する方法を提供する。該方法は、
(1)調理器具基体の表面に対して脱油及び脱脂処理を行うステップと、
(2)磁性粉末を前記調理器具基体の少なくとも一部の外表面にコールドスプレー法にて透磁層を形成し、前記透磁層の形成される厚さを0.3~0.6ミリメートルに制御することにより、前記調理器具基体と前記透磁層とが接触する界面において、前記透磁層の材料が第1の連続した鋸歯状構造で前記調理器具基体に嵌め込まれ、且つ前記透磁層の表面に第2の連続した鋸歯状構造を有するようにするステップと、
(3)前記透磁層が形成された前記調理器具基体に対して脱油及び脱脂処理を行った後、前記透磁層に錆止め層を形成するステップと、を含み、
前記第1の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さは、前記第2の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さより大きく、
前記第1の連続した鋸歯状構造および前記第2の連続した鋸歯状構造は、複数の歯先と複数の歯底とを有し、
前記第2の連続した鋸歯状構造において、歯先と歯底との最大高度差(△H2)は、6~12マイクロメートルである。
【0013】
好ましくは、前記磁性粉末の粒径が10~50マイクロメートルである。
【0014】
好ましくは、前記コールドスプレー法の実施条件は、噴射圧力が1~5MPaであり、噴射距離が10~50ミリメートルであり、気体の加熱温度が200~1000℃である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により提供される前記電磁加熱用の調理器具によれば、電磁加熱用の調理器具における透磁層と調理器具基体との間、及び錆止め層と透磁層との間の結合力を高めることができる。
【0016】
また、本発明により提供される前記電磁加熱用の調理器具の製造方法によれば、透磁層と調理器具基体との間、及び錆止め層と透磁層との間の結合力が高い電磁加熱用の調理器具を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る調理器具の部分構造概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す透磁層と調理器具基体との間の接触界面の部分拡大概略図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す錆止め層と透磁層との間の接触界面の部分拡大概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、相反する説明をしない限り、用いられる方位の用語、例えば「上、下」は、通常図面に示す上、下を指し、「内、外」は、各部品自身の輪郭に対する内、外を指す。
【0019】
図1~4に示すように、本発明に係る電磁加熱用の調理器具は、調理器具基体1と、前記調理器具基体1の少なくとも一部の外表面に形成される透磁層2と、前記透磁層2の少なくとも一部の表面に形成される錆止め層3と、を含み、前記調理器具基体1と前記透磁層2とが接触する界面において、前記透磁層2の材料が第1の連続した鋸歯状構造で前記調理器具基体1に嵌め込まれ、前記透磁層2と前記錆止め層3とが接触する界面において、前記錆止め層3の材料が第2の連続した鋸歯状構造で前記透磁層2に嵌め込まれる。
【0020】
「連続した鋸歯状構造」という用語において、「連続する」とは、鋸歯状構造の各鋸歯が連続して配列され、隣接する二つの鋸歯の間には、ほとんどプラットフォーム状(即ち層状)が存在しないことを指す。ここでの鋸歯状は、厳格な幾何学的な意味での鋸歯状に限定されるわけではなく、鋸歯状に類似する各種の不規則な形状の組み合わせであってもよい。
【0021】
好ましくは、前記第1の連続した鋸歯状構造における歯先と歯底との最大高度差は、前記第2の連続した鋸歯状構造における歯先と歯底との最大高度差より大きく、つまり、前記第1の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さは、前記第2の連続した鋸歯状構造によって形成される粗さより大きい。
【0022】
前記第1の連続した鋸歯状構造において、歯先と歯底との最大高度差(△H1)は、10~80マイクロメートルが好ましく、つまり、透磁層2の材料が調理器具基体1に嵌め込まれる深さは、10~80マイクロメートルが好ましく、具体的には、例えば、10マイクロメートル、15マイクロメートル、20マイクロメートル、25マイクロメートル、30マイクロメートル、35マイクロメートル、40マイクロメートル、45マイクロメートル、50マイクロメートル、55マイクロメートル、60マイクロメートル、65マイクロメートル、70マイクロメートル、75マイクロメートル、80マイクロメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。さらに好ましくは、前記鋸歯状構造の歯先と歯底との最大高度差が15~70マイクロメートルであり、より好ましくは、20~70マイクロメートルであり、さらにより好ましくは、20~60マイクロメートルである。
【0023】
前記第1の連続した鋸歯状構造において、前記鋸歯状構造の歯幅(△L1)は、10~80マイクロメートルが好ましく、具体的には、例えば、10マイクロメートル、15マイクロメートル、20マイクロメートル、25マイクロメートル、30マイクロメートル、35マイクロメートル、40マイクロメートル、45マイクロメートル、50マイクロメートル、55マイクロメートル、60マイクロメートル、65マイクロメートル、70マイクロメートル、75マイクロメートル、80マイクロメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。さらに好ましくは、前記鋸歯状構造の歯幅が20~60マイクロメートルであり、より好ましくは、20~50マイクロメートルである。前記鋸歯状構造の歯幅とは、隣接する二つの歯底の間の水平距離を指す。
【0024】
前記第2の連続した鋸歯状構造において、歯先と歯底との最大高度差(△H2)は、5~15マイクロメートルが好ましく、つまり、錆止め層3の材料が透磁層2に嵌め込まれる深さは、5~15マイクロメートルが好ましく、具体的には、例えば、5マイクロメートル、6マイクロメートル、7マイクロメートル、8マイクロメートル、9マイクロメートル、10マイクロメートル、11マイクロメートル、12マイクロメートル、13マイクロメートル、14マイクロメートル、15マイクロメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。さらに好ましくは、前記鋸歯状構造の歯先と歯底との最大高度差が6~12マイクロメートルであり、より好ましくは、8~10マイクロメートルである。
【0025】
前記第2の連続した鋸歯状構造において、前記鋸歯状構造の歯幅(△L2)は、10~30マイクロメートルが好ましく、具体的には、例えば、10マイクロメートル、12マイクロメートル、14マイクロメートル、16マイクロメートル、18マイクロメートル、20マイクロメートル、22マイクロメートル、24マイクロメートル、26マイクロメートル、28マイクロメートル、30マイクロメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。さらに好ましくは、前記鋸歯状構造の歯幅が12~25マイクロメートルであり、より好ましくは、15~25マイクロメートルである。前記鋸歯状構造の歯幅とは、隣接する二つの歯底の間の水平距離を指す。
【0026】
本発明において、前記透磁層2の厚さは、0.05~1ミリメートルであってもよく、具体的には、例えば、0.05ミリメートル、0.08ミリメートル、0.1ミリメートル、0.12ミリメートル、0.15ミリメートル、0.18ミリメートル、0.2ミリメートル、0.23ミリメートル、0.25ミリメートル、0.28ミリメートル、0.3ミリメートル、0.31ミリメートル、0.32ミリメートル、0.33ミリメートル、0.34ミリメートル、0.35ミリメートル、0.36ミリメートル、0.37ミリメートル、0.38ミリメートル、0.39ミリメートル、0.4ミリメートル、0.41ミリメートル、0.42ミリメートル、0.43ミリメートル、0.44ミリメートル、0.45ミリメートル、0.46ミリメートル、0.47ミリメートル、0.48ミリメートル、0.49ミリメートル、0.5ミリメートル、0.51ミリメートル、0.52ミリメートル、0.53ミリメートル、0.54ミリメートル、0.55ミリメートル、0.56ミリメートル、0.57ミリメートル、0.58ミリメートル、0.59ミリメートル、0.6ミリメートル、0.65ミリメートル、0.7ミリメートル、0.8ミリメートル、0.9ミリメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。さらに好ましくは、前記透磁層2の厚さが0.1~0.6ミリメートルであり、より好ましくは、0.3~0.6ミリメートルである。
【0027】
本発明において、前記透磁層2の形成位置は、本分野の通常の方式により確定されてもよく、例えば、前記透磁層2は、前記調理器具基体1の底部に形成されるか、又は前記調理器具基体1の底部と底部に隣接する側壁とに形成される。好ましい実施形態において、前記透磁層2は、前記調理器具基体1の底部と底部に隣接する側壁に形成され、且つ底部に形成される透磁層と側壁に形成される透磁層とが連続した構造を構成する。上記の好ましい実施形態において、側壁に形成される透磁層の高さは、前記調理器具基体の全高の5%以上を占め、好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは、15%以上であり、さらにより好ましくは、20%以上であり、最も好ましくは、20~60%である。
【0028】
本発明において、前記透磁層2は、本分野の通常の磁性材料によって形成されてもよい。好ましくは、前記透磁層2は、磁性の鉄合金によって形成される。前記磁性の鉄合金は、Fe-C合金、Fe-Si合金及びFe-Mn合金のうち少なくとも一つであってもよい。前記磁性の鉄合金において、Feの含有量は、95重量%以上であってもよく、好ましくは、95~99.5重量%であり、より好ましくは、96~99重量%であり、さらに好ましくは、96~98.5重量%である。
【0029】
本発明において、前記調理器具基体1の材質は、本分野の通常の選択であってもよく、例えば、本分野の通常の非磁性の材料又は透磁率が低い材料であってもよい。一つの好ましい実施形態において、前記透磁層2に合わせて良い電磁加熱効果を得るために、前記調理器具基体1の材質は、アルミニウム合金又は304ステンレス鋼から選ぶ。
【0030】
本発明において、前記透磁層2と前記調理器具基体1との結合力は、30~50MPaであってもよく、具体的には、例えば、30MPa、31MPa、32MPa、33MPa、34MPa、35MPa、36MPa、37MPa、38MPa、39MPa、40MPa、41MPa、42MPa、43MPa、44MPa、45MPa、46MPa、47MPa、48MPa、49MPa、50MPa、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。好ましくは、前記透磁層2と前記調理器具基体1との結合力が35~50MPaであり、より好ましくは、37~45MPaである。本発明において、透磁層2と調理器具基体1との結合力は、「GB/T 8642-2002 ホットスプレーの引っ張り結合強度の試験」に規定された方法に従って測定する。
【0031】
本発明において、前記錆止め層3は、前記透磁層3の一部を被覆してもよく、前記透磁層2を完全に被覆してもよい。前記錆止め層3の厚さは、0.02~0.08ミリメートルであってもよく、0.03~0.05ミリメートルが好ましい。前記錆止め層3は、本分野の通常の錆止めコーティング材料によって形成される単層又は多層構造であってもよい。前記錆止めコーティング材料は、例えば、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、及びアルミニウム粉又は亜鉛粉を含む樹脂組成物から選ばれる少なくとも一つであってもよく、フッ素樹脂及び/又はアルミニウム粉又は亜鉛粉を含む樹脂組成物が好ましい。
【0032】
本発明において、前記錆止め層3と前記透磁層2との間の結合力は、5Bであってもよい。錆止め層3と透磁層2との間の結合力は、「GB/T 9286 塗料及びワニスの塗膜のクロスカット試験」に規定された方法に従って測定される。
【0033】
本発明において、前記電磁加熱用の調理器具は、電気圧力鍋、電気炊飯器、グリルマシン、フライパン、土鍋、電磁調理器などの各種の通常の電磁を使用して加熱する調理器具であってもよい。
【0034】
本発明により提供される前記電磁加熱用の調理器具を製造する方法は、
(1)空気動力スプレー法により、磁性粉末を調理器具基体の少なくとも一部の外表面にスプレーして透磁層を形成し、前記透磁層の形成される厚さを制御することにより、前記調理器具基体と前記透磁層とが接触する界面において、前記透磁層の材料が連続した鋸歯状構造で前記調理器具基体に嵌め込まれ、且つ前記透磁層の表面に連続した鋸歯状構造を有するようにするステップと、
(2)前記透磁層に錆止め層を形成するステップと、を含む。
【0035】
本発明において、前記透磁層を形成する方法は、空気動力スプレー法であり、コールドスプレー法とも呼ばれる。該スプレー方法により形成される透磁層は、ほとんど酸化されず、磁性粉末が、高速の空気圧により、音速の2倍に近い速度で調理器具基体に衝突するので、コーティング層が非常に高い緻密性を有する。さらに、衝撃により調理器具基体の表面に鋸歯構造が形成されるので、透磁層と調理器具基体との間に非常に強い結合力が形成される。
【0036】
本発明において、前記透磁層の形成された厚さは、0.3~0.6ミリメートルが好ましい。前記透磁層の形成された厚さが0.3~0.6ミリメートルに達する場合、前記透磁層の表面粗さの値が比較的小さい値に維持され、且つ連続した鋸歯状構造が形成され、錆止め層と透磁層との間に強い結合力を有することが保証される。
【0037】
本発明において、前記調理器具基体に特定のサイズ(即ち歯先と歯底との最大高度差及び歯幅)を有する鋸歯状構造を形成するために、前記磁性粉末の粒径は、好ましくは、10~50マイクロメートルであり、より好ましくは、10~40マイクロメートルであり、さらに好ましくは、20~40マイクロメートルである。前記磁性粉末は、上述の磁性の鉄合金であってもよい。
【0038】
本発明において、前記空気動力スプレー法の実施条件は、噴射圧力が1~5MPaであり、噴射距離が10~50ミリメートルであり、気体の加熱温度が200~1000℃であることを含んでもよい。一つの好ましい実施形態において、前記空気動力スプレー法の実施条件は、作動気体が窒素ガス、ヘリウムガス又は両者の混合気体であり、噴射圧力が1~5MPaであり、気体の加熱温度が200~1000℃であり、気体の速度が1~2m3/minであり、粉末の搬送速度が5~15kg/hであり、噴射距離が10~50ミリメートルであり、消費電力が5~25kWであり、粉末の粒度が10~50マイクロメートルであることを含む。前記噴射圧力に関しては、具体的に、例えば、1MPa、1.5MPa、2MPa、2.1MPa、2.2MPa、2.3MPa、2.4MPa、2.5MPa、2.6MPa、2.7MPa、2.8MPa、2.9MPa、3MPa、3.1MPa、3.2MPa、3.3MPa、3.4MPa、3.5MPa、3.6MPa、3.7MPa、3.8MPa、3.9MPa、4MPa、4.5MPa、5MPa、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。好ましくは、前記噴射圧力が2~4MPaである。本願において、圧力とは、絶対圧力を指す。前記気体の加熱温度に関しては、具体的に、例えば、200℃、300℃、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃、1000℃、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。好ましくは、前記気体の加熱温度が500~900℃であり、より好ましくは、600~800℃である。前記噴射距離に関しては、具体的に、例えば、10ミリメートル、15ミリメートル、20ミリメートル、25ミリメートル、30ミリメートル、35ミリメートル、40ミリメートル、45ミリメートル、50ミリメートル、及びこれらのポイント値のうち何れか二つによって構成される範囲内の任意値であってもよい。好ましくは、前記噴射距離が20~50ミリメートルであり、より好ましくは、30~50ミリメートルである。
【0039】
本発明において、前記調理器具を製造する方法は、調理器具基体に対してコールドスプレー(即ち空気動力スプレー)を行う前に、前記調理器具基体に対して脱油及び脱脂処理を行い、その表面の清潔性を維持するステップをさらに含んでもよい。
【0040】
本発明の一つの好ましい実施形態によると、前記調理器具を製造する方法は、
(1)調理器具基体の表面に対して脱油及び脱脂処理を行い、その表面の清潔性を維持するステップと、
(2)空気動力スプレー法を採用して磁性粉末をステップ(1)により処理された調理器具基体の少なくとも一部の外表面(底部、又は底部及び側壁が好ましい)にスプレーし、調理器具基体に0.3~0.6ミリメートルの透磁層を形成するステップと、
(3)透磁層が形成された調理器具基体に対して脱油及び脱脂処理を行った後、透磁層に錆止め保護コーティング層をスプレーするステップと、を含む。
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0042】
実施例1~6
調理器具基体の表面に対して脱油及び脱脂処理を行い、その表面の清潔性を維持する。空気動力スプレー法を採用して磁性粉末を調理器具基体の底部にスプレーして透磁層を形成する。透磁層が形成された調理器具基体に対して脱油及び脱脂処理を行った後、透磁層に錆止め保護コーティング層をスプレーする。ここで、空気動力スプレー過程における実施条件及び磁性粉末は、表1に示すとおりである。「GB/T 15749-1995 定量金属組織の手動測定方法」を参照して透磁層と調理器具基体との間の接触界面に形成された鋸歯状構造の歯幅(△L1)、及び歯先と歯底との最大高度差(△H1)、並びに錆止め層と透磁層との間の接触界面に形成された鋸歯状構造の歯幅(△L2)、及び歯先と歯底との最大高度差(△H2)を検出する。「GB/T 8642-2002 ホットスプレーの引っ張り結合強度の試験」に規定された方法に従って、透磁層と調理器具基体との間の結合力を検出し、「GB/T 9286塗料及びワニスの塗膜のクロスカット試験」に規定された方法に従って、錆止め層と透磁層との間の結合力を検出する。検出結果は、表2に示すとおりである。
【0043】
比較例1
実施例6の方法に従って調理器具を製造するが、相違点は、透磁層を形成するスプレープロセスにおいてホットスプレーの方法を採用して実施することである。「GB/T 8642-2002 ホットスプレーの引っ張り結合強度の試験」に規定された方法に従って、透磁層と調理器具基体との間の結合力を検出し、「GB/T 9286 塗料及びワニスの塗膜のクロスカット試験」に規定された方法に従って、錆止め層と透磁層との間の結合力を検出する。検出結果は、表2に示すとおりである。
【0044】
【0045】
【0046】
上記の表2のデータから分かるように、本発明に係る方法に従って製造した調理器具において、透磁層と調理器具基体、及び錆止め層と透磁層との間には、何れも強い結合力を有する。
【0047】
以上、図面に合わせて本発明の好ましい実施形態を詳しく説明したが、本発明は、上記実施形態の具体的な詳細に限定されない。本発明の技術的思想の範囲内に、本発明の技術案に対して複数種の簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形は何れも本発明の保護範囲に属する。
【0048】
なお、上記具体的な実施形態において説明される具体的な各技術的特徴は、矛盾しない限り、任意の好適な方式により組み合わせることができる。必要のない重複を避けるために、本発明は、各種の組み合わせ可能な方式について別途説明しない。
【0049】
また、本発明の各種の異なる実施形態の間でも、任意の組み合わせを行うことができ、本発明の思想に反しない限り、同じく本発明に開示される内容とみなされるべきである。
【符号の説明】
【0050】
1:調理器具基体
2:透磁層
3:錆止め層