(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-21
(45)【発行日】2022-05-02
(54)【発明の名称】半導体基板、半導体素子、及び半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20220422BHJP
C30B 33/06 20060101ALI20220422BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20220422BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20220422BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220422BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20220422BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220422BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B33/06
H01L21/02 B
H01L29/86 301D
H01L29/86 301F
H01L29/78 652T
H01L29/78 653C
H01L29/78 652G
H01L29/78 658K
(21)【出願番号】P 2017135017
(22)【出願日】2017-07-10
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉又 朗人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】八木 邦明
(72)【発明者】
【氏名】八田 直記
(72)【発明者】
【氏名】東脇 正高
(72)【発明者】
【氏名】小西 敬太
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-015503(JP,A)
【文献】特開2015-015401(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140229(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 33/06
H01L 21/02
H01L 29/872
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶Ga
2O
3系基板と多結晶基板が接合され、
前記単結晶Ga
2O
3系基板の厚さが前記多結晶基板の厚さよりも薄く、
前記多結晶基板の破壊靱性値が前記単結晶Ga
2O
3系基板の破壊靱性値よりも高
く、
前記単結晶Ga
2
O
3
系基板の主面が(001)面であり、
前記多結晶基板が多結晶SiC基板であり、
前記単結晶Ga
2
O
3
系基板と前記多結晶基板の接合強度が8.3MPa以上である、
半導体基板。
【請求項2】
前記多結晶基板の破壊靱性値が3MPa・m
1/2以上である、
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記多結晶基板の厚さに対する前記単結晶Ga
2O
3系基板の厚さの比率がおよそ20%以下である、
請求項
1又は2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記単結晶Ga
2O
3系基板のキャリア濃度が3×10
18cm
-3以上である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体基板。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の半導体基板を有する、
半導体素子。
【請求項6】
単結晶Ga
2O
3系基板の表面に損傷を与えて第1の非晶質層を形成し、多結晶SiC基板の表面に損傷を与えて第2の非晶質層を形成する工程と、
前記第1の非晶質層と前記第2の非晶質層とを接触させる工程と、
前記第1の非晶質層と前記第2の非晶質層とが接触している状態の前記単結晶Ga
2O
3系基板及び多結晶SiC基板に800℃以上の熱処理を施し、前記単結晶Ga
2O
3系基板と多結晶SiC基板工程とを接合する工程と、
を含
み、
前記単結晶Ga
2
O
3
系基板の主面が(001)面である、
半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理の温度が1100℃以下である、
請求項
6に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体素子、及び半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面活性化接合と呼ばれる単結晶基板と支持基板を接合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。表面活性化接合では、2枚の基板のそれぞれの接合する表面にAr(アルゴン)を照射して損傷を与えた後でそれら表面を接触させ、両基板を接合する。また、特許文献1の方法によれば、通常の表面活性化接合工程に熱処理工程を加えており、両基板の表面を接触させた後に熱処理を施している。これにより、Ar照射により非晶質化した接合面が再結晶化し、共有結合によって両基板の接合がより強固になる。
【0003】
また、従来、この表面活性化接合により接合された、Ga2O3系結晶からなるエピタキシャル層とGa2O3系結晶よりも高い熱伝導率を有する材料からなる高熱電導基板とを含むショットキーバリアダイオードが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6061251号公報
【文献】特開2016-31953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Ga2O3系単結晶は、劈開性の強い劈開面を有するため、クラック耐性が低く割れ易い。このため、Ga2O3系単結晶からなるエピタキシャル層を成長させるための下地基板として、機械的強度に優れた割れ難い基板が求められている。
【0006】
本発明の目的は、Ga2O3系単結晶からなる層を含む、機械的強度に優れた半導体基板、その半導体基板を含む半導体素子、及びその半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、以下の[1]~[4]の半導体基板、[5]の半導体素子、及び[6]、[7]の半導体基板の製造方法を提供する。
【0008】
[1]単結晶Ga2O3系基板と多結晶基板が接合され、前記単結晶Ga2O3系基板の厚さが前記多結晶基板の厚さよりも薄く、前記多結晶基板の破壊靱性値が前記単結晶Ga2O3系基板の破壊靱性値よりも高く、前記単結晶Ga
2
O
3
系基板の主面が(001)面であり、前記多結晶基板が多結晶SiC基板であり、前記単結晶Ga
2
O
3
系基板と前記多結晶基板の接合強度が8.3MPa以上である、半導体基板。
【0009】
[2]前記多結晶基板の破壊靱性値が3MPa・m1/2以上である、上記[1]に記載の半導体基板。
【0012】
[3]前記多結晶基板の厚さに対する前記単結晶Ga2O3系基板の厚さの比率がおよそ20%以下である、上記[1]又は[2]に記載の半導体基板。
【0013】
[4]前記単結晶Ga2O3系基板のキャリア濃度が3×1018cm-3以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の半導体基板。
【0016】
[5]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の半導体基板を有する、半導体素子。
【0017】
[6]単結晶Ga2O3系基板の表面に損傷を与えて第1の非晶質層を形成し、多結晶SiC基板の表面に損傷を与えて第2の非晶質層を形成する工程と、前記第1の非晶質層と前記第2の非晶質層とを接触させる工程と、前記第1の非晶質層と前記第2の非晶質層とが接触している状態の前記単結晶Ga2O3系基板及び多結晶SiC基板に800℃以上の熱処理を施し、前記単結晶Ga2O3系基板と多結晶SiC基板工程とを接合する工程と、を含み、前記単結晶Ga
2
O
3
系基板の主面が(001)面である、半導体基板の製造方法。
【0018】
[7]前記熱処理の温度が1100℃以下である、上記[6]に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Ga2O3系単結晶からなる層を含む、機械的強度に優れた半導体基板、その半導体基板を含む半導体素子、及びその半導体基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る半導体基板の斜視図である。
【
図2】
図2(a)~(e)は、半導体基板の製造工程を示す垂直断面図である。
【
図3】
図3は、第2の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図4】
図4は、第2の実施の形態に係るMOSFETの垂直断面図である。
【
図5】
図5は、単結晶Ga
2O
3基板と多結晶SiC基板との接合界面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像である。
【
図6】
図6(a)は、測定のための電極が接続された半導体基板の垂直断面図である。
図6(b)は、測定された半導体基板の電流-電圧特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、表4に示される多結晶SiC基板の厚さに対する単結晶Ga
2O
3基板の厚さの比率と、半導体基板の縦方向の熱伝導率との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1の実施の形態〕
(半導体基板の構造)
図1は、第1の実施の形態に係る半導体基板1の斜視図である。半導体基板1は、単結晶Ga
2O
3系基板10と多結晶基板11が接合された接合基板である。半導体基板1の平面形状は特に限定されないが、典型的には
図1に示されるような円形である。
【0022】
半導体基板1の単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11は、後述する表面活性化接合法により接合されており、単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11の接合界面近傍の領域には所定量(例えば、1~2atm%)のArが含まれる。
【0023】
また、単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11は後述するFAB(Fast Atom Beam)ガンを用いた表面活性化接合法により接合されるため、接合界面における金属汚染密度が低く、例えば、Fe、Ni、Cuの濃度がいずれも1×10cm-2未満である。
【0024】
単結晶Ga2O3系基板10は、Ga2O3系単結晶からなる基板であり、典型的にはGa2O3基板である。単結晶Ga2O3系基板10は、アンドープ(意図的にドーピングされていない)でもよいし、Si、Sn等のドーパントを含んでもよい。例えば、単結晶Ga2O3系基板10のキャリア濃度が3×1018cm-3以上の場合は、多結晶基板11との界面の障壁が消失し、単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11をオーミック接合することができる。
【0025】
ここで、Ga2O3系単結晶とは、Ga2O3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa2O3単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa2O3単結晶である(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。単結晶Ga2O3系基板10を構成するGa2O3系単結晶は、例えば、β型の結晶構造を有する。
【0026】
単結晶Ga2O3系基板10の主面は、[010]軸を含む面(例えば、(101)面、(-201)面、又は(001)面)であることが好ましい。この場合、単結晶Ga2O3系基板10は割れにくく、かつ高い耐熱性を有する。耐熱性が高ければ、後述する接合時の熱処理において劣化が生じにくい。
【0027】
また、Ga2O3系単結晶は、(100)面における劈開性が強く、EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法による結晶成長の肩広げの過程で(100)面を双晶面(対称面)とする双晶が生じやすい。そのため、Ga2O3系単結晶からなるべく大きな単結晶Ga2O3系基板10を切り出すために、(100)面がGa2O3系単結晶の成長方向に平行になるように、Ga2O3系単結晶をb軸方向に成長させることが好ましい。そして、b軸方向に成長させたGa2O3系単結晶からは、[010]軸を含む面を主面とする単結晶Ga2O3系基板10を切り出すことができる。
【0028】
また、半導体基板1に特に高い耐熱性が要求される場合は、単結晶Ga2O3系基板10の主面が(001)面であることが好ましい。
【0029】
多結晶基板11は、多結晶体からなる基板であり、例えば、多結晶SiC基板、多結晶ダイヤモンド基板、多結晶Si基板、多結晶Al2O3基板、多結晶AlN基板を多結晶基板11として用いることができる。一般に、多結晶体は単結晶体よりも製造が容易なため、低コストである。
【0030】
単結晶Ga2O3系基板10は、単体では、クラックが生じた場合に(100)面、(001)面等の劈開面で劈開して割れてしまう。このため、破壊靱性値は比較的低い。一方、多結晶基板11は、クラックが生じても結晶粒界でクラックの進行が止まるため、割れにくい。このため、多結晶基板11の破壊靱性値は、単結晶Ga2O3系基板10の破壊靱性値よりも高い。また、半導体基板1に十分な強度を与えるため、多結晶基板11の破壊靱性値(JIS R 1607に準拠した破壊靱性試験により得られる値)が、単結晶Ga2O3系基板10の主面の面方位に依らず単結晶Ga2O3系基板10の破壊靱性値よりも大きくなる3MPa・m1/2以上であることが好ましい。
【0031】
単結晶Ga2O3系基板10と破壊靱性に優れる多結晶基板11とが接合された半導体基板1は、同じ厚さの単結晶Ga2O3系基板と比較して、破壊靱性値が遥かに大きく、割れにくい。
【0032】
また、単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11とが接合された半導体基板1においては、単結晶Ga2O3系基板10が割れにくいため、単結晶Ga2O3系基板10を薄くしてコストを低減することができる。このため、単結晶Ga2O3系基板10の厚さを多結晶基板11の厚さよりも薄くすることが好ましい。
【0033】
また、多結晶基板11は、単結晶基板と比較して、遥かに多くのドーパントを注入できるため、抵抗率を小さくすることができる。単結晶基板においては、ドーパントを入れすぎると欠陥が発生して品質劣化を引き起こすため、注入できるドーパント量に上限があるが、多結晶基板においては、欠陥の増加が結晶品質にほとんど影響を与えないためである。
【0034】
例えば、一般的な単結晶SiC基板では、その品質に影響しない程度にN(窒素)を注入することによりおよそ0.02Ω・cmまで抵抗率を下げることができるが、多結晶SiC基板はNを注入することにより0.01Ω・cm以下まで抵抗率を下げることができる。
【0035】
このように多結晶基板11は、抵抗率を小さくすることができるため、例えば、縦型の半導体素子の基板として用いた場合に半導体素子の電力損失を低減することができる。
【0036】
また、多結晶SiC基板等のGa2O3系単結晶よりも熱伝導率の高い材料からなる基板を多結晶基板11として用いることにより、半導体基板1の放熱特性が同じ厚さの単層のGa2O3系単結晶基板よりも高くなる。例えば、単結晶Ga2O3の熱伝導率は、[100]方向が13.6W/(m・K)、[010]方向が22.8W/(m・K)であり、多結晶SiC、多結晶Al2O3、多結晶AlNの熱伝導率は、それぞれおよそ330W/(m・K)、32W/(m・K)、150W/(m・K)である。
【0037】
SiC多結晶基板、多結晶ダイヤモンド基板等の熱伝導率が特に高い基板を多結晶基板11として用いることにより、半導体基板1の放熱特性をより向上させることができる。
【0038】
また、半導体基板1に生じる反り等を抑えるため、多結晶基板11は、単結晶Ga2O3系基板10の材料であるGa2O3系単結晶との熱膨張率の差が小さい材料からなることが好ましい。Ga2O3系単結晶([100]方向が5.3×10-6/K、[010]方向が8.9×10-6/K、[001]方向が8.2×10-6/K)との熱膨張率の差が小さい多結晶材料としては、例えば、多結晶SiC(4.0×10-6/K)、多結晶Al2O3(7.2×10-6/K)、多結晶AlN(4.6×10-6/K)が挙げられる。
【0039】
(半導体基板の製造方法)
以下に、半導体基板1の製造方法の一例を示す。以下の例においては、水素原子のアブレーションによる剥離技術(スマートカット(登録商標)とも呼ばれる)を用いて、1枚の単結晶Ga2O3系基板から複数の半導体基板1の単結晶Ga2O3系基板10を形成する。
【0040】
図2(a)~(e)は、第1の実施の形態に係る半導体基板1の製造工程を示す垂直断面図である。
【0041】
まず、単結晶Ga2O3系基板12及び多結晶基板11を準備し、それぞれの接合させる表面(以下、接合面と呼ぶ)にCMP(chemical mechanical polishing)、機械研磨等による平坦化処理を施す。
【0042】
次に、
図2(a)に示されるように、単結晶Ga
2O
3系基板12の接合面から所定の深さの位置に水素イオンをイオン注入し、水素イオン注入層12aを形成する。
【0043】
後述するように、水素イオン注入層12aを剥離面として単結晶Ga2O3系基板12から剥離される層が半導体基板1の単結晶Ga2O3系基板10となるため、単結晶Ga2O3系基板12の接合面からの水素イオン注入層12aの深さは、目的とする単結晶Ga2O3系基板10の厚さに応じて決定される。
【0044】
次に、
図2(b)に示されるように、単結晶Ga
2O
3系基板12及び多結晶基板11の接合面を変質させて、それぞれ非晶質層12b、非晶質層11bを形成する。
【0045】
真空チャンバー内において、単結晶Ga2O3系基板12及び多結晶基板11の接合面にFABガン13等を用いてArの中性原子ビームを照射すると、表面が損傷して結晶質が非晶質に変質し、非晶質層12b及び非晶質層11bが形成される。
【0046】
非晶質層12b及び非晶質層11bを形成する工程では、単結晶Ga2O3系基板12及び多結晶基板11の接合面の酸化膜や吸着層を除去して結合手を表出させ、活性化させることができる。また、この工程は真空中で実施されるため、活性化された表面は、酸化等がされず、活性状態を保持することができる。
【0047】
次に、
図2(c)に示されるように、単結晶Ga
2O
3系基板12の非晶質層12bと、多結晶基板11の非晶質層11bとを真空中で接触させる。単結晶Ga
2O
3系基板12と多結晶基板11を接触させた後、剥がれないようにこれらをジグ等により固定してもよい。
【0048】
次に、
図2(d)に示されるように、非晶質層12bと非晶質層11bとが接触した状態の単結晶Ga
2O
3系基板12及び多結晶基板11に熱処理を施し、単結晶Ga
2O
3系基板12と多結晶基板11とを接合する。熱処理は、真空チャンバー内の減圧下で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。
【0049】
熱処理を施すことにより、非晶質層12bと非晶質層11bとがそれぞれ再結晶化し、単結晶Ga2O3系基板12と多結晶基板11とが共有結合によって強固に接合する。熱処理温度が高いほど接合の強度は高くなり、例えば、多結晶基板11が多結晶SiC基板である場合は、800℃以上の熱処理を施すことにより、接合をより強固にすることができる。
【0050】
また、熱処理を施すことにより、単結晶Ga2O3系基板12を水素イオン注入層12aで破断させることができる。また、単結晶Ga2O3系基板12の蒸発や不純物の拡散を抑えるため、熱処理の温度は1100℃以下であることが好ましい。
【0051】
次に、
図2(e)に示されるように、単結晶Ga
2O
3系基板12を破断した水素イオン注入層12aで分離する。これにより、単結晶Ga
2O
3系基板12の水素イオン注入層12aよりも多結晶基板11側の多結晶基板11に接合された層が多結晶基板11側に残る。この単結晶Ga
2O
3系基板12の多結晶基板11側に残った部分が半導体基板1の単結晶Ga
2O
3系基板10となる。
【0052】
その後、単結晶Ga
2O
3系基板12の多結晶基板11から分離した部分を
図2(a)に示される単結晶Ga
2O
3系基板12として、
図2(a)~(e)に示される工程を繰り返すことにより、1枚の単結晶Ga
2O
3系基板12から複数の半導体基板1の単結晶Ga
2O
3系基板10を形成することができる。
【0053】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態に係る単結晶Ga2O3系基板12を含む半導体基板1は、単体の単結晶Ga2O3系基板と同じ用途に用いることができ、かつ、同じ厚さの単体の単結晶Ga2O3系基板と比較して、割れにくく、また、製造コストを低く抑えることができる。
【0054】
また、半導体基板1の多結晶基板11として、多結晶SiC基板等のGa2O3系単結晶よりも熱伝導率の高い材料からなる基板を用いることにより、半導体基板1を用いて形成される半導体素子の放熱性を向上させることができる。
【0055】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態に係る半導体基板を用いて形成される半導体素子に係る形態である。
【0056】
図3は、第2の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード2の垂直断面図である。ショットキーバリアダイオード2は、縦型のショットキーバリアダイオードであり、半導体基板1と、半導体基板1の単結晶Ga
2O
3系基板10上の単結晶Ga
2O
3系層20と、単結晶Ga
2O
3系層20に接続されたアノード電極21と、半導体基板1の多結晶基板11に接続されたカソード電極22と、を有する。
【0057】
単結晶Ga2O3系基板10は、例えば、厚さ0.1~10μm、キャリア濃度1×1018~1×1020cm-3の単結晶Ga2O3基板である。単結晶Ga2O3系基板10へ注入されるドーパントにはSi、Sn等が用いられる。単結晶Ga2O3系基板10のキャリア濃度は、高いほど導通損失を下げることができるが、ドーピング量が多くなると結晶欠陥が発生するおそれがあるため、3×1018~5×1019cm-3の範囲内に設定されることが好ましい。
【0058】
多結晶基板11は、例えば、厚さ50~1000μm、キャリア濃度1×1018~1×1020cm-3の多結晶SiC基板である。多結晶基板11へ注入されるドーパントにはN等が用いられる。
【0059】
単結晶Ga2O3系層20は、単結晶Ga2O3系基板10上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、例えば、厚さ1~100μm、キャリア濃度1×1014~1×1017cm-3の単結晶Ga2O3層である。単結晶Ga2O3系層20へ注入されるドーパントにはSi、Sn等が用いられる。通常、単結晶Ga2O3系層20のキャリア濃度は、単結晶Ga2O3系基板10及び多結晶基板11のキャリア濃度よりも低い。
【0060】
アノード電極21は、例えば、Pt/Ti/Auの積層構造を有し、単結晶Ga2O3系層20とショットキー接触する。この場合のPt層、Ti層、Au層の厚さは、例えば、それぞれ15nm、5nm、200nmである。
【0061】
カソード電極21は、例えば、Ti/Auの積層構造を有し、多結晶基板11とオーミック接触する。この場合のTi層、Au層の厚さは、例えば、それぞれ50nm、200nmである。
【0062】
ショットキーバリアダイオード2においては、アノード電極21とカソード電極21との間に順方向の電圧(アノード電極21側が正電位)を印加することにより、単結晶Ga2O3系層20から見たアノード電極21と単結晶Ga2O3系層20との界面のエネルギー障壁が低下し、アノード電極21からカソード電極22へ電流が流れる。一方、アノード電極21とカソード電極21との間に逆方向の電圧(アノード電極21側が負電位)を印加したときは、ショットキー障壁により、電流の流れが妨げられる。
【0063】
図4は、第2の実施の形態に係るMOSFET3の垂直断面図である。MOSFET3はDMOS(Double-Diffused MOSFET)構造を有する縦型のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であり、半導体基板1と、半導体基板1の単結晶Ga
2O
3系基板10上の単結晶Ga
2O
3系層30と、ゲート絶縁膜33に覆われて単結晶Ga
2O
3系層30中に埋め込まれたゲート電極32と、単結晶Ga
2O
3系層30中のゲート電極32の両側にそれぞれ形成されたコンタクト領域31と、単結晶Ga
2O
3系層30上に形成され、コンタクト領域31に接続されたソース電極34と、半導体基板1の多結晶基板11に接続されたドレイン電極35と、を有する。
【0064】
単結晶Ga2O3系基板10は、例えば、厚さ10~500nm、キャリア濃度1×1015~1×1019cm-3のn型単結晶Ga2O3基板である。単結晶Ga2O3系基板10へ注入されるドーパントにはSi、Sn等が用いられる。単結晶Ga2O3系基板10のキャリア濃度は、高いほど導通損失を下げることができるが、ドーピング量が多くなると結晶欠陥が発生するおそれがあるため、3×1018~5×1019cm-3の範囲内に設定されることが好ましい。
【0065】
多結晶基板11は、例えば、厚さ100~600μm、キャリア濃度5×1018~1×1020cm-3のn型多結晶SiC基板である。多結晶基板11へ注入されるドーパントにはN等が用いられる。
【0066】
単結晶Ga2O3系層30は、単結晶Ga2O3系基板10上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、例えば、厚さ0.1~100μmのアンドープ(ドーパントが意図的に添加されていない)又はp型の単結晶Ga2O3層である。
【0067】
ゲート電極32、ソース電極34、及びドレイン電極35は、例えば、Au、Al、Ti、Sn、Ge、In、Ni、Co、Pt、W、Mo、Cr、Cu、Pb等の金属、これらの金属のうちの2つ以上を含む合金、又はITO等の導電性化合物、導電性ポリマーからなる。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3,4)-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものや、ポリピロール誘導体にTCNAをドーピングしたもの等が用いられる。また、ゲート電極32は、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばAl/Ti、Au/Ni、Au/Co、を有してもよい。
【0068】
ゲート絶縁膜33は、SiO2、AlN、SiN、Al2O3、β-(AlxGa1-x)2O3(0≦x≦1)等の絶縁材料からなる。
【0069】
コンタクト領域31は、単結晶Ga2O3系層30中にイオン注入等により形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域である。コンタクト領域31へ注入されるドーパントにはSi、Sn等が用いられる。
【0070】
MOSFET3においては、ゲート電極32に閾値以上の電圧を印加すると、単結晶Ga2O3系層30中のゲート電極32の両側の領域にチャネルが形成され、ソース電極34からドレイン電極35へ電流が流れるようになる。
【0071】
(第2の実施の形態の効果)
第2の形態に係るショットキーバリアダイオード2及びMOSFET3は、第1の実施の形態に係る半導体基板1を用いて形成されるため、単結晶Ga2O3系基板を単体で用いる場合と比較して、割れにくく、また、製造コストを低く抑えることができる。また、半導体基板1の多結晶基板11として、多結晶SiC基板等のGa2O3系単結晶よりも熱伝導率の高い材料からなる基板を用いることにより、ショットキーバリアダイオード2の放熱性を向上させることができる。
【0072】
なお、本実施の形態においては、第1の実施の形態に係る半導体基板1を用いて形成される半導体素子の例としてショットキーバリアダイオード及びMOSFETを挙げたが、これら以外の他の半導体素子の形成に半導体基板1を用いた場合でも、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0073】
表面活性化接合法により形成された第1の実施の形態に係る半導体基板1について、単結晶Ga2O3系基板10、多結晶基板11としてそれぞれ単結晶Ga2O3基板、多結晶SiC基板を用いて各種評価を実施した。
【0074】
(接合界面の状態)
図5は、単結晶Ga
2O
3基板と多結晶SiC基板との接合界面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像である。
図5に係る単結晶Ga
2O
3基板の主面の面方位は(010)である。なお、
図5に係る単結晶Ga
2O
3基板と多結晶SiC基板には接合の際の熱処理は施されていない。
【0075】
図5のTEM観察像は、単結晶Ga
2O
3基板と多結晶SiC基板の接合界面に中間層や異物の析出等がなく、良好な接合状態が形成されていることを示している。
【0076】
この結果から、接合界面の状態が良好な第1の実施の形態に係る半導体基板1を表面活性化接合法により形成できることが確認された。
【0077】
(単結晶Ga2O3基板の面方位)
単結晶Ga2O3基板の主面の面方位が(010)又は(001)である2種の半導体基板1に対して加熱処理を施し、単結晶Ga2O3基板の主面の面方位と半導体基板1の耐熱性との関係を調べた。
【0078】
単結晶Ga2O3基板の主面の面方位が(010)である半導体基板1は、500℃の熱処理を施すことにより、クラックが発生して単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合面積が縮小した。
【0079】
単結晶Ga2O3基板の主面の面方位が(001)である半導体基板1は、800℃の熱処理及び1000℃の熱処理を施してもクラックが発生せず、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合面積の縮小は観察されなかった。
【0080】
この結果から、第1の実施の形態に係る半導体基板1において、単結晶Ga2O3系基板10の主面の面方位を(001)とすることにより、高い耐熱性が得られることがわかった。
【0081】
また、(001)面はGa
2O
3系単結晶の劈開面の1つであるため、表面活性化接合法における単結晶Ga
2O
3系基板の分離(
図2(d)、(e)参照)が容易になる。
【0082】
(熱処理温度)
表面活性化接合法における熱処理の温度を500℃、800℃、1000℃とした場合、及び熱処理なしとした場合の半導体基板1の接合強度を、JIS R 1630に準拠した引張試験により調べた。この試験を行った半導体基板1の単結晶Ga2O3基板の主面の面方位は(001)である。
【0083】
表面活性化接合法において熱処理を実施せず、室温での接合を行った場合、引張強度を3MPaまで増加させたときに、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合界面で剥がれが生じた。
【0084】
表面活性化接合法において500℃の熱処理を実施した場合、引張強度を7.5MPaまで増加させたときに、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合界面で剥がれが生じた。
【0085】
表面活性化接合法において800℃の熱処理を実施した場合、引張強度を11.7MPaまで増加させたときに、単結晶Ga2O3基板に破壊(バルク破壊)が生じた。すなわち、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合界面で剥がれが生じる前に、単結晶Ga2O3基板に破壊が生じた。
【0086】
表面活性化接合法において1000℃の熱処理を実施した場合、引張強度を9.8MPaまで増加させたときに、単結晶Ga2O3基板に破壊(バルク破壊)が生じた。すなわち、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板の接合界面で剥がれが生じる前に、単結晶Ga2O3基板に破壊が生じた。
【0087】
接合界面の接合強度(界面での剥離が生じる引張強度の下限値)はバルク破壊強度以上であれば十分であるため、表面活性化接合法において800℃以上の熱処理を実施した場合の半導体基板1の接合強度は実用化に十分なものであるといえる。
【0088】
この結果から、表面活性化接合法において800℃以上の熱処理を実施した場合に、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板との接合がより強固になることがわかった。
【0089】
また、引張試験の測定値のばらつきは±15%程度であるため、9.8MPaより15%小さい8.3MPaの引張強度で単結晶Ga2O3基板の破壊が生じ得る。このため、半導体基板1の単結晶Ga2O3系基板10と多結晶基板11の接合界面の接合強度は8.3MPa以上であることが好ましい。
【0090】
(破壊靱性)
主面の面方位が(001)、(010)、又は(-201)である3種の単結晶Ga2O3基板、及び多結晶SiC基板に対して、JIS R 1607に準拠したIF法による破壊靱性試験を実施した。試験条件を以下の表1に、単結晶Ga2O3基板についての試験結果(破壊靱性Kc[MPa・m1/2])を表2に、多結晶SiC基板についての試験結果(破壊靱性Kc[MPa・m1/2])を表3に示す。
【0091】
【0092】
表1の「弾性率」の項目における「(001)Ga2O3」、「(010)Ga2O3」、「(-201)Ga2O3」、「Poly-SiC」は、それぞれ主面の面方位が(001)である単結晶Ga2O3基板、主面の面方位が(010)である単結晶Ga2O3基板、主面の面方位が(-201)である単結晶Ga2O3基板、多結晶SiC基板を意味する。
【0093】
【0094】
【0095】
表2の「平均」は、基板上の5点で測定された破壊靱性の平均値を意味し、「3面方位平均」は、上記3種の単結晶Ga2O3基板の破壊靱性の平均値の平均値を意味する。表3の「平均」は、基板上の10点で測定された破壊靱性の平均値を意味する。
【0096】
単結晶Ga2O3基板は面方位によって特性が異なるため、代表的な3面方位について試験を実施した。上記の面方位の異なる3種の単結晶Ga2O3基板の破壊靱性値は、いずれも多結晶SiC基板の破壊靱性値より低く、単結晶Ga2O3基板が多結晶SiC基板と比較して極めて割れやすい性質を有することを示している。また、単結晶Ga2O3基板の破壊靱性値は、SiC基板と比較して、各測定点における破壊靱性値のばらつきも大きかった。
【0097】
(電流-電圧特性)
半導体基板1の電流-電圧特性を測定した。
【0098】
図6(a)は、測定のための電極が接続された半導体基板1の垂直断面図である。半導体基板1の単結晶Ga
2O
3系基板10としての単結晶Ga
2O
3基板、多結晶基板11としての多結晶SiC基板の厚さは、それぞれ610μm、350μmとした。また、単結晶Ga
2O
3基板には、表面から深さ150nmの深さまでの領域において、濃度5×10
19cm
―3のボックスプロファイルとなるようにSi原子をイオン注入ドーピングし、窒素ガス雰囲気中、基板温度950℃の条件で30分間活性化アニールを行った。その後、単結晶Ga
2O
3基板表面には直径400μmの円形のTi/Au電極30を作製し、多結晶SiC基板にはその全面にTi/Au電極31を作製した。なお、同プロセスにて、Ti/Au電極30と単結晶Ga
2O
3基板の間、及びTi/Au電極31と多結晶SiC基板の間で、オーミック接触が得られている。
【0099】
図6(b)は、測定された半導体基板1におけるTi/Au電極30とTi/Au電極31の間の電流-電圧特性を示すグラフである。
図6(b)によれば、直線状の電流-電圧特性が得られている。このことから、半導体基板1における単結晶Ga
2O
3系基板10としての単結晶Ga
2O
3基板と多結晶基板11としての多結晶SiC基板との接合界面には電気的な障壁が存在せず、オーミック接合を形成できていることがわかった。
【0100】
(熱伝導率)
多結晶基板11の厚さと単結晶Ga2O3系基板10の厚さの比を変えつつ、半導体基板1の縦方向の熱伝導率を計算した。以下の表4に、多結晶基板11の厚さに対する単結晶Ga2O3系基板10の厚さの比率[%]と、半導体基板1の縦方向の熱伝導率[W/(m・K)]との関係を示す。
【0101】
【0102】
表4の「Ga2O3板厚」、「SiC板厚」、「Ga2O3/SiC」は、それぞれ単結晶Ga2O3系基板10としての単結晶Ga2O3基板の厚さ、多結晶基板11としての多結晶SiC基板の厚さ、多結晶SiC基板の厚さに対する単結晶Ga2O3基板の厚さの比率を意味し、「接合基板熱伝導率」は、単結晶Ga2O3基板と多結晶SiC基板が接合された半導体基板1の縦方向の熱伝導率を意味する。
【0103】
図7は、表4に示される多結晶SiC基板の厚さに対する単結晶Ga
2O
3基板の厚さの比率と、半導体基板1の縦方向の熱伝導率との関係をプロットしたグラフである。
【0104】
表4、
図7によれば、多結晶基板11の厚さに対する単結晶Ga
2O
3系基板10の厚さの比率がおよそ20%以下、10%以下、5%以下のときに半導体基板1の縦方向の熱伝導率がそれぞれ100W/(m・K)以上、150W/(m・K)以上、200W/(m・K)以上となる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0106】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0107】
1…半導体基板、 2…ショットキーバリアダイオード、 10、12…単結晶Ga2O3系基板、 11…多結晶基板、 11b、12b…非晶質層、