(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-20
(45)【発行日】2022-04-28
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220421BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220421BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20220421BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20220421BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220421BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C08K3/22
C08K3/28
C08L83/07
C08L83/05
(21)【出願番号】P 2021573956
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2021025007
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020208575
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 克之
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特許第6778846(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/179115(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137086(WO,A1)
【文献】特開2019-65211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C08K 3/22
C08K 3/28
C08L 83/07
C08L 83/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シートであって、
前記マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、
前記マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、前記未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、
前記マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、
前記熱伝導性無機粒子は、破砕状酸化アルミニウム粒子及び破砕状窒化アルミニウム粒子を含み、
前記熱伝導性シートは硬化されて
おり、
前記硬化後の熱伝導性シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、9.5mm以下であることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
前記未反応シリコーンオイル(A2)は、25℃における粘度が50~3000mm
2/sである請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記熱伝導性シートの熱伝導率は、5.0~15.0W/mKである請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記熱伝導性無機粒子は、さらに別の熱伝導性無機粒子を含み、前記別の熱伝導性無機粒子は、破砕状以外の酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、炭化ケイ素、破砕状以外の窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも一つの無機粒子である請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記熱伝導性シートの50%圧縮荷重値が1000N以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記熱伝導性無機粒子は、平均粒子径0.01μm以上200μm以下である請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱伝導性無機粒子は、破砕状である請求項1~
6のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む請求項1~
7のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法であって、
前記マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、
前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は、付加硬化型シリコーンポリマー100質量部に対して熱伝導性無機粒子を1000~3000質量部加えた組成物の硬化シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、1.5mm以下であり、
前記マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、前記未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、
前記マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、
前記熱伝導性無機粒子は、破砕状酸化アルミニウム粒子及び破砕状窒化アルミニウム粒子を含み、
前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、前記未反応シリコーンオイル(A2)と、前記熱伝導性無機粒子(B)を含む成分を混合し、シート成形し、硬化することを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱体との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンゲルが使われている。従来の熱伝導性シリコーンのゲル状硬化物は、組成物中のアルケニル基とSi-H基の割合を偏らせることで未反応部分を残し、ゲル状の硬化物を実現していた。しかし、アルケニル基とSi-H基の割合を偏らせてゲル状の硬化物とすると、原料の未反応オイルが硬化物中に残ってしまい、オイルブリードの原因となっていた。
特許文献1には、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒及び熱伝導性粒子を含有する放熱材が提案されており、請求項3にはSi-H基が多いオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することが提案されている。特許文献2には、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均約2個有し、ケイ素原子に結合した他の有機基が脂肪族不飽和結合を含まない置換もしくは非置換の1価の炭化水素基であり、特定の粘度を有するアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと、ジオルガノ水素シロキシ末端ポリオルガノシロキサンを使用して、オイルブリードの低いゲルとすることが提案されている。特許文献3には、熱伝導性粒子を表面処理することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-344106号公報
【文献】特開2008-143980号公報
【文献】特開2020-002236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導率が低いという問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、熱伝導率が高く、かつオイルブリードを抑制した熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱伝導性シートは、マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シートであって、
前記マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、
前記マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、前記未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、
前記マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、
前記熱伝導性無機粒子は、破砕状酸化アルミニウム粒子及び破砕状窒化アルミニウム粒子を含み、
前記熱伝導性シートは硬化されており、
前記硬化後の熱伝導性シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、9.5mm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シートの製造方法であって、前記マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、
前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は、付加硬化型シリコーンポリマー100質量部に対して熱伝導性無機粒子を1000~3000質量部加えた組成物の硬化シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、1.5mm以下であり、
前記マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、前記未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、
前記マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、
前記熱伝導性無機粒子は、破砕状酸化アルミニウム粒子及び破砕状窒化アルミニウム粒子を含み、
前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、前記未反応シリコーンオイル(A2)と、前記熱伝導性無機粒子(B)を含む成分を混合し、シート成形し、硬化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱伝導性シートは、マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シートであって、前記マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、前記マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、前記未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、前記マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、前記熱伝導性シートは硬化されていることにより、熱伝導率が高く、かつオイルブリードを抑制した熱伝導性シート及びその製造方法を提供できる。また、本発明は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)を未反応シリコーンオイル(A2)で一部置き換えることにより、オイルブリードを抑制した熱伝導性シリコーン組成物を提供できる。さらに、架橋密度が、付加硬化型シリコーンポリマー単独と比べて相対的に下がり、圧縮荷重を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1A-Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【
図2】
図2Aは本発明の一実施例におけるオイルブリード幅測定試験を示す模式的断面図、
図2Bは同オイルブリード幅を測定する模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シートである。マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と未反応シリコーンオイル(A2)を含む。マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、好ましくは、付加硬化型シリコーンポリマーは(A1)30質量%以上90質量%以下であり、未反応シリコーンオイル(A2)は10質量%以上70質量%以下である。前記の範囲であれば、オイルブリードは低く抑えられる。
【0011】
マトリックス樹脂(A)100質量部に対して熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、好ましくは熱伝導性無機粒子が1500~2200質量部である。前記の範囲であれば、熱伝導性を高くできる。
【0012】
未反応シリコーンオイル(A2)は、25℃における粘度が50~3000mm2/sが好ましく、より好ましくは、70~2500mm2/sである。粘度測定はブルックフィールド型回転粘度計 Sp No.2を使用する。粘度が前記の範囲であれば、オイルブリードは低く抑えられ、熱伝導性無機粒子の充填性も良好である。未反応シリコーンオイルは、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどであり、反応基を持たないシリコーンポリマーである。
【0013】
熱伝導性シートの熱伝導率は、5.0~15.0W/mKが好ましく、より好ましくは6.0~15.0W/mKであり、さらに好ましくは7.0~15.0W/mKである。この範囲の熱伝導率であれば、多くのデバイスに有用である。
【0014】
熱伝導性シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、9.5mm以下であるのが好ましい。より好ましいオイルブリード幅は、3mm以下である。これによりオイルブリードを低く抑えることができる。
【0015】
本発明の熱伝導性シートは、50%圧縮荷重値が1000N以下であるのが好ましく、より好ましくは600N以下である。これにより、潰れやすくなり、発熱体への物理的負荷を軽減することができるという利点がある。
【0016】
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、次のとおりである。
(1)マトリックス樹脂(A)として、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を準備し、マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下とする。また、マトリックス樹脂100質量部(A)に対して熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部とする。
前記付加硬化型シリコーンポリマー(A1)として、付加硬化型シリコーンポリマー100質量部に対して熱伝導性無機粒子を1000~3000質量部加えた組成物の硬化シートをタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、ガラス板と薬包紙に挟んで圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅が、1.5mm以下のものを使用するのが好ましい。これにより、硬化後の熱伝導性シートのオイルブリード幅も低く抑えられる。以下、原料の付加硬化型シリコーンポリマーと熱伝導性無機粒子の組成の硬化シートのオイルブリード幅を、ベースポリマー組成物の硬化シートのオイルブリード幅という。
(2)付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)と、熱伝導性無機粒子(B)を含む成分を混合し、シート成形し、硬化する。混合はニーダー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等の混合装置を用いるのが好ましい。混合中もしくは混合後に減圧脱泡するのが好ましい。シート成形は圧延、プレス成型などを使用して所定の厚みに成形する。硬化は常温硬化でもよいし加熱硬化でもよい。加熱硬化の場合は、80~120℃で5~40分間加熱処理する。
【0017】
熱伝導性無機粒子は、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化亜鉛、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム及びシリカから選ばれる少なくとも一つの無機粒子であるのが好ましい。このうち、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウムがとくに好ましい。熱伝導性無機粒子の形状は球状、不定形状、針状、板状など、特に限定されるものではない。
【0018】
酸化アルミニウムとしては加熱溶融により製造された球状アルミナ、キルンで焼成により製造された焼結アルミナ、電弧炉で溶融され製造された電融アルミナ、アルミニウムアルコキシドの加水分解やIn situ Chemical Vapour Deposition法等により製造された高純度アルミナ等あるが、特に限定されるものではない。得られた酸化アルミニウム粒子は粉砕等することにより目的の粒子径範囲にすることもできる。これにより破砕状の酸化アルミニウム粒子が得られる。本発明においては破砕状酸化アルミニウム粒子を用いるのが好ましい。
【0019】
窒化アルミニウムとしては直接窒化法、還元窒化法、燃焼合成法等により製造された窒化アルミニウム、さらに得られた窒化アルミニウムを凝集させた凝集窒化アルミニウム等が知られているが、特に限定されるものではない。得られた窒化アルミニウム粒子は粉砕等することにより目的の粒子径範囲にすることもできる。これにより破砕状の窒化アルミニウム粒子が得られる。本発明においては破砕状窒化アルミニウム粒子を用いるのが好ましい。
【0020】
熱伝導性無機粒子は、平均粒子径0.01μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上150μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。
【0021】
前記マトリックス樹脂は、付加硬化型シリコーンポリマー(オルガノポリシロキサン)を使用する。このポリマーは耐熱性が高く熱伝導性シートとして有用である。オルガノポリシロキサンは市販品を使用することができ、粘度は100~10000mPa・sが好ましい。付加硬化型シリコーンポリマー(オルガノポリシロキサン)は、白金系硬化触媒により付加反応により硬化する。通常、A液とB液に分かれており、一方の液には白金系硬化触媒が含まれており、他方の液には加硫剤(硬化剤)が含まれており、両液を混合して組成物とし、シート成形後に硬化させる。
【0022】
熱伝導性シートは、マトリックス樹脂100質量部に対してさらにシランカップリング剤が0質量部を超え200質量部以下添加されていてもよい。シランカップリング剤は、R-Si(CH3)a(OR’)
4-a
(Rは炭素数1~20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1~4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物がある。前記化学式で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサドデシルトリメトキシシラン,ヘキサドデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。シランカップリング剤は、熱伝導性無機粒子の表面処理剤として使用できる。
【0023】
本発明の熱伝導性熱伝導性シートには、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延材などを添加してもよい。着色、色調の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。前記のシランカップリング剤を添加してもよい。
【実施例】
【0024】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記の方法で測定した。
【0025】
<熱伝導率>
熱伝導性グリースの熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は
図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、
図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
<オイルブリード幅の測定方法>
図2Aは本発明の一実施例におけるオイルブリード幅の測定試験装置11を示す模式的断面図である。熱伝導性硬化シートサンプル12はタテ25mm、ヨコ25mm、厚さ1mmとし、アルミ板14の上の2枚の薬包紙13と、上からのガラス板15で挟み、圧縮率50%とし、125℃、72時間保持した時のオイルブリード幅(広がり)を測定する。
図2Bは同オイルブリードの幅(広がり)を測定する模式的平面図である。薬包紙13上の熱伝導性硬化シートサンプル12の圧縮後のサイズをD2とし、オイルブリード領域16の端から端までの長さをD1としたとき、次の式により算出する。
オイルブリード幅=(D1-D2)/2
単位はmmである。ベースポリマー組成物の硬化シートのオイルブリード幅も同様に測定する。
<未反応シリコーンオイルの粘度>
粘度測定はブルックフィールド型回転粘度計 Sp No.2を使用し、25℃における粘度を測定した。
<50%圧縮荷重値>
ASTM D575-91:2012に準じた方法を用い、直径(φ)28.6mm×1.0mmのサイズで準備したサンプルをφ28.6mm×4.0mmのアルミニウムブロックで挟み込み、50%に圧縮した時の瞬間値を読み取った。
【0026】
(実施例1~4、比較例1)
(1)原料成分
・マトリックス樹脂(A)
付加硬化型シリコーンポリマー(A1)として、市販の2液タイプのオルガノポリシロキサンを使用した。一方の液には白金系硬化触媒が含まれており、他方の液には加硫剤(硬化剤)が含まれている。
未反応シリコーンオイル(A2)として、市販のジメチルシリコーンオイル(粘度:100mm2/s)を使用した。
・熱伝導性無機粒子(B):窒化アルミニウム(平均粒子径70μm、20μm、1μm、粒子形状 破砕状)と酸化アルミニウム(平均粒子径 0.3μm、粒子形状 破砕状)をマトリックス樹脂(A)100質量部に対して合計で1500質量部となる割合で添加した。前記酸化アルミニウムフィラーはn-オクチルトリエトキシシランで表面処理(前処理)したものを用いた。表面処理は、酸化アルミニウム100質量部に対してn-オクチルトリエトキシシランを2.48質量部添加及び攪拌したのち、125℃,12時間加熱処理した。
(2)混合
前記原料成分をプラネタリーミキサーに入れ、23℃で10分間混合した。混合中もしくは混合後に減圧脱泡した。
(3)硬化シートの成形
混合後の熱伝導性組成物をロール圧延して1mmの厚みに成形してシートとし、100℃のオーブンに20分間入れて加熱硬化した。
得られた硬化シートの各種物性を表1にまとめて示す。表1中、「ベースポリマー組成物のオイルブリード幅」とは、シリコーンオイル無しの組成の硬化シートのオイルブリード幅のことである。また、シリコーンオイル有りの組成の硬化シートのオイルブリード幅は、単に「オイルブリード幅」と表示する。これは表2~4においても同様である。
【0027】
【0028】
表1に示すとおり、実施例1~4は比較例1に比べてオイルブリード幅が小さかった。
【0029】
(実施例5~8、比較例2~3)
熱伝導性無機粒子(B)をマトリックス樹脂(A)100質量部に対して合計で2010質量部とし、オイル比を変えた以外は実施例1と同様に実施した。条件と結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
表2に示すとおり、実施例5~8は比較例3に比べてオイルブリード幅が小さかった。また50%圧縮荷重値は、実施例5~8は比較例2に比べて低かった。これは、架橋密度が付加硬化型シリコーンポリマー単独と比べて相対的に下がったからである。
【0032】
(実施例9~11)
熱伝導性無機粒子(B)をマトリックス樹脂(A)100質量部に対して合計で2200質量部とし、オイル比を変えた以外は実施例1と同様に実施した。条件と結果を表3に示す。
【0033】
【0034】
表3に示すとおり、実施例9~11のオイルブリード幅が小さかった。
【0035】
(比較例4~9)
ベースポリマー組成物のオイルブリード幅が表4に示す付加硬化型シリコーンポリマー(A1)を使用し、オイル比を変えた以外は実施例1と同様に実施した。条件と結果を表4に示す。
【0036】
【0037】
表4に示すとおり、比較例4~9はベースポリマー組成物のオイルブリード幅が高かったため、熱伝導性硬化シートのオイルブリード幅も高く、好ましくなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0039】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
11 オイルブリード幅測定試験装置
12 熱伝導性硬化シートサンプル
13 薬包紙
14 アルミ板
15 ガラス板
16 オイルブリード領域
【要約】
マトリックス樹脂(A)と熱伝導性無機粒子(B)を含む熱伝導性シート12であって、マトリックス樹脂(A)は、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)と、未反応シリコーンオイル(A2)を含み、マトリックス樹脂(A)を100質量%としたとき、付加硬化型シリコーンポリマー(A1)は20質量%以上100質量%未満であり、未反応シリコーンオイル(A2)は0質量%を超え80質量%以下であり、マトリックス樹脂100質量部(A)に対して前記熱伝導性無機粒子(B)は1000~3000質量部であり、熱伝導性シート12は硬化されている。16はオイルブリード領域である。これにより、オイルブリードを抑制した熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。