(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】精製および/またはウイルス不活性化の方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20220421BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220421BHJP
A61K 38/24 20060101ALI20220421BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220421BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220421BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220421BHJP
【FI】
C07K1/14
C12P21/02 H
A61K38/24
A61P15/00
C12N15/12
C12N5/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020182008
(22)【出願日】2020-10-30
(62)【分割の表示】P 2017567128の分割
【原出願日】2016-06-24
【審査請求日】2020-11-27
(32)【優先日】2015-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500297535
【氏名又は名称】フェリング ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(72)【発明者】
【氏名】アハラノヴ,ジェニー
(72)【発明者】
【氏名】エレズ,エリノア
(72)【発明者】
【氏名】ハロッシュ,イーライ
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-095798(JP,A)
【文献】特開平08-176010(JP,A)
【文献】国際公開第00/056768(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第02719704(EP,A1)
【文献】特開平02-273175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴナドトロピンの精製方法であって、カプリル酸とエタノールの組み合わせによりゴナドトロピンを処理する工程
と、濾過する更なる工程を含む方法。
【請求項2】
ゴナドトロピンのウイルス不活性化方法であって、カプリル酸とエタノールの組み合わせによりゴナドトロピンを処理する工程
と、濾過する更なる工程を含む方法。
【請求項3】
カプリル酸およびエタノールの組み合わせにより
、ゴナドトロピンの溶液を処理することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゴナドトロピンがFSH、hCGまたはLHである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゴナドトロピンが組換えゴナドトロピンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゴナドトロピンが、好適な培地中で細胞を培養すること、ならびに前記細胞および/または前記培地から組換えゴナドトロピンを採取することを含む方法により、細胞内で産生された組換えゴナドトロピンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カプリル酸とエタノールの組み合わせにより前記ゴナドトロピンを処理することが、pH2~pH6.5、例えばpH3~pH6.5、例えばpH4~pH6、例えばpH4.5~pH5.5において行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
カプリル酸が濃度10mM~30mMのカプリル酸であり、かつ/またはエタノールが20%~50%のEtOHである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a)撹拌しながら、23±2℃の温度で、1分~6時間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸により前記ゴナドトロピンを処理すること;(b)撹拌せずに、4℃~8℃の温度で、1分~32時間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸により前記ゴナドトロピンを処理すること;(c)撹拌しながら、23±2℃の温度で、0.5時間~1時間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸により前記ゴナドトロピンを処理し、続いて温度を4℃~8℃まで低下させ、その後、撹拌せずに、14時間~18時間インキュベーションを行うこと;または(d)5.5±0.1のpHおよび23±2℃の温度で、1時間±10分の継続時間にわたり、エタノールおよびカプリル酸により前記ゴナドトロピンを処理することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ガラス繊維フィルターを使用して前記ゴナドトロピンを濾過する、請求項
1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゴナドトロピンを所望の濃度に濃縮する更なる工程および/または後続の製剤化工程を含む、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質(もしくはタンパク質製品)の精製方法および/またはタンパク
質(もしくはタンパク質製品)のウイルス不活化方法に関する。本発明は、糖タンパク質
(もしくは糖タンパク質製品)の精製方法および/または糖タンパク質(もしくは糖タン
パク質製品)のウイルス不活化方法に関する。タンパク質/糖タンパク質は、例えば、宿
主細胞内で産生された、FSH、hCGまたはLHなどの組換え糖タンパク質であっても
よい。タンパク質/糖タンパク質は尿由来であってもよい。
【背景技術】
【0002】
多くの糖タンパク質が治療処置に使用されている。例えば、ゴナドトロピンは、不妊症
の処置に使用される種類の糖タンパク質である。ゴナドトロピンは、男性および女性の性
腺機能を制御する一群のヘテロ二量体糖タンパク質ホルモンである。ゴナドトロピンには
、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、および絨毛性ゴナドトロピ
ン(CG)が含まれる。
【0003】
妊娠中および閉経後の女性の尿から抽出されたFSHおよびhCGは、長年にわたって
不妊症処置に使用されてきた。尿から抽出されるFSHおよびhCGの生産は、大量の尿
の収集および処理を含む。
【0004】
尿由来製品の代替として、FSHおよびhCGの組換え型が利用可能である。現在承認
されている製品(Gonal-F、Merck Serono製Ovitrelle;M
SD製Puregon)は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞内で産生(発現
)される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人らは、PER.C6(登録商標)細胞系において発現される、組換えFSHお
よび組換えhCGを開発した。PER.C6(登録商標)細胞系由来FSH製品、および
その産生方法は、国際特許出願PCT/GB2009/000978(WO2009/1
27826Aとして公開)、PCT/EP2012/065507(WO2013/02
0996として公開)に記載されている。本製品(FE999049)は欧州での第II
I相臨床試験を完了した。PER.C6(登録商標)細胞系由来組換えhCG製品、およ
びその産生方法は、PCT/GB2010/001854(WO2011/042688
として公開)に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人らは、例えば、哺乳類細胞系内で産生される組換えFSHおよび組換えhCG
(例えば、WO2009/127826AおよびWO2013/020996に記載の組
換えFSH、およびWO2011/042688に記載の組換えhCG)の精製に用いる
ことができる技術を開発した。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、タンパク質[例えば、糖タンパク質、例えば、組換え糖
タンパク質、(例えば、組換え)ゴナドトロピン、(例えば、組換え)FSH、hCGま
たはLH]の精製方法であって、カプリル酸およびエタノールと組み合わせて、タンパク
質[例えば、糖タンパク質、例えば、組換え糖タンパク質、(例えば、組換え)ゴナドト
ロピン、(例えば、組換え)FSH、hCGまたはLH]を処理する工程を含む方法が提
供される。
【0008】
本方法は、カプリル酸およびエタノールと組み合わせて、タンパク質[例えば、水、緩
衝液またはその他の培地(例えば緩衝液;100mM酢酸アンモニウム、30~50mM
のNaCl、pH9~9.5)]の溶液を処理することを含んでもよい。本方法は、pH
6.5~12、例えばpH7.5~10、例えばpH9~9.5において緩衝液(例えば
、酢酸アンモニウム緩衝液)中でタンパク質の溶液を処理することを含んでもよい。
【0009】
カプリル酸およびエタノールと組み合わせて糖タンパク質を処理する工程は、例えばp
H2~pH6.5、例えばpH3~pH6.5、例えばpH4~pH6(例えばpH5.
5±0.1)、好ましくはpH4.5~pH5.5の酸性pHにおいて行われてもよい。
酸性状態(例えば、pH4~pH6)の使用は、カプリル酸の作用によるものである。カ
プリル酸はウイルス膜を壊すことによりエンベロープウイルスを不活性化することができ
る。このことはウイルスの疎水性膜を貫通できる非帯電形態のカプリル酸により可能とな
る。カプリル酸は、そのpKa(pH4.9)に近いpHでは帯電しない。1単位上昇の
ΔpH(pH約5.9)では、カプリル酸分子の100%が負に帯電し、従ってウイルス
不活性化の効率が低下する。
【0010】
タンパク質は、組換えタンパク質であっても尿由来タンパク質であってもよい。タンパ
ク質は、糖タンパク質であってもよい。タンパク質/糖タンパク質は、ゴナドトロピン、
例えば、FSH、hCGまたはLHであってもよい。糖タンパク質は、組換え糖タンパク
質、例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えFSH、hCGまたはLHであってもよ
い。タンパク質/糖タンパク質は、好適な培地中で細胞(細胞系)を培養して前記細胞(
細胞系)および/または前記培地から組換え糖タンパク質を採取する(例えば、細胞培養
上清から組換えタンパク質を採取する)方法により、細胞(細胞系)内で産生された、組
換え糖タンパク質(例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えFSH、hCGまたはL
H)であることが好ましい。細胞(細胞系)は、哺乳類細胞(細胞系)、例えば、CHO
細胞(系)、PER.C6(登録商標)細胞(系)、HEK293細胞(系)、HT10
80細胞(系)、COS細胞(系)、NOS細胞(系)、SP20細胞(系)等であって
もよい。細胞(細胞系)はPER.C6(登録商標)細胞(系)であることが好ましい。
【0011】
糖タンパク質(ゴナドトロピン、FSH、hCG、LH等)は、尿由来であっても組換
えであっても、一般に、培地中で溶液/懸濁液の形態をとる。糖タンパク質は、当該技術
分野において周知であるように、単一のアイソフォームとして、または複数のアイソフォ
ームの混合物として、存在し得る。用語「タンパク質」、「糖タンパク質」、「ゴナドト
ロピン」、「FSH」、「hCG」、「LH」等は、タンパク質、糖タンパク質、ゴナド
トロピン、FSH、hCG、LH等を含んだ溶液または懸濁液を包含する。本明細書にお
いて、用語「タンパク質」、「糖タンパク質」、「ゴナドトロピン」、「FSH」、「h
CG」、「LH」等は、タンパク質、糖タンパク質、ゴナドトロピン、FSH、hCG、
LH等を含んだ溶液または懸濁液を包含し、ここで、タンパク質、糖タンパク質、ゴナド
トロピン、FSH、hCG、LH等は、単一のアイソフォームまたは複数のアイソフォー
ムの混合物として存在する。従って、用語「FSH」は、FSHを含んだ溶液または懸濁
液(例えば、FSHが、単一のアイソフォームまたはアイソフォームの混合物として存在
する)を包含する。
【0012】
本明細書において、「カプリル酸およびエタノールと組み合わせてタンパク質(糖タン
パク質、ゴナドトロピン、FSH、hCG、LH等)を処理する」という語句は、カプリ
ル酸およびエタノールの両方をタンパク質(糖タンパク質、ゴナドトロピン、FSH、h
CG、LH等)に適用し、タンパク質(糖タンパク質、ゴナドトロピン、FSH、hCG
、LH等)がカプリル酸およびエタノールの両方に同時に曝露されるようにすることを意
味する。従って、この語句は、混合物として、または2種類の別個の試薬として、カプリ
ル酸およびエタノールをタンパク質(糖タンパク質、ゴナドトロピン、FSH、hCG、
LH等)の溶液へ添加し、前記溶液がカプリル酸、エタノールおよびタンパク質(糖タン
パク質、ゴナドトロピン、FSH、hCG、LH等)の混合物になるようにする技術を包
含し、また、カプリル酸およびエタノールの両方がタンパク質(糖タンパク質、ゴナドト
ロピン、FSH、hCG、LH等)に同時に作用する他の技術をも包含する。
【0013】
出願人らは、驚くべきことに、組換えタンパク質/糖タンパク質(例えば、組換えFS
H、組換えhCG)を含有する溶液を、酸性pHにおいて、エタノールおよびカプリル酸
、例えばカプリル酸20mM/エタノール30%の組み合わせにより処理すると、いつく
かのウイルスの変性(ウイルスの不活性化)ならびに/または他のウイルスおよび宿主細
胞タンパク質(不純物)の沈殿が生じ得ることを見出した。その後、(例えばガラスフィ
ルターなどのデプスフィルターを使用して、沈殿したウイルスおよび/または宿主細胞タ
ンパク質を除去するために)前記溶液を遠心分離または濾過し、後続の処理および使用の
ために上清が精製糖タンパク質(例えば、組換えFSH、組換えhCG)を含むようにし
てもよい。本出願人らは、組換え糖タンパク質(例えば、組換えFSH、組換えhCG)
を含有する溶液をエタノールおよびカプリル酸で処理することにより、(i)エンベロー
プウイルスを不活性化すること、および/または(ii)沈殿によりノンエンベロープウ
イルスを排除すること(沈殿したウイルスはその後、遠心分離または例えばガラス繊維フ
ィルターによる濾過の後続工程により除去できる。)、および/または(iii)沈殿に
より宿主関連タンパク質を除去すること(沈殿した宿主関連タンパク質はその後、遠心分
離または例えばガラス繊維フィルターによる濾過の後続工程により除去できる。)が可能
となることを見出した。この比較的単純な処理および濾過プロセスにより、顕著な率によ
る不純物の除去(宿主関連不純物の64%~79%がこのプロセスにおいて除去される。
)が可能となり、産生糖タンパク質の損失は最小限となる(即ち、高収率である)。
【0014】
(例えば組換えFSHおよび/または組換えhCGの精製/ウイルス不活性化における
)カプリル酸およびエタノールの使用には、他の利点もある。第一に、カプリル酸とエタ
ノールの組み合わせでは、単一工程が、ウイルス不活性化および沈殿、ならびに宿主細胞
タンパク質沈殿という、二重の作用を持ち得るため、精製プロセスを短縮することができ
る。第二に、前述の通り、カプリル酸はウイルス不活性化に関してpH約4.9において
最も高い活性を示すが、この低pHは理論的に(分子の解離等により)組換えFSH製品
を損傷させ得る。ヘンダーソン-ハッセルベルヒの式によれば、pH5.5においてCA
の約20%が帯電せず、組換えFSH損傷のリスクが低減されて、ウイルス不活性化の良
好なバランスが得られる。EtOH(例えば30%のEtOH)を添加すると、前記の条
件においてカプリル酸活性の損失が補われ、タンパク質への有害性が少なくなる。最後に
、カプリル酸/EtOHの組み合わせでは、より低濃度のEtOH(例えば30%)の使
用が可能となる。より低濃度のEtOHの使用は、安全問題のため製造プロセスにおいて
極めて重要である。
【0015】
カプリル酸は、濃度10mM~30mM、例えば18mM~25mM、例えば19mM
~23mM、例えば20mMのカプリル酸であってもよい。EtOHは、20%~50%
、例えば25%~50%、例えば30%~50%、例えば30%のEtOHであってもよ
い。本方法は、30%~50%のエタノールおよび18mM~25mMのカプリル酸、例
えば20mMのカプリル酸および30%のエタノールで糖タンパク質を処理する工程を含
んでもよい。
【0016】
本方法は、(例えば、ウイルス不活性化を目的として、沈殿が観察される状態で)、撹
拌しながら、23±2℃の温度で、1分~6時間のインキュベーションの間、エタノール
およびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処理することを含んでもよく、例
えば、(例えば、ウイルス不活性化を目的として、沈殿が観察される状態で)、撹拌しな
がら、23±2℃の温度で、0.5時間~1時間のインキュベーションの間、エタノール
およびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処理することを含んでもよい。本
方法は、撹拌せずに、4℃~8℃の温度で、1分~32時間のインキュベーションの間、
エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処理すること(この工
程は宿主細胞タンパク質(HCP)およびノンエンベロープウイルスの沈殿を継続するか
可能にすることができる。)を含んでもよく、例えば、撹拌せずに、4℃~8℃の温度で
、14時間~16時間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸によりタ
ンパク質(糖タンパク質)を処理すること(この工程はHCPおよびノンエンベロープウ
イルスの沈殿を継続するか可能にすることができる。)を含んでもよい。好ましい実施例
において、本方法は、撹拌しながら、23±2℃の温度で、0.5時間~1時間のインキ
ュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処
理し、続いて温度を4℃~8℃まで低下させ、その後、撹拌せずに、16±2時間、例え
ば14時間~16時間のインキュベーションを行うことを含む。
【0017】
本方法は、1時間±10分の継続時間にわたり、5.5±0.1のpHおよび23±2
℃の温度で、エタノールおよびカプリル酸でタンパク質(糖タンパク質)を処理すること
を含んでもよい。
【0018】
本方法は、カプリル酸およびエタノールによる処理に続き、タンパク質(糖タンパク質
)(溶液)の遠心分離または濾過(例えばデプスフィルター、例えばガラス繊維フィルタ
ーを通した濾過)を行う更なる工程を含んでもよい。
【0019】
本方法は、タンパク質(糖タンパク質)(溶液)を(タンパク質/糖タンパク質の)所
望の濃度に濃縮する更なる工程および/またはその他の(例えば後続の)精製/製剤化工
程を含んでもよい。
【0020】
本発明の更なる態様によれば、タンパク質[例えば糖タンパク質、例えば組換え糖タン
パク質、(例えば組換え)ゴナドトロピン、(例えば組換え)FSH、hCGまたはLH
)]のウイルス不活性化方法であって、カプリル酸およびエタノールと組み合わせて、タ
ンパク質[例えば糖タンパク質、例えば組換え糖タンパク質、(例えば組換え)ゴナドト
ロピン、(例えば組換え)FSH、hCGまたはLH)]を処理する工程を含む方法が提
供される。
【0021】
本方法は、カプリル酸およびエタノールと組み合わせて、糖タンパク質の溶液[例えば
、水、緩衝液またはその他の培地(例えば緩衝液;100mM酢酸アンモニウム、30~
50mMのNaCl、pH9~pH9.5)中]を処理することを含んでもよい。本方法
は、pH6.5~12、例えばpH7.5~10、例えばpH9~9.5において緩衝液
(例えば、酢酸アンモニウム緩衝液)中のタンパク質(例えば糖タンパク質)の溶液を処
理することを含んでもよい。
【0022】
カプリル酸およびエタノールと組み合わせて糖タンパク質を処理する工程は、例えばp
H2~pH6.5、例えばpH3~pH6.5、例えばpH4~pH6(例えばpH5.
5±0.1)、好ましくはpH4.5~pH5.5の酸性pHにおいて行われてもよい。
酸性状態(例えば、pH4~pH6)の使用は、カプリル酸の作用によるものである。カ
プリル酸はウイルス膜を壊すことによりエンベロープウイルスを不活性化することができ
る。このことはウイルスの疎水性膜を貫通できる非帯電形態のカプリル酸により可能とな
る。カプリル酸は、そのpKa(pH4.9)に近いpHでは帯電しない。1単位上昇の
ΔpH(pH約5.9)では、カプリル酸分子の100%が負に帯電し、従ってウイルス
不活性化の効率が低下する。
【0023】
カプリル酸は、濃度10mM~30mM、例えば18mM~25mM、例えば19mM
~23mM、例えば20mMのカプリル酸であってもよい。EtOHは、20%~50%
、例えば25%~50%、例えば30%~50%、例えば30%のEtOHであってもよ
い。本方法は、30%~50%のエタノールおよび18mM~25mMのカプリル酸、例
えば20mMのカプリル酸および30%のエタノールで糖タンパク質を処理する工程を含
んでもよい。
【0024】
本方法は、撹拌しながら、23±2℃の温度で、1分~6時間のインキュベーションの
間、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処理することを含
んでもよく、例えば、撹拌しながら、23±2℃の温度で、0.5時間~1時間のインキ
ュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処
理することを含んでもよい。本方法は、撹拌せずに、4℃~8℃の温度で、1分~32時
間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパ
ク質)を処理することを含んでもよく、例えば、撹拌せずに、4℃~8℃の温度で、14
時間~16時間のインキュベーションの間、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク
質(糖タンパク質)を処理することを含んでもよい。好ましい実施例において、本方法は
、撹拌しながら、23±2℃の温度で、0.5時間~1時間のインキュベーションの間、
エタノールおよびカプリル酸により糖タンパク質を処理し、続いて温度を4℃~8℃まで
低下させ、その後、撹拌せずに、14時間~16時間インキュベーションを行うことを含
む。
【0025】
本方法は、1時間±10分の継続時間にわたり、5.5±0.1のpHおよび23±2
℃の温度で、エタノールおよびカプリル酸によりタンパク質(糖タンパク質)を処理する
ことを含んでもよい。
【0026】
本方法は、カプリル酸およびエタノールによる処理に続き、タンパク質(糖タンパク質
)(溶液)の遠心分離または濾過(例えばガラス繊維フィルターを通した濾過)を行う更
なる工程を含んでもよい。
【0027】
本方法は、タンパク質(糖タンパク質)(溶液)を(タンパク質/糖タンパク質の)所
望の濃度に濃縮する更なる工程および/またはその他の(例えば後続の)精製/製剤化工
程を含んでもよい。
【0028】
タンパク質は、組換えタンパク質であっても尿由来タンパク質であってもよい。タンパ
ク質は、糖タンパク質であってもよい。タンパク質/糖タンパク質は、ゴナドトロピン、
例えば、FSH、hCGまたはLHであってもよい。タンパク質/糖タンパク質は、組換
え糖タンパク質、例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えFSH、hCGまたはLH
であってもよい。タンパク質/糖タンパク質は、好適な培地に細胞(細胞系)を培養して
前記細胞(細胞系)および/または前記培地から組換え糖タンパク質を採取する(例えば
、細胞培養上清から組換えタンパク質を採取する)ことを含む方法により、細胞(細胞系
)内で産生された、組換え糖タンパク質(例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えF
SH、hCGまたはLH)であることが好ましい。細胞(細胞系)は、哺乳類細胞(細胞
系)、例えば、CHO細胞(系)、PER.C6(登録商標)細胞(系)、HEK293
細胞(系)、HT1080細胞(系)、COS細胞(系)、NOS細胞(系)、SP20
細胞(系)等であってもよい。細胞(細胞系)はPER.C6(登録商標)細胞(系)で
あることが好ましい。
【0029】
本発明の更なる態様によれば、上記の方法により精製またはウイスル不活性化されたタ
ンパク質が提供される。タンパク質は、組換えタンパク質であっても尿由来タンパク質で
あってもよい。タンパク質は、糖タンパク質であってもよい。糖タンパク質は、組換え糖
タンパク質、例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えFSH、hCGまたはLHであ
ってもよい。糖タンパク質は、好適な培地中で細胞(細胞系)を培養して前記細胞(細胞
系)および/または前記培地から組換え糖タンパク質を採取する(例えば、細胞培養上清
から組換えタンパク質を採取する)ことを含む方法により、細胞(細胞系)内で産生され
た、組換え糖タンパク質(例えば組換えゴナドトロピン、例えば組換えFSH、hCGま
たはLH)であることが好ましい。細胞(細胞系)は、哺乳類細胞(細胞系)、例えば、
CHO細胞(系)、PER.C6(登録商標)細胞(系)、HEK293細胞(系)、H
T1080細胞(系)、COS細胞(系)、NOS細胞(系)、SP20細胞(系)等で
あってもよい。細胞(細胞系)はPER.C6(登録商標)細胞(系)であることが好ま
しい。
【0030】
本発明の更なる態様によれば、上記の方法により精製および/またはウイスル不活性化
がなされたタンパク質(例えば糖タンパク質、例えば組換え糖タンパク質、例えば組換え
FSH、組換えhCG)を含む[例えば、不妊症処置(での使用)のための]医薬組成物
が提供される。
【0031】
本発明の更なる態様によれば、上記の方法により精製および/またはウイスル不活性化
がなされたタンパク質(例えば糖タンパク質、例えば組換え糖タンパク質、例えば組換え
FSH、組換えhCG)を含む医薬組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含
む、(例えば不妊症の)処置方法が提供される。
【0032】
不妊症の処置は、生殖補助医療(ART)、排卵誘発または子宮内授精(IUI)を含
んでもよい。本医薬組成物は、例えば、公知のFSH、LH、hCG製剤が使用される医
療適用に使用してもよい。
【0033】
本製品または組成物は、任意の薬物投与経路、例えば経口投与、直腸投与、非経口投与
、経皮投与(例えば、パッチ技術)、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、大槽内投与、
膣内投与、腹腔内投与、局部投与(散薬、軟膏もしくは点滴薬)のために、またはバッカ
ルもしくは鼻内スプレーとして、周知の組成物へと製剤化され得る。典型的な組成物は、
特に、Remington’s Pharmaceutical Sciences f
ifteenth edition(Matt Publishing Company
、1975)、1405~1412ページおよび1461~87ページ、ならびにnat
ional formulary XIV fourteenth edition(A
merican Pharmaceutical Association、1975)
に記載されている、水溶液、塩および保存剤を含む非毒性賦形剤ならびに緩衝剤等の薬学
的に許容される担体を含む。
【0034】
好適な水性および非水性の医薬用担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルの例としては、水
、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレン
グリコール等)、カルボキシメチルセルロースおよびその好適な混合物、植物油(例えば
オリーブ油)、ならびに注射用有機エステル(例えばエチルオレエート)が挙げられる。
本発明の組成物は、限定されないが保存剤、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤および分散剤な
どの添加剤をも含有し得る。微生物の増殖を予防するために抗菌剤および抗真菌剤が含ま
れていてもよく、抗菌剤および抗真菌剤としては、例えばm-クレゾール、ベンジルアル
コール、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等が挙げられる。保存剤
が含まれる場合、ベンジルアルコール、フェノールおよび/またはm-クレゾールが好ま
しい。ただし、保存剤はこれらの例に限定されるわけではない。更に、糖、塩化ナトリウ
ム等の等張化剤を含むことが望ましい場合がある。本製品または組成物は、Na+-もし
くはK+-塩またはそれらの組み合わせからなる群から選択された薬学的に許容されるア
ルカリ金属カチオンを含む塩を更に含んでもよい。塩は、Na+-塩、例えばNaClま
たはNa2SO4であることが好ましい。
【0035】
本製品または組成物は、糖タンパク質、ならびにポリソルベート20、L-メチオニン
、フェノール、硫酸二ナトリウムおよびリン酸ナトリウム緩衝液、スクロースならびにク
エン酸緩衝液のうち1種以上を含むことが好ましい。
【0036】
注射製剤は、例えば、細菌保持フィルターで濾過することにより、または使用直前に滅
菌水または他の滅菌注射液に溶解または分散させることができる滅菌固形組成物の形態の
滅菌剤を組み込むことにより、滅菌することができる。注射製剤は、任意の好適な容器、
例えばバイアル、充填済シリンジ、注射カートリッジ等で供給することができる。
【0037】
本組成物は、単回使用または多回使用(多回用量)のために製剤化してもよい。本製品
または組成物が多回使用のために製剤化される場合、保存剤が含まれることが好ましい。
保存剤が含まれる場合、ベンジルアルコール、フェノールおよび/またはm-クレゾール
が好ましい。ただし、保存剤はこれらの例に限定されるわけではない。単回使用または多
回使用のために製剤化された製品または組成物は、Na+-もしくはK+-塩またはそれら
の組み合わせからなる群から選択された薬学的に許容されるアルカリ金属カチオンを含む
塩を更に含んでもよい。塩は、Na+-塩、例えばNaClまたはNa2SO4であること
が好ましい。
【0038】
本製品または組成物は、バイアルなどの容器、充填済みカートリッジ(例えば、単回投
与もしくは多回使用を目的としたもの)、または例えば多回用量の投与のための「ペン」
などの注射装置内に含まれてもよい。
【0039】
バイアルは、ブリスターパッケージまたは滅菌状態を維持するためのその他の手段によ
る包装がなされてもよい。いずれの製品も、FSH(および存在する場合、例えばhCG
)製剤の使用に関する取扱説明書が任意に添付されることがある。医薬組成物の種々の成
分のpHおよび正確な濃度は、当分野における通常の業務に従って調整される。GOOD
MAN and GILMAN’s THE PHARMACOLOGICAL BAS
IS FOR THERAPEUTICES,7th edを参照されたい。好ましい実
施形態では、本発明の組成物は、非経口投与用組成物として供給される。非経口製剤を調
製するための一般的方法は、当技術分野で公知であり、REMINGTON;THE S
CIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY、上記、780~8
20ページに記載されている。非経口組成物は、液体製剤に含有された状態で、または投
与直前に滅菌注射液と混合される固形物として、供給され得る。特に好ましい実施形態で
は、非経口組成物は、投与の容易性および投薬量の均一性のために単位剤形で供給される
。
【0040】
添付図面を参照しながら本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の実施形態による組換えFSH精製(ウイルス不活化)プロセスの概要を示す図である。
【
図2】12%還元PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)にかけた種々の処理済みUF2-AD(透析後の限外濾過)FSH試料に関する不純物除去の定性的評価後のゲルパターンを示し、ここで、レーン1はLMW(低分子量)マーカー、レーン2は試料緩衝液であり、レーン3はUF2-AD、レーン4はUF2-AD+10mMのCA,pH5.5、レーン5はUF2-AD+10mMのCA、30%のエタノール,pH5.5、レーン6は試料緩衝液、レーン7は低範囲MW、レーン8はUF2-AD、レーン9はUF2-AD+20mMのCA,pH5.5、レーン10はUF2-AD+20mMのCA、30%のエタノール,pH5.5である(実施例3を参照のこと)。
【
図3】12%還元PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)にかけた種々の処理済みhCG試料に関する、不純物除去の定性的評価後のゲルパターンを示し、ここで、レーン1はLMW(低分子量)マーカー、レーン2はHarvest-ADを含有するhCG、レーン3はNR(無関係)、レーン4は[Harvest-AD+15mMのC.A,pH5.0]の上清、レーン5は[Harvest-AD+20mMのC.A+10%のエタノール,pH5.0]の上清である(実施例4を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[実施例1]
図1は組換えFSH精製全プロセスの概要を示している。
図1からわかるように、組換
えFSHは、バイオリアクターを使用して、WO2013/020996およびWO20
09/127826Aに開示された方法により操作されたPER.C6(登録商標)細胞
系内で発現される。
【0043】
バイオリアクターにおいて播種を行い、当業者に公知の方法により細胞増殖を促進し、
更に、バイオリアクターを潅流モードで運転し、Repligen製Hollofibr
e(ATF4)システムを使用して、連続的に組換えFSHを産生し連続的に採取する。
6GRO培地において、少なくとも1x106cells/mL、総容積4±1リットル
で播種を行う。ProPer-1培地中で産生が行われ、バイオリアクター採取物はポリ
エチレン袋に収集される。従って、本実施例において、タンパク質(糖タンパク質)は、
好適な培地(ProPer-1培地)中で細胞系を培養して(細胞培養上清から組換えタ
ンパク質を採取することで)培地から組換え糖タンパク質を採取することを含む方法によ
り、PER.C6(登録商標)細胞系内で産生された、組換え糖タンパク質(組換えFS
H)である。
【0044】
バイオリアクター採取物をプールして10kDa限外濾過/透析濾過工程(UF1)に
供し、前記工程において、採取物の濃度を低下させ、Capto-Qクロマトグラフィー
用に採取物をコンディショニング(pHおよび導電率の点で)し、培養培地の色素および
低分子量成分を除去する。0.8+0.65μmのガラス繊維フィルターを通して濃縮水
を濾過して、プロセス溶液を清澄化し(
図1を参照)、その後、バイオバーデンコントロ
ールとして0.2μm濾過に供する。次に、当該技術分野において周知の方法により、C
apto-Qアニオン交換クロマトグラフィーを用いて、組換えFSHを捕捉し、DNA
、内毒素、宿主細胞タンパク質およびプロセス関連不純物を除去する。バイオバーデンコ
ントロールとして0.2μm濾過を更に行う。
【0045】
精製/ウイルス不活性化の前に、濾過したCapto-Q溶出液を、当該技術分野にお
いて周知の方法により、脱塩および減容のために更なる10kDa限外濾過/透析濾過(
UF2)に供する。
【0046】
CA/EtOH工程
UF2の濃縮水は、緩衝液(100mMの酢酸アンモニウム、30mMのNaCl、p
H9.3~pH9.7)中の組換えFSHの溶液である。まず、撹拌しながら23±2℃
でタンパク質溶液のpHをpH9.3~pH9.7からpH6.3±0.3に低下させ、
次に、20mMのカプリル酸/30%のエタノールの組み合わせ(CA/EtOH)によ
り処理し、続いて、pHを4.5~5.6に更に調整する(pHは1MのHClにより調
整する)。この処理の後、タンパク質溶液を撹拌したまま23±2℃で0.5時間~1時
間インキュベートする(この時間中に、ウイルス不活性化が生じ、白色の薄片様の沈殿が
観察される)。0.5時間~1時間の最後に、タンパク質溶液の温度は4℃~8℃に低下
し、撹拌せずに、更に14時間~18時間、例えば14~16時間、溶液をインキュベー
トする(これによりHCPおよびノンエンベロープウイルスの沈殿が継続する)。CA/
ETOH処理工程は、(i)エンベロープウイルスの不活性化;(ii)沈殿およびそれ
に続く沈殿除去のための清澄化工程によるノンエンベロープウイルスの排除;ならびに(
iii)沈殿による宿主関連タンパク質の除去という、3つの作用を有する。
【0047】
沈殿した不純物(ノンエンベロープウイルスおよび宿主関連タンパク質)は、0.8+
0.65μmのガラス繊維フィルターを通した濾過の工程であって、組換えFSH溶液も
清澄化する濾過工程により除去される。
【0048】
バイオバーデンコントロールとして0.2μm濾過を更に行う。
【0049】
次いで、当該技術分野において周知の方法により、溶液をSulfopropyl-S
epharoseカチオン交換クロマトグラフィー(SP-FF)に供し、カプリル酸、
エタノール、更に宿主細胞タンパク質を除去する。バイオバーデンコントロールとして0
.2μm濾過を更に行い、続いて、Phenyl-Sepharose疎水性相互作用ク
ロマトグラフィー(PS-FF)を用いた精製の追加工程を行い、遊離組換えFSHサブ
ユニットおよび宿主細胞タンパク質を除去する。
【0050】
PS溶出液を3回目の10kDa限外濾過/透析濾過工程(UF3)に供して、塩を除
去し、次の工程のために溶液をコンディショニングする。バイオバーデンコントロールと
して0.2μm濾過を更に行った後、解離したFSHサブユニットおよび塩基性ヘテロ二
量体を除去することを目的として、ヒドロキシアパタイト吸着クロマトグラフィー(Hy
A)を行い、続いてバイオバーデンコントロールとして0.2μm濾過を更に行う。
【0051】
結合/溶出モードで、Q-Sepharoseアニオン交換クロマトグラフィー(QS
-FF)「ポリッシング工程」を行い、宿主タンパク質、DNA、エンドトキシンおよび
潜在的ウイルスを除去する。次に、QS MPのプールおよびナノ濾過の前に、更なるバ
イオバーデンコントロールとして0.2μm濾過を行い、潜在的ウイルスを除去する。上
清を4回目の10kDa限外濾過/透析濾過工程(UF4)に供して、組換えFSHを0
.5~1.1mg/mlに濃縮し、続いて、0.005mg/mlの最終濃度になるまで
ポリソルベート20を添加した。以上は当該技術分野において周知の透析および緩衝液調
整工程である。組換えFSHを最終の0.2μm濾過工程に供し、等しく小分けして一次
包装を行い、出荷まで-20℃で保管する。
【0052】
本出願人らは、カプリル酸/エタノールによる処理は宿主関連不純物を著しく低減させ
得ることを見出した。種々の製造運転(データ掲載せず)によれば、上記のCA/EtO
H工程(および後続のガラス繊維濾過)により、宿主関連不純物の64~79%が除去さ
れる一方で、FSHの約90~95%という高収率での回収がなされた。このことは単純
なプロセスにより実現される宿主関連不純物の著しい低減であり、産生タンパク質(産生
糖タンパク質)の損失は最小限となる。
【0053】
本工程の顕著なウイルス排除効率を表1に要約する。表1は、≧4.25~≧5.41
の範囲である、対数減少値〔log10 reduction factor〕の要約を示す。対数減少値(LR
F)≧4 Log10(例えば最大8 Log10以上)は一般に、高く、強力であり、効果
的であると考えられる。
【0054】
【0055】
上記の実施例はrFSHに関するものであるが、当業者であれば、上記のプロセス[例
えばCA/EtOH工程(および後続のガラス繊維濾過)]は、他のタンパク質(例えば
糖タンパク質)、例えばrhCG[例えば、PCT/GB2010/001854(WO
2011/042688として公開)の方法によりPER.C6(登録商標)細胞系内で
産生されるrhCG]の精製/ウイルス不活性化に容易に適用可能であることを理解する
だろう。
【0056】
[実施例2]
本発明の方法の別の実施例において、hCG精製/ウイルス不活性化プロセスが提供さ
れる。PCT/GB2010/001854(WO2011/042688として公開)
に記載の方法によりPER.C6細胞系内で産生されたrhCGの精製/ウイルス不活性
化のために、上記の実施例1と同様の方法(Sulfopropyl-Sepharos
eカチオン交換クロマトグラフィー(SP-FF)工程を除く)を用いた。本出願人らは
、酸性pHにおけるカプリル酸およびエタノールによる化学的不活性化、即ち、実施例1
に記載されたCA/EtOH工程を用いた化学的不活性化では、(沈殿により)非hCG
不純物の約65%が除去された一方、hCGの約90%という高収率での回収がなされた
ことを見出した。
【0057】
本実施例におけるCA/EtOH工程の非常に高いウイルス排除効率を表2に要約する
。≧5.31~≧5.48の範囲において得られた高いLRFによって決定された通り、
MuLVのウイルス不活性化は効果的だった。CA/EtOH処理および沈殿除去につい
て、≧2.03~≧2.74のLRFを得た。
【0058】
【0059】
[実施例3]
rFSH含有溶液の不純物除去のための沈殿条件の評価
実験内容:
実施例1のrFSH精製プロセス(CA/EtOH工程まで)を用いて得たUF2-A
D(透析後の限外濾過)中間生成物は、100mMの酢酸アンモニウム+30mMのNa
Cl(pH9.50±0.20、11.00±0.50mS/cm)を含有していた。こ
の中間生成物を等しく小分けし、各分量を不純物除去をする異なる沈殿条件に供した(r
FSHは溶液に溶解する)。試験した沈殿条件は以下の通りである。
1.処理なしUF2-AD(対照)
2.UF2-AD+10mMのカプリル酸(CA),pH5.5
3.UF2-AD+10mMのCA、30%のエタノール,pH5.5
4.UF2-AD+20mMのCA,pH5.5
5.UF2-AD+20mMのCA、30%のエタノール,pH5.5
【0060】
全ての試験試料を、撹拌しながら室温で30分間インキュベートし、続いて、撹拌せず
に30分間の追加のインキュベーションを行った。16~20時間、2~8℃で更なるイ
ンキュベーションを行った。生成した沈殿剤を遠心分離により除去し、上清を収集した。
【0061】
沈殿プロセスの性能パラメータ:
rFSH回収
FSH ELISAにより全ての試料のrFSH濃度を決定し、各試料の処理後の収率
を計算したうえで、表3に示している。
【0062】
表3から分かるように、それぞれ10mMのCA、10mMのCA+30%のエタノー
ル、20mMのCAおよび20mMのCA+30%のエタノールによる沈殿の後、UF2
-ADプロセス溶液中のrFSHの96%、106%、106%および98%を回収した
。このことは、rFSHが沈殿せず、溶液中に溶解可能なままであることを示す。
【0063】
不純物除去
未処理UF2-ADおよび処理済みUF2-ADの上清のそれぞれにおいて280nm
での吸光度を測定し、表3に示すように、不純物除去率を計算した。それぞれ、10mM
のCA、10mMのCA+30%のエタノール、20mMのCAおよび20mMのCA+
30%のエタノールによる沈殿の後に、UF2-AD中のA280不純物全体の33.9%
、64.9%、65.9%および68.8%を除去した。
【0064】
未処理UF2-ADおよび各種処理済みUF2-ADの上清を、不純物除去の定性的評
価のために12%還元PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)にかけた。ゲルパタ
ーンを
図2に示す。10mMのCA+30%のエタノール(レーン5)および20mMの
CA+30%のエタノール,pH5.5(レーン10)による沈殿の後に得られた上清は
、それぞれ、10mMのCA,pH5.5(レーン4)および20mMのCA(レーン9
)による沈殿の後に得られた上清と比較して、実質的に純粋である。このことは沈殿工程
におけるカプリル酸へのエタノールの添加の相乗効果を示している。
【0065】
実験条件:
1.エタノールおよびカプリル酸によるUF2-ADの沈殿は、カプリル酸のみを用いて
得られた製品と比較して、より純粋な製品をもたらした。
2.エタノールとカプリル酸の組み合わせは、溶液中に溶解可能なままであるrFSHを
沈殿させず、本工程が高収率の精製およびウイルス不活性化工程であることを意味してい
る。
【0066】
【0067】
[実施例4]
hCG含有採取物中の不純物除去のための沈殿条件の評価
実験内容:
hCG含有採取物を約40倍に濃縮し、10kDa限外濾過(UF)システムにより、
100mMのグリシン、50mMのNaCl(pH9.0)、6mS/cmの緩衝液で透
析した。UFの最後に、回収したタンパク質溶液であるHarvest-AD(透析後)
物質を等しく小分けし、各分量を不純物除去をする異なる沈殿条件に供した(hCGは溶
液中に溶解可能である)。試験した沈殿条件は以下の通りである(表4)。
1.対照としての処理なしHarvest-AD;
2.Harvest-AD+15mMのCA,pH5.0
3.Harvest-AD+20mMのCA,pH5.0
4.Harvest-AD+20mMのCA+10%のエタノール,pH5.0
【0068】
全ての処理済み試料を、撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。生成した沈殿
剤を遠心分離により除去し、上清を収集した。
【0069】
沈殿プロセスの性能パラメータ:
hCG回収
表4に詳細を示すように、未処理採取物および処理済みHarvest-ADの上清の
それぞれにおけるhCG濃度を決定し、回収率を計算した。
【0070】
不純物除去
表4に詳細を示すように、未処理採取物および処理済みHarvest-ADの上清の
それぞれにおける、280nmでの吸光度(A280)を決定し、不純物除去率を計算した
。
【0071】
未処理採取物および各種処理済みHarvest-ADの上清を、不純物除去の定性的
評価のために12%還元PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)にかけた。ゲルパ
ターンを
図3に示す。
【0072】
考察:
1.hCG回収率-それぞれ15mMのCA、20mMのCAおよび20mMのCA+1
0%のエタノールによる沈殿の後に、Harvest-AD中のhCGの91%、86%
および83%が回収された。
【0073】
2.A280ごとの不純物除去-それぞれ15mMのCA、20mMのCAおよび20mMの
CA+10%のエタノールによる沈殿の後に、Harvest-ADにおける総計A280
の56.6%、55.8%および63.0%が除去された。
【0074】
3.ゲルごとの不純物除去-20mMのCA+10%のエタノール,pH5.0(レーン
5)による沈殿の後に得た上清は、15mMのCA,pH5.0(レーン4)による沈殿
の後に得られた上清と比較して、実質的に純粋である。
【0075】
結論:
1.エタノールおよびカプリル酸を添加したhCG含有採取物の沈殿は、カプリル酸のみ
を用いて得られた製品と比較して、より純粋な製品をもたらした。
【0076】