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特許7061740受精卵保持用構造体及びそれを用いる受精卵検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】受精卵保持用構造体及びそれを用いる受精卵検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20220422BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20220422BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N21/17 A
G01N21/64 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018142441
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020020591
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392035189
【氏名又は名称】橋本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 利男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正敏
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌寛
(72)【発明者】
【氏名】坂口 圭
(72)【発明者】
【氏名】堀 秀基
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169951(JP,A)
【文献】再公表特許第2007/123100(JP,A1)
【文献】再公表特許第2010/067554(JP,A1)
【文献】特開2016-021947(JP,A)
【文献】特開2018-072094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0178012(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 35/00 - G01N 37/00
C12N 15/00 - C12N 15/90
C12M 1/00 - C12M 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精卵から孵化した孵化体を収容可能な上端開口のウエルが行列状に配置され、前記各ウエルは、前記孵化体を載置可能な透明底面を有する孵化体保持プレートと、前記ウエルの上方から前記ウエル内に垂下して、前記透明底面上に前記受精卵のサイズよりも僅かに広い受精卵保持領域を区画形成することにより、前記受精卵が前記受精卵保持領域から前記透明底面に沿って横方向へ逸脱するのを規制する受精卵保持構造体とを有し、
前記受精卵保持構造体は、前記孵化体保持プレートに着脱自在にセットされていることを特徴とする受精卵保持用構造体。
【請求項2】
前記受精卵保持構造体は、前記孵化体保持プレートの上端面に載置される枠部と、前記枠部から前記各ウエル内に垂下する垂下壁とを有し、
前記垂下壁は、前記透明底面部にほぼ達している請求項1記載の受精卵保持用構造体。
【請求項3】
前記垂下壁は、上端及び下端が開口する円錐形状又は角錐形状を有する請求項2記載の受精卵保持用構造体。
【請求項4】
前記孵化体はゼブラフィッシュである請求項1記載の受精卵保持用構造体。
【請求項5】
受精卵から孵化した孵化体を載置可能な透明底面を有する上端開口のウエルが行列状に配置される孵化体保持プレートと、前記ウエルの上方から前記ウエル内に垂下して前記透明底面上に前記受精卵のサイズよりも僅かに広い受精卵保持領域を区画形成する受精卵保持用構造体を準備し、かつ、前記受精卵保持領域に前記受精卵をセットする第1のステップと、
前記受精卵保持領域の前記受精卵から受精卵情報を分光学および画像的に取得する第2のステップと、
前記受精卵情報に基づいて前記受精卵の良否を判定する第3ステップと、
前記受精卵の孵化前に前記受精卵保持構造体を前記孵化体保持プレートから取り外す第4ステップと、
前記受精卵保持構造体が取り外された前記ウエル内にて成長した前記孵化体から孵化体情報を分光学および画像的に取得する第5ステップと、
を順次実行することを特徴とする受精卵検査方法。
【請求項6】
前記第3ステップは、前記受精卵に相当する略円形の領域を略円形の胚盤領域とそれ以外の卵黄領域に分別し、前記胚盤領域及び前記卵黄領域を互いに異なる判定方法により良否判定する請求項5記載の受精卵検査方法。
【請求項7】
前記孵化体はゼブラフィッシュである請求項5記載の受精卵検査方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受精卵保持構造体及びそれを用いる受精卵検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受精卵の利用が医学分野や製薬分野において注目されている。たとえば所定の薬液をゼブラフィッシュの受精卵に投与後、孵化したゼブラフィッシュを分光学および画像検査することにより、この薬液の作用効果が判定される。
【0003】
特許文献1は、多数のゼブラフィッシュ用ウエルに個別に収容された多数のゼブラフィッシュを分光学および画像的に検査する技術を開示する。ハンドリング効率化のために、多数のゼブラフィッシュ用ウエルはゼブラフィッシュ用プレートの上面に行列状に形成される。
【0004】
特許文献2は、多数の受精卵用ウエルに個別に収容された多数のゼブラフィッシュ受精卵を分光学および画像的に検査する技術を開示する。薬剤投与や分光学および画像検査において、受精卵の変位を防止する必要がある。このため、受精卵は、受精卵よりも少しだけ径大に形成された受精卵用ウエルに保持されねばならない。ハンドリング効率化のために、多数の受精卵用ウエルが受精卵用プレートの上面に行列状に形成される。
【0005】
受精卵用プレートの受精卵用ウエルに配列された各受精卵に対する種々の作業の終了後、受精卵は、受精卵用プレートの受精卵用ウエルからゼブラフィッシュ稚魚用プレートのゼブラフィッシュ稚魚用ウエルへ移送される。受精卵はこのゼブラフィッシュ用ウエル内にて所定期間成長した跡、薬剤の影響が分光学および画像的に検査される。
【0006】
けれども、たとえば約1mmといった非常に小さい直径をもつゼブラフィッシュの受精卵は、非常に薄く、傷付き易い卵壁をもつ。このため、受精卵を受精卵用プレートからゼブラフィッシュ用プレートへ配置替えする移送作業は容易ではなかった。このような微細な受精卵ハンドリング作業の複雑性は処理コストを増加させた。
【0007】
さらに、移送作業における卵壁破損などにより受精卵の死亡率が増加増大した。この受精卵死亡率増加は、高価な薬液の無駄や生産性低下を招いた。結局、受精卵を受精卵用プレートからゼブラフィッシュ用プレートへの移送作業という自動化困難な作業工程が、種々の利点をもつにもかかわらず、ゼブラフィッシュ受精卵利用技術の普及を妨げていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6180134号公報
【文献】特開2018-072094号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ゼブラフィッシュなどの受精卵処理技術の簡素化及び生産性の向上をその目的としている。
【0010】
本発明の受精卵保持用構造体は、ゼブラフィッシュのような孵化体を個別に収容するウエルをもつ孵化体保持プレートに、受精卵保持構造体を着脱自在に取り付けることにより、孵化体保持プレートの孵化体用ウエル内の所定の小領域に受精卵を所定期間だけ正確に保持する。
【0011】
たとえば受精卵の分光学および画像検査や受精卵への薬液投与を行うこの期間の終了後、この受精卵保持構造体は、孵化体保持プレートから取り外される。これにより、孵化体は、広くなった孵化体用ウエル内にて必要なサイズとなるまで成長することができる。一般に、孵化体が孵化体用ウエルにて成長した後、必要な分光学および画像情報が孵化体から採取される。
【0012】
結局、受精卵保持構造体により受精卵の変位を規制した状態で受精卵の分光学および画像検査やインジェクションを正確かつ高能率で実行することができる。さらに、受精卵保持構造体をこれらの処理完了後に孵化体保持プレートから取り外すことにより、孵化体が成長するのに十分な容積を孵化体用ウエル内に確保することができる。
【0013】
受精卵保持領域と呼ばれる上記小領域は、孵化体検査において使用されるウエルの透明底面上に区画形成される。これにより、孵化体検査装置を用いて受精卵検査を実施することができる。受精卵の分光学および画像検査において、検査面積が限定されるため、検査時間を短縮することができる。良く知られているように、受精卵の検査は、受精卵の孵化直前の短時間が最も好適である。このため、多数の受精卵をシーケンシャルに分光学および画像検査する場合、1つの受精卵に割り当て可能な検査時間は非常に短くなる。
【0014】
更に説明すると、受精卵の水平移動を規制可能な受精卵保持構造体が、孵化体用ウエル内の所定位置に受精卵保持領域を必要な時間だけ新設する。その結果、従来において必要であった受精卵保持プレートから孵化体保持プレートへの受精卵移送作業を省略することができ、生産性を向上することができる。さらに、受精卵の死亡率を激減させることにより、処理作業の生産性を大幅に向上することができる。
【0015】
好適には、受精卵保持構造体は、孵化体保持プレートの上端面に載置される枠部から各孵化体用ウエル内に垂下する垂下壁を有し、垂下壁の下端部が受精卵の横ずれを規制する。これにより、枠部を上昇させることにより、この枠部に連結された多数の垂下壁を一斉に各孵化体用ウエルから取り外すことができる。
【0016】
好適には、垂下壁は、上端及び下端が開口する円錐形状又は角錐形状をもつ。これにより、孵化体用ウエル内に投入された受精卵は、この垂下壁により、孵化体用ウエルの透明底面に形成された所定の受精卵保持領域に自動的に案内されることができる。
【0017】
本発明の受精卵保持用構造体を用いる受精卵検査方法によれば、受精卵保持構造体を用いて孵化体用ウエルの透明底面の所定領域に受精卵をセットした後、各受精卵を分光学および画像的に検査する。次に、受精卵保持構造体を孵化体保持プレートから取り外し、孵化体をウエル内にて成長させる。その後、ウエル内の孵化体を分光学および画像的に検査する。これにより、受精卵及び孵化体の分光学および画像検査の生産性を向上することができる。
【0018】
好適な受精卵の分光学および画像検査によれば、受精卵に相当する略円形の領域を略円形の胚盤領域とそれ以外の卵黄領域に分別し、胚盤領域及び卵黄領域を互いに異なる判定方法により良否判定する。これにより、受精卵の良否を正確かつ素早く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1はゼブラフィッシュ稚魚保持プレートを示す部分平面図である。
図2図2図1に示されるゼブラフィッシュ稚魚保持プレートの部分断面図である。
図3図3はゼブラフィッシュ保持プレートに載置された受精卵保持構造体を示す部分平面図である。
図4図4はゼブラフィッシュ保持プレート上に載置された受精卵保持構造体を示す部分断面図である。
図5図5は受精卵検査プロセスを示すフローチャートである。
図6図6は正常卵及び死卵の分光スペクトル強度を示す図である。
図7図7は正常卵の写真画像である。
図8図8は死卵の写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
孵化体としてゼブラフィッシュを採用する実施例が図面を参照して説明される。図1は、ゼブラフィッシュ稚魚保持プレート1の一部を示す部分平面図ある。図2は、図1に示されるゼブラフィッシュ稚魚保持プレート1のA-A線矢視垂直断面図である。
【0021】
長方形の厚板形状のゼブラフィッシュ稚魚保持プレート1は、樹脂フレーム2と、樹脂フレーム2の底面に接着された薄い透明樹脂板3とからなる。なお、透明樹脂板3を補強するために、ゼブラフィッシュ及びその受精卵の分光学および画像的観察に支障が生じない部位にて、透明樹脂板3を補強するための樹脂板を追加することも可能である。
【0022】
樹脂フレーム2は、行列状に形成された96個の飼育ウエル21及び96個の排水ウエル22をもつ。飼育ウエル21及び排水ウエル22はそれぞれ、樹脂フレーム2の厚さ方向に形成され、それらの上端は開口され、それらの下端は透明樹脂板3により遮蔽されている。
【0023】
それぞれゼブラフィッシュを飼育可能なスペースをもつ飼育ウエル21は、横方向へ12個配列され、縦方向へ縦8個配列されている。図1において、1つの飼育ウエル21だけが完全に図示されている。
【0024】
飼育ウエル21は、ゼブラフィッシュ4が横臥可能な長方形の透明底部23と、この透明底部23の周囲から立設された隔壁24A、24B、24C、及び24Dにより区画形成されている。図1及び図2において、ゼブラフィッシュ4は、縦方向に長い長方形の形状をもつ透明底部23上に横臥している。
【0025】
透明底部23の長辺に接する2つの隔壁24A及び24Bの下部は斜設されている。これにより、飼育ウエル21内の水が排出される時、ゼブラフィッシュ4は透明底部23に誘導されることができる。透明底部23の短辺に接する残りの2つの隔壁24C及び24Dは垂直に設置されている。
【0026】
各排水ウエル22は各飼育ウエル21に個別に隣接している。隔壁24A及び24Bが長方形の上端開口を有する排水ウエル22を飼育ウエル21から分離している。隔壁24Bの下端部は、左側の飼育ウエル21及び右側の排水ウエル22を連通する連通孔25を有する。排水ウエル22の水が上方へ吸い取られる時、飼育ウエル21内の水は連通孔25を通じて排水ウエル22へ流れる。その結果、飼育ウエル21内に下降水流が形成される。この下降水流はゼブラフィッシュを下方へ付勢する。図2において、水が飼育ウエル21及び排水ウエル22に水面5まで注入されている。
【0027】
図3は、ゼブラフィッシュ保持プレート1上に受精卵保持構造体7を載置してなる受精卵保持用構造体を示す部分平面図である。受精卵保持構造体7の下方に隠れているゼブラフィッシュ保持プレート1は破線で示されている。図4は、図3のB-B線矢視垂直断面図である。
【0028】
受精卵保持構造体7は、破線で示されるゼブラフィッシュ保持プレート1の上端面に載置される角枠部71と、角枠部71からゼブラフィッシュ保持プレート1の各飼育ウエル21内に別々に垂下する多数の垂下壁72とからなる。厚板状の角枠部71は、長方形のゼブラフィッシュ保持プレート1とほぼ等しい長方形状をもつ。角枠部71は、各ウエル1と同じ位置に形成された正方形の開口73をもつ。受精卵はこの開口73に投入される。
【0029】
垂下壁72は、角枠部71の開口73の周縁から下方へ向けて斜設されている。言い換えれば、垂下壁72は、両端開口の四角錐状の筒からなる。垂下壁72の下部は、透明底23の中央部に位置する正方形の受精卵保持領域8の周囲に達している。垂下壁72の4つの斜面のうち、長方形の透明底部23の上に存在する一対の斜面は、受精卵保持領域8を挟んで対面する垂直突起74A及び74Bをもつ。
【0030】
垂直突起74A及び74Bの下端は長方形の透明底部23にほぼ達している。垂直突起74A及び74Bは、受精卵保持領域8上の受精卵9が透明底部23に沿って変位することを禁止する。言い換えれば、角錐状の垂下壁72は、受精卵9を受精卵保持領域8上へガイドするとともに、受精卵が受精卵保持領域8から横方向へ変位するのを規制する。
【0031】
この実施例では、透明底部23の長辺に接する2つの隔壁24A及び24Bの下部は斜めに形成されているが、隔壁24A及び24Bの下端部を垂直に降下させることにより、受精卵保持領域8内の受精卵9の横ずれをさらに抑止することも可能である。また、この実施例では、飼育ウエル21は略円錐形状に形成されることができる。この場合、垂下壁72も略円錐形状をもつことができる。
【0032】
次に、上記説明された受精卵保持用構造体を用いたゼブラフィッシュ及び受精卵の処理プロセスが説明される。まず、受精卵保持構造体7が取り付けられたゼブラフィッシュ保持プレート1からなる受精卵保持用構造体が準備される。次に、ゼブラフィッシュの受精卵が受精卵保持構造体7の角枠部71の開口73に投入され、排水ウエル22の水を上方へ吸い取ることにより、飼育ウエル21内に下降水流を形成する。これにより、受精卵9が受精卵保持領域8内にセットされる。
【0033】
次に、受精卵9に薬液を投与したり、受精卵9を分光学および画像検査したりする。次に、受精卵保持構造体7がゼブラフィッシュ保持プレート1から上方へ取り外される。その後、受精卵9から孵化したゼブラフィッシュは、拡大された飼育ウエル21内で所定時間だけ成長される。次に、麻酔剤を水に混入することにより仮死状態となったゼブラフィッシュ4を透明底部23上に横臥させる。この横臥は、排水ウエル22の水を抜くことにより実行される。その後、ゼブラフィッシュ4が分光学および画像検査される。
【0034】
受精卵9の分光学および画像検査プロセスが図5に示されるフローチャートを参照して詳しく説明される。まず、ステップS100にて受精卵9の分光信号及び画像信号が取得される。図略の分光学および画像センサは、受精卵保持領域8に照射された紫外線により受精卵9から放射される分光スペクトルを電気信号に変換する。この電気信号は分光信号と呼ばれる。次に、図略の二次元イメージセンサは、受精卵9から画像信号を図略の画像プロセッサに出力する。
【0035】
次のステップS102において、分光信号の強度が所定範囲内にあるか否かが判定される。分光信号の強度が所定範囲内にあれば、ステップS104にて、画像信号から略円形の受精卵領域を抽出し、さらに、この受精卵領域を略円形の胚盤領域と、この胚盤領域を囲むリング状の卵黄領域とに分別する。次に、ステップS106にて胚盤領域が正常か否かが判定され、ステップS108にて卵黄領域が正常か否かが判定される。次に、これらの判定結果がすべて正常であれば、受精卵は正常であると判定され(ステップS110)、そうでなければ、受精卵は不良であると判定される(ステップS112)。
【0036】
この実施例によれば、分光強度判定、胚盤領域の画像判定、及び卵黄領域の画像判定の3つの結果により受精卵の良否を判別するため、不良受精卵を従来よりも精密に自動判定することができる。
【0037】
まず、分光強度判定の詳細が図6-図8を参照してさらに詳しく説明される。図6は、正常卵及び死卵から得られる分光強度を示す図である。正常卵から得られる分光強度は、ほぼ死卵から得られるそれの半分以下であることがわかる。図7は正常卵の写真画像を示し、図8は死卵およびその後死卵となる写真画像を示す。正常卵画像には存在しない黒雲状の領域が死卵画像に存在することがわかる。死卵が高い分光強度をもつ理由は、この黒雲状の領域の存在によるものと推定される。
【0038】
次に、胚盤領域の画像判定の詳細が図7及び図8を参照してさらに詳しく説明される。ほぼ円形の受精卵内は、ほぼ円形の胚盤領域とリング状の卵黄領域に明確に分別される。さらに、胚盤領域は濃いリング状輪郭部をもつことが理解される。死卵において、胚盤領域の外周輪郭は黒雲状の領域により不鮮明となっていることが理解される。この実施例によれば、胚盤領域を区画する外周輪郭が全周にわたって円形となっているか否かが判定され、外周輪郭が円形であれば、外周輪郭は正常と判定される。
【0039】
次に、正常卵の胚盤領域内には、細胞分裂の結果として多くの小領域が密集していることがわかる。この密集する小領域群は、胚盤領域内から得られる画像信号が多くの高周波信号を含むことを意味する。したがって、この実施例によれば、胚盤領域内の画像信号のうち、その高周波信号の積分値が所定値以上であれば、胚盤領域は正常であると判定する。
【0040】
次に、卵黄領域の画像判定の詳細が図7及び図8を参照してさらに詳しく説明される。図7に示される正常卵の卵黄領域は、特異形状の領域を含まず、均一の明度をもつことがわかる。これに対して、図8に示される死卵の卵黄領域は、黒雲状の濃色領域を含む。
すなわち、1)胚盤細胞のサイズと密度が不均一である。
2)胚盤細胞群の外周が著しく不整であり、時に窪みを認める。
3)胚盤細胞群の外周に空砲が認められる。
4)胚盤細胞と卵黄細胞の境界が不整である。
5)胚盤細胞と卵黄細胞の境界から両側へ、びまん性の黒色ゾーンが広く拡大する。
6)卵黄細胞領域に、粒子状構造物や空砲が、認められる。
したがって、この実施例によれば、卵黄領域の明度変化が所定レベル以下であれば、卵黄領域は正常であると判定する。
【0041】
結局、この実施例の受精卵の良否判定は、不良卵が、胚盤領域及び卵黄領域にまたがる黒雲状の領域を発生することに着目してなされた。さらに、正常な細胞分裂を経て胚盤領域内には非常に多くの小領域が発生することに着目してなされた。これらの画像判定により、不良な受精卵を正確かつ速やかに自動判定することが可能となった。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8