(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】フィードバック制御方法、およびフィードバック制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 11/36 20060101AFI20220421BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20220421BHJP
【FI】
G05B11/36 501L
G05B11/36 501E
H02P29/00
(21)【出願番号】P 2020549954
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023646
(87)【国際公開番号】W WO2020075344
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018190884
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松原 満
(72)【発明者】
【氏名】高野 裕理
(72)【発明者】
【氏名】上井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】梁田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】山崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
【審査官】黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156557(JP,A)
【文献】特開2019-082791(JP,A)
【文献】渡部 慶二 ほか,Smith法の外乱に対する制御特性の改善,計測自動制御学会論文集,1983年03月,第19巻, 第3号,p. 187-192,ISSN 0453-4654, <DOI: 10.9746/sicetr1965.19.187>
【文献】福永 洋輔 ほか,日産リーフ向け高応答加速度制御の開発,日産技報,日産自動車株式会社,2012年01月,No. 69-70,p. 16-20,ISSN 0385-9266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/36
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノミナルプラントモデルと遅れ要素のノミナルモデルとを有する制御対象のモデルと、フィルタとを有する遅れ補償器と、
第1のフィードバック制御器と、
ノッチフィルタと、
外乱補償器とを有する制御装置のフィードバック制御方法であって、
前記遅れ補償器は、
前記制御対象に対する操作量を入力とし、
前記操作量に対する前記制御対象の出力と前記操作量に対する前記制御対象のモデルの出力とから算出される誤差に対して前記フィルタを作用させ、
前記フィルタを作用させた結果と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力に基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記ノッチフィルタは、
前記第1のフィードバック制御器の出力を処理するように前記第1のフィードバック制御器の後段に設けられ、
前記フィルタは、
前記制御対象が原点に極を有する場合でも安定に遅れ補償が可能なように、
前記ノミナルプラントモデルに対応する第2のフィードバック制御器と、
前記制御対象のモデルとによる関数として構成され、
前記フィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタに分解されており、
前記第1のフィルタは、
一巡伝達特性が前記制御対象のモデルと、前記第2のフィードバック制御器との積で与えられ、
かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、
前記外乱補償器は、
前記第1のフィルタの出力を、第3のフィードバック制御器で処理し、前記第3のフィードバック制御器の出力を前記外乱補償器の出力とし、
前記第1のフィードバック制御器は、
前記遅れ補償器の出力と目標値との偏差に基づいて、
前記制御対象に対してフィードバック補償を行い、
前記ノッチフィルタの出力と前記外乱補償器の出力に基づいて前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフィードバック制御方法において、
前記ノッチフィルタの出力から前記外乱補償器の出力を加減算器で減じることで、前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載のフィードバック制御方法において、
前記第2のフィルタの出力と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力とに基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記第3のフィードバック制御器の出力と前記第2のフィルタの出力を互いに調整することを特徴とするフィードバック制御方法。
【請求項4】
ノミナルプラントモデルと遅れ要素のノミナルモデルとを有する制御対象のモデルと、フィルタとを有する遅れ補償器と、
第1のフィードバック制御器と、
ノッチフィルタと、
外乱補償器とを有するフィードバック制御装置であって、
前記遅れ補償器は、
前記制御対象に対する操作量を入力とし、
前記操作量に対する前記制御対象の出力と前記操作量に対する前記制御対象のモデルの出力とから算出される誤差を入力する前記フィルタを有し、
前記フィルタの出力と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力に基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記ノッチフィルタは、
前記第1のフィードバック制御器の出力を処理するように前記第1のフィードバック制御器の後段に設けられ、
前記フィルタは、
前記制御対象が原点に極を有する場合でも安定に遅れ補償が可能なように、
前記ノミナルプラントモデルに対応する第2のフィードバック制御器と、
前記制御対象のモデルとによる関数として構成され、
前記フィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタに分解されており、
前記第1のフィルタは、
一巡伝達特性が前記制御対象のモデルと、前記第2のフィードバック制御器との積で与えられ、かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、
前記外乱補償器は、
前記第1のフィルタの出力を処理する第3のフィードバック制御器を有し、前記第3のフィードバック制御器の出力を前記外乱補償器の出力とし、
前記第1のフィードバック制御器は、
前記遅れ補償器の出力と目標値との偏差に基づいて、前記制御対象に対してフィードバック補償を行い、
前記ノッチフィルタの出力と前記外乱補償器の出力に基づいて前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のフィードバック制御装置において、
加減算器が、
前記ノッチフィルタの出力から前記外乱補償器の出力を減じることで、前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のフィードバック制御装置において、
前記第2のフィルタの出力と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力とに基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記第3のフィードバック制御器の出力と前記第2のフィルタの出力を互いに調整することを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項7】
ノミナルプラントモデルと遅れ要素のノミナルモデルとを有する制御対象のモデルと、フィルタとを有する遅れ補償器と、
第1のフィードバック制御器と、
ノッチフィルタと、
外乱補償器とを有するフィードバック制御装置であって、
前記遅れ補償器は、
前記第1のフィードバック制御器の出力を入力とし、
前記制御対象に対して与えた操作量に対する応答である前記制御対象の出力と前記第1のフィードバック制御器の出力に対する前記制御対象のモデルの出力とに基づいて、誤差を算出し、
算出した前記誤差に対して前記フィルタを作用させた結果と、前記第1のフィードバック制御器の出力に対する前記ノミナルプラントモデルの出力とに基づいて、前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記ノッチフィルタは、
前記第1のフィードバック制御器の出力を処理するように前記第1のフィードバック制御器の後段に設けられ、
前記フィルタは、
前記制御対象が原点に極を有する場合でも安定に遅れ補償が可能なように、
前記ノミナルプラントモデルに対応する第2のフィードバック制御器と、
前記制御対象のモデルとによる関数として構成され、
前記フィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタに分解されており、
前記第1のフィルタは、
一巡伝達特性が前記制御対象のモデルと、前記第2のフィードバック制御器との積で与えられ、かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、
前記外乱補償器は、
前記第1のフィルタの出力を処理する第3のフィードバック制御器を有し、前記第3のフィードバック制御器の出力を前記外乱補償器の出力とし、
前記第1のフィードバック制御器は、
前記遅れ補償器の出力と目標値との偏差に基づいて、前記制御対象に対してフィードバック補償を行い、
前記ノッチフィルタの出力と前記外乱補償器の出力に基づいて前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項8】
ノミナルプラントモデルと遅れ要素のノミナルモデルとを有する制御対象のモデルと、フィルタとを有する遅れ補償器と、
第1のフィードバック制御器と、
ノッチフィルタと、
外乱補償器とを有するフィードバック制御装置であって、
前記遅れ補償器は、
前記制御対象に対する操作量を入力とし、
前記操作量に対する前記制御対象の出力と前記操作量に対する前記制御対象のモデルの出力とから算出される誤差を入力する前記フィルタを有し、
前記フィルタの出力と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力に基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記ノッチフィルタは、
前記第1のフィードバック制御器の出力を処理するように前記第1のフィードバック制御器の後段に設けられ、
前記フィルタは、
前記制御対象が原点に極を有する場合でも安定に遅れ補償が可能なように、
前記ノミナルプラントモデルに対応する第2のフィードバック制御器と、
前記制御対象のモデルとによる関数として構成され、
前記フィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタに分解されており、
前記第1のフィルタは、
一巡伝達特性が前記制御対象のモデルと、前記第2のフィードバック制御器との積で与えられ、かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、
前記外乱補償器は、
前記第1のフィルタの出力を処理する第3のフィードバック制御器を有し、
前記第3のフィードバック制御器の後段に、前記ノッチフィルタのノッチ周波数に中心周波数が一致するバンドパスフィルタを有し、
前記第3のフィードバック制御器の出力を、前記バンドパスフィルタで処理した出力を前記外乱補償器の出力とし、
前記第1のフィードバック制御器は、
前記遅れ補償器の出力と目標値との偏差に基づいて、前記制御対象に対してフィードバック補償を行い、
前記ノッチフィルタの出力と前記外乱補償器の出力に基づいて前記制御対象に対する前記操作量を算出することを特徴とするフィードバック制御装置。
【請求項9】
請求項4に記載のフィードバック制御装置が、速度制御器であり、前記目標値は、モータ回転速度指令であることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項4に記載のフィードバック制御装置において、
前記第1のフィルタNpは、下記の式で与えられる
【数1】
ことを特徴とするフィードバック制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御方法、およびフィードバック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FA分野では生産性向上のためにモータの益々の高速・高精度化制御が求められている。
【0003】
モータをフィードバック制御する際、外乱を抑制し、制御量を目標値に高速・高精度に追従させるには制御ゲインを高めればよい。しかしながらフィードバックループ内に遅れ要素(例えば、ローパスフィルタやディジタル制御装置の演算遅れ)が存在する場合、これが原因でフィードバック制御系の制御ゲインの設定上限は制約を受け、高速・高精度な目標値追従の妨げになることが一般に知られている。
【0004】
制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償でき、制御対象の入力端に加わるステップ外乱を定常偏差無く抑制できる遅れ補償器の設計方法として、非特許文献1が提案されている。
【0005】
非特許文献1では、従来のSmith法に、フィルタN21を加えた遅れ補償器が提案され、Smith法(
図2におけるフィルタN21=1の場合の構成)が抱える、制御対象が原点に近い極を有する場合は、外乱の影響が長時間残ってしまうという課題や、制御対象が原点に極を有する場合は、制御対象の入力端に加わるステップ外乱の抑制において定常偏差を残してしまうという課題を解決するフィルタN21の設計方法が示されている。
【0006】
また、制御対象が共振特性を有する場合、外乱を抑制し、制御量を目標値に高速・高精度に追従させるために制御ゲインの上昇を試みると、共振を励起してしまい安定的に制御ができず、制御ゲインを上げらない場合がある。
【0007】
これを回避する手段として、共振周波数を中心周波数とするバンドストップフィルタ(もしくはノッチフィルタ)を制御器の後段に設ける方法が知られている。
【0008】
バンドストップフィルタ(もしくはノッチフィルタ)を設けたことで、バンドストップフィルタ(もしくはノッチフィルタ)のバンドストップ周波数における制御器の外乱を抑制する能力が低下し、外乱が共振を励起しやすい状況となる。
【0009】
外乱が共振を励起することを回避する制御方法として、非特許文献2が提案されている。
【0010】
非特許文献2では、制御器が車両の駆動力伝達系のねじり共振を励起しないよう、制御器の後段に共振周波数を中心周波数にもつバンドストップフィルタが設けられ、バンドストップフィルタにより共振周波数周辺の外乱を制御器が十分に抑制できなくなったことで外乱に起因して共振が励起されやすくなったことを補償するために、外乱オブザーバと共振周波数を中心周波数にもつバンドパスフィルタを別途設ける方法が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】渡部他、Smith法の外乱に対する制御特性の改善、計測自動制御学会論文集、第19巻、第3号、pp.187-192、1983
【文献】日産リーフ向け高応答加速度制御の開発、日産技法 No.69・70(2012-1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1では、制御対象が共振特性を有する場合において、例えば制御器の後段にノッチフィルタを設けることや外乱オブザーバを設ける等の、制御器や外乱が共振を励起することを回避する手段が設けられておらず、共振抑制が不十分という課題があった。
【0013】
また非特許文献2では、共振の抑制のためのバンドストップフィルタは制御器の後段に設けられ、外乱起因の共振励起を補償する外乱オブザーバ、およびバンドパスフィルタを設けた制御器構成となっている。しかしフィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償する仕組みを有さず、遅れを補償する場合は別途遅れ補償器を追加することになるため、演算コストが増加するという課題があった。
【0014】
本発明の目的は、制御対象が原点に極を有する場合においてもフィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償でき、制御対象が共振特性を有する場合であっても、制御器が共振を励起せず、かつ外乱が共振を励起することも回避することができ、かつ低演算コストで実現できるフィードバック制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の好ましい一例は、ノミナルプラントモデルと遅れ要素のノミナルモデルとを有する制御対象のモデルと、フィルタとを有する遅れ補償器と、第1のフィードバック制御器と、ノッチフィルタと、外乱補償器とを有する制御装置のフィードバック制御方法であって、
前記遅れ補償器は、前記制御対象に対する操作量を入力とし、前記操作量に対する前記制御対象の出力と前記操作量に対する前記制御対象のモデルの出力とから算出される誤差に対して前記フィルタを作用させ、前記フィルタを作用させた結果と前記操作量に対する前記ノミナルプラントモデルの出力に基づいて前記遅れ補償器の出力を算出し、
前記ノッチフィルタは、
前記第1のフィードバック制御器の出力を処理するように前記第1のフィードバック制御器の後段に設けられ、
前記フィルタは、
前記制御対象が原点に極を有する場合でも安定に遅れ補償が可能なように、前記ノミナルプラントモデルに対応する第2のフィードバック制御器と、前記制御対象のモデルとによる関数として構成され、
前記フィルタは、第1のフィルタと第2のフィルタに分解されており、
前記第1のフィルタは、
一巡伝達特性が前記制御対象のモデルと、前記第2のフィードバック制御器との積で与えられ、
かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、
前記外乱補償器は、
前記第1のフィルタの出力を、第3のフィードバック制御器で処理し、前記第3のフィードバック制御器の出力を前記外乱補償器の出力とし、
前記第1のフィードバック制御器は、
前記遅れ補償器の出力と目標値との偏差に基づいて、前記制御対象に対してフィードバック補償を行い、
前記ノッチフィルタの出力と前記外乱補償器の出力に基づいて前記制御対象に対する前記操作量を算出するフィードバック制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償でき、制御対象が共振特性を有する場合であっても、制御器が共振を励起せず、かつ外乱が共振を励起することも回避することができ、かつ低演算コストを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1におけるフィードバック制御系の構成を示す図。
【
図4】実施例2におけるフィードバック制御系の構成を示す図。
【
図5】実施例3におけるフィードバック制御系の構成を示す図。
【
図6】実施例4におけるACサーボモータの速度制御系の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。実施例では、「フィードバック」は、「FB」と略記する。例えば、「フィードバック制御器」は「FB制御器」と略記する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係るフィードバック制御装置1は、
図1に示すように遅れ補償器3と、ノッチフィルタ7と、外乱補償器と、FB制御器を備える。
【0020】
図1における第1のフィルタであるフィルタNp5と、第2のフィルタであるフィルタNd4は、乗じたNp×Ndが制御対象が原点に極を有する場合であっても制御対象の入力端に加わるステップ外乱を定常偏差無く抑制できるように構成されたフィルタN21(
図2参照)に一致する。
【0021】
つまり第1のフィルタであるフィルタNp5と、第2のフィルタであるフィルタNd4は、フィルタN21を分解したものである。フィルタN21の設計法については、特願2017-054595号(以下、先願という)に記載されている。
【0022】
ここで遅れ補償器3は、ノミナルプラントモデル11と、遅れ要素のノミナルモデル12と、加減算器15と、加減算器16と、フィルタNd4と、フィルタNp5とから構成されている。
【0023】
また外乱補償器は、ノミナルプラントモデル11と、遅れ要素のノミナルモデル12と、加減算器15と、フィルタNp5と、FB制御器Cp(θ3)2とから構成されている。
【0024】
またフィルタN21は、制御対象が原点に極を有する場合であっても安定に遅れ補償が可能なように、ノミナルプラントモデルに対応する第2のFB制御器であるFB制御器Caと、ノミナルプラントモデルと、フィードバック制御系内に内包される遅れ要素のノミナルモデルとによる関数として構成される。
【0025】
図1において遅れを含む制御対象10は、FB制御器6とノッチフィルタ7と遅れ補償器3と外乱補償器によりFB制御が実行される。
【0026】
遅れ補償器3は、その内部に制御対象のモデルを有し、本実施例における制御対象のモデルはノミナルプラントモデル11、および遅れ要素のノミナルモデル12から成る。
【0027】
なおフィルタやマイナーループ制御系等、遅れを発生する要素が閉ループ系内に含まれる場合は、制御対象のモデルはそれらの遅れ要素のノミナルなモデルを含むものとしてもよい。
【0028】
操作量uに対する制御対象の出力信号と制御対象のモデルの出力信号とから加減算器15で誤差信号eが算出され、その誤差信号eに対してフィルタNp5およびフィルタNd4を作用させた結果の信号とノミナルプラントモデル11の出力信号とを加減算器16で加え合わせることで、遅れ補償器3の出力信号ypが算出される。
【0029】
遅れ補償器の出力信号ypは、制御対象が内包する遅れ要素を考慮した制御対象の出力信号の予測値信号であり、出力信号ypと目標値信号rとの偏差を、加減算器13で算出し、その偏差を基にFB制御器6が制御対象に対して補償を行う。
【0030】
モデル化誤差が無く外乱も介在しない理想的な状態を仮定すれば、加減算器15で算出される誤差信号eは零であり、FB制御器6は遅れを含まないノミナルプラントモデルPmに対してFB制御を行っているものと見なせ、その結果、FB制御器6の制御ゲインを高めることが可能になることが容易に理解できる。
【0031】
外乱補償器の出力d1は、遅れ補償器3に含まれるフィルタNp5の出力信号をFB制御器Cp(θ3)2で処理したものであり、FB制御器Cp(θ3)2はFB制御器CB(θ1)6と同構造であるとし、各々の制御パラメータθ1およびθ3は独立に設計できるものとする。
【0032】
本実施例では制御対象10は1つの共振特性を有するものとし、共振周波数をωm1と記載する。なお制御対象10が1つ以上の共振特性を有する場合であっても共振発生を回避したい共振周波数がωm1である場合は、本実施例を適用できる。
【0033】
制御対象10の入力(操作量u)が共振周波数成分を含むと共振が励起されるため、FB制御器6の操作量は共振周波数を含まないことが望ましい。
【0034】
これを実現する手段として、
図1に示すようにFB制御器6の後段にノッチ周波数が共振周波数ωm1に一致するノッチフィルタNch7を設ける。
これにより共振周波数成分を除去した操作量を制御対象10に入力できる。
【0035】
他方、FB制御器6は外乱dを抑制する役割を担っているが、ノッチフィルタNch7を設けたことで、共振周波数周辺において外乱dを抑制する能力が不十分になってしまい、外乱が共振を励起できる状態になる。
【0036】
これを回避する手段として、外乱dを推定し、ノッチフィルタNch7後段の加減算器14でノッチフィルタNch7の出力から外乱推定値を減じることで、外乱dを相殺することを考える。
【0037】
外乱推定値は、例えば非特許文献2に記載のあるような、外乱オブザーバを制御系に追加する方法がある。しかし
図1における第3のフィードバック制御器であるFB制御器Cp(θ3)2の出力が、外乱推定値の意味合いを担っていれば、外乱オブザーバを追加して設ける必要はない。さらに
図2の遅れ補償器のフィルタN21の演算を共用する形となっており、遅れ補償器3に対してFB制御器Cp(θ3)2を追加するのみで、演算コスト増を回避しながら外乱起因の共振発生を回避できる。
【0038】
以降、本実施例では
図1におけるFB制御器Cp(θ3)2の出力が外乱推定値の意味合いを担うことができることを示す。
【0039】
第1のフィルタであるフィルタNp5は、一巡伝達特性が制御対象のモデルと、第2のFB制御器との積で与えられ、かつ開ループ特性が入力に対して出力が等価になるように構成された閉ループ系伝達特性で与えられ、式(1)で示される。
【0040】
【0041】
ここでCa(θ2)は、第1のFB制御器CB(θ1)6と同構造の、θ1とは独立任意にパラメータθ2を決定できる第2のFB制御器である。
【0042】
Np×Cp(θ3)に加減算器15で算出された誤差信号eを入力した際の出力が外乱推定値の意味合いがあることを、
図3を用いて説明する。
【0043】
図3は一般に知られた外乱オブザーバ34の構成の例であり、
図3の外乱推定値は式(2)で与えられる。但し
図3のブロック33は、式(1)記載のFB制御器Ca(θ2)であるとした。
【0044】
【0045】
他方、
図1における誤差信号eは、以下の式(3)で与えられる。
【0046】
【0047】
外乱補償器の出力d1は、
図1に従えば、式(4)となる。
【0048】
【0049】
CaとCpは同構造のFB制御器としたので、制御パラメータがθ2=θ3のとき、
図1の外乱補償器の出力d1は
図3で示した外乱オブザーバ34の外乱推定値に一致する。すなわち
図1の外乱補償器は、外乱オブザーバ34の役割を担っているといえる。
【0050】
先願では、フィルタN21の設計に関して、式(5)、式(6)が示されている。
【0051】
【0052】
【0053】
但し、θ2≦θ1である。
【0054】
フィルタN21が式(5)および式(6)で与えられるとした場合、フィルタNp5を式(1)のように与えているので、フィルタN21が式(5)および式(6)として与えられた場合の、第2のフィルタであるフィルタNd4は、各々、式(7)、式(8)となる。
【0055】
【0056】
【0057】
図1の構成によれば、遅れ補償に関するフィルタN21の出力信号のFB制御器CB6の出力(操作量)における遅れ補償の影響は、ノッチフィルタNch7により共振周波数周辺で低下して、制御対象10に作用すると解釈できる。
【0058】
このようなフィルタN21の本来の性能をノッチフィルタNch7が阻害することを回避しつつ、
図1における外乱補償器が外乱オブザーバ34の意味合いを担うようにするには、遅れ補償に関するフィルタN21が式(5)と選ばれた場合においては、FB制御器Cp(θ3)2およびフィルタNd4を、式(9)式(10)のように定めればよい。
【0059】
【0060】
【0061】
これは以下の理由による。式(5)は、式(1)及び式(10)を用いて式(11)のように変形できる。
【0062】
【0063】
誤差信号eを入力とするフィルタN21(=Np×Nd)の出力信号の、
図1におけるFB制御器CBでの出力は、式(11)を用いて式(12)と書ける。
【0064】
【0065】
式(12)の右辺第一項は式(13)であり、外乱推定の意味合いを担う項になっていることがわかる。
【0066】
【0067】
Caは、CBと同構造のFB制御器としているので、もしθ1=θ2であれば式(12)の右辺第一項は
図3に示した外乱オブザーバによる外乱推定値になる。
【0068】
式(13)の効果をノッチフィルタNch7で抑制されないためには、式(13)で記述される信号をノッチフィルタNch7の後段に加算すればよい。
【0069】
図1における外乱補償器の出力d1は、式(9)のようにFB制御器Cp(θ3)を定めることで式(13)×(-1)となる。
【0070】
したがって、
図1において式(9)のようにFB制御器Cp(θ3)を定めることで、外乱推定の意味合いを担う項である式(13)をノッチフィルタNch7の後段に加算することが可能となる。
【0071】
また式(10)のようにフィルタNd4を選ぶことで、FB制御器CBの出力において、式(12)の右辺第2項の役割を担うことができる。
【0072】
すなわち、フィルタN21を式(5)のように選んだ場合、式(9)及び式(10)とすることで、式(5)のフィルタN21のうち外乱推定の意味合いを担う部分をノッチフィルタNch7の後段に切出すことができる。
【0073】
また、式(5)のフィルタが本来有する外乱抑制及び遅れ補償の役割を、ノッチフィルタNch7のバンドストップの影響なく操作量として制御対象10に与えることが可能である。
【0074】
本実施例では、
図3に示した外乱オブザーバを別に設けることなく、
図2に示した比較例に対して、式(9)に示したCpのみの追加で外乱オブザーバを構成でき、外乱に起因した共振の発生を抑制できる。
【0075】
したがって
図1に示した本実施例による制御器構成によれば、フィルタN21を式(5)とした場合において、遅れ補償器3により制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償できる。
【0076】
また演算コストの増加を回避しつつ外乱補償器を構成でき、これにより外乱起因の共振の発生を抑制できる。更に制御器の後段にノッチフィルタを設けた構成ゆえ、制御器に起因した共振の発生を抑制できる。
【0077】
またフィルタN21を式(6)のように選んだ場合、フィルタN21の本来の性能をノッチフィルタNch7が阻害することを回避しつつ、
図1における外乱補償器が外乱オブザーバの意味合いを担うようにするには、FB制御器Cp(θ3)2およびフィルタNd4を式(14)、式(15)のようにすればよい。
【0078】
【0079】
【0080】
なお、CBとCaの線形結合はCBと同構造のFB制御器になるものとする。この制約を満たすものとして、例えばPID制御器があげられる。
【0081】
これは以下の理由による。
式(6)は、式(1)及び式(10)を用いて式(16)のように変形できる。
【0082】
【0083】
誤差信号eを入力とするフィルタN21(=Np×Nd)の出力信号の、
図1中のFB制御器CBでの出力は、式(16)を用いて式(17)と書ける。
【0084】
【0085】
式(17)の右辺第一項は、式(18)に示すように外乱推定の意味合いを担う項になっていることがわかる。
【0086】
【0087】
式(18)の効果をノッチフィルタNch7で抑制されないためには、式(18)の効果をノッチフィルタNch7の後段に加算すればよい。
【0088】
図1における外乱補償器の出力d1は、式(14)のようにFB制御器Cp(θ3)を選択することで式(18)×(-1)となる。
【0089】
したがって
図1において、式(14)のようにFB制御器Cp(θ3)を選択することで、外乱推定の意味合いを担う項である式(18)をノッチフィルタNch7の後段に加算することが可能となる。
【0090】
また、式(15)のようにフィルタNd4を選ぶことで、FB制御器CBの出力において、式(17)の右辺第2項の役割を担うことができる。
【0091】
すなわち、フィルタN21を式(6)のように選んだ場合においても、式(14)及び式(15)とすることで、式(6)のフィルタN21のうち外乱推定の意味合いを担う部分をノッチフィルタNch7の後段に切出すことができる。さらに、式(6)のフィルタが本来有する外乱抑制及び遅れ補償の役割を、ノッチフィルタNch7のバンドストップの影響なく操作量として制御対象に与えることが可能である。
【0092】
本実施例では、
図3に示した外乱オブザーバ34を、追加して設けることなく、
図2に示した比較例に対して、式(14)に示したCpのみの追加で、外乱オブザーバを構成でき、外乱に起因の共振の発生を抑制できる。
【0093】
したがって
図1に示した本実施例による制御器構成によれば、フィルタN21を式(6)とした場合においても、遅れ補償器3により制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償できる。
【0094】
また、演算コスト増加を回避しつつ外乱補償器を構成でき、これにより外乱に起因した共振の発生を抑制できる。更に、制御器の後段にノッチフィルタを設けた構成ゆえ、制御器に起因した共振の発生を抑制できる。
【0095】
なお、式(5)および式(6)のようにフィルタN21を選んだ場合、フィルタNdはいずれの場合においても式(15)となるように選んだが、フィルタN21を式(5)と選んだ場合、第3のフィードバック制御器であるFB制御器Cp(θ3)2および第2のフィルタであるフィルタNd4を、式(19)および式(20)のようにすることも可能である。
【0096】
【0097】
【0098】
但し、0<γ≦1なる実数である。
【0099】
外乱補償器の出力d1を(1-γ)倍に弱め、弱めた分をフィルタN21の出力で補う構成である。つまり第3のフィードバック制御器の出力と第2のフィルタの出力を互いに調整する。これにより外乱補償器のノッチ周波数周辺の補償度合を、調整パラメータであるγで調整できる。
【0100】
またフィルタN21を式(6)と選んだ場合、FB制御器Cp(θ3)2およびフィルタNd4を、式(21)と式(22)のようにすることも可能である。
【0101】
【0102】
【0103】
外乱補償器の出力d1を(1-γ)倍に弱め、弱めた分をフィルタN21の出力で補う構成である。これにより、外乱補償器のノッチ周波数周辺の補償度合をγで調整できる。
【実施例2】
【0104】
図4は、実施例2におけるフィードバック制御系41の構成を示す図である。実施例1と共通な機能については説明を省略する。
【0105】
実施例2におけるフィードバック制御装置は、
図4に示すように、遅れ補償器3と、ノッチフィルタ7と、外乱補償器と、FB制御器6を備える。
【0106】
図4のフィルタNd4およびフィルタNp5は、これらを乗じたNp×Ndが
図2に示すように、制御対象が原点に極を有する場合であっても制御対象の入力端に加わるステップ外乱を定常偏差無く抑制できる、フィルタN21に一致するように、フィルタN21を分解したものである。
【0107】
図4において遅れを含む制御対象10は、FB制御器6とノッチフィルタ7と遅れ補償器3と外乱補償器によりFB制御が実行される。
【0108】
FB制御器6と、ノッチフィルタ7と、遅れ補償器3と、外乱補償器は、実施例1で示したものと同等であるが、遅れ補償器3の入力が、実施例1では制御対象10に対する操作量uであったのに対して、実施例2ではFB制御器6の出力信号になっている点が差異である。
【0109】
実施例1は、ノッチフィルタNch7によるFB制御器6の出力のバンドストップの効果が、制御対象10およびノミナルプラントモデル11にバランスして反映される構成であった。
【0110】
一方実施例2は、ノッチフィルタNch7によるFB制御器6の出力のバンドストップの効果は、制御対象10にのみ反映される構成である。
【0111】
また実施例1では、外乱補償器の出力d1をFBする位置は、遅れ補償器の入力uの前段であったが、本実施例では外乱補償器の出力d2をFBする位置は、遅れ補償器の入力の後段である。
【0112】
実施例1に対して実施例2の制御器構成は、遅れ補償器3の入力信号が変更され外乱推定値をFBする位置が変更されたため、
図4の構成における外乱補償器の出力(外乱推定値)d2はd1とは推定精度が異なっている。
【0113】
例えば、プラントモデルPとノミナルプラントモデルPmがともに共振周波数がωm1である共振特性を有するものとする場合と、プラントモデルPのみが共振周波数がωm1の共振特性を有する場合とで、実施例1と実施例2のいずれが外乱dの推定精度を期待できるかは異なる。そのため、用途・目的に応じて実施例1の構成とするか、実施例2の構成とするかを選択することになる。
【0114】
実施例2においても、フィルタNd4とフィルタNp5、及びFB制御器Cpを実施例1のように定めることで、外乱補償器の出力d2は外乱推定の意味合いを担うことが可能である。
【0115】
したがって、
図4に示した本実施例による制御器の構成によれば、遅れ補償器3により制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償できる。
【0116】
また、演算コストの増加を回避しつつ外乱補償器を構成でき、これにより外乱起因の共振の発生を抑制できる。更に、制御器の後段にノッチフィルタを設けた構成ゆえ、制御器に起因した共振発生を抑制できる。
【実施例3】
【0117】
図5は、実施例3におけるフィードバック制御系51の構成を示す図である。実施例1と共通な機能については説明を省略する。
【0118】
本実施例は、実施例1の制御器構成において、外乱補償器の出力信号を、バンドパスフィルタ52で処理した点が実施例1と異なる。
【0119】
バンドパスフィルタ52の中心周波数は、制御対象10の共振周波数ωm1に一致するように選択する。これにより、フィルタN21の出力信号の、制御対象に対する効果がノッチフィルタNch7のノッチ周波数周辺で失われた分のみを、外乱補償器によって補償できる。
【0120】
したがって、
図5に示した本実施例による制御器の構成によれば、制御対象が原点に極を有する場合においても、遅れ補償器3によりフィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償できる。
【0121】
さらに、外乱オブザーバを追加で設ける場合と比較して演算コスト増を回避しつつ、外乱補償器を構成でき、これにより外乱起因の共振発生を抑制できる。更に、制御器の後段にノッチフィルタを設けていることから、制御器に起因する共振の発生を抑制できる。
【実施例4】
【0122】
図6は、実施例4におけるACサーボモータの速度制御系61の構成を示す図である。実施例4におけるモータ制御装置は、ACサーボモータのカスケードFB制御系における速度制御系への適用を想定した場合である。
【0123】
モータの電気回路部分を電流制御器63が制御し、この制御周期が速度制御器62より十分速い前提においては、速度制御系において、電流制御系は近似的に1(速度制御器の操作量がモータの機械部分(ロータ)に直達される)にみなされる。
【0124】
したがって速度制御器62の制御対象は、モータの機械部分(ロータ)とモータロータに結合された機械613であり、実施例4では、機械613を実施例1における制御対象10とみなす。
【0125】
また、速度制御器62は、実施例1で示した遅れ補償器3とノッチフィルタNch7と、FB制御器6と、外乱補償器とから成るFB制御器とし、
図1の目標値信号rはモータ回転速度指令、
図1の遅れ補償器の出力信号ypは
図6の位置・速度算出器611から検出されるモータ回転速度とみなす。
【0126】
これにより、モータの機械部分(ロータ)とモータロータに結合された機械613は、遅れ補償器3と、ノッチフィルタNch7と、FB制御器6と、外乱補償器とから成る実施例1に示したFB制御器により制御運転される。
【0127】
本実施例において機械613は、共振周波数ωm1に共振特性を有するものとし、ノッチフィルタNch7のノッチ周波数は、機械613の共振周波数ωm1に一致するように設定されるものとする。
【0128】
速度制御系の第1のFB制御器であるFB制御器6はPI制御器とし、ノミナルプラントモデルPmに対応して、式(23)から式(25)により算出される。
【0129】
【0130】
ここでKspは、速度応答周波数がωsの場合の速度比例ゲインを示し、Ksiは速度応答周波数がωsの場合の速度積分ゲインであり、sはラプラス演算子である。
【0131】
【0132】
ここでJは、イナーシャを示し、Kaはモータ定数を示し、ωSは速度制御系の応答周波数を示し、PPは極対数である。
【0133】
【0134】
ここでLは折れ点比、ωSは速度制御系の応答周波数である。
フィルタNp5は式(26)とする。
【0135】
【0136】
次に、速度応答周波数がωnの場合の第2のFB制御器は、下記の式(27)から式(29)から算出される。
【0137】
【0138】
【0139】
ここでKnpは、速度制御系の応答周波数がωnのときの速度比例ゲインである。
【0140】
【0141】
ここでKniは、速度制御系の応答周波数がωnのときの速度積分ゲインである。
但し、実施例1のθ2≦θ1に対応して、ωn≦ωsとする。
フィルタNd4およびFB制御器Cp2は、式(14)および式(15)と同様に、式(30)、式(31)のように定める。
【0142】
【0143】
【0144】
なおFB制御器CBとCaは、PI制御器としているので式(30)のFB制御器CpもFB制御器CBと同構造のPI制御器になっている。
【0145】
上記したノミナルプラントモデルPmは式(32)で特定できる。
【0146】
【0147】
ここで、sはラプラス演算子、Kaはモータ定数,PPは極対数である。
【0148】
速度制御をPI制御で組む場合、上記の式(32)でPmが特定され、そのPmに対応して式(23)、(24)、(25)から、FB制御器CB6が適切に一意に定まる。
【0149】
以上に示した式(23)~式(31)の設定により、本実施例の
図6に示すACサーボモータのカスケードFB制御系における速度制御系に対しても、実施例1と同様に、遅れ補償器3により制御対象が原点に極を有する場合においても、フィードバック制御系の閉ループ内に存在する遅れ要素を補償できる。
【0150】
また、外乱オブザーバを追加する場合と比較して、演算コストの増加を回避しつつ、外乱補償器を構成できる。その構成により外乱起因の共振の発生を抑制できる。更に、制御器の後段にノッチフィルタを設けた構成ゆえ、制御器に起因した共振発生を抑制できる。
【0151】
図2に示した比較例は、本実施例の前提を含むので、以下に実施例に関係した部分の説明をする。
【0152】
図2のフィルタN21は、制御対象に対する任意のFB制御器と、制御対象のモデルと、制御対象に対する任意のFB制御器と制御対象のモデルで構成される閉ループ系の伝達関数と、閉ループ系の一巡伝達関数とを任意に用いて和差積商の形で構成した関数である。さらに、フィルタN21は、制御対象が原点に極を有し、Smith法では、制御対象の入力端に加わるステップ外乱に対して定常偏差を残してしまう場合であっても、定常偏差をゼロにできるフィルタの集合に属するもの、とする。
【0153】
【0154】
フィルタN21の設計方法における“制御対象のモデル”とは、
図2に従い、下記式(33)~(35)に示すものを想定している。但し式(33)は、
図2の制御対象Pのノミナルプラントモデル、式(34)は制御対象の全体が内包する遅れ要素のノミナルな遅れモデル、式(35)は遅れを含む制御対象全体のノミナルモデルを示す。
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
また比較例における、“制御対象に対応FB制御器と、制御対象のモデルで構成される閉ループ系の伝達関数”とは、例えば以下に示す式(36)、式(37)等を想定する。
【0159】
【0160】
【0161】
また比較例における、“閉ループ系の一巡伝達関数”とは、例えば以下に示す式(38)、式(39)等を想定する。
【0162】
【0163】
【0164】
従って、前述のフィルタN21の設計方法によれば、例えばフィルタN21の集合は、式(33)~(39)から、下記式(40)のような関数Fがその部分集合を構成する。
【0165】
【0166】
以上のように、設計したフィルタN21が、Np×Ndに一致するように、上記の実施例におけるNp、Ndが求められる。
【符号の説明】
【0167】
3…遅れ補償器、4…フィルタNd、5…フィルタNp、6…FB制御器CB、7…ノッチフィルタ