(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】固体電解質粉末
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220421BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220421BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20220421BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20220421BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
C01B35/12 A
C01G23/00 C
H01B1/08
(21)【出願番号】P 2021176820
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2021-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真理子
(72)【発明者】
【氏名】堺 英樹
(72)【発明者】
【氏名】西島 一元
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093403(WO,A1)
【文献】特開2017-091665(JP,A)
【文献】国際公開第2021/187443(WO,A1)
【文献】特開2015-056326(JP,A)
【文献】特開2016-031782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01B 1/06- 1/10
H01M 4/13- 4/62
C01B 35/12
C01G 23/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質粉末であって、
酸化物系の無機固体電解質材料を含有する固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを有する表面被覆粒子を含み、
前記被覆層が下記一般式(I)で表されるホウ酸リチウム塩を含み、当該固体電解質粉末中の前記ホウ酸リチウム塩の含有量が0.5質量%以上かつ5.5質量%以下であ
り、
前記固体電解質粒子の前記無機固体電解質材料が、下記一般式(II)で表される酸化物を含有する、固体電解質粉末。
Li
xB
yO
z (I)
(一般式(I)中、x及びyは、0.65≦x/(x+y)≦0.85を満たし、zは、z≧2を満たす。)
A
2/3-x
Li
3x
TiO
3
(II)
(一般式(II)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【請求項2】
前記被覆層の前記ホウ酸リチウム塩が、Li
3BO
3、LiBO
2、Li
2B
4O
7及びLi
10B
2O
8からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項
1に記載の固体電解質粉末。
【請求項3】
前記固体電解質粒子の平均粒子径D50が、0.05μm~100μmである、請求項1
又は2に記載の固体電解質粉末。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが、0.15μm~0.30μmである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の固体電解質粉末。
【請求項5】
前記表面被覆粒子の平均粒子径D50が、0.35μm~100.6μmである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の固体電解質粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば全固体電池に好適に用いられ得る固体電解質粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池のなかでも特に、電解質が固体からなる全固体リチウムイオン電池等の全固体電池は、液体電解質を用いるリチウムイオン電池に比して、優れた安定性及び信頼性、高エネルギー密度化、高出力化ならびに、広い作動温度等を実現できる可能性がある。それ故に、全固体電池は、自動車や電子機器、家庭用蓄電池等といった様々な用途での実用化が期待されている。
【0003】
全固体電池は一般に、気相法により作製される薄膜型と、微粒子を焼結させて作製されるバルク型に大別される。このうち、バルク型の全固体電池は、集電体間に粒状の正極活物質と、板状又は粒状の固体電解質と、粒状の負極活物質を積層させて焼結することにより形成される。バルク型の全固体電池の固体電解質は一般に、全固体電池の作製時に又は事前に固体電解質粉末を焼結させて得られるので、焼成型固体電解質と称されることがある。
【0004】
全固体電池の焼成型固体電解質に用いる材料の候補としては、種々のものが提案されているが、その材料の選定は、電池性能を大きく左右することから重要になる。それらのなかでも、酸化物系の無機固体電解質材料のうち、A2/3-xLi3xTiO3(0<x<0.16、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)で表される複合酸化物、特にAがLaであるペロブスカイト結晶構造の複合酸化物(いわゆるLLTO(登録商標))は、高いイオン伝導率、安定性及び耐久性を有すること等の理由から有望視されている。
【0005】
なお、特許文献1には、「炭素又はリチウム金属との電位差が0.1V以上である酸化物系の無機固体電解質材料を含む本体部と、前記本体部上に形成され、前記炭素又はリチウム金属との電位差が0.1V未満である酸化物系の無機固体電解質材料を含む還元防止層とを有する固体電解質」が提案されている。具体的には、「前記本体部が板状であり、板状の該本体部の一方の表面だけに、前記還元防止層が前記表面の全体を覆って形成されてなる」ものが記載されている。また、特許文献1には、「炭素又はリチウム金属との電位差が0.1V以上である酸化物系の無機固体電解質材料を含む板材、及び、炭素又はリチウム金属との電位差が0.1V未満である酸化物系の無機固体電解質材料を含む還元防止層を構成する原料粉をそれぞれ準備する原料準備工程と、前記原料粉を含むスラリー又は溶解液を作製する液作製工程と、前記板材上に前記スラリー又は前記溶解液をコーティングするコーティング工程と、前記板材を該板材上にコーティングされた前記スラリー又は前記溶解液とともに、450℃~650℃に加熱する焼成工程とを含む、固体電解質の製造方法」が開示されている。
【0006】
特許文献2には、「一般式LipLa(2-p)/3TiO3(0<p≦0.5)で表される酸化物の結晶構造の一部が前記酸化物の焼結温度よりも融点の低い低融点材料で置換されているか、前記酸化物を主成分とし、前記酸化物のほかに前記酸化物の焼結温度よりも融点の低い低融点材料を含んでいるかの少なくとも一方を満たす焼結体である、固体電解質」が記載されている。特許文献2では、「固体電解質の製造方法」として、「一般式LipLa(2-p)/3TiO3(0<p≦0.5)で表される酸化物の原料となる原料粉末と前記酸化物の焼結温度よりも融点の低い低融点原料とを混合して混合原料体を形成する混合原料体形成工程と、前記混合原料体を前記酸化物の焼結温度よりも低い温度で焼結する焼結工程と、を含む」ものが開示されている。
【0007】
特許文献3には、「正極活物質層と負極活物質層の間に、下記のいずれかの一般式で示されるリチウムランタンチタン酸化物の固体電解質層を設け、負極活物質層と固体電解質層の間に還元防止層を設けたことを特徴とする全固体リチウム電池。一般式(1-a)LaxLi2-3xTiO3-aSrTiO3、一般式(1-a)LaxLi2-3xTiO3-aLa0.5K0.5TiO3、一般式LaxLi2-3xTi1-aMaO3-a、および一般式Srx-1.5aLaaLi1.5-2xTi0.5Ta0.5O3(ただし、0.55≦x≦0.59、0≦a≦0.2、MはAl、Fe、Gaから選択される少なくとも一種)」が記載されている。
【0008】
特許文献4には、「リチウム二次電池であって、固体電解質層と、前記固体電解質層に接して配置された耐リチウム還元層と、を備え、前記耐リチウム還元層は、一般式(I)で表される化合物を含有し、前記耐リチウム還元層と前記固体電解質層との界面は、前記耐リチウム還元層と前記固体電解質層との連続層であることを特徴とするリチウム二次電池。Li7-xLa3(Zr2-x,Mx)O12 ・・・ (I)[式中、金属MはNb、Sc、Ti、V、Y、Hf、Ta、Al、Si、Ga、Ge、Sn、およびSbのうちの少なくとも1種を表し、Xは0~2を表す。]」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2021-082561号公報
【文献】特開2013-140762号公報
【文献】特開2014-120265号公報
【文献】特開2016-072210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したような焼成型固体電解質の形成に用いられる固体電解質粉末は、低温の加熱で焼結し、高いイオン伝導率を発揮し得るものであることが求められる。これはすなわち、高い温度に加熱しなければ焼結しない固体電解質粉末では、正極活物質と負極活物質との間に配置して焼結させるべく当該高温に加熱した際に、正極活物質や負極活物質との間で反応が生じ、それらの界面で、イオン伝導率を低下させ得る物質が生成するおそれがあること等の理由によるものである。
【0011】
しかしながら、これまでの酸化物系の無機固体電解質で粉末状のものは、ある程度の高温に加熱しなければ焼結しないものであった。したがって、低温で焼結して所要のイオン伝導率が発揮される固体電解質粉末が求められている。特許文献1~4のいずれにも、このような低温焼結性を有する固体電解質粉末については記載されていない。
【0012】
また、特許文献2の酸化物系の無機固体電解質では、Li2CO3、La2O3、TiO2、B2O3等の各粉末を混合して焼結させていることから、焼結後に空隙が多く形成される傾向がある。この場合、割れ(クラック)が発生しやすく、電池における内部短絡が発生するという問題がみられた。
【0013】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、比較的低い温度で焼結し、ある程度高いイオン伝導率を発揮することができ、かつ、焼結後の割れ(クラック)の発生を抑制することができる固体電解質粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の固体電解質粉末は、酸化物系の無機固体電解質材料を含有する固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを有する表面被覆粒子を含み、前記被覆層が下記一般式(I)で表されるホウ酸リチウム塩を含み、当該固体電解質粉末中の前記ホウ酸リチウム塩の含有量が0.5質量%以上かつ5.5質量%以下であるというものである。
LixByOz (I)
(一般式(I)中、x及びyは、0.65≦x/(x+y)≦0.85を満たし、zは、z≧2を満たす。)
【0015】
前記固体電解質粒子の前記無機固体電解質材料は、下記一般式(II)で表される酸化物を含有することが好ましい。
A2/3-xLi3xTiO3 (II)
(一般式(II)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【0016】
前記被覆層の前記ホウ酸リチウム塩は、Li3BO3、LiBO2、Li2B4O7及びLi10B2O8からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0017】
前記固体電解質粒子の平均粒子径D50は、0.05μm~100μmであることが好ましい。
【0018】
前記被覆層の厚みは、0.15μm~0.30μmであることが好ましい。
【0019】
前記表面被覆粒子の平均粒子径D50は、0.35μm~100.6μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明の固体電解質粉末によれば、比較的低い温度で焼結し、ある程度高いイオン伝導率を発揮することができ、かつ、焼結後の割れ(クラック)の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例4の固体電解質粉末のSEM像である。
【
図2】比較例5の固体電解質粉末のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の固体電解質粉末には、表面被覆粒子が含まれる。表面被覆粒子は、酸化物系の無機固体電解質材料を含有する固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを含んで構成されたものである。表面被覆粒子で固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように形成された被覆層は、一般式(I):LixByOzで表されるホウ酸リチウム塩を含有する。ここで、上記一般式(I)中、x及びyは、0.65≦x/(x+y)≦0.85を満たし、zは、z≧2を満たす。
【0023】
このような固体電解質粉末は、固体電解質粒子の表面に形成されて隣り合う固体電解質粒子間に位置する被覆層の存在により、比較的低い温度での加熱でも表面被覆粒子どうしが接合し、焼結が促進すると考えられる。また焼結時には、固体電解質粒子間に存在する被覆層によって粒成長が進みやすくなる可能性がある。ここでは、被覆層が一般式(I):LixByOz(0.65≦x/(x+y)≦0.85、z≧2)で表されるホウ酸リチウム塩を含むことにより、焼結後に高いイオン伝導率が発揮されると推測される。その結果として、優れた低温焼結性を示しつつ、焼結後に得られる焼結体のイオン伝導率が向上すると考えられる。また、焼結時に、固体電解質粒子を覆う被覆層により表面被覆粒子どうしが接合しやすいので、焼結体が緻密になって空隙の形成が抑えられる。これにより、焼結体の割れ(クラック)の発生が抑制され、電池における内部短絡の発生が有効に防止され得ると考えられる。但し、この発明は、そのようなメカニズムに限定されるものではない。
【0024】
(固体電解質粒子)
固体電解質粒子は、酸化物系の無機固体電解質材料を含有するものであれば、種々のものを用いることができる。具体的には、後述する一般式(II)で表される酸化物の他、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(LATP)あるいはLi1+xAlxGe2-x(PO4)3(LAGP)等のNASICOM型の電解質、Li2+2xZn1-xGeO4等のLISICON型の電解質、Li7La3Zr2O12(LLZ)等のガーネット型の電解質等を挙げることができる。このような無機固体電解質材料は高いイオン伝導率を有し、全固体電池の固体電解質に好適に用いることができる。
【0025】
なかでも、固体電解質粒子が含有する酸化物系の無機固体電解質材料は、一般式(II):A2/3-xLi3xTiO3で表される酸化物を含むことが、イオン伝導率や化学的安定性の観点から好ましい。ここで、一般式(II)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。特に、上記一般式(II)中のAがLaであるLa2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14)の酸化物を含むことが好適である。上記一般式(II)中のAがLaであるペロブスカイト結晶構造の複合酸化物は、LLTO(登録商標)とも称され得る。たとえば、一般式(II-a):LaxLi2-3xTiO3-aSrTiO3、一般式(II-b):LaxLi2-3xTiO3-aLa0.5K0.5TiO3、一般式(II-c):LaxLi2-3xTi1-aMaO3-a、又は、一般式(II-d):Srx-1.5aLaaLi1.5-2xTi0.5Ta0.5O3(一般式(II-a)~一般式(II-d)中、xは、0.55≦x≦0.59を満たし、aは、0≦a≦0.2を満たし、Mは、Al、Fe、Gaから選択される少なくとも一種である。)で表され、Al2O3含有量が0.35重量%以下であり、かつ、SiO2含有量が0.1重量%以下であるもの等が挙げられる。
【0026】
また、LLZのイオン伝導率を上げるためには、AlあるいはNb等の2種以上の元素をドープしなければならないところ、ここで述べる実施形態のように、LLZを含有する固体電解質粒子に乾式でコーティングした被覆層のホウ酸リチウム塩が、焼結過程で固体電解質粒子中に固溶する際に、そのホウ酸リチウム塩がドーパントと反応し、イオン伝導率に影響を及ぼす反応生成物の発生や結晶構造の変化が生じると推測される。このような観点から、固体電解質粒子が含有する酸化物系の無機固体電解質材料としては、一般式(II):A2/3-xLi3xTiO3で表される酸化物を用いることが特に好ましい。
【0027】
表面被覆粒子中の固体電解質粒子の無機固体電解質材料が、上記一般式(II)で表される酸化物を含むことは、表面被覆粒子に対してX線回折法を実施することにより確認することができる。X線回折法では、PANalytical X’pert Proにより得られた無機固体電解質材料のX線回折パターンを、ICDDデータベース(PANalytical Example DatabaseとPDF-4+ 2019RDB)と照合して、無機固体電解質材料中に含まれる上記一般式(II)で表される酸化物を同定する。
【0028】
ここでは、X線回折法により得られノイズを除去した無機固体電解質材料のX線回折パターンを上記ICDDデータベースと照合して、該無機固体電解質材料のX線回折パターン中に上記一般式(II)で表される酸化物のX線回折パターンが存在すると認められる場合に、無機固体電解質材料中に上記一般式(II)で表される酸化物が含まれていると判断する。一方、同様に上記ICDDデータベースと照合して、該無機固体電解質材料のX線回折パターン中に上記一般式(II)で表される酸化物のX線回折パターンが存在しないと認められる場合には、無機固体電解質材料中に上記一般式(II)で表される酸化物が含まれていないと判断する。なお、一般式(II)で表される酸化物以外の他の酸化物系の無機固体電解質材料も、ほぼ同様にして判断することができる。
【0029】
固体電解質粒子の無機固体電解質材料中の上記一般式(II)で表される酸化物は、酸素の一部がFやClなどの他の元素に置換されている場合や、遷移金属の一部が、Fe、Cr、Ti、Nb、W、Mo、Na、K、Mg、Caなどの他の金属で置換されている場合がある。また、上記一般式(II)で表される酸化物の化学量論組成に対してLiや酸素が過剰か欠損の場合もある。また、無機固体電解質材料中の上記一般式(II)で表される酸化物の結晶構造に歪みが生じている場合もある。上記のような酸化物の化学量論組成に対して構成元素が置換し、欠損し、もしくは過剰である場合、または結晶構造に歪みが生じている場合についても、無機固体電解質材料としての特性に変化が生じない範囲内であれば、上記一般式(II)で表される酸化物として許容されるものとする。
構成元素が欠損している酸化物や構成元素が過剰な酸化物の各X線回折パターンを上記ICDDデータベースに照合した場合、上記一般式(II)で表される酸化物のX線回折パターンからピークがシフト(ピークシフト)する可能性がある。そのようなピークシフトについては、上記ICDDデータベースのリファレンス値に対して±10%以内であれば、無機固体電解質材料中に上記一般式(II)で表される酸化物が含まれていると判断する。
【0030】
固体電解質粒子には、無機固体電解質材料として上記一般式(II)で表される酸化物が、99.0質量%以上で含まれることが好ましく、さらに99.5質量%以上で含まれることがより一層好ましい。この酸化物の含有量は多いほど望ましいので、その好ましい上限値は特にないが、たとえば99.999質量%以下、典型的には99.99質量%以下になることがある。当該酸化物の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)により測定する。
【0031】
固体電解質粒子は、上記一般式(II)で表される酸化物の他、不純物として、Si、Al及びFeからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。固体電解質粒子中の不純物の含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0032】
固体電解質粒子の平均粒子径D50は、好ましくは0.05μm~100μm、より好ましくは10μm~70μmである。固体電解質粒子の平均粒子径D50が小さすぎる場合、固体電解質粒子を表面被覆粒子で覆いにくくなるおそれがあり、大きすぎる場合は、相対的に表面被覆粒子の量が減り、低温焼結性が得られにくくなることが懸念される。固体電解質粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法により求められる粒度分布測定で、体積基準の累積分布が50%となる粒径を意味し、JIS Z8825:2013に基づいて測定する。
【0033】
(被覆層)
被覆層は、上記の表面被覆粒子の表面の少なくとも一部を覆うように形成されたものである。被覆層は、一般式(I):LixByOz(0.65≦x/(x+y)≦0.85、z≧2)で表されるホウ酸リチウム塩を含有する。このようなホウ酸リチウム塩を含有する被覆層であれば、表面被覆粒子を含む固体電解質粉末が、上述したように、優れた低温焼結性を有し、焼結後に高いイオン伝導率を発揮することができ、かつ、割れ(クラック)の発生を抑制し、電池における内部短絡の発生を防止することができる。
【0034】
上記一般式(I)で表されるホウ酸リチウム塩として具体的には、たとえば、Li3BO3、LiBO2、Li2B4O7、Li10B2O8等を挙げることができる。被覆層のホウ酸リチウム塩が、Li3BO3、LiBO2、Li2B4O7及びLi10B2O8からなる群から選択される少なくとも一種を含む場合、低温焼結性及びイオン伝導率の更なる向上が見込まれる。これらのホウ酸リチウム塩は、融点が約600℃~900℃であって固体電解質粒子の酸化物系の無機固体電解質材料より低く、かつ、リチウムイオン伝導性をもつ物質であるからである。特に、ホウ酸リチウム塩はLi3BO3を含むことが、前述のホウ酸リチウムのなかでもより高いイオン伝導性を示す点で好適である。そのようなホウ酸リチウム塩を含むことは、X線回折法により確認することができる。
【0035】
固体電解質粉末中のホウ酸リチウム塩の含有量は、0.5質量%~5.5質量%、さらに1.0質量%~5.0質量%であることが好ましい。ホウ酸リチウム塩の含有量が少なすぎると、所期したほど低温焼結性及びイオン伝導率が向上しない可能性がある。この一方で、ホウ酸リチウム塩の含有量が多すぎると、イオン伝導率の低下のおそれがある。ホウ酸リチウム塩は、酸化物系の無機固体電解質材料よりもイオン伝導率が低い傾向があるからである。ホウ酸リチウム塩の含有量は、固体電解質粒子と被覆層粒子の全質量で被覆層粒子の質量を除算することで求められる。
【0036】
被覆層は、固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を覆っていればよいが、固体電解質粒子の表面のほぼ全体を覆うように形成されていることが好ましい。被覆層は、固体電解質粒子の表面上で少なくとも一部が多数の粒子を含む粒状となっていることがあるが、多くの場合、当該表面上で実質的に一体になった膜状の形態となり得る。固体電解質粒子の周囲の少なくとも一部に、その表面の少なくとも一部を覆う所定のホウ酸リチウム塩の部分が存在していれば、当該部分は、その形態が粒状であるか又は膜状であるか等を問わず、被覆層であるとみなす。
【0037】
被覆層が固体電解質粒子の表面の全体を覆う場合、被覆層の最も薄い厚みは0.05μm以上であることが好ましい。被覆層の最小厚みが薄すぎると、被覆層による焼結助剤としての効果がそれほど得られず、焼結温度が十分低温にならないことが懸念されるからである。一方、被覆層の最も厚い厚みは0.50μm以下であることが好ましい。被覆層の最大厚みが厚すぎる場合は、イオン伝導率の低下のおそれがあるからである。このため、被覆層の厚みは、0.05μm~0.50μm、さらに0.15μm~0.35μm、特に0.15μm~0.30μmであることが好適である。被覆層の厚みは、表面被覆粒子の切断面を走査電子顕微鏡で観察し、そのSEM像から測定することができる。
【0038】
(表面被覆粒子)
主として固体電解質粉末を構成する表面被覆粒子は、上述したような固体電解質粒子の表面の少なくとも一部が被覆層で覆われたものである。
【0039】
表面被覆粒子の平均粒子径D50は、好ましくは0.35μm~100.6μmであり、より好ましくは10.3μm~70.7μmである。このような範囲であれば、焼結して良好な固体電解質を形成することができる。表面被覆粒子の平均粒子径D50は、先述した固体電解質粒子の平均粒子径D50及び被覆層の厚みの測定値を用いて、固体電解質粒子の平均粒子径D50に、被覆層の厚みを二倍にした値を足し合わせることにより算出することができる。
【0040】
(製造方法)
上述した固体電解質粉末を製造するには、たとえば、固体電解質粒子と被覆層粒子とを混合し、固体電解質粒子の表面の少なくとも一部が被覆層粒子で覆われるように、固体電解質粒子をコーティングするコーティング工程を行う。
【0041】
ここで、固体電解質粒子は、先述した酸化物系の無機固体電解質材料を含有するものであり、これには、上記一般式(II)で表される酸化物が含まれることが好ましい。固体電解質粒子は、先に述べたように、平均粒子径D50が0.05μm~100μmであることが好適である。
【0042】
またここで、被覆層粒子は、上記一般式(I)で表されるホウ酸リチウム塩を含有するものとする。被覆層粒子に含まれるホウ酸リチウム塩は、Li3BO3、LiBO2、Li2B4O7及びLi10B2O8からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、特にLi3BO3を含むことがより一層好ましい。
【0043】
被覆層粒子の平均粒子径D50は、1nm~5μm、さらに10nm~1μmであることが好適である。被覆層粒子の平均粒子径D50が大きすぎると、固体電解質粒子をコーティングできない可能性があり、この一方で小さすぎると、凝集、粉砕時の異物混入の可能性が高まると考えられる。被覆層粒子の平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法により求められる粒度分布測定で、体積基準の累積分布が50%となる粒径を意味し、JIS Z8825:2013に基づいて測定する。
【0044】
コーティング工程では、上記の固体電解質粒子と被覆層粒子とを混合させる。このとき、種々の混合機を用いることができるが、その一例としては、たとえば高速撹拌型混合造粒機(株式会社奈良機械製作所のNMG-1L等)が挙げられる。
コーティング方法としては、造粒ハンドブック(日本粉体工業技術協会編、オーム社)、粒子設計工学(粉体工学会編、産業図書)のような刊行物に記載されている方法が挙げられるが、本発明では乾式コーティング法が好ましい。
【0045】
上述したように、平均粒子径D50等の粒径の異なる固体電解質粒子と被覆層粒子とを混合させると、たとえば静電気力等の作用により、粒径の大きい固体電解質粒子の周囲に粒径の小さい被覆層粒子が固着しやすくなる。そして、混合ないし撹拌時に、ある程度柔らかい被覆層粒子が押し付けられ、固体電解質粒子の表面上で粒子どうしが一体になって膜状になる場合がある。
【0046】
コーティング工程での固体電解質粒子と被覆層粒子との混合割合として、固体電解質粒子と被覆層粒子の全体に占める被覆層粒子の割合(固体電解質粒子と被覆層粒子との合計の質量に対する被覆層粒子の質量の割合)は、質量基準で、好ましくは0.5質量%~5.5質量%であり、より好ましくは1.0質量%~5.0質量%である。固体電解質粒子に対して被覆層粒子が多すぎるとイオン伝導率が低下してしまうおそれがあり、被覆層粒子が少なすぎると低温焼結ができないことが懸念される。
【0047】
混合機で固体電解質粒子と被覆層粒子を撹拌する場合、撹拌速度は、300rpm~2000rpmとすることが好適である。撹拌速度が遅すぎると、混合が均一に行われず、固体電解質粒子と被覆層粒子の付着が不十分となる可能性がある。一方、撹拌速度が速すぎると、被覆層粒子が舞い上がり、固体電解質粒子と十分に付着しない可能性がある。
上記の高速撹拌型混合造粒機を用いる場合、具体的には、その主軸の回転速度は、400rpm~800rpmとすることが好ましく、副軸の回転速度は、1200rpm~1800rpmとすることが好ましい。混合時間は、3分~20分とすることができる。
【0048】
固体電解質粒子及び/又は被覆層粒子は、市販されているものを用いることができる他、上記のコーティング工程前に作製することも可能である。
【0049】
固体電解質粒子は、たとえば次のようにして作製されることがある。
はじめに、リチウム原料として水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物と、チタン原料として酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸等のチタン化合物(たとえば平均粒子径D50:0.1μm~1.0μm、BET比表面積:5.0m2/g~100.0m2/g)と、ランタン原料として酸化ランタンとをそれぞれ、いずれも粉末状のものとして用意する。なお必要に応じて、Sr、K、Fe、Ga及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の水酸化物、塩化物及び/又は炭酸塩等も用意する。
【0050】
次いで、第一湿式粉砕工程で、上記のリチウム原料、チタン原料及びランタン原料等の原料を所定のモル比で、ボールミル等にて、純水とエタノール等の混合溶媒と混合して粉砕する。粉砕の後、スプレードライヤー乾燥機、流動層乾燥機、転動造粒乾燥機、凍結乾燥機または熱風乾燥機等を用いて乾燥し、第一粉砕粉末を得る。
【0051】
その後、仮焼工程で、第一粉砕粉末を、酸素もしくは大気雰囲気または、窒素等の不活性ガス雰囲気の下、1000℃~1200℃で1時間~12時間にわたって加熱する。これにより、仮焼粉末が得られる。
【0052】
さらにその後、第二湿式粉砕工程で、仮焼粉末を、ボールミル等で溶媒を加えて粉砕した後に乾燥し、第二粉砕粉末を得る。しかる後、乾式粉砕工程として、ボールミル等を用いて第二粉砕粉末を乾式で粉砕し、さらに必要に応じて乾式もしくは湿式のジェットミル等による微粒子化を行った後に、固体電解質粒子が得られる。
【実施例】
【0053】
次に、この発明の固体電解質粉末を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、この説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されるものではない。
【0054】
(製造方法)
固体電解質粒子(東邦チタニウム株式会社製のLLTO(登録商標))と、被覆層粒子(株式会社豊島製作所製のLi3BO3)を準備した。固体電解質粒子は、主としてLa0.57Li0.29TiO3等のLLTO(登録商標)からなり、平均粒子径D50が40μm、密度が5.2g/cm3であった。被覆層粒子は、主としてLi3BO3からなり、平均粒子径D50が9.8μmであったものをアセトンによる湿式粉砕で平均粒子径D50を1.2μmとし、密度が2.09g/cm3であった。
【0055】
株式会社奈良機械製作所製の高速撹拌型混合造粒機(NMG-1L)を用いて上記の固体電解質粒子と被覆層粒子を混ぜ合わせて、被覆層粒子による固体電解質粒子のコーティングを行った。その際に、高速撹拌型混合造粒機の主軸回転速度は600rpm、副軸回転速度は1500rpmとし、処理時間(混合時間)は10分とした。混合割合として固体電解質粒子と被覆層粒子の全体に占める被覆層粒子の質量基準の割合は、表1に示すように、実施例1~4、比較例2~5で変化させた。比較例1では、コーティングを行わなかった。
【0056】
それにより、それぞれ所定の被覆率で固体電解質粒子の表面の少なくとも一部が被覆層で覆われた表面被覆粒子を形成し、実施例1~4、比較例2~5の固体電解質粉末を得た。実施例1~4及び比較例2~5の固体電解質粉末は、被覆層粒子の割合を除き、ほぼ同様の製造条件とした。比較例1は、上記のコーティングを行っておらず、固体電解質粒子からなる固体電解質粉末とした。
【0057】
また、先述したように、固体電解質粉末における表面被覆粒子の平均粒子径D50及び、被覆層の厚みを測定した。その結果を表1に示す。参考までに、実施例4の固体電解質粉末のSEM像を
図1に、また比較例5の固体電解質粉末のSEM像を
図2にそれぞれ示す。
図1及び2中、矢印で示すように、固体電解質粒子の表面に被覆層が形成されていることが解かる。
【0058】
【0059】
(低温焼結性及びイオン伝導率)
比較例1~5並びに実施例1~4のそれぞれについて、低温焼結性及びイオン伝導率を確認するため、次に述べる試験を行った。0.59gの固体電解質粉末に対して0.1tで30秒の空気抜きを行った後、2.26tで60秒にわたって一軸圧縮を施して圧粉体を作製した。これにより、直径12mm、厚み1.5mmの円盤状の成形体を得た。そして、上記の成形体に対して、1000℃で6時間の加熱、1100℃で6時間の加熱又は1200℃で6時間の加熱を施し、焼結体を作製した。
【0060】
その後、リチウムイオン伝導率を測定するため、上記の焼結体のプレート(Φ12mm)の両面に、1MのLiCl水溶液を染み込ませた2枚の濾紙(Φ6mm)をそれぞれ貼り付けて、これをステンレス製の電極で挟み込んだ。ここでは、濾紙に染み込ませたLiCl水溶液が電解質として用いられる。そして、測定周波数5~13MHzでナイキストプロットを測定し、測定データから粒内、粒界の抵抗値を読み取った。リチウムイオン伝導率は、以下の計算式より求めた。その結果を表1に示す。
リチウムイオン伝導度(Scm-1)=1/(Rb+Rgb)×(L/S)
Rb:粒内の抵抗値(Ω)
Rgb:粒界の抵抗値(Ω)
L:板状のリチウムランタンチタン酸化物の厚み(cm)
S:電極の面積(cm2)
【0061】
(焼結体断面の目視評価)
上記の焼結体のプレート(Φ12mm)の断面を電子顕微鏡(SEM)で観察し、焼結体の緻密性(空隙の少なさ)を評価した。表1中、断面状態の「〇」は、固体電解質粒子同士の結着性が良好で、かつ、固体電解質粒子同士が結着して緻密化していたことを意味し、「×」は、固体電解質粒子同士の結着性が不良で、かつ、細かいクラックが発生し、固体電解質粒子同士が結着して緻密化していなかったことを意味する。
【0062】
(考察)
表1の結果より、実施例1及び実施例2と比較例1とを比較すると、1000℃の低温焼結で得られた焼結体は、比較例1ではイオン伝導度が検出されなかったが、実施例1及び実施例2では、イオン伝導度が検出された。また、1200℃の低温焼結による焼結体では、比較例1よりも実施例1及び実施例2の方が、イオン伝導度が高かった。
また、実施例3及び実施例4と比較例1とを比較すると、1100℃の低温焼結の焼結体は、比較例1よりも実施例3及び実施例4の方がイオン伝導度が高く、実施例4については、1200℃の低温焼結で得られた焼結体においても、比較例1よりもイオン伝導度が高かった。
したがって、いずれの実施例1~4も、それぞれ少なくとも所定の低い温度では焼結しやすく、ある程度高いイオン伝導度が得られたといえる。
【0063】
一方、比較例2~5は、1000℃、1100℃及び1200℃のいずれの温度で低温焼結させた焼結体においても、イオン伝導度が検出されなかった。
【0064】
また、実施例1~4は、固体電解質粒子同士の結着性が良好で、かつ、固体電解質粒子同士が結着して緻密化していることが確認された。
比較例1~5は、固体電解質粒子同士の結着性が不良で、かつ、細かいクラックが発生し、固体電解質粒子同士が結着して緻密化していないことが確認された。
【0065】
本実施例で実験的に示されたように、本実施形態を適用することにより、比較的低い温度で焼結し、ある程度高いイオン伝導率を発揮することができ、かつ、割れ(クラック)の発生を抑制し、電池における内部短絡の発生を防止した固体電解質粒子を提供することが可能となる。
【要約】
【課題】比較的低い温度で焼結し、ある程度高いイオン伝導率を発揮することができ、かつ、焼結後の割れ(クラック)の発生を抑制することができる固体電解質粉末を提供する。
【解決手段】この発明の固体電解質粉末は、酸化物系の無機固体電解質材料を含有する固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを有する表面被覆粒子を含み、前記被覆層が、一般式(I):LixByOz(0.65≦x/(x+y)≦0.85、z≧2)で表されるホウ酸リチウム塩を含み、当該固体電解質粉末中の前記ホウ酸リチウム塩の含有量が0.5質量%以上かつ5.5質量%以下である。
【選択図】なし