(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/083 20060101AFI20220421BHJP
【FI】
F16H3/083
(21)【出願番号】P 2020213856
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に結合する駆動軸と第1軸との間の動力の伝達・遮断を行う摩擦クラッチと、
前記第1軸によって動力が入力される変速機と、を備え、
前記変速機は、前記第1軸と平行に配置される第2軸と、
前記第1軸または前記第2軸の一方に相対回転不能に配置された固定ギヤと、
前記第1軸または前記第2軸の他方に相対回転可能に配置された遊転ギヤと、
前記第1軸または前記第2軸に結合し前記遊転ギヤの隣に並ぶ少なくとも2つの円環状のハブと、
前記ハブに対して軸方向に移動可能かつ回転不能に前記ハブの外周にそれぞれ配置されるクラッチリングと、を備え、
前記遊転ギヤは、軸方向の端面に第1ドグ歯が設けられ、
前記クラッチリングは、前記第1ドグ歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられ、
前記ハブ、前記クラッチリン
グ及び前記遊転ギヤの少なくとも1つは、前記第1ドグ歯に前記第2ドグ歯がかみ合うと、別の前記第1ドグ歯と別の前記第2ドグ歯とを離隔させる軸方向の推力を前記クラッチリングに加える推力発生部を備え、
前記駆動源の最大トルク(Nm)をx、前記摩擦クラッチの慣性モーメント(kgm
2)をyとしたときに、y≦6×10
-6xを満たす動力伝達装置。
【請求項2】
前記摩擦クラッチは湿式多板クラッチである請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記変速機が収納される第1ケースと、前記摩擦クラッチが収納される第2ケースと、を備え、
前記第2ケースは、前記第1ケースと分離されている請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記摩擦クラッチおよび前記変速機が共に収納されるケースを備える請求項2記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達装置に関し、特に変速時のトルク切れを解消できる動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いにかみ合う駆動ギヤ及び被動ギヤを少なくとも2組備える変速機が知られている。特許文献1に開示の技術では、駆動源(例えばエンジン)の駆動力が伝達される第1軸、及び、第1軸と平行な第2軸に、互いにかみ合う少なくとも2組の駆動ギヤ及び被動ギヤがそれぞれ配置される。駆動ギヤ又は被動ギヤの隣に並ぶハブは第1軸または第2軸に結合し、ハブの外周にクラッチリングがそれぞれ配置される。駆動ギヤ又は被動ギヤは、軸方向の端面に第1ドグ歯が設けられ、クラッチリングは、第1ドグ歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられる。
【0003】
低速段のギヤの第1ドグ歯にクラッチリングの第2ドグ歯がかみ合い、トルクを伝えているときに、高速段のギヤの第1ドグ歯に別のクラッチリングの第2ドグ歯がかみ合うと、高速段のギヤに比べて回転速度が遅い低速段のギヤの第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合うクラッチリングに軸方向の推力が生じる。その推力によってクラッチリングが軸方向へ押し出されると、低速段のギヤの第1ドグ歯とクラッチリングの第2ドグ歯とのかみ合いが外れ、高速段が成立する。これにより変速時のトルク切れを解消できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記技術では、第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合う直前の、第1ドグ歯の回転速度と第2ドグ歯の回転速度とが異なるので、第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合うときに衝撃(かみ合い音およびショック)が発生するという問題点がある。
【0006】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、変速時のトルク切れを解消しつつ衝撃を低減できる動力伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の動力伝達装置は、駆動源に結合する駆動軸と第1軸との間の動力の伝達・遮断を行う摩擦クラッチと、第1軸によって動力が入力される変速機と、を備え、変速機は、第1軸と平行に配置される第2軸と、第1軸または第2軸の一方に相対回転不能に配置された固定ギヤと、第1軸または第2軸の他方に相対回転可能に配置された遊転ギヤと、第1軸または第2軸に結合し遊転ギヤの隣に並ぶ少なくとも2つの円環状のハブと、ハブに対して軸方向に移動可能かつ回転不能にハブの外周にそれぞれ配置されるクラッチリングと、を備え、遊転ギヤは、軸方向の端面に第1ドグ歯が設けられ、クラッチリングは、第1ドグ歯にかみ合う第2ドグ歯が軸方向の端面に設けられている。ハブ、クラッチリング及び遊転ギヤの少なくとも1つは、第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合うと、別の第1ドグ歯と別の第2ドグ歯とを離隔させる軸方向の推力をクラッチリングに加える推力発生部を備え、駆動源の最大トルク(Nm)をx、摩擦クラッチの慣性モーメント(kgm2)をyとしたときに、y≦6×10-6xを満たす。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の動力伝達装置によれば、変速機の推力発生部により、第1ドグ歯にクラッチリングの第2ドグ歯がかみ合うと、別の第1ドグ歯と別のクラッチリングの第2ドグ歯とを離隔させる軸方向の推力がクラッチリングに加えられ、高速段が成立する。よって変速時のトルク切れを解消できる。
【0009】
第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合うときの衝撃は、第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合う直前の、第1ドグ歯に結合する部材の運動エネルギーと第2ドグ歯に結合する部材の運動エネルギーとの差が大きいほど大きくなる。回転する部材の運動エネルギーは、部材の慣性モーメントに比例する。第2ドグ歯に結合している摩擦クラッチを含む部材の慣性モーメントは、摩擦クラッチの慣性モーメントの寄与が大きい。摩擦クラッチの大きさやトルク容量は、駆動源の最大トルクに影響を受け、摩擦クラッチの慣性モーメントに影響を与える。
【0010】
そこで、y≦6×10-6x(但しx(kgm2)は駆動源の最大トルク、yは摩擦クラッチの慣性モーメント(Nm))を満たすようにすることで、第1ドグ歯に第2ドグ歯がかみ合う直前の、第2ドグ歯に結合している摩擦クラッチを含む部材の運動エネルギーと、第1ドグ歯に結合している部材の運動エネルギーと、の差を低減し、第1ドグ歯が第2ドグ歯にかみ合うときに放出される運動エネルギー、即ち衝撃を低減できる。
【0011】
請求項2記載の動力伝達装置によれば、摩擦クラッチは湿式多板クラッチなので、トルク容量を確保しつつ、クラッチ板の外径を小さくすることにより摩擦クラッチの慣性モーメントを小さくできる。よって請求項1の効果に加え、衝撃の低減に有利である。
【0012】
請求項3記載の動力伝達装置によれば、第1ケースは変速機を収納し、第2ケースは摩擦クラッチを収納する。第2ケースは第1ケースと分離されている。よって請求項2の効果に加え、潤滑に適正なオイルを第1ケース及び第2ケースに入れることができる。
【0013】
請求項4記載の動力伝達装置によれば、摩擦クラッチ及び変速機が共にケースに収納されている。よって請求項2の効果に加え、1種類のオイルで摩擦クラッチ及びギヤを潤滑できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態における動力伝達装置のスケルトン図である。
【
図3】クラッチリングが配置されたハブの斜視図である。
【
図5】低速段のコースト走行時の変速機の模式図である。
【
図6】低速段のドライブ走行時の変速機の模式図である。
【
図7】低速段から高速段へ変速途中の変速機の模式図である。
【
図8】低速段から高速段へ変速直後の変速機の模式図である。
【
図9】駆動源の最大トルクと摩擦クラッチの慣性モーメントと衝撃との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して本発明の一実施の形態における動力伝達装置1の概略構成を説明する。
図1は動力伝達装置1のスケルトン図である。動力伝達装置1は変速機2及び摩擦クラッチ110を備えている。変速機2は、駆動軸3から動力が入力される第1軸4と、第1軸4と平行に配置される第2軸5と、を備える。摩擦クラッチ110は、駆動軸3と第1軸4との間に配置され、駆動軸3と第1軸4との動力の伝達・遮断を行う。本実施形態では動力伝達装置1は自動車(図示せず)に搭載されている。
【0016】
駆動軸3は、エンジン等の駆動源Sに結合している。第1軸4及び第2軸5は、複数段の変速ギヤとしての1速ギヤ10、2速ギヤ20、3速ギヤ30、4速ギヤ40、5速ギヤ50及び6速ギヤ60を支持する。
【0017】
1速ギヤ10は、第1軸4に相対回転不能に固定された駆動ギヤ11と、駆動ギヤ11とかみ合いつつ第2軸5に相対回転可能に固定された被動ギヤ12と、を備えている。2速ギヤ20は、第1軸4に相対回転可能に固定された駆動ギヤ21と、駆動ギヤ21とかみ合いつつ第2軸5に相対回転不能に固定された被動ギヤ22と、を備えている。3速ギヤ30は、第1軸4に相対回転不能に固定された駆動ギヤ31と、駆動ギヤ31とかみ合いつつ第2軸5に相対回転可能に固定された被動ギヤ32と、を備えている。4速ギヤ40は、第1軸4に相対回転可能に固定された駆動ギヤ41と、駆動ギヤ41とかみ合いつつ第2軸5に相対回転不能に固定された被動ギヤ42と、を備えている。5速ギヤ50は、第1軸4に相対回転可能に固定された駆動ギヤ51と、駆動ギヤ51とかみ合いつつ第2軸5に相対回転不能に固定された被動ギヤ52と、を備えている。6速ギヤ60は、第1軸4に相対回転可能に固定された駆動ギヤ61と、駆動ギヤ61とかみ合いつつ第2軸5に相対回転不能に固定された被動ギヤ62と、を備えている。
【0018】
駆動ギヤ11,31及び被動ギヤ22,42,52,62は、軸方向に固定、かつ、軸に相対回転不能に配置された固定ギヤである。駆動ギヤ21,41,51,61及び被動ギヤ12,32は、軸方向に固定、かつ、軸に相対回転可能に配置された遊転ギヤである。
【0019】
第1軸4や第2軸5にギヤを選択的に結合するかみ合いクラッチ6は、第1軸4や第2軸5に結合するハブ70と、ハブ70に配置されるクラッチリング80と、クラッチリング80の軸方向の位置を設定するシフト装置90と、を備えている。
【0020】
ハブ70は、被動ギヤ12と被動ギヤ32との間の第2軸5、駆動ギヤ21と駆動ギヤ51との間の第1軸4、駆動ギヤ41と駆動ギヤ61との間の第1軸4にそれぞれ相対回転不能に固定される円環状の部材である。被動ギヤ12,32、駆動ギヤ21,41,51,61の軸方向の端面には、ハブ70へ向けて軸方向に突出する第1ドグ歯13,33,23,43,53,63が、それぞれ設けられている。
【0021】
クラッチリング80は、ハブ70に装着される円環状の部材である。クラッチリング80は、ハブ70に対して回転不能、且つ、軸方向へ移動可能に配置されている。クラッチリング80には、軸方向へ突出する第2ドグ歯83(
図2参照)が設けられている。クラッチリング80が軸方向へ移動して第1ドグ歯13,33,23,43,53,63と第2ドグ歯83とが選択的にかみ合うことで、1速ギヤ10、2速ギヤ20、3速ギヤ30、4速ギヤ40、5速ギヤ50及び6速ギヤ60のいずれかが、ハブ70及びクラッチリング80を介して第1軸4に選択的に結合し、変速が行われる。
【0022】
シフト装置90は、クラッチリング80にそれぞれ係合するシフトフォーク91,92,93と、シフトフォーク91,92,93にそれぞれ結合するシフトアーム94,95,96と、円柱状のシフトドラム97と、を備えている。シフトドラム97は第1ケース7に固定されており、モータ(図示せず)により軸回りに回転する。シフトアーム94,95,96は、シフトドラム97の外周に形成されたカム溝98,99,100に端部が係合する。
【0023】
シフトドラム97は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき回転する。シフトドラム97が回転すると、カム溝98,99,100にガイドされたシフトアーム94,95,96を介して、シフトフォーク91,92,93が軸方向に移動する。シフトフォーク91,92,93によってクラッチリング80は軸方向に移動する。
【0024】
図2を参照してクラッチリング80について説明する。
図2はクラッチリング80の斜視図である。
図2に示すようにクラッチリング80は、中心軸Oの回りに円環状に延びるリング81と、リング81の軸方向の端面82から軸方向の両側へ向けて突出する複数の第2ドグ歯83と、を備えている。第1軸4や第2軸5に配置されたクラッチリング80の中心軸Oは、第1軸4や第2軸5の中心軸と一致する。第2ドグ歯83は、第3歯84と、第3歯84の長さよりも軸方向の長さが短い第4歯85と、を備えている。第2ドグ歯83は、円周方向の一方を向く第3面86と、第3面86の反対側の面であって円周方向の他方を向く第4面87と、を備えている。
【0025】
第2ドグ歯83は、第3歯84と第4歯85が、円周方向に交互に配置されている。第3面86は、中心軸Oに平行な仮想平面73(
図3参照)に対して傾く傾斜面である。第4面87は、中心軸Oに平行な面である。クラッチリング80の内周面には、中心軸Oと平行な歯88が形成されている。本実施形態では、歯88は第3歯84の内側のみに形成されており、歯88は第3歯84の全長に亘って延びている。
【0026】
なお、中心軸Oの側を向くリング81の内面のうち第3歯84が連なる部分には、中心軸Oに平行な歯88が形成されている。歯88は、リング81、及び、リング81の端面82から突出する第3歯84に切れ目なく連なっている。これにより歯88が破損し難くなる。
【0027】
本実施形態では、第2ドグ歯83のみに歯88が形成されている。「第2ドグ歯83のみに歯88が形成される」というのは、第2ドグ歯83以外に、第2ドグ歯83の歯88に連なる歯がリング81の内面に形成されるものを含む。しかし、第2ドグ歯83の歯88に連なっていない歯が、リング81の内面に形成されるものは含まない。
【0028】
図3はクラッチリング80が配置されたハブ70の斜視図である。ハブ70の内周面には、第1軸4や第2軸5(
図1参照)に結合するスプライン71が形成されている。ハブ70の外周面のうちクラッチリング80の歯88が配置される部位に、中心軸Oと平行な溝72が形成されている。溝72は、ハブ70の軸方向の全長に亘って形成されている。クラッチリング80に形成された歯88が、ハブ70の溝72にはまり合うので、クラッチリング80はハブ70に対して軸方向に移動できるが、クラッチリング80はハブ70の周りを回転できない。
【0029】
クラッチリング80はハブ70の溝72に歯88がはまり合い、トルクを伝達しながら軸方向に移動する。その結果、中心軸Oと平行な歯88に力がかかるので、歯88と溝72との間に径方向の隙間があっても、歯88の軸方向に延びる部分に溝72の軸方向に延びる部分が接し、クラッチリング80のモーメントを抑制し、ハブ70の中心軸Oに対するクラッチリング80の傾きを抑制できる。
【0030】
溝72及び歯88の形状は特に限定されない。溝72や歯88は、側面から見て、例えばインボリュート曲線などの曲線に囲まれたものや角型など適宜設定される。また、溝72の中を転がるボールやコロを歯88に設けたり、歯88が転がるボールやコロを溝72に設けたりすることは当然可能である。これにより歯88と溝72との摩擦をより小さくできる。
【0031】
第2ドグ歯83の第3面86は、リング81から軸方向へ離れるにつれて、第4面87へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面73に対する第3面86の傾斜角をθとする。第3面86の重心を通る円の半径Rd(中心軸Oと第3面86の重心との間の距離)は、第2ドグ歯83の径方向の厚さの分だけ、溝72の基準円の半径Rh(中心軸Oと溝72の基準円との間の距離)よりも大きい。
【0032】
図4を参照して摩擦クラッチ110について説明する。
図4は摩擦クラッチ110の部分断面図である。摩擦クラッチ110は本実施形態では湿式多板クラッチである。摩擦クラッチ110は、潤滑油が充填された第2ケース111に収納されており、駆動軸3から第1軸4へ伝達するトルクを調整する。摩擦クラッチ110を収納する第2ケース111は、変速機2を収納する第1ケース7(
図1参照)と分離されているので、潤滑に適正なオイルを第1ケース7及び第2ケース111にそれぞれ入れることができる。例えば、第1ケース7にはギヤオイルが注入され、第2ケース111にはクラッチフルードが充填される。
【0033】
摩擦クラッチ110は、駆動軸3に結合するクラッチドラム112と、第1軸4に結合するクラッチハブ113と、クラッチドラム112とクラッチハブ113との間に配置されたクラッチ板114と、を備えている。クラッチ板114は、軸方向に移動可能にクラッチドラム112及びクラッチハブ113に支持されている。押付部材115は、クラッチ板114によるクラッチドラム112とクラッチハブ113との締結力を調整する。押付部材115は、クラッチドラム112とクラッチハブ113との間に配置されたばね116により、トルクの伝達を遮断する方向へ付勢されている。押付部材115は、アクチュエータ117の駆動により、クラッチ板114が伝達するトルクを大きくする軸方向へ移動する。
【0034】
アクチュエータ117は、モータ118と、モータ118の出力を減速する減速機119とを備えている。減速機119は第2ケース111に固定され、モータ118はブラケット(図示せず)を介して第2ケース111に固定されている。モータ118のトルクは、変換機構121により軸方向の力に変換される。
【0035】
変換機構121は、クラッチ板114の締結力を無段階に精度良く調整できるボールカムである。変換機構121は、駆動側の第1プレート122、反力側の第2プレート123及びボール124を備えている。第1プレート122及び第2プレート123は、第1軸4の外周に回転自在に支持されている。第2プレート123は、第1軸4に対する軸方向の移動が規制されており、第1プレート122は、スラスト軸受を介して押付部材115に配置されている。第1プレート122の先端は、減速機119の出力軸に接続されたギヤ120と噛み合わされている。第1プレート122及び第2プレート123が互いに対向するカム面には、その回転中心を中心とする同一円周上に所定の位相差を設けた複数の溝が形成されており、カム面にボール124が回転自在に挟持されている。ボール124をローラに代えても良い。
【0036】
摩擦クラッチ110を締結する場合は、減速機119のギヤ120を介して第2プレート123に対して第1プレート122が回転駆動すると、第1プレート122はボール124の押圧を受けながら押付部材115の方向へ移動する。第1プレート122によって押付部材115が軸方向へ押されると、押付部材115はクラッチ板114を押す。一方、摩擦クラッチ110の締結を解除する場合は、減速機119のギヤ120が逆方向に回転駆動することで、押付部材115から離れる方向へ第1プレート122が移動し、押付部材115はクラッチ板114を押す力を弱める。
【0037】
摩擦クラッチ110は、変速機2の変速時にクラッチ板114の係合状態を調整して、駆動軸3が第1軸4へ伝える回転を調整する。摩擦クラッチ110は、駆動源Sの最大トルク(N・m)をx、摩擦クラッチ110の慣性モーメント(kg・m2)をyとしたときに、y≦6×10-6xを満たすように設定されている。摩擦クラッチ110の慣性モーメントは、クラッチドラム112、クラッチハブ113、クラッチ板114、押付部材115及びばね116の各部材の慣性モーメントの合計値である。
【0038】
図5から
図8を参照して、高速段へ変速(シフトアップ)するときの変速機2の動作を説明する。本実施形態では一例として4速ギヤ40から5速ギヤ50への変速について説明するが、他の段へ変速する動作も同様なので、他の段のシフトアップの動作やシフトダウンの動作については説明を省略する。
【0039】
まず
図5及び
図6を参照して、低速段(4速ギヤ40)のときの変速機2の動作について説明する。
図5は低速段(4速ギヤ40)のコースト走行時の変速機2の模式図であり、
図6は低速段(4速ギヤ40)のドライブ走行時の変速機2の模式図である。
図5から
図8では、駆動ギヤ41,51、ハブ70及びクラッチリング80の回転方向は、紙面に沿って下向き(矢印R方向)である。
【0040】
図5に示すように駆動ギヤ41には、クラッチリング80の第2ドグ歯83にかみ合う第1ドグ歯43が、駆動ギヤ41の軸方向の端面に形成されている。第1ドグ歯43は、第1歯44と、第1歯44の長さよりも軸方向の長さが短い第2歯45と、を備えている。第1ドグ歯43は、円周方向の一方を向く第1面46と、第1面46の反対側の面であって円周方向の他方を向く第2面47と、を備えている。第1面46はクラッチリング80の第3面86に対向する。第2面47はクラッチリング80の第4面87に対向する。
【0041】
第1面46及び第3面86は、第1面46と第3面86とを接触させる方向のトルクに応じて駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向に離隔する推力を発生させる傾斜面である。第1面46は、駆動ギヤ41から離れる方向へ向かうにつれて、第2面47へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面73(
図3参照)に対する第1面46の傾斜角θは、第3面86の傾斜角θと同じである。
【0042】
第2面47及び第4面87は、第2面47と第4面87とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向に離隔しない面である。本実施形態では、第2面47は中心軸Oに平行な面である。
【0043】
駆動ギヤ51には、クラッチリング80の第2ドグ歯83にかみ合う第1ドグ歯53が、駆動ギヤ51の軸方向の端面に形成されている。第1ドグ歯53は、第1歯54と、第1歯54の長さよりも軸方向の長さが短い第2歯55と、を備えている。第1ドグ歯53は、円周方向の一方を向く第1面56と、第1面56の反対側の面であって円周方向の他方を向く第2面57と、を備えている。第1面56はクラッチリング80の第3面86に対向する。第2面57はクラッチリング80の第4面87に対向する。
【0044】
第1面56及び第3面86は、第1面56と第3面86とを接触させる方向のトルクに応じて駆動ギヤ51とクラッチリング80とが軸方向に離隔する推力を発生させる傾斜面(推力発生部)である。第1面56は、駆動ギヤ51から離れる方向へ向かうにつれて、第2面57へ近づくように傾斜している。中心軸Oに平行な仮想平面73(
図3参照)に対する第1面56の傾斜角θは、第3面86の傾斜角θと同じである。
【0045】
第2面57及び第4面87は、第2面57と第4面87とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ51とクラッチリング80とが軸方向に離隔しない面である。本実施形態では、第2面57は中心軸Oに平行な面である。
【0046】
図5に示すように4速走行時には、シフトドラム97のカム溝99及びシフトアーム95によりシフトフォーク92が4速ギヤ40の駆動ギヤ41へ近づき、クラッチリング80の第2ドグ歯83が駆動ギヤ41の第1ドグ歯43にかみ合う。このときはクラッチリング80の歯88がハブ70の溝72にはまり合い、クラッチリング80が軸方向に移動する。歯88は第2ドグ歯83(第3歯84)の内側に形成されているので、リング81の内側のみに歯88が形成される場合に比べ、歯88の軸方向の長さを確保できる。その結果、クラッチリング80が軸方向に移動するときに、ハブ70に対してクラッチリング80をより傾き難くできる。一方、5速ギヤ50では、シフトドラム97により、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ51の第1ドグ歯53とが軸方向に離隔している。
【0047】
4速ギヤ40の被動ギヤ42(
図1参照)から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時には、駆動ギヤ41はクラッチリング80より速く回転するので、駆動ギヤ41の第1面46はクラッチリング80の第3面86に接する。このときに第2面47と第4面87との間に円周方向の隙間ができる。
【0048】
第1面46及び第3面86は、コースト時のトルクに応じて駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向に離隔する推力を発生させる。しかし、シフトドラム97のカム溝99の頂部99a(規制部)が、シフトアーム95及びシフトフォーク92の軸方向の移動を制限するので、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ41の第1ドグ歯43とのかみ合いが保たれ、駆動ギヤ41の第1面46にクラッチリング80の第3面86が接する状態が維持される。
【0049】
図6に示すように、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(
図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時には、クラッチリング80は駆動ギヤ41より速く回転するので、クラッチリング80の第4面87は駆動ギヤ41の第2面47に接する。このときに第1面46と第3面86との間に円周方向の隙間ができる。
【0050】
第2面47と第4面87とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ41とクラッチリング80とは軸方向に離隔しないので、シフトドラム97のカム溝99の頂部99aによるシフトアーム95及びシフトフォーク92の軸方向の移動の制限、及び、第2面47と第4面87との摩擦等によってギヤ抜けを防ぎ、ドライブトルクを伝達する。
【0051】
図7は低速段(4速ギヤ40)から高速段(5速ギヤ50)へ変速途中の変速機2の模式図であり、
図8は高速段(5速ギヤ50)のドライブ走行時の変速機2の模式図である。
図7及び
図8に示す矢印Sはシフトドラム97のシフトアップ時の回転方向である。
【0052】
図7に示すように、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(
図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時に、摩擦クラッチ110をつないだままシフトドラム97を回転して高速段(5速ギヤ50)へのシフトアップ操作が行われると、シフトドラム97のカム溝100及びシフトアーム96によりシフトフォーク93が5速ギヤ50の駆動ギヤ51へ近づき、クラッチリング80の第3歯84の歯先が駆動ギヤ51の第1歯54の歯先に接する。クラッチリング80の第3歯84は、軸方向の長さが第4歯85より長いので、第2ドグ歯83の第3歯84と駆動ギヤ51の第1ドグ歯53(第1歯54)とをかみ合い易くできる。
【0053】
一方、4速ギヤ40ではカム溝99の頂部99aが、シフトアーム96を解放する。これによりシフトアーム96とカム溝99との間に、クラッチリング80が駆動ギヤ41から軸方向へ離隔できる隙間Gが生じる。しかし、4速ギヤ40において第2面47と第4面87とを接触させて駆動ギヤ41から被動ギヤ42(
図1参照)へ動力が伝達されている場合には、駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向へ離隔する推力が生じないので、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ41の第1ドグ歯43とがかみ合った状態が維持される。
【0054】
4速ギヤ40の駆動ギヤ41とクラッチリング80の第2ドグ歯83とがかみ合った状態で、5速ギヤ50の駆動ギヤ51の第1ドグ歯53(第1歯54)とクラッチリング80の第2ドグ歯83(第3歯84)とがかみ合うと、5速ギヤ50は4速ギヤ40より速く回転するので、内部循環トルクにより4速側はコースト状態、5速側はドライブ状態となる。
【0055】
5速ギヤ50では、第2面57と第4面87とが接触したドライブ状態であり、駆動ギヤ51とクラッチリング80とが軸方向へ離隔する推力が生じないので、シフトドラム97のカム溝100及びシフトアーム96によりシフトフォーク93が駆動ギヤ51へより近づき、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ51の第1ドグ歯53とのかみ合いが深くなる。
【0056】
クラッチリング80は、第3歯84の内側のみに歯88が形成されているので、第3歯84が第1ドグ歯53とかみ合うときに、第1ドグ歯53、第3歯84及び歯88を介してクラッチリング80とハブ70との間にトルクが伝達される。これにより、第3歯84の内側に歯88が形成されないで第4歯85やリング81の内側に歯88が形成される場合に比べ、第3歯84と第1ドグ歯53(第1歯54)とがかみ合うときに、第3歯84に回転方向の力が加わることによる、第3歯84とリング81とがなす隅を起点とするリング81の破損を抑制できる。
【0057】
また、第3歯84の内側だけでなく第4歯85やリング81の内側にも歯88が形成される場合に比べ、歯88によるクラッチリング80の断面積の低下を抑制できる。よって、クラッチリング80の耐久性を向上できる。さらに、第3歯84の内側だけでなく第4歯85やリング81の内側にも歯88が形成される場合に比べ、溝72と擦れ合う歯88の面積を減らすことができるので、溝72と歯88との間の摩擦が増大しないようにできる。
【0058】
一方、4速ギヤ40では、第1面46と第3面86とが接触したコースト状態であり、第1面46及び第3面86の傾斜角θにより、トルクに応じて駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向に離隔する推力が生じる。ハブ70の外周面に形成された溝72に、クラッチリング80の内周面に形成された歯88がはまり合い、その推力によってカム溝99の隙間Gの分だけクラッチリング80がトルクを伝達しながら軸方向に移動する。
【0059】
その結果、歯88の軸方向に延びる部分に溝72の軸方向に延びる部分が接するので、ハブ70に対してクラッチリング80が傾き難くなり、クラッチリング80の力のモーメントを抑制できる。これにより溝72に擦れて軸方向へ移動する歯88の摩擦を抑制できる。その結果、駆動ギヤ41とクラッチリング80とが軸方向に離隔するときに生じる音や振動を抑制できる。
【0060】
ここで、第1面46及び第3面86の傾斜角θ、第3面86の重心を通る円の半径Rd、溝72の基準円の半径Rhであり、第1面46と第3面86との間の摩擦係数をμd、溝72と歯88との間の摩擦係数をμhとする。このときにハブ70及びクラッチリング80は、tan(θ-μd)/Rd-μh/Rh>0を満たすように設定されている。これにより、第1面46及び第3面86の傾斜角θによる軸方向の推力によって、内部循環トルクにより駆動ギヤ41とクラッチリング80とをスムーズに軸方向に離隔させることができる。よって変速のときのショックを抑制できる。
【0061】
図8に示すようにシフトドラム97によって5速ギヤ50への変速が完了すると、4速ギヤ40では、シフトドラム97のカム溝99の頂部99bが、シフトアーム95及びシフトフォーク92の軸方向の移動を制限する。これによりクラッチリング80と駆動ギヤ41とが分離した状態が維持される。5速ギヤ50では、シフトドラム97のカム溝100の頂部100aが、シフトアーム96及びシフトフォーク93の軸方向の移動を制限するので、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ51の第1ドグ歯53とのかみ合いが保たれる。
【0062】
駆動ギヤ51から被動ギヤ52(
図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時には、クラッチリング80は駆動ギヤ51より速く回転するので、クラッチリング80の第4面87は駆動ギヤ51の第2面57に接する。このときに第1面56と第3面86との間に円周方向の隙間ができる。
【0063】
第2面57と第4面87とを接触させてトルクを伝達するときに、駆動ギヤ51とクラッチリング80とは軸方向に離隔しないので、シフトドラム97のカム溝100の頂部100aによるシフトアーム96及びシフトフォーク93の軸方向の移動の制限、及び、第2面57と第4面87との摩擦等によってギヤ抜けを防ぎ、ドライブトルクを伝達する。
【0064】
被動ギヤ52(
図1参照)から駆動ギヤ51へ動力が伝達されるコースト走行時には、駆動ギヤ51はクラッチリング80より速く回転するので、駆動ギヤ51の第1面56はクラッチリング80の第3面86に接する。このときに第2面57と第4面87との間に円周方向の隙間ができる。
【0065】
第1面56及び第3面86は、コースト時のトルクに応じて駆動ギヤ51とクラッチリング80とが軸方向に離隔する推力を発生させる。しかし、シフトドラム97のカム溝100の頂部100a(規制部)が、シフトアーム96及びシフトフォーク93の軸方向の移動を制限するので、クラッチリング80の第2ドグ歯83と駆動ギヤ51の第1ドグ歯53とのかみ合いが保たれ、駆動ギヤ51の第1面56にクラッチリング80の第3面86が接する状態が維持される。
【0066】
以上のように変速機2は、低速段から高速段への変速時に、変速比の異なる2つの変速ギヤ(4速ギヤ40及び5速ギヤ50)の第1ドグ歯43,53にクラッチリング80の第2ドグ歯83がそれぞれかみ合うと、内部循環トルクにより、高速段の変速ギヤ(5速ギヤ50)に比べて回転数の低い低速段の変速ギヤ(4速ギヤ40)に結合するクラッチリング80が、第1面46と第3面86との間に生じる推力によって軸方向へ押し出される。高速段の変速ギヤ(5速ギヤ50)とクラッチリング80とが結合すると、低速段の変速ギヤ(4速ギヤ40)とクラッチリング80とが分離して高速段が成立するので、変速のときのトルク切れを解消できる。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0068】
試験者は、上記実施形態における動力伝達装置1の、摩擦クラッチ110の大きさを異ならせることにより、摩擦クラッチ110の慣性モーメントが異なる5つの試作品を作製した。試作品は、摩擦クラッチ110の慣性モーメント以外の条件は同じにした。試作品の駆動軸3には、最大トルクが異なる5種のエンジン(駆動源S)のクランク軸をそれぞれ結合した。
【0069】
試験者は、摩擦クラッチ110を切った状態で各エンジンを始動し、摩擦クラッチ110をつないで変速機2を3速に設定した後、最大トルクが発生する回転数に各エンジンを設定し、摩擦クラッチ110をつないだまま4速にシフトアップする試験を行った。試験者は、駆動ギヤ41の第1ドグ歯43にクラッチリング80の第2ドグ歯83がかみ合うときの衝撃(かみ合い音およびショック)を官能評価した。
【0070】
図9は駆動源Sの最大トルクと摩擦クラッチ110の慣性モーメントと衝撃との関係を示す図である。
図9に示す白抜きの四角は、試験者が違和感を覚えた衝撃が発生した組合せ(駆動源Sの最大トルクと摩擦クラッチ110の慣性モーメントとの組合せ)である。
図9に示す黒塗りの丸は、試験者が違和感を覚えなかった組合せである。
【0071】
図9に示す直線の式は、y=6×10
-6xである。但しxは駆動源S(エンジン)の最大トルク(Nm)であり、yは摩擦クラッチ110の慣性モーメント(kgm
2)である。この試験からy≦6×10
-6xを満たせば、変速のときの衝撃を低減できることが明らかになった。
【0072】
なお、y≦6×10-6xを満たすときの摩擦クラッチ110は、湿式多板クラッチであった。湿式多板クラッチは、クラッチ板114の外径が小さくてもトルク容量を確保できるので、トルク容量を確保しつつ慣性モーメントを低減できる。よって変速のときの衝撃を低減するのに有利である。
【0073】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば変速機2のギヤ段の数や配置、シフトドラム97に形成されたカム溝99,100の形状、ハブ70に形成された溝72の数や形状、クラッチリング80に形成された歯88の数や形状などは適宜設定できる。
【0074】
実施形態では、駆動ギヤ41に設けられた第1ドグ歯43の第2面47、駆動ギヤ51に設けられた1ドグ歯53の第2面57、クラッチリング80に設けられた第2ドグ歯83の第4面87が、中心軸Oに平行な面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2面47,57と第4面87とが接触してトルクを伝達しているときに、そのトルクによる力の軸方向の成分と、第2面47,57と第4面87との摩擦力のうちの軸方向の成分と、の合力が、クラッチリング80を駆動ギヤ41,51から離隔させる方向に作用しなければ良い。この関係を満たせば、第2面47,57や第4面87が、中心軸Oに平行な仮想平面(図示せず)に対して傾斜していても良い。
【0075】
実施形態では、駆動ギヤ41に設けられた第1ドグ歯43の第1面46と、クラッチリング80に設けられた第2ドグ歯83の第3面86とが、トルクに応じて駆動ギヤ41とクラッチリング80とを軸方向に離隔する推力を生じさせる推力発生部の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、特開2012-127471号公報に記載の変速機のように、第1面46や第3面86の傾斜角をほぼゼロにし、クラッチリング80に設けた歯88の代わりに、クラッチリング80に円柱状の突起を設け、ハブ70に設けた平行な溝72の代わりに、中心軸Oを含む平面に対して傾斜するV字状のカム溝をハブ70の外周面に形成し、そのカム溝の中にクラッチリング80の突起を配置することは当然可能である。ハブ70のカム溝とクラッチリング80の突起とを推力発生部とする場合も、本実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0076】
実施形態では、動力伝達装置1を自動車に搭載する場合について説明したが、これに限られるものではなく、建設機械、産業車両、農業機械等に動力伝達装置1を搭載することは当然可能である。この場合も動力伝達装置1により変速時のトルク切れを解消しつつ変速時の衝撃(音)を低減できる。よって第1軸4の空回りをなくし燃費も改善できる。
【0077】
実施形態では、変速機2を収納する第1ケース7と、摩擦クラッチ110を収納する第2ケース111とを別々に設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1ケース7及び第2ケース111を一体化したケースを設け、そのケースに、変速機2及び摩擦クラッチ110を共に収納することは当然可能である。その場合、例えば、オートマチックトランスミッションフルードをベースにした高極圧性のギヤオイルをケースに充填して、クラッチ板114及びギヤの耐久性を両立できる。
【符号の説明】
【0078】
1 動力伝達装置
2 変速機
3 駆動軸
4 第1軸
5 第2軸
7 第1ケース
11,31 駆動ギヤ(固定ギヤ)
12,32 被動ギヤ(被動ギヤ)
13,23,33,43,53,63 第1ドグ歯
21,41,51,61 駆動ギヤ(遊転ギヤ)
22,42,52,62 被動ギヤ(固定ギヤ)
56 第1面(推力発生部の一部)
70 ハブ
80 クラッチリング
83 第2ドグ歯
86 第3面(推力発生部の一部)
110 摩擦クラッチ
111 第2ケース
S 駆動源
【要約】 (修正有)
【課題】変速時のトルク切れを解消しつつ衝撃を低減できる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】摩擦クラッチ110及び変速機2を備え、変速機は、第1軸4と平行に配置される第2軸5と、第1軸または第2軸の一方に相対回転不能に配置された固定ギヤ11、31、22、42、52、62と、第1軸または第2軸の他方に相対回転可能に配置された遊転ギヤ21、41、51、61、12,32と、第1軸または第2軸の遊転ギヤの隣に結合するハブ70と、ハブの外周に配置されるクラッチリング80と、固定ギヤ又は遊転ギヤの第1ドグ歯13,33,23,43,53,63、にクラッチリングの第2ドグ歯がかみ合うと、別の第1ドグ歯と別の第2ドグ歯とを離隔させる軸方向の推力をクラッチリングに加える推力発生部と、を備え、駆動源の最大トルク(Nm)をx、摩擦クラッチの慣性モーメント(kgm
2)をyとしたときに、y≦6×10
-6xを満たす。
【選択図】
図1